脳冷却デバイス
吸熱反応器と、着用者の頭部に着用された状態で反応器内の吸熱反応を開始させるためのトリガとを含む、頭部装具を開示する。そのような頭部装具は、好ましくは、オートバイ安全ヘルメットもしくは類似の衝突保護デバイスにおいて、またはそれらと併せて用いることができる。その頭部装具は、深刻な外傷または頭部損傷の結果として起こる脳障害の発症を防ぐまたは遅らせるためのものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸熱反応器を含む頭部装具に関する。そのような頭部装具は、オートバイ・ヘルメットなどの安全頭部装具として、または安全頭部装具と併せて、使用するのに特に適している。
【背景技術】
【0002】
低体温状態を誘発したときに、外傷犠牲者の神経学的悪化が劇的に軽減されることが、長い間認識されてきた。この現象は、例えば、事故犠牲者が冷たい氷水に落ちて低体温症となったときに観察された。類似の現象がナポレオン戦争中に観察されており、そのとき、「寒気にさらされていた(out in the cold)」負傷兵士たちは怪我からどうにか生き延びたが、火の近くで暖まっていた同様の負傷兵士たちは死亡した。より近年になると、医師たちは、応急処置前に、または外科手術の間、患者で意図的に軽度の低体温症を誘導することによって、この現象を利用してきた。これは、身体の生命維持に必要な機能を低下させ、したがって、患者で脳障害が起こる危険性を低減する。極端な状況では、患者を氷水浴に沈めることによって、または患者の内臓内にまたは内臓の隣に低温の流体をポンプで送ることによって、患者の中核体温を下げることができる。冷却は、また、患者の頭部に直接適用されるときに、特に効果的であることが指摘されている。
【0003】
ヒトの頭蓋骨は、静脈がそれらを通って頭皮から静脈洞へと(温かい)血液を運ぶ、静脈孔(emissary foramina)として知られる、頭蓋骨を貫通する多くの小さな穴を有する。頭部の表面に運ばれた血液は、周囲環境によって、また、皮膚の表面から汗が蒸発することによって冷却されてから、より低い温度で再び頭蓋骨に進入して、脳を低温に保つのに役立つ。これは、頭部を表面で冷却することが、頭蓋骨内のかなり深部においても、どのように、単なる熱伝導を通じて達成されると予想されるよりも急速にヒトの脳内で相当な冷却を生み出すことができるかを説明する。
【0004】
頭蓋冷却が、事故犠牲者において脳障害を低減し、生存率を高めることが指摘されており、頭部を負傷した患者は、多くの場合、救急救命科で患者の頭部を冷却することによって処置される。しかし、犠牲者が、病院の「救急救命(Accident and Emergency)」科に到着する前に、重大な傷害を負ってしまっていることが多い。負傷してから病院または他の医療施設で処置を受けるまでの遅れが長すぎる場合、その間に著しい神経学的悪化がすでに生じているおそれがあり、その後の脳障害が避けられなくなるおそれがある。重傷の犠牲者に効果的な脳冷却をより早く適用できるほど、冷却は、脳障害の発症を防ぐのにより効果的となる。緊急対応車両の乗務員が、重傷の犠牲者を処置する何らかの手段をもって最初に現場にくることが多いが、今のところ、救急医療隊員チームは、あったとしても、彼らの標準装備の一部として頭部冷却装置を広く持ち運んでいない。負傷した結果として神経学的悪化を起こす危険にある重傷の犠牲者に、救急医療隊員および他の救急医がそれによって頭部冷却を容易にかつ効果的に適用できる、容易に持ち運び可能な装備の手段が必要とされている。提案される1つの解決策は、患者の鼻腔内にPFC(ペルフルオロ化合物類:perfluorochemicals)の霧状ミストを投与する、鼻腔用スプレー・デバイスである。ミストの液滴は、鼻の後部に接触すると蒸発して、鼻から熱を吸収して熱を運び去り、それによって脳を冷却する。
【0005】
頭部損傷を負い易い或る特定の負傷患者群は、オートバイ事故犠牲者である。オートバイに乗っているときのオートバイ運転者が、むき出しで、拘束されていない姿勢であるので、事故に遭ったオートバイ運転者は、重傷を負うことが多い。ただし、オートバイ事故犠牲者の中で圧倒的に多い死亡原因は、脳の外傷をまねく頭部損傷である。1946年以来、オートバイ安全ヘルメットを着用することが、オートバイ衝突事故犠牲者が致命傷を負う危険性を顕著に低減することが認識されてきた。今では、法律で要求されていないとしても、ほとんどすべての先進国で、オートバイに乗るときにはオートバイ安全ヘルメットを着用することが推奨されており、関連地域の適切な基準の下で販売資格を得るために安全ヘルメットが達成しなければならない最低限の性能要件を規定する、様々な安全基準が示されている。
【0006】
典型的なオートバイ安全ヘルメットデザインが、本願の図1〜図3に示されている。図1は、フルフェイス・オートバイ安全ヘルメット(すなわち、着用者の頭部および顔をほぼ完全に囲み、着用者の口および顎の正面の領域の周りを延びるヘルメット)を示す。オートバイ・ヘルメット1は、運転者がそれを通して見ることのできる開口部3aを有するヘルメット本体3と、運転者の顔を露出させるために、または風および破片をそらすように運転者の顔を囲むために、選択的に上げ下げ可能なバイザー5とを含む。
【0007】
図2は、オートバイ・ヘルメット本体3の断面図を示し、その典型的な主要構造要素を示している。ヘルメット本体3は、着用されたときに運転者の頭部を囲む層状のシェルを形成する。本体3は、比較的薄い剛性外側シェル10と、衝撃吸収材料の比較的厚い層20と、内側快適層30とを含む。様々な層の機能については、図3に関して説明する。
【0008】
図3は、衝撃時にヘルメットの様々な層によって力がどのように分散され吸収されるかを図式的に示す。剛性外側シェル10は、Lと表示された矢印によって示されるように、衝撃力を、衝撃点から遠くへと、外側シェル10内を横方向に偏向させ、分散させる。これが、衝撃力を衝撃点から消散させており、その結果、衝撃力が1点に集中せず、安全ヘルメットが割れる、または衝撃を加える物体が安全ヘルメットを貫通するのを防いでいる。剛性外側シェル10は、さらに、剛性外側シェル材料の割れ(クラッキング)や層剥離など、適切な破損メカニズムによって衝撃エネルギーを吸収する。衝撃吸収材料層20は、Iで表示された矢印によって示されるように、衝撃力の方向に変形することによって衝撃エネルギーを吸収する。ただし、衝撃吸収材料20の主要な目的は、ヘルメットが衝撃力にさらされたときに、着用者の頭部に加わる力を緩衝することによって、着用者の頭部の動きを遅くすることである。
【0009】
これは、衝撃が生じるときに脳が受ける力および加速度の大きさを低減する。オートバイ交通事故の間に生じる典型的な衝撃は、運転者の頭部が道路脇のコンクリートの縁石に衝突することとなる場合がある。ヘルメットが縁石に衝突するとき、そのヘルメットは、比較的瞬間的に止まる。同じ減速が運転者の頭部に加わった場合、より堅いオートバイ運転者の頭蓋骨は、やはり即座に止まる傾向にあるが、より柔らかい脳物質は、それを保持するものがなく、移動し続ける傾向にあり、外傷性の内部脳損傷をまねく。衝撃吸収材料層20は、緩衝部材の役割を果たして、より進行的な減速を受けて止まるための運転者の頭部のスペースおよび時間を提供し、したがって、うまくいけば、深刻な脳損傷を回避する。内側快適層30は、着用されたときに着用者の頭部に対して快適な触覚表面を提供するために、また、通常使用時にヘルメットが密接かつ快適に適所にフィットするように、より柔らかい局所的な詰め物を提供するために、衝撃吸収材料20とユーザの頭部との間に設けられる。内側快適層30は、通常、着用者の頭部の周りの通気を可能にするためにエア・ギャップまたはチャンネルを提供しており、着脱自在の洗濯可能なライナーの形態をとることができる。
【0010】
オートバイ・ヘルメット設計は、必然的に、衝撃時にヘルメットが提供できる安全性および保護のレベルと、オートバイに乗るときにヘルメットを着用できる実用性との間のトレードオフとなる。理論的には、衝撃吸収材料20は、衝撃時に着用者の頭部に広範囲に及ぶ革新的な緩衝作用をもたらすように、様々な密度の1つまたは複数の層の、非常に厚い構造として提供することができる。他方、ヘルメットは、風の抵抗および風の騒音による過度の干渉なしにオートバイ運転者がそのヘルメットを着用できる、全体的なサイズおよび形状のものでなければならず、また、重すぎるものであってはならない。最新の材料によって、より一層小型で軽量の構成で、既存の安全基準を満たし、上回ることができるようになったので、オートバイ・ヘルメット設計は、ますます小型で軽量の設計へと押し進められている。
【0011】
オートバイ安全ヘルメット設計の進歩にもかかわらず、そのようなオートバイ安全ヘルメットを着用するオートバイ交通事故の犠牲者は、依然として、脳障害をまねく頭部損傷を負っている。これに関する1つの問題は、応答時間が迅速であっても、救急医療隊員または他の救急医が、事故が起こってから相当な時間が経つまで事故現場に到着できないことが多いことである。この遅れの間に、例えば、脳内出血や酸素供給の欠乏などによって、神経学的悪化が生じるおそれがある。オートバイ事故に対処する、医学的訓練を受けていない人々に与えられる通常のアドバイスは、負傷したオートバイ運転者が万一頸部または脊椎を損傷しているといけないので、そのオートバイ運転者のヘルメットを決して脱がさないということである。その後の時間には、オートバイ安全ヘルメットは、オートバイ運転者の頭部を周囲温度から断熱し、したがって比較的高い温度に維持する傾向にある(特に、ヘルメットが静止している間は、ヘルメット内を通る空気の流れがないからである)。負傷したオートバイ運転者が頭部損傷を負った場合、これは、頭蓋骨およびヘルメット内で脳の炎症および腫脹をまねくおそれがある。しばしば、頭部は、特定の時間が経過した後、オートバイ安全ヘルメットの内側で腫脹して、ヘルメットを脱がすのを困難または不可能にすることがある(その場合、負傷したオートバイ運転者が病院に到着するまでヘルメットを脱がすことができず、病院では、通常はギプス包帯を除去するために使用されるような専門の切断工具を使用して、オートバイ運転者の頭部からヘルメットを切って除去することができる)。これらの条件は、何らかの重要な治療を施すことが可能となる前に、神経学的悪化を促進するおそれがある。
【0012】
したがって、オートバイ事故犠牲者において、脳障害の発症をそれによって妨げることのできる手段を提供することが望ましい。
【0013】
Leongらの米国特許第5950234号明細書は、冷却パック頭部カバーを開示している。その冷却パックは、化学療法治療を受けている患者の頭皮を覆うように着用するためのものである。その冷却パックを、容器内の化学物質を隔てる障壁を破壊することによって化学物質が混ぜ合わされたときにそれらの化学物質が冷たくなる、化学的冷却パックとすることができることが企図される。冷却パックは、全体的に円形であり、そのパックを全体的にボウル形に患者の頭部に巻き付けて固定できるように、「V」字形のノッチがその冷却パックに形成されている。アメリカン・フットボール・ヘルメットが使用される場合、抜け毛を最小限に抑える温度まで着用者の頭皮を冷却するために、冷却パックを、ヘルメット内にフィットするように多数の部品で形成できることが企図される。冷却パックは、着用前に活性化させなければならず、着用された状態でその冷却パックを活性化させる手段をもたない。
【0014】
その他、Tremblayらの米国特許第5469579号明細書は、建築現場で着用される工事帽など、一般に頭部装具または安全ヘルメット内で人間の頭部に被せて据え付ける、頭部冷却デバイスを開示している。頭部冷却デバイスは、着用者の帽子またはヘルメット内に置かれ、その中に角氷を含むように構成される。角氷が溶けると、頭部冷却デバイスは、溶けた水を一度に1滴ずつ着用者の頭皮上に通過させて、着用者の頭部から熱を吸収し、熱を取り除く。
【0015】
Freedman,Jr.らの米国特許第5755756号明細書は、患者の頭部上に据え付けられるように適合されたヘルメットを含む、低体温を誘発する蘇生ユニットを開示している。冷却剤源が、ヘルメットの外部から、患者の頭部を覆って密接にフィットして患者の頭部に冷却をもたらすように膨張可能なブラダー内へと、ポンプで送り込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第5950234号明細書
【特許文献2】米国特許第5469579号明細書
【特許文献3】米国特許第5755756号明細書
【発明の概要】
【0017】
本発明の第1の態様によれば、吸熱反応器と、着用者の頭部に着用された状態で反応器内の吸熱反応を開始させるためのトリガとを含む、頭部装具が提供される。
【0018】
好ましくは、トリガは、頭部装具に加わる衝撃または差し迫った衝撃の検出に応答して吸熱反応を開始させるように配置される。別法として、またはそれに加えて、トリガは、頭部装具に加わる衝撃に応答して反応を開始させるように配置される。
【0019】
好ましい実施形態では、頭部装具は、着用者の頭部を衝撃から保護するためのヘルメットである。最も好ましくは、頭部装具は、オートバイ安全ヘルメットである。頭部装具は、ある閾値の大きさを超える、頭部装具の検出された加速度に基づいて、衝撃または差し迫った衝撃を検出するための手段を含むことができる。好ましくは、その場合、トリガは、ある閾値の大きさを超える衝撃によって頭部装具内で生み出される力または圧力に応答して反応を開始させるように配置される。
【0020】
頭部装具の他の好ましい実施形態では、吸熱反応器は、反応が開始されたときに吸熱反応で互いに反応することになる2つ以上の試薬を含む。2つ以上の試薬それぞれを、それぞれのセルまたはリザーバ内で、その試薬が反応することになる他の試薬から隔てて、吸熱反応器内に収めることができる。特定の好ましい諸実施形態では、試薬のうちの少なくとも1つが、着用者の頭部のほぼすべてまたは一部を包み込むように配置された層内に収められる。1つまたは複数の膜が、試薬を互いに隔てることができ、トリガは、隔てられた試薬がそれを通じて接触できるようになる穴を膜に開けることによって、吸熱反応を開始させるように構成される。一形態では、トリガは、膜に穴を開けるプランジャを含む。他の形態では、トリガは、膜の張力がある閾値の大きさを超えるときに開口して穴を形成するように構成された、膜内の1つまたは複数の易破壊性(frangible)領域を含む。もう1つの形態では、膜またはトリガは、記憶された第1の状態の形状記憶合金または形状記憶構造を含んでおり、記憶された第2の状態へと形状記憶状態が変化するのに応答して膜に穴を開けるように構成される。
【0021】
さらに他の好ましい実施形態では、トリガは、記憶された第1の状態の形状記憶合金または形状記憶構造を含んでおり、記憶された第2の状態へと形状記憶状態が変化するのに応答して反応を開始させるように構成される。
【0022】
さらに他の好ましい実施形態では、トリガは、前記検出によって生成された信号に応答して反応を開始させる、電気反応性(electroreactive)材料の要素を含む。
【0023】
さらに他の好ましい実施形態では、吸熱反応器は、反応前および反応中、試薬および吸熱反応の反応生成物を含むように構成される。
【0024】
頭部装具の好ましい実施形態は、やはり反応を開始させる働きをする、緊急開始デバイスをさらに含む。
【0025】
本発明の第2の態様によれば、着用者の頭部を冷却するガス膨張式冷却デバイスと、加圧された容器から、着用者の頭部を囲むように構成された頭部装具の領域に隣接したまたはその領域内の減圧領域へと、ガスの放出を開始させるためのトリガとを含む、頭部装具が提供される。
【0026】
本発明の第3の態様によれば、衝撃によって活性化されたときに着用者の頭部から熱エネルギーを除去するように配置された試薬パッケージを含む、頭部装具が提供される。
【0027】
本発明の第4の態様によれば、オートバイ安全ヘルメットであって、
剛性外側シェルと、剛性外側シェルの内側の衝撃吸収材料の層と、剛性外側シェルの内側に実質的に収められた、吸熱反応で互いに反応してヘルメットの内側から熱を吸収することになる2つ以上の試薬を含む吸熱反応器と、ヘルメットに加わる衝撃または差し迫った衝撃の検出に応答して、着用者の頭部に着用された状態で反応器内の吸熱反応を開始させるように配置されたトリガとを含む、オートバイ安全ヘルメットが提供される。
【0028】
本発明の第5の態様によれば、オートバイ安全ヘルメットであって、
剛性外側シェルと、剛性外側シェルの内側の衝撃吸収材料の層と、剛性外側シェルの内側に実質的に収められた、吸熱反応で互いに反応してヘルメットの内側から熱を吸収することになる2つ以上の試薬を含む吸熱反応器と、ヘルメットに加わる衝撃に応答して、着用者の頭部に着用された状態で反応器内の吸熱反応を開始させるように配置されたトリガとを含む、オートバイ安全ヘルメットが提供される。
【0029】
第4または第5の態様のオートバイ安全ヘルメットの好ましい諸実施形態では、2つ以上の試薬それぞれが、それぞれのセルまたはリザーバ内で、その試薬が反応することになる他の試薬から隔てられて、吸熱反応器内に収められる。試薬のうちの少なくとも1つは、その場合、着用者の頭部のほぼすべてまたは一部を包み込むように配置された層内に収めることができる。好ましくは、1つまたは複数の膜が、試薬を互いに隔てており、トリガは、隔てられた試薬がそれを通じて接触できるようになる穴を膜に開けることによって、吸熱反応を開始させるように構成される。
【0030】
本発明の頭部装具は、いずれの救急医療隊員の応急処置キットとともに携行されるようにも構成可能であり、病院への輸送車の到着を待つ間、および病院までの行程中、事故犠牲者の脳に冷却をもたらすために使用することができる。本発明による頭部装具は、また、病院に到着した後の患者、または病院にすでに受け入れられている患者の脳に冷却をもたらすためにも利用することができる。
【0031】
本発明による頭部装具を含む、組み込んだ、または具体化する、オートバイ安全ヘルメットは、オートバイ運転者のヘルメットを脱がす必要なしに、オートバイ事故犠牲者の脳に相当な冷却をもたらすことが可能である。神経学的悪化は、それによって軽減されることがあり、脳障害を回避することができる。さらに、それによって、オートバイ運転者の頭部がオートバイ・ヘルメットの境界範囲内にとどまったまま過熱するまたは腫脹する傾向を軽減することが可能となる。
【0032】
本発明をよりよく理解できるように、また本発明をどのように実施できるかを示すために、ここで、単なる一例として、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】典型的なフルフェイス・オートバイ安全ヘルメットの主要構成要素を図式的に示す側面外観図である。
【図2】オートバイ安全ヘルメット本体の重要な構造要素の図式的表示を示す側断面図である。
【図3】図2のオートバイ本体の一部分の拡大断面図であり、衝撃時にオートバイ安全ヘルメット内で力が分散され吸収される方式を図式的に示す図である。
【図4】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の一実施形態の側断面図である。
【図5】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の第2の実施形態の側断面図である。
【図6】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の第3の実施形態の側断面図である。
【図7】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の第4の実施形態の側断面図である。
【図8】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の第5の実施形態の側断面図である。
【図9】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の一部分の拡大断面図であり、衝撃が発生した場合にオートバイ安全ヘルメットの前述の諸実施形態がどのように機能できるかを図式的に示す図である。
【図10】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の一部分を示す他の拡大断面図であり、オートバイ安全ヘルメットの前述の諸実施形態に対して衝撃が及ぼす可能性のある影響を図式的に示す図である。
【図11】本発明の前述の諸実施形態と併せて使用するためのトリガ・ユニットの動作原理を示す一連の略図である。
【図12】本発明の前述の諸実施形態と併せて使用するのに適した他のトリガの動作原理を示す一連の略図である。
【図13】本発明の前述の諸実施形態で使用するのに適した他のトリガリング・システムを示す一連の略図である。
【図14】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の一実施形態の側断面図であり、本発明の前述の諸実施形態のいずれかに適用できる14のさらなる任意特徴を示す図である。(図14A)は、図14のさらなる任意特徴の拡大斜視図である。
【図15】本発明にしたがって構成された頭部装具品目の一実施形態の側断面図であり、本発明の様々な基本原理を一連の頭部装具品目にどのように適用できるかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、本発明の様々な実施形態において、同一または類似の特徴を示すために類似の参照番号が使用される。
【0035】
以下では、加速が、一般に、速度を増大させる正の加速、ならびに速度が減少する負の加速(減速)の両方を含むことが理解されよう。したがって、本明細書で使用する加速および減速という用語は、文脈上他の意味を示す場合を除き、交換可能で、相互に包含し合うものと見なすべきである。
【0036】
オートバイ安全ヘルメットの本体3の第1の実施形態が、オートバイ・ヘルメット本体3の主要な構造要素を詳細に示す図4に図式的に示されている。
【0037】
図1〜図3に関して前述した既知のオートバイ安全ヘルメットと同様に、オートバイ安全ヘルメット本体3は、剛性外側シェル10を含み、その内側に衝撃吸収材料層20が設けられる。オートバイ安全ヘルメットの着用者の頭部との接触表面を提供するために、オートバイ安全ヘルメット本体3の内部に、内側快適層30がさらに配置される。
【0038】
本発明のオートバイ安全ヘルメットのここに示した諸実施形態は、フルフェイス安全ヘルメットとして示されているが、他の既知の形態のオートバイ安全ヘルメットを、本明細書に示した原理にしたがって適切な吸熱反応器およびトリガリング・デバイスを組み込むように適合できることが、理解されよう。具体的には、本発明の原理にしたがって配置される吸熱反応器およびトリガリング・デバイスは、着用者の耳を覆う保護をやはりもたらすが、顔の下部および顎は露出させておく、いわゆるオープンフェイスまたはスリークォーター・ヘルメット、着用者の頭部の最上部だけを保護するハーフ・ヘルメット、ならびに、フルフェイス構成とオープンフェイス構成との間でヘルメットを変形可能な、フリップアップ式のチン・バー(chin bar)およびバイザーを有するフリップフェイス・ヘルメットに適用することができる。
【0039】
剛性外側シェル10は、通常、厚さ3〜5mmであり、普通は、ガラスもしくはケブラー(Kevlar)繊維で強化された、射出成形された熱可塑性物質、またはプレス成形された熱硬化性樹脂である。ポリカーボネート製の外側シェルが、広く使用される。ただし、剛性外側シェルのために選択される特定の材料および構造タイプは、本発明によって得られる利点の達成には重要ではない。外側シェル10は、衝撃点のところで曲がって破損することによって、エネルギーを分散させ、吸収するだけではなく、また、衝撃事象中に衝撃吸収材料層20を保持し、したがって、衝撃吸収材料層20が割れて着用者の頭部上のその保護位置から離れるのを防ぐ働きもする。
【0040】
衝撃吸収材料層20は、通常、密度が40〜70kg/m3の範囲のポリスチレン・ビード成形体から形成される。フォーム・セルは、独立型(closed)であり、したがって、その中の空気は、衝撃中に圧縮される。有利には、ポリスチレンまたは発泡ポリスチレンは、圧潰されたときに多くのエネルギーを吸収する(そのもとの厚さの最高90%までが典型的である)が、エネルギーを蓄えてばねのように跳ね返るのではなく、その変形を保持する(圧縮または圧潰されたままとなる)。これは、蓄えられたエネルギーが跳ね戻って、着用者の脳に2度目に衝突するのを防ぐ。ポリウレタン発泡体も、また、一部のヘルメットで衝撃吸収材料層20として使用されてきた。
【0041】
ヒトの脳は、基本的に、頭蓋骨内で、頸髄液(cervical−spinal fluid)浴と、硬膜と呼ばれる保護繭との中に浮いている。前述のように、激しい衝撃の間、頭蓋骨は、非常に急激に、止まる、さもなければ加速されることがあるが、脳は、動き続けて、脳組織の剪断から、脳内出血、脳と硬膜との間の出血、または硬膜と頭蓋骨との間の出血まで、多種多様な脳損傷をまねくおそれがある。そのようないずれの傷害も、堅い頭蓋骨内で脳が閉じ込められた状態にあるので通常の状況では起こりえない、頭蓋骨内での脳の炎症および腫脹をまねく傾向にある(病院環境では、頭蓋腔内の圧力の上昇および脳の腫脹は、頭蓋骨に穿孔してまたは頭蓋骨を切り開いて内圧を下げることによって、軽減することができる)。衝撃吸収材料の層20は、頭蓋骨と脳との間の動きの差を最小限に抑えるように、衝撃事象中に頭蓋骨を徐々に減速する機能を有する。
【0042】
内側快適層30は、オートバイ安全ヘルメットが通常使用時に快適にフィットすることを保証するために、また、ヘルメットが動き回ってオートバイ運転者の集中および視覚を邪魔するのを防ぐように、オートバイ安全ヘルメットがユーザの頭部上の適所で適切に保持されることを保証するために、通常、柔らかい詰め物と通気性の良いメッシュとの組合せとして提供される。
【0043】
図4に示したオートバイ安全ヘルメット本体3は、この実施形態では内側快適層30と衝撃吸収材料層20との間の2つの隣接層から形成された、吸熱反応器を含む。いずれか特定の用途のための好ましい反応器配置に応じて、より多数またはより少数の層を使用してもよい。図4の吸熱反応器は、内側層40および外側層50によって形成される。これらの2つの層は、混ぜ合わされたときに吸熱反応を始める、異なる2つの試薬を含む。ここでの目的では、反応は、各層内の物質の電子状態の変化を必ずしも必要とせず、単純に、ある物質がある量の他の物質に溶解することであってもよい。現時点では、外側層50が、ある体積の水を含み、内側層40が、ある量の硝酸アンモニウムを含むことが好ましい。
【0044】
オートバイ安全ヘルメット3の通常使用時には、2つの試薬は、それらのそれぞれの層内で互いに隔てられて保持される。吸熱反応器は、適切なトリガ機構(図4には図示せず)の動作によって、ヘルメットが衝撃を受けた結果として、内側層40および外側層50内の物質間の反応を開始させるように構成される。2つの層40および50内の物質間で起こる吸熱反応は、オートバイ安全ヘルメットの着用者の頭部からエネルギーを吸収する。
【0045】
吸熱反応器がトリガされたときには、外側層50内の水は、内側層40内に放出されて、硝酸アンモニウムの水への溶解を開始させることによって、吸熱反応を開始する。これは、オートバイ安全ヘルメットの内部で冷却効果を即座に生み出し始める。水とアンモニウム水和物との間の反応は、反応開始後に毎分約1℃に相当する冷却量を与えて、約4分後には顕著な冷却をもたらすことが可能である。吸熱反応が進行性であるので、熱は、吸熱反応の間、オートバイ・ヘルメット着用者の頭部および脳から吸収され続けることになる。反応の進行性は、制限された開口部を通って、または毛管作用を通じてなど、硝酸アンモニウムを含む層内に水を徐々に放出するように、水を含む外側層50を構成することによって、高めることができる。ある試薬の、他の試薬中への継続的な放出は、長期間にわたって継続的な冷却効果をもたらすことになるが、これは、やはり1つには、ヘルメット本体3内で内側層40および外側層50内に含まれる試薬材料の量によって決定されることになる。
【0046】
言うまでもなく、吸熱反応は、患者に低温熱傷を引き起こすほど激しいものであってはならず、この点に関して、内側快適層30は、吸熱反応器(内側層40と外側層50とからなる)と、オートバイ・ヘルメットの着用者の頭部との間に、有用な伝熱媒体を提供することができる。
【0047】
試薬および反応生成物が比較的無毒性であるので、水と硝酸アンモニウムとの間の溶解反応が現時点では好ましい。言うまでもなく、試薬は、吸熱反応器に収められたままとなることが意図されており、着用者上または外部環境中に放出されることは意図されていない。とは言うものの、衝撃事象中に試薬を放出して、オートバイ安全ヘルメットの着用者を試薬および/または生成物にさらすことができることが考えられる。この理由から、試薬および反応生成物は、オートバイ・ヘルメットの着用者または治療に当たっている医師がそれらの試薬および反応生成物にさらされた場合に、彼らにとって有毒であってはならない。水への硝酸アンモニウムの溶解だけでなく、本発明にしたがって実用化できる、他のいくつかの吸熱反応が知られている。注目すべきことには、問題となっている頭部装具がオートバイ安全ヘルメットではない用途では、頭部装具の着用者が問題となっている試薬および反応生成物と接触する危険が、顕著に低下する。水への硝酸アンモニウムの溶解の代わりに用いることのできる、他の既知の吸熱化学反応は、
水酸化バリウム八水和物結晶と、乾燥塩化アンモニウムとの反応、
水への塩化アンモニウムの溶解、
塩化チオニル(SOCl2)と、硫酸コバルト(II)七水和物との反応、 水と塩化カリウムとの混合、および、
エタン酸と炭酸ナトリウムとの反応である。
【0048】
また、代替的な一構成では、吸熱反応器が、ガスが膨張するときにヘルメットの内側に冷却をもたらすように、衝撃吸収材料20と内側快適層30との間でヘルメットの内部へと徐々に放出できる加圧ガスまたは液化ガスを含むことができることも企図される。ヘルメット内のガス膨張通路は、放出およびヘルメット内部の冷却後、膨張したガスを大気中に通気させるように適切に構成することができる。ただし、そのような冷却形態は、極度の衝撃ならびに大きな温度変動を受けやすいオートバイ安全ヘルメットよりも、代替的な頭部装具品目に、より適している。ただし、そのようなガス膨張冷却は、頭部損傷犠牲者の初期治療の際に救急医療隊員チームが使用するのに適した頭部装具品目にすぐに利用することができる。
【0049】
ヘルメットの内部領域の冷却は、衝撃事象中に冷却プロセスの即時開始をもたらすだけではなく、オートバイ安全ヘルメット用途において、オートバイ安全ヘルメットを脱がす必要なしにオートバイ運転者の頭部に冷却をもたらすという、大きな利点を提供する。オートバイ交通事故の犠牲者は、万一脊椎または頸部を損傷しているといけないので、安全かつ妥当であるならば、その犠牲者を動かさないことが賢明である。オートバイ交通事故の犠牲者が脊椎または頸部を損傷していた場合、その事故犠牲者を動かそうとすると、またはオートバイ安全ヘルメットを脱がそうとすると、脊柱損傷を引き起こすことになるおそれがあり、オートバイ安全ヘルメットは、経験豊かな医師がヘルメットを脱がすことが安全であるかどうかを判断する機会をもってから初めて脱がすべきである。オートバイ安全ヘルメットの内部に冷却をもたらすことによって、初期の脳外傷に続く神経学的悪化の開始を遅らせることができ、脳障害を受ける危険性を低減することができる。同様に、さらなる傷害、例えば、脳への血流の制限および酸素不足がまねく結果を、やはり、この方式で脳を冷却することによって、軽減することができる。さらに、腫脹および炎症を軽減することができ、それは、頭蓋骨腔内で脳に加わる圧力を緩和することになり、またさらに、適切な時点で着用者の頭部からオートバイ安全ヘルメットをさらに脱がすことが確実に可能となるようにする。
【0050】
図5は、図4に示したのと同一の反応器内側層40および反応器外側層50を含む、オートバイ安全ヘルメット本体3の第2の実施形態を示す。図5の実施形態では、多数のプランジャ60が、内側層40と外側層50との間の吸熱反応をそれによって開始させるトリガ機構として設けられる。プランジャ・トリガ機構60は、通常使用時に予想されるオートバイ運転者の頭部とプランジャとの間の接触中にはトリガ作用が起こらないように構成される。ただし、衝撃の状況では、ユーザの頭部がヘルメットの側部に対して加える力が、プランジャ60を押し下げて、内側層40および外側層50内の物質間の反応を開始させることになる。
【0051】
図6〜図8は、どのように内側快適層30、内側反応器層40、および外側反応器層50をオートバイ安全ヘルメットの境界範囲内により良好に快適に収容されるように配置できるかについての、代替的な構成を示す。
【0052】
吸熱反応器層40および50がオートバイ安全ヘルメット本体3の全体的な質量および体積を増大させることが認識されているのは言うまでもない。ただし、衝撃吸収材料層20が既存のオートバイ安全ヘルメットにおいて比較的複雑な構造をもつことは、珍しいことではない(その構造は、自転車運転者によって着用されるヘルメットと同様に一連の部分または他の構成要素として配置されてもよく、または、衝撃吸収特徴に応じて異なる密度を有する別個の構成要素から構成することもできる)。これは、衝撃吸収材料を、オートバイ安全ヘルメットの着用者の頭部を取り囲む不均一な層へと形成する、大きな余地をもたらしており、それによって、別個の内側層40および外側層50内で吸熱反応器の材料をそれらの中に保管できる都合の良い様々なキャビティおよびチャンネルを、衝撃吸収層20内に形成することができる。したがって、吸熱反応器は、着用者の頭部をそれぞれがほぼ完全に取り囲む2つの層を含む単一の吸熱反応器として提供することもでき、または、それぞれのもしくは共同の内側試薬層および外側試薬層を含む、1つもしくはいくつかの別個の反応器もしくは反応器ユニットとして提供することもできる。
【0053】
図6に示した実施形態は、図5の実施形態に類似であるが、内側快適層30が、オートバイ安全ヘルメット本体3の内側領域内に一連の別個の快適パッドとしてしか設けられていない点が異なる。
【0054】
図7の実施形態では、ヘルメットは、図4および図5の諸実施形態に類似の内側快適層30および内側反応器層40を備える。しかし、外側反応器層50は、衝撃事象中に硝酸アンモニウム層へと水を放出するためのトリガ(プランジャ)60を備えてそれぞれ構成された、第2の試薬(水)を含む一連のポケットまたはセルとして形成される。図からわかるように、外側層50は、ヘルメット本体3のシェルの周りで離隔された、衝撃吸収層20の材料内に配置された試薬の様々なポケットへと形成される。
【0055】
これらのポケットは、別個のセルまたはリザーバとして形成できるが、それらは、適切なチャンネルによって相互に流体連通することができる。図7の実施形態では、別個の外側試薬リザーバ50は、共通の反応器内側層40に流れ込む。
【0056】
図8に類似の配置が示されており、その配置では、衝撃吸収層20の材料内に複数のポケットが形成されており、それらのポケット内に、試薬の内側層40および外側層50の両方がそれぞれ1つずつ形成され、したがって、異なるポケット位置にいくつかの個々の反応器を構成している。図8の例では、別個のトリガまたはプランジャ60が、個々の反応器ポケットそれぞれに設けられる。
【0057】
図9は、図3に示したものと同等の、衝撃事象中にプランジャ60をどのように押し下げることができるかについての一例を示す概略拡大断面図である。プランジャ60が押し下げられ、反応が開始された後には、外側反応器層50内の水は、図9に矢印によって示されたように、内側反応器層40内へと自由に流れることができる。図10は、同様に、着用者の頭部が衝撃吸収材料層20へと移動し、その衝撃吸収材料層20に当たって減速するときに(またはその反対)、反応器の隣接層が、圧縮点Pのところで外側衝撃吸収層20と内側快適層30との間でどのように圧縮されるかを示す。外側層50内に水が含まれている場合、この水は、衝撃事象中に圧縮され、圧縮点Pから外側に向かって押しのけられる。
【0058】
内側層40と外側層50との間の吸熱反応を開始させるために、適切な任意のトリガ機構を用いることができる。反応が、単純に衝撃吸収材料20とオートバイ安全ヘルメットの着用者の頭部との間での内側層40および外側層50の圧縮によって開始される、「受動的」として分類できるいくつかの例が挙げられる。あるいは、衝撃事象の結果として生成された信号に応答して、または起こる可能性のある衝撃事象の検出に応答して、吸熱反応を開始させるためのさらなる入力を提供する、「能動的」トリガ機構を使用することもできる。例えば、加速度計を使用して、衝突または衝撃を示す、指定閾値を上回る大きさを有する加速を、ヘルメットがいつ受けるかを判定することができる。そのようなセンサは、ヘルメット内に内蔵された別個のバッテリもしくは他の電源から動作することもでき、またはオートバイの既存のバッテリ電源によって電力供給することもできる。前述および類似のトリガ機構は、「プリエンプティブ(pre−emptive)」(すなわち、衝撃の直前に動作をトリガするように設計されたもの)オートバイ安全用途で使用するために、すでに存在する。例えば、現在、それによってオートバイ安全ヘルメットおよび他のオートバイ用衣料品にエアバッグ機構を組み込むための、様々な応用が開発されており、この開発方針は、本発明の吸熱反応器と併せて用いることができる。
【0059】
ここに示される第1のトリガリング機構が、図11A〜図11Cに示されている。図11Aに示したように、吸熱反応器は、中間の膜72によって隔てられた内側層40および外側層50によって形成される。封入膜70および74が、それぞれ、反応器の内側層40および外側層50の内側および外側に、各層内に試薬を収めるために設けられる。プランジャ60が、シャフト62によって、吸熱反応器の中間の分離層72内に形成されたプラグ64に連結される。プランジャ60は、初めは、図11Aに示したように、内側膜70の内部に突き出る。衝撃事象中、点Pのところの圧縮力は、プランジャ60を外側層50へと押し込み、押し下げられるシャフト62によってプラグ64が外側に向かって押し込まれるにつれて、そのプラグ64を分離膜72の隣接部分から引き離す。これは、図11Bに概略的に示されている。
【0060】
衝撃事象後、プランジャ60は、押し下げられたままであり、プラグが外側反応器層50内に押し込まれている。図11Cに示したように、これによって、外側層50内に保管された試薬(水)が内側層40に流入できるようになる(各試薬がその中に保管された層が逆の場合、その反対となる)。
【0061】
さらなるトリガ機構が、図12A〜図12Cに示されている。トリガ機構は、先の尖ったシャフト82が反応器の内側層40内に延びる、プランジャ80を含む。図12Aに示したように、ここではバネ84の形態をした付勢部材が、プランジャ80と吸熱反応器の膜70との間に設けられ、バネプレート86を背にしてプランジャ80をオートバイ安全ヘルメットのキャビティ内へと内側に向かって付勢する。
【0062】
衝撃事象中、図12Bに示したように、プランジャ80は、押し下げられて、先の尖ったシャフト82を吸熱反応器の内側層40と外側層50との間の分離膜72に貫通させる。これは、同時に、プランジャ80とバネプレート86との間でばね84を圧縮する。
【0063】
衝撃事象後、バネ84は、プランジャ80をヘルメットの内部へと内側に向かって付勢する、ばね力Sを生み出す。これは、バネ力がバネプレート86に対して作用するにつれて、先の尖ったシャフト82を分離膜72から引込める働きをする。これによって、やはり、外側層50内の試薬(水)が内側層40に流入して、吸熱反応を開始できるようになる。
【0064】
他の代替的なトリガ配置が、図13A〜図13Cに示されており、外側層50が、分割膜76の間で、また分離膜72と外側膜74との間で、別個のセル状要素に分割される様子を見ることができる。分離膜は、図13Aに示したように、膜層の残りの部分に比べて意図的に弱くされた、分離膜72の張力が所定の値を超えるときに(すなわち、膜72の張力を生み出すセル内の圧力が所定の値を超えるときに)裂けるまたは破裂するように構成された、易破壊性領域78を備える。
【0065】
図13Bは、どのように内側および外側の反応器層が衝撃事象中に圧縮されて、外側層50内の試薬を変位させて衝撃点から遠ざけ、そのセル内の圧力を上昇させるかを示す。これは、図13Cに示したように、上昇した圧力下で易破壊性領域78を破裂させ、したがって、外側層50内のセルから試薬(水)を内側層40へと放出し、それによって吸熱反応を開始させる。やはり図13Cに見られるように、内側層40と外側層50とを隔てる膜72は、易破壊性領域78が破裂したときに、その膜が収縮して、新しく作り出された穴から離れ、外側層50内の試薬がそれを通って内側層40へと通過できる利用可能な面積を広げるように、大きな初期張力下で設けられる。
【0066】
図14は、前述の諸実施形態に示したのと同一の剛性外側シェル10、衝撃吸収材料層20、および内側快適層30、ならびに内側反応器層40および外側反応器層50を含む、本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体3の一実施形態を示す。ヘルメット本体3は、さらに、別の人がそれを通じてヘルメットの冷却効果を展開できる、緊急開始スイッチを含む。これによって、オートバイ交通事故の現場に最初に来た人が、反応を開始させて、冷却プロセスが確実に始まっているようにすることができる。緊急開始デバイス90は、適切な任意の形態をとることができるが、内側層40と外側層50との間(分離膜72内)のプラグを引込めて、試薬を放出して互いに接触させる、レバー作動式のプランジャ・デバイスとして図示されている。レバー機構のクローズアップ外部斜視図が、例として、図14Aに示されている。
【0067】
前述の実施形態のいずれにおいても、代替的なトリガ機構を展開することができ、また、いずれの実施形態も、1つだけではなく、2つ以上のトリガ機構を用いることができる。例えば、内側反応器層40と外側反応器層50との間の膜72は、材料内の別個の2つの安定な結晶もしくは分子状態または配向によって定義される異なる2つの位置的配置間で撓ませることのできる、ニッケルチタン合金「ニチノール」などの形状記憶材料から作製することができる。材料は、2つの層40、50を隔てる膜を形成する第1の既知の位置と、異なる結晶もしくは分子状態または配向に関係した第2の位置へと移行するように刺激されたときに、材料の折れまたは丸まりによってその材料が引込む、第2の位置とをもつように選択することができる。「記憶された」第1の状態と第2の状態との間の移行は、衝撃中に加わる、ある閾値の大きさを上回る力によってトリガすることもでき(「受動的」)、または熱もしくは電流を加えることによってトリガすることもできる(「能動的」、ただし、運動を使用して電磁信号またはインパルスを生成することができ、したがって必ずしも関連電源を備える必要はない)。印加される電圧または電流に応答して、引込む、または他の何らかの形で試薬を放出して接触させる膜は、「電気反応性(electroreactive)」と呼ばれることがある。
【0068】
類似の構造的配置を、あまり特殊ではない材料を使用して構成することができる(日常生活での一例が、わずかに凸の位置とわずかに凹の位置との間で繰返し押すことができるが、さらなる復元動作が行われない限りいずれかの位置にとどまることになる、特に、部分的に窪みのある場合の、金属製缶詰(metal tins)上の蓋である)。使用されるべき特定の試薬、および頭部装具の特定の所期の用途によっては、また、弁ベースのトリガ配置も有効である。
【0069】
また、反応がトリガされたときに、試薬を隣接層へと押し込んで他の試薬と混合させるように、層40、50のうちの一方の試薬(前述の諸実施形態では、外側層50内の水)が、圧力下にある層内に収められることも企図される。
【0070】
図15は、本発明の基本原理をどのようにオートバイ安全ヘルメット以外の頭部装具の代替品目へと拡張できるかを示す。バラクラバ帽または頭部装具の類似品目の形態をとる頭部共形部材130が、前述のオートバイ安全ヘルメットの諸実施形態の内側快適層30に類似の輪郭を有する様子が示されている。頭部装具のそのような品目を、適切なトリガ機構を備えるのであれば、オートバイ安全ヘルメット自体に一体化するのではなく、他のオートバイ安全ヘルメットと併せて着用できることが企図される。これによって、既存のオートバイ安全ヘルメットを本発明にしたがって比較的簡単にアップグレードできるようになる。あるいは、頭部装具は、頭部損傷犠牲者の処置の際に、訓練された救急医療隊員によって使用される、救急医療装備の一品目として使用されることが意図されており、または、病院環境内で外傷犠牲者の脳腫脹および神経学的悪化を軽減するために用いることもできる。そのような装備品は、脳卒中犠牲者に特定の用途をもつ可能性があり、したがって、スポーツ会場、オフィス内、介護施設内などで、応急処置箱内に設置することができる。
【0071】
頭部装具の品目は、図15に示したようにバラクラバ帽として構成することもでき、または、患者もしくは頭部装具の他の着用者の頭部上に被せて容易に利用可能な他のいずれか適切な形状として構成することもできる。1つまたは複数の吸熱反応器は、混合されたときまたは他の何らかの形で1つに合わせられたときに吸熱反応を起こす試薬を含む、それぞれの内側層140および150によって構成される。反応器層は、頭部装具を患者の頭部上により容易に置くことができるようにするために、慎重に共形部材130の周りに置かれ、また、頭部の各領域に与えられる冷却の範囲および程度を調節するために多様なサイズにすることができる。
【0072】
吸熱反応器の内側層140および外側層150内の構成要素間の反応を開始させるために、図14の緊急開始デバイス90に類似のトリガ190が設けられる。ハンドル192を引くと、プランジャ190が除去されて、内側層40および外側層50を隔てる膜からプラグが除去される。
【0073】
言うまでもなく、諸実施形態の前述の例を含め、いずれの実施形態でも、試薬を2つの層以外に設けることが可能である。試薬は、隣接したもしくは混合された試薬に電流を流す、または大きな圧力を加えるなど、開始事象が起こるまで、反応することなく並べて置かれることになるが(例えば、結晶として、または懸濁液中で)、それらの試薬を結合させることができ、その後、反応は、自己伝播式に進むことになる。あるいは、試薬を、交互に並ぶ多数の層、または一連の隣接したセルもしくはポケットへと形成することもできる。
【0074】
本発明について、以上で特定の例示的な諸実施形態に即して記載したが、実用的な応用がいくつもの分野に現れることが企図される。例えば、ヘルメットは、オートバイおよび自動車レース、ダウンヒル・スキーなど、高速の非接触型スポーツの大部分で着用される。同様の安全ヘルメットは、また、ジェット機のパイロット、ならびに警察官および軍人にも着用される。ヘルメットは、また、アメリカン・フットボールやアイス・ホッケーなど、特定の接触型スポーツでも着用されるが、これらのスポーツは、必然的に、重要ではない事象で吸熱反応器のトリガを誘発しがちな著しい量の接触を伴う。
【符号の説明】
【0075】
1:ヘルメット、3:ヘルメット本体、3a:開口部、5:バイザー、10:剛性外側シェル、20:衝撃吸収材料層、30:内側快適層、40:内側層40、50:外側層、60:プランジャ、62:シャフト、64:プラグ、70:封入膜、72:分離層、74:外側膜、76:分割膜、78:易破壊性領域、80:プランジャ、82:シャフト、84:付勢部材(バネ)、86:バネプレート、90:緊急開始デバイス、130:共形部材、140:内側層、150:外側層、190:トリガ(プランジャ)、162:ハンドル
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸熱反応器を含む頭部装具に関する。そのような頭部装具は、オートバイ・ヘルメットなどの安全頭部装具として、または安全頭部装具と併せて、使用するのに特に適している。
【背景技術】
【0002】
低体温状態を誘発したときに、外傷犠牲者の神経学的悪化が劇的に軽減されることが、長い間認識されてきた。この現象は、例えば、事故犠牲者が冷たい氷水に落ちて低体温症となったときに観察された。類似の現象がナポレオン戦争中に観察されており、そのとき、「寒気にさらされていた(out in the cold)」負傷兵士たちは怪我からどうにか生き延びたが、火の近くで暖まっていた同様の負傷兵士たちは死亡した。より近年になると、医師たちは、応急処置前に、または外科手術の間、患者で意図的に軽度の低体温症を誘導することによって、この現象を利用してきた。これは、身体の生命維持に必要な機能を低下させ、したがって、患者で脳障害が起こる危険性を低減する。極端な状況では、患者を氷水浴に沈めることによって、または患者の内臓内にまたは内臓の隣に低温の流体をポンプで送ることによって、患者の中核体温を下げることができる。冷却は、また、患者の頭部に直接適用されるときに、特に効果的であることが指摘されている。
【0003】
ヒトの頭蓋骨は、静脈がそれらを通って頭皮から静脈洞へと(温かい)血液を運ぶ、静脈孔(emissary foramina)として知られる、頭蓋骨を貫通する多くの小さな穴を有する。頭部の表面に運ばれた血液は、周囲環境によって、また、皮膚の表面から汗が蒸発することによって冷却されてから、より低い温度で再び頭蓋骨に進入して、脳を低温に保つのに役立つ。これは、頭部を表面で冷却することが、頭蓋骨内のかなり深部においても、どのように、単なる熱伝導を通じて達成されると予想されるよりも急速にヒトの脳内で相当な冷却を生み出すことができるかを説明する。
【0004】
頭蓋冷却が、事故犠牲者において脳障害を低減し、生存率を高めることが指摘されており、頭部を負傷した患者は、多くの場合、救急救命科で患者の頭部を冷却することによって処置される。しかし、犠牲者が、病院の「救急救命(Accident and Emergency)」科に到着する前に、重大な傷害を負ってしまっていることが多い。負傷してから病院または他の医療施設で処置を受けるまでの遅れが長すぎる場合、その間に著しい神経学的悪化がすでに生じているおそれがあり、その後の脳障害が避けられなくなるおそれがある。重傷の犠牲者に効果的な脳冷却をより早く適用できるほど、冷却は、脳障害の発症を防ぐのにより効果的となる。緊急対応車両の乗務員が、重傷の犠牲者を処置する何らかの手段をもって最初に現場にくることが多いが、今のところ、救急医療隊員チームは、あったとしても、彼らの標準装備の一部として頭部冷却装置を広く持ち運んでいない。負傷した結果として神経学的悪化を起こす危険にある重傷の犠牲者に、救急医療隊員および他の救急医がそれによって頭部冷却を容易にかつ効果的に適用できる、容易に持ち運び可能な装備の手段が必要とされている。提案される1つの解決策は、患者の鼻腔内にPFC(ペルフルオロ化合物類:perfluorochemicals)の霧状ミストを投与する、鼻腔用スプレー・デバイスである。ミストの液滴は、鼻の後部に接触すると蒸発して、鼻から熱を吸収して熱を運び去り、それによって脳を冷却する。
【0005】
頭部損傷を負い易い或る特定の負傷患者群は、オートバイ事故犠牲者である。オートバイに乗っているときのオートバイ運転者が、むき出しで、拘束されていない姿勢であるので、事故に遭ったオートバイ運転者は、重傷を負うことが多い。ただし、オートバイ事故犠牲者の中で圧倒的に多い死亡原因は、脳の外傷をまねく頭部損傷である。1946年以来、オートバイ安全ヘルメットを着用することが、オートバイ衝突事故犠牲者が致命傷を負う危険性を顕著に低減することが認識されてきた。今では、法律で要求されていないとしても、ほとんどすべての先進国で、オートバイに乗るときにはオートバイ安全ヘルメットを着用することが推奨されており、関連地域の適切な基準の下で販売資格を得るために安全ヘルメットが達成しなければならない最低限の性能要件を規定する、様々な安全基準が示されている。
【0006】
典型的なオートバイ安全ヘルメットデザインが、本願の図1〜図3に示されている。図1は、フルフェイス・オートバイ安全ヘルメット(すなわち、着用者の頭部および顔をほぼ完全に囲み、着用者の口および顎の正面の領域の周りを延びるヘルメット)を示す。オートバイ・ヘルメット1は、運転者がそれを通して見ることのできる開口部3aを有するヘルメット本体3と、運転者の顔を露出させるために、または風および破片をそらすように運転者の顔を囲むために、選択的に上げ下げ可能なバイザー5とを含む。
【0007】
図2は、オートバイ・ヘルメット本体3の断面図を示し、その典型的な主要構造要素を示している。ヘルメット本体3は、着用されたときに運転者の頭部を囲む層状のシェルを形成する。本体3は、比較的薄い剛性外側シェル10と、衝撃吸収材料の比較的厚い層20と、内側快適層30とを含む。様々な層の機能については、図3に関して説明する。
【0008】
図3は、衝撃時にヘルメットの様々な層によって力がどのように分散され吸収されるかを図式的に示す。剛性外側シェル10は、Lと表示された矢印によって示されるように、衝撃力を、衝撃点から遠くへと、外側シェル10内を横方向に偏向させ、分散させる。これが、衝撃力を衝撃点から消散させており、その結果、衝撃力が1点に集中せず、安全ヘルメットが割れる、または衝撃を加える物体が安全ヘルメットを貫通するのを防いでいる。剛性外側シェル10は、さらに、剛性外側シェル材料の割れ(クラッキング)や層剥離など、適切な破損メカニズムによって衝撃エネルギーを吸収する。衝撃吸収材料層20は、Iで表示された矢印によって示されるように、衝撃力の方向に変形することによって衝撃エネルギーを吸収する。ただし、衝撃吸収材料20の主要な目的は、ヘルメットが衝撃力にさらされたときに、着用者の頭部に加わる力を緩衝することによって、着用者の頭部の動きを遅くすることである。
【0009】
これは、衝撃が生じるときに脳が受ける力および加速度の大きさを低減する。オートバイ交通事故の間に生じる典型的な衝撃は、運転者の頭部が道路脇のコンクリートの縁石に衝突することとなる場合がある。ヘルメットが縁石に衝突するとき、そのヘルメットは、比較的瞬間的に止まる。同じ減速が運転者の頭部に加わった場合、より堅いオートバイ運転者の頭蓋骨は、やはり即座に止まる傾向にあるが、より柔らかい脳物質は、それを保持するものがなく、移動し続ける傾向にあり、外傷性の内部脳損傷をまねく。衝撃吸収材料層20は、緩衝部材の役割を果たして、より進行的な減速を受けて止まるための運転者の頭部のスペースおよび時間を提供し、したがって、うまくいけば、深刻な脳損傷を回避する。内側快適層30は、着用されたときに着用者の頭部に対して快適な触覚表面を提供するために、また、通常使用時にヘルメットが密接かつ快適に適所にフィットするように、より柔らかい局所的な詰め物を提供するために、衝撃吸収材料20とユーザの頭部との間に設けられる。内側快適層30は、通常、着用者の頭部の周りの通気を可能にするためにエア・ギャップまたはチャンネルを提供しており、着脱自在の洗濯可能なライナーの形態をとることができる。
【0010】
オートバイ・ヘルメット設計は、必然的に、衝撃時にヘルメットが提供できる安全性および保護のレベルと、オートバイに乗るときにヘルメットを着用できる実用性との間のトレードオフとなる。理論的には、衝撃吸収材料20は、衝撃時に着用者の頭部に広範囲に及ぶ革新的な緩衝作用をもたらすように、様々な密度の1つまたは複数の層の、非常に厚い構造として提供することができる。他方、ヘルメットは、風の抵抗および風の騒音による過度の干渉なしにオートバイ運転者がそのヘルメットを着用できる、全体的なサイズおよび形状のものでなければならず、また、重すぎるものであってはならない。最新の材料によって、より一層小型で軽量の構成で、既存の安全基準を満たし、上回ることができるようになったので、オートバイ・ヘルメット設計は、ますます小型で軽量の設計へと押し進められている。
【0011】
オートバイ安全ヘルメット設計の進歩にもかかわらず、そのようなオートバイ安全ヘルメットを着用するオートバイ交通事故の犠牲者は、依然として、脳障害をまねく頭部損傷を負っている。これに関する1つの問題は、応答時間が迅速であっても、救急医療隊員または他の救急医が、事故が起こってから相当な時間が経つまで事故現場に到着できないことが多いことである。この遅れの間に、例えば、脳内出血や酸素供給の欠乏などによって、神経学的悪化が生じるおそれがある。オートバイ事故に対処する、医学的訓練を受けていない人々に与えられる通常のアドバイスは、負傷したオートバイ運転者が万一頸部または脊椎を損傷しているといけないので、そのオートバイ運転者のヘルメットを決して脱がさないということである。その後の時間には、オートバイ安全ヘルメットは、オートバイ運転者の頭部を周囲温度から断熱し、したがって比較的高い温度に維持する傾向にある(特に、ヘルメットが静止している間は、ヘルメット内を通る空気の流れがないからである)。負傷したオートバイ運転者が頭部損傷を負った場合、これは、頭蓋骨およびヘルメット内で脳の炎症および腫脹をまねくおそれがある。しばしば、頭部は、特定の時間が経過した後、オートバイ安全ヘルメットの内側で腫脹して、ヘルメットを脱がすのを困難または不可能にすることがある(その場合、負傷したオートバイ運転者が病院に到着するまでヘルメットを脱がすことができず、病院では、通常はギプス包帯を除去するために使用されるような専門の切断工具を使用して、オートバイ運転者の頭部からヘルメットを切って除去することができる)。これらの条件は、何らかの重要な治療を施すことが可能となる前に、神経学的悪化を促進するおそれがある。
【0012】
したがって、オートバイ事故犠牲者において、脳障害の発症をそれによって妨げることのできる手段を提供することが望ましい。
【0013】
Leongらの米国特許第5950234号明細書は、冷却パック頭部カバーを開示している。その冷却パックは、化学療法治療を受けている患者の頭皮を覆うように着用するためのものである。その冷却パックを、容器内の化学物質を隔てる障壁を破壊することによって化学物質が混ぜ合わされたときにそれらの化学物質が冷たくなる、化学的冷却パックとすることができることが企図される。冷却パックは、全体的に円形であり、そのパックを全体的にボウル形に患者の頭部に巻き付けて固定できるように、「V」字形のノッチがその冷却パックに形成されている。アメリカン・フットボール・ヘルメットが使用される場合、抜け毛を最小限に抑える温度まで着用者の頭皮を冷却するために、冷却パックを、ヘルメット内にフィットするように多数の部品で形成できることが企図される。冷却パックは、着用前に活性化させなければならず、着用された状態でその冷却パックを活性化させる手段をもたない。
【0014】
その他、Tremblayらの米国特許第5469579号明細書は、建築現場で着用される工事帽など、一般に頭部装具または安全ヘルメット内で人間の頭部に被せて据え付ける、頭部冷却デバイスを開示している。頭部冷却デバイスは、着用者の帽子またはヘルメット内に置かれ、その中に角氷を含むように構成される。角氷が溶けると、頭部冷却デバイスは、溶けた水を一度に1滴ずつ着用者の頭皮上に通過させて、着用者の頭部から熱を吸収し、熱を取り除く。
【0015】
Freedman,Jr.らの米国特許第5755756号明細書は、患者の頭部上に据え付けられるように適合されたヘルメットを含む、低体温を誘発する蘇生ユニットを開示している。冷却剤源が、ヘルメットの外部から、患者の頭部を覆って密接にフィットして患者の頭部に冷却をもたらすように膨張可能なブラダー内へと、ポンプで送り込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第5950234号明細書
【特許文献2】米国特許第5469579号明細書
【特許文献3】米国特許第5755756号明細書
【発明の概要】
【0017】
本発明の第1の態様によれば、吸熱反応器と、着用者の頭部に着用された状態で反応器内の吸熱反応を開始させるためのトリガとを含む、頭部装具が提供される。
【0018】
好ましくは、トリガは、頭部装具に加わる衝撃または差し迫った衝撃の検出に応答して吸熱反応を開始させるように配置される。別法として、またはそれに加えて、トリガは、頭部装具に加わる衝撃に応答して反応を開始させるように配置される。
【0019】
好ましい実施形態では、頭部装具は、着用者の頭部を衝撃から保護するためのヘルメットである。最も好ましくは、頭部装具は、オートバイ安全ヘルメットである。頭部装具は、ある閾値の大きさを超える、頭部装具の検出された加速度に基づいて、衝撃または差し迫った衝撃を検出するための手段を含むことができる。好ましくは、その場合、トリガは、ある閾値の大きさを超える衝撃によって頭部装具内で生み出される力または圧力に応答して反応を開始させるように配置される。
【0020】
頭部装具の他の好ましい実施形態では、吸熱反応器は、反応が開始されたときに吸熱反応で互いに反応することになる2つ以上の試薬を含む。2つ以上の試薬それぞれを、それぞれのセルまたはリザーバ内で、その試薬が反応することになる他の試薬から隔てて、吸熱反応器内に収めることができる。特定の好ましい諸実施形態では、試薬のうちの少なくとも1つが、着用者の頭部のほぼすべてまたは一部を包み込むように配置された層内に収められる。1つまたは複数の膜が、試薬を互いに隔てることができ、トリガは、隔てられた試薬がそれを通じて接触できるようになる穴を膜に開けることによって、吸熱反応を開始させるように構成される。一形態では、トリガは、膜に穴を開けるプランジャを含む。他の形態では、トリガは、膜の張力がある閾値の大きさを超えるときに開口して穴を形成するように構成された、膜内の1つまたは複数の易破壊性(frangible)領域を含む。もう1つの形態では、膜またはトリガは、記憶された第1の状態の形状記憶合金または形状記憶構造を含んでおり、記憶された第2の状態へと形状記憶状態が変化するのに応答して膜に穴を開けるように構成される。
【0021】
さらに他の好ましい実施形態では、トリガは、記憶された第1の状態の形状記憶合金または形状記憶構造を含んでおり、記憶された第2の状態へと形状記憶状態が変化するのに応答して反応を開始させるように構成される。
【0022】
さらに他の好ましい実施形態では、トリガは、前記検出によって生成された信号に応答して反応を開始させる、電気反応性(electroreactive)材料の要素を含む。
【0023】
さらに他の好ましい実施形態では、吸熱反応器は、反応前および反応中、試薬および吸熱反応の反応生成物を含むように構成される。
【0024】
頭部装具の好ましい実施形態は、やはり反応を開始させる働きをする、緊急開始デバイスをさらに含む。
【0025】
本発明の第2の態様によれば、着用者の頭部を冷却するガス膨張式冷却デバイスと、加圧された容器から、着用者の頭部を囲むように構成された頭部装具の領域に隣接したまたはその領域内の減圧領域へと、ガスの放出を開始させるためのトリガとを含む、頭部装具が提供される。
【0026】
本発明の第3の態様によれば、衝撃によって活性化されたときに着用者の頭部から熱エネルギーを除去するように配置された試薬パッケージを含む、頭部装具が提供される。
【0027】
本発明の第4の態様によれば、オートバイ安全ヘルメットであって、
剛性外側シェルと、剛性外側シェルの内側の衝撃吸収材料の層と、剛性外側シェルの内側に実質的に収められた、吸熱反応で互いに反応してヘルメットの内側から熱を吸収することになる2つ以上の試薬を含む吸熱反応器と、ヘルメットに加わる衝撃または差し迫った衝撃の検出に応答して、着用者の頭部に着用された状態で反応器内の吸熱反応を開始させるように配置されたトリガとを含む、オートバイ安全ヘルメットが提供される。
【0028】
本発明の第5の態様によれば、オートバイ安全ヘルメットであって、
剛性外側シェルと、剛性外側シェルの内側の衝撃吸収材料の層と、剛性外側シェルの内側に実質的に収められた、吸熱反応で互いに反応してヘルメットの内側から熱を吸収することになる2つ以上の試薬を含む吸熱反応器と、ヘルメットに加わる衝撃に応答して、着用者の頭部に着用された状態で反応器内の吸熱反応を開始させるように配置されたトリガとを含む、オートバイ安全ヘルメットが提供される。
【0029】
第4または第5の態様のオートバイ安全ヘルメットの好ましい諸実施形態では、2つ以上の試薬それぞれが、それぞれのセルまたはリザーバ内で、その試薬が反応することになる他の試薬から隔てられて、吸熱反応器内に収められる。試薬のうちの少なくとも1つは、その場合、着用者の頭部のほぼすべてまたは一部を包み込むように配置された層内に収めることができる。好ましくは、1つまたは複数の膜が、試薬を互いに隔てており、トリガは、隔てられた試薬がそれを通じて接触できるようになる穴を膜に開けることによって、吸熱反応を開始させるように構成される。
【0030】
本発明の頭部装具は、いずれの救急医療隊員の応急処置キットとともに携行されるようにも構成可能であり、病院への輸送車の到着を待つ間、および病院までの行程中、事故犠牲者の脳に冷却をもたらすために使用することができる。本発明による頭部装具は、また、病院に到着した後の患者、または病院にすでに受け入れられている患者の脳に冷却をもたらすためにも利用することができる。
【0031】
本発明による頭部装具を含む、組み込んだ、または具体化する、オートバイ安全ヘルメットは、オートバイ運転者のヘルメットを脱がす必要なしに、オートバイ事故犠牲者の脳に相当な冷却をもたらすことが可能である。神経学的悪化は、それによって軽減されることがあり、脳障害を回避することができる。さらに、それによって、オートバイ運転者の頭部がオートバイ・ヘルメットの境界範囲内にとどまったまま過熱するまたは腫脹する傾向を軽減することが可能となる。
【0032】
本発明をよりよく理解できるように、また本発明をどのように実施できるかを示すために、ここで、単なる一例として、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】典型的なフルフェイス・オートバイ安全ヘルメットの主要構成要素を図式的に示す側面外観図である。
【図2】オートバイ安全ヘルメット本体の重要な構造要素の図式的表示を示す側断面図である。
【図3】図2のオートバイ本体の一部分の拡大断面図であり、衝撃時にオートバイ安全ヘルメット内で力が分散され吸収される方式を図式的に示す図である。
【図4】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の一実施形態の側断面図である。
【図5】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の第2の実施形態の側断面図である。
【図6】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の第3の実施形態の側断面図である。
【図7】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の第4の実施形態の側断面図である。
【図8】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の第5の実施形態の側断面図である。
【図9】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の一部分の拡大断面図であり、衝撃が発生した場合にオートバイ安全ヘルメットの前述の諸実施形態がどのように機能できるかを図式的に示す図である。
【図10】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の一部分を示す他の拡大断面図であり、オートバイ安全ヘルメットの前述の諸実施形態に対して衝撃が及ぼす可能性のある影響を図式的に示す図である。
【図11】本発明の前述の諸実施形態と併せて使用するためのトリガ・ユニットの動作原理を示す一連の略図である。
【図12】本発明の前述の諸実施形態と併せて使用するのに適した他のトリガの動作原理を示す一連の略図である。
【図13】本発明の前述の諸実施形態で使用するのに適した他のトリガリング・システムを示す一連の略図である。
【図14】本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体の一実施形態の側断面図であり、本発明の前述の諸実施形態のいずれかに適用できる14のさらなる任意特徴を示す図である。(図14A)は、図14のさらなる任意特徴の拡大斜視図である。
【図15】本発明にしたがって構成された頭部装具品目の一実施形態の側断面図であり、本発明の様々な基本原理を一連の頭部装具品目にどのように適用できるかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、本発明の様々な実施形態において、同一または類似の特徴を示すために類似の参照番号が使用される。
【0035】
以下では、加速が、一般に、速度を増大させる正の加速、ならびに速度が減少する負の加速(減速)の両方を含むことが理解されよう。したがって、本明細書で使用する加速および減速という用語は、文脈上他の意味を示す場合を除き、交換可能で、相互に包含し合うものと見なすべきである。
【0036】
オートバイ安全ヘルメットの本体3の第1の実施形態が、オートバイ・ヘルメット本体3の主要な構造要素を詳細に示す図4に図式的に示されている。
【0037】
図1〜図3に関して前述した既知のオートバイ安全ヘルメットと同様に、オートバイ安全ヘルメット本体3は、剛性外側シェル10を含み、その内側に衝撃吸収材料層20が設けられる。オートバイ安全ヘルメットの着用者の頭部との接触表面を提供するために、オートバイ安全ヘルメット本体3の内部に、内側快適層30がさらに配置される。
【0038】
本発明のオートバイ安全ヘルメットのここに示した諸実施形態は、フルフェイス安全ヘルメットとして示されているが、他の既知の形態のオートバイ安全ヘルメットを、本明細書に示した原理にしたがって適切な吸熱反応器およびトリガリング・デバイスを組み込むように適合できることが、理解されよう。具体的には、本発明の原理にしたがって配置される吸熱反応器およびトリガリング・デバイスは、着用者の耳を覆う保護をやはりもたらすが、顔の下部および顎は露出させておく、いわゆるオープンフェイスまたはスリークォーター・ヘルメット、着用者の頭部の最上部だけを保護するハーフ・ヘルメット、ならびに、フルフェイス構成とオープンフェイス構成との間でヘルメットを変形可能な、フリップアップ式のチン・バー(chin bar)およびバイザーを有するフリップフェイス・ヘルメットに適用することができる。
【0039】
剛性外側シェル10は、通常、厚さ3〜5mmであり、普通は、ガラスもしくはケブラー(Kevlar)繊維で強化された、射出成形された熱可塑性物質、またはプレス成形された熱硬化性樹脂である。ポリカーボネート製の外側シェルが、広く使用される。ただし、剛性外側シェルのために選択される特定の材料および構造タイプは、本発明によって得られる利点の達成には重要ではない。外側シェル10は、衝撃点のところで曲がって破損することによって、エネルギーを分散させ、吸収するだけではなく、また、衝撃事象中に衝撃吸収材料層20を保持し、したがって、衝撃吸収材料層20が割れて着用者の頭部上のその保護位置から離れるのを防ぐ働きもする。
【0040】
衝撃吸収材料層20は、通常、密度が40〜70kg/m3の範囲のポリスチレン・ビード成形体から形成される。フォーム・セルは、独立型(closed)であり、したがって、その中の空気は、衝撃中に圧縮される。有利には、ポリスチレンまたは発泡ポリスチレンは、圧潰されたときに多くのエネルギーを吸収する(そのもとの厚さの最高90%までが典型的である)が、エネルギーを蓄えてばねのように跳ね返るのではなく、その変形を保持する(圧縮または圧潰されたままとなる)。これは、蓄えられたエネルギーが跳ね戻って、着用者の脳に2度目に衝突するのを防ぐ。ポリウレタン発泡体も、また、一部のヘルメットで衝撃吸収材料層20として使用されてきた。
【0041】
ヒトの脳は、基本的に、頭蓋骨内で、頸髄液(cervical−spinal fluid)浴と、硬膜と呼ばれる保護繭との中に浮いている。前述のように、激しい衝撃の間、頭蓋骨は、非常に急激に、止まる、さもなければ加速されることがあるが、脳は、動き続けて、脳組織の剪断から、脳内出血、脳と硬膜との間の出血、または硬膜と頭蓋骨との間の出血まで、多種多様な脳損傷をまねくおそれがある。そのようないずれの傷害も、堅い頭蓋骨内で脳が閉じ込められた状態にあるので通常の状況では起こりえない、頭蓋骨内での脳の炎症および腫脹をまねく傾向にある(病院環境では、頭蓋腔内の圧力の上昇および脳の腫脹は、頭蓋骨に穿孔してまたは頭蓋骨を切り開いて内圧を下げることによって、軽減することができる)。衝撃吸収材料の層20は、頭蓋骨と脳との間の動きの差を最小限に抑えるように、衝撃事象中に頭蓋骨を徐々に減速する機能を有する。
【0042】
内側快適層30は、オートバイ安全ヘルメットが通常使用時に快適にフィットすることを保証するために、また、ヘルメットが動き回ってオートバイ運転者の集中および視覚を邪魔するのを防ぐように、オートバイ安全ヘルメットがユーザの頭部上の適所で適切に保持されることを保証するために、通常、柔らかい詰め物と通気性の良いメッシュとの組合せとして提供される。
【0043】
図4に示したオートバイ安全ヘルメット本体3は、この実施形態では内側快適層30と衝撃吸収材料層20との間の2つの隣接層から形成された、吸熱反応器を含む。いずれか特定の用途のための好ましい反応器配置に応じて、より多数またはより少数の層を使用してもよい。図4の吸熱反応器は、内側層40および外側層50によって形成される。これらの2つの層は、混ぜ合わされたときに吸熱反応を始める、異なる2つの試薬を含む。ここでの目的では、反応は、各層内の物質の電子状態の変化を必ずしも必要とせず、単純に、ある物質がある量の他の物質に溶解することであってもよい。現時点では、外側層50が、ある体積の水を含み、内側層40が、ある量の硝酸アンモニウムを含むことが好ましい。
【0044】
オートバイ安全ヘルメット3の通常使用時には、2つの試薬は、それらのそれぞれの層内で互いに隔てられて保持される。吸熱反応器は、適切なトリガ機構(図4には図示せず)の動作によって、ヘルメットが衝撃を受けた結果として、内側層40および外側層50内の物質間の反応を開始させるように構成される。2つの層40および50内の物質間で起こる吸熱反応は、オートバイ安全ヘルメットの着用者の頭部からエネルギーを吸収する。
【0045】
吸熱反応器がトリガされたときには、外側層50内の水は、内側層40内に放出されて、硝酸アンモニウムの水への溶解を開始させることによって、吸熱反応を開始する。これは、オートバイ安全ヘルメットの内部で冷却効果を即座に生み出し始める。水とアンモニウム水和物との間の反応は、反応開始後に毎分約1℃に相当する冷却量を与えて、約4分後には顕著な冷却をもたらすことが可能である。吸熱反応が進行性であるので、熱は、吸熱反応の間、オートバイ・ヘルメット着用者の頭部および脳から吸収され続けることになる。反応の進行性は、制限された開口部を通って、または毛管作用を通じてなど、硝酸アンモニウムを含む層内に水を徐々に放出するように、水を含む外側層50を構成することによって、高めることができる。ある試薬の、他の試薬中への継続的な放出は、長期間にわたって継続的な冷却効果をもたらすことになるが、これは、やはり1つには、ヘルメット本体3内で内側層40および外側層50内に含まれる試薬材料の量によって決定されることになる。
【0046】
言うまでもなく、吸熱反応は、患者に低温熱傷を引き起こすほど激しいものであってはならず、この点に関して、内側快適層30は、吸熱反応器(内側層40と外側層50とからなる)と、オートバイ・ヘルメットの着用者の頭部との間に、有用な伝熱媒体を提供することができる。
【0047】
試薬および反応生成物が比較的無毒性であるので、水と硝酸アンモニウムとの間の溶解反応が現時点では好ましい。言うまでもなく、試薬は、吸熱反応器に収められたままとなることが意図されており、着用者上または外部環境中に放出されることは意図されていない。とは言うものの、衝撃事象中に試薬を放出して、オートバイ安全ヘルメットの着用者を試薬および/または生成物にさらすことができることが考えられる。この理由から、試薬および反応生成物は、オートバイ・ヘルメットの着用者または治療に当たっている医師がそれらの試薬および反応生成物にさらされた場合に、彼らにとって有毒であってはならない。水への硝酸アンモニウムの溶解だけでなく、本発明にしたがって実用化できる、他のいくつかの吸熱反応が知られている。注目すべきことには、問題となっている頭部装具がオートバイ安全ヘルメットではない用途では、頭部装具の着用者が問題となっている試薬および反応生成物と接触する危険が、顕著に低下する。水への硝酸アンモニウムの溶解の代わりに用いることのできる、他の既知の吸熱化学反応は、
水酸化バリウム八水和物結晶と、乾燥塩化アンモニウムとの反応、
水への塩化アンモニウムの溶解、
塩化チオニル(SOCl2)と、硫酸コバルト(II)七水和物との反応、 水と塩化カリウムとの混合、および、
エタン酸と炭酸ナトリウムとの反応である。
【0048】
また、代替的な一構成では、吸熱反応器が、ガスが膨張するときにヘルメットの内側に冷却をもたらすように、衝撃吸収材料20と内側快適層30との間でヘルメットの内部へと徐々に放出できる加圧ガスまたは液化ガスを含むことができることも企図される。ヘルメット内のガス膨張通路は、放出およびヘルメット内部の冷却後、膨張したガスを大気中に通気させるように適切に構成することができる。ただし、そのような冷却形態は、極度の衝撃ならびに大きな温度変動を受けやすいオートバイ安全ヘルメットよりも、代替的な頭部装具品目に、より適している。ただし、そのようなガス膨張冷却は、頭部損傷犠牲者の初期治療の際に救急医療隊員チームが使用するのに適した頭部装具品目にすぐに利用することができる。
【0049】
ヘルメットの内部領域の冷却は、衝撃事象中に冷却プロセスの即時開始をもたらすだけではなく、オートバイ安全ヘルメット用途において、オートバイ安全ヘルメットを脱がす必要なしにオートバイ運転者の頭部に冷却をもたらすという、大きな利点を提供する。オートバイ交通事故の犠牲者は、万一脊椎または頸部を損傷しているといけないので、安全かつ妥当であるならば、その犠牲者を動かさないことが賢明である。オートバイ交通事故の犠牲者が脊椎または頸部を損傷していた場合、その事故犠牲者を動かそうとすると、またはオートバイ安全ヘルメットを脱がそうとすると、脊柱損傷を引き起こすことになるおそれがあり、オートバイ安全ヘルメットは、経験豊かな医師がヘルメットを脱がすことが安全であるかどうかを判断する機会をもってから初めて脱がすべきである。オートバイ安全ヘルメットの内部に冷却をもたらすことによって、初期の脳外傷に続く神経学的悪化の開始を遅らせることができ、脳障害を受ける危険性を低減することができる。同様に、さらなる傷害、例えば、脳への血流の制限および酸素不足がまねく結果を、やはり、この方式で脳を冷却することによって、軽減することができる。さらに、腫脹および炎症を軽減することができ、それは、頭蓋骨腔内で脳に加わる圧力を緩和することになり、またさらに、適切な時点で着用者の頭部からオートバイ安全ヘルメットをさらに脱がすことが確実に可能となるようにする。
【0050】
図5は、図4に示したのと同一の反応器内側層40および反応器外側層50を含む、オートバイ安全ヘルメット本体3の第2の実施形態を示す。図5の実施形態では、多数のプランジャ60が、内側層40と外側層50との間の吸熱反応をそれによって開始させるトリガ機構として設けられる。プランジャ・トリガ機構60は、通常使用時に予想されるオートバイ運転者の頭部とプランジャとの間の接触中にはトリガ作用が起こらないように構成される。ただし、衝撃の状況では、ユーザの頭部がヘルメットの側部に対して加える力が、プランジャ60を押し下げて、内側層40および外側層50内の物質間の反応を開始させることになる。
【0051】
図6〜図8は、どのように内側快適層30、内側反応器層40、および外側反応器層50をオートバイ安全ヘルメットの境界範囲内により良好に快適に収容されるように配置できるかについての、代替的な構成を示す。
【0052】
吸熱反応器層40および50がオートバイ安全ヘルメット本体3の全体的な質量および体積を増大させることが認識されているのは言うまでもない。ただし、衝撃吸収材料層20が既存のオートバイ安全ヘルメットにおいて比較的複雑な構造をもつことは、珍しいことではない(その構造は、自転車運転者によって着用されるヘルメットと同様に一連の部分または他の構成要素として配置されてもよく、または、衝撃吸収特徴に応じて異なる密度を有する別個の構成要素から構成することもできる)。これは、衝撃吸収材料を、オートバイ安全ヘルメットの着用者の頭部を取り囲む不均一な層へと形成する、大きな余地をもたらしており、それによって、別個の内側層40および外側層50内で吸熱反応器の材料をそれらの中に保管できる都合の良い様々なキャビティおよびチャンネルを、衝撃吸収層20内に形成することができる。したがって、吸熱反応器は、着用者の頭部をそれぞれがほぼ完全に取り囲む2つの層を含む単一の吸熱反応器として提供することもでき、または、それぞれのもしくは共同の内側試薬層および外側試薬層を含む、1つもしくはいくつかの別個の反応器もしくは反応器ユニットとして提供することもできる。
【0053】
図6に示した実施形態は、図5の実施形態に類似であるが、内側快適層30が、オートバイ安全ヘルメット本体3の内側領域内に一連の別個の快適パッドとしてしか設けられていない点が異なる。
【0054】
図7の実施形態では、ヘルメットは、図4および図5の諸実施形態に類似の内側快適層30および内側反応器層40を備える。しかし、外側反応器層50は、衝撃事象中に硝酸アンモニウム層へと水を放出するためのトリガ(プランジャ)60を備えてそれぞれ構成された、第2の試薬(水)を含む一連のポケットまたはセルとして形成される。図からわかるように、外側層50は、ヘルメット本体3のシェルの周りで離隔された、衝撃吸収層20の材料内に配置された試薬の様々なポケットへと形成される。
【0055】
これらのポケットは、別個のセルまたはリザーバとして形成できるが、それらは、適切なチャンネルによって相互に流体連通することができる。図7の実施形態では、別個の外側試薬リザーバ50は、共通の反応器内側層40に流れ込む。
【0056】
図8に類似の配置が示されており、その配置では、衝撃吸収層20の材料内に複数のポケットが形成されており、それらのポケット内に、試薬の内側層40および外側層50の両方がそれぞれ1つずつ形成され、したがって、異なるポケット位置にいくつかの個々の反応器を構成している。図8の例では、別個のトリガまたはプランジャ60が、個々の反応器ポケットそれぞれに設けられる。
【0057】
図9は、図3に示したものと同等の、衝撃事象中にプランジャ60をどのように押し下げることができるかについての一例を示す概略拡大断面図である。プランジャ60が押し下げられ、反応が開始された後には、外側反応器層50内の水は、図9に矢印によって示されたように、内側反応器層40内へと自由に流れることができる。図10は、同様に、着用者の頭部が衝撃吸収材料層20へと移動し、その衝撃吸収材料層20に当たって減速するときに(またはその反対)、反応器の隣接層が、圧縮点Pのところで外側衝撃吸収層20と内側快適層30との間でどのように圧縮されるかを示す。外側層50内に水が含まれている場合、この水は、衝撃事象中に圧縮され、圧縮点Pから外側に向かって押しのけられる。
【0058】
内側層40と外側層50との間の吸熱反応を開始させるために、適切な任意のトリガ機構を用いることができる。反応が、単純に衝撃吸収材料20とオートバイ安全ヘルメットの着用者の頭部との間での内側層40および外側層50の圧縮によって開始される、「受動的」として分類できるいくつかの例が挙げられる。あるいは、衝撃事象の結果として生成された信号に応答して、または起こる可能性のある衝撃事象の検出に応答して、吸熱反応を開始させるためのさらなる入力を提供する、「能動的」トリガ機構を使用することもできる。例えば、加速度計を使用して、衝突または衝撃を示す、指定閾値を上回る大きさを有する加速を、ヘルメットがいつ受けるかを判定することができる。そのようなセンサは、ヘルメット内に内蔵された別個のバッテリもしくは他の電源から動作することもでき、またはオートバイの既存のバッテリ電源によって電力供給することもできる。前述および類似のトリガ機構は、「プリエンプティブ(pre−emptive)」(すなわち、衝撃の直前に動作をトリガするように設計されたもの)オートバイ安全用途で使用するために、すでに存在する。例えば、現在、それによってオートバイ安全ヘルメットおよび他のオートバイ用衣料品にエアバッグ機構を組み込むための、様々な応用が開発されており、この開発方針は、本発明の吸熱反応器と併せて用いることができる。
【0059】
ここに示される第1のトリガリング機構が、図11A〜図11Cに示されている。図11Aに示したように、吸熱反応器は、中間の膜72によって隔てられた内側層40および外側層50によって形成される。封入膜70および74が、それぞれ、反応器の内側層40および外側層50の内側および外側に、各層内に試薬を収めるために設けられる。プランジャ60が、シャフト62によって、吸熱反応器の中間の分離層72内に形成されたプラグ64に連結される。プランジャ60は、初めは、図11Aに示したように、内側膜70の内部に突き出る。衝撃事象中、点Pのところの圧縮力は、プランジャ60を外側層50へと押し込み、押し下げられるシャフト62によってプラグ64が外側に向かって押し込まれるにつれて、そのプラグ64を分離膜72の隣接部分から引き離す。これは、図11Bに概略的に示されている。
【0060】
衝撃事象後、プランジャ60は、押し下げられたままであり、プラグが外側反応器層50内に押し込まれている。図11Cに示したように、これによって、外側層50内に保管された試薬(水)が内側層40に流入できるようになる(各試薬がその中に保管された層が逆の場合、その反対となる)。
【0061】
さらなるトリガ機構が、図12A〜図12Cに示されている。トリガ機構は、先の尖ったシャフト82が反応器の内側層40内に延びる、プランジャ80を含む。図12Aに示したように、ここではバネ84の形態をした付勢部材が、プランジャ80と吸熱反応器の膜70との間に設けられ、バネプレート86を背にしてプランジャ80をオートバイ安全ヘルメットのキャビティ内へと内側に向かって付勢する。
【0062】
衝撃事象中、図12Bに示したように、プランジャ80は、押し下げられて、先の尖ったシャフト82を吸熱反応器の内側層40と外側層50との間の分離膜72に貫通させる。これは、同時に、プランジャ80とバネプレート86との間でばね84を圧縮する。
【0063】
衝撃事象後、バネ84は、プランジャ80をヘルメットの内部へと内側に向かって付勢する、ばね力Sを生み出す。これは、バネ力がバネプレート86に対して作用するにつれて、先の尖ったシャフト82を分離膜72から引込める働きをする。これによって、やはり、外側層50内の試薬(水)が内側層40に流入して、吸熱反応を開始できるようになる。
【0064】
他の代替的なトリガ配置が、図13A〜図13Cに示されており、外側層50が、分割膜76の間で、また分離膜72と外側膜74との間で、別個のセル状要素に分割される様子を見ることができる。分離膜は、図13Aに示したように、膜層の残りの部分に比べて意図的に弱くされた、分離膜72の張力が所定の値を超えるときに(すなわち、膜72の張力を生み出すセル内の圧力が所定の値を超えるときに)裂けるまたは破裂するように構成された、易破壊性領域78を備える。
【0065】
図13Bは、どのように内側および外側の反応器層が衝撃事象中に圧縮されて、外側層50内の試薬を変位させて衝撃点から遠ざけ、そのセル内の圧力を上昇させるかを示す。これは、図13Cに示したように、上昇した圧力下で易破壊性領域78を破裂させ、したがって、外側層50内のセルから試薬(水)を内側層40へと放出し、それによって吸熱反応を開始させる。やはり図13Cに見られるように、内側層40と外側層50とを隔てる膜72は、易破壊性領域78が破裂したときに、その膜が収縮して、新しく作り出された穴から離れ、外側層50内の試薬がそれを通って内側層40へと通過できる利用可能な面積を広げるように、大きな初期張力下で設けられる。
【0066】
図14は、前述の諸実施形態に示したのと同一の剛性外側シェル10、衝撃吸収材料層20、および内側快適層30、ならびに内側反応器層40および外側反応器層50を含む、本発明によるオートバイ安全ヘルメットの本体3の一実施形態を示す。ヘルメット本体3は、さらに、別の人がそれを通じてヘルメットの冷却効果を展開できる、緊急開始スイッチを含む。これによって、オートバイ交通事故の現場に最初に来た人が、反応を開始させて、冷却プロセスが確実に始まっているようにすることができる。緊急開始デバイス90は、適切な任意の形態をとることができるが、内側層40と外側層50との間(分離膜72内)のプラグを引込めて、試薬を放出して互いに接触させる、レバー作動式のプランジャ・デバイスとして図示されている。レバー機構のクローズアップ外部斜視図が、例として、図14Aに示されている。
【0067】
前述の実施形態のいずれにおいても、代替的なトリガ機構を展開することができ、また、いずれの実施形態も、1つだけではなく、2つ以上のトリガ機構を用いることができる。例えば、内側反応器層40と外側反応器層50との間の膜72は、材料内の別個の2つの安定な結晶もしくは分子状態または配向によって定義される異なる2つの位置的配置間で撓ませることのできる、ニッケルチタン合金「ニチノール」などの形状記憶材料から作製することができる。材料は、2つの層40、50を隔てる膜を形成する第1の既知の位置と、異なる結晶もしくは分子状態または配向に関係した第2の位置へと移行するように刺激されたときに、材料の折れまたは丸まりによってその材料が引込む、第2の位置とをもつように選択することができる。「記憶された」第1の状態と第2の状態との間の移行は、衝撃中に加わる、ある閾値の大きさを上回る力によってトリガすることもでき(「受動的」)、または熱もしくは電流を加えることによってトリガすることもできる(「能動的」、ただし、運動を使用して電磁信号またはインパルスを生成することができ、したがって必ずしも関連電源を備える必要はない)。印加される電圧または電流に応答して、引込む、または他の何らかの形で試薬を放出して接触させる膜は、「電気反応性(electroreactive)」と呼ばれることがある。
【0068】
類似の構造的配置を、あまり特殊ではない材料を使用して構成することができる(日常生活での一例が、わずかに凸の位置とわずかに凹の位置との間で繰返し押すことができるが、さらなる復元動作が行われない限りいずれかの位置にとどまることになる、特に、部分的に窪みのある場合の、金属製缶詰(metal tins)上の蓋である)。使用されるべき特定の試薬、および頭部装具の特定の所期の用途によっては、また、弁ベースのトリガ配置も有効である。
【0069】
また、反応がトリガされたときに、試薬を隣接層へと押し込んで他の試薬と混合させるように、層40、50のうちの一方の試薬(前述の諸実施形態では、外側層50内の水)が、圧力下にある層内に収められることも企図される。
【0070】
図15は、本発明の基本原理をどのようにオートバイ安全ヘルメット以外の頭部装具の代替品目へと拡張できるかを示す。バラクラバ帽または頭部装具の類似品目の形態をとる頭部共形部材130が、前述のオートバイ安全ヘルメットの諸実施形態の内側快適層30に類似の輪郭を有する様子が示されている。頭部装具のそのような品目を、適切なトリガ機構を備えるのであれば、オートバイ安全ヘルメット自体に一体化するのではなく、他のオートバイ安全ヘルメットと併せて着用できることが企図される。これによって、既存のオートバイ安全ヘルメットを本発明にしたがって比較的簡単にアップグレードできるようになる。あるいは、頭部装具は、頭部損傷犠牲者の処置の際に、訓練された救急医療隊員によって使用される、救急医療装備の一品目として使用されることが意図されており、または、病院環境内で外傷犠牲者の脳腫脹および神経学的悪化を軽減するために用いることもできる。そのような装備品は、脳卒中犠牲者に特定の用途をもつ可能性があり、したがって、スポーツ会場、オフィス内、介護施設内などで、応急処置箱内に設置することができる。
【0071】
頭部装具の品目は、図15に示したようにバラクラバ帽として構成することもでき、または、患者もしくは頭部装具の他の着用者の頭部上に被せて容易に利用可能な他のいずれか適切な形状として構成することもできる。1つまたは複数の吸熱反応器は、混合されたときまたは他の何らかの形で1つに合わせられたときに吸熱反応を起こす試薬を含む、それぞれの内側層140および150によって構成される。反応器層は、頭部装具を患者の頭部上により容易に置くことができるようにするために、慎重に共形部材130の周りに置かれ、また、頭部の各領域に与えられる冷却の範囲および程度を調節するために多様なサイズにすることができる。
【0072】
吸熱反応器の内側層140および外側層150内の構成要素間の反応を開始させるために、図14の緊急開始デバイス90に類似のトリガ190が設けられる。ハンドル192を引くと、プランジャ190が除去されて、内側層40および外側層50を隔てる膜からプラグが除去される。
【0073】
言うまでもなく、諸実施形態の前述の例を含め、いずれの実施形態でも、試薬を2つの層以外に設けることが可能である。試薬は、隣接したもしくは混合された試薬に電流を流す、または大きな圧力を加えるなど、開始事象が起こるまで、反応することなく並べて置かれることになるが(例えば、結晶として、または懸濁液中で)、それらの試薬を結合させることができ、その後、反応は、自己伝播式に進むことになる。あるいは、試薬を、交互に並ぶ多数の層、または一連の隣接したセルもしくはポケットへと形成することもできる。
【0074】
本発明について、以上で特定の例示的な諸実施形態に即して記載したが、実用的な応用がいくつもの分野に現れることが企図される。例えば、ヘルメットは、オートバイおよび自動車レース、ダウンヒル・スキーなど、高速の非接触型スポーツの大部分で着用される。同様の安全ヘルメットは、また、ジェット機のパイロット、ならびに警察官および軍人にも着用される。ヘルメットは、また、アメリカン・フットボールやアイス・ホッケーなど、特定の接触型スポーツでも着用されるが、これらのスポーツは、必然的に、重要ではない事象で吸熱反応器のトリガを誘発しがちな著しい量の接触を伴う。
【符号の説明】
【0075】
1:ヘルメット、3:ヘルメット本体、3a:開口部、5:バイザー、10:剛性外側シェル、20:衝撃吸収材料層、30:内側快適層、40:内側層40、50:外側層、60:プランジャ、62:シャフト、64:プラグ、70:封入膜、72:分離層、74:外側膜、76:分割膜、78:易破壊性領域、80:プランジャ、82:シャフト、84:付勢部材(バネ)、86:バネプレート、90:緊急開始デバイス、130:共形部材、140:内側層、150:外側層、190:トリガ(プランジャ)、162:ハンドル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸熱反応器と、着用者の頭部に装着された状態で前記反応器内の吸熱反応を開始させるためのトリガとを具備する頭部装具。
【請求項2】
前記トリガが、前記頭部装具に加わる衝撃または差し迫った衝撃の検出に応答して前記吸熱反応を開始させるように配置される、請求項1に記載の頭部装具。
【請求項3】
前記トリガが、前記頭部装具に加わる衝撃に応答して前記反応を開始させるように配置される、請求項1または請求項2に記載の頭部装具。
【請求項4】
前記頭部装具が、着用者の頭部を衝撃から保護するためのヘルメットである、請求項1から3のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項5】
前記頭部装具がオートバイ安全ヘルメットである、請求項4に記載の頭部装具。
【請求項6】
ある閾値の大きさを超える、前記頭部装具の検出された加速度に基づいて、衝撃または差し迫った衝撃を検出するための手段を具備する、請求項2に記載の頭部装具。
【請求項7】
前記トリガが、ある閾値の大きさを超える衝撃によって前記頭部装具内で生み出される力または圧力に応答して反応を開始させるように配置される、請求項3に記載の頭部装具。
【請求項8】
前記吸熱反応器が、前記反応が開始されたときに吸熱反応で互いに反応する2つ以上の試薬を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項9】
前記2つ以上の試薬各々が、各々のセルまたはリザーバ内で、その試薬が反応する他の試薬から隔てられて、前記吸熱反応器内に収められる、請求項8に記載の頭部装具。
【請求項10】
前記試薬のうちの少なくとも1つが、着用者の頭部のほぼ全部または一部を包み込むように配置された層内に収められる、請求項9に記載の頭部装具。
【請求項11】
1つまたは複数の膜が、前記試薬を互いに隔てており、前記トリガが、前記隔てられた試薬がそれを通じて接触できるようになる穴を前記膜に開けることによって、前記吸熱反応を開始させるように構成される、請求項9または10に記載の頭部装具。
【請求項12】
前記トリガが、前記膜に前記穴を開けるプランジャを含む、請求項11に記載の頭部装具。
【請求項13】
前記トリガが、前記膜の張力がある閾値の大きさを超えるときに開口して穴を形成するように構成された、前記膜内の1つまたは複数の易破壊性領域を含む、請求項11に記載の頭部装具。
【請求項14】
前記膜またはトリガが、記憶された第1の状態の形状記憶合金または形状記憶構造を含んでおり、記憶された第2の状態へと形状記憶状態が変化するのに応答して前記膜に穴を開けるように構成される、請求項11に記載の頭部装具。
【請求項15】
前記トリガが、記憶された第1の状態の形状記憶合金または形状記憶構造を含んでおり、記憶された第2の状態へと形状記憶状態が変化するのに応答して前記反応を開始させるように構成される、前記請求項のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項16】
前記トリガが、前記検出によって生成された信号に応答して前記反応を開始させる、電気反応性材料の要素を含む、請求項2に記載の頭部装具。
【請求項17】
前記吸熱反応器が、前記反応前および前記反応中、前記試薬および前記吸熱反応の反応生成物を含むように構成される、請求項1から16のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項18】
前記反応を開始させる働きをする緊急開始デバイスをさらに含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項19】
着用者の頭部を冷却するガス膨張式冷却デバイスと、加圧された容器から、着用者の頭部を囲むように構成された頭部装具の領域に隣接した又はその領域内の減圧領域へとガスの放出を開始させるためのトリガとを具備する頭部装具。
【請求項20】
衝撃によって活性化されたときに着用者の頭部から熱エネルギーを除去するように配置された試薬パッケージを具備する頭部装具。
【請求項21】
剛性外側シェルと、
前記剛性外側シェルの内側の衝撃吸収材料層と、
前記剛性外側シェルの内側に実質的に収められた、吸熱反応で互いに反応して前記ヘルメットの内側から熱を吸収する2つ以上の試薬を含む吸熱反応器と、
前記ヘルメットに加わる衝撃または差し迫った衝撃の検出に応答して、着用者の頭部に着用された状態で前記反応器内の前記吸熱反応を開始させるように配置されたトリガとを具備するオートバイ安全ヘルメット。
【請求項22】
剛性外側シェルと、
前記剛性外側シェルの内側の衝撃吸収材料層と、
前記剛性外側シェルの内側に実質的に収められた、吸熱反応で互いに反応して前記ヘルメットの内側から熱を吸収する2つ以上の試薬を含む吸熱反応器と、
前記ヘルメットに加わる衝撃に応答して、着用者の頭部に着用された状態で前記反応器内の前記吸熱反応を開始させるように配置されたトリガとを具備するオートバイ安全ヘルメット。
【請求項23】
前記2つ以上の試薬各々が、各々のセルまたはリザーバ内で、その試薬が反応する他の試薬から隔てられて、前記吸熱反応器内に収められる、請求項21又は22に記載のオートバイ安全ヘルメット。
【請求項24】
前記試薬のうちの少なくとも1つが、着用者の頭部のほぼ全部または一部を包み込むように配置された層内に収められる、請求項23に記載のオートバイ安全ヘルメット。
【請求項25】
1つまたは複数の膜が、前記試薬を互いに隔てており、前記トリガが、前記隔てられた試薬がそれを通じて接触できるようになる穴を前記膜に開けることによって、前記吸熱反応を開始させるように構成される、請求項23又は24に記載のオートバイ安全ヘルメット。
【請求項1】
吸熱反応器と、着用者の頭部に装着された状態で前記反応器内の吸熱反応を開始させるためのトリガとを具備する頭部装具。
【請求項2】
前記トリガが、前記頭部装具に加わる衝撃または差し迫った衝撃の検出に応答して前記吸熱反応を開始させるように配置される、請求項1に記載の頭部装具。
【請求項3】
前記トリガが、前記頭部装具に加わる衝撃に応答して前記反応を開始させるように配置される、請求項1または請求項2に記載の頭部装具。
【請求項4】
前記頭部装具が、着用者の頭部を衝撃から保護するためのヘルメットである、請求項1から3のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項5】
前記頭部装具がオートバイ安全ヘルメットである、請求項4に記載の頭部装具。
【請求項6】
ある閾値の大きさを超える、前記頭部装具の検出された加速度に基づいて、衝撃または差し迫った衝撃を検出するための手段を具備する、請求項2に記載の頭部装具。
【請求項7】
前記トリガが、ある閾値の大きさを超える衝撃によって前記頭部装具内で生み出される力または圧力に応答して反応を開始させるように配置される、請求項3に記載の頭部装具。
【請求項8】
前記吸熱反応器が、前記反応が開始されたときに吸熱反応で互いに反応する2つ以上の試薬を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項9】
前記2つ以上の試薬各々が、各々のセルまたはリザーバ内で、その試薬が反応する他の試薬から隔てられて、前記吸熱反応器内に収められる、請求項8に記載の頭部装具。
【請求項10】
前記試薬のうちの少なくとも1つが、着用者の頭部のほぼ全部または一部を包み込むように配置された層内に収められる、請求項9に記載の頭部装具。
【請求項11】
1つまたは複数の膜が、前記試薬を互いに隔てており、前記トリガが、前記隔てられた試薬がそれを通じて接触できるようになる穴を前記膜に開けることによって、前記吸熱反応を開始させるように構成される、請求項9または10に記載の頭部装具。
【請求項12】
前記トリガが、前記膜に前記穴を開けるプランジャを含む、請求項11に記載の頭部装具。
【請求項13】
前記トリガが、前記膜の張力がある閾値の大きさを超えるときに開口して穴を形成するように構成された、前記膜内の1つまたは複数の易破壊性領域を含む、請求項11に記載の頭部装具。
【請求項14】
前記膜またはトリガが、記憶された第1の状態の形状記憶合金または形状記憶構造を含んでおり、記憶された第2の状態へと形状記憶状態が変化するのに応答して前記膜に穴を開けるように構成される、請求項11に記載の頭部装具。
【請求項15】
前記トリガが、記憶された第1の状態の形状記憶合金または形状記憶構造を含んでおり、記憶された第2の状態へと形状記憶状態が変化するのに応答して前記反応を開始させるように構成される、前記請求項のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項16】
前記トリガが、前記検出によって生成された信号に応答して前記反応を開始させる、電気反応性材料の要素を含む、請求項2に記載の頭部装具。
【請求項17】
前記吸熱反応器が、前記反応前および前記反応中、前記試薬および前記吸熱反応の反応生成物を含むように構成される、請求項1から16のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項18】
前記反応を開始させる働きをする緊急開始デバイスをさらに含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の頭部装具。
【請求項19】
着用者の頭部を冷却するガス膨張式冷却デバイスと、加圧された容器から、着用者の頭部を囲むように構成された頭部装具の領域に隣接した又はその領域内の減圧領域へとガスの放出を開始させるためのトリガとを具備する頭部装具。
【請求項20】
衝撃によって活性化されたときに着用者の頭部から熱エネルギーを除去するように配置された試薬パッケージを具備する頭部装具。
【請求項21】
剛性外側シェルと、
前記剛性外側シェルの内側の衝撃吸収材料層と、
前記剛性外側シェルの内側に実質的に収められた、吸熱反応で互いに反応して前記ヘルメットの内側から熱を吸収する2つ以上の試薬を含む吸熱反応器と、
前記ヘルメットに加わる衝撃または差し迫った衝撃の検出に応答して、着用者の頭部に着用された状態で前記反応器内の前記吸熱反応を開始させるように配置されたトリガとを具備するオートバイ安全ヘルメット。
【請求項22】
剛性外側シェルと、
前記剛性外側シェルの内側の衝撃吸収材料層と、
前記剛性外側シェルの内側に実質的に収められた、吸熱反応で互いに反応して前記ヘルメットの内側から熱を吸収する2つ以上の試薬を含む吸熱反応器と、
前記ヘルメットに加わる衝撃に応答して、着用者の頭部に着用された状態で前記反応器内の前記吸熱反応を開始させるように配置されたトリガとを具備するオートバイ安全ヘルメット。
【請求項23】
前記2つ以上の試薬各々が、各々のセルまたはリザーバ内で、その試薬が反応する他の試薬から隔てられて、前記吸熱反応器内に収められる、請求項21又は22に記載のオートバイ安全ヘルメット。
【請求項24】
前記試薬のうちの少なくとも1つが、着用者の頭部のほぼ全部または一部を包み込むように配置された層内に収められる、請求項23に記載のオートバイ安全ヘルメット。
【請求項25】
1つまたは複数の膜が、前記試薬を互いに隔てており、前記トリガが、前記隔てられた試薬がそれを通じて接触できるようになる穴を前記膜に開けることによって、前記吸熱反応を開始させるように構成される、請求項23又は24に記載のオートバイ安全ヘルメット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2011−511176(P2011−511176A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544780(P2010−544780)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000273
【国際公開番号】WO2009/095690
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(510208619)
【氏名又は名称原語表記】PRESTON−POWERS,JULLIAN,JOSHUA
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000273
【国際公開番号】WO2009/095690
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(510208619)
【氏名又は名称原語表記】PRESTON−POWERS,JULLIAN,JOSHUA
【Fターム(参考)】
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