説明

脳腫瘍を処置するための方法

治療抵抗性の脳腫瘍を含む脳腫瘍を処置するための方法および組成物を開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連米国特許出願の相互参照
本出願は、2010年2月26日に出願された米国特許仮出願第61/308,813号、および2010年11月17日に出願された米国特許仮出願第61/414,882号の恩典を主張し、それらの両方は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は全般的に、脳癌を処置するための薬学的組成物および方法、特に、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)を有する薬学的組成物、およびそれを使用する方法に関連する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
米国単独において毎年40,000件を超える脳腫瘍の新たな症例があり、かつ各年13,000人より多くがその疾患により死亡することが概算されている。手術および放射線療法の他には、処置の選択肢がほとんどない。テモゾロミドおよびニトロソ尿素は、脳腫瘍に受け入れられる唯一の化学療法であるが、かなり限定された有効性を示している。従って、脳腫瘍を処置する新たな作用物質が大いに必要とされている。
【0004】
米国特許出願公開第2009/0137620号(特許文献1)は、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III) 化合物が、黒色腫細胞株においてアポトーシスおよび細胞死を引き起こすのに有効であると示されることを開示している。しかしながら、前記化合物が、脳腫瘍、特に他の抗癌薬に対して抵抗性である脳腫瘍を処置するのに有用であるか否かは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0137620号
【発明の概要】
【0006】
本発明は、脳腫瘍を処置する方法を提供する。一つの局面において、本発明は、脳腫瘍を有する患者に、下記の式(I)記載の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療的または予防的有効量を投与する段階を含む、脳腫瘍を処置する方法、予防する方法、またはその発症を遅延させる方法を提供する。
【0007】
別の局面に従って、ニトロソ尿素(例えば、BCNU)およびテモゾロミドの少なくとも一つを含む処置に対して抵抗性である患者に、下記の式(I)記載の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療的または予防的有効量を投与する段階を含む、治療抵抗性の脳腫瘍を処置する方法、予防する方法、またはその発症を遅延させる方法が提供される。
【0008】
また別の局面において、処置を必要とする癌患者に、(1)下記の式(I)記載の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))、および(2)テモゾロミドの治療的有効量を同時にまたは連続的に投与する段階を含む、脳腫瘍を処置する方法、予防する方法、またはその発症を遅延させる方法が提供される。特定の態様において、前記組み合わせは、神経膠芽腫または星状細胞腫の処置のために使用される。
【0009】
本発明の方法における使用を目的とした医薬を製造するための、下記の式(I)記載の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の使用も、提供される。
【0010】
本発明の前述および他の利点および特徴、ならびに同一のものが達成される様式は、好ましい例示的な態様を例証する添付の実施例と併せて、以下の本発明の詳細な説明を考慮する際に、より容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】神経膠腫細胞株U87に由来する3次元腫瘍モデル(HuBiogel, Vivo Biosciences, Birmingham, AL)において、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)による用量依存的な増殖阻害(MTTアッセイ)を示すグラフである。X軸はμMでの薬物濃度であり、Y軸は対照に対する百分率である。
【図2】神経膠芽腫細胞株U251において、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)とテモゾロミドとの間の相加活性〜相乗活性を例証する併用指数プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III) 化合物が脳腫瘍を処置するのに特に有効であるという発見に、少なくとも一部基づく。従って、本発明の第一の局面に従って、脳腫瘍を処置するための方法が提供される。本方法は、処置を必要とする脳腫瘍患者を、式(I)のガリウム錯体またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量で処置する段階を含む:

式中、R1は水素、ハロゲン、もしくはMが金属イオンであるスルホノ基SO3Mを表し、かつR2は水素を表すか、または、R1はClであり、かつR2はIである。脳腫瘍は、脳内または中心脊柱管内の頭蓋内固形新生物である。一つの態様において、脳腫瘍を処置するための方法は、処置を必要とする脳腫瘍患者を、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量で処置する段階を含み、ここで、脳腫瘍は神経膠芽腫でない。すなわち、本発明は、脳腫瘍を有すると特定されたかまたは診断された患者における脳腫瘍の処置用の医薬を製造するための、式(I)記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量の使用を対象とし、任意で該脳腫瘍は神経膠芽腫でない。
【0013】
本発明の本局面の種々の態様において、処置法は、脳腫瘍を有すると患者を診断する段階または特定する段階も任意で含む。特定された患者はその後、本発明の化合物、例えば、以下の式を有するトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)の治療的有効量で処置されるかまたは投与される:

種々の脳腫瘍は、MRIスキャン、CATスキャン、PETスキャン、生検などを含む当技術分野において公知である任意の従来の診断法で診断され得る。
【0014】
さらに、驚くべきことに、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III) 化合物が、ニトロソ尿素(例えば、ビス-クロロニトロソ尿素(BCNU))またはテモゾロミドに対して耐性である脳腫瘍細胞において同等に有効であることも発見された。従って、本発明の別の局面は、治療抵抗性の脳腫瘍を有すると特定された患者を、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療的有効量で処置する段階を含む、治療抵抗性の脳腫瘍を処置する方法を提供する。一つの態様において、患者は、BCNUなどのニトロソ尿素薬を含む処置に対して抵抗性である脳腫瘍を有する。別の態様において、患者は、テモゾロミドを含む処置に対して抵抗性である脳腫瘍を有する。すなわち、本発明は、治療抵抗性の脳腫瘍、例えば、ニトロソ尿素および/またはテモゾロミドに対して抵抗性である脳腫瘍の処置用の医薬を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の使用も対象とする。
【0015】
本明細書において使用される「治療抵抗性の脳腫瘍」という用語は、式(I)の化合物を含まない抗新生物処置に対して好ましく応答できないか、あるいは、式(I)の化合物を含まない抗新生物処置に対して好ましく応答した後に反復または再発するかいずれかの脳腫瘍を指す。従って、本明細書において使用される「処置に対して抵抗性の脳腫瘍」とは、処置に対して好ましく応答できないかまたは耐性である、あるいは、処置に対して好ましく応答した後に反復または再発する脳腫瘍を意味する。
【0016】
従って、いくつかの態様において、本発明の方法において、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))が、ニトロソ尿素(例えば、BCNU)およびテモゾロミドなどの一つまたは複数の薬物を含む処置レジメンで以前に処置されている腫瘍を有する脳腫瘍患者を処置するために使用される。例えば、本方法は、ニトロソ尿素(例えば、BCNU)およびテモゾロミドなどの一つまたは複数の薬物を含む処置レジメンで以前に処置されている脳腫瘍患者で、かつその脳腫瘍が処置レジメンに対して非応答性であるか、または処置レジメンに対して耐性が生じていると見出された患者を処置するために使用される。他の態様において、本方法は、ニトロソ尿素(例えば、BCNU)およびテモゾロミドなどの一つまたは複数の薬物を含む処置で以前に処置されたが、脳腫瘍が反復または再発している脳腫瘍患者、すなわち、一つまたは複数のそのような薬物で以前に処置されており、かつその癌が以前に投与された一つまたは複数のそのような薬物に対して最初は応答性であったが、その後再発していると見出された脳腫瘍患者を処置するために使用される。
【0017】
特定の態様において、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))が、以前にニトロソ尿素(例えば、BCNU)で処置された脳腫瘍患者を処置するために使用される。
【0018】
また他の特定の態様において、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))が、以前にテモゾロミドで処置された、すなわち、テモゾロミドに対して耐性を呈するかまたはテモゾロミドを含む処置後に再発した腫瘍を有する、脳腫瘍患者を処置するために使用される。
【0019】
治療抵抗性の脳腫瘍を検出するために、最初の処置を受けている患者は、耐性、非応答性、または反復型の脳腫瘍の徴候について注意深くモニタリングされ得る。これは、例えば、ニトロソ尿素またはテモゾロミドを含んでもよい最初の処置に対する患者の癌の応答性をモニタリングすることにより、達成され得る。最初の処置に対する応答性、応答性の欠如、または癌の再発は、当技術分野において実施される任意の適当な方法により判定され得る。例えば、これは、腫瘍のサイズおよび数の評価により達成され得る。腫瘍のサイズ、あるいは腫瘍の数における増加は、腫瘍が化学療法に応答していないこと、または再発が起きていることを示す。Therasse et al, J. Natl. Cancer Inst. 92:205-216 (2000)において詳細に記載されるような「RECIST」基準に従って、判定がなされ得る。
【0020】
本発明のまた別の局面に従って、予防または遅延を必要とする患者を、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の予防的有効量で処置する段階を含む、脳腫瘍を予防するためもしくはその発症を遅延させるため、または脳腫瘍の反復を予防するためもしくは遅延させるための方法が提供される。
【0021】
脳腫瘍の反復を予防する目的または遅延させる目的で、処置されており、かつ寛解にあるかまたは安定もしくは無進行状態にある脳腫瘍患者は、脳腫瘍の反復または再発を有効に予防するためまたは遅延させるために、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の予防的有効量で処置されてもよい。
【0022】
さらに、驚くべきことに、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)とテモゾロミドの組み合わせが、神経膠芽腫細胞においてアポトーシスを引き起こす段階に有意の相乗作用をもたらすことが発見された。従って、本発明は、テモゾロミドおよび式(I)の化合物(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))が同一の処置レジメンにおいて一緒に使用される併用治療法も提供する。すなわち、本発明は、処置を必要とする脳腫瘍患者に、(1)式(I)記載の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))、および(2)テモゾロミドの治療的有効量を同時にまたは連続的に投与する段階を含む、脳腫瘍を処置する方法、予防する方法、またはその発症を遅延させる方法を提供する。ベバシズマブ(bevacizumab)、ニトロソ尿素、およびプロカルバジンなどの追加的な薬物の有効量も、任意で併用療法に含まれ、かつ脳腫瘍患者に投与されてもよい。特定の態様において、前記組み合わせは、多形性神経膠芽腫(GBM)または未分化星状細胞腫の処置のために使用される。好ましい態様において、ガリウム錯体は、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)またはその薬学的に許容される塩である。
【0023】
本発明の種々の局面は、聴神経腫、星状細胞腫(例えば、毛様細胞性星状細胞腫、低悪性度星状細胞腫、未分化星状細胞腫)、多形性神経膠芽腫(GBM)および他の神経膠腫(脳幹神経膠腫、視神経膠腫、上衣細胞腫、混合性神経膠腫、視神経膠腫、乏突起神経膠腫、および上衣下細胞腫)、脊索腫、CNSリンパ腫、頭蓋咽頭腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、下垂体腫瘍、原始神経外胚葉腫瘍(PNET)、神経鞘腫、松果体腫瘍、ならびにラブドイド腫瘍を含むがそれらに限定されない、種々の脳悪性腫瘍において有用であり得る。
【0024】
本明細書において使用される場合、「...で...を処置する段階」という句またはその言い換えは、患者に化合物を投与する段階、または患者の体内で化合物の形成を引き起こす段階を意味する。
【0025】
本発明の方法に従って、脳腫瘍は、単剤として単独で、あるいは、一つまたは複数の他の抗癌剤との組み合わせで、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療的有効量で処置され得る。
【0026】
式(I)の薬学的化合物は、静脈内注射または経口投与または任意の他の適当な手段を通じて、全体重に基づいて患者の体重の1 kgあたり0.1 mg〜1000 mgの量で投与され得る。活性成分は、あらかじめ設定された時間の間隔で、例えば、1日に3回投与されてもよい。上記の投与量範囲は例示となるだけであり、かつ本発明の範囲を限定するようには意図されないことが理解されるべきである。活性化合物の治療的有効量は、当業者に明らかであるように、使用される化合物の活性、患者の体における活性化合物の安定性、緩和されるべき症状の重症度、処置される患者の全重量、投与の経路、体による活性化合物の吸収、分布、および排出の容易さ、処置される患者の年齢および感受性などを含むがそれらに限定されない要素と共に変動し得る。投与の量は、種々の要素が経時的に変化するにつれて調整され得る。
【0027】
本発明に従って、単独でまたはテモゾロミドとの組み合わせで脳腫瘍の処置に有用な医薬を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))を有する化合物の使用が提供される。医薬は、例えば、経口形態または注射可能な形態であり得、例えば、静脈内、皮内、または筋肉内投与に適当であり得る。注射可能な形態は一般に、当技術分野において公知であり、例えば、緩衝化された溶液または懸濁液中にある。
【0028】
本発明の別の局面に従って、容器中に式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の単位剤形、および任意で、本発明に従う方法、例えば、脳腫瘍を処置する段階、予防する段階、もしくはその発症を遅延させる段階、または、脳腫瘍の反復を予防する段階もしくは遅延させる段階、または、治療抵抗性の脳腫瘍を処置する段階においてキットを使用するための指示書を含む、薬学的キットが提供される。一つの態様において、区画化された容器中に(1)式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の単位剤形;および(2)テモゾロミドの単位剤形を含む、薬学的キットが提供される。当業者に明らかであるように、単位剤形における治療用化合物の量は、本発明の方法において患者に使用される投与量により決定される。キットにおいて、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))を有する化合物は、例えば、1 mgの量の錠剤形態であり得る。併用療法において使用され、かつキットに含まれるテモゾロミドは、一般に公知であるかまたは当技術分野において使用される任意の剤形、例えば、錠剤、カプセル、注射可能な形態の再構成のための凍結乾燥形態などであり得る。任意で、キットは、本発明に従う併用治療法においてキットを使用するための指示書をさらに含む。
【0029】
本発明の別の局面に従って、(1)式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III));および(2)テモゾロミドの有効量を含む、薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、錠剤、カプセル、注射可能な形態の再構成のための凍結乾燥形態、溶液、または懸濁液などを含むがそれらに限定されない、任意の薬学的に許容される剤形であり得る。組成物に含まれる薬物の量は、変動し得、かつ患者に投与される量に依存し得る。例えば、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))は、1 mg〜約1000 mgの量で組成物に含まれ得、かつテモゾロミドは、5 mg、20 mg、100 mg、140 mg、180 mg、または250 mgであり得る。
【実施例】
【0030】
実施例1
トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)(「薬物」)の活性を試験するために、神経膠芽腫細胞株を用いてMTTアッセイを行った。細胞を96ウェルプレートにプレーティング(100μl/ウェル中に2×103細胞)し、24時間回復させた。別の100μl増殖培地中の薬物を添加し、薬物を除去するために細胞培養培地を置換する前に3時間、培養細胞と共にインキュベーションした。製造業者の推奨に従ってMTTアッセイにより(EZ4U, Biomedica, Vienna, Austria)、最初のインキュベーションの72時間後に、細胞死を測定した。試験した細胞株およびIC50値(50%の増殖阻害を有する薬物濃度)を下記の表1に要約する。トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)は、表1中のすべての細胞株において約0.3μM〜約2.5μMに渡るIC50値を有し、細胞死を誘導するのに有効であった。ニトロソ尿素薬BCNUによる細胞株の阻害についての過去のデータを、下記の表1に提供する。トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III) は、BCNUに比較的耐性であるU87細胞株に対して活性を有することが、注目される。さらに、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)は、テモゾロミドに耐性であることが示されているT98G細胞において活性を有する。Kanzawa et al., J. Neurosurg., 99:1047-1052 (2003)を参照されたい。
【0031】
【表1】

Bowles et al., J. Neurosurg., 73:248-253 (1990)由来の過去のデータ。
【0032】
実施例2
トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III) 化合物を、神経膠腫細胞株U87に由来する3次元腫瘍モデルにおいて試験した。具体的には、細胞をトリプシン処理し、洗浄し、トリパンブルー排除により計数した。その後、20,000細胞/10μlのHuBiogel(4 mg/mL)を混合することにより腫瘍ビーズを調製した(参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第10/546,506号を参照されたい)。3-D腫瘍ビーズを72時間、完全培地(10%FBS)と共にマルチウェルプレートにて、37℃インキュベーター+5%CO2において培養した。培地中の種々の濃度の、試験化合物であるトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)(最終0.2〜0.3%DMSO)または対照(DMSO)で、ミニ腫瘍を処置した。培養培地を除去し、かつ薬物化合物またはDMSOを含む新鮮な培地で置換することにより、繰り返しの薬物処置を行った。3日目に、MTTアッセイおよびカルセインAMでの生細胞染色を行った(5ビーズ/アッセイセット)。
【0033】
トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)は、生細胞染色/画像解析において有効な用量依存的腫瘍殺傷を呈し、かつ腫瘍増殖活性を有意に阻害した。図1を参照されたい。MS-Excelプログラムを用いて、データセットの統計解析(平均、T検定、GI-50)を行った。T検定の結果を下記の表2に示す。平均GI-50(50%の増殖阻害に必要とされる薬物濃度)は0.94μMである。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例3
テモゾロミドおよびBCNUに対して耐性のヒト神経膠芽腫細胞株におけるトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)の活性
トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)およびテモゾロミドを、ヒト神経膠芽腫細胞株U251(BCNUに対して耐性である、Beljanski et al., Anticancer Res., 13(6A):2301-8 (1993)を参照されたい)において試験した。具体的には、神経膠芽腫細胞株U251を用いてATCC's MTT Cell Proliferation Assay(登録商標)を行った。本研究のために、保存培養株を70〜80%コンフルエントまで増殖させた。細胞株に対するトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)またはテモゾロミドの抗増殖活性を、ATCC's MTT Cell Proliferation Assay(カタログ番号30-1010K)を用いてインビトロで評価した。培養は、37℃の加湿した5%CO2/95%空気の環境において維持した。1,000μM、またはその4倍希釈のシリーズ(250μM、62.5μM、など)のトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)またはテモゾロミドで、細胞を処置した。処置後72時間で、各ウェルより100μlの培地を除去し、10μl MTT試薬を各ウェルに添加した。プレートを37℃で4時間インキュベーションし、その後、100μlの界面活性剤を添加した。プレートを一晩、室温暗所で放置し、SoftMax(登録商標)Pro(バージョン5.2, Molecular Devices)を用いてプレートリーダー上で読み取った。
【0036】
吸光度データを以下のように解析した:SoftMax(登録商標)Pro(バージョン5.2, Molecular Devices)を用いて、IC50の計算のために、吸光度値を対照に対する百分率に変換し、試験剤濃度に対してプロットした。対照に対する百分率を計算する前に、プレートブランクシグナルの平均をすべてのウェルから差し引いた。対照に対する百分率の値は、各試験ウェルについて吸光度値を薬物なし対照(11列の値;細胞+媒体対照)の平均で割り、かつ100をかけることにより計算した。IC50値を得るための4-パラメータ方程式およびS字形用量応答曲線を描く他のパラメータを用いて、化合物濃度と対照に対する百分率とのプロットを解析した。
【0037】
試験剤についてのIC50値を、以下の4パラメータ-算定方程式を用いて、データを曲線に適合させることにより概算した:

式中、「最高値」は対照吸光度の最大%(100%)であり、「最低値」は最も高い剤濃度での対照吸光度の最小%(ゼロまで)であり、Yは対照吸光度に対する百分率であり、Xは試験剤濃度であり、IC50は対照細胞と比較して50%、細胞増殖を阻害する剤の濃度であり、nは曲線の傾きである。
【0038】
U251細胞株におけるトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)のIC50は4.04μMであり、他方で、テモゾロミドのIC50は283μMであり、BCNUのIC50は53.7μMであった。従って、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)は、テモゾロミドまたはBCNUに対して耐性である神経膠芽腫細胞において有効である。
【0039】
実施例4
併用研究
ヒト神経膠芽腫細胞株U251細胞を、実施例3に記載した条件下で培養した。対数期増殖を維持するために、細胞を定期的に継代培養した。EC50プレート播種の日に、細胞を加工処理し、一度に一つの細胞株を96ウェルの細胞培養用に処理されたプレート中に播種した。トリプシン溶液を用いて培養フラスコから細胞を取り外し、滅菌した円錐管にプールし、350×gで5分間、室温で遠心分離した。沈殿した細胞を完全培地に再懸濁し、その後、Neubauer Bright-Line(登録商標)血球計数器およびトリパンブルー生存度染色で計数した。各細胞株について72時間96ウェルプレートアッセイのためにあらかじめ決定した播種密度に基づき最終的な懸濁液密度(細胞/ml)を生じるように、完全培地を用いて細胞懸濁液を希釈した(生細胞数に基づいて)。EC50試験のための組織培養用に処理されたプレートに、1.5×103細胞/ウェルで播種し、細胞を付着させるために、一晩、37℃で5% CO2、95%空気の加湿した環境においてインキュベーションした。
【0040】
試験剤の調製:各単剤、または複数の試験剤の組み合わせについて、最高濃度の混合物(最終的な処置濃度の2倍)を、滅菌した1.5 ml微小遠心管において作製し、その後、処置希釈プレートの最初のウェルに直接移した。
【0041】
トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)は、Niiki Pharma, Incより取得した。テモゾロミドは、Schering Corporationにより製造され、褐色ガラスバイアルにおいて供給された。テモゾロミドは、室温暗所で保存し、かつParafilm(登録商標)で密封して、光および湿度への曝露を制限した。テモゾロミド(20.7 mg)を量り分け、149μLの100%DMSOの添加、および加熱を伴わない音波処理用水槽における短時間の音波処理(約10〜20秒)により、濁った懸濁液を作製した。
【0042】
試験剤の抗増殖活性を、MTT Cell Proliferation Assay Kit(ATCCカタログ#30-1010K)を用いて評価した。対数増殖期の細胞を、表示された密度で、培地のみの対照のために確保した一つの列以外のすべてのウェルにて、0.1 mLの完全培地において96ウェルの培養用に処理されたプレート中へ播種した。試験剤で処置する前に、一晩のインキュベーションの間に細胞を付着させた。試験剤を完全培養培地(適切な場合、+1%DMSO)において連続的に希釈し、0.2 mL/ウェルの全体的な最終体積について0.1 mLの体積で各ウェルに添加した(使用される場合、最終0.5%DMSO)。細胞を試験剤に72時間曝露した。試験剤への曝露後に、各プレートのすべてのウェルより0.1 mLの培養上清を注意深く除去し、0.01 mLのMTT試薬を各ウェルに添加した。プレートを4時間、インキュベーターに戻した。インキュベーション期間の後に、キットにより供給される界面活性剤試薬(0.1 mL)をすべてのウェルに添加した。蒸発を防ぐためにプレートをプラスチックラップで包み、室温暗所で一晩置いた。SpectraMAX Plusプレートリーダー(Molecular Devices)を用いて、570 nmでの吸光度を次の日に測定した。SoftMax(登録商標)Pro(バージョン5.2, Molecular Devices)を用いて、EC50の計算のために、吸光度値を対照に対する百分率に変換し、試験剤濃度に対してプロットした。対照に対する百分率を計算する前に、プレートブランクシグナルの平均をすべてのウェルから差し引いた。対照に対する百分率の値は、各試験ウェルについて吸光度値を薬物なし対照(11列の値;細胞+媒体対照)の平均で割り、かつ100をかけることにより計算した。EC50値を得るための4-パラメータ方程式およびS字形用量応答曲線を描く他のパラメータを用いて、化合物濃度と対照に対する百分率とのプロットを解析した。
【0043】
併用指数(CI)値を計算して相乗作用を評価するために、CompuSyn(登録商標)ソフトウェアを用いて併用データを解析した。以下の式を用いて、対照に対する百分率(SoftMax(登録商標)Pro由来)から影響率(Fractional Affect)(Fa)を計算した:1−(対照に対する百分率/100)。相乗作用の有無の評価のために、組み合わせで試験した化合物の投与量、影響率、およびモル比をCompuSyn(登録商標)ソフトウェア中に入力した。CompuSyn(登録商標)は、増殖への化合物の影響のレベルを査定する併用指数(CI)値を指定する。1より小さいCI値は相乗作用の存在を示し、1より大きいCI値は拮抗作用を示す。1に近いCI値は相加的な影響を示す。Chou, Pharmacol. Rev., 58(3):621-81 (2006)を参照されたい。トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)とテモゾロミドの組み合わせは、U251細胞において0.812のCI値を有し、相乗的組み合わせを示した。図2は、神経膠芽腫細胞株U251におけるトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)とテモゾロミドとの間の相加活性〜相乗活性を例証する併用指数プロットである。
【0044】
本明細書において言及されるすべての刊行物および特許出願は、本発明が属する技術分野における当業者の水準を示す。すべての刊行物および特許出願は、あたかも各個々の刊行物または特許出願が参照により組み入れられるように具体的にかつ個別に示されたのと同一の程度で、参照により本明細書に組み入れられる。刊行物および特許出願の単なる言及は、それらが本出願の先行技術であることの承認を必ずしも構成しない。
【0045】
前述の発明は、理解の明瞭さの目的で例証および実施例を介していくらか詳細に説明されているが、ある特定の変更および改変が、添付の特許請求の範囲内で実施されてもよいことが明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳腫瘍の処置用の医薬を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用:

式中、R1は水素、ハロゲン、もしくはMが金属イオンであるスルホノ基SO3Mを表し、かつR2は水素を表すか、または、R1はClであり、かつR2はIである。
【請求項2】
化合物がトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
脳腫瘍が神経膠芽腫でない、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
脳腫瘍が星状細胞腫である、請求項1〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
脳腫瘍が神経膠芽腫である、請求項1または2記載の使用。
【請求項6】
脳腫瘍が治療抵抗性の脳腫瘍である、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
脳腫瘍が以前にBCNUで処置された、請求項6記載の使用。
【請求項8】
脳腫瘍が以前にテモゾロミドで処置された、請求項6記載の使用。
【請求項9】
化合物がテモゾロミドとの組み合わせで使用される、請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量と、テモゾロミドの有効量とを含む、キット:

式中、R1は水素、ハロゲン、もしくはMが金属イオンであるスルホノ基SO3Mを表し、かつR2は水素を表すか、または、R1はClであり、かつR2はIである。
【請求項11】
化合物がトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)である、請求項10記載のキット。
【請求項12】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量と、テモゾロミドの有効量とを含む、薬学的組成物:

式中、R1は水素、ハロゲン、もしくはMが金属イオンであるスルホノ基SO3Mを表し、かつR2は水素を表すか、または、R1はClであり、かつR2はIである。
【請求項13】
化合物がトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)である、請求項12記載の薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−521229(P2013−521229A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555163(P2012−555163)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【国際出願番号】PCT/US2011/026144
【国際公開番号】WO2011/106577
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(509023584)ニッキ ファーマ インク. (7)
【Fターム(参考)】