説明

脱臭シートおよびその製造方法、脱臭剤ならびにエアフィルター

【課題】二次発臭を低減できる、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の除去性能に極めて優れ、かつ難燃性を有する脱臭シートおよび脱臭剤を提供する。
【解決手段】繊維シートの少なくとも繊維の表面に、無機粒子、酸ヒドラジド、およびアミノ基を有する難燃剤を有する脱臭シート、および無機粒子に、酸ヒドラジド、およびアミノ基を有する難燃剤が担持されてなる脱臭剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルター用途に適した脱臭シートおよび脱臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の汚染物質についてはその種類が多岐に渡るが、その中でも低級脂肪族アルデヒドは大きな問題となっている。例えば、タバコの煙や建築材、産業機械の排気ガスに含まれるアセトアルデヒドは、閾値、つまり臭いと感じる限界点が1.5μg/Lと極めて低濃度であり、少量でも悪臭の原因となる。またアルデヒドは、シックハウス症候群や化学物質過敏症などの主因物質としても問題視されており、厚生労働省は室内濃度指針値を定めて規制を促している。
【0003】
空気中の悪臭成分の除去には、活性炭が一般に使用されているが、低級脂肪族アルデヒドの活性炭への平衡吸着量は他の悪臭成分に比べて著しく小さい。また活性炭は、一旦は悪臭成分をその細孔内に保持するものの、物理的に表面吸着している状態であるため、吸着平衡に達すると温湿度などの環境変化によって悪臭を再放出するという問題がある。
【0004】
そこでアルデヒドと化学反応するアニリンなどのアミン系化合物を添着した活性炭が、特許文献1、特許文献2に開示されている。しかし、アニリンは毒性を有し、接触や吸入などによって人体に中毒症状を引き起こすことから、人の手に触れる場面での使用には不向きである。また、アニリン以外のアミン系化合物を使用した場合においても、アセトアルデヒドに起因する以外の臭気が温湿度の変化等によって発生(二次発臭)するという問題があった。これは、活性炭が物理吸着能をベースとしているため、除去対象とするアセトアルデヒド以外の物質をも吸着濃縮してしまい、これらの臭気成分は化学結合によりトラップされているわけではないため、温湿度変化等の環境要因によって、濃縮されていた臭気成分が一気に放出されることにより、本来の存在濃度では問題とならなかった臭気成分が悪臭として認知されてしまうというものである。
【0005】
活性炭を用いないアセトアルデヒドの吸着除去手段として、ヒドラジド類と尿素およびその誘導体から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する消臭剤組成物が、特許文献3に開示されている。しかし、この消臭剤は、静的な条件下を想定した設計であり動的な状態ではアセトアルデヒドの除去に対して実用的な効果は無かった。
【0006】
特許文献4には、特定の細孔径、含水率を有する二酸化ケイ素に、アミン化合物、特にポリアミンを担持させた消臭性接着剤が開示されている。しかし、ポリアミンは生理活性を有する化合物であるため、人体への影響が疑問視される。またこの消臭性接着剤は、静的な条件下での建材用途を想定した設計であり、高風速が通気されるエアフィルターなどの用途で使用すると、ポリアミン自体が臭気を発するという問題がある。
【0007】
また、上記文献はいずれも難燃性を付与する具体的な記載がなく、難燃性が要求される用途への適用は想定されておらず、かかる条件下での使用には不向きである。仮に、上記技術に既知の難燃剤を複合して使用したとしても、難燃剤によってはアルデヒド化学吸着剤の化学反応を阻害する要因となり、アルデヒド除去性能が失活してしまう。また阻害要因とならない難燃剤を使用する場合でも、難燃剤を加えた分だけアルデヒド化学吸着剤の添加量が減少するため、動的な条件でのアルデヒド除去性能は低下する。したがって、難燃性とアセトアルデヒド吸着除去性能の向上を両立できる方法は強く要望されている。
【特許文献1】特公昭60−54095号公報
【特許文献2】特開平3−98642号公報
【特許文献3】特許第3797852号
【特許文献4】特開2000−281998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、除去対象とする有害ガス成分のみを選択的、かつ効率よく除去するエアフィルター濾材に適した脱臭シートおよび脱臭剤を提供する。特に二次発臭を抑えることができる、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の除去性能に極めて優れ、かつ難燃性を有する脱臭シートおよび脱臭剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、次の(1)〜(6)の構成を特徴とするものである。
(1)繊維シートの少なくとも繊維の表面に、無機粒子、酸ヒドラジド、およびアミノ基を有する難燃剤を有することを特徴とする脱臭シート。
(2)前記アミノ基を有する難燃剤は、単体で25℃の4wt%水溶液または4wt%水分散液としたときのpHが3.0〜8.5のものである、上記(1)記載の脱臭シート。
(3)前記アミノ基を有する難燃剤が、グアニジン塩、アミノグアニジン塩、メラミン塩、尿素誘導体、およびグアニル尿素誘導体の中から選ばれる少なくとも一種である、上記(1)または(2)記載の脱臭シート。
(4)無機粒子、酸ヒドラジド、およびアミノ基を有する難燃剤を混合分散させた液を繊維シートに保持させ、さらに乾燥させる工程を有する脱臭シートの製造方法。
(5)無機粒子に、酸ヒドラジドおよびアミノ基を有する難燃剤が担持されてなる脱臭剤。
(6)上記(1)〜(3)のいずれか記載の脱臭シートもしくは上記(4)に記載の方法で得られた脱臭シート、または上記(5)に記載の脱臭剤を用いてなることを特徴とするエアフィルター。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る脱臭シートおよび脱臭剤は、対象ガス成分(アルデヒド類)との反応速度と吸着容量が格段に向上したものであり、高風速下でも長寿命を実現するこれまでに無いアセトアルデヒド除去フィルターを得ることができる。さらにアルデヒド性能を損なうことなく難燃性を付与できるため、難燃性要求のある用途においても適用可能である。さらに、本発明の脱臭シートおよび脱臭剤は、物理吸着能に強く依存するものではないため、臭気成分の再放出(二次発臭)を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の脱臭シートは、無機粒子を繊維シートの少なくとも繊維の表面上に担持してなる。無機粒子を採用することにより、処理エアと接触可能な表面積を得て、通過風速の早い使用条件においても良好な除去効率が得られる。また、後述する薬剤を十分な量で繊維表面上に間接的に添着させることができる。
【0012】
また後述する薬剤の添着性の点で、無機系の粒子とすることが重要である。本発明で言う無機粒子には、活性炭は含まない。従来、当該技術分野において広く採用されている活性炭を敢えて用いないことにより、物理吸着能に強く依存しないので、二次発臭を抑えることができる。また、活性炭は元来可燃性物質であるため、難燃要求のある用途には適さない。
【0013】
本発明で採用する無機粒子としては、二酸化ケイ素、ゼオライト、活性アルミナ、ケイ酸アルミニウム、活性白土、リン酸ジルコニウム、ポリトリリン酸アンモニウム、多孔性粘土鉱物の群が挙げられ、これらの中から目的に応じて選択することができる。中でも、多孔質二酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ゼオライト等が好ましい。多孔質二酸化ケイ素とケイ酸アルミニウムについては、後述するメソ孔を形成するため好ましい。ゼオライトについては、表面の化学的特性と結晶構造に基づく選択的な物理吸着効果を併せ持つ点で好ましい。
【0014】
本発明で採用する無機粒子の表面化学特性としては、親水性であることが好ましい。後述する薬剤が水溶性であるため、これを粒子の表面上に均一添着するためである。前述に列挙した無機粒子はその殆どが親水性であり好ましく採用することができる。
【0015】
本発明で採用する無機粒子の平均粒径としては、0.01〜200μmが好ましく、より好ましくは0.1〜50μmである。200μm以下とすることで、処理エアとの接触効率を上げることができるとともに、無機粒子を繊維表面に均一に担持させることができる。0.01μm以上とすることで、無機粒子を繊維表面へ担持させるために使用するバインダー樹脂に当該無機粒子が埋没してしまうのを防ぐことができる。平均粒径は無機粒子の粒度から算出される。粒度は、JIS K 0069:1992 6.2.5に記載される方法に従い、またJIS Z 8801−1:2006に規定される標準ふるいを使用して、その目開きを通過する割合を測定し、積算重量百分率で表される。なお、積算値50%の粒度を「平均粒径」とする。ただし、数μm程度の微粉になると,ふるいは目詰まりしてしまうので,液体に分散させ、回折光や散乱光を利用して粒度を測定する。
【0016】
また本発明で採用する無機粒子の構造としては、多孔質構造、層構造、鱗片構造などであることも、表面積を大きくすることができるため好ましく、その中でも最も大きな表面積が得られる多孔質構造が特に好ましい。
【0017】
多孔質無機粒子の細孔径としては、0.5〜100nmが好ましく、より好ましくは1.0〜50nmである。100nm以下とすることで、無機粒子の機械的強度の低下等の無理なく比表面積を大きくとることができる。また0.5nm以上とすることで、添着させる薬品や対象ガス成分が細孔内部に進入できなくなるのを防ぐことができる。また、直径2〜50nmの細孔はメソ孔と呼ばれ、メソ孔を有する粒子は添着薬品とアセトアルデヒドの反応を効率良く進める上で優れている。なお、細孔径については、細孔の形状を円筒状と仮定し、後述するBET比表面積(S)とBET比表面積測定の際に得られる細孔容積(V)から次式により平均細孔径(D)として算出する。
D=4V/S
また本発明で採用する無機粒子の比表面積としては、BET比表面積で50〜1000m/gが好ましく、より好ましくは100〜700m/gである。50m/g以上とすることで、添加する薬品の反応場として実効的な面積が得られ、除去しようとするガス成分との実効的な反応速度が得られる。また1000m/g以下とすることで、無機粒子の機械的強度の低下による取り扱い性の不便を防ぐことができる。BET比表面積は、たとえばユアサアイオニクス社製オートソーブ(登録商標)6を用い、JIS R 1626−1996に規定のBET多点法に従って測定する。
【0018】
本発明の脱臭シートへの無機粒子の担持量としては、基材の繊維シートに対して10〜100質量%が好ましく、より好ましくは20〜50質量%である。10質量%以上とすることで、薬品の反応場として実効的な表面積を得て吸着性能を向上させることができる。100質量%以下とすることで、脱臭シートのエアフィルターとしての通気特性を阻害するのを防ぐことができる。
【0019】
本発明の脱臭シートは、さらに、酸ヒドラジドを少なくとも繊維の表面上に有してなることが重要である。酸ヒドラジドの存在により、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド類に対する化学吸着能が飛躍的に向上し、アルデヒド類を選択的に吸着することができる。尚、「繊維の表面上に」とは、前述の無機粒子を介して間接的に有するものであってもよい。
【0020】
酸ヒドラジドは、カルボン酸とヒドラジンとから誘導される−CO−NHNHで表される酸ヒドラジド基を有する化合物であり、ヒドラジド末端の窒素原子のα位に、更に非共有電子対を有する窒素原子が結合しており、これにより求核反応性が著しく向上している。この非共有電子対がアルデヒド類のカルボニル炭素原子を求核的に攻撃して反応し、アルデヒド類をヒドラジド誘導体として固定化することにより、アルデヒド類の除去性能を発現できたと考えられる。
【0021】
アルデヒド類の中でもアセトアルデヒドは、カルボニル炭素のα位に電子供与性のアルキル基を有するために、カルボニル炭素の求電子性が低く化学吸着されにくいが、本発明において採用する酸ヒドラジドは前述のとおり求核反応性が高いため、アセトアルデヒドに対しても良好な化学吸着性能を発現する。
【0022】
酸ヒドラジドとしては例えば、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド等、分子中に1個の酸ヒドラジド基を有する酸モノヒドラジドや、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等、分子中に2個の酸ヒドラジド基を有する酸ジヒドラジド、さらには、ポリアクリル酸ヒドラジド等、分子中に3個以上の酸ヒドラジド基を有する酸ポリヒドラジドが挙げられる。なかでも、ジヒドラジド類が好ましく、とりわけアジピン酸ジヒドラジドがアルデヒド類の吸着性能の点で好ましい。
【0023】
本発明の脱臭シートへの酸ヒドラジドの担持量としては、無機粒子の担持量に対して10〜100質量%が好ましく、より好ましくは20〜50質量%である。10質量%以上とすることで、アルデヒド類の除去効率および吸着容量の向上の実効を得ることができる。酸ヒドラジドの担持量の増加に伴い除去効率および吸着容量も向上するが、ある程度で飽和する。酸ヒドラジドの過剰な添加は、結晶化した酸ヒドラジドの崩落が脱臭シートの空隙率を減少させ、通気特性を低下させるとともに、粉落ちの原因ともなるため、100質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
本発明の脱臭シートは、アミノ基を有する難燃剤も少なくとも繊維の表面上に担持してなることが重要である。アミノ基を有する難燃剤を加えることにより、脱臭シートに難燃性を付与することに加え、上記のような無機粒子および酸ヒドラジドの組み合わせによる脱臭性能を、これまでに無く長寿命化させることができる。
【0025】
その理由としては例えば、次のようなことが考えられる。難燃剤のアミノ基は、酸ヒドラジドが吸着したアルデヒド類を受け取ることで、酸ヒドラジドの反応性を維持できる。また、難燃剤がpH調整剤として機能し、アルデヒド類と酸ヒドラジドがシッフ塩基を形成する反応のpH条件を好適なものにする。
【0026】
本発明のアミノ基を有する難燃剤とは、その化学構造に官能基としてアミノ基(−NH)を一つまたは複数個有する難燃剤をいう。難燃剤とはプラスチック・ゴム・繊維・紙・木材など可燃性素材の燃焼を抑制する加工剤をいい、一般に難燃剤または防炎剤と呼ばれているものがそれに該当する。具体的に難燃効果を有する元素としてはN、P、As、Sb、Biのような周期律表のV 族と、VII族のハロゲン元素が知られている。
【0027】
難燃剤はその構成成分により、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤およびこれらの複合系などの有機系難燃剤と、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アンチモン系、シリコーン系などの無機系難燃剤に大別される。本発明にかかる難燃剤は、上記難燃剤のなかでもアミノ基を官能基として有するものに限られ、アミノ基を有する誘導体が共有結合あるいはイオン結合や配位結合によって導入された構造であってもよい。
【0028】
またアミノ基を有する難燃剤は水に対して易溶であっても難溶であってもよいが、単体で25℃の4wt%水溶液または4wt%水分散液としたときのpHが3.0〜8.5であることが好ましく、より好ましくはpH3.5〜7.7である。この理由は、酸ヒドラジドを含めたアミン化合物とアルデヒドとの反応がpH条件の異なる2段階の化学反応を経由することにより説明することができる。つまりアミンとアルデヒドの反応はカルビノールアミン呼ばれる不安定な中間体を経て大きく二段階に分けることができる。第一の反応がアミンのアルデヒドへの求核付加反応である。この反応はアミンが反応系でプロトン化されると求核性を失うため、プロトン濃度が高すぎると進行しない。次に第二の反応は、カルビノールアミンが水を脱離する反応である。この反応は酸触媒下で進行するため、プロトン濃度が低い塩基性条件では触媒作用が機能しない。したがって求核付加反応と脱離反応の二段階反応を進行させるためには、pH値を限られた領域にコントロールしなければならない。pHが3.0〜8.5のアミノ基を有する難燃剤を無機粒子、酸ヒドラジドと複合することにより、アルデヒドと化学反応しやすいpH条件を提供することができる。
【0029】
このようなアミノ基を有する難燃剤としては、グアニジン塩、アミノグアニジン塩、メラミン塩、尿素誘導体、またはグアニル尿素誘導体が挙げられる。さらに具体的には、グアニジン塩として硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン、硝酸グアニジン、アミノグアニジン塩として塩酸アミノグアニジン、硫酸アミノグアニジン、重炭酸アミノグアニジン、メラミン塩としてリン酸メラミン、ポリ化リン酸メラミン、尿素誘導体としてエチレン尿素、チオ尿素、グアニル尿素誘導体として、リン酸グアニル尿素等が例示される。これらは単独で、もしくは複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
酸ヒドラジドとアミノ基を有する難燃剤の担持量のバランスとしては、酸ヒドラジドの担持量に対し、アミノ基を有する難燃剤が好ましくは10〜200質量%であり、より好ましくは20〜100質量%である。アミノ基を有する難燃剤が10質量%以下ではアルデヒド類の吸着容量向上効果が不十分であり、200質量%以上では多孔質体の細孔を難燃剤が閉塞し、処理エアとの接触効率が低下するため好ましくない。
【0031】
本発明においては、無機粒子、酸ヒドラジド、およびアミノ基を有する難燃剤の他に酸触媒を有することも好ましい。アルデヒド類のカルボニル炭素の電子を酸触媒が共有することによって、アルデヒド類のカルボニル炭素の求電子性を高くし、アルデヒド類に対する化学吸着能を向上させることができる。
【0032】
酸触媒の酸としては、プロトン供与体であるブレンステッド酸や、電子対受容体であるルイス酸を挙げることができる。
【0033】
ルイス酸としては例えば、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、スズ、鉄等の水酸化物もしくは酸化物、さらに、グラファイトやイオン交換樹脂等からなる担体に、硫酸根、五フッ化アンチモン、五フッ化タンタル、三フッ化ホウ素等を付着或いは担持したもの、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化第二スズ(SnO)、チタニア(TiO)、酸化第二鉄(Fe)、酸化タングステン(WO)等を例示することができる。
【0034】
本発明の脱臭シートを構成する繊維シートの基材繊維としては、天然繊維、合成繊維、ガラス繊維や金属繊維等の無機繊維が使用でき、中でも溶融紡糸が可能な熱可塑性樹脂の合成繊維が好ましい。合成繊維を形成する熱可塑性樹脂の例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ビニロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸等を挙げることができ、用途等に応じて選択できる。また、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
繊維シートで採用する繊維としては、異型断面形状を有するものや、繊維表面に多数の孔やスリットを有するものも好ましい。そうすることにより、繊維の表面積を大きくし、無機粒子と薬品の担持性を向上させることができる。異型断面形状とは、円形以外の断面形状を指し、例えば扁平型、略多角形、楔型等を挙げることができる。異型断面形状の繊維は、異型孔を有する口金を用いて紡糸することにより得ることができる。また、繊維表面に多数の孔やスリットを有する繊維は、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上のポリマーをアロイ化して紡糸し、溶解性の高い方のポリマーを溶剤で溶解除去することにより得ることができる。
【0036】
繊維シートで採用する繊維の繊維径としては、脱臭シートをエアフィルターとして使用する用途において目標とする通気性や集塵性能に応じて選択すればよいが、好ましくは1〜1000μm、より好ましくは5〜100μmである。
【0037】
本発明において、脱臭シートの基材となる繊維シートは通気性を有する繊維構造体であり、綿状物、編織物、不織布、紙およびその他の三次元網状体等を挙げることができる。これらのような構造をとることにより、通気性を確保しつつ、表面積を大きくとることができる。
【0038】
繊維シートの目付けとしては、10〜500g/mが好ましく、より好ましくは30〜200g/mである。繊維シートの目付けを10g/m以上とすることで、アルデヒド除去剤を担持するために十分な強度が得られ、エアを通気させた際にフィルター構造を維持するのに必要な剛性が得られる。また目付けを200g/m以下とすることで、プリーツ形状やハニカム形状に二次加工する際の取り扱い性の面でも好ましい。
【0039】
本発明の脱臭シートで採用する繊維シートは、熱接着性成分や樹脂バインダーを有することも、形状保持、強度向上、寸法安定性等の点で好ましい。またアミノ基を有する難燃剤はこれらバインダー成分とともに基材繊維シートに含まれていてもよい。
【0040】
本発明の脱臭シートは、上記のようなアルデヒド類除去剤を担持させた繊維シートにさらに異なる繊維構成のシートを積層して構成することも好ましい。例えば直行流型フィルターとしての使用において、上流側に嵩高で目の粗い不織布シートを積層すれば、ダスト保持量が向上し長寿命化が可能となる。また下流側に極細繊維からなる不織布シートを積層すれば、高捕集効率化が可能となる。
【0041】
さらにこの極細繊維からなる不織布シートがエレクトレット処理されていればなお好ましい。エレクトレット処理がされていることにより、通常では除去しにくいサブミクロンサイズやナノサイズの微細塵を静電気力により捕集する事が出来るようになる。
【0042】
エレクトレット不織布を構成する材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成高分子材料等の、高い電気抵抗率を有する材料が好ましい。
【0043】
次に、本発明の脱臭シートの製造方法としては、無機粒子と酸ヒドラジドとアミノ基を有する難燃剤とを混合分散させた液を繊維シートに保持させ、さらに乾燥させる工程を経ることが好ましい。このとき、酸ヒドラジドやアミノ基を有する難燃剤をあらかじめ無機粒子に添着させておき、それを水系の分散液にして繊維シートに担持させることもできる。しかしながらその場合、無機粒子には飽和状態を超えて酸ヒドラジドやアミノ基を有する難燃を添着させることができないうえに、無機粒子に添着していた薬品が分散液中に溶出してしまうので、乾燥処理後に繊維シート上に残存する薬品の量が不足し、十分な除去性能が得られない場合がある。したがって、酸ヒドラジドとアミノ基を有する難燃剤は、予め無機粒子に添着させておくことなく、無機粒子と別個の状態で分散液に投入し、混合分散させることが好ましい。この方法を採用することにより、薬品の添着量を自由に調節することができ、好ましい。
【0044】
繊維シートに無機粒子、酸ヒドラジド、およびアミノ基を有する難燃剤を混合分散させた液を保持させる方法としては、例えば繊維シートをかかる混合分散液に浸漬させたり、繊維シートにコーティング処理により混合分散液を塗布したり、スプレー処理により混合分散液を吹き付けたりしてもよい。
【0045】
また、無機粒子を先に繊維シート表面に固定した後、酸ヒドラジドおよびアミノ基を有する難燃剤などの薬品を混合した水溶液をディッピング処理やスプレー処理で付着させてもよい。無機粒子の繊維表面への付与方法としては、繊維表面に無機結晶を直接結晶化させ皮膜化させてもよい。具体的には例えば、合成繊維や無機繊維からなる繊維基材に、ゼオライトの前駆体のゾルを塗布し、乾燥してゲルの皮膜とし、次に有機アミン、アルコール、水から選択される1種以上の蒸気に曝露することによりゼオライトを膜状に結晶化させる、所謂ドライゲルコンバージョン法などにより、繊維表面に多孔質無機結晶を皮膜化させることができる。
【0046】
無機粒子の繊維表面への付与方法として、製糸段階で無機粒子を繊維表面に配置させてもよい。具体的には例えば、合成繊維の芯鞘複合紡糸において、鞘成分中に多孔性の無機粒子を大量配合することにより、芯鞘複合の表面近傍に無機粒子を偏在させることができる。またこの方法において、無機粒子を表面に露出させるために、化学的あるいは物理的な処理により表面の樹脂成分を適量取り除くことも好ましい。
【0047】
また本発明では、無機粒子と酸ヒドラジドおよびアミノ基を有する難燃剤などの薬品を繊維に付着させて脱臭シートとするのではなく、無機粒子に酸ヒドラジドおよびアミノ基を有する難燃剤などの薬品を担持させて脱臭剤とすることも可能である。かかる脱臭剤をフィルター用途に用いる場合、無機粒子としては、平均粒径が、5〜5000μmから選択するのが好ましく、さらに好ましくは10〜1000μmである。5000μm以下とすることで、薬品の添着が当該粒子の内部まで可能となり、5μm以上とすることで、飛散が抑えられ脱臭剤としての取り扱いが容易となる。
【0048】
かかる脱臭材を用いてエアフィルター用濾材とする場合、脱臭剤粒子を単独で使用することもできるが、本脱臭剤粒子を後述のとおり二枚の繊維シート間に挟持させて一体化した積層シートとすることが好ましい。この場合、脱臭剤を構成する無機粒子の平均粒径としては50〜1000μmから選択するのが好ましく、さらに好ましくは100〜500μmである。1000μm以下とすることにより、積層シートの折り曲げ加工等の後加工が可能となり、50μm以上とすることにより、繊維シートの空隙から本脱臭剤粒子が脱落しないようにすることができる。
【0049】
なお、粒径以外の無機粒子の特性については、上記脱臭シートで採用する無機粒子の特性と同様で構わない。
【0050】
また本発明の脱臭剤で採用する酸ヒドラジドとアミノ基を有する難燃剤については、上記脱臭シートで採用したものと同様のもので構わない。ただし、無機粒子への酸ジヒドラジドの担持量は、無機粒子に対して1〜50質量%が好ましく、より好ましくは2〜40質量%である。1質量%以上とすることで、アルデヒド類の除去効率および吸着容量の向上の実効を得ることができ、50質量%以下とすることで、結晶化した酸ヒドラジドが無機粒子から脱落したり、無機粒子内部へのガスの拡散を阻害するのを回避できる。
【0051】
脱臭剤における酸ヒドラジドとアミノ基を有する難燃剤の担持量のバランスは、酸ヒドラジドの担持量に対し、アミノ基を有する難燃剤が10〜200質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜100質量%である。10質量%以下ではアルデヒド類の吸着容量向上効果が不十分であり、200質量%以上では多孔質体の細孔を難燃剤が閉塞し、処理エアとの接触効率が低下するため好ましくない。
【0052】
本発明の脱臭剤の製造方法としては、無機粒子に酸ヒドラジドとアミノ基を有する難燃剤の水溶液または分散液を含浸させ、その後乾燥させることにより粒状の脱臭剤を得ることができる。このようにして得られた脱臭剤は、粒状のままカラムやユニットに充填させて使用することもできるが、二枚の繊維シート間に当該脱臭剤を挟持させ積層シートとすることにより、より好ましく使用できる。当該積層シートの製造方法の例としては、まず一方の繊維シート上に繊維状または粉状の熱接着体とともに当該脱臭剤粒子を散布し、カバーシートとなる別の繊維シートを積層後、熱圧着することにより、一体化することができる。
【0053】
本発明の脱臭シートおよび脱臭剤は、エアフィルター用途に好適に用いることができる。物理吸着で目的外の臭気成分を蓄積することが無いため、特に自動車の起動時や温湿度変化時等に狭い室内に二次発臭することが抑えられる点で、自動車用キャビンフィルター用途に好適に用いることができる。
【0054】
本発明のエアフィルターの形状としては、そのまま平面状で使用してもよいが、プリ−ツ型やハニカム型を採用することが好ましい。プリーツ型は直行流型フィルターとしての使用において、またハニカム型は平行流型フィルターとしての使用において、処理エアの接触面積を大きくして除去効率を向上させるとともに、低圧損化を同時に図ることができる。
【実施例】
【0055】

以下、実施例によって本発明の作用効果をより具体的に示すが、本発明の吸着剤は下記実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
[測定方法]
(1)pH測定
アズワン社製ハンディ型pH計SK−620PHを用い、JIS Z 8802−1984に従って測定した。難燃剤試料を4g採取し、96gの純水に溶解または分散させて測定した。1サンプルについて5回の測定を繰り返し、その算術平均値を測定値とした。
【0057】
(2)BET比表面積
ユアサアイオニクス社製オートソーブ(登録商標)6を用い、JIS R 1626−1996に規定のBET多点法に従って測定した。試料は約5gを採取し、加熱前処理を施し、Nを吸着質とし、定容法にて測定した。
【0058】
(3)細孔径
多孔質体の細孔径については、細孔の形状を円筒状と仮定し、BET比表面積(S)とBET比表面積測定の際に得られた細孔容積(V)から次式より平均細孔径(D)として算出した。
D=4V/S
(4)アセトアルデヒドの除去能力
平板状の脱臭シートを実験用のダクトに取り付け、ダクトに温度23℃、湿度50%RHの空気を0.2m/secの速度で送風した。さらに上流側から、標準ガスボンベによりアセトアルデヒドを上流濃度15ppmとなるように添加し、脱臭シートの上流側と下流側とにおいてエアをサンプリングし、赤外吸光式連続モニターを使用してそれぞれのアセトアルデヒド濃度を経時的に測定し、これから除去効率の推移を評価した。
【0059】
(5)燃焼性試験
脱臭シートの難燃性の試験はJIS−L−1091 A−1法(45℃ ミクロバーナ法)に規定の方法で実施した。
【0060】
[実施例1]
(無機粒子)
無機粒子として、平均粒径3.9μm、比表面積500m/g、細孔径7.0nmの多孔質シリカ(サイリシア(登録商標)550)を用いた。
【0061】
(酸ヒドラジド)
酸ヒドラジドとして、アジピン酸ジヒドラジド(日本化成社製)を用いた。
【0062】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤として塩酸アミノグアニジン(三和ケミカル社製)を用いた。pHは4.5であった。
【0063】
(繊維シート)
繊維シートとして、単繊維繊度1.5dtexのビニロン15質量%と、単繊維繊度17dtexのビニロン43質量%と、単繊維繊度2.0dtexのポリエチレンテレフタレート20質量%と、アクリル樹脂バインダー22質量%とからなる、目付け45g/mの不織布を用いた。
【0064】
(脱臭シート)
前記無機粒子10質量%、前記酸ヒドラジド5質量%、前記アミノ基を有する難燃剤2.5質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け67g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分2であった。
【0065】
[実施例2]
(無機粒子)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0066】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0067】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤としてポリ化リン酸メラミン(登録商標:MPP−B、三和ケミカル社製)を用いた。pHは5.0であった
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0068】
(脱臭シート)
前記無機粒子10質量%、前記酸ヒドラジド5質量%、前記アミノ基を有する難燃剤2.5質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け68g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分2であった。
【0069】
[実施例3]
(無機粒子)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0070】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0071】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤としてスルファミン酸グアニジン(登録商標:アピノン−101、三和ケミカル社製)を用いた。pHは7.7であった。
【0072】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0073】
(脱臭シート)
前記無機粒子10質量%、前記酸ヒドラジド5質量%、前記アミノ基を有する難燃剤2.5質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け67g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分2であった。
【0074】
[実施例4]
(無機粒子)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0075】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0076】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤としてリン酸グアニル尿素(登録商標:アピノン−405、三和ケミカル社製)を用いた。pHは3.5であった
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0077】
(脱臭維シート)
前記無機粒子10質量%、前記酸ヒドラジド5質量%、前記アミノ基を有する難燃剤2.5質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け69g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分2であった。
【0078】
[実施例5]
(無機粒子)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0079】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0080】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤として塩酸アミノグアニジン(三和ケミカル社製)を用いた。pHは4.5であった。
【0081】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0082】
(脱臭シート)
前記無機粒子10質量%、前記酸ヒドラジド5質量%、前記アミノ基を有する難燃剤5質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け74g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分2であった。
【0083】
[実施例6]
(無機粒子)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0084】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0085】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤としてリン酸グアニル尿素(登録商標:アピノン−405、三和ケミカル社製)を用いた。pHは3.5であった。
【0086】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0087】
(脱臭シート)
前記無機粒子10質量%、前記酸ヒドラジド5質量%、前記アミノ基を有する難燃剤5質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け75g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分3であった。
【0088】
[比較例1]
(無機粒子)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0089】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0090】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤は使用しなかった。
【0091】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0092】
(脱臭シート)
前記無機粒子10質量%、前記酸ヒドラジドを5質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け63g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分1であった。
【0093】
[比較例2]
(無機粒子)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0094】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0095】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤として硫酸メラミン(登録商標:アピノン−901、三和ケミカル社製)を用いた。pHは3.0であった。
【0096】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0097】
(脱臭シート)
前記無機粒子10質量%、前記酸ヒドラジドを5質量%、前記アミノ基を有する難燃剤2.5質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け69g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分2であった。
【0098】
[比較例3]
(無機粒子)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0099】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0100】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤としてリン酸グアニジン(登録商標:アピノン−303、三和ケミカル社製)を用いた。pHは8.5であった。
【0101】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0102】
(脱臭シート)
前記無機粒子10質量%、前記酸ヒドラジドを5質量%、前記アミノ基を有する難燃剤2.5質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け68g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分2であった。
【0103】
[比較例4]
(無機粒子)
無機粒子は使用しなかった。
【0104】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0105】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤として塩酸アミノグアニジン(三和ケミカル社製)を用いた。pHは4.5であった。
【0106】
(繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0107】
(脱臭シート)
前記酸ヒドラジドを10質量%、前記アミノ基を有する難燃剤5.0質量%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液中に前記繊維シートを含浸させロールで絞ることにより前記水溶液を前記繊維シートに付着させた後、110℃で20分間乾燥させて、目付け60g/mの脱臭シートを得た。得られた脱臭シートの難燃性は区分2であった。また、得られた脱臭シートは、その表面に添着薬剤の結晶が大量に析出し、品位は不良であった。
【0108】
[実施例7]
(無機粒子)
無機粒子として、平均粒径250μm、比表面積450m/g、細孔径6nmの多孔質シリカ(富士シリシア社製キャリアクト(登録商標)Q−6)を用いた。
【0109】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを使用した。
【0110】
(アミノ基を有する難燃剤)
アミノ基を有する難燃剤として塩酸アミノグアニジン(三和ケミカル社製)を用いた。
【0111】
(繊維シート)
繊維シートとして、単繊維繊度1.5dtexのビニロン16.5質量%と単繊維繊度7.1dtexのビニロン22質量%と単繊維繊度2.0dtexのポリエチレンテレフタレート16.5質量%とアクリル樹脂バインダー45質量%とからなる目付け40g/mの不織布を用いた。
【0112】
(熱接着パウダー)
熱接着パウダーとしてEVAパウダー樹脂(東京インキ社製)用いた。
【0113】
(脱臭剤)
前記無機粒子500gに、前記酸ヒドラジド質量6%、およびその他バインダー等の添加剤を均一に混合分散させた水溶液1000gを満遍なく振り掛け、含浸させた後、100℃の乾燥機で20分間乾燥させ、粒子状の脱臭剤を得た。
【0114】
(積層シート)
前記脱臭剤と前記熱接着性パウダーを7:3の配合比で混合した後、前記繊維シートの上に100g/mとなるように散布し、さらにもう一枚の前記繊維シートを積層した後、140℃の乾燥機を30秒間通過させ加熱した積層シートをクリアランス0.3mmの二本ロールでプレスし、一体化した。得られた積層シートの目付けは180g/mであった。また、得られた積層シートの難燃性は区分2であった。
【0115】
【表1】

【0116】
各実施例・比較例の配合構成を表1に、アセトアルデヒド除去効率の経時推移を図1,2に示す。実施例1,2,3,4は、初期除去効率がそれぞれ55%、57%、54%、50%と高く、経時的な除去効率の低下も緩やかであった。この中でも実施例1は特に除去効率の低下が遅く、吸着容量が大きい。複合添着した塩酸アミノグアニジンの4wt%水溶液のpHは4.5であることから、アルデヒド性能の向上に寄与する難燃剤のpH適性値は、この付近に極大点を有することを示す。それに対し、比較例1は初期除去効率が51%と実施例と同等であったが、経時的な除去効率の低下が早く、吸着容量が実施例対比小さくなっていた。これは、アミノ基を有する難燃剤を含まないため、多孔質シリカ細孔内部のアジピン酸ジヒドラジドが十分に機能できていないためと考えられる。硫酸メラミン、リン酸グアニジンをそれぞれ添着している比較例2、3は、初期除去効率が36%、27%と低く、更に経時的にも急激に除去効率が低下した。これは添着したアミノ基を有する難燃剤のpHが、アセトアルデヒドとアジピン酸ジヒドラジドの化学反応の阻害条件となっているためだと考えられる。また比較例4は、アジピン酸ジヒドラジドとアミノ基を有する難燃剤の両方を添着しているにも関わらず、実施例と比べて初期除去効率、吸着容量とも不十分であり、さらに品位も不良であった。これは無機粒子を用いずに薬品のみを過剰に添着しても、アルデヒド除去性能が向上しないばかりか逆に他のフィルター性能に悪影響を与えることを示しており、酸ヒドラジドとアミノ基を有する難燃剤の相乗効果を得るためには、無機粒子が必須であることがわかる。実施例5,6はアミノ基を有する難燃剤の含有量をアジピン酸ジヒドラジド対比100質量%まで増加させた水準であるが、同じ難燃剤をアジピン酸ジヒドラジド対比50質量%含む実施例1,4と比べると若干性能は劣る結果となった。アミノ基を有する難燃剤の添加量は多すぎると酸ヒドラジドとの相乗効果が得にくいと考えられる。また実施例7は、無機粒子と酸ヒドラジドとアミノ基を有する難燃剤とを複合してなる粒子状の脱臭剤を不織布シートに挟みこんだ形態であり、脱臭剤70g/m相当の担持量で、初期除去効率は43%となった。実施例1〜6の繊維シートと同様に経時的な除去効率の低下も緩やかであり、吸着容量が大きい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明による脱臭シートおよび脱臭剤は、自動車や鉄道車両等の車室内の空気を清浄化するためのエアフィルター、健康住宅、ペット対応マンション、高齢者入所施設、病院、オフィス等で使用される空気清浄機用フィルター、エアコン用フィルター、OA機器の吸気・排気フィルター、ビル空調用フィルター、産業用クリーンルーム用フィルター等のエアフィルター濾材として好ましく使用される。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】実施例、比較例におけるアセトアルデヒド除去効率の経時変化を示したグラフである
【図2】実施例、比較例におけるアセトアルデヒド除去効率の経時変化を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートの少なくとも繊維の表面に、無機粒子、酸ヒドラジド、およびアミノ基を有する難燃剤を有することを特徴とする脱臭シート。
【請求項2】
前記アミノ基を有する難燃剤は、単体で25℃の4wt%水溶液または4wt%水分散液としたときのpHが3.0〜8.5のものである、請求項1記載の脱臭シート。
【請求項3】
前記アミノ基を有する難燃剤が、グアニジン塩、アミノグアニジン塩、メラミン塩、尿素誘導体、およびグアニル尿素誘導体の中から選ばれる少なくとも一種である、請求項1または2記載の脱臭シート。
【請求項4】
無機粒子、酸ヒドラジド、およびアミノ基を有する難燃剤を混合分散させた液を繊維シートに保持させ、さらに乾燥させる工程を有する脱臭シートの製造方法。
【請求項5】
無機粒子に、酸ヒドラジドおよびアミノ基を有する難燃剤が担持されてなる脱臭剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載の脱臭シートもしくは請求項4に記載の方法で得られた脱臭シート、または請求項5に記載の脱臭剤を用いてなることを特徴とするエアフィルター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−28207(P2009−28207A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194200(P2007−194200)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】