説明

腫瘍特異的細胞傷害性を誘導するための方法および組成物

【課題】腫瘍特異的細胞傷害性を誘導し、医薬組成物としてヒトにおける増殖性疾患の予防・治療に用いうるベクターの提供。
【解決手段】ヒト腫瘍細胞において、細菌のβ−ガラクトシダーゼ、ジフテリア毒素等、各種毒素・酵素等の細胞傷害性異種タンパク質をコードする遺伝子を特異的に発現するよう、異種配列に機能的に連結された調節配列を含むポリヌクレオチドを含有するベクター。該調節配列はH19調節配列、IGF−P4プロモーター、IGF−1プロモーターから選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、1997年10月3日に出願された係属中の出願番号第08/943,608号の一部継続出願であり、その全内容を参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0002】
1.発明の技術分野
本発明は、腫瘍細胞生理学および癌の治療分野に関する。さらに詳しくは、本発明は、腫瘍細胞における異種遺伝子、特に細胞傷害性生成物をコードする遺伝子の特異的発現に関する。
【背景技術】
【0003】
2.発明の背景
2.1 H19遺伝子
H19遺伝子は、ヒトにインプリンティングされている(imprinted)ことが知られている数少ない遺伝子の一つである(Hurst et al., 1996, Nature Genetics 12:234-237)。H19は、胚形成のごく初期に両染色体の対立遺伝子から発現される(DeGroot et al., 1994, Trophoblast 8:285-302)。その後間もなく、父性の対立遺伝子は沈黙(silencing)する一方で、母性遺伝対立遺伝子だけは転写される。
【0004】
H19は、胚形成中大量に発現され、トランス作用性遺伝子座rafによって、肝のアルファーフェトプロテインにより斉一的に制御された遺伝子として最初に同定されたものである(Pachnis et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:5523-5527)。さらにH19は、組織分化中に発現される遺伝子を分離するためのスクリーニングを用いて、多数のグループにより独立にクローニングされてきた。例えば、デービスら(Davis et al., 1987, Cell 51:987-1000)は、C3H10T1/2細胞の分化初期に活性な遺伝子のスクリーニングにおいて、マウスH19ホモローグを同定している。プーリエら(Pourier et al., 1991, Development 113:1105-1114)は、マウスH19が幹細胞分化中および着床時に発現されることを見出した。ヒトH19の転写もまたヒト胎盤から細胞栄養芽層を分化する際に発見された(Rachmilewitz et al., 1992, Molec. Reprod. Dev. 32:196-202)。
【0005】
H19 RNAの転写は、胎児期および胎盤発達を通して多数の異なる胚組織において生じるが、H19の発現は出生後にはダウンレギュレーションを受ける。しかしながら、成体マウス筋および肝では、相対的に低いレベルのH19転写が報告されている(Brunkow & Tilghman, 1991, Genes & Dev., 5:1092-1101)。H19はまた、癌細胞では出生後に活性化される。アリールら(Ariel et al., 1997, Molec. Pathol., 50:34-44)は、出生後に発現する組織から生じる多数の腫瘍においてH19が発現することを示した。さらに著者らは、H19発現と関連していることが知られていない神経組織由来の腫瘍、特に星状細胞腫および神経節芽細胞腫においてH19 RNAを見つけている。H19 RNAを発現する癌の多数のアレイ(array)が得られ、著者らはH19が癌胎児性RNAではないかと考え、H19をヒト組織の異常増殖に対する腫瘍マーカーとして研究することを提案した。
【0006】
ヒトH19遺伝子もマウスH19遺伝子もクローニングされ配列決定されている(Brannan et al., 1990, Molec. Cell. Biol. 10:28-36)。ヒトとマウスのH19遺伝子とを比較することによって、全ヌクレオチド配列の77%が同一であることが判明した。種間においてこのヌクレオチド相同が保存されているにも拘わらず、推定されるアミノ酸配列の同一性は、2個の遺伝子のオープンリーディングフレームからほとんど予測できなかった(同上)。さらに、H19 RNAはRNAポリメラーゼIIによって転写、スプライシング、そしてポリアデニル化されるのであるが、H19 RNAが翻訳されている様子はない。その代わり、H19 RNAは、28S細胞質RNAと関連することが分かっており、H19 RNAがリボ核タンパク質のRNA成分として作用しているのではないかと考えられる(同上)。
【0007】
H19の実際の生理的な役割は完全に分かっているわけではない。H19は、優性致死遺伝子として作用する可能性があり、誕生直前のマウスでは、H19トランスジーンが高度に異所性発現すると、死に至らしめる(上記Brunkow et al.)。この死期はH19の転写が抑制される時期と一致する。他方、H19ノックアウト対立遺伝子をもつヘテロ(異型)接合またはホモ(同型)接合マウスのどちらでも欠損はなんら観察されていない(Leighton et al., 1995, Nature 375:34-39)。母性遺伝対立遺伝子のノックアウトは、遺伝的にリンクする逆にインプリンティングされたIGF-2遺伝子のインプリンティングと干渉し合い、その結果得られるマウスは、出生前のIGF-2発現増加により、誕生時にはその同腹仔よりも大きくなる(同上)。これら2個の逆にインプリンティングされた遺伝子はシス作用性の調節配列を共有しているため、ライトンらは、H19がIGF-2遺伝子のインプリンティングに関与しているのではないかと考えた。
【0008】
H19遺伝子産物について出されたもう一つの作用は、腫瘍抑制RNAの作用である。Haoら(1993, Nature 365:764-767)は、H19発現構築物による2つの胚腫瘍細胞系、すなわち、RDおよびG401のトランスフェクションが、ヌードマウスにおいて、細胞成長遅延、形態変化および腫瘍発生の減少をもたらしたと報告している。そのような腫瘍抑制作用はマウスにおける異所性発現で見られた致死(上記Hao et al.)ならびに、母性H19対立遺伝子に対してノックアウトされるマウスのサイズが大きくなること(上記Leighton et al.)と一致するものとして注目されている。しかしながら、H19が腫瘍抑制因子であるとの提案には賛否両論がある。結果のうちあるものは再現性がなかったと報告されており、また、H19と密接に関連する他の腫瘍抑制遺伝子候補が存在するのかもしれない(上記Ariel et al.)。腫瘍抑制因子として提案されたH19の役割はまた、H19が広範な多数の腫瘍細胞において活性化されるという実験データとも抵触する(例えば、Lustig-Yariv et al., 1997, Oncogene 23:169-177参照)。
【0009】
2.2 インスリン様増殖因子(IGF)遺伝子
IGF-2は、発現がその親の由来に依存するもう一つのインプリンティングされた遺伝子である。しかしながら、H19とは異なり、マウスおよびヒトのIGF-2は母系インプリンティングであり、従って父系遺伝対立遺伝子から発現される(Rainier et al., 1993, Nature 363:747-749)。ヒトIGF-2遺伝子は複雑な転写パターンを示す。組織および発生に特異的な方法で活性化されるIGF-2プロモーターは4つある。そのプロモーターのうちの3つ、すなわち、P2、P3およびP4だけが胎児発生中および癌組織でインプリンティングされ活性となる。4つ目のプロモーターP1はインプリンティングされることはなく、成人肝および脈絡集網だけで活性化される(Holthuizen et al., 1993, Mol. Reprod. Dev. 35:391-393参照)。IGF-2遺伝子のP3プロモーターは肝硬変および肝細胞癌の進行に関与している(Kim & Park, 1998, J. Korean Med. Sci. 13:171-178)。
【0010】
IGF-2のインプリンティングの消失はウイルム腫瘍に関係がある(Ogawa et al., 1993, Nature 363:749-751)。この情報は多くの研究者に、インプリンティングの消失およびインプリンティングされた遺伝子の二対立遺伝子発現が増殖疾患や癌の発生に関係があるのではないかと考えさせることになった(Rainier et al., Nature 362:747-749およびGlassman et al., 1996, Cancer Genet. Cytonenet. 89:69-73も参照)。
【0011】
2.3 腫瘍特異的遺伝子治療
腫瘍関連遺伝子からの調節配列は、腫瘍由来細胞において自殺遺伝子の発現を選択的にねらい打ちするのに用いられてきた。例えば、アルファーフェトプロテイン発現は肝細胞癌で誘導される。Huber ら(1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8039-8043)は、アルブミン遺伝子またはアルファーフェトプロテイン遺伝子のどちらかからの調節配列を用いて、肝癌細胞配列をコードする水痘帯状疱疹チミジンキナーゼ(VZV TK)遺伝子の発現を標的にした。in vitroでこれらの発現構築物の1つを含むレトロウイルスベクターに感染させた肝癌細胞はVZV TKを発現し、通常は非毒性のプロドラッグ、6-メトキシプリンアラビノヌクレオシド(araM)感受性となった。Kanekoら(1995, Cancer Res. 55:5283-5287)は、アルファーフェトプロテイン調節配列の制御下でHSV TKを発現するアデノウイルスベクターを構築した。このベクターを含有する組換えアデノウイルス粒子を、無胸腺マウスに発生させた肝細胞癌由来の腫瘍に直接注射した。次いでガンシクロビルを腹腔内投与すると、肝細胞癌由来の腫瘍退行が起こった。
【0012】
Osakiら(1994, Cancer Res. 54:5258-5261)は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV TK)のコード配列に関連する肺癌胎児性抗原遺伝子の調節配列を含む発現構築物をA549肺癌細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞はガンシクロビル感受性であった。さらに、皮下注射したトランスフェクト細胞からの腫瘍増殖は、ヌードマウスでは、ガンシクロビルを繰り返し腹腔内投与することにより阻害された。しかしながら、最近、癌胎児性抗原遺伝子は正常な結腸粘膜で発現すると報告されているので、腫瘍特異的調節領域としてのこれら調節配列の有用性には制限がある(上記Osaka et al.)。従って、腫瘍細胞で特異的に遺伝子産物を発現する遺伝子治療ベクター開発に対する必要性は今なお求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、腫瘍特異的細胞傷害性を誘導するための方法および組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
3. 発明の概略
本発明は、腫瘍細胞において異種遺伝子の選択的発現を誘導する方法および組成物に関する。本発明は特に、異種遺伝子の腫瘍特異的発現をもたらす異種遺伝子と機能的に連結された調節転写配列を含むポリヌクレオチドに関する。さらに詳しくは、この調節転写配列は、H19のような癌細胞で特異的に発現されるゲノムインプリンティングされた遺伝子およびIGF-2 P3、P4に由来するものであり、異種遺伝子は細胞傷害性タンパク質または細胞増殖抑制遺伝子の産物をコードする。本発明の他の態様によれば、IGF-Iプロモーターは異種遺伝子と機能的に連結され、当該遺伝子の腫瘍特異的発現をもたらす。調節配列は、多数の異なる癌細胞タイプにおける遺伝子発現を指示するものである。そのような方法および組成物は、広範にわたる多様な癌および過剰増殖症状の治療に有用である。
【0015】
本発明の1つの態様において、本発明は、異種遺伝子と機能的に連結された上記調節領域を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関する。特に好ましい調節領域は、プロモーターやエンハンサー配列、すなわち、IGF-2 P3若しくはP4プロモーターまたはIGF-1プロモーターのようなH19調節領域をコードするものである。この点に関し、H19エンハンサーおよびその活性部は、H19プロモーター、IGF-1プロモーター、IGF-2 P3プロモーターまたはIGF-2 P4プロモーターの任意の組み合わせで使用することができる。本発明はまた、そのようなベクターを含む宿主細胞も包含する。その点に関し、H19エンハンサーの存在下または不存在下、H19プロモーターによって制御される異種遺伝子を含む発現構築物は、H19エンハンサーと組み合わせて、IGF-1プロモーターまたはIGF-2 P3若しくはP4プロモーターにより制御される異種遺伝子を含む第2の構築物と共に細胞中に導入してもよい。他の態様によれば、本発明は、そのようなベクターを使用して、腫瘍細胞に異種遺伝子を発現する方法を提供するものである。さらに他の態様によれば、本発明は遺伝子治療に本発明のベクターを用いて癌を治療する方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組成物および方法は癌の治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
5. 発明の詳細な説明
本発明は、一部は、癌細胞で発現されるゲノムインプリンティング遺伝子の調節領域を癌細胞における目的のコード配列発現を標的とするのに使用できるという発見に基づくものである。特に、以下の例示に限定されるものではないが膀胱癌、肝細胞癌、肝芽細胞腫、横紋筋肉腫、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、乳癌、頭部および頸部の扁平上皮癌、食道癌、甲状腺癌、神経膠星状細胞腫、神経節芽細胞腫および神経芽細胞腫を含む、広範で多様な癌においてH19の発現が活性化されることを見出した。さらに、異種遺伝子と機能的に連結されたH19プロモーター領域、すなわち、異種遺伝子と機能的に連結されたIGF-2 P3若しくはP4プロモーターを含む構築物、または、下流のH19エンハンサーと組み合わせてそのようなプロモーターを含む構築物が腫瘍細胞において特異的に活性化されることを見出した。本発明の他の態様によれば、IGF-1プロモーターは異種遺伝子の発現を命令するのに使用される。
【0018】
従って本発明の態様の1つによれば、本発明は、癌細胞の表現型を変更するかまたはこれを選択的に死滅させる方法およびそのための組成物に関する。本発明の目的は、異種遺伝子と機能的に連結された癌細胞において発現するゲノムインプリンティング遺伝子の調節領域を含むポリヌクレオチドを該細胞に送達することによって達成される。異種遺伝子は例えば、細胞増殖抑制剤(agent)または細胞傷害剤(例えば、毒素、アンチセンスRNAまたはリボザイム)をコードすることができる。
【0019】
癌細胞で発現されるゲノムインプリンティング遺伝子の調節領域は、以下の例示に限定されるものではないが、H19プロモーターおよびエンハンサー、ならびにIGF-2 P3およびP4プロモーターを包含する。
【0020】
本明細書に記載した本発明の目的のために、「機能的に連結された」なる語は、調節領域により指示命令される核酸配列を発現させるように、その核酸配列が該調節配列に連結されていることを意味する。
【0021】
本願の目的のために、「異種」遺伝子配列なる語は、H19遺伝子の調節配列と通常機能的に連結されていない遺伝子配列を指す。一般に、異種遺伝子配列は、細胞増殖抑制または細胞傷害性産物をコードする配列を含んでいる。
【0022】
本明細書に使用されるものとして、「発現」なる語は、目的とするDNAの転写、スプライシング、プロセシング、安定性および必要があれば、対応するmRNA転写物の翻訳を意味する。送達されたDNA分子の構造により、発現は一過性であっても継続的であってもよい。
【0023】
5.1 H19遺伝子の調節配列であるIGF-2 P3およびP4プロモーターならびにIGF-1プロモーター
本明細書中に記載されているのは、異種コード配列の腫瘍細胞特異的な発現を指令するために使用できるH19調節配列である。これらのH19調節配列には、上流のH19プロモーター領域および/または下流のH19エンハンサー領域が含まれる。ある1つのH19プロモーター領域のヌクレオチド配列を図1A〜1C(配列番号1)に示す。この830ヌクレオチド配列は(Brannanら、上掲に記載されたように)キャップ部位から−837〜−7位のヌクレオチドにわたる。共通TATA配列はヌクレオチド−27〜−35位に見出される。2つの共通AP2結合部位(8/9一致)は、転写開始部位から約−500〜−40ヌクレオチド上流に見出される。コード領域の上流を異種遺伝子と置き換えた場合は、以下により詳細に論じるように、癌細胞(該細胞もまた内在性H19を発現する)中に機能的に連結された異種遺伝子の発現を指令するには、約830塩基対の調節領域で十分である。さらに、ヌクレオチド−819〜+14間の別のH19プロモーター領域(図5、配列番号2)もまた、癌細胞中に機能的に連結された異種遺伝子の発現を指令するには十分である。
【0024】
ヒトH19遺伝子の下流エンハンサー領域を任意にH19プロモーター/異種遺伝子構築物に付加することにより、腫瘍細胞特異的発現の増大されたレベルを提供することができる。以下により完全に記載しかつ第6節の実施例によって例示するように、下流エンハンサー領域は転写開始部位からみて+6kb〜+11kbの部位にわたるSacI制限断片に包含される。エンハンサー配列から予想されるように、下流エンハンサーは、H19プロモーターの制御下において異種遺伝子のコード領域から下流に(内在性H19遺伝子中のH19エンハンサーの向きと比較して)逆向きまたは直接の向きのいずれかに置かれた場合、その効果を及ぼすことができる。さらに、図6,7A,7Bおよび8A〜Cに示す配列(配列番号3〜5)を含むこのエンハンサーの断片を使用して遺伝子発現を促進させることもできる。
【0025】
IGF-1遺伝子の発現は肺癌および乳癌と関連付けられている。IGF-1プロモーター(ヒトIGF-1遺伝子配列中ヌクレオチド1〜1630位の間のヌクレオチド配列(Genbank受け入れ番号M12659 M77496、参照により本明細書中に組み込む);Rotweinら、1986,J.Biol.Chem.261:4828-4832)。
【0026】
IGF-2遺伝子産物は4つの異なるプロモーター領域のうち1つを用いて発現される。これらの4プロモーターのうち3つはインプリンティングされており、胚組織で発現される;しかしながら、プロモーターP1は成体の組織のみで活性化される(Sussenbachら、1992,GrowthReg.2:1-9)。P3プロモーターは悪性肝癌に関連している。また、インプリンティングされたP4プロモーター(IGF-2遺伝子のヌクレオチド配列−546〜+102)およびP3プロモーター(IGF-2遺伝子のヌクレオチド配列−1229〜+140)はヒト膀胱癌細胞で活性化され、腫瘍細胞に機能的に連結された異種遺伝子の発現を指令するために使用できることが見出されている。IGF-2 P3およびP4プロモーターはH19エンハンサーまたはその活性断片と組み合わせて使用することができる。
【0027】
癌細胞で発現されるゲノムインプリンティングされた遺伝子およびゲノムインプリンティングされていない遺伝子由来の調節配列をさらに詳しく述べて、所望の腫瘍特異的発現を達成するのに必要な最小の調節配列を定義することができる。例えば、プロモーター領域を付加、置換または欠失により改変し、腫瘍特異的発現機能の保持についてアッセイすることができる。H19下流エンハンサーの種々の部分を、H19プロモーターからの転写を増強するその能力について個々に試験してもよい。
【0028】
調節配列中の改変は当業者に周知の多様な化学的方法および酵素的方法を使用して達成することができる。例えば、制限酵素部位により限定される配列の領域を欠失させることができる。オリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発を利用して、決められた様式で配列を改変すること、および/または配列内の特定の配列中に制限酵素部位を導入することができる。さらに、Bal31またはExoIIIおよびS1ヌクレアーゼなどのDNAヌクレアーゼを用いて欠失突然変異体を作製してもよい。前記DNAをヌクレアーゼと共に増大された期間インキュベートすることで、調節配列中に連続的により大きな欠失を生じさせる(突然変異誘発技術については、Ausubelら、1989 Current Protocols for Molecular Biologyを参照されたい)。
【0029】
改変された配列を、適切な宿主細胞(特にH19を発現している腫瘍由来の細胞、例えば具体例として膀胱癌)において異種コード配列を腫瘍特異的に発現させるその能力について評価する。さらなる使用のために組換え発現ベクターに組み込まれる、腫瘍特異的発現を指令する能力を有する任意の改変された調節配列は本発明の範囲内である。
【0030】
これらの調節配列の制御下で、多様な異種遺伝子、例えば、傷害性遺伝子産物、潜在的障害性遺伝子産物、および抗増殖性または細胞増殖抑制性遺伝子の産物などをコードする遺伝子が発現されうる。また、酵素(例えばCAT、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ)、緑色蛍光タンパク質などの蛍光タンパク質、または抗原マーカー等のマーカー遺伝子も発現されうる。
【0031】
細胞傷害性遺伝子産物は、毒素およびアポトーシス誘発剤の両方を含めて広く定義される。さらに、本発明の目的においては、細胞傷害性遺伝子産物はプロドラッグを細胞傷害性産物に転換する薬物代謝酵素を含む。本発明の方法に使用できる細胞傷害性遺伝子産物の具体例には、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素、リシン、コレラ毒素、PE40ならびに腫瘍抑制遺伝子、例えば網膜芽細胞腫遺伝子およびp53が含まれる。さらには、細胞のアポトーシスを誘発するアポトーシス性ペプチドをコードする配列を使用することもできる。かかるアポトーシス性ペプチドはアルツハイマーA βペプチド(LaFerlaら、1995, Nat.Genet. 9:21-30を参照されたい)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(Wuら、1997, J.Biol.Chem. 272:14860-14866を参照されたい)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Sakutaら、1996,J. Neuroimmnol. 67:103-109を参照されたい)、ならびに既知またはこれから発見される他のアポトーシス性ペプチドを含む。
【0032】
プロドラッグを細胞傷害性産物に転換する薬物代謝酵素には、チミジンキナーゼ(単純ヘルペスウイルスまたは水痘-帯状疱疹ウイルス由来)、シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、シトクロムP-450 2B1、チミジンホスホリラーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、アルカリホスファターゼ、カルボキシペプチダーゼAおよびG2、リナマラーゼ、β-ラクタマーゼおよびキサンチンオキシダーゼ(背景についてはRiggおよびSikora、August 1997, Mol.Med.Today, pp.359-366を参照されたい)が含まれる。
【0033】
さらに、アンチセンス、アンチジーン、またはアプタマーオリゴヌクレオチドを本明細書に記載した発現構築物を用いて癌細胞に送達してもよい。また、リボザイムまたは1本鎖RNAを癌細胞で発現させて、対象とする特定の遺伝子の発現を阻止することもできる。これらのアンチセンスまたはリボザイム分子の標的遺伝子は、細胞の維持または癌の細胞表現型の維持に必須の遺伝子産物をコードするものであるべきである。かかる標的遺伝子には、限定するものではないが、cdk2、cdk8、cdk21、cdc25A、サイクリンD1、サイクリンE、サイクリンAおよびcdk4が含まれる。
【0034】
例えば、癌細胞中で発現されるインプリンティングされた遺伝子またはIGF-1プロモーターからの調節配列の制御下で、p53、c-fos、c-jun、Kr-rasおよび/またはHer2/neuのオンコジーン形態に特異的なアンチセンスRNAまたはリボザイムを発現するベクターを細胞に導入して、内在性遺伝子の発現をダウンレギュレートする。H19を発現し、H19調節配列を活性化しうる(またはIGF-1、IGF-2 P3もしくはP4プロモーターを特異的に活性化する)腫瘍細胞を、アンチセンスRNAまたはリボザイムRNAの発現の特異的な標的とすることができる。
【0035】
アンチセンスのアプローチは、標的mRNAに相補的なオリゴヌクレオチド(この場合はmRNA)の設計を含む。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは相補的な標的mRNA転写物に結合し、翻訳を阻止する。完全な相補性が好ましいが、必須ではない。本明細書中で使用する場合、あるRNAのある部分に「相補的な」配列とは、そのRNAにハイブリダイズして安定な二本鎖を形成するのに充分な相補性を有する配列をいう。ハイブリダイズする能力は相補性の程度およびアンチセンス核酸の長さの両方に依存する。一般に、ハイブリダイズする核酸が長いほど、その核酸中にRNAとの塩基のミスマッチ(mismatch)が多く含まれ、さらに安定な二本鎖(または場合によっては三本鎖)を形成する。当業者であれば、ハイブリッド複合体の融解点を決定する標準的な手法を用いてミスマッチの耐えうる(tolerable)程度を確認することができる。
【0036】
標的メッセージの5'末端(例えば、5'非翻訳配列からAUG開始コドンを含むまで)に相補的なオリゴヌクレオチドは、翻訳を阻止する際に最も効果的に作用するであろう。しかしながら、mRNAの3'非翻訳配列に相補的な配列が同様にmRNAの翻訳の阻止に効果的であることが最近示された。概要については、Wagner, R., 1994, Nature 372:333-335を参照されたい。従って、標的遺伝子転写物の5'または3'側のいずれかの、非翻訳、非コード領域に相補的なオリゴヌクレオチドをアンチセンスアプローチに使用して内在性遺伝子の翻訳を阻止することができるであろう。mRNAの5'非翻訳領域に相補的なオリゴヌクレオチドはAUG開始コドンの相補体を含みうる。mRNAコード領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは本発明に従って使用する場合以外はより効果の少ない翻訳インヒビターである。標的mRNAの5'、3'またはコード領域のいずれにハイブリダイズするように設計されていても、アンチセンス核酸は少なくとも6ヌクレオチド長を有し、好ましくは6から約50ヌクレオチド長にわたるオリゴヌクレオチドである。特定の態様においては、オリゴヌクレオチドは少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチドまたは少なくとも50ヌクレオチドからなる。
【0037】
標的配列の選択にかかわらず、in vitro研究では最初にアンチセンスオリゴヌクレオチドの遺伝子発現阻止能力の定量を行うことが好ましい。これらの研究は、オリゴヌクレオチドのアンチセンス遺伝子阻止と非特異的な生物学的効果とを区別する対照に利用しうる。これらの研究により標的RNAまたはタンパク質のレベルを内部対照RNAまたはタンパク質のレベルと比較することも好ましい。
【0038】
また、必須遺伝子を触媒的に切断するように設計されたリボザイム分子を使用して標的mRNAの翻訳を阻止することができる(例えば、PCT国際出願第WO90/11364号、1990年10月4日公開;Sarverら、1990, Science 247:1222-1225を参照されたい)。リボザイムが癌細胞の増殖に必須のタンパク質をコードする遺伝子転写物に特異的である場合は、かかるリボザイムは癌の細胞表現型を逆転させることができる。mRNAを特定の認識配列部位で切断するリボザイムを使用して標的mRNAを破壊することができる場合は、ハンマーヘッド型のリボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッド型リボザイムは標的mRNAと相補的な塩基対を形成する隣接領域により規定される位置でmRNAを切断する。必要なのは、標的mRNAが下の2つの塩基からなる配列:5'−UG−3'を有することのみである。ハンマーヘッド型リボザイムの構築および製造は当業者に周知であり、HaseloffおよびGerlach, 1988, Nature, 334:585-591により完全に記載されている。好ましくは、リボザイムはその切断認識部位が標的mRNAの5'末端付近に位置するように、すなわち効率を上げて非機能的なmRNA転写物の細胞内蓄積を最少化するように、遺伝子操作されている。
【0039】
また、本発明で使用するリボザイムは、Tetrahymena thermophilia(IVSまたはL-19IVS RNAとして知られる)に天然に存在するものならびにThomas Cechおよび共同研究者らによりその外延が記載されたもの(Zaugら、1984, Science, 224:574-578;ZaugおよびCech, 1986, Science, 231:470-475;公開された国際特許出願第WO88/04300号(University Patent Inc.による);BeenおよびCech, 1986, Cell, 47:207-216)などのRNAエンドリボヌクレアーゼを含む(本明細書中では以後「Cech型リボザイム」と称する)。このCech型リボザイムは標的RNA配列にハイブリダイズしてその後そこで該標的RNAの切断を生じる8塩基対の活性部位を有する。本発明は、標的遺伝子に存在する8塩基対の活性部位配列を標的とするそれらのCech型リボザイムの使用を包含する。
【0040】
5.2 腫瘍細胞における遺伝子の活性化
インプリンティングされた遺伝子の発現を再活性化する細胞は、異種遺伝子に機能的に連結されたかかるインプリンティングされた遺伝子の調節領域を含有する発現構築物を特異的に活性化することもできる。そうした細胞、特に腫瘍細胞は、本発明の遺伝子治療法の適切な標的である。腫瘍および細胞系の両方におけるH19、およびIGF-2 P3およびP4の特異的な発現は、RNA解析技術(in situハイブリダイゼーションおよびレポーター遺伝子構築物)を用いて測定することができる。さらに、活性化されたIGF-1遺伝子発現を伴う腫瘍細胞も同様に測定し、IGF-1プロモーターを使用して異種遺伝子の発現を指令する遺伝子治療において標的とすることができる。
【0041】
大部分のRNA解析適用においては、対象の遺伝子転写物に特異的にハイブリダイズする標識プローブを当業者に周知の任意の数の手法を用いて調製する。標識プローブはH19ヌクレオチド配列に相補的な少なくとも15〜30塩基を含み、より好ましくはH19転写物に相補的な少なくとも50〜150塩基を含みうる。H19発現に対して特に好ましいハイブリダイゼーションプローブは、ポリA部位の約800塩基対上流から該ポリA部位までにわたるH19メッセージの3'末端に相補的なポリヌクレオチドである。
【0042】
本実施例により以下に例示する本発明の特定の実施態様においては、標識アンチセンスRNAプローブをT7またはT3発現プラスミドを用いてin vitroで作製する。H19プローブは、標識ヌクレオチドの存在下で例えばPrime-Itキット(Stratagene, La Jolla, CA;カタログ番号300392)を用いてランダムプライミングすることによっても標識することができる。あるいは、H19コード領域のcDNAクローンおよび該コード領域の領域を増幅するよう設計したプライマーを用いたPCR反応において、または標準的なニック翻訳反応により標識プローブを作製することができる。
【0043】
ポリヌクレオチドプローブに適した標識は、放射性同位体(35Sや32Pなど)を取り込むヌクレオチド、蛍光、発光および発色タグ、ならびに酵素部分を含む。
【0044】
標識プローブは本実施例により以下に記載され、また同時係属米国特許出願第08/704,786(引用により本明細書に組み入れる)に記載されているような標準的な手法により、in situで細胞または組織サンプルにハイブリダイズさせる。あるいは、適切な細胞が充分な量選られる場合は、標準的なRNA解析(ノーザン解析、RNase保護およびプライマー伸長など)を実施して対象の遺伝子のmRNA発現レベルを測定することができる。
【0045】
さらに、そうした遺伝子発現解析を「in situ」で、すなわち生検および切除から得られた患者組織の組織切片(固定されおよび/または凍結されている)上で直接実施することが可能であり、そのため核酸精製は必要ない。上記したような核酸試薬をそうしたin situ手法のためのプローブおよび/またはプライマーとして使用することができる(例えば、Nuovo,G,J., 1992, "PCR In Situ Hybridization:Protocols And Applications", Raven Press, NYを参照されたい)。
【0046】
細胞型または腫瘍が異種遺伝子に機能的に連結された特定の調節領域を含む発現構築物を特異的に活性化しうるかどうかを決定する代替法は、そのような発現構築物を実際に細胞にトランスフェクトすることである。これらの目的のためには、異種遺伝子は好ましくはマーカー遺伝子産物である。アッセイにおけるマーカー遺伝子産物に対する陽性の結果は、細胞または細胞系が調節領域からの発現を活性化しうるものであることを明らかにするものである。
【0047】
これらの技術を用いて、活性化されたH19発現を伴う例示的な腫瘍型を以下に示す:
A.小児の固形腫瘍
1.ウィルムス腫
2.肝芽細胞腫
3.胎児性横紋筋肉腫
B.生殖細胞腫および栄養膜腫
1.精巣生殖細胞腫
2.未成熟な卵巣の奇形腫
3.仙尾骨腫
4.繊毛癌
5.胎盤部位の栄養膜腫
C.上皮成熟腫瘍
1.膀胱癌
2.肝細胞性癌
3.卵巣癌
4.子宮頸癌
5.肺癌
6.乳癌
7.頭部および頸部の扁平上皮癌
8.食道癌
9.甲状腺癌
D.神経性の腫瘍
1.神経膠星状細胞腫
2.神経節芽細胞腫
3.神経芽細胞腫
従って、上記癌は本発明の方法により治療することができるものである。実際に、H19発現を活性化するいずれの腫瘍も本発明の方法によって治療することができる。
【0048】
さらに、前述の技術はIGF-1、ならびにIGF-2 P3およびP4プロモーターを活性化する腫瘍を決定するのに適用することができる。かかる腫瘍もまた本発明の方法により治療可能である。例えば、IGF-2は幼児期の腫瘍(ウィルムス腫、横紋筋肉腫、神経芽細胞腫および肝芽細胞腫など)において活性化される。
【0049】
5.3 調節配列の制御下で宿主細胞にポリヌクレオチドを導入する方法
本発明はまた、異種遺伝子に機能的に連結された調節領域を含むポリヌクレオチドでトランスフェクトした宿主細胞に関する。かかる宿主細胞は培養物中で維持されてもよく、または動物(好ましくは哺乳動物)の部分であってもよい。典型的には、対象のポリヌクレオチドを多様なベクターに挿入し、このベクターを次に本明細書中に開示されている方法および材料を用いて送達する。このようなベクターは確立された分子生物学的手法(概要はSambrookら、(1989) Molecular Cloning Vols. I-III, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New YorkならびにCurrent Protocols in Molecular Biology(1989) John WileyおよびSons, all Vols.ならびにその定期的な最新情報(引用により本明細書中に組み込む)を用いて製造することができる。典型的には、翻訳が所望される場合は、必要であれば対象の異種遺伝子も遺伝子操作して適当な3'ポリアデニル化配列を含ませる。
【0050】
5.3.1 培養済み細胞
非相同遺伝子に作動的に連鎖されたインプリントされた遺伝子調節領域を含有するポリヌクレオチドによるトランスフェクションを受けた宿主細胞は、あらゆる原核又は真核細胞であってよい。ポリヌクレオチドをベクターのような遺伝子構成体内にライゲートさせ真核細胞(酵母、鳥類、昆虫又は哺乳動物)又は原核細胞(細菌細胞)を宿主細胞へと形質転換又はトランスフェクションすることは、微生物又は組織培養技術において広く使用される標準的手順である。
【0051】
E.coliのような細菌細胞内での対象ポリヌクレオチドの培養に適したベクターとしては、PBR322由来のプラスミド、pEMBL由来のプラスミド、pEX由来のプラスミド、pBTac由来のプラスミド及びpUC由来のプラスミドのようなタイプのプラスミドが含まれる。酵母内での複製にとって、YEP24、YIP5、YEP51、PYES2及びYRP17プラスミドは、S. cerevisiae 内への遺伝子構成体の導入に役立つクローニング及び発現ビヒクルである(例えば、Broach et al.,1993年、遺伝子発現の実験的操作、Inouye編、Academic press、 p83を参照のこと)。これらのベクターは、pBR322oriの存在に起因して E. coli内で、及び酵母2μm循環プラスミドの複製決定因子に起因して酵母内での両方において複製することができる。さらに、アンピシリンのような薬物耐性マーカーを使用することもできる。
【0052】
同様にして、本発明のポリヌクレオチドのための好適な哺乳動物ベクターには、細菌内のベクターの繁殖を容易にするため両方の原核配列が含まれる。このようなベクターは、哺乳動物細胞内にトランスフェクションされる時点で、連鎖された選択可能なマーカー遺伝子を使用することにより長期安定性のため哺乳動物の染色体内に組込まれるように設計され得る。あるいは、過渡的発現のため、ウシ乳頭腫ウイルス(BPV−1)又はエプスタイン−バーウイルスといったウイルスの誘導体を使用することもできる。宿主生体のプラスミド形質転換の準備段階において利用されるさまざまな方法は、当該技術分野において周知のものである。その他の適切なベクターシステムならびに一般的組換え手順については、Sambrook et al.(前出)を参照のこと。
【0053】
5.3.2 遺伝子療法
本発明は同様に、ガン及び高増殖性疾患を治療する目的で遺伝子療法において使用するための非相同性遺伝子に作動的に連鎖された遺伝子調節領域を含有するポリヌクレオチドの使用をも包含するものである。遺伝子療法を目的として、本発明の発現構成体は、in vivoで細胞に対し組換え型遺伝子を有効に送達する能力をもつあらゆる製剤又は組成物といった生物学的に有効な任意の担体内で投与することができる。アプローチとしては、組換え型レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連性ウイルス及び単純ヘルペスウイルス−1又は組換え型細菌又は真核性プラスミドを含むウイルスベクター内への対象遺伝子の挿入が含まれる。ウイルスベクターは、細胞を直接トランスフェクションする:すなわち、プラスミドDNAは、例えばカチオン重合体、カチオン性リポゾーム(例えばリポフェクチン、コレステロール誘導体、例えば、D.D.A.B.及びカチオンリン脂質)、又は誘導体化された(例えば抗体接合された)ポリリシン接合体、グラミシジンS、人工ウイルスエンベロープ又はその他のこのような細胞内担体ならびに裸の遺伝子構成体の直接注入、in vivo で行なわれるCaPO沈降法又は電気穿孔法を援用して、送達されうる。ガン遺伝子療法のための遺伝子の移入及び発現系の最近の論評としては、Cooper, 1996,Seminars in Oncology(腫瘍学セミナー)23;172−187がある。
【0054】
適切な標的細胞の形質導入は遺伝子療法における重要な第1段階を表わしていることから、特定の遺伝子送達系の選択は、意図された標的の表現型及び局所又は全身といった投与経路などの要因によって左右されることになるということがわかる。さらに、発現構成体の in vivo形質導入のために提供される特定の遺伝子構成体は同様に、上述の ex vivo組織培養系内で使用するためといったような、細胞の in vitro 形質導入のためにも有用であるということが認識されることだろう。
【0055】
細胞内への核酸の in vivo 導入のための好ましいアプローチは、H19調節配列の制御下で特定の細胞障害性遺伝子といった核酸を含有するウイルスベクターを使用することによるものである。ウイルスベクターでの細胞の感染は、ターゲティングされた細胞の大部分が核酸を受理できるという利点をもつ。さらに、例えば、ウイルスベクター内に含まれたcDNAによりウイルスベクター内でコードされた分子は、ウイルスベクターの核酸を取込んだ細胞の中で効率良く発現される。ここで開示されている方法及び組成物を用いて送達され得る適切なベクターとしては、単純ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連性ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、仮性狂犬病ウイルス、アルファヘルペスウイルスベクターなどが含まれるが、これらに制限されるわけではない。ウイルスベクター、特に非複製細胞を修飾するのに適したウイルスベクター及び問題のポリヌクレオチドの発現と合わせてかかるベクターをいかに使用するかについての綿密な再検討は「ウイルスベクター:遺伝子療法及び神経科学での応用」Caplitt 及び Loewy編、Academic Press, San Diego(1995)という書物の中に見られる。
【0056】
ウイルス粒子の表面のウイルスパッケージングタンパク質を修飾することによって、ウイルスそして結果としてウイルスベースのベクターの感染スペクトルを制限することが可能であることが示されてきた(例えば、PCT刊行物WO93/25234及びWO94/06920参照)。例えば、レトロウイルスベクターの感染スペクトルの修正のための戦略としては細胞表面抗原に特異的な抗体をウイルスenvタンパク質にカップリングさせること(Roux et al.,1989, Proc. Nat. Acad. Sci. USA86:9079−9083;Julan et al., 1992,J. Gen. Virol. u3:3251−3255,及び Goud et al., 1983,Virology163:251−254);又は細胞表面レセプタリガンドをウイルスenvタンパク質にカップリングさせること(Neda et al.,1991, J. Biol. Chem. 266:14143−14146)が含まれる。カップリングは、タンパク質又はその他の変種(例えばenvタンパク質をアシアログリコプロテインに変換するためのラクトース)での化学的交差結合の形、ならびに融合タンパク質(例えば1本鎖抗体/env融合タンパク質)の生成によるものであってよい。例えば、ガン細胞は、例えば、組換え型ウイルスの表面に対し腫瘍関連性分子又はガン細胞表面タンパク質に対する抗体をカップリングすることによって、この技術を用いたガン細胞のターゲティングを行なうことができる。この技術は、感染を制限するか又はその他の形である種の組織タイプに向けるために有用であるものの、外生ベクターを両栄養性ベクターに変換するためにも同様に使用可能である。
【0057】
本発明において有用な好ましいウイルス遺伝子送達系では、アデノウイルス由来のベクターが利用される。アデノウイルスのゲノムは、それが問題の遺伝子産物をコードし発現するような形で操作され得るが、正常な溶菌ウイルスライフサイクルにおいて複製するその能力に関しては不活性化されている。例えば、Berkner et al., 1988,Bio Techniques6:616;Rosenfeld et al., 1991,Science 252:431−434;及び Rosenfeld et al.,1992,Cell 68:143−155を参照のこと。アデノウイルス菌株AD型5d1324又はアデノウイルスのその他の菌株(例えばAd2、Ad3、Ad7など)から誘導された適切なアデノウイルスベクターは、当業者には周知のものである。組換え型アデノウイルスは、ある種の状況下では、気道上皮(Rosenfeld et al., 1992,前出)、内皮細胞(Lemarchand et al.,1992,Proc. Natl. Acad. Sci. USA89:6482−6486),肝細胞(Herz and Gerard,1993,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2812−2816)及び筋細胞(Quantin et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA89:2581−2584)を含む広範な細胞型を感染させるのに使用できるという点で有利であり得る。さらに、ウイルス粒子は、比較的安定し、精製及び濃縮に導くことができ、又感染性スペクトルに影響を及ぼすように修飾され得る。付加的には、導入されたアデノウイルスDNA(及び中に含有される外来性DNA)は、宿主細胞のゲノム内に組込まれず、エピソームであり続け、かくして、導入されたDNAが宿主ゲノム内に組込まれるような状況下で(例えばレトロウイルスDNA)挿入突然変異誘発の結果として発生しうる潜在的問題は回避される。その上、外来性DNAのためのアデノウイルスゲノムの搬送能力は、その他の遺伝子ベクターに比べ大きい(最高8キロベース)(Berkner et al., 前出, Haj-Ahmand 及び Graham,1986,J. Virol. 57:267)。現在使用されている、従って本発明において有利とされている大部分の複製欠損アデノウイルスベクターは、ウイルスE1及びE3遺伝子の全部又は一部について欠失しているが、アデノウイルス遺伝子材料を80%も保持している(例えば Jones et al.,1979.Cell 16:683;Berkner et al., 前出:及び Graham et al. in Methods in Molecular Biology, E.J. Murray. Ed. (Humana Clifton NJ,1991)第7巻,pp.109−127を参照のこと)。
【0058】
対象発現構成体のうちの1つの送達にとって有用なもう1つのウイルスベクター系は、アデノ関連性ウイルス(AAV)である。アデノ関連性ウイルスは、効率の良い複製及び産生ライフサイクルのためのヘルパーウイルスとしてアデノウイルス又はヘルペスウイルスといったようなもう1つのウイルスを必要とする天然に発生する欠損ウイルスである(再検討のためには、Micro. and Immunol. 158:97−129中の Muzyczka et al.1992.Curr. Topicsを参照のこと)。これも、そのDNAを非分割細胞内に組込むことができる少数のウイルスの1つであり、安定した相互作用の高い頻度を示す(例えば Flotte et al., 1992,Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. 7:349−354;Samulski et al.,1989, J. Viol.63:3822−3828;及び McLaughlin et al., 1989,J. Virol. 63:1963−1973を参照のこと)。AAVを300塩基対というようにわずかに含有するベクターをパッケージングすることができ、かつ組込むことができる。外因性DNAのためのスペースは約4.5kbに制限される。Tratschin et al,1985,Mol. Cell. Biol.5:3251−3260内で記述されているもののようなAAVベクターを用いて、細胞内にDNAを導入することができる。AAVベクターを用いて異なる細胞型の中にさまざまな核酸を導入した。(例えば、Hermonat et al.,1984,Proc. Natl. Acad. Sci. USA81:6466−6470,Tratschin et al., 1985,Mol. Cell. Biol.4:2072−2081;Wondisford et al.,1988, Mol. Endocrinol.2:32−39,Tratschin et al., 1984, J. Virol. 51:611−619:及び Flotte et al.,1993,J. Biol. Chem.268:3781−3790を参照のこと)。
【0059】
以上で例示したもののようなウイルス移入方法に加えて、動物の組織内での望ましい非相同性遺伝子の指向性の発現をひき起こすために、非ウイルス方法を利用することも可能である。遺伝子移入の大部分の非ウイルス方法は、巨大分子の摂取及び細胞内輸送のため哺乳動物細胞によって使用される通常のメカニズムに依存している。好ましい実施形態においては、本発明の非ウイルス遺伝子送達系は、ターゲティングされた細胞による対象発現構成体の摂取のためにエンドサイトシス経路に依存している。このタイプの遺伝子送達系の例としては、リポソーム由来系、ポリリシン接合体及び人工ウイルスエンベロープが含まれる。
【0060】
臨床的環境においては、治療用発現構成体のための遺伝子送達系は、各々当該技術分野においては周知のものである一定数の方法のうち任意のものにより患者の体内に導入され得る。例えば、遺伝子送達系の製剤は全身的に例えば静脈内注射により導入され得、標的細胞内の構成体の特異的発現は、非相同遺伝子の発現を制御する調節配列又は特定の細胞型をターゲティングする遺伝子送達ビヒクルと組合わせた調節配列に起因する細胞型又は組織型の発現によって提供されるトランスフェクションの特異性から主として発生する。その他の実施形態においては、組換え型発現構成体の初期送達は、動物への導入がきわめて局所的である状態で、より制限されたものとなっている。例えば遺伝子送達ビヒクルは、カテーテルにより(米国特許5,328,470号参照)又は定位注入(例えば、Chen et al.,1994,Proc. Nat. Acad. Sci. USA 91:3054−3057)によって導入され得る。本発明の発現構成体は、例えば Dev et al.,1994,Cancer Treat, Rev,20:105〜115により記述された技術を用いて電気穿孔法により遺伝子療法構成体の中に送達することができる。
【0061】
遺伝子療法構成体の薬学調製物は、基本的に、受容可能な希釈剤中の遺伝子送達系で構成されていてもよいし、又は遺伝子送達ビヒクルが中に埋込まれている緩効性マトリクスを含むこともできる。あるいは、完全な遺伝子送達系をレトロウイルスベクターといった組換え型細胞から無傷の状態で産生できる場合には、製剤は、遺伝子送達系を産生する単数又は複数の細胞を含むことができる。
【0062】
5.3.3 治療のエンドポイント及び用量
当業者であればわかるように、医療従事者又は患者の観点から見ると、ガンによる身体条件(例えば、痛み、感受性、体重減少など)に関連する望ましくない症状の軽減又は予防は事実上全て望ましいものである。さらに、腫瘍質量又は成長速度の低下も、腫瘍の組織病理学像の改善と共に望まれる。従って、本出願においては、本書で用いられている「治療」、「治療的使用」又は「医療的使用」という語は、疾病状態又は症候を改善するか又はその他の方法で疾病又はその他の望ましくない症候の進行を何らかの形で防止、妨害、遅延又は逆行させる請求対象の組成物のあらゆる使用を意味するものとする。
【0063】
有効な用量及び治療プロトコルは、実験動物における低用量から開始し、その後効果を監視しながら用量を増加させ、系統的に用量管理も変動させる従来の手段によって決定することができる。体重1キロあたりの生物活性剤の最大許容用量つまりMTDを決定するためには、一般に、動物研究、好ましくは哺乳動物研究が用いられる。当業者は、効力と共に人間を含めたその他の種に対する毒性の回避を目的として、定期的に用量を補外する。
【0064】
ヒトでの効力研究に着手する前に、正常な対象における段階Iの臨床研究が安全な用量を設定する一助となる。一定の与えられた対象についての最適な用量を決定する時点で臨床医は、数多くの要因を考慮に入れることができる。その中でも主要なものは、選ばれた非相同性遺伝子製剤の毒性及び半減期である。付加的な要因としては、患者の体格、年齢、全身状態、治療対象の特定のガン性疾患、疾病の重度、患者体内のその他の薬物の存在、遺伝子製剤の in vivo活性などがある。動物研究及び臨床文献の結果を考慮した後、試行用用量が選択されることになる。
【0065】
例えば、チミジンキナーゼのような細胞障害性作用物質をコードする非相同遺伝子に作動的に連鎖されたH19調節領域を含有するアデノウイルスベクターの標準的なヒト用量は、一日あたり腫瘍質量内に直接注入される形で1×10pfu 〜1×1010 pfuである。より好ましくは、腫瘍内に直接注入されるかかるアデノウイルスベクターの一日の用量は、腫瘍のサイズに応じて1×10 pfu から1×1010 pfuとなる。異なるレベルの毒性をもつ細胞障害性遺伝子製剤に作動的に連鎖されたH19調節領域を含むアデノウイルスベクターについては、これらの値は当然それに応じて変化することになる。チミジンキナーゼといった細胞障害性作用物質をコードする非相同遺伝子に作動的に連鎖されたIGF−2 P4プロモータを含む類似の用量のアデノウイルスベクターも、提案される出発点として使用可能である。
【0066】
特に、in vivo 使用が考慮されている場合、本発明のさまざまな生化学成分は好ましくは高純度のものであり、実質的に、潜在的に有害な汚染物質を含まない(例えば、少なくともナショナルフード(NF)グレード、一般には少なくとも分析グレードそして好ましくは少なくとも薬学グレード)。一定の与えられた化合物を使用前に合成しなければならないかぎりにおいて、かかる合成又はその後の精製は、好ましくは、合成又は精製手順の間に使用された可能性のある潜在的に毒性をもつ作用物質を実質的に含んでいない製剤を結果としてもたらすものである。
【0067】
患者の体内のガン性身体条件を治療する上で使用するために、本発明は同様にその態様の1つにおいて、細胞障害性作用物質又はベクター放出細胞をコードする非相同遺伝子に作動的に連鎖されたH19調節領域を含有するポリヌクレオチドベクターを収納する無菌充てんされたバイアル又はアンプルの形をしたキット又はパッケージを提供している。1つの実施形態においては、このキットは、1回量又は複数回量のいずれかの量で、いつでも投与できる製剤形態として細胞障害性作用物質をコードする非相同性遺伝子に作動的に連鎖されたH19調節領域を含有するポリヌクレオチドベクターを収納しており、ここでこのパッケージには、ガン治療のためのその中味の使用を指示するラベルが含まれている。あるいは、そして本発明のもう1つの実施形態に従うと、パッケージは、このようなベクター放出細胞又は細胞株を収納する無菌充てんされたバイアル又はアンプルを提供する。保管及び輸送のためには、ベクター放出細胞又は細胞株を凍結すべきである。場合によっては、パッケージは同様に、ベクター放出細胞又は細胞株で培養するための培地及び試薬を収納していてもよい。
【0068】
発明について記述してきたが、以下の実施例は、制限的な意味をもたず一例として提供されている。
【実施例】
【0069】
6.実施例:H19調節配列は腫瘍細胞株内の非相同性遺伝子の発現を容易にする
この節では、H19調節配列の制御下に置かれたCATリポータ遺伝子を含むさまざまな発現構成体の構築及び複数の異なる膀胱ガン細胞株内へのそれらの移入について記述する。
【0070】
6.1 材料及び方法
6.1.1 細胞株及びトランスフェクション
膀胱ガン細胞株HT−1376、EJ28、T24P、1197及びUM−UC−3は米国標準培養収集機関(ATCC)から得たものであり、ATCC推奨事項に従って維持された。
【0071】
リン酸カルシウム沈降トランスフェクション方法を用いて過渡的トランスフェクションを行なった。30mmの皿の中の0.3×10個の細胞に対して1mlの培地中で(7μgのプラスミドを含有する)沈降物を加えた。16時間後に、トランスフェクション培地を除去し、新鮮な培地を添加した。トランスフェクションから24〜96時間後に細胞を収獲し、ブチリル−CoA有機相抽出手順(Sambrook et al.,1989)を用いてCAT活性を決定した。有機上部層のアリコート(100μl)を、シンチレーション液3mlを含むシンチレーションウェルに移しこれを計数した。
【0072】
6.1.2 発現ベクターの構築
(CATリポータ遺伝子とそれに先行する多重クローニング部位を含有する)pCAT−basic、(SV40プロモータの制御下でCATリポータ遺伝子を含む)pCAT−promoter、(CATリポータ遺伝子の下流のSV40エンハンサ及びCATリポータ遺伝子の下流のプロモータの挿入のための多重クローニング部位を含む)pCAT enhancer 及び(SV40プロモータとエンハンサの両方の制御下でCATリポータ遺伝子を含む)pCAT−control といったプラスミドは全て Promega(Madison,WI)から市販されていたものである。
【0073】
H19プロモータの制御下でCATリポータ遺伝子を含むプラスミドpH19Eを構築するため、H19プロモータ領域(配列番号 1)をまず最初にpBluescript II SK(Promega)内にクローニングした。H19プロモータ配列を含むポリヌクレオチドを、以下のプライマを用いてヒトの胎盤DNAから増幅させた。
【0074】
ESPCR21:CGGTTCCCCACTTCCCCAGTTT(配列番号6)及び
ESPCR22:CGGAAGTCGACAACCCTCACCAAAGGCCAAGGT(配列番号7)。
【0075】
PCR産物を、クレノウ酵素で末端研磨し、pBluescript II SKのEcoRV部位内にクローニングさせた。挿入されたDNAを、内部切断酵素PvuII、EcoRI及びApaIでの消化によって確認した。プロモータの向きは、ベクターの lacZコーディング領域とは反対であった。プロモータ領域を次に Hind III 及び PstIでの分割により切除し、結果として得られた約0.9kbのフラグメントを、pCAT−basic の Hind III−PstI部位内に挿入してpH19Eを産生させた。
【0076】
H19プロモータ/CATリポータ遺伝子の下流で両方の向きに挿入されたH19エンハンサ領域を含む発現プラスミドを以下のように構築した。CH19転写の開始点との関係において+6.0kbから+11kbまでの)H19下流エンハンサを含む5kbのSacIフラグメントを、pUC19のSacI部位内にクローニングした。このエンハンサフラグメントを次にEcoRI及びHind III で切除し、pBluescript II SKのEcoRI−Hind III 部位内にライゲートさせてpBhH19En−Saを作り出した。pBhH19En−SaをBamHIで部分的に消化させ、H19エンハンサ(及び内部BamHI部位)を含む5kbのフラグメントを、pH19E内のH19プロモータ/CATリポータ遺伝子の下流で BamHI部位内にクローニングさせた。正方向(pH19EH19D)及び逆方向(pH19EH19R)の両方の向きでH19エンハンサを含むプラスミドが生成された。
【0077】
6.2. 結果と考察
5つの異なる膀胱ガン細胞株HT−1376、EJ28、T24P、1197及びUM−UC−3を各々、pCAT−basic(図2でP−Eとして呼称されているもの)、pCAT−control(図2でpSV40ESV40と呼称されているもの)、pH19E、pH19EH19D、及びpH19EH19Rでトランスフェクションした。各構成体の発現結果を、図3A〜3Eに示した。各々の細胞株において、CAT活性の最高のレベルは、SV40エンハンサとSV40プロモータの両方を含有するpCAT−control プラスミドで観察された。この構成体は、SV40調節配列が遺伝子発現の誘発因子として立証されていることから、正の対照として役立った。しかしながら、SV40調節配列はその遺伝子発現を誘発する能力において腫瘍細胞特異的ではない。H19プロモータの制御下でCATリポータ遺伝子を含有する、pH19Eでのトランスフェクションを受けた細胞株も同様にバックグラウンドに比べ著しく増大したCAT発現を示した。H19プロモータによるCAT活性の誘発レベルは、HT−1376細胞株内の5倍からUM−UC−3細胞株内の10倍までの範囲にわたっていた。H19プロモータ/CATリポータ遺伝子構成体に対するH19エンハンサの添加はさらに、ある種の細胞株において発現レベルを増大させた。例えば、細胞株FJ28、T24P及び1197においては、H19エンハンサは、発現をH19プロモータ/CATリポータ遺伝子から著しく増大させた。しかしながら、エンハンサの向きは、異なる細胞株内で異なる結果を与えた。細胞株HT−1376及びUM−UC−3においては、エンハンサは、発現に対しほとんど又は全く効果を示さなかった。
【0078】
結果は、ヒトH19プロモータ領域が、多様な膀胱ガン由来の細胞株内で作動的に連鎖された非相同性リポータ遺伝子の発現を導くということを立証している。いくつかの膀胱ガン由来の細胞株においては、H19エンハンサは、H19の制御下でリポータ遺伝子の発現をさらに増大させることができる。
【0079】
7.実施例:H19調節配列の制御下での毒素遺伝子
7.1 材料と方法
以上の第6節で記述した発現構成体を、CATではなく毒性産物又はプロドラッグをコードする配列を発現するよう修飾する。例えば、CAT遺伝子産物をコードする配列を除去し、当該技術分野において周知の標準的クローニング方法を用いて単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)で置換させる。
【0080】
H19/プロドラッグ発現プラスミドを、第6節で記述されているように膀胱ガン由来の細胞株内にトランスフェクションさせる。膀胱ガン細胞株内にトランスフェクションされた時点で、H19/HSV−TK発現プラスミドが、ganciclovir の存在下で膀胱ガン細胞特異的細胞障害性を誘発する。
【0081】
8.実施例:化学的に誘発された膀胱ガン腫のマウスモデル内でのH19の発現
8.1. 材料及び方法
生後5週目の雌のC3H/Heマウス(Charles River)70匹を、カゴ1個あたり6匹の割合で収容し、空調された室内において12時間明/12時間暗のサイクルで環境順化させた。生後8週間目で実験を開始し、マウスを対照群(10匹)と実験群(60匹)に無作為に分けた。実験群のマウスには、飲料水中で随意に溶解させた0.05%のN−ブチル−N−(4−ヒドロキシブチル)ニトロサミン(BBM)(東京化成工業(株) 日本国東京)を与えた。対照マウスには、水道水を与えた。両方の群からの動物を、実験開始後4週目、8週目、12週目、16週目、20週目及び26週目に屠殺した。標準的な手順を用いて膀胱を切除し、定着させ、パラフィンブロック内に埋め込んだ。
【0082】
8.1.1. プローブの調製
マウスH19コーディング領域を含む2.1kbのフラグメントを、T7及びT3RNAポリメラーゼ結合部位の後ろでpBluescript II KSプラスミド(Stratagene, La Jolla, CA)内にサブクローニングした。〔35S〕で標識づけされたアンチセンスH19RNAを、T7ポリメラーゼ(Boehringer Mannheim)及び AmershamRPN2006キットを用いて Hind III で線状化されたプラスミドDNAから in vitro で産生させた。 in vitro で生成された写しは、10cpm/μgの比活性を有していた。T3ポリメラーゼ(Boehringer Mannheim)及びEcoRI−線状化された鋳型を用いて調製したセンスH19mRNAを対照として使用した。
【0083】
8.1.2. In situ ハイブリダイゼーション
ホルマリン定着された組織のパラフィンワックス切片(5μM)を3アミノプロピルトリエトキシラン(Tespa, Sigma) でコーティングされた顕微鏡スライド上に乗せ、37℃で一晩乾燥させた。切片をキシレンで脱ろうし、4%のパラホルムアルデヒドで定着させ、プロテイナーゼK(Sigma)で処理した。プローブの非特異的結合を減少させるべくスライドをアセチル化し、エタノール系列を通して脱水した。
【0084】
チオ−AMP工程は省略して、Rangini et al,1991,Mech. Dev.35:13−24により記述されているとおりに、〔35S〕で標識づけされたRNAプローブ(50000cpu/μ1の比活性)をハイブリッド形成させた。スライドを10日間、フィルムに露呈し、ヘマトキシリン及びエオシンで対比染色させた。明及び暗の野外照明下で、Polyvar(Reichert Jung)顕微鏡を用いてスライドを検査し写真撮影した。対照には、センスRNAプローブ及びRNAse予備ハイブリダイゼーション処理を行うハイブリダイゼーションが含まれていた。さらに、成熟した健康なマウス(H19を発現していない)からの膀胱及び胎児マウスの膀胱(H19を発現している)の切片がそれぞれ負及び正の対照として用いられた。
【0085】
8.2. 結果と考察
26週までに、生存した実験群のマウスの全てが触知可能な膀胱腫瘍を発生させていた。H19の広範な発現が、化学的に誘発された膀胱腫瘍の中で観察された。これとは対照的に、正常な成熟した膀胱内ではH19の発現は全く見られなかった。従って、この化学的に誘発された膀胱ガンのマウスモデルは、毒素遺伝子に作動的に連鎖されたH19の調節領域を含む構成体の in vivoでの腫瘍特異的細胞障害性を実証するための動物モデルとして使用することができる。
【0086】
9.実施例:膀胱ガン腫のマウスモデルにおいて非相同性遺伝子を発現するためにH19調節配列を使用した遺伝子療法
H19/毒素又はプロドラッグ発現プラスミドを、in vivo でのマウス膀胱への送達のためリポソーム内に(本書に参考として内含されている Takashita et al.,1993,J. Clin. Invest.93:652−651によって記述されているとおりに)取込ませる。この実験のために使用されるマウスは、第8節で上述したとおり化学的に誘発された膀胱腫瘍を有している。
【0087】
簡単に言うと、Optimen の無血清培地(BRL Life Technologies, Gaithersburg, MD)500μl中に溶解させた50μgのプラスミドDNAを250μlのリポフェクタミン及び、250μlの水に添加する。混合物を室温で30分間インキュベートし、次に平衡化された10mls の塩溶液(BSS(−):140mM NaCl,5.4mM KCl,10mMのトリス−HCl,pH7.6)の中に希釈させる。30分間15000rpm で溶液を遠心分離することによってペレット化した後、リポソームを、1mMのCaClを含むBSS(−)1ml中に再懸濁させる。約0.2mls の濃縮リポソームを、カテーテルを介して化学的に誘発された膀胱腫瘍を有するマウスに対し投与する。膀胱腫瘍をもつマウスの対照グループは、H19調節配列の制御下でDNAを含まない又は関連性のない遺伝子を含む構成体を伴うリポソームを受ける。規定の時点で、各グループからのマウスを屠殺し、標準的手順を用いて膀胱を切除し、定着させ、パラフィンブロック内に埋込む。上述のとおりのH19プローブ又はシュードモナス毒素遺伝子のコーディング配列に対するプローブのいずれかを用いて、in situ ハイブリダイゼーションのため代替的切片を処理する。さらに、対照及び実験群の間で、腫瘍のサイズ、数及び壊死を比較する。シュードモナス毒素の発現は、マウスの実験群からの膀胱腫瘍内のH19の発現と同時局在化することがわかる。さらに、マウスの実験群内の膀胱腫瘍は、マウスの対照群内の膀胱腫瘍に比べてサイズ及び壊死が減少している。
【0088】
10.実施例:腫瘍細胞株におけるIGF−2P3及びP4プロモータからの発現
10.1 材料と方法
この実験においては、4つの異なるIGF−2プロモータのうちの1つの制御下に置かれたルシフェラーゼリポータ遺伝子を含むさまざまな発現構成体を構築し、複数の異なる膀胱ガン細胞株内に移入した。以下のヒトIGF−2プロモータ/ルシフェラーゼ構成体を作成した:

IGF−2プロモータ配列は、本書に参考として内含されているSussenbach et al.,1992 Growth Reg, 2:1−9の中で記述されている。ルシフェラーゼリポータベクターは、Promega Madison, WI(カタログ#E1641)から市販されている。
【0089】
10.2. 結果及び考察
得られた発現プラスミドを、以上の第6節で記述されているようにヒトの膀胱ガン細胞株HT−1376、EJ28、T24P、1197及びUM−UC−3の中にトランスフェクションした。ルシフェラーゼ活性を、市販のキット(Promega, Madison, WI,カタログ#E1500)を用いて検定した。図4A〜4Eに示された結果は、IGF−2P4プロモータが、テストされた各々の膀胱ガン細胞株内のルシフェラーゼリポータ遺伝子の発現を導いたことを立証している。細胞株1197において、IGF−2 P3プロモータは同様に、ルシフェラーゼリポータ遺伝子の発現をも導いた。その後の実験において、IGF−2 P3及びP4プロモータは、繊毛上皮腫細胞及び横紋筋肉腫細胞を含むその他の腫瘍細胞内のルシフェラーゼ遺伝子発現の発現を導くことが示された。
【0090】
11.実施例:H19プロモータ及びIGF−2プロモータは非相同遺伝子の発現を容易にするためH19エンハンサと共に機能する
11.1. 材料と方法
4つのルシフェラーゼリポータベクター、pGL3−Basic、pGL3−Promoter、 pGL3−Enhancer 及びpGL3−Control を Promegaから得た。これらのベクターを、lipofetamine(Gibco/BRL)、fugene (Boehringer)、 8つの脂質試薬から成る Perfect Transfection Kit (Invitrogen)、 TFX−10、TFX−20、transfast (Promega) を含む一定数の異なるトランスフェクション試薬及びリン酸カルシウム法(Gorman et al.,1982,Mol. Cell. Biol.2:1044−1051)を用いて、培養された細胞株内にトランスフェクションした。
【0091】
pBluescript II Sk(pbh19p#1)のEcoRV部位内にクローニングされたH19プロモータについては、上記第6.1節において記述されている。H19プロモータを、SmaI及び Hind III での分割により切除し、得られた0.9kbのフラグメントをpGL3−Basic ベクターのSmaI−Hind III部位内に挿入して Luc−pbh19構成体を産生させる。
【0092】
nt−819〜+14までのH19プロモータ領域を、プライマ5' ATATGGTACCGACAACCCTCACCAAAG−3'(上流、配列番号8)及び5'-ATATAAGCTTCTTCTCCCTCACCCTGCTC−3'(下流、配列番号9)を用いてpbh19p#1プラスミドからPCRを用いて増幅した。得られたPCR産物をKpnI及び Hind III で消化し、pGL3−Basic ベクターのKpnI−Hind III部位内にライゲートさせて、Luc−PBH19構成体を生成する。このPCRにより生成されたH19プロモータを、自動化された色素ターミネータサイクル配列決定法(ABT Prism377DNAシーケンサ、Perkin Elmer) により両方向に配列決定した。図5は、PCRにより生成されたH19プロモータ(配列番号2)のヌクレオチド配列を示している。
【0093】
前出第6節の中で記述された5kbのH19下流エンハンサを DamHで消化させ、3'末端において4.1kbと0.9kbの2つのフラグメントを生み出した。Luc−PBH19−0.9EH19及びLuc−PBH19−4EH19構成体は、それぞれ、Luc−PBH19プラスミドの BamHI部位内へのH19エンハンサの0.9kb及び4.1kbの BamHIフラグメントの挿入により構築された。エンハンサ配列を、H19プロモータ/ルシフェラーゼリポータ遺伝子の下流に位置づけした。
【0094】
0.9kbの BamHIエンハンサフラグメントをpGL−Basic ベクターの BamHI部位内にライゲートさせ、Luc−0.9EH19ベクターを産生した。pbh19p#1プラスミドのH19プロモータを、KpnI−BamHIによって切除し、Luc−0.9EH19構成体のKpnI−BgIII 部位の中に連結させ、前出の第9節で記述したとおりのプロモータクローン及びH19/Lucリポータ遺伝子の下流の0.9kbのエンハンサを含むLuc−pbh19−0.9EH19発現構成体を生成した。
【0095】
それぞれヒトIGF−2プロモータP1、P2、P3及びP4の制御下でルシフェラーゼ遺伝子を含有するHup−1、Hup−2、Hup−3及びHup−4と呼称される発現ベクターを、Sussenbach et al.,1992.Growth Reg. 2:1−9の中で記述されているとおりに構築した。P4の512bpの領域を、プライマ5'-ACAGGTACCTCTAGAGTCGACCT−3'(上流、配列番号10)及び5'-ATATAAGCTTGCTCCCATCCTGCA−3'(下流、配列番号11)を用いてHup−4から増幅させた。得られたPCR産物をKpnI−Hind IIIで消化させ、リポータ遺伝子ベクターpGL3−Basic のKpnI−Hind III部位内にライゲートし、Luc−P4リポータ遺伝子ベクターを産生した。
【0096】
IGF−2 P4プロモータ及びH19エンハンサを含む発現ベクターも同様に調製された。前述の4.1kbのフラグメントから誘導された2kbの BamHIエンハンサフラグメントを、Luc−P4の BamHI部位内にクローニングし、Luc−P4−2EH19の発現ベクターを産生した。
【0097】
0.9kb、2kb及び4.1kbのH19エンハンサを、自動化されたDNA配列決定法を用いて配列決定した。0.9kbのエンハンサのヌクレオチド配列は、図6に示されている(配列番号3)。2kbエンハンサのヌクレオチド配列は、図7A及び7B(配列番号4)に示されている。4.1kbのエンハンサのヌクレオチド配列は図8A〜8C(配列番号5)に示されている。
【0098】
11.2. 結果及び考察
培養された細胞株内に4つのルシフェラーゼ遺伝子含有ベクターを導入するのに複数のトランスフェクション試薬が使用された場合、リン酸カルシウム沈降は、テストされた細胞株の大部分について最高のトランスフェクション効率を生み出した。従って、その後、さまざまな発現ベクターをトランスフェクションするためにカルシウム沈降が使用された。さらに、プラスミドDNAの濃度の増加は、安定水準より高い濃度で使用した場合でさえ、トランスフェクション効率を阻害しなかった。
【0099】
膀胱ガン細胞株5637、肝細胞ガン腫(HCC)細胞株Huh7及び腎腫瘍細胞株293Tを各々、H19エンハンサと組合わせたIGF−2P4プロモータ又はH19の制御下でルシフェラーゼリポータ遺伝子を含む異なる構成体でのトランスフェクションを受けた。
【0100】
リポータ遺伝子及びH19プロモータを含有するLuc−PH19及びLuc−ph19でのトランスフェクションを受けた細胞は、バックグラウンドに比べて増大した遺伝子発現を示した(図9A〜9C)。PCRで生成されたプロモータを含有する構成体Luc−PH19は、テストされた各々の細胞株においてLuc−ph19よりも高い活性を示す。Luc−ph19リポータベクター(Luc−ph19−0.9EH19)に対しH19 0.9kbのエンハンサフラグメントを添加することにより、発現レベルは、それぞれ細胞株5637及び293T内で2倍〜4倍までさらに増大した。
【0101】
IGF−2P4プロモータは同様に、バックグラウンドに比べて全ての細胞株内でルシフェラーゼの発現を増大させた。Luc−P4発現ベクターに対する2kbのH19エンハンサフラグメントの添加は、P4プロモータ活性を増強した。2kbエンハンサフラグメントによるルシフェラーゼ活性の誘発レベルは、293T細胞株内での2倍からHuh7細胞株内での6倍までの範囲にわたり、一方エンハンサは、5673個の細胞内でプロモータ活性をわずかに増強したにすぎない。
【0102】
図10A〜10Eは、PCRにより生成されたH19プロモータ及び4.1kbのH19エンハンサフラグメントの両方を含有する構成体(Luc−ph19−4EH19)の発現を示している。エンハンサは、5637の細胞株内を除き、細胞株内で3〜28倍だけプロモータの活性を大幅に増大させた。
【0103】
12.クローンの寄託
特許手続きを目的とする微生物の寄託の国際的認知に関するブダペスト条約の条項に基づき、アメリカ標準培養収集機関(ATCC),Manassas, VAに以下のプラスミドを寄託した:
クローン ATCC受入れ番号 寄託年月日
pH19EH19 209322 1997年10月2日
【0104】
等価物
前述の明細書は、当業者が本発明を実施することを可能にするのに充分なものである。実際、分子生物学、医学の分野又は関連する分野の当業者にとって明白である上述の発明の実施手段のさまざまな修正は、以下の請求の範囲内に入ることが意図されている。
【0105】
本書に引用されている全ての刊行物は、その全体が参考として本書に内含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1A】ヒトH19プロモーター領域の核酸配列を示す。核酸配列-837から-7(転写開始点に対して)までのプロモーター領域を示す(配列番号1)。
【図1B】ヒトH19プロモーター領域の核酸配列を示す。核酸配列-837から-7(転写開始点に対して)までのプロモーター領域を示す(配列番号1)。
【図1C】ヒトH19プロモーター領域の核酸配列を示す。核酸配列-837から-7(転写開始点に対して)までのプロモーター領域を示す(配列番号1)。
【図2】H19調節配列の制御下、異種遺伝子を発現するのに使用したベクターの略図を示す。
【図3】膀胱癌細胞系における異種遺伝子(CAT)のH19調節配列の直接発現を示す。5つの異なる指定細胞系に対し、CAT特異活性(cpm/gタンパク質)がトランスフェクションに使用したベクターの関数としてプロットされている。図3A:HT-1376細胞。図3B:EJ28細胞。図3C:T24P細胞。図3D:1197細胞。図3E:UM-UC-3細胞。ベクターは以下の通り、セクション6に詳細に記載されている。(1) pCAT-ベーシック(basic); (2) pCAT-コントロール;(3) pH19E;(4) pH19E19D;(5) pH19EH19R。
【図4】膀胱癌細胞系における異種遺伝子(ルシフェラーゼ)のIGF-2 P3およびP4プロモーターの直接発現を示す。5つの異なる細胞系に対し、ルシフェラーゼ特異活性(カウント/gタンパク質)がルシフェラーゼの直接発現にトランスフェクトされた構築物に使用したIGF-2プロモーターの関数としてプロットされている。図4A:T24P細胞。図4B:1376細胞。図4C:UM-UC-3細胞。図4D:1197細胞。図4E:EJ28細胞。ベクターは、セクション10に詳記されている。
【図5】ヒトH19プロモーター断片の核酸配列(配列番号2)を示す。
【図6】0.9 kbのH19エンハンサー断片の核酸配列(配列番号3)を示す。
【図7A】2 kbのH19エンハンサー断片の核酸配列(配列番号4)を示す。
【図7B】2 kbのH19エンハンサー断片の核酸配列(配列番号4)を示す。
【図8A】4 kbのH19エンハンサー断片の核酸配列(配列番号5)を示す。
【図8B】4 kbのH19エンハンサー断片の核酸配列(配列番号5)を示す。
【図8C】4 kbのH19エンハンサー断片の核酸配列(配列番号5)を示す。
【図9】種々のH19調節領域とP4プロモーターとの組合せを含むベクターによるトランスフェクションは腫瘍細胞におけるルシフェラーゼの発現を指示する。図9A:5637細胞。図9B:Huh7細胞。図9C:293T細胞。
【図10】H19調節領域を含むベクターによるトランスフェクションは腫瘍細胞におけるルシフェラーゼの発現を指示する。図10A:293T細胞。図10B:T24P細胞。図10C:Huh7細胞。図10D:5637細胞。図10E:RT112細胞。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞傷害性の遺伝子産物をコードする異種配列に機能的に連結された調節配列を含むポリヌクレオチドを含有する、腫瘍細胞において配列を発現させるためのベクターであって、前記調節配列がH19調節配列、IGF-2 P4プロモーターおよびIGF-1プロモーターから選択されるものである、上記ベクター。
【請求項2】
H19調節配列がH19プロモーターとH19エンハンサーのうち一方又は両方を含む、請求項1記載のベクター。
【請求項3】
異種配列がβ−ガラクトシダーゼ、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素、リシン、コレラ毒素、網膜芽細胞腫遺伝子、p53、単純ヘルペスチミジンキナーゼ、水痘−帯状疱疹チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、シトクロムp-450 2B1、チミジンホスホリラーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、アルカリホスファターゼ、カルボキシペプチダーゼAおよびG2、リナマラーゼ(linamarase)、β−ラクタマーゼおよびキサンチンオキシダーゼからなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項1または2記載のベクター。
【請求項4】
ヒトにおける増殖性疾患の予防または治療への使用に意図されたものである、請求項1〜3のいずれか1項記載のベクター。
【請求項5】
ヒトに対するリポソーム投与に意図されたものである、請求項1〜4のいずれか1項記載のベクター。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項7】
H19調節配列、IGF-2 P4プロモーターおよびIGF-1プロモーターから選択される配列に由来する調節配列に機能的に連結された細胞傷害性または細胞増殖抑制性の遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む、被験体の癌治療のための医薬組成物。
【請求項8】
細胞傷害性の遺伝子産物がジフテリア毒素、シュードモナス毒素、リシン、コレラ毒素、網膜芽細胞腫遺伝子およびp53からなる群より選択される、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
H19調節配列がH19プロモーター、H19エンハンサー、またはH19プロモーターとH19エンハンサーの両方である、請求項7または8記載の医薬組成物。
【請求項10】
H19プロモーターが配列番号1のヌクレオチド1〜830からなる、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
H19プロモーターが配列番号2の配列からなる、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項12】
H19エンハンサーがプラスミドpH19EH19(ATCC受託番号209322)中にクローン化されたH19エンハンサーの配列からなる、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項13】
H19エンハンサーが配列番号3の配列からなる、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項14】
H19エンハンサーが配列番号4の配列からなる、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項15】
H19エンハンサーが配列番号5の配列からなる、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項16】
H19エンハンサーが異種配列の3'側に配置される、請求項7〜15のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項17】
癌が膀胱癌、肝細胞性癌、肝芽細胞腫、横紋筋肉腫、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、乳癌、頭部および頸部の扁平上皮癌、食道癌、甲状腺癌、神経膠星状細胞腫、神経節芽細胞腫および神経芽細胞腫から選択される、請求項7〜16のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項18】
癌が膀胱癌または肝細胞性癌である、請求項17記載の医薬組成物。
【請求項19】
H19プロモーターが配列番号1のヌクレオチド1〜830からなる、請求項2記載のベクター。
【請求項20】
H19プロモーターが配列番号2の配列からなる、請求項2記載のベクター。
【請求項21】
H19エンハンサーがプラスミドpH19EH19(ATCC受託番号209322)中にクローン化されたH19エンハンサーの配列からなる、請求項2記載のベクター。
【請求項22】
H19エンハンサーが配列番号3の配列からなる、請求項2記載のベクター。
【請求項23】
H19エンハンサーが配列番号4の配列からなる、請求項2記載のベクター。
【請求項24】
H19エンハンサーが配列番号5の配列からなる、請求項2記載のベクター。
【請求項25】
H19エンハンサーが異種配列の3'側に配置される、請求項2記載のベクター。
【請求項26】
増殖性疾患が膀胱癌、肝細胞性癌、肝芽細胞腫、横紋筋肉腫、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、乳癌、頭部および頸部の扁平上皮癌、食道癌、甲状腺癌、神経膠星状細胞腫、神経節芽細胞腫および神経芽細胞腫から選択される、請求項4記載のベクター。
【請求項27】
増殖性疾患が膀胱癌または肝細胞性癌である、請求項26記載のベクター。
【請求項28】
増殖性疾患または障害を治療または予防するための医薬として使用するための核酸であって、
a) 少なくとも1つのH19調節配列、IGF-2調節配列および少なくとも1つのH19調節配列断片より選択される少なくとも1つの調節配列と、
b) 細胞傷害性または細胞増殖抑制性の遺伝子産物をコードする異種配列と、
を含み、前記少なくとも1つの調節配列が異種配列に機能的に連結されており、且つ前記少なくとも1つの調節配列が腫瘍細胞で特異的に発現するゲノムインプリンティングされた遺伝子に由来するものである、前記核酸。
【請求項29】
H19調節配列がH19プロモーター配列である、請求項28記載の核酸。
【請求項30】
H19調節配列がH19エンハンサー配列である、請求項28記載の核酸。
【請求項31】
IGF-2調節配列がIGF-2 P4プロモーターである、請求項28記載の核酸。
【請求項32】
IGF-2調節配列がIGF-2 P3プロモーターである、請求項28記載の核酸。
【請求項33】
腫瘍細胞が膀胱癌細胞である、請求項28記載の核酸。
【請求項34】
膀胱癌細胞が、Ht-1376、EJ28、T24P、1197およびUm-UC-3からなる群より選択される、請求項33記載の核酸。
【請求項35】
少なくとも1つのH19調節配列が、H19プロモーター、H19エンハンサー、およびH19プロモーターとH19エンハンサーとの組合わせから選択される、請求項28記載の核酸。
【請求項36】
異種配列がβ−ガラクトシダーゼ、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素、リシン、コレラ毒素、網膜芽細胞腫遺伝子、p53、単純ヘルペスチミジンキナーゼ、水痘−帯状疱疹チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、シトクロムp-450 2B1、チミジンホスホリラーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、アルカリホスファターゼ、カルボキシペプチダーゼAおよびG2、リナマラーゼ(linamarase)、β−ラクタマーゼおよびキサンチンオキシダーゼのコード配列からなる群より選択される、請求項28記載の核酸。
【請求項37】
異種配列が、cdk2、cdk8、cdk2l、cdc25A、サイクリンDl、サイクリンE、サイクリンA、cdk4並びにp53、c-fos、c-jun、Kr-rasおよびHer2/neuのオンコジーン形態からなる群より選択される遺伝子をコードする配列に特異的にハイブリダイズするアンチセンス配列である、請求項28記載の核酸。
【請求項38】
異種配列が、cdk2、cdk8、cdk2l、cdc25A、サイクリンDl、サイクリンE、サイクリンA、cdk4並びにp53、c-fos、c-jun、Kr-rasおよびHer2/neuのオンコジーン形態からなる群より選択される遺伝子をコードするRNAを特異的に切断するリボザイムをコードする、請求項28記載の核酸。
【請求項39】
H19プロモーターが配列番号1のヌクレオチド1〜830からなる、請求項35記載の核酸。
【請求項40】
H19プロモーターが配列番号2の配列からなる、請求項35記載の核酸。
【請求項41】
H19エンハンサーがプラスミドpH19EH19(ATCC受託番号209322)中にクローン化されたH19エンハンサーの配列からなる、請求項35記載の核酸。
【請求項42】
H19エンハンサーが配列番号3の配列からなる、請求項35記載の核酸。
【請求項43】
H19エンハンサーが配列番号4の配列からなる、請求項35記載の核酸。
【請求項44】
H19エンハンサーが配列番号5の配列からなる、請求項35記載の核酸。
【請求項45】
H19エンハンサーが異種配列の3'側に配置される、請求項35記載の核酸。
【請求項46】
請求項28記載の核酸を含有する、腫瘍細胞において配列を発現させるためのベクターであって、少なくとも1つの調節配列がIGF-2調節配列を含むものである、前記ベクター。
【請求項47】
H19プロモーター配列をさらに含む、請求項46記載のベクター。
【請求項48】
IGF-2調節配列がIGF-2 P4プロモーターである、請求項46記載のベクター。
【請求項49】
IGF-2調節配列がIGF-2 P3プロモーターである、請求項46記載のベクター。
【請求項50】
H19プロモーターとH19エンハンサーとをさらに含み、且つ異種配列がβ−ガラクトシダーゼ、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素、リシン、コレラ毒素、網膜芽細胞腫遺伝子、p53、単純ヘルペスチミジンキナーゼ、水痘−帯状疱疹チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、シトクロムp-450 2B1、チミジンホスホリラーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、アルカリホスファターゼ、カルボキシペプチダーゼAおよびG2、リナマラーゼ(linamarase)、β−ラクタマーゼおよびキサンチンオキシダーゼからなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項47記載のベクター。
【請求項51】
請求項46記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項52】
請求項28記載の核酸と製薬上許容される担体とを含む、被験体の癌治療のための医薬組成物であって、少なくとも1つの調節配列がIGF-2調節配列を含むものである、前記医薬組成物。
【請求項53】
少なくとも1つのH19調節配列がH19プロモーターを含む、請求項52記載の医薬組成物。
【請求項54】
IGF-2調節配列がIGF-2 P4プロモーターである、請求項52記載の医薬組成物。
【請求項55】
IGF-2調節配列がIGF-2 P3プロモーターである、請求項52記載の医薬組成物。
【請求項56】
細胞傷害性の遺伝子産物がジフテリア毒素、シュードモナス毒素、リシン、コレラ毒素、網膜芽細胞腫遺伝子およびp53からなる群より選択される、請求項52記載の医薬組成物。
【請求項57】
少なくとも1つの調節配列が、H19プロモーター、H19エンハンサー、およびH19プロモーターとH19エンハンサーとの組合わせから選択される、請求項53記載の医薬組成物。
【請求項58】
H19プロモーターが配列番号1のヌクレオチド1〜830からなる、請求項57記載の医薬組成物。
【請求項59】
H19プロモーターが配列番号2の配列からなる、請求項57記載の医薬組成物。
【請求項60】
H19エンハンサーがプラスミドpH19EH19(ATCC受託番号209322)中にクローン化されたH19エンハンサーの配列からなる、請求項57記載の医薬組成物。
【請求項61】
H19エンハンサーが配列番号3の配列からなる、請求項57記載の医薬組成物。
【請求項62】
H19エンハンサーが配列番号4の配列からなる、請求項57記載の医薬組成物。
【請求項63】
H19エンハンサーが配列番号5の配列からなる、請求項57記載の医薬組成物。
【請求項64】
H19エンハンサーが異種配列の3'側に配置される、請求項57記載の医薬組成物。
【請求項65】
癌が膀胱癌、肝細胞性癌、肝芽細胞腫、横紋筋肉腫、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、乳癌、頭部および頸部の扁平上皮癌、食道癌、甲状腺癌、神経膠星状細胞腫、神経節芽細胞腫および神経芽細胞腫から選択される、請求項52記載の医薬組成物。
【請求項66】
ヒトに対するリポソーム投与に意図されたものである、請求項52記載の医薬組成物。
【請求項67】
患者における増殖性疾患または障害を治療または予防するための医薬の調製方法であって、
請求項28記載の核酸を調製する工程と、
患者への投与に適した製剤中に前記核酸を製剤化する工程と、
を含む、前記方法。
【請求項68】
製剤がリポソームを含む、請求項67記載の方法。
【請求項69】
増殖性疾患または障害を治療するための医薬の調製における、請求項28記載の核酸の使用。
【請求項70】
増殖性疾患が癌である、請求項69記載の使用。
【請求項71】
癌が膀胱癌、肝細胞性癌、肝芽細胞腫、横紋筋肉腫、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、乳癌、頭部および頸部の扁平上皮癌、食道癌、甲状腺癌、神経膠星状細胞腫、神経節芽細胞腫および神経芽細胞腫から選択される、請求項70記載の使用。
【請求項72】
医薬がリポソーム投与に適合したものである、請求項69記載の使用。
【請求項73】
請求項28記載の核酸を細胞または組織に投与することを含む、in vitroでの細胞または組織における増殖性疾患または障害の治療方法。
【請求項74】
無菌充填バイアルまたはアンプルに請求項28記載の核酸を含有するベクターを含む、増殖性疾患または障害を治療するためのキット。
【請求項75】
増殖性疾患が癌である、請求項74記載のキット。
【請求項76】
癌が膀胱癌、肝細胞性癌、肝芽細胞腫、横紋筋肉腫、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、乳癌、頭部および頸部の扁平上皮癌、食道癌、甲状腺癌、神経膠星状細胞腫、神経節芽細胞腫および神経芽細胞腫から選択される、請求項75記載のキット。
【請求項77】
請求項28記載の核酸を含むウイルスベクターを含んでなる増殖性疾患または障害を治療するための剤形であって、1×107プラーク形成単位〜1×1010プラーク形成単位を含む、前記剤形。
【請求項78】
KSプラスミド中にマウスH19コード領域を含む、増殖性疾患または障害を検出するためのプローブ。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−304801(P2006−304801A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144648(P2006−144648)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【分割の表示】特願2000−514993(P2000−514993)の分割
【原出願日】平成10年10月4日(1998.10.4)
【出願人】(500155660)イッサム リサーチ ディヴェロップメント カンパニー オブ ザ ヘブリュー ユニバーシティー オブ エルサレム (5)
【Fターム(参考)】