説明

腫瘍の治療における、TGF−β、VEGF、インターロイキン−10、C−JUN、C−FOSまたはプロスタグランジンE2遺伝子にアンチセンスなオリゴヌクレオチドの低適用量の使用

【課題】癌、転移、神経系の疾患又は免疫抑制の治療のための医薬製剤の提供。
【解決手段】哺乳類においてTGF−β2、TGF−β1、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fos及び/又はプロスタグランジンE2によって調節される疾患の予防及び/又は治療のために、詳しくは、癌、転移、神経系の疾患又は免疫抑制の治療のための医薬製剤を製造するために、約8から約30ヌクレオチドビルディングブロックの長さを有する、少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを使用し、前記オリゴヌクレオチドがTGF−β2、TGF−β1、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fos及び/又はプロスタグランジンE2遺伝子のメッセンジャーRNAとハイブリッド形成し、前記製剤が約1μMから約25μMの濃度の前記オリゴヌクレオチドを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fosおよび/またはプロスタグランジンE2遺伝子によって調節される疾患の予防および/または治療のための薬学的組成物の調製を対象とする。
【背景技術】
【0002】
序論
薬学的物質の全体的な特徴は、投与される量の増加に付随して起こるこの増大する有効性である。腫瘍治療に用いられる個々の物質は、投与される全量と腫瘍増殖の阻害の間に強力な相関関係を示す。
【0003】
さらに、細胞取り込みは、オリゴヌクレオチドの「インビボ」投与の有効性の制限要因であり、従来は、それぞれのタンパク質の生成を阻害するために高濃度および多量のオリゴヌクレオチドが投与されている。
【0004】
そうではあるものの、腫瘍転移、神経の疾患および免疫抑制を患っている哺乳類に投与できるこれらの物質の濃度および総量の増大は、重篤な副作用および毒性の激しい増大と相関しているので、これらの物質の臨床での成功は制限されている。
【0005】
現在までに、癌、転移、神経系の疾患および免疫抑制の治療のための、腫瘍治療においてうまくいくオリゴヌクレオチド量のエビデンスを示す臨床試験結果はない。
【0006】
EP1008649およびEP0695354は、TGF−β1および/またはTGF−β2のmRNAとハイブリッド形成するオリゴヌクレオチドを薬学的組成物の製造に使用できることを教示する。EP1089764は、TGF−β、VEGF、インターロイキン10およびプロスタグランジンE2のmRNAとハイブリッド形成するオリゴヌクレオチドおよびこれらのそれぞれの受容体と組み合わせて、免疫系に負に作用する物質の阻害剤を、同様に、薬学的組成物を製造するために使用できることをさらに教示する。しかし、これらの特許では、オリゴヌクレオチドを投与できる濃度が広い範囲で提示されている。
【0007】
哺乳類における毒物学的研究の結果から、多量のオリゴヌクレオチドを、それぞれの標的の生成を阻害するために、毒物学的副作用を伴わずに投与することが可能であることが示された(実施例1、2、3およびSchlingensiepen,R.et al,2005参照のこと)。その結果、癌、転移、神経系の疾患および免疫抑制の治療に関与する標的を阻害するためには、高濃度および多量のオリゴヌクレオチドを投与することが明白となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許第1008649号
【特許文献2】欧州特許第0695354号
【特許文献3】欧州特許第1089764号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Schlingensiepen,R.et al,2005
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、臨床試験の間に、低濃度の、および/または少ない一日量で投与される、少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含有する薬学的組成物が腫瘍増殖を、高濃度および/または多い一日量よりも速く阻害し、および、疾患進行の症状が少ないことを認識した。さらに、これらの濃度または一日量は、毒性学的研究において試験した、重篤な副作用を伴わない最大濃度よりも10から50倍少なかった(図4も参照のこと)。
【0011】
本発明の医薬製剤を製造するために用いられるこの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドは、約1μMから約25μMの濃度および約8から約30ヌクレオチドビルディングブロックの長さを有し、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fosおよび/またはプロスタグランジンE2によって調節される疾患の予防および/または治療のために投与され、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fosおよび/またはプロスタグランジンE2遺伝子のメッセンジャーRNAとハイブリッド形成する。
【0012】
本発明のさらなる態様は、約0.1μL/分から約2mL/分の流速での組織、体腔または腫瘍への注入による、またはボーラス注射による前記医薬製剤の投与である。
【0013】
本発明のさらにもう1つの態様は、それぞれ、腫瘍、組織または関節腔もしくは心室の空間からなる群から選択される体腔に投与される場合は、約0.005μmolから約0.06mmolの量での、大きな体腔、例えば、腹膜内空間または胸腔に投与される場合は約0.005μmolから約0.05mmolの量での、約0.15nmolから約3μmolの量での組織、腫瘍、体腔への少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの適用である。
【0014】
本発明に記載される改変の実施形態のさらなる利点として、有効性の増強、核酸標的に対する親和性の増強、細胞取り込みの増強、安全性の増強、副作用の低減およびヌクレアーゼの存在下での安定性の増大がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】4μL/分の流速でのコンベクション・エンハンスド・デリバリー(convection enhanced delivery)CEDによって腫瘍内に投与される、配列表において配列番号5で同定される、TGF−β2のmRNAとハイブリッド形成されるオリゴヌクレオチドの10μMおよび80μM溶液(0.9%塩化ナトリウム)で治療した後の疾患進行による症状を有する、未分化星状細胞腫患者の数を示す。図1からわかるように、前記オリゴヌクレオチドの10μM溶液で治療した後の、腫瘍進行による症状を有する未分化星状細胞腫患者の数、ならびに、これらの作用のグレードおよび重篤度は、前記オリゴヌクレオチドの80μM溶液を注入された患者と比較して低減した。実施例3においてより詳細を参照のこと。グレードはNCI CTC Toxicity Scaleバージョン2.0にしたがって定義した。SAE(=重篤有害事象)は、例えば、生命に関わる作用をもたらす、患者の入院または現行の入院の延長を必要とするような用量の結果としてのいずれかの有害な医学的発生として定義した。
【図2−1】コンベクション・エンハンスド・デリバリー(convection enhanced delivery)によって腫瘍内に投与される、配列表において配列番号5で同定される、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの10μM(図2A、2B、2C)および80μM(図2D)溶液(0.9%塩化ナトリウム、DAB7)で治療された4人の未分化星状細胞腫患者における数ヶ月にわたる腫瘍サイズの減少を示す。より詳細については実施例10参照のこと。3人の患者を10μM溶液(図2A、2B、2C)で治療し、約2から5ヶ月の期間にわたって腫瘍サイズの減少が約30%から約66%の範囲で観察されたが、80μMで治療された患者は腫瘍増殖の増大を示した(図2D)。より詳細については実施例10参照のこと。
【図2−2】コンベクション・エンハンスド・デリバリー(convection enhanced delivery)によって腫瘍内に投与される、配列表において配列番号5で同定される、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの10μM(図2A、2B、2C)および80μM(図2D)溶液(0.9%塩化ナトリウム、DAB7)で治療された4人の未分化星状細胞腫患者における数ヶ月にわたる腫瘍サイズの減少を示す。より詳細については実施例10参照のこと。3人の患者を10μM溶液(図2A、2B、2C)で治療し、約2から5ヶ月の期間にわたって腫瘍サイズの減少が約30%から約66%の範囲で観察されたが、80μMで治療された患者は腫瘍増殖の増大を示した(図2D)。より詳細については実施例10参照のこと。
【図3−1】TGF−β1(配列番号1から4)、TGF−β2(配列番号5から8)、TGF−β3(配列番号9から38)、プロスタグランジンE2(配列番号39から49)、VEGF(配列番号50から56)、インターロイキン10(配列番号57から76)、c−jun(配列番号78から83)およびc−fos(配列番号85から93)などの標的のmRNAとハイブリッド形成できる、好ましいオリゴヌクレオチドを表す。
【図3−2】TGF−β1(配列番号1から4)、TGF−β2(配列番号5から8)、TGF−β3(配列番号9から38)、プロスタグランジンE2(配列番号39から49)、VEGF(配列番号50から56)、インターロイキン10(配列番号57から76)、c−jun(配列番号78から83)およびc−fos(配列番号85から93)などの標的のmRNAとハイブリッド形成できる、好ましいオリゴヌクレオチドを表す。
【図4】濃度と相関しているオリゴヌクレオチドの有効性および毒性を質的に表す。縦軸は毒性および有効性を質的に示し、横軸はオリゴヌクレオチドの濃度を示す。図からわかるように、有効性のピークには、毒性作用を示す濃度よりもかなり低い濃度で達する。
【図5】配列番号5で同定されるオリゴヌクレオチドの5μM、10μMおよび80μMで7日間にわたって処理されたA−172細胞によるTGF−β2分泌の阻害を表す図であり、未処理対照(バー1)のパーセンテージで示される。A−172細胞を3種の異なる濃度のこのオリゴヌクレオチドとともにインキュベートすることで、61.1%(5μM、バー2)、68.1%(10μM、バー3)および56.2%(80μM、バー4)の阻害の中央値が得られた。結論的に、配列番号5によって同定されるオリゴヌクレオチドの10μMが、このオリゴヌクレオチドの5および80μMと比較してTGF−β2発現の最良の阻害剤であることがわかった。分泌されたTGF−β2はELISAによって定量した。結果は4つの独立した実験から得られている。より詳細については、実施例12参照のこと。
【図6】3種の治療群についての時間に対する生存している患者の割合を示す。1グループでは、配列番号5を10μM(直線)および80μM(破線)の濃度で投与した。他方、対照グループの患者(点線)には標準化学療法を与えた。より詳細については、実施例11参照のこと。評価時にまだ生存している患者は、それぞれの評価までの生存時間を有する「評価点(censored)」値として示される(曲線中の点)。この種の提示は、「カプラン・マイヤー生存曲線」として知られている。データは10μMの配列番号5で治療された患者は、80μMで治療された患者および対照グループの患者よりもかなり良好な生存の可能性を有することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に関連して、“約”とされる表現は、本文中に示される絶対値からの、それぞれの値の0から100%の、より好ましくは、1から80%の、いっそうより好ましくは、2から60%の、より好ましくは、3から40%の、より好ましくは、4から20%、いっそうより好ましくは、5から10%の逸脱を含む。
【0017】
本発明に関連して、有害事象とは、それぞれの医薬製剤の治療とは因果関係を有さない、医薬製剤を投与した後の患者または臨床試験被験体における何らかの有害な医学的発生として理解される。したがって、有害事象とは、例えば、疾患進行による、何らかの都合の悪い、意図しない徴候(例えば、異常な実験結果)、症状または疾患であり得る。有害事象の別の表現は症状である。
【0018】
本発明の脳の腫瘍と同じ意味で用いられる脳腫瘍は、転移、脳のその他の部分に由来するか、身体の何らかのその他の腫瘍に由来する転移および脊髄の転移を含む脳のいずれかの腫瘍である。脳腫瘍は原発脳腫瘍、星状細胞腫、例えば、膠芽腫および乏突起星細胞腫、乏突起膠腫および膠肉腫をさらに含む。
【0019】
本発明に関連して腔とは、例えば、結腸、十二指腸、回腸、空腸、関節腔、胸腔、腹膜内空間、食道の管腔、喉頭、上顎洞、鼻腔、咽頭、直腸、胃、腸管、尿管、膀胱および心室の空間を意味する。
【0020】
本発明では、表現疾患は、新生物、転移、ニューロン損傷および免疫抑制を含む。
【0021】
本発明に関連して、ハイブリッド形成することとは、2種のヌクレオチド鎖が、水素結合によって少なくとも部分的に二本鎖を形成することを意味する。二本鎖は2種のヌクレオチド鎖が正確なアンチセンス配列を有する場合には完全に生じる。しかし、ヌクレオチドビルディングブロックとも呼ばれる、オリゴヌクレオチドのいずれかのヌクレオチドが別のヌクレオチドで置換されている場合であっても、それぞれのヌクレオチドが修飾されている場合であっても、またはそれぞれのオリゴヌクレオチドの代わりにスペーサーがある場合でさえ、オリゴヌクレオチドは、依然として標的分子、通常は、タンパク質のmRNAとハイブリッド形成でき、これによって前記タンパク質の生成が阻害される。
【0022】
本発明に関連して、転移とは、少なくとも1個の細胞が腫瘍組織から分離または解離し、例えば、リンパ系、血管および/または周囲組織を浸潤することを介して、哺乳類、好ましくは、ヒトの身体の別の部分へ移動し、そこに定着し、新規腫瘍組織を形成することを意味する。
【0023】
用語本発明のオリゴヌクレオチドとは、医薬的に許容される塩、エステルまたは哺乳類に投与すると、生物学的に活性な代謝物またはこの残渣を提供できるその他の化合物をいずれも包含する。これは、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGFおよびインターロイキン−10および/またはプロスタグランジンE2をコードする1種以上の核酸と化合物の特異的ハイブリダイゼーションによって達成される。
【0024】
用語核酸およびオリゴヌクレオチドは、本発明に関連して同じ意味で用いられる。
【0025】
いくつかの実施形態では、核酸はアンチセンス核酸ではなく、これらは細胞内で相補的ゲノムDNAまたはRNA種と部分的または完全に結合し、これによって前記ゲノムDNAまたはRNA種の機能を阻害することによって機能するわけではないことを意味する。
【0026】
一実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドはまた、参照により本明細書に組み込まれる、特許EP0695354およびEP1008649に記載されるオリゴヌクレオチドならびにWO01/68146、WO98/33904、WO99/63975およびWO99/63975の番号で公開される国際特許出願のものを含む。
【0027】
好ましい一実施形態では、TGF−βとハイブリッド形成するオリゴヌクレオチドは、配列番号1から93として示される少なくとも1種の配列を含む。
【0028】
オリゴヌクレオチドまたは核酸は、同様の機能を有する天然に存在しない部分を有するオリゴヌクレオチドを含む。天然に存在するヌクレオチドならびに天然に存在しないヌクレオチド、修飾およびスペーサーもヌクレオチドビルディングブロックと呼ばれる。最も一般的なヌクレオチドビルディングブロックはヌクレオチドである。修飾されたか、置換されたヌクレオチドならびにスペーサーも発現ヌクレオチドビルディングブロックに含まれる。
【0029】
これらの修飾された、または置換されたオリゴヌクレオチドは、所望の特性、例えば、細胞取り込みの増強、核酸標的(例えば、タンパク質)に対する親和性の増強、細胞内局在性の変更およびヌクレアーゼの存在下での安定性の増大のために天然型を上回って好ましいことが多い。本明細書において、オリゴヌクレオチドの修飾は、糖、塩基部分および/またはヌクレオチド内結合のいずれかの化学修飾を含む。
【0030】
一実施形態では、修飾されたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド中のヌクレオチドのリボース基の環構造が、N−H、N−R(Rはアルキル、より好ましくは1から20個の炭素を有するアルキルであり、極めて好ましくは、アルキルはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルであるか、またはRはアリール置換基である)、Sおよび/またはメチレンで置換された環構造中に酸素を有する。
【0031】
本発明に関連して、医薬製剤は、医薬的に許容される担体内に本発明のオリゴヌクレオチドを含む。
【0032】
一実施形態では、共有結合によって修飾された塩基および/または糖を有する核酸またはオリゴヌクレオチドとしては、例えば、3’および/または2’位でヒドロキシル基以外の低分子量有機基と、または5’位でリン酸基と共有結合している骨格糖を有する核酸が挙げられる。このように修飾された核酸は、少なくとも1個の2’−O−置換リボース基をさらに含み得る。本発明の目的には、用語「2’−置換された」とは、リボース分子の2’−OHの置換を意味する。OはN、Sで置換されていてもよく、置換基は1から20個の炭素を有するアルキル、例えば、O−アルキル、S−アルキル、NH−アルキル、N−ジアルキル、O−アリール、S−アリール、NH−アリール、O−アラルキル、S−アラルキル、NH−アラルキ(aralky)をさらに含み得る。2’−O−アルキル基の好ましい実施形態としては、メトキシ−、エトキシ−、プロピルオキシ−、イソプロピルオキシ−、メトキシ−エトキシがある。また、ヌクレオチドビルディングブロックのさらなる修飾は、参照により本明細書に組み込まれる特許US6,143,881、US5,591,721、US5,652,355、US5,962,425、US5,969,116およびUS5,914,396によって示されている。もう1つの好ましい実施形態は、2’−炭素と結合しているアルキル基を含む少なくとも1種のデオキシリボースを含むヌクレオチドビルディングブロックである。このアルキルは約1から約30個の炭素、1から約20個の炭素、1から約10個の炭素または1から約5個の炭素を有し得る。好ましいアルキル基としては、エチル−、プロピル−、イソプロピル−、ブチル基があり、高度に好ましくはメチル基がある。
【0033】
さらにもう1つの実施形態では、修飾された核酸は、リボースの代わりに糖、例えば、アラビノースを含む。したがって、核酸は骨格構造において不均一であり得、このため、結合しているポリマー単位、例えば、ペプチド−核酸(核酸塩基と結合しているアミノ酸骨格を有する)のいずれかの可能性のある組み合わせを含む。核酸が骨格構造において均一である実施形態もある。
【0034】
核酸の置換プリンおよびピリミジンは、標準プリンおよびピリミジン、例えば、シトシン、ならびに、塩基類似体、例えば、置換塩基を含む(Wagner et al.1993)。プリンおよびピリミジンとしては、これだけには限らないが、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、イノシン、5−メチルシトシン、2−アミノプリン、2−アミノ−6−クロロプリン、2,6−ジアミノプリン、ヒポキサンチンおよびその他の天然に存在する核酸塩基および天然に存在しない核酸塩基、置換および非置換芳香族部分が挙げられる。
【0035】
各オリゴヌクレオチド中の単一のヌクレオチドは、同一の修飾を含む場合もあるし、これらの修飾の組み合わせを含む場合もあるし、これらの修飾とホスホジエステル結合を組み合わせる場合もある。オリゴヌクレオチドをヌクレアーゼ耐性にする方法としては、これだけには限らないが、プリンまたはピリミジン塩基を共有結合によって修飾することが挙げられる。例えば、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが実質的に酸およびヌクレアーゼ耐性にされるように塩基をメチル化、ヒドロキシメチル化もしくは置換(例えば、グリコシル化)してもよい。
【0036】
好ましい実施形態では、オリゴヌクレオチドの少なくとも一方の末端は、ビオチン、ビオチン類似体、アビジンまたはアビジン類似体である。これらの分子は、保護されたオリゴヌクレオチドの分解を阻止する能力を有し、修飾された核酸と固体支持体との高親和性接着のための手段を提供する。本発明の試薬を調製するために使用できる、アビジンおよびビオチン誘導体としては、ストレプトアビジン、サクシニル化アビジン、単量体アビジン、ビオサイチン(ビオチン−ε−N−リシン)、ビオサイチンヒドラジド、2−イミノビオチンのアミンまたはスルフヒドリル誘導体およびビオチニル−ε−アミノカプロン酸ヒドラジドが挙げられる。さらなるビオチン誘導体、例えば、ビオチン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、ビオチニル−ε−アミノカプロン酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホスクシンイミジル6−(ビオチンアミド)ヘキサノエート、N−ヒドロキシスクシンイミドイミノビオチン、ビオチンブロモアセチルヒドラジド、p−ジアゾベンゾイルビオサイチンおよび3−(N−マレイミドプロピオニル)−ビオサイチンも、本発明オリゴヌクレオチドで末端保護基として使用できる。
【0037】
さらにもう1つの実施形態では、塩基単位が、適当な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。1つのこのようなオリゴマー化合物、優れたハイブリダイゼーション特性を有することがわかっているオリゴヌクレオチドミメティックは、ペプチド核酸(PNA)と呼ばれる。PNA化合物では、オリゴヌクレオチドの糖骨格がアミド含有骨格、詳しくは、アミノエチルグリシン骨格で置換されている。核酸塩基は、骨格のアミド部分のアザ窒素原子と直接または間接的に結合している。PNA化合物の調製を教示する代表的な米国特許としては、これだけには限らないが、米国特許第5,539,082号、同5,714,331号および同5,719,262号があり、これらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。PNA化合物のさらなる教示は、Nielsen et al.1991に見出すことができる。
【0038】
さらなる骨格修飾オリゴヌクレオチドとしては、例えば、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロトリエステル、アミノアルキル−ホスホロトリエステル、メチル−およびその他のアルキ(alky)−ホスホネート、例えば、3’−アルキレンホホネート(phophonate)およびキラルホスホネート、ホスフィネート、ホスホルアミデート、例えば、3’−アミノホスホルアミデートおよびアミノアルキルホスホルアミデート、チオノ−ホスホル−アミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステルおよび正常な3’−5’結合を有するボラノホスフェート、これらの2’−5’結合型類似体およびヌクレオシド単位の隣接する対が3’−5’対5’−3’または2’−5’対5’−2’結合している逆転した極性を有するものが挙げられる。種々の塩、混合塩および遊離酸の形も含まれる。好ましい一実施形態は核酸のナトリウム塩である。
【0039】
いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドの少なくとも1つのヌクレオチドは上記の修飾の1つに記載されるように修飾されている。修飾は、オリゴヌクレオチドに連続して及ぶものか、不規則に及ぶもののいずれかであり得る。
【0040】
さらにもう1つの実施形態では、1種のオリゴヌクレオチド内で少なくとも2つの上記の修飾が組み合わされている。
【0041】
もう1つの実施形態では、オリゴヌクレオチドの3’および/または5’末端で、1から約12または1から約8または1から約4または1から約2つのオリゴヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド結合が上記のように修飾されている。
【0042】
一実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、標的、例えば、TGF−βまたはこのサブタイプ、より好ましくは、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、IL−10および低PGEとハイブリッド形成する。これらの標的は当業者には周知である。前記標的のmRNAのアンチセンス構造はまた、参照により本明細書に組み込まれるPCT/EP2004/053604に示されている。
【0043】
鎖伸長とは、前記標的のmRNAのそれぞれのアンチセンス構造の配列のさらなるヌクレオチドを有する配列表のオリゴヌクレオチドおよびその他のオリゴヌクレオチドが、依然として本発明の範囲内にあることを意味する。一実施形態におけるさらなるヌクレオチドは、mRNAのコーディング領域と一致し、さらにもう1つの実施形態では、さらなるヌクレオチドはまたイントロンおよびエキソンを含む、mRNAの非コーディング部分に由来するものである。さらなるヌクレオチドは、3’および/または5’末端の少なくとも一方と、もう1つの実施形態では、2’または5’末端の少なくとも一方と結合している約1から約10,000ヌクレオチド、約1から約5,000ヌクレオチド、約1から約3,000ヌクレオチド、約1から約1,000ヌクレオチド、約1から約500ヌクレオチド、約1から約100ヌクレオチド、約1から約50ヌクレオチド、約1から約25ヌクレオチド、約1から約10ヌクレオチド、約1から約5ヌクレオチドまたは約1から約2ヌクレオチドを含む。さらにもう1つの実施形態では、これらのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのいくつかのヌクレオチドビルディングブロックは、スペーサーおよび/または本明細書に記載される修飾によって修飾または置換されていてもよい。
【0044】
医薬的に許容される塩とは、本発明に用いられる化合物の生理学的に許容され、および、医薬的に許容される塩を指し、これは、塩が、望ましくない毒物学的影響を有さず、親化合物の生物活性を保持することを意味する。
【0045】
一実施形態では、オリゴヌクレオチドまたはこの活性誘導体は、一本鎖オリゴヌクレオチドであり、さらにもう1つの実施形態では、オリゴヌクレオチドは二本鎖であり、これは、オリゴヌクレオチドは前記オリゴヌクレオチドの約50%から約100%の正確なアンチセンス構造を有する第2のオリゴヌクレオチドと完全にまたは部分的にハイブリッド形成されていることを意味する。これは、両オリゴヌクレオチドが低い結合強度でハイブリッド形成している二本鎖または重複末端を有する二本鎖をもたらし得る。2種のオリゴヌクレオチドは同一の長さを有してもよい、言い換えれば、これらは同量のヌクレオチドビルディングブロックを有してもよいし、またはこれらの長さが異なっていてもよく、これも一方または両末端で重複末端をもたらす。
【0046】
本発明に関連して、発現スペーサーとは、明らかにヌクレオチドの誘導体または修飾ではないが、得られるオリゴヌクレオチドが依然としてこの標的、例えば、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、プロスタグランジンE2、c−fos、c−junまたはインターロイキン−10のmRNAとハイブリッド形成する方法で2種のヌクレオチドビルディングブロックを接続する、いずれかのヌクレオチドビルディングブロックを含む。
【0047】
本発明の一実施形態は、哺乳類においてTGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fosおよび/またはプロスタグランジンE2によって調節される疾患の予防および/または治療のための医薬製剤の製造のための、8から30ヌクレオチドビルディングブロックの長さを有する、少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの使用であって、前記オリゴヌクレオチドはTGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fosおよび/またはプロスタグランジンE2遺伝子のメッセンジャーRNAとハイブリッド形成し、前記製剤は約1μMから約25μMの濃度の前記オリゴヌクレオチドを含む。
【0048】
その他の実施形態では、本発明の医薬製剤は、約1μMから約15μM、より好ましくは、約2.5μMから約14μM、より好ましくは、約4μMから約13μM、より好ましくは、約5μMから約12.5μMの濃度のオリゴヌクレオチドを含み、最も好ましいオリゴヌクレオチドの濃度は約20μM、約10μMまたは約5μMである。
【0049】
さらにもう1つの実施形態では、本発明の医薬製剤は、約50μMから約150μMの濃度の、より好ましくは、約60μMから約100μMの濃度の、いっそうより好ましくは、約70μMから約90μMの、最も好ましくは約80μM、60μMまたは100μMのオリゴヌクレオチドを含む。
【0050】
本発明のオリゴヌクレオチドは一本鎖であるが、いくつかの実施形態では、一本鎖核酸の少なくとも一部は二本鎖である。二本鎖分子はインビボでより安定であるのに対し、一本鎖分子は増大した活性を有する。
【0051】
一実施形態では、本オリゴヌクレオチドは約6から約30ヌクレオチドの間の長さを有し、標的TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、インターロイキン10、c−jun、c−fosおよびプロスタグランジンE2のmRNAと相補的である。より好ましい実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、約7から約25ヌクレオチド、約8から約20ヌクレオチド、さらにより好ましくは、約12から18ヌクレオチドの長さを有する。本発明において使用できるオリゴヌクレオチドの好ましい実施形態は、配列表に配列番号1から93の下で示されており、極めて好ましい実施形態は配列番号1から38であり、最も好ましいものは配列番号2および/または5である。
【0052】
本発明の医薬製剤において使用できるその他のオリゴヌクレオチドとしては、参照により本明細書に組み込まれる、EP1089764、EP0695534、PCT/EP98/00497およびPCT/EP2005/002101の実施例においてそれぞれ配列表に記載されるオリゴヌクレオチドがある。
【0053】
その他の実施形態では、医薬製剤の製造のための少なくとも1種のオリゴヌクレオチドは、2つのヌクレオチドビルディングブロック間の少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む。ホスホロチオエート結合は、結合の0%から5%、5%から10%、10%から15%、15%から20%、20%から25%、25%から30%、30%から35%、35%から40%、40%から45%、45%から50%、50%から55%、55%から60%、60%から65%、65%から70%、70%から75%、75%から80%、80%から85%、85%から90%、90%から95%または95%から100%に及び得る。ホスホロチエート(phosphorothiate)結合は、オリゴヌクレオチド中に規則的にか、不規則的に点在し得る。いくつかの実施形態では、ホスホロチオエートはオリゴヌクレオチドの3’および/または5’末端のいずれか一方または両方に集まっている。もう1つの好ましい実施形態は、ヌクレオチド間のすべての結合がホスホロチオエートであるオリゴヌクレオチドである。
【0054】
一実施形態では、オリゴヌクレオチドは一本鎖オリゴヌクレオチドである。一本鎖とは、すべてのオリゴヌクレオチドビルディングブロックが一本の線であり、第2のオリゴヌクレオチドまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドとハイブリッド形成しておらず、他にも結合していないことを意味する。
【0055】
さらにその他の実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドを、癌、転移、神経系の疾患および免疫抑制からなる群から選択される疾患の予防および/または治療のために用いる。
【0056】
その他の実施形態では、オリゴヌクレオチドの医薬製剤を、組織、腫瘍または体腔中へ注入によって投与する。より好ましい実施形態では、組織は胆管、膀胱、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、子宮内膜、上皮、胆嚢、頭部、頭頸部、心臓、腸、関節、腎臓、喉頭、肝臓、肺、リンパ節、リンパ管、筋肉、食道、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、尿管、皮膚およびこの層、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、扁桃腺または子宮からなる群から選択され、および/またはこの組織のそれぞれの腫瘍に投与される。
【0057】
より好ましい実施形態では、医薬製剤を、脳における腫瘍に投与し、脳腫瘍は星状細胞腫、例えば、膠芽腫および乏突起星細胞腫からなる群から選択されることが好ましい。
【0058】
もう1つの実施形態では、オリゴヌクレオチドの医薬製剤を、胆管、膀胱、結腸、胆嚢、関節腔、胸腔、腹膜内空間、直腸、腸管、尿管、膀胱および心室の空間からなる群から選択される体腔中に投与する。
【0059】
本発明のさらにその他の実施形態では、本発明の少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む医薬製剤を、約0.1μL/分から約0.1mL/分の流速で腫瘍または組織、関節腔または心室の空間に投与する。約0.5μL/分から約0.05mL/分のフローがさらに好ましく、約0.8μL/分から約0.04mL/分のフローがより好ましく、約1μL/分から約0.02mL/分のフローがより好ましく、約2μL/分から約10μL/分のフローがより好ましくは、約4μL/分が最も好ましい。極めて好ましい実施形態では、医薬製剤を、これらの流速で脳の腫瘍中に、より好ましくは、星状細胞腫、例えば、膠芽腫および乏突起星細胞腫中に投与する。
【0060】
もう1つの実施形態では、医薬製剤を、心室の空間または関節腔ではない体腔、例えば、結腸、胸腔、腹膜内空間、直腸、胃、腸管、尿管または膀胱中に投与する。これらの実施形態では、医薬製剤を約5μL/分から約2mL/分の流速、より好ましくは、約0.05mL/分から約1mL/分の流速、いっそうより好ましくは、約0.1mL/分から約0.5mL/分の流速で、いっそうより好ましくは、約0.3mL/分から約0.4mL/分の流速で、最も好ましくは、約0.35mL/分の流速で投与する。
【0061】
さらにその他の実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドを、癌、転移、神経系の疾患および免疫抑制からなる群から選択される疾患の予防および/または治療のために用いる。
【0062】
好ましい実施形態では、癌、転移、神経系および/または免疫抑制を、標的TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fosおよび/またはプロスタグランジンE2のmRNAとハイブリッド形成するそれぞれのオリゴヌクレオチドで治療し、配列表において配列番号1から93で同定される配列がいっそうより好ましい。TGF−β1のmRNAとハイブリッド形成する好ましい配列は、配列表において配列番号1から4で同定され、配列番号2が最も好ましい。TGF−β2のmRNAとハイブリッド形成する好ましい配列は、配列表において配列番号5から8で同定され、配列番号5が最も好ましい。TGF−β3のmRNAとハイブリッド形成する好ましい配列は、配列表において配列番号9から38で同定される。プロスタグランジンE2のmRNAとハイブリッド形成する好ましい配列は、配列表において配列番号39から49で同定される。インターロイキン10のmRNAとハイブリッド形成する好ましい配列は、配列表において配列番号57から76で同定される。c−junのmRNAとハイブリッド形成する好ましい配列は、配列表において配列番号78から83で同定される。c−junのmRNAとハイブリッド形成する好ましい配列は、配列表において配列番号85から93で同定される。
【0063】
神経系の疾患のもう1つの実施形態として、筋萎縮性側索硬化症がある。好ましい実施形態では、ニューロン損傷を標的c−junまたはj−fosのmRNAとハイブリッド形成するそれぞれのオリゴヌクレオチドで治療し、配列表においてそれぞれ配列番号78から83で同定されるc−jun配列、配列表において配列番号85から93で同定されるc−fos配列が、いっそうより好ましい。
【0064】
一実施形態では、医薬製剤を適用システムを用いて投与する。好ましい適用システムはフレキシブルチューブでポートシステムと接続されているポータブルポンプを含む。ポートシステムは、腫瘍、組織の中心または体腔の末端に外科手術で埋め込まれている注入カテーテルと接続される。もう1つの実施形態では、医薬製剤を注入するためにいくつかの注入カテーテルを用いる。さらにその他の実施形態では、注入カテーテルを、腫瘍または組織の中心に位置づけるのではなく、医薬製剤を注入される組織および/または腫瘍の端に位置づける。本発明に使用できる適用システムはまた、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願PCT/EP2004/004211に記載されている。
【0065】
腫瘍、組織または関節腔もしくは心室の空間から選択される体腔中に注入される医薬製剤の1日あたりの全容積は、好ましくは、約0.15mL/dから約0.15L/d、より好ましくは、約0.7mL/dから約0.07L/d、いっそうより好ましくは、約1.2mL/dから約0.06L/d、いっそうより好ましくは、約2mL/dから約0.03L/d、いっそうより好ましくは、約3mL/dから約15mL/dで変わり、約5.6mL/dまたは約11mL/dであることが最も好ましい。
【0066】
もう1つの実施形態では、大きな体腔、例えば、腹膜内空間または胸膜腔に注入される医薬製剤の全容積は、好ましくは、約5mL/dから約3L/d、より好ましくは、約0.05L/dから約1.5L/d、いっそうより好ましくは、約0.15L/dから約1L/d、いっそうより好ましくは、約0.4L/dから約0.6L/dであり、約0.5L/dが最も好ましい。
【0067】
もう1つの実施形態では、腫瘍、組織または関節腔もしくは心室の空間から選択される体腔中に、本発明によって適用されるオリゴヌクレオチドの総量は、約0.15nmolから約3μmol、より好ましくは、約1nmolから約2μmol、いっそうより好ましくは、約0.01μmolから約1μmol、いっそうより好ましくは、約0.02μmolから約0.1μmol、最も好ましくは、約0.224μmol、約0.112μmol、約0.056μmolまたは約0.028μmolである。
【0068】
最も好ましい実施形態では、これらの量を脳腫瘍中に投与し、好ましい一実施形態では、脳腫瘍は星状細胞腫、例えば、膠芽腫であるか、または乏突起星細胞腫である。
【0069】
脳腫瘍の治療には、TGF−βのmRNAとハイブリッド形成できるオリゴヌクレオチドが好ましく、配列表において配列番号1から38で同定される配列がより好ましい。TGF−β2とハイブリッド形成するオリゴヌクレオチドがより好ましく、配列表において配列番号5から8で同定される配列がいっそうより好ましい。極めて好ましい実施形態では、オリゴヌクレオチドは配列プロトコールにおいて配列番号5によって同定される。好ましい一実施形態では、配列番号5を、分子量6142.4gのこのナトリウム塩の形で、7115.3g、オリゴヌクレオチドあたり約54分子の結晶水を含む水和物としてそれぞれ投与する。
【0070】
さらにもう1つの実施形態では、本発明の医薬製剤によって、大きな体腔、例えば、腹膜内腔または胸腔に適用されるオリゴヌクレオチドの総量は、約0.005μmolから約0.05mmol、より好ましくは、約0.05μmolから約0.025mmol、より好ましくは、約0.1μmolから約0.01mmol、最も好ましくは、約10μmol、約5μmolまたは約2.5μmolである。
【0071】
もう1つの実施形態では、本発明によって、腫瘍、組織または関節腔もしくは心室の空間から選択される体腔中に適用されるオリゴヌクレオチドの総量は、約7.5nmolから約22.5μmol、より好ましくは、約50nmolから約10μmol、いっそうより好ましくは、約0.1μmolから約5μmol、いっそうより好ましくは、約0.4μmolから約1μmol、最も好ましくは、約0.21μmol、約0.28μmolまたは約0.35μmolである。
【0072】
より好ましい実施形態では、それぞれの量を脳腫瘍中に投与し、脳腫瘍の最も好ましい実施形態は星状細胞腫、例えば、膠芽腫または乏突起星細胞腫である。
【0073】
さらにもう1つの実施形態では、本発明の医薬製剤によって、大きな体腔、例えば、腹膜内腔または胸腔中に適用されるオリゴヌクレオチドの総量は、約0.25μmolから約0.45mmol、より好ましくは、約1μmolから約0.5mmol、より好ましくは、約0.01mmolから約0.1mmol、最も好ましくは、約50μmol、約40μmolまたは約30μmolである。
【0074】
一実施形態では、本発明の医薬製剤を、約4時間から約8時間、約8時間から約16時間、約16時間から約24時間、約24時間から約36時間、約36時間から約2日、約2日から約3日、約3日から約5日、約5日から約8日、約8日から約11日および約11日から約15日の間、腫瘍、組織または体腔中に投与する。この期間はまた、治療単位(course)とも呼ばれる。好ましい実施形態では、医薬製剤を約3から約8日にわたって投与する。脳腫瘍の最も好ましい実施形態が星状細胞腫、例えば、膠芽腫または乏突起星細胞腫である場合には、4日および7日の期間が脳腫瘍の治療には好ましい。
【0075】
その他の実施形態では、医薬製剤中のオリゴヌクレオチドを、複数回で投与する。言い換えれば、上記で定義される治療単位を複数回、好ましくは2から20回反復する。好ましい実施形態では、手順を1から12回、例えば、2回から3回、4回から5回、6回から7回、8回から9回、10回から11回、12回から13回、14回から15回、16回から17回、18回から19回または20回反復する。
【0076】
すべての治療単位が同一期間を有する場合もあるし、異なる場合もある。いくつかの実施形態では、2回の治療単位の間の時間は、約1日から約2日、約2日から約3日、約4日から約5日、約5日から約7日、約8日から約10日、約10日から約2週間、約2週間から約3週間、約3週間から約4週間、約4週間から約6週間および約6週間から約12週間である。好ましい実施形態では、2回の治療単位の間の時間は、約2日から8週間、より好ましくは、約4日から約4週間、いっそうより好ましくは、約6日から約12日の間で異なる。
【0077】
好ましい一実施形態では、生理(=等張性)溶液に溶解したオリゴヌクレオチドを、7日間にわたって投与し、次いで、次の7日間はオリゴヌクレオチドを全く投与しない。この治療単位を数回反復した。
【0078】
さらにもう1つの実施形態では、医薬製剤は、少なくとも1種のオリゴヌクレオチドと、さらに少なくとも1種のさらなるアジュバントとを含む。免疫賦活薬とも呼ばれるアジュバントについてより詳細には、EP1089764も参照のこと。好ましい実施形態では、アジュバントはCpG−モチーフを含むオリゴヌクレオチドである。CpGモチーフについてさらなる詳細については、Krieg2002も参照のこと。
【0079】
本発明の医薬製剤の好ましい実施形態は哺乳類において用いられ、哺乳類の好ましい実施形態はヒトである。本発明はまた、ヒト治療において有用であるだけでなく、その他の被験体、例えば、獣医動物、外来の動物および家畜、例えば、哺乳類、齧歯類などにも有用である。哺乳類としては、ヒト、ウマ、イヌ、ブタ、ネコまたは霊長類(例えば、サル、チンパンジーまたはキツネザル)が挙げられる。齧歯類としては、ラット、マウス、リスまたはモルモットが挙げられる。
【0080】
一実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドを有する医薬製剤を、まず、オリゴヌクレオチドを医薬的に許容される担体中、約1から150μMの濃度で溶解して溶液とすることと、前記溶液を約0.1μL/分から約2mL/分の流速で哺乳類の組織、腫瘍または体腔に投与することとによって哺乳類に投与する。さらなる好ましい濃度、フローおよび配列は本発明において上記に示されている。
【0081】
一実施形態では、腫瘍および/または転移の治療のための、少なくとも1種の本発明のオリゴヌクレオチドを有する医薬製剤を、それぞれの腫瘍1cmあたり約1から約50マイクログラムの範囲のこのオリゴヌクレオチドの濃度をもたらす量で哺乳類に投与する。
【0082】
さらにもう1つの実施形態では、医薬製剤を、オリゴヌクレオチドの濃度が1日あたり腫瘍組織1cmあたり約2から約20マイクログラムである、より好ましくは、1日あたり腫瘍組織1cmあたり約3から約10マイクログラムである方法で投与する。
【0083】
本発明の医薬製剤は、局所または全身治療が望まれるか否かに応じて、また治療される範囲に応じていくつかの方法で投与できる。本発明の薬学的組成物は、注入により、組織、腫瘍および/または体腔中に直接投与できる。本発明の医薬製剤の投与は、当業者に公知のいずれかの手段で達成してもよい。投与経路としては、これだけには限らないが、非経口(例えば、筋肉内の)、腹腔内、心室内、大脳内の、腫瘍内、脳室内、髄膜腔内、子宮内注入および膀胱および胸膜中への注射が挙げられる。
【0084】
医薬製剤としては、約1μMから約25μMの濃度のオリゴヌクレオチドを含有する液体医薬製剤が挙げられる。もう1つの好ましい実施形態では、医薬製剤は約50μMから約150μMの濃度のオリゴヌクレオチドを含む。より好ましい濃度は上記に示されている。このような製剤は、バッファー、希釈液およびその他の適した添加物、例えば、これだけには限らないが、浸透促進剤、許容される担体または賦形剤も含み得る滅菌水溶液を含み得る。用語医薬製剤とは、この組成物の液体または固体が純粋であり、および/または医薬的に許容される担体と混合されていることを意味する。
【0085】
用語医薬的に許容される担体とは、ヒトまたはその他の哺乳類に投与するのに適している、1種以上の適合する液体増量剤、希釈剤または封入物質を意味する。用語「担体」とは、適用を容易にするために有効成分と混合される、天然または合成の、有機または無機成分を意味する。医薬製剤の成分はまた、所望の薬学的有効性を実質的に損なう相互作用がないような方法で、本発明の化合物と、また、互いに混合することができる。このような担体により、本発明のオリゴヌクレオチドが液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液、エマルジョンとして製剤されるのを可能となる。
【0086】
上記のように、薬学的組成物としてはまた、マイクロカプセル、ナノカプセル、ミクロスフェア、ナノスフェア、エマルジョンおよび懸濁液、微小金粒子上にコーディングされたオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの放出が遅延された製剤が挙げられ、この調製では、通常、賦形剤および添加剤および/または助剤、例えば、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、膨張剤、滑沢剤または可溶化剤が用いられる。
【0087】
胃、腸、結腸または直腸中への注入には、浣腸が有用である。
【0088】
本薬剤送達法の短い総説については、参照により本明細書に組み込まれるLanger (1990)参照のこと。
【0089】
さらにもう1つの実施形態では、オリゴヌクレオチドは注入による非経口投与のための薬学的担体中に存在する。注入用の製剤は、防腐剤を添加した単位投与形で提示できる。薬学的組成物は油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンのような形をとり、製剤用薬剤、例えば、懸濁剤、安定剤および/または分散剤を含む。
【0090】
一実施形態では、非経口投与用薬学的担体として、水溶性形のオリゴヌクレオチドの水溶液が挙げられる。好ましい一実施形態では、オリゴヌクレオチドを生理(等張性)溶液、より好ましくは、0.9%塩化ナトリウム溶液に溶解する。
【0091】
さらにもう1つの実施形態では、化合物の懸濁液を適当な油性注入物として調製する。適した親油性溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油、例えば、ゴマ油または合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチルもしくはトリグリセリド、またはリポソームが挙げられる。水性注入懸濁液は、懸濁液の粘度を高める物質、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランを含む。場合により、懸濁液はまた、適した安定剤または化合物の溶解度を高め、高濃度溶液の調製を可能にする薬剤を含み得る。
【0092】
さらにもう1つの実施形態では、オリゴヌクレオチドは、使用前に、適したビヒクル、例えば、滅菌発熱物質不含水で再構成するための粉末の形であり得る。その他の実施形態では、オリゴヌクレオチドを等張性溶液で再構成する。等張性溶液は、身体の浸透圧と同程度に高い浸透圧を有するいずれかの水溶液である。よく用いられるものは、塩、糖などの溶液である。好ましい実施形態では、等張性溶液は0.9%塩化ナトリウム溶液またはリンガー乳酸塩溶液(例えば、DAB7)である。
【0093】
さらにもう1つの実施形態では、活性化合物は、使用前に、適したビヒクル、例えば、滅菌発熱物質不含水で希釈するための濃縮物の形であり得る。
【0094】
さらにもう1つの実施形態では、化合物を例えば、ココアバターまたはその他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を含有する、直腸組成物または膣組成物、例えば、坐剤または保留浣腸または錠剤に製剤する。
【0095】
さらにもう1つの実施形態では、化合物をデポー製剤として製剤する。一実施形態では、このような長期作用性製剤を、適したポリマー材料または疎水性材料(例えば、許容されるオイル中のエマルジョンのような)またはイオン交換樹脂を用いて、または難溶性誘導体として、例えば、難溶性塩として製剤する。
【0096】
その他の実施形態では、送達システムは、持続放出、遅延放出または徐放送達システムを含む。このようなシステムにより、化合物の反復投与を避けることができ、被験体および医師にとっての利便性が高まる。多数の種類の放出送達システムが利用可能であり、当業者に知られている。一実施形態では、送達システムは、ポリマーベースのシステム、例えば、ポリ(ラクチド−グリコリド)、コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸およびポリアンヒドリド、より好ましくは、分子量が20,000Daより大きいポリアンヒドリドを含む。好ましい一実施形態では、ポリアンヒドリドは高分子量を有する二炭酸の重縮合物である。より詳細は、EP0260415も参照のこと。薬物を含有する前述のポリマーのマイクロカプセルは、例えば、米国特許第5,075,109号に記載されている。
【0097】
もう1つの実施形態では、オリゴヌクレオチド取り込みの改善が、ベクトル化の種々のシステム、例えば、リポソーム(中性、陽イオン性、免疫リポソーム)、微粒子およびナノ粒子、ポリマーまたは担体との共有結合(C.Lefebure et al.1995)を用いて達成された。脂質媒介性トランスフェクションもオリゴヌクレオチドを送達するために用いられている(Wang and Martini 1996)。もう1つの実施形態では、送達システムとして、例えば、コレステロール、コレステロールエステルなどのステロール、脂肪酸またはモノ−、ジ−およびトリグリセリドなどの中性脂肪を含む脂質である非ポリマーシステム、ヒドロゲル放出システム、シラスティック(sylastic)システム、ペプチドベースのシステムなどを含む。
【0098】
具体的な例として、これだけには限らないが、(a)本発明の薬剤が、米国特許第4,452,775号、同4,675,189号および同5,736,152号に記載されるものなどのマトリックス内の形で含まれる浸食システムおよび、(b)例えば、米国特許第3,854,480号、同5,133,974号および同5,407,686号に記載される、有効成分が制御された速度でポリマーから浸透する拡散システムが挙げられる。
【0099】
さらにその他の実施形態では、GELFOAM(登録商標)、ゆっくりと分解する改変コラーゲン繊維からなる市販の製品を用いてオリゴヌクレオチドを製剤する。
【0100】
一実施形態では、薬学的組成物はまた、適した固体またはゲル相担体または賦形剤を含む。このような担体または賦形剤の例として、これだけには限らないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチンおよびポリマー、例えば、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0101】
一実施形態では、オリゴデオキシヌクレオチドを、そのままでまたは医薬的に許容される塩の形で投与する。塩は医薬的に許容されるものでなくてはならないが、製薬上許容されない塩を用いて、この医薬的に許容される塩を調製することは好都合であり得る。このような塩としては、これだけには限らないが、以下の酸から調製されるものが挙げられる。塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸およびベンゼンスルホン酸。また、このような塩はアルカリ金属またはアルカリ土類塩、例えば、カルボン基のナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩として調製できる。
【0102】
もう1つの実施形態では、薬学的組成物は、少なくとも1種のバッファーおよび/または少なくとも1種の防腐剤をさらに含む。
【0103】
一実施形態では、適した緩衝剤として、これだけには限らないが、酢酸および塩(1から2%w/v)、クエン酸および塩(1から3%w/v)、ホウ酸および塩(0.5から2.5%w/v)ならびにリン酸および塩(0.8から2%w/v)が挙げられる。
【0104】
適した保存料としては、塩化ベンズアルコニウム(例えば、0.003から0.03%w/v)、クロロブタノール(例えば、0.3から0.9%w/v)、パラベン(例えば、0.01から0.25%w/v)およびチオマーサル(例えば、0.004から0.02%w/v)が挙げられる。
【0105】
さらにもう1つの実施形態では、薬学的組成物はまた、食餌性送達を亢進するために浸透促進剤も含む。浸透促進剤は、5つの広いカテゴリー、すなわち、脂肪酸、胆汁酸塩、キレート化剤、界面活性剤および非界面活性剤のうちの1つに属するものとして分類できる(Lee et al.1991,Muranishi 1990)。これらの広いカテゴリーの1以上に由来する1種以上の浸透促進剤が含まれ得る。
【0106】
浸透促進剤として作用する種々の脂肪酸およびこの誘導体としては、例えば、オレイン酸、ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプレート、トリカプレート、レシンレアート(recinleate)、モノオレイン(1−モノオレイル−rac−グリセロール)、ジラウリン、カプリル酸、アライキドニック・アシッド(araichidonic acid)、グリセリル1−モノカプレート、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、アシルカルニチン、アシルコリン、モノ−およびジ−グリセリドならびにこの生理学的に許容される塩(すなわち、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、カプリン酸塩、ミリスチン酸塩、ミパルミチン酸塩、ステアリン酸塩、リノール酸塩など)が挙げられる(Lee et al.1991,Muranishi 1990,El−Hariri et al.1992)。いくつかの現在好ましい脂肪酸の例として、0.5から5%の濃度で単独または組み合わせて用いられる、カプリン酸ナトリウムおよびラウリン酸ナトリウムがある。
【0107】
胆汁の生理学的役割としては、脂質および脂溶性ビタミンの分散および吸収を容易にすることが挙げられる(Brunton 1996)。種々の天然胆汁酸塩およびこの合成誘導体は、浸透促進剤として作用する。したがって、用語「胆汁酸塩」とは、胆汁の天然に存在する成分のいずれか、ならびにこの合成誘導体のいずれかも含む。現在好ましい胆汁酸塩として、ケノデオキシコール酸(CDCA)(Sigma Chemical Company,St.Louis,Mo.)があり、通常、0.5から2%の濃度で用いられる。
【0108】
1種以上の浸透促進剤を含む錯体製剤を使用できる。例えば、胆汁酸塩を、脂肪酸と組み合わせて使用し、錯体製剤を製造できる。好ましい組み合わせとしては、カプリン酸ナトリウムまたはラウリン酸ナトリウム(通常、0.5から5%)と組み合わせたCDCAが挙げられる。
【0109】
一実施形態では、さらにキレート化剤を用いるが、これとしては、これだけには限らないが、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、クエン酸、サリチル酸塩(例えば、サリチル酸ナトリウム、5−メトキシサリチル酸およびホモバニラート)、コラーゲンのN−アシル誘導体、ラウレス−9およびβ−ジケトンのN−アミノアシル誘導体(エナミン)(Lee et al.1991,Muranishi 1990,Buur et al.1990)が挙げられる。キレート化剤はDNアーゼ阻害剤としても働く追加の利点を有する。
【0110】
さらにもう1つの実施形態では、さらに界面活性剤を用いる。界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテルおよびポリオキシエチレン−20−セチルエーテル(Lee et al.1991)およびペルフルオロ化合物エマルジョン、例えば、FC−43(Takahashi et al.1988)が挙げられる。
【0111】
非界面活性剤としては、例えば、不飽和環状尿素、1−アルキル−および1−アルケニルアザシクロ−アルカノン誘導体(Lee et al.1991)および非ステロイド系抗炎症剤、例えば、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシンおよびフェニルブタゾン(Yamashita et al.1987)が挙げられる。
【0112】
一実施形態では、本発明の薬学的組成物は、薬学的組成物に従来見られるその他の補助成分を、この技術分野で確立された使用レベルでさらに含む。したがって、例えば、本組成物はさらなる適合する医薬的に活性な物質、例えば、鎮痒薬、収斂剤、局所麻酔または抗炎症薬などを含むことができ、また、本発明の組成物の種々の投与形を物理的に製剤するのに有用なさらなる物質、例えば、色素、矯味剤、保存料、抗酸化剤、乳白剤、増粘剤および安定剤を含むことができる。しかし、このような物質は、添加した場合に、本発明の組成物の成分の生物活性を過度に干渉してはならない。
【0113】
本発明は、本方法が適応される被験体のいずれかの組織において、記載された薬物適用に使用できる。このような組織としては、例えば、胆管、膀胱、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、子宮内膜、上皮、胆汁、胆嚢、頭部、頭頸部、心臓、腸、関節、腎臓、喉頭、肝臓、肺、リンパ節、リンパ管、筋肉、食道、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、尿管、皮膚およびこの層、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、扁桃腺または子宮が挙げられる。
【0114】
腫瘍または新生物とも呼ばれる組織のそれぞれの腫瘍はまた、長骨のアダマンチノーマ、腺腫、エナメル上皮腫、星状細胞腫、胆管癌、膀胱癌、骨癌、骨髄癌、脳腫瘍、乳癌、気管支原性肺癌、頸部癌、子宮頸癌、軟骨腫、絨毛癌、結腸癌、結腸直腸癌、嚢胞腺癌、胎生癌、子宮内膜癌、上衣腫、食道癌、線維腫、濾胞性胸腺腫、胆嚢癌、胃癌、膠芽腫、神経膠腫、頭頸部癌、心臓の癌、肝細胞癌、腹膜内腔における癌、腸の癌、腎臓の癌腫、喉頭癌、脂肪腫、肝癌、肺癌、リンパ節の癌、リンパ管の癌、悪性神経膠腫、中皮腫(mesenthelioma)、髄膜腫(menigioma)、髄様癌、筋腫、神経芽腫、非小細胞気管支原性/肺癌、食道癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、乳頭癌、乳頭腺癌、乳頭(papillar)胸腺腫、クロム親和性細胞腫、前立腺癌、直腸癌、腎癌、腎細胞癌、尿管癌、脂腺癌、セミノーマ、皮膚癌、小細胞肺癌、小腸癌、軟部組織癌、脾臓癌、扁平上皮癌、胃癌、奇形腫、睾丸癌、精巣癌、胸腺腫、甲状腺癌、甲状腺腫瘍および子宮体癌を含む。
【0115】
腫瘍、癌および新生物という表現は、本発明に関連して同じ意味で用いられる。
【0116】
(実施例)
本出願において、動物における局所毒性研究ならびに患者における臨床研究の結果を報告する。これらの研究はすべて、現行の医薬製剤の臨床試験の実施基準(GCP)ガイドラインにしたがって実施し、地方倫理委員会によって承認されている。患者の研究は、現行のヒト実験についてのヘルシンキの国際宣言にさらにしたがった。
【実施例1】
【0117】
ウサギにおける髄膜腔内(intrathecal)ボーラス注射後の局所毒性研究
配列番号5によって同定される、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む医薬製剤の局所安全性および耐容性を、前記オリゴヌクレオチドをボーラスとしてウサギの髄膜腔内に適用する局所毒性研究において実証した。
【0118】
各々8匹のウサギ(2匹/性別/処理群)を用い、前記オリゴヌクレオチドの標準生理食塩水中14μMまたは500μM溶液0.1mlを、それぞれ、腰部の髄膜腔中への単回の髄膜腔内ボーラス注射によって投与して2つの研究を実施した。対照群には0.9%NaCl溶液を同じ方法で与えた。投与後2、6および30時間に局所反応を肉眼で調べた。投与後6および30時間で、1匹の動物/性別/群を屠殺した。脳組織サンプル(厚さ約5μM)を組織学的に検査した。
【0119】
ウサギでは、両濃度について、毒性の臨床的徴候または肉眼で明らかな変化が見られたものはなかった。両研究において、腰部の髄膜腔では、病理組織学的検査によって物質に関連する組織形態学的病変は示されなかった。脊髄の灰白質および白質において物質に関連する変化は観察されなかった。神経幹および神経細胞は異常を全く示さなかった。
【0120】
1匹の対照ウサギ(0.9%塩化ナトリウム)は、軟膜および神経幹における中程度から著しい出血、軽度の軟化症および好中球、顆粒球の浸潤および中程度の線維素沈着を示した。
【0121】
1匹の対照ウサギ(0.9%塩化ナトリウム)を除くすべての動物が、白質、中心管の内腔、灰白質および/または髄膜腔において軽度から中程度の出血を示した。これらの変化はすべて、髄膜腔内注射によって引き起こされた機械的損傷によるものであると考えられ、したがって、物質に関連するものではない。
【0122】
結論的に、配列番号5で同定されるオリゴヌクレオチドは、最大濃度500μMのオリゴヌクレオチド溶液の髄膜腔内ボーラス適用後のウサギにおいて、優れた局所耐容性を示した。
【実施例2】
【0123】
カニクイザルにおける髄膜腔内ボーラス注射後の局所毒性研究
実施例1において記載した髄膜腔内ボーラス適用を、カニクイザルにおいて反復し、高度に発達した動物における配列番号5のアンチセンスオリゴヌクレオチドの溶液の安全性および局所耐性を調べた。TGF−β2のmRNAに対する前記アンチセンスオリゴヌクレオチドの500μM溶液の優れた局所耐容性のために、この1種の濃度だけを調べた。
【0124】
2匹のカニクイザルを500μM溶液(0.9%塩化ナトリウム)の、配列プロトコール中、配列番号5で同定されるTGF−β2のmRNAとハイブリッド形成するオリゴヌクレオチド0.1mLを用い、腰部の髄膜腔中への単回の髄膜腔内ボーラス注射によって処理した。投与後2、6および30時間に局所反応を肉眼で調べ、次いで、動物を屠殺した。脳組織サンプル(厚さ約5μM)を組織学的に検査した。
【0125】
これらのサルでは、毒性の臨床的徴候または肉眼で明らかな変化が見られたものはなかった。腰部の髄膜腔では、病理組織学的検査によって物質に関連する組織形態学的病変は示されなかった。脊髄の灰白質および白質において変化は見られなかった。神経幹および神経細胞は、異常を全く示さなかった。両サルとも、炎症領域における軽度の限局的な石灰化と関連した軟膜の軽度の限局的な混合細胞浸潤を示した。これらの変化は物質に関連しているものではなく、髄膜腔内注射によって引き起こされた機械的損傷によるものであると考えられる。
【0126】
結論的に、実施例1に記載されるウサギを用いた実験において先に観察されたのと同様、前記オリゴヌクレオチドは、サルにおいても、高度に濃縮された500μM溶液として適用した場合に優れた局所耐容性を示した。局所毒性作用は観察できなかった。
【実施例3】
【0127】
ウサギにおける連続大脳内注入後の局所毒性研究
実施例1および2に記載される、ウサギおよびサルにおける髄膜腔内ボーラス適用後の、配列番号5によって同定されるオリゴヌクレオチドの500μM溶液の優れた局所耐容性に基づいて、前記オリゴヌクレオチドの500μM溶液の7日間にわたる長期連続大脳内注入を、ウサギにおいて局所毒性に関して調べた。
【0128】
8匹のウサギ(2匹/性別/処理群)を、配列表中、配列番号5によって同定される、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの500μM溶液(0.9塩化ナトリウム)を用い、または対照として0.9%塩化ナトリウム溶液を用い、それぞれ、脳の脳実質中への連続注入によって処理した。注入は、皮下に埋め込んだ浸透圧ポンプを用い、1μL/hの流速で7日間にわたって実施した。臨床的徴候および死亡率を、毎日調べ、記録した。注入終了の6および30時間後、1匹の動物/性別/群を屠殺した。脳組織サンプル(厚さ約5μM)を組織学的に検査した。
【0129】
これらのウサギでは、毒性の臨床的徴候または肉眼で明らかな変化が見られたものはなかった。
【0130】
物質で処理した群および対照群の両群において、グリア細胞の増殖を伴う神経組織の限局的な変性および壊死および均一な黄緑色の材料の発生および暗いニューロンならびに軽度から中程度の出血が見られた。これらの病変は連続注入プロセスおよび浸漬固定に関連しており、したがって、物質に関連していないと考えられる。適用の終了後6時間および30時間での屠殺の間に相違はなかった。
【0131】
結論的に、前記オリゴヌクレオチドの500μM溶液は、ウサギにおいて、1μL/hの流速で脳内に適用した場合には耐容性が良好であった。
【実施例4】
【0132】
悪性神経膠腫患者の治療におけるオリゴヌクレオチド濃度の効果
本明細書における評価は、標準的治療(手術、放射線療法および抗悪性腫瘍物質を用いる種々の治療)に対して抵抗性であるか、標準的治療後に再発性である悪性神経膠腫患者におけるTGF−β2特異的オリゴヌクレオチドの40μMと80μM投与を比較するために実施した。
【0133】
配列番号5によって同定される、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、標的腫瘍病変の中心へのカテーテルによって腫瘍内に投与した。患者は前記オリゴヌクレオチドの40μM(4人の患者)および80μM(13人の患者)溶液(0.9%塩化ナトリウム)を用い、4μL/分および8μL/分の流速で、それぞれ処理した。
【0134】
表1は、配列プロトコール中、配列番号5によって同定される、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの40μMおよび80μM溶液で治療した後の、患者の平均生存および完全に寛解した患者数の間の比較を示す。
【0135】
【表1】

【0136】
40μM溶液を用いて治療された患者は、前記オリゴヌクレオチドを用いた治療の開始後約9.6週生存の中央値を示したのに対し、80μM溶液を用いて治療された患者は、前記オリゴヌクレオチドを用いた治療の開始後約35.9週生存の中央値を示した。しかし、80μM溶液を用いて治療した群でのみ、完全寛解した患者が観察された。
【0137】
選択したオリゴヌクレオチド溶液の濃度ならびに流速は、最大500μMのオリゴヌクレオチド溶液および1μL/hの流速で、局所毒性作用が観察されなかった実施例3に記載した動物実験において用いた条件と比較してかなり低いものであった。
【実施例5】
【0138】
悪性神経膠腫患者の治療における低濃度オリゴヌクレオチド溶液の効果
本明細書における評価は、標準的治療(手術、放射線療法および抗悪性腫瘍物質を用いる種々の治療)に対して抵抗性であるか、標準的治療後に再発性である悪性神経膠腫患者におけるTGF−β2特異的オリゴヌクレオチドの低濃度2.5μMと10μM投与を比較するために実施した。
【0139】
配列番号5によって同定される、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、標的腫瘍病変の中心へのカテーテルによって腫瘍内に投与した。患者は前記オリゴヌクレオチドの2.5μM(3人の患者)および10μM(4人の患者)溶液(0.9%塩化ナトリウム)を用い、4μL/分のフローで処理した。
【0140】
表2は、配列プロトコール中、配列番号5によって同定される、TGF−β2のmRNAとハイブリッド形成するオリゴヌクレオチドの2.5μMおよび10μM溶液で治療した後の、患者の平均生存および完全に寛解した患者数の間の比較を示す。
【0141】
【表2】

【0142】
驚くべきことに、前記オリゴヌクレオチドの低濃度溶液は、4μL/分の流速の溶液が投与された場合に、治療された患者の高い平均生存を示した。2.5μM溶液で治療された患者は、前記オリゴヌクレオチドを用いた治療の開始後約52週生存の平均を示した。10μM溶液を用いて治療した患者は、前記オリゴヌクレオチドを用いた治療の開始後約44週生存の平均を示した。しかし、10μM溶液を用いて治療した群でのみ、完全寛解した患者が観察された。
【実施例6】
【0143】
未分化星状細胞腫患者の治療におけるオリゴヌクレオチド濃度の効果
本明細書における評価は、標準的治療(手術、放射線療法および抗悪性腫瘍物質を用いる種々の治療)に対して抵抗性であるか、標準的治療後に再発性である未分化星状細胞腫患者におけるTGF−β2特異的オリゴヌクレオチドの2.5μM、10μMおよび80μM投与を比較するために実施した。
【0144】
配列プロトコール中、配列番号5によって同定される、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、標的腫瘍病変の中心へのカテーテルによって腫瘍内に投与した。患者は前記オリゴヌクレオチドの2.5μM、10μMおよび80μM溶液(0.9%塩化ナトリウム)を用い、4μL/分および8μL/分の流速で、それぞれ処理した。オリゴヌクレオチドの分子量は、ナトリウム塩として6142.4g/Mおよびナトリウム塩水和物として7115.3g/Mである。したがって、適用したオリゴヌクレオチドの総量は、それぞれ、約344μg/d(ナトリウム塩)、398μg/d(結晶水を含むナトリウム塩)であった。
【0145】
症例報告:
未分化星状細胞腫と診断された患者番号1を、4μL/分の連続流で4日間(2サイクル)、カテーテルによって腫瘍中に直接適用される、配列番号5の、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの2.5μM溶液(0.9%塩化ナトリウム)を用いて治療した。患者番号1は、治療後約146週間の生存を示し、これは、約42週間の平均生存をもたらすテモゾロマイドを用いる標準的治療と比較して驚くほど高かった(Theodosopoulos et al.2001)。
【0146】
未分化星状細胞腫と診断された患者番号4(4箇所の腫瘍病変/転移、2箇所の対側部位を含む)を、4μL/分の連続流速で4日間、カテーテルによって最大腫瘍中に直接適用された、配列番号5の、TGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの10μM溶液(0.9%塩化ナトリウム)を用いて治療した。未分化星状細胞腫と診断された患者番号17を、8μL/分の流速で、配列プロトコール中、配列番号5によって同定される、TGF−β2のmRNAとハイブリッド形成するオリゴヌクレオチドの80μM溶液(0.9%塩化ナトリウム)を用いて治療した。
【0147】
【表3】

【0148】
配列プロトコール中、配列番号5で同定されるオリゴヌクレオチドの10μMを含む医薬製剤を用いて治療した患者番号4、ならびに、前記オリゴヌクレオチドの80μMを有する同様の医薬製剤を用いて治療した患者番号17は、ベースラインではほぼ同じ腫瘍容積を示した。患者4は約2.5ヶ月後に約58cmの最大の腫瘍サイズに到達し他のに対し、患者17では、66cmの最大への腫瘍増殖が、約9.7ヶ月まで観察できた。
【0149】
観察約17ヶ月後、患者番号4の腫瘍容積は約12cmに減少したのに対し、患者番号17の腫瘍は依然として約2倍の容積(27cm)を有していた。
【0150】
さらに、1回だけの適用サイクル後に腫瘍退行をすでに示す10μMを投与された患者(番号4)と比較して、80μMを投与された患者(番号17)は腫瘍退行を達成するのに12サイクルを必要とした。
【実施例7】
【0151】
悪性神経膠腫患者の治療における、4μL/分のフローでの適用によるオリゴヌクレオチド濃度の効果
本明細書における評価は、標準的治療(手術、放射線療法および抗悪性腫瘍物質を用いる種々の治療)に対して抵抗性であるか、標準的治療後に再発性である悪性神経膠腫患者における、4μL/分の流速で適用されるTGF−β2特異的オリゴヌクレオチドの10μMと80μM投与を比較するために実施した。
【0152】
配列番号5によって同定されるTGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、連続腫瘍内ハイフロー微小灌流として投与した。患者を10μM(9人の患者)および80μM(10人の患者)のオリゴヌクレオチド溶液(0.9%塩化ナトリウム)を用い4μL/分のフローで7日間治療し、続いて7日間薬物を使わない間隔とした(=1サイクル)。患者は最大12サイクルで治療した。
【0153】
【表4】

【0154】
表4は、4μL/分の流速で適用される、配列番号5によって同定されるTGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの10μMおよび80μM溶液を用いて治療された悪性神経膠腫患者間での、ベースラインと最後の来診の間の腫瘍サイズ減少、進行性疾患の患者数および腫瘍サイズが減少した患者数の比較を表す。
【0155】
4μL/分の流速で前記オリゴヌクレオチドの80μM溶液を用いて治療した患者の50%と比較して、同じ流速で投与される、前記オリゴヌクレオチドの10μM溶液を用いて治療された患者群からは、33.3%の患者しか進行性疾患を示さなかった。80μM群では10人の患者のうち2人のみであったのと比較して、10μM群では9人の患者のうち5人が、腫瘍サイズの減少を示した。ベースラインと最後の来診の間の腫瘍サイズの相違は、10μM群では−264mm(中央値)に減少した。対照的に80μM溶液を与えられた群は、19940mm(中央値)への腫瘍サイズの増大を示した。
【実施例8】
【0156】
未分化星状細胞腫患者の治療におけるオリゴヌクレオチド濃度の効果
本明細書における評価は、標準的治療(手術、放射線療法および抗悪性腫瘍物質を用いる種々の治療)に対して抵抗性であるか、標準的治療後に再発性である未分化星状細胞腫患者におけるTGF−β2特異的オリゴヌクレオチドの10μMと80μM投与を比較するために実施した。患者は実施例2において記載したのと同様に選択した。
【0157】
配列番号5によって同定されるTGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、連続腫瘍内ハイフロー微小灌流として投与した。患者は、前記オリゴヌクレオチドの10μM(11人の患者)および80μM(11人の患者)溶液(0.9%塩化ナトリウム)を用い4μL/分の流速で7日間治療し、続いて7日間薬物を使わない間隔とした(=1サイクル)。患者は最大12サイクルで治療した。
【0158】
図1に示されるように、前記オリゴヌクレオチドの10μM溶液を用いて治療された患者群における、疾患進行による症状(Aesグレード1から4およびSAE)を有する未分化星状細胞腫患者数は、80μM溶液を用いて注入された患者と比較して、驚くほど少なかった。80μM群の11人の患者のうち9人と比較して、10μM群のうち11人のうち1人の患者しか発症しなかった。10μM群では、グレード3の症状しか観察されなかった。80μM群では、6から9の症状がSAE(重篤有害事象)としてグレード付けられ/判断された。
【実施例9】
【0159】
悪性神経膠腫患者の治療における流速の適合性
配列表において配列番号5によって同定されるTGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、連続腫瘍内ハイフロー微小灌流として投与した。患者を前記オリゴヌクレオチドの10μM溶液を用い、それぞれ、24時間で5.75mLおよび57mLを適用する4μL/分および40μL/分の流速で治療した。各流速は十分に耐容され、患者における最大40μL/分の10μM溶液の適用の安全性を実証された。
【実施例10】
【0160】
悪性神経膠腫患者の治療におけるオリゴヌクレオチド濃度の効果
本明細書における評価は、標準的治療(手術、放射線療法および抗悪性腫瘍物質を用いる種々の治療)に対して抵抗性であるか、標準的治療後に再発性である未分化星状細胞腫患者におけるTGF−β2特異的オリゴヌクレオチドの10μM投与を試験するよう設計した。
【0161】
配列番号5によって同定されるTGF−β2のmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、連続腫瘍内ハイフロー微小灌流として投与した。患者を10μMオリゴヌクレオチド溶液(0.9%塩化ナトリウム)を用い、4μL/分の流速で7日間治療し、続いて7日間薬物を使わない間隔とした(=1サイクル)。患者は最大12サイクルで治療した。
【0162】
図2は、4μL/分の流速で適用された前記オリゴヌクレオチドの10μM溶液で治療された3人の未分化星状細胞腫患者における腫瘍サイズの減少を示す。患者番号409(図2A)は、約19cmから治療5ヶ月後の約7cmへの腫瘍サイズの減少を示した。患者番号412(図2B)の腫瘍は、約39cmから前記オリゴヌクレオチドの10μM溶液でのほんの2ヶ月の治療の後、約26cmへと縮小した。患者番号413(図2C)の腫瘍のサイズは、約19cmから前記オリゴヌクレオチドの10μM溶液での治療で約11cmに減少した。
【0163】
対照的に、80μMの濃度の前記オリゴヌクレオチドおよび8μL/分の流速で治療された患者番号17(図2D)は、最初の5ヶ月間で約8cmから約18cmへの腫瘍増殖の増大を示した。
【実施例11】
【0164】
未分化星状細胞腫の患者の生存データ
多国間無作為化実薬対照臨床第2相試験を実施した。適格患者は、標準的治療(手術、放射線および化学療法)に対して抵抗性であるか、標準的治療後に再発性であるAA、WHOグレードIIIを有しており、別の腫瘍切除術に適していなかった。患者には抗腫瘍治療を10日間与えず、その後研究に登録した(オリゴヌクレオチドを用いる治療の開始まで、中央値:42日、10から295日の範囲)。カルノフスキーのパフォーマンスステータス(KPS)は少なくとも70%であった。臨床的に明らかな急性感染、重大な心血管異常またはコントロール不良の発作を有する患者、ならびに妊娠している女性および授乳中の女性は排除した。
【0165】
どの患者にもカテーテルを埋め込み、カテーテルの穴の開いた部分を、腫瘍病変の固形のコントラスト促進領域中に入れた。このカテーテルを、標準バーホールを通って、存在する最大腫瘍病変中に挿入した。
【0166】
ポートシステムは前胸壁の皮下嚢中に埋め込んだ。ポートカテーテルを皮下にトンネルさせ、腫瘍カテーテルに連結させ、ポートを外部ポンプに連結させる。
【0167】
0.9%の塩化ナトリウム溶液に溶解した配列番号5のオリゴヌクレオチドを、ポートを通ってポンプを介し、連続フローで腫瘍中に注入した。オリゴヌクレオチドを用いる治療の2サイクルの間の7日間の間は、1μL/分で等張性生理食塩水を注入した。研究の治療単位の間、ほとんどの患者に術前に予防のための抗生物質を与えたが、予防のためのステロイドは与えなかった。オリゴヌクレオチドは、外部ポンプ装置、PEGASUS(登録商標)Vario(PEGASUS GmbH,Kiel)を用い、連続ハイフロー微小灌流として腫瘍内に投与した。カテーテルおよび適用システムは、全注入期間の最後の時点で除去した。安定性評価については、患者の追跡調査を28日間実施した。本研究者らは、生存データを補正し続けた。
【0168】
38人の患者の生存データを評価し、このうち12人の患者が10μMオリゴヌクレオチド溶液で治療し、14人の患者は80μMで治療し、対照群の12人の患者にはテモゾロマイドまたはPCV(プロカルバジン、CCNUおよびビンクリスチンからなる化学療法計画、より詳細については以下を参照のこと)を用いる標準化学療法を与えた。
【0169】
10μM群では、83.3%の患者は55歳未満であり、80μM群では、85.7%、対照群では91.7%であった。年齢は、患者の転帰に影響を及ぼす予後因子であるとわかっているので、90%を超える若年患者の対照群は、オリゴヌクレオチドを用いて治療された群、特に、10μM濃度のオリゴヌクレオチドを用いた群と比較してより良好な生存の可能性を有していた。このより悪いベースライン状態にもかかわらず、配列番号5のオリゴヌクレオチドを用いた群は、対照群または80μM濃度のオリゴヌクレオチドを用いた群よりも、より高い生存の可能性を有していた。年齢によって調整すると(共分散の分析)、この相違はいっそうより有意となった。
【0170】
また、カルノフスキーのパフォーマンスステータス(KPS)も予後因子として知られている。対照群には、はるかに多い、より高い(=より良好な)KPSを有する患者が含まれていた:KPS>80は、AP10群において66.6%、AP80群において71.4%および対照群において83.3%。性別の分離も異なっていた。10μMオリゴヌクレオチドを用いた群は50%の男性を有しており、80μM群は92.9%の男性を有しており、対照群は50%の男性を有していた。性別は生存の可能性に対する影響を有していないようであり、したがって、このパラメーターについての調整は必要なかった。
【0171】
この研究の結果は表5および図6に表されるとおりである。
【0172】
通常の標準PCVサイクルは、29日の治療期間とこれに続く4週間の治療のない期間からなる。29日の治療期間の間、CCNU、ビンクリスチンおよびプロカルバジンを以下のスキームにしたがって投与する(Levin et al 1990):
1日目 110mg/m2 CCNU経口
8日目および29日目 1日あたり1.4mg/m2(2mg/m2最大)ビンクリスチン静脈内
8日目から21日目 1日あたり60mg/m2プロカルバジン経口
【0173】
【表5】

【0174】
危険率(HR)は、あらゆる時点で2つの群間の生存の可能性を比較する。転帰(生存)は開始時の年齢の相違によって大きく影響を受けるので、この相違は、開始時のこの相違の結果を調節する共変量の分析を適用することによって考慮されなければならない。10μM対対照の1.8の年齢を調整した危険率(HR(年齢))は、いずれかの1人の患者の生存の可能性が、標準化学療法(すなわち、テモゾロマイドまたはPCV=プロカルバジン、CCNUおよびビンクリスチンからなる化学療法計画)を与えられている間、10μMの濃度で配列番号5を与えられた場合には1.8倍高いことを意味する。また、10μMの濃度の配列番号5を与えられている患者の生存の可能性は、80μMの濃度のこのオリゴヌクレオチドを与えられている患者を上回って3.8倍高い。
【実施例12】
【0175】
A−172細胞株におけるTGFβ2分泌に対する種々のオリゴヌクレオチド濃度の比較
細胞培養:ヒト膠芽腫細胞株A−172(受託番号CRL−1620)を、膠芽腫の53歳の男性から確立した。
【0176】
A−172腫瘍細胞を、4.5g/Lグルコースおよび10%(v/v)FCSを有するDMEM培地で、37℃、5%COおよび95%相対湿度で、Cell Line Serviceの使用説明書に従って培養した。TGF−β2抑制を調べるために、40,000個のA−172細胞/ウェルを、12ウェル組織培養プレート中に播種した。播種の6時間後、上清を除去し、5μM、10μMまたは80μMの、配列番号5によって同定されるアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有する細胞培養培地からなる処理溶液で置換した。陰性対照(=未処理細胞)の培地は配列番号5を添加せずに交換した。2日および4日後に交換を反復した。7日目に上清を回収し、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いて分泌されたTGFβ2について分析した。
【0177】
方法:TGF−β2を標準TGF−β2−ELISA−キットによって、製造業者の使用説明書にしたがって定量した。遠心分離(850g、5分)によって上清から細胞成分を取り除いた。TGF−β2分析は、4パラメーターロジスティックを用い、Multiskan Ascent Type 354 200−240Vプレートリーダーで実施した。
【0178】
結果:ヒト膠芽腫細胞株A−172を、1セットのTGF−β2分泌実験において試験し、種々の濃度の配列番号5によって同定されるアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を評価した。A−172細胞は細胞培養条件下でTGF−β2を産生する。細胞処理の期間(7日)ならびに配列番号5の3種の異なる濃度(5μM、10μM、80μM)を選択した。10μMの配列番号5によって同定されるオリゴヌクレオチドが、5および80μMのこのオリゴヌクレオチドと比較して、TGF−β2発現の最良の阻害剤であることがわかった。
【0179】
【表6】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類においてTGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fosおよび/またはプロスタグランジンE2によって調節される疾患の予防および/または治療のための医薬製剤であって、
8から30ヌクレオチドビルディングブロックの長さを有する少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含み、前記オリゴヌクレオチドは、1μMから25μMの濃度であって、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、VEGF、インターロイキン−10、c−jun、c−fosおよび/またはプロスタグランジンE2のメッセンジャーRNAとハイブリッド形成する前記医薬製剤。
【請求項2】
医薬製剤が1μMから15μMの、2.5μMから14μMの、4μMから13μMの、または5μMから12.5μMの濃度のオリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
医薬製剤が20μM、10μMまたは5μMの濃度のオリゴヌクレオチドを含む、請求項1または2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
オリゴヌクレオチドがリボヌクレオチドの2’修飾を有するヌクレオチドを含む、請求項1から3のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項5】
リボヌクレオチドの2’修飾がメトキシ基またはメトキシエチルオキシ基である、請求項4に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記オリゴヌクレオチドが一本鎖オリゴヌクレオチドである、請求項1から5のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項7】
2種の連続したヌクレオチドビルディングブロック間の少なくとも1つの結合がホスホロチオエートまたはメチルホスホネートである、請求項1から6のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項8】
オリゴヌクレオチドが、配列表中、配列番号1から93で同定される配列のうちの1種である、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
癌、転移、神経系の疾患および免疫抑制からなる群から選択される疾患の予防および/または治療のための、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
組織、腫瘍または体腔中に注入液の形態で投与される請求項1から9のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
疾患が、長骨のアダマンチノーマ、腺腫、エナメル上皮腫、星状細胞腫、胆管癌、膀胱癌、骨癌、骨髄癌、脳腫瘍、乳癌、気管支原性肺癌、頸部癌、子宮頸癌、軟骨腫、絨毛癌、結腸癌、結腸直腸癌、嚢胞腺癌、胎生癌、子宮内膜癌、上衣腫、食道癌、線維腫、濾胞性胸腺腫、胆嚢癌、胃癌、膠芽腫、神経膠腫、頭頸部癌、心臓の癌、肝細胞癌、腹膜内腔における癌、腸の癌、腎臓の癌腫、喉頭癌、脂肪腫、肝癌、肺癌、リンパ節の癌、リンパ管の癌、悪性神経膠腫、中皮腫(mesenthelioma)、髄膜腫(menigioma)、髄様癌、筋腫、神経芽腫、非小細胞気管支原性/肺癌、食道癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、乳頭癌、乳頭腺癌、乳頭(papillar)胸腺腫、クロム親和性細胞腫 、前立腺癌、直腸癌、腎癌、腎細胞癌、尿管癌、脂腺癌、セミノーマ、皮膚癌、小細胞肺癌、小腸癌、軟部組織癌、脾臓癌、扁平上皮癌、胃癌、奇形腫、睾丸癌、精巣癌、胸腺腫、甲状腺癌、甲状腺腫瘍および子宮体癌からなる群から選択される腫瘍であるか、あるいは
体腔が関節腔または心室の空間である、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
医薬製剤が4から14日間投与するためのものである、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
医薬製剤が複数の治療単位(course)を投与するためのものである、請求項1から12のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項14】
医薬製剤が2から20回投与するためのものであり、前記治療単位の各々が、1日から12週間、2日から8週間、4日から4週間、または6日から12日の間の間隔で分離して投与するためのものである、請求項13に記載の医薬製剤。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90159(P2010−90159A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280553(P2009−280553)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【分割の表示】特願2007−551691(P2007−551691)の分割
【原出願日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(504282740)アンティセンス ファルマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (8)
【Fターム(参考)】