説明

腋臭菌用抗菌剤、並びに該抗菌剤を含有する腋臭防止剤及び皮膚外用剤

【課題】従来の制汗剤、殺菌剤、消臭剤等の体臭防止用薬剤を用いなくとも、腋臭原因菌に対する抗菌力が相乗的に著しく増強された腋臭菌用抗菌剤、該抗菌剤を含有する腋臭防止剤及び皮膚外用剤、並びに腋臭防止方法を提供すること。
【解決手段】炭素数5〜10の1,2−アルカンジオールと、塩化リゾチーム及び/又はその塩とを含有してなる腋臭菌用抗菌剤、並びに該腋臭菌用抗菌剤を配合した腋臭防止剤又は皮膚外用剤とする。また、炭素数5〜10の1,2−アルカンジオールと、塩化リゾチーム及び/又はその塩とを殺腋臭菌効果の有効成分として含有する組成物を腋に適用する腋臭防止方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腋臭菌用抗菌剤、該抗菌剤を含有する腋臭防止剤及び皮膚外用剤、並びに腋臭防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人に不快感を与える腋臭は、汗が皮脂と混ざり、それがコリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌などの皮膚常在菌により分解され悪臭物質を産生することにより発生する。そこで、従来から、この腋臭を含む体臭の発生を抑制するために、体臭防止用薬剤として、塩化アルミニウム等の制汗剤、トリクロサン、塩化ベンザルコニウム等の殺菌剤、酸化亜鉛等の消臭剤などが用いられている。しかし、従来の体臭防止用薬剤には、以下のような問題点があった。
【0003】
アルミニウム塩からなる制汗剤は、蛋白変性作用を有するため、皮膚刺激性が強いという問題があった。トリクロサン等の殺菌剤は、皮脂分泌が多い状態の肌では抗菌力が抑制されるという問題があり、塩化ベンザルコニウム等の殺菌剤は、皮膚刺激性が強いという問題があった。そして、酸化亜鉛等の消臭剤は、臭いを発する物質を吸着等することにより消臭しようとするものであって、悪臭の原因自体を排除できるものではなかった。そこで、従来の体臭防止薬剤を配合しなくとも、十分に腋臭等の悪臭を防止できる腋臭防止剤が望まれている。
【0004】
一方、本発明に類する技術としては、1,2−アルカンジオールと体臭防止用薬剤を含有する防臭化粧料(特許文献1参照)や、塩化リゾチームと体臭防止用薬剤を含有する防臭化粧料(特許文献2参照)が報告されている。しかし、これら技術も、従来の体臭防止用薬剤を必須とするものであって、前記問題点を解決するに至っていない。
【0005】
そして、特許文献1及び2には、1,2−アルカンジオールやリゾチームが、腋臭原因菌であるコリネバクテリウム属菌へ抗菌活性を有するという報告はない。また、1,2−アルカンジオールとリゾチームとを併用することにより、コリネバクテリウム属菌に対する抗菌活性が相乗的に著しく増強されることは、一切報告されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−81801号公報
【特許文献2】特開2004−189633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記従来技術に鑑みてなされたものであって、炭素数5〜10の1,2−アルカンジオールと、リゾチーム及び/又はその塩とを共に用いることにより、従来の体臭防止用薬剤を用いなくとも、腋臭原因菌に対する抗菌力が相乗的に著しく増強させることのできる腋臭菌用抗菌剤、該抗菌剤を含有する腋臭防止剤及び皮膚外用剤、並びに炭素数5〜10の1,2−アルカンジオールと、リゾチーム及び/又はその塩とを共に用いる腋臭防止方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕 炭素数5〜10の1,2−アルカンジオールと、リゾチーム及び/又はその塩とを含有してなる腋臭菌用抗菌剤、
〔2〕 前記〔1〕に記載の腋臭菌用抗菌剤を含有する腋臭防止剤、
〔3〕 前記〔1〕に記載の腋臭菌用抗菌剤を含有する皮膚外用剤、並びに
〔4〕 炭素数5〜10の1,2−アルカンジオールと、リゾチーム及び/又はその塩とを殺腋臭菌効果の有効成分として含有する組成物を腋に適用する腋臭防止方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の腋臭菌用抗菌剤は、腋臭原因菌に対して抗菌活性を相乗的に著しく増強させるという効果を奏する。また、本発明に係る腋臭菌用抗菌剤を含有した腋臭防止剤、或いは皮膚外用剤は、従来の体臭防止用薬剤を含有させる必要を無くすことができ、しかも本発明に係る腋臭菌用抗菌剤は、腋臭原因菌に対して優れた抗菌活性を有しているので、腋臭菌用抗菌剤自体を低配合とすることもできるという効果を奏する。
【0010】
また、本発明の腋臭防止方法は、腋臭原因菌に対して抗菌活性を相乗的に著しく増強させることから、腋臭防止に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る腋臭菌用抗菌剤は、腋臭原因菌、特に、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌に対して、優れた抗菌活性を有することを特徴とするものであって、1,2−アルカンジオールと、リゾチーム及び/又はその塩とを有効成分として含有する。
【0012】
ここで、腋臭原因菌とは、皮膚常在菌であって汗や皮脂等を分解して悪臭物質を産生する菌を意味し、コリネバクテリウム属菌やブドウ球菌などが挙げられる。本発明の抗菌剤は、少なくとも、コリネバクテリウム属菌に対して、抗菌活性を発揮するのが望ましい。
【0013】
このような腋臭の原因となるコリネバクテリウム属菌としては、例えば、Corynebacterium minutissimum、Corynebacterium xerosis、Corynebacterium tenuis等が挙げられる。少なくとも、Corynebacterium minutissimumに抗菌活性を有することが望ましい。
【0014】
本発明に係る第1の成分は、1,2−アルカンジオールである。用いられる1,2−アルカンジオールとしては、下記式(1):

R−CH(OH)−CH−OH (1)
(式中、Rは炭素数3〜8のアルキル基を表す。)

で表される炭素数5〜10の1,2−アルカンジオールが用いられる。具体的には、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,2−デカンジオールが挙げられ、これらのうち、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールを用いるのが好ましく、1,2−オクタンジオールを用いるのがより好ましい。尚、本発明においては、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
本発明に係る第2の成分は、リゾチーム及び/又はその塩である。リゾチームの塩としては、塩化リゾチームが挙げられる。
尚、リゾチーム又はその塩は、市販品をそのまま用いることができる。用い得る市販品としては、商品名 塩化リゾチーム(エーザイ株式会社製)等を例示することができる。
【0016】
本発明に係る腋臭菌用抗菌剤においては、上記した第1の成分と上記した第2の成分の含有量は特に限定されないが、重量比で0.1:1〜10:1、好ましくは0.2:1〜5:1となるように配合する。第1の成分である1,2−アルカンジオールを第2の成分の含有量の10重量倍を超えて配合すると、また0.1重量倍未満の場合、相乗的な抗菌力の増強効果が期待できないために好ましくない。
【0017】
本発明に係る腋臭菌用抗菌剤は、第1の成分である1,2−アルカンジオールと、第2の成分であるリゾチーム及び/又はその塩とを含有するから、後述する実施例に示されるように、第1の成分と第2の成分との相乗効果によって、腋臭原因菌に対して優れた抗菌力の増強作用が発揮される。したがって、塩化アルミニウム等の制汗剤、トリクロサン、塩化ベンザルコニウム等の殺菌剤、酸化亜鉛等の消臭剤などの従来の体臭防止薬剤を低配合又は配合する必要がなく、極めて安全性及び抗菌活性の高い腋臭菌用抗菌剤を得ることができる。
【0018】
本発明の腋臭菌用抗菌剤は、化粧品、医薬品部外品、医薬品などに配合して、腋臭防止剤或いは皮膚外用剤として使用することができる。具体的には、ローション、エアゾール、スティック、パウダー、ロールオン、クリーム、乳液などの種々の形態に用いることができ、製剤化については、一般に知られている製造方法により製造すれば良い。
【0019】
腋臭防止剤或いは皮膚外用剤として使用する場合、本発明の腋臭菌用抗菌剤を化粧品等の組成物に配合すれば良く、その配合量は腋臭防止効果が発揮されれば特に限定されないが、組成物中0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜5重量%である。配合量が0.01重量%未満の場合、抗菌効果に劣るために、また、20重量%を超えて配合したとしてもそれ以上の効果が望めないからである。
【0020】
本発明の腋臭菌用抗菌剤を用いて腋臭防止剤或いは皮膚外用剤を調製する場合、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、クロロヒドロキシアルミニウム、アラントインクロロヒドロキシアルミニウム、パラフェノールスルホン酸亜鉛等の制汗剤;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ハロカルバン、トリクロロカルバニリド、塩酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、グルコン酸クロルヘキシジン等の殺菌剤;酸化亜鉛などの金属酸化物、アルキルジエタノールアミド、ヒドロキシアパタイト、茶抽出物、香料、酸化防止剤等の消臭剤などの従来の体臭防止用薬剤を配合しても良い。
【0021】
尚、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記した成分の他、化粧品、医薬品部外品又は医薬品に通常用いられる成分を適宜任意に配合することができる。例えば、シリコーン類、低級アルコール類、高級アルコール類、増粘剤、保湿剤、界面活性剤、防腐剤、粉体、ビタミン類、動植物エキス、pH調整剤、着色剤、水、噴射剤等を適宜配合することができる。
【0022】
また、本発明の腋臭菌用抗菌剤を配合した腋臭防止剤或いは皮膚外用剤などの組成物を使用する場合、悪臭の発生する身体の部位、例えば、腋、足裏、等に、エアゾール、ロールオン等の剤型の形態により適用するだけで良い。
【実施例】
【0023】
実施例1
(供試菌)
供試菌として、腋臭原因菌であるCorynebacterium minutissimum ATCC23348を用いた。
【0024】
(接種用菌液の調製)
接種用菌液としては、寒天培地で35℃で培養後、更にブイヨン培地に移植して35℃で培養した。得られた培養液をブイヨン培地で約10個/mlに希釈したものを接種用菌液とした。
【0025】
(被験物質の希釈系列の調製)
20w/w%エチルセルソルブを希釈溶媒とし、5、4、3、2.5、2.25、2、1.75、1.5、1.25、1w/v%の1,2−オクタンジオール液を調製した。また、塩化リゾチーム及び1,2−オクタンジオールと塩化リゾチームの等量混合物については、5w/v%の液を倍倍希釈して希釈系列を調製した。
【0026】
(最小発育阻止濃度(MIC)の測定)
上記被験物質を含む希釈系列1mLに対して各寒天培地9mLをシャーレに入れ、それぞれについて、上記接種用菌液を約1cmの長さに画線した。培養は、35℃で行い、2日後の菌の生育の有無を判定した。このとき、生育が認められなかった最小の濃度をMICとして求めた。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
尚、MICによって、抗菌力を評価することができる。被験物質の濃度が薄いときには微生物への影響はないが、濃度を増していくと発育抑制が起こる。この程度は、濃度に依存して発育抑制が進み、ついには発育が停止する。このときの濃度がMICとして表される。したがって、MIC以上の濃度になると、微生物は死滅していくことになる。
【0029】
(二元最小発育阻止濃度)
得られた1,2−オクタンジオール、塩化リゾチーム、及び1,2−オクタンジオールと塩化リゾチームの混合物の各MICを、1,2−オクタンジオール及び塩化リゾチームの配合量に対してプロットし、二元最小発育阻止濃度図を求めた。
尚、二元最小発育阻止濃度により、抗菌性を有する二種類の物質を配合した場合の作用効果を判定することができる。具体的には、抗菌性を有する二種類の物質を配合した場合、それにより生ずる作用は、相乗作用、相加作用、拮抗作用に大別される。相乗作用とは、二薬剤が相乗的に作用し、本来有する抗菌力が更に増強される作用である。相加作用とは、各薬剤の抗菌力が合わさった作用である。拮抗作用とは、一薬剤が他剤の抗菌力を打ち消す場合の作用である。そして、二元最小発育阻止濃度図による方法は、例えば、図1に示すように、A物質とB物質について、それぞれの割合を変えてMICを測定し、グラフから判定する方法である。これによると、A物質のみにおけるMIC(点A)とB物質のみにおけるMIC(点B)とをプロットした点を結び、両物質を併用したときのMICが、この線上より内側にある場合(点C)は、併用により抗菌力が増強された相乗作用であると、線上(点D)にある場合は相加作用であると、線上より外側にある場合(点E)は、一方又は双方の抗菌力を打ち消し抗菌力を減少させる拮抗作用であると判定することができる。
図2に本発明の腋臭菌用抗菌剤に関する二元最小発育阻止濃度図を示す。
【0030】
(抗菌効果の評価)
図2の結果から、1,2−アルカンジオールと、リゾチームとの組合せにより、腋臭原因菌に対して1,2−アルカンジオール又はリゾチームが本来有する抗菌活性が相乗的に著しく増強されることが認められた。
【0031】
実施例2
(腋臭防止効果の評価)
表2に記した組成に従い、実施例1及び比較例1〜2の各試料を常法により調製し、下記評価に供した。尚、配合量は、重量%を表す。
【0032】
腋臭が強いと判定された男子被験者10名に対して下記の試験を行った。即ち、実施例及び比較例の各組成物を被験者の一方の腋下に塗布し、もう一方の腋下は対照として塗布しなかった。塗布前と、塗布直後、4時間後の腋臭について、下記評価基準に従って判定し、その平均値を採用した。結果を表2に示す。
【0033】
(評価基準)
腋臭が全く臭わない・・・・・・0点
腋臭がかすかに臭う・・・・・・1点
腋臭がやや臭うが弱い・・・・・2点
腋臭がはっきりと臭う・・・・・3点
腋臭が非常に強く臭う・・・・・4点
【0034】
【表2】

【0035】
表2の結果から、本発明の腋臭菌用抗菌剤を配合した組成物は、優れた腋臭防止効果を発揮することが分かる。
【0036】
以下、本発明の腋臭菌用抗菌剤を配合した組成物の配合例を示す。尚、配合量は重量%である。
【0037】
(処方例1:液体防臭剤)
エタノール 60.0
1,3−ブチレングリコール 3.0
トリクロサン 0.1
ポリオキシエチレン(50)硬化ヒマシ油 0.5
1,2−ヘキサンジオール 1.5
塩化リゾチーム 0.5
香料 適 量
精製水 残 分
合 計 100.0
【0038】
(処方例2:消臭スプレー)
エタノール 50.0
1,2−オクタンジオール 1.0
塩化リゾチーム 0.5
LPG 残 分
合 計 100.0
【0039】
(処方例3:デオドラントスティック)
イソプロピルミリスチン酸エステル 10.0
ステアリン酸ナトリウム 10.0
セタノール 25.0
1,2−オクタンジオール 1.2
塩化リゾチーム 0.5
精製水 1.0
香料 適 量
エタノール 残 分
合 計 100.0
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の腋臭菌用抗菌剤は、腋臭原因菌に対して、相乗的に著しく増強された抗菌活性を示すことから、化粧品や医薬部外品等の組成物中に含有させることにより、腋臭防止剤や腋臭を防臭する皮膚外用剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】二元最小発育阻止濃度から、抗菌性を有する二種類の物質を配合した場合により生じる作用効果を判定する方法の一例を示す図である。
【図2】実施例1に関する二元最小発育阻止濃度図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数5〜10の1,2−アルカンジオールと、リゾチーム及び/又はその塩とを含有してなる腋臭菌用抗菌剤。
【請求項2】
1,2−アルカンジオールが、1,2−ヘキサンジオール及び/又は1,2−オクタンジオールである請求項1に記載の腋臭菌用抗菌剤。
【請求項3】
腋臭菌がコリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌である請求項1又は2に記載の腋臭菌用抗菌剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の腋臭菌用抗菌剤を含有する腋臭防止剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の腋臭菌用抗菌剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項6】
炭素数5〜10の1,2−アルカンジオールと、リゾチーム及び/又はその塩とを殺腋臭菌効果の有効成分として含有する組成物を腋に適用する腋臭防止方法。
【請求項7】
1,2−アルカンジオールが、1,2−ヘキサンジオール及び/又は1,2−オクタンジオールである請求項6に記載の腋臭防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−145750(P2007−145750A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341331(P2005−341331)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】