説明

脱窒菌内包マイクロカプセルとその製造方法

【課題】独立栄養性脱窒菌を固定化したマイクロカプセルとして、物理的及び化学的に極めて安定で、脱窒菌の固定化容積が大きく、内部への硝酸性窒素の拡散性と脱窒菌の活動性に優れ、高い処理効率が得られる脱窒菌内包マイクロカプセルを提供する。
【解決手段】疎水性ポリマー及びポリアルキレングリコールを主成分とする多孔質のカプセル壁を備えた単核構造の内腔部に、独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液が内包されてなる脱窒菌内包マイクロカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システム等において汚染物質の硝酸性窒素を除去するのに好適な独立栄養性脱窒細菌を内包するマイクロカプセルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的に硝酸性窒素による地下水汚染が深刻な問題になっている。この硝酸性窒素は、肥料、家畜の糞尿、生活排水等に含まれる窒素化合物が亜硝酸菌や硝酸菌によって分解されたり化学的酸化されて発生し、地下に浸透して広範な地下水汚染を生じているが、現在の浄水処理場では完全には処理できない水質汚染物質であるため、飲料水等に含まれる形での摂取が避けられない。しかして、硝酸性窒素が体内に摂取されると、亜硝酸性窒素に還元され、メトヘモグロビン血症を誘引してチアノーゼ(窒息症状)を生起したり、発癌物質であるニトロソアミン類の生成に関与するとされており、その有効な除去手段の確立が緊急課題になっている。
【0003】
一般的に、硝酸性窒素の除去方法は、イオン交換樹脂や逆浸透膜を利用する物理化学的脱窒法と、微生物による脱窒作用を利用して硝酸性窒素を窒素ガスに分解して分離除去する生物学的脱窒法とに大別される。しかるに、前者の物理化学的脱窒法では、水中の硝酸性窒素を分離して浄水を生成させるが、分離した硝酸性窒素は同時に生成する再生排水や濃縮排水中に移行するだけで消滅しないため、硝酸性窒素を高濃度で含む排水の処理が新たな問題になる。一方、後者の生物学的脱窒法には、有機炭素源を栄養として摂取して硝酸呼吸を行う際に硝酸性窒素を還元する従属栄養性脱窒菌を用いる方法と、電子供与体として水素ガスや硫黄化合物の如き無機物を利用してに脱窒作用を行う独立栄養性脱窒菌を用いる方法とがあるが、従属栄養性脱窒菌に摂取させる有機炭素源も水質悪化の要因になるため、有機炭素源が不要な独立栄養性脱窒菌を用いる方法が好ましい。
【0004】
独立栄養性脱窒菌による脱窒作用は、例えば水素ガスを電子供与体に用いた場合、次の反応式(I)(II)で表される。
2NO3-+2H2 → 2NO2-+2H2 O ・・・(I)
2NO2-+3H2 → N2 +2H2 O+2OH- ・・・(II)
両反応式(I)(II)をまとめると、次式(III)となる。
2NO3-+5H2 → N2 +4H2 O+2OH- ・・・(III)
【0005】
ただし、独立栄養性脱窒菌は、それ単独では取り扱いが困難である上、二次的環境汚染を引き起こす可能性があるため、マイクロカプセルに固定化することが望ましい。従来、マイクロカプセルに有用微生物を固定化する一般的な方法として、アルギン酸塩、κ−カラギーナン、キトサンの如き水溶性高分子多糖類やポリビニルアルコール(以下、PVAと略称する)の如き水溶性合成樹脂よりなる浸透性の高い多孔質ゲル粒子に微生物を担持させる方法がある。そして、多糖類系の多孔質ゲル粒子を得る具体的手段としては、多糖類の水溶液を塩化カルシウム水溶液中に滴下してゲル粒子を生成させる方法が一般的である。また、PVA系の多孔質ゲル粒子を得る具体的手段としては、PVA及びアルギン酸ナトリウムを溶解した水溶液を塩化カルシウム水溶液中に滴下して球状のゲル粒子を形成する方法(特許文献1)、微生物を含むアルギン酸ナトリウムの水溶液を塩化カルシウム水溶液中に滴下してゲル粒子を形成したのち、該ゲル粒子を可溶性固形分の高濃度溶液に浸漬して収縮させる方法(特許文献2)、多孔質核体に塩化カルシウム水溶液を浸透させたのち、PVA系重合体及びアルギン酸ナトリウムを溶解した水溶液に浸漬して該核体の外側にゲル層を形成し、次いで該核体を架橋剤含有液に浸漬してPVA系重合体の架橋を行い、更に水酸化ナトリウム水溶液に浸漬してアルギン酸カルシウムゲルを溶解除去する方法(特許文献3)等が知られている。
【0006】
しかるに、独立栄養性脱窒菌を固定化したマイクロカプセルを水処理システム等の工業的規模での硝酸性窒素の除去に利用する場合、固定化した脱窒菌が散逸しにくく且つ硝酸性窒素が内部へ拡散し易いことに加え、マイクロカプセル自体が物理的・化学的強度に優れて崩壊しにくく、また処理効率を高める上で脱窒菌の固定化容積が大きく且つ内部への硝酸性窒素の拡散性がよいことが必要であり、更に量産性や経済性にも優れることが要求される。ところが、前記従来の多孔質ゲル粒子では、物理的・化学的強度が不十分で崩壊し易い上、脱窒菌の固定化容積も小さく処理効率に劣り、またゲル形成用ポリマーの水溶液を塩化カルシウム水溶液中に滴下するという製法的に量産性に乏しく、水処理システム等の工業的規模で利用するには供給能力及びコストの両面で不適である。
【0007】
一方、本発明者らは先に、微生物を内包するマイクロカプセルの製造方法をいくつか提案している。その一つ目は、外壁材ポリマーを溶かした有機溶媒中に、微生物を内包したアルギン酸ナトリウム等の高分子ビーズを乳化分散させ、このS/Oエマルジョンを水溶液中に移して有機溶媒を徐々に除去することにより、微生物内包の芯物質が外壁材被膜で覆われたマイクロカプセルを得る方法(特許文献4)である。また二つ目は、良溶剤として壁材ポリマーを溶解した有機溶剤Aと、これよりも高沸点で該壁材ポリマーに対する貧溶剤である有機溶剤Bとからなる油相中に、微生物及び保護剤ポリマーを含有する水溶液を添加して乳化させることにより、該水溶液が水滴微粒子として有機相中に分散したW/Oエマルションを調製し、これを水相に添加して乳化させて得られるW/O/Wエマルションの加温又は加温・減圧により、前記良溶剤及び貧溶剤を順次に蒸発・除去して壁材ポリマーを結晶化させる方法である(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−116974号公報
【特許文献2】特開2005−224160号公報
【特許文献3】特開2005−42037号公報
【特許文献4】特開2003−88747号公報
【特許文献5】特開2004−329159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの前記提案に係る方法によれば、有用な微生物を内包し、物理的及び化学的に安定なマイクロカプセルを製出できることが実証されている。特に、前記二つ目の方法で得られるマイクロカプセルは、所謂コアーシェル型の中空構造で微生物の固定化容積が大きく、また液剤を順次混合してゆくことでカプセルを製出できるので生産能率もよいという利点があった。しかしながら、本発明者らの引き続く研究の過程で、これら提案方法に基づいて作製した独立栄養性脱窒菌を固定化したマイクロカプセルでも、更に処理効率つまり硝酸性窒素の除去能力の面で多分に改良の余地を残していることが判明した。
【0010】
本発明は、上記の情況に鑑み、独立栄養性脱窒菌を固定化したマイクロカプセルとして、物理的及び化学的に極めて安定で、且つ脱窒菌の固定化容積が大きく、しかも内部への硝酸性窒素の拡散性と脱窒菌の活動性に優れ、高い処理効率が得られる脱窒菌内包マイクロカプセルと、これを低コストで確実に量産し得る製造方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る脱窒菌内包マイクロカプセルは、疎水性ポリマー及びポリアルキレングリコールを主成分とする多孔質のカプセル壁を備えたコアーシェル型構造の内腔部に、独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液が内包されてなる構成としている。
【0012】
また、上記請求項1の脱窒菌内包マイクロカプセルにおいて、請求項2の発明ではカプセル壁の疎水性ポリマー:ポリアルキレングリコールの質量比が1:0.5〜5の範囲にある構成、請求項3の発明ではカプセル壁の疎水性ポリマーがポリメチルメタクリレートであり、ポリアルキレングリコールが平均分子量500〜500,000のポリエチレングリコールである構成、請求項4の発明では平均粒子径が50〜1,500μm、平均内腔径及び平均粒子径に基づく算出比表面積S1と実測比表面積S2の比である相対比表面積S2/S1が40以上である構成、をそれぞれ好適態様としている。
【0013】
一方、請求項5の発明に係る脱窒菌内包マイクロカプセルの製造方法は、疎水性ポリマー及びポリアルキレングリコールを主成分とする壁材ポリマーが低沸点有機溶媒に溶解されてなる有機相中に、独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液を添加混合することにより、該有機相中に内水相として独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液の液滴が分散したW/Oエマルションを調製したのち、このW/Oエマルションを水相中に添加混合して所定時間の攪拌を行うことにより、外水相中に前記W/Oエマルションの液滴が分散したW/O/Wエマルションを調製すると共に、その分散液滴を内水相液滴の合一によって内側の単一水相が外側の有機相で覆われた構造の液滴に転化させ、次いで有機相中の有機溶媒を加温又は/及び減圧による液中乾燥で除去して壁材ポリマーをゲル化させることにより、上記請求項1〜4の何れかの脱窒菌内包マイクロカプセルを生成させることを特徴としている。
【0014】
更に、上記請求項5の脱窒菌内包マイクロカプセルの製造方法において、請求項6の発明は有機相の低沸点有機溶剤がジクロロメタンを主成分とする構成、請求項7の発明は有機相の低沸点有機溶剤が疎水性ポリマーに対する良溶剤からなり、有機相中に該良溶剤よりも高沸点で疎水性ポリマーに対する溶解度の小さい貧溶剤が溶媒成分中の4質量%以下の範囲で配合されてなる構成、請求項8の発明は有機相中に添加混合する保護剤ポリマー水溶液がアルギン酸ナトリウムの0.5〜10質量%濃度の水溶液である構成、請求項9の発明は外水相とする水相に分散安定剤として第三リン酸カルシウムを含む構成、をそれぞれ好適態様としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る脱窒菌内包マイクロカプセルは、コアーシェル型構造であることから、粒子サイズの割に内腔部つまり独立栄養性脱窒菌の固定化容積が大きく、カプセル内部に該脱窒菌が活発に動いて硝酸性窒素を分解するための反応場を広く確保できる。また、カプセル壁が疎水性ポリマー及びポリアルキレングリコールを主成分として構成されるから、その疎水性ポリマーのゲル構造に基づく優れた物理的・化学的強度が発揮されて崩壊しにくく、過酷な使用条件でも充分な耐久性が得られる。しかも、カプセル壁の一方の構成成分であるポリアルキレングリコールが親水性と親油性を兼ね備えているため、カプセル壁には、疎水性ポリマーのゲル化時の溶媒揮散に伴って生じる細孔に加え、疎水性ポリマーとポリアルキレングリコールの高分子同士の絡み合い状態からポリアルキレングリコールの一部が水相に溶解することで、内外に通じる適度な微孔通路が無数に形成され、これら微孔通路を介して汚染物質のカプセル内部への大きな拡散性が得られる。従って、汚染物質として硝酸性窒素を含む上下水等の浄化処理において、この脱窒菌内包マイクロカプセルを用いることにより、長期にわたって持続的に高い処理効率で硝酸性窒素の除去を行える。
【0016】
請求項2の発明によれば、上記の脱窒菌内包マイクロカプセルとして、カプセル壁を構成する疎水性ポリマーとポリアルキレングリコールが特定比率であることから、物理的・化学的強度と硝酸性窒素の内部への拡散性に共に優れるものが提供される。
【0017】
請求項3の発明によれば、上記の脱窒菌内包マイクロカプセルとして、カプセル壁を構成する疎水性ポリマーとポリアルキレングリコールが特定種であることから、物理的・化学的強度と硝酸性窒素の内部への拡散性により優れるものが提供される。
【0018】
請求項4の発明によれば、上記の脱窒菌内包マイクロカプセルとして、特定の平均粒子径で、且つ平均内腔径及び平均粒子径に基づく算出比表面積S1と実測比表面積S2とが特定比率であることから、独立栄養性脱窒菌の固定化容積が非常に大きい上に、カプセル壁が極めて良好な多孔構造をなし、もってより高い処理効率を発揮できるものが提供される。
【0019】
請求項5の発明によれば、脱窒菌内包マイクロカプセルの製造方法として、上記の優れた特性を備えるマイクロカプセルを高い生産能率で容易に且つ確実に製出できる手段が提供される。
【0020】
請求項6の発明によれば、上記製造方法において、有機相の低沸点有機溶剤が特に沸点の低いジクロロメタンを主成分とすることから、液中乾燥による壁材ポリマーのゲル化が効率よく進行すると共に、液中乾燥時の温度・圧力条件が緩和されて消費エネルギーを少なくできるという利点がある。
【0021】
請求項7の発明によれば、有機相の低沸点有機溶剤が疎水性ポリマーに対する良溶剤からなり、有機相中に該良溶剤よりも高沸点の貧溶剤を適量含むことから、形成されるカプセル壁がより多孔質になるという利点がある。
【0022】
請求項8の発明によれば、上記製造方法において、有機相中に添加混合する保護剤ポリマー水溶液が特定濃度のナトリウム塩水溶液であることから、特に硝酸性窒素の除去速度の大きい脱窒菌内包マイクロカプセルが得られる。
【0023】
請求項9の発明によれば、上記製造方法において、外水相とする水相に特定の分散安定剤を含むことから、安定性のよいW/O/Wエマルションを調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の脱窒菌内包マイクロカプセルの生成機構を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例における製造例a〜cで得られた脱窒菌内包マイクロカプセルの断面及び全体を示す走査電子顕微鏡写真図である。
【図3】同実施例における製造例d〜gで得られた脱窒菌内包マイクロカプセルの断面及び全体を示す走査電子顕微鏡写真図である。
【図4】同実施例における製造例gで得られた脱窒菌内包マイクロカプセルを用いた回分脱窒反応試験による硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素濃度−時間の相関特性図である。
【図5】同回分脱窒反応試験による総窒素濃度−時間の相関特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の脱窒菌内包マイクロカプセルは、疎水性ポリマー及びポリアルキレングリコールを主成分とする多孔質のカプセル壁を備えたコアーシェル型構造の内腔部に、独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液が内包されたものである。次に、その生成機構を図1を参照して説明する。
【0026】
まず、疎水性ポリマー及びポリアルキレングリコールを主成分とする壁材ポリマーが低沸点有機溶媒に溶解されてなる有機相中に、独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液を添加混合することにより、該有機相中に内水相として独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液の液滴が分散したW/Oエマルションを調製する。そして、このW/Oエマルションを水相中に添加して攪拌混合することにより、図1(a)で示すように、外水相中にW/Oエマルションの液滴Edが分散したW/O/Wエマルションを調製する。そして、更に該W/O/Wエマルションの攪拌を続行すると、図1(b)で示すように、分散しているW/Oエマルションの液滴Ed中の内水相液滴Wd同士が合体してゆき、最終的に図1(c)の如く液滴合一した内側の単一水相Wpが外側の有機相Opで覆われた構造の液滴に転化する。次いで有機相Op中の有機溶媒を加温又は/及び減圧による液中乾燥で除去することにより、図1(d)で示すように、壁材ポリマーのゲル化で固化したカプセル外殻Csが形成され、もってコアーシェル型構造の脱窒菌内包マイクロカプセルMCが生成する。
【0027】
このような脱窒菌内包マイクロカプセルでは、カプセル粒子がコアーシェル型構造であることから、その粒子サイズの割に内腔部つまり独立栄養性脱窒菌の固定化容積が大きくなり、カプセル内部に該脱窒菌が活発に動いて硝酸性窒素を分解するための反応場を広く確保できる。また、カプセル粒子は、カプセル壁が疎水性ポリマー及びポリアルキレングリコールを主成分として構成されるから、その疎水性ポリマーのゲル構造に基づく優れた物理的・化学的強度が発揮されて崩壊しにくく、水処理システム等における過酷な使用条件下でも充分な耐久性が得られる。しかも、カプセル壁の一方の構成成分であるポリアルキレングリコールが親水性と親油性を兼ね備えているため、カプセル壁には、疎水性ポリマーのゲル化時の溶媒揮散に伴って生じる細孔に加え、疎水性ポリマーとポリアルキレングリコールの高分子同士の絡み合い状態からポリアルキレングリコールの一部が水相に溶解することで、内外に通じる適度な微孔通路が無数に形成され、これら微孔通路を介して汚染物質のカプセル内部への大きな拡散性が得られる。従って、汚染物質として硝酸性窒素を含む上下水等の浄化処理において、この脱窒菌内包マイクロカプセルを用いることにより、長期にわたって持続的に極めて高い処理効率で硝酸性窒素を除去することが可能となる。
【0028】
本発明において壁材ポリマーに用いる疎水性ポリマーとしては、マイクロカプセル用の固定化担体として知られる種々の合成高分子材料を採用できるが、化学的及び物理的強度に優れるカプセル壁を形成する上でポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリε−カプロラクタム等が好適であり、特にポリメチルメタクリレートが最適なものとして推奨される。なお、ポリメチルメタクリレートとしては、平均分子量500〜1000,000程度のものがよい。
【0029】
また、壁材ポリマーに用いるポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、特にポリエチレングリコールが好適であり、更に親水性と親油性のバランス面より平均分子量500〜500,000程度のポリエチレングリコールが最適なものとして推奨される。
【0030】
壁材ポリマーの疎水性ポリマーとポリアルキレングリコールとの配合比率は、前者:後者の質量比で1:0.5〜5の範囲が好適であり、ポリアルキレングリコールの割合が少な過ぎては汚染物質のカプセル内部へ拡散性が不充分になり、逆にポリアルキレングリコールの割合が多過ぎてはカプセル壁の化学的及び物理的強度が低下する。なお、有機相の壁材ポリマー濃度は、5〜20質量%程度とするのがよい。
【0031】
壁材ポリマーを溶解して有機相を構成するための低沸点有機溶媒は、加温又は/及び減圧による液中乾燥を行う上で沸点が85℃以下の無極性溶剤が好ましく、例えばジクロロメタン(沸点40℃)、クロロホルム(同61℃)、酢酸エチル(同77℃)、1.2−ジクロロエタン(同83.5℃)等が好適なものとして挙げられ、これらは2種以上を併用してもよいが、ジクロロメタンを単独使用もしくは主成分として他と併用することが推奨される。すなわち、ジクロロメタンは特に沸点が低いため、液中乾燥による壁材ポリマーのゲル化が効率よく進行すると共に、液中乾燥に要する温度・圧力条件が緩和されて消費エネルギーを少なくできるという利点がある。
【0032】
また、上記で例示したジクロロメタン等の低沸点有機溶媒は壁材ポリマーに対する良溶剤であるが、有機相には該良溶剤よりも高沸点で壁材ポリマーに対する貧溶剤を少量配合してもよい。このような高沸点の貧溶剤を少量配合すれば、液中乾燥時に先に良溶剤が揮散除去されて続いて貧溶剤が揮散除去される形になり、その間に壁材ポリマーのゲル化が進行してゆくため、形成されるカプセル壁がより多孔質になる。このような貧溶剤としては、n−ヘキサン(沸点69℃)、イソオクタン(同99.25℃)、n−オクタン(同125.7℃)、n−ノナン(同149.5℃)、n−デカン(同174℃)、n−テトラデカン(同252.5℃)等が挙げられる。しかして、特にジクロロメタンを主体として用いる場合、前記貧溶剤としてn−ヘキサンを配合することが推奨される。なお、貧溶剤の配合量は溶媒成分中の4質量%以下の範囲がよく、配合割合が多すぎると凝集を生じ易くなる。
【0033】
壁材ポリマーを低沸点有機溶媒に溶解した有機相中には、内水相添加によるW/Oエマルションの調製のために、適当なエマルション安定剤を配合しておくのがよい。このようなエマルション安定剤としては、ソルビタンモノオレエートの如きスパン系界面活性剤を始めとして、一般的にエマルション調製に用いる種々の界面活性剤、水溶性樹脂、水溶性多糖類等がある。
【0034】
保護剤ポリマー水溶液に含有させる独立栄養性脱窒菌としては、特に制約はないが、例えば、Paracoccus denitrificans、Alcaligenes eutrophas、Pseudomonas pseudoflava等が挙げられる。
【0035】
保護剤ポリマーとしては、独立栄養性脱窒菌に対する適合性を備えて水中でのゲル形成性を有するものであればよく、例えばアルギン酸塩、κ−カラギーナン、キトサンの如き水溶性高分子多糖類やポリビニルアルコールが挙げられるが、特にアルギン酸ナトリウムが好適である。このアルギン酸ナトリウムを用いる場合の水溶液濃度は、0.5〜10質量%程度とするのがよく、高過ぎてはW/Oエマルションの分散安定性が低下して凝集を生じ易くなる。なお、保護剤ポリマー水溶液中には、独立栄養性脱窒菌の栄養源として、ポリペプトン、イーストエキス、硫酸マグネシウム等を適宜配合できる。
【0036】
有機相中に内水相として独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液の液滴が分散したW/Oエマルションを調製するには、該保護剤ポリマー水溶液を常温下で有機相に添加混合するだけでよい。そして、このW/Oエマルションを用いて前記のW/O/Wエマルションを調製するには、やはり外水相となる水相に常温下でW/Oエマルションを添加混合すればよく、そのまま攪拌を数10分程度続けることによって分散相であるW/Oエマルション液滴の各粒子中で内水相の液滴合一がなされる。この液滴合一により、W/Oエマルション液滴は内側の単一水相Wpが外側の有機相Opで覆われた構造の液滴に転化する。
【0037】
W/O/Wエマルションの外水相に用いる水相には、分散安定剤を含むことが望ましい。この分散安定剤としては、特に制約はなく、一般的にエマルション調製に使用されるものをいずれも使用できるが、液滴粒子の凝集抑制のために少なくとも一成分として第三リン酸カルシウムを含むことが推奨される。
【0038】
前記の液滴合一後、液中乾燥によって有機相の低沸点有機溶媒を揮散除去するために、攪拌下で加温と減圧の一方もしくは両方を行うが、処理効率面より加温と減圧を同時に行うことが推奨される。その加温ではエマルションの液温を数時間をかけて段階的又は連続的に昇温してゆけばよいが、最高到達温度は低沸点有機溶媒の沸点より低い温度でよい。また減圧ではエマルションの液面が接する雰囲気の圧力を同様に数時間をかけて段階的又は連続的に減じてゆけばよいが、最高減圧は大気圧の数分の1程度まででよい。しかして、有機相の低沸点有機溶媒がジクロロメタンを主体とする場合、加温と減圧を同時に行う液中乾燥では最高到達温度は35℃程度、最高減圧は300hPa程度で済む。なお、この液中乾燥における攪拌速度は、100〜1,000rpm程度とするのがよい。
【0039】
上記液中乾燥によって有機相の低沸点有機溶媒が揮散除去される過程で、該有機相中の壁材ポリマーが有機溶媒から相分離して結晶化してゆき、固化した多孔状のカプセル壁が形成されることでコアーシェル型のマイクロカプセルを生成する。かくして生成した脱窒菌内包マイクロカプセルは、ろ過して外水相から分離後、洗浄して回収される。なお、外水相に分散安定剤として第三リン酸カルシウムが含まれる場合、希塩酸水溶液等の酸洗浄によって第三リン酸カルシウムを除去した上で蒸留水等による水洗を施すのがよい。
【0040】
得られる脱窒菌内包マイクロカプセルの粒子サイズについては、有機相及び内水相として用いる液組成及びポリマー濃度、W/Oエマルション及びW/O/Wエマルションの調製時の液混合比率及び攪拌速度等の条件設定によって調整できるが、水処理システムへの適用性から平均粒子径として50〜1,500μmの範囲が好適である。また、汚染物質である硝酸性窒素のカプセル内部への高度な拡散性を確保する上で、カプセル粒子の平均内腔径及び平均粒子径に基づく算出比表面積S1と実測比表面積S2の比である相対比表面積S2/S1が40以上であることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例として、異なる調製条件での脱窒菌内包マイクロカプセルの製造例a〜hを示す。
【0042】
〔独立栄養性脱窒菌の培養〕
独立栄養性脱窒菌としてParacoccus denitrificans NBRC13301を用い、1.0重量%のポリペプトン、0.2重量%のイーストエキス、0.1重量%のMgSO4・7H2Oを含む培養液5ml中で前培養(液温30℃、攪拌速度150rpm、24時間)し、次いで前培養の4倍濃度の培養液100ml中で本培養(液温30℃、攪拌速度150rpm、24時間)を行ったのち、集菌した脱窒菌を0.9重量%濃度の生理食塩水で洗浄して回収した。
【0043】
〔有機相の調製〕
20gのジクロロメタンに対し、2gのポリメチルメタクリレート(平均分子量100,000)、4gのポリエチレングリコール(平均分子量20,000)、後記表1記載量のn−ヘキサン、0.6gのソルビタンモノオレエートを添加混合して有機相を調製した。
【0044】
〔内水相の調製〕
後記表1記載の濃度のアルギン酸ナトリウム、4重量%のポリペプトン、0.8重量%のイーストエキス、0.4重量%のMgSO4・7H2Oを含む水溶液4gに、独立栄養性脱窒菌4g(湿潤重量)を添加混合して内水相を調製した。
【0045】
〔外水相の調製〕
1重量%のポリビニルアルコール水溶液500gに、第三リン酸カルシウム250gを添加混合して外水相を調製した。
【0046】
〔脱窒菌内包マイクロカプセルの調製〕
前記有機相を常温(20℃)下で攪拌しながら前記内水相を添加混合してW/Oエマルションを調製し、このW/Oエマルションを液温20℃で攪拌下にある前記外水相に添加してW/O/Wエマルションを調製し、続いて大気圧において150rpmで30分間攪拌することによって分散しているW/Oエマルション液滴中の内水相液滴を合一させたのち、攪拌速度150rpmを維持しつつ、第一段では液温25℃,雰囲気圧800hPaで1時間、第二段階では液温35℃,雰囲気圧500hPaで1時間、第三段階では液温35℃,雰囲気圧300hPaで2時間の三段階の液中乾燥処理を行い、製出した脱窒菌内包マイクロカプセルをろ過分離し、0.5モル濃度の塩酸水溶液で洗浄して第三リン酸カルシウムを除去し、更に蒸留水で洗浄して回収した。
【0047】
各製造例で得られた脱窒菌内包マイクロカプセルについて、平均粒子径、回収率、算出比表面積S1、実測比表面積S2、相対比表面積S2/S1を調べた結果を、有機相におけるn−ヘキサンの使用量ならびに内水相におけるアルギン酸ナトリウム濃度と共に次の表1に示す。なお、算出比表面積S1は、カプセル粒子の平均粒子径と平均内腔径に基づいて算出される、単位体積あたりの外部比表面積と内部比表面積の和である。






























【0048】
【表1】

【0049】
また、製造例a〜cで得られた脱窒菌内包マイクロカプセルの断面及び全体の走査電子顕微鏡写真図を図2の対応符号(a)〜(c)として、同じく製造例d〜gで得られた脱窒菌内包マイクロカプセルの断面及び全体の走査電子顕微鏡写真図を図3の対応符号(d)〜(g)として、ぞれぞれ示す。
【0050】
図2,図3の電子顕微鏡から、本発明の脱窒菌内包マイクロカプセルは、完全なコアーシェル型で大きな内腔部を有していることから、脱窒菌の固定化容積が大きく、しかもカプセル壁が極めて多孔質であるため、カプセル内部への硝酸性窒素の拡散性が非常に高いことが明らかである。このカプセル壁の多孔度合が極めて大きいことは、表1に示す相対比表面積S2/S1が最低の製造例eでも46(算出比表面積S1に対して実測比表面積S2が46倍)であることからも実証される。また、表1における製造例a〜cの対比から、有機相に加えるn−ヘキサンの量が多くなるほど、粒子径が小さくなる傾向を示すことが判る。更に、表1における製造例d〜g及びcの対比から、内水相のアルギン酸ナトリウム濃度が高い方が、カプセル壁の多孔度合も大きいことが判る。ただし、アルギン酸ナトリウム濃度5重量%の製造例hでは凝集を生じているため、該濃度が高過ぎる場合は内水相の粘度が高過ぎてエマルションの分散安定性を悪化させることが推測される。なお、製造例dのように内水相にアルギン酸ナトリウムを含まなくとも形態的には良好なマイクロカプセルが得られるが、内包させる脱窒菌の保護と逸散防止のためには保護剤ポリマーの存在が必要である。
【0051】
〔回分脱窒反応試験〕
蒸留水1Lに対してNaNO3 0.12gとKH2PO4 0.2mgを添加し、窒素濃度として20mg/Lの模擬汚染水を調製した。そして,200ml三角フラスコ中に、予め水素ガスで飽和させた模擬排汚染水100mlと、前記製造例gで得られた脱窒菌内包マイクロカプセル7g(湿潤質量)7gとを入れ、この三角フラスコを30℃,100rpmの震盪恒温槽中に収容し、水素ガス雰囲気下(H2 流量30ml/分)で脱窒試験を行った。この脱窒試験中、経時的に模擬汚染水をサンプリングし、硝酸窒素濃度及び亜硝酸窒素濃度をイオンクロマトグラフ(日立社製の日立L−2470型電導度検出器)にて定量して脱窒能力を調べたところ、図4及び図5に示す結果が得られた。
【0052】
図4及び図5で示す結果から、本発明の脱窒菌内包マイクロカプセルにより、水中の汚染物質である硝酸窒素及び亜硝酸窒素を完全に除去できることが判る。なお、最小二乗法により求めた総窒素除去速度は、1時間当たり0.23mg/Lであった。
【符号の説明】
【0053】
Cs カプセル外殻
Ed W/Oエマルションの液滴
MC マイクロカプセル
Op 外側の有機相
Wd 内水相液滴
Wp 単一水相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ポリマー及びポリアルキレングリコールを主成分とする多孔質のカプセル壁を備えたコアーシェル型構造の内腔部に、独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液が内包されてなる脱窒菌内包マイクロカプセル。
【請求項2】
前記カプセル壁の疎水性ポリマー:ポリアルキレングリコールの質量比が1:0.5〜5の範囲にある請求項1に記載の脱窒菌内包マイクロカプセル。
【請求項3】
前記カプセル壁の疎水性ポリマーがポリメチルメタクリレートであり、ポリアルキレングリコールが平均分子量500〜500,000のポリエチレングリコールである請求項1又は2に記載の脱窒菌内包マイクロカプセル。
【請求項4】
平均粒子径が50〜1,500μm、平均内腔径及び平均粒子径に基づく算出比表面積S1と実測比表面積S2の比である相対比表面積S2/S1が40以上である請求項1〜3の何れかに記載の脱窒菌内包マイクロカプセル。
【請求項5】
疎水性ポリマー及びポリアルキレングリコールを主成分とする壁材ポリマーが低沸点有機溶媒に溶解されてなる有機相中に、独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液を添加混合することにより、該有機相中に内水相として独立栄養性脱窒細菌を含む保護剤ポリマー水溶液の液滴が分散したW/Oエマルションを調製したのち、このW/Oエマルションを水相中に添加混合して所定時間の攪拌を行うことにより、外水相中に前記W/Oエマルションの液滴が分散したW/O/Wエマルションを調製すると共に、その分散液滴を内水相液滴の合一によって内側の水相が外側の有機相で覆われた構造の液滴に転化させ、次いで有機相中の有機溶媒を加温又は/及び減圧による液中乾燥で除去して壁材ポリマーをゲル化させることにより、前記請求項1〜4の何れかに記載の脱窒菌内包マイクロカプセルを生成させることを特徴とする脱窒菌内包マイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
前記有機相の低沸点有機溶剤がジクロロメタンを主成分とする請求項5に記載の脱窒菌内包マイクロカプセルの製造方法。
【請求項7】
前記有機相の低沸点有機溶剤が前記疎水性ポリマーに対する良溶剤からなり、有機相中に該良溶剤よりも高沸点で前記疎水性ポリマーに対する溶解度の小さい貧溶剤が溶媒成分中の4質量%以下の範囲で配合されてなる請求項5又は6に記載の脱窒菌内包マイクロカプセルの製造方法。
【請求項8】
前記有機相中に添加混合する保護剤ポリマー水溶液がアルギン酸ナトリウムの0.5〜10質量%濃度の水溶液である請求項5〜7の何れかに記載の脱窒菌内包マイクロカプセルの製造方法。
【請求項9】
前記外水相とする水相に分散安定剤として第三リン酸カルシウムを含む請求項5〜8の何れかに記載の脱窒菌内包マイクロカプセルの製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−78911(P2011−78911A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233575(P2009−233575)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】