説明

脱硫システム、水素製造システム、燃料電池システム、燃料の脱硫方法及び水素の製造方法

【課題】
原燃料の水分量を0.2体積%未満にまで低減させずとも、十分な脱硫性能で脱硫することが可能な脱硫システム、該脱硫システムで脱硫された原燃料から水素を製造する水素製造システム、並びに上記脱硫システム及び上記水素製造システムを備える燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】
水及び硫黄化合物を含有する炭化水素系燃料を後段に供給する燃料供給部と、上記燃料供給部から供給された前記炭化水素系燃料を、X型ゼオライトに銀を担持してなる触媒を用いて脱硫する脱硫部と、を備え、上記燃料供給部が供給する上記炭化水素系燃料における前記水の含有量が、上記炭化水素系燃料の全量基準で0.2〜0.4体積%である、脱硫システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫システム、水素製造システム、燃料電池システム、燃料の脱硫方法及び水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池システムとして、原燃料を用いて水素を含有する改質ガスを生成する改質器と、改質器で生成された改質ガスを用いて発電する燃料電池と、改質器の上流側において原燃料の脱硫を行う脱硫器と、を備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−27579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような燃料電池システムにおいては、脱硫器に供給される原燃料が水を含有していると、脱硫器に収容される脱硫用触媒が失活して、脱硫性能が著しく低下するおそれがある。そのため、従来の燃料電池システムにおいては、原燃料から水を十分に(例えば、水分量が0.2体積%未満となるように)除去することが求められている。しかしながら、原燃料から水分量が0.2体積%未満になるまで水を除去するためには、大規模な除湿手段等が必要となる場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、原燃料の水分量を0.2体積%未満にまで低減させずとも、十分な脱硫性能で脱硫することが可能な脱硫システム、該脱硫システムで脱硫された原燃料から水素を製造する水素製造システム、並びに上記脱硫システム及び上記水素製造システムを備える燃料電池システムを提供することを課題とする。また、本発明は、原燃料の水分量を0.2体積%未満にまで低減させずとも、十分な脱硫性能で脱硫することができる燃料の脱硫方法、及び該脱硫方法で脱硫された原燃料から水素を製造する水素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る脱硫システムは、水及び硫黄化合物を含有する炭化水素系燃料を後段に供給する燃料供給部と、上記燃料供給部から供給された上記炭化水素系燃料を、X型ゼオライトに銀を担持してなる触媒を用いて脱硫する脱硫部と、を備え、上記燃料供給部が供給する上記炭化水素系燃料における上記水の含有量が、上記炭化水素系燃料の全量基準で0.2〜0.4体積%であることを特徴とする。
【0007】
なお、本明細書でいう炭化水素系燃料における水の含有量とは、露点計で測定した露点温度から算出した飽和水蒸気圧より求めた値である。
【0008】
このような脱硫システムによれば、特定の触媒を用いた脱硫部を備えることにより、燃料供給部から供給される炭化水素系燃料が0.2〜0.4体積%の水を含有していても、十分な脱硫性能で燃料を脱硫することができる。
【0009】
本発明の脱硫システムにおいて、上記炭化水素系燃料は、炭素数4以下の炭化水素化合物を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の水素製造システムは、上記本発明の脱硫システムと、上記脱硫部で脱硫した上記炭化水素系燃料から水素を発生させる水素発生部と、を備える。
【0011】
このような水素製造システムにおいては、上記脱硫システムにより十分な脱硫性能で炭化水素系燃料が脱硫されるため、上記水素発生部における硫黄化合物による水素発生効率の低下が十分に抑制される。そのため、本発明の水素製造システムによれば、0.2〜0.4体積%の水を含有する炭化水素系燃料から、効率よく水素を製造することができる。
【0012】
本発明の燃料電池システムは、上記本発明の水素製造システムを備える。
【0013】
このような燃料電池システムによれば、上記水素製造システムにより効率よく水素が製造されるため、0.2〜0.4体積%の水を含有する炭化水素系燃料を用いて良好な発電効率を実現することができる。
【0014】
本発明はまた、硫黄化合物及び0.2〜0.4体積%の水を含有する炭化水素系燃料を、X型ゼオライトに銀を担持してなる触媒を用いて脱硫する工程を備える、燃料の脱硫方法を提供する。
【0015】
このような燃料の脱硫方法によれば、炭化水素系燃料中の水の含有量を特定の範囲とし、特定の触媒を用いることで、炭化水素系燃料中の水を完全に除去せずとも十分な脱硫性能を実現することができる。
【0016】
本発明の燃料の脱硫方法において、上記炭化水素系燃料は、炭素数4以下の炭化水素化合物を含むことが好ましい。
【0017】
本発明はさらに、上記本発明の記載の燃料の脱硫方法によって脱硫された上記炭化水素系燃料を改質して水素を得る工程を備える、水素の製造方法を提供する。
【0018】
このような水素の製造方法によれば、上記脱硫方法によって十分な脱硫性能で上記炭化水素系燃料が脱硫されているため、硫黄化合物による改質効率の低下が十分に抑制され、効率よく水素を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、原燃料の水分量を0.2体積%未満にまで低減させずとも、十分な脱硫性能で脱硫することが可能な脱硫システム、該脱硫システムで脱硫された原燃料から水素を製造する水素製造システム、並びに上記脱硫システム及び上記水素製造システムを備える燃料電池システムが提供される。また、本発明によれば、原燃料の水分量を0.2体積%未満にまで低減させずとも、十分な脱硫性能で脱硫することができる燃料の脱硫方法、及び該脱硫方法で脱硫された原燃料から水素を製造する水素の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池システムの一例を示す概念図である。燃料電池システム1は、燃料供給部2と、脱硫部3と、水素発生部4と、セルスタック5と、オフガス燃焼部6と、水供給部7と、水気化部8と、酸化剤供給部9と、パワーコンディショナー10と、制御部11と、を備えており、図1に示す流れで各部が配管で接続されている。
【0023】
燃料供給部2は、脱硫部3とともに脱硫システム20を構成しており、脱硫部3へ炭化水素系燃料を供給する。ここで、炭化水素系燃料としては、分子中に炭素原子と水素原子とを含む化合物(酸素等、他の元素を含んでいてもよい。)又はその混合物を用いることができる。炭化水素系燃料としては、例えば、炭化水素類、アルコール類、エーテル類、バイオ燃料が挙げられ、これらの炭化水素系燃料には、従来の石油・石炭等の化石燃料由来のもの、合成ガス等の合成系燃料由来のもの、バイオマス由来のもの等を適宜用いることができる。
【0024】
炭化水素類としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭化水素化合物メタン、エタン、プロパン、ブタン、天然ガス、LPG(液化石油ガス)、都市ガス、タウンガス、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油が挙げられる。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノールが挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジメチルエーテルが挙げられる。バイオ燃料としては、例えば、バイオガス、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオジェットが挙げられる。炭化水素系燃料には、メタノール、エタノールなどのアルコール類、ジメチルエーテルなどのエーテル類が含まれていてもよい。本実施形態においては、パイプラインで供給されメタンを主成分として含むガス(例えば、都市ガス(City gas)、タウンガス(Town gas)、天然ガス(Natural gas)、バイオガス等)又はLPGを好適に使用することができる。
【0025】
炭化水素系燃料は、炭素数4以下の炭化水素化合物を含むことが好ましい。炭素数4以下の炭化水素化合物としては、具体的には、メタン、エタン、プロパン、ブタンなどの飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、ブテンなどの不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。炭化水素系燃料は、炭素数4以下の炭化水素化合物を含むガス、すなわち、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン及びブテンのうちの1種以上を含むガスであることが好ましい。また、炭素数4以下の炭化水素化合物を含むガスとしては、メタンを80体積%以上含むガスが好ましく、メタンを85体積%以上含むガスがより好ましい。
【0026】
燃料供給部2から供給される炭化水素系燃料は、水と硫黄化合物とを含む。ここで、炭化水素系燃料に含まれる水は、例えば、炭化水素系燃料の製造時に混入したもの、パイプラインの破損等により混入したもの、炭化水素系燃料が脱硫部3に供給されるまでの流通経路において混入したものなどが挙げられる。炭化水素系燃料中の水の含有量は、炭化水素系燃料の全量基準で0.2〜0.4体積%である。水の含有量が上記範囲を超えると、脱硫性能が低下する。また、水の含有量を上記範囲未満にするためには、大規模な除湿手段等が必要となる場合があり生産性が低下する。
【0027】
炭化水素系燃料には一般的に、硫黄化合物が含まれている。硫黄化合物としては、炭化水素類等にもともと混在している硫黄化合物や、ガス漏れ検知のための付臭剤に含まれている化合物が挙げられる。炭化水素類等にもともと混在している硫黄化合物としては、硫化水素(HS)、硫化カルボニル(COS)、二硫化炭素(CS)等が挙げられる。付臭剤としては、アルキルスルフィド、メルカプタンの単独又は混合物が用いられ、例えば、ジエチルスルフィド(DES)、ジメチルスルフィド(DMS)、エチルメチルスルフィド(EMS)、テトラヒドロチオフェン(THT)、tert−ブチルメルカプタン(TBM)、イソプロピルメルカプタン、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジエチルジスルフィド(DEDS)などが用いられる。硫黄化合物は、通常、炭化水素系燃料の全量を基準とした硫黄原子換算濃度で0.1〜10質量ppm程度含まれる。
【0028】
炭化水素系燃料には、上記以外の成分が、燃料電池システムの特性に悪影響を与えない範囲で含まれてもよい。
【0029】
燃料供給部2から供給された炭化水素系燃料は、脱硫部3において脱硫される。炭化水素系燃料に含まれる硫黄化合物は、水素発生部4における改質触媒やセルスタック5における電極触媒を被毒するため、脱硫部3における脱硫触媒によって除去される。脱硫触媒としては、X型ゼオライトに銀を担持してなる触媒が用いられる。
【0030】
X型ゼオライトとしては、例えば、SiO/Alの比が2〜3、好ましくは2.2〜3、さらに好ましくは2.3〜3、の範囲のものを用いることができる。上記比が2より小さい場合には、得られる触媒の脱硫触媒としての寿命が低下する傾向があり、上記比が3より大きい場合には、十分な脱硫性能を得るために必要な銀を担持することが困難になる場合がある。
【0031】
銀の担持量の範囲は、脱硫性能に一層優れるという観点から、ゼオライト及び銀の総量基準で、10〜30質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。担持量が10質量%より小さい場合には脱硫性能が十分でない場合があり、30質量%より多い場合には銀の添加量に見合った脱硫性能が発揮されない場合がある。なお、X型ゼオライトは、例えばY型ゼオライトと比較して、より多くの銀を担持することができる。
【0032】
銀の担持方法としては、イオン交換法が好ましく使用される。イオン交換法に用いられるゼオライトとしては、ナトリウム型、アンモニウム型、プロトン型など様々な形態のものが挙げられ、これらのうちナトリウム型が好ましく使用される。一方、銀は通常カチオンとして水に溶解した形態で準備される。その具体例としては、硝酸銀や過塩素酸銀などの水溶液、銀のアンミン錯イオン水溶液、などを挙げることができるが、硝酸銀水溶液が最も好ましく使用される。銀イオンを含む水溶液の濃度は銀の濃度として、通常0.5〜10質量%、好ましくは1〜5質量%の範囲である。
【0033】
イオン交換の方法には特に制限はないが、通常は上記のカチオン性の銀を含む溶液に、前述のゼオライトを加え、通常0〜90℃、好ましくは20〜70℃の温度範囲において1時間ないし数時間程度、好ましくは撹拌しながらイオン交換処理する。ついで、固形物をろ過などの手段で分離し、水などで洗浄した後、50〜200℃、好ましくは80〜150℃の温度で乾燥処理する。このイオン交換処理は繰り返し行うことができる。次に必要であれば、200〜600℃、好ましくは250〜400℃で数時間程度焼成処理しても良い。このような方法により、目的の銀イオン交換ゼオライト(銀担持ゼオライト)を得ることができる。
【0034】
上記の方法で製造された銀を担持したゼオライトは、アルミナ、シリカ、粘土鉱物など、もしくはベーマイトなどこれらの前駆体を、適当なバインダーとして用いて、押出成型、打錠成型、転動造粒、スプレードライおよび必要に応じて焼成するなど、通常の方法で成型して使用できる。
【0035】
脱硫部3においては、炭化水素系燃料を上記脱硫触媒に接触させることにより、炭化水素系燃料を脱硫する。脱硫時の温度は、例えば、−50〜100℃、より好ましくは−20〜80℃、さらに好ましくは0〜60℃とすることができる。
【0036】
脱硫部3においては、脱硫温度以外の諸条件を以下のように設定することが好ましい。すなわち、都市ガスなど常温(例えば、25℃)・常圧(例えば、ゲージ圧0MPa)で気体である炭化水素系燃料を用いる場合、GHSVは10〜20000h−1、好ましくは10〜7000h−1の間で選択することが好ましい。GHSVが10h−1より低いと、脱硫性能は良好になるものの、多量の脱硫触媒を使用するため脱硫部3として過大な脱硫器を用いる必要が生じる。また、GHSVを20000h−1以下とすることで、脱硫部3の脱硫性能が一層向上する。なお、液体燃料を炭化水素系燃料として使用することもでき、その場合には、LHSVを0.01〜100h−1の間で選択することが好ましい。
【0037】
使用圧力は、通常、常圧〜1MPa(ゲージ圧、以下同じ。)、好ましくは常圧〜0.5MPa、さらに好ましくは常圧〜0.2MPaの範囲で選択されるが、大気圧条件下で最も好ましく実施できる。
【0038】
ここで、通常、脱硫触媒に0.2体積%以上の水を含有する燃料を接触させた場合には、脱硫触媒の脱硫性能が著しく低下する。これに対して、上記特定の脱硫触媒(X型ゼオライトに銀を担持してなる触媒)を用いた場合には、燃料中の水の含有量を0.2〜0.4体積%の範囲とすることで、脱硫性能の低下が抑制される。具体的には、例えば、水の含有量が上記範囲であると、水の含有量が0.5体積%である場合と比較して、相対脱硫性能は1.4倍程度向上する。また、水の含有量が上記範囲であると、水の含有量が0.1体積%である場合と比較して、相対脱硫性能は、0.1倍程度しか低下せず、十分な脱硫性能が得られる。
【0039】
燃料供給部2は、水の含有量が0.4体積%を超える炭化水素系燃料を除湿して、炭化水素系燃料中の水の含有量を0.2〜0.4体積%の範囲内とする除湿手段を有していてもよい。除湿手段としては、例えば、モレキュラーシーブ等の除湿剤を用いて炭化水素系燃料中の水含有量を0.2〜0.4体積%とする除湿手段が挙げられる。
【0040】
脱硫部3により硫黄化合物が除去された炭化水素系燃料は、水素発生部4へ供給される。水素発生部4は、脱硫システム20とともに水素製造システム30を構成する。水素発生部4は、脱硫後の炭化水素系燃料を改質触媒によって改質する改質器を有し、水素リッチガスを発生させる。水素発生部4での改質方式は、特に限定されず、例えば、水蒸気改質、部分酸化改質、自己熱改質、その他の改質方式を採用できる。また、改質温度は通常200〜800℃、好ましくは300〜700℃である。なお、水素発生部4は、セルスタック5が要求する水素リッチガスの性状によって、改質触媒により改質する改質器の他に性状を調整するための構成を有する場合もある。例えば、セルスタック5のタイプが固体高分子形燃料電池(PEFC)やリン酸形燃料電池(PAFC)であった場合、水素発生部4は、水素リッチガス中の一酸化炭素を除去するための構成(例えば、シフト反応部、選択酸化反応部)を有する。水素発生部4は、水素リッチガスをセルスタック5のアノード12へ供給する。
【0041】
改質触媒としては、セリウム酸化物またはセリウム酸化物を主成分とする希土類元素酸化物を含む触媒担体と、該担体に担持された活性金属とを有するものが挙げられる。
【0042】
改質触媒は、活性金属としてRu又はRhを用いることが好ましい。Ru又はRhの担持量としては、セリウムとRu又はRhの原子比(Ce/Ru又はCe/Rh)が1〜250、好ましくは2〜100、さらに好ましくは3〜50が望ましい。当該原子比が上記範囲から外れる場合、十分な触媒活性が得られない場合があり、好ましくない。また、Ru又はRhの担持量は、触媒重量(触媒担体と活性金属の合計重量)に対し、Ru又はRhを金属当量として0.1〜3.0質量%であり、好ましくは0.5〜2.5質量%である。
【0043】
Ru又はRhの触媒担体への担持方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することにより容易に行うことができる。例えば、含浸法、沈着法、共沈法、混練法、イオン交換法、ポアフィリング法等が挙げられ、特に含浸法が望ましい。触媒を製造する際のRu又はRhの出発物質は、前記の担持法により異なり、適宜選択することができるが、通常、Ru又はRhの塩化物やRu又はRhの硝酸塩が用いられる。例えば、含浸法を適用する場合、Ru又はRhの塩の溶液(通常は水溶液)を調製し、上記の担体に含浸させたのち、乾燥、必要に応じ焼成する方法を例示することができる。焼成は、通常、空気や窒素雰囲気下などで行われ、温度は、当該塩の分解温度以上であれば特に限定されないが、通常、200〜800℃、好ましくは300〜800℃、より好ましくは500〜800℃程度が望ましい。本発明においては、通常、Ru又はRhを触媒担体に担持したのち、還元雰囲気(通常は水素雰囲気)で400〜1000℃、好ましくは500〜700℃で還元処理することにより触媒を調製することが好ましく採用される。なお、上記の改質触媒には、他の貴金属(白金、イリジウム、パラジウムなど)をさらに担持させた形態とすることもできる。
【0044】
また、改質触媒の触媒担体としては、セリウム酸化物またはセリウム酸化物を主成分とする希土類元素酸化物5〜40質量%、アルミニウム酸化物60〜95質量%を含む担体であることが好ましい。
【0045】
セリウム酸化物は、特に限定されないが、酸化第2セリウム(通称、セリアと呼ばれている。)が好ましい。セリウム酸化物の調製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、硝酸セリウム(Ce(NO・6HO、Ce(NO等)、塩化セリウム(CeCl・nHO)、水酸化セリウム(CeOH、CeOH・HO等)、炭酸セリウム(Ce(CO・8HO、Ce(CO・5HO等)、シュウ酸セリウム、シュウ酸セリウム(IV)アンモニウム、塩化セリウム等を出発原料とし、公知の方法、例えば、空気中において焼成すること等により調製することができる。
【0046】
セリウム酸化物を主成分とする希土類元素酸化物は、セリウムを主成分とした混合希土類元素の塩から調製することができる。セリウム酸化物を主成分とする希土類元素酸化物において、セリウム酸化物の含有量は通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。セリウム酸化物以外の希土類元素酸化物としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、プロセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム等の各元素の酸化物が挙げられる。なかでも、イットリウム、ランタン、ネオジムの各元素の酸化物が好ましく、特にランタンの酸化物が好ましい。もちろん結晶形態は特に限定されるものではなく、いずれの結晶形態であっても良い。
【0047】
アルミニウム酸化物は、アルミナの他、アルミニウムとケイ素、銅、鉄、チタンなどの他の元素との複酸化物をも包含し、複酸化物としてはシリカアルミナ等が代表的なものとして挙げられる。本発明のアルミニウム酸化物としては、特にアルミナが望ましく、アルミナとしては特に限定されなく、α、β、γ、η、θ、κ、χ等のいずれの結晶形態のものが使用でき、特にγ型が好ましい。また、ベーマイト、バイアライト、ギブサイト等のアルミナ水和物を使用することもできる。シリカアルミナの場合も特に限定されなく、いずれの結晶形態のものが使用できる。もちろん、本発明で用いるアルミニウム酸化物は少量の不純物を含有していても支障無く使用できる。
【0048】
本発明で用いる触媒担体におけるセリウム酸化物およびセリウム酸化物を主成分とする希土類元素酸化物の組成割合は、5〜40質量%、好ましくは10〜35質量%である。セリウム酸化物およびセリウム酸化物を主成分とする希土類元素酸化物が5質量%より少ない場合、炭素析出抑制効果、活性促進効果、酸素共存下での耐熱性向上効果が不十分であり好ましくなく、また40質量%より多い場合は担体の表面積が減少し、十分な触媒活性が得られないことがあり好ましくない。
【0049】
改質触媒の触媒担体におけるアルミニウム酸化物の組成割合は、60〜95質量%、好ましくは65〜90質量%である。アルミニウム酸化物の組成割合が60質量%より少ない場合は担体の表面積が減少し、十分な触媒活性が得られないことがあり好ましくなく、また95質量%より多い場合は炭素析出抑制効果、活性促進効果、酸素共存下での耐熱性向上効果が不十分であり好ましくない。
【0050】
改質触媒の触媒担体の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により容易に製造することができる。例えば、アルミニウム酸化物に、セリウムもしくはセリウムを主成分とする希土類元素の塩の水溶液を含浸させて、乾燥、焼成することにより製造することができる。このとき用いる塩としては水溶性の塩が好ましく、具体的な塩としては、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、酢酸塩等の塩を挙げることができるが、特に焼成により容易に熱分解して酸化物となる硝酸塩または有機酸塩が好ましい。焼成は、通常、空気や酸素雰囲気下などで行われ、温度は、当該塩の分解温度以上であれば特に限定されないが、通常500〜1400℃、好ましくは700〜1200℃程度が望ましい。また、担体の調製の別法としては、共沈法、ゲル混練法、ゾルゲル法によっても調製することができる。
【0051】
このようにして触媒担体を得ることができるが、Ru又はRhを担持する前に触媒担体を空気や酸素雰囲気下で焼成処理するのが好ましい。このときの焼成温度としては、通常500〜1400℃、好ましくは700〜1200℃である。また、触媒担体の機械的強度を高めることを目的として、触媒担体に少量のバインダー、例えばシリカ、セメント等を添加することもできる。改質触媒の触媒担体の形状は特に限定されるものではなく、触媒を使用する形態により適宜選択することができる。例えば、ペレット状、顆粒状、ハニカム状、スポンジ状等などの任意の形状が採用される。
【0052】
また、水素発生部4においては、炭化水素系燃料を改質するために水蒸気を水気化部8から供給されることが好ましい。水蒸気は、水供給部7から供給される水を水気化部8において加熱し、気化させることによって生成されることが好ましい。水気化部8における水の加熱は、例えば、水素発生部4の熱、オフガス燃焼部6の熱、あるいは排ガスの熱を回収する等、燃料電池システム1内で発生した熱を用いてもよい。また、別途ヒータ、バーナ等の他熱源を用いて水を加熱してもよい。なお、図1では、一例としてオフガス燃焼部6から水素発生部4へ供給される熱のみ記載されているが、これに限定されない。
【0053】
燃料電池システム1には、水素製造システム30とセルスタック5をつなぐ配管(図示せず)を通じて、水素製造システム30から水素リッチガスが供給される。この水素リッチガスと酸化剤を用いて、セルスタック5にて発電を行う。燃料電池システム1におけるセルスタック5の種類は特に限定されず、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)、リン酸形燃料電池(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC:Molten Carbonate Fuel Cell)、及び、その他の種類を採用することができる。なお、セルスタック5の種類や改質方式等に応じて、図1に示す構成要素を適宜省略してもよい。
【0054】
酸化剤は、酸化剤供給部9と燃料電池システム1をつなぐ配管を通じて、酸化剤供給部9から供給される。酸化剤としては、例えば、空気、純酸素ガス(通常の除去手法で除去が困難な不純物を含んでもよい)、酸素富化空気が用いられる。
【0055】
セルスタック5は、水素発生部4からの水素リッチガス及び酸化剤供給部9からの酸化剤を用いて発電を行う。セルスタック5は、水素リッチガスが供給されるアノード12と、酸化剤が供給されるカソード13と、アノード12とカソード13との間に配置される電解質14と、を備えている。セルスタック5は、パワーコンディショナー10を介して、電力を外部へ供給する。セルスタック5は、発電に用いられなかった水素リッチガス及び酸化剤をオフガスとして、オフガス燃焼部6へ供給する。なお、水素発生部4が備えている燃焼部(例えば、改質器を加熱する燃焼器など)をオフガス燃焼部6と共用してもよい。
【0056】
オフガス燃焼部6は、セルスタック5から供給されるオフガスを燃焼させる。オフガス燃焼部6によって発生する熱は、水素発生部4へ供給され、水素発生部4での水素リッチガスの発生に用いられる。また、燃料供給部2、水供給部7、及び酸化剤供給部9は、例えばポンプによって構成されており、制御部11からの制御信号に基づいて駆動する。
【0057】
パワーコンディショナー10は、セルスタック5からの電力を、外部での電力使用状態に合わせて調整する。パワーコンディショナー10は、例えば、電圧を変換する処理や、直流電力を交流電力へ変換する処理を行う。
【0058】
制御部11は、燃料電池システム1全体の制御処理を行う。制御部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び入出力インターフェイスを含んで構成されたデバイスによって構成される。制御部11は、燃料供給部2、水供給部7、酸化剤供給部9、パワーコンディショナー10、その他、図示されないセンサや補機と電気的に接続されている。制御部11は、燃料電池システム1内で発生する各種信号を取得すると共に、燃料電池システム1内の各機器へ制御信号を出力する。
【0059】
以上、本発明の脱硫システム、水素製造システム及び燃料電池システムによれば、原燃料の水を0.2〜0.4体積%の範囲とすることで、十分に脱硫された炭化水素系燃料を安定供給することができる。
【0060】
次に、本発明の燃料の脱硫方法及び水素の製造方法について説明する。本発明の燃料の脱硫方法は、硫黄化合物及び0.2〜0.4体積%の水を含有する炭化水素系燃料を、X型ゼオライトに銀を担持してなる触媒を用いて脱硫する工程を備える。
【0061】
硫黄化合物及び0.2〜0.4体積%の水を含有する炭化水素系燃料としては、上述した炭化水素系燃料が挙げられる。
【0062】
炭化水素系燃料を、X型ゼオライトに銀を担持してなる触媒(脱硫触媒)に接触させる具体的な手段としては、上述した燃料供給部2及び上述した脱硫部3が挙げられる。すなわち、燃料供給部2によって炭化水素系燃料を脱硫部3に供給し、供給された炭化水素系燃料を脱硫部3における脱硫触媒と接触させる。
【0063】
脱硫条件は、通常、燃料が気化した状態となる条件であることが好ましい。脱硫温度は、好ましくは−50〜100℃、より好ましくは−20〜80℃、さらに好ましくは0〜60℃である。
【0064】
脱硫温度以外の諸条件は、以下のように設定することが好ましい。すなわち、都市ガスなど常温(例えば、25℃)・常圧(例えば、ゲージ圧0MPa)で気体である炭化水素系燃料を用いる場合、GHSVは10〜20000h−1、好ましくは10〜7000h−1の間で選択することが好ましい。GHSVが10h−1より低いと、脱硫性能は良好になるものの、多量の脱硫剤を使用するため過大な脱硫器用いる必要が生じる。また、GHSVを20000h−1以下とすることで、脱硫性能が一層向上する。なお、液体燃料を炭化水素系燃料として使用することもでき、その場合には、LHSVを0.01〜100h−1の間で選択することが好ましい。
【0065】
使用圧力は、通常、常圧〜1MPa(ゲージ圧、以下同じ。)、好ましくは常圧〜0.5MPa、さらに好ましくは常圧〜0.2MPaの範囲で選択されるが、大気圧条件下で最も好ましく実施できる。
【0066】
本発明の水素の製造方法は、上記脱硫方法により脱硫された炭化水素系燃料を改質し、水素(水素リッチガス)を発生させる。改質方式は、上述のように特に限定されず、例えば、水蒸気改質、部分酸化改質、自己熱改質、その他の改質方式を採用できる。改質温度は通常200〜800℃、好ましくは300〜700℃である。
【0067】
改質触媒は、上述のとおり活性金属としてはRu又はRhを用いることが好ましく、触媒担体としてはセリウム酸化物またはセリウム酸化物を主成分とする希土類元素酸化物5〜40質量%、アルミニウム酸化物60〜95質量%を含む担体であることが好ましい。
【0068】
また、改質においては、場合により燃料を改質するために水蒸気が必要であることから、水気化部8から水素発生部4に水蒸気が供給されることが好ましい。水蒸気は、水供給部7から供給される水を水気化部8において加熱し、気化させることによって生成されることが好ましい。
【0069】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0071】
<脱硫触媒Aの調製>
硝酸銀30gに対し、蒸留水600mlを添加し硝酸銀水溶液を調製した。次に、攪拌しながらSiO/Al(モル比)=2.5の市販のNaX型ゼオライト粉末50gと混合し、イオン交換を行った。その後、硝酸根が残らないように蒸留水にて洗浄した。洗浄後、空気中、180℃で一晩乾燥した。乾燥後の粉末状銀交換ゼオライト30gに対し、アルミナバインダーを5g混合し、1mmφにて押出成型し、脱硫触媒A(表1では「Ag/X」と示す。)とした。脱硫触媒A中の銀の担持量はゼオライト基準で24質量%であった。
【0072】
<脱硫触媒Bの調製>
硫酸銅5水和物40gに対し、蒸留水600mlを添加し硫酸銅水溶液を調製した。次に、攪拌しながらSiO/Al(モル比)=4.5の市販のNaY型ゼオライト粉末50gと混合し、イオン交換を行った。その後、硫酸根が残らないように蒸留水にて洗浄した。洗浄後、空気気流中、180℃で一晩乾燥した。乾燥後の粉末状銅交換ゼオライト30gに対し、アルミナバインダーを5g混合し、1mmφにて押出成型し、脱硫触媒B(表1では「Cu/Y」と示す。)とした。脱硫触媒B中の銅の担持量はゼオライト基準で15質量%であった。
【0073】
(実施例1)
脱硫触媒A6mlを固定床流通式反応管に充填し、水の含有量(表1中では「HO濃度」と示す。)が0.2体積%であり、硫黄化合物としてDSM(ジメチルスルフィド)を硫黄原子換算濃度で80質量ppm含有するメタンガスを、GHSV=5000h−1にて、常圧、30℃で流通させた。なお、メタンガス中の硫黄化合物の含有量は加速耐久試験の目的で通常よりも高濃度としている。反応管出口の硫黄濃度を、SCD(sulfur Chemiluminescence Detector)ガスクロマトグラフィーにより測定した。実験開始後、出口ガスの硫黄化合物の炭化水素系燃料全量を基準とした硫黄原子換算濃度が0.05容量ppm以上となったところでガスの流通を止め、実験開始から実験終了までの間に脱硫触媒Aにトラップされた硫黄量を算出し、脱硫性能を求めた。
【0074】
(実施例2、3)
メタンガス中の水の含有量をそれぞれ0.3体積%(実施例2)、0.4体積%(実施例3)としたこと以外は、実施例1と同様にして実験を行い、脱硫性能を求めた。
【0075】
(比較例1、2)
メタンガス中の水の含有量をそれぞれ0.5体積%(比較例1)、1.0体積%(比較例2)としたこと以外は、実施例1と同様にして実験を行い、脱硫性能を求めた。
【0076】
(比較例3)
脱硫触媒Aにかえて脱硫触媒B6mlを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実験を行い、脱硫性能を求めた。
【0077】
(比較例4)
メタンガス中の水の含有量を1.0体積%としたこと以外は、比較例3と同様にして実験を行い、脱硫性能を求めた。
【0078】
実施例1〜3、比較例1〜4でそれぞれ求めた脱硫性能を、比較例1の性能を1とした相対比較で評価した。評価結果は、表1に示すとおりであった。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、脱硫触媒A(Ag/X)を用いて水を含有する炭化水素系燃料を脱硫する際に、炭化水素系燃料中の水の含有量を0.2〜0.4体積%の範囲内とすることで、水の含有量が0.5体積%以上の場合と比較して脱硫性能を向上させることができた。一方、脱硫触媒を脱硫触媒B(Cu/Y)に変更した場合には、脱硫性能が劣る結果となった。本発明においては、炭化水素系燃料中の水の含有量を0.2〜0.4体積%の範囲内にすればよいため、大規模な除湿手段等が不要であり、実用性が高い。
【符号の説明】
【0081】
1…燃料電池システム、2…燃料供給部、3…脱硫部、4…水素発生部、5…セルスタック、20…脱硫システム、30…水素製造システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び硫黄化合物を含有する炭化水素系燃料を後段に供給する燃料供給部と、
前記燃料供給部から供給された前記炭化水素系燃料を、X型ゼオライトに銀を担持してなる触媒を用いて脱硫する脱硫部と、を備え、
前記燃料供給部が供給する前記炭化水素系燃料における前記水の含有量が、前記炭化水素系燃料の全量基準で0.2〜0.4体積%である、脱硫システム。
【請求項2】
前記炭化水素系燃料は、炭素数4以下の炭化水素化合物を含む、請求項1に記載の脱硫システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の脱硫システムと、前記脱硫部で脱硫した前記炭化水素系燃料から水素を発生させる水素発生部と、を備える水素製造システム。
【請求項4】
請求項3に記載の水素製造システムを備える、燃料電池システム。
【請求項5】
硫黄化合物及び0.2〜0.4体積%の水を含有する炭化水素系燃料を、X型ゼオライトに銀を担持してなる触媒を用いて脱硫する工程を備える、燃料の脱硫方法。
【請求項6】
前記炭化水素系燃料は、炭素数4以下の炭化水素化合物を含む、請求項5に記載の燃料の脱硫方法。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料の脱硫方法によって脱硫された前記炭化水素系燃料を改質して水素を得る工程を備える、水素の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−140524(P2012−140524A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293661(P2010−293661)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】