説明

腫瘍壊死因子結合蛋白質を生産する方法

本発明は、30℃より低い温度において哺乳類細胞からのポリペプチド、特に腫瘍壊死因子結合蛋白質、の遺伝子組み換え生産を増量させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリペプチドの遺伝子組み換え生産の分野に関し、詳しくは哺乳類細胞からのTNF結合蛋白質の遺伝子組み換え生産に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類細胞株は、治療的に重要な蛋白質、例えばモノクローナル抗体、サイトカイン、成長因子及び凝固因子など、を生産するためにバイオテクノロジーで広く用いられている。活性な生成物の高い収率につながる最適なプロセスを与える多様なパラメーターのうち、産生する細胞が細胞サイクルのどの段階にあるかが重要な役割を演ずる可能性がある。産生のために十分な細胞を得るために初期細胞成長が不可欠である場合、ある密度を超えて細胞が増殖すると廃物の蓄積と細胞死が誘発される可能性がある(Goldman et al., 1997; Munzert et al., 1996)。低温培養が細胞増殖のコントロールを可能にする一つの戦略である(Moore et el., 1997; Kaufman et al., 1999)。37℃より低い温度は他の細胞事象に影響すること、例えばグルコース消費、乳酸産生を減らし、おそらくはアポトーシスを遅らせることによって細胞の生存を延ばすこと、が報告されている(Chuppa et al., 1997; Furukawa and Ohsuye, 1998; Moore et al., 1997; Weidermann et al., 1994)。
【0003】
低い培養温度が蛋白質産生に及ぼす影響は、細胞株や用いるプロモーターなど多様なパラメーターに依存する(Barnabe and Butler, 1994; Chuppa et al., 1997; Furukawa and Ohsuye, 1998; Kaufman et al., 1999; Sureshkumar and Mutharasan, 1991; Weidermann et al., 1994)。例えば、37℃より低い温度はハイブリドーマ細胞によるモノクローナル抗体の産生を減少させる(Barnabe and Butler, 1994; Sureshkumar and Mutharasan, 1991;)。このような温度はBHK細胞によるアンチスロンビンIII産生に影響を及ぼさなかったが(Weidermann et al., 1994)、分泌されるアルカリ・ホスファターゼ(Kaufman et al., 1999)、α−アミド化酵素(Furukawa and Ohsuye, 1999; Furukawa and Ohsuye, 1998)、組織プラスノーゲン・アクチベーター(Hendrick et al., 2003)、又はエリスロポエチン(Yoon et al., 2003)を産生する遺伝子組み換えCHO細胞の比生産性を増加させた。
【0004】
ヒトの治療のために開発された組み換え蛋白質の多くは、例えば、エリスロポエチン、インターロイキン-2、インターフェロン-β、免疫グロブリン、又は組織プラスミノーゲン・アクチベーターなど、哺乳類細胞で発現される糖蛋白質である。糖蛋白質の炭水化物成分は、蛋白質の溶解度、安定性、生物活性、免疫原性、及び血流からのクリアランスに決定的な役割を演ずることがある(Jenkins et al., 1996)。N-結合型糖付加(グリコシレーション)の経路は、脂質に結合したオリゴサッカライドの合成から始まり、小胞体における未完成ポリペプチドの特異的アスパラギン残渣へのそのオリゴサッカライドの同時翻訳的な移動、そしてその後の蛋白質が小胞体及びゴルジ体を通過するときのモノサッカライドへの変化、が続く(Hirschberg and Snider, 1987)。オリゴサッカライドの移動は必ずしも常に完了まで進行しないので、蛋白質は異なる糖付加生成物の不均質な混合物として生成される可能性がある。糖付加の程度は、組み換え蛋白質の質に影響を及ぼす可能性があるので、これは一定の質の治療生成物を生産するときに考慮すべき重要なパラメーターである。
【0005】
糖付加は、他の翻訳後修飾、例えばリン酸化やメチル化、と同様に、宿主細胞の酵素機構及び培養条件に依存することが示されている(Gawlitzek et al., 2000; Jenkins et al., 1996; Kaufmann et al., 2001; Nyberg et al., 1999)。試験された細胞培養因子のうち、培地のアンモニア、蛋白質、及び脂質の含有量、pH、及び培養時間の長さ、が糖付加に影響を及ぼすことが示されている(Yang and Butler, 2000; Werner et al., 1998; Castro et al., 1995; Borys et al., 1993; Anderson et al., 2000)。他の研究は、糖蛋白質のオリゴサッカライド・プロファイルが細胞の増殖に依存して変わることを示唆している。Kaufmann et al. は、増殖しているCHO細胞と増殖をコントロールしたCHO細胞によって産生される分泌アルカリ・ホスファターゼ(SEAP)の糖付加プロファイルを比較して、CHO増殖が低い温度で行われたときにSEAPの糖蛋白質のオリゴサッカライド・プロファイルへの影響を示したが、サイクリン依存キナーゼ阻害剤P27の過発現によって増殖がコントロールされたときには何も影響はなかった(Kaufmann et al., 2001)。低温はジシアリル化糖形態の割合を70から80%に増加させた。Anderson et al.は、37℃に対して33℃において、遺伝子組み換えCHO細胞で産生されるヒト組織プラスミノーゲン・アクティベーター(t-PA)のAsn-184における糖付加部位の占有率が増加していることを記述した(Anderson et al., 2000)。転写因子IRF-1によって増殖が抑制されたBHK細胞によって合成されたエリスロポイエチン(EPO)の糖付加で、増殖している細胞に比べて全体的なシアリル化が少し高いことが認められた(Mueller et al., 1999)。
【0006】
米国特許第5,705,364号は、哺乳類細胞培養における糖蛋白質の調製を記載しており、生成される糖蛋白質のシアリル酸含有量が温度を含む細胞培養環境を操作することによって広い範囲の値に制御された。宿主細胞は、カルボン酸又はその塩をある濃度範囲で培養に加え、培養のモル浸透圧濃度(osmolality)を約250〜約600mOsmに維持し、培養の温度を30℃〜35℃に維持することによって培養の生産相(production phase)で培養された。
【0007】
以前の別の研究において、Ducommun et al. (Ducommun et al., 2002)は、遺伝子組み換えCHO細胞を含むパックド・ベッド(packed bed)バイオリアクター・プロセスにおいて温度を37℃から33.5、そして次に32℃に下げることで、37℃で持続的に変わらない場合と比べて、注目の蛋白質の比生産速度を6倍に増加させることができることを示した。
【0008】
WO 0036092は、形質転換された宿主を約27℃から32℃の低温で培養し、それによって誤って折り畳まれた蛋白質形態の量を最小にすることにより、TNFファミリー・レセプター・メンバー(LTβR)に融合されたIgGを高収率で発現させる方法を提供している。
【0009】
EP0764719は、培養細胞の産生能を向上させる方法であって、細胞増殖を可能にする温度で細胞を培養する工程と、次にその動物細胞を30から35℃の温度で培養する工程を含む方法を提供している。
【0010】
WO 03/083066は、組み換えポリペプチドを産生する方法であって、哺乳類細胞株を増殖相(growth phase)で、次に37℃より低い温度(29℃から約36℃まで)で起こる生産相(production phase)で培養する工程と、生産相の間に生産を高めるためにキサンチン誘導体を培地に加える工程を含む方法を提供する。TNFR:Fc、すなわち、TNFRの細胞外ドメインに融合された抗体のFc部分、又はRANK:Fc、すなわち、TNFレセプター・スーパーファミリーRANK(NF-KBのレセプター・アクチベーター)のタイプI膜貫通蛋白質メンバーの細胞外ドメインに融合された抗体のFc部分、の生産の増加が、増加する量のインジューサー(カフェインなどのキサンチン誘導体)の存在下における31℃という最低温のCHO細胞で示された。
【0011】
有力なサイトカインである腫瘍壊死因子-アルファ(TNFα, TNFアルファ)は、細胞表面レセプターに結合することによって媒介される広範な生物的応答を誘発する。
【0012】
TNFアルファは、いくつかの疾病、例えば成人呼吸窮迫症候群、肺線維症、マラリア、感染性肝炎、結核、炎症性腸疾患、敗血性ショック、AIDS、移植片対宿主反応、自己免疫疾患、例えばリュウマチ性関節炎、多発性硬化症、及び若年性糖尿病、及び皮膚遅延型過敏反応障害、に関わっていることが示された。TNFアルファに対する応答の細胞内シグナルが、TNFアルファが高い親和性で結合する二つの異なる分子種の細胞表面レセプター(以下では、TFN-R)から出される。
【0013】
細胞表面のTFN-Rsは体の多くの細胞によって発現される。TNFアルファの多様な効果、細胞毒性効果、増殖促進効果、及びその他の効果は、すべてTNFアルファが結合したときにTFNレセプターから出される信号による。このようなレセプターの二つの形、分子サイズが55及び75キロダルトンと異なる二つの形が報告されている。
【0014】
TNFアルファに対する二つのレセプターは、細胞に結合した形だけでなく、可溶な形としても存在し、無傷のレセプターの開裂した細胞外ドメインから成り、細胞表面形態から蛋白質分解性開裂によってその場で得られる。これらの可溶TNFアルファ・レセプター(sTFN-Rs)はTNFアルファと結合する能力を維持し、細胞表面のレセプターとTNFアルファをめぐって競合し、それによりTNFアルファ活性をブロックする。これらの可溶TNFアルファ・レセプターはTBP(TFN結合蛋白質)とも呼ばれる。
【0015】
TFN結合蛋白質の治療作用の可能性は一般に、体の中に高濃度のTFNが蓄積することによる有害な効果をそれが中和できることに関係する。
【0016】
TNFアルファ・レセプターIは、TFNAR(腫瘍壊死因子アルファ・レセプター)、TFNR1(腫瘍壊死因子レセプター1)、TFNR55、TFNR60、及びTFNRSF1A(腫瘍壊死因子レセプター・スーパーファミリー、メンバー1a)としても知られる。そのcDNAはクローニングされ、核酸の配列は決定されている(Loettscher et al., 1990; Nophar et al., 1990; Smith et al., 1990)。
【0017】
“TBP-1”、TNF結合蛋白質1、という用語は,本明細書で用いる場合、ヒトTNFレセプター1の細胞外可溶断片(p55 sTNF-R)であって、Nophar et al.(Nophar et al., 1990)の20〜180のアミノ酸断片に対応するアミノ酸配列を含む断片に関する。この蛋白質の国際一般名(INN)は“オネルセプト(onercept)”である。
【0018】
オネルセプトは、いくつかの疾病、例えば再灌流傷害、男性不妊症、子宮内膜症、炎症、多発性硬化症、マラリア原虫感染、乾癬、リュウマチ性関節炎、自己免疫疾患、悪液質、移植拒絶反応、敗血症ショック、及びクローン病、などの治療の可能性を求めて開発されている。
【0019】
TNFアルファ・レセプターIIは、TNFRSF1B(腫瘍壊死因子レセプター・サブファミリー、メンバー1b)、TNFR2(腫瘍壊死因子レセプター2)、TNFBR(腫瘍壊死因子、ベータ・レセプター)、TNFR75及びTNFR80としても知られている。Schall et al.は、精製された蛋白質からのアミノ酸配列に基づくオリゴマー・プローブを用いてTNFR2に対応するcDNAを単離した(Schall et al., 1990)。このレセプターは、単一の膜ドメインを含む415アミノ酸のポリペプチドをコードし、細胞外ドメインは神経成長因子レセプター及びB細胞アクチベーター蛋白質Bp50と類似の配列を有する。
【0020】
“TBP-2”、TNF結合蛋白質2、という用語は,本明細書で用いる場合、ヒトTNFレセプター2の細胞外可溶断片(p75 sTNF-R)であって、全長レセプターの1〜235のアミノ酸断片に対応するアミノ酸配列を含む断片に関する。
【0021】
ポリペプチドをベースとする薬の開発と商業化には、大量のポリペプチドが必要である。したがって、例えば最も多い種に関する糖付加などで、ポリペプチドの質を変えることなく組み換えポリペプチドの収量を絶えず改善することが必要とされている。
【発明の開示】
【0022】
発明の概要
本発明は、37から25℃の温度範囲におけるCHO細胞によるTBP-1の最適産生温度の解明に基づいている。この一連の実験は、29℃より低い温度で行われる生産相が糖付加に関する質を変えることなくTBP-1の収量を大きく改善することを示した。
【0023】
このように、本発明の第一の目的は、組み換えポリペプチドを生産する方法であって、組み換えポリペプチドを発現する哺乳類細胞株を29℃より低い温度の生産相で培養する工程を含み、ポリペプチドが好ましくは腫瘍壊死因子結合蛋白質(TBP)であることを特徴とする方法を提供することである。
【0024】
本発明の第二の様態は、蛋白質の生産のための24、又は25又は26又は27又は28又は29℃という温度の利用に関する。
【0025】
本発明の第三の様態では、得られるポリペプチドは単糖付加されている。
【0026】
本発明の第四の様態は、単糖付加蛋白質とその二糖付加及び三糖付加形態の混合物を含む組成物に関する。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明の範囲において、温度を37℃から29℃以下に下げると組み換えCHO細胞の生産性に有益な効果があり、合成される糖蛋白質、特にTBP-1、の量が10倍以上増加し、しかも最も多い種(二糖付加二分岐型)に関する糖付加という点でその質にはあまり影響がないことが見出された。
【0028】
したがって、本発明は組み換えポリペプチドを生産する方法であって、組み換えポリペプチドを発現する哺乳類細胞株を29℃以下の温度において生産相で培養する工程を含む方法に関する。
【0029】
本発明の文脈において、“細胞”、“細胞株”、及び“細胞培養液”という表現は互換的に用いられ、これらの呼称はすべて子孫を含む。
【0030】
“生産相”という用語は、細胞が多量の組み換えポリペプチドを生産している期間を意味する。生産相は、増殖相に比べて細胞分裂が少なく、ポリペプチド生産を最大にするように設計された培地と培養条件を利用することを特徴とする。
【0031】
好ましくは、本発明はヒトTNF結合蛋白質(TBP)を生産する方法に関し、最も好ましくは組み換えヒトTBP-1又はTBP-2、又はその突然変異蛋白質、塩、アイソフォーム、融合蛋白質、機能的誘導体、活性な断片、を生産する方法に関する。
【0032】
本明細書で用いる場合、“TBP-1”、TNF結合蛋白質-1,という用語は、ヒトTNFレセプター1の細胞外可溶断片に関し、Nophar et al. (Nophar et al., 1990)の20〜180のアミノ酸断片に対応するアミノ酸配列を含み、その国際一般名は“オネルセプト”である。ヒトTBP-1の配列は本明細書で、付随する配列リストのSEQ ID NO: 1として報告される。
【0033】
本明細書で用いる場合、“TBP-2”、TNF結合蛋白質-2,という用語は、ヒトTNFレセプター2の細胞外可溶断片(p75 sTNF-R)に関し、1〜235のアミノ酸断片(Smith et al., 1990)に対応するアミノ酸配列を含む。ヒトTBP-2の配列は、本明細書では、付随する配列リストのSEQ ID NO: 2として報告される。
【0034】
ある好ましい実施形態では、哺乳類細胞は
(a) SEQ ID NO: 1を含むポリペプチド;
(b) (a)の突然変異蛋白質、ここでアミノ酸配列は、(a)の配列に対して少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する;
(h) (a)の突然変異蛋白質であって、中程度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件の下で(a)をコードする自生のDNA配列の補体にハイブリダイズするDNA配列によってコードされるもの;
(i) (a)の突然変異蛋白質であって、アミノ酸配列の変化は(a)のアミノ酸配列に対する同類アミノ酸置換であるもの;
(j) (a)の塩、アイソフォーム、融合蛋白質、機能的誘導体、活性な断片、又は改変された円順列変異(circularly permutated)誘導体;
から成る群から選択されるTBP-1をコードするDNA配列を含む。
【0035】
別の好ましい実施形態では、哺乳類細胞株は
(a) SEQ ID NO: 2を含むポリペプチド;
(b) (a)の突然変異蛋白質、ここでアミノ酸配列は、(a)の配列に対して少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%の同一性を有する;
(h) (a)の突然変異蛋白質であって、中程度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件の下で(a)をコードする自生のDNA配列の補体にハイブリダイズするDNA配列によってコードされるもの;
(i) (a)の突然変異蛋白質であって、アミノ酸配列の変化は(a)のアミノ酸配列に対する同類アミノ酸置換であるもの;
(j) (a)の塩、アイソフォーム、融合蛋白質、機能的誘導体、活性な断片、又は改変された(円順列変異(circularly permutated))誘導体;
から成る群から選択されるTBP-2をコードするDNA配列を含む。
【0036】
本明細書で用いる場合、“突然変異蛋白質”という用語は、TBP-1又はTBP-2の類似体であって、天然のTBP-1又はTBP-2の一つ以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸残基に取り替えられ、又は欠失し、又は一つ以上のアミノ酸残基が天然のTBP-1又はTBP-2の配列に付加され、得られた産物の活性が野生タイプのTBP-1又はTBP-2に比べてあまり変化していないものを指す。これらの突然変異蛋白質は、公知の合成方法、及び/又は部位特異的突然変異誘発方法によって、又は他のそれに適した方法によって調製される。本発明の枠内で、“突然変異蛋白質”という用語は免疫グロブリン(Ig)融合蛋白質を包含しない。
【0037】
本発明に従って用いることができるTBP-1又はTBP-2の突然変異蛋白質、又はそれをコードする核酸は、本明細書に示された教示と指針に基づいて当業者が過大な実験をすることなく日常業務として得ることができる置換ペプチド又はポリペプチドとして実質的に対応する配列の有限なセットを含む。
【0038】
本発明による突然変異蛋白質は、本発明に従ってTBP-1又はTBP-2をコードするDNA又はRNAに中程度又は高度にストリンジェントな条件の下でハイブリダイズするDNA又はRNAなどの核酸によってコードされる蛋白質を含む。“ストリンジェントな条件”という用語は、当業者が通常“ストリンジェント”と呼ぶハイブリダイゼーションとその後の洗浄の条件を指す。Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, supra, Interscience, N.Y., §§6.3 and 6.4 (1987, 1992), 及びSambrook et al. (Sambrook, J. C., Fritsch, E. F., and Maniatis, T. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY) を参照のこと。
【0039】
制限することなく、ストリンジェントな条件は、問題としているハイブリッドの計算されたTmよりも12〜20℃低い洗浄条件を含む、例えば、2 x SSC及び0.5% SDSで5分、2 x SSC及び0.1% SDSで15分;0.1 x SSC及び0.5% SDSで37℃において30〜60分、その後、0.1 x SSC及び0.5% SDSで68℃において30〜60分。ストリンジェンシー条件がDNA配列、オリゴヌクレオチド・プローブ(例えば、10-40塩基)又は混合オリゴヌクレオチド・プローブの長さにも依存することは、当業者には理解されるであろう。混合プローブが用いられる場合、SSCよりもテトラメチル塩化アンモニウム(TMAC)を用いることが好ましい。Ausubel、前出、を参照のこと。
【0040】
ある好ましい実施形態では、このような突然変異蛋白質は、付随する配列リストのSEQ ID NO: 1又は2の配列と少なくとも40%の同一性又は相同性を有する。さらに好ましくは、それと少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、の同一性又は相同性を有する。
【0041】
同一性は、二つ以上のポリペプチド配列、又は二つ以上のポリヌクレオチド配列、の間にある、配列を比較して決定される関係を反映する。一般に、同一性とは、比較される配列の全長にわたる、二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列の、それぞれ、ヌクレオチド対ヌクレオチド又はアミノ酸対アミノ酸の厳密な対応を指す。
【0042】
厳密な対応が存在しない配列の場合、“%同一性”を決定することができる。一般に、比較される二つの配列を整列させて配列の間に最大の相関が得られるようにする。いずれか一方又は両方の配列に“ギャップ”を挿入して整列の度合いを強めることも含まれる。%同一性は、比較される配列の各々の全長にわたって決定される場合(いわゆるグローバル整列)もあり、これは同じ又は非常に近い長さの配列で特に適当であり、又はもっと短い、定められた長さにわたって決定される場合(いわゆる、ローカル整列)もあり、これは長さが等しくない配列で適当である。
【0043】
二つ以上の配列の同一性及び相同性を比較する方法は当業者には周知である。例えば、Wisconsin Sequence Analysis Package, version 9 (Devereux et al., 1984) にあるプログラム、例えばBESTFIT及びGAPなどのプログラム、を用いて、二つのポリヌクレオチドの間の%同一性、及び二つのポリペプチド配列の間の%同一性と%相同性を決定することができる。BESTFITは、Smith と Waterman (Smith and Waterman, 1981)の“局所的相同性”アルゴリズムを用いて、二つの配列の間の最良の単一類似領域を見つける。配列の間の同一性及び/又は類似性を決定する他のプログラムも当業者には公知である、例えば、BLAST系列のプログラム(Altschul et al., 1990; Altschul et al., 1997)これはwww.ncbi.nim.nih.govでNCBIのホームページからアクセスできる)及びFASTA (Pearson, 1990; Pearson and Lipman, 1988)。
【0044】
本発明による突然変異蛋白質の好ましい変化は“同類”置換と呼ばれるものである。TBP-1又はTBP-2ポリペプチドの同類アミノ酸置換としては、十分に類似した物理化学的性質を有するグループで、グループのメンバーの間の置換によって分子の生物的機能が保存される同義的アミノ酸置換が含まれる(Grantham, 1974; Pearson, 1990; Pearson, 1990)。上で定義された配列で、その機能を変化させることなしにアミノ酸の挿入と欠失も可能であり、特に挿入や欠失が少数のアミノ酸、例えば30未満の、好ましくは10未満のアミノ酸しか含まず、機能的なコンフォメーションに重要なアミノ酸、例えばシステイン残基、を除去又は移動していない場合には可能であることは明らかである。このような欠失及び/又は挿入によって生ずる蛋白質及び突然変異蛋白質は本発明の範囲内にある。
【0045】
本発明によるTBP-1又はTBP-2の“断片”とは、分子のサブセット、すなわち、もっと短いペプチドであって、所望の生物的活性を保持しているものを指す。
【0046】
本発明の枠内で、グルコースは37℃、34℃、及び32℃では、もっと低い温度(29及び25℃)におけるよりもずっと速く代謝され、その消費は30℃を超える温度で4日間の培養でほぼ完全になることが見出された。グルコースのこの減少は高い温度での乳酸の産生の増加と相関していた。温度が低下すると共に比生産性が増加し、29℃で最適になって37℃で得られるものの10 倍を超える増加となった。37℃での低い生産性は、培地のグルコース濃度を高くしても生産性が増加しないことによって示されるように、培地のグルコースの欠乏によるものではなかった。
【0047】
したがって、ある好ましい実施形態では、哺乳類細胞が20℃からまでの温度で培養される。細胞は、約20、21、22、23、24、25、26、27、28、又は29℃で培養される。さらに好ましくは、本発明の方法は約25〜29℃の温度で実行される。
【0048】
哺乳類細胞は、約29℃の温度で培養されることがきわめて好ましい。
【0049】
本発明の方法は、任意の哺乳類細胞発現システムで実施できる。好ましくは、本発明による哺乳類細胞株は、VERO、HeLa、3T3、CV1、MDCK、BHK、ヒト腎細胞293、そしてさらに好ましくはCHO細胞株である。ヒト細胞株、例えばヒト腎細胞293、も本発明に従って培養できる。
【0050】
本発明のある好ましい実施形態では、生産相で用いられる培地は血清を含まない。
【0051】
細胞培養培地は、一般に、培地が哺乳類を源とする化合物(例えば、ウシ胎児血清(FBS))を本質的に含まず、細胞成長に最低不可欠な物質を含むとき、“血清を含まない”。“本質的に含まない”とは、細胞培養培地が、約0-5%の血清、好ましくは約0-1%の血清、最も好ましくは約0-0.1%の血清、しか含まないということを意味する。血清を含まない、化学的に“確定した”培地で、培地中の各成分の名前と濃度が知られている(すなわち、ウシ下垂体抽出物(BPE)などの確定していない成分が培地に存在しない)ものを用いることが有利である。このタイプの培地は細胞の増殖や望んでいない細胞の活性化に影響しそうな余分な物質の存在を回避できる。
【0052】
本発明はさらに、培地からのポリペプチドの収集と回収のためのプロセスに関する。
【0053】
好ましくは、この方法はさらに、ポリペプチドを望まれない培地や細胞由来の成分から精製する工程を含む。
【0054】
本発明はさらに、精製されたポリペプチドを医薬的に許容される担体によって処方する工程を含む。製剤は、好ましくは、人間に投与するためのものである。
【0055】
“医薬的に許容される”という用語の定義は、活性成分の生物活性の有効性を妨げず、それが投与される宿主に有毒でない任意の担体を包含するものとする。例えば、非経口投与の場合、活性蛋白質は、塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン及びリンゲル液などのビヒクルで注射するためのユニット投薬形態に製剤できる。
【0056】
本発明の別の様態は、蛋白質の生産のための24、25、26、27、28、又は29℃という温度の利用に関する。
【0057】
TBP-1は、三つの推定錯体タイプのアスパラギン残基上のN-リンク糖付加部位を有する糖蛋白質であり、主なアイソフォームは二つの糖付加部位が占有されている分子に対応する。蛋白質の糖付加は蛋白質の性質を著しく変え、糖付加パタンは培養条件が変わると変化するので、多様な温度条件の下で分泌されたTBP-1が質量分析によって糖付加に関して分析された。分子の糖付加は、最も多い種、すなわち、二糖付加二分岐分子、の比率という点で、試験されたすべての温度で同程度であり、培地のグルコース濃度によって影響されないということが見出された。しかし、低い温度では、いくつかのマイナーな形態、例えば部分的に糖付加された分子種、の比率が増加した。これらの結果は、S-インデックスによって確認された。S-インデックスは、質量分析(MALDI-TOF)からの生のデータ・スペクトルから主たるオリゴサッカライド種のイオンの相対強度を考慮して計算された蛋白質の全体的なシアリル化の指標である。
【0058】
したがって、本発明の別の様態は、上述のプロセスによって得られるポリペプチドに関し、ポリペプチドは好ましくは単糖付加されている。本発明の発明者は、単糖付加されたTBP-1の生産のための細胞培養方法をはじめて見出した。好ましくは、本発明のポリペプチドはS-インデックスが195より高く、好ましくは200より高く、好ましくは200より高く、好ましくは250より高く、好ましくは260より高く、又は、好ましくは265より高い。
【0059】
本発明はさらに、ポリペプチドの単糖、二糖及び三糖付加形態を含む組成物に関する。ポリペプチドは、好ましくは組み換えヒトTBP-1である。
【0060】
本発明について十分に説明したので、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、過剰に実験を行うことなく、同じことが広い範囲の等価なパラメーター、濃度、及び条件で実行できることが当業者により理解されるであろう。
【0061】
本発明をその特定の実施形態に関して説明してきたが、さらに変更が可能であることは言うまでもない。本出願は、一般に本発明の原理に従い、本発明に関わる分野で公知の又は慣習的なやり方であるような逸脱であって、以下に添付された特許請求の範囲で述べられている本質的な特徴にあてはまる逸脱を含む本発明の変型、利用、又は適合を含むものとする。
【0062】
本明細書において引用されたすべての参照文献は、学術雑誌の論文や概要、公開又は未公開の米国又は外国の特許出願、米国又は外国の特許、又は他の参照文献を含めて、全体が参照によって、引用文献のすべてのデータ、表、図、及び本文を含めて、本明細書に組み込まれる。さらに、ここで引用された参照文献の中で引用された参照文献の全内容も参照によって全体が本明細書に組み込まれる。
【0063】
公知の方法の工程、従来の方法の工程、公知の方法、又は従来の方法、への言及はいかなる意味でも、本発明の様態、記述、又は実施形態が関連技術において開示、教示、又は示唆されたということを認めるものではない。
【0064】
特定の実施形態についてのこれまでの記述は本発明の一般的な特徴を十分に明らかにしているので、当業者の知識を(ここで引用した参照文献の内容も含めて)応用することによって、他の人たちも過大な実験をすることなく、本発明の一般的なコンセプトから逸脱することなく、これらの特定の実施形態を多様な用途のために容易に変更及び/又は適合させることができる。したがって、このような適合や変更は、本明細書で述べた教示と指針に基づいて、開示された実施形態の等価物という意味と範囲に含まれるものとする。本明細書における言い方や用語は説明のためのものであり、制限することを目的とせず、本明細書における用語や言い方は、当業者の知識と組み合わせてここで述べた教示と指針に照らして解釈されるものとする。
【実施例】
【0065】
材料と方法
以下の実験で用いられる細胞株は、遺伝子組み換えによって組み換えTBP-1を分泌するようにした中国ハムスター卵巣(CHO)細胞株である(Laboratories Serono S.A., Corsier-sur-Vevey, Switzerland)。細胞は2.5 g/L又は4 g/Lのグルコースを含み、血清を含まない培地で培養された。
【0066】
組織培養フラスコ(TCF)での培養
37℃での細胞培養培地における増殖後、細胞は遠心分離され、新鮮な培地に0.6 x 106細胞/mlの濃度で再懸濁された。次に、細胞は組織培養フラスコ(TCF: Corning, 25及び175 cm3)に移され、25、29、32、34、及び37℃で、空気中5% CO2の加湿雰囲気中で培養がバッチ・モードで行われた。作業体積は、TCF25で10ml、TCF175で120mlであった。
【0067】
5Lバイオリアクターにおける培養
細胞は、最大作業体積3.5Lの公称体積5Lのバイオリアクター(Celligen Plus, New Brunswick Scientific, Edison, USA)においてフェドバッチ・モードで育成された。増殖相は37℃で行われ、生産相は温度を34、31又は29℃にスイッチした後でスタートした。
【0068】
実施例1:細胞密度と代謝分析
実験デザイン
細胞代謝活動を決定するための実験はTCF25で行われた。各温度で7レプリケートがインキュベートされ、7日間毎日、各温度の一つのTFCを試験して細胞密度、生存力、グルコース消費、乳酸産生、及び生産性が調べられた。
【0069】
細胞密度の測定と代謝分析(グルコース、乳酸、生産性)が毎日行われた。細胞カウントはトリパンブルー排除法(0.4% Sigma)によって行われた。グルコースと乳酸の濃度は、濾過(0.8/0.2μmフィルター、Gelman)されたアリコットでEMLアナライザー(Radiometer Medical A/S, Brenhej, Denmark)を用いて決定された。CHO細胞株によって生産された糖付加蛋白質が免疫分析によって定量化され、結果は相対単位で表された。一日あたりの比生産性(pcd)は、量対積分された生存細胞の線形回帰の傾斜から得られた。
【0070】
結果
多様な温度におけるグルコースと乳酸の濃度(図1)
TCF中で0.6 x 106/mlという密度の細胞が、2.5g/Lのグルコースを含み血清を含まない培地において、25、29、32、34、又は37℃で、空気中5%CO2の加湿雰囲気で1日〜7日間、インキュベートされた。すべての温度で、細胞増殖はほとんどなく、細胞密度は0.6〜0.8 x 106/mlという密度にとどまり、最初の4〜5日間は良い生存率を示した(データは示されない)。
【0071】
多様な培養が、グルコース消費と乳酸産生に関して調べられた。温度が高くなるにつれてこれらのパラメーターは増大した。図1に示されているように、グルコース濃度は、高い方の温度では急速に、37℃で2日目、34℃で3日目、32℃で4日目に、0.5g/Lよりも低く低下した。グルコース濃度の低下は、ほぼ1.5g/Lまでの乳酸の生産増加と相関していた。25及び29℃では、グルコース消費と乳酸産生は非常に低かった:グルコース濃度は1.5g/Lよりも高いままで、乳酸の産生は0.25 g/Lより低かった。
【0072】
多様な温度でのTBP-1の量(titer)(図2)
培地1mlあたり分泌される蛋白質の量が各温度で調べられた。量は、最大値を100に設定して規格化された。図2に示されているように、量は32から37℃の間で減少し、この温度では蛋白質はほとんど分泌されなかった。25と29℃ではもっと高い生産性が得られ、29℃で最良の結果が得られた。
【0073】
比生産性(図3)
比生産性は培養中に存在する生存細胞の数を考慮に入れて分析された。最大値を100に設定して結果を規格化した。同じ条件の下で行われた二つの実験について図3に示されているように、最良の比生産性は29℃で得られ、その値は37℃での値より10倍以上高かった。
【0074】
時間の関数としてのグルコース及び乳酸の濃度、高(4g/L)及び標準(2.5g/L)グルコース培地
前の実験は、低い温度で高い生産性が得られるということを示した。高い温度でグルコース消費と乳酸生産が増加し、37℃で培養のグルコースは急速に欠乏するので、高い温度で見られる低い生産性が培地中の栄養(すなわち、グルコース)の欠乏によるものではないことを確認するための実験が行われた。このために、0.6 x 106細胞/mlがTCF中で29及び37℃において1〜7日間血清を含まない、4g/Lのグルコース(高グルコース)又は2.5g/Lのグルコース(標準グルコース)を含む培地でインキュベートされた。
【0075】
培地中のグルコース濃度破砕帽の増殖や生存に何も影響がなかった(データは示されない)。
【0076】
グルコース消費と乳酸生産は37℃で高く29℃で低かった(図4)。37℃で、最初の培地中のグルコース濃度に関わりなく同程度の量のグルコースが消費され、標準グルコース培地では濃度が2日目に0.5g/Lよりも低くなったが、高グルコース培地では砂糖濃度は6日目まで1.5g/L以上にとどまっていた。29℃では、グルコース濃度は高グルコースの培養で3g/Lよりも高いままであった。29℃で標準グルコースの場合、3日目と7日目の間のグルコース濃度は、高グルコースで37℃で得られた濃度と同程度であった(1.9から1.35g/Lまでの間)。
【0077】
時間の関数としてのTBP-1の量(titer),高(4g/L)及び標準(2.5g/L)グルコース培地
【0078】
高グルコース培地で分泌される組み換え蛋白質の量は、量(titer)測定(図5)に示されているように標準グルコース培地で分泌される量とあまり差がなかった。どちらの場合も、生産された蛋白質の量は、29℃では37℃における量より10倍超高かったが、37℃で高グルコース含有培地に残っているグルコースの濃度は29℃で標準培地での濃度とほぼ同程度であった(~1.5g/L)。これは、37℃で観測される低生産性が培地のグルコース欠乏によるものでなかったことを示す。
【0079】
時間の関数としてのTBP-1の比生産性,高(4g/L)及び標準(2.5g/L)グルコース培地
比生産性は、標準及び高グルコース培地のどちらにおいても、29℃で急激に増加した。
【0080】
実施例2:分子の質の分析
実験デザイン
質量分析によって分子の質を決定する実験がTCF175で行われた。三重複サンプルが25、29、32、34、及び37℃で標準グルコース(2.5g/L)又は高グルコース(4g/L)培地で7日間インキュベートされた。次に、上澄みをプールし、0.8/0.2μmフィルターで濾過し、-70℃で凍結させた後、TBP-1が固定金属イオン・アフィニティー・クロマトグラフィー・カラム(IMAC)で捕集された。
【0081】
糖付加に関する分子の質が、部分的に精製された蛋白質について質量分析(MALDI-TOF)(Harvey, 1996)によって調べられた。MALDI-TOFは、個々のオリゴサッカライド鎖のタイプと比率に関する半定量的な情報を与え、例えば、どの分岐(antennae)がシアル酸付加されているかを決定できる。TBP-1は、三つの推定N-結合糖付加部位ヲアスパラギン残基に有し、主なアイソフォームは二つの糖付加部位が占有されている分子に対応する。分子上に存在するグリカン(glycan)は錯体タイプであり、共通コアが5モノサッカライドから構成される(2N-アセチルグルコサミン&3マンノース)。このコア構造に異なる糖(分岐)が付加され、シアル酸はその端にアル。シアル酸の数は変動し、それが糖付加の不均質性の原因になっている。すべてのグルカンはフコシル化されており、主な構造はシアル酸付加の比率が異なる二分岐フコシル化分子種である。
【0082】
質量分析のための分取精製
蛋白質の部分的精製が質量分析による分析を可能にするために必要であった。凍結されたサンプルが4℃で解凍され、0.22μmのフィルターで濾過された。濾液がIMACカラムにロードされた。溶出後、300-500μgのTBP-1のアリコットが質量分析で分析された。
【0083】
質量分析
用いた方法はMALDI-TOF MS (Matrix Assisted Laser Desorption Ionisation-Time of Flight Mass Spectrometry)である。
【0084】
MALDI-TOF質量スペクトルは、337-nm窒素レーザー、レフレクトロン、及び遅延抽出システムを備えたBiflex II質量分析計(Bruker-Franzen Analytik GmBH, Brem, Germany)で取得された。このシステムは、正の直線イオン・モードで運転された。マトリックスは、アセトニトリル/エタノール(50/50)中10mg/mlの濃度の2,6-ジヒドロキシアセトフェノンと1M クエン酸アンモニウムの混合物(11/1, v/v)であった。被分析物はマトリックスと混合され(1/10, v/v)、標的にデポジットされた。混合物は室温で放置して乾燥させた。
【0085】
S-インデックスの決定
S-インデックスとは、蛋白質の全体的なシアル酸付加レベルの指標であり、最も多いオリゴサッカライド分子種ファミリー(0から4個のシアル酸を含む二糖付加二分岐形態)の分析から計算される。
【0086】
S-インデックスの決定は、糖蛋白質全体につて行われる。これは、質量分析(MALDI-TOF)からの生のデータ・スペクトルから、メイン分子種のイオンの相対強度を考慮して計算される:
A = 蛋白質+2分岐−フコース0シアル酸
B = 蛋白質+2分岐−フコース1シアル酸
C = 蛋白質+2分岐−フコース2シアル酸
D = 蛋白質+2分岐−フコース3シアル酸
E = 蛋白質+2分岐−フコース4シアル酸
【0087】
S-インデックスは、これら4つの種の各々の相対強度(pA、pB、pC、pD、pE = A、B、C、D、Eのパーセント存在量)にシアル酸の数を乗じた値の和として定義される:
S-インデックス = [(pA*0) + (pB*1) + (pC*2) + (pD*3) + (pE*4) ]
【0088】
結果
質量分析
図7と図8に示されているように、分子の糖付加は、最も多い種である二糖付加二分岐型を考えると、すべての温度ですべて全体として同等であり(シアル酸付加の度合いが同じ)、培地のグルコース濃度の差によって影響されない。同じことは三糖付加形態にもあてはまる。蛋白質の単糖付加形態が低い温度で有利になり、微量の糖付加されない形態が検出される。
【0089】
S-インデックスの決定
これらの結果は、蛋白質の全体的なシアル酸付加レベルの指標であるS-インデックスの、生データのスペクトルからの計算によって確認された。表1に示されているように、試験されたすべてのサンプルのS-インデックスは234と264の間に含まれていた。
【0090】
表1:温度とグルコース濃度の関数としてのS-インデックス。HG = 高グルコース(すなわち、4g/L);その他のサンプルは2.5g/Lのグルコースを含む培地で行われた培養によるもの。
【表1】

【0091】
結論として、温度を37℃から29℃に下げることは、組み換えCHO細胞の生産性に有益な効果があり、分泌される糖蛋白質の量を10倍より大きく増加させ、最も多い種(二糖付加二分岐型)に関する糖付加という点で質に変化を生じない。
【0092】
実施例3:5L規模でのTBP-1フェドバッチ(fed-batch)生産
実験デザイン
5L規模のフェドバッチ・プロセスで、他のすべてのパラメーターを一定に保って三つの異なる生産温度を比較する温度研究が行われた。血清を含まない培地で、三回のランが37℃での増殖相と29℃(ラン1)、31℃(ラン2)、及び34℃(ラン3)の生産相で行われた。
【0093】
培養の6日目から、22又は24日目まで、各ランは一日おきにTBP-1生産性が調べられた。
【0094】
CHO細胞株によって生産される糖付加蛋白質は、免疫測定法を用いて定量化され、結果は規格化された量(titer)として表された(29℃で行われたランの24日目に得られた最後の値が100に設定された)。
【0095】
比生産性は、培養に生存している細胞の数を考慮に入れて分析された。最大値を100に設定して結果を規格化した。
【0096】
TBP-1の質は、実施例2で述べた方法によってS-インデックスを決定することによって評価された。
【0097】
結果
異なる温度でのTBP-1の量
血清を含まない培地で行われた三つのランで得られた量が図9に示されている。量は温度が低下すると共に増加することが示されている。最良の結果は、29℃で得られた。この温度で、量の値は14日目にもっと高い温度での他の二つの実験に比べて顕著に高くなった。
【0098】
比生産性
多様な温度におけるTBP-1生産細胞の比生産性は、培養に生存している細胞の数を考慮に入れて分析された。生存している細胞の密度は三つの温度で同様の傾向を示し、生存率が同じように減少して18日目と20日目の間で40%未満に低下した(データは示されない)。比生産性を下の表2に示す。最大値を100に設定することで結果を規格化した。
【表2】

【0099】
最良の比生産性は29℃で得られ、34℃で得られた値に比べて45%増加した。
【0100】
S-インデックスの決定
21日目に収穫されたサンプルのCu-キレート化 Sepharose FF カラムでの捕集工程後のTBP-1の質に関するデータ(S-インデックス)を表3に示す。
【表3】

【0101】
【表4】

【表5】

【表6】

【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】25℃、29℃、32℃、34℃、又は37℃の多様な培養のグルコース消費と乳酸塩の産生を示す。
【図2】各温度(25℃、29℃、32℃、34℃、及び37℃)で試験された培地1mlあたり分泌されるTBP-1の量を示す。量(titer)は最大値を100に設定して規格化された。
【図3】多様な温度におけるTBP-1の比生産性を示す。pcd(細胞一日あたりピコグラム)で表された比生産性は最大値を100に設定して規格化された。同じ条件の下で行われた二つの別々の実験(Exp.1とExp.2)が示されている。
【図4】グルコースと乳酸の濃度を時間の関数として、高(4 g/L)及び標準(2.5 g/L)グルコース培地について示す。
【図5】TBP-1の量(titer)を時間の関数として、高(4 g/L)及び標準(2.5 g/L)グルコース培地について示す。量は最大値を100に設定して規格化された。HG=高グルコース
【図6】TBP-1の比生産性を時間の関数として、高(4 g/L)及び標準(2.5 g/L)グルコース培地について示す。量は最大値を100に設定して規格化された。HG=高グルコース
【図7】温度の関数としての質量分析計(MS)プロファイルを示す。0 = 0シアル酸、1 = 1シアル酸;2 = 2シアル酸;3 = 3シアル酸;4 = 4シアル酸。
【図8】標準(2.5 g/L)及び高(4 g/L)グルコース細胞培地から得られたサンプルの質量分析計(MS)プロファイルを示す。HG = 高グルコース。
【図9】5L規模のフェドバッチ(fed-batch)開発中の異なる生産温度でのTBP-1の量(titer)を示す。規格化されたTBP-1の量が、6日から24日まで、29℃(ラン1)、31℃(ラン2)、及び34℃(ラン3)、で示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換えポリペプチドを生産する方法であって、哺乳類細胞株を培養する工程を含み、該細胞株が29℃以下の温度で生産相において組み換えポリペプチドを発現することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ポリペプチドが腫瘍壊死結合蛋白質(TBP)、又はその突然変異蛋白質、又は断片であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリペプチドが組み換えヒトTBP-1又はTBP-2であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳類細胞株が
(a) SEQ ID NO: 1を含むポリペプチド;
(b) (a)の突然変異蛋白質であって、アミノ酸配列が(a)の配列に対して少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%同一性を有するもの;
(h) (a)の突然変異蛋白質であって、中程度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件の下で(a)をコードする自生のDNAの補体にハイブリダイズするDNA配列によってコードされるもの;
(i) (a)の突然変異蛋白質であって、アミノ酸配列における変化が、(a)のアミノ酸配列に対する同類アミノ酸置換であるもの;
(j) (a)の塩、又はアイソフォーム、融合蛋白質、機能的誘導体、活性断片、又は円順列変異誘導体;
から成る群から選択されるTBP-1をコードするDNA配列を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳類細胞株が
(a) SEQ ID NO: 2を含むポリペプチド;
(b) (a)の突然変異蛋白質であって、アミノ酸配列が(a)の配列に対して少なくとも40%又は50%又は60%又は70%又は80%又は90%同一性を有するもの;
(h) (a)の突然変異蛋白質であって、中程度にストリンジェントな条件又は高度にストリンジェントな条件の下で(a)をコードする自生のDNAの補体にハイブリダイズするDNA配列によってコードされるもの;
(i) (a)の突然変異蛋白質であって、アミノ酸配列における変化が、(a)のアミノ酸配列に対する同類アミノ酸置換であるもの;
(j) (a)の塩、又はアイソフォーム、融合蛋白質、機能的誘導体、活性断片、又は円順列変異誘導体;
から成る群から選択されるTBP-2をコードするDNA配列を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳類細胞が20℃から29℃までの間の温度で培養されることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記哺乳類細胞が約25〜29℃の温度で培養されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記哺乳類細胞が約26℃、又は約27℃、又は約28℃の温度で培養されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記哺乳類細胞が約29℃の温度で培養されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳類細胞がCHO細胞株であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記生産相で用いられる培地が血清を含まないことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
さらに、前記培地からポリペプチドを回収する工程を含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
さらに、培地又は細胞由来成分からのポリペプチドを精製する工程を含む請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
さらに、精製されたポリペプチドを医薬的に許容される担体とともに処方する工程を含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
蛋白質の生産のための24、25、26、27、28、又は29℃の温度の利用。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項によって得られるポリペプチドであって、該蛋白質が単糖付加されていることを特徴とするポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−504009(P2008−504009A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546180(P2006−546180)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2004/053642
【国際公開番号】WO2005/063813
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(599177396)アプライド リサーチ システムズ エーアールエス ホールディング ナームロゼ フェンノートシャップ (70)
【Fターム(参考)】