説明

脱臭成形体

【課題】高効率で、かつ長期間臭気成分を除去することができると共に、環境に対して安全な脱臭成形体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質の担体15に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とを担持してなることを特徴とする脱臭成形体1。そして、多孔質の担体15に、Cu、Ni、及びFeより選ばれる一種以上の金属を含有する金属塩を、少なくとも一種以上含浸させる第一含浸工程と、該第一含浸工程完了後の上記担体15を、不活性ガス雰囲気中で温度400℃〜600℃にて加熱する熱処理工程と、該熱処理工程完了後の上記担体15に、上記金属塩を含浸させる第二含浸工程と、該第二含浸工程完了後の上記担体15を、乾燥する乾燥工程とよりなることを特徴とする脱臭成形体1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリメチルアミン、アンモニア、メチルメルカプタン及び硫化水素等の臭気成分を除去することができる脱臭成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ、冷蔵庫などの室内における気体中には、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の含窒素化合物、及び硫化水素やメチルメルカプタン等の含硫黄化合物等のように、様々な臭気成分が含まれている。これらの臭気成分は、人間に対して不快感を与えるため、脱臭材等により除去することが求められている。
【0003】
このような脱臭材としては、例えば多孔材料に、銅等の遷移元素或いは遷移元素化合物の一方又は双方よりなる第1添加物、及び臭素等のハロゲン又はハロゲン化合物の1種以上よりなる第2添加物を担持してなる脱臭材がある(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−281113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の脱臭材は、特に低濃度の臭気成分が存在する実際の使用環境下で、充分な脱臭性能を発揮できるものではなかった。
また、上記従来の脱臭材は、その有効成分として臭素等の揮発性物質を使用している。そのため、使用中に有効成分である揮発生物質が揮発し、臭気成分に対する除去性能が低下し易いという問題があった。さらに、臭素等の揮発性物質は腐食性があるため、該脱臭材を電子回路や金属部品等と共に用いる場合には、これらの電子回路や金属部品を腐食させてしまうという問題があった。また、臭素等のハロゲンは、焼却時ダイオキシン類を生成するため、環境負荷物質低減の観点からも好ましくない。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、高効率で、かつ長期間臭気成分を除去することができると共に、環境に対して安全な脱臭成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、活性炭と多孔物質とを含有してなる多孔質の成形体を担体として有し、該担体に酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とを担持してなることを特徴とする脱臭成形体にある(請求項1)。
【0008】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
本発明の脱臭成形体は、上記担体に酸化第一銅(Cu2O)と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)とを担持してなる。そのため、上記脱臭成形体は、上記酸化第一銅と三水酸化硝酸銅との相乗効果により、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の臭気成分、及びメチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分を効率的に除去することができる。
【0009】
上記酸化第一銅と三水酸化硝酸銅が、臭気成分を除去する化学的メカニズムとしては、メチルメルカプタンや硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分に対しては、上記酸化第一銅と三水酸化硝酸銅が硫黄化合物系の臭気成分を酸化して硫黄又は金属硫化物を生成することによると考えられる。また、トリメチルアミン、アンモニア等のアミン系化合物に対しては、主に三水酸化硝酸銅がアミン系化合物と錯体を形成することによると考えられる。
【0010】
また、上記脱臭成形体は、上記酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とを担持した多孔質の担体を有している。
そのため、上記脱臭成形体は、臭気成分との接触面積が大きく、上記担体に結合した酸化第一銅及び三水酸化硝酸銅が効率的に臭気成分を脱臭することができる。
【0011】
さらに、上記脱臭成形体は、上記従来の脱臭材のように、揮発性を有すると共に、環境に対して有害なハロゲンを成分中に含有してない。そのため、使用中にハロゲンが揮発し臭気成分の除去性能が低下し易いという不具合を生じることもなく、上記従来の脱臭材よりも脱臭性能の寿命が向上する。また環境に対しても安全である。
【0012】
このように、本発明によれば、高効率で、かつ長期間臭気成分を除去することができると共に、環境に対して安全な脱臭成形体を提供することができる。
【0013】
次に、多孔質の担体に、Cu、Ni、及びFeより選ばれる一種以上の金属を含有する金属塩を、少なくとも一種以上含浸させる第一含浸工程と、
該第一含浸工程完了後の上記担体を、不活性ガス雰囲気中で温度400℃〜600℃にて加熱する熱処理工程と、
該熱処理工程完了後の上記担体に、上記金属塩を含浸させる第二含浸工程と、
該第二含浸工程完了後の上記担体を、乾燥する乾燥工程とよりなることを特徴とする脱臭成形体の製造方法がある。
【0014】
上記製造方法においては、上記第一及び第二含浸工程により、上記金属塩を二回含浸させ、さらに各第一及び第二含浸工程後にそれぞれ上記熱処理工程及び乾燥工程を行っている。
そのため、上記熱処理工程においては、金属塩が金属酸化物として上記担体に担持される。また、上記乾燥工程においては、金属塩がそのままの状態、又は含浸時に用いる溶媒としての水等から水酸化物イオンを取り出して該水酸化物イオンを結合した状態で、上記担体に担持される。
【0015】
それ故、上記製造方法においては、上記金属塩が少なくとも二つの形態にて上記担体に担持される。その結果、得られる脱臭成形体は、アミン系化合物及び硫黄系化合物よりなる臭気成分に対して、優れた脱臭効果を示すものとなる。
【0016】
上記製造方法により作製される脱臭成形体は、上述のように、上記担体に上記金属塩が少なくとも二つの形態にて担持されている。そのため、アミン系化合物及び硫黄系化合物よりなる臭気成分に対して優れた脱臭効果を示すことができる。
また、ハロゲン等の揮発性物質を含有していないため、環境に対して安全であると共に、上記従来の脱臭材のように、有効成分が揮発し、脱臭性能が低下し易いという不具合を生じることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明(請求項1)において、上記担体は、活性炭、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物、ベントナイト、カオリン、蛙目粘土、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナより選ばれる1種以上を含有していることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記脱臭成形体の強度が向上する。また、上記担体が臭気成分の吸着に優れるものになるため、上記脱臭成形体の臭気成分に対する除去性能が向上する。
【0018】
好ましくは、上記担体は、少なくとも活性炭を含有するものがよい。活性炭は、メチルメルカプタンや硫化水素等の硫黄化合物系の臭気成分を吸着除去する性能に優れているため、上記脱臭成形体の硫黄化合物系臭気成分に対する除去性能を向上させることができるからである。
また、好ましくは、少なくとも含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物を含有するものがよい。含水珪酸マグネシウム粘土鉱物は、表面に反応性に富む水酸基を有しており、トリメチルアミンやアンモニア等のアミン系の臭気成分を吸着除去する性能に優れているため、上記脱臭成形体のアミン系の臭気成分に対する除去性能を向上させることができるからである。
【0019】
特に好ましくは、上記担体は、少なくとも活性炭と含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを含有するものがよい。
この場合には、上記脱臭成形体の硫黄化合物系の臭気成分及びアミン系の臭気成分に対する除去性能を一層向上させることができるからである。
なお、上記の含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物は、珪酸マグネシウムを主成分とする粘土鉱物であり、例えばセピオライト及び山皮等がある。
【0020】
また、上記担体としては、上記活性炭と含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを主成分として、上記のベントナイト、カオリン、蛙目粘土、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナより選ばれる1種以上をさらに含有するものを用いることができる。
【0021】
このとき、ベントナイト、カオリン及び蛙目粘土をさらに含有する場合には、上記脱臭成形体の強度を一層向上させることができる。一方、上記ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナをさらに含有する場合には、臭気成分の吸着性能を一層向上させることができる。
【0022】
また、上記担体は少なくとも上記活性炭と上記含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを含有してなり、両者の合計含有量を100重量部とするとき、上記活性炭が30〜90重量部、上記含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物が10〜70重量部であることが好ましい(請求項3)。
【0023】
活性炭の含有量が30重量部未満の場合、又は含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物の含有量が70重量部を超える場合には、上記脱臭成形体の臭気成分に対する吸着性能が低下するおそれがある。
一方、活性炭の含有量が90重量部を超える場合、又は含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物の含有量が10重量部未満の場合には、上記脱臭成形体の強度が低下するおそれがある。
【0024】
上記脱臭成形体は、断面形状が略多角形の複数のセルからなるハニカム形状を有していることが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記脱臭成形体は、表面積が大きなものとなり、臭気成分との接触面積も大きくなる。そのため、上記脱臭成形体は、効率良く臭気成分と接触することができ、脱臭効率を向上させることができる。
なお、上記ハニカム形状としては、上記セルの断面形状が略四角形及び略六角形等の多角形のものがある。
【0025】
次に、上記製造方法において、上記金属塩としては、例えばCu(NO32、CuCl2、CuSO4、Ni(NO32、NiCl2、FeCl2、FeSO4等がある。
また、上記第一含浸工程及び第二含浸工程において、上記金属塩を含浸させる方法としては、上記金属塩を溶解した水溶液等に、上記担体を浸漬する方法等がある。また、複数の金属塩を溶解した水溶液等に上記担体を含浸させることもできる。
【0026】
また、上記熱処理工程においては、上記担体を、不活性ガス雰囲気中で温度400℃〜600℃にて加熱する。
ここで、加熱温度が400℃未満の場合には、金属塩が酸化物として上記担体に担持されないおそれがある。その結果、上記脱臭成形体の臭気成分に対する除去性能が低下するおそれがある。一方、600℃を超える場合には、金属塩の酸化物及び多孔質の担体がシンタリング(凝集)し、その結果上記脱臭成形体の臭気成分に対する除去性能が低下するおそれがある。
【0027】
また、上記熱処理工程において、上記金属塩は、該金属塩中の金属の酸化数が変化した金属酸化物となり、上記多孔質の担体に結合する場合がある。
例えば、上記金属塩として、硝酸銅(Cu(NO3)2)を用いた場合には、この硝酸銅は、上記熱処理工程後に酸化第一銅(Cu2O)として上記担体に担持される。このとき、銅の酸化数が+IIから+Iに変化する。一方、上記乾燥工程においては、硝酸銅(Cu(NO3)2)中の銅の酸化数は+IIのまま変化せず、上記担体に担持される。その結果、酸化数の異なる同じ金属(銅)原子を二つの形態で結合させることができる。
【0028】
また、上記第二含浸工程においては、上記第一含浸工程と同じ金属塩を用いることができる。好ましくは、上記第一含浸工程及び上記第二含浸工程においては、上記金属塩として硝酸銅を含有する水溶液を用いることがよい。
この場合には、上記第一含浸工程後の上記熱処理工程において、金属塩としての硝酸銅が酸化第一銅(Cu2O)となり、また上記第二含浸工程後の上記乾燥工程においては、硝酸銅が三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)となって上記担体に担持される。その結果、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅との相乗効果による、優れた脱臭効果を有する脱臭成形体を作製することができる。
【0029】
次に、上記金属塩は、硝酸銅又は/及び塩化銅であることが好ましい。
この場合には、銅を含む化合物が上記担体に担持され、銅原子が有する優れた脱臭作用を利用して、優れた脱臭作用を有する脱臭成形体を製造することができる。
【0030】
また、上記金属塩としては、少なくとも硝酸銅を用いることが特に好ましい。この場合には、上述のごとく、上記担体に酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とが担持される。その結果、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅との相乗的な効果により、一層脱臭作用を向上させることができる。
【0031】
上記第一含浸工程及び上記第二含浸工程では、上記金属塩を溶解した水溶液に上記担体を浸すことにより、上記金属塩を含浸させることが好ましい。
この場合には、上記金属塩を容易に上記担体に含浸させることができる。
【0032】
またこの場合には、上記乾燥工程において、上記金属塩は水酸化物イオンを結合した状態で、上記担体に結合されうる。このように水酸化物イオンを結合した金属塩は、アミン系化合物と錯体を形成し易くなるため、上記脱臭成形体のアミン系の臭気成分に対する除去性能を向上させることができる。また、水酸化物イオンが結合した金属塩は、塩基性の酸化物である含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物、即ち例えばセピオライト等に担持した場合に生成しやすい。そのため、上記金属塩を担持する担体としては、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物が適している。
【0033】
次に、上記乾燥工程においては、上記担体を温度90℃〜130℃にて乾燥することが好ましい。
上記担体を乾燥させるときの温度が90℃未満の場合には、上記担体の細孔中に入り込んだ水等の溶媒が充分に除去できず、上記脱臭成形体の物理吸着に基づく臭気成分に対する吸着除去性能が低下するおそれがある。
一方、130℃を超える場合には、上記金属塩は硝酸等の酸を失って分解するため、上記脱臭成形体のアミン系の臭気成分に対する除去性能が低下するおそれがある。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
次に、本発明の脱臭成形体の実施例につき、図1を用いて説明する。
図1に示すごとく、本例の脱臭成形体1は、多孔質の担体15に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とを担持してなる。
【0035】
上記多孔質の担体15は、活性炭70重量部とセピオライト30重量部とを含有してなり、断面が略四角形の複数のセル17を有するハニカム構造からなる。担体15の寸法は、図1において、a=9.5mm、b=9.5mm、c=35mmである。
【0036】
脱臭成形体1は、担体15の表面全体に酸化第一銅(Cu2O)と三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)とを担持している。具体的には、セル17の内壁175及び担体15の外表面155等に担持されている。脱臭成形体1は100重量部の担体15に対して酸化第一銅を5重量部、三水酸化硝酸銅を1重量部担持している。
【0037】
次に、本例の脱臭成形体1の製造方法につき説明する。
本例の脱臭成形体の製造方法は、第一含浸工程と、熱処理工程と、第二含浸工程と、乾燥工程とを有する。
上記第一含浸工程においては、多孔質の担体に、Cuを含有する金属塩を含浸させる。
続いて、上記熱処理工程においては、上記第一含浸工程後の上記担体を、不活性ガス雰囲気中で温度500℃にて加熱する。
次に、上記第二含浸工程においては、上記熱処理工程後の上記担体に、上記金属塩を含浸させる。
更に、上記乾燥工程においては、上記第二含浸工程後の上記担体を乾燥する。
【0038】
以下、本例の脱臭成形体の製造方法につき、詳細に説明する。
はじめに、以下のようにして多孔質の担体15を準備する。
まず、活性炭70重量部と、セピオライト30重量部とを混合して混合物を得た。この混合物100重量部に、水140重量部とメチルセルロース10重量部とを加えて、ニーダーにより充分に混練し、混練物を得た。この混練物を、真空押出機を用いてハニカム状に押し出し成形して、ハニカム成形体のグリーンコンパクトを作製した。
【0039】
次に、このグリーコンパクトを室温で乾燥した後、さらに熱風乾燥した。続いて、乾燥後のグリーコンパクトを焼成炉に入れ、焼成炉中の雰囲気を窒素ガス雰囲気にして温度750℃で3時間焼成し、図1に示すごとく、多孔質の担体15を作製した。この担体15の寸法及びセル17の形状は上述のとおりである。
【0040】
次に、上記金属塩としての硝酸銅を含む水溶液である、濃度6.25wt%の硝酸銅水溶液(Cu(NO3)2水溶液)に上記担体15を含浸させた(第一含浸工程)。続いて、担体15を硝酸銅水溶液中から引き上げ、余剰の硝酸銅水溶液を取り除き、室温で乾燥させた。乾燥後、この担体15を焼成炉に入れ、焼成炉中の雰囲気を窒素ガス雰囲気にして、温度500℃で3時間加熱した(熱処理工程)。この加熱時に、担体に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、酸化第一銅(Cu2O)になる。その結果、担体15のセル17の内壁175及び担体15の外表面155に酸化第一銅が生成する。
【0041】
さらに、この酸化第一銅を担持する担体15を濃度1.25wt%の硝酸銅水溶液に含浸させた(第二含浸工程)。続いて、担体15を硝酸銅水溶液中から引き上げ、余剰の硝酸銅水溶液を除去した。その後、この担体15を熱風乾燥機に入れ、温度110℃で1時間乾燥させた(乾燥工程)。この乾燥時に、担体に含浸された硝酸銅(Cu(NO3)2)は、三水酸化硝酸銅(Cu2(OH)3NO3)になる。その結果、担体15のセル17の内壁175及び担体15の外表面155に三水酸化硝酸銅が生成する。
【0042】
以上により、図1に示すごとく、担体15に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とを担持してなる脱臭成形体1を作製した。これを試料Eとする。試料Eは、図1に示すごとく、担体15のセル17の内壁175及び担体15の外表面155に酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とを担持してなる脱臭成形体1である。
【0043】
(比較例1)
次に、実施例1で作製した脱臭成形体の優れた効果を明らかにするため、比較用の脱臭成形体(試料C1及び試料C2)を作製する。
まず、試料C1につき説明する。
試料C1は、多孔質の担体100重量部に、硝酸銅(Cu(NO3)2)5重量部と、臭素(Br2)1.6重量部及び臭化カリウム(KBr)0.8重量部とを担持してなる脱臭成形体である。
【0044】
以下、試料C1の作製方法につき、説明する。
まず、実施例1と同様にして、多孔質の担体を作製した。この担体は、上記試料Eの担体と同じものである。
次に、この担体を、硝酸銅と、臭素と、臭化カリウムとの混合水溶液に含浸させた。なお、この混合水溶液における、硝酸銅、臭素、及び臭化カリウムの各濃度は、それぞれ6.25wt%、2wt%、1wt%である。
含浸後、余剰の混合水溶液を除去し、熱風乾燥機に入れ、温度110℃で1時間乾燥した。このようにして、硝酸銅と、臭素及び臭化カリウムと担持してなる脱臭成形体(試料C1)を作製した。
【0045】
次に、試料C2につき説明する。
試料C2は、2つの多孔質の担体に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とをそれぞれ別々に担持し、これらを重ね合わせてなる脱臭成形体である。試料C2は、50重量部の2つの担体に対して、それぞれ酸化第一銅を5重量部、三水酸化硝酸銅を1重量部担持してなるものである。
【0046】
以下、試料C2の製造方法につき、説明する
【0047】
まず、実施例1の試料Eと同様にして、図1に示すごとく、寸法がa=9.5mm、b=9.5mm、c=35mmの多孔質の担体を作製した。続いて、この担体をその長手方向に垂直な面で切断し、寸法がa=9.5mm、b=9.5mm、c=17.5mmの多孔質の担体を2つ得た。
【0048】
次に、この二つの担体に上記試料Eと同様にして、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とをそれぞれ別々に担持させる。
具体的には、まず、一つ目の担体を、濃度12.5wt%の硝酸銅水溶液(Cu(NO3)2水溶液)に含浸させ、実施例1と同様にして乾燥させた。続いて、この担体を焼成炉に入れ、窒素ガス雰囲気、温度500℃で3時間加熱した。このようにして、酸化第一銅を担持した担体を得た。
次に、もう一方の担体を濃度2.5wt%の硝酸銅水溶液に含浸させた。その後、この担体を熱風乾燥機に入れ、温度110℃で1時間乾燥させた。このようにして、三水酸化硝酸銅を担持してなる担体を得た。
【0049】
上記のようにして作製した、酸化第一銅及び三水酸化硝酸銅をそれぞれ担持してなる二つの担体を、その切断面同士で重ね合わせて、試料Eと同様の寸法の脱臭成形体(試料C2)を作製した。
【0050】
(実験例)
次に、上記実施例及び比較例にて作製した上記試料E、試料C1及び試料C2の脱臭性能を比較評価する。
脱臭性能の評価にあたっては、図2に示す測定装置2を用いた。
この測定装置2は、各種臭気成分を収納する3本の容器20と、各種臭気成分を混合する混合機21と、流量計22と、上記試料E、試料C1及び試料C2を充填するための3本のカラム23とよりなる。
【0051】
臭気成分としては、トリメチルアミン(T)、硫化水素(S)、メチルメルカプタン(M)の3種類の混合気体を用いる。図2に示すごとく、これらの臭気成分は、3つ容器70にそれぞれ収納されており、各容器に連結されている混合機70にて混合される。なお、キャリアガスとしては空気を用いた。
【0052】
測定にあたっては、まず、測定装置2における3本のカラム23に、上記の各試料をそれぞれ載置した。
次に、3本のカラム23の直前に配置した流量計22のそれぞれが6.5L/minとなるように、即ち合計の流量で19.5L/minとなるように、3種の臭気成分の混合気体をカラムに流通させた。図2における矢印5は混合気体の流れの様子を示すものである。そして、各カラム23の入り口側A及び出口側Bにおける各臭気成分の濃度を、ガスクロマトグラフにて経時的に測定した。このとき、入り口側Aにおける各臭気成分は、それぞれ1000ppbという低い濃度となるようにした。また、各カラム23内のガス流速(SV)は、1.25×105hr-1であった。
【0053】
次に、ガスクトマトグラフによる測定結果より、出口B側における臭気成分の濃度に対する入り口側Aの臭気成分の濃度比を求めた。そして、測定開始時における濃度(C0)に対する、一定時間経過後における濃度(C)の変化率Cxを、下記の式(1)より求め、これを臭気成分の除去率とした。
x={1−(C/C0)}×100 (1)
その結果を図3〜図5に示す。
【0054】
ここで、図3は、試料E、試料C1及び試料C2の硫化水素に対する除去率の経時変化を示すものである。また、図4は、上記各試料のメチルメルカプタンに対する除去率の経時変化を示すものである。また、図5は、上記各試料のトリメチルアミンに対する除去率の経時変化を示すものである。
【0055】
図3〜図5より知られるごとく、試料Eは、試料C1及び試料C2に比べて、臭気成分に対する優れた除去性能を示した。また、試料Eの臭気成分の除去性能は、試料C1及び試料C2に比べて、その除去性能が劣化し難く比較的長期間使用可能なものであった。
【0056】
また、本実験例では、臭気成分としてトイレの主要な臭気成分である硫化水素、メチルメルカプタン、及びトリメチルアミンの3種混合ガスを用いた。試料Eの脱臭成形体は、いずれの臭気成分に対しても、上記のように優れた除去性能を示すため、トイレに設置する脱臭剤や脱臭装置等として利用することができる。また、生ゴミの腐敗臭等にも優れた除去作用を示すことができる。
【0057】
また、本実験例では、1000ppbという低濃度の臭気成分を用いて、その除去性能を評価した。これは、臭気成分が低濃度で存在する実際の使用環境下をモデルとしたものである。そして、試料Eは、このような低濃度の臭気成分に対してもその性能を十分に発揮できるものであった。また、試料Eは、試料C1のように、揮発性のハロゲンを含有していないため、環境に対して安全なものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例にかかる、脱臭成形体の全体を示す斜視説明図。
【図2】実験例にかかる、脱臭成形体の脱臭性能の評価に用いる測定装置の概略を示す説明図。
【図3】実験例にかかる、試料E、試料C1及び試料C2の硫化水素の除去率を示す線図。
【図4】実験例にかかる、試料E、試料C1及び試料C2のメチルメルカプタンの除去率を示す線図。
【図5】実験例にかかる、試料E、試料C1及び試料C2のトリメチルアミンの除去率を示す線図。
【符号の説明】
【0059】
1 脱臭成形体
15 担体
155 外表面
17 セル
175 内壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の担体に、酸化第一銅と三水酸化硝酸銅とを担持してなることを特徴とする脱臭成形体。
【請求項2】
請求項1において、上記担体は、活性炭、含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物、ベントナイト、カオリン、蛙目粘土、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナより選ばれる1種以上を含有していることを特徴とする脱臭成形体。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記担体は少なくとも上記活性炭と上記含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物とを含有してなり、両者の合計含有量を100重量部とするとき、上記活性炭が30〜90重量部、上記含水珪酸マグネシウム質粘土鉱物が10〜70重量部であることを特徴とする脱臭成形体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、上記脱臭成形体は、断面形状が略多角形の複数のセルからなるハニカム形状を有していることを特徴とする脱臭成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−188437(P2008−188437A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65208(P2008−65208)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【分割の表示】特願2002−335549(P2002−335549)の分割
【原出願日】平成14年11月19日(2002.11.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(591117516)近江鉱業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】