説明

腎臓由来の幹細胞集団、同定及び治療的使用

CD133及びCD24マーカーの表面共発現性を示す腎臓由来の新規の細胞集団について述べる。この細胞は、幹細胞能を有し、管形成、脂質生成、骨形成及び神経発生分化を行い得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞及びその使用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの成人臓器は、組織の一体性の保持及び修復工程に関連する多能性幹細胞を含有する。
【0003】
修復後の腎臓組織の再生を行い得る腎幹細胞の利用能は、種々のタイプの腎障害の予防及び治療の可能性に関連して非常に重要である。事実、急性及び慢性の腎疾患は、その易学的関連性及び透析や移植などの置換処置に関連する高いコストに起因して、公衆衛生の緊急性を示す。
【非特許文献1】Romagnani P.ら著、”CD14+CD34low cells with stem cell phenotypic and functional features are the major source of circulating endothelial progenitors”、Circ.Res.、2005年、97巻、p.314−322
【非特許文献2】Boquest ACら著、”Isolation and transcription profiling of purified uncultured human stromal stem cells: alteration of gene expression after in vitro cell culture”、Mol.Biol.Cell、2005年、16巻、p.1131−1141
【非特許文献3】Pittenger MFら著、”Multilineage potential of adult human mesenchymal stem cells”、Science、1999年、284巻、p.143−147
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、CD133及びCD24マーカーをその表面に共発現する腎幹細胞の利用を可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、多能性腎幹細胞を利用可能とすることにより、上記の問題の克服を可能とする。
【発明の効果】
【0006】
事実、CD133及びCD24のマーカー(CD24+CD133+)をその表面に共発現し得る腎細胞は、幹細胞能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
腎幹細胞の同定及び単離
抗CD24及び抗CD133モノクローナル抗体を用いた共焦点顕微鏡により、20の通常のヒト腎臓を検討した。腎臓胚前駆細胞の集団のマーカーであるCD24は、ボーマン嚢の体腔壁上皮細胞の細胞上及び尿細管上皮細胞の下位集団(subpopulation)に選択的に発現されることが見出された。種々のヒト組織に由来する幹細胞を選択的に同定する抗CD133モノクローナル抗体は、ボーマン嚢の細胞及びまれな管状構造の下位集団を同定した(図1)。
【0008】
CD24及びCD133の二重免疫蛍光により、この2つのマーカーが、糸球体の腎臓の極(pole)に多く位置し腎臓の極に近接した管の部分にしばしば伸びるボーマン嚢の細胞の下位集団を同定することが示された(図1)。また、上記と同じ細胞は、抗CD106モノクローナル抗体でも染色される。全体的に、これらの結果は、成人のヒト腎臓において、ボーマン嚢の上皮細胞及び管状細胞のまれな集団(rare population)のレベルに細胞集団が存在することを示唆しており、ここでは、図1に示すように、幹細胞の異なるマーカーが共発現しており、以下、その種々の画像について、詳述する。すなわち:
【0009】
a)成人ヒトの腎臓に由来するボーマン嚢の細胞において、CD24(赤)及びCD133(緑)の発現を示す二重免疫蛍光染色。この2つの染色パターンの重ね合わせにより、腎臓の極に局在する細胞の下位集団においてCD24及びCD133が共発現することが示される(UP、バーは、50μm)。To−pro−3の核対比染色(青)。
b)ボーマン嚢の細胞におけるCD24(赤)及びCD133(緑)の発現を示す、より高い倍率で検出した、二重蛍光染色。これらの2つの染色パターンの重ね合わせにより、細胞質及び糸球体(G)に対面する細胞膜上にCD24及びCD133がともに局在していることが示される一方、CD24のみが基底膜上に発現している(黄色、バーは、10μm)。To−pro−3の核対比染色(青)。
c)2つの異なる抗CD133モノクローナル抗体を用いたCD133の検出。抗体293C3(赤)及び抗体AC133(緑)は、ボーマン嚢の細胞の同じ下位集団を染色する。両染色パターンを示す重ね合わせた画像は、同じ細胞の共染色を示す(黄色、バーは、50μm)。To−pro−3の核対比染色(青)。
d)糸球体におけるCD24(赤)、CD133(緑)及びCD29(青)の検出。CD29の染色により、糸球体輸入細動脈(AA)の同定が可能となる。重ね合わせた画像が示すのは、CD24及びCD133が、血管の極の反対側上に局在した細胞の下位集団に選択的に共発現されたことである(黄色、バーは、50μm)。
e)嚢細胞におけるCD24(赤)、CD133(緑)及びCD106(青)の発現を示す、より高い倍率での三重免疫蛍光染色。重ね合わせた画像が示すのは、細胞質及び糸球体(G)に向かい合う細胞膜上でのCD24及びCD133の共局在であり、一方、CD24及びCD106(紫色)は、基底膜上に共発現されていた。CD24、CD133及びCD106の共発現の可視領域は、白で染色される(バーは、10μm)。
【0010】
CD24+CD133+細胞は、その後、形態的及び機能的特徴付けを検討するため、単離された。この目的のため、腎組織の皮質成分は、髄質成分から分離され、破砕される。糸球体は、異なる孔のシーブを用いた標準的な分離方法により単離された。ボーマン嚢のCD24+CD133+細胞の破壊を防ぐため、糸球体の懸濁液を消化しなかったが、20%FBSを添加したEGM−MVを有するプラスティック皿に直接培養した。培養糸球体に由来する細胞は、神経球(neurosphere)に類似する細胞集塊物を形成する能力について、検討され、その幹細胞の発現型について、図2の通り、共焦点顕微鏡及び細胞蛍光分析により、検討された。その種々の画像について、下記に詳述する。すなわち:
【0011】
a)左側の第一のパネルは、培養状態のカプセル化された糸球体に由来する増殖細胞を示す(×40)。レーザー共焦点顕微鏡で得た続く画像は、増殖集団がCD24を発現することを示す(緑)。To−pro−3の核対比染色(青)。重ね合わせた画像が示すのは、増殖細胞がかなりの量のCD24を発現することである(バーは、100μm)。
b)糸球体の増殖細胞に由来する集団において2つのマーカーが選択的に共局在することを示す、CD24(赤)及びCD133(緑)の発現を検出する二重免疫蛍光染色。To−pro−3の核対比染色(青)。重ね合わせた画像は、同じ細胞のCD24及びCD133の染色強度を示す。(黄色。バーは、100μm)。
c)ボーマン嚢の細胞の初代培養は、CD24、CD133、CD106、CD105及びCD44を発現する約100%の細胞を有する均一な集団を示す。代表的な培養のフローサイトメトリーによる分析についても示す。
d)CD24+CD133+のボーマン嚢の細胞に由来する初代培養は、第一の2つのパネルにおけるフローサイトメトリーで示すように、CD35やEMA−1などの腎臓の系統マーカーを発現しない。共焦点顕微鏡で示すように、同じ細胞は、THG(第三のパネル)及びLTA(第四のパネル)を発現しない(バーは、100μm)。
e)「リアルタイム定量的RT−PCR」による上皮細胞、尿細管細胞、メサンギウム細胞、有足細胞、平滑筋細胞CD24+CD133+細胞及びHEK細胞の培養におけるOct−4のmRNAのレベルの測定。結果は、5の異なるドナーに由来する初代培養で行った三重測定の平均±標準偏差で示す。
f)「リアルタイム定量的RT−PCR」による上皮細胞、尿細管細胞、メサンギウム細胞、有足細胞、平滑筋細胞CD24+CD133+細胞及びHEK細胞の培養におけるBml−1のmRNAのレベルの測定。結果は、5の異なるドナーに由来する初代培養で行った三重測定の平均±標準偏差で示す。
【0012】
単離細胞は、CD24及びCD133の両方を発現したが、種々の造血細胞(CD34、CD45)、上皮細胞(CD31、CD34)、有足細胞又は尿細管細胞(EMA−1、Lotus Tetragonolobus、Dolichos Biflorus、アルカリフォスファターゼ)のマーカーを発現しない(図2)。
【0013】
単離細胞の幹細胞特性をより良好に定義付けるため、幹細胞の自己修復能の保持及び細胞老化の防止に重要なその他の転写因子であるBml−1の発現とともに、典型的な胚幹細胞マーカーであるOct−4の発現を検討した。その結果、CD24+CD133+細胞の幹細胞特性を示した(図2)。また、これは、幹細胞の転写因子Oct−4及びBml−1を培養下で発現する腎臓由来細胞の集団についての最初の記述である。
【0014】
CD24+CD133+細胞もまた幹細胞の機能特性を示すかどうかを検討するため、この細胞を、培養下、CFDA−SEでラベル化し、20%FBSを添加したEGM−MV中で播種した。増殖に関するデータで示されたのは、CD133及びCD24のマーカーの組合せを発現しないその他の腎臓細胞と比較してこの細胞の増殖能がさらに高いことであった。
【0015】
事実、CD24−CD133−細胞(つまり、CD133及びCD24を発現しない細胞)を、結合組織を分解し、特に免疫磁気法(immunomagnetic method)などの免疫学的方法により分離して、酵素法(例えば、コラゲナーゼ)で消化した成人腎臓の皮質組織から調製した。その後、これらの細胞を、上記の培地に播種し、細胞が接着した後、細胞蛍光分析により評価した。CD24+CD133+細胞が、CD24−CD133−細胞と1:1の比率で同じ培養ディッシュに異なる培地で播種された場合、CD24+CD133+細胞とCD24−CD133−細胞との比率は、培養10日後に、約9:1に変化した(図3)。CD24+CD133+細胞培養が幹細胞の機能特徴を有するという事実をさらに検証するため、糸球体に由来する培養下のこの細胞を、剥離させ、フィブロネクチンでコートした「マルチウェル」プレートにおける限界希釈により、単一の細胞をクローン化した。免疫磁気分離法により、フィブロネクチンでコートした「マルチウェル」プレート中での限界希釈によりクローン化して得たCD24−CD133−細胞を、コントロールとして用いた:単一細胞を有するウェルのみ検討した。コロニー形成能は、糸球体培養から得たCD24+CD133+細胞で41.3±14%であり、CD24−CD133−細胞では、2.1±1.9%であった。なお、CD24−CD133−細胞に由来するまれなクローン(rare clone)は、CD24+CD133+細胞による若干の汚染に由来するものである。
【0016】
CD24+CD133+培養細胞が種々の細胞型に分化する能力を評価するため、異なるドナーに由来する個々のCD24+CD133+細胞クローンを、管形成分化、脂肪細胞分化、骨形成分化及び神経分化を惹起する条件下で培養した。
【0017】
管形成分化は、CD24+CD133+細胞クローンを、SingleQuates(ヒドロコルチゾン、hEGF、FBS、エピネフリン、インスリン、トリヨードチロニン、トランスフェリン及びゲンタマイシン/アンフォテリシンB)を含有し、50ng/mLのHGF(Peprotech、ロッキーヒル、NJ)を添加した市販のREBM培地中で30日間培養して行った。
【0018】
CD24+CD133+細胞クローンの骨形成分化、脂肪細胞分化及び神経分化は、上述の通り誘導した。骨形成誘導に関しては、10%のウマ血清を添加し、100nMのデキサメタゾン、50μMのアスコルビン酸及び2mMのβ−グリセロリン酸(全て、Sigma−Aldrich社製)を含有するα−MEM培地中で、PEC CD24+CD133+細胞を培養した。培地は、3週間に渡って、週2回交換した。脂肪細胞分化に関しては、10%の胎児ウシ血清(FBS)、1μMのデキサメタゾン、0.5μMの1−メチル−3−イソブチルキサンチン(IBMX)、10μg/mLのインスリン及び100μMのヨードメタシン(全て、Sigma−Aldrich社製)を含有するDMEM high glucose(hg)(Invitrogen、Carsbad、CA、USA)中でCD24+CD133+細胞をインキュベートした。72時間後、培地を、10μg/mLのインスリンを含有する、10%FBSを添加したDMEMhgに変更し、24時間培養した。これらの処理は、3回繰り返した。その後、細胞を、10%FBS及び10μg/mLのインスリンを有するDMEMhg中でさらに1週間保持した。神経分化に関しては、培地は、B27(Invitrogen)、10ng/mLのEGF(Peprotech)及び20ng/mLのbFGF(Peprotech)を含有する10%FBSを添加したDMEMhgに置き換えた。5日後、細胞を洗浄し、5μg/mLのインスリン、200μMのインドメタシン及び0.5mMのIBMXを添加し、FBSを有さないDMEM中で5時間インキュベートした。アリザリンレッド、オイルレッドO又はアルカリフォスファターゼの染色は、上記の通り行った(非特許文献1〜3参照)
【0019】
管形成分化は、アルカリフォスファターゼ、アミノペプチダーゼA(初期は近位尿細管の上皮細胞で発現したもの)、チアジド−感受性Na−Cl共輸送体(初期は遠位尿細管の上皮細胞で発現したもの)、EMA−1、Lotus Tetragonolobus、Dolichos Biflorus並びにアクアポリン1及び3などの完全に分化した腎臓の尿細管上皮細胞の特徴マーカーの取得を検討することに基づいて、示された。これらのマーカーは、共焦点顕微鏡、細胞蛍光分析及び定量的RT−PCRによるmRNAの同定により、検出された(図4)。
【0020】
結果を図4に示し、各画像の説明を以下に詳述する。
【0021】
a)管形成分化を惹起する培地中での培養前(0日)及び培養後(30日)におけるCD24+CD133+細胞のアルカリフォスファターゼ組織染色の代表的な顕微鏡写真。元の倍率:それぞれ、×65、×80及び×320。
b)管形成分化を惹起する培地中での培養前(0日)及び培養後(30日)における、共焦点顕微鏡で検討したLTA染色(緑)。To−pro−3ブルーの核対比染色(バーは、100μm)。
c)管形成分化を惹起する培地中での培養前(0日)及び培養後(30日)における、共焦点顕微鏡で検討したTHG発現(緑)。To−pro−3ブルーの核対比染色(バーは、100μm)。
d)異なる管状セグメントのマーカーを共発現する細胞、及び近位又は遠位尿細管マーカーを発現する細胞の、同じクローンにおける共存在を示す、LTA(緑)及びTHG(赤)の二重染色(バーは、100μm)。
e)管形成分化を惹起する培地中で30日培養した後の管マーカー(tubular marker)に関する、RT−PCRによる、分化前の同じ細胞で得た値と比較した、増加したmRNAレベルの測定。カラムは、50の異なるクローンの分化後に得た平均値±標準偏差を示す。
f)左:共焦点蛍光画像の代表的な顕微鏡写真。写真は、アンジオテンシンII(1μM)の添加前及び添加後の488nmの励起波長におけるものを記録した(バーは、20μm)。右:検討した各10の異なるクローンの5の個々の細胞において記録した蛍光強度の時間変化動態。
【0022】
脂肪細胞分化は、細胞の形態的特徴を取得し、且つオイルレッドOによる脂質胞の陽性染色により、示された。さらに、定量的RT−PCRで、アジポネクチンのmRNAレベルが急激に増加した(図5)。骨形成分化は、細胞クローンの、アルカリフォスファターゼの陽性のコロニーの形成能により評価した;分化中、これらのコロニーは、カルシウムリッチの細胞沈殿物を検出するアリザリンレッド染色で示されるように、ミネラル化された小節に変化した。骨形成は、Runx2のmRNA発現の分析により、さらに証明された。脂肪細胞形成及び骨形成分化で得た結果を図5に示し、各画像について、以下に詳述する。
【0023】
a)左:骨形成分化を惹起する培地中でのCD24+CD133+細胞のインキュベーション前(0日)及びインキュベーション後(21日)におけるアリザリン及びアルカリフォスファターゼの組織染色の代表的な顕微鏡写真(×100)。右:同じ培地中でのインキュベーション前(0日)及びインキュベーション後(21日)におけるRunx2のmRNAレベルの測定。カラムは、50の異なるクローンで得た平均値±標準偏差を示す。
b)左:骨形成分化を惹起する培地中でのCD24+CD133+細胞のインキュベーション前(0日)及びインキュベーション後(21日)におけるオイルレッドOの組織染色の代表的な顕微鏡写真(×200)。差し込み図:高い倍率(×320)で検討した若干の分化した細胞。右:同じ培地中でのインキュベーション前(0日)及びインキュベーション後(21日)におけるアジポネクチンのmRNAレベルの測定。カラムは、50の異なるクローンで得た平均値±標準偏差を示す。
【0024】
神経分化は、神経様の形態の取得、並びに、タウ蛋白、微小管結合タンパク質(MAP−2)、神経特異的エノラーゼ、ネスティン、コレステロールアセチルトランスフェラーゼ、β−チューブリンIII及びニューロフィラメント200の、mRNA及び蛋白レベルでの高い発現に基づいて示された。さらに、電気生理学的検討により、得た神経細胞が、図6に示すように、神経様特徴を有する、電位依存性カルシウム及びナトリウムチャネルの存在を示した。各画像について、以下に詳述する。
【0025】
a)共焦点顕微鏡で評価した、神経分化を惹起する培地中でのCD24+CD133+細胞のインキュベーション前における、神経マーカーであるNF200、NFM、ChAT及びMAP−2の不存在。To−pro−3の核対比染色(バーは、100μm)。代表的な実験を示す。
b)同じ培地中での細胞の分化後の、神経マーカーであるNF200、NFM、ChAT及びMAP−2の強発現。To−pro−3の核対比染色(バーは、100μm)。代表的な実験を示す。
c)代表的な実験のより高い倍率での図であって、神経分化を惹起する条件下で培養したCD24+CD133+細胞における典型的な神経形態の取得及びChAT染色(緑)(バーは、100μm)。
d)神経形成を惹起する条件下で細胞を培養した後の異なる神経マーカーのmRNAレベルの増加を「リアルタイム定量的RT−PCR」により測定したものであって、神経分化前の同じ細胞から得た値と比較した。カラムは、50の異なるクローンから得た平均値±標準偏差を示す。
e〜h)CD24+CD133+細胞に由来するニューロンにおけるCa2+及びNaの電流
【0026】
−90mVの電位及び1−sのインパルスで記録した代表的な電流は、10mVで増加させる−80〜50mVのスケールで適用した。データは、異なるサンプリング時間(最初の100m秒で50μ秒、残りの時間で1m秒)で取得し、L型Ca2+の電流ICaの速く且つ遅い現象並びに時間動態を検知した;明瞭性のため、−60mV、−40mV、−20mV、0mV、20mV、30mV及び40mVでのみ電流のトレースを行った。f:ICa−V曲線は、電流ピークで同定した(n=26)。g:Na電流INaの時間動態;−60mV、−40mV、−30mV、−20mV、−10mV、0mV、20mV及び30mVでのみ電流のトレースを行った;赤線は、TTX(1μM)の存在下で0mVにおいて誘導したINaを示す。h:INa−V曲線は、電流ピークで同定した(n=26)。f及びh:データ上で重ね合わせた連続線は、活性化関数(activation unction):I(V)=Gmax(V−Vrev)/{1+exp[(V−V)/k]}を示す。ここで、Gmaxは、最大コンダクタンスであり、Vrevは、ポテンシャルのみかけ反転(apparent inversion)であり、Vは、コンダクタンスの最大値の半分の増加を誘導する電位であり、kは、傾斜因子である。i:−90mVの電位で惹起されたINaの不活性化;前もったインパルス(−90mV)のないトレース及び−70mV、−60mV、−30mV、−40mV及び−30mVの前もったインパルスでのトレースを行った。j:INaで標準化した不活性化曲線、データに重ね合わせた連続線は、不活性化関数:I(V)=1/{1+exp[−(V−V)/k]}を示す。ここで、Vは、半分の最大電流を惹起する電位であり、kは、不活性化に関する傾斜因子である。比較のため、右に報告した曲線は、活性化に関連するものである。
【0027】
本発明によると、CD24+CD133+細胞は、コラゲナーゼで消化した腎臓組織の全体から免疫磁気分離による精製によっても単離され、CD24−CD133−細胞についても、同様に行われた。
【0028】
この場合、興味ある細胞は、CD133及びCD24又はその逆について、上述の通り得た細胞懸濁液の生成により得られた。このように、CD24+CD133+細胞の全てを実質的に得ることができる。この種々の方法により得た集団は、ボーマン嚢の細胞、並びにCD133及びCD24を発現するまれな腎臓尿細管に由来する細胞の混合集団からなる。全体的に、CD24+CD133+の細胞集団は、腎臓に存在する細胞の全体の約0.5〜9%に相当し、個々で変化する。上記の全ての実験は、上述した免疫磁気分離の種々の方法で得たCD24+CD133+集団で繰り返され、腎臓は、CD133及びCD24のマーカーの共発現で特徴付けられる、再生能及び増幅能を有する成人の幹細胞の集団を含有し、これは、ボーマン嚢の尿路の極(urinary pole)にほぼ由来し、腎臓の尿細管細胞に非常に部分的に由来することが確認された。
【0029】
さらに、本発明は、CD133+及びCD24+マーカーを発現可能で且つ管形成能、脂肪細胞形成能、骨形成能及び神経再生能を有する、腎臓の幹細胞を含有する、治療用途の組成物に関する。
【0030】
また、本発明は、腎臓の障害を修復するのに有用な組成物の調製への、上記の細胞の使用に関する。
【0031】
SCIDマウスにおける急性尿細管壊死のモデルは、本願出願人によって同定され成人ヒト腎臓から単離した幹細胞が障害を受けた腎臓組織を再生し得るかを検討するために使用された。このモデルは、筋融解及び溶血を引き起こす高張グリセロールの筋肉内注射を包含し、結果として、重篤な尿細管障害及び急性の腎不全をもたらす。尿細管障害は、注射後3日目でピークとなり、その後約10日で急速に退行する。誘導された障害の程度は、ヒアリンの管状円筒の形成、近胃尿細管からの刷子縁の消失、及び尿細管上皮細胞の扁平化を示す、尿細管上皮細胞の壊死の程度を示す、ヘマトキシリン/エオシン染色により評価された。
【0032】
3日目及び4日目において、8匹のマウスのグループに、1.5×10のCD24+CD133+細胞を尾静脈から接種する一方、他の8匹のマウスのグループに、生理食塩水を接種し、第三の8匹のマウスのグループに、1.5×10のCD24−CD133−細胞を、それぞれ、同じ手法で接種した。障害を受けた細管におけるCD24+CD133+幹細胞の統合は、蛍光色素PKH26(赤)でラベル化した細胞を用いて示され、同時に、LTA及び”Dolicholus Biflorus Agglutinin”を用いて近位及び遠位尿細管を同時にラベル化することにより示された。さらに、尿細管構造における幹細胞の集団の統合は、一般的な上皮細胞マーカーとしてヒト細胞及びサイトケラチンに特異的なHLA−I抗原を使用する免疫組織法により、確認された。最後に、メスのSCIDマウスに接種したヒト男子のドナーに由来する腎臓細胞を検知するのに、Y染色体用のFISH法を使用した。これら3つの方法の全ての結果により、注入されたSCIDマウスの腎臓尿細管において選択的にCD24+CD133+細胞の統合が示された。図7に示すように、生理食塩水を注射したマウス又はCD24−CD133−のヒト腎臓細胞を注射したマウスでは、統合は示されなかった。各画像について、以下に詳述する。
【0033】
a)ヘマトキシリン/エオシン(H&E、左)又はファロイジン(緑、右)で染色した正常なマウスの腎臓組織を示す伝統的な顕微鏡図(バーは、50μm)。
b)H&E染色(左)又はファロイジン染色(右)により示した、グリセロールの筋肉内注射後に観察された尿細管の壊死の障害であって、後者では、刷子縁の消失及び上皮細胞の扁平化を示す(緑、バーは、50μm)。
c)ヒトCD24−CD133−腎臓細胞を注射した急性腎不全のSCIDマウスの腎臓部分を示す代表的な顕微鏡写真;LTA染色では、共焦点顕微鏡により、赤に染色した細胞がないことを示している(バーは、20μm)。
d)共焦点顕微鏡で示した、PKH26−ラベル(赤)で処理し、LTA(緑)で染色したCD24+CD133+細胞を注射した急性腎不全のマウスの腎臓部分を示す代表的な顕微鏡写真。小型の矢印は、多くの赤い細胞の存在を示し、大型の矢印は、近位尿細管を示す(バーは、20μm)。
e)d)における腎臓部分のより高い倍率の写真であって、近位尿細管構造の再生を示す(バーは、20μm)。
f)PKH26−ラベル(赤)で処理し2つの尿細管構造の基底表面上でDBA染色した(緑)、PEC CD24+CD133+細胞を注入した急性腎不全のSCIDマウスから得た他の腎臓部分のより高い倍率の写真であって、コレクター尿細管構造(collector tubular structure)の再生を示す(矢印)。PKH26で染色されるがコレクターダクト(collector duct)マーカーであるDBAでは染色されないその他の尿細管構造が見出される(バーは、20μm)。
g)グリセロールで誘導した急性腎不全(ARF)のSCIDマウスの腎臓における、サイトケラチン(青)及びヒトクラスIのHLA抗原(赤)の二重免疫組織染色。左パネル:CD24−CD133−細胞を注射したマウスに由来の腎臓部分の尿細管における赤のシグナルの欠如;中央及び右パネル:PEC CD24+CD133+細胞を注入した後グリセロールで誘導した急性腎不全(ARF)のSCIDマウスに由来する、サイトケラチンを発現する尿細管(青)におけるヒトクラスIのHLA抗原(赤、矢印)の陽性染色細胞。
h)FISH法によるY染色体の検出であって、生理食塩水で染色したコントロールマウス(左パネル)、及びヒト男子腎臓から得たCD24+CD133+細胞を注射したメスマウスの腎臓(赤、中央及び右パネル)(バーは、20μm)。
【0034】
腎臓におけるこの集団の同定、及びその修復能の提示は、腎臓病態の治療に関して、再生医療の領域で非常に含蓄がある。
【0035】
最後に、CD24+CD133+の多能性の腎臓幹細胞集団のin vivoでの修復能及び腎機能の続く回復について、2つの異なる実験的手法により、評価した。事実、CD24+CD133+細胞で処理したマウス及び生理食塩水を注入したマウスの両方で、グリセロール注射後の種々の時間において、高窒素血症を測定した。生理食塩水を注射したマウスと比較すると、CD24+CD133+細胞で処理したマウスでは、グリセロール注射後14日目で、腎障害を誘導する前の同じマウスで測定した値に対してほぼ完全に有意に低い高窒素血症の値が得られた。さらに、グリセロール注射後14日目の同じマウスにおいて”α−SMA”染色により、線維化領域の存在を評価した。CD24+CD133+細胞を注射したマウスの群では、図8に示すように、生理食塩水を注射したマウス群と比較して、有意に線維化領域の程度が低いことを示した。各図について、以下に詳述する。
【0036】
a)生理食塩水(赤線)又はCD24+CD133+細胞(黒線)を受けたグリセロールで処理されたマウスにおいて、種々の間隔で血中窒素レベル(BUN)を測定した。カラムは、平均値±標準偏差を示す。各点、n=8;全80匹のマウス。同じ時間におけるグリセロール+生理食塩水に対して、*p<0.01、**p<0.001。
b)健常マウス(白)、生理食塩水で処理したマウス(うすい灰色)及びCD24+CD133+細胞で処理したマウス(暗い灰色)の14日における血中窒素レベル(BUN)の比較。
c)α−SMA(緑)の存在用で染色された、生理食塩水で処理したマウスに由来する腎臓の代表的な顕微鏡写真。核は、To−pro−3で染色した(バーは、100μm)。
d)α−SMA(緑)の存在用で染色された、CD24+CD133+細胞で処理したマウスに由来する腎臓の代表的な顕微鏡写真。核は、To−pro−3で染色した(バーは、100μm)。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】幹細胞マーカーであるCD133及びCD24の共発現を示し、且つヒト成人腎臓のボーマン嚢における細胞の下位集団を同定する。
【図2】CD24+CD133+細胞の単離及び特徴付けに関連する。
【図3】CD24−CD133−細胞と比較した、CD24+CD133+細胞の増殖能を示す。
【図4】ボーマン嚢に由来するCD24+CD133+細胞から得たクローンの尿細管上皮細胞への分化を示す。
【図5】ボーマン嚢に由来するCD24+CD133+細胞から得たクローンの骨芽細胞及び脂肪細胞への分化を示す。
【図6】ボーマン嚢に由来するCD24+CD133+細胞から得たクローンによる、神経表現型及び機能特性の取得を示す。
【図7】急性腎不全(ARF)に罹患したSCIDマウスの腎臓に移植したヒト腎臓由来のCD24+CD133+細胞、及び異なるタイプの管状細胞の発生を示す。
【図8】CD24+CD133+細胞が、グリセロールで処理したマウスを、腎臓の構造及び機能の悪化から防ぐことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD133及びCD24マーカーを共発現することを特徴とする腎幹細胞。
【請求項2】
前記マーカーは、CD133+及びCD24+であることを特徴とする請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
ボーマン嚢由来であることを特徴とする請求項1又は2に記載の腎臓細胞。
【請求項4】
ボーマン嚢の尿道の極に由来することを特徴とする請求項1又は2に記載の腎臓細胞。
【請求項5】
ボーマン嚢にごく近接した尿細管の部分に由来することを特徴とする請求項1又は2に記載の腎臓細胞。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の腎幹細胞を有することを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の腎臓細胞の単離方法であって、
異なる透過性を有するシーブを用いる標準的な分離方法により腎臓の糸球体を単離し;
得た糸球体の懸濁液を、20%FBSを添加したEGM−MVを含有するプラスティックディッシュで直接培養し、
培養下の糸球体に由来しCD133及びCD24マーカーを発現する細胞を単離することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の腎臓細胞の単離方法であって、コラゲナーゼで消化した全腎臓組織からの、CD133及びCD24を用いた免疫磁気分離によることを特徴とする方法。
【請求項9】
腎臓の障害を修復するための組成物の調製への、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の幹細胞集団の使用。
【請求項10】
前記細胞は、管再生能を与えることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞は、脂肪細胞再生能を与えることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞は、骨再生能を与えることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞は、神経再生能を与えることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−535024(P2009−535024A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507084(P2009−507084)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054132
【国際公開番号】WO2007/125088
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(508322222)アヅィエンダ オスペダリエロ−ユニヴァーシタリア カレッジ (1)
【Fターム(参考)】