説明

脱水素化合物の製造方法、及びそのための触媒充填方法

【課題】脱水素化合物の製造方法において、酸化工程における水素転化率の低下を抑制できると共に、二酸化炭素の生成を抑制できる脱水素化合物の製造方法、及びそのための触媒充填方法を提供する。
【解決手段】脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層を併有し、且つ、該酸化触媒充填層において混入している脱水素触媒の量を1.0重量%未満とした反応装置を用いる脱水素化合物の製造方法、並びに、脱水素触媒を充填した後、脱水素触媒の粉塵が鎮静化した後に酸化触媒を充填する触媒充填方法、及び、少なくとも脱水素触媒の充填を、酸化触媒充填部分又は形成された酸化触媒充填層と、脱水素触媒充填部分との間を縁切りした後に行う触媒充填方法、並びに、反応装置内にそれらの触媒充填方法によって脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層とが形成された反応装置を用いる脱水素化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料炭化水素化合物を脱水素触媒と接触させて脱水素反応させる脱水素工程と、該工程より得られた脱水素反応混合ガスを酸素含有ガスの共存下で酸化触媒と接触させて、該混合ガス中の水素を選択的に酸化させる酸化工程とを含む脱水素化合物の製造方法、及びそのための触媒充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料炭化水素を脱水素して脱水素化合物を製造するプロセス、例えば、エチルベンゼンを脱水素してスチレンを製造するプロセスは、従来から工業的に広く実施されている。しかし、一般に脱水素反応は、平衡の制約を強く受けること、脱水素反応が吸熱反応であるため断熱反応装置での反応では反応の進行と共に反応温度が低下すること、等の理由から、高い収率を得ることが困難であり、そのため、脱水素反応で生成した水素を、酸化触媒を用いて選択的に酸化する酸化工程を脱水素工程に組み合わせることが、従前より提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の脱水素工程と酸化工程とを組み合わせた脱水素化合物の製造方法が提案されている。その他にも、酸化触媒や酸化工程の改良手法が種々提案されており、例えば、特許文献2には、長時間安定した性能を有する酸化触媒が提案されている。又、脱水素触媒の定常反応時に微量の二酸化炭素があるだけで反応活性は低下し、二酸化炭素の分圧が増すにつれて反応活性は更に低下していくことが非特許文献1に報告されており、それに関連し特許文献3には、酸化工程に供給される反応混合物中のアルカリ性物質を予め除去しておくことにより、酸化触媒上での二酸化炭素の生成を抑制する方法が提案されている。
【特許文献1】特公平5−38800号公報。
【特許文献2】特開2000−342969号公報。
【特許文献3】特開平11−80045号公報。
【非特許文献1】触媒, 29,(8),641(1987)。
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によると、これらの酸化触媒や酸化工程の改良手法を使用し脱水素化合物の製造を行ったにも拘らず、常に満足すべき反応結果が得られる訳ではないことが判明した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の実状に鑑みなされたものであり、その目的は、原料炭化水素化合物を脱水素触媒と接触させて脱水素反応させる脱水素工程と、該工程より得られた脱水素反応混合ガスを酸素含有ガスの共存下で酸化触媒と接触させて、該混合ガス中の水素を選択的に酸化させる酸化工程とを含む脱水素化合物の製造方法において、酸化工程における水素転化率の低下を抑制できると共に、二酸化炭素の生成を抑制できる脱水素化合物の製造方法、及びそのための触媒充填方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、酸化工程において反応装置に充填される酸化触媒中に脱水素触媒が不可避的に混入し、それが水素転化率を低下させ、更に、二酸化炭素の生成に影響を及ぼしていること、及び、酸化触媒中に混入する脱水素触媒の量を低減化することにより前記目的を達成できることを見出し本発明に到達した。即ち、本発明の要旨は、原料炭化水素化合物を脱水素触媒と接触させて脱水素反応させ、脱水素化合物、未反応の原料炭化水素化合物、及び水素を含有する脱水素反応混合ガスを生成する脱水素工程と、該工程より得られた脱水素反応混合ガスを酸素含有ガスの共存下で酸化触媒と接触させて、該混合ガス中の水素を選択的に酸化させる酸化工程とを含む脱水素化合物の製造方法において、脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層を併有し、且つ、該酸化触媒充填層において混入している脱水素触媒の量を1.0重量%未満とした反応装置を用いる脱水素化合物の製造方法、に存する。
【0007】
更に、本発明の要旨は、脱水素化合物を製造するための反応装置内に脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層を形成する際に、脱水素触媒を充填して脱水素触媒充填層を形成した後、脱水素触媒の粉塵が鎮静化した後に酸化触媒を充填して酸化触媒充填層を形成する触媒充填方法、及び、脱水素化合物を製造するための反応装置内に脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層を形成する際に、少なくとも脱水素触媒の充填による脱水素触媒充填層の形成を、酸化触媒充填部分又は形成された酸化触媒充填層と、脱水素触媒充填部分との間を縁切りした後に行う触媒充填方法、並びに、原料炭化水素化合物から脱水素化合物を製造する際に、反応装置内にそれらの触媒充填方法によって脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層とが形成された反応装置を用いる脱水素化合物の製造方法、に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原料炭化水素化合物を脱水素触媒と接触させて脱水素反応させる脱水素工程と、該工程より得られた脱水素反応混合ガスを酸素含有ガスの共存下で酸化触媒と接触させて、該混合ガス中の水素を選択的に酸化させる酸化工程とを含む脱水素化合物の製造方法において、酸化工程における水素転化率の低下を抑制できると共に、二酸化炭素の生成を抑制できる脱水素化合物の製造方法、及び、そのための触媒充填方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に特定はされない。
本発明の脱水素化合物の製造方法に供される原料炭化水素化合物としては、特に限定されないが、脱水素可能な炭化水素鎖を有する芳香環族化合物であるのが好ましく、具体的には、例えば、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、エチルナフタレン、ジエチルナフタレン等が挙げられ、エチルベンゼン、エチルナフタレンが特に好ましい。これらは、2種以上を併用することもできる。又、これらの原料炭化水素化合物が固体の場合は、溶媒に溶解させた溶液として、或いは、融点以上の温度に融解させた溶融物として用いることもできる。
【0010】
本発明の脱水素化合物の製造方法は、前記原料炭化水素化合物を脱水素触媒と接触させて脱水素反応させる脱水素工程と、該工程より得られた脱水素反応混合ガスを酸素含有ガスの共存下で酸化触媒と接触させて、該混合ガス中の水素を選択的に酸化させる酸化工程とを含む。
【0011】
ここで、前記原料炭化水素化合物を脱水素触媒と接触させて脱水素反応させる脱水素工程において、脱水素触媒としては、その機能を有する限り特に限定されるものではなく、従来公知の、鉄と、周期表第1族又は/及び第2族の金属、具体的には、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属、を主要活性成分として含有する脱水素触媒が用いられ、後者金属としてはカリウムが好ましい。
【0012】
又、脱水素工程における脱水素反応は、例えばエチルベンゼンを原料炭化水素としてスチレンを製造する場合、500〜800℃の範囲の温度、絶対圧力0.05〜10気圧の範囲の圧力下でなされ、この脱水素反応により、脱水素工程では、脱水素化合物、未反応の原料炭化水素化合物、及び水素を含有する脱水素反応混合ガスが生成する。尚、この脱水素反応において水蒸気を共存させることもでき、その場合、脱水素工程では、原料炭化水素化合物は、反応温度まで昇温させるスチームによってガス状とされ、脱水素反応により、脱水素化合物、未反応の原料炭化水素化合物、水素、及び水蒸気を含有する脱水素反応混合ガスが生成することとなる。
【0013】
前記脱水素工程で得られた脱水素反応混合ガスを酸素含有ガスの共存下で酸化触媒と接触させて、該混合ガス中の水素を選択的に酸化させる酸化工程において、酸素含有ガスとしては、分子状酸素を1〜100%含有するガスが用いられ、具体的には、例えば、空気、酸素富化空気、酸素、不活性ガスで希釈した空気、不活性ガスで希釈した酸素等が好適に用いられる。又、酸素含有ガスに水蒸気を含有させることもできる。
【0014】
又、酸化工程における酸化触媒としては、水素を酸素含有ガスにて選択的に酸化する触媒である限り特に限定されるものではないが、好ましくは、耐熱性無機担体上に白金族金属を含有する酸化触媒である。ここで、耐熱性無機担体としては、一般的に触媒担体として用いられる担体ならば使用することができるが、例えば、アルミニウム、珪素、チタン、ゲルマニウム、ニオブ、モリブデン、錫、タンタル、タングステン等の金属原子を含む無機担体が用いられ、中で、タンタル、アルミニウム、チタン、及びニオブからなる群より選択された少なくとも1種の金属原子を含む無機担体が耐熱性や脱水素反応の選択性(燃焼反応が少ない)の点から好ましい。これら無機担体の調製には、一般には、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化チタン、酸化ゲルマニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化錫、酸化タンタル、及び酸化タングステン等が用いられ、好ましくは、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ニオブが用いられる。これらの耐熱性無機担体の調製は2種以上が用いられてもよく、又、2種以上が用いられる場合において、調製に用いられた酸化物の存在形態としては、複合酸化物となっていてもよく、用いられた酸化物同士の混合物でもよい。
【0015】
又、酸化触媒としては、白金族金属を有する触媒が好ましく用いられる。ここで、白金族金属とは、周期表第8族〜第10族のルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金よりなる群の元素であり、これらは単独で含まれても、又は2種以上が含まれていてもよい。このうち白金、又は/及びパラジウムが好ましい。
【0016】
又、酸化工程の温度としては、この酸化反応が、温度が高すぎると水素の選択性が減少し、炭化水素の燃焼が多くなる傾向があり、温度が低すぎると水素を酸化する活性が低下する可能性がある。そのため、300〜800℃の範囲の温度で行われることが好ましく、更に好ましくは400〜700℃の範囲の温度で行われる。
【0017】
尚、通常の酸化反応において、酸素を過剰に供給する方法と、酸素を全て消費する方法が行われる。特に、反応器内に炭化水素と酸素を導入して反応させ、酸素を全て消費する反応においては、酸素が全て消費した後に触媒上にコーキングが起こることが知られている。本発明において用いられる酸化触媒も、酸素を全て消費した場合にはその後の触媒上にコーキングが起こるが、水素を選択的に酸化する選択性において劣化することはなく、酸素濃度を上げることによってデコーキングすることも可能である。従って、酸素を過剰に供給する方法と酸素を全て消費する方法のいずれの方法でも行うことができるが、通常は酸素を全て消費する方法が好ましく用いられる。
【0018】
本発明の脱水素化合物の製造方法は、前記脱水素工程と前記酸化工程とを含む限り、いかなるプロセスにも適用される。その代表的プロセスとしては以下のようなプロセスが挙げられる。例えば、脱水素触媒が充填された第1段の反応層において、原料炭化水素化合物を脱水素触媒と接触させて脱水素反応させた後に、この第1段反応層から出る、脱水素化合物、未反応の原料炭化水素化合物、及び水素を含有する脱水素反応混合ガスを、脱水素反応混合ガス中の水素を選択的に酸化させる酸化触媒が充填された第2段の反応層へ送り、この第2段反応層において、酸化触媒と接触させて新たに導入された酸素含有ガスにより水素を選択的に酸化させる。これにより、第1段の吸熱反応である脱水素反応により低下した温度を発熱反応により上昇させ、かつ、水素を消費することにより脱水素反応の平衡的制約を除去する。更に、この第2段反応層から出たガスを、第1段反応層と同様の、脱水素触媒が充填された第3段反応層に送り、未反応の炭化水素化合物を脱水素反応させると、既に第2段反応層において反応に必要な温度が回復されており、かつ平衡的制約も除去されているので、第3段反応層において更に高い収率を得ることができる。又、必要に応じて、更にこれらの選択的酸化反応と脱水素反応との組み合わせを追加して反応を実施することもできる。
【0019】
前記の代表的プロセスの具体例の一つが、エチルベンゼンの脱水素プロセスによるスチレンの製造例である。この脱水素プロセスは、例えば、エチルベンゼンと水蒸気の混合ガスを鉄とアルカリ金属を主要活性成分とする脱水素触媒が充填された第1段反応層に送り、500〜800℃の範囲の温度、絶対圧力0.05〜10気圧の範囲の圧力で脱水素反応させる。その後、生成したスチレンモノマー、未反応のエチルベンゼン、水素、及び水蒸気の混合ガスを、酸化触媒が充填された第2段反応層へ送って水素を選択的に酸化させ、次に、この反応ガスを、脱水素触媒が充填された第3段反応層へ送り、ここで未反応のエチルベンゼンを脱水素反応させることにより、高い収率でスチレンモノマーを得るものである。
【0020】
以上の脱水素化合物の製造方法において、本発明では、脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層を併有し、且つ、該酸化触媒充填層において混入している脱水素触媒の量を1.0重量%未満とした反応装置を用いることを特徴とする。酸化触媒中に不純物として含まれる脱水素触媒量が1.0重量%以上であると酸化触媒の性能が低下することとなる。脱水素触媒量としては、0.5重量%以下とするのが好ましい。
【0021】
本発明の脱水素化合物の製造方法に適用される反応装置は、脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層とが形成され得るものである限り特に限定されるものではないが、適用が好ましい例として脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層の間が触媒保持スクリーンで分離されている反応装置が挙げられる。
【0022】
その反応装置において、反応装置に充填された酸化触媒中に脱水素触媒が不純物として含まれる原因として、本発明者らは、脱水素触媒及び酸化触媒が反応装置内に充填されるときの触媒粉化によって触媒粉塵が生じ、それが相互に他方の触媒層内に混入することを見出した。又、その解決策の一態様として、脱水素触媒を充填した後、脱水素触媒の粉塵が鎮静化した後に酸化触媒を充填することによって、酸化触媒中への脱水素触媒の混入を抑制することができ、酸化触媒中の脱水素触媒量を前記範囲内に留めることができた。その際、脱水素触媒充填後、酸化触媒の充填開始迄の時間は、反応装置の容量により変動するが、通常は5分〜15時間、好ましくは5分〜12時間、更に好ましくは10分〜8時間程度である。一般的には、数時間で本発明の目的が達せられる場合が多いが、実際の工程では夜間に作業を実施しない場合もあり、この場合は酸化触媒の充填開始迄の時間が長くなることがある。又、その際、脱水素触媒充填層を形成した後、該脱水素触媒充填層を乾燥した空気や窒素ガスでブローし付着した粉体を飛ばすことも効果的である。
【0023】
又、本発明の脱水素化合物の製造方法を実施するための反応装置内での触媒層の形成方法のもう一つの異なった態様として、少なくとも脱水素触媒の充填による脱水素触媒充填層の形成を、酸化触媒充填部分又は形成された酸化触媒充填層と、脱水素触媒充填部分との間を縁切りした後に行うことによっても抑制し得、酸化触媒中の脱水素触媒量を前記範囲内に留めることができた。その際の縁切り材としては、例えば、樹脂製のシートや金属製のシート等が挙げられる。
【0024】
この後者態様の具体例としては、例えば、酸化触媒充填部分と脱水素触媒充填部分との間を縁切りした後、酸化触媒を充填して酸化触媒層を形成し、次いで、脱水素触媒を充填して脱水素触媒層を形成する場合、酸化触媒充填部分と脱水素触媒充填部分との間を縁切りした後、脱水素触媒を充填して脱水素触媒層を形成し、次いで、酸化触媒を充填して酸化触媒層を形成する場合、或いは、酸化触媒を充填して酸化触媒充填層を形成した後に、脱水素触媒充填部分との間を縁切りし、次いで、脱水素触媒を充填して脱水素触媒充填層を形成する場合、等が挙げられる。
【0025】
更に後者態様においては、脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層とが反応装置内に形成された状態から、例えば製造運転を行って劣化した脱水素触媒だけを入れ替える場合も、酸化触媒充填層との間を粉塵が実質上通らないように縁切りされた脱水素触媒充填層から脱水素触媒を抜き出し、新たに脱水素触媒を充填することによっても、酸化触媒中の脱水素触媒量を前記範囲内に留めることができる。
【0026】
これらの触媒充填方法により脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層とが形成された反応装置を用いて脱水素化合物を製造することによって、酸化工程における水素転化率の低下を抑制することができると共に、二酸化炭素の生成を抑制することができる。
【0027】
こうして得られた反応混合物は、脱水素化合物、未反応の原料炭化水素化合物、水素、スチーム等を含んでいるが、通常は、冷却、気液分離、油水分離、蒸留による精製工程等の操作により、脱水素化合物が製品として分離される。その際、未反応原料炭化水素は原料として反応器へリサイクルされてもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0029】
実施例1
<酸化触媒の調製>
五酸化ニオブ(Nb2 5 )70gに水26gを加えて混練し、この混練物を押出成型して成型した直径3mmの円柱状の成型品を、120℃で3時間乾燥し、900℃で3時間焼成した後、長さ1〜5mmに切断してペレットとした。続いて、そのペレットを、白金0.14gを含有する塩化白金酸(H2 PtCl6 ・6H2 O)水溶液21mlに浸漬した後、ロータリーエバポレーターにて減圧下60℃で1時間乾燥した後、更に乾燥器にて120℃で3時間乾燥し、その後、空気下650℃で3時間焼成した。続いて、カリウム0.21gを含有する炭酸カリウム(K2 CO3 )水溶液21mlに浸漬した後、ロータリーエバポレーターにて減圧下60℃で1時間乾燥した後、更に乾燥器にて120℃で3時間乾燥し、その後、空気下650℃で3時間焼成することにより、白金0.2重量%、カリウム0.3重量%、他は酸化ニオブからなる白金/カリウム/酸化ニオブの酸化触媒を調製した。
【0030】
<脱水素触媒の調製>
特表2002−509790号公報の実施例2に基づき、脱水素触媒の調製を行った。即ち、酸化鉄(Fe2 3 )600g、炭酸カリウム(K2 CO3 )111g、メチルセルロース10g、コーンスターチ20g、水180gを加えて混練した。この混練物を直径3mmの円筒状に押し出し成型した成型品を、120℃で3時間乾燥し、600℃で3時間焼成した。本操作を、以下の落下に必要な触媒量が得られるまで繰り返し行った。こうして得られた脱水素触媒5,000gを、反応器モデルの管径38.9mm、長さ10mの管内で落下させ、下部でSUS316製板で受けた。落下させた脱水素触媒中、径0.85mm以下の粉体量は0.97重量%であった。これを脱水素触媒Aとする。
【0031】
触媒充填のモデル試験として、網目間隔2mmの網で形成され、大きさ8cm×8cm、高さ20cmの網目状筒の外側上部から、前記で調製した脱水素触媒Aを充填し、30分間静置した後、目視にて酸化触媒充填部の粉塵の飛散が収まったのを確認し、筒の外側に前記で調製した酸化触媒を充填した。充填した酸化触媒を抜き出し、目開き径0.85mmの篩にて篩分けしたところ、脱水素触媒由来の赤色粉が0.2重量%混入していた。
【0032】
実施例2
実施例1で用いた網目状筒の内側に、前記で調製した酸化触媒を充填した後、網目状部にポリエチレン製シートを設置して脱水素触媒充填部分との間を縁切りした後、前記で調製した脱水素触媒Aを充填し、その後、ポリエチレン製シートを取り外した。充填した酸化触媒を抜き出し、その中に混入している脱水素触媒由来の触媒の存在を確認したところ、混入は認められなかった。
【0033】
比較例1
脱水素触媒A充填後の静置時間を30秒とした外は、実施例1と同様として酸化触媒を充填した。充填した酸化触媒を抜き出し、その中に混入している脱水素触媒由来の触媒量を測定したところ1.1重量%であった。
【0034】
比較例2
酸化触媒充填後にポリエチレン製シートを用いなかった外は、実施例2と同様にして脱水素触媒Aを充填した。充填した酸化触媒を抜き出し、その中に混入している脱水素触媒由来の触媒量を測定したところ1.4重量%であった。
【0035】
実施例3
<脱水素触媒の調製>
特表2002−509790号公報の比較用実施例1に基づき、酸化カリウム(K2 O)11.2重量%と酸化鉄(Fe2 3 )88.8重量%の組成を有する脱水素触媒の合成に必要な量の炭酸カリウム(K2 CO3 )と酸化鉄(Fe2 3 )を乳鉢上で潰しながら混合し、その後、600℃で3時間焼成することにより、脱水素触媒Bを調製した。
【0036】
上下に略同粒径の石英チップを充填した内径6.7mmの石英製反応管に、前記で調製した酸化触媒に前記で調製した脱水素触媒B0.5重量%を混入させることによりモデル的に調製した酸化触媒を2ml充填した後、窒素流通下600℃まで昇温し、次いで、エチルベンゼン、スチレンモノマー、水、水素、酸素、及び窒素の混合ガス(モル比;エチルベンゼン/スチレンモノマー/水/水素/酸素/窒素=1/0.87/17.6/0.65/0.17/1.28)を、触媒に供給するガス換算の空間速度を8448h-1として、反応管に導入して酸化反応を行った。反応管出口のガス及び液受器でトラップされた液についてガスクロマトグラフにて分析を行った結果、水素転化率は37.4モル%、酸素転化率は100モル%であり、以下の式で算出した二酸化炭素生成率は0.09モル%であった。
二酸化炭素生成率(モル%)=〔生成した二酸化炭素のモル数×8/(供給したエチルベンゼンのモル数+供給したスチレンモノマーのモル数)〕×100
【0037】
実施例4
前記で調製した酸化触媒に対して前記で調製した脱水素触媒Bを混入させなかった外は、実施例3と同様にして酸化反応させた。その結果、水素転化率は37.5モル%、酸素転化率は100モル%、二酸化炭素生成率は0.08モル%であった。
【0038】
比較例3
前記で調製した酸化触媒に対して前記で調製した脱水素触媒Bを1.0重量%混入させた外は、実施例3と同様にして酸化反応を行った。その結果、水素転化率は35.2モル%、酸素転化率は100モル%、二酸化炭素生成率は0.12モル%であった。
【0039】
比較例4
前記で調製した酸化触媒に対して前記で調製した脱水素触媒Bを5.0重量%混入させた外は、実施例3と同様にして酸化反応を行った。その結果、水素転化率は27.2モル%、酸素転化率は100モル%、二酸化炭素生成率は0.19モル%であった。
【0040】
以上の実施例3、4、及び比較例3、4における酸化反応の結果を表1に纏めた。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料炭化水素化合物を脱水素触媒と接触させて脱水素反応させ、脱水素化合物、未反応の原料炭化水素化合物、及び水素を含有する脱水素反応混合ガスを生成する脱水素工程と、該工程より得られた脱水素反応混合ガスを酸素含有ガスの共存下で酸化触媒と接触させて、該混合ガス中の水素を選択的に酸化させる酸化工程とを含む脱水素化合物の製造方法において、脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層を併有し、且つ、該酸化触媒充填層において混入している脱水素触媒の量を1.0重量%未満とした反応装置を用いることを特徴とする脱水素化合物の製造方法。
【請求項2】
脱水素触媒が少なくとも鉄、並びに周期表第1族又は/及び第2族の金属を含有し、且つ、酸化触媒が耐熱性無機担体上に少なくとも白金族金属が担持されたものである請求項1に記載の脱水素化合物の製造方法。
【請求項3】
酸化触媒の耐熱性無機担体が、タンタル、アルミニウム、チタン、及びニオブからなる群より選択された少なくとも1種の金属原子を含有するものである請求項2に記載の脱水素化合物の製造方法。
【請求項4】
酸化工程における反応温度が300℃以上800℃以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の脱水素化合物の製造方法。
【請求項5】
原料炭化水素化合物がエチルベンゼン又は/及びジエチルベンゼンである請求項1乃至4のいずれかに記載の脱水素化合物の製造方法。
【請求項6】
脱水素化合物を製造するための反応装置内に脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層を形成する際に、脱水素触媒を充填して脱水素触媒充填層を形成した後、脱水素触媒の粉塵が鎮静化した後に酸化触媒を充填して酸化触媒充填層を形成することを特徴とする触媒充填方法。
【請求項7】
脱水素化合物を製造するための反応装置内に脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層を形成する際に、少なくとも脱水素触媒の充填による脱水素触媒充填層の形成を、酸化触媒充填部分又は形成された酸化触媒充填層と、脱水素触媒充填部分との間を縁切りした後に行うことを特徴とする触媒充填方法。
【請求項8】
原料炭化水素化合物から脱水素化合物を製造する際に、反応装置内に請求項6又は7に記載の触媒充填方法によって脱水素触媒充填層と酸化触媒充填層とが形成された反応装置を用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の脱水素化合物の製造方法。

【公開番号】特開2006−1894(P2006−1894A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180859(P2004−180859)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】