説明

脳波推定装置、脳波推定方法及びプログラム

【課題】頸部へ電極を付着することなく頸部筋電位を推定して、推定した頸部筋電位をノイズ成分として脳波データから除去する脳波推定装置、脳波推定方法及びプログラムを提供すること。
【解決手段】脳波推定装置100は、エンジン動作判定部110と、脳波を計測する脳波計測部120と、運転者の顔向き角度を計測する顔向き計測部130と、計測した顔向き角度と脳波計測部120で計測した脳波データとを対応付けて頸部筋電位データとして蓄積する頸部筋電位蓄積部140と、頸部筋電位蓄積部140に蓄積された頸部筋電位データを参照し、計測した顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する頸部筋電位推定部150と、計測した脳波データから前記頸部筋電位をノイズ成分として除去する脳波信号処理部160とを備え、頸部筋電位を直接計測することなく、運転中の運転行動が直接影響する頸部筋電位成分を脳波データから除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳波推定装置、脳波推定方法及びプログラムに係り、詳細には、車両運転時の脳波計測において、運転行動に伴う頸部筋電位の信号成分を脳波データから除去する運転時の脳波推定装置及び脳波推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運動に関連して変化する脳電位の信号成分を脳波データから取り出して、脳運動機能の解析診断を行う脳運動機能解析診断方法及び装置が記載されている。特許文献1記載の脳運動機能解析診断方法は、運動に関連して変化する脳電位変化が周波数の変化として検出しやすくなることに着目し、脳波データ中に埋没している運動関連脳電位の微小な信号成分を、ウェーブレット変換により、周波数分布の時間変化の形で容易に計測できるようにする。
【0003】
図1は、特許文献1に記載の脳運動機能解析診断方法を示す図である。
【0004】
図1に示すように、被験者であるヒトの頭皮から取得された脳電位のデジタルデータと、眼球電位のデジタルデータ、耳朶電位のデジタルデータ、皮膚から取得された筋電位のデジタルデータは、それぞれタイムマーカとともに一旦ファイル記憶装置21に格納される。
【0005】
加算平均処理部22は、ファイル記憶装置21から脳電位デジタルデータの複数波形分を読み出して、加算平均処理する。加算平均された脳電位デジタルデータは、ウェーブレット変換処理部23においてウェーブレット変換される。
【0006】
ダイナミックスペクトラム生成処理部24は、ウェーブレット変換結果からダイナミックスペクトラムを生成し、ファイル記憶装置25に格納する。
【0007】
一方、脳電位と同時に皮膚から取得された眼球電位のデジタルデータ、耳朶電位のデジタルデータ、筋電位のデジタルデータは、それぞれウェーブレット変換処理部26でウェーブレット変換される。
【0008】
ダイナミックスペクトラム生成処理部27は、それぞれのウェーブレット変換結果からダイナミックスペクトラムを生成し、ファイル記憶装置25に格納する。
【0009】
変化生起時間検出処理部28は、運動の開始に伴って生起される筋電位の変化がパルス性であり、広帯域の周波数が含まれることから、ダイナミックスペクトラム上で広帯域の周波数成分の同時的変化を検出して、その時間位置を基準時間として出力する。
【0010】
脳運動機能解析処理部29は、その基準時間に基づいて脳電位のダイナミックスペクトラムを解析し、運動関連脳電位を同定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−272692号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】岡兼司他著「適応型拡散制御を伴うパーティクルフィルタを用いた頭部姿勢推定システム」電子情報通信学会論文誌 D−II Vol.J88−D−II No.8、2005年(pp.1601−01603)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1記載の脳波推定装置は、運動に関連して変化する脳電位の信号成分を脳波データから取り出すために、筋電位測定用の電極を直接頸部に付着して、取得される筋電位データから運動開始時間を検出している。計測した脳波データに含まれるノイズの多くが頸部を動かすことによって発生する頸部筋電位であり、この頸部筋電位を精確に計測することが、脳波データの計測精度向上につながる。
【0014】
しかしながら、運転中の脳波計測において頭部の皮膚に電極を付着させて計測を行うので、頸部を動かすことにより発生する筋電位が脳波データの計測に与える影響が大きい。すなわち、運転中は目視確認等の頸部を動かした安全確認行動により安定して脳波計測することが困難であり、また、運転者が安全確認行動を頻繁に行うため頸部へ電極を付着して計測することが困難であるという課題を有していた。
【0015】
本発明の目的は、頸部へ電極を付着することなく頸部筋電位を推定して、推定した頸部筋電位をノイズ成分として脳波データから除去する脳波推定装置、脳波推定方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の脳波推定装置は、脳波を計測する脳波計測部と、顔向き角度を計測する顔向き計測部と、前記顔向き計測部により計測した顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する頸部筋電位推定部と、前記脳波計測部により計測した脳波データから前記頸部筋電位推定部により推定した頸部筋電位をノイズ成分として除去する脳波信号処理部と、を備える構成を採る。
【0017】
本発明の脳波推定方法は、脳波を計測するステップと、顔向き角度を計測するステップと、計測した前記顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する頸部筋電位推定ステップと、計測した前記脳波データから推定した前記頸部筋電位をノイズ成分として除去するステップとを有する。
【0018】
また他の観点から、本発明は、上記脳波推定方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、頸部へ電極を付着することなく頸部筋電位を推定して、推定した頸部筋電位をノイズ成分として脳波データから除去することができる。頸部筋電位を直接計測することなく、運転中の運転行動が直接影響する頸部筋電位を脳波データから除去することで、運転中の脳波計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の脳運動機能解析診断方法を示す図
【図2】本発明の実施の形態に係る脳波推定装置の構成を示すブロック図
【図3】上記実施の形態に係る脳波推定装置の顔向き計測部の構成の一例を示す図
【図4】上記実施の形態に係る脳波推定装置の運転時の脳波推定方法の処理を示すフロー図
【図5】上記実施の形態に係る脳波推定装置の頸部筋電位蓄積部のデータ構造を示す図
【図6】上記実施の形態に係る脳波推定装置の頸部筋電位蓄積部の頸部筋電位例を示す図
【図7】上記実施の形態に係る脳波推定装置の運転者の顔向き角度を頭部の中心軸から右方向へ30度移動したときの脳波周波数解析例を示す図
【図8】国際10−20法の電極位置を示す図
【図9】上記実施の形態に係る脳波推定装置の運転者の顔向き角度に応じた脳波周波数解析結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
(実施の形態)
図2は、本発明の一実施の形態に係る脳波推定装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態は、車両運転時の脳波計測において、運転行動に伴う頸部筋電位の信号成分を脳波データから除去する脳波推定装置に適用した例である。
【0023】
図2に示すように、脳波推定装置100は、エンジン動作判定部110、脳波計測部120、顔向き計測部130、頸部筋電位蓄積部140、頸部筋電位推定部150、及び脳波信号処理部160を備える。
【0024】
脳波推定装置100は、頸部筋電位を直接計測することなく、運転中の運転行動が直接影響する頸部筋電位成分を脳波データから除去する。
【0025】
エンジン動作判定部110は、車両のエンジンが始動しているか否かを判定する。
【0026】
脳波計測部120は、脳波を計測する。
【0027】
顔向き計測部130は、運転者の顔向き角度を計測する。運転者の顔の向きの算出方法は、例えば非特許文献1に記載の適応的拡散制御を伴うパーティクルフィルタを用いた画像解析による頭部姿勢算出方法がある。運転者の顔の向きの算出方法の詳細については、図3により後述する。
【0028】
頸部筋電位蓄積部140は、顔向き計測部130で計測した顔向き角度と脳波計測部130で計測した脳波データとを対応付けて頸部筋電位データとして蓄積する。
【0029】
頸部筋電位推定部150は、予め顔向き計測部130で計測した顔向き角度と脳波計測部120で計測した脳波データを対応付けて頸部筋電位蓄積部140へ蓄積し、顔向き計測部130で計測した顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する。詳細には、頸部筋電位推定部150は、エンジン動作判定部110で車両のエンジンが始動していないと判定した場合には顔向き計測部130で計測した顔向き角度と脳波データを対応付けて頸部筋電位蓄積部140へ蓄積し、エンジンが始動していると判定した場合には顔向き計測部130で計測した顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する。
【0030】
脳波信号処理部160は、脳波計測部120で計測した脳波データから頸部筋電位推定部150で推定した頸部筋電位をノイズ成分として除去する。詳細には、脳波信号処理部160は、エンジン動作判定部110で車両のエンジンが始動していると判定した場合に脳波計測部120で計測した脳波データから頸部筋電位推定部150で推定した頸部筋電位をノイズ成分として除去する。
【0031】
図3は、上記顔向き計測部130の構成の一例を示す図であり、適応的拡散制御を伴うパーティクルフィルタを用いた頭部姿勢算出方法の構成を示す。
【0032】
本実施の形態では、運転席前方に設置した2台のカメラからの入力画像を基に頭部の3次元的な姿勢を推定する。
【0033】
図3に示すように、顔向き計測部130は、ユーザの頭部の3次元モデルを自動的に獲得する初期化部131と、パーティクルフィルタから頭部姿勢を追跡する追跡部132とを備える。
【0034】
追跡部132は、パーティクルフィルタの頭部動作モデルにおける仮説の拡散を適応的に制御する。ユーザの頭部が静止している場合の推定精度を高く維持すると共に、ユーザが突発的に動作する場合の追従性にも強いという特性があることから、運転者の顔向きを算出するものとして適している。
【0035】
前記非特許文献1に記載の画像解析による頭部姿勢算出方法では、頭部の3次元的な姿勢を推定することができる。本実施の形態における頸部筋電位推定方法では、頭部の中心軸に対する横方向の角度に応じて脳波出力に変化が見られるため、顔向き計測部130では頭部の中心軸に対する横方向の角度を算出する。
【0036】
また、運転者の顔の向きを頭部の中心軸から横方向へ角度(0度〜±40度)移動した時の脳波データを計測する代わりに、顔向き計測部130は、ルームミラー・サイドミラーの位置等、車室内の固定目標物を予め設定し、その目標物方向へ運転者の顔の向きが移動したことを検出し、その時の脳波データと顔向き角度を関連付けて頸部筋電位蓄積部140に蓄積してもよい。
【0037】
以下、上述のように構成された脳波推定装置100の動作について説明する。
【0038】
脳波推定装置100は、運転前と運転中の状態でかかる構成による処理内容が異なり、運転前は計測した脳波データを運転者の顔向き角度に対応付けて蓄積する処理を行い、運転中は顔向き角度に対応した頸部筋電位を推定し、脳波データから頸部筋電位を除去する処理を行う。このため、本実施の形態では、エンジン動作判定部110が運転者の状態判定を行う。
【0039】
図4は、脳波推定装置100の運転時の脳波推定方法の処理を示すフローチャートである。図中、Sはフローの各ステップを示す。
【0040】
ステップS1からステップS4では、運転前の安静な状態で計測した脳波データを運転者の顔向き角度に対応付けて蓄積する処理を行う。
【0041】
ステップS11からステップS15では、運転中の顔向き角度に対応した頸部筋電位を推定し、脳波データから頸部筋電位を除去する処理を行う。
【0042】
まず、運転前の運転者が安静な状態で顔の向きを頭部の中心軸から横方向へ角度(0度〜±40度)移動した時の脳波データを計測する。車両のエンジン始動前の運転者が安静な状態での脳波データを計測するために、エンジン動作判定部110は、車両のエンジンが始動しているか否かを判定する。
【0043】
エンジン動作判定部110でエンジンが始動していないと判定した場合に、顔向き計測部130は、運転者が顔の向きを移動したときの顔向き角度を計測し、脳波計測部120は脳波を計測する。
【0044】
次いで、頸部筋電位推定部150は、顔向き計測部130にて計測した顔向き角度と、脳波計測部120にて計測した脳波データを関連付け、頸部筋電位蓄積部140へ蓄積する。運転者の顔向き角度が頸部筋電位に相関があることに着眼し、運転前の安静な状態で計測した脳波データを運転者の顔向き角度と対応付け、頸部筋電位して蓄積する。以上の処理を、車両のエンジンが始動するまでの間繰り返す。
【0045】
次いで、運転中の運転者の脳波データを計測する。エンジン動作判定部110は、車両のエンジンが始動しているか否かを判定する。
【0046】
エンジン動作判定部110でエンジンが始動していると判定した場合に、顔向き計測部130は、運転者が顔の向きを移動したときの顔向き角度を計測し、脳波計測部120は脳波を計測する。
【0047】
次いで、頸部筋電位推定部150は、頸部筋電位蓄積部140を利用して、前記顔向き計測部130で計測された顔向き角度から頸部筋電位を推定する。脳波信号処理部160は、脳波計測部120で計測した脳波データから前記頸部筋電位推定部150により推定した頸部筋電位を除去し、運転中の頸部筋電位を除去した脳波データを推定する。
【0048】
次いで、エンジン動作判定部110は、車両のエンジンが終動しているか否かを判定する。エンジン動作判定部110でエンジンが終動と判定した場合には、本処理フローを終了する。
【0049】
[運転前の運転者が安静な状態の処理]
次に、運転前の安静な状態での脳波計測方法の処理フローを詳細に説明する。
【0050】
まず、ステップS1からステップS4において、運転前の安静な状態で顔向き角度に対応した脳波データを計測し、運転中の頸部筋電位として蓄積する処理を説明する。
【0051】
ステップS1において、エンジン動作判定部110は、車両のエンジンが始動しているか否かを判定する。エンジン動作判定部110でエンジンが始動していないと判定した場合に、ステップS2へ進む。
【0052】
ステップS2において、顔向き計測部130は、運転者の顔の向きを頭部の中心軸から横方向の角度で算出する。運転者の顔の向きの算出方法は、図3により説明した。
【0053】
ステップS3において、脳波計測部120は、頭部に電極を付着させて脳波を計測する。計測時間は約30秒間、顔の向きを頭部の中心軸から横方向へ角度−40度から40度まで10度単位で固定、静止させた状態で計測を行う。
【0054】
ステップS4において、頸部筋電位推定部150は、脳波計測部120にて計測した時系列の脳波データにフーリエ変換(FFT)を行い、周波数成分を抽出する。これを頸部筋電位の周波数成分とし、顔向き計測部130にて計測した顔向き角度とを対応付けて頸部筋電位蓄積部140へ蓄積する。
【0055】
図5は、頸部筋電位蓄積部140のデータ構造を示す図、図6は、頸部筋電位蓄積部140の頸部筋電位例を示す図である。
【0056】
図5に示すように、頸部筋電位蓄積部140は、顔向き角度、データ個数、計測時刻、頸部筋電位格納アドレス、頸部筋電位データ個数、のデータ項目より構成されている。また、図6に示すように、頸部筋電位は、周波数、パワーのデータ項目より構成されている。顔向き角度は、−40度から40度まで10度単位で格納し、また、頸部筋電位の周波数は、0.1Hzから45Hzまで、0.1Hz単位で格納する。
【0057】
例えば、顔向き計測部130において顔向き角度30度とした場合、筋電位推定部150は、脳波計測部120により計測した脳波データにフーリエ変換(FFT)を行い、脳波データの周波数成分を抽出する。筋電位推定部150は、抽出した脳波データの周波数成分を頸部筋電位蓄積部140の頸部筋電位へ0.1Hzから45Hzまで0.1Hz単位で格納し、顔向き角度30度における計測時刻と、頸部筋電位の格納アドレスと、頸部筋電位データ個数を格納し、データ個数を+1加算する処理を行う。
【0058】
ステップS4で頸部筋電位推定部150の頸部筋電位蓄積部140格納処理が終わった場合、ステップS1に戻り、エンジン始動前はステップS1からステップS4までの処理を繰り返す。
【0059】
[運転時の脳波推定方法の処理]
次に、運転時の脳波推定方法の処理フローを詳細に説明する。
【0060】
エンジンが始動した場合、ステップS11に移行する。
【0061】
ステップS11の処理では、ステップS2と同様の顔向き計測処理を行い、ステップS12の処理では、ステップS3と同様の脳波計測処理を行う。
【0062】
ステップS13において、頸部筋電位推定部150は、脳波計測部120で計測した脳波データの周波数成分を抽出する処理と、頸部筋電位蓄積部140を用いて頸部筋電位を推定する処理を行う。
【0063】
例えば、顔向き計測部130が顔向き角度30度と計測した場合、頸部筋電位推定部150は、脳波計測部120で計測された運転中の脳波データにフーリエ変換(FFT)を行い周波数成分を抽出する。また、頸部筋電位推定部150は、頸部筋電位蓄積部140の顔向き角度30度における頸部筋電位格納アドレス、データ個数を参照し、頸部筋電位の周波数と、パワーをデータ個数分抽出する。これを顔向き角度30度における頸部筋電位として推定し、脳波信号処理部160へ渡す処理を行う。
【0064】
ステップS14において、脳波信号処理部160は、運転中の頸部筋電位をノイズ成分として除去した脳波データを推定する処理を行う。
【0065】
図7は、運転者の顔向き角度を頭部の中心軸から右方向へ30度移動したときの脳波周波数解析例を示す図である。
【0066】
図7は、運転者の顔向き角度を右方向へ30度移動したときの脳波周波数解析例であり、図7を参照して、運転中の脳波波形の中から頸部筋電位を除去する方法について説明する。
【0067】
脳波信号処理部160は、頸部筋電位推定部150で得られた脳波データの周波数成分と頸部筋電位の2つを入力とする。頸部筋電位は、運転者の顔向き角度に応じて変化するものである。例えば、運転者が顔向き角度を右方向へ30度移動した場合、顔向き計測部130は、運転者の顔向き角度が30度であることを検出し、頸部筋電位推定部150は、顔向き角度30度に対応した頸部筋電位データを頸部筋電位として推定する。
【0068】
脳波信号処理部160は、所望の脳波データに対して頸部筋電位を除去する処理を行う。例えば、β波(13〜20Hz)を所望の脳波データとして抽出し運転者の覚醒状態を検出する場合は、前記図5において、周波数が13〜20Hzまでの範囲の脳波の周波数成分波形(A)及び、顔向き角度30度における頸部筋電位推定波形(B)を脳波信号処理部160における入力波形とし、(A)−(B)の波形を顔向き角度30度におけるβ波波形として分析を行い、運転者の覚醒状態を出力とする。
【0069】
ステップS15において、エンジン動作判定部110は、車両のエンジンが終動しているか否かを判定する。エンジンが終動していない場合はステップS11へ戻り、ステップS11からステップS14までの処理を繰り返す。エンジンが終動している場合は、本処理フローを終了する。
【0070】
上述の処理フローでは、ステップS13で顔向き角度に対応した頸部筋電位が蓄積されている場合を説明したが、顔向き角度に対応した頸部筋電位が蓄積されていない場合について説明する。
【0071】
図8は、国際10−20法の電極位置を示す図である。図9は、運転者の顔向き角度に応じた脳波周波数解析結果を示す図である。
【0072】
被験者は、脳波計(ティアック製、ポリメイトAP−1132)を装着し、電極の配置は国際10−20法(図8)を用い、導出電極をOz(後頭部。O1とO2の中間)、基準電極をA2(右耳朶)、接地電極を前額部とした。脳波データの計測は、A2の電位を基準としたOzの電位を計測し、サンプリング周波数200Hz、時定数3秒で計測した結果である。
【0073】
脳波は、種々の周波数や波形をもつ多くの構成要素から成立する。最も一般的な脳波の分類は、出現した波形を周波数帯域に分類する方法である。この方法に拠って、δ波(0.5〜3Hz)、θ波(4〜8Hz)、α波(8〜13Hz)、β波(13〜20Hz)と分類することができる。図9の計測結果から、顔向きの横方向の角度変化に応じて脳波の周波数成分の出力(パワー)に変化が見られる。
【0074】
これにより、顔向き角度に対応した頸部筋電位が蓄積されていない場合でも、脳波の周波数成分波形は、顔向き角度が10度未満の場合(図9:パターン1)、10度以上30度未満の場合(図9:パターン2)、30度以上の場合(図9:パターン3)のように、顔向き角度に応じたパターンを複数定義することにより、例えば、顔向き角度が35度の場合はパターン3を頸部筋電位として推定することができる。
【0075】
以上詳細に説明したように、本実施の形態の脳波推定装置100は、車両のエンジンが始動しているか否かを判定するエンジン動作判定部110と、脳波を計測する脳波計測部120と、運転者の顔向き角度を計測する顔向き計測部130と、計測した顔向き角度と脳波計測部120で計測した脳波データとを対応付けて頸部筋電位データとして蓄積する頸部筋電位蓄積部140と、頸部筋電位蓄積部140に蓄積された頸部筋電位データを参照し、計測した顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する頸部筋電位推定部150と、計測した脳波データから前記頸部筋電位をノイズ成分として除去する脳波信号処理部160とを備え、頸部筋電位を直接計測することなく、運転中の運転行動が直接影響する頸部筋電位成分を脳波データから除去する。
【0076】
かかる構成によれば、運転者の顔向き角度が頸部筋電位に相関があることに着眼し、運転前は、運転者の安静な状態での脳波データと顔向き角度とを対応付けて頸部筋電位蓄積部140へ蓄積することにより、運転前の安静な状態での脳波データを頸部筋電位として推定することができる。
【0077】
また、運転中は、頸部筋電位推定部150が頸部筋電位蓄積部140を利用して運転者の顔向き角度に対応した頸部筋電位を推定する。これにより、頸部筋電位を直接計測することなく、運転中の運転行動が直接影響する頸部筋電位をノイズ成分として脳波データから除去することで、運転中の脳波計測を行うことが可能となる。
【0078】
このように、運転前に予め頸部筋電位蓄積部140に蓄積した頸部筋電位データと、運転中に顔向き計測部130により計測した顔向き変化量から、頸部筋電位推定部150により筋電位成分(頸部筋電位)を推定する。脳波信号処理部160は、脳波データから前記頸部筋電位を除去することで、頸部筋電位を直接計測することなく、運転時の脳波計測が可能となる。
【0079】
以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されることはない。
【0080】
例えば、上記実施の形態において、運転前の安静な状態での脳波データと顔向き角度とを対応付けて頸部筋電位蓄積部140へ蓄積するためにエンジン動作判定部110を設けているが、エンジン動作判定部110を有しなくても安静な状態での脳波データと顔向き角度とを対応付けて頸部筋電位蓄積部140へ蓄積する構成を有していればよく、運転以外の場合にも適用が可能である。
【0081】
また、運転以外又は運転前以外の場所で計測したデータを予め蓄積しておく対応であれば、どのような態様でもよい。但し、頭部への電極の付着位置によって計測条件は大きく変動する。このため、電極の付着位置の変更がない状態で、運転前の安静な状態と運転中との差異を計測することが好ましい。
【0082】
また、本実施の形態では、脳波推定装置及び脳波推定方法という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、装置は頸部筋電位を除去した脳波計測装置、方法は頸部筋電位推定方法等であってもよい。
【0083】
さらに、上記脳波推定装置を構成する各構成部、例えばエンジン動作判定の種類、顔向き計測部の計測方法などは前述した実施の形態に限られない。
【0084】
以上説明した脳波推定方法は、この脳波推定方法を機能させるためのプログラムでも実現される。このプログラムはコンピュータで読み取り可能な記録媒体に格納されている。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る脳波推定装置及び脳波推定方法は、頸部筋電位を直接計測することなく、運転中の運転行動が直接影響する頸部筋電位をノイズ成分として脳波データから除去する効果を有し、運転中の覚醒低下、単調疲労、注意散漫などを検出するための脳波計測用途等として有用である。また、顔向き計測部を有する脳波計測装置は、運転中の脇見・居眠り等の警告用途にも応用できる。さらに、テレビを見ている時や、映像監視業務に携わっている時など、頸部を使った運転以外の場合にも応用が可能である。
【符号の説明】
【0086】
100 脳波推定装置
110 エンジン動作判定部
120 脳波計測部
130 顔向き計測部
140 頸部筋電位蓄積部
150 頸部筋電位推定部
160 脳波信号処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳波を計測する脳波計測部と、
顔向き角度を計測する顔向き計測部と、
前記顔向き計測部により計測した顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する頸部筋電位推定部と、
前記脳波計測部により計測した脳波データから前記頸部筋電位推定部により推定した頸部筋電位をノイズ成分として除去する脳波信号処理部と、
を備える脳波推定装置。
【請求項2】
前記顔向き計測部により計測した顔向き角度と前記脳波計測部により計測した脳波データとを対応付けて頸部筋電位データとして蓄積する頸部筋電位蓄積部を備える請求項1記載の脳波推定装置。
【請求項3】
前記頸部筋電位推定部は、前記頸部筋電位蓄積部に蓄積された頸部筋電位データを参照し、前記顔向き計測部で計測した顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する、請求項2記載の脳波推定装置。
【請求項4】
車両のエンジンが始動しているか否かを判定するエンジン動作判定部を備え、
前記頸部筋電位推定部は、
前記エンジン動作判定部で車両のエンジンが始動していないと判定した場合には前記顔向き計測部で計測した顔向き角度と脳波データを対応付けて前記頸部筋電位蓄積部へ蓄積し、前記エンジンが始動していると判定した場合には前記顔向き計測部で計測した顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する、請求項2記載の脳波推定装置。
【請求項5】
車両のエンジンが始動しているか否かを判定するエンジン動作判定部を備え、
前記脳波信号処理部は、
前記エンジン動作判定部で車両のエンジンが始動していると判定した場合には前記脳波計測部で計測した脳波データから前記頸部筋電位推定部で推定した頸部筋電位をノイズ成分として除去する、請求項1記載の脳波推定装置。
【請求項6】
前記顔向き計測部は、運転前の安静な状態で、顔の向きを頭部の中心軸から横方向へ動かした際の角度を計測し、
前記頸部筋電位蓄積部は、測定した前記角度を前記脳波データと対応付けて蓄積する、請求項1記載の脳波推定装置。
【請求項7】
前記頸部筋電位推定部は、運転時に、顔の向きを頭部の中心軸から横方向へ動かした際の角度に対応した頸部筋電位成分を推定し、
前記脳波信号処理部は、前記筋電位成分を除去した脳波データを抽出する、請求項1記載の脳波推定装置。
【請求項8】
前記頸部筋電位推定部は、運転時に、顔の向きを頭部の中心軸から横方向へ動かした際の角度の変化量と筋電位成分とを線形的に補完して頸部筋電位成分を推定し、
前記脳波信号処理部は、前記筋電位成分を除去した脳波データを抽出する、請求項1記載の脳波推定装置。
【請求項9】
前記頸部筋電位推定部は、運転時に、顔の向きを頭部の中心軸から横方向へ動かした際の移動速度と筋電位成分とを線形的に補完して頸部筋電位成分を推定し、
前記脳波信号処理部は、前記筋電位成分を除去した脳波データを抽出する、請求項1記載の脳波推定装置。
【請求項10】
脳波を計測するステップと、
顔向き角度を計測するステップと、
計測した前記顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する頸部筋電位推定ステップと、
計測した前記脳波データから推定した前記頸部筋電位をノイズ成分として除去するステップと
を有する脳波推定方法。
【請求項11】
計測した前記顔向き角度と計測した前記脳波データとを対応付けて頸部筋電位データとして蓄積するステップをさらに有し、
前記頸部筋電位推定ステップでは、蓄積された前記頸部筋電位データを参照し、計測した前記顔向き角度に応じて頸部筋電位を推定する、請求項10記載の脳波推定方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11記載の脳波推定方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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