説明

脳波を使用した神経障害の治療有効性の評価システムおよび評価方法

【解決課題】神経障害または精神障害の治療有効性を評価するシステムおよび方法に関わる。
【解決手段】患者の体表からEEGシグナルを収集するための少なくとも2つの表面電極、EEGシグナルから患者の神経学的状態または精神状態を示す種々の特徴および指標を演算処理するためのプロセッサを使用する。これらのパラメータの変化を使用して、治療有効性を評価し、得られた患者の状態を最適化するために治療を修正することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経学的病態または精神状態の治療有効性を評価するためのシステムおよび方法に関わる。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2003年5月6日提出の米国特許仮出願番号60/468,350号および2004年1月5日提出の米国特許仮出願番号60/534,247号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
種々の手段によって治療を提供することができる神経障害および心理的障害が広範に存在する。多くの障害では、薬物投与が最も一般的な治療方法である。障害の症状が薬物療法に耐性を示す場合または薬理学的治療が存在しない場合、神経刺激を含む他の方法を使用することができる。
【0004】
神経刺激は、一般に中枢神経経(CNS)を直接刺激するか末梢神経系の神経を刺激するために使用される電流シグナルを得るための電気刺激装置を使用する疾患治療方法である。このような神経刺激装置およびその対応する電極を、一般に患者の体内に埋め込む。現在、中枢神経系障害には以下の2つの主な神経刺激方法が存在する:脳深部刺激(DBS)および迷走神経刺激(VNS)。DBSは、患者の脳に直接埋め込まれた電極を使用し、VNSは患者の迷走神経周囲を刺激する。
【0005】
市販のDBS神経刺激装置は、Medtronic Inc.of Minneapolis,MN,USAから製造販売されている(4つの円筒形の刺激電極を備えた刺激リードを有するモデル3386)。脳深部刺激装置は、脳内の正確に標的された領域に高周波数の脈動電気刺激を送達する心臓ペースメーカーに類似の外科的に埋め込まれた医療デバイスである。このデバイスは、脳深部構造に配置され、延長線を介して鎖骨付近の皮膚下に外科的に埋め込まれた電気パルス発生器に接続された非常に小さな電極アレイ(長さが1.5mmで中心間の距離が3mmの電極)からなる。Medtronic社のDBSは、パーキンソン病、本態性振戦、およびジストニーの治療の目安として米国食品医薬品局(FDA)から上市許可を取得している。現在の研究では、DBSは、癲癇、精神障害、および慢性疼痛の治療として評価されている。
【0006】
DBS刺激装置を、患者の胸部の皮膚下に外科的に配置する。刺激DBS電極リードを、DBS刺激ワイヤに接続し、治療を受ける脳の領域に依存して変化し得る特定の頭蓋間領域に配置する。DBSシステムを、以下のいくつかのパラメータによって調製する:1.4つの電極リードの位置、2.刺激電極の選択、3.刺激シグナルの振幅、4.刺激シグナルの周波数(繰り返し率)、5.刺激シグナルの極性、および6.刺激シグナルのパルス幅。埋め込み後、電極の位置以外のこれらの全パラメータを、治療有効性を高め、且つ副作用を最小にするために臨床医が非浸襲性に変化させることができる。ボルトで測定した振幅は、刺激の強度または強さである。典型的な範囲は、1.5〜9ボルトである。周波数は、刺激パルスが送達された繰り返し率であり、パルス/秒(Hz)で測定され、典型的には、100〜185Hzの範囲である。パルス幅は、μ秒で測定される刺激パルスの持続時間である。平均パルス幅は、60〜120μ秒の範囲である。
【0007】
別の市販の神経刺激装置は、末梢神経系、特に迷走神経用にデザインされている。このシステム型の例は、Cyberonics Corporationでデザインおよび販売されている。迷走神経刺激(VNS)療法デバイスを、患者の鎖骨のすぐ下の胸部または腋窩付近の皮膚下に埋め込む。デバイス由来の2つの小さなワイヤが首の左側の迷走神経周囲を覆っている。この末梢神経の刺激によって脳機能に影響を与える。VNS療法は、癲癇の治療指標としてFDAによって上市許可を得ており、多数の他の中枢神経系疾患および病態(鬱病、肥満症、アルツハイマー病など)の治療が調査されている。
【0008】
多くの表示では、治療有効性の測定の欠如がこれらのデバイスの広範な使用の障害となっている。神経刺激の有効性は、種々の刺激パラメータ(すなわち、特に、電極の選択、刺激パルスの振幅、刺激パルスの周波数、刺激の極性、および刺激パルス幅)の設定の関数である。しかし、本態性振戦または非常に頻繁な癲癇性発作を起こす患者の治療を除き、与えた刺激の効果を評価することは困難であり、それにより、可能な治療有効性を最大にするためにこれらのパラメータを調整することは困難である。
【0009】
多数の異なるアプローチが神経刺激のフィードバックシグナルとしてEEGを使用している。
【0010】
Riseに付与された米国特許第6,263,237号では、不安障害の治療のためのシグナル発生器(神経刺激装置)と組み合わせたセンサの使用を記載している。この実施形態では、センサは不安障害に由来する病態に関連するシグナルを発生する。センサシグナルに反応する制御手段は神経障害が治療されるようにシグナル発生器を制御する。1つのセンサシグナル型は、神経障害に関連する挙動の特定の局面を制御するニューロン上に記録された皮質電位であり、この場合、センサは埋め込まれた深部電極の形態をとる。このシステムでは、センサは刺激デバイスの不可欠な構成要素である。しかし、この特許には不安障害または治療有効性に関するセンサシグナルの獲得方法または計算方法の教示も示唆もない。
【0011】
Johnに付与された米国特許第6,066,163号では、外傷性脳損傷、昏睡状態、または他の脳機能障害から患者のリハビリテーションを補助する適応脳刺激(ABS)システムを記載している。このシステムは、センサ、刺激手段、統計的比較のための比較手段、および比較結果による刺激装置の調整手段を含む。システムの目的は、特定の刺激プログラムを選択するための統計的に有意且つ医学的に有意義な基準に対する依存によって昏睡状態などの中枢神経系病態の治療を改良することである。Johnのシステムは、特に、脳由来のシグナル(EPおよびEEG)ならびにEKGおよびEMGを使用する。Johnは、これらのシグナルから演算処理することができる多数の電位パラメータを記載している。統計学的方法を使用して、このパラメータを、データベース由来の一連の基準値(以前に患者から得た値、医療関係者が得た値、または適切な規範集団由来の値が含まれ得る)と比較する。次いで、ABSは、この比較に基づいて一連の刺激パラメータを選択する。正の結果は、患者の病態の改善を示す一連の基準を満たす現在の状態と定義する。Johnは、一般的な意味においてしかこの方法を記載していない;この特許はいかなる特定の方法もシグナルを定量するためのいかなる特定のシグナルまたはパラメータの使用も教示しておらず、正の結果を定義する基準も教示していない。さらに、Johnは、治療有効性の指標の作製を教示していない。
【0012】
Schiff et alに付与された米国特許第6,539,263号は、患者の皮質領域を介した認識機能または機能調整を改善するための意識障害患者の治療システムを記載している。患者の認識機能の改善に有効な条件下で全身性遠心模写シグナルの発生および制御に関与する皮質下構造の少なくとも一部に電気刺激を印加する。次いで、患者の内部発生運動を検出し、このような内部発生運動に反応して電気刺激の印加を制御する。Schiff et alはまた、その方法を従来技術(EEGまたは脳磁気図(MEG))によって測定した脳波の領域および脳半球内の変化のモニタリングまたは代謝活性の領域および脳半球内の変化のモニタリングによって最適化することができることを記載している。しかし、Schiff et alは、認知機能を反映するパラメータを得るためのEEGまたはMEGシグナルの特定の処理方法を教示していない。
【0013】
Whitehurstによって提出された米国公開特許出願2002/0013612Aは、気分障害および/または不安障害を治療するための脳に薬物投与および/または電気刺激印加のためのシステムを記載する。記載のシステムを頭蓋内に完全に埋め込む。所望の効果を得るために必要な電気刺激の強度および/もしくは持続時間ならびに/または刺激薬の量および/もしくは型の決定を補助するために、1つの好ましい実施形態では、治療に関する患者の反応および/または要求を感知する。Whitehurstは、必要とされる電気刺激および/または薬物刺激の決定方法は、神経集団の電気的活性(例えば、EEG)を測定する工程と、神経伝達レベルおよび/またはその関連分解生成物レベルを測定する工程と、投薬および/または他の薬物レベル、ホルモンレベル、および/または任意の他の血中物質レベルを測定する工程とを含むと記載している。彼は、さらに、感知した情報を使用して閉ループ様式でシステム制御ユニットの刺激パラメータを制御することが好ましいと記載している。Whitehurstは、制御変数として使用することができるパラメータを得るためのいかなるEEGシグナル処理方法も教示しておらず、頭部表面からのEEGの記録も教示していない。
【0014】
他では、EEG非対称(すなわち、脳半球間のEEG測定基準の相違)が試験されている;「鬱病または不機嫌性障害個体における右半球の活性化と比較して左半球が減少した前頭皮領域における非対称の活性化パターンの脳波(EEG)研究における一般的所見...」。すなわち、脳の半球間のEEG測定基準の相違)が試験されている」。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の主な目的は、神経刺激療法の最適化を補助するために脳波シグナルから臨床的に有意義な情報を導くことである。
【0016】
本発明は、神経学的病態または精神状態の治療有効性を評価するためのシステムおよび方法を記載する。治療有効性を、EEGシグナルの変化の解釈によって評価する。視床の神経刺激はEEGに影響を与え得ることが周知である。本発明は、脳深部刺激または迷走神経刺激処理の有効性によって特徴づけることができるかこれらに関連し得る特定のEEGの変化において脳回路の興奮または阻害が現れるという概念に基づく。
【0017】
本出願に記載の発明により、神経障害および精神障害の種々の治療方法の有効性の定量およびモニタリングが可能である。好ましい実施形態では、末梢神経系および/または中枢神経系の神経刺激の有効性を定量する。本発明を適用することができる疾患および病態の例には、鬱病、強迫性障害、癲癇、パーキンソン病、運動障害、および脳卒中が含まれる。同様に、好ましい実施形態は、神経刺激の有効性の定量化を記載するが、本発明を使用して他の治療型(薬理学的治療、電気痙攣療法(ECT)、および経頭蓋電気刺激(TMS)が含まれるが、これらに限定されない)の有効性も同様にモニタリングすることができる。
【0018】
脳深部刺激または迷走神経刺激を介した脳機能阻害の場合、脳深部神経伝達シグナル経路への皮質の破壊が起こり得る。これにより、EEGシグナル電力が減少する。対照的に、神経刺激により、神経伝達経路が活性化または増強され、それによりEEGシグナル電力が増加し得る。DBS患者の所見は、内包前脚(視床付近の脳の解剖学的領域)の両側刺激による強迫障害および鬱病患者を治療するために現在使用されている神経刺激により、左耳朶および右耳朶を基準とする前頭葉EEG電力(詳細には、α周波数帯域(8〜12Hz)および/またはθ周波数帯域(4〜8Hz))が減少することを示す。この電力の減少は、皮質−視床神経経路によって前頭葉α電力が生成され、DBSはこの経路を妨げるという仮説と一致する。
【0019】
本明細書中に記載の発明は、刺激された脳領域によって直接または間接的に影響をうけるEEGシグナルを処理する。スペクトルおよび/または時間領域の特徴を使用してEEGシグナルから神経刺激の治療有効性の指標が得られる。次いで、熟練した臨床医が、EEGの変化に基づいて神経刺激の設定または場所を調整する。好ましい実施形態は、前頭正中部分(Fpz)を基準とした左耳朶(A1)およびFpzを基準とした右耳朶(A2)を組み合わせた2つのEEGシグナルから測定したEEGを使用する。次いで、2つのEEGシグナルを使用して、神経刺激治療の有効性を反映する数値指標を計算する。この方法を、他の電極の位置および他の脳治療様式(デバイスおよび薬理学的治療の両方が含まれる)から得た他のEEGパラメータ(時間ベースおよび周波数ベースのEEGパラメータが含まれる)に適用するように拡大することができる。
【0020】
本発明のこれらおよび他の特徴および目的は、いくつかの図を通して対応する参照番号が対応する部分を示す添付の図面を照らして読み取られるべき以下の詳細な説明から十分に理解される。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本明細書中に記載の本発明は、EEGで示された神経活性の変化の評価による神経障害および精神障害の治療有効性の評価方法である。本発明の特定の実施形態は、刺激電極リード70を介して患者10に接続された神経刺激装置60によって提供される電気刺激の効果を評価するためのシステムを含む(図1)。システムは、その後の処理のために被験体のEEGシグナルを収集するために使用されるデータ収集ユニット(DAU)20を内蔵している。DAU20は、典型的には、インテグラルアナログ−デジタル(A−D)変換器25および被験体10の頭皮に配置された1組の電極15を備えたコンピュータシステムからなる。A−D変換器を使用して、1組の表面電極から得たアナログEEGシグナルをサンプリングしたシグナル値組に変換し、その後データ演算処理ユニット(DCU)30のコンピュータによって分析することができる。DCU30は、プロセッサ35およびDAU20からサンプリングした値を受信する通信デバイス36を内蔵している。この実施形態では、DAU20およびDCU30のプロセッサは同一物である。しかし、別の実施形態では、DAU20は、EEGシグナルを収集し、サンプリングしたEEGシグナルを、通信回線を介して離れたDCU30に送信することができる。このような通信回線は、シリアルデータ回線もしくはパラレルデータ回線、ローカルエリアネットワークもしくは広域ネットワーク、電話線、インターネット、または無線回線であってよい。評価を行う臨床医は、キーボード40およびディスプレイデバイス50を使用してDCU30と通信することができる。
【0022】
EEGデータを、表面電極15を使用して患者の体表から収集する。全電極がヘアラインの下に配置される場合、電極は、Aspect Medical Systems,Inc.(Newton,MA)製のZipprep(登録商標)型が好ましい。電極を毛髪内に配置する場合、コロジオンまたは身体の拘束のいずれかによって適所に保持されたゴールドカップ型電極を使用することができる。種々の異なる電極の配置(すなわち、モンタージュ)を使用することができる。好ましい実施形態は、EEGシグナルの最初のチャネルが電極位置A1とFpzとの間(A1−Fpz)で認められた電圧であり、EEGの第2のチャネルが電極位置A2とFpzとの間(A2−Fpz)で認められた電圧である、前頭正中部分(Fpz)を基準とした左耳朶(A1)およびFpzを基準とした右耳朶(A2)を組み合わせた電極配置(モンタージュ)を使用する。別の実施形態は、第1のチャネルが電極位置F7−Fpz間の電圧であり、EEGの第2のチャネルが電極位置F8−Fpz間で認められた電圧である、電極モンタージュを使用する。別の実施形態はFpz−At1、Fpz−SM941の片側モンタージュを使用し、At1が眼の側面の左側のこめかみに存在し(頬骨の0.75インチ前方)、SM941がFpzの2.5インチ側面に存在する、BISセンサ(Aspect Medical Systems,Inc.)を使用する。このモンタージュを、頭部の左側に記載するが、右側も同等であり、その場合、Fpz−At2、Fpz−SM942と示す。あるいは、参考配置および単極配置の両方を使用したHH Jasper の"The Ten− Twenty Electrode System of the International Federation in Electroencephalography and Clinical Neurology",The EEG Journal,1958;10(Appendix),pp.371−5.に記載の国際10/20電極モンタージュシステムなどに記載の電極位置の任意の配置を使用することができる。
【0023】
好ましくは128サンプル/秒のサンプリング速度でサンプリングデータセットを作製するために、電極15から収集したEEGシグナルをDAU20のD/A変換器25によってサンプリングする。サンプリングしたデータセットを、好ましい実施形態での分析目的のために2秒(256サンプル)レコード(エポック)に分割する。DCU30がDAU20からサンプリングした値を受信した後、DCU30は最初にサンプリングしたEEGシグナルを患者の運動、瞬き、電気的雑音などのから生じる不自然な結果について試験する。検出された不自然な結果をシグナルから除去するか、不自然な結果を伴うシグナル部分をさらなる処理から除外する。ハイパスフィルタリングを使用して不適切なサンプリング周波数(エイリアシング)による低周波の出現から目的のシグナルバンドを超える周波数の電力の傾向を減少させる。
【0024】
DCU30は、次に、不自然な結果のないEEGデータからパラメータ組を計算する。このようなパラメータは、電力シグナルアレイ、バイスペクトルアレイ、高次スペクトルアレイ(トリスペクトルなど)、コーダンス(米国特許第5,269,315号および同第5,309,923号などに記載)、z変換変数、エントロピーパラメータ、および時間領域パラメータ(テンプレート照合、ピーク検出、閾値交差、ゼロ交差、およびHjorth記述子が含まれるが、これらに限定されない)を含み得る。このようなパラメータ、スペクトル、またはデータのいくつかの態様を定量するその他を特徴という。DCU30は、パラメータから患者の神経機能障害の重症度または神経学的病態レベルを示す一連の特徴および指標を計算する。どのようにして神経刺激装置60によって提供された神経刺激に反応したこれらの特徴および指標の変化を観察するかによって、神経刺激の結果を調整するために刺激パラメータを変化させることができる。これらの特徴および指標を、ディスプレイデバイス50上でユーザーに表示することができる。DCU30がDAU20と離れている実施形態では、結果をDAU20上のディスプレイデバイスに逆送信するか、電子メールを介して患者の主治医に送信するか、信頼できるウェブページから利用可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(スペクトルアレイの計算)
好ましい実施形態では、任意の電力スペクトルアレイ、バイスペクトルアレイ、または高次スペクトルアレイ(トリスペクトルなど)として定義されたスペクトルアレイから指標の特徴を計算する。周波数領域(フーリエ変換)法および時間領域(自己回帰)法を使用して、電力スペクトルおよびバイスペクトルデータアレイを計算することができる。用語「電力スペクトルアレイ」または「電力スペクトル」には、任意または全ての電力スペクトル、クロススペクトル、およびコヒーレンスアレイが含まれる。用語「両側アレイ」または「バイスペクトル」には、オートおよびクロス公式化のための全てまたは任意の以下のアレイが含まれる:複素数三重積、実数三重積、バイスペクトル密度、2位相アレイ、およびバイコヒーレンスアレイ。バイスペクトルアレイ演算処理の中間ステップとして電力スペクトルアレイを計算し、それにより、指標中で特徴として使用すべきパラメータの導出に利用可能である。指標の計算に電力スペクトルアレイのみを使用する場合、必要なアレイの演算処理後に演算処理を終了させることができる。周波数法および時間領域法を本明細書中に例示し、当業者は、他の方法を同様に潜在的に導くことができることを認識する。本発明は、電力スペクトルアレイおよびバイスペクトルアレイを得るための全ての演算処理方法を組み込むことを意図する。
【0026】
図2を参照して、電力スペクトルアレイ、クロススペクトルアレイ、コヒーレンスアレイ、オートバイスペクトルアレイ、またはクロスバイスペクトルアレイを得るための周波数領域ベースの手順を考察する。ステップ802では、システムは、実行すべき演算処理がオートスペクトル演算処理またはクロススペクトル演算処理のいずれであるかをチェックする。オートバイスペクトル分析は、クロスバイスペクトル分析の特例であるので、異なる対称則を適用する。
【0027】
ステップ804では、システムは、オートバイスペクトル演算処理を使用して進行するための以下の対称を設定する。
【0028】
【数1】

式中、fsは、サンプリング速度(好ましい実施形態では、0.5Hzの周波数分解能が得られる128 2−秒レコードを使用する128サンプル/秒)であり、f1およびf2(周波数1および周波数2ともいう)は、クロススペクトル演算処理またはバイスペクトル演算処理を実行する周波数対を示す。さらに、電力スペクトルおよびオートバイスペクトル演算処理のために、以下の式を使用する:
【0029】
【数2】

式中、Xi(t)およびYi(t)は、電力およびバイスペクトルの演算処理で使用する各時系列レコードを示す。好ましい実施形態では、Xi(t)およびYi(t)は、異なるチャネルから同時に得たサンプリングEEGレコードである。これらはまた、同一チャネル由来の連続レコードであり得る。Xi(f)およびYi(f)は、それぞれ時系列レコードXi(t)およびYi(t)のフーリエ変換を示し、iはレコード数を示す。
【0030】
ステップ806では、クロスバイスペクトル分析のために以下の対称に従う:
【0031】
【数3】

式中、全ての変数は、クロススペクトル分析のためにXi(t)およびYi(t)が個別に導出された時系列レコードを示すこと以外はオートバイスペクトル分析と同一の値を示す。
【0032】
ステップ808における標準的なIEEEライブラリルーチンまたは任意の他の公的に利用可能なルーチンを使用して、選択したレコードの高速フーリエ変換(FFT)(Xi(f)およびYi(f))を演算処理する。
【0033】
ステップ810では、選択した各レコードの電力スペクトルPXi(f)およびPYi(f)を、フーリエ変換の各要素Xi(f)およびYi(f)の大きさの2乗によって演算処理する。
【0034】
【数4】

クロススペクトルアレイPXY(f)およびコヒーレンスアレイγXY2(f)も以下の式で計算することができる:
【0035】
【数5】

式中、Xi*(f)はXi(f)の複素共役であり、Mはレコード数(好ましい実施形態では128)である。
【0036】
システムは、bci(f1,f2)は1つのレコード由来の各複素数三重積であり、BC(f1,f2)は平均複素数三重積である以下の式:
【0037】
【数6】

(式中、Yi*(f1+f2)はYi(f1+f2)の複素共役である)および
【0038】
【数7】

の使用によってステップ812における平均複素数三重積を演算処理する。
【0039】
ステップ814における平均実数三重積を、PXi(f)およびPYi(f)は1つのレコード由来の電力スペクトルであり、bη(f1,f2)は1つのレコード由来の各平均実数三重積であり、BR(f1,f2)は平均実数三重積である以下の式:
【0040】
【数8】

(PYiは評価された実数であるので、PYi=PYi*であることに留意のこと)の使用によって演算処理する。
【0041】
ステップ816では、バイスペクトル密度アレイBD(f1,f2)を、以下の式:
【0042】
【数9】

を使用して演算処理する。
【0043】
ステップ818では、システムは、以下の式:
【0044】
【数10】

を使用して2位相アレイφ(f1,f2)を演算処理する。
【0045】
ステップ820では、システムは、以下の式:
【0046】
【数11】

を使用してバイコヒーレンスアレイR(f1,f2)を演算処理する。
【0047】
ステップ822では、システムは、要求したオート/クロスバイスペクトルアレイをデータ演算処理ユニット30に戻す。
【0048】
図3では、オート/クロスバイスペクトルアレイの計算のためのパラメータベースの方法を記載する。ステップ902、904、および906では、システムは、上記のステップ802、804、および806と同一の様式で対称および時系列レコードを設定する。Xi(t)およびYi(t)の電力スペクトルを、ステップ908、910、および912で推算する。さらに、クロススペクトルアレイおよびコヒーレンスアレイを演算処理する。この推算方法は、2つの主なステージ(自己回帰(AR)モデル次数選択およびXi(t)およびYi(t)の電力スペクトル演算処理)を含む。ステップ908では、システムは、以下の式:
【0049】
【数12】

(式中、Mはレコード数であり、Nはレコードあたりのサンプル数(好ましい実施形態では、それぞれ128および256)であり、Lは可能なARフィルタ次数よりもはるかに高い(好ましい実施形態ではL=50))を使用して自己相関の2つの配列({R2X(m)}および{R2Y(m)})を演算処理する。最終予測誤差規範FPEX(m)およびFPEY(m)を、ARフィルタの次数を見出すためのステップ910における各自己相関配列に対するLevinson再帰関数の実施によって全次数(m=0,1,2,...L)について計算する。FPEX(m)およびFPEY(m)の最小値の位置(それぞれQXおよびQY)を、それぞれXi(t)およびYi(t)の電力スペクトルのARフィルタの次数であるように選択する(すなわち、以下の式:
【0050】
【数13】

)。
【0051】
一旦電力スペクトルについてのARフィルタの次数が選択されると、自己相関配列({R2X(m)}および{R2Y(m)})を、Lの代わりにそれぞれ次数QXおよびQYを有するLevinson再帰に入力する。再帰から得られた係数{ciX,i=0,1,...,QX}および{ciY,i=0,1,...,QY}は、それぞれXi(t)およびYi(t)の電力スペクトルについてのARフィルタの係数である。次いで、ステップ912では、電力スペクトルPX(f)およびPY(f)を、予測誤差(σz2)を係数のフーリエ変換の大きさの平方で割るものとして演算処理する(すなわち、以下の式:
【0052】
【数14】

)。同様に、クロススペクトルPxy(f)を、式:
【0053】
【数15】

で計算することができ、コヒーレンスアレイを、上記のPX(f)、PY(f)、およびPxy(f)から計算する。
【0054】
システムは、ステップ914、916、および918において、オート/クロス実数および複素数三重積を推算する。推算プロセスは、2つの主なステージ(次数選択ならびに実数および複素数三重積の演算処理)を含む。ステップ914では、3次モーメントの2つの配列({R3X(τ)}および{R3Y(τ)})を以下の式を使用して演算処理する。
【0055】
【数16】

式中、s1=max(1,1−τ)、s2=min(N,N−τ)、およびLは可能な自己回帰フィルタ次数よりもはるかに高い(例えば、50)。
【0056】
ステップ916では、2つの超行列TXおよびTYを以下のように形成する。
【0057】
【数17】

バイスペクトルアレイのARフィルタについて得た仮定から、Xi(t)およびYi(t)のバイスペクトルアレイのARフィルタの次数OXおよびOYは超行列TXおよびTYの階数である。したがって、特異値分解の使用によってOXおよびOYを選択する。次数が見出されると、以下の式の線形システム:
【0058】
【数18】

(式中、歪み(βz)および係数(b1z,...,bOzz)(z=X,Y)を式の線形システムを解くことによって得ることができる)を解くことによってバイスペクトルアレイのARフィルタの係数が得られる。
【0059】
ステップ918で、Xi(t)およびYi(t)の平均オート/クロス複素数三重積を、歪みの三重積の立方根(βXβYβY1/3をARフィルタ係数(Hz(f))のフーリエ変換の三重積で割ったもの、すなわち、
【0060】
【数19】

として演算処理し、BR(f1,f2)は平均オート/クロス実数三重積:
【0061】
【数20】

である。
【0062】
平均オート/クロス複素数三重積および実数三重積を得た後、システムは、ステップ920でステップ816、818、820と同一の方法でバイスペクトル密度、2位相、およびバイコヒーレンスアレイを演算処理する。ステップ922では、システムは要求したバイスペクトルアレイをデータ演算処理ユニット30に戻す。
【0063】
(神経刺激有効性の指標の計算)
スペクトルアレイから計算した特徴ならびに他の周波数および時間領域法を使用して指標を構築することができる。好ましい実施形態では、このような指標を、神経刺激治療有効性に関するEEGの変化を定量するようにデザインする。このような指標の作成には、記録前および記録時の神経刺激状態ならびに治療状態および治療有効性の独立した測定と共に神経刺激装置で治療することが意図される特定の病的状態を有する個体由来のEEGデータのデータセットが必要である。
【0064】
本実施例の作成では、DBS刺激装置を埋め込んだ一連の大鬱病性障害(MDD)または強迫性障害(OCD)患者からEEGデータを記録した。患者の眼を閉じた覚醒時にEEGを記録した。DBS刺激前(ベースラインレコーディング)およびその後の複数のオン−オフ刺激サイクル時におけるEEGデータを電極対(A1−Fpz(左半球)およびA2−Fpz(右半球))から記録した。各記録時に、被験体は1〜10のスケールでの気分(すなわち、1および10は考えられる最低および最高の気分である)および不安レベル(1は全く不安がなく、10は考えられる最大の不安である)を自己報告した。気分および不安スコアは、EEGと無関係の患者の状態の基準であり、治療(ここで、神経刺激)での気分の変化は治療有効性とは無関係の基準である。気分評価のダイナミックレンジを増加させるために、刺激装置をオフ(典型的には、気分が低下する)およびオン(典型的には気分が改善される)にしてEEGを記録した。各チャネル(A1−FpzおよびA2−Fpz)について、上記のように種々のスペクトルアレイを計算し、患者の各気分および不安の評価の直前について各アレイを計算した。不自然な結果を含まないEEGの最初の30秒間の2秒記録を使用して0.5Hz分解能で全周波数について平均EEGスペクトルアレイを計算した。
【0065】
好ましい実施形態では、2つのEEGチャネル(A1−FpzおよびA2−Fpz)を平均したα周波数範囲(8〜12Hz)内の絶対電力として特徴を計算した。この特徴(絶対α電力)を、
【0066】
【数21】

で計算する。
【0067】
絶対電力を、各EEGチャネルについて個別にα周波数領域にまとめ、2つのチャネルの平均α電力を計算する。絶対α電力と気分スコアとの相関は、体系的に負であり、その結果、被験体の気分スコアの増加につれてα電力は減少する。絶対α電力と気分スコアとの間ピアソンの線形相関は統計的に有意である(R=−0.821、p=0.012)。
【0068】
好ましい実施形態は、EEGデータの2つのチャネルを使用するにもかかわらず、別の実施形態は1つまたは複数のチャネル由来のデータを含み得る。さらに、生体系はいくらか変化するので、幾らか異なる周波数範囲で等価なパフォーマンスが得られる可能性が高い。同様に、他の周波数範囲を使用することができる。
【0069】
好ましい実施形態における電力スペクトルアレイから計算した別の特徴は、左脳半球と右脳半球との間のα周波数範囲(8Hz12Hz)における絶対電力の相違である。この特徴、絶対α非対称、または脳半球間の相違を、
【0070】
【数22】

で計算する。
【0071】
分析の際、患者の絶対α非対称が気分スコアと相関することが確定された。両側相違の別の計算手段は、相対電力非対称である。目的の周波数範囲(この場合、0.5〜20Hz)で左チャネルおよび右チャネルの絶対α電力をその各全電力で割ることにより、全EEG電力レベルの変化および気分スコアとの相関の増加のデータを正規化する。正規化した各チャネルのα電力を、相対α電力と呼び、左側と右側の相対α電力の相違は相対α非対称である。このパラメータを、左脳半球の相対α電力(すなわち、EEGチャネルA1−Fpzから計算)−右脳半球の相対α電力(すなわち、EEGチャネルA2−Fpzから計算)で計算する。
【0072】
【数23】

【0073】
相対α電力の脳半球間の相違と気分スコアとの相関は体系的に正であり、その結果、被験体の気分が良くなるほど頭部の右側の相対α電力に対して頭部の左側の相対α電力が増加する。MDDにおける相対α非対称と対応する気分スコアとの間のピアソンの線形相関(R)は、0.838(p<0.001)である。MDD患者集団とOCD患者集団との組み合わせでは、相対α非対称の変化と気分スコアとの相関はR=0.766であり、病因と無関係である。さらなる所見は、同一時間で相対α非対称の変化が不安スコアの変化と逆に相関し(R=−0.605、p<0.02)、この関係は個体および病因(MDDおよびOCD)とも一致することである。さらに、好ましい実施形態はEEGデータの2つのチャネルを使用するにもかかわらず、別の実施形態は1つまたは複数のチャネル由来のデータを含み得る。さらに、生体系はいくらか変化するので、幾らか異なる周波数範囲で等価な性能が得られる可能性が高い。同様に、他の周波数範囲を使用することができる。
【0074】
指標をしばしば一次方程式の形態を有するように指定する。当業者は、非一次方程式または神経回路網などの他の形態を同様に使用することができることを容易に認識する。好ましい実施形態では、指標は、一般式:
【0075】
【数24】

(式中、Coは定数であり、{Fi,i=1,2,...p}は特徴組であり、{ci,i=1,2,...p}は特徴に対応する係数組であり、pは特徴数である)を有する。
【0076】
気分を変化させるための神経刺激の有効性を追跡するための指標を、以下の式:
【0077】
【数25】

で計算することができる。
【0078】
ここで、c0およびc1を、IndexMood_1の範囲が特徴F1(例えば、絶対α電力)について0(最小有効状態)と100(最大有効状態)との間であり、有効性が増加するにつれて減少する(負の相関)と定義する。この例(min(F1)=122.9およびmax(F1)=191.9)を導き出すために使用したデータベースに基づいて、c0=278.12およびc1=−1.45が得られる。α電力と気分スコアとの高度な相関(R=−0.821、p=0.012)は、IndexMood_1が気分状態の高感度の基準であることを示す。
【0079】
気分を変化させるための神経刺激の有効性を定量する別の指標を、相対α非対称を使用して、以下の式で計算することができる:
【0080】
【数26】


【0081】
さらに、c0およびc1を、IndexMood_2の範囲が特徴F1(例えば、絶対α非対称)について0(最小有効状態)と100(最大有効状態)との間であり、有効性が増加するにつれて増加する(正の相関)と定義する。これらの結果(min(F1)=−0.048およびmax(F1)=0.068)を導き出すために使用したデータセットでは、c0=41.379およびc1=862.069が得られる。相対α電力と気分スコアとの脳半球内相違の高度な相関は、IndexMood_2が気分状態の高感度の基準であることを示す。2つの実施形態における定数c0およびc1の異なる形態はF1と気分スコアとの間の相関(正対負)の徴候に起因することに留意のこと。1つの特徴の場合、c0およびc1の値は単に倍率であり、c0=0およびc1=1の場合、1つの特徴からなる指標の値は単に特徴自体の値であることに留意すべきである。上記式と同一の一般的形態を使用して、複数の特徴を含む指標を同様に使用することができる。前記考察は脳半球間のEEGチャネルから導出した指標に特定しているが、1つまたは複数の片側EEGチャネルならびに両側EEGチャネルの他のモンタージュから特徴を計算することができる。片側および両側の特徴の組み合わせから指標を構築することもできる。
【0082】
異なる周波数バンドから演算処理した特徴も使用することができる。例えば、予備作成では、いずれかの脳半球から計算したθ帯域(4〜8Hz)における相対電力が患者の気分スコアと負に相関すると割り出された。したがって、F1=相対θ電力、min(F1)=0.005、およびmax(F1)=0.310を使用して気分スコアの別の指標を演算処理して、以下を得ることができる:
【0083】
【数27】

【0084】
この考察は電力スペクトルアレイから導出された指標に特定しているが、この方法に制限されない。バイスペクトルアレイ(すなわち、バイスペクトル、複素数三重積、実数三重積、2位相およびバイコヒーレンス(全てオートおよびクロス公式化のため))ならびにクロススペクトルアレイおよびコヒーレンスアレイの種々の周波数領域から特徴を計算することができる。他の方法を使用して、中央値、標準偏差および分散、パーセンタイル、特定の周波数に拘束された領域内の絶対電力、相対電力(特定の周波数で拘束された領域内での総電力の百分率としての絶対電力)、神経回路網、フラクタルスペクトル分析、エントロピーおよび複雑さなどの情報理論由来の基準、ならびに当業者に公知の他の統計的尺度などの特徴を導出することができる。パターンまたはテンプレートマッチングなどの種々の時間領域分析方法から特徴を導出することもできる。特徴により、一定時間にわたる特定の条件の有無または特定の時間で特定の条件が満たされる程度(例えば、電力アレイまたはバイスペクトルアレイの特定の周波数帯域における電力が閾値よりも低い最近の期間での時間の百分率)を定量することもできる。特定の条件またはシグナル型の検出器を、2つまたはそれ以上の異なる状態のみを有する特徴または指標として使用することもできる。
【0085】
演算処理した指標または特徴は、患者の神経学的状態または精神状態を反映する。記載の実施形態では、種々のIndexMood_i(i=1,2,3)は、気分スコアによって定量した患者の気分の基準である。したがって、本発明を使用して、IndexMood_iが最大値に増加するように治療パラメータを変更することによって特定の治療方法を最適化することができる。神経刺激の場合、治療パラメータには、刺激シグナルの振幅、周波数、極性、およびパルス幅、ならびに選択した刺激電極のサブセットが含まれる。他の治療方法のために、治療パラメータには、投薬量(薬理学的治療)、刺激電圧(ECT)、および電界強度(TMS)が含まれ得る。
【0086】
本発明のシステムおよび方法は、神経刺激の治療有効性をモニタリングする。本発明は治療に起因する神経活性の変化をモニタリングするので、特定の治療方法に依存しない。したがって、本発明を使用して、他の治療型(薬理学的治療、電気痙攣療法、および経頭蓋磁気刺激が含まれるが、これらに限定されない)の有効性を同様にモニタリングすることができる。
【0087】
(感度および特異性を改良するための試験方法)
本発明の感度および特異性を、異なる試験方法の使用によって増加することができる。異なる試験方法は、2つまたはそれ以上の連続的評価を使用し、評価間の試験測定基準の値および各評価の実際の値の変化を分析する。一般に、睡眠などの異なる条件下または精神的作業などの有害因子の影響下で評価し、これらをベースライン評価と比較する。痴呆、鬱病、OCD、および他の神経障害を罹患した患者は、異なる試験方法において正常な被験体と異なるEEG反応を示す。この記載は、由来する指標のパフォーマンスを増加させるために使用することができるいくつかの異なる試験方法を記載する。好ましくは、試験測定基準は、EEGスペクトルアレイおよび他のパラメータから導出される指標であり、ここではINDEXとして示す。
【0088】
1つの異なる試験方法は、刺激装置がオンおよびオフの場合の患者の種々の反応を活用する。電極を、眼を開けるか閉じて静かに座るように指示された被験体に最初に適用する。神経刺激装置60がオフの状態で、DAU20がEEGのセグメントを収集し、これを分析のためにDCU30に送信してベースラインを評価する。一般に、数分のセグメントを使用してINDEX値を計算する。DCU30によってEEGセグメントからINDEX値の第1の値(INDEXsitim_offとして示す)を計算する。次いで、刺激装置60をオンにし、DAU20によって第2のEEGのセグメントを収集し、分析のためにDCU30に送信する。第2の評価期間に収集したEEGからDCU30によって第2のINDEX値(INDEXsitim_onとして示す)を計算する。この後の評価期間は、神経刺激装置60をオンにするか一定時間オンにした後にオフにする時間であり得る。不自然な結果について収集されたデータの試験および検出された不自然な結果の除去または分析からの収集データの不自然な結果を示す部分の排除は、INDEX値の計算の不可欠な部分である。これらの2つの評価時間から得られたINDEX値間の相違(INDEXsitim_on−INDEXsitim_off)は、治療有効性の定量に使用することができる指標を構成する。例えば、相対α非対称と気分スコアとの相関を、刺激装置をオンにするかオンにした後にオフにした場合のベースライン(刺激装置オフ)とその後の期間由来の相対α非対称の変化の比較によって改良することができる。MDDにおける相対α非対称の変化は、同一期間にわたり気分スコアの変化と強く相関する(R=0.872、p<0.001)。この関係は、刺激モード(双極刺激、単極刺激、および刺激装置オフ)と無関係である。異なる制御設定(例えば、異なる刺激シグナル周波数(繰り返し率)、パルス幅、パルス振幅、および負荷サイクル、リードの選択、および刺激装置のシグナル極性)で神経刺激装置を使用したINDEX値の比較によってこの異なる方法を拡大することができる。
【0089】
別の試験方法は、眼が開いている患者から収集したEEGから計算したINDEXの第1の値と眼が閉じている患者から収集したEEGから計算したINDEXの第2の値との相違を計算する。神経刺激装置60は、任意の評価においてオンまたはオフであり得る。電極15を、眼を開けて静かに座るように指示された被験体に最初に適用する。DAU20によってEEGのセグメントを収集し、分析のためにDCU30に送信する。一般に、数分のセグメントを使用してINDEX値を計算する。次に、被験体に眼を閉じて静かに座るように指示し、DAU20によって第2のEEGセグメントを収集し、分析のためにDCU30に送信する。DCU30は、INDEXeyes_openおよびINDEXeyes_closedと呼ばれる収集データの第1および第2の期間についてのINDEX値を計算する。不自然な結果について収集されたデータの試験および検出された不自然な結果の除去または分析からの収集データの不自然な結果を示す部分の排除は、INDEX値の計算の不可欠な部分である。INDEXeyes_openとINDEXeyes_closedとの数字上の差は、治療有効性の定量に使用することができる指標を構成する。
【0090】
第3の異なる試験方法は、リラックス状態の患者から収集したEEGから計算したINDEXの第1の値と暗算を行っている患者から収集したEEGから計算したINDEXの第2の値との相違を計算する。神経刺激装置60は、任意の評価においてオンまたはオフであり得る。被験体に両記録の間に眼を開けているように指示することができる。あるいは、両記録期間に眼を閉じているように指示するように指示することができるが、これにより選択することができる暗算が制限され得る。暗算は適切な困難を与えるために選択された任意の単純な作業または一連の作業であり得るが、試験すべき集団で特別な訓練を必要としないほど普遍的であるか、普遍的でない教育レベルを必要とする。2つの作業の例は、小切手帳の釣り合わせまたは100からの3つずつの逆算、および2つの日付の間の日数の計算で必要な心の中での足し算および引き算である。電極15を、静かに座るように指示された被験体に最初に適用する。DAU20によってEEGセグメントを収集し、分析のためにDCU30に送信する。再度、数分間のセグメントを使用して、INDEX値を計算する。次いで、被験体に精神的作業を指示し、その後これを完了するように要求する。暗算中にDAU20によって第2のEEGセグメントを収集する。次いで、収集したデータを、分析のためにDCU30に送信する。DCU30は、INDEXbaselineおよびINDEXtaskと呼ばれる収集データの第1および第2の期間についてのINDEX値を計算する。INDEXtaskとINDEXbaselineとの数字上の差は、治療有効性の定量に使用することができる指標を構成する。
【0091】
(最大治療有効性を得るための神経刺激装置のパラメータの自動化調整)
神経刺激装置を無効にした場合の指標の計算によってEEG状態のベースライン測定を評価することができる。この値を、種々の神経刺激装置パラメータ(設定)で計算された指標と比較することができる。最も高い治療有効性およびそれによる最適な神経刺激装置のパラメータは、対応する指標の値とベースライン指標の値との間の相違を最大にしたものに対応する。指標の値は神経刺激装置の有効性の単変量基準であるので、制御シグナルをDCU30から神経刺激装置60に供給することができる。この制御シグナルを使用して、種々の神経刺激装置パラメータを制御することができる。神経刺激装置の設定の種々の組み合わせを、DCU30によって自動的に選択し、各設定についての指標値を計算することができる。最適な神経刺激装置のパラメータを、指標が指標のベースライン(神経刺激装置オフ)値と最も相違するパラメータであるように決定する。次いで、DCU30は、最適であるように決定されたパラメータを使用して神経刺激装置を設定するように指令する。
【0092】
一般に、神経刺激装置は、しばしば連続様式で調整することができる4つまたはそれ以上のパラメータを有する。したがって、パラメータの組み合わせ数は非常に多い。異なるストラテジーを使用して、試験するパラメータの組合わせ数を減少させる一方で、指標の極大値を依然として見出す(最大INDEX値を使用して最大治療有効性が得られると見なす)ことができる。例えば、全パラメータを名目値で最初に設定し、その後1つのパラメータをその範囲で調整することができる。DCU30は、ベースラインとの最大INDEX相違が得られるパラメータ値を記録する。全パラメータについてこのプロセスを繰り返す。プロセスの最後に、神経刺激装置60を、各パラメータを設定するDCU30によって最適な設定に設定する。指標の別の実施形態では、指標の極大値が得られる設定が望ましい。本明細書中に記載の発明は、治療として神経刺激を使用する。しかし、本発明を薬物の投与、電気痙攣療法、および経頭蓋磁気刺激などの他の治療に適用することができる。前者(薬剤)の場合、用量または投与計画を変化させることができ、後の2者では、ショックパラメータを変化させることができる。
【0093】
上記発明をその好ましい実施形態を参照して記載しているが、当業者は種々の変更形態および修正形態を認識する。全てのこのような変更形態および修正形態は添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明のシステムのブロック図である。
【図2】本発明の電力スペクトルアレイおよびオート/クロスバイスペクトルアレイの演算処理方法のフローチャートである。
【図3】本発明の電力スペクトルアレイおよびオート/クロスバイスペクトルアレイの別の演算処理方法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体からの電気生理学的シグナルを収集するための少なくとも2つの電極と、
前記電気生理学的シグナルから治療有効性に関する少なくとも1つの特徴を計算するためのプロセッサとを含む、神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項2】
前記治療が神経刺激であることを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項3】
前記神経刺激が脳深部刺激であるあることを特徴とする請求項2に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項4】
前記神経刺激が迷走神経刺激であることを特徴とする請求項2に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項5】
前記治療が薬物投与であることを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項6】
前記治療が電気痙攣療法であることを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項7】
前記治療が経頭蓋電気刺激であることを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項8】
前記プロセッサが少なくとも2つの特徴を計算し、前記少なくとも2つの特徴を指標と組み合わせることを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項9】
前記プロセッサがスペクトルアレイから少なくとも1つの特徴を計算することを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項10】
前記プロセッサが電力スペクトルアレイから少なくとも1つの特徴を計算することを特徴とする請求項8に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項11】
前記プロセッサがバイスペクトルアレイから少なくとも1つの特徴を計算することを特徴とする請求項8に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項12】
前記少なくとも1つの特徴が時間領域の特徴であることを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項13】
前記少なくとも2つの電極を両側モンタージュに配置することを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項14】
前記少なくとも2つの電極を片側モンタージュに配置することを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項15】
前記特徴が各電気生理学的シグナルから計算した測定基準の脳半球間の相違であることを特徴とする請求項1に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項16】
前記測定基準がスペクトルの特徴であることを特徴とする請求項15に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項17】
前記測定基準が時間領域の特徴であることを特徴とする請求項15に記載の神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項18】
身体からの電気生理学的シグナルを収集するための少なくとも2つの電極と、
前記電極からベースライン条件を示す第1の電気生理学的シグナルおよびその後の条件を示す第2の電気生理学的シグナルを収集するためのデータ収集回路と、
前記データ収集回路から受信した前記電気生理学的シグナルから、
(a)ベースライン条件時の患者の状態に関する少なくとも1つの特徴と、
(b)その後の条件時の患者の状態に関する少なくとも1つの特徴と、
(c)前記ベースライン条件および前記その後の条件に関する特徴の相違を計算するためのプロセッサとを含み、前記相違が治療有効性に関する、神経障害の治療有効性を評価するためのシステム。
【請求項19】
身体からの電気生理学的シグナルを収集するための少なくとも2つの電極と、
前記電気生理学的シグナルから治療有効性に関する少なくとも1つの特徴を計算するためのプロセッサと、
前記電極から前記電気生理学的シグナルを収集し、前記電気生理学的シグナルを前記プロセッサが使用可能な形式に変換するためのデータ収集回路と、
計算された治療有効性を最大にするための神経刺激装置の治療パラメータを変化させるためのプロセッサとを含む、神経障害の治療有効性を最適化するためのシステム。
【請求項20】
身体に配置した電極を介して身体からの電気生理学的シグナルを収集する工程と、
前記電気生理学的シグナルから治療有効性に関する少なくとも1つの特徴を計算する工程とを含む、神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項21】
前記治療が神経刺激であることを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項22】
前記神経刺激が脳深部刺激であることを特徴とする請求項21に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項23】
前記神経刺激が迷走神経刺激であることを特徴とする請求項21に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項24】
前記治療が薬物投与であることを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項25】
前記治療が電気痙攣療法であることを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項26】
前記治療が経頭蓋電気刺激であることを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項27】
前記特徴を指標と組み合わせる工程をさらに含むことを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つの特徴をスペクトルアレイから計算することを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項29】
前記少なくとも1つの特徴を電力スペクトルアレイから計算することを特徴とする請求項27に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つの特徴をバイスペクトルアレイから計算することを特徴とする請求項27に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項31】
前記少なくとも1つの特徴が時間領域の特徴であることを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項32】
前記少なくとも2つの電極を両側モンタージュに配置することを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項33】
前記少なくとも2つの電極を片側モンタージュに配置することを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項34】
前記特徴が各電気生理学的シグナルから計算した測定基準の脳半球間の相違であることを特徴とする請求項20に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項35】
前記測定基準がスペクトルの特徴であることを特徴とする請求項34に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項36】
前記測定基準が時間領域の特徴であることを特徴とする請求項34に記載の神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項37】
治療を受ける身体に少なくとも2つの電極を位置づける工程と、
ベースライン条件で前記身体からの第1の電気生理学的シグナルを収集する工程と、
その後の条件時に身体から第2の電気生理学的シグナルを収集する工程と、
前記ベースライン条件時の患者の状態に関する少なくとも1つの特徴を計算する工程と、
前記その後の条件時の患者の状態に関する少なくとも1つの特徴を計算する工程と、
前記ベースライン条件時および前記その後の条件時に計算した特徴の相違を計算する工程と、前記相違が治療有効性に関することとを含む、神経障害の治療有効性を評価する方法。
【請求項38】
治療を受ける身体に少なくとも2つの電極を位置づける工程と、
前記身体から電気生理学的シグナルを収集する工程と、
治療有効性に関する少なくとも1つの特徴を計算する工程と、
計算された治療有効性を最大にするために治療パラメータを変化させる工程とを含む、神経障害の治療有効性を最適化する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−515200(P2007−515200A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532798(P2006−532798)
【出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/014039
【国際公開番号】WO2004/100765
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(500568240)アスペクト メディカル システムズ,インク. (8)
【Fターム(参考)】