説明

腎疾患を処置するための化合物および方法

【課題】本発明は、腎疾患および腎炎を処置および予防するための組成物および方法を提供する。特に、本発明は、TLR2の機能および発現の阻害剤として機能する化合物の投与により腎疾患および腎不全を処置するための方法を提供する。
【解決手段】本発明の第1の態様によれば、腎炎および腎疾患に関与するTLR2発現細胞または組織におけるToll様受容体2(TLR2)の1つ以上の生物学的活性を減少させる方法であって、前記細胞または組織におけるTLR2の1つ以上の生物学的活性を減少させるのに十分な量で、TLR2活性またはTLR2発現の拮抗薬と、前記細胞または組織とを接触させる工程を含む方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎疾患を処置および予防するための組成物および方法に関する。特に、腎臓の糸球体の炎症によって特徴付けられる糸球体腎炎などの状態を処置するための方法であって、前記方法は、受容体であるToll様受容体2の機能に拮抗する化合物の使用を含む、方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
各々の腎臓は約100万のネフロンから構成される。ネフロンの構成要素である糸球体は、並行する毛細血管の塊から構成され、この構造はボーマン嚢といわれている。糸球体の機能は、水および血液由来の溶質を濾過することである。
【0003】
糸球体腎炎は、糸球体の炎症によって特徴付けられる腎臓の疾患である。糸球体の炎症は糸球体機能を損ない、これにより、正常な糸球体濾過に対する破壊を生じる毛細血管の狭小化または遮断がもたらされる。
【0004】
糸球体腎炎は、タンパク尿として知られる状態の、尿に流れる大量のタンパク質を生じる場合がある。糸球体腎炎のさらなる症状としては、過剰血液尿素窒素(尿毒症)、血尿、高脂血症、糸球体濾過率の減少、低アルブミン血症および脂肪尿が挙げられ得る。
【0005】
糸球体腎炎の現在の治療としては、副腎皮質ステロイドおよび/または非ステロイド系抗炎症薬の投与が挙げられる。より重症例の場合、血液透析または臓器移植が必要とされる場合がある。しかしながら、このような治療は多くの理由のために十分でない。副腎皮質ステロイドを使用する場合、これは、糸球体腎炎の処置に通常利用される治療であり、この処置は、長期ステロイド投与から生じる場合がある患者の免疫抑制を制限するために注意深く管理されなければならない。さらに、負担のある、または長期間の透析、あるいは移植手術および臓器拒絶に関する危険性もまた、これらの治療を望まれないものにする。
【0006】
従って、糸球体腎炎の間、炎症糸球体を予防または処置し、従来の処置の不都合な点および副作用を被らないようにするために、炎症糸球体を標的とすることができる治療的処置についての切迫した必要性が存在する。
【0007】
Toll様受容体(TLR)は、先天性免疫応答を活性化するのに重要な役割を有するパターン認識受容体のファミリーを形成する。11種のToll様受容体が、今までヒトにおいて同定されている。Toll様受容体ファミリーのメンバーは、10種〜15種のToll様受容体を有するほとんどの哺乳動物種で高度に保存される。各々のToll様受容体は、特異的病原体関連分子シグネチャーを認識する。例えば、Toll様受容体2(TLR2、CD282、TLR−2)は、ペプチドグリカン、リポタンパク質、およびリポタイコ酸によって活性化され得る。Toll様受容体は、各々の二量体が異なるリガンド特異性を有するホモ二量体またはヘテロ二量体のいずれかを形成することが知られている。TLR2は、TLR1またはTLR6のいずれか、および一部の場合において、膜結合性受容体複合体を形成するために、場合によりTLR10も有するヘテロ二量体を形成する。加えて、Toll様受容体2の細胞外ドメインは、循環系およびまた哺乳動物の乳においてもCD14タンパク質と可溶性ヘテロ二量体を形成することが知られている。
【0008】
Toll様受容体2に対するリガンド結合は、TIRAP(Toll−インターロイキン−1受容体ドメイン含有アダプタータンパク質)としても公知であるMyD88およびMal(MyD88−アダプター様)などの細胞質アダプタータンパク質に関与する下流のシグナル伝達を生じる。
【0009】
Toll様受容体2と、Toll様受容体2誘導シグナル伝達および免疫系活性化との関係は、炎症および免疫介在性疾患の進行における重要な媒介物としてのToll様受容体2に関与している。従って、Toll様受容体2シグナル伝達経路の調節に関する重要な治療目的が存在する。Toll様受容体2によって媒介される細胞内シグナル伝達は、先天性免疫系の活性化を生じる。しかしながら、一部の場合において、Toll様受容体2の活性化後に生じる先天性免疫系の活性化は、炎症および免疫介在疾患を引き起こす際の要因であることが示されている。従って、多数の治療アプローチは、例えば、Toll様受容体2の活性化の後に生じるToll様受容体2によって媒介される細胞内シグナル伝達を抑制することによって、TLR−2リガンド結合を阻害、またはリガンド結合後のToll様受容体2の機能活性を抑制しようとしている。
【0010】
腎疾患の病理学に関して、Toll様受容体2は、糸球体腎炎などの免疫介在性腎疾患の進行および再発に関連する抗原特異的適応免疫応答の誘導に関与することが示されている。具体的には、リポペプチドであるToll様受容体2リガンドが、Toll様受容体2依存性の様式で、腎毒性腎炎を悪化させ得ることが示されている。Toll様受容体2の活性化は、血清中のIgG、IgG2b、IgGなどの増加した量の抗原特異的IgGアイソタイプを示し、IgG2bおよびIgGは糸球体内に沈着するように見える。増加したCD4+陽性T細胞湿潤もまた、糸球体に観測された。それにもかかわらず、今まで、Toll様受容体2経路を阻害することが、免疫介在性腎障害を処置するための基盤を与えることを示唆する証拠が存在しなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
多数の実験の後に、本発明者らは驚くべきことに、例えば、Toll様受容体2リガンド結合を阻害することによって、または活性化Toll様受容体2によって媒介される細胞内シグナル伝達を阻害することによって、Toll様受容体2の機能に拮抗する化合物が、腎臓における炎症のレベルを低下させることを確認した。本発明者らは、かかる化合物が、腎臓の炎症状態を処置するため、特に糸球体腎炎などの状態を処置するために本発明において有用であることを確認した。特に、本発明者らは、驚くべきことに、Toll様受容体2に存在し、Toll様受容体2に対するリガンド結合を阻害する少なくとも1つの結合エピトープに結合特異性を有する抗体、またはその機能的結合断片の使用により、Toll様受容体2リガンド結合を阻害することが、好中球の産生を抑制、ならびに糸球体腎炎の発症の間に典型的に上昇するタンパク尿および血栓症を抑制できることを示した。従って、このような作用を媒介する化合物は、Toll様受容体2によって媒介される活性化および下流のTLR−2によって誘導される細胞内シグナル伝達を下方制御する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、腎炎および腎疾患に関与するTLR2発現細胞または組織におけるToll様受容体2(TLR2)の1つ以上の生物学的活性を減少させる方法であって、
前記細胞または組織におけるTLR2の1つ以上の生物学的活性を減少させるのに十分な量で、TLR2活性またはTLR2発現の拮抗薬と、前記細胞または組織とを接触させる工程を含む方法が提供される。
【0013】
特定の実施形態において、TLR2発現細胞または組織は、腎臓の細胞または組織である。本発明の特定の実施形態において、TLR2発現細胞は、限定されないが、尿細管上皮細胞(TEC)、ボーマン嚢の上皮細胞、腎臓糸球体壁細胞、腎臓糸球体有足細胞、近位尿細管刷子縁細胞、ヘンレ係蹄薄部細胞、腎臓遠位尿細管細胞、または腎臓集合管細胞からなる群より選択される少なくとも1つの細胞種類であってもよい。
【0014】
特定の実施形態において、接触させる工程は、細胞溶解物、再構成系または培養物中の細胞において起こる。特定の実施形態において、接触させる工程は、被験体に存在する細胞または組織で起こる。特定の実施形態において、TLR2は、ヒトTLR2、マウスTLR2、または任意の他の哺乳動物種由来のTLR2であってもよい。
【0015】
特定の実施形態において、この方法は、腎炎または腎疾患を有するか、あるいは有する危険性のあるヒト被験体で実施される。
【0016】
本明細書に定義する場合、用語「腎炎および腎疾患」は、腎臓内の炎症の発生によって実質的に特徴付けられるか、または腎臓内の炎症の発生が、主に腎臓以外の身体の部位に影響を与える疾患もしくは炎症状態によって引き起こされる全ての状態にまで及ぶ。特に、炎症は、限定されないが、糸球体、ボーマン嚢またはボーマン嚢腔を含む部位で生じ得る。典型的に、炎症は、腎臓機能の少なくとも部分的な機能障害および/または腎不全を生じる。
【0017】
さらに、用語「腎炎および腎疾患」は、「腎臓病」をさらに含んでもよく、用語、腎臓病とは、一般に、ヒトにおける少なくとも1つの腎臓の障害を指し、その障害は腎臓の機能を損なうか、または低下させ、これは、例えば、タンパク質の尿への漏出によって、または窒素性老廃物の排出によって生理的に特徴付けられる。腎臓病はまた、糸球体または尿細管に対する損傷などの腎臓の主用な病理、タンパク質の保持などの生物学的機能を行う腎臓の能力に悪影響を与える、膵臓などの別の臓器に対する損傷に起因し得る。従って、ヒトにおける腎臓病は、他の臓器に影響を与え得る疾患状態の直接または間接的な作用であってもよい。腎臓に影響を与える疾患の例は、腎臓を特に標的としないが、糖尿病および全身性狼瘡である。用語、腎疾患および腎臓病は、本明細書において、用語「腎臓の疾患」と交換可能に使用される。例えば、腎疾患は、腎臓皮質または腎臓髄質のいずれかにおける糸球体、尿細管または間質組織に対するいくらかの変化、損傷、または外傷の結果に起因し得るか、またはそれらの外傷の結果であってもよい。
【0018】
腎臓病はまた、進行性腎臓病であってもよい。本明細書に使用する場合、用語「進行性腎臓病」とは、腎臓機能の損失を生じるある期間(例えば、数日、数週、数ヶ月、数年)にわたる腎臓の任意の疾患を指す。本明細書に定義する場合、用語「腎臓機能」は一般に、タンパク質を保持し、それによって、タンパク尿(例えば、アルブミン尿)を防ぐ能力などの腎臓の生理的特性を指す。腎臓機能は、例えば、糸球体濾過率(例えば、クレアチニンクリアランス)、尿、例えば、アルブミン尿中のタンパク質の排出量、血中尿素窒素、血清または血漿クレアチニン、あるいはそれらの任意の組み合わせによって評価されてもよい。
【0019】
用語「腎炎および腎疾患」の意味に含まれる特定の状態の例としては、限定されないが、慢性腎不全、急性腎不全、異種腎毒性腎炎、糸球体腎炎、糸球体の硬化、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病性ネフロパシーであって、その糖尿病性ネフロパシーは、肝臓の硬化に付随して起こる糖尿病性ネフロパシー、糸球体腎炎であって、その糸球体腎炎は肝臓の硬化に付随して起こる糸球体腎炎を含む、限定されないが、腎障害が挙げられる。
【0020】
特定のさらなる実施形態において、腎炎および腎疾患は、腎臓細胞および/または腎臓機能に影響を与える免疫介在疾患に関連してもよい。かかる状態としては、限定されないが、免疫グロブリンAネフロパシー、膜性増殖性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、非増殖性糸球体腎炎、膜性糸球体腎炎、微小変化型疾患、原発性巣状分節状糸球体硬化症(FSGS)、線維性糸球体腎炎、イムノタクトイド糸球体腎炎、増殖性糸球体腎炎、進行性糸球体腎炎、抗GBM疾患、腎虚血、抗好中球細胞質抗体(ANCA)(例えば、ヴェゲナー肉芽腫症)に関連する疾患を含む腎臓血管炎、ループス腎炎クリオグロブリン血症関連糸球体腎炎、細菌性心内膜炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、感染後糸球体腎炎、C型肝炎疾患、糖尿病性ネフロパシー、ミロイドーシス(myloidosis)、高血圧性腎硬化症、多発性骨髄腫由来軽鎖疾患、続発性巣状分節状糸球体硬化、および高血圧性腎硬化症が挙げられ得る。
【0021】
用語「腎炎および腎疾患」はまた、急性腎不全を含む。急性腎不全(「ARF」)とは、乏尿(1日あたり500mL未満)を有するか、または有さない、急性で、確実に増大する高窒素血症に関連する臨床状態を指す。ARFの原因は、3つの診断区分:腎前性(不十分な腎灌流);腎後性(閉塞);および腎性に分類され得る。ARFの病態生理学は、複雑で多因子性である。現在の概念は、ARFが、直接的な尿細管障害、腎虚血または管内閉塞に起因する可能性があることを示唆する。臨床的に、ARFは、減少した糸球体濾過ならびに代謝老廃物、水、および電解質の減少した分泌を生じる。体液過剰、電解質不均衡および尿毒症性症候群は、臓器機能不全を生じる。臓器機能不全は、最終的に死をもたらす場合がある。
【0022】
TLR2活性またはTLR2発現の拮抗薬はまた、TLR2調節薬剤のことを指される場合がある。本発明のTLR2調節薬剤はTLR2機能を阻害し、それによって、腎不全の原因となるTLR2媒介性、または依存性病態生理学的メカニズムを防止するように作用する。かかる病態生理学的メカニズムの例としては、直接的な尿細管障害、腎虚血、および管内閉塞が挙げられる。
【0023】
特定の実施形態において、TLR2調節薬剤は、尿細管上皮細胞(TEC)および/またはボーマン嚢の上皮細胞などの腎臓の細胞集団を特異的に標的化できるように被験体に投与される。腎臓またはその細胞に対するToll様受容体2調節薬剤の直接的な標的化により、被験体におけるToll様受容体2の機能の全体的な抑制が回避される。治療に対するこの標的化されたアプローチは、腎臓におけるToll様受容体2によって媒介される炎症を抑制することが望まれる場合であるが、腎臓以外の部位でToll様受容体2の活性を下方制御することが望まれない場合に、特に効果的であり得、これにより、腎臓以外の部位における潜在的な免疫抑制をもたらす。本発明のTLR2調節化合物を腎臓の細胞に方向づけるために使用され得る標識化合物または標的分子などの化合物は、当業者に公知である。かかる標的化は、典型的に、標的化されるべき細胞に特異的であるリガンドまたは細胞表面マーカーについての結合特異性を有する結合剤を含むことを意味する。
【0024】
特定の実施形態において、TLR2拮抗薬は、限定されないが、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質、アプタマーおよび低分子化合物からなる群より選択される。
【0025】
特定の実施形態において、TLR2拮抗薬は抗体分子である。典型的に、抗体は、ヒトTLR2に存在するエピトープに対する結合特異性を有する。特定の実施形態において、抗体分子、またはその抗体分子由来の結合断片は、TLR2の細胞外ドメインのアミノ酸残基を含むエピトープに対する結合特異性を有する。特定の実施形態において、TLR2拮抗薬は、ヒトTLR2のアミノ酸配列のアミノ末端およびカルボキシル末端由来のアミノ酸残基を含む不連続エピトープに結合する。特定の実施形態において、TLR2拮抗薬は、配列番号2に規定されるTLR2の細胞外ドメインのアミノ酸残基19〜39、または538〜549を含むTLR2上のエピトープに結合する。
【0026】
特定の実施形態において、抗体は、TLR2に特異的に結合しているヒト、ヒト化、キメラ、合成、ラクダ、サメまたは生体外の抗体からなる群より選択される。さらなる実施形態において、本発明は、上述の抗体のいずれかに由来する抗体結合断片にまで及ぶ。特定の実施形態において、抗体は、Fab、scFV、Fv、またはdAb断片からなる群より選択される抗体結合断片である。特定の実施形態において、抗体分子は、2つの完全な重鎖、および2つの完全な軽鎖、またはその抗原結合断片を含む。特定の実施形態において、抗体は、アイソタイプIgG、IgA、IgMである。抗体がアイソタイプIgGである実施形態において、その抗体はサブタイプIgG1、IgG2またはIgG3であってもよい。
【0027】
特定の実施形態において、抗体は、マウスIgG1抗TLR2抗体(ハイブリドーマクローンT2.5,HyCult Biotechnology b.v.,Cell Sciences,Canton,USA:カタログ番号1054由来のマウスToll様受容体2(TLR2)抗体)、またはそのヒト化型である。
【0028】
特定の実施形態において、TLR2拮抗薬は、TLR2タンパク質をコードする核酸の発現を阻害する。かかる実施形態において、TLR2拮抗薬は、限定されないが、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重螺旋分子、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、およびshRNA分子からなる群より選択されてもよい。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、腎障害の処置および/または予防のための方法が提供され、その方法は、
Toll様受容体2(TLR2)の機能または発現を調節する治療有効量の薬剤を提供する工程と、
前記化合物を、かかる処置を必要とする被験体に投与する工程と、を含む。
【0030】
特定の実施形態において、腎障害は、腎疾患、腎炎状態、慢性腎不全、急性腎不全、異種腎毒性腎炎、糸球体腎炎、糸球体の硬化、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病性ネフロパシーであって、その糖尿病性ネフロパシーは、肝臓の硬化に付随して起こる糖尿病性ネフロパシー、および糸球体腎炎であって、その糸球体腎炎は肝臓の硬化に付随して起こる糸球体腎炎からなる群のうちの少なくとも1つである。
【0031】
特定の実施形態において、腎障害は、腎臓の細胞および/または腎臓機能に影響を与える免疫介在性疾患に関連する。かかる障害としては、限定されないが、免疫グロブリンAネフロパシー、膜性増殖性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、非増殖性糸球体腎炎、膜性糸球体腎炎、微小変化型疾患、原発性巣状分節状糸球体硬化症(FSGS)、線維性糸球体腎炎、イムノタクトイド糸球体腎炎、増殖性糸球体腎炎、進行性糸球体腎炎、抗GBM疾患、腎虚血、抗好中球細胞質抗体(ANCA)(例えば、ヴェゲナー肉芽腫症)に関連する疾患を含む腎臓血管炎、ループス腎炎クリオグロブリン血症関連糸球体腎炎、細菌性心内膜炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、感染後糸球体腎炎、C型肝炎疾患、糖尿病性ネフロパシー、ミロイドーシス(myloidosis)、高血圧性腎硬化症、多発性骨髄腫由来軽鎖疾患、続発性巣状分節状糸球体硬化、および高血圧性腎硬化症が挙げられ得る。
【0032】
特定のさらなる実施形態において、腎障害は、上述に記載されるいずれかの腎炎状態または疾患、あるいはさらに上述に記載されるいずれかの腎疾患に関連してもよい。
【0033】
本明細書に定義する場合、用語「機能を調節する」とは、薬剤がToll様受容体2の1つ以上の生物学的機能活性を調節することを意味する。特定の実施形態において、Toll様受容体2の機能の調節は、Toll様受容体2の機能の活性化の阻害および/またはToll様受容体2によって媒介される下流の細胞内シグナル伝達の阻害もしくは抑制に関連する。調節はさらに、Toll様受容体2タンパク質の発現、またはToll様受容体2をコードする遺伝子の発現の抑制にまで及んでもよい。
【0034】
本明細書に定義する場合、TLR2の発現または機能を調節する「薬剤」は、Toll様受容体2の活性化、発現もしくは機能を抑制または遮断する化合物である。特定の実施形態において、「薬剤」は、リガンドの結合またはToll様受容体2に対する結合化合物を阻害もしくは遮断するTLR2拮抗化合物であってもよい。例えば、「薬剤」は、Toll様受容体2の細胞外ドメインに結合する抗体などのToll様受容体2結合薬剤であってもよく、前記薬剤は、TLR2についての結合特異性を有するTLR2を活性化するリガンドの結合を阻害する。さらに、「薬剤」は、リガンド結合および/またはToll様受容体2の活性化後にToll様受容体2によって媒介される細胞内シグナル伝達を阻害または抑制する化合物であってもよい。「薬剤」はさらに、例えば、Toll様受容体2タンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害することによって、Toll様受容体2の発現を調節してもよい。
【0035】
特定の実施形態において、「Toll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤」は、結合特異性を有するか、またはToll様受容体2に特異的に結合する結合化合物であってもよい。特定の実施形態において、結合化合物は、限定されないが、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、ポリヌクレオチド、多糖、オリゴペプチド、炭水化物、脂質、アプタマー、低分子化合物、および植物由来化合物などの天然に存在する化合物からなる群より選択される。
【0036】
特定の実施形態において、Toll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤は、リガンド結合部位以外の部位でToll様受容体2に特異的に結合する結合化合物であり、これにより、結合する際に、Toll様受容体2の作動薬結合の阻害を生じるToll様受容体2の構造の変化を引き起こす。典型的に、前記結合部位は、TLR2の細胞外ドメインに位置する。
【0037】
用語「特異的に結合する」または「結合特異性」とは、TLR2調節薬剤またはTLR2結合化合物が、非標的エピトープに結合するより高い親和性でTLR2に存在する標的エピトープに結合する能力を指す。特定の実施形態において、用語「特異的に結合する」とは、非標的エピトープについての結合親和性より少なくとも10、50、100、250、500、または1000倍高い結合親和性でTLR2に存在する標的エピトープに対する薬剤の結合を指す。特定の実施形態において、結合親和性は、親和性ELISAアッセイによって決定される。代替の実施形態において、親和性は、BIAコアアッセイによって決定される。あるいは、結合親和性は、速度論的方法によって決定されてもよい。特定の実施形態において、親和性は、平衡/溶液方法によって決定される。
【0038】
一実施形態によれば、TLR2拮抗薬などのTLR2結合薬剤を含むTLR2調節因子は、例えば、少なくとも約10−1、典型的に約10−1、より典型的に約10−1〜1010−1またはそれ以上の親和定数を有する高い親和性でTLR2に結合し;そしてTLR2応答細胞および/または組織における1つ以上のTLR2生物学的活性を調節、例えば、減少および/または阻害する。
【0039】
特定の実施形態において、TLR2調節薬剤は、腎臓の細胞、特に糸球体またはボーマン嚢で発現されたToll様受容体2に標的化される。本発明の方法および組成物を用いて調節、例えば、阻害または減少され得る例示的なTLR2活性としては、限定されないが、以下のうちの1つ以上が挙げられる:(i)TLR2発現を阻害または抑制すること、(ii)TLR2リガンド結合および関連するTLR2活性化を阻害すること、ならびに(iii)TLR2によって媒介される細胞内シグナル伝達を阻害または抑制すること。
【0040】
従って、さらなる態様において、本発明は、TLR2応答細胞および/または組織(例えば、腎臓の細胞または組織)におけるToll様受容体2(TLR2)の機能を調節する(例えば、1つ以上の生物学的活性を調節する)方法を提供する。この方法は、TLR2応答細胞または組織の機能、あるいはその細胞または組織におけるTLR2の生物学的活性を調節するのに十分な量で、TLR2応答細胞および/またはTLR2応答組織と、TLR2調節薬剤、例えば、ヒトTLR2活性または発現の拮抗薬などのTLR2結合化合物とを接触させる工程を含む。一実施形態において、TLR2調節因子とTLR2応答細胞とを接触させる工程は、生体外、例えば、細胞溶解物または再構成系において行われてもよい。あるいは、前記方法は、培養物中の細胞、例えば、生体外(in−vitroまたはex−vivo)で実施されてもよい。例えば、精製された細胞または組み換え細胞などの細胞は、生体外で培養されてもよく、接触させる工程は、TLR2調節因子を培地に加えることによって行われてもよい。典型的に、TLR2応答細胞は、ヒト細胞などの哺乳動物細胞である。一部の実施形態において、TLR2応答組織は、腎臓の組織、またはそれに関連する細胞集団である。特定のさらなる実施形態において、この方法は、例えば、生体内プロトコルの一部として、またはヒトなどの動物被験体、またはさらに生体内の動物モデルなどの被験体に存在する細胞で実施されてもよい。前記生体内プロトコルは、治療的または予防的であってもよく、炎症モデルは、例えば、腎炎または腎疾患、過剰発現したTLR2、あるいはTLR2受容体の変異または欠失を有する動物モデルなどの遺伝子操作されたモデルであってもよい。生体内での方法に関して、単独、または別の薬剤と組み合わせてTLR2調節因子は、被験体におけるTLR2発現、あるいは1つ以上のTLR2によって媒介される活性または機能を調節するのに十分な量で、腎疾患または腎炎、あるいは腎臓病または正常な腎臓の生理学的機能の不全を生じる状態を罹患する被験体に投与されてもよい。特定の実施形態において、被験体に投与されるTLR2調節因子の用量は、1つ以上のTLR2活性(例えば、本明細書に記載される1つ以上のTLR2生物学的活性)を変更、例えば、減少または阻害するのに必要とされるTLR2調節因子の量を生体外(in−vitroまたはex−vivo)で試験することにより投与前に決定されてもよい。
【0041】
1つ以上のTLR2生物学的活性を阻害、減少または縮小することが望まれる特定の実施形態において、TLR2応答細胞および/または組織は、例えば、被験体にTLR2拮抗薬を投与することによってTLR2拮抗薬と接触される。一実施形態において、TLR2拮抗薬は、例えば、TLR2ポリペプチドまたはmRNAと相互作用するか、またはそれらに結合して、1つ以上のTLR2活性を減少または阻害する。典型的に、拮抗されるTLR2は、哺乳動物TLR2(またはその機能的変異体)、例えば、ヒトTLR2またはマウスTLR2である。特定の実施形態において、拮抗されるTLR2は、図19(配列番号1)(Genbank Accession Number AAC 34133(URL www.ncbi.nlm.nih.gov)に規定される784のアミノ酸全長ヒトToll様受容体配列を含む)に規定されるヒトTLR2配列、または図20(配列番号2)(Genbank Accession Number NP_036035(Mus筋肉))に規定されるアミノ酸配列を含むマウスTLR2配列もしくはその一部、および/または実質的にそれらと相同的な配列、または、配列番号1もしくは配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列によってコードされる配列および/もしくはそれらと実質的に相同的な配列を含む。
【0042】
本明細書に定義する場合、用語「Toll様受容体2の活性化」とは、リガンドによるToll様受容体2の結合を意味し、ここで、そのリガンドは作動薬として作用し、細胞内シグナル伝達カスケードを誘導するためにToll様受容体2を活性化する。Toll様受容体2の活性化およびシグナル伝達の後に媒介される細胞内シグナル伝達は、炎症性免疫応答を媒介する転写因子の活性化および遺伝子の発現を生じる。
【0043】
特定の実施形態において、Toll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤は、Toll様受容体2とToll様受容体2の作動薬との相互作用を阻害する。
【0044】
特定の実施形態において、Toll様受容体2の活性化および/またはシグナル伝達を抑制する調節薬剤は、Toll様受容体2の拮抗薬として作用する化合物である。典型的に、Toll様受容体2の機能の拮抗は、Toll様受容体2に対するリガンド結合が防がれる方法において、Toll様受容体2に対するToll様受容体2結合剤の結合により達成される。このToll様受容体2のリガンド結合の阻害は、多くの手段、例えば、Toll様受容体2のリガンド結合部位を部分的または完全に遮断すること、あるいは例えば、結合を妨げるToll様受容体2のリガンド結合部位の三次構造の構造変化に起因するToll様受容体2のリガンド結合を防ぐ方法で変化されるToll様受容体2のリガンド結合部位を生じるToll様受容体2に結合または会合する際の構造変化を誘導することによって達成されてもよい。
【0045】
特定の実施形態において、TLR2調節薬剤は、TLR2に存在する少なくとも1つのエピトープに結合し、ここで、このエピトープに対する結合は、TLR2機能、典型的に活性化またはTLR2によって媒介される下流のシグナル伝達の阻害を生じる。本明細書に定義する場合、「エピトープ」とは、低分子、抗体などの結合化合物によって認識され、結合され得るTLR2タンパク質由来の複数のアミノ酸残基を指す。エピトープは一般に、化学的に活性な表面基を含み、特異的な三次元構造特性、および特異的電荷特性を有する。
【0046】
典型的に、TLR2調節薬剤は、阻害エピトープまたは抑制エピトープとして公知のエピトープに結合することによりTLR2の機能活性を拮抗する。「阻害」または「抑制」エピトープとは、低分子または抗体などの結合化合物によって結合された場合、例えば、TLR2作動薬によるTLR2の結合を阻止する結合化合物に起因してTLR2の生物学的活性の損失を生じるTLR2に存在するエピトープを意味する。TLR2に存在し、TLR2機能に拮抗するために結合化合物によって結合されるエピトープは、5以上のアミノ残基を含んでもよい。
【0047】
特定の実施形態において、本発明のTLR2調節薬剤は、連続エピトープを認識する。さらなる実施形態において、エピトープは、配列番号1に規定される成熟Toll様受容体2(TLR2)タンパク質のN末端(アミノ末端)およびC末端(カルボキシ末端)部分の両方由来の残基を含む不連続エピトープである。特定の実施形態において、エピトープは、Toll様受容体2の586アミノ酸配列から決定される残基19〜39を含んでもよく、前記アミノ酸は、KEESSNQASLSCDRNGICKGS(配列番号3)である。さらに、結合エピトープは、配列番号1のアミノ酸配列のC末端領域に存在するToll様受容体2のアミノ酸残基538〜549をさらに含んでもよく、この配列は、アミノ酸CSCEFLSFTQEQQ(配列番号4)を含む。TLR2調節薬剤結合部位はさらに、配列番号1のアミノ酸残基19〜39、または538〜549、あるいは配列番号1のアミノ酸残基19〜39、または538〜549によって規定され得る。
【0048】
Toll様受容体2の機能活性の減少、阻害または拮抗は、Toll様受容体2が、Toll様受容体1、Toll様受容体6またはToll様受容体4もしくはToll様受容体10などの別のToll様受容体とヘテロ二量体を形成するか否かに関わらず、起こり得る。用語「Toll様受容体2の活性化および下流の媒介性シグナル伝達」とは、活性化されたTLR2によって誘導されるいずれかの細胞内シグナル伝達経路を意味する。シグナル伝達経路は、TLR2特異的経路であってもよいか、または例えば、転写因子NF−κBなどの免疫反応の介在物質の活性化の一因となるTLR2以外の受容体の活性化によって、例えば、シグナル伝達経路が他の源によって活性化され得る「共有された」シグナル伝達経路であってもよい。
【0049】
TLR2は、少なくとも2つの機能的ヘテロ二量体に二量体化することが知られている。通常、TLR2は、Toll様受容体1またはToll様受容体6のいずれかとヘテロ二量体を形成することが知られている。さらにヘテロ二量体は、TLR2と、Toll様受容体4(TLR4、TLR−4)およびToll様受容体10(TLR10、TLR−10)との間に形成されてもよい。この二量化は、異なる微生物由来のリガンドによるTLR2の結合を生じる識別に関連すると考えられる。さらに、TLR2の細胞外ドメインは、循環系および哺乳動物の乳においてCD14と可溶性ヘテロ二量体を形成することができる。
【0050】
本発明者らは、驚くべきことに、TLR2によって媒介される腎臓の炎症を抑制するのに包括的である治療的アプローチを提供するために、二量体がTLR1、TLR6、TLR4またはTLR10と形成されるか否かに関わらず、TLR2に対する結合特異性を有する結合化合物を提供することが望ましいことを確認した。これに関して、多数の実験の後に、本発明者らは、結合される場合、TLR2の機能的活性の全体的な抑制を生じる、TLR2タンパク質のN末端およびC末端の両方に存在するアミノ酸残基からなる立体構造の不連続エピトープを同定し、これにより、TLR2の機能は、ヘテロ二量体を形成するのに関連するいずれのTLR TLR2にも関係なく、阻害される。従って、TLR2拮抗薬によるこのエピトープの結合は、TLR2がTLR1、TLR4、TLR6またはTLR10とヘテロ二量体を形成するか否かに関わらず、TLR2の機能を抑制する。
【0051】
従って、特定のさらなる実施形態において、本発明によって与えられるToll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤は、以下の特性のうちの少なくとも1つを有し得る:(i)それはモノクローナル抗体である、(ii)それはヒト由来または生体外で産生された抗体である、(iii)それは配列番号3および/または配列番号4のアミノ酸を含む立体構造の不連続エピトープに結合し、ヘテロ二量体がTLR2と、TLR1、TLR6、TLR4またはTLR10との間に形成されるか否かに関わらず、TLR2機能の抑制を媒介する、(iv)それは少なくとも10−6Mの親和定数(Ka)でTLR2の細胞外ドメインのアミノ酸によって規定されるエピトープに結合する。
【0052】
特定の実施形態において、Toll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤は、限定されないが、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、ポリヌクレオチド、多糖、オリゴペプチド、炭水化物、脂質、低分子化合物、および天然化合物からなる群のうちの少なくとも1つより選択される。
【0053】
特定の実施形態において、TLR2の機能を調節する薬剤は、TLR2作動薬または上述の結合化合物のうちのいずれかなどのTLR2拮抗薬である。
【0054】
特定の実施形態において、TLR2調節薬剤は、組み換えToll様受容体2の可溶性形態であってもよい。特に、TLR2の可溶性形態は、二次タンパク質に結合されるTLR2タンパク質上の細胞外ドメインのアミノ酸残基を実質的に含む融合タンパク質であってもよい。特定の実施形態において、二次タンパク質は、免疫グロブリン由来のFcドメイン、またはその断片であってもよい。
【0055】
特定のさらなる実施形態において、TLR2調節薬剤は、TLR2タンパク質の発現を阻害する阻害核酸である。特定の実施形態において、阻害核酸タンパク質は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重螺旋分子、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、およびshRNAからなる群より選択される。
【0056】
特定の実施形態において、本発明の方法は、腎臓のTLR2発現細胞または組織における1つ以上のTLR2生物学的活性を減少または阻害させるために、TLR2調節薬剤を被験体に投与するために使用される。
【0057】
特定の実施形態において、本発明の方法は、被験体における慢性腎不全または腎臓臓器移植に起因し得る虚血再灌流障害を処置または予防するために使用されてもよい。
【0058】
特定の実施形態において、本発明の方法は、Toll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤と共に、治療的に有効量の少なくとも1つの二次治療化合物を投与するさらなる工程を含んでもよい。前記二次治療化合物は、例えば、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤、代謝拮抗物質、抗CD2抗体または関連結合断片、抗CD20抗体、抗TNF−α抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムスまたはFTY720からなる群より選択される免疫抑制化合物であり得る。
【0059】
特定の実施形態において、二次治療薬剤は、Toll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤の投与と同時に、連続して、または別個に投与されてもよい。
【0060】
本発明のなおさらなる態様によれば、腎炎または腎疾患の処置および予防に使用するための医薬組成物が提供され、前記組成物は、少なくとも1つの薬理学的に許容できる担体、希釈剤、可溶化剤、乳化剤、保存剤および/または補助剤と共に、Toll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤を含む。
【0061】
特定の実施形態において、腎炎は、腎臓病、急性腎不全、慢性腎不全または糸球体腎炎などの腎臓の別の関連する炎症状態を含む腎疾患、あるいは上述のいずれかの他の状態からなる群より選択される状態である。
【0062】
特定の実施形態において、TLR2調節薬剤は、限定されないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体または抗体断片、アプタマー、融合タンパク質またはペプチド模倣物からなる群より選択されるTLR2拮抗薬である化合物である。
【0063】
特定の実施形態において、抗体は、マウスIgG1抗TLR2抗体(ハイブリドーマクローンT2.5,HyCult Biotechnology b.v.,Cell Sciences,Canton,USA:カタログ番号1054由来のマウスToll様受容体2(TLR2)抗体)、またはそのヒト化型である。
【0064】
特定の実施形態において、TLR2調節薬剤は、TLR2受容体、またはその断片の可溶性形態である。TLR2の前記可溶性形態は、組み換え手段によって産生されてもよい。特定の実施形態において、TLR2の前記可溶性形態は、TLR2またはその断片の細胞外ドメインを含んでもよい。
【0065】
特定の実施形態において、TLR2調節薬剤は、TLR2の発現を阻害する阻害核酸ベースの化合物である。
【0066】
特定の実施形態において、医薬組成物は、限定されないが、グルココルチコイド、特にサイトカインの発現を抑制するグルココルチコイド;アルキル化剤などの細胞増殖抑制剤、メトトレキサートなどの代謝拮抗物質;OKT−3、抗CD20抗体、抗TNF−α抗体インフリキシマブ(REMICADE(商標))、エタネルセプト(ENBREL(商標))またはアダリムマブ(HUMIRA(商標))などの抗CD3抗体などの抗体または関連結合断片;シクロスポリン、タクロリムスまたはシロリムスなどのイムノフィリンで作用する薬剤化合物;あるいはFTY720またはHMG−CoA還元酵素阻害剤、血管拡張剤、利尿薬、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、β遮断薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、カルシウムチャンネル遮断薬、抗凝固剤、チクロピジンもしくは硫酸クロピドグレルなどのアデノシン二リン酸受容体拮抗薬、ビバリルジン、アルガトロバンもしくはヘパリンなどの糖タンパク質IIb/IIIa受容体拮抗薬、βアドレナリン受容体作動薬、抗血栓溶解剤、抗酸化剤、およびα遮断薬のうちの少なくとも1つ以上を含む治療的心臓血管化合物などの低分子からなる群のうちの少なくとも1つであり得る化合物である、限定されないが、免疫抑制剤などの少なくとも1つの二次治療薬剤をさらに含んでもよいか、またはそれらと共に投与されてもよい。
【0067】
特定の実施形態において、Toll様受容体2調節薬剤は、1日あたり被験体の体重の約1mg/kg〜約10mg/kgの用量で被験体に経口投与される。特定の実施形態において、Toll様受容体2調節薬剤の用量は、1日あたり約100mg〜1日あたり約1000mgである。特定のさらなる実施形態において、Toll様受容体2調節薬剤の用量は、1日あたり約200mg〜1日あたり約300mgである。特定の実施形態において、Toll様受容体2調節薬剤は、哺乳動物の体重の約0.001mg/kg〜1.0mg/kgの用量範囲で被験体に非経口投与される。
【0068】
特定の実施形態において、Toll様受容体2調節薬剤は、Toll様受容体2のレベルおよび/または活性を下方制御するのに十分な期間、かつ十分な条件下で被験体に投与される。
【0069】
特定の実施形態において、TLR2調節薬剤は、TLR2遺伝子の発現を遮断することによって、またはTLR2タンパク質をコードするmRNAの発現を可能にすることによって、TLR2の発現を阻害する阻害核酸ベースの化合物である。特定の実施形態において、阻害核酸は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重螺旋分子、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、およびshRNAからなる群より選択されてもよい。
【0070】
本明細書に定義する場合、Toll様受容体2の遺伝子発現に関連して使用される場合、用語「遮断する」および「遮断している」とは、Toll様受容体2タンパク質の発現を生じる少なくとも1つの遺伝子の発現のサイレンシングを意味する。遺伝子サイレンシングは、遺伝子操作以外の機構によって遺伝子の発現をオフにする。遺伝子サイレンシングは、転写レベルまたは転写後レベルで媒介されてもよい。転写遺伝子サイレンシングは、転写装置に対して隔絶される遺伝子を生じ得、例えば、ヒストン修飾によって媒介され得る。転写後遺伝子サイレンシングは、破壊される遺伝子のmRNAに起因し、従って、本発明の場合のTLR2タンパク質において、タンパク質などの活性遺伝子産物を回避する。
【0071】
従って、本発明のこの態様の一実施形態において、TLR2遺伝子の発現およびそれによるTLR2タンパク質の発現を遮断するために、RNAi(RNA干渉)薬剤、例えば、干渉リボ核酸(例えば、siRNAまたはshRNA)またはshRNAをコードするDNAなどのその転写鋳型などの有効量の阻害核酸分子を、被験体に存在する少なくとも1つの細胞型、組織または臓器に投与するための方法が提供される。
【0072】
特定のさらなる実施形態において、阻害核酸分子はアンチセンスRNA分子であってもよい。アンチセンスは遺伝子発現の抑制を引き起こし、mRNAに物理的に結合する一本鎖RNA断片を含み、これにより、mRNA翻訳を遮断する。阻害核酸として使用するための適切な核酸を調製するための技術は、当業者に周知である。
【0073】
本発明のさらなる態様によれば、腎疾患および腎炎を処置するための医薬を調製する際のToll様受容体2タンパク質の発現を遮断する阻害核酸の使用が提供される。
【0074】
本発明のさらなる態様は、腎疾患および腎炎を処置するための医薬組成物を提供し、その組成物は、少なくとも1つの薬理学的に許容できる担体、希釈剤、可溶化剤、乳化剤、保存剤および/または補助剤と共に、Toll様受容体2の発現を遮断する治療有効量の阻害核酸を含む。
【0075】
特定の実施形態において、阻害核酸は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、shRNAからなる群より選択される。特定の実施形態において、医薬組成物は、上記の少なくとも1つのさらなる免疫抑制化合物をさらに含んでもよい。
【0076】
Toll様受容体2の発現を遮断する阻害核酸として使用するための適切な核酸を調製するための技術は、当業者に周知である。
【0077】
さらなる態様において、本発明は、Toll様受容体2に対する結合特異性を有する少なくとも1つのアプタマーの提供にまで及び、これにより、Toll様受容体2の機能的活性の遮断または抑制を引き起こす。適切なアプタマーを選択するための技術は、当業者に周知であり、例えば、SELEX技術を用いる。
【0078】
従って、種々のさらなる実施形態において、本発明は、Toll様受容体2またはToll様受容体2遺伝子産物に対する結合特異性を有する核酸リガンドを同定および単離する方法にまで及び、その方法は、
(a)核酸の候補混合物を提供する工程と、
(b)Toll様受容体2を発現する細胞と、前記候補核酸混合物とを接触させる工程と、
(c)他の候補核酸と比べてToll様受容体2に対して増加した親和性を有する核酸を選択する工程と、
(d)Toll様受容体2に対する親和性を有する少なくとも1つの核酸を提供するために、前記選択された核酸を増幅させる工程と、
(e)Toll様受容体2に対して高親和性および特異性を有する増幅した核酸から少なくとも1つの核酸を選択する工程と、を含む。
【0079】
本発明者らはさらに、Toll様受容体2の機能の抑制が、膜結合Toll様受容体2に結合し、活性化できるTLR2結合リガンドの量を減少させることによって達成され得ることを確認した。膜結合Toll様受容体2に結合できるリガンドの量の減少は、Toll様受容体2によって媒介されるシグナル伝達、それにより、TLR2によって媒介される炎症免疫反応の活性化の下方制御を生じる。特に、本発明者らは、Toll様受容体2によって媒介される炎症反応の活性化の抑制において、Toll様受容体2の可溶性形態またはその機能的断片のいずれかである可溶性ペプチドの有用性を確認した。前記抑制は、TLR2結合リガンドの結合のためのTLR2の膜結合形態と競合するToll様受容体2の可溶性形態またはToll様受容体2の切断非膜形態に起因する。この競合的結合は、Toll様受容体2のリガンドに利用可能なTLR2の効果的な「仕上げ(mopping up)」の可溶性形態または切断形態を生じ、これは、TLR2の可溶性形態に対するTLR2のリガンドの結合に起因し、膜結合TLR2に結合して、活性化するのに利用可能なTLR2のリガンドのプールは枯渇する。膜結合Toll様受容体2の結合および活性化の関連する減少は、Toll様受容体2によって媒介される炎症性免疫応答の下方制御を生じる。
【0080】
従って、Toll様受容体2の可溶性形態の投与は、腎炎および腎疾患の間に組織損傷の原因となる炎症性免疫反応を抑制するための方法において有用性を有する。
【0081】
ヒトToll様受容体2の細胞外ドメイン(外部ドメイン(ectodomain))のアミノ酸配列は、配列番号5(図21)として本明細書に提供される。Toll様受容体2のヒト形態の細胞外ドメインは、587アミノ酸残基、特に配列番号1およびまたGenbank Accession Number AAC 34133(URL www.ncbi.nlm.nih.gov)に規定されるように、規定784アミノ酸の完全長ヒトToll様受容体配列のアミノ酸1〜587を含む。本明細書に定義する場合、TLR2の外部ドメインは、細胞外スペースにわたるTLR2の膜結合形態の一部である。
【0082】
本発明の特定の実施形態において、TLR2調節薬剤がTLR2の可溶性形態である場合、TLR2の可溶性形態は、組み換え技術によって調製されてもよい。Toll様受容体2の可溶性形態は、典型的に、TLR2の細胞外ドメインのみを含み、従って、Genbank Accession Number AAC 34133に規定されるToll様受容体2の細胞内および膜貫通ドメインは存在しない。特定の実施形態において、Toll様受容体2の可溶性形態は、配列番号1に示されるように規定されるヒトToll様受容体2の配列のアミノ酸1〜587を含み得る。可溶性Toll様受容体2の配列は、1以上のアミノ酸残基の付加、欠失または置換によって修飾され得る。従って、特定の実施形態において、Toll様受容体2の可溶性形態は、配列番号1において本明細書に規定されるToll様受容体2の決定された膜結合形態の細胞外ドメイン由来である。さらなる実施形態において、Toll様受容体2の可溶性形態は、配列番号1において本明細書に規定されるToll様受容体2のアミノ酸配列に結合した完全長の膜の切断形態由来であり、前記切断形態は、(i)可溶性であり、(ii)Toll様受容体2の膜結合形態に存在する少なくとも1つのエピトープに対する結合特異性を有するリガンドによって結合できる機能特性を示す。
【0083】
特定の実施形態において、TLR2の膜結合形態由来の細胞内および/または膜貫通ドメインに関連するアミノ酸残基の置換に加えて、少なくとも1つの欠失および/または置換がさらに、相同タンパク質を形成するためにTLR2の細胞外ドメインのアミノ酸残基に対してなされてもよい。TLR2の細胞外ドメインのアミノ酸残基に対する任意の数の欠失および/または置換は、得られるペプチドがTLR2の膜結合形態に存在する少なくとも1つのエピトープに結合できるリガンドに結合できる限り、なされてもよい。Toll様受容体2の可溶性形態はまた、配列番号5のアミノ酸に対して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%の相同性を有する配列を含んでもよい。かかる相同性は、整列アルゴリズムの使用などの当業者に周知である多くの方法によって決定されてもよい。特に、2つのアミノ酸配列間の同一性の割合は、例えば、Devereuxら(Nucl.Acids Res.12:387,1984)によって記載され、University of Wisconsin Genetics Computer Group(UWGCG)から利用可能であるGAPコンピュータープログラム、バージョン6.0を用いて、2つのタンパク質のアミノ酸配列を比較することによって決定されてもよい。GAPプログラムは、SmithおよびWaterman(Adv.Appl.Math 2:482,1981)によって改訂されたNeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol.48:443,1970)のアラインメント法を利用する。
【0084】
特定の実施形態において、Toll様受容体2の可溶性形態(sTLR2)は、腎臓、または特に、炎症状態の疾患病因に関与する少なくとも1つの特定の細胞型、例えば、尿細管上皮細胞(TEC)および/またはボーマン嚢の上皮細胞に標的化されてもよい。このようなsTLR2の標的化は利点がある。なぜなら、sTLR2の全身投与が、TLR2受容体の全体的な免疫抑制、それによって、一部の場合において望ましくない場合があるTLR2によって媒介されるシグナル伝達を生じる可能性があるためだからである。
【0085】
sTLR2の可溶性形態の標的化は、融合タンパク質の形成によって与えられてもよく、前記融合タンパク質は、可溶性TLR2タンパク質、最も典型的には、上述のTLR2の細胞外ドメイン、またはその一部であり、これは、二次ペプチド、典型的に、免疫グロブリンのFcドメイン、例えば、免疫グロブリンの重鎖、典型的に、ヒト免疫グロブリンに結合される。Fcドメインは、治療タンパク質の循環半減期を長引かせるために広範に使用されている。融合タンパク質は、その半減期、または効果を向上させるためにさらに修飾されてもよい。かかる修飾を媒介するための多くの技術は当業者に公知であり、例えば、PEG化、またはタンパク質の三次構造のリフォールディングがある。
【0086】
本発明のさらなる態様は、Toll様受容体2の膜結合形態によって媒介される機能、発現またはシグナル伝達を抑制する薬剤を含む医薬品と共に、前記医薬品の投与のための指示書を含むキットを提供し、前記キットは、腎疾患または腎炎を有する被験体の処置において有用性を有する。典型的に、前記薬剤は、Toll様受容体2の可溶性形態である。
【0087】
本発明はさらに、Toll様受容体2の機能を抑制することによって、腎炎および腎疾患の原因となるTLR2活性化およびTLR2によって媒介される免疫応答を防止できる化合物を同定するのに使用するためのスクリーニングアッセイにまで及ぶ。
【0088】
本発明のなおさらなる態様は、腎障害または腎疾患に関連するToll様受容体2によって媒介される炎症を抑制する化合物を同定するためのスクリーニング方法を提供し、その方法は、
膜結合Toll様受容体2に特異的に結合しているリガンドと共に、膜結合Toll様受容体2受容体を提供する工程と、
候補化合物をToll様受容体2と接触させる工程と、
Toll様受容体2をToll様受容体2のリガンド作動薬に曝露する工程と、
Toll様受容体2に対するToll様受容体2のリガンド作動薬の結合を測定する工程とを含み、Toll様受容体2リガンドによるToll様受容体2の結合の阻害は、前記候補化合物がToll様受容体2の活性化およびシグナル伝達の調節因子であることを示す。
【0089】
本発明のさらなる態様は、腎炎および腎疾患を処置するための、TLR2によって媒介される炎症反応を抑制するための医薬品における本発明の上記の態様に従って同定された調節因子の使用を提供する。
【0090】
本発明のさらなる態様は、腎炎および腎疾患の処置に使用するための本発明のための前述のアッセイ方法によって同定された調節因子を提供する。
【0091】
特定の実施形態において、薬剤は、腎疾患を処置するのに使用するためにToll様受容体2の機能または発現を調節する。特定の実施形態において、腎疾患は、腎疾患、慢性腎不全、急性腎不全、異種腎毒性腎炎、糸球体腎炎、糸球体の硬化、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病性ネフロパシー、および糖尿病性ネフロパシーからなる群より選択される。
【0092】
特定の実施形態において、薬剤は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質、および低分子化合物からなる群より選択される。特定の実施形態において、薬剤は、ヒトTLR2に対する結合特異性を有する抗体である。特定の実施形態において、抗体は、TLR2に特異的に結合しているヒト、ヒト化、キメラ、合成、ラクダ、サメまたは生体外の抗体、あるいはそれらのいずれか由来の結合断片からなる群より選択される。
【0093】
特定の実施形態において、薬剤は、ヒトTLR2の細胞外ドメインによって規定されるエピトープに結合するTLR2拮抗薬である。特定の実施形態において、薬剤は、ヒトTLR2のアミノ酸配列のアミノ末端およびカルボキシル末端由来のアミノ酸残基を含む不連続エピトープに結合するTLR2拮抗薬である。
【0094】
本発明のこの態様の特定の実施形態において、薬剤は、TLR2タンパク質をコードする核酸の発現を阻害する。特定の実施形態において、薬剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重螺旋分子、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、shRNA分子からなる群より選択される。
【0095】
本発明のこの態様の特定の実施形態において、薬剤は、Toll様受容体2の可溶性形態である。典型的に、Toll様受容体2の可溶性形態は、配列番号5に記載されるアミノ酸配列、またはその断片を含む。
【0096】
本発明者らは、TLR2によって媒介されるシグナル伝達および免疫応答の活性化が、サイトカインIL−8のレベルの上方制御を生じることを確認した。このサイトカインの発現は、腎炎、および腎炎によって引き起こされる疾患状態の進行を刺激するのに重要な炎症性メディエータの1つであるとして本発明者らによって確認されている。
【0097】
従って、本発明のさらなる態様は、少なくとも1つの腎臓の細胞型によって、Toll様受容体2によって媒介されるIL−8の産生を抑制する方法を提供し、この方法は、
Toll様受容体2(TLR2)の機能的活性または発現を調節する治療有効量の薬剤を提供する工程と、
かかる処置を必要とする被験体に前記薬剤を投与する工程と、を含む。
【0098】
特定の実施形態において、TLR2調節薬剤は、限定されないが、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質、アプタマーおよび低分子化合物からなる群より選択されるTLR2拮抗薬である。特定の実施形態において、TLR2拮抗薬は、抗体分子である。さらなる実施形態において、TLR2拮抗薬は、融合タンパク質、例えば、TLR2の可溶性断片を含む融合タンパク質である。特定のさらなる実施形態において、TLR2調節薬剤は、限定されないが、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、shRNAを阻害する阻害核酸である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、30mg/kgの腹腔内(i.p.)のプレドニゾロン(pred)、PBSコントロール(PBS)、10mg/kgの静脈内(i.v.)のアイソタイプコントロール抗体(cont)または10mg/kgの静脈内(i.v.)の抗TLR2抗体OPN301(opn301)のいずれかで処置した後に、10μgのリポペプチドPam3CysSK4で免疫化したC57BL/6 Toll様受容体2欠損マウスの抽出した腎臓から得られた糸球体の断面における1つの糸球体あたりの好中球の数を示すドットプロットグラフを示す。
【図2】図2は、30mg/kgの腹腔内(i.p.)のプレドニゾロン(pred)、PBSコントロール(PBS)、10mg/kgの静脈内(i.v.)のアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、または10mg/kgの静脈内(i.v.)の抗TLR2抗体OPN301(opn301)のいずれかで処置した後に、2時間、10μgのリポペプチドPam3CysSK4で免疫化したC57BL/6 Toll様受容体2欠損マウス由来の腎臓の組織切片を示す。
【図3】図3は、30mg/kgの腹腔内(i.p.)のプレドニゾロン(pred)、PBSコントロール(PBS)、10mg/kgの静脈内(i.v.)のアイソタイプコントロール抗体(cont)または10mg/kgの静脈内(i.v.)の抗TLR2抗体OPN301(opn301)のいずれかで処置した後に、10μgのリポペプチドPam3CysSK4で免疫化したC57BL/6 Toll様受容体2欠損マウス由来の循環好中球のドットプロットグラフを示す。
【図4】図4は、30mg/kgの腹腔内(i.p.)のプレドニゾロン(pred)、PBSコントロール(PBS)、10mg/kgの静脈内(i.v.)のアイソタイプコントロール抗体(cont)または10mg/kgの静脈内(i.v.)の抗TLR2抗体OPN301(opn301)のいずれかで処置した後に、10μgのリポペプチドPam3CysSK4で免疫化したC57BL/6 Toll様受容体2欠損マウス由来の全白血球のドットプロットグラフを示す。
【図5】図5は、30mg/kgの腹腔内(i.p.)のプレドニゾロン(pred)、PBSコントロール(PBS)、10mg/kgの静脈内(i.v.)のアイソタイプコントロール抗体(cont)または10mg/kgの静脈内(i.v.)の抗TLR2抗体OPN301(opn301)のいずれかで処置した後に、10μgのリポペプチドPam3CysSK4で免疫化したC57BL/6 Toll様受容体2欠損マウス由来のアルブミン尿/24時間のドットプロットグラフを示す。
【図6】図6は、30mg/kgの腹腔内(i.p.)のプレドニゾロン(pred)、PBSコントロール(PBS)、10mg/kgの静脈内(i.v.)のアイソタイプコントロール抗体(cont)または10mg/kgの静脈内(i.v.)の抗TLR2抗体OPN301(opn301)のいずれかで処置した後に、10μgのリポペプチドPam3CysSK4で免疫化したC57BL/6 Toll様受容体2欠損マウス由来の血栓症スコアのドットプロットグラフを示す。
【図7】図7は、30mg/kgの腹腔内(i.p.)のプレドニゾロン(pred)、PBSコントロール(PBS)、10mg/kgの静脈内(i.v.)のアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、または10mg/kgの静脈内(i.v.)抗TLR2抗体OPN301(opn301)のいずれかで処置した後に、24時間、10μgのリポペプチドPam3CysSK4で免疫化したC57BL/6 Toll様受容体2欠損マウス由来の腎臓の組織切片を示す。
【図8A】図8Aは、腎虚血/再灌流の1日および5日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2 OPN301モノクローナル抗体、および(v)6mg/kgのパーギリンの処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの腎臓における尿素(mmol/L)の測定のドットプロットグラフを示す。
【図8B】図8Bは、腎虚血/再灌流の1日および5日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2 OPN301モノクローナル抗体、および(v)6mg/kgのパーギリンの処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの腎臓におけるクレアチニン(mmol/L)の測定のドットプロットグラフを示す。
【図9A】図9Aは、腎虚血/再灌流の1日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2 OPN301モノクローナル抗体、および(v)6mg/kgのパーギリンの処置群(n=6)由来のマウスの尿細管障害を示す代表的な組織学的腎臓切片を示す。
【図9B】図9Bは、腎虚血/再灌流の1日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2 OPN301モノクローナル抗体、および(v)6mg/kgのパーギリンの処置群(n=6)由来のマウスの損傷した尿細管の割合の半定量的スコアのドットプロットグラフを示す。
【図10A】図10Aは、腎虚血/再灌流の1日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2 OPN301モノクローナル抗体、および(v)6mg/kgのパーギリンの処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの腎臓におけるマクロファージ湿潤の割合のドットプロットグラフを示す。
【図10B】図10Bは、腎虚血/再灌流の1日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2 OPN301モノクローナル抗体、および(v)6mg/kgのパーギリンの処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの腎臓におけるミエロペルオキシダーゼ(MPO)(U/mgタンパク質)の蓄積のドットプロットグラフを示す。
【図11】図11は、腎虚血/再灌流の1日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、および(iv)10mg/kgの抗TLR2 OPN301モノクローナル抗体、および(v)6mg/kgのパーギリンの処置群(1群あたりn=6)における、腎虚血/再灌流の1日後のマウスの腎臓における脂質過酸化反応の指標として使用されるマロンジアルデヒド(MDA)産生(nmol/mgタンパク質)を示すドットプロットグラフを示す。
【図12A】図12Aは、腎虚血/再灌流の1日および5日後の工程1の処置群(1群あたりn=4)由来のマウスの腎臓における尿毒症(尿素(mmol/L))の測定のドットプロットグラフを示す。
【図12B】図12Bは、腎虚血/再灌流の1日および5日後の工程1の処置群(1群あたりn=4)由来のマウスの腎臓におけるクレアチニン血症(クレアチニン(mmol/L))の測定のドットプロットグラフを示す。
【図13A】図13Aは、腎虚血/再灌流の1日および5日後の工程1の処置群(1群あたりn=4)由来のマウスの尿細管損傷を示す代表的な組織学的腎尿細管切片のドットプロットグラフを示す。
【図13B】図13Bは、腎虚血/再灌流の1日および5日後の工程1の処置群(1群あたりn=4)由来のマウスの損傷した尿細管の割合の半定量的スコアのドットプロットグラフを示す。
【図14A】図14Aは、腎虚血/再灌流の1日および5日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2モノクローナル抗体OPN301、および(v)6mg/kgのパーギリンの工程2の処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの腎臓における尿毒症(尿素(mmol/L))の測定のドットプロットグラフを示す。
【図14B】図14Bは、腎虚血/再灌流の1日および5日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2モノクローナル抗体OPN301、および(v)6mg/kgのパーギリンの工程2の処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの腎臓におけるクレアチニン血症(クレアチニン(mmol/L))の測定のドットプロットグラフを示す。
【図15】図15は、腎虚血/再灌流の1日および5日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2モノクローナル抗体OPN301、および(v)6mg/kgのパーギリンの工程2の処置群(1群あたりn=6)由来のマウスにおける好中球由来のミエロペルオキシダーゼ(MPO)(U/mgタンパク質)の蓄積のドットプロットグラフを示す。
【図16】図16は、腎虚血/再灌流の1日および5日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2モノクローナル抗体OPN301、および(v)6mg/kgのパーギリンの工程2の処置群(1群あたりn=6)におけるマウスの腎臓における脂質過酸化反応の指標として使用されるマロンジアルデヒド(MDA)産生(nmol/mgタンパク質)を示すドットプロットグラフを示す。
【図17】図17は、腎虚血/再灌流の1日および5日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iv)10mg/kgの抗TLR2モノクローナル抗体OPN301、および(v)6mg/kgのパーギリンの工程2の処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの尿細管に対する損傷の半定量的スコアのドットプロットグラフを示す。
【図18A】図18(A)は、腎虚血/再灌流の0日に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iV)10mg/kgのOPN301mAbおよび(v)6mg/kgのパーギリンの工程2の処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの腎臓におけるμ−GSTμg/Lの蓄積のドットプロットを示す。
【図18B】図18(B)は、腎虚血/再灌流の1日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iV)10mg/kgのOPN301mAbおよび(v)6mg/kgのパーギリンの工程2の処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの腎臓におけるμ−GSTμg/Lの蓄積のドットプロットを示す。
【図18C】図18(C)は、腎虚血/再灌流の5日後に測定した、(i)偽処置、(ii)PBS−ビヒクル、(iii)10mg/kgのアイソタイプコントロール抗体(コントロールAb)、(iV)10mg/kgのOPN301mAbおよび(v)6mg/kgのパーギリンの工程2の処置群(1群あたりn=6)由来のマウスの腎臓におけるμ−GSTμg/Lの蓄積のドットプロットを示す。
【図19】図19は、ヒトToll様受容体2のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。
【図20】図20は、ヒトToll様受容体2のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図21】図21は、ヒトToll様受容体2の細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号3)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0100】
本発明は、Toll様受容体2(TLR2)の機能または発現を阻害する薬剤、あるいは腎疾患および腎炎を処置、特にToll様受容体2のシグナル伝達によって媒介される糸球体の炎症および腎疾患を処置または予防するためのかかる薬剤を使用する方法に関する。
【0101】
TLR2の結合エピトープに対する親和性および結合特異性を有するTLR2拮抗結合化合物などのTLR2調節薬剤は、腎臓に影響を与える多くの免疫媒介性および疾患状態の阻害において有用性を有する。このように、本発明は、腎臓を標的とするか、または腎臓の機能に影響を与える免疫媒介性、炎症性および病原性状態を処置および予防するための組成物および方法を提供する。
【0102】
特定の実施形態において、病原性状態は、細菌性病原体によって媒介される感染状態である。細菌性病原体は、グラム陽性細菌であっても、またはグラム陰性細菌であってもよい。特定の実施形態において、細菌性病原体は敗血症の原因となる細菌であり、前記組成物および方法は、敗血症または敗血症性ショック、例えば、グラム陰性敗血症などの状態から生じる腎臓に関連する炎症の処置において有用性を有する。
【0103】
本明細書で使用する場合、用語「エピトープ」とは、特異的結合リガンド、この場合においてToll様受容体2のリガンド作動薬によって結合され得る高分子の一部、この場合においてTLR2タンパク質、または関連タンパク質に関する。エピトープは、ポリペプチド配列内に含まれるアミノ酸残基の隣接配列または非隣接配列から規定され得る。用語「隣接エピトープ(contiguous epitope)」は、エピトープを規定するポリペプチド内の直線状の一連のアミノ酸残基からなるエピトープを規定する。「非隣接エピトープ(non−contiguous epitope)」は、配列が非直線状である一連のアミノ酸残基からなるエピトープであり、それによって、その残基はポリペプチド配列の長さに沿って不連続様式で間隔があいているか、または集合している。不連続(non−continuous)エピトープは、アミノ酸残基が2つの直線状配列に集合する不連続エピトープであり得るか、または不連続エピトープは、エピトープの一因となる残基が、ポリペプチドの長さに沿って配列された直線状アミノ酸配列の3以上の集団で与えられる不連続散在性エピトープであり得る。
【0104】
(抗体)
「抗体」は、天然または部分的もしくは完全に合成的に産生される免疫グロブリンである。この用語はまた、結合ドメイン、つまり抗体結合ドメイン、またはそれに相同的である結合ドメインを有する任意のポリペプチド、タンパク質またはペプチドを含む。これらは天然源由来であってもよいか、またはそれらは部分的もしくは完全に合成的に産生されてもよい。抗体の例は、免疫グロブリンアイソタイプおよびそれらの同形のサブクラスならびにFab、scFv、Fv、dAb、Fd、および二重特異性抗体などの抗原結合ドメインを含む断片である。
【0105】
さらなる実施形態において、その抗体は、ラクダ抗体、特にラクダ重鎖抗体であり得る。さらに、その抗体断片は、ラクダ重鎖抗体由来のドメイン抗体またはナノボディであり得る。さらなる実施形態において、その抗体は、サメ抗体またはサメ由来の抗体であり得る。
【0106】
特定の実施形態において、その抗体は「単離抗体」である。これは抗体が、(1)通常見出される少なくとも一部のタンパク質を含まず、(2)同じ源、例えば、同じ種由来の他のタンパク質を実質的に含まず、(3)異なる種由来の細胞によって発現されるか、または(4)天然に発生しないことを意味する。
【0107】
抗体は多くの方法で修飾され得るため、用語「抗体」は、必要とされる特異性で結合ドメインを有する任意の結合メンバーまたは物質を含むと解釈されるべきである。本発明の抗体は、モノクローナル抗体、またはその断片、誘導体、機能的等価物もしくは相同体であり得る。この用語は、天然または完全もしくは部分的に合成であろうとなかろうと、免疫グロブリン結合ドメインを含む任意のポリペプチドを含む。従って、別のポリペプチドに融合した免疫グロブリン結合ドメイン、または等価物を含むキメラ分子が含まれる。キメラ抗体のクローニングおよび発現は、欧州特許出願公開0,120,694号および欧州特許出願公開0,125,023号に記載される。
【0108】
抗体の定常領域は任意の適切な免疫グロブリンサブタイプであり得るが、抗体サブタイプがIgG1であることが好ましい。しかしながら、代替の実施形態において、抗体のサブタイプは、ヒト免疫グロブリン分子が使用されるクラスIgA、IgM、IgDおよびIgEであり得る。そのような抗体はさらに、任意のサブクラス、例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3およびIgG4に属し得る。
【0109】
全抗体の断片は抗原結合の機能を実施し得る。そのような結合断片の例は、VL、VH、CLおよびCH1抗体ドメインからなるFab断片;単一抗体のVLおよびVHドメインからなるFv断片;F(ab’)2断片、2つの連結したFab断片を含む二価断片;一本鎖Fv分子(scFv)、ここで、VHドメインおよびVLドメインは、2つのドメインを結合させて抗原結合部位を形成させるペプチドリンカーによって連結される;または遺伝子融合によって構築される多価もしくは多特異的断片であり得る二重特異性抗体である。
【0110】
本発明において使用するための抗体またはポリペプチドの断片は、例えば、TLR2特異的抗体の断片であり、一般に、少なくとも5〜7の隣接アミノ酸、しばしば少なくとも約7〜9の隣接アミノ酸、典型的に少なくとも約9〜13の隣接アミノ酸、より好ましくは少なくとも約20〜30またはそれ以上の隣接アミノ酸、および最も好ましくは少なくとも約30〜40またはそれ以上の連続アミノ酸のアミノ酸残基の伸長を意味する。
【0111】
このような抗体またはポリペプチド、あるいはTLR2特異的抗体の断片の「誘導体」とは、タンパク質のアミノ酸配列を変化させること、例えば、タンパク質をコードする核酸の操作によって、あるいはタンパク質それ自体を変化させることによって修飾された抗体またはポリペプチドを意味する。天然アミノ酸配列のこのような誘導体は、1つ以上のアミノ酸の挿入、付加、欠失および/または置換を含み得るが、好ましくは、TLR2結合活性を有するペプチドを与える。好ましくは、このような誘導体は、25以下のアミノ酸、より好ましくは15以下、さらにより好ましくは10以下、なおより好ましくは4以下、最も好ましくは1または2のアミノ酸のみの挿入、付加、欠失および/または置換を含む。
【0112】
用語「抗体」は、「ヒト化」されている抗体を含む。ヒト化抗体を作製する方法は、当該分野において公知である。方法は、例えば、Winter,米国特許第5,225,539号に記載されている。ヒト化抗体は、TLR2特異的抗体およびヒト抗体の定常領域などのモノクローナル抗体の超可変領域を有する修飾された抗体であってもよい。このように、結合メンバーはヒト定常領域を含んでもよい。
【0113】
超可変領域以外の可変領域はまた、ヒト抗体の可変領域由来であっても、および/またはTLR2特異的抗体などのモノクローナル抗体由来であってもよい。このような場合において、全可変領域は、マウスモノクローナル抗体、TLR2特異的抗体由来であり得、その抗体はキメラ化されたといわれる。キメラ抗体を作製するための方法は、当該分野において公知である。このような方法は、例えば、Boss(Celltech)およびCabilly(Genentech)によって米国特許に記載されるものが挙げられる。例えば、それぞれ、米国特許第4,816,397号および同第4,816,567号を参照のこと。
【0114】
元の抗体の特異性を保有する他の抗体またはキメラ分子を産生するために、モノクローナルおよび他の抗体を利用すること、ならびに組み換えDNA技術の技術を使用することが可能である。このような技術は、抗体の免疫グロブリン可変領域、または相補性決定領域(CDR)をコードするDNAを、異なる免疫グロブリンの定常領域、または定常領域プラスフレームワーク領域に導入することを含み得る。例えば、欧州特許出願公開第0,184,187号、英国特許出願公開第2,188,638A号または欧州特許出願公開第0,239,400号を参照のこと。ハイブリドーマまたは他の抗体産生細胞は、産生された抗体の結合特異性を変化させ得るか、または変化させ得ない遺伝子操作または他の変更に供されてもよい。
【0115】
特定の実施形態において、本発明のTLR2阻害化合物またはTLR2結合化合物が抗体である場合、その抗体は治療有効量で被験体に投与される。特定の実施形態において、治療有効量は、1μg/kg〜20mg/kg、1g/kg〜10mg/kg、1μg/kg〜1mg/kg、10μg/kg〜1mg/kg、10μg/kg〜100pg/kgおよび500pg/kg〜1mg/kgから選択される範囲の抗体を含む。
【0116】
(抗体の産生)
本発明によって提供される抗体は、多くの手段によって提供され得る。例えば、ファージディスプレイベースのバイオパニングアッセイなどの組み合わせスクリーニング技術が、本発明の結合エピトープに対する結合特異性を有するアミノ酸配列を同定するために使用され得る。このようなファージディスプレイバイオパニング技術は、糸状菌の表面上の抗体結合断片のディスプレイを介して、免疫選択を模倣する手順において適切なエピトープ結合リガンドを同定する方法で利用されるファージディスプレイライブラリーの使用を含む。特異的結合活性を有するファージが選択される。選択されたファージはその後、キメラ、CDR移植、ヒト化またはヒト抗体の産生に使用され得る。
【0117】
さらなる実施形態において、その抗体は、培養物中の連続細胞株によって抗体分子を産生する任意の適切な方法を用いて産生され得るモノクローナル抗体である。適切な方法は当業者に周知であり、例えば、KohlerおよびMilstein(Kohlerら、Nature,256,495−497.1975)の方法が挙げられる。キメラ抗体またはCDR移植抗体はさらに、本発明の範囲内で提供される。特定の実施形態において、本発明の抗体は、宿主細胞における組み換えDNAの発現によって産生され得る。
【0118】
さらなる実施形態において、ヒト化抗体もまた提供される。ヒト化抗体は、米国特許第5,585,089号に記載されるWinterの方法によって産生され得る。
【0119】
特定の実施形態において、モノクローナル抗体は、トランスジェニック動物、例えば、優先的に発現されるヒト重鎖および軽鎖をコードする遺伝子座で内因性マウス免疫グロブリン遺伝子の発現を欠失または抑制するために遺伝子操作されているトランスジェニックマウスを用いて産生されたヒト抗体であり得、これにより、完全なヒト抗体の産生を生じる。
【0120】
特定のさらなる実施形態において、その結合化合物は、抗体、例えば、Fab、F(ab’)2、Fvまたは一本鎖Fv(scFV)などの抗体結合断片由来の結合断片である。
【0121】
特定のさらなる実施形態において、結合化合物は、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、合成された抗体もしくは合成抗体、融合タンパク質、またはそれらの断片、あるいは天然もしくは合成キメラ化合物またはペプチド模倣物を含む。
【0122】
本発明のToll様受容体2エピトープに対する親和性および結合特異性を有する抗体を産生するための方法論は、以上に記載される。
【0123】
本発明の、および本発明に使用するための抗体(複数も含む)断片はまた、キメラ合成によって完全または部分的に産生され得る。その抗体は、十分に確立されている標準的な液相、または好ましくは固相ペプチド合成法に従って容易に調製され得る。その概要は広範に利用でき、当業者に周知である。さらに、それらは、液相法または固相、液相および溶液化学の任意の組み合わせによって溶液中で調製され得る。
【0124】
本発明における使用に適切な抗体(複数も含む)断片を産生する別の簡便な方法は、発現系における核酸の使用により、それらをコードする核酸を発現することである。
【0125】
本発明に従って使用するための核酸はDNAまたはRNAを含み得、完全または部分的に合成され得る。好ましい態様において、本発明において使用するための核酸は、上記の本発明の抗体(複数も含む)断片をコードする。当業者は、本発明の抗体(複数も含む)断片をさらに提供するそのような核酸に対して置換、欠失および/または付加を決定できる。
【0126】
本発明で使用するための抗体(複数も含む)断片をコードする核酸配列は、本明細書に含まれる情報および参考文献ならびに当該分野において公知の技術(例えば、Sambrookら(1989)、およびAusubelら(1992)を参照のこと)、所定の核酸配列および利用可能なクローンを用いて当業者によって容易に調製され得る。これらの技術は、(i)例えば、ゲノム源由来のそのような核酸の試料を増幅させるためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用、(ii)化学合成、または(iii)cDNA配列の調製を含む。抗体断片をコードするDNAは、コードDNAを利用すること、発現される部分のいずれかの側で適切な制限酵素認識部位を同定すること、およびDNA由来の前記部分を切断することを含む、当業者に公知の任意の適切な方法で産生され、使用され得る。次いで、その部分は、標準的な市販の発現系における適切なプロモーターに作動可能に連結され得る。別の組み換えアプローチは、適切なPCRプライマーを用いてDNAの関連部分を増幅させることである。配列に対する修飾は、例えば、修飾されたペプチドの発現を生じさせるため、または核酸を発現するために使用される宿主細胞におけるコドン選択を考慮するために、部位特異的突然変異誘発法を用いてなされ得る。
【0127】
核酸は、上記の少なくとも1つの核酸を含むプラスミド、ベクター、転写または発現カセットの形態の構築物として含まれ得る。この構築物は、上記の1つ以上の構築物を含む組み換え宿主細胞内に含まれ得る。発現は、適切な条件下で、核酸を含む組み換え宿主細胞を培養することによって簡便に達成され得る。発現によって産生した後、抗体(複数も含む)断片は、任意の適切な技術を用いて単離および/または精製され得、次いで、適切な場合に使用され得る。
【0128】
種々の異なる宿主細胞においてポリペプチドをクローニングおよび発現するための系は周知である。適切な宿主細胞としては、細菌、哺乳動物細胞、酵母、昆虫およびバキュロウイルス系が挙げられる。異種ポリペプチドを発現するための当該分野において利用可能な哺乳動物細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NS0マウス骨髄腫細胞が挙げられる。一般的な好ましい細菌宿主はE.coliである。E.coliなどの原核細胞における抗体(複数も含む)断片の発現は、当該分野において確立されている。培養物中の真核細胞における発現もまた、結合メンバーを産生するための選択肢として当業者に利用可能である。
【0129】
抗体を産生するための一般的技術は当業者に周知であり、そのような方法は、例えば、KohlerおよびMilstein(1975)Nature 256:495−497;米国特許第4,376,110号;HarlowおよびLane,Antibodies:a Laboratory Manual,(1988)Cold Spring Harbor(これらの内容は本明細書に参照として援用される)に議論されている。
【0130】
組み換え抗体分子を調製するための技術は、上記の参考文献および例えば、欧州特許0,623,679号および欧州特許0,368,684号(これらは本明細書に参照として援用される)にも記載されている。
【0131】
本発明の特定の実施形態において、抗体の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードする挿入を含む組み換え核酸が利用される。定義により、そのような核酸は、コーディング一本鎖核酸、前記コーディング核酸およびその相補的核酸からなる二本鎖核酸、またはそれらの相補的(一本鎖)核酸それ自体を含む。
【0132】
さらに、抗体の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードする核酸は、天然重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメイン、あるいはそれらの変異体をコードする真の配列を有する酵素的または化学的に合成された核酸であり得る。
【0133】
組み換えDNA技術は、本発明の抗体を改良するために使用され得る。従って、キメラ抗体は、診断または治療用途においてその免疫原性を減少させるために構築され得る。さらに、例えば、ブタなどのトランスジェニック生物内の免疫原性は、抗体をヒト化する類似の技術のCDR移植によって抗体を変化させることにより最小化され得る。そのような技術の例は、Winterによる欧州特許0,239,400号に記載される。受容者内の免疫原性を減少させるために、本発明は、ヒト定常ドメインに融合される抗体の重鎖可変ドメインをコードする挿入を含む組み換え核酸を使用し得る。同様に、本発明は、ヒト定常ドメインκまたはλ領域に融合される抗体の軽鎖可変ドメインをコードする挿入を含む組み換えDNAに関する。
【0134】
さらに、抗体は、抗体遺伝子の変異誘発によって産生されて、抗体の5個の人工レパートリーを産生され得る。この技術は抗体ライブラリーの調製を可能にする。抗体ライブラリーは市販されてもいる。従って、本発明は有利に、本発明のエピトープに対する特異性を有する結合分子を同定するために、免疫グロブリン源として、免疫グロブリンの人工レパートリー、好ましくは人工scFvレパートリーを利用する。
【0135】
(抗体選択系)
本発明のエピトープに結合でき、従って本発明の方法に使用され得る免疫グロブリンは、当業者に公知の任意の技術を用いて同定され得る。そのような免疫グロブリンは、簡便に、免疫グロブリンポリペプチドの人工レパートリーを含むライブラリーから単離され得る。「レパートリー」とは、複数の結合特異性を与えるために、核酸レベルで、ランダム、準ランダムまたは1つ以上の鋳型分子の直接変異によって産生される分子のセットをいう。レパートリーを産生するための方法は、当該分野において十分に特徴付けられている。
【0136】
任意のライブラリー選択系が本発明と併せて使用され得る。多くのライブラリーの所望のメンバーを単離するための選択プロトコルは、ファージディスプレイ技術が典型例であるように、当該分野において公知である。種々のペプチド配列が糸状バクテリオファージの表面で表示されるそのようなシステムは、生体外での選択および標的抗原に結合する特異的抗体断片の増幅のための抗体断片(およびそれらをコードするヌクレオチド配列)のライブラリーを作製するのに有用であると証明されている。VHおよびVL領域をコードするヌクレオチド配列は、それらをE.coliの周辺質のスペースに方向付けるリーダーシグナルをコードする遺伝子断片に連結され、その結果として得られた抗体断片は、バクテリオファージの表面に、典型的にバクテリオファージコートタンパク質(例えばpIIIまたはpVIII)との融合として表示される。あるいは、抗体断片は、ラムダファージカプシド(ファージ本体)の外面に表示される。ファージベースのディスプレイ系の利点は、それらが生物学系であるため、選択されたライブラリーメンバーが、細菌細胞において選択されたライブラリーメンバーを含むファージを増殖させることによって簡単に増幅され得ることである。さらに、ポリペプチドライブラリーメンバーをコードするヌクレオチド配列は、ファージまたはファージミドベクターに含まれ、配列決定、発現およびその後の遺伝子操作は、比較的、連続して進められる。
【0137】
バクテリオファージ抗体ディスプレイライブラリーおよびラムダファージ発現ライブラリーを構築するための方法は、当該分野において周知である(例えば、McCaffertyら(1990)Nature 348 552−554)。1つの特に有益なアプローチは、scFVファージディスプレイライブラリーの使用である(例えば、Hustonら、1988,Proc.Natl.Acad.Sci USAを参照のこと)。
【0138】
ファージまたは他のクローンライブラリーの使用の代替案は、核酸、好ましくは、選択された標的、例えば、本発明のTLR2エピトープで免疫化された動物のB細胞由来のRNAを使用することである。
【0139】
V領域およびC領域のmRNAの単離により、FabまたはFvなどの抗体断片が細胞内に発現することを可能にする。つまり、RNAは、免疫化された動物のB細胞から、例えば、免疫化されたマウスの脾臓、またはラマの循環B細胞から単離され、PCRプライマーが、RNAプールから選択的にVHおよびVL cDNAを増幅させるために使用される。従って、得られたVHおよびVL配列は、scFV抗体を作製するために結合される。PCRプライマー配列は、公開されたVHおよびVL配列に基づいてもよい。
【0140】
(ペプチド模倣物)
ペプチド模倣物またはペプチド模倣薬などのペプチド類似物は、鋳型ペプチドの代表的な特性を有する非ペプチド化合物である。そのようなペプチド類似物は、典型的に、コンピューターによる分子モデリングを用いて開発される。本発明のTLR2結合エピトープに対する親和性および結合特異性を有するペプチドに構造的に類似するペプチド模倣物は、類似の診断的、予防的および治療的効果を媒介するために使用され得る。
【0141】
ペプチド模倣物は、典型的に、鋳型ペプチドと構造的に類似しているが、当該分野において周知である方法によって、別の結合と置換される1つ以上のペプチド結合を有する。例えば、本発明のTLR2エピトープに対する結合特異性を有するペプチドは、アミド結合置換、非ペプチド部分の導入、または骨格環化を含むように修飾され得る。適切に、システインが存在する場合、この残基のチオールが、遊離硫酸基の損傷を防止するためにキャップされる。ペプチドはさらに、プロテアーゼ攻撃からペプチドを保護するために天然配列から修飾され得る。
【0142】
適切に、本発明のペプチドおよび本発明に使用するためのペプチドはさらに、少なくとも1つのC末端および/またはN末端キャッピング、ならびに/あるいはシステイン残基キャッピングを用いて修飾され得る。
【0143】
適切に、本発明のペプチドおよび本発明に使用するためのペプチドは、アセチル基を用いてN末端残基でキャップされ得る。適切に、本発明のペプチドおよび本発明に使用するためのペプチドは、アミン基を用いてC末端でキャップされ得る。適切に、システインのチオール基は、アセトアミドメチル基を用いてキャップされる。
【0144】
本発明のエピトープおよびその断片を規定するポリペプチドの発現、単離および精製は、任意の適切な技術によってなされ得る。
【0145】
ポリペプチドを産生するための方法は、ポリペプチドの発現を促進する条件下で、ポリペプチドをコードする組み換え発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培養すること、次いでその培養物から発現したポリペプチドを回収することを含む。当業者は、発現されたポリペプチドを精製するための手順が、利用される宿主細胞のタイプなどの要因に従って変化し、そのポリペプチドが細胞内、膜結合または可溶性形態であろうとなかろうと、その宿主細胞から分泌されることを理解するだろう。
【0146】
任意の適切な発現系が利用されてもよい。ベクターは、本発明のポリペプチドまたは断片をコードするDNAを含み、哺乳動物、トリ、微生物、ウイルス、細菌、または昆虫遺伝子由来のものなどの適切な転写または翻訳調節ヌクレオチド配列に作動可能に連結される。ヌクレオチド配列は、調節配列がDNA配列に機能的に関連する場合、作動可能に連結される。従って、プロモーターヌクレオチド配列は、そのプロモーターヌクレオチド配列がDNA配列の転写を制御する場合、DNA配列に作動可能に連結される。形質転換体が同定される所望(E.coli)の宿主細胞、および選択遺伝子において複製する能力を与える複製起点は、発現ベクターに一般的に導入される。
【0147】
さらに、適切なシグナルペプチド(天然または異種)をコードする配列は、発現ベクターに導入され得る。シグナルペプチド(分泌腺リーダー)についてのDNA配列は、フレームにおいて本発明の核酸配列と融合され得、その結果、そのDNAは最初に転写され、mRNAがシグナルペプチドを含む融合タンパク質に翻訳される。意図される宿主細胞において機能するシグナルペプチドは、ポリペプチドの細胞外分泌を促進する。そのシグナルペプチドは、翻訳の間、ポリペプチドから開裂されるが、細胞からのポリペプチドの分泌を可能にする。
【0148】
ポリペプチドを発現するための適切な宿主細胞は、高等真核細胞および酵母を含む。原核細胞系もまた、適切である。哺乳動物細胞、および特にチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が、宿主細胞としての使用のために特に好ましい。哺乳動物、原核生物、酵母、菌類および昆虫細胞の宿主を用いて使用するための適切なクローニングおよび発現ベクターは、例えば、Pouwelsら、Cloning Vectors:A Laboratory Manual,Elsevier,New York,(1986)(ISBN 0444904018)に記載されている。
【0149】
(低分子)
種々のさらなる態様において、本発明は、TLR2活性に拮抗する化合物を同定するのに使用するためのスクリーニングおよびアッセイ方法に関する。特定のさらなる態様は、同定された化合物にまで及び、従って、前記結合化合物は、本発明のエピトープに対する親和性および結合特異性を有する。
【0150】
TLR2受容体のリガンドとして同定される物質はペプチドであってもよいか、または天然の非ペプチド、例えば、上記のペプチド模倣物であってもよい。しかしながら、非ペプチド「低分子」は、しばしば、多くの生体内の薬理学的用途に好ましい。従って、本発明に使用するためのTLR2結合化合物の模倣薬または模倣剤は、薬理学的用途のために設計され得る。
【0151】
公知の薬理学的に活性な化合物に対する模倣薬の設計は、「鉛」化合物に基づく薬理学の開発に対する公知のアプローチである。これは、活性化合物を合成することが難しいか、または費用がかかる場合、あるいは特定の投与方法が不適切な場合に望まれ得る。例えば、ペプチドは消化管に存在するプロテアーゼによって分解されるため、経口組成物および投与のための活性因子として十分に適さない。模倣薬の設計、合成および試験は、標的特性について多数の分子をランダムにスクリーニングすることを避けるために使用され得る。
【0152】
所定の標的特性を有する化合物からの模倣薬の設計に一般に利用されるいくつかの工程が存在する。最初に、標的特性を決定する際に決定的および/または重要である化合物の特定の部分が決定される。ペプチドの場合、これは、ペプチドのアミノ酸残基を体系的に変化させることにより、例えば、順に各アミノ酸残基を置換することによりなされ得る。化合物の活性領域を構成する残基のこれらの部分は、その「活性基」として公知である。
【0153】
一旦、活性基が決定されると、その構造は、様々な範囲の源、例えば、分光技術、X線回折データおよびNMRからのデータを用いて、その物理的特性、例えば、立体化学、結合、サイズおよび/または電荷に従ってモデル化される。コンピューター分析、類似マッピング(原子間の結合よりむしろ、電荷および/または活性基の量をモデル化する)および他の技術もまた、このモデル化プロセスに使用され得る。
【0154】
このアプローチの変形において、TLR2結合化合物の三次元構造がモデル化される。これは、リガンドおよび/または結合パートナーが、結合の際に構造を変化する場合に特に有用であり得、そのモデルの模倣薬の設計を考慮に入れることができる。
【0155】
次いで、鋳型分子が選択され、その鋳型分子上で活性基を模倣する化学基が組み込まれ得る。その鋳型分子およびそれに組み込まれた化学基は簡便に選択され得、その結果、模倣薬は、合成しやすく、薬理学的に許容される可能性があり、生体内で分解せず、一方で鉛化合物の生物学的活性も保持する。このアプローチによって見出される模倣薬(複数も含む)は、次いで、それらが標的特性を有するかどうか、またはそれらがどの程度まで標的特性を示すかを調べるためにスクリーニングされ得る。次いで、さらなる最適化または修飾が、生体内または臨床試験についての1つ以上の最終模倣物に到達するように実施され得る。
【0156】
特定の実施形態において、模倣薬結合化合物は、薬物スクリーニング計画に使用される天然または合成化合物であってもよい。いくつかの特徴付けられた、または特徴付けられていない成分を含む植物の抽出物も使用され得る。
【0157】
TLR2に対する親和性および結合特異性を有する候補結合化合物は、TLR2の機能的活性を調節するために単離および/または精製、製造ならびに/あるいは使用されてもよい。
【0158】
なおさらなる態様において、本発明は、エピトープに結合するか、またはエピトープに結合するリガンドの活性を調節するそれらの能力についての潜在的に膨大な数の異なる物質を試験する効果的な方法を提供する組み合わせライブラリー技術(Schultz,JS(1996)Biotechnol.Prog.12:729−743)の使用にまで及ぶ。活性の調節についてのスクリーニングの前、およびスクリーニング時に、試験物質が、例えば、(コード核酸から酵母において発現され得るポリペプチドおよび試験物質の両方を必要とする)酵母2ハイブリッド法においてポリペプチドと相互作用する能力についてスクリーニングされ得る。これは、ポリペプチドの活性を調節する実際の能力について物質を試験する前に粗いスクリーニングとして使用され得る。
【0159】
本発明のアッセイに加えられ得る試験物質または化合物の量は、通常、使用される化合物のタイプに依存して試行錯誤によって決定される。典型的に、約0.01〜100nM濃度の推定阻害化合物、例えば、0.1〜10nMが使用され得る。ペプチドが試験物質である場合、より高い濃度が使用され得る。
【0160】
(併用医薬)
上記のように、本発明は併用治療にまで及び、組成物または方法は、急性腎不全、慢性腎不全または腎疾患の原因となり得る免疫応答を抑制するのに役立つ少なくとも1つのさらなる治療化合物と組み合わせて投与されるTLR2の機能的活性を阻害する結合化合物の投与に関する。
【0161】
典型的に、一次および二次治療組成物は同時に与えられる。特定の実施形態において、一次治療組成物(すなわち、TLR2の機能的活性に拮抗する結合化合物)および二次治療化合物は同時に投与される。特定のさらなる実施形態において、それらは連続して投与される。
【0162】
特定の実施形態において、併用治療は、サイトカイン阻害剤(例えば、限定されないが、IL−1、IL−6、IL−8およびIL−15の阻害剤)、および腫瘍壊死因子の阻害剤、増殖因子阻害剤、免疫抑制因子、抗炎症剤、酵素阻害剤、代謝阻害剤、細胞毒性剤または細胞増殖抑制剤のうちの少なくとも1つと共に被験体に同時投与されるTLR2機能的阻害剤を含み得る。
【0163】
当業者は、併用治療の被験体への投与が、治療的に有効な効果を達成して関連させるために、被験体へのより少ない用量の治療薬の投与を可能にするという点で有益であり得ることを理解するだろう。より少ない併用用量の投与により、被験体が少ない毒性レベルにしか曝露されないという結果も生じる。さらに、本発明によって提供される併用治療の一部として投与される二次治療化合物は、異なる経路を標的とし、治療の全体的な効果を相乗的に向上する可能性がある。効果の向上により、投与され、それによって関連する毒性を減少させる、より少ない用量の必要性を再び生じる。
【0164】
本発明のTLR2阻害化合物と共に投与するための適切な二次治療化合物を同定および選択する際に、前記二次治療化合物は、腎炎および腎疾患を生じる炎症反応の異なる段階で免疫応答を調節するような化合物に基づいて選択され得る。このような二次化合物としては、限定されないが、可溶性受容体、ペプチド阻害化合物、低分子、融合タンパク質またはリガンド、抗体、および抗炎症性効果を媒介するサイトカインが挙げられ得る。
【0165】
(投与)
本発明のモノクローナル抗体または融合タンパク質は単独で投与され得るが、好ましくは、意図される投与経路に依存して選択される一般に適切な薬理学的に許容できる賦形剤、希釈剤または担体を含む医薬組成物として投与される。適切な薬理学的担体の例としては、水、グリセロール、エタノールなどが挙げられる。
【0166】
本発明のモノクローナル抗体または融合タンパク質は、任意の適切な経路を介して処置を必要とする患者に投与され得る。本明細書に定義する場合、組成物が、注射または注入により非経口的に投与されることが好ましい。非経口投与のための好ましい経路の例としては、限定されないが、静脈内、心臓内、動脈内、腹腔内、筋肉内、腔内、皮下、経粘膜的、吸入または経皮的が挙げられる。
【0167】
投与経路はさらに、局所的および腸内、例えば、粘膜(肺を含む)、経口、経鼻、直腸を含み得る。
【0168】
特定の実施形態において、組成物は、注射可能組成物として送達可能である。静脈内、筋肉内、皮内または皮下適用に関して、活性成分は、発熱物質を含まず、適切なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容できる水溶液の形態である。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射、リンガー液、または乳酸化リンガー液などの等張性ビヒクル用いて適切な溶液を十分に調製できる。保存剤、安定剤、緩衝剤、酸化防止剤および/または他の添加剤が、必要な場合、含まれ得る。
【0169】
組成物はまた、ミクロスフェア、リポソーム、他の微粒子送達系または血液を含む特定の組織に配置される徐放性製剤を介して投与され得る。
【0170】
本発明に従って使用され得る上記の技術およびプロトコルならびに他の技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版,Gennaro,A.R.,Lippincott WilliamsおよびWilkins;第20版 ISBN 0−912734−04−3ならびにPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems;Ansel,H.Cら,第7版 ISBN 0−683305−72−7(それらの全開示は本明細書に参照として援用される)に見出され得る。
【0171】
組成物は、好ましくは、「治療有効量」で個体に投与され、これは、その組成物が投与される個体に有益であることを示すのに十分である。投与される実際の用量、ならびに投与速度および投与期間は、処置される状態の性質および重症度、ならびに処置される患者の年齢、性別および体重、および投与経路などの要因に依存し、それらを考慮して決定され得る。さらに、組成物の特性、例えば、その結合活性および生体内での血漿中の半減期、製剤中の融合タンパク質の濃度、ならびに送達の経路、部位および速度が考慮されるべきである。
【0172】
投薬計画は、本発明の組成物の単回投与またはその組成物の複数回の管理上の投与を含んでもよい。その組成物はさらに、本発明の融合タンパク質が処置するために投与される状態の処置に使用される他の治療薬および医薬と連続して、または別々に投与されてもよい。
【0173】
被験体に投与され得る投与計画の例は、限定されないが、1μg/kg/日〜20mg/kg/日、1μg/kg/日〜10mg/kg/日、10μg/kg/日〜1mg/kg/日を含む群から選択され得る。
【0174】
本発明のTLR2のエピトープ結合化合物は、好ましくは、「治療有効量」で個体に投与され、これは個体に有用性を示すのに十分である。
【0175】
投与される実際の量、ならびに投与速度および期間は、処置されるものの性質および重症度に依存する。処置の処方箋、例えば、投薬量などの決定は、最終的に、一般開業医および他の医師の責任および決定の範囲内であり、典型的に、処置される疾患、個々の患者の状態、送達部位、投与方法および医師に公知の他の要因が考慮される。
【0176】
他に定義されない限り、本明細書に使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明の当業者によって一般に理解される意味を有する。
【0177】
文脈が他に要求しない限り、明細書全体にわたって、用語「含む(comprise)」または「含む(include)」、あるいは「含む(comprises)」または「含んでいる(comprising)」、「含む(includes)」または「含んでいる(including)」などの変形は、記載される整数または整数の群を包含するが、いかなる他の整数または整数の群も排除しないことを示すことが理解されるだろう。
【0178】
本明細書で使用する場合、「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」などの用語は、文脈が他に明確に要求しない限り、単数形および複数形の指示対象を含む。従って、例えば、「活性な薬剤」または「薬理学的に活性な薬剤」に対する言及は、単一の活性な薬剤および組み合わせた2つ以上の異なる活性な薬剤を含み、一方、「担体」に対する言及は、2つ以上の担体の混合物および単一の担体などを含む。
【0179】
本発明の融合タンパク質のポリペプチド構成要素を記載するために使用される命名は、従来の実務に従い、アミノ基(N)は各アミノ酸残基の左に提示され、カルボキシ基は右に提示される。
【0180】
本明細書で使用する場合、「アミノ酸」との語句は、天然および合成アミノ酸の両方、ならびにDおよびLアミノ酸の両方を含むことを意図する。合成アミノ酸はまた、限定されないが、アミドなどの塩、およびアミノ酸誘導体を含む化学的に修飾されたアミノ酸を含む。本発明のポリペプチド内に存在するアミノ酸は、メチル化、アミド化、アセチル化またはそれらの生物学的活性に悪影響を与えずに循環半減期を変化させ得る他の化学基での置換によって修飾され得る。
【0181】
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、ペプチド結合またはアイソスターなどの修飾されたペプチド結合による一連の少なくとも2つのアミノ酸共有結合を記載するために本明細書に交換可能に使用される。ペプチドまたはタンパク質を含み得るアミノ酸の最大数に制限は課されない。さらに、用語ポリペプチドは、ペプチドの断片、類似体および誘導体にまで及び、前記断片、類似体または誘導体は、その断片、誘導体または類似体が誘導されるペプチドと同じ生物学的機能活性を保持する。
【0182】
さらに、本明細書で使用する場合、用語「融合タンパク質」はまた、融合ポリペプチド、融合ペプチドなどの意味を取り得るか、または免疫抱合体ともいわれ得る。用語「融合タンパク質」は、2つ以上のサブユニット分子、典型的に、ポリペプチドが、共有結合または非共有結合されている分子をいう。
【0183】
本明細書で使用する場合、用語「治療有効量」または「治療的に有効な量」とは、腎臓におけるTLR2によって媒介される炎症を抑制するか、あるいはTLR2によって媒介される腎疾患もしくはその少なくとも1つの症状またはそれに関連する状態の重症度を減少、および/または改善するのに必要とされる本発明の薬剤、結合化合物、低分子、融合タンパク質またはペプチド模倣物の量を意味する。
【0184】
本明細書で使用する場合、用語「予防的に有効な量」とは、本発明の化合物の投与後、被験体における腎臓のTLR2によって媒介される炎症または腎疾患、あるいはそれらのうちの少なくとも1つの症状の初期の発現、進行または再発を予防するのに必要とされる組成物の量に関する。
【0185】
本明細書で使用する場合、用語「処置」ならびに「処置する」および「処置している」などの関連用語は、TLR2媒介性状態の少なくとも1つの症状の進行、重症度および/または持続の減少を意味し、前記減少または改善は、本発明のTLR2結合エピトープに対する特異性を有する結合化合物の投与に起因する。従って、用語「処置」とは、被験体に有益であり得る任意の投薬計画をいう。この処置は、既存の状態に関してであってもよいか、または予防的(予防的治療)であってもよい。処置は、治療的、軽減的または予防的効果を含んでもよい。本明細書において「治療的」および「予防的」処置に対する言及は、それらの最も広い状況とみなされるべきである。用語「治療的」とは、被験体が完全に回復するまで処置されることを必ずしも意味するわけではない。同様に、「予防的」とは、被験体が最終的に疾患状態にかからないことを必ずしも意味するわけではない。
【0186】
本明細書で使用する場合、用語「被験体」とは、動物、好ましくは、哺乳動物、特にヒトをいう。特定の実施形態において、その被験体は哺乳動物、特にヒトである。用語「被験体」は、本明細書で使用する場合、用語「患者」と交換可能である。
【0187】
本発明は、ここで、例示の目的のために提供されて、本発明を限定すると解釈されるべきではない以下の実施例を参照して記載される。
【実施例】
【0188】
(実施例1 糸球体炎症に対するToll様受容体2作動薬の効果)
(方法)
腎毒性抗体を産生するための方法、血球計算、組織学的処理、組織学の評価は、Brown HJ,Lock,HR,Sacks SH,Robson MG TLR2 stimulation of intrinsic kidney cells in the induction of immune mediated glomerulonephritis,J Immunol 2006,177(3):1925−1931(この内容は本明細書に参照として援用される)に開示されている。本実施例を実施する際にこれらの方法に従った。
【0189】
(マウス)
年齢、性別、および体重が一致した野生型のC57BL/6マウスをHarlan(Harlan UK Limited,Bicester,Oxon,UK)から得た。使用した全てのマウスは、実験の開始時に9〜10週齢であった。動物実験を、United Kingdom Home Officeの規定に従って実施した。TLR2欠損マウスの遺伝子型をPCRによって確認した。
【0190】
(促進的な腎毒性腎炎の誘導)
マウスの糸球体抽出物をBrownらに以前に記載されるように作製し、血清は、Micropharm(Llandysul,UK)によってヒツジで調製された。腎毒性血清(NTS)を、56℃で30分間、熱で不活性化し、使用するまで120℃にてアリコート中で凍結した。マウスを、310μlのPBS中の80μlの水酸化アルミニウムゲル(Sigma,Poole,UK)とともに与えられた200 1gの正常ヒツジIgG、10μlのDMSO中の100 1gのPam3CysSK4(EMC Microcollections,Tubingen,Germany)、または10μlのDMSO単独を用いて腹腔内で免疫化した。これらの全ての組成物は、単一の腹腔内(i.p.)注射として与えた。5日後、マウスに、疾患を誘発するために尾静脈を介して160μlのNTSの注射を与えた。リポペプチドおよびNTSの用量は、他の生体内での研究および本発明者ら独自の予備的研究に使用したものに基づいた。疾患誘発の14日後、マウスを殺傷し、血清のために失血させて、腎臓を回収した。14日前に健康障害の兆候を示した何匹かのマウスは、地方条例に従って人道的に殺傷した。
【0191】
(糸球体損傷の組織学的分析)
腎臓試料を、ブアン液(Bouin’s solution)において4時間固定し、ホルマリンに移し、次いでパラフィン内で処理し、包埋した。断片を0.5μmの厚さに切断し、過ヨウ素酸シッフ(PAS)試薬で染色した。次いで、全ての試料を、PAS陽性物質の量の同定によって糸球体血栓症について盲目的に評価した。合計で、50の糸球体を糸球体血栓症の兆候に関して各マウスについて評価し、スコアを以下のように各々に対して評価した:悪性度0、PAS陽性物質なし;悪性度1、25%;悪性度2、25〜50%、悪性度3、50〜75%、および悪性度4、75〜100%。次いで、各々のマウスについて平均糸球体血栓症スコアを計算した。断片をまた、糸球体半月について盲目的に評価した。合計で50の糸球体を評価し、半月体(ボーマン嚢腔における細胞の2つ以上の層)の数を割合として評価した。
【0192】
(糸球体炎症の免疫組織化学的分析)
糸球体組織構造を、NTSでの疾患誘導の2時間および24時間後に評価した。腎臓を、ブアン液において固定し、過ヨウ素酸シッフ試薬で染色した。2時間で、50の糸球体の断面あたりの好中球(それらの特有の核形態によって同定した)の数を計測した。24時間後、糸球体血栓症の量を、過ヨウ素酸シッフ陽性物質の量の同定により評価した。合計で、50の糸球体を糸球体血栓症の兆候に関して各動物について評価し、スコアを以下のように割り当てた:悪性度0、過ヨウ素酸シッフ陽性物質なし;悪性度1、25%未満;悪性度2、25〜50%;悪性度3、50〜75%;悪性度4、75〜100%。好中球および糸球体血栓症についてスコアした全ての断片は非常に盲目的に扱った。
【0193】
(アルブミン尿)
マウスを、採尿のために24時間、代謝ケージに収容した。尿中アルブミン濃度を、放射状免疫拡散法により測定した。アルブミンについての放射状免疫拡散アッセイの感度は0.05mg/mlであった。尿試料を1:40に希釈したので、値は標準曲線に位置した。
【0194】
雌性C57BL/6マウスはHarlanから得た。体重は以下の表1に記載した。
【0195】
【表1】

【0196】
10μgのリポペプチドPam3CysSK4(EMC微小採取)を含む200μlの腎毒性血清を、尾静脈を介して静脈内に投与した。この2時間前に、マウスを以下のように処置した。
【0197】
1〜5群に、腹腔内(ip)経路を介して、2.73mg/mlで発熱物質を含まない滅菌PBSに溶解した30mg/kgのプレドニゾロンを与えた。従って、190μl=519μgを、17.3gの平均体重に基づいて全てのマウスに与えた。
【0198】
6〜10群に、静脈内に190μlの発熱物質を含まない滅菌PBSを与えた。
【0199】
11〜15群に、アイソタイプコントロール抗体10mg/kgを静脈内に与えた。このアイソタイプコントロール抗体は、RnD systems(カタログ番号MAB002)から購入したマウスIgG1アイソタイプコントロールであり、このアイソタイプコントロール抗体は、Keyhole Limpet Hemocyanin(KLH)抗原に結合特異性を有する。ODを、0.86mg/mlであると示すように、再構成後に調べたので、200μlを、173μgに均等にし、全てのマウスに与えた(17.3gの平均体重に基づく)。
【0200】
16〜20群に、抗TLR2モノクローナル抗体OPN301、10mg/Kgを静脈内に0.91mg/mlの用量で、つまり、190μl=173μgを全てのマウスに投与した(17.3gの平均体重に基づく)。OPN301(OPN−301)は、マウスIgG1抗TLR2抗体(マウスToll様受容体2(TLR2)抗体、クローンT2.5,HyCult Biotechnology b.v.,Cell Sciences,Canton,USA:カタログ番号1054)である。上記のマウスを、全白血球数および血液塗抹標本のために、麻酔下で尾静脈から出血させ、次いで、血を抜いた。
【0201】
11〜15群に、プレドニゾロン30mg/kgを腹腔内(i.p.)投与した。2.73mg/mlにて発熱物質を含まない滅菌PBSに溶解した。つまり、207μl=564μgを全てのマウスに与えた(18.8gの平均体重に基づく)。
【0202】
16〜20群に、207μlの発熱物質を含まない滅菌PBSを静脈内に与えた。
【0203】
21〜24群に、アイソタイプコントロール抗体(RnD Systems、カタログ番号MAB002)10mg/kgを静脈内に与えた。ODを、再構成=0.86mg/ml後に調べた。つまり、219μl=188μgを全てのマウスに与えた(18.8gの平均体重に基づく)。
【0204】
36〜40群に、10mg/kgで静脈内に抗TLR2モノクローナル抗体OPN301を与えた。0.91mg/ml、つまり、207μl=188μgを全てのマウスに与えた(18.8gの平均体重に基づく)。
【0205】
上記の群を、疾患の誘導後すぐに代謝ケージに置き、24時間後、麻酔下で血を抜いた。統計値をGraphPadプリズムソフトウェアで実施した。一元配置分散分析(one−way ANOVA)を、Tukeyの事後テストを用いて使用した。アルブミン尿および血栓症データを対数変換後に分析した。
【0206】
(結果)
(糸球体の好中球)
PBSまたはコントロール抗体で処置したマウスより、抗TLR2モノクローナル抗体OPN301で前処置したマウスにおいて、2時間で、糸球体においてほとんど好中球は存在しなかった(表1、図1)。好中球の数は、プレドニゾロンで前処置されたマウスにおいて見られたものと同様であり、2時間での代表的な組織構造を図2に示す。
【0207】
(循環白血球)
opn301で処置したマウスの糸球体に見られた好中球の数のこの減少は、循環好中球の減少に起因しなかった。なぜなら、それらは、PBSまたはアイソタイプコントロール抗体で処置した群より抗TLR2モノクローナル抗体OPN301で処置したマウスにおける方が低くなかったからである(表2、図3)。実際に、抗TLR2モノクローナル抗体OPN301で処置したマウスにおいて好中球が多い傾向があり、t検定を、抗TLR2モノクローナル抗体OPN301と、アイソタイプコントロール抗体で処置したマウスとを比較するために使用した場合、有意性に到達した(p=0.03)。ステロイドで処置したマウスにおける循環好中球の数は、他の群のものより多かった。これは、糸球体の数の顕著な増加が生じたからと考えられる。全血液白血球は、いかなる他の群においてよりも抗TLR2モノクローナル抗体OPN301で処置したマウスにおいて多かった(表2、図4)。
【0208】
【表2】


【0209】
(アルブミン尿および糸球体血栓症)
PBS、アイソタイプコントロール抗体またはステロイド処置したマウスにおいてより、抗TLR2モノクローナル抗体OPN301で処置したマウスにおいてアルブミン尿および糸球体血栓症はほとんど存在しなかった(表3ならびに図5および図6)。ステロイドに起因するアルブミン尿の減少は、PBSまたはコントロール抗体で処置したマウスと比較した場合、有意性に達しなかった。ステロイドで処置したマウスは、コントロール抗体で処置したマウスを除いて、PBSより血栓症を著しく低下させた。示した数が、合計50の中でいくらかの血栓症を示す糸球体の数であるため、糸球体血栓症はこのモデルにおいて特徴付けられないことは、留意されるべきである。24時間での代表的な組織構造を図7に示す。
【0210】
【表3】


【0211】
(結論)
抗TLR2モノクローナル抗体OPN301は、高用量ステロイドと同等であった糸球体炎症の減少を引き起こした。アルブミン尿および血栓症に対する効果は、ステロイドで見られたものより高かった。
【0212】
(実施例2)
(腎虚血)
報告する全ての実験は、National Institutes of Health Guide For The Care And Use Of Laboratory Animals(Institute of Laboratory Animal Resources,National Academy Press,ワシントンDC,1996)に記載されるように実施し、地域動物ケアおよび使用委員会によって承認され、French Ministry for Agriculture and Fisheries to Dr Yara Barreira(N°31−125 6月8日付け,2002,有効性=5年)によって発行された脊椎動物の実験に関する現在の合法的な認可に従った。
【0213】
9つの実験群を以下のように使用した:
1)外科手術の1日後に屠殺した偽処置したマウス、n=6、
2)虚血/1日再灌流の15分前にPBSビヒクル処置したマウス、n=6、
3)虚血/1日再灌流の15分前にアイソタイプコントロール抗体10mg/kgで処置したマウス、n=6(アイソタイプコントロール抗体は、RnD systemsから購入したマウスIgG1アイソタイプコントロールであり(カタログ番号MAB002)、このアイソタイプコントロール抗体はKeyhole Limpet Hemocyanin(KLH)抗原についての結合特異性を有する)、
4)虚血/1日再灌流の15分前にOPN301抗TLR2モノクローナル抗体10mg/kgで処置したマウス、n=6、
5)虚血/1日再灌流の15分前にパーギリン6mg/kgで処置したマウス、n=6、
6)虚血/5日再灌流の15分前にPBSビヒクル処置したマウス、n=6、
7)虚血/5日再灌流の15分前にアイソタイプコントロール抗体(RnD systemsカタログ番号MAB002)10mg/kgで処置したマウス、n=6、
8)虚血/5日再灌流の15分前にOPN301抗TLR2抗体10mg/kgで処置したマウス、n=6、
9)虚血/5日再灌流の15分前にパーギリン6mg/kgで処置したマウス、n=6。
【0214】
(実験的温腎虚血/再灌流)
温腎虚血/再灌流(I/R)実験を、以前の研究から適用した(Stokmanら、2005)。つまり、C57BL/6マウスの野生型種を、2.5mlケタミン(Ketalar 50mg/ml,Centravet;Lapalisse,フランス)、0.5mlキシラジン(Rompun 2.5%,Centravet;Lapalisse,フランス)、および7ml NaCl0.9%(Centravet;Lapalisse,フランス)の10μl/gの混合物で麻酔した。外科手術の間、動物を35℃のホットプレートに置いた。2ミリメートルの切開後、頸静脈を、考慮した処置の300μl(1分注射)の静脈注射(インスリンシリンジ;VWR、Fontenay−sous−Bois,フランス)のために曝露した。切開を、止血後に閉じた(5/0 Ethicrin thread,Ethicon;Auneau,フランス)。3センチメートルの長さで腹部の皮膚および筋肉の切開を実施した;腎茎を曝露し、微細動脈瘤クランプ(AREX;Palaiseau,フランス)を用いて、30分間、固定した。クランプの取り付けおよび除去のときに、腎臓を、血流停止および回復のそれぞれについて調べた。腎虚血の持続期間全体を通して、熱の損失を回避し、相対的な腹内圧力を維持するために腹部を包んだ。2層で腹部を閉じ(5/0 Ethicrin thread,Ethicon;Auneau,フランス)、その時点で、マウスに1mlの滅菌NaCl0.9%を補い、体液平衡と容積状態を維持した。最後に、全てのマウスに、鎮痛剤目的のために10mg/kgプロフェニド(profenid)50mg/ml(Centravet;Lapalisse,フランス)の筋肉内注射を与え、次いで、通気した温室中で32℃で12時間、外科手術から回復させた。食物および水を自由に与えた。偽処置したマウスを、クランプを取り付けずに同様の手順に供した。
【0215】
実験の終わりに、マウスを、外科手術の1日および5日後、ペントバルビタール(100μl/10g、Ceva Sante Animale;Libourne,フランス)の致死注射により屠殺した。血液試料を、腹部大動脈穿刺によって回収し、凝固のためにチューブに移し(30分、4℃)、次いで、血漿回収のために遠心分離(10分、1200rpm、4℃)し、腎機能測定のために使用するまで−80℃で保存した。腎臓を除去して、組織の調製(半分の腎臓をカルノア液−無水エタノール60%:クロロホルム30%:氷酢酸1%に移した)、生化学分析(2つの半分の腎臓を、液体窒素中で即座に凍結(snap−frozen)し、次いで、MPOおよびMDA評価に使用するまで−80℃で保存した)、およびサイトカイン/ケモカイン測定(半分の腎臓を、液体窒素中で即座に凍結(snap−frozen)し、次いで、CryoExpress輸送によってスポンサーに送るまで−80℃で保存した)のために分けた。
【0216】
全て、以下の分析は盲目的に行った。
【0217】
(腎機能)
腎機能の決定は、Rangueil病院調査研究による標準的な診断手順に従って、Cobas Mira生化学分析装置(Horiba ABX;Montpellier,フランス)での血漿のクレアチニンおよび尿素濃度の評価に基づく。結果を、尿素についてmmol/lおよびクレアチニンについてμmol/Lとして表した。
【0218】
(虚血/再灌流障害評価についての組織構造)
カルノア液での24時間の固定後、標準的な手順に従って半分の腎臓をパラフィンに包埋した。縦3〜4μm厚さの組織構造の切断を行い、PASで染色した。手短に、断片を、パラフィンからはずし、水に再び戻し、次いで、10分間、0.5%の過ヨウ素酸溶液中で酸化した(DAKO;Trappes,フランス)。リンス後、シッフ試薬(DAKO;Trappes,フランス)を10分間加え、次いでシッフ塩基の減少を停止するために微温の水道水で5分間、洗浄した。対比染色を、マイヤー・ヘマトキシリン液(DAKO;Trappes,フランス)で2分間処理し、5分間水道水で洗浄し、次いで、急速に脱水し、染色した。
【0219】
損傷した尿細管を、皮髄領域における10の非重複領域(400倍)について、影響を受けた尿細管の割合の半定量スコアによって評価した。尿細管膨張、上皮壊死、円柱堆積(cast deposition)、および刷子縁の損失などの損傷基準を以下のようにし、5点のスケールで評価した:0%損傷について0、10%未満損傷について1、10〜25%損傷について2、25〜50%損傷について3、50〜75%損傷について4、および75%より高い損傷について5。
【0220】
(マクロファージ湿潤についての免疫組織学)
縦切片をまた、F4/80免疫検出のために使用した。手短に、パラフィンを除去した切片を、3%の過酸化水素で10分間インキュベートして、内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックした。非特異的抗原部位を飽和した後、切片を、(i)15分間、マウスF4/80に対するラットモノクローナル抗体(1/400e−Caltag Laboratories,Invitrogen;Cergy Pontoise,フランス)、(ii)15分間、ラットIgGに対するウサギポリクローナル抗体(1/800e−DAKO;Trappes,フランス);次いで(iii)20分間、標識されたHRP抗ウサギEnvision System(DAKO;Trappes,フランス)とともに、加湿した雰囲気下において室温で連続してインキュベートした。
【0221】
特定の抗原部位を、DAB(DAKO;Trappes,フランス)で明らかにした。切片を、マイヤー・ヘマトキシリン液(DAKO;Trappes,フランス)で対比染色した。免疫組織化学的方法についての陰性コントロールは、一次抗体F4/80のコントロールアイソタイプ(IgG2a,1/400e−Caltag Laboratories,Invitrogen;Cergy Pontoise,フランス)の使用を含んだ。分析を、各腎臓切片の源を知らない処置者によって実施し、組織学的コードの除去を記録の終わりに実施した。所定の画像内の選択された対象物の定量化を、ExploraNovaソフトウェアと合わせたMicrosoft Excelファイルに記録した。結果を、10の非重複領域(200倍)の全研究領域について、特定の有色領域の割合(%)で得て、それにより、皮髄境界部において分析マーカーによって占められた表面を表した。
【0222】
(酸化的ストレスの指標としてのマロンジアルデヒド産生の評価)
即座に凍結した半分の腎臓を、最初に、PBSおよびPMSF 2mM(Sigma Aldrich;St Quentin Fallavier,フランス)の混合物中で均質化し、次いで、MDA濃度を、以前に記載される(Aruomaら、1989)ように、MDAと2分子のチオバルビツール酸との間の反応由来の特定の色素原化合物の産生を定量化することにより、間接的に測定した。
【0223】
手短に、ホモジネートアリコートを、トリクロロ酢酸5%(Sigma Aldrich;St Quentin Fallavier,フランス)と混合し、遠心分離した(20分、4000rpm、4℃)。上清を、チオバルビツール酸78mM(Sigma Aldrich;St Quentin Fallavier,フランス)およびHCl0.02Mに加え、次いで、95℃で10分間加熱した。次いで、生成した色素原化合物を、535nm波長で分光光度法で測定した(Helios β Unicam,Thermo Fisher Scientific;Courtaboeuf,フランス)。MDAビスメチルアセタール(Sigma Aldrich;St Quentin Fallavier,フランス)を外部標準として使用した。結果を、nmol MDA/mgタンパク質として表した。
【0224】
(好中球蓄積に関するミエロペルオキシダーゼ活性)
即座に凍結した半分の腎臓をまた、リン酸カリウム緩衝液5mMの混合物中で均質化して、ペレット化(20,000g、45分、4℃)し、リン酸緩衝液50mMと臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム0.5%(Fluka,Sigma Aldrich;St Quentin Fallavier,フランス)との混合物中に懸濁して置いた。最後の遠心分離(20,000g、45分、4℃)により、酵素活性測定を続けていた上清中のMPO放出を終了した。
【0225】
手短に、MPO活性を、リン酸緩衝液50mM/pH6中のo−ジアニシジン二塩酸塩0.167mg/mL(Acros Organics;Noisy le Grand,フランス)および過酸化水素0.1mMを用いることによって間接的に測定した。生成物の吸光度を、460nm波長にて分光光度法で測定した(Helios β Unicam,Thermo Fisher Scientific;Courtaboeuf,フランス)。結果を、タンパク質含有量に対する正規化後にU MPO/mgタンパク質として表した。
【0226】
(結果の分析および発現)
結果を、平均値±標準誤差(SEM)として与えた。一元配置分散分析(one−way ANOVA)を、群差内の比較のために使用し、続いて、カラムの全ての対の比較のためにNewman−Keuls試験を使用した。p<0.05を統計的に有意とみなした。
【0227】
(結果)
(温腎虚血/再灌流の効果)
I/Rの機能的影響を、尿素(図8A)およびクレアチニン(図8B)などの重要な血漿パラメーターの測定により評価した。I/Rの1日後、偽処置した群と比較して、クレアチニン血症および尿毒症は、非常に増加し、腎機能障害を示した(PBS−ビヒクルおよび偽処置群、それぞれにおいて、47.54±3.49mmol/L尿素および371.83±27.34μmol/Lクレアチニン対5.21±0.32mmol/L尿素および43.02±12.01μmol/Lクレアチニン;1群につきn=6、***P<0.01、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA))。
【0228】
機能の損失を、損傷した尿細管の割合によって評価した構造的発見と関連付けた(図9(B))。両側のI/Rの1日後、腎臓断片における尿細管損傷の程度は激しく、全皮質乳頭の勾配にまで広がり、髄質の外層だけではなかった(図9A);(1群につきn=6、***P<0.01、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA))。
【0229】
I/R損傷の重要な特徴の1つは、食細胞湿潤(マクロファージおよび好中球)に関連する急性炎症であるため、F4/80免疫染色(図10(A))およびMPO活性(図10(B))の定量化を実施した。I/Rの1日後、腎組織におけるマクロファージ湿潤およびMPO活性の増加を、虚血性障害の経時変化と関連付けた(PBS−ビヒクルおよび偽処置した群、それぞれにおいて、3.24±0.21% F4/80陽性染色および63.2±9.55U MPO/mgタンパク質対0.91±0.13% F4/80陽性染色および20.72±1.18 U MPO/mgタンパク質;***P<0.01は偽処置した群と比較し、#p<0.05、##p<0.01および###P<0.001はPBS−ビヒクル群と比較し、§§§p<0.001は、OPN301 ContAbと比較し、p<0.05はOPN301モノクローナル抗体と比較した;1群あたりn=6、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA))。
【0230】
酸化ストレス障害の指標として使用したMDA生成は、基底値と比較して、I/Rの1日後、有意に変化しなかった(PBS−ビヒクルおよび偽処置した群、それぞれにおいて、0.082±0.004nmol MDA/mgタンパク質対0.080±0.005nnom/mgタンパク質(図11);***P<0.01はSham処置した群と比較し、#p<0.05および###p<0.001はPBS−ビヒクル群と比較し、§p<0.001はOPN301 ContAbと比較した;1群につきn=6、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA))。
【0231】
腎I/Rの5日後、第2のエンドポイントは、マウスの致死率が2日で約80%で、4日で100%であったため、評価しなかった。機能値を考慮すると、虚血30分後の腎障害は、非常に広がったため、マウスが生存できず、腎機能が回復しなかったという結論に達した。全皮質乳頭の勾配がI/R障害の結果により破壊したので、組織学的分析により、この仮説を確認した。
【0232】
(虚血/再灌流の1日後の急性腎不全に対するOPN301抗TLR2モノクローナル抗体およびパーギリンの効果)
OPN301抗TLR2モノクローナル抗体の効果をI/Rの1日後に分析した場合、直面する主な障害は、誘発される損傷の重症度、それによるモデルの厳密性である。実際に、機能的および組織学的観点から、本発明者らは実験群間で区別できなかった(図8および図9)。
【0233】
しかしながら、一部のパラメーターは、炎症に関連するもの、すなわち、腎組織におけるマクロファージ湿潤および好中球蓄積などの一部の後押しする示唆を与えた。マクロファージ湿潤を考慮すると(図10(A))、腎臓切片の免疫組織化学的分析により、PBS−ビヒクル群と比較した場合、F4/80陽性染色の減少が示された(OPN301 mAbおよびPBS−ビヒクル群、それぞれにおいて、1.38±0.11%対3.24±0.21%、n=6、p<0.001、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA))。好中球蓄積を考慮すると(図10(B))、MPO活性レベルは、PBS−ビヒクル群と比較した場合、酵素活性の減少を示した(OPN301 mAbおよびPBS−ビヒクル群、それぞれにおいて、27.32±1.95U MPO/mgタンパク質対63.2±9.55U MPO/mgタンパク質、n=6、p<0.01、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA))。
【0234】
アイソタイプコントロール抗体が、マクロファージ湿潤(アイソタイプコントロール抗体およびPBS−ビヒクル群、それぞれにおいて、2.69±0.27%対3.24±0.21% F4/80陽性染色、n=6、p<0.05、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA);図10(3A))および腎組織における好中球蓄積(アイソタイプコントロール抗体およびPBS−ビヒクル群、それぞれにおいて、38.1±7.34U MPO/mgタンパク質および63.2±9.55U MPO/mgタンパク質、n=6、p<0.05、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA);図10(3B))を減少させることができるため、固有特性を有するように見えることは、注目すべきことであった。その活性は、マクロファージ湿潤の低下に関して著しくOPN301 mAbと異なっていたが(アイソタイプコントロール抗体およびOPN301抗TLR2モノクローナ抗体群、それぞれにおいて、2.69±0.27%対1.38±0.11% F4/80陽性染色;n=6、p<0.0001、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA))、その効果は、MPO活性での実験的抗体と著しく異なっていなかった(アイソタイプコントロール抗体およびOPN301抗TLR2モノクローナル抗体群、それぞれにおいて、38.1±7.34U MPO/mgタンパク質対27.32±1.95U MPO/mgタンパク質;n=6、p<0.0001、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA))。
【0235】
基準物質処置(パーギリン)は、腎組織における好中球蓄積に対して効果を有さなかった(パーギリンおよびPBS−ビヒクル群、それぞれにおいて、53.48±5.34U MPO/mgタンパク質対63.20±9.55U MPO/mgタンパク質;n=6;図10(3B))。マクロファージ湿潤に対するその作用は、実験的mAbと同様であった(パーギリンおよびOPN301抗TLR2モノクローナル抗体群、それぞれにおいて、1.39±0.15%および1.38±0.11% F4/80陽性染色、n=6;図10(3A))。
【0236】
脂質過酸化反応を考慮すると、OPN301抗TLR2モノクローナル抗体の投与により、基礎MDAレベルにおいて著しい減少がもたらされた(OPN301抗TLR2モノクローナル抗体およびPBSビヒクル群、それぞれにおいて、0.048±0.002nmol/mgタンパク質対0.082±0.004nmol/mgタンパク質;n=6、p<0.001、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA);図11)。しかしながら、再び、アイソタイプコントロール抗体が、MDAレベルに対して同様の効果を有することは、考慮されなければならない(アイソタイプコントロール抗体およびPBS−ビヒクル群、それぞれにおいて、0.046±0.002nmol/mgタンパク質対0.082±0.004nmol/mgタンパク質;n=6、P<0.001、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA);図11)。
【0237】
パーギリンを用いる基準物質処置に関して、MDAレベルによって示されるように、虚血/再灌流によって誘発された酸化的ストレスの予想された減少が導かれた(パーギリンおよびPBS−ビヒクル群、それぞれにおいて、0.051±0.002nmol/mgタンパク質対0.082±0.004nmol/mgタンパク質;n=6、p<0.001、Newman−Keuls試験を用いる分散分析(ANOVA);図11)。
【0238】
(結論)
実施例2により、腎臓の温虚血/再灌流(I/R)が、尿細管壊死によって主に特徴付けられる全皮質乳頭の勾配に沿った著しい損傷と直接的に関連付けられ得るクレアチニン血症および尿毒症の増加によって特徴付けられる腎機能の大きな損失を誘発したことが示される。このモデルの唯一の批判は、処置効果と機能的または構造的観点との区別ができなかったその重症度であった。実際に、初期の急性腎不全の虚血性病変は可逆ではなかったため、尿細管細胞損失は埋め合わされず、虚血性急性腎不全は、末期腎不全へ急速に発達し、動物は死んだ。しかしながら、マクロファージ湿潤、好中球蓄積、および脂質過酸化反応の指標として使用した一部の生化学マーカーは、虚血腎障害において、OPN301抗TLR2モノクローナル抗体処置の有用性を支持して納得させる結果を示した。実際に、OPN301抗TLR2モノクローナル抗体の有益な効果は、コントロール抗体の顕著な固有特性、特にMPO活性およびMDAレベルにもかかわらず、これらのパラメーターで示された。
【0239】
(実施例3:腎虚血反復研究)
5つの実験群を以下の工程1において使用した:
1)偽処置したマウスを外科手術の1日後に屠殺した、n=4、
2)20分の虚血/1日再灌流、n=4、
3)20分の虚血/5日再灌流、n=4、
4)25分の虚血/1日再灌流、n=4、
5)25分の虚血/1日再灌流、n=4。
【0240】
9つの実験群を工程2において使用した:
1)偽処置したマウスを外科手術の1日後に屠殺した、n=6、
2)虚血/1日再灌流の15分前にPBS−ビヒクル処置したマウス、n=6、
3)25分虚血/1日再灌流の15分前にアイソタイプコントロール抗体10mg/kg処置したマウス、n=6(アイソタイプコントロール抗体は、RnD systems(カタログ番号MAB002)から購入したマウスIgG1アイソタイプコントロールであり、このアイソタイプコントロール抗体は、Keyhole Limpet Hemocyanin(KLH)抗原について結合特異性を有する)、
4)25分の虚血/1日再灌流の15分前にOPN301抗TLR2モノクローナル抗体10mg/kg処置したマウス、n=6、
5)25分虚血/1日再灌流の15分前にパーギリン6mg/kg処置したマウス、n=6、
6)25分虚血/1日再灌流の15分前にPBS−ビヒクル処置したマウス、n=6、
7)25分虚血/5日再灌流の15分前にアイソタイプコントロール抗体(RnD Systems カタログ番号MAB002)10mg/kgで処置したマウス、n=6、
8)25分虚血/5日再灌流の15分前にOPN301抗TLR2モノクローナル抗体10mg/kgで処置したマウス、n=6、
9)25分虚血/5日再灌流の15分前にパーギリン6mg/kgで処置したマウス、n=6。
【0241】
(実験的温腎虚血/再灌流(工程1および2))
手短に、マウスを、2.5mlケタミン(Ketalar 50mg/mL,Centravet;Lapalisse,フランス)、0.5mlキシラジン(Rompun 2.5%,Centravet;Lapalisse,フランス)、および7mL NaCl 0.9%(Centravet;Lapalisse,フランス)の10μl/gの混合物で麻酔した。外科手術の間、動物を35℃のホットプレートに置いた。
【0242】
2ミリメートルの切開を右側の頸部の高さで行った後に、頸静脈を、考慮した処置の70μlの1分の静脈注射(インスリンシリンジ;VWR,Fontenay−sous−Bois,フランス)の間、曝露し、次いで止血後に閉じた(5/0 Ethicrin thread,Ethicon;Auneau,フランス)。工程1においては、頸部注射を実施しなかった。
【0243】
3センチメートルの正中線切開を腹部の皮膚に行い、続いて筋肉切開を行った;腎茎を曝露し、微細動脈瘤クランプ(AREX;Palaiseau,フランス)を用いて25分間固定した。クランプの取り付けおよび除去の時点で、腎臓を、血流停止および回復のそれぞれについて調べた。腎虚血持続期間の間、腹部を、熱の損失を回避し、相対的な腹内圧力を維持するために包んだ。2層で腹部を閉じ(5/0 Ethicrin thread,Ethicon;Auneau,フランス)、その時点で、マウスを1mLの滅菌NaCl(塩化ナトリウム)0.9%で補って、体液平衡および容積状態を維持した。最後に、全てのマウスに、鎮痛剤の目的のために10mg/kgのプロフェニド50mg/mL(Centravet;Lapalisse,フランス)の筋肉内注射を与え、次いで、通気した温室内で32℃で12時間、外科手術から回復させた。食物および水を自由に与えた。偽処置したマウスを、固定せずに同様の手順に供した。
【0244】
この手順の終わりに、マウスを、外科手術の1日および5日後、ペントバルビタール(100μL/10g、Ceva Sante Animale;Libourne,フランス)の致死注射により屠殺した。
【0245】
実施例2に記載される尿素、クレアチニン、MPOおよびMDAなどの実験方法。
【0246】
(結果の分析および発現)
結果を、平均値±標準誤差(SEM)として与えた。一元配置分散分析(one−way ANOVA)を、群差内の比較のために使用し、続いて、カラムの全ての対の比較のためにNewman−Keuls試験を使用した(GraphPad Prism,San Diego,USA)。p<0.05を統計的に有意とみなした。
【0247】
(結果)
工程1:温腎虚血の最適期間の決定
I/Rの機能的影響を、尿素(図12(A))およびクレアチニン(図12(B)、表4)などの重要な血漿パラメーターの測定により評価した。20分の虚血持続期間の間、血漿パラメーターレベルの変化は、気づかなかった。しかしながら、25分の虚血が行われた場合、腎機能の損失、次いで、急性腎不全モデルを特徴付ける回復が得られたことが示された。実際に、25分の虚血の1日後、尿毒症およびクレアチニン血症は、偽処置した群と比較して著しく増加し、腎機能障害を示した(25分の虚血1日および偽処置した群、それぞれにおいて、39.58±2.23mmol/L尿素および142.18±20.74μmol/Lクレアチニン対6.99±0.55mmol/L尿素および23.20±2.44μmol/Lクレアチニン;***P<0.001は25分虚血1日群と比較した;1群あたりn=4;分散分析(ANOVA)後、Newman−Keuls試験)。次いで、予想されるように、虚血の5日後、血漿パラメーターレベルは、基底値に戻った(25分の虚血5日および偽処置した群、それぞれにおいて、16.14±4.37mmol/L尿素および36.83±5.52μmol/Lクレアチニン対6.99±0.55mmol/L尿素および23.20±2.44μmol/Lクレアチニン;n=4)。
【0248】
表4:工程1:1日および5日での尿毒症(上)およびクレアチニン血症(下)についての個々のデータおよび平均の結果。
【表4】

【0249】
これらの機能的変化を、損傷した尿細管の割合によって評価される構造的損傷と関連付けた(図13、表5)。データを、平均±SEMとして表した;p<0.05、##p<0.01は25分の虚血5日の群と比較し、***p<0.001は25分の虚血1日の群と比較した;1群あたりn=4;分散分析(ANOVA)後、Newman−Keuls試験。両側の虚血の1日後、腎臓断片における尿細管損傷の程度は有意であり、皮髄境界部に限定された。虚血の5日後、尿細管障害は依然として識別できたが、皮質領域に限定され、尿細管再生と関連した。5日目で気づいた病変は、1日目のものほどほとんど重症でなかった;例えば、刷子縁または尿細管細胞の損失および円柱堆積(cast deposition)は、尿細管拡張と比べてほとんど/全く検出されなかった。
【0250】
表5:工程1:損傷尿細管の割合のスコアについての個々のデータおよび平均の結果
【表5】

【0251】
両方のエンドポイントにおけるいかなる機能障害にもかかわらず、20分の虚血が行われた場合、虚血障害の結果が腎組織で観察されたことは、注目すべきことである。さらに、25分の虚血が、急性腎不全からの特徴である、機能障害の可逆性と、構造変化とを結びつけるのに必要であり、かつ十分であった。最終的に、25分と30分との間の5分間隔が、処置間の識別が可能でない最終段階の腎疾患における急性腎不全モデルを変換するのに十分であった。
【0252】
工程2:急性腎不全に対するOPN301抗TLR2モノクローナル抗体およびパーギリンの効果
血漿パラメーターは、25分の虚血後に追跡調査し(図14(A)および14(B))、OPN301抗TLR2モノクローナル抗体が、虚血性障害によって誘発される腎機能障害に対して予防効果を有することが示された。なぜなら、尿毒症およびクレアチニン血症は、陽性コントロール群と比較した場合、虚血1日(D1)後に増加しなかったからである(抗TLR2モノクローナル抗体D1およびPBS−ビヒクルD1群、それぞれにおいて、13.10±3.15mmol/L尿素および48.47±16.41μmol/Lクレアチニン対31.05±5.70mmol/L尿素および99.97±25.64μmol/Lクレアチニン(表6AおよびB))。アイソタイプコントロール抗体について(OPN301ContAb D1およびPBS−ビヒクルD1群、それぞれにおいて、31.22±3.37mmol/L尿素および95.55±16.80μmol/Lクレアチニン対31.05±5.70mmol/L尿素および99.97±25.64μmol/Lクレアチニン、n=6)、およびパーギリンについても観測されなかったので(パーギリンD1およびPBS−ビヒクルD1群、それぞれにおいて、33.72±5.64mmol/L尿素および104.7±25.20μmol/Lクレアチニン対31.05±5.70mmol/L尿素および99.97±25.64μmol/Lクレアチニン;p<0.05、**p<0.01、***p<0.001はPBS−ビヒクルD1群と比較し、p<0.05、##p<0.01、###p<0.001はアイソタイプコントロール抗体D1群と比較し、§p<0.05、§§p<0.01、§§§p<0.001はパーギリン群と比較した;1群につきn=6;分散分析(ANOVA)後、Newman−Keuls試験)、この効果は、OPN301抗TLR2モノクローナル抗体から明確であった。
【0253】
表6:工程2:25分の虚血の1日後、および5日後の尿毒症(A)およびクレアチニン血症(B)についての個々のデータおよび平均の結果
【表6】

【0254】
5日で処置間の差はなかった;予測されるように、再生段階が機能的に関与した。炎症、主に腎組織における好中球蓄積に関連するパラメーターを考慮すると(図15、表7)、虚血の1日後、PBS−ビヒクルと群と比較した場合、MPO活性の変化がないことが証明された(OPN301抗TLR2モノクローナル抗体D1およびPBS−ビヒクルD1群、それぞれにおいて、84.03±4.10U MPO/mgタンパク質対80.45±8.66U MPO/mgタンパク質;£p<0.05、££p<0.01はパーギリンD5群と比較した。§p<0.05はOPN301抗TLR2モノクローナル抗体D5群と比較した。P<0.05はPBS−ビヒクルD5群と比較し、p<0.05、**p<0.01はOPN301抗TLR2モノクローナル抗体D1群と比較した;1群につきn=6;分散分析(ANOVA)後、Newman−Keuls試験)。同じエンドポイントにおいて、パーギリンでの基準物質処置は、OPN301抗TLR2モノクローナル抗体と比較した場合、このパラメーターに対して最も強い効果を有した(パーギリンD1(1日)およびOPN301抗TLR2モノクローナル抗体(OPN301mAb)D1(1日)群、それぞれにおいて、57.37±5.78U MPO/mgタンパク質対84.03±4.10U MPO/mgタンパク質)。虚血の5日後、腎組織におけるMPO活性は、PBS−ビヒクルD1群と比較した場合、4つの異なる群で減少した。
【0255】
表7:1日および5日後の好中蓄積の指標としてのMPO活性についての個々のデータおよび平均の結果
【表7】

【0256】
統計分析を、一元配置分散分析(one−way ANOVA)後のNewman−Keuls試験を用いて実施した。
【0257】
表8:脂質過酸化反応の指標としてのMDAレベルについての個々のデータおよび平均の結果
【表8】

【0258】
図17は、組織学的スコアの測定による腎臓における尿細管損傷の程度を示す。両側のI/Rの1日後、OPN301 mAbとの比較に役立つコントロールおよびPBS−ビヒクル試料における尿細管障害の程度;(1群につきn=6、***p<0.01、Newman−Keuls試験を用いるANOVA)、μ−GSTμg/L、マウス腎臓における尿細管損傷の指標を、腎虚血/再灌流の0日、1日および5日後に測定した(図18)。
【0259】
(結論)
本研究において、始めに、マウスにおいて、温腎虚血の最適期間は25分であることが示された。このプロトコルは、1日で明らかな腎機能障害を誘発し、急性腎不全モデルにおいて予想されるように、5日で回復した。構造的観点から、25分の虚血が行われた場合、尿細管損傷は、1日目に皮髄境界部にのみ限定され、その後、皮質領域に影響を与え、5日目に再生した。第2に、工程2における本発明者らの機能的結果により、OPN301抗TLR2モノクローナル抗体10mg/kgでの処置が、虚血の1日後の虚血障害によって誘導される腎機能変化に対する保護および特異的効果を有することが示された。好中球蓄積(MPO)および酸化的ストレス(MDA)の結果は、OPN301mAb処置のいかなる陽性の効果も現さなかった。しかしながら、本発明者らがまた、偽と虚血−再灌流動物(この動物は異常である)との間の有意差を観測しなかったという事実により、異なる実験条件(例えば、異なる虚血−再灌流の期間)が必要であり得ることが示唆される。さらに、ラットにおけるI/Rモデルを用いる本発明者らの以前の研究(Kunduzovaら、2002)とは際立って対照的に、パーギリンでの処置が効果を有さなかったという事実により、種差が考慮されなければならないことが示唆される。結論として、この研究は、急性腎不全、すなわち、虚血1日後の処置におけるOPN301抗TLR2モノクローナル抗体の使用についての概念の最初の証明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎疾患または腎炎に関与するTLR2発現細胞または組織におけるToll様受容体2(TLR2)の1つ以上の生物学的活性を減少させる方法であって、
前記細胞または組織におけるTLR2の1つ以上の生物学的活性を減少させるのに十分な量で、TLR2活性または発現の拮抗薬と、前記細胞または組織とを接触させる工程を含む、方法。
【請求項2】
前記TLR2発現細胞は、尿細管上皮細胞、ボーマン嚢の上皮細胞、腎臓糸球体壁細胞、腎臓糸球体有足細胞、近位尿細管刷子縁細胞、ヘンレ係蹄薄部細胞、腎臓遠位尿細管細胞、腎臓集合管細胞からなる群より選択される細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触させる工程は、細胞溶解物、再構成系または培養物中の細胞において起こる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記接触させる工程は、被験体に存在する細胞または組織で起こる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記被験体は、腎不全または腎障害を有するか、あるいはそれらの危険性があるヒト患者である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記TLR2は、ヒトまたはマウスTLR2である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記TLR2拮抗薬は、ヒトTLR2に結合する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記TLR2拮抗薬は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質および低分子化合物からなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記TLR2拮抗薬は、ヒトTLR2に特異的に結合している抗体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体は、TLR2に特異的に結合しているヒト、ヒト化、キメラ、合成、ラクダ、サメまたは生体外の抗体、あるいはそれらのいずれか由来の結合断片からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体は、Fab、scFv、Fv、dAb、および断片からなる群より選択される抗体結合断片である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体分子は、2つの完全な重鎖、および2つの完全な軽鎖、またはそれらの抗原結合断片を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記TLR2拮抗薬は、ヒトTLR2の細胞外ドメインによって規定されるエピトープに結合する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記TLR2拮抗薬は、ヒトTLR2のアミノ酸配列のアミノ末端およびカルボキシル末端由来のアミノ酸残基を含む不連続エピトープに結合する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記TLR2拮抗薬は、配列番号2のアミノ酸残基19〜39、または538〜549を含むTLR2上のエピトープに結合する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記TLR2拮抗薬は、TLR2タンパク質をコードする核酸の発現を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記TLR2拮抗薬は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重螺旋分子、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、shRNA分子からなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
腎障害を処置および/または予防するための方法であって、前記方法は、
Toll様受容体2の機能を調節する治療有効量の薬剤を提供する工程、および
そのような処置を必要とする被験体に前記化合物を投与する工程を含む、方法。
【請求項19】
TLR2機能を調節する前記薬剤は、TLR2拮抗薬である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記TLR2拮抗薬は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質および低分子化合物からなる群より選択される結合化合物である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記TLR2拮抗薬は、抗体またはその抗体由来の結合断片である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体または合成抗体からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体は、ヒトTLR2に対する、ヒト、ヒト化、ラクダ、生体外で産生した抗体からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体は、IgG、IgA、IgM、およびIgEからなる群より選択されるアイソタイプである、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記TLR2拮抗薬は、約10−7M〜約10−11Mの解離定数(Kd)でTLR2に存在する阻害エピトープに結合する、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記TLR2拮抗薬は、ヒトTLR2の細胞外ドメインによって規定されるエピトープに結合する、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体は、ヒトTLR2のアミノ酸配列のアミノ末端およびカルボキシル末端由来のアミノ酸残基を含む不連続エピトープに結合する、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記抗体は、配列番号1のアミノ酸残基19〜39、または538〜549を含むTLR2上のエピトープに結合する、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記TLR2拮抗薬は、配列番号1のアミノ酸残基19〜39、または538〜549を含むTLR2上のエピトープに結合する、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
TLR2調節薬剤は、組み換えToll様受容体2の可溶性形態である、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
TLR2の前記可溶性形態は、二次タンパク質に結合したTLR2タンパク質上の細胞外ドメインを実質的に含む融合タンパク質である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
TLR2の前記可溶性形態は、配列番号5のアミノ酸配列を含むか、またはその断片であり、前記断片は、配列番号5のアミノ酸配列の生物学的活性を有する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
TLR2調節薬剤は、TLR2タンパク質の発現を阻害する阻害核酸である、請求項18に記載の方法。
【請求項34】
前記阻害核酸タンパク質は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重螺旋分子、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、およびshRNAからなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
TLR2調節薬剤は、TLR2発現細胞における1つ以上のTLR2生物学的活性を減少または阻害させるために前記被験体に投与され、前記細胞は、尿細管上皮細胞、ボーマン嚢の上皮細胞、腎臓糸球体壁細胞、腎臓糸球体有足細胞、近位尿細管刷子縁細胞、ヘンレ係蹄薄部細胞、腎臓遠位尿細管細胞、腎臓集合管細胞からなる群より選択される細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項36】
前記腎障害は、腎疾患、慢性腎不全、急性腎不全、異種腎毒性腎炎、糸球体腎炎、糸球体の硬化、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病性ネフロパシー、および糖尿病性ネフロパシーからなる群より選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記腎障害は、免疫グロブリンAネフロパシー、膜性増殖性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、非増殖性糸球体腎炎、膜性糸球体腎炎、微小変化型疾患、原発性巣状分節状糸球体硬化症、線維性糸球体腎炎、イムノタクトイド糸球体腎炎、増殖性糸球体腎炎、進行性糸球体腎炎、抗GBM疾患、腎虚血、抗好中球細胞質抗体に関連する疾患を含む腎臓血管炎、ループス腎炎クリオグロブリン血症関連糸球体腎炎、細菌性心内膜炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、感染後糸球体腎炎、C型肝炎疾患、糖尿病性ネフロパシー、ミロイドーシス(myloidosis)、高血圧性腎硬化症、多発性骨髄腫由来軽鎖疾患、続発性巣状分節状糸球体硬化、および高血圧性腎硬化症からなる群より選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記TLR2は、ヒトTLR2またはマウスTLR2である、請求項18に記載の方法。
【請求項39】
治療有効量の少なくとも1つの二次治療化合物を投与する工程をさらに含み、前記二次治療化合物は、免疫抑制剤化合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項40】
前記二次治療化合物は、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤、代謝拮抗物質、抗CD2抗体または関連結合断片、抗CD20抗体、抗TNF−α抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムスまたはFTY720からなる群より選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記薬剤は、前記二次治療化合物と同時に投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記薬剤は、前記二次治療化合物の投与と連続して投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記薬剤は、前記二次治療化合物の投与と別に投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
腎障害の処置および予防に使用するための医薬組成物であって、少なくとも1つの薬理学的に許容できる担体、希釈剤、可溶化剤、乳化剤、保存剤および/または補助剤と共にToll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤を含む、医薬組成物。
【請求項45】
前記薬剤は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体または抗体断片、アプタマー、融合タンパク質およびペプチド模倣物からなる群より選択されるTLR2拮抗薬である、請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項46】
TLR2調節薬剤は、TLR2受容体の可溶性形態である、請求項44または請求項45に記載の医薬組成物。
【請求項47】
前記薬剤は、TLR2のmRNAまたはTLR2の遺伝子産物の発現を阻害する阻害核酸ベースの化合物である、請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項48】
前記組成物は、二次治療化合物をさらに含む、請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項49】
前記二次治療化合物は、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤、代謝拮抗物質、抗CD2抗体または関連結合断片、抗CD20抗体、抗TNF−α抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムスまたはFTY720からなる群より選択される、免疫抑制剤化合物である、請求項48に記載の医薬組成物。
【請求項50】
腎炎および腎疾患の処置のための医薬を調製するためのToll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤の使用。
【請求項51】
前記腎疾患は、腎疾患、慢性腎不全、急性腎不全、異種腎毒性腎炎、糸球体腎炎、糸球体の硬化、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病性ネフロパシー、および糖尿病性ネフロパシーからなる群より選択される、請求項50に記載の使用。
【請求項52】
前記薬剤は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質および低分子化合物からなる群より選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記薬剤は、ヒトTLR2に特異的に結合している抗体である、請求項50に記載の使用。
【請求項54】
前記抗体は、TLR2に特異的に結合しているヒト、ヒト化、キメラ、合成、ラクダ、サメまたは生体外の抗体、あるいはそれらのいずれか由来の結合断片からなる群より選択される、請求項53に記載の使用。
【請求項55】
前記抗体は、Fab、scFv、Fv、dAb、および断片からなる群より選択される抗体結合断片である、請求項53に記載の使用。
【請求項56】
前記抗体分子は、2つの完全な重鎖、および2つの完全な軽鎖、またはそれらの抗原結合断片を含む、請求項53に記載の使用。
【請求項57】
前記薬剤は、ヒトTLR2の細胞外ドメインによって規定されるエピトープに結合するTLR2拮抗薬である、請求項50に記載の使用。
【請求項58】
前記薬剤は、ヒトTLR2のアミノ酸配列のアミノ末端およびカルボキシル末端由来のアミノ酸残基を含む不連続エピトープに結合するTLR2拮抗薬である、請求項50に記載の使用。
【請求項59】
前記薬剤は、配列番号2のアミノ酸残基19〜39、または538〜549を含むTLR2上のエピトープに結合する、TLR2拮抗薬である、請求項50に記載の使用。
【請求項60】
前記薬剤は、TLR2タンパク質をコードする核酸の発現を阻害する、請求項50に記載の使用。
【請求項61】
前記薬剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重螺旋分子、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、shRNA分子からなる群より選択される、請求項60に記載の使用。
【請求項62】
前記薬剤は、Toll様受容体2の可溶性形態である、請求項50に記載の使用。
【請求項63】
Toll様受容体2の前記可溶性形態は、配列番号5に規定されるアミノ酸配列を含む、請求項62に記載の使用。
【請求項64】
腎疾患を処置するのに使用するためのToll様受容体2の機能または発現を調節する薬剤。
【請求項65】
前記腎疾患は、腎疾患、慢性腎不全、急性腎不全、異種腎毒性腎炎、糸球体腎炎、糸球体の硬化、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病性ネフロパシー、および糖尿病性ネフロパシーからなる群より選択される、請求項64に記載の薬剤。
【請求項66】
前記薬剤は、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質および低分子化合物からなる群より選択される、請求項64に記載の薬剤。
【請求項67】
前記薬剤は、ヒトTLR2に特異的に結合している抗体である、請求項64に記載の薬剤。
【請求項68】
前記抗体は、TLR2に特異的に結合しているヒト、ヒト化、キメラ、合成、ラクダ、サメまたは生体外の抗体、あるいはそれらのいずれか由来の結合断片からなる群より選択される、請求項67に記載の薬剤。
【請求項69】
前記抗体は、Fab、scFv、Fv、dAb、および断片からなる群より選択される抗体結合断片である、請求項67に記載の薬剤。
【請求項70】
前記抗体分子は、2つの完全な重鎖、および2つの完全な軽鎖、またはそれらの抗原結合断片を含む、請求項67に記載の薬剤。
【請求項71】
前記薬剤は、ヒトTLR2の細胞外ドメインによって規定されるエピトープに結合するTLR2拮抗薬である、請求項67に記載の薬剤。
【請求項72】
前記薬剤は、ヒトTLR2のアミノ酸配列のアミノ末端およびカルボキシル末端由来のアミノ酸残基を含む不連続エピトープに結合するTLR2拮抗薬である、請求項67に記載の薬剤。
【請求項73】
前記薬剤は、配列番号2のアミノ酸残基19〜39、または538〜549を含むTLR2上のエピトープに結合する、TLR2拮抗薬である、請求項67に記載の薬剤。
【請求項74】
前記薬剤は、TLR2タンパク質をコードする核酸の発現を阻害する、請求項64に記載の薬剤。
【請求項75】
前記薬剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重螺旋分子、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、iRNA、miRNA、siRNA、shRNA分子からなる群より選択される、請求項64に記載の薬剤。
【請求項76】
前記薬剤は、Toll様受容体2の可溶性形態である、請求項64に記載の薬剤。
【請求項77】
Toll様受容体2の前記可溶性形態は、配列番号5に規定されるアミノ酸配列を含む、請求項76に記載の薬剤。
【請求項78】
腎障害の間に生じるToll様受容体2によって媒介される炎症および関連する細胞、組織または臓器の損傷を抑制する化合物を同定するためのスクリーニング方法であって、前記方法は、
Toll様受容体2に対する結合特異性を有するリガンドと共に、膜結合Toll様受容体2受容体を提供する工程、
候補化合物をToll様受容体2と接触させる工程、
Toll様受容体2をToll様受容体2リガンドに曝露する工程、
Toll様受容体2に対する前記Toll様受容体2リガンドの結合を測定する工程、
を含み、前記Toll様受容体2リガンドによるToll様受容体2の結合の阻害は、前記候補化合物がToll様受容体2の活性化およびシグナル伝達の調節因子であることを示す、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図14A】
image rotate

【図14B】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18A】
image rotate

【図18B】
image rotate

【図18C】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公表番号】特表2010−532334(P2010−532334A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514011(P2010−514011)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058732
【国際公開番号】WO2009/004094
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510001962)オプソナ セラピューティクス リミテッド (5)
【Fターム(参考)】