説明

脳血流定量測定装置および脳血流定量測定方法

【課題】トレーサとして、超偏極キセノンを使用することにより、局所微小循環の定量化が可能となる脳血流定量測定装置および脳血流定量測定方法を提供する。
【解決手段】脳血流定量測定装置300は、被検体の頭部および頚動脈部位にそれぞれ装着されるバードケージコイル400および表面コイル500と、脳血流定量測定制御部600を構成する表面コイル500に基づいて、動脈入力関数を検出する動脈入力関数検出部610と、バードケージコイル400により脳内に到達した脳血流信号を測定する脳組織濃度関数検出部620と、フリップアングルを測定するフリップアングル測定部630と、測定されたフリップアングルに基づいて、信号の補正をおこなう信号補正部640とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脳内への脳血流を測定する脳血流定量測定装置および脳血流定量測定方法に関し、さらに詳しくは、トレーサとしてキセノンガスを利用することにより定量血流測定を可能とすることができる脳血流定量測定装置および脳血流定量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、核磁気共鳴現象を用いて撮影対象物の内部構造を画像化する磁気共鳴イメージング装置(以下、「MRI装置」と言う)が知られている。核磁気共鳴現象は生体に対して無害であるため、MRI装置は、特に医療用として有用であり、全身の精密検査や脳腫瘍の診断などに用いられている。
【0003】
ここで、MRI装置は、核磁気共鳴現象と呼ばれる原子核の磁石としての性質を利用しているが、可視光やX線と比較するとエネルギーの低い、数10メガヘルツ程度の電磁波を照射しており、また、原子核のうちで磁石としての性質がもっとも強い水素原子核(プロトン、1H)を対象としているので、主に、生体組織中の水分や脂質の水素原子の密度を画像化することに特徴があり、例えば、肺や脳のような密度の低い臓器についてはほとんど利用例がなかった。
【0004】
このような問題に対し、近年では、超偏極(Hyperpolarized)の利用が注目されている。超偏極状態にすることによって、信号強度を数万倍に増強すると同体積の水と比較しても約100倍以上強い磁気共鳴信号が得られる。また、血液脳関門を含めて生体膜を自由に通過できるキセノンガス(Xe)は、化学的にも不活性で代謝を受けないことから、血中に溶解して様々な臓器の灌流測定に利用できることがわかった。
【0005】
以上のような理由から近年では、超偏極化したキセノンガスやヘリウムガスによる磁気共鳴撮像法が注目されている。これらの希ガスを超偏極化することにより非常に強いNMR信号を得ることができ、撮像感度の向上や撮像時間を短縮する作用効果を期待することができる。また、将来的にキセノンガスの偏極率が上がると頭部(脳内)の詳細な灌流測定を期待することができる。
【0006】
この種の脳血流を測定する脳血流測定方法の従来技術として、例えば、特許文献1には、プロトン信号を利用する脳血流測定方法が記載されている。このプロトン信号での脳血流測定方法によると、頭部用のバードケージコイルを用いることにより脳内の血流を測定することができる。
【0007】
【非特許文献1】Rempp, K. et al. : Radilogy, 193・3, 637-631, 1994.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上述したプロトン信号を利用する脳血流測定方法の場合、以下に示すような問題がある。すなわち、単に頭部用のバードケージコイルを用いた脳血流測定方法を超偏極キセノンに適用すると、フリップアングル(flip angle)の見積もりを正確に算出できないため、脳内のキセノン信号を正しく補正できないうえ、バードケージコイルの感度の低さから、入力関数信号を取得する時点で偏極度が低くなり、超偏極キセノンを用いた脳血流測定が困難になってしまううえ、定性的な脳血流量測定しかできない。すなわち、従来では、トレーサとしてキセノンを使用する脳血流の定量測定方法は確立できていないという問題がある。
【0009】
この発明は、上述した従来技術による問題を解決するためになされたもので、超偏極キセノンガスを用いるとともに、脳内の血流量の定量化が可能となる脳血流定量測定装置および脳血流定量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の観点にかかる発明は、超偏極キセノンガスを使用するとともに、被検体に対する脳内への定量血流量を測定する脳血流定量測定装置であって、前記被検体の頭部に装着される受信コイルと、前記被検体の首部であって頚動脈が位置する部分に取り付けられる頚動脈流測定用の表面コイルと、脳血流の測定制御をおこなう脳血流定量測定制御手段とを備え、前記脳血流定量測定制御手段は、前記受信コイルにより脳内に到達した脳血流信号を脳組織濃度関数として測定する脳組織濃度関数測定手段と、前記表面コイルにより頚動脈を通過するキセノンガス量に基づいて、動脈入力関数を検出する動脈入力関数検出手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
第2の観点にかかる発明は、第1の観点にかかる発明において、前記脳血流定量測定制御手段は、フリップアングルの測定をおこなうフリップアングル測定手段と、前記フリップアングル測定手段により測定されたフリップアングルに基づいて、信号の補正をおこなう信号補正手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0012】
第3の観点にかかる発明は、超偏極キセノンガスを使用するとともに、被検体に対する脳内への定量血流量を測定する脳血流定量測定方法であって、前記被検体の頭部に装着される受信コイルにより脳内に到達した脳血流信号を脳組織濃度関数として測定する脳組織濃度関数測定ステップと、前記被検体の首部であって頚動脈が位置する部分に取り付けられる頚動脈流測定用の表面コイルにより頚動脈を通過するキセノンガス量に基づいて、動脈入力関数を検出する動脈入力関数検出ステップとを備えることを特徴とする。
【0013】
第4の観点にかかる発明は、第3の観点にかかる発明において、前記脳血流定量測定制御方法は、フリップアングルの測定をおこなうフリップアングル測定ステップと、前記フリップアングル測定ステップにより測定されたフリップアングルに基づいて、信号の補正をおこなう信号補正ステップとをさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、頚動脈用の表面コイルを用いているので、脳組織濃度関数に関する信号強度の低下を抑えることができ、動脈入力関数に関する信号を効果的に得られるため、より正確な脳血流の定量測定が可能になるという効果を奏する。また、超偏極キセノンガスを脳血流測定のトレーサに用いた場合では、超偏極状態が短時間(約10秒程度)でなくなるため、再循環の恐れがないという作用効果を期待できるうえ、この結果、超偏極キセノンガスを用いた脳血流定量測定を良好におこなえるという効果を奏する。
【0015】
また、脳血流定量測定制御手段は、フリップアングル測定手段と、フリップアングル測定手段により測定されたフリップアングルに基づいて、信号の補正をおこなう信号補正手段とをさらに備えるので、このフリップアングル検出手段により算出される低いフリップアングルを用いることができるため、キセノンガスによる超偏極状態の破壊を回避できるという効果を奏する。
【0016】
また、頚動脈部の動脈入力関数を容易に測定できるうえ、脳における局所微小循環の情報の定量化を可能とすることができ、これによって、脳血液量(CBV)、脳血流量(CBF)、平均通過時間(MTT)の定量評価を正確に、且つ確実におこなうことができるという効果を奏する。
【0017】
また、信号の補正をおこなう信号補正手段をさらに備えるので、超偏極状態のキセノンの特性であるRF励起で超偏極状態が低下することで得られる信号が変化することを2つのコイル(バードケージコイル/表面コイル)を用いることで、信号変化量を推定し補正をおこなうことができる。これにより、超偏極キセノンガスの特性であるRF励起による超偏極状態の破壊による信号の変化を補正することができる。また、これにより、キセノンガスを用いた脳血流の定量化を可能とすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る脳血流定量測定装置および脳血流定量測定方法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本実施例に係る脳血流定量測定装置300の概要および特徴を説明し、これに続いて、この脳血流定量測定装置300の構成および機能の詳細を説明し、その後、脳血流定量測定装置300による脳血流定量測定方法に関する処理手順の詳細を説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は本発明の実施例1に係るMRI装置100および脳血流定量測定装置300の概略構成を示す全体機能ブロック図である。また、図2は、脳血流定量測定装置300による脳血流定量測定の制御をおこなう脳血流定量測定制御部600の概略構成図を、図3は、脳血流定量測定装置300を構成するバードケージコイル400の装着状態および表面コイル500の取り付け状態の概略説明図をそれぞれ示している。ここで、MR装置100に備えた脳血流定量測定装置300による脳血流定量測定は、このMR装置100が設置されたスキャンルームに隣接した撮影室で撮影技師(オペレータ)が操作用コンソールを操作することを想定して説明する。
【0020】
図1に示すように、MR装置100を構成するガントリ150の内部には、外側から順に、静磁場を発生する静磁場発生磁石160と、勾配磁場を発生する勾配磁場発生コイル170と、この勾配磁場発生コイル170の内側に位置する円筒状の照射コイル180とがそれぞれ配設されている。静磁場発生磁石160および勾配磁場発生コイル170によりマグネットアセンブリを構成する。
【0021】
また、照射コイル180は、静磁場中に載置された被検体に対して所定の電磁波を照射する機能を備えており、この照射コイル180の内部に被検体190(患者)を載置したテーブル191を搬入可能としている。
【0022】
また、同図に示すように、MRI装置100に対して全体制御をおこなうMRI制御装置200は、RF送信部210と、磁気制御部220と、RF受信部230と、信号処理部240と、テーブル駆動制御部250とを備えている。
【0023】
RF送信部210は、生体組織を構成する原子核に核磁気共鳴現象を起こさせるために照射コイル180から高周波の電磁波を照射する機能を有している。
【0024】
磁気制御部220は、静磁場発生磁石160および勾配磁場発生コイル170にそれぞれ接続され、静磁場発生磁石160および勾配磁場発生コイル170に対して電力を供給してマグネットアセンブリ内に静磁場および勾配磁場を印加する処理をおこなう機能を備えている。
【0025】
信号処理部240は、バードケージコイル400および表面コイル500から受信したFID信号(Free Induction Decay:自由誘導減衰)をデジタルデータ化に変換するとともに、さらに、画像再構成による演算処理をおこなうことにより、所望の撮像イメージを作成する機能を備えている。
【0026】
テーブル駆動制御部250は、被検体が載置されたテーブルをMRI装置100内(磁場中心P)に移送する機能を有している。
【0027】
ここで、本発明の特徴は、キセノンガスが脂質、血液などに溶解され脳血管関門を通過する特性を備えるとともに、拡散性トレーサとして脳血流診断に応用できることに着目しており、さらに、脳内血流量は、キセノンガスの血流量溶解(キセノンガスの入力)に応じたインパルス応答量となるため、キセノン信号の流量を取得すれば正確な脳内血流量を計測することができ、これにともない脳内の血流量が大きいか小さいかを正規化し、血流量の定量化をおこなうことができる点に着目したことにある。すなわち、キセノンガスの入力に応じた理想的な脳組織濃度関数(真の濃度関数)が取得できれば、インパルス応答での濃度関数も取得でき、これによって、脳内の血流量の定量化を達成することができる(図4−3参照)。
【0028】
具体的に説明すると、脳血流定量測定装置300によりキセノンガスを利用して、脳内にどの程度の血流が流れているかを測定することにある(定量血流測定)。すなわち、被検体190がキセノンガスを吸引した際の、脳内を一定時間の間、MRI装置100を利用してスキャン測定することにより、脳内の脳血流量の時系列データ(撮像断面のピクセル値)が測定でき、この時系列データを加算処理することにより脳内の正確な脳血流量を測定値(スペクトルの高低/脳血流量の高低)として得ることができる。
【0029】
さらに、頚動脈の信号値と脳の信号値とを時系列的に取得した後、各時間で得られた信号に基づいて、フリップアングルを見積もり、さらに、このフリップアングル(FA)により脳の信号値を補正し、これによって、真の脳の信号値を求めるようにしている(正規化)。
【0030】
ここで、脳血流量の測定原理は、所謂トレーサが通過する時間から血流量を測定する方法を採用するものとしている。つまり、トレーサとしてキセノンガスを採用しており、このキセノンガスが被検体190(図3)の口から吸入されると、肺から動脈血に溶解し、脳まで循環することを利用している。すなわち、このとき脳の各部位からトレーサの濃度を測定できれば、各部位での通過時のトレーサの量がわかり、それを時間積分することにより、時間当たりに通過したトレーサの量を推定することができる(脳内の血流に溶解したキセノンの量を計測し、脳血流を測定する)。
【0031】
このため、本実施例1では、図1に示すように、脳血流定量測定装置300を備えており、さらに、図3に示すように、被検体190の頭部には、脳血流定量測定装置300を構成するバードケージコイル400(Bird cage coil)が装着される。また、被検体190の首部の頚動脈部位には、表面コイル500が取り付けられる。すなわち、後述するように、脳組織濃度関数は頭部用のバードケージコイル400で、動脈入力関数は頚動脈用の表面コイル500を用いて測定することとしている。なお、バードケージコイル400および表面コイル500からのNMR信号は、信号処理部240により処理される。
【0032】
以下、図2〜図3および図4〜6を参照して、脳血流定量測定装置300の構成および機能の詳細を説明する。先ず、図2を参照して、脳血流定量測定装置300の構成を説明する。すなわち、図2に示すように、脳血流定量測定装置300は、脳血流信号測定用のバードケージコイル400と、頚動脈入力関数信号測定用の頚動脈用の表面コイル500と、脳血流定量測定制御部600とにより構成され、この脳血流定量測定制御部600は、動脈入力関数検出部610と、脳組織濃度関数検出部620と、フリップアングル測定部630と、信号補正部640とにより構成される。
【0033】
動脈入力関数検出部610は、表面用コイル500により頚動脈を通過するキセノンガス量に基づいて、動脈入力関数を検出する機能を備えている。
【0034】
脳組織濃度関数検出部620は、バードケージコイル400により脳内に到達した脳血流信号を脳組織濃度関数として検出する機能を備えている。
【0035】
フリップアングル測定部630は、フリップアングル(プリップ角度:flip angie)を測定する機能を備えている。ここで、フリップアングルとは、均一静磁場中の核磁化ベクトルがRFパルスの印加によって、静磁場の方向(Z軸のプラス方向)から倒れた角度を称するもので、通常、RFパルスの振幅および印加時間に比例して、目的とする撮像法により、大きさが決められる。
【0036】
信号補正部640は、フリップアングル測定部630により測定されたフリップアングルに基づいて、信号の補正をおこなう機能を備えている。具体的に説明すると、本発明では、超偏極キセノンガスを利用しているため、この超偏極キセノンガスの特性であるRF励起による超偏極状態の破壊が生じる恐れがある。
【0037】
このため、信号補正部640により、信号の変化を補正することで、キセノンガスを用いた脳血流の定量化を可能とするようにしている。具体的には、動脈入力関数検出部610により、動脈(内頚動脈や中大脳動脈など)入力関数を取得できることから、RF励起で超偏極磁化が破壊されることによる脳内のキセノン信号の強度を補正するようにしている。
【0038】
また、後述するように、動脈入力関数の測定時、RF励起によるキセノンによる超偏極状態の破壊を低減するため、小径表面コイルと低いフリップ角を用いる。このことにより脳組織濃度関数測定時にキセノン信号強度の低下を避けることができる。つまり、表面コイル500により動脈力信号とバードケージコイル400により脳組織信号を取得することにより撮像に使われた正確なフリップアングルを求めることができるうえ、このフリップアングルを利用して取得された信号強度を補正することができる。
【0039】
次に、図3を参照して、脳血流定量測定装置300を構成するバードケージコイル400および表面コイル500の詳細について説明する。ここで、バードケージコイル400は、ローパス(low pass)型のMRI用バードケージコイルなどを使用することができる。
【0040】
すなわち、図3に示すように、バードケージコイル400は、脳血流信号を取得する機能を備えており、第1リング410と第2リング420との間に、多数のエレメント430を介設し、第1リング側エレメント部分と第2リング側エレメント部分とに跨がってコンデンサ440を接続し、QDハイブリット回路部450からMR装置100の本体側へ伝送路460を導出した構成としている。このバードケージコイル400によるNMR信号は、位相エンコードされた位置情報を含んだFID信号(Free Induction Decay:自由誘導減衰)として取得される。ここで、バードケージコイル400によるFID信号を取得するポイントは、所定のポイント(ボクセル)を対象として取得することとしている。
【0041】
表面コイル500は、被検体が吸入した肺の肺胞から脳内の血管に到達する以前のキセノンガスの入力関数を計測する機能を備えている。表面コイル500の一端側(図3の上側)は、MR装置100の本体側へ伝送路510を導出した構成としている。この表面コイル500によるNMR信号は、位相エンコードされていないFID信号(Free Induction Decay:自由誘導減衰)として取得される。ここで、この表面コイル500によるFID信号を取得するポイントは、ボリューム(Volume)による撮像領域全部を対象として取得することとしている。
【0042】
また、本実施例では、この表面コイル500には、頚動脈の分岐部撮像測定用のRFコイル(サーフェスコイル)を使用することとしている。ここで、通常、頚動脈の分岐部撮像には、所謂、ニューロバスキュラーコイルが利用されることが多いが、本実施例1では、より体表面での詳細な撮像が可能な小径のサーフェスコイルを使用することとしている。すなわち、小径の表面コイルを使用することで、低いフリップアングルを取得することができ、これにより、キセノンの破壊を低減できるようにしている。
【0043】
(動脈入力関数、脳組織濃度関数、真の濃度関数についての線図の詳細)
以下、図4−1、図4−2、図4−3に示すグラフ(線図)を参照して、表面コイル500(サーフェスコイル)による動脈入力関数、バードケージコイル400による脳組織濃度関数、これら動脈入力関数および脳組織濃度関数によるクリアランス曲線(真の濃度関数)についての詳細を説明する。ここで、図4−1は、被検体の頚動脈に取り付けた表面コイル500(サーフェスコイル)から取得したFID信号による線図を示している。具体的には、この図4−1に示す線図は、被検者がキセノンを吸入し、このキセノンが脳に到達するまでの肺中に溶解した時のスペクトル値であり、実際には表面コイル500(サーフェスコイル)により取得したFID信号(フリップアングル:α1)をフーリエ変換(FFT)し、変換されたキセノンガスのピーク値(周波数)を時系列的にプロットした線図(動脈入力関数)として示している。なお、この図4−1に示す頚動脈からのFID信号による濃度関数は、フレッシュなキセノンガスに基づくため、フリップアングルによる補正はおこなっていない線図として示している。また、図4−1中、縦軸は、キセノンの濃度関数を示すCa(t)で、横軸は、時間tを表している。
【0044】
また、図4−2は、キセノン信号による脳内組織の濃度関数に関する線図を示している。具体的には、バードケージコイル400で計測した脳内のキセノン信号による脳内組織の濃度関数に関する線図(インパルス応答の時系列線図)を示している。すなわち、バードケージコイル400により取得したFID信号(フリップアングル:α2)をフーリエ変換(FFT)し、変換されたピーク値(周波数)を時系列的にプロットした線図(動脈入力関数)として示しており、所定のフリップアングルを用いて信号を補正した後の線図である。このため、同図に示すように、FID信号により取得したなだらかな線図から補正後の線図は、濃度関数が上昇した値となってプロットされた線図となっている。具体的には、フリップアングルを補正した後の線図を示している。これは、超偏極Xeは、PFにより偏極が落ち、信号が低下するためである。なお、この図4−2中、縦軸は、キセノンの濃度関数を示すCi(t)で、横軸は、時間tを表している。
【0045】
また、図4−3は、脳血流定量測定装置300および脳血流定量測定方法により測定される真のインパルス応答による線図を示している。具体的には、図4−1および図4−2を用いて、畳み込み積分(コンボリューション)をおこない真の濃度関数をプロットしてグラフ化したものである。なお、この図4−3中、縦軸は、キセノンの濃度関数を示すC(t)で、横軸は、時間tを表している。ここで、この図4−3のグラフを時間積分したものが、脳血液量(CBV)のピクセル値に対応し、このCBVを平均通過時間(MTT)で割ると脳血流量(CBF)のピクセル値を算出することができる。なお、実際には、真の濃度関数C(t)は、後述する(数1)の算出式から求めることができる。
【0046】
(脳血流定量測定装置300における脳血流定量測定手順)
次に、図5のフローチャートを参照して、本実施例1における脳血流定量測定装置300における脳血流定量測定手順を説明する。ここで、以下の図5に示すフローチャートは、主に脳血流定量測定装置300に備えた脳血流定量測定制御部600による処理手順を示している。
【0047】
すなわち、図5に示すように、先ず、被検体190の頭部にバードケージコイル400を装着し、さらに被検体190の首部の頚動脈部位に表面コイル500の取り付けをおこなう前準備をおこなう(ステップS100)。次いで、超偏極キセノンガスの吸入ステップをおこなう(ステップS110)。この超偏極キセノンガス吸入ステップは、被検体190が超偏極キセノンガスを深呼吸して一息で肺に吸入するステップである。
【0048】
次いで、被検体190の頚動脈部位のキセノン信号を取得する。具体的には、肺から血液に溶け出したキセノンガスを入力関数用の動脈信号(図4−1に示す動脈入力関数:Ca)として取得する(ステップS120)。この被検体が吸入した肺の肺胞から脳内の血管に到達する以前のキセノンガスの入力関数は、表面コイル500により取得することができる。なお、頚動脈の信号を求める部位は、脳内に血流を送る主幹部の総頚動脈部位に特定している。
【0049】
次いで、被検体190の頚動脈部位のキセノン信号を取得する。具体的には、脳に到達した脳組織濃度関数の脳血流信号(図4−2に示す動脈入力関数:Ci)を取得し(ステップS130)、次いで、動脈入力信号を取得する(ステップS140)。なお、キセノンガスが脳内に到達した脳組織濃度関数の脳血流信号は、バードケージコイル400により取得することができる。
【0050】
ここで、脳内のキセノン信号であるC(t)は、表面コイル500により取得されるCa(t)とバードケージコイル400により取得されるCi(t)とコンボリューションにより算出することができる。ここで、動脈濃度曲線をCa(t)とし、脳組織濃度曲線Ci(t)とし、色素をA0とし、クリアランス濃度曲線(真の濃度関数)をC(t)とし、コンボリューションの表記を*とすると、クリアランス濃度曲線(真の濃度関数をC(t)は、以下の(数1)の式で求められる。なお、色素A0は、キセノンガスの吸入した際に、このキセノンガスが肺中に溶解した量を示す。
【0051】
(数1)
Ci(t)C(t)=A0Ca(t)*Ci(t)C(t)
【0052】
次いで、前記ステップS130およびステップS140により取得された動脈信号および脳血流信号からフリップアングル(flip angie)αを取得する(ステップS150)。具体的には、動脈信号および脳血流信号を約、1秒の間隔でスイッチングして信号取得を約80秒間続け、動脈入力関数および脳組織濃度関数を取得する。このフリップアングルは、フリップアングル測定部630(図2)により算出する。
【0053】
ここで、超偏極キセノンガス特有の現象でRF波で超偏極を励起すると、超偏極状態が破壊され熱平衡状態に戻るため、これにより信号が減衰することから、この減衰を防止する必要がある。その方法としては、小さなRF波を照射することで、超偏極状態の破壊を防止する。つまり、脳内からのMRI信号が、真の数値ではなく、RF波を含む変化をも含むため、この信号低下したMR信号を補正するようにしている。表面コイル500は、このMR信号を補正する量を与える機能を備えている。なお、このステップS150による信号の補正は、信号補正部640(図2)によりおこなう。
【0054】
ここで、以下、ステップS150によるフリップアングルを求める方法の一例を説明する。すなわち、M1をキセノンの磁化係数、Aをコイル依存の係数、αをフリップアングルとすると、ある時間t1で得られるキセノン信号は、以下の(数2)の式で求められる。
【0055】
(数2)
1(t1)=M1*A*sin(α)
【0056】
また、キセノンガスが脳内に到達したとき、ある時間t2で得られるキセノン信号は、Aをコイルの係数とし、コイルM2を、t=(t1−t2)秒経過したときのXeの磁化とすると、以下の(数3)の式で求められる。
(数3)
2(t2)=M2*A*sin(α)
【0057】
また、T1をキセノン信号の脳内の緩和定数をT1とすると、M2は、以下の(数4)の式で求められる。
(数4)
2=M1*exp(−t/T1)*cosα
【0058】
以下、(数2)〜(数4)の式から、フリップアングルαは、以下の(数5)により求められる。
(数5)
2/S1=exp(−t/T1)*cos(α)
【0059】
なお、ここで、送信/受信感度の異なるコイルを用いた場合、係数Aはコイルの種類により異なるため、得られた信号強度からコイルの感度分布を補正する必要がある。
【0060】
以下、ステップS150の処理により取得した信号から動脈入力関数および脳組織濃度関数から真の濃度関数を取得する(ステップS160)。具体的には、図4−3に示す線図となる。すなわち、このステップS160により算出された濃度関数が真の濃度関数となり、この結果、脳血液量(CBV)、脳血流量(CBF)、脳内局所平均通過時間(MTT)を定量的に算出することができる。
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、MRI装置100は、脳血流定量測定装置300を備えており、この脳血流定量測定装置300は、被検体190の頭部に装着されるバードケージコイル400と、頚動脈が位置する部分に取り付けられる表面コイル500と、脳血流定量測定制御部600とを備え、脳血流定量測定制御部600は、表面コイル500により頚動脈を通過するキセノンガス量に基づいて、動脈入力関数を検出する動脈入力関数検出部610と、バードケージコイル400により脳内に到達した脳血流信号を脳組織濃度関数として測定する脳組織濃度関数検出部620とを備えるので、頚動脈部の動脈入力関数を容易に測定できるうえ、脳における局所微小循環の情報の定量化を可能とすることができ、これによって、脳血液量(CBF)、脳血流量(CBF)、平均通過時間(MTT)の測定を容易におこなうことができ、この結果、脳血流の定量評価を正確に、且つ確実におこなうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明に係る脳血流定量測定装置および脳血流定量測定方法は、超偏極キセノンを使用する脳血流の測定方法に有用であり、脳血流の挙動を把握できるうえ、局所微小循環の定量化を可能とする脳血流定量測定装置および脳血流定量測定方法に適している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例1に係るMRI装置および脳血流定量測定装置の概略構成を示す全体機能ブロック図である。
【図2】脳血流定量測定制御部の内部構成および概要を示す機能ブロック図である。
【図3】脳血流定量測定装置を構成するバードケージコイルおよび表面コイルの装着状態を示す概略説明図である。
【図4−1】キセノン信号による脳内組織の濃度関数に関する線図である。
【図4−2】脳内のキセノン信号による線図である(動脈入力関数)。
【図4−3】脳血流定量測定装置および脳血流定量測定方法により測定される真のクリアランス曲線による線図である。
【図5】脳血流定量測定装置による脳血流測定の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
100 MRI装置
160 静磁場発生磁石
170 勾配磁場発生コイル
180 照射コイル
190 被検体
200 MRI制御装置
210 RF送信部
220 磁気制御部
230 RF受信部
240 信号処理部
300 脳血流定量測定装置
400 バードケージコイル
410 第1リング
420 第2リング
430 エレメント
440 コンデンサ
450 QDハイブリット回路部
460、510 伝送路
500 表面コイル
600 脳血流定量測定制御部
610 動脈入力関数検出部
620 脳組織濃度関数検出部
630 フリップアングル測定部
640 信号補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超偏極キセノンガスを使用するとともに、被検体に対する脳内への定量血流量を測定する脳血流定量測定装置であって、
前記被検体の頭部に装着される受信コイルと、
前記被検体の首部であって頚動脈が位置する部分に取り付けられる頚動脈流測定用の表面コイルと、
脳血流の測定制御をおこなう脳血流定量測定制御手段とを備え、
前記脳血流定量測定制御手段は、
前記受信コイルにより脳内に到達した脳血流信号を脳組織濃度関数として測定する脳組織濃度関数測定手段と、
前記表面コイルにより頚動脈を通過するキセノンガス量に基づいて、動脈入力関数を検出する動脈入力関数検出手段と、
を備えることを特徴とする脳血流定量測定装置。
【請求項2】
前記脳血流定量測定制御手段は、フリップアングルの測定をおこなうフリップアングル測定手段と、前記フリップアングル測定手段により測定されたフリップアングルに基づいて、信号の補正をおこなう信号補正手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の脳血流定量測定装置。
【請求項3】
超偏極キセノンガスを使用するとともに、被検体に対する脳内への定量血流量を測定する脳血流定量測定方法であって、
前記被検体の頭部に装着される受信コイルにより脳内に到達した脳血流信号を脳組織濃度関数として測定する脳組織濃度関数測定ステップと、
前記被検体の首部であって頚動脈が位置する部分に取り付けられる頚動脈流測定用の表面コイルにより頚動脈を通過するキセノンガス量に基づいて、動脈入力関数を検出する動脈入力関数検出ステップと、
を備えることを特徴とする脳血流定量測定方法。
【請求項4】
前記脳血流定量測定制御方法は、フリップアングルの測定をおこなうフリップアングル測定ステップと、前記フリップアングル測定ステップにより測定されたフリップアングルに基づいて、信号の補正をおこなう信号補正ステップとをさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の脳血流定量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−192014(P2006−192014A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5259(P2005−5259)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】