説明

腎症治療食

【課題】 身体のタンパク質の崩壊を招かないようにアミノ酸のバランスが程よく調整されたタンパク質を含み、かつ、高カロリーに偏ることのない、タンパク質の摂取量が制限されている糖尿病性腎症患者に適した治療食を提供する。
【解決手段】 糖尿病性腎症を患っている患者のための治療食において、粉末状に粉砕された大豆たんぱくと、脱脂乳を濃縮後乾燥することによって得られる乳たんぱくとを、これらの合計量に基づいてそれぞれ40〜70重量%及び30〜60重量%の割合で含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満を合併した腎障害を治療するための食品、特に糖尿病性腎症又は顕性腎症を治療するのに適した腎症治療食に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糖尿病性腎症患者に対して施される食事療法では、腎機能の悪化を抑制するための低タンパク食が一般に採用されており、この低タンパク食による食事療法においては、1日当たりのタンパク質の摂取量は一般に0.8〜1.0g/体重kgと定められている。
【0003】
一方、このような食事療法は食事摂取量の制限とも認識されているところから摂取カロリーの不足ばかりでなく、ビタミンやミネラルなどの必須成分の欠乏という栄養障害を引き起こすことになり、特に肥満が合併症状となっている腎症患者に対する食事療法においては、カロリーの制限と十分な栄養成分の供給という互いに相反する要件が要求され、この両方の要件を同時に満たす栄養管理を実現することは従来極めて困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
腎症患者の食事療法では腎機能を保護するために、上記のように先ずタンパク質の摂取量が制限されるが、このようなタンパク質摂取量の制限は、身体を構成しているタンパク質の崩壊に繋がり、血中の窒素化合物が増え腎臓の負担が大きくなるという問題もあった。また、低栄養状態を招いてメタボリックシンドロームに代表される幾つかの症状を併発し易くさせる一方、摂取カロリーの不足を招かないように糖質や脂質を中心としてエネルギーを補うため、肥満を合併した糖尿病性腎症においては、減量を優先させるか、腎臓の負担を軽減させる方法としてのタンパク質制限を優先させるかといった問題を抱えていた。
【0005】
また、従来のタンパク質制限食が長期にわたって腎症患者に与えられると、尿毒症性の物質が体内に蓄積して細胞内で代謝異常が起こり、その結果血清アルブミン値が低下するという問題がある。一方、タンパク質が摂取されてその中に含まれる窒素が肝臓で変換されることによって生じた尿素は通常腎臓から排出されていくけれども、腎臓機能が低下している腎症患者が健常者と同様な制限されない量の比較的多量のタンパク質を摂取すると、上記のように体内で生じた尿素は腎臓から十分に排出されないでその一部は体内に蓄積され、この蓄積された尿素は腎症患者に尿毒症を引き起こす結果を招く。更に、腎症患者のアミノ酸代謝では一般に必須アミノ酸の代謝量が低下するとともに、非必須アミノ酸の代謝量が増加するという問題がある。
【0006】
また更に、タンパク質制限食で糖質と脂質の割合が増加した食事では、この食事に含まれるトリグリセリドの割合が増加するとともに、コレステロールのうちの超低密度リポタンパク質(VLDL)の割合が増加し、そして高密度リポタンパク質(HDL)の割合が低下するとともに水溶性ビタミン類の割合が低下する等の不都合があって、腎症患者に提供されてきたこれまでの食事療法には多くの解決すべき課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、糖尿病性腎症を患っている患者のための腎症治療食において、脱脂大豆から水抽出により得られた粉末状大豆たんぱくと、脱脂乳を濃縮後乾燥することによって得られる粉末状の乳たんぱくとを、これらの合計量に基づいてそれぞれ40〜70重量%及び30〜60重量%の割合で含有させると、これらの粉末状大豆たんぱくと乳たんぱくとに含まれるタンパク質によって、身体を構成しているタンパク質の崩壊を避けることができる程よいアミノ酸バランスが得られるとともに高カロリーに偏ることもない腎症治療食が得られ、このような治療食が糖尿病性腎症患者に与えられた場合には、前述のような望ましくない症状の発症が避けられること、を見い出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基づいて発明されたもので、糖尿病性腎症を患っている患者のための腎症治療食であって、脱脂大豆から水抽出により得られた粉末状大豆たんぱくと、脱脂乳を濃縮後乾燥することによって得られる粉末状の乳たんぱくとが、これらの合計量に基づいてそれぞれ40〜70重量%及び30〜60重量%の割合で含まれていることを特徴とする、前記腎症治療食、に係わるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タンパク質を構成しているアミノ酸のバランスが程よく調整されていることによって、身体を構成しているタンパク質の崩壊を招くことがなく、しかも高カロリーに偏ることもない、糖尿病性腎症患者にとって好都合な治療食が提供され、その結果、前述の不都合な症状の発症が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の腎症治療食のために用いられる脱脂大豆から水抽出により得られた粉末状大豆たんぱくは、例えば、生の大豆を温めフレーク状にしてから油分を抽出除去することによって脱脂し、ついで、この脱脂された大豆を含水アルコール処理あるいは酸沈殿処理し、乾燥、解砕することによって、製造される。
【0011】
上記の脱脂によって原料大豆中の油脂含有量は一般に15〜25重量%から0.5〜1.5重量%まで低下させられ、そして脱脂された粉末状大豆たんぱくは上記の粉砕によって一般に0.01〜0.8mmの範囲の粒度にまで粉砕される。
【0012】
このようにして製造された粉末状大豆たんぱく100g当たりには、一般に次のような成分が含まれている。
たんぱく質 80〜95g
脂質 0.5〜1.5g
炭水化物 1.0〜4.0g
灰分 3.0〜6.0g
ナトリウム 0.7〜1.2g
カリウム 0.4〜0.7g
カルシウム 0.2〜0.4g
マグネシウム 0.1〜0.3g

また、上記たんぱく質(100g)中に含まれるのアミノ酸の種類及び含有量(g)は下記のとおりであった。
リジン 6.1
スレオニン 3.7
バリン 4.6
メチオニン 1.3
イソロイシン 4.6
ロイシン 7.8
フェニルアラニン 5.1
トリプトファン 1.3
アスパラギン酸 11.7
セリン 5.0
グルタミン酸 19.7
プロリン 5.3
グリシン 4.1
アラニン 4.1
チロシン 3.7
シスチン 1.3
ヒスチジン 2.7
アルギニン 7.9
【0013】
前記の乳たんぱくの原料となる脱脂乳は、現在市販されている脱脂乳を製造する方法と同様な方法によって、すなわち、搾乳された生の牛乳を、例えば遠心分離機にかけ、分離した生クリーム取り除くことによって、製造される。
【0014】
このようにして製造された脱脂乳は、脱脂粉乳を製造する方法と同様な方法によって、すなわち真空濃縮することによって濃縮された後、例えば噴霧乾燥することによって乾燥され、それによって一般に0.0003〜0.03mmの範囲の粒度を持った粉末状の脱脂乳になる。
【0015】
このようにして得られた乳たんぱく100g当たりには一般に次のような成分が含まれている。
たんぱく質 80〜95g
脂質 1.0〜3.0g
炭水化物 2.0〜5.0g
また、上記たんぱく質(100g)中に含まれるのアミノ酸の種類及び含有量(g)は下記のとおりであった。
リジン 7.7
スレオニン 4.2
バリン 6.0
メチオニン 2.6
イソロイシン 5.0
ロイシン 9.3
フェニルアラニン 4.5
トリプトファン 1.2
アスパラギン酸 7.1
セリン 5.1
グルタミン酸 21.2
プロリン 9.7
グリシン 1.7
アラニン 3.1
チロシン 4.9
シスチン 0.8
ヒスチジン 2.6
アルギニン 3.3
【0016】
本発明による腎症治療食は、それぞれ上記のようにして製造され、そして上記のような組成を有する大豆たんぱくと乳たんぱくとを含み、かつ、これらの粉末を、この両者の合計量に基づいてそれぞれ40〜70重量%及び30〜60重量%の割合で含むことを特徴としている。
【0017】
本発明の治療食において、大豆たんぱくと乳たんぱくとの合計量に基づく大豆たんぱくの割合が40重量%未満になると、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸の和が29.5g/100g以下となり、特にアスパラギン酸では8.9g/100g以下になる。
食餌由来のこれらアミノ酸はそのほとんどが小腸粘膜で代謝されるため、腎臓への負担は少ない。つまり、腎臓への負担をかけない・代謝燃料として重要である。
一方、その割合が70重量%を超えると必須アミノ酸総量が36g/100g以下となることから、本発明では、大豆たんぱくの上記割合を40〜70重量%と定めた。
【0018】
本発明の治療食において、大豆たんぱくと乳たんぱくとの合計量に基づく乳たんぱくの割合が30重量%未満になると、必須アミノ酸総量が36g/100g以下となり、一方、その割合が60重量%を超えると、含硫アミノ酸の比率が高くなり、腎臓内の血流が増し、腎臓への負担が増加することから、本発明では、乳たんぱくの上記割合を30〜60重量%と定めた。
【0019】
本発明の治療食は、前記のような割合の大豆たんぱくと乳たんぱくとを互いに適宜の方法で、例えば、混合機により混ぜ合わせることによって製造され、このように製造された粉末状の治療食はまた、種々な薬剤、サプリメント、健康食品等の食品の製造又は成形において従来採用されてきた様々な手段によって顆粒状、塊状、ペースト状又はゲル状の状態に仕上げてもよい。
【0020】
上記のような配合割合で大豆たんぱくと乳たんぱくとを含む本発明の治療食は一般に、身体を構成させるタンパク質のアミノ酸を次のような割合でバランスよく含むとともに、従来の治療食に比べて、アミノ酸含有量に対する脂質及び炭水化物の含有量は比較的低く抑えられている。
【0021】
本発明の腎症治療食 熱量100kcal当たりに含まれる各成分の含有量
たんぱく質 11〜14g
脂質 1.0〜1.5g
炭水化物 10〜14g
ナトリウム 110〜140mg
【0022】
ちなみに厚生労働省食事療法用宅配食品栄養指針による腎臓病用として製造された従来の腎症治療食熱量100kcal当たりに含まれる各成分の含有量を例に上げると、次の通りである。
たんぱく質 2〜3.1g
脂質 2.5〜3.0g
炭水化物 15〜17g
ナトリウム 130〜150mg
【0023】
そのため、本発明によれば、前述のように、身体を構成しているタンパク質の崩壊を招くことがなく、しかも高カロリーに偏ることもない、腎症患者の治療に適した食事が提供される。
【0024】
このような本発明の治療にはまた、更に治療効果を高めるのに有利な種々の栄養成分、例えば、ビタミン、ミネラル及び食物繊維のうちのいずれか1種又は2種以上を添加してもよい。
【0025】
このように添加されるビタミンとしては、大豆たんぱく及び乳たんぱくに比較的乏しいビタミン、例えば、ビタミンB1 、ビタミンB2 、ビタミンB6 、ビタミンB12、パントテン酸、葉酸、ビタミンC及びナイアシンのような水溶性ビタミン、及びビタミンA、ビタミンE、ビタミンD及びビタミンKのような脂溶性ビタミンが挙げられる。
【0026】
また、ミネラルとしては、やはり大豆たんぱく及び粉たんぱくに比較的乏しいミネラル、例えば、マグネシウムとしての酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、鉄としてのクエン酸鉄、亜鉛としての亜鉛酵母、セレンとしてのセレン酵母、クロムとしてのクロム酵母、または根昆布やヒジキのような種々のミネラルに富む食材が挙げられる。
【0027】
食物繊維としては、大豆食物繊維、難消化性デキストリンのような難消化性の食物繊維、ペクチンのような水溶性の食物繊維を多く含むリンゴなど、不溶性及び水溶性の食物繊維が挙げられる。
【0028】
大豆たんぱくと乳たんぱくとが前記のような割合で配合されている前記のような治療食に対して上記のようなビタミン、ミネラル及び食物繊維が添加されている治療食の一例について、その100g当たりに含まれる各成分の含有量を示すと、次の通りである。
【0029】
タンパク質:28〜42g、脂質:3.5〜5.0g、糖質:25〜36g、食物繊維:6〜10g、ナトリウム:350〜550mg、ビタミンA:450〜680μg、ビタミンB1 :1.2〜3mg、ビタミンB2 :1.8〜3mg、ビタミンB6 :2〜3mg、ビタミンB12:3.5〜5μg、ビタミンC:80〜120mg、ビタミンD:4.5〜5.5μg、ビタミンE:15〜25mg、ビタミンK:9〜15μg、ナイアシン:10〜28mg、葉酸:500〜650μg、パントテン酸:5〜10mg、カルシウム:550〜700mg、鉄:10〜14mg、リン:400〜700mg、カリウム:600〜1100mg、ヨウ素:30〜50μg、セレン:15〜30μg、亜鉛:5.5〜8mg及びクロム:15〜25μg。
【実施例】
【0030】
ついで、実施例を参照して本発明を説明するが、本発明は勿論このような実施例に限定されない。
以下の実施例においては、下記のように製造された本発明治療食1を、肥満を合併した糖尿病性顕性腎症患者に与えて、その効果を試験した。この本発明治療食1の一食分(54g)は下記の表1に示されるような栄養成分を含み、かつ、その一食分のうちのタンパク質は下記の表2に示されるアミノ酸で構成されていた。
【0031】
生の大豆を温め、フレーク状にしてから油分を抽出除去する。この脱脂された脱脂大豆を含水アルコール処理あるいは酸沈殿処理し、乾燥、解砕することによって、粒度が0.01〜0.8mmである大豆たんぱくを製造した。
【0032】
一方、搾乳された牛乳を遠心分離機にかけ、分離した生クリームを取り除き、真空濃縮した後、噴霧乾燥することによって、粒度が0.0003〜0.03mmである乳たんぱくを製造した。
【0033】
このようにして製造された大豆たんぱくと乳たんぱくとを、混合機を用いて互いに均一に混ぜ合わせることによって粉末状の本発明治療食1を製造した。この本発明治療食1の標準の一食分(54g)はタンパク質を22g含み、そのタンパク質22gは大豆タンパク質12gと乳タンパク質10gとで構成されていた。
【0034】
上記の本発明治療食1の一食分(54g)は、水分以外に下記の表1に示されるような成分を含み、そしてその成分のうちのタンパク質22gは、表2に示されるようなアミノ酸で構成されていた。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
試験の対象として、BMI(肥満指数)=25kg/m2 以上で、糖尿病性腎症が第3期以上に進んでいる入院患者を選んだ。この糖尿病性腎症は、糖尿病の罹患歴、併存している合併症、及び他の腎疾患の否定等によって診断した。
第3期に入っているという診断は、尿中のアルブミン量が300mg/日以上になっていることを根拠にした。
【0038】
試験前の食事は熱量1200kcal/日及びタンパク質60g/日とし、そして上記の本発明治療食1を2食分(54g×2食)と普通食400kcal相当を1日の食事とし、熱量740kcal/日及びタンパク質64g/日になるように患者に与え、試験期間を4週間以上とした。熱量の低い食事に起因して起こる蛋白異化を抑制するため、タンパク質の摂取量を比較的高めに設定した。
【0039】
患者の体重、血圧、空腹時血糖(FBS)、血清クレアチニン(Cr)、血中尿素窒素(BUN)、血清アルブミン(Alb)、総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL−C)、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL−C)、尿蛋白1日量、クレアチニンクリアランス(CCr)、臍高部CTによる内臓脂肪面積を経時的に測定した。
【0040】
食事療法の開始時には十分にインフォームドコンセントを行なって、治療中に腎機能が低下したり、あるいは眼底が悪化した場合には、直ちに治療を中止することにして試験を実施した。
【0041】
実施例1:
糖尿病歴20年、入院歴2回、そしてインスリンの自己注射が3年前から導入されていた52歳の男性の患者を食事療法の対象として選んだ。この患者は体重の増加及び血糖値のコントロールが不良なため入院し、治療開始時には腎症のほか、増殖型網膜症、末梢神経障害、高脂血症及び高血圧が合併症状として認められていた。
【0042】
治療開始時には身長は175.1cmで、体重は94.6kgであり、そしてBMI=30.9kg/m2 、HbA1c:8.7%、BUN:31mg/dl、Cr:2.10mg/dl及び尿蛋白:7455mg/日であった。
【0043】
前記の試験前の熱量1200kcal/日及びタンパク質60g/日(熱量18kcal/kg/日及びタンパク質0.9g/kg/日)の食事を患者に1週間摂取させた後、本発明食2食と普通食400kcal相当を組み合わせて熱量740kcal/日及びタンパク質64g/日(熱量11kcal/kg/日及びタンパク質0.9g/kg/日)4週間摂取させた。
【0044】
この4週間の食事療法の間に血圧(BP:mmHg)、空腹時血糖(FBS:mg/dl)、グリコヘモグロビン(HbA1c:%)、総たんぱく/血清アルブミン(TP/Alb:g/dl)、血中尿素窒素/クレアチニン(BUN/Cr:mg/dl)、総コレステロール/中性脂肪(TC/TG:mg/dl)、高比重リポ蛋白コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール(HDL−C/LDL−C:mg/dl)、尿蛋白(mg/日)、クレアチニンクリアランス(CCr:ml/分)及び内臓脂肪面積(cm2 )を経時的に測定したところ、下記の表3のような結果が得られた。
また、この試験中の体重(kg)、クレアチニン(Cr:mg/dl)及び尿蛋白(mg/日)の経時的な変化をグラフに表すと、図1のようになった。
【0045】
【表3】

【0046】
4週間の食事療法が終了した後では、体重が94.6kgから84.7kgに(−9.9kg)に、クレアチニン(Cr)は2.10mg/dlから1.50mg/dlに(−0.60mg/dl)に、そして尿蛋白は7455mg/日から1760mg/日に(−5695mg/日)にそれぞれ低下し、網膜症の悪化は見られなかった。
【0047】
実施例2:
糖尿病歴15年で、インスリンの自己注射が13年前から導入されていた64歳の男性の患者を食事療法の対象として選んだ。この患者は顕著な主に内臓脂肪蓄積による腹部膨満感を訴えて入院し、この入院の前には糖尿病性腎症に加えて増殖型網膜症を合併しており、更に2年前には虚血性心疾患の治療のための冠動脈バイパス処置が施されていた。このような疾患や症状のほか、睡眠時無呼吸症候群、高血圧及び高脂血症も合併症状として認められていた。
【0048】
治療開始時には身長は160.0cmで、体重は76.0kgであり、そしてBMI=29.7kg/m2 、HbA1c:7.6%、BUN:54mg/dl、Cr:2.63mg/dl及び尿蛋白:2240mg/日であった。
【0049】
試験前の熱量1200kcal/日及びタンパク質60g/日(熱量21kcal/kg/日及びタンパク質1.1g/kg/日)の食事を患者に5日間摂取させた後、本発明食2食と普通食400kcal相当を組み合わせて熱量740kcal/日及びタンパク質64g/日(熱量13kcal/kg/日及びタンパク質1.2g/kg/日)の食事を4週間摂取させた。
【0050】
この4週間の食事療法の間に血圧(BP:mmHg)、空腹時血糖(FBS:mg/dl)、グリコヘモグロビン(HbA1c:%)、総たんぱく/血清アルブミン(TP/Alb:g/dl)、血中尿素窒素/クレアチニン(BUN/Cr:mg/dl)、総コレステロール/中性脂肪(TC/TG:mg/dl)、高比重リポ蛋白コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール(HDL−C/LDL−C:mg/dl)、尿蛋白(mg/日)、クレアチニンクリアランス(CCr:ml/分)、8−ハイドロキしデオキシグアノシン(8−OHdG:ng/mg/Cr)及び内臓脂肪面積(cm2 )を経時的に測定したところ、下記の表4のような結果が得られた。
また、この試験中の体重(kg)、クレアチニン(Cr:mg/dl)及び尿蛋白(mg/日)の経時的な変化をグラフに表すと、図2のようになった。
【0051】
【表4】

【0052】
4週間の食事療法が終了した後では、体重が76.0kgから69.0kgに(−7.0kg)に、クレアチニン(Cr)は2.63mg/dlから1.92mg/dlに(−0.71mg/dl)に、そして尿蛋白は2240mg/日から960mg/日に(−1280mg/日)にそれぞれ低下し、網膜症の悪化は見られなかった。
【0053】
以上の実施例によれば、肥満を伴う糖尿病性顕性腎症の2つの症例に対して本発明の治療食が短期間の間に体重の減少、血清クレアチニンの低下及び尿蛋白1日量の減少という優れた効果を発揮し、また、網膜症の悪化を招くこともないことが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、糖尿病性腎症、特に肥満が合併した糖尿病性顕性腎症に冒された患者に対して、体重の減少、血清クレアチニンの低下及び尿蛋白1日量の減少という効果を短期間のうちに発揮できる治療食が提供されるので、このような症状、疾患に罹った患者の治療に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1で得られた効果を示すグラフである
【図2】本発明の実施例2で得られた効果を示すグラフである

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病性腎症を患っている患者のための腎症治療食であって、粉末状に粉砕された大豆たんぱくと、脱脂乳を濃縮後乾燥することによって得られる粉末状の乳たんぱくとが、これらの合計量に基づいてそれぞれ40〜70重量%及び30〜60重量%の割合で含まれていることを特徴とする、前記腎症治療食。
【請求項2】
ビタミン、ミネラル及び食物繊維のうちのいずれか1種又は2種以上が添加されている請求項1記載の腎症治療食。
【請求項3】
粉末状、顆粒状、塊状、ペースト状又はゲル状に仕上げられた請求項1又は2に記載された腎症治療食。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−176901(P2007−176901A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380098(P2005−380098)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(501470393)株式会社ユーエスキュア (2)
【Fターム(参考)】