説明

脱脂判定装置及び脱脂判定方法

【課題】 より高感度で且つ簡易な構成で金属表面の脱脂状態を検出することが可能な脱脂判定装置を提供する。
【解決手段】 脱脂判定装置10を、紫外線光源1と、可視光検出器2と、ミラー3と、判定回路部とを備える構成とする。紫外線光源1は、紫外線を所定の入射角θbで金属表面に斜め入射する。可視光検出器2は、金属表面に対して紫外線の入射方向と対称的な方向に射出される金属表面からの反射光Srが直接入射されない位置に配置され、紫外線の照射時に金属表面で発生した可視光成分の光を検出する。ミラー3は、金属表面で発生した可視光成分の光の一部を多重反射させて可視光検出器2に導く。そして、判定回路部は、可視光検出器2で検出した検出信号に基づいて、金属表面上に油脂110が存在するか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱脂判定装置及び脱脂判定方法に関し、より詳細には、金属表面の脱脂程度を判定するための脱脂判定装置及びその脱脂判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属、特に鋼板の表面には、その美観及び/または表面保護のために、メッキ処理や塗装処理が施される。ただし、これらの処理を施す前工程として、鋼板に対して例えばプレス加工や穴あけ加工等の機械加工が施されるので、潤滑用の油脂が金属表面に付着する。また、金属が例えば電気亜鉛メッキ鋼板等の処理鋼板である場合も同様の理由で、その表面に油脂が付着する。
【0003】
しかしながら、金属表面に油脂が付着した状態でメッキ処理や塗装処理を行うと、メッキ膜や塗装膜の密着性が低下し、品質が劣化するという問題が生じる。それゆえ、このような問題を解消するために、メッキ処理や塗装処理を行う前に、金属表面の油脂を除去するための洗浄工程が行われる。
【0004】
金属表面の油脂洗浄は、理想的には、複数回繰り返して行い、完全に油脂を除去することが好ましいが、量産性やコスト等を考慮すると、その洗浄回数にも限界がある。より具体的に説明すると、量産工程では、量産に係る一連の工程を一定の時間内で行う必要があり、洗浄工程に多くの時間を割くことはできない。また、洗浄回数が増えると、洗浄液の使用量が増大し、高コストとなる。さらに、洗浄液は、使用後、産業廃棄物として処理するので、洗浄液の使用量が増大すると、環境及び省エネルギーの問題が生じる。
【0005】
また、洗浄工程を複数回繰り返しても、洗浄後の液(微量の油分を含む)が金属板の隅や凹凸部に付着すると、その液が乾燥した後には、微量の油分及び/またはその残渣が付着した状態となる。なお、以下では、金属表面に残る油分及びその残渣を総称して油脂という。このように金属表面に微量の油脂が残った状態でも、メッキ処理や塗装処理を行うとメッキむらや塗装むらが発生したり、メッキ膜や塗装膜が剥離し易くなったりする。さらに、処理鋼板の場合は、美観上の問題も発生する。
【0006】
そこで、上記問題を解消するために、メッキ処理や塗装処理の直前に、洗浄工程により金属表面から油脂が完全に除去されているか、あるいは、油脂が問題の無いレベルまで除去されているか、すなわち、金属表面の脱脂の程度を判定する必要がある。特に、生産現場では、大掛かりな装置を使用せず、簡単で且つサンプル(製品)を破壊せずに脱脂判定が可能となる手法が必要とになる。
【0007】
ところで、従来の定量的な脱脂判定の手法としては、次の各種手法が挙げられる。
【0008】
(1)重量法
重量法では、サンプルの重量を洗浄工程の前後でそれぞれ測定し、その両者の差に基づいて、脱脂の程度を判定する。しかしながら、この手法は、油脂の検出精度が低いことが一般に知られている。また、この手法は、一般に、製品となるサンプル(金属板)の一部を取り出して行われる。すなわち、この手法では、サンプルを破壊する必要があり、生産現場では実用的な手法ではない。
【0009】
(2)屈折率法
屈折率法は、具体的には、例えばエリプソメーターを用いた手法である。この手法では、サンプル(例えば金属板等)の表面に対して光を斜め入射して、表面の油脂で屈折及び/または偏向する反射光を分析して油脂の厚さを測定する方法である。しかしながら、この手法も、一般に、製品となるサンプルの一部を取り出して検査する手法であるので、サンプルを破壊する必要があり、生産現場では実用的な手法ではない。
【0010】
(3)赤外線を用いた手法
一般に、2つ以上の異なる原子が結合した分子に赤外線を照射すると、その分子は、照射された赤外線に含まれる所定波長の成分を吸収して振動する。それゆえ、赤外線を分子に照射して、吸収された波長成分を特定することにより、その物質を特定することができる。
【0011】
このような性質を利用して、物質を特定する装置は従来、種々開発されている。このような検査装置は、赤外線照射部及び検出部をプローブとした信号処理装置として独立して設けることができる。それゆえ、このような赤外線を用いた検査装置は比較的小型であり、生産現場向きのものも多い。
【0012】
ただし、赤外線を用いた手法では、金属表面に残る油脂や汚れ等を検査する場合、その油脂や汚れの物質の成分により、吸収される波長が異なる。それゆえ、特定の成分を検出したい時は、その成分に特有の波長だけを検出すればよいが、そのような成分が不明である場合は、広い波長範囲を調べなければならないので、物質の特定が困難になる。また、この手法では、金属表面の微量の油脂を検出することは困難である。
【0013】
(4)紫外線を用いた手法(例えば特許文献1参照)
ほとんどの有機物、特に油脂等に、紫外線を照射すると蛍光現象が発生することは、従来、よく知られている。この現象において、例えば、照射する紫外線量をUVとし、発生する蛍光量をVLとすると、両者の間にはVL=η×UVという関係が成立する。
【0014】
なお、この関係式中の定数ηは紫外線が照射された際の物質の蛍光変換効率(発光効率)であり、この値は油脂などの物質の成分量により異なる。ただし、本発明者らの検証によると、この蛍光変換効率ηの値は、油脂の種類による差が小さいことが分かっている。また、この手法では、上記関係式から明らかなように、照射する紫外線量UVを大きくすれば検出される蛍光量VLも増加するので、その検出精度も向上するという効果が得られる。それゆえ、この手法は、上述した赤外線を用いた手法に比べて微量な油脂の検出に適している。
【0015】
また、従来の定性的な脱脂判定の手法としては、次の各種手法が挙げられる。
【0016】
(1)プロセス管理による手法
一般に、品質管理の分野において、脱脂を含む塗装処理やメッキ処理などの表面処理工程の本質的な良否判定を工程終了後における生産現場での一般的な検査(例えば外観検査等)で行うことは、その工程の特性上、困難である。例えば、塗装膜の密着性等の品質の良否は、非破壊試験となる外観検査だけでは判断できない。それゆえ、これらの表面処理工程は、特殊工程と呼ばれる。
【0017】
このような表面処理工程では、例えば機械加工や組立加工などの工程と異なり、生産ライン上で水処理(薬品処理も含み)プロセスを連続的に行う。そのため、各プロセスでの例えば温度、薬品濃度、時間等の因子を、日常の点検等で管理及び維持し、製品の品質を確保する。
【0018】
それゆえ、プロセス管理による手法では、各プロセスにおける上述した因子が所定条件内に収まっているか否かを判別して、脱脂の程度を判定する。しかしながら、この手法では、製品に対して直接検査を行う手法ではないので、脱脂の程度の良否を直接判定することができない。
【0019】
(2)目視による手法
この手法は、人間の目による感応検査である。この手法では、検査対象(金属板)に光を斜め照射し、その際の反射(反射模様)の程度のバラツキを目視で確認して、脱脂の程度を判定する。しかしながら、この手法は、定量的な判定ができないだけでなく、判定する人によって判定基準にバラツキが生じるので、判定結果の信頼性が低い。さらに、この手法では、製品の外観のみの判定となり、表面処理そのものの良否を判定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平9−113231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述のように、従来、金属表面の脱脂の程度を判定するための手法が種々提案されているが、その中でも特に、紫外線を用いた手法は、その他の手法に比べて、より微量の油脂の検出に適している。しかしながら、紫外線を用いる手法では、次のような問題がある。
【0022】
紫外線光源としては、従来、例えば水銀ランプやLED(Light Emitting Diode)などが用いられる。水銀ランプは、紫外線出力の点で優れているが、寿命が短く且つ特定の波長しか射出しないので自由度が低い。なお、ここでいう「寿命」とは、ランプが切れるまでの時間のことではなく、紫外線出力が所定の値に低下するまでの時間のことである。それに対して、LED(発光ダイオード)は、その出力は小さいが、例えば、出力の安定性に優れる、適当な蛍光が得られる波長の紫外線を射出することができるといった特徴を有する。それゆえ、上述した紫外線を用いる手法では、紫外線光源として、LEDが一般的に用いられる。
【0023】
しかしながら、紫外線光源からの出射光には、通常、紫外線だけでなく、可視光成分が含まれており、この可視光成分の波長は、被照射物質(油脂)で発生する蛍光とほぼ同じ波長である。例えば、発光中心の波長が365nmの市販のLEDを用いた場合、その出射光には、紫外線の波長領域成分だけでなく、例えば390nm〜415nmの範囲の可視光成分の光も含まれる。なお、この可視光成分の分布の広がり(半値半幅HWHM)は、市販されているLEDでは、その種類に関係なく、約20nm前後である。
【0024】
上述のように、紫外線光源からの出射光に含まれる可視光成分(以下、不要な可視光成分という)と、紫外線の蛍光作用により油脂で発生する蛍光(可視光)成分とは、ほぼ同じ波長を有するので、両者を識別することは困難である。
【0025】
また、上述したように、紫外線を用いる手法では、その検出精度を高めるために、照射する紫外線量を増加し、油脂での発光量を大きくすることが有効である。しかしながら、紫外線光源からの出射光の光量を増加した場合、その分、出射光に含まれる不要な可視光成分も増加するので、油脂から発生する蛍光(可視光)成分と不要な可視光成分との識別がより困難になる。それゆえ、紫外線を用いて、金属表面の脱脂程度を判定する手法において、紫外線量を増加する場合にもその増加量に限界がある。
【0026】
油脂の蛍光作用により発生する蛍光量が十分大きな値であれば、紫外線光源からの出射光に不要な可視光成分が含まれていても問題無い。しかしながら、本発明で対象とするように、油脂が微量である場合には、発生する蛍光量も小さいので、不要な可視光成分と、油脂からの蛍光成分とを明確に識別することは困難である。
【0027】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものである。本発明の目的は、より高感度で且つ簡易な構成で金属表面の脱脂状態(脱脂の程度)を検出することが可能な脱脂判定装置及び脱脂判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の脱脂判定装置は、紫外線光源と、可視光検出器と、ミラーと、判定回路部とを備える構成とし、各部の機能を次のようにする。紫外線光源は、紫外線を所定の入射角で金属表面に斜め入射する。可視光検出器は、金属表面に対して紫外線の入射方向と対称的な方向に射出される金属表面からの反射光が直接入射されない位置に配置され、紫外線の照射時に金属表面で発生する可視光成分の光を検出する。ミラーは、金属表面で発生した可視光成分の光の一部を多重反射させて可視光検出器に導く。そして、判定回路部は、可視光検出器で検出した検出信号に基づいて、金属表面上に油脂が存在するか否かを判定する。
【0029】
また、本発明の脱脂判定方法は、上記本発明の脱脂判定装置による脱脂判定方法であり、次の手順で行う。まず、紫外線光源が、紫外線を所定の入射角で金属表面に斜め入射する。次いで、可視光検出器が、紫外線の照射時に金属表面で発生する可視光成分の光を検出する。そして、判定回路部が、可視光検出器で検出した検出信号に基づいて、金属表面上に油脂が存在するか否かを判定する。
【0030】
なお、本明細書でいう紫外線の「入射角」とは、紫外線の入射方向と、該紫外線の照射位置における金属表面に直交する方向と、紫外線の入射方向との間の角度のことをいう。
【0031】
本発明では、紫外線を所定の入射角で金属表面に斜め入射する。この際、金属表面からの反射光は、主に、S偏光の光成分となるので、その反射光に含まれる不要な可視光成分を、紫外線光源からの出射光に含まれる不要な可視光成分に比べて大幅に低減させることができる。また、可視光検出器を金属表面からの反射光が直接入射されない位置に配置するので、可視光検出器に直接入射する不要な可視光成分を低減することができる。さらに、金属表面で発生した可視光成分の光の一部は、ミラーにより多重反射されて可視光検出器に到達するので、金属表面で発生した油脂による発光成分を効率よく検出することができる。
【発明の効果】
【0032】
上述のように、本発明では、可視光検出器に入射される不要な可視光成分を大幅に低減することができるとともに、金属表面で発生した油脂による発光成分の検出効率を向上させることができる。また、本発明では、金属表面に、紫外線光源からの出射光を所定の入射角で斜め入射するだけの構成であり、簡易な構成となる。すなわち、本発明によれば、より高感度で且つ簡易な構成で金属表面の脱脂状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る脱脂判定装置(基本構成例)の概略構成を示す図である。
【図2】比較例の脱脂判定装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る脱脂判定装置の概略構成図である。
【図4】第2の実施形態に係る脱脂判定装置の信号処理部の内部ブロック構成図である。
【図5】第2の実施形態に係る脱脂判定装置における脱脂判定処理のフローチャートである。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る脱脂判定装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明に係る脱脂判定装置及びその脱脂判定方法の各種実施形態を、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下の例に限定されない。
【0035】
<1.第1の実施形態>
第1の実施形態では、脱脂判定装置の基本構成例及び油脂から発生する蛍光の検出原理について説明する。紫外線照射により、金属表面に付着した微量の油脂を検出する手法としては、次の3つの手法(1)〜(3)が考えられる。
【0036】
(1)スペクトル特性を用いる手法
この手法では、まず、予め光源からの出射光に含まれる不要な可視光成分のスペクトル特性を測定する。次いで、油脂が付着した金属表面に紫外線を照射し、油脂で発生した蛍光成分と、油脂で反射した不要な可視光成分とが混在したスペクトル特性を測定する。そして、測定した2つのスペクトル特性の差異に基づいて、油脂で発生した蛍光成分のみを抽出する。
【0037】
上述したスペクトル特性は、原理的には、分光器を用いることにより測定することができるが、この手法では、油脂で発生した蛍光成分の光を分光器まで導く必要がある。しかしながら、一般に、分光器は、金属表面の面内方向に設置されるのに対して、油脂で発生する蛍光成分の光は、主に、金属表面に対して直交する方向に放射される。それゆえ、油脂で発生した蛍光成分の光を分光器まで導くことは実際のところ非常に困難である。また、この手法は、信号処理を行うためのコンピュータ装置が必要となるので、生産現場向きの手法ではない。
【0038】
(2)ノイズカットフィルタを用いる手法
油脂で発生した蛍光成分のみを抽出する手法として、光源からの出射光に含まれる不要な可視光成分をノイズカットフィルタで除去する手法が考えられる。しかしながら、例えば、約390nm〜420nmの30nm程度の波長幅の波長成分をカットする市販のフィルタを用いて約390nm以上のノイズをカットする場合であっても、ノイズカットフィルタの特性上、約360nm付近の波長成分も一部カットされる。それゆえ、紫外線光源の光出射口付近にこのようなノイズカットフィルタを設けても、紫外線の中心波長365nmを含む紫外線の波長成分が一部カットされるので、紫外線強度が低下し、所望の蛍光が得られなくなる。
【0039】
また、紫外線光源の光出射口付近に390nm以上の長波長成分をカットするフィルタを設け、且つ、可視光検出器の光入射口付近に390nm以下の短波長成分をカットするフィルタを設けても油脂で発生した蛍光成分のみを検出することは困難である。
【0040】
具体的に説明すると、この場合、紫外線光源の光出射口付近に設けられた長波長成分をカットするフィルタでは、上述のように、紫外線の波長成分の一部がカットされ、照射する紫外線強度が低下する。また、可視光検出器の光入射口付近に設けられた短波長成分をカットするフィルタにおいても、そのフィルタの特性上、可視光成分(蛍光成分)の一部がカットされるので、検出される可視光成分の強度が低下し、油脂等で発生した蛍光成分のみを検出することが困難になる。なお、本発明者の検証実験によれば、カットする波長を若干変えても、結果に大きな変化は現れなかった。
【0041】
それゆえ、上述したノイズカットフィルタを用いた手法で、油脂で発生した蛍光成分のみを抽出する場合には、そのカットオフ特性をより厳密に操作する必要があり、これは、原理上非常に難しい。以上のことから、ノイズカットフィルタを用いた手法により、油脂で発生した蛍光成分のみを抽出すること非常は困難である。
【0042】
(3)偏光の特性を利用する手法
油脂で発生した蛍光成分のみを高感度で抽出する手法として、照射光の偏光の特性を利用する手法も考えられる。本発明では、主に、この手法を用いて油脂で発生した蛍光を検出する。以下、本発明の第1の実施形態に係る脱脂判定装置の基本構成例を、図面を参照しながら説明する。
【0043】
[脱脂判定装置の基本構成例]
図1に、本実施形態の脱脂判定装置の基本構成例を示す。なお、図1は、脱脂判定装置の概略断面図である。また、図1では、説明を簡略化するため、金属板100の表面に一様に油脂110が付着しているサンプルに対して脱脂判定装置10を適用している様子を示す。なお、ここでは、金属板100を被測定対象物とするが、本発明はこれに限定されず、少なくとも一部の表面に金属面が露出しているような任意のサンプルを被測定対象物とすることができる。
【0044】
脱脂判定装置10は、センサヘッド部11と、センサヘッド部11で得られた検出信号に基づいて油脂110の付着の有無を判定する処理回路部(不図示:判定回路部)とを備える。なお、処理回路部の構成については、後述の第2の実施形態で詳しく説明する。
【0045】
センサヘッド部11は、紫外線光源1と、可視光検出器2と、ミラー3とを備える。
【0046】
なお、図1に示す脱脂判定装置10では、紫外線光源1をミラー3の側面に取り付け、紫外線光源1からの出射光Sを金属板100の表面に対して斜め照射するようにする。そして、この際、本実施形態では、金属板100の表面に直交する方向に対する出射光Sの入射角がブリュースター角θb(約50〜60度程度)となるような位置に紫外線光源1を配置する。また、可視光検出器2は紫外線光源1からの出射光Sの照射位置の真上に対応するミラー3の位置に取り付けられる。
【0047】
紫外線光源1は、例えばLED(発光ダイオード)等の発光素子で構成される。なお、紫外線光源1としてLEDを用いた場合には、通常、無偏光(あらゆる方向に偏光面を持つ)の紫外線が射出される。なお、上述のように、紫外線光源1からの出射光Sには、紫外線だけでなく不要な可視光成分も光も含まれる。
【0048】
可視光検出器2は、例えばフォトダイオード等の受光素子で構成される。可視光検出器2は、金属板100及び油脂110に紫外線を照射した際に金属表面で発生する可視光成分の光を検出する。可視光検出器2で検出する可視光成分には、油脂110の表面で発生する蛍光Sf、並びに、油脂110及び金属板100で反射した不要な可視光成分が含まれる。
【0049】
ミラー3は、例えば放物面ミラー、楕円ミラー、多角面ミラー等のお椀状(略半球面状)のミラーで構成される。なお、ミラー3の内壁面には、金属からなる反射膜が形成される。ミラー3をこのような構成にすることにより、油脂110で発生した蛍光Sfの一部(直接、可視光検出器2に到達しない蛍光成分)を多重反射させて可視光検出器2に導くことができ、蛍光Sfの検出効率を向上させることができる。
【0050】
なお、本実施形態のように、紫外線光源1及び可視光検出器2を覆うように、ミラー3を設けた場合、外部からの不要な光の漏れ込みを防止することができる。
【0051】
[蛍光の検出原理]
次に、本実施形態の脱脂判定装置10における蛍光Sfの検出原理を定性的に説明する。
【0052】
紫外線光源1から紫外線及び不要な可視光成分を含む出射光Sを油脂110の表面に斜め照射すると、紫外線の一部が油脂110で吸収され、油脂110からは可視光波長の蛍光Sfが発生する。油脂110で発生した蛍光Sfは、主に、金属表面に対して直交する方向に射出され、可視光検出器2に入射される。ただし、油脂110で発生した蛍光Sfの一部は、金属表面に対して直交する方向以外の方向にも射出されるが、この蛍光Sfの一部は、ミラー3の内部を多重反射しながら、可視光検出器2に到達する。
【0053】
一方、油脂110に吸収されない出射光Sの一部は、金属板100及び油脂110で反射され、その反射光Sr(紫外線及び不要な可視光成分を含む)は、図1に示すように、金属表面に対して紫外線光源1からの出射光Sの入射方向と対称的な方向に反射される。
【0054】
ただし、脱脂判定装置10では、上述のように、紫外線光源1からの出射光Sの金属表面に対する入射角を、ブリュースター角θbに設定する。この場合、出射光Sに含まれるP偏光成分(以下、P波という)に対して油脂110の表面における反射率は略ゼロになり、油脂110からはS偏光成分(以下、S波という)のみが反射される。それゆえ、この際、反射光Srに含まれる不要な可視光成分光量は、出射光Sに含まれる不要な可視光成分の光量に比べて小さくなる。
【0055】
例えば、紫外線光源1からの出射光Sに含まれるP波及びS波の割合が50:50の場合、反射光Srの光量は、出射光Sの光量の約1/2となる。この際、反射光Srに含まれる不要な可視光成分の光量も同様に、出射光Sに含まれる不要な可視光成分の光量の約1/2となる。さらに、反射光Srに含まれる不要な可視光成分は直接、可視光検出器2に到達しない。
【0056】
ただし、反射光Srに含まれる不要な可視光成分の一部は、金属表面に直交する方向にも反射し、可視光検出器2に直接到達するが、この光量は、紫外線光源1の配光特性に対応した相対光度で決まり、反射光Srの主方向に射出される不要な可視光成分に比べて非常に小さな値となる。また、反射光Srに含まれる不要な可視光成分のうち、ミラー3の内部を多重反射しながら可視光検出器2に到達する不要な可視光成分の光量も非常に小さい。それゆえ、本実施形態では、可視光検出器2に入射される不要な可視光成分の光量を大幅に低減することができる。
【0057】
すなわち、油脂110で発生する蛍光Sfに対して、可視光検出器2に入射される不要な可視光成分の割合が小さくなる。その結果、油脂110で発生する蛍光Sfによる可視光の変化を可視光検出器2で検出しやすくなり、より高感度で金属表面の油脂110(脱脂状態)を検出することが可能になる。
【0058】
ここで、上述した蛍光Sfの検出原理をより定量的に説明する。まず、本実施形態の脱脂判定装置10(基本構成例)と比較するため、油脂110の表面に対して紫外線を垂直入射する場合の構成例(比較例)を考える。
【0059】
図2に、比較例の脱脂判定装置15の概略構成を示す。なお、図2に示す脱脂判定装置15において、図1に示す脱脂判定装置10と同様の構成には、同じ符号を付して示す。図2に示す比較例の脱脂判定装置15と図1に示す本実施形態の脱脂判定装置10との比較から明らかなように、比較例では、紫外線光源1を紫外線の照射位置の略真上(可視光検出器2とほぼ同じ位置)に配置したこと以外は、同様の構成となる。なお、以下の説明では、紫外線光源1からの出射光Sに含まれる紫外線の光量をUVとし、可視光成分の光量をVLとする。
【0060】
比較例のように、紫外線光源1から紫外線及び不要な可視光成分を含む出射光Sを垂直入射する場合、出射光Sの一部は油脂110等の成分により反射されるが、出射光Sに含まれる紫外線の反射率は、P偏光及びS偏光のいずれにおいても、約0.04程度となる。また、出射光Sに含まれる可視光成分も、同様の反射率で油脂110から反射される。さらに、油脂110の層を通過した残りの出射光Sは金属板100で反射される。この際、出射光Sに含まれる紫外線及び可視光成分は、ともに約0.6〜0.8程度の高い反射率で金属板100から反射される。
【0061】
その結果、比較例のように出射光Sを垂直入射した場合には、反射光Srcに含まれる紫外線の光量は、
(0.04+0.6〜0.8)UV=0.64UV〜0.84UV ・・・(1)
となる。また、反射光Srcに含まれる不要な可視光成分の光量は、
(0.04+0.6〜0.8)VL=0.64VL〜0.84VL ・・・(2)
となる。
【0062】
また、油脂110で発生した蛍光Sfc(可視光線)の光量はηUVとなる。なお、定数ηは、上述したように、油脂110の蛍光変換効率(発光効率)であり、照射された紫外線から可視光線に変換される割合を示す値である。
【0063】
さらに、紫外線光源1からの出射光Sに含まれる不要な可視光成分の光量VLは、一般に、0.15UV程度である。それゆえ、比較例の構成において、可視光検出器2で検出される可視光成分の光量は、
(0.64VL〜0.84VL)+ηUV
=(0.64×0.15UV〜0.84×0.15UV)+ηUV
=(0.096〜0.126)UV+ηUV ・・・(3)
となる。
【0064】
可視光検出器2で検出される可視光成分に含まれる蛍光Sfcの変化分を高精度に検出するためには、上記式(3)の第2項の成分(ηUV)だけを検出する必要がある。しかしながら、本発明で対象とする、板金加工時に付着する例えば鉱物油等の加工油の発光効率ηは、約10―3程度であり、上記式(3)の第2項の成分(ηUV)は、上記式(3)の第1項の成分(0.096UV〜0.126UV)に比べて非常に小さい。それゆえ、比較例の構成では、上記式(3)の第2項の成分(ηUV)の変化分、すなわち、蛍光Sfcの変化分のみを、可視光検出器2で高精度に検出することは困難である。
【0065】
一方、本実施形態の脱脂判定装置10では、紫外線光源1からの出射光Sは、油脂110(金属板100)の表面に、ブリュースター角θbの入射角で斜め照射される。その結果、油脂110及び金属板100において、出射光Sに含まれるP波はほとんど消えてなくなり、S波の成分のみが反射される。
【0066】
この際、S波の油脂110での反射率は約0.2かそれ以上となり、比較例の場合に比べて大きくなる。本実施形態では、紫外線光源1として、偏光成分を一定にしたレーザー光ではなくLEDを用いるので、出射光S内では、自然光と同様にP波とS波とがランダムに生起されている。それゆえ、油脂110及び金属板100からの反射光Srに含まれる紫外線の光量(強度)は、出射光Sに含まれる紫外線の光量(強度)の約1/2となる。また、出射光Sに含まれる可視光成分も同様に反射され、油脂110及び金属板100からの反射光Srに含まれる不要な可視光成分の光量は、出射光Sに含まれる可視光成分の光量の約1/2となる。
【0067】
さらに、本発明で対象とする油脂110では、紫外線及び不要な可視光成分を含む出射光Sをブリュースター角θbで油脂110の表面に照射した際のS波成分の反射率は、約0.14程度となる。それゆえ、反射光Srに含まれるS波の紫外線成分の光量は、
0.14UV(S)=0.14×0.5UV=0.07UV ・・・(4)
となり、反射光Srに含まれる不要な可視光成分(S波)の光量は、
0.14VL(S)=0.14×0.5VL=0.07VL ・・・(5)
となる。なお、UV(S)は、出射光Sに含まれるS波の紫外線成分の光量であり、VL(S)は、出射光Sに含まれるS波の可視光成分の光量である。
【0068】
なお、このような各光成分を含む反射光Srは、通常、紫外線光源1の配光特性に対応した配光特性を有し、空間的な広がりを有する。すなわち、反射光Srは、その反射方向(主方向)だけでなく、一部は油脂110の表面に直交する方向にも反射され、可視光検出器2に直接到達する。そして、可視光検出器2に直接到達する不要な可視光成分の光量は、反射光Srの配光特性、すなわち、紫外線光源1の配光特性に依存する。
【0069】
例えば、いま、反射光Srの主方向に対する配光特性と紫外線光源1からの出射光Sの主方向に対する配光特性とが同じであると仮定する。さらに、ブリュースター角θbを56度とし、その角度における相対光度が約0.2(主方向の配光を1とする)となる配光特性を有する紫外線光源1を用いた場合を考える。この場合、反射光Srに含まれる不要な可視光成分のうち、直接、可視光検出器2に到達する不要な可視光成分の光量は、
0.14VL(S)×0.2=0.14×0.5VL×0.2
=0.014VL ・・・(6)
となる。
【0070】
すなわち、本実施形態の脱脂判定装置10では、直接、可視光検出器2に到達する不要な可視光成分の光量(0.014VL)は、図2に示す比較例のそれ(0.64〜0.84VL:上記式(2))に比べて非常に小さくなる。すなわち、本実施形態では、可視光検出器2に入射される不要な可視光成分を大幅に低減することが可能になる。
【0071】
また、本実施形態の脱脂判定装置10の構成、すなわち、紫外線を斜め入射する構成では、油脂110で発生する蛍光Sfの光量は、約1.19×10−4UVとなる。すなわち、本実施形態において、可視光検出器2に直接入射される不要な可視光成分の光量(0.014VL)に対する油脂110で発生する蛍光Sfの光量(約1.19×10−4UV)の割合は、比較例のそれに比べて大きくなる。
【0072】
それゆえ、本実施形態では、比較例に比べて、検出したい可視光成分の変化、すなわち、油脂110で発生する蛍光Sfによる可視光成分の変化が可視光検出器2で検出しやすくなる。
【0073】
上述のように、本実施形態では、紫外線光源1からの出射光Sをブリュースター角θbで金属板100に斜め照射して出射光Sに含まれる不要な可視光成分を散乱させることにより、可視光検出器2に到達する不要な可視光成分を大幅に低減することができる。それゆえ、本実施形態では、油脂110で発生する蛍光と、不要な可視光成分との識別がより容易になる。また、本実施形態では、上述のように紫外線光源1からの出射光Sを金属表面に対して斜め入射するだけの構成である。すなわち、本実施形態では、簡易な構成で微量な油脂110を高感度で検出することが可能になる。
【0074】
<2.第2の実施形態>
上記第1の実施形態では、不要な可視光成分を低減する手法として、照射光の偏光の特性を利用する手法(上記第1の実施形態で説明した手法(3))を用いたが、第2の実施形態では、さらに、上記第1の実施形態で説明した手法(2)、すなわち、ノイズカットフィルタを用いる手法を加えて不要な可視光成分をより一層低減する。
【0075】
なお、ノイズカットフィルタを用いる手法では、上記第1の実施形態で説明したように、フィルタの特性上、検出される可視光成分の強度が若干低下する。しかしながら、偏光の特性を利用する手法(手法(3))とノイズカットフィルタを用いる手法(手法(2))とを組み合わせることより、検出される可視光成分に含まれる不要な可視光成分の割合を大幅に低減することができる。それゆえ、本実施形態の手法では、検出される可視光成分の強度が若干低下しても、油脂で発生した蛍光を高感度で検出することが可能になる。
【0076】
図3(a)及び(b)に、第2の実施形態の脱脂判定装置の概略構成を示す。なお、図3(a)は、本実施形態の脱脂判定装置20の下面図であり、図3(b)は、図3(a)中のA−A断面図である。
【0077】
脱脂判定装置20は、センサヘッド部21と、信号処理部22(判定回路部)とを備える。また、センサヘッド部21は、3つの紫外線光源31と、可視光検出器32と、ミラー33と、3つの長波長カットフィルタ34と、短波長カットフィルタ35とを有する。
【0078】
紫外線光源31は、第1の実施形態と同様に、例えば無偏光の紫外線を射出するLED等の発光素子で構成される。紫外線光源31としては、発振波長が310〜380nmの範囲内の任意の発振波長を有するLEDを用いることができる。本実施形態では、比較的大きな光出力が得られること及び可視光検出器32の特性を考慮して、発振波長が365nmのLEDを用いる。
【0079】
また、本実施形態では、3つの紫外線光源31は、その光出射面がミラー33の焦点に対向し且つ出射光(紫外線)の照射位置が同じになるように、ミラー33の側面に取り付けられる。この際、各紫外線光源31から照射する光の入射角がブリュースター角θb(約50〜60度程度)となるような位置に3つの紫外線光源31を配置する。
【0080】
さらに、本実施形態では、ミラー33の開口部33aに沿う方向(周回方向)において、3つの紫外線光源31を等間隔、すなわち、120度間隔で配置する。3つの紫外線光源31をこのように配置する理由は、次の通りである。
【0081】
被測定サンプルとなる金属板100の圧延方向に沿って、例えば、約1μm程度の微細な溝が形成されている場合、この溝が回折格子と同様に作用し、照射した紫外線が均一に散乱せず特定の方向に散乱する。このことを防ぐために、本実施形態では、ミラー33の開口部33aに沿う方向(周回方向)において、3つの紫外線光源31を120度間隔で配置し、照射位置における紫外線の散乱が均一になるようにする。なお、被測定サンプルとなる金属板100に溝が形成されていない場合には、紫外線光源31を、上記第1の実施形態(図1)と同様に、1つだけ設けてもよい。
【0082】
可視光検出器32は、第1の実施形態と同様に、例えばフォトダイオード等の受光素子により構成され、主に、油脂110の表面で発光する蛍光を検出する。なお、可視光検出器32は、ミラー33の頂点部、すなわち、紫外線の照射位置の真上に対応するミラー33の位置に取り付けられる。また、この際、可視光検出器32の光入射面が金属板100と対向するように、可視光検出器32が取り付けられる。
【0083】
ミラー33は、放物面ミラーで構成する。ただし、本発明はこれに限定されず、例えば楕円ミラー、球面ミラー、多角面ミラー等の任意のお椀状ミラーでミラー33を構成してもよい。また、ミラー33の直径は90mmとし、ミラー33の内面にはアルミニウムにシリカを混ぜた膜をコーティングして、ミラー33内の反射率を高める。なお、本実施形態では、ミラー33の焦点が測定する金属板100(サンプル)の中央付近に位置するように、ミラー33の配置位置を設定する。
【0084】
長波長カットフィルタ34は、紫外線光源31からの出射光に含まれる可視光成分を除去する。長波長カットフィルタ34の縦及び横のサイズはそれぞれ5mmとし、厚みは1mmとする。そして、長波長カットフィルタ34は、対応する紫外線光源31の光出射面に密着させて配置する。これにより、油脂110の検出に不要な可視光成分の金属板100側への漏れ出しをできる限り防止することができ、金属板100に照射される出射光に含まれる不要な可視光成分を低減することができる。
【0085】
短波長カットフィルタ35は、可視光検出器32に入射する不要な紫外線を除去する。短波長カットフィルタ35の縦及び横のサイズはそれぞれ5mmとし、厚みは1mmとする。そして、短波長カットフィルタ35は、可視光検出器32の光入射面に密着させて配置される。これにより、可視光検出器32への不要な紫外線の漏れ込みを防止することができる。
【0086】
なお、本実施形態では、上述のように不要な光成分(可視光成分及び紫外線)を除去するために干渉フィルタ(長波長カットフィルタ34及び短波長カットフィルタ35)を用いる例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、干渉フィルタの代わりに、小型の分光器を用いてもよい。
【0087】
信号処理部22は、センサヘッド部21に電気的に接続されており、可視光検出器32で検出された信号に基づいて、油脂110の有無を検出(判定)する。また、信号処理部22は、3つの紫外線光源31の発光制御も行う。ここで、信号処理部22の内部構成を、図4を参照しながらより詳細に説明する。なお、図4は、信号処理部22内のブロック構成図である。
【0088】
信号処理部22は、発振回路41と、出力電流レギュレータ42と、バンドパスフィルタ43と、第1の増幅回路44と、同期検波回路45と、ゼロ点調整回路46と、第2の増幅回路47と、判定部48とを備える。なお、図4には示さないが、信号処理部22は、各構成回路を駆動するための電源回路も備える。
【0089】
本実施形態の信号処理部22では、発振回路41の出力端子は、出力電流レギュレータ42及び同期検波回路45に接続され、出力電流レギュレータ42の出力端子は3つの紫外線光源31に接続される。また、バンドパスフィルタ43、第1の増幅回路44、同期検波回路45、ゼロ点調整回路46、第2の増幅回路47及び判定部48は、可視光検出器32で得られる検出信号の入力側からこの順で電気的に接続される。
【0090】
発振回路41は、変調用信号として、約1kHzの矩形波信号を生成し、その矩形波信号を増幅して電流信号に変換する。そして、発振回路41は、この電流信号を出力電流レギュレータ42に出力する。また、発振回路41は、出力する電流信号に同期したキャリア(搬送波)を同期検波回路45に出力する。
【0091】
なお、発振回路41で電流信号に対して変調を行う理由は、外部から可視光検出器32(フォトダイオード)に入射される迷光(不要な光)を除去するためである。また、発振回路41は、出力する電流信号の周波数が脱脂判定装置20を使用する場所の電源周波数(50Hzまたは60Hz)によって若干変更できるような構成になっている。
【0092】
出力電流レギュレータ42は、発振回路41から入力された所定周期の矩形波状の電流信号の振幅値をより正確に一定となるように制御する。そして、出力電流レギュレータ42は、電流調整された電流信号を各紫外線光源31に並列に供給する。すなわち、本実施形態では、出力電流レギュレータ42から出力される電流信号により、3つの紫外線光源31の発光が制御される。なお、供給する電流信号の値は、検出したい油脂110の蛍光レベルに応じて適宜調整される。具体的には、出力電流レギュレータ42は、電流値を例えば約20〜80mAの間で調整する。
【0093】
バンドパスフィルタ43は、可視光検出器32で検出された検出信号から不要な電気的ノイズを除去する。なお、本実施形態では、発振回路41から約1kHZの矩形波電流を紫外線光源31に出力するので、バンドパスフィルタ43では、可視光検出器32の検出信号から、1kHz±100Hzの信号成分を通過させ、その信号を第1の増幅回路44に出力する。
【0094】
第1の増幅回路44は、バンドパスフィルタ43で抽出された所定周波数帯域の信号を増幅し、その増幅信号を同期検波回路45に出力する。
【0095】
同期検波回路45は、第1の増幅回路44から入力された周期信号、及び、発振回路41から入力された電流信号に同期したキャリアを用いて同期検波を行い、入力された周期信号を直流信号に変換する。そして、変換された直流信号をゼロ点調整回路46に出力する。なお、同期検波回路45から出力される直流信号のレベルは、可視光検出器32で検出された可視光成分の光量に対応した値となる。
【0096】
本実施形態では、上述のように、紫外線光源31からの出射光をブリュースター角θbの入射角で金属板100に斜め照射するとともに短波長カットフィルタ35及び長波長カットフィルタ34を設ける。その結果、金属板100の表面に油脂110が存在する場合、可視光検出器32で検出された可視光成分は、主に、油脂110で発生した蛍光成分となる。それゆえ、金属板100の表面に油脂110が存在する場合には、同期検波回路45から出力される直流信号のレベルは、主に、油脂110で発生した蛍光成分の光量に対応した値となる。
【0097】
しかしながら、紫外線光源31からの出射光の入射角をブリュースター角θbとし、且つ、短波長カットフィルタ35及び長波長カットフィルタ34を設けても、不要な可視光成分を完全に除去することができない。それゆえ、可視光検出器32で検出された可視光成分には多少、不要な可視光成分が含まれる。また、信号処理部22の回路内のドリフト等も存在する。すなわち、同期検波回路45から出力される直流信号は、上述した微量の不要な可視光成分や信号処理部22の回路内のドリフトなどの影響(誤差)を含んだ信号となる。
【0098】
そこで、本実施形態では、同期検波回路45の出力側にゼロ点調整回路46を設け、この回路により、上述した誤差を補正し、油脂110で発生した蛍光成分に対応する信号をより高精度に抽出する。
【0099】
具体的には、ゼロ点調整回路46で次のような補正処理を行う。まず、紫外線の照射位置に油脂110が存在しない場合の直流信号の値を予め測定し、その値を直流信号のゼロレベルの基準値とする。そして、同期検波回路45から入力される直流信号のゼロレベルを予め算出した直流信号のゼロレベルの基準値に合わせることにより、同期検波回路45から入力される直流信号を補正する。この結果、ゼロ点調整回路46から、油脂110で発生した蛍光成分に対応する直流信号のみを出力することができる。そして、ゼロ点調整回路46は、抽出した蛍光成分に対応する直流信号を第2の増幅回路47に出力する。
【0100】
なお、上述した微量の不要な可視光成分や信号処理部22の回路内のドリフトなどにより発生する誤差が、油脂110で発生した蛍光成分の検出に大きな影響を与えない場合には、同期検波回路45から出力される直流信号を補正せず、直接、第2の増幅回路47に出力してもよい。
【0101】
第2の増幅回路47は、ゼロ点調整回路46から出力された直流信号に対してゲイン調整を行い、増幅する。そして、第2の増幅回路47は、増幅した直流信号を判定部48に出力する。
【0102】
判定部48は、第2の増幅回路47から入力された直流信号に基づいて、金属板100の表面に油脂110が付着しているか否かを判定する。具体的には、判定部48は、直流信号のレベルと所定の閾値とを比較し、前者が後者より大きければ、油脂110が金属板100の表面に付着していると判定する。なお、判定部48で得られる判定結果は、例えば、信号処理部22の出力側に設けられた表示部(不図示)等に出力され、表示される。
【0103】
[脱脂判定の処理手順]
次に、本実施形態の脱脂判定装置20における脱脂判定処理の具体的な手順を、図5を参照しながら説明する。なお、図5は、本実施形態の脱脂判定装置20における脱脂判定処理の手順を示すフローチャートである。
【0104】
まず、脱脂判定装置20の信号処理部22は、3つの紫外線光源31を制御して発光させ、所定波長の紫外線を金属板100の表面に向けて斜め照射する(ステップS1)。この際、各紫外線光源31は、出射光をブリュースター角θbの入射角で金属板100の表面に照射する。
【0105】
次いで、可視光検出器32は、紫外線照射により発生した可視光成分を検出する(ステップS2)。
【0106】
なお、ステップS2において、可視光検出器32で検出される可視光成分には、油脂110で発光した蛍光成分と、紫外線光源31からの出射光に含まれる不要な可視光成分とが含まれる。しかしながら、本実施形態では、上述したように紫外線光源31からの出射光をブリュースター角θbの入射角で金属板100の表面に照射するので、可視光検出器32に入射される不要な可視光成分を大幅に低減することができる。さらに、本実施形態では、可視光検出器32の光入射面に短波長カットフィルタ35を設け、且つ、紫外線光源31の光出射面に長波長カットフィルタ34を設けているので、可視光検出器32に入射される不要な可視光成分がより一層低減される。それゆえ、本実施形態では、ステップS2において、可視光検出器32で検出される可視光成分は、主に、油脂110で発光した蛍光成分となる。
【0107】
次いで、信号処理部22(ゼロ点調整回路46)は、可視光検出器32で検出された信号に含まれる上述した微量の不要な可視光成分や信号処理部22の回路内のドリフトなどの影響(誤差)を除去し(ゼロ点調整を行い)、可視光検出器32の検出信号を補正する(ステップS3)。
【0108】
そして、判定部48は、ゼロ点調整回路46で補正された検出信号に基づいて、金属板100上に油脂110が付着しているか否かを判定する(ステップS4)。本実施形態では、このようにして、金属板100の表面に油脂110が付着しているか否か判定する。
【0109】
上述のように、本実施形態の脱脂判定装置20では、紫外線光源31からの出射光をブリュースター角θbの入射角で金属板100の表面に照射する。それゆえ、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様に、可視光検出器に入射される不要な可視光成分を大幅に低減することができ、油脂110の存在による可視光成分の変化を精度よく検出することができる。
【0110】
また、本実施形態では、脱脂判定装置内に短波長カットフィルタ35及び長波長カットフィルタ34を設けるので、不要な可視光成分をより一層低減することができ、より高精度な油脂の有無判定を行うことができる。それゆえ、本実施形態の脱脂判定装置20では、金属板100に付着している油脂110が極微量であっても検出することが可能になる。実際に、本発明者らが、本実施形態の脱脂判定装置20を用いて検証実験を行ったところ、約30mg/m未満の極微量の油脂110を検出することができた。
【0111】
<3.第3の実施形態>
第3の実施形態では、上記第2の実施形態で説明した脱脂判定装置より、さらに、油脂で発生した蛍光の検出感度を向上させることができる脱脂判定装置について説明する。
【0112】
図6に、第3の実施形態の脱脂判定装置の概略断面図を示す。なお、図6に示す脱脂判定装置50において、上記第2の実施形態の脱脂判定装置20(図3(b))と同じ構成には、同じ符号を付して説明する。
【0113】
脱脂判定装置50は、センサヘッド部51と、信号処理部22とを備える。また、センサヘッド部51は、3つの紫外線光源31と、可視光検出器32と、ミラー33と、3つの長波長カットフィルタ34と、短波長カットフィルタ35と、集光レンズ52(光学系)とを有する。
【0114】
すなわち、本実施形態の脱脂判定装置50は、上記第2の実施形態の脱脂判定装置20のセンサヘッド部21において、さらに、集光レンズ52を設けた構成となる。なお、本実施形態において、集光レンズ52を設けたこと以外の構成は、上記第2の実施形態の脱脂判定装置20の構成と同様である。
【0115】
本実施形態では、集光レンズ52をミラーの頂点部、すなわち、紫外線の照射位置の真上に取り付ける。そして、その集光レンズ52上に密接して、短波長カットフィルタ35及び可視光検出器32をこの順で配置する。
【0116】
本実施形態では、集光レンズ52を可視光検出器32の光入射面側に設けたことにより、油脂110で発生した蛍光を集光レンズ52で効率よく集光して、可視光検出器32に導くことができる。それゆえ、本実施形態の脱脂判定装置50では、油脂110で発生した蛍光の検出感度をより向上させることができる。
【0117】
なお、図6に示す例では、油脂110で発生した蛍光を集光する光学系を、一つの集光レンズ52(凸レンズ)で構成する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、複数のレンズからなる光学系を用いて油脂110で発生した蛍光を集光する構成にしてもよい。
【0118】
上記第1〜第3の実施形態では、金属板100に照射する紫外線の入射角をブリュースター角θbとする例を説明したが、本発明はこれに限定されない。理想的には、紫外線の入射角はブリュースター角θbであることが好ましいが、ブリュースター角θbに近い入射角(略ブリュースター角)で紫外線を照射しても、上記第1〜第3の実施形態と同様の原理で、不要な可視光成分を十分に除去することができる。それゆえ、紫外線の入射角が略ブリュースター角となるような構成の脱脂判定装置においても、上記第1〜第3の実施形態と同様の効果が得られる。
【0119】
また、上記第1〜第3の実施形態では、可視光検出器をミラーの頂点部に設ける例を説明したが、本発明はこれに限定されない。金属表面に対して紫外線の入射方向と対称的な方向に射出される金属表面からの反射光が直接入射されない位置であれば、任意の位置に可視光検出器を配置することができる。この場合にも、紫外線の入射方向と対称的な方向に射出される反射光に含まれる不要な可視光成分が直接、可視光検出器に到達しないので、上記第1〜第3の実施形態と同様に、可視光検出器に入射される不要な可視光成分を十分に低減することができる。
【0120】
さらに、上記第1〜第3の実施形態では、微量の油脂の付着を検出する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の脱脂判定装置及び脱脂判定手法は、従来の油脂の検出手法で検出可能な量(微量でない量)の油脂の検出にも適用可能である。
【符号の説明】
【0121】
1,31…紫外線光源、2,32…可視光検出器、3,33…ミラー、10,20,50…脱脂判定装置、11,21,51…センサヘッド部、22…信号処理部、34…長波長カットフィルタ、35…短波長カットフィルタ、52…集光レンズ、100…金属板、110…油脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を所定の入射角で金属表面に斜め入射する紫外線光源と、
前記金属表面に対して前記紫外線の入射方向と対称的な方向に射出される前記金属表面からの反射光が直接入射されない位置に配置され、前記紫外線の照射時に前記金属表面で発生する可視光成分の光を検出する可視光検出器と、
前記金属表面で発生した可視光成分の光の一部を多重反射させて前記可視光検出器に導くミラーと、
前記可視光検出器で検出した検出信号に基づいて、前記金属表面上に油脂が存在するか否かを判定する判定回路部と
を備える脱脂判定装置。
【請求項2】
前記紫外線が無偏光の紫外線であり、前記紫外線の入射角がブリュースター角であることを特徴とする請求項1に記載の脱脂判定装置。
【請求項3】
前記ミラーが、お椀状の形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の脱脂判定装置。
【請求項4】
さらに、前記紫外線光源の光出射口に設けられた、可視光成分の光を除去する長波長カットフィルタと、
前記可視光検出器の光入射口に設けられた、紫外線を除去する短波長カットフィルタとを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の脱脂判定装置。
【請求項5】
さらに、複数の紫外線光源を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の脱脂判定装置。
【請求項6】
さらに、前記可視光検出器の光入射側に設けられ、前記可視光検出器に入射される光を集光する光学系を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脱脂判定装置。
【請求項7】
前記可視光検出器が、前記紫外線の照射位置の真上に配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の脱脂判定装置。
【請求項8】
前記紫外線光源が、310〜380nmの波長範囲内の所定波長の紫外線を射出する発光ダイオードであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の脱脂判定装置。
【請求項9】
紫外線を金属表面に射出する紫外線光源と、可視光検出器と、前記金属表面で発生した可視光成分の光の一部を多重反射させて前記可視光検出器に導くミラーと、前記金属表面上に油脂が存在するか否かを判定する判定回路部とを備える脱脂判定装置の前記紫外線光源が、前記紫外線を所定の入射角で前記金属表面に斜め入射するステップと、
前記可視光検出器が、前記紫外線の照射時に前記金属表面で発生する可視光成分の光を検出するステップと、
前記判定回路部が、前記可視光検出器で検出した検出信号に基づいて、前記金属表面上に油脂が存在するか否かを判定するステップと
を含む脱脂判定方法。
【請求項10】
前記紫外線が無偏光の紫外線であり、前記紫外線の入射角がブリュースター角であることを特徴とする請求項9に記載の脱脂判定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−98248(P2012−98248A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248392(P2010−248392)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(591069891)株式会社ケミコート (11)
【出願人】(504246384)有限会社エース技研 (5)
【Fターム(参考)】