説明

脱血不良の原因となるトラブルの発生を検知する方法及び血液透析装置

【課題】 脱血不良の原因となるトラブルの発生を容易に検知することのできる血液透析装置を提供する。
【解決手段】 血液透析装置は、図1に示すように、透析器1と血液回路2(21、22)、血液ポンプ3、プライミング液供給ライン4、静脈側エアートラップチャンバー23、透析液回路5(51、52)、透析液ポンプ6及び除水ポンプ7を含んでなる。そして、血液ポンプ3より上流の動脈側血液回路21には、超音波式血流計8が設けられており、この血流計8で動脈側血液回路21の血流量が測定され、この測定血液流量が血液ポンプ3における設定血液流量より少ない場合、測定血液流量に基づいて透析終了時間が再計算され、表示されるようにされるとともに、この測定血液流量と設定血液流量の比(血液流量比)が所定の比率以下になったときに、警報が発せられるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管から体外に取り出した血液を浄化し、必要ならばこれに有用物質を補給することにより、生体の臓器機能を補助あるいは代行する血液透析装置に関するもので、脱血不良の原因となるトラブルの発生を検知する方法に関する。また、脱血不良の原因となるトラブルの発生を検知する機構を備えた血液透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透析効率に影響を与える因子として、血液流量、透析液流量、透析時間、透析器の性能が挙げられる。これらのうち血液流量は、設定通りの流量が得られると思われがちであるが、血液ポンプとしてチューブポンプを採用している関係で、何らかの理由で血液ポンプの上流側が陰圧状態になると、チューブが変形して実際の血液流量が設定値より少なくなることがある。例えば、患者からの採血用に、通常16G、17G、18Gの穿刺針を使用しているが、細い動脈側穿刺針を使用する場合には、比較的粘度の高い血液を吸入したときに、血液ポンプの上流側は必然的に陰圧状態になる。そこで、このような場合に対応するものとして、血液透析における実際の血液流量を測定できるようにしたシステムが提案されている(特許文献1)。このものは、血液ポンプの上流側の血液流路内に補液を注入する補液注入手段を有するとともに、透析器の上流側または下流側に圧力検出手段を有し、血液ポンプの設定血流量と補液注入前後の検出圧力とから、血液透析における実血流量を算出するようにしたものである。
【0003】
【特許文献1】特開2004−329746
【0004】
しかしながら、血液ポンプの上流側の陰圧は、治療中に動脈側のシャント穿刺部や穿刺針が詰まったり、脱血側のチューブに折れが生じたり、血管に狭窄が生じたりした場合など、治療中に脱血不良の原因となるトラブルが発生した場合にも生じる。透析中の血液ポンプ流量は医師の指示により決定されるが、治療中に脱血不良の原因となるトラブルが発生すると陰圧が生じ、医師の指示通りの血液流量が取れなくなる。その結果、最適な透析時間の設定や透析器の設定を正確に行うことができなくなる。しかも、動脈側のシャント穿刺部の詰まりは透析開始時にすでに発生している場合が多い。動脈側のシャント穿刺部の詰まりが透析開始時に発生した場合には、穿刺針を刺し直す必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、如上の事情に鑑みてなされたもので、脱血不良の原因となるトラブルの発生を容易に検知することのできる血液透析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の血液透析装置は、透析器と血液回路、血液ポンプ、プライミング液供給ライン、静脈側エアートラップチャンバー、透析液回路、透析液ポンプ及び除水ポンプを含んでなる血液透析装置において、前記血液ポンプより上流の動脈側血液回路に超音波式血流計が設けられるとともに、この血流計で血液回路を流れる血液の流量が測定され、この測定血液流量が前記血液ポンプにおける設定血液流量より少ない場合、測定血液流量に基づいて透析終了時間が再計算され、表示されるようにされるとともに、測定血液流量と設定血液流量の比(以下血液流量比という)が所定の比率以下になったときに、警報が発せられるようにされたことを特徴とする。
【0007】
ここで、実質的に脱血不良の影響をなくするために、好ましくは、警報は、血液流量比(測定血液流量/設定血液流量)が90%以下になったときに発せられる。より好ましくは、警報は、血液流量比が95%以下になったときに発せられる。また、透析開始時を除く透析治療中に警報が発せられた場合、血液流量比が所定の比率より大きくなるまで血液ポンプの流量が自動的に低下されるようにされていてもよい。
【0008】
また、本発明の、脱血不良の原因となるトラブルの発生を検知する方法は、透析器と血液回路、血液ポンプ、プライミング液供給ライン、静脈側エアートラップチャンバー、透析液回路、透析液ポンプ及び除水ポンプを含んでなる血液透析装置において、前記血液ポンプより上流の動脈側血液回路の血液流量を測定し、この測定血液流量と血液ポンプにおける設定血液流量の比(血液流量比)を求め、この血液流量比が所定の比率以下になったときに、脱血不良の原因となるトラブルが発生したと判断することを特長とする。
ここで、動脈側シャント穿刺部の詰まりの検知は、好ましくは、血液流量比が90%以下になったときに行われる。より好ましくは、検知は、血液流量比が95%以下になったときに行われる。
【0009】
尚、動脈側血液回路の血液流量を測定する血流計としては、超音波式血流計やドップラー式血流計等を使用することができる。
以上、一般的に本発明を記述したが、より一層の理解は、いくつかの特定の実施例を参照することによって得ることが出来る。これらの実施例は本明細書に例示の目的のためにのみ提供されるものであり、他の旨が特定されない限り、限定的なものではない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果が期待できる。すなわち、本発明の血液透析装置は、血液流量比が所定の比率以下になったときに、脱血不良の原因となるトラブルが発生したと判断して警報が発せられるようになっているので、透析開始時であってもきわめて容易に脱血不良の原因となるトラブル(脱血部シャント穿刺部の詰まり)を検知することができるので、即座に穿刺針の刺し直しをすることができる。また、透析治療中に脱血不良の原因となるトラブルが発生した場合には、血液流量比が所定の比率より大きくなるまで血液ポンプの流量が自動的に低下されるようにされるようになっているので、脱血不良を防ぐことができる。また、超音波式血流計を用いて実際の血液流量を測定しているので透析効率の計算が従来の血液透析装置より正確になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
血液ポンプより上流の動脈側血液回路に超音波式血流計が設けられるとともに、この血流計で血液回路を流れる血液の流量が測定され、この測定血液流量が血液ポンプにおける設定血液流量より少ない場合、測定血液流量に基づいて透析終了時間が再計算され、表示されるようにされるとともに、血液流量比(測定血液流量/設定血液流量)が95%以下になったときに、警報が発せられるようになっている。また、透析開始時を除く透析治療中に警報が発せられた場合、血液流量比が所定の比率より大きくなるまで血液ポンプの流量が自動的に低下されるようになっている。
【実施例1】
【0012】
先ず、実施例1について図1を用いて説明する。
図1は実施例1の血液透析装置の概略説明図である。
実施例1の血液透析装置は、図1に示すように、透析器1と血液回路2(21、22)、血液ポンプ3、プライミング液供給ライン4、静脈側エアートラップチャンバー24、透析液回路5(51、52)、透析液ポンプ6及び除水ポンプ7を含んでなる。そして、血液ポンプ3より上流の動脈側血液回路21には、超音波式血流計8が設けられており、この血流計8で動脈側血液回路21の血流量が測定され、この測定血液流量が血液ポンプ3における設定血液流量より少ない場合、測定血液流量に基づいて透析終了時間が再計算され、表示されるようにされるとともに、血液流量比(測定血液流量/設定血液流量)が所定の比率以下になったときに、警報が発せられるようになっている。
【0013】
血液回路2は透析器1より上流側の動脈側血液回路21と透析器1より下流側の静脈側血液回路22からなる。動脈側血液回路21には、血液ポンプ3の上流でプライミング液供給ライン4が接続されており(血液ポンプ3より下流にプライミング液供給ライン4を設ける場合もある)、血液ポンプ3より上流の動脈側血液回路21には、超音波式血流計8が設けられている。静脈側血液回路22には透析器1に近接してエアートラップチャンバー24が設けられており、このエアートラップチャンバー24の下流には気泡センサー25が設けられている。プライミング液供給ライン4は、これが血液ポンプ3より上流に設けられた場合、開閉弁V1を開くと、血液ポンプ3の駆動により、プライミング液容器41から血液循環回路(動脈側血液回路21、透析器1、静脈側血液回路22からなる)にプライミング液が供給されるようになっている。
【0014】
透析液回路5は透析器1より上流側の透析液供給回路51と透析器1より下流側の排液回路52からなる。透析液供給回路51には透析液供給ライン(図示していない)が接続されており、透析液は、排液回路52に設けられた透析液ポンプ6の駆動により、透析液供給ラインから透析器1に供給され、使用済透析液として透析器1から排出されるようになっている。また、排液回路52には除水ポンプ7も設けられており、除水ポンプ7の駆動により血液中の余分な水分が除水され、透析器1から排出されるようになっている。
【0015】
設定血液流量で血液ポンプ3を駆動すると、チューブポンプからなる血液ポンプの場合、血液ポンプ3より上流側は陰圧になっていることが多く、その結果、チューブが変形し、実際に血液回路を流れる血液の流量が設定流量より少なくなることが多い。超音波式血流計8で測定された測定血液流量と血液ポンプ3の設定血液流量の間に差が生じた場合には、測定血液流量に基づいて透析終了時間が再計算され、表示される。
【0016】
動脈側シャント穿刺部または穿刺針23に詰まりがある場合、血液ポンプ3駆動後すぐに血液流量比(測定血液流量/設定血液流量)が所定の比率以下(好ましくは90%以下、より好ましくは95%以下)になる。この場合、動脈側シャント穿刺部または穿刺針23に詰まりが発生していると判断され、例えばブザーなどにより警報が発せられるので、動脈側の穿刺針23を刺し直す必要がある。また、透析治療中に動脈側シャント穿刺部または穿刺針23に詰まりが生じたり、脱血側のチューブに折れが生じたり、血管に狭窄が生じたりした場合などにも、血液流量比が所定の比率以下(好ましくは90%以下、より好ましくは95%以下)になる。この場合、透析治療中に脱血不良の原因となるトラブルが発生したと判断され、例えばブザーなどにより警報が発せられるので、脱血不良の原因が脱血側のチューブの折れの場合、折れたチューブを直せばよい。また、脱血不良の原因が穿刺針23の詰まりや血管の狭窄の場合、血液流量比が所定の比率より大きくなるまで血液ポンプ3の流量が低下させられる。この血液ポンプ3の流量を低下させる操作は、手動的に行われるようにしてもよい。
【0017】
〔シャント内圧と液体流量の関係を示す試験〕
血液透析装置(NCU−8:ニプロ(株)社製)を用いて、30vol%グリセリン溶液および60vol%グリセリン溶液について、それぞれ、シャント内圧を変化させた場合の実測流量と血液ポンプによる設定流量との関係を調べたところ、図2および図3のような結果が得られた。尚、実測流量は、血流モニターHD02(Transonic System社製)を用いて測定した。また、シャント内圧(脱血圧)は、脱血側のチューブを挟むクランプの絞りを7段階に加減することにより変化させた(但し図の左端の値は絞りが無い場合の値を示す)。
【0018】
図2および図3から、設定流量が大きいほど、溶液濃度が高いほどシャント内圧の影響が大きくなることが判る。また、クランプを絞らない場合の流量の比(実測流量/設定流量)は、60vol%グリセリン溶液において設定流量300mL/minの場合を除いて0.90以上になっており、また、設定流量100mL/minの場合、および30vol%グリセリン溶液において設定流量100mL/min、200mL/minの場合に0.95以上になっている。このことから、透析治療における血液ポンプの設定流量は通常200mL/minであることを考慮すれば、溶液粘度が大きく設定流量が大きい場合には、脱血不良の原因となるトラブルが発生していなくても設定流量を下げる必要があることが分かる。また、溶液粘度が高くなく通常の設定流量では、流量の比0.90以上の場合に、脱血不良の原因となるトラブルが発生していないと判断することができる。また、溶液粘度が高い場合、血液ポンプの設定流量が通常の値であり脱血不良の原因となるトラブルが発生していなくても、流量の比が0.90以下になる虞があるので、この場合にも設定流量を下げる必要があることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の血液透析装置の実施例1を示す概略説明図である。
【図2】30vol%グリセリン溶液におけるシャント内圧と流量の比(実測流量/設定流量)の関係を示す試験の結果を示す図である。
【図3】60vol%グリセリン溶液におけるシャント内圧と流量の比(実測流量/設定流量)の関係を示す試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 透析器
2 血液回路
21 動脈側血液回路
22 静脈側血液回路
23 動脈側穿刺針
24 エアートラップチャンバー
25 気泡センサー
3 血液ポンプ
4 プライミング液供給ライン
41 プライミング液容器
5 透析液回路
51 透析液供給回路
52 排液回路
6 透析液ポンプ
7 除水ポンプ
8 超音波式血流計
V1 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析器と血液回路、血液ポンプ、プライミング液供給ライン、静脈側エアートラップチャンバー、透析液回路、透析液ポンプ及び除水ポンプを含んでなる血液透析装置において、前記血液ポンプより上流の動脈側血液回路に超音波式血流計が設けられるとともに、該血流計で血液回路を流れる血液の流量が測定され、該測定血液流量が前記血液ポンプにおける設定血液流量より少ない場合、測定血液流量に基づいて透析終了時間が再計算され、表示されるようにされるとともに、前記測定血液流量と前記設定血液流量の比(血液流量比)が所定の比率以下になったときに、警報が発せられるようにされてなる血液透析装置。
【請求項2】
血液流量比が90%以下になったときに警報が発せられる請求項1に記載の血液透析装置。
【請求項3】
血液流量比が95%以下になったときに警報が発せられる請求項2に記載の血液透析装置。
【請求項4】
透析開始時を除く透析治療中に警報が発せられた場合、血液流量比が所定の比率より大きくなるまで血液ポンプの流量が自動的に低下されるようにされてなる請求項1〜3のいずれかに記載の血液透析装置。
【請求項5】
透析器と血液回路、血液ポンプ、プライミング液供給ライン、静脈側エアートラップチャンバー、透析液回路、透析液ポンプ及び除水ポンプを含んでなる血液透析装置において、前記血液ポンプより上流の動脈側血液回路の血液流量を測定し、該測定血液流量と血液ポンプにおける設定血液流量の比(血液流量比)を求め、該血液流量比が所定の比率以下になったときに、脱血不良が発生したと判断する、脱血不良の原因となるトラブルの発生を検知する方法。
【請求項6】
血液流量比が90%以下になったときに脱血不良が発生したと判断する、請求項5に記載の検知方法。
【請求項7】
血液流量比が95%以下になったときに脱血不良が発生したと判断する、請求項5に記載の検知方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−23269(P2008−23269A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202531(P2006−202531)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】