腫瘍退縮アデノウイルスの作出およびその使用
本発明は、増大した効力を有する腫瘍退縮アデノウイルスの作出のための方法およびそれらの癌への治療適用に関する。組換えアデノウイルスおよびそれらを作出するための方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本明細書に記載される発明は、固形腫瘍の処置における使用のための、増大した効力/増大した治療指数を有する腫瘍退縮アデノウイルスを作出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
臨床的に有効な腫瘍退縮剤の選択の成功は、正確に標的腫瘍のモデルとなる一方で実験室において日常的に再生可能な細胞または組織の使用に依存している。近年の研究によって、細胞外マトリックス ナノフィブリルの3次元の結合(association)およびそれらが誘導する細胞構造(cellular architecture)が、正常細胞および形質転換された(transformed)細胞の両方の培養における細胞接着、細胞骨格の形成、シグナル伝達および遺伝子発現、形態形成ならびに分化の生理学的パターンを十分に模倣するインビトロ系の発展にとって重大な意味を持つという証拠が提供された。遺伝子発現プロファイリング(GEP)、プロテオミクスおよび細胞機能の分析を含む多くの分析方法によって、単層培養よりも 3D 培養が一般的に良い腫瘍モデルであることが明らかにされている(Birgersdotter et al. (2005) Semin Cancer Bio. 15:405-412; Nelson and Bissell (2005) Semin Cancer Biol 15:342-352)。
【発明の概要】
【0003】
発明の概要
本発明は、固形のまたは血液の腫瘍のウイルスに基づく治療に有用な腫瘍退縮アデノウイルスを単離するための方法を提供し、ここで、単離されたアデノウイルスは基準となる1または複数のウイルスと比較して増強された効力を示す。
【0004】
一つの態様において、該方法は以下の工程を含む
(a) アデノウイルスの群をプールすること、ここで、該アデノウイルスはアデノウイルス血清型 B、C、D、E および F からなる群から選択される;
(b) 工程(a)からのプールされたアデノウイルス混合物を、活発に増殖する腫瘍細胞の培養物上で継代すること;
(c) 工程(b)からの上清を回収すること;
(d) 静止状態の腫瘍細胞の培養物に、工程(c)で回収した上清を感染させること;
(e) 工程(d)からの細胞培養上清を、CPE の徴候の前に回収すること;
(f) 静止状態の腫瘍細胞の培養物に、工程(e)で回収した上清を感染させること;
(g) 工程(f)からの細胞培養上清を、CPE の徴候の前に回収すること; および
(h) ウイルスを、工程(g)の上清からプラーク精製によって単離すること、
ここで、工程(b)、(d)および(f)における腫瘍細胞は全て細胞外マトリックスの上または中で増殖する。
【0005】
好ましい態様において、細胞外マトリックスは、MATRIGEL(商標)として知られる再構成された基底膜である。
【0006】
本発明の別の態様において、プールされたアデノウイルス混合物は、ColoAd1 (配列番号3) をさらに含む。
【0007】
本発明の別の態様において、工程(a)のプールの一部は継代の前に変異誘発される。
【0008】
本発明の別の態様において、工程(b)の継代は最初の上清回収の前に2回行われる。
【0009】
本発明は、結腸、卵巣(ovarian)、肺、前立腺、乳房または膵臓由来の腫瘍細胞に特異的に標的化された腫瘍退縮アデノウイルスの単離を提供する。
【0010】
本発明の一つの態様において、本方法によって単離される腫瘍退縮アデノウイルスは、卵巣腫瘍細胞を標的とする。卵巣腫瘍細胞を標的とする、本発明の2つの単離された腫瘍退縮アデノウイルスは、OvAd1 (配列番号1)および OvAd2 (配列番号2)である。
【0011】
本発明の別の態様において、本方法によって単離される腫瘍退縮アデノウイルスは、癌前駆体細胞を標的とする。別名卵巣癌幹細胞として知られる卵巣癌前駆体細胞を標的とする、本発明の一つの単離された腫瘍退縮アデノウイルスは、OvAd1(配列番号1)である。
【0012】
本発明は、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの保存的に改変された変異体(variant)をさらに包含し、ここで、該変異体は、もとの腫瘍退縮アデノウイルスと比較した場合に等しいまたはより大きな効力を示す。
【0013】
本発明の別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、複製欠損性のアデノウイルスベクターを作出するために改変されている。好ましい態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、アデノウイルスの複製に関与するタンパク質をコードするアデノウイルスゲノムの1以上の領域またはその部分、例えば E1、E2 または E4 領域の欠失を通して複製欠損性を与えられている。特に好ましいのは、E1 または E2 領域の欠失である。
【0014】
本発明の別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、その効力を増大させるために、アデノウイルスゲノムのサイズを減少させることによって改変される。好ましい改変は、E3 領域またはその部分の欠失である。かかる改変は、本発明のオリジナルのアデノウイルスについてまたはその複製欠損性の派生株(derivative)について作られ得る。
【0015】
別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、腫瘍特異性を増大させるために改変される。好ましい改変は、“デルタ 24”欠失を有するアデノウイルスの作成である。
【0016】
本発明は、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの治療目的での使用のための方法をさらに提供する。一つの態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、腫瘍細胞に腫瘍退縮アデノウイルスを感染させることによって、インビトロまたはインビボで腫瘍細胞の増殖を阻害するために用いられ得る。
【0017】
好ましい態様において、OvAd1 (配列番号1) または OvAd2 (配列番号2)アデノウイルスは、卵巣腫瘍細胞の増殖を阻害するために(すなわち、患者における卵巣癌の処置のために)有用である。特に好ましい態様において、OvAd1 (配列番号1) 腫瘍退縮アデノウイルスは、卵巣腫瘍細胞、特に、化学療法耐性の卵巣腫瘍細胞の増殖を阻害するために有用である。
【0018】
別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、所望によりあらゆる治療用量のウイルスをインビボで除去できるよう、その発現がアデノウイルスの複製を減弱させる働きをする異種性の遺伝子をさらに含む。好ましい態様において、この感染を減弱させる遺伝子の発現は、例えば遺伝子発現調節の“tet-on”系の使用を通して調節され得る。別の好ましい態様において、該遺伝子はチミジンキナーゼであり、ガンシクロビルが投与された上でのその発現は感染細胞の死につながり、ウイルス感染の減弱をもたらす。
【0019】
別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは異種性の遺伝子をさらに含み、ここで、該異種性の遺伝子はアデノウイルスに感染した細胞内で発現し、治療タンパク質または治療因子をコードする。好ましい態様において、治療タンパク質は、サイトカインおよびケモカイン、抗体、既知の細胞死誘導因子、プロドラッグ変換酵素ならびに免疫調節性のタンパク質およびペプチドからなる群から選択される。治療因子は、これらに限定されないが、小分子RNA(small RNA)(例えば shRNA、miRNA)およびアプタマーであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】生物的に選択された(bioselected)プールの効力。それぞれ MATRIGEL(商標)および単層上で生物的に選択された(bioselected) SM10 (−黒四角−) および SP10 (−黒丸−)ウイルス プールは両者ともに、出発プール: Ad3(−白丸−); Ad5(−白四角−); Ad11p (−白三角−); および Ad35 (−白ひし形−) におけるウイルスの効力と比較して SKOV3 細胞に対して増強された効力を示す。MTS アッセイを、感染後7日で読み取った。
【図2】生物的に選択されたプールの治療指数。図 2A、MATRIGEL(商標) 上で選択されたアデノウイルス プール(SM10)の治療指数は、HUVEC 内皮細胞 (−黒丸−) および SKOV3 白金耐性卵巣腫瘍細胞 (−白丸−)に対するその効力(IC50)を比較することによって決定される。図 2B、単層上で選択されたアデノウイルス プール(SP10)の治療指数は、HUVEC 内皮細胞 (−黒丸−) および SKOV3 白金耐性卵巣腫瘍細胞 (−白丸−)に対するその効力(IC50)を比較することによって決定される。MTS アッセイを、感染後7日で読み取った。
【図3】アデノウイルス OvAd1 および OvAd2 の効力。個々のアデノウイルス OvAd1 および OvAd2 は、それぞれ SM10 (MATRIGEL(商標)-選択) および SP10 (単層-選択)プールから単離された。単離株(isolate) OvAd1 (−白丸−) および OvAd2 (−白四角−)の SKOV3 細胞に対する効力を、MTS アッセイを用いて決定し、親のアデノウイルス ColoAd1 (−白三角−) および Ad3 (−白ひし形−) ならびに既知の腫瘍退縮アデノウイルス Onyx-015 (−黒四角−)の効力と比較した。感染後7日での結果を示す。
【図4】アデノウイルス OvAd1 および OvAd2 の治療指数。個々のアデノウイルス OvAd1 および OvAd2 は、それぞれ SM10 (MATRIGEL(商標)-選択) および SP10 (単層-選択)プールから単離された。各々の単離株の効力は、SKOV3 および HUVEC 細胞について決定された。記号は以下の通りである: HUVEC に対する OvAd1 (−黒丸−); SKOV3 に対する OvAd1 (−黒逆三角−); HUVEC に対する OvAd2 (−白丸−); および SKOV3 に対する OvAd2 (−白三角−)。治療指数は、SKOV3 白金耐性卵巣腫瘍細胞および HUVEC 初代正常内皮細胞に対するアデノウイルスの効力(IC50)を比較することによって決定される。感染後7日での結果を示す。OvAd1 および OvAd2 は両者とも、HUVEC 細胞に対するよりも SKOV3 細胞に対する方が約100-倍強力である。
【図5】OvAd1 および OvAd2 配列の ColoAd1 および Ad3 との関連性。OvAd1(配列番号1) および OvAd2 (配列番号2)の DNA 配列解析は、両方のウイルスが ColoAd1 (配列番号3) と Ad3 (配列番号4)の配列のキメラであることを明らかにした。OvAd1 配列上の 10,000bp と 13,060bp の間の領域は、OvAd1 および OvAd2間 の非相同性領域である。
【図6】腹腔内(IP)モデルにおける OvAd1 および 0vAd2 のインビボでの有効性。図 6A、O日において、SKOV3 腫瘍細胞を 25 頭のマウスの腹膜腔に播種した。マウスを 5 つの群に分け、腫瘍播種後 3、5、および 7 日において4種のウイルス OvAd1 (−黒丸−)、OvAd2 (−黒四角−)、ONYX-015 (−X−) および ColoAd1 (−黒三角−)のうちの一つまたは媒体対照(−+−)を腹腔内(ip)に注入した。マウスの重さを 4 から 6 日ごとに量った。図 6B、41 日目に、マウスを安楽死させ、腫瘍を切り出して(dissected out)重さを量った(n=5)。
【図7】Lieber および Strauss より; ステージ 4 の卵巣癌患者からの、卵巣癌前駆体または幹の(stem)細胞に対する OvAd1 の効力。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の詳細な説明
本明細書において言及される、特許および特許出願を含む全ての刊行物は、各個々の刊行物が引用によりその全体が包含されるよう具体的にかつ個別に意図されるのと同程度に、引用により本明細書に包含される。
【0022】
定義
他に定義しない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明の属する分野における通常の知識を有する者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。通常、本明細書において用いられる命名法および以下で説明される実験手法は、当該技術分野において周知かつ一般的に採用されるものである。
【0023】
本明細書において用いる場合、“アデノウイルス”、“血清型”または“アデノウイルス血清型”の用語は、現在知られている 51 の ヒト アデノウイルスの血清型または将来において単離される血清型のいずれかをいう。例えば、The Adenoviruses, Ginsberg, ed., Plenum Press, New York, NY, pp.451-596 (1984)における Strauss,“Adenovirus infections in humans”を参照されたい。これらの血清型は、表1に示される通りサブグループ A-F に分類される (Fields Virology, Vol.2, Fourth Edition, Knipe, ea., Lippincott Williams & Wilkins, pp. 2265-2267 (2001)における Shenk,“Adenoviridae: The Viruses and Their Replication”を参照されたい)。
【表1】
【0024】
本明細書において用いる場合、“キメラ アデノウイルス”は、その核酸配列が、選択が行われた最初のアデノウイルス プール内に含まれるアデノウイルスゲノムの少なくとも2つの核酸配列で構成されるアデノウイルスをいう。
【0025】
本明細書において用いる場合、“相同組換え”の用語は、各々が相同な配列を有する2つの核酸分子をいい、ここで、該2つの核酸分子は相同性の領域において交差するかまたは組換えを受ける。
【0026】
本明細書において用いる場合、“効力”の用語は、ウイルスの溶解能(lytic potential)をいい、ウイルスの複製し、溶解し、および伝播する能力を表す。本発明の目的のためには、効力は、所与の細胞株に対するあらゆる所与のアデノウイルスの IC5O である。
【0027】
本明細書において用いる場合、“腫瘍退縮ウイルス”の用語は、正常細胞と比較して癌細胞を優先的に殺すウイルスをいう。
【0028】
本明細書において用いる場合、“治療指数”または“治療域(therapeutic window)”の用語は、所与のアデノウイルスの腫瘍退縮性の選択性を示す数字をいい、正常な(すなわち、非癌性の)細胞株におけるアデノウイルスの効力を選択された癌細胞株におけるアデノウイルスの効力で除算することによって決定される 。
【0029】
本明細書において用いる場合、“改変された”との用語は、天然の、例えば野生型のヌクレオチドもしくはアミノ酸配列と異なるかまたは本発明の方法によって作出されたアデノウイルスのヌクレオチド配列もしくはアミノ酸配列と異なるヌクレオチドもしくはアミノ酸配列を有する分子をいう。改変された分子は、野生型分子の機能または活性を保持することができ、すなわち、改変されたアデノウイルスは、その腫瘍退縮活性を保持することができる。以下で説明される通り、改変は、核酸に対する突然変異を包含し、欠失、挿入および置換を含む。かかる突然変異を有するポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、当該技術分野において周知の方法を用いて単離または作成することができる。
【0030】
本明細書において用いる場合、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに関しての“突然変異”とは、それぞれ基準のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較しての(例えば、野生型のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較しての)、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドの一次、二次または三次構造に対する天然の、合成の、組換えのまたは化学的な変化もしくは相違をいう。
【0031】
本明細書において用いる場合、“欠失”は、それぞれ1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が存在しない、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列のいずれかにおける変化として定義される。
【0032】
本明細書において用いる場合、“挿入”または“付加”は、天然のポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較して、それぞれ1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の追加をもたらす、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の変化である。
【0033】
本明細書において用いる場合、“置換”は、1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸がそれぞれ異なるヌクレオチドまたはアミノ酸によって置き換えられることによって生じる。
【0034】
本明細書において用いる場合、“アデノウイルス派生株(derivative)”の用語は、付加、欠失または置換がウイルス ゲノムに対してまたはウイルス ゲノム内に作出され、生じるアデノウイルス派生株が、親のアデノウイルスのものと等しいもしくはより大きい効力および/または治療指数を示すかまたは他の何らかの方法でより治療上有用(すなわち、低免疫原性、改善したクリアランス特性)であるように改変された本発明のアデノウイルスをいう。例えば、本発明のアデノウイルスの派生株は、これらに限定されないが、ウイルス ゲノムの E1A または E2B 領域を含むウイルス ゲノムの初期遺伝子の一つにおいて、欠失を有し得る。
【0035】
本明細書において用いる場合、“保存的に改変された変異体”は、本発明のアデノウイルスのアミノ酸および核酸配列の両方における改変に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいうか、または該核酸がアミノ酸配列をコードせず、本質的に同一である配列をいう。遺伝暗号の縮重のため、多くの機能的に同一な核酸が、あらゆる所与のタンパク質をコードする。例えば、コドン GCA、GCC、GCG および GCU は全て、アミノ酸 アラニンをコードする。よって、あるコドンによってアラニンが特定されるいかなる位置においても、該コドンは、コードされるポリペプチドを変更することなく、記載されるあらゆる対応のコドンに変更され得る。かかる核酸の変異(variation)は、保存的に改変された変異の1つの種である“サイレント変異”である。ポリペプチドをコードする本明細書の核酸配列もまたいずれも、該核酸のあらゆる可能なサイレント変異を表している。当業者は、核酸における各コドン(通常はメチオニンのための唯一のコドンである AUG、および通常はトリプトファンのための唯一のコドンである TGG を除く)が、機能的に同一の分子を生成するために改変され得ることを認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各々のサイレント変異は、各々の記載された配列において黙示的なものである。
【0036】
アミノ酸配列については、当業者は、コードされる配列において単一のアミノ酸もしくは少ないパーセンテージのアミノ酸を変更し、付加しまたは削除する、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加が、“保存的に改変された変異体”であり、該変更が化学的に類似のアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらすことを認識するであろう。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、当該技術分野において周知である。かかる保存的に改変された変異体は、本発明の多型性変異体、種間ホモログおよび対立遺伝子に対し追加的なものであり、これらを除外しない。
【0037】
以下の8つの群は各々、互いに保存的置換であるアミノ酸を包含する:
1) アラニン(A)、グリシン(G);
2) アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3) アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4) アルギニン(R)、リジン(K);
5) イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6) フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7) セリン(S)、スレオニン(T); および
8) システイン(C)、メチオニン(M)
【0038】
非保存的置換は、これらに限定されないが、グリシン(G)で置換されるアスパラギン酸(D); リジン(K)で置換されるアスパラギン(N); またはアルギニン(R)で置換されるアラニン(A) を含む。例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照されたい。
【0039】
ポリペプチドが 20 天然アミノ酸と通常称される 20 のアミノ酸以外のアミノ酸をしばしば含有すること、および末端のアミノ酸を含む多くのアミノ酸が、自然の過程、例えばグリコシル化および他の翻訳後修飾によってまたは当該技術分野において周知の化学的修飾技術によって、所与のポリペプチドにおいて修飾され得ることが理解されるであろう。ポリペプチド中に自然に生じる一般的な修飾ですら、多すぎて本明細書に網羅的に記載することはできないが、それらは基礎的な教科書およびより詳細なモノグラフにおいてならびに豊富な研究文献において十分に記載されており、かつ当業者に周知である。本発明のポリペプチド中に存在し得る既知の修飾の中には、いくつか実例を挙げると、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質もしくは脂質誘導体の共有結合、フォスファチジルイノシトール(phosphotidylinositol)の共有結合、架橋結合、環化、ジスルフィド結合の形成、脱メチル化、共有架橋結合の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシル化、グリケーション(glycation)、グリコシル化、GPI アンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、転移-RNA に媒介されるタンパク質へのアミノ酸付加、例えばアルギニン付加、およびユビキチン化がある。
【0040】
かかる修飾は当業者に周知であり、科学文献に非常に詳細に記載されている。いくつかの特にありふれた修飾、例えばグリコシル化、脂質付加、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、ヒドロキシル化および ADP-リボシル化は、ほとんどの基礎的教科書、例えば、I. E. Creighton, Proteins-Structure and Molecular Properties, 2nd Ed., W.H. Freeman and Company, New York, 1993 において記載されている。この主題については多くの詳細な総説が入手可能であり、例えば、Wold, F., in Posttranslational Covalent Modification of Proteins, B. C. Johnson, Ed., Academic Press, New York, pp 1-12, 1983; Seifter et al., Meth. Enzymol. 182: 626-646, 1990 および Rattan et al., Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging, Ann. N.Y. Acad. Sci. 663: 48-62, 1992 によって提供されるものがある。
【0041】
周知のかつ上で記した通り、ポリペプチドは必ずしも完全な直鎖状ではないことが理解されるであろう。例えば、ポリペプチドはユビキチン化の結果として分枝状であってもよく、および、通常は天然のプロセシング現象および自然には起こらない人間の操作によってもたらされる現象を含む翻訳後イベントの結果として、分枝を有するかまたは有さない環状であってもよい。環状、分枝状および分枝環状のポリペプチドは、非翻訳の天然の過程によっておよび完全に合成的な方法によっても合成することができる。
【0042】
修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖およびアミノもしくはカルボキシル末端を含むポリペプチド内のどこにおいても生じ得る。実際、共有結合性の修飾によるポリペプチドにおけるアミノ基もしくはカルボキシル基またはその両方の封鎖(blockage)は、天然のおよび合成のポリペプチドにおいて一般的であり、かかる修飾は本発明のポリペプチドにおいても存在し得る。例えば、大腸菌(E coli)において作られるポリペプチドのアミノ末端の残基は、タンパク質分解プロセシングの前は、ほぼ必ず N-ホルミルメチオニンである。
【0043】
ポリペプチドにおいて生じる修飾は、しばしばその作られ方の関数である。クローン化された遺伝子を宿主において発現させることによって作られるポリペプチドについては、例えば、修飾の性質および程度は、宿主細胞の翻訳後修飾能力およびポリペプチドのアミノ酸配列内に存在する修飾シグナルによって大部分が決定される。例えば、周知の通り、大腸菌などの細菌性宿主においては、大抵の場合グリコシル化は起こらない。したがって、グリコシル化を望む場合には、ポリペプチドはグリコシル化宿主、一般的には真核細胞において発現させるべきである。昆虫細胞は、しばしば哺乳類細胞と同じ翻訳後のグリコシル化を行い、そのため、とりわけ昆虫細胞発現系は、天然のグリコシル化パターンを有する哺乳類のタンパク質を効率的に発現するよう改良されてきた。同様の考察が他の修飾にも当てはまる。
【0044】
所与のポリペプチド中のいくつかの部位において、同じ型の修飾が、同じまたは異なる程度に存在し得ることが理解されるであろう。また、所与のポリペプチドは、多くの型の修飾を含有し得る。
【0045】
本明細書において用いる場合、以下の用語は、2以上のポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の配列の関係性を説明するために用いられる: “参照配列”、“比較ウインドウ(comparison window)”、“配列同一性”、“配列同一性のパーセンテージ”、“実質的同一性”、“類似性”、および“相同”。“参照配列”は、配列比較の基礎として用いられる定義された配列である; 参照配列は、より大きな配列のサブセット、例えば完全長 cDNA または配列表において提供される遺伝子配列のセグメントであってもよく、または完全な cDNA もしくは遺伝子配列を含み得る。一般的に、参照配列は、少なくとも長さ 18 ヌクレオチドまたは 6 アミノ酸であり、しばしば少なくとも長さ 24 ヌクレオチドまたは 8 アミノ酸であり、大抵は少なくとも長さ 48 ヌクレオチドまたは 16 アミノ酸である。2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列は各々、(1)2つの分子の間で類似する配列(すなわち、完全なポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の一部)を含み得、(2)2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間で相違する配列をさらに含み得ることから、2つの(またはそれより多い)分子間の配列比較は、配列類似性のある局所的領域を同定および比較するため、通常は2つの分子の配列を“比較ウインドウ”上で比較することによって行われる。本明細書において用いる場合、“比較ウインドウ”は、少なくとも 18 の連続するヌクレオチドの位置または 6 のアミノ酸からなる概念的セグメントをいい、ここで、ポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列は少なくとも 18 の連続するヌクレオチドまたは 6 のアミノ酸配列の参照配列と比較され得、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、(付加または欠失を含まない)参照配列と比較して 20 パーセント以下の付加、欠失、置換など(すなわち、ギャップ)を含み得る。比較ウインドウを整列するための最適な配列アラインメントは、例えば Smith and Waterman、Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch、J. MoI. Biol. 48:443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman、Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 85:2444 (1988)の類似性検索の方法、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装(computerized implementation)(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0 (Genetics Computer Group、575 Science Dr.、Madison、Wis.) における GAP、BESTFIT、FASTA および TFASTA、Informatix、Geneworks または MacVector software packages からの VectorNTI)、または観察(inspection)によって実行することができ、様々な方法によって生成された最良の(すなわち、比較ウインドウ上で最大のパーセンテージの相同性をもたらす)アラインメントが選択される。
【0046】
本明細書において用いる場合、“配列同一性”の用語は、2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列が比較ウインドウ上で同一 (すなわち、1ヌクレオチドずつまたは1残基ずつの原則に基づいて)であることを意味する。“配列同一性のパーセンテージ”の用語は、比較ウインドウ上で最適に整列された2つの配列を比較すること、一致した位置の数を生成するために同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U または I)または残基が両方の配列において生じる位置の数を決定すること、一致した位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数(すなわち、ウインドウの大きさ)で除算すること、および配列同一性のパーセンテージを生成するために結果に 100 を乗じることによって算出される。本明細書において用いる場合、“実質的同一性”の用語は、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の特徴を意味し、ここで、該ポリヌクレオチドまたはアミノ酸は、少なくとも 18 ヌクレオチド(6 アミノ酸)の位置の比較ウインドウ上で、しばしば少なくとも 24-48 ヌクレオチド(8-16 アミノ酸)の位置のウインドウ上で、参照配列と比較して少なくとも 85 パーセントの配列同一性、好ましくは少なくとも 90 から 95 パーセントの配列同一性、より普通には少なくとも 99 パーセントの配列同一性を有する配列を含み、ここで、該配列同一性のパーセンテージは、参照配列を、比較ウインドウ上で、全部で参照配列の 20 パーセント以下である欠失または付加を含み得る配列と比較することによって算出される。参照配列は、より大きな配列のサブセットであってもよい。“類似性”の用語は、ポリペプチドを説明するために用いられる場合、1つのポリペプチドのアミノ酸配列および保存されたアミノ酸置換を第二のポリペプチドの配列と比較することによって決定される。“相同”の用語は、ポリヌクレオチドを説明するために用いられる場合、2つのポリヌクレオチドまたはそれらの指定された配列が、最適に整列されて比較された場合に、適当なヌクレオチド挿入または欠失を伴いながら、ヌクレオチドの少なくとも 70%、普通には 約 75% から 99%、より好ましくはヌクレオチドの少なくとも 約 98 から 99% において同一であることを示す。
【0047】
本明細書において用いる場合、“相同”とは、ポリヌクレオチドを説明するために用いる場合には、2つのポリヌクレオチドまたはそれらの指定された配列が、最適に整列されおよび比較されたときに、適当なヌクレオチドの挿入または欠失を伴いながら、ヌクレオチドの少なくとも 70%、普通には約 75% から 99%、より好ましくはヌクレオチドの少なくとも 約 98 から 99% において同一であることを示す。
【0048】
本明細書において用いる場合、“ポリメラーゼ連鎖反応”または“PCR”は、米国特許第4,683,195号に記載される通りに DNA の特定の断片が増幅される手法をいう。一般的には、オリゴヌクレオチド プライマーを設計できるよう、興味のあるポリペプチド断片の末端からのまたはそれ以上の配列情報が入手できる必要がある; これらのプライマーは互いに向かい合い、増幅されるべき鋳型の反対の鎖と配列において同一または類似である。2つのプライマーの 5' 末端ヌクレオチドは、増幅される材料の末端と一致する。PCR は、全ゲノム DNA、全細胞 RNA から転写された cDNA、プラスミド配列等から特定の DNA 配列を増幅するために用いられ得る(一般的には Mullis et al.、Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol.、51: 263、1987; Erlich、ed.、PCR Technology、Stockton Press、NY、1989 を参照されたい)。
【0049】
本明細書において用いる場合、“ストリンジェンシー”は通常、およそ Tm(融解温度)-5℃ (プローブの Tm より 5°下) から Tm の約 2O℃ ないし 25℃下の範囲において生じる。当業者に理解される通り、ストリンジェントなハイブリダイゼーションは、同一のポリヌクレオチド配列を同定または検出するために、または類似もしくは関連のポリヌクレオチド配列を同定または検出するために用いられ得る。本明細書において用いる場合、“ストリンジェントな条件”との用語は、配列間に少なくとも 95%、好ましくは少なくとも 97% の同一性がある場合にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0050】
本明細書において用いる場合、“ハイブリダイゼーション”は、“ポリヌクレオチド鎖が塩基の対合を介して相補鎖と結合するあらゆる工程”を包含する (Coombs、J.、Dictionary of Biotechnology、Stockton Press、New York、N.Y.、1994)。
【0051】
本発明のアデノウイルス
本発明は、これらに限定されないが、結腸、卵巣、肺、前立腺、乳房および膵臓を含む腫瘍タイプ由来の腫瘍細胞に対して増強された効力および/または増大した選択性を示す腫瘍退縮アデノウイルスの単離のための、アデノウイルス血清型の生物多様性を利用する新規な方法を提供する。
【0052】
腫瘍退縮アデノウイルスの単離
本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、所望の特性、例えば増強された効力または細胞型特異性を有するアデノウイルスを単離するために、突然変異誘発、血清型生物多様性およびストリンジェントな選択条件をユニークに組み合わせる方法である方向性進化(directed evolution)によって作出される。特定の組織を標的とするアデノウイルスのための方向性進化は、選択した組織由来の腫瘍細胞を用いて実施され得る。方向性進化の工程において有用な好ましい腫瘍細胞株は、これらに限定されないが、乳房、結腸、膵臓、肺、前立腺および卵巣由来の腫瘍細胞株を含む。アデノウイルス混合物の“方向性進化”継代に有用な固形腫瘍細胞株の例は、これらに限定されないが、(それぞれ乳房、結腸または膵臓由来の腫瘍を標的とするための) MDA231、HT29 および PC-3 細胞を含む。卵巣組織において増強された効力を示すアデノウイルスの方向性進化に特に好ましいものは、これらに限定されないが、腫瘍細胞株 SKOV3、OVCAR3 および CaOV3 を含む。好ましい態様において、SKOV3 腫瘍細胞は、化学療法に耐性となった卵巣腫瘍において有効性を示す腫瘍退縮アデノウイルスの選択のために用いられる。ATCC などの供給源を通して入手可能な、興味のある標的組織の代表であるあらゆる他の腫瘍細胞株を、本発明のアデノウイルスを単離する際に用いることができる。
【0053】
あるいは、本発明のアデノウイルスの方向性進化は、血液学的悪性腫瘍からの腫瘍細胞を含む、新鮮に切除されたヒトの原発性(primary)または転移性の腫瘍細胞上で直接に行うことができる。
【0054】
本発明において、アデノウイルスの選択は、アデノウイルス サブグループ B、C、D、E および F を代表する血清型を含むアデノウイルス混合物を出発材料として用いて実施される。グループ A のアデノウイルスは、げっ歯類における腫瘍形成に関係するため、該混合物には含まれない。本発明の好ましい態様において、混合物はキメラ アデノウイルス ColoAd1 をも含む(米国特許出願第11/136,912号を参照)。
【0055】
プールされたアデノウイルス混合物は、1回、より好ましくは少なくとも2回、腫瘍細胞のサブコンフルエントな(subconfluent)培養物上で、またはこれらに限定されないが、コラーゲンおよび基底膜マトリックス(MATRIGEL(商標)、Becton Dickinson)を含む細胞外マトリックス ナノフィブリルのインビトロでの 3D 結合(association)上で増殖させた細胞上で、継代される。かかるマトリックスによって誘導される細胞構造(cellular architecture)が、細胞接着、細胞骨格の組織化、シグナル伝達および遺伝子発現、形態形成、ならびに正常なおよび形質転換された(transformed)細胞の両方の培養における分化の生理学的パターンの再現に対して重大な意味を持つこと、および、かかる抽出物が異常な細胞の特徴をインビボでより密接に模倣するモデル系の創造に重要な細胞構造を誘導することが明らかにされている(Schindler et al. J Cell Biochem Biophys (2006) 45:215-227; Birgersdotter et al. (2005) Semin. Cancer Bio. 15:405-412; Boyd et al. (2002) J Gene Med 4:567-576)。
【0056】
アデノウイルスの最初の継代は、血清型間の組換えを促すのに十分な高さであるが、早期の(premature)細胞死を起こすほど高くはない細胞あたりの粒子の比で、実施される。好ましい細胞あたりの粒子の比は、細胞あたりおよそ 100-500 粒子の間であり、当業者によって容易に決定される。本明細書において用いる場合、細胞の“サブコンフルエントな(subconfluent)培養物”とは、その中で細胞が活発に増殖している培養物をいう。単層として増殖させた細胞に関しては、サブコンフルエントな培養物は、細胞増殖のために利用できる面積のおよそ 50% から 80%、好ましくは 75% が細胞で覆われている培養物である。生物学的マトリックス材料の上で増殖させた細胞に関しては、“サブコンフルエントな培養物”は、細胞がマトリックス材料をコンフルエントには覆っていない培養物である。
【0057】
これら最初の継代の間に生産されたアデノウイルスは、静止状態の腫瘍細胞に感染させるため、たった1つのアデノウイルスによる細胞の感染を許容するだけの十分に低い粒子対細胞の比で用いられ、その後の継代についての上清は、高い効力のあるウイルスの選択を増大させるために目に見える細胞変性効果 (CPE、Fields Virology、Vol. 2、Fourth Edition、Knipe、ea.、Lippincott Williams & Wilkins、pp.135-136 を参照)の前に回収される。これらの条件下での 20 回までの継代の後、最後の継代からの上清は、目に見える CPE の前に再度回収され、次いで当業者に周知の技術によって濃縮される。単層培養において、静止状態の細胞、すなわち活発な細胞増殖が停止した細胞を達成する一つの方法は、培養物をコンフルエンスの後3日間生育させておくことであり、ここで、コンフルエンスとは細胞増殖のために利用できる全ての面積が占有される(細胞で覆われる)ことを意味する。3D マトリックス上で増殖させた培養物に関しては、コンフルエンスは細胞の型に依存し、当業者によって容易に決定され得る。懸濁培養は、活発な細胞増殖の欠如によって特徴付けられる密度にまで増殖させることができる。
【0058】
細胞外マトリックス材料から回収され、生物的に選択された(bioselected)アデノウイルス プールを含有する濃縮上清の血清型プロファイルは、回収されたウイルス プール内に存在する保持時間を陰イオン交換カラムを用いて決定することによって試験することができ、ここで、異なるアデノウイルス血清型は特有の保持時間を有することが知られている(Blanche et al. (2000) Gene Therapy 7:1055-1062)。本発明のアデノウイルスは、希釈およびプラーク精製、または当該技術分野において周知の他の技術によって、濃縮上清から単離することができ、さらなる特徴付けのために増殖させることができる。当該技術分野において周知の技術は、単離された腫瘍退縮アデノウイルスの配列を決定するために用いられる(実施例 5 を参照)。本方法によって得られる、卵巣腫瘍細胞に対する選択性を有する本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの例は、OvAd1 (配列番号 1) および OvAd2 (配列番号 2)であり、それらは選択工程の間にそれぞれ MATRIGEL(商標)または単層培養を用いて生物的に選択された。
【0059】
本発明のアデノウイルスは、それらが由来するアデノウイルス血清型と比較して、増強された効力/治療指数を有する。図 1 および 2 は、MATRIGEL(商標)3D 細胞外細胞マトリックス上および単層細胞上で得られたウイルス プールの、それぞれ効力および治療指数を示し、一方、図 4 は、各プールからの個々のアデノウイルス単離株(isolate)についての同様のデータを示す: OvAd1 (MATRIGEL(商標)プールから) および OvAd2 (単層プールから)。
【0060】
アデノウイルス誘導体
本発明は、他の治療上有用な腫瘍退縮アデノウイルスを提供するよう改変された本発明の腫瘍退縮アデノウイルスをも包含する。改変は、これらに限定されないが、以下に記載されるものを含む。
【0061】
ひとつの改変は、E1B-55K タンパク質をコードするアデノウイルスの遺伝子中における突然変異の結果として p53 に結合する能力を実質的に欠いている、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの誘導体の作出である。かかるウイルスは一般的に、E1B-55K 領域のいくらかまたは全てが欠失している。米国特許第6,080,578号は、中でも、p53 への結合の原因である E1B-55K タンパク質の領域内に欠失を有する Ad5 変異体を記載している(米国特許第5,677,178号も参照)。本発明の腫瘍退縮アデノウイルスに対する別の好ましい改変は、米国特許第5,801,029号および5,972,706号に記載される通り、E1A 領域における突然変異である。これらの型の改変は、腫瘍細胞に対するより大きな選択性を有する本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの誘導体を提供する。
【0062】
本発明に包含される改変の別の例は、米国特許第5,998,205に記載されるように、ウイルス複製を組織特異的プロモーターの制御下に置くことによってそれが度合いの増強された組織特異性を示すような、腫瘍退縮アデノウイルスの改変である。本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの複製は、米国特許出願第09/714,409に記載されるように E2F 応答エレメントの制御下に置くこともできる。この改変は、増強された腫瘍組織特異性をもたらす E2F の存在に基づくウイルス複製制御メカニズムを提供し、組織特異的プロモーターによって実現される制御とは区別される。これらの態様の両方において、組織特異的プロモーターおよび E2F 応答エレメントは、アデノウイルスの複製に必須なアデノウイルスの遺伝子に作動可能に結合する。
【0063】
本発明に包含される別の改変は、本発明の腫瘍退縮アデノウイルス、例えば OvAd1 (配列番号1) または OvAd2 (配列番号2)の、新規な複製欠損性アデノウイルスベクターの作出のための骨格としての使用である。Lai et al. ((2002) DNA Cell Bio. 21:895-913)に記載される通り、複製欠損性であるアデノウイルスベクターは、治療遺伝子を送達し、発現させるために使用することができる。本発明のアデノウイルスベクターは、ウイルス ゲノムの E1、E2 または E4 領域の欠失によって、複製欠損性の誘導体を生成するよう改変することができる。特に好ましいのは、E1 または E2 領域の欠失である。かかる改変アデノウイルスベクターは、当業者に周知の技術を用いて容易に作出される(Imperiale and Kochanek (2004) Curr. Top. Microbiol. Immunol. 273:335- 357; Vogels et al. (2003) J. Virol. 77:8263-8271 を参照)。
【0064】
同様に、他の改変は、1以上の領域またはそれら部分の欠失によりウイルスゲノムのサイズを減少させることによってその効力を増大させるために、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスに対してなされ得る。一般に“デルタ 24”欠失として知られる、細胞 Rb タンパク質に結合するアデノウイルスゲノムのセクションの欠失を介する本発明のアデノウイルスの改変もまた、本発明の中に包含される。かかる欠失は、増強された腫瘍特異性を有するアデノウイルスをもたらし得る(Fueyo et al. (2000) Oncogene 19:2-12)。
【0065】
本発明に包含される別の改変は、ゲノムサイズの減少とは区別されるメカニズムによってその効力を増大させるための、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの E3 領域の欠失である。
【0066】
改変アデノウイルスを構築するための方法は、当該技術分野において一般的に知られている。Mittal、S.K. (1993) Virus Res. 28:67-90 および Hermiston、T. et al. (1999) Methods in Molecular Medicine: Adenovirus Methods and Protocols、W.S.M. Wold、ed、Humana Press を参照されたい。標準的な技術が、組換え核酸方法、ポリヌクレオチド合成、ならびに細菌の培養および形質転換のために用いられる(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)。一般的に、酵素反応および精製工程が、製造者の仕様書に従って実施される。技術および手順は、一般的に、当該技術分野において常套の方法およびこの文書を通して提供される様々な一般的参考文献(一般的には、Sambrook et al.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2nd edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.を参照)に従って実施される。本明細書において用いられる命名法ならびに以下に記載される分析化学、有機合成化学および医薬製剤における実験手法は、当該技術分野において周知かつ一般に採用されるものである。
【0067】
治療能力(Therapeutic Potential)の決定
本発明の腫瘍退縮アデノウイルスまたはその変異体もしくは誘導体は、治療標的として興味のある組織由来の腫瘍細胞におけるその溶解能力の試験によって、その治療上の有用性について評価することができる。本発明のアデノウイルスを試験するのに有用な腫瘍細胞株は、以下に限定されるものではないが、これらに限定されないが、DLD-1、HCT116、HT29、LS1034 および SW48 細胞株を含む結腸細胞株; これらに限定されないが、DU145 および PC-3 細胞株を含む前立腺細胞株; これらに限定されないが、Panc-1 細胞株を含む膵臓細胞株; これらに限定されないが、MDA231 細胞株を含む乳房腫瘍細胞株; および、これらに限定されないが、OVCAR-3、CaOV3、BG1、ES-2 および IGROV および SKOV3 細胞株を含む卵巣細胞株を含む。American Type Culture Collection などの供給源を通して入手可能な、興味のある組織標的の代表であるあらゆる他の腫瘍細胞株が、その組織の型の腫瘍の処置における使用に関して本発明のアデノウイルスを同定および評価するのに用いられ得る。あるいは、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの評価は、対応する(matched)ヒト原発性腫瘍および正常な外植片を用いて、例えばウイルス放出(burst)の定量化(米国特許出願第11/136,912号)またはレポーター遺伝子の発現(Lam et al. (2003) Cancer Gene Therapy 10:377-387; Grill et al. (2003) MoI. Therapy 6:609-614)を通して、実施することもできる。実施例 8 を参照されたい。
【0068】
本発明のアデノウイルスの細胞溶解活性は、代表の腫瘍細胞株において決定する事ができ、データは効力(すなわち IC50)の測定に変換される。細胞溶解活性を決定するための好ましい方法は、MTS アッセイである(実施例 4 を参照)。
【0069】
特定の腫瘍細胞における本発明のアデノウイルスの治療指数は、腫瘍細胞における所与のアデノウイルスの効力を、対応する(matched)正常細胞におけるその同じアデノウイルスの効力と比較することによって算出され得る。好ましい非癌性の細胞は、上皮起源である SAEC 細胞 (Cambrex/Clonetics、Inc.、Walkersville、MD)、および内皮起源である HUVEC 細胞 (VEC Technologies、Rennselaer、NY)である(図 2 および 4 を参照)。これら2つの細胞の型は、それぞれ器官および脈管構造が由来する正常細胞を代表し、アデノウイルスの送達様式に依存して、アデノウイルス治療の間における毒性のありそうな部位の代表である。しかし、本発明の実施はこれらの細胞の使用には限られず、他の非癌性細胞(例えば B 細胞、T 細胞、マクロファージ、単球、線維芽細胞)も用いられ得る。
【0070】
本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、腫瘍性細胞の移植片を有するヌードマウスにおいて、等しい腫瘍性細胞の量(burden)を有する非処理マウスと比較して、腫瘍形成または腫瘍性細胞の量を減少させるその能力によって、腫瘍性細胞の増殖(すなわち癌)を標的とするその能力についてさらに評価され得る(実施例 6、図 6A および B を参照)。
【0071】
治療上の有用性
本発明は、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの腫瘍細胞増殖の阻害のための使用、およびこれらのアデノウイルスに由来するアデノウイルスベクターの、腫瘍の処置において有用な治療タンパク質を送達するための使用を提供する。
【0072】
医薬組成物および投与
本発明はまた、その変異体および誘導体を含む本発明のキメラ/腫瘍退縮アデノウイルスを含む、患者への治療的投与のために製剤された医薬組成物にも関する。治療上の使用に関しては、薬理学的有効量のアデノウイルスを含有する無菌の組成物が、処置、例えば腫瘍状態の処置のために、ヒト患者または獣医学的非ヒト患者に対して投与される。一般的に、組成物は、水性懸濁液において約 1011 以上のアデノウイルス粒子を含む。医薬上許容される担体または賦形剤が、かかる無菌の組成物においてしばしば採用される。様々な水溶液、例えば水、緩衝化した水、0.4% 生理食塩水、0.3% グリシンなどが用いられ得る。これらの溶液は無菌であり、通常は所望のアデノウイルスベクター以外の粒子状物質を含まない。組成物は、生理学的状態に近づける要求に応じて、医薬上許容される補助物質、例えば pH 調整剤および緩衝剤、毒性調整剤など、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含み得る。アデノウイルスによる細胞の感染を増強する賦形剤が包含され得る(米国特許第6,392,069号を参照)。
【0073】
本発明のアデノウイルスはまた、リポソームまたはイムノリポソーム(immunoliposome)送達によって腫瘍細胞へ送達され得る; かかる送達は、腫瘍細胞集団上に存在する細胞表面特性(例えば、イムノリポソーム中の免疫グロブリンに結合する細胞表面タンパク質の存在)に基づいて腫瘍細胞へ選択的に標的化され得る。通常、ビリオンを含有する水性懸濁液は、リポソームまたはイムノリポソーム中に封入される。例えば、アデノウイルス ビリオンの懸濁液は、イムノリポソームを形成するため、常套の方法によってミセル中に封入することができる(米国特許第5,043,164号、米国特許第4,957,735号、米国特許第4,925,661号; Connor and Huang, (1985) J. Cell Biol. 101: 581; Lasic D.D. (1992) Nature 355: 279; Novel Drug Delivery (eds. Prescott and Nimmo, Wiley, New York, 1989); Reddy et al. (1992) J. Immunol. 148:1585)。個体の癌細胞上に存在する癌細胞抗原(例えば、CALLA、CEA)に特異的に結合する抗体を含むイムノリポソームは、ビリオンをそれらの細胞へ標的化するために用いられ得る(Fisher (2001) Gene Therapy 8:341-348)。
【0074】
本発明のアデノウイルスの有効性をさらに増大させるため、それらは特定の腫瘍細胞の型に対して増強された指向性を示すよう改変され得る。例えば、PCT/US98/04964 において示されるように、アデノウイルスの外皮上のタンパク質は、正常細胞よりも大きな度合で腫瘍細胞上に存在する受容体に結合する化学物質、好ましくはポリペプチドを提示するよう改変され得る(米国特許第5,770,442号および第5,712,136号も参照されたい)。ポリペプチドは抗体であり得、好ましくは一本鎖抗体である。
【0075】
アデノウイルス治療
本発明のアデノウイルスまたはその医薬組成物は、腫瘍疾患または癌の治療的処置のために投与され得る。治療適用において、組成物は、既に特定の腫瘍疾患に罹患している患者に対して、症状およびその合併症を治癒しまたは少なくとも部分的に抑止するのに十分な量で投与される。これを達成するための適切な量は、“治療上有効量”または“有効量(efficacious dose)”として定義される。この使用について有効な量は、症状の重さ、患者の全身状態(general state)および投与経路に依存する。
【0076】
例えば、制限する目的ではないが、固形のまたは血液学的な腫瘍疾患(例えば、膵臓、結腸、卵巣、肺もしくは乳房の癌(carcinoma)、白血病または多発性骨髄腫)を有するヒト患者または非ヒト哺乳類は、治療上有効量の本発明の適切な腫瘍退縮アデノウイルス、すなわち、その組織の型に対して改善した治療指数を有することが示された腫瘍退縮アデノウイルスを投与することによって処置され得る。卵巣癌の処置にとって好ましい腫瘍退縮アデノウイルスは、アデノウイルス OvAd2 (配列番号2)である。卵巣癌の処置にとって特に好ましい腫瘍退縮アデノウイルスは、OvAd1(配列番号1)である。
【0077】
感染性のアデノウイルス粒子の懸濁液は、静脈内、腹腔内、筋肉内、腫瘍内、真皮下および局所を含む様々な経路で、腫瘍組織へ送達され得る。1mlあたり約 103 から 1012 以上のビリオン粒子を含有するアデノウイルス懸濁液は、注入によって(例えば、卵巣癌を処置するために腹膜腔内へ)投与され得る。
【0078】
本発明のアデノウイルスを用いるアデノウイルス治療は、特定の癌を処置するために、他の抗腫瘍手順、例えば常套の化学療法または x-線治療と組み合わせることができる。
【0079】
本発明のアデノウイルスをアデノウイルスベクターとして用いるアデノウイルス治療もまた、ウイルスに基づく治療において有用であることが知られている他の遺伝子と組み合わせることができる。米国特許第5,648,478号を参照されたい。かかる場合において、キメラ/腫瘍退縮アデノウイルスは、異種性遺伝子が感染した細胞内で発現するようウイルス ゲノム内に組み込まれた、治療タンパク質をコードする異種性遺伝子をさらに含む。治療タンパク質とは、本明細書において用いる場合、所与の細胞において発現した場合にいくらかの治療的利点を提供すると期待されるタンパク質をいう。
【0080】
一つの態様において、異種性遺伝子はチミジンキナーゼ(TK)遺伝子であり得、それはプロドラッグ変換酵素として有用である(Freeman、S.M. (2000) Adv Exp Med Biol 465:411-422)。TK は、ウイルス感染の効率を追跡するためのマーカーまたはレポーターとしても用いられ得る(Sangro et al. (2002) Mol. Imaging Biol. 4:27-33)。
【0081】
一つの態様において、異種性遺伝子はプロドラッグ活性化遺伝子、例えばシトシン デアミナーゼ(CD)である(米国特許第5,631,236号; 第5,358,866号; および第5,677,178号を参照)。他の態様において、異種性遺伝子は、既知の細胞死誘導因子、例えばアポプチンまたはアデノウイルス死タンパク質(ADP)、または融合タンパク質、例えば融合性膜糖タンパク質である(Danen-Van Oorschot et al. (1997) Proc. Nat. Acad. Sci. 94:5843-5847; Tollefson et al.(1996) J. Virol. 70:2296-2306; Fu et al. (2003) Mol. Therapy 7; 48-754、 2003; Ahmed et al. (2003) Gene Therapy 10:1663-1671; Galanis et al. (2001) Human Gene Therapy 12(7): 811-821)。
【0082】
異種性遺伝子またはその断片のさらなる例は、免疫調節タンパク質、例えばサイトカインまたはケモカインをコードするものを包含する。例は、インターロイキン 2、米国特許第4,738,927号または第5,641,665号; インターロイキン 7、米国特許第4,965,195号または第5,328,988号; およびインターロイキン 12、米国特許第5,457,038号; 腫瘍壊死因子アルファ、米国特許第4,677,063号または第5,773,582号; インターフェロン ガンマ、米国特許第4,727,138号または第4,762,791号; または GM CSF、米国特許第5,393,870号または第5,391,485号、Mackensen et al. (1997) Cytokine Growth Factor Rev. 8:119-128)を包含する。さらなる免疫調節タンパク質は、MIP-3 を含むマクロファージ炎症性タンパク質を包含する。単球走化性タンパク質(MCP-3 アルファ)も用いられ得る; 異種性遺伝子の好ましい態様は、癌に対して好んで毒性を示すが正常細胞には毒性でないタンパク質をコードする遺伝子に融合した、細胞膜を横切るタンパク質、例えば VP22 または TAT をコードする遺伝子からなるキメラ遺伝子である。
【0083】
異種性遺伝子の別の例は、抗体または抗体断片である。好ましい抗体は、上皮増殖因子(EGF)または組織因子(TF)に対して標的化される(Jiang et al. (2006) Clin Cancer Res 12:6179-6185; Kasuya et al. (2005) Mol Ther 11 :237-244)。
【0084】
本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、治療上有用な RNA 分子、すなわち siRNA (Dorsett and Tuschl (2004) Nature Rev Drug Disc 3:318-329)、shRNA もしくは miRNA またはアプタマーをコードする遺伝子を送達するためのベクターとしても用いることができる。
【0085】
いくつかの場合において、腫瘍自体にはいかなる直接の影響も有さないものの、腫瘍を根絶する腫瘍退縮ウイルスの能力をさらに増強するために、遺伝子が本発明の腫瘍退縮アデノウイルス内に組み込まれ得る − これらは、MHC クラス I 提示を損なわせるタンパク質(Hewitt et al. (2003) Immunology 110: 163-169)、補体を妨害するタンパク質、IFN および IFNに誘導されるメカニズム、ケモカインおよびサイトカイン、ならびに NK 細胞に基づく殺作用(killing)を阻害するタンパク質(Orange et al.、(2002) Nature Immunol. 3: 1006-1012; Mireille et al. (2002) immunogenetics 54: 527-542; Alcami (2003) Nature Rev. Immunol. 3: 36-50)、免疫応答を下方制御するタンパク質(例えば IL-10、TGF-ベータ、Khong and Restifo (2002) Nature Immunol. 3: 999-1005; 2002) ならびに細胞外マトリックスを崩壊させ、腫瘍内でのウイルスの拡散を増強することができるメタロプロテアーゼ(Bosman and Stamenkovic (2003) J. Pathol. 2000: 423-428; Visse and Nagase (2003) Circulation Res. 92: 827-839)をコードする遺伝子を包含する。
【0086】
キット
本発明はさらに、前述した本発明の組成物の1以上の成分で充填された1以上の容器を含む医薬パックおよびキットに関する。かかる容器には、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって指示された形式での通知が付属していてもよく、それはヒト投与のための製品の製造、使用または販売の該機関による認可を反映する。
【0087】
本発明は、本発明の特定の態様およびその様々な使用を例示する以下の実施例によって、さらに説明される。本発明の特定の側面を説明するこれらの例示は、限界を表現するものではなく、または開示される本発明の範囲を制限するものではない。
【0088】
別に指示しない限り、本発明の実行は、当該技術分野における技術の範囲内である細胞培養、分子生物学、微生物学、組換えDNA操作および免疫科学の常套の技術を採用する。かかる技術は、文献において十分に説明されている。例えば、Cell Biology: a Laboratory Handbook: J. Celis (Ed).Academic Press. N.Y. (1996); Graham, F.L. and Prevec, L. Adenovirus-based expression vectors and recombinant vaccines. In: Vaccines: New Approaches to Immunological Problems. R.W. Ellis (ed) Butterworth. Pp 363-390; Grahan and Prevec Manipulation of adenovirus vectors. In: Methods in Molecular Biology, Vol. 7: Gene Transfer and Expression Techniques. EJ. Murray and J.M. Walker (eds) Humana Press Inc., Clifton, NJ. pp 109- 128, 1991; Sambrook et al. (1989), Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press; Sambrook et al. (1989)、および Ausubel et al. (1995), Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons を参照されたい。
【実施例】
【0089】
実施例
方法
標準的な技術が、組換え核酸方法、ポリヌクレオチド合成、ならびに微生物の培養および形質転換のために用いられる(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)。一般的に、酵素反応および精製工程が、製造者の仕様書にしたがって実施される。技術および手順は一般的に、当該技術分野における常套の方法および本明細書を通して提供される様々な一般的参考文献(一般的には、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd. edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. を参照)にしたがって実施される。本明細書において用いられる命名法、および、分析化学、有機合成化学および医薬の製剤および送達ならびに患者の処置における実験手法。アデノウイルス変異体の作成方法は一般的に、当該技術分野において公知である。Mittal, S. K. Virus Res.,1993, vol: 28, pages 67-90; and Hermiston, T. et al., Methods in Molecular Medicine: Adenovirus Methods and Protocols, W.S.M. Wold, ed., Humana Press, 1999 を参照されたい。アデノウイルス 5 のゲノムは Genbank 10 受入 #M73260 として登録されており、該ウイルスは American Type Culture Collection、Rockville、Maryland、U.S.A. から受入番号VR-5の下に入手可能である。
【0090】
ウイルスおよび細胞株
用いられる ヒト Ad 血清型 Ad3 (GB 株)、Ad4 (RI-67 株)、Ad5 (アデノイド 75 株)、Ad9 (Hicks 株)、Ad16 (Ch.79 株); および SKOV3、OVCAR3、CaOV3、IGROV、BG1、ES-2、PC-3、および HT-29 細胞株は、すべて ATCC から購入した。キメラ アデノウイルス ColoAd1 は、米国特許出願第11/136,912号に記載されている。Ad35、Ad11p(Slobitski 株)および Ad40 は、St. Louis University の Dr. William S.M. Wold から寄贈された。用いられる他の細胞は、MDA-231mt1 (Dr. Deb Zajchowski、Berlex Laboratories によって、急速に増殖する、皮下に植え込まれた MDA-231 細胞の異種移植片から単離された細胞株誘導体) および Panc1-sct (Dr. Sandra Biroc、Berlex Laboratories によって、急速に増殖する、皮下に植え込まれた Panc1 細胞の異種移植片から得られた)、HUVEC (Vec Technologies、Rensselaer、NY)、および SAEC (Clonetics、Walkersville、MD)であった。
【0091】
実施例1 − ウイルスの精製および定量化
ウイルスのストックを、293 細胞または SKOV3 細胞いずれかの上で増殖させ、CsCl 勾配上で精製し、分光測定によって(Tollefson, A., Hermiston, T.W., and Wold, W.S.M.; “Preparation and Titration of CsCl-banded Adenovirus Stock”in Adenovirus Methods and Protocols, Humana Press, 1999, pp 1-10, W.S.M. Wold, Ed) および陰イオン交換(AIEX)クロマトグラフィーによって(Kuhn et al. (2006) Gene Therapy)、力価決定した(1mlあたりのウイルス粒子 vp/ml は、本報告を通して用いられる単位である)。ほとんどの Ad 血清型は、用いられる AIEX 方法によって分析された場合、別々の、特徴的な保持特性を有し、ウイルス精製は AIEX によって正確な力価を決定するために必要ではなく、記載された通り粗溶解液の正確な定量化を可能にする(前記)。それ故、純粋なウイルス ストックの分光学的力価を検証するため、粗ウイルス溶解液の力価を決定するため、および全てのウイルス ストックの血清型-関連性を部分的に特徴付けするために、AIEX クロマトグラフィーを用いた。
【0092】
ウイルス粒子を定量化するために用いられた方法は、オンライン発行された Kuhn et al. (2006) Gene Therapy に記載される通りである。手短に言えば、1.25 ml カラムを Q Sepharose XL Media (Pharmacia)で充填した。HPLC 分離を、Agilent HP 1100 HPLC 上で、以下の条件を用いて行った: バッファー A = pH 7.5 の 20 mM TrisHCl; バッファー B = バッファーA 中に 1.0 M の NaCl; 分あたり 1 ml の流速。バッファー A における 30 分以上のカラム平衡化の後、およそ 109-1011 のサンプルのウイルス粒子をカラム上に 10-100 ul の容積でロードし、4 カラム容積のバッファー A がそれに続いた。16 カラム容積を超えて伸長し、100% のバッファー B で終了する直線勾配を適用した。
【0093】
カラム流出物を A260 および A280 nm でモニターし、ピーク面積を算出し、280 nm に対する 260 nm の比を決定した。ウイルスのピークを、1.33 に近い A260/A280 比を有する、狭く鋭いピークとして同定した。各サンプル系列と共にウイルス標準を含ませた。標準の1mlあたりのウイルス粒子の数を、Lehmberg et al. (1999) J. Chrom. B、732:411-423)の方法を用いて決定した。用いたウイルス濃度の範囲において、各サンプルの A260 nm ピーク面積は、サンプル中のウイルス粒子の数に正比例する。各試験サンプル中の1mlあたりのウイルス粒子の数は、既知である標準中の1mlあたりのウイルス粒子数に、標準の A260 nm ウイルス ピーク面積に対するサンプルの A260 nm ウイルス ピーク面積の比を乗じることによって算出した。
【0094】
各サンプル勾配の後、少なくとも2カラム容積の 0.1-0.5 N NaOH で洗浄し、その後に2カラム容積の 100% バッファー A、3 カラム容積の 100% バッファー B、次いで 4 カラム容積の 100% バッファー A で洗浄することによってカラムを再生した。
【0095】
実施例 2 - 方向性進化
サブグループ Ad B-F を代表するウイルス血清型、すなわち Ad3、Ad4、Ad5、Ad9、Ad11p、Ad16、Ad35、Ad40、およびキメラ ウイルス ColoAd1 (米国特許出願第11/136,912号) を、出発ウイルス プール中に集合させた。各ウイルス型の 1012 のウイルス粒子を含有する出発プールの一部を、亜硝酸によるランダムな突然変異誘発に供した (Williams et al. (1971) J Gen Virol 11 :95-101; Klessig、 D.F. (1977) J. Virol. 21:1243-1246)。2.5-3 対数の死(2.5-3 logs of kill)の後、亜硝酸の中和によって反応を停止させた。パラレルな(parallel) Ad5 の突然変異誘発されたストックからの 10 のウイルス単離株の各々から、19 K タンパク質の 356 bp の領域を増幅し、配列決定した。配列決定によって、10のうち1の単離株が点突然変異を保有していることが示された。この結果からの外挿によって、ウイルス ゲノムあたり平均しておよそ 10 の突然変異が導入されたことが示される。突然変異誘発されたウイルス血清型のプールを、突然変異誘発プールと称した。次いで、各ウイルス型の 109 のウイルス粒子を含有する出発プールの別の部分を突然変異誘発プールに添加し、各ウイルス型のほぼ等しい数の突然変異誘発および非突然変異誘発ウイルス粒子を含有する結合プールを得た。この結合プールを、感染効率(MOI)=10 で、SKOV3、HT-29 および OVCAR3 細胞のサブコンフルエントな単層を感染させるために用いた。これらの感染条件は、結合(突然変異誘発および非突然変異誘発)ウイルス プール中に存在する全てのウイルス型の間に組換えを起こすために選択された。感染後 24 および 48 時間 (24 および 48 hpi)において、これらの感染した培養物からウイルス溶解液を回収し、次いで共に混合して“再結合プール”を作成した。その後、結合プールの新鮮な一定量をこの再結合プールに添加して、方向性進化のために用いられるウイルス プールを生成した。このプールの力価を、上記の通り、陰イオン交換クロマトグラフィーによって決定した。
【0096】
単層培養物上での方向性進化: 生物的に多様な(biodiverse)ウイルス プールを、SKOV3 細胞のサブコンフルエントな培養物上で、生物的に多様なプール中に存在する全てのウイルスの間に組換えを起こすために再度用いられる高い細胞あたり粒子の比 MOI=1O において、1回継代した。サブコンフルエントな SKOV3 単層細胞の、この回の高い細胞あたりウイルス粒子での感染からのウイルス溶解液上清の力価を、AIEX クロマトグラフィーによって決定し、次いで、MOI=0.1 で開始する 10-倍希釈系列において、6-ウェル プレート中で増殖させた一連の過密な SKOV3 培養物を感染させるために用いた。過密状態を達成するため、SKOV3 細胞を、細胞株が播種後 24 から 40 時間の間に集密に達することを可能にする分割比(split ratio)で播種し、細胞を播種後計 72 時間、感染に先立って増殖させた。この細胞密度は、cm2 あたり 150,000 細胞であった。ヒト固形腫瘍における増殖条件を模倣する目的で、感染時における集密度を最大化するために、この高い細胞密度および延長された増殖を用いた。細胞培養上清を、感染後 3 または 4 日において CPE のいかなる兆候も示さなかった 10 倍希釈系列における最も濃縮された接種液で感染させたウェルから回収した。各々の回収物は、ウイルスの次の継代のための出発材料として機能した。この過程を、ウイルス プールが 10 の継代を達成するまで繰り返した。
【0097】
MATRIGEL(商標)培養物上での方向性進化: 増殖因子低減 MATRIGEL(商標)(Becton Dickinson Labware、Bedford、MA)でコートされた組織培養プレート上で標的細胞培養物として増殖させた SKOV3 細胞を用いる方向性進化は通常、培養皿またはウェルが製造者の指示に従って細胞の播種前に MATRIGEL(商標)によって 15O ul/cm2 でコートされたことを除いて、単層培養物上での方向性進化について記載されたのと同様にして行われた。SKOV3 細胞を、MATRIGEL(商標)でコートされたプレート上に、播種後 24 時間(24 hps)までにこれらの細胞において明らかな三次元増殖パターンを生成した密度である cm2 あたり約 150,000 細胞で、播種した。播種後 24-36 時間、すなわち MATRIGEL(商標)によって誘導される三次元増殖パターンが培養中において明らかになって間もなく、細胞を感染させた。選択的な継代を開始する前にプール中の全てのウイルス ゲノムの間に組換えを起こすため、MOI=1O で一回継代を行った。MATRIGEL(商標) 上での選択的継代は、単層方向性進化について記載されたのと同様にして行い、(遺伝子型間の相補性を避けるために)細胞あたり1より少ないウイルス粒子の MOI で開始し、3つの 10-倍系列希釈がこれに続いた。このようにして、前の選択的継代上清の(MOI=O.1 で開始する)10-倍系列希釈を、MATRIGEL(商標)上で増殖させた一連の SK0V3 培養物を感染させるために用いた。各継代において、培養上清を、感染後 3 または 4 日において CPE のいかなる兆候も示さなかった 10-倍希釈系列における最も濃縮された接種液で感染させた培養物から回収した。各々の選択されたプールから個々のウイルスが単離されかつ特徴付けされる前に、合計で 10 の継代を行った。
【0098】
選択されたプールをイオン交換クロマトグラフィーによって解析し、それによって SKOV3 単層上で選択されたウイルスプールが Ad-3 関連ウイルスで構成され、一方で MATRIGEL(商標)上で得られたプールは Ad3 および Ad11p/35-関連ウイルスの両方を含有することが明らかになった。
【0099】
実施例 3 − 選択されたウイルスの単離および特徴付け
個々のウイルスを、各々の選択されたプールから、標準的な方法を用いる SKOV3 細胞上での2巡のプラーク精製によって単離した(Tollefson, A., Hermiston, T.W., and Wold, W.S.M.; “Preparation and Titration of CsCl-banded Adenovirus Stock”in Adenovirus Methods and Protocols, Humana Press, 1999, pp 1-10, W.S.M. Wold, Ed)。手短に言えば、単層としてまたは MATRIGEL(商標)上で増殖させた SKOV3 細胞上での 10 回目の継代から回収された上清の希釈を、標準的なプラークアッセイにおいて SKOV3 細胞を感染させるために用いた。個々のプラークを回収し、これらの回収物から2巡目の個々のプラークを生成するために同一のプラークアッセイ方法を用いた。2巡目のプラーク精製からのプラークは純粋であると考えられ、これらの精製プラークを用いて A549 細胞の感染培養物を調製し、これらの培養物の溶解液の腫瘍退縮効力を、記載された通りに、MTS アッセイによって決定した。
【0100】
実施例 4 − 細胞溶解アッセイ
ウイルスの溶解能力を、MTT アッセイの改変(Yan et al. (2003) J Virol 77:2640-2650)を用いて測定した。手短に言えば、MTS アッセイ(Promega, CellTiter 96(登録商標)Aqueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay)を、MTT アッセイの代わりに用いた。なぜなら、細胞による MTS の水性の可溶性ホルマザンへの変換は、時間を減少させかつ MTT アッセイに付随する揮発性の有機溶媒の使用を排除するからである。
【0101】
MTS アッセイを行うため、24 時間以内にコンフルエントな単層を生成するために各々の腫瘍細胞株について決定された密度で、細胞を播種した。これらの高密度に播種された細胞を、1または複数の試験ウイルスに曝露する前に、さらに 2 日間増殖させた。MTS アッセイによって効力についてアッセイされるウイルス溶解液またはストックを、上記の通りに、陰イオン交換(AIEX)クロマトグラフィーによって力価決定した。腫瘍および初代(primary)正常細胞の両方の感染を、100 の細胞あたり粒子の比で始まり 0.005 の細胞あたり粒子の比で終わるウイルスの系列3倍希釈を用いて、4つ1組で行った。感染細胞を 37℃でインキュベートし、個々の初代細胞または腫瘍細胞株について指示された時点において MTS アッセイを行った。偽-感染細胞は負の対照としての役割を果たし、かつ、所与のアッセイについての 100% 生存点を確立した。あらゆる所与の MTS アッセイにおける各データ点を4つ1組で評価し、IC50 値を 0.9 以上の R2V 値を有する用量反応曲線から得た。各々の MTS アッセイを、一貫した結果を伴って少なくとも2回繰り返した。
【0102】
MATRIGEL(商標)-増殖の細胞培養物上で行う場合には、MTS アッセイ方法を以下のように改変した。96-ウェル プレートを、増殖因子低減 MATRIGEL(商標)(Becton-Dickinson)で 0.15 ml/cm2 でコートした。細胞を、MATRIGEL(商標)上に、播種後 24 時間以内に 3-次元増殖を生成した密度で播種した。SKOV3 細胞については、播種密度は 150,000 細胞/cm2 であった。HUVEC 細胞については、播種密度は 100,000 細胞/cm2 であった。播種後 24 時間において、1,000 の細胞あたり粒子の比で始まり 0.05 の細胞あたり粒子の比で終わるウイルスの3倍系列希釈を用いて、ウイルスを細胞に添加した。
【0103】
実施例 5 − DNA 配列決定
単離されたアデノウイルス OvAd1 (配列番号1) および OvAd2 (配列番号2)の配列決定を、以下のように達成した。剪断された精製鋳型 DNA を用いてショットガンライブラリーを調製した。剪断された DNA を、pUC18 ベクターへの挿入の前に 2-4 kb の範囲にサイズ-選択した。ライブラリー構築を、Anderson et al. (1996) Anal. Biochem. 236:107-113 に記載されているダブル-アダプター方法によって行った。DNA サイクル配列決定は、SeqWright に対して提供されるプライマー(M13 フォワード プライマー、5'-GTAAAACGACGGCCAGT-3'(配列番号5); M13 リバース プライマー、5'-CAGGAAACAGCTATGAC (配列番号6))と併せて Big Dye Terminator v3.1 ケミストリーを用いて、PCR 産物について行った。配列描写(Sequence delineation)およびベースコール(base-calling)を、自動化蛍光 DNA シークエンサー、ABI モデル 373Oxl を用いて行った。最終コンティグ組立て(assembly)を含むすべてのデータを、Phred20 点数化基準(scoring criteria)を用いて評価した。配列の組立て(assembly)および編集を、Sequencher 4.5 Software(GeneCodes、Inc.)を用いて行った。配列情報を、Vector NTI プログラム(Informatix)を用いて解析した。
【0104】
OvAd1 (配列番号1) および OvAd2 (配列番号2)の配列を、ColoAd1(配列番号3; 米国特許出願第11/136,912号を参照)の DNA 配列および出発ウイルス プールに含まれる他の血清型の各々の DNA 配列と比較した。これらの解析によって、OvAd1 および OvAd2 が ColoAd1 (ColoAd1 キメラ E2B 領域を含む) と血清型 Ad3 (右末端)(配列番号4)のキメラであることが示された。図 5 を参照されたい。
【0105】
実施例 6 − アデノウイルスのインビボでの有効性
腫瘍量(tumor burden)を軽減する際における OvAd1 および OvAd2 の有効性を、Ad5、Onyx-015、OvAd1、OvAd2、ColoAd1 および PBS の抗癌有効性を比較する SKOV3 腹腔内腫瘍量の研究において示した。該研究は、MF1 ヌードマウス(最初の実行においては群あたり 5 頭; 反復実験においては群あたり 7 頭)を用いて行った。0 日において、SKOV3 細胞を、マウスあたり 5x10e6 細胞で各マウスの腹膜腔内に投与した。3、5、および 7 日において、0.5 ml PBS 中で、ウイルスを 5x10e10 ウイルス粒子で腹腔内に投与するかまたは媒体を投与した。いかなるベクターの投与後にも、急性毒性の兆候(呼吸困難、背を丸める(hunch)、死、星状の被毛(starry coat))は観察されなかった。Ad5 または ONYX-015 ウイルスのいずれかで処理されたマウスにおいて、広範な腹膜器官接着が観察された。これらの接着は致死的であり得る。Ad5-に基づくものでないウイルス(OvAd1、OvAd2、ColoAd1、または Ad11p)はいずれも、いかなる接着の兆候も示さなかった。最後のベクター投与の後1時間、血液サンプルを採取した; 血流中にベクターは検出されず、この事はこれらのウイルスの腹膜漏出がないことを示す。18 日後(対照マウスにおける腫瘍量が過剰になった日)において、全てのマウスを安楽死させ、腫瘍量を測定した。このモデルにおいては、腫瘍量を減少させるのに OvAd1 ウイルスが最も有効であり、有効性において OvAd2 および親のウイルス ColoAd1 および Ad11p がこれに続いた。Ad5 は、腫瘍量を減少させるのに有効であったが、広範な接着をも引き起こした。Onyx-015 は、効果がなかった。(図 6A および 6B を参照されたい)。
【0106】
SK0V3-ルシフェラーゼ細胞を用いたことおよびそれらが過剰な腫瘍量を獲得するまでマウスを安楽死させなかったことを除いて、この研究を繰り返した。研究の間、ルシフェリン注入の後、全マウス イメージング(whole-mouse imaging)を用いて腫瘍量を追跡した。イメージング結果は、上記のインビボの SKOV3 研究において測定された腫瘍量と一致した。さらに、様々な処置群におけるマウスの生存は、Onyx-015 群のマウスが最初の 21 日以内に死亡した一方、OvAd1 処置マウスは 45 日後もまだ生存していたことを示した。
【0107】
実施例 7 − アデノウイルスの生体外での有効性
手術の間に取り除かれた卵巣の腹水腫瘍細胞サンプルを培地中に置き、等しい数の OvAd1、OvAd2、ColoAd1、Ad3 または Onyx-015 アデノウイルス粒子で感染させた。5 日後に、(細胞溶解アッセイの項において記載される) MTS アッセイを用いて、細胞生存度を測定する。
【0108】
実施例 8 − 初代(Primary)ヒト多能性卵巣癌前駆体細胞に対する OvAd1 の活性
卵巣腫瘍および対応する正常組織サンプルを手術中に取り除き、別々に培養し、等しい数の OvAd1、OvAd2、Ad5、または Onyx-015 アデノウイルス粒子で感染させる。2-6 日後に、培養上清および細胞を回収し、各サンプルから DNA を精製し、各サンプルにおいてゲノム特異的プローブを用いる Taqman アッセイによって ウイルス ゲノムの数を測定する。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本明細書に記載される発明は、固形腫瘍の処置における使用のための、増大した効力/増大した治療指数を有する腫瘍退縮アデノウイルスを作出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
臨床的に有効な腫瘍退縮剤の選択の成功は、正確に標的腫瘍のモデルとなる一方で実験室において日常的に再生可能な細胞または組織の使用に依存している。近年の研究によって、細胞外マトリックス ナノフィブリルの3次元の結合(association)およびそれらが誘導する細胞構造(cellular architecture)が、正常細胞および形質転換された(transformed)細胞の両方の培養における細胞接着、細胞骨格の形成、シグナル伝達および遺伝子発現、形態形成ならびに分化の生理学的パターンを十分に模倣するインビトロ系の発展にとって重大な意味を持つという証拠が提供された。遺伝子発現プロファイリング(GEP)、プロテオミクスおよび細胞機能の分析を含む多くの分析方法によって、単層培養よりも 3D 培養が一般的に良い腫瘍モデルであることが明らかにされている(Birgersdotter et al. (2005) Semin Cancer Bio. 15:405-412; Nelson and Bissell (2005) Semin Cancer Biol 15:342-352)。
【発明の概要】
【0003】
発明の概要
本発明は、固形のまたは血液の腫瘍のウイルスに基づく治療に有用な腫瘍退縮アデノウイルスを単離するための方法を提供し、ここで、単離されたアデノウイルスは基準となる1または複数のウイルスと比較して増強された効力を示す。
【0004】
一つの態様において、該方法は以下の工程を含む
(a) アデノウイルスの群をプールすること、ここで、該アデノウイルスはアデノウイルス血清型 B、C、D、E および F からなる群から選択される;
(b) 工程(a)からのプールされたアデノウイルス混合物を、活発に増殖する腫瘍細胞の培養物上で継代すること;
(c) 工程(b)からの上清を回収すること;
(d) 静止状態の腫瘍細胞の培養物に、工程(c)で回収した上清を感染させること;
(e) 工程(d)からの細胞培養上清を、CPE の徴候の前に回収すること;
(f) 静止状態の腫瘍細胞の培養物に、工程(e)で回収した上清を感染させること;
(g) 工程(f)からの細胞培養上清を、CPE の徴候の前に回収すること; および
(h) ウイルスを、工程(g)の上清からプラーク精製によって単離すること、
ここで、工程(b)、(d)および(f)における腫瘍細胞は全て細胞外マトリックスの上または中で増殖する。
【0005】
好ましい態様において、細胞外マトリックスは、MATRIGEL(商標)として知られる再構成された基底膜である。
【0006】
本発明の別の態様において、プールされたアデノウイルス混合物は、ColoAd1 (配列番号3) をさらに含む。
【0007】
本発明の別の態様において、工程(a)のプールの一部は継代の前に変異誘発される。
【0008】
本発明の別の態様において、工程(b)の継代は最初の上清回収の前に2回行われる。
【0009】
本発明は、結腸、卵巣(ovarian)、肺、前立腺、乳房または膵臓由来の腫瘍細胞に特異的に標的化された腫瘍退縮アデノウイルスの単離を提供する。
【0010】
本発明の一つの態様において、本方法によって単離される腫瘍退縮アデノウイルスは、卵巣腫瘍細胞を標的とする。卵巣腫瘍細胞を標的とする、本発明の2つの単離された腫瘍退縮アデノウイルスは、OvAd1 (配列番号1)および OvAd2 (配列番号2)である。
【0011】
本発明の別の態様において、本方法によって単離される腫瘍退縮アデノウイルスは、癌前駆体細胞を標的とする。別名卵巣癌幹細胞として知られる卵巣癌前駆体細胞を標的とする、本発明の一つの単離された腫瘍退縮アデノウイルスは、OvAd1(配列番号1)である。
【0012】
本発明は、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの保存的に改変された変異体(variant)をさらに包含し、ここで、該変異体は、もとの腫瘍退縮アデノウイルスと比較した場合に等しいまたはより大きな効力を示す。
【0013】
本発明の別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、複製欠損性のアデノウイルスベクターを作出するために改変されている。好ましい態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、アデノウイルスの複製に関与するタンパク質をコードするアデノウイルスゲノムの1以上の領域またはその部分、例えば E1、E2 または E4 領域の欠失を通して複製欠損性を与えられている。特に好ましいのは、E1 または E2 領域の欠失である。
【0014】
本発明の別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、その効力を増大させるために、アデノウイルスゲノムのサイズを減少させることによって改変される。好ましい改変は、E3 領域またはその部分の欠失である。かかる改変は、本発明のオリジナルのアデノウイルスについてまたはその複製欠損性の派生株(derivative)について作られ得る。
【0015】
別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、腫瘍特異性を増大させるために改変される。好ましい改変は、“デルタ 24”欠失を有するアデノウイルスの作成である。
【0016】
本発明は、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの治療目的での使用のための方法をさらに提供する。一つの態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、腫瘍細胞に腫瘍退縮アデノウイルスを感染させることによって、インビトロまたはインビボで腫瘍細胞の増殖を阻害するために用いられ得る。
【0017】
好ましい態様において、OvAd1 (配列番号1) または OvAd2 (配列番号2)アデノウイルスは、卵巣腫瘍細胞の増殖を阻害するために(すなわち、患者における卵巣癌の処置のために)有用である。特に好ましい態様において、OvAd1 (配列番号1) 腫瘍退縮アデノウイルスは、卵巣腫瘍細胞、特に、化学療法耐性の卵巣腫瘍細胞の増殖を阻害するために有用である。
【0018】
別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、所望によりあらゆる治療用量のウイルスをインビボで除去できるよう、その発現がアデノウイルスの複製を減弱させる働きをする異種性の遺伝子をさらに含む。好ましい態様において、この感染を減弱させる遺伝子の発現は、例えば遺伝子発現調節の“tet-on”系の使用を通して調節され得る。別の好ましい態様において、該遺伝子はチミジンキナーゼであり、ガンシクロビルが投与された上でのその発現は感染細胞の死につながり、ウイルス感染の減弱をもたらす。
【0019】
別の態様において、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは異種性の遺伝子をさらに含み、ここで、該異種性の遺伝子はアデノウイルスに感染した細胞内で発現し、治療タンパク質または治療因子をコードする。好ましい態様において、治療タンパク質は、サイトカインおよびケモカイン、抗体、既知の細胞死誘導因子、プロドラッグ変換酵素ならびに免疫調節性のタンパク質およびペプチドからなる群から選択される。治療因子は、これらに限定されないが、小分子RNA(small RNA)(例えば shRNA、miRNA)およびアプタマーであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】生物的に選択された(bioselected)プールの効力。それぞれ MATRIGEL(商標)および単層上で生物的に選択された(bioselected) SM10 (−黒四角−) および SP10 (−黒丸−)ウイルス プールは両者ともに、出発プール: Ad3(−白丸−); Ad5(−白四角−); Ad11p (−白三角−); および Ad35 (−白ひし形−) におけるウイルスの効力と比較して SKOV3 細胞に対して増強された効力を示す。MTS アッセイを、感染後7日で読み取った。
【図2】生物的に選択されたプールの治療指数。図 2A、MATRIGEL(商標) 上で選択されたアデノウイルス プール(SM10)の治療指数は、HUVEC 内皮細胞 (−黒丸−) および SKOV3 白金耐性卵巣腫瘍細胞 (−白丸−)に対するその効力(IC50)を比較することによって決定される。図 2B、単層上で選択されたアデノウイルス プール(SP10)の治療指数は、HUVEC 内皮細胞 (−黒丸−) および SKOV3 白金耐性卵巣腫瘍細胞 (−白丸−)に対するその効力(IC50)を比較することによって決定される。MTS アッセイを、感染後7日で読み取った。
【図3】アデノウイルス OvAd1 および OvAd2 の効力。個々のアデノウイルス OvAd1 および OvAd2 は、それぞれ SM10 (MATRIGEL(商標)-選択) および SP10 (単層-選択)プールから単離された。単離株(isolate) OvAd1 (−白丸−) および OvAd2 (−白四角−)の SKOV3 細胞に対する効力を、MTS アッセイを用いて決定し、親のアデノウイルス ColoAd1 (−白三角−) および Ad3 (−白ひし形−) ならびに既知の腫瘍退縮アデノウイルス Onyx-015 (−黒四角−)の効力と比較した。感染後7日での結果を示す。
【図4】アデノウイルス OvAd1 および OvAd2 の治療指数。個々のアデノウイルス OvAd1 および OvAd2 は、それぞれ SM10 (MATRIGEL(商標)-選択) および SP10 (単層-選択)プールから単離された。各々の単離株の効力は、SKOV3 および HUVEC 細胞について決定された。記号は以下の通りである: HUVEC に対する OvAd1 (−黒丸−); SKOV3 に対する OvAd1 (−黒逆三角−); HUVEC に対する OvAd2 (−白丸−); および SKOV3 に対する OvAd2 (−白三角−)。治療指数は、SKOV3 白金耐性卵巣腫瘍細胞および HUVEC 初代正常内皮細胞に対するアデノウイルスの効力(IC50)を比較することによって決定される。感染後7日での結果を示す。OvAd1 および OvAd2 は両者とも、HUVEC 細胞に対するよりも SKOV3 細胞に対する方が約100-倍強力である。
【図5】OvAd1 および OvAd2 配列の ColoAd1 および Ad3 との関連性。OvAd1(配列番号1) および OvAd2 (配列番号2)の DNA 配列解析は、両方のウイルスが ColoAd1 (配列番号3) と Ad3 (配列番号4)の配列のキメラであることを明らかにした。OvAd1 配列上の 10,000bp と 13,060bp の間の領域は、OvAd1 および OvAd2間 の非相同性領域である。
【図6】腹腔内(IP)モデルにおける OvAd1 および 0vAd2 のインビボでの有効性。図 6A、O日において、SKOV3 腫瘍細胞を 25 頭のマウスの腹膜腔に播種した。マウスを 5 つの群に分け、腫瘍播種後 3、5、および 7 日において4種のウイルス OvAd1 (−黒丸−)、OvAd2 (−黒四角−)、ONYX-015 (−X−) および ColoAd1 (−黒三角−)のうちの一つまたは媒体対照(−+−)を腹腔内(ip)に注入した。マウスの重さを 4 から 6 日ごとに量った。図 6B、41 日目に、マウスを安楽死させ、腫瘍を切り出して(dissected out)重さを量った(n=5)。
【図7】Lieber および Strauss より; ステージ 4 の卵巣癌患者からの、卵巣癌前駆体または幹の(stem)細胞に対する OvAd1 の効力。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の詳細な説明
本明細書において言及される、特許および特許出願を含む全ての刊行物は、各個々の刊行物が引用によりその全体が包含されるよう具体的にかつ個別に意図されるのと同程度に、引用により本明細書に包含される。
【0022】
定義
他に定義しない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明の属する分野における通常の知識を有する者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。通常、本明細書において用いられる命名法および以下で説明される実験手法は、当該技術分野において周知かつ一般的に採用されるものである。
【0023】
本明細書において用いる場合、“アデノウイルス”、“血清型”または“アデノウイルス血清型”の用語は、現在知られている 51 の ヒト アデノウイルスの血清型または将来において単離される血清型のいずれかをいう。例えば、The Adenoviruses, Ginsberg, ed., Plenum Press, New York, NY, pp.451-596 (1984)における Strauss,“Adenovirus infections in humans”を参照されたい。これらの血清型は、表1に示される通りサブグループ A-F に分類される (Fields Virology, Vol.2, Fourth Edition, Knipe, ea., Lippincott Williams & Wilkins, pp. 2265-2267 (2001)における Shenk,“Adenoviridae: The Viruses and Their Replication”を参照されたい)。
【表1】
【0024】
本明細書において用いる場合、“キメラ アデノウイルス”は、その核酸配列が、選択が行われた最初のアデノウイルス プール内に含まれるアデノウイルスゲノムの少なくとも2つの核酸配列で構成されるアデノウイルスをいう。
【0025】
本明細書において用いる場合、“相同組換え”の用語は、各々が相同な配列を有する2つの核酸分子をいい、ここで、該2つの核酸分子は相同性の領域において交差するかまたは組換えを受ける。
【0026】
本明細書において用いる場合、“効力”の用語は、ウイルスの溶解能(lytic potential)をいい、ウイルスの複製し、溶解し、および伝播する能力を表す。本発明の目的のためには、効力は、所与の細胞株に対するあらゆる所与のアデノウイルスの IC5O である。
【0027】
本明細書において用いる場合、“腫瘍退縮ウイルス”の用語は、正常細胞と比較して癌細胞を優先的に殺すウイルスをいう。
【0028】
本明細書において用いる場合、“治療指数”または“治療域(therapeutic window)”の用語は、所与のアデノウイルスの腫瘍退縮性の選択性を示す数字をいい、正常な(すなわち、非癌性の)細胞株におけるアデノウイルスの効力を選択された癌細胞株におけるアデノウイルスの効力で除算することによって決定される 。
【0029】
本明細書において用いる場合、“改変された”との用語は、天然の、例えば野生型のヌクレオチドもしくはアミノ酸配列と異なるかまたは本発明の方法によって作出されたアデノウイルスのヌクレオチド配列もしくはアミノ酸配列と異なるヌクレオチドもしくはアミノ酸配列を有する分子をいう。改変された分子は、野生型分子の機能または活性を保持することができ、すなわち、改変されたアデノウイルスは、その腫瘍退縮活性を保持することができる。以下で説明される通り、改変は、核酸に対する突然変異を包含し、欠失、挿入および置換を含む。かかる突然変異を有するポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、当該技術分野において周知の方法を用いて単離または作成することができる。
【0030】
本明細書において用いる場合、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに関しての“突然変異”とは、それぞれ基準のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較しての(例えば、野生型のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較しての)、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドの一次、二次または三次構造に対する天然の、合成の、組換えのまたは化学的な変化もしくは相違をいう。
【0031】
本明細書において用いる場合、“欠失”は、それぞれ1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が存在しない、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列のいずれかにおける変化として定義される。
【0032】
本明細書において用いる場合、“挿入”または“付加”は、天然のポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較して、それぞれ1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の追加をもたらす、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の変化である。
【0033】
本明細書において用いる場合、“置換”は、1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸がそれぞれ異なるヌクレオチドまたはアミノ酸によって置き換えられることによって生じる。
【0034】
本明細書において用いる場合、“アデノウイルス派生株(derivative)”の用語は、付加、欠失または置換がウイルス ゲノムに対してまたはウイルス ゲノム内に作出され、生じるアデノウイルス派生株が、親のアデノウイルスのものと等しいもしくはより大きい効力および/または治療指数を示すかまたは他の何らかの方法でより治療上有用(すなわち、低免疫原性、改善したクリアランス特性)であるように改変された本発明のアデノウイルスをいう。例えば、本発明のアデノウイルスの派生株は、これらに限定されないが、ウイルス ゲノムの E1A または E2B 領域を含むウイルス ゲノムの初期遺伝子の一つにおいて、欠失を有し得る。
【0035】
本明細書において用いる場合、“保存的に改変された変異体”は、本発明のアデノウイルスのアミノ酸および核酸配列の両方における改変に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいうか、または該核酸がアミノ酸配列をコードせず、本質的に同一である配列をいう。遺伝暗号の縮重のため、多くの機能的に同一な核酸が、あらゆる所与のタンパク質をコードする。例えば、コドン GCA、GCC、GCG および GCU は全て、アミノ酸 アラニンをコードする。よって、あるコドンによってアラニンが特定されるいかなる位置においても、該コドンは、コードされるポリペプチドを変更することなく、記載されるあらゆる対応のコドンに変更され得る。かかる核酸の変異(variation)は、保存的に改変された変異の1つの種である“サイレント変異”である。ポリペプチドをコードする本明細書の核酸配列もまたいずれも、該核酸のあらゆる可能なサイレント変異を表している。当業者は、核酸における各コドン(通常はメチオニンのための唯一のコドンである AUG、および通常はトリプトファンのための唯一のコドンである TGG を除く)が、機能的に同一の分子を生成するために改変され得ることを認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各々のサイレント変異は、各々の記載された配列において黙示的なものである。
【0036】
アミノ酸配列については、当業者は、コードされる配列において単一のアミノ酸もしくは少ないパーセンテージのアミノ酸を変更し、付加しまたは削除する、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加が、“保存的に改変された変異体”であり、該変更が化学的に類似のアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらすことを認識するであろう。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、当該技術分野において周知である。かかる保存的に改変された変異体は、本発明の多型性変異体、種間ホモログおよび対立遺伝子に対し追加的なものであり、これらを除外しない。
【0037】
以下の8つの群は各々、互いに保存的置換であるアミノ酸を包含する:
1) アラニン(A)、グリシン(G);
2) アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3) アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4) アルギニン(R)、リジン(K);
5) イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6) フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7) セリン(S)、スレオニン(T); および
8) システイン(C)、メチオニン(M)
【0038】
非保存的置換は、これらに限定されないが、グリシン(G)で置換されるアスパラギン酸(D); リジン(K)で置換されるアスパラギン(N); またはアルギニン(R)で置換されるアラニン(A) を含む。例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照されたい。
【0039】
ポリペプチドが 20 天然アミノ酸と通常称される 20 のアミノ酸以外のアミノ酸をしばしば含有すること、および末端のアミノ酸を含む多くのアミノ酸が、自然の過程、例えばグリコシル化および他の翻訳後修飾によってまたは当該技術分野において周知の化学的修飾技術によって、所与のポリペプチドにおいて修飾され得ることが理解されるであろう。ポリペプチド中に自然に生じる一般的な修飾ですら、多すぎて本明細書に網羅的に記載することはできないが、それらは基礎的な教科書およびより詳細なモノグラフにおいてならびに豊富な研究文献において十分に記載されており、かつ当業者に周知である。本発明のポリペプチド中に存在し得る既知の修飾の中には、いくつか実例を挙げると、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質もしくは脂質誘導体の共有結合、フォスファチジルイノシトール(phosphotidylinositol)の共有結合、架橋結合、環化、ジスルフィド結合の形成、脱メチル化、共有架橋結合の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシル化、グリケーション(glycation)、グリコシル化、GPI アンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、転移-RNA に媒介されるタンパク質へのアミノ酸付加、例えばアルギニン付加、およびユビキチン化がある。
【0040】
かかる修飾は当業者に周知であり、科学文献に非常に詳細に記載されている。いくつかの特にありふれた修飾、例えばグリコシル化、脂質付加、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、ヒドロキシル化および ADP-リボシル化は、ほとんどの基礎的教科書、例えば、I. E. Creighton, Proteins-Structure and Molecular Properties, 2nd Ed., W.H. Freeman and Company, New York, 1993 において記載されている。この主題については多くの詳細な総説が入手可能であり、例えば、Wold, F., in Posttranslational Covalent Modification of Proteins, B. C. Johnson, Ed., Academic Press, New York, pp 1-12, 1983; Seifter et al., Meth. Enzymol. 182: 626-646, 1990 および Rattan et al., Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging, Ann. N.Y. Acad. Sci. 663: 48-62, 1992 によって提供されるものがある。
【0041】
周知のかつ上で記した通り、ポリペプチドは必ずしも完全な直鎖状ではないことが理解されるであろう。例えば、ポリペプチドはユビキチン化の結果として分枝状であってもよく、および、通常は天然のプロセシング現象および自然には起こらない人間の操作によってもたらされる現象を含む翻訳後イベントの結果として、分枝を有するかまたは有さない環状であってもよい。環状、分枝状および分枝環状のポリペプチドは、非翻訳の天然の過程によっておよび完全に合成的な方法によっても合成することができる。
【0042】
修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖およびアミノもしくはカルボキシル末端を含むポリペプチド内のどこにおいても生じ得る。実際、共有結合性の修飾によるポリペプチドにおけるアミノ基もしくはカルボキシル基またはその両方の封鎖(blockage)は、天然のおよび合成のポリペプチドにおいて一般的であり、かかる修飾は本発明のポリペプチドにおいても存在し得る。例えば、大腸菌(E coli)において作られるポリペプチドのアミノ末端の残基は、タンパク質分解プロセシングの前は、ほぼ必ず N-ホルミルメチオニンである。
【0043】
ポリペプチドにおいて生じる修飾は、しばしばその作られ方の関数である。クローン化された遺伝子を宿主において発現させることによって作られるポリペプチドについては、例えば、修飾の性質および程度は、宿主細胞の翻訳後修飾能力およびポリペプチドのアミノ酸配列内に存在する修飾シグナルによって大部分が決定される。例えば、周知の通り、大腸菌などの細菌性宿主においては、大抵の場合グリコシル化は起こらない。したがって、グリコシル化を望む場合には、ポリペプチドはグリコシル化宿主、一般的には真核細胞において発現させるべきである。昆虫細胞は、しばしば哺乳類細胞と同じ翻訳後のグリコシル化を行い、そのため、とりわけ昆虫細胞発現系は、天然のグリコシル化パターンを有する哺乳類のタンパク質を効率的に発現するよう改良されてきた。同様の考察が他の修飾にも当てはまる。
【0044】
所与のポリペプチド中のいくつかの部位において、同じ型の修飾が、同じまたは異なる程度に存在し得ることが理解されるであろう。また、所与のポリペプチドは、多くの型の修飾を含有し得る。
【0045】
本明細書において用いる場合、以下の用語は、2以上のポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の配列の関係性を説明するために用いられる: “参照配列”、“比較ウインドウ(comparison window)”、“配列同一性”、“配列同一性のパーセンテージ”、“実質的同一性”、“類似性”、および“相同”。“参照配列”は、配列比較の基礎として用いられる定義された配列である; 参照配列は、より大きな配列のサブセット、例えば完全長 cDNA または配列表において提供される遺伝子配列のセグメントであってもよく、または完全な cDNA もしくは遺伝子配列を含み得る。一般的に、参照配列は、少なくとも長さ 18 ヌクレオチドまたは 6 アミノ酸であり、しばしば少なくとも長さ 24 ヌクレオチドまたは 8 アミノ酸であり、大抵は少なくとも長さ 48 ヌクレオチドまたは 16 アミノ酸である。2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列は各々、(1)2つの分子の間で類似する配列(すなわち、完全なポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の一部)を含み得、(2)2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間で相違する配列をさらに含み得ることから、2つの(またはそれより多い)分子間の配列比較は、配列類似性のある局所的領域を同定および比較するため、通常は2つの分子の配列を“比較ウインドウ”上で比較することによって行われる。本明細書において用いる場合、“比較ウインドウ”は、少なくとも 18 の連続するヌクレオチドの位置または 6 のアミノ酸からなる概念的セグメントをいい、ここで、ポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列は少なくとも 18 の連続するヌクレオチドまたは 6 のアミノ酸配列の参照配列と比較され得、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、(付加または欠失を含まない)参照配列と比較して 20 パーセント以下の付加、欠失、置換など(すなわち、ギャップ)を含み得る。比較ウインドウを整列するための最適な配列アラインメントは、例えば Smith and Waterman、Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch、J. MoI. Biol. 48:443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman、Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 85:2444 (1988)の類似性検索の方法、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装(computerized implementation)(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0 (Genetics Computer Group、575 Science Dr.、Madison、Wis.) における GAP、BESTFIT、FASTA および TFASTA、Informatix、Geneworks または MacVector software packages からの VectorNTI)、または観察(inspection)によって実行することができ、様々な方法によって生成された最良の(すなわち、比較ウインドウ上で最大のパーセンテージの相同性をもたらす)アラインメントが選択される。
【0046】
本明細書において用いる場合、“配列同一性”の用語は、2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列が比較ウインドウ上で同一 (すなわち、1ヌクレオチドずつまたは1残基ずつの原則に基づいて)であることを意味する。“配列同一性のパーセンテージ”の用語は、比較ウインドウ上で最適に整列された2つの配列を比較すること、一致した位置の数を生成するために同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U または I)または残基が両方の配列において生じる位置の数を決定すること、一致した位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数(すなわち、ウインドウの大きさ)で除算すること、および配列同一性のパーセンテージを生成するために結果に 100 を乗じることによって算出される。本明細書において用いる場合、“実質的同一性”の用語は、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列の特徴を意味し、ここで、該ポリヌクレオチドまたはアミノ酸は、少なくとも 18 ヌクレオチド(6 アミノ酸)の位置の比較ウインドウ上で、しばしば少なくとも 24-48 ヌクレオチド(8-16 アミノ酸)の位置のウインドウ上で、参照配列と比較して少なくとも 85 パーセントの配列同一性、好ましくは少なくとも 90 から 95 パーセントの配列同一性、より普通には少なくとも 99 パーセントの配列同一性を有する配列を含み、ここで、該配列同一性のパーセンテージは、参照配列を、比較ウインドウ上で、全部で参照配列の 20 パーセント以下である欠失または付加を含み得る配列と比較することによって算出される。参照配列は、より大きな配列のサブセットであってもよい。“類似性”の用語は、ポリペプチドを説明するために用いられる場合、1つのポリペプチドのアミノ酸配列および保存されたアミノ酸置換を第二のポリペプチドの配列と比較することによって決定される。“相同”の用語は、ポリヌクレオチドを説明するために用いられる場合、2つのポリヌクレオチドまたはそれらの指定された配列が、最適に整列されて比較された場合に、適当なヌクレオチド挿入または欠失を伴いながら、ヌクレオチドの少なくとも 70%、普通には 約 75% から 99%、より好ましくはヌクレオチドの少なくとも 約 98 から 99% において同一であることを示す。
【0047】
本明細書において用いる場合、“相同”とは、ポリヌクレオチドを説明するために用いる場合には、2つのポリヌクレオチドまたはそれらの指定された配列が、最適に整列されおよび比較されたときに、適当なヌクレオチドの挿入または欠失を伴いながら、ヌクレオチドの少なくとも 70%、普通には約 75% から 99%、より好ましくはヌクレオチドの少なくとも 約 98 から 99% において同一であることを示す。
【0048】
本明細書において用いる場合、“ポリメラーゼ連鎖反応”または“PCR”は、米国特許第4,683,195号に記載される通りに DNA の特定の断片が増幅される手法をいう。一般的には、オリゴヌクレオチド プライマーを設計できるよう、興味のあるポリペプチド断片の末端からのまたはそれ以上の配列情報が入手できる必要がある; これらのプライマーは互いに向かい合い、増幅されるべき鋳型の反対の鎖と配列において同一または類似である。2つのプライマーの 5' 末端ヌクレオチドは、増幅される材料の末端と一致する。PCR は、全ゲノム DNA、全細胞 RNA から転写された cDNA、プラスミド配列等から特定の DNA 配列を増幅するために用いられ得る(一般的には Mullis et al.、Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol.、51: 263、1987; Erlich、ed.、PCR Technology、Stockton Press、NY、1989 を参照されたい)。
【0049】
本明細書において用いる場合、“ストリンジェンシー”は通常、およそ Tm(融解温度)-5℃ (プローブの Tm より 5°下) から Tm の約 2O℃ ないし 25℃下の範囲において生じる。当業者に理解される通り、ストリンジェントなハイブリダイゼーションは、同一のポリヌクレオチド配列を同定または検出するために、または類似もしくは関連のポリヌクレオチド配列を同定または検出するために用いられ得る。本明細書において用いる場合、“ストリンジェントな条件”との用語は、配列間に少なくとも 95%、好ましくは少なくとも 97% の同一性がある場合にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0050】
本明細書において用いる場合、“ハイブリダイゼーション”は、“ポリヌクレオチド鎖が塩基の対合を介して相補鎖と結合するあらゆる工程”を包含する (Coombs、J.、Dictionary of Biotechnology、Stockton Press、New York、N.Y.、1994)。
【0051】
本発明のアデノウイルス
本発明は、これらに限定されないが、結腸、卵巣、肺、前立腺、乳房および膵臓を含む腫瘍タイプ由来の腫瘍細胞に対して増強された効力および/または増大した選択性を示す腫瘍退縮アデノウイルスの単離のための、アデノウイルス血清型の生物多様性を利用する新規な方法を提供する。
【0052】
腫瘍退縮アデノウイルスの単離
本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、所望の特性、例えば増強された効力または細胞型特異性を有するアデノウイルスを単離するために、突然変異誘発、血清型生物多様性およびストリンジェントな選択条件をユニークに組み合わせる方法である方向性進化(directed evolution)によって作出される。特定の組織を標的とするアデノウイルスのための方向性進化は、選択した組織由来の腫瘍細胞を用いて実施され得る。方向性進化の工程において有用な好ましい腫瘍細胞株は、これらに限定されないが、乳房、結腸、膵臓、肺、前立腺および卵巣由来の腫瘍細胞株を含む。アデノウイルス混合物の“方向性進化”継代に有用な固形腫瘍細胞株の例は、これらに限定されないが、(それぞれ乳房、結腸または膵臓由来の腫瘍を標的とするための) MDA231、HT29 および PC-3 細胞を含む。卵巣組織において増強された効力を示すアデノウイルスの方向性進化に特に好ましいものは、これらに限定されないが、腫瘍細胞株 SKOV3、OVCAR3 および CaOV3 を含む。好ましい態様において、SKOV3 腫瘍細胞は、化学療法に耐性となった卵巣腫瘍において有効性を示す腫瘍退縮アデノウイルスの選択のために用いられる。ATCC などの供給源を通して入手可能な、興味のある標的組織の代表であるあらゆる他の腫瘍細胞株を、本発明のアデノウイルスを単離する際に用いることができる。
【0053】
あるいは、本発明のアデノウイルスの方向性進化は、血液学的悪性腫瘍からの腫瘍細胞を含む、新鮮に切除されたヒトの原発性(primary)または転移性の腫瘍細胞上で直接に行うことができる。
【0054】
本発明において、アデノウイルスの選択は、アデノウイルス サブグループ B、C、D、E および F を代表する血清型を含むアデノウイルス混合物を出発材料として用いて実施される。グループ A のアデノウイルスは、げっ歯類における腫瘍形成に関係するため、該混合物には含まれない。本発明の好ましい態様において、混合物はキメラ アデノウイルス ColoAd1 をも含む(米国特許出願第11/136,912号を参照)。
【0055】
プールされたアデノウイルス混合物は、1回、より好ましくは少なくとも2回、腫瘍細胞のサブコンフルエントな(subconfluent)培養物上で、またはこれらに限定されないが、コラーゲンおよび基底膜マトリックス(MATRIGEL(商標)、Becton Dickinson)を含む細胞外マトリックス ナノフィブリルのインビトロでの 3D 結合(association)上で増殖させた細胞上で、継代される。かかるマトリックスによって誘導される細胞構造(cellular architecture)が、細胞接着、細胞骨格の組織化、シグナル伝達および遺伝子発現、形態形成、ならびに正常なおよび形質転換された(transformed)細胞の両方の培養における分化の生理学的パターンの再現に対して重大な意味を持つこと、および、かかる抽出物が異常な細胞の特徴をインビボでより密接に模倣するモデル系の創造に重要な細胞構造を誘導することが明らかにされている(Schindler et al. J Cell Biochem Biophys (2006) 45:215-227; Birgersdotter et al. (2005) Semin. Cancer Bio. 15:405-412; Boyd et al. (2002) J Gene Med 4:567-576)。
【0056】
アデノウイルスの最初の継代は、血清型間の組換えを促すのに十分な高さであるが、早期の(premature)細胞死を起こすほど高くはない細胞あたりの粒子の比で、実施される。好ましい細胞あたりの粒子の比は、細胞あたりおよそ 100-500 粒子の間であり、当業者によって容易に決定される。本明細書において用いる場合、細胞の“サブコンフルエントな(subconfluent)培養物”とは、その中で細胞が活発に増殖している培養物をいう。単層として増殖させた細胞に関しては、サブコンフルエントな培養物は、細胞増殖のために利用できる面積のおよそ 50% から 80%、好ましくは 75% が細胞で覆われている培養物である。生物学的マトリックス材料の上で増殖させた細胞に関しては、“サブコンフルエントな培養物”は、細胞がマトリックス材料をコンフルエントには覆っていない培養物である。
【0057】
これら最初の継代の間に生産されたアデノウイルスは、静止状態の腫瘍細胞に感染させるため、たった1つのアデノウイルスによる細胞の感染を許容するだけの十分に低い粒子対細胞の比で用いられ、その後の継代についての上清は、高い効力のあるウイルスの選択を増大させるために目に見える細胞変性効果 (CPE、Fields Virology、Vol. 2、Fourth Edition、Knipe、ea.、Lippincott Williams & Wilkins、pp.135-136 を参照)の前に回収される。これらの条件下での 20 回までの継代の後、最後の継代からの上清は、目に見える CPE の前に再度回収され、次いで当業者に周知の技術によって濃縮される。単層培養において、静止状態の細胞、すなわち活発な細胞増殖が停止した細胞を達成する一つの方法は、培養物をコンフルエンスの後3日間生育させておくことであり、ここで、コンフルエンスとは細胞増殖のために利用できる全ての面積が占有される(細胞で覆われる)ことを意味する。3D マトリックス上で増殖させた培養物に関しては、コンフルエンスは細胞の型に依存し、当業者によって容易に決定され得る。懸濁培養は、活発な細胞増殖の欠如によって特徴付けられる密度にまで増殖させることができる。
【0058】
細胞外マトリックス材料から回収され、生物的に選択された(bioselected)アデノウイルス プールを含有する濃縮上清の血清型プロファイルは、回収されたウイルス プール内に存在する保持時間を陰イオン交換カラムを用いて決定することによって試験することができ、ここで、異なるアデノウイルス血清型は特有の保持時間を有することが知られている(Blanche et al. (2000) Gene Therapy 7:1055-1062)。本発明のアデノウイルスは、希釈およびプラーク精製、または当該技術分野において周知の他の技術によって、濃縮上清から単離することができ、さらなる特徴付けのために増殖させることができる。当該技術分野において周知の技術は、単離された腫瘍退縮アデノウイルスの配列を決定するために用いられる(実施例 5 を参照)。本方法によって得られる、卵巣腫瘍細胞に対する選択性を有する本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの例は、OvAd1 (配列番号 1) および OvAd2 (配列番号 2)であり、それらは選択工程の間にそれぞれ MATRIGEL(商標)または単層培養を用いて生物的に選択された。
【0059】
本発明のアデノウイルスは、それらが由来するアデノウイルス血清型と比較して、増強された効力/治療指数を有する。図 1 および 2 は、MATRIGEL(商標)3D 細胞外細胞マトリックス上および単層細胞上で得られたウイルス プールの、それぞれ効力および治療指数を示し、一方、図 4 は、各プールからの個々のアデノウイルス単離株(isolate)についての同様のデータを示す: OvAd1 (MATRIGEL(商標)プールから) および OvAd2 (単層プールから)。
【0060】
アデノウイルス誘導体
本発明は、他の治療上有用な腫瘍退縮アデノウイルスを提供するよう改変された本発明の腫瘍退縮アデノウイルスをも包含する。改変は、これらに限定されないが、以下に記載されるものを含む。
【0061】
ひとつの改変は、E1B-55K タンパク質をコードするアデノウイルスの遺伝子中における突然変異の結果として p53 に結合する能力を実質的に欠いている、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの誘導体の作出である。かかるウイルスは一般的に、E1B-55K 領域のいくらかまたは全てが欠失している。米国特許第6,080,578号は、中でも、p53 への結合の原因である E1B-55K タンパク質の領域内に欠失を有する Ad5 変異体を記載している(米国特許第5,677,178号も参照)。本発明の腫瘍退縮アデノウイルスに対する別の好ましい改変は、米国特許第5,801,029号および5,972,706号に記載される通り、E1A 領域における突然変異である。これらの型の改変は、腫瘍細胞に対するより大きな選択性を有する本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの誘導体を提供する。
【0062】
本発明に包含される改変の別の例は、米国特許第5,998,205に記載されるように、ウイルス複製を組織特異的プロモーターの制御下に置くことによってそれが度合いの増強された組織特異性を示すような、腫瘍退縮アデノウイルスの改変である。本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの複製は、米国特許出願第09/714,409に記載されるように E2F 応答エレメントの制御下に置くこともできる。この改変は、増強された腫瘍組織特異性をもたらす E2F の存在に基づくウイルス複製制御メカニズムを提供し、組織特異的プロモーターによって実現される制御とは区別される。これらの態様の両方において、組織特異的プロモーターおよび E2F 応答エレメントは、アデノウイルスの複製に必須なアデノウイルスの遺伝子に作動可能に結合する。
【0063】
本発明に包含される別の改変は、本発明の腫瘍退縮アデノウイルス、例えば OvAd1 (配列番号1) または OvAd2 (配列番号2)の、新規な複製欠損性アデノウイルスベクターの作出のための骨格としての使用である。Lai et al. ((2002) DNA Cell Bio. 21:895-913)に記載される通り、複製欠損性であるアデノウイルスベクターは、治療遺伝子を送達し、発現させるために使用することができる。本発明のアデノウイルスベクターは、ウイルス ゲノムの E1、E2 または E4 領域の欠失によって、複製欠損性の誘導体を生成するよう改変することができる。特に好ましいのは、E1 または E2 領域の欠失である。かかる改変アデノウイルスベクターは、当業者に周知の技術を用いて容易に作出される(Imperiale and Kochanek (2004) Curr. Top. Microbiol. Immunol. 273:335- 357; Vogels et al. (2003) J. Virol. 77:8263-8271 を参照)。
【0064】
同様に、他の改変は、1以上の領域またはそれら部分の欠失によりウイルスゲノムのサイズを減少させることによってその効力を増大させるために、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスに対してなされ得る。一般に“デルタ 24”欠失として知られる、細胞 Rb タンパク質に結合するアデノウイルスゲノムのセクションの欠失を介する本発明のアデノウイルスの改変もまた、本発明の中に包含される。かかる欠失は、増強された腫瘍特異性を有するアデノウイルスをもたらし得る(Fueyo et al. (2000) Oncogene 19:2-12)。
【0065】
本発明に包含される別の改変は、ゲノムサイズの減少とは区別されるメカニズムによってその効力を増大させるための、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの E3 領域の欠失である。
【0066】
改変アデノウイルスを構築するための方法は、当該技術分野において一般的に知られている。Mittal、S.K. (1993) Virus Res. 28:67-90 および Hermiston、T. et al. (1999) Methods in Molecular Medicine: Adenovirus Methods and Protocols、W.S.M. Wold、ed、Humana Press を参照されたい。標準的な技術が、組換え核酸方法、ポリヌクレオチド合成、ならびに細菌の培養および形質転換のために用いられる(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)。一般的に、酵素反応および精製工程が、製造者の仕様書に従って実施される。技術および手順は、一般的に、当該技術分野において常套の方法およびこの文書を通して提供される様々な一般的参考文献(一般的には、Sambrook et al.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2nd edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.を参照)に従って実施される。本明細書において用いられる命名法ならびに以下に記載される分析化学、有機合成化学および医薬製剤における実験手法は、当該技術分野において周知かつ一般に採用されるものである。
【0067】
治療能力(Therapeutic Potential)の決定
本発明の腫瘍退縮アデノウイルスまたはその変異体もしくは誘導体は、治療標的として興味のある組織由来の腫瘍細胞におけるその溶解能力の試験によって、その治療上の有用性について評価することができる。本発明のアデノウイルスを試験するのに有用な腫瘍細胞株は、以下に限定されるものではないが、これらに限定されないが、DLD-1、HCT116、HT29、LS1034 および SW48 細胞株を含む結腸細胞株; これらに限定されないが、DU145 および PC-3 細胞株を含む前立腺細胞株; これらに限定されないが、Panc-1 細胞株を含む膵臓細胞株; これらに限定されないが、MDA231 細胞株を含む乳房腫瘍細胞株; および、これらに限定されないが、OVCAR-3、CaOV3、BG1、ES-2 および IGROV および SKOV3 細胞株を含む卵巣細胞株を含む。American Type Culture Collection などの供給源を通して入手可能な、興味のある組織標的の代表であるあらゆる他の腫瘍細胞株が、その組織の型の腫瘍の処置における使用に関して本発明のアデノウイルスを同定および評価するのに用いられ得る。あるいは、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの評価は、対応する(matched)ヒト原発性腫瘍および正常な外植片を用いて、例えばウイルス放出(burst)の定量化(米国特許出願第11/136,912号)またはレポーター遺伝子の発現(Lam et al. (2003) Cancer Gene Therapy 10:377-387; Grill et al. (2003) MoI. Therapy 6:609-614)を通して、実施することもできる。実施例 8 を参照されたい。
【0068】
本発明のアデノウイルスの細胞溶解活性は、代表の腫瘍細胞株において決定する事ができ、データは効力(すなわち IC50)の測定に変換される。細胞溶解活性を決定するための好ましい方法は、MTS アッセイである(実施例 4 を参照)。
【0069】
特定の腫瘍細胞における本発明のアデノウイルスの治療指数は、腫瘍細胞における所与のアデノウイルスの効力を、対応する(matched)正常細胞におけるその同じアデノウイルスの効力と比較することによって算出され得る。好ましい非癌性の細胞は、上皮起源である SAEC 細胞 (Cambrex/Clonetics、Inc.、Walkersville、MD)、および内皮起源である HUVEC 細胞 (VEC Technologies、Rennselaer、NY)である(図 2 および 4 を参照)。これら2つの細胞の型は、それぞれ器官および脈管構造が由来する正常細胞を代表し、アデノウイルスの送達様式に依存して、アデノウイルス治療の間における毒性のありそうな部位の代表である。しかし、本発明の実施はこれらの細胞の使用には限られず、他の非癌性細胞(例えば B 細胞、T 細胞、マクロファージ、単球、線維芽細胞)も用いられ得る。
【0070】
本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、腫瘍性細胞の移植片を有するヌードマウスにおいて、等しい腫瘍性細胞の量(burden)を有する非処理マウスと比較して、腫瘍形成または腫瘍性細胞の量を減少させるその能力によって、腫瘍性細胞の増殖(すなわち癌)を標的とするその能力についてさらに評価され得る(実施例 6、図 6A および B を参照)。
【0071】
治療上の有用性
本発明は、本発明の腫瘍退縮アデノウイルスの腫瘍細胞増殖の阻害のための使用、およびこれらのアデノウイルスに由来するアデノウイルスベクターの、腫瘍の処置において有用な治療タンパク質を送達するための使用を提供する。
【0072】
医薬組成物および投与
本発明はまた、その変異体および誘導体を含む本発明のキメラ/腫瘍退縮アデノウイルスを含む、患者への治療的投与のために製剤された医薬組成物にも関する。治療上の使用に関しては、薬理学的有効量のアデノウイルスを含有する無菌の組成物が、処置、例えば腫瘍状態の処置のために、ヒト患者または獣医学的非ヒト患者に対して投与される。一般的に、組成物は、水性懸濁液において約 1011 以上のアデノウイルス粒子を含む。医薬上許容される担体または賦形剤が、かかる無菌の組成物においてしばしば採用される。様々な水溶液、例えば水、緩衝化した水、0.4% 生理食塩水、0.3% グリシンなどが用いられ得る。これらの溶液は無菌であり、通常は所望のアデノウイルスベクター以外の粒子状物質を含まない。組成物は、生理学的状態に近づける要求に応じて、医薬上許容される補助物質、例えば pH 調整剤および緩衝剤、毒性調整剤など、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含み得る。アデノウイルスによる細胞の感染を増強する賦形剤が包含され得る(米国特許第6,392,069号を参照)。
【0073】
本発明のアデノウイルスはまた、リポソームまたはイムノリポソーム(immunoliposome)送達によって腫瘍細胞へ送達され得る; かかる送達は、腫瘍細胞集団上に存在する細胞表面特性(例えば、イムノリポソーム中の免疫グロブリンに結合する細胞表面タンパク質の存在)に基づいて腫瘍細胞へ選択的に標的化され得る。通常、ビリオンを含有する水性懸濁液は、リポソームまたはイムノリポソーム中に封入される。例えば、アデノウイルス ビリオンの懸濁液は、イムノリポソームを形成するため、常套の方法によってミセル中に封入することができる(米国特許第5,043,164号、米国特許第4,957,735号、米国特許第4,925,661号; Connor and Huang, (1985) J. Cell Biol. 101: 581; Lasic D.D. (1992) Nature 355: 279; Novel Drug Delivery (eds. Prescott and Nimmo, Wiley, New York, 1989); Reddy et al. (1992) J. Immunol. 148:1585)。個体の癌細胞上に存在する癌細胞抗原(例えば、CALLA、CEA)に特異的に結合する抗体を含むイムノリポソームは、ビリオンをそれらの細胞へ標的化するために用いられ得る(Fisher (2001) Gene Therapy 8:341-348)。
【0074】
本発明のアデノウイルスの有効性をさらに増大させるため、それらは特定の腫瘍細胞の型に対して増強された指向性を示すよう改変され得る。例えば、PCT/US98/04964 において示されるように、アデノウイルスの外皮上のタンパク質は、正常細胞よりも大きな度合で腫瘍細胞上に存在する受容体に結合する化学物質、好ましくはポリペプチドを提示するよう改変され得る(米国特許第5,770,442号および第5,712,136号も参照されたい)。ポリペプチドは抗体であり得、好ましくは一本鎖抗体である。
【0075】
アデノウイルス治療
本発明のアデノウイルスまたはその医薬組成物は、腫瘍疾患または癌の治療的処置のために投与され得る。治療適用において、組成物は、既に特定の腫瘍疾患に罹患している患者に対して、症状およびその合併症を治癒しまたは少なくとも部分的に抑止するのに十分な量で投与される。これを達成するための適切な量は、“治療上有効量”または“有効量(efficacious dose)”として定義される。この使用について有効な量は、症状の重さ、患者の全身状態(general state)および投与経路に依存する。
【0076】
例えば、制限する目的ではないが、固形のまたは血液学的な腫瘍疾患(例えば、膵臓、結腸、卵巣、肺もしくは乳房の癌(carcinoma)、白血病または多発性骨髄腫)を有するヒト患者または非ヒト哺乳類は、治療上有効量の本発明の適切な腫瘍退縮アデノウイルス、すなわち、その組織の型に対して改善した治療指数を有することが示された腫瘍退縮アデノウイルスを投与することによって処置され得る。卵巣癌の処置にとって好ましい腫瘍退縮アデノウイルスは、アデノウイルス OvAd2 (配列番号2)である。卵巣癌の処置にとって特に好ましい腫瘍退縮アデノウイルスは、OvAd1(配列番号1)である。
【0077】
感染性のアデノウイルス粒子の懸濁液は、静脈内、腹腔内、筋肉内、腫瘍内、真皮下および局所を含む様々な経路で、腫瘍組織へ送達され得る。1mlあたり約 103 から 1012 以上のビリオン粒子を含有するアデノウイルス懸濁液は、注入によって(例えば、卵巣癌を処置するために腹膜腔内へ)投与され得る。
【0078】
本発明のアデノウイルスを用いるアデノウイルス治療は、特定の癌を処置するために、他の抗腫瘍手順、例えば常套の化学療法または x-線治療と組み合わせることができる。
【0079】
本発明のアデノウイルスをアデノウイルスベクターとして用いるアデノウイルス治療もまた、ウイルスに基づく治療において有用であることが知られている他の遺伝子と組み合わせることができる。米国特許第5,648,478号を参照されたい。かかる場合において、キメラ/腫瘍退縮アデノウイルスは、異種性遺伝子が感染した細胞内で発現するようウイルス ゲノム内に組み込まれた、治療タンパク質をコードする異種性遺伝子をさらに含む。治療タンパク質とは、本明細書において用いる場合、所与の細胞において発現した場合にいくらかの治療的利点を提供すると期待されるタンパク質をいう。
【0080】
一つの態様において、異種性遺伝子はチミジンキナーゼ(TK)遺伝子であり得、それはプロドラッグ変換酵素として有用である(Freeman、S.M. (2000) Adv Exp Med Biol 465:411-422)。TK は、ウイルス感染の効率を追跡するためのマーカーまたはレポーターとしても用いられ得る(Sangro et al. (2002) Mol. Imaging Biol. 4:27-33)。
【0081】
一つの態様において、異種性遺伝子はプロドラッグ活性化遺伝子、例えばシトシン デアミナーゼ(CD)である(米国特許第5,631,236号; 第5,358,866号; および第5,677,178号を参照)。他の態様において、異種性遺伝子は、既知の細胞死誘導因子、例えばアポプチンまたはアデノウイルス死タンパク質(ADP)、または融合タンパク質、例えば融合性膜糖タンパク質である(Danen-Van Oorschot et al. (1997) Proc. Nat. Acad. Sci. 94:5843-5847; Tollefson et al.(1996) J. Virol. 70:2296-2306; Fu et al. (2003) Mol. Therapy 7; 48-754、 2003; Ahmed et al. (2003) Gene Therapy 10:1663-1671; Galanis et al. (2001) Human Gene Therapy 12(7): 811-821)。
【0082】
異種性遺伝子またはその断片のさらなる例は、免疫調節タンパク質、例えばサイトカインまたはケモカインをコードするものを包含する。例は、インターロイキン 2、米国特許第4,738,927号または第5,641,665号; インターロイキン 7、米国特許第4,965,195号または第5,328,988号; およびインターロイキン 12、米国特許第5,457,038号; 腫瘍壊死因子アルファ、米国特許第4,677,063号または第5,773,582号; インターフェロン ガンマ、米国特許第4,727,138号または第4,762,791号; または GM CSF、米国特許第5,393,870号または第5,391,485号、Mackensen et al. (1997) Cytokine Growth Factor Rev. 8:119-128)を包含する。さらなる免疫調節タンパク質は、MIP-3 を含むマクロファージ炎症性タンパク質を包含する。単球走化性タンパク質(MCP-3 アルファ)も用いられ得る; 異種性遺伝子の好ましい態様は、癌に対して好んで毒性を示すが正常細胞には毒性でないタンパク質をコードする遺伝子に融合した、細胞膜を横切るタンパク質、例えば VP22 または TAT をコードする遺伝子からなるキメラ遺伝子である。
【0083】
異種性遺伝子の別の例は、抗体または抗体断片である。好ましい抗体は、上皮増殖因子(EGF)または組織因子(TF)に対して標的化される(Jiang et al. (2006) Clin Cancer Res 12:6179-6185; Kasuya et al. (2005) Mol Ther 11 :237-244)。
【0084】
本発明の腫瘍退縮アデノウイルスは、治療上有用な RNA 分子、すなわち siRNA (Dorsett and Tuschl (2004) Nature Rev Drug Disc 3:318-329)、shRNA もしくは miRNA またはアプタマーをコードする遺伝子を送達するためのベクターとしても用いることができる。
【0085】
いくつかの場合において、腫瘍自体にはいかなる直接の影響も有さないものの、腫瘍を根絶する腫瘍退縮ウイルスの能力をさらに増強するために、遺伝子が本発明の腫瘍退縮アデノウイルス内に組み込まれ得る − これらは、MHC クラス I 提示を損なわせるタンパク質(Hewitt et al. (2003) Immunology 110: 163-169)、補体を妨害するタンパク質、IFN および IFNに誘導されるメカニズム、ケモカインおよびサイトカイン、ならびに NK 細胞に基づく殺作用(killing)を阻害するタンパク質(Orange et al.、(2002) Nature Immunol. 3: 1006-1012; Mireille et al. (2002) immunogenetics 54: 527-542; Alcami (2003) Nature Rev. Immunol. 3: 36-50)、免疫応答を下方制御するタンパク質(例えば IL-10、TGF-ベータ、Khong and Restifo (2002) Nature Immunol. 3: 999-1005; 2002) ならびに細胞外マトリックスを崩壊させ、腫瘍内でのウイルスの拡散を増強することができるメタロプロテアーゼ(Bosman and Stamenkovic (2003) J. Pathol. 2000: 423-428; Visse and Nagase (2003) Circulation Res. 92: 827-839)をコードする遺伝子を包含する。
【0086】
キット
本発明はさらに、前述した本発明の組成物の1以上の成分で充填された1以上の容器を含む医薬パックおよびキットに関する。かかる容器には、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって指示された形式での通知が付属していてもよく、それはヒト投与のための製品の製造、使用または販売の該機関による認可を反映する。
【0087】
本発明は、本発明の特定の態様およびその様々な使用を例示する以下の実施例によって、さらに説明される。本発明の特定の側面を説明するこれらの例示は、限界を表現するものではなく、または開示される本発明の範囲を制限するものではない。
【0088】
別に指示しない限り、本発明の実行は、当該技術分野における技術の範囲内である細胞培養、分子生物学、微生物学、組換えDNA操作および免疫科学の常套の技術を採用する。かかる技術は、文献において十分に説明されている。例えば、Cell Biology: a Laboratory Handbook: J. Celis (Ed).Academic Press. N.Y. (1996); Graham, F.L. and Prevec, L. Adenovirus-based expression vectors and recombinant vaccines. In: Vaccines: New Approaches to Immunological Problems. R.W. Ellis (ed) Butterworth. Pp 363-390; Grahan and Prevec Manipulation of adenovirus vectors. In: Methods in Molecular Biology, Vol. 7: Gene Transfer and Expression Techniques. EJ. Murray and J.M. Walker (eds) Humana Press Inc., Clifton, NJ. pp 109- 128, 1991; Sambrook et al. (1989), Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press; Sambrook et al. (1989)、および Ausubel et al. (1995), Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons を参照されたい。
【実施例】
【0089】
実施例
方法
標準的な技術が、組換え核酸方法、ポリヌクレオチド合成、ならびに微生物の培養および形質転換のために用いられる(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)。一般的に、酵素反応および精製工程が、製造者の仕様書にしたがって実施される。技術および手順は一般的に、当該技術分野における常套の方法および本明細書を通して提供される様々な一般的参考文献(一般的には、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd. edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. を参照)にしたがって実施される。本明細書において用いられる命名法、および、分析化学、有機合成化学および医薬の製剤および送達ならびに患者の処置における実験手法。アデノウイルス変異体の作成方法は一般的に、当該技術分野において公知である。Mittal, S. K. Virus Res.,1993, vol: 28, pages 67-90; and Hermiston, T. et al., Methods in Molecular Medicine: Adenovirus Methods and Protocols, W.S.M. Wold, ed., Humana Press, 1999 を参照されたい。アデノウイルス 5 のゲノムは Genbank 10 受入 #M73260 として登録されており、該ウイルスは American Type Culture Collection、Rockville、Maryland、U.S.A. から受入番号VR-5の下に入手可能である。
【0090】
ウイルスおよび細胞株
用いられる ヒト Ad 血清型 Ad3 (GB 株)、Ad4 (RI-67 株)、Ad5 (アデノイド 75 株)、Ad9 (Hicks 株)、Ad16 (Ch.79 株); および SKOV3、OVCAR3、CaOV3、IGROV、BG1、ES-2、PC-3、および HT-29 細胞株は、すべて ATCC から購入した。キメラ アデノウイルス ColoAd1 は、米国特許出願第11/136,912号に記載されている。Ad35、Ad11p(Slobitski 株)および Ad40 は、St. Louis University の Dr. William S.M. Wold から寄贈された。用いられる他の細胞は、MDA-231mt1 (Dr. Deb Zajchowski、Berlex Laboratories によって、急速に増殖する、皮下に植え込まれた MDA-231 細胞の異種移植片から単離された細胞株誘導体) および Panc1-sct (Dr. Sandra Biroc、Berlex Laboratories によって、急速に増殖する、皮下に植え込まれた Panc1 細胞の異種移植片から得られた)、HUVEC (Vec Technologies、Rensselaer、NY)、および SAEC (Clonetics、Walkersville、MD)であった。
【0091】
実施例1 − ウイルスの精製および定量化
ウイルスのストックを、293 細胞または SKOV3 細胞いずれかの上で増殖させ、CsCl 勾配上で精製し、分光測定によって(Tollefson, A., Hermiston, T.W., and Wold, W.S.M.; “Preparation and Titration of CsCl-banded Adenovirus Stock”in Adenovirus Methods and Protocols, Humana Press, 1999, pp 1-10, W.S.M. Wold, Ed) および陰イオン交換(AIEX)クロマトグラフィーによって(Kuhn et al. (2006) Gene Therapy)、力価決定した(1mlあたりのウイルス粒子 vp/ml は、本報告を通して用いられる単位である)。ほとんどの Ad 血清型は、用いられる AIEX 方法によって分析された場合、別々の、特徴的な保持特性を有し、ウイルス精製は AIEX によって正確な力価を決定するために必要ではなく、記載された通り粗溶解液の正確な定量化を可能にする(前記)。それ故、純粋なウイルス ストックの分光学的力価を検証するため、粗ウイルス溶解液の力価を決定するため、および全てのウイルス ストックの血清型-関連性を部分的に特徴付けするために、AIEX クロマトグラフィーを用いた。
【0092】
ウイルス粒子を定量化するために用いられた方法は、オンライン発行された Kuhn et al. (2006) Gene Therapy に記載される通りである。手短に言えば、1.25 ml カラムを Q Sepharose XL Media (Pharmacia)で充填した。HPLC 分離を、Agilent HP 1100 HPLC 上で、以下の条件を用いて行った: バッファー A = pH 7.5 の 20 mM TrisHCl; バッファー B = バッファーA 中に 1.0 M の NaCl; 分あたり 1 ml の流速。バッファー A における 30 分以上のカラム平衡化の後、およそ 109-1011 のサンプルのウイルス粒子をカラム上に 10-100 ul の容積でロードし、4 カラム容積のバッファー A がそれに続いた。16 カラム容積を超えて伸長し、100% のバッファー B で終了する直線勾配を適用した。
【0093】
カラム流出物を A260 および A280 nm でモニターし、ピーク面積を算出し、280 nm に対する 260 nm の比を決定した。ウイルスのピークを、1.33 に近い A260/A280 比を有する、狭く鋭いピークとして同定した。各サンプル系列と共にウイルス標準を含ませた。標準の1mlあたりのウイルス粒子の数を、Lehmberg et al. (1999) J. Chrom. B、732:411-423)の方法を用いて決定した。用いたウイルス濃度の範囲において、各サンプルの A260 nm ピーク面積は、サンプル中のウイルス粒子の数に正比例する。各試験サンプル中の1mlあたりのウイルス粒子の数は、既知である標準中の1mlあたりのウイルス粒子数に、標準の A260 nm ウイルス ピーク面積に対するサンプルの A260 nm ウイルス ピーク面積の比を乗じることによって算出した。
【0094】
各サンプル勾配の後、少なくとも2カラム容積の 0.1-0.5 N NaOH で洗浄し、その後に2カラム容積の 100% バッファー A、3 カラム容積の 100% バッファー B、次いで 4 カラム容積の 100% バッファー A で洗浄することによってカラムを再生した。
【0095】
実施例 2 - 方向性進化
サブグループ Ad B-F を代表するウイルス血清型、すなわち Ad3、Ad4、Ad5、Ad9、Ad11p、Ad16、Ad35、Ad40、およびキメラ ウイルス ColoAd1 (米国特許出願第11/136,912号) を、出発ウイルス プール中に集合させた。各ウイルス型の 1012 のウイルス粒子を含有する出発プールの一部を、亜硝酸によるランダムな突然変異誘発に供した (Williams et al. (1971) J Gen Virol 11 :95-101; Klessig、 D.F. (1977) J. Virol. 21:1243-1246)。2.5-3 対数の死(2.5-3 logs of kill)の後、亜硝酸の中和によって反応を停止させた。パラレルな(parallel) Ad5 の突然変異誘発されたストックからの 10 のウイルス単離株の各々から、19 K タンパク質の 356 bp の領域を増幅し、配列決定した。配列決定によって、10のうち1の単離株が点突然変異を保有していることが示された。この結果からの外挿によって、ウイルス ゲノムあたり平均しておよそ 10 の突然変異が導入されたことが示される。突然変異誘発されたウイルス血清型のプールを、突然変異誘発プールと称した。次いで、各ウイルス型の 109 のウイルス粒子を含有する出発プールの別の部分を突然変異誘発プールに添加し、各ウイルス型のほぼ等しい数の突然変異誘発および非突然変異誘発ウイルス粒子を含有する結合プールを得た。この結合プールを、感染効率(MOI)=10 で、SKOV3、HT-29 および OVCAR3 細胞のサブコンフルエントな単層を感染させるために用いた。これらの感染条件は、結合(突然変異誘発および非突然変異誘発)ウイルス プール中に存在する全てのウイルス型の間に組換えを起こすために選択された。感染後 24 および 48 時間 (24 および 48 hpi)において、これらの感染した培養物からウイルス溶解液を回収し、次いで共に混合して“再結合プール”を作成した。その後、結合プールの新鮮な一定量をこの再結合プールに添加して、方向性進化のために用いられるウイルス プールを生成した。このプールの力価を、上記の通り、陰イオン交換クロマトグラフィーによって決定した。
【0096】
単層培養物上での方向性進化: 生物的に多様な(biodiverse)ウイルス プールを、SKOV3 細胞のサブコンフルエントな培養物上で、生物的に多様なプール中に存在する全てのウイルスの間に組換えを起こすために再度用いられる高い細胞あたり粒子の比 MOI=1O において、1回継代した。サブコンフルエントな SKOV3 単層細胞の、この回の高い細胞あたりウイルス粒子での感染からのウイルス溶解液上清の力価を、AIEX クロマトグラフィーによって決定し、次いで、MOI=0.1 で開始する 10-倍希釈系列において、6-ウェル プレート中で増殖させた一連の過密な SKOV3 培養物を感染させるために用いた。過密状態を達成するため、SKOV3 細胞を、細胞株が播種後 24 から 40 時間の間に集密に達することを可能にする分割比(split ratio)で播種し、細胞を播種後計 72 時間、感染に先立って増殖させた。この細胞密度は、cm2 あたり 150,000 細胞であった。ヒト固形腫瘍における増殖条件を模倣する目的で、感染時における集密度を最大化するために、この高い細胞密度および延長された増殖を用いた。細胞培養上清を、感染後 3 または 4 日において CPE のいかなる兆候も示さなかった 10 倍希釈系列における最も濃縮された接種液で感染させたウェルから回収した。各々の回収物は、ウイルスの次の継代のための出発材料として機能した。この過程を、ウイルス プールが 10 の継代を達成するまで繰り返した。
【0097】
MATRIGEL(商標)培養物上での方向性進化: 増殖因子低減 MATRIGEL(商標)(Becton Dickinson Labware、Bedford、MA)でコートされた組織培養プレート上で標的細胞培養物として増殖させた SKOV3 細胞を用いる方向性進化は通常、培養皿またはウェルが製造者の指示に従って細胞の播種前に MATRIGEL(商標)によって 15O ul/cm2 でコートされたことを除いて、単層培養物上での方向性進化について記載されたのと同様にして行われた。SKOV3 細胞を、MATRIGEL(商標)でコートされたプレート上に、播種後 24 時間(24 hps)までにこれらの細胞において明らかな三次元増殖パターンを生成した密度である cm2 あたり約 150,000 細胞で、播種した。播種後 24-36 時間、すなわち MATRIGEL(商標)によって誘導される三次元増殖パターンが培養中において明らかになって間もなく、細胞を感染させた。選択的な継代を開始する前にプール中の全てのウイルス ゲノムの間に組換えを起こすため、MOI=1O で一回継代を行った。MATRIGEL(商標) 上での選択的継代は、単層方向性進化について記載されたのと同様にして行い、(遺伝子型間の相補性を避けるために)細胞あたり1より少ないウイルス粒子の MOI で開始し、3つの 10-倍系列希釈がこれに続いた。このようにして、前の選択的継代上清の(MOI=O.1 で開始する)10-倍系列希釈を、MATRIGEL(商標)上で増殖させた一連の SK0V3 培養物を感染させるために用いた。各継代において、培養上清を、感染後 3 または 4 日において CPE のいかなる兆候も示さなかった 10-倍希釈系列における最も濃縮された接種液で感染させた培養物から回収した。各々の選択されたプールから個々のウイルスが単離されかつ特徴付けされる前に、合計で 10 の継代を行った。
【0098】
選択されたプールをイオン交換クロマトグラフィーによって解析し、それによって SKOV3 単層上で選択されたウイルスプールが Ad-3 関連ウイルスで構成され、一方で MATRIGEL(商標)上で得られたプールは Ad3 および Ad11p/35-関連ウイルスの両方を含有することが明らかになった。
【0099】
実施例 3 − 選択されたウイルスの単離および特徴付け
個々のウイルスを、各々の選択されたプールから、標準的な方法を用いる SKOV3 細胞上での2巡のプラーク精製によって単離した(Tollefson, A., Hermiston, T.W., and Wold, W.S.M.; “Preparation and Titration of CsCl-banded Adenovirus Stock”in Adenovirus Methods and Protocols, Humana Press, 1999, pp 1-10, W.S.M. Wold, Ed)。手短に言えば、単層としてまたは MATRIGEL(商標)上で増殖させた SKOV3 細胞上での 10 回目の継代から回収された上清の希釈を、標準的なプラークアッセイにおいて SKOV3 細胞を感染させるために用いた。個々のプラークを回収し、これらの回収物から2巡目の個々のプラークを生成するために同一のプラークアッセイ方法を用いた。2巡目のプラーク精製からのプラークは純粋であると考えられ、これらの精製プラークを用いて A549 細胞の感染培養物を調製し、これらの培養物の溶解液の腫瘍退縮効力を、記載された通りに、MTS アッセイによって決定した。
【0100】
実施例 4 − 細胞溶解アッセイ
ウイルスの溶解能力を、MTT アッセイの改変(Yan et al. (2003) J Virol 77:2640-2650)を用いて測定した。手短に言えば、MTS アッセイ(Promega, CellTiter 96(登録商標)Aqueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay)を、MTT アッセイの代わりに用いた。なぜなら、細胞による MTS の水性の可溶性ホルマザンへの変換は、時間を減少させかつ MTT アッセイに付随する揮発性の有機溶媒の使用を排除するからである。
【0101】
MTS アッセイを行うため、24 時間以内にコンフルエントな単層を生成するために各々の腫瘍細胞株について決定された密度で、細胞を播種した。これらの高密度に播種された細胞を、1または複数の試験ウイルスに曝露する前に、さらに 2 日間増殖させた。MTS アッセイによって効力についてアッセイされるウイルス溶解液またはストックを、上記の通りに、陰イオン交換(AIEX)クロマトグラフィーによって力価決定した。腫瘍および初代(primary)正常細胞の両方の感染を、100 の細胞あたり粒子の比で始まり 0.005 の細胞あたり粒子の比で終わるウイルスの系列3倍希釈を用いて、4つ1組で行った。感染細胞を 37℃でインキュベートし、個々の初代細胞または腫瘍細胞株について指示された時点において MTS アッセイを行った。偽-感染細胞は負の対照としての役割を果たし、かつ、所与のアッセイについての 100% 生存点を確立した。あらゆる所与の MTS アッセイにおける各データ点を4つ1組で評価し、IC50 値を 0.9 以上の R2V 値を有する用量反応曲線から得た。各々の MTS アッセイを、一貫した結果を伴って少なくとも2回繰り返した。
【0102】
MATRIGEL(商標)-増殖の細胞培養物上で行う場合には、MTS アッセイ方法を以下のように改変した。96-ウェル プレートを、増殖因子低減 MATRIGEL(商標)(Becton-Dickinson)で 0.15 ml/cm2 でコートした。細胞を、MATRIGEL(商標)上に、播種後 24 時間以内に 3-次元増殖を生成した密度で播種した。SKOV3 細胞については、播種密度は 150,000 細胞/cm2 であった。HUVEC 細胞については、播種密度は 100,000 細胞/cm2 であった。播種後 24 時間において、1,000 の細胞あたり粒子の比で始まり 0.05 の細胞あたり粒子の比で終わるウイルスの3倍系列希釈を用いて、ウイルスを細胞に添加した。
【0103】
実施例 5 − DNA 配列決定
単離されたアデノウイルス OvAd1 (配列番号1) および OvAd2 (配列番号2)の配列決定を、以下のように達成した。剪断された精製鋳型 DNA を用いてショットガンライブラリーを調製した。剪断された DNA を、pUC18 ベクターへの挿入の前に 2-4 kb の範囲にサイズ-選択した。ライブラリー構築を、Anderson et al. (1996) Anal. Biochem. 236:107-113 に記載されているダブル-アダプター方法によって行った。DNA サイクル配列決定は、SeqWright に対して提供されるプライマー(M13 フォワード プライマー、5'-GTAAAACGACGGCCAGT-3'(配列番号5); M13 リバース プライマー、5'-CAGGAAACAGCTATGAC (配列番号6))と併せて Big Dye Terminator v3.1 ケミストリーを用いて、PCR 産物について行った。配列描写(Sequence delineation)およびベースコール(base-calling)を、自動化蛍光 DNA シークエンサー、ABI モデル 373Oxl を用いて行った。最終コンティグ組立て(assembly)を含むすべてのデータを、Phred20 点数化基準(scoring criteria)を用いて評価した。配列の組立て(assembly)および編集を、Sequencher 4.5 Software(GeneCodes、Inc.)を用いて行った。配列情報を、Vector NTI プログラム(Informatix)を用いて解析した。
【0104】
OvAd1 (配列番号1) および OvAd2 (配列番号2)の配列を、ColoAd1(配列番号3; 米国特許出願第11/136,912号を参照)の DNA 配列および出発ウイルス プールに含まれる他の血清型の各々の DNA 配列と比較した。これらの解析によって、OvAd1 および OvAd2 が ColoAd1 (ColoAd1 キメラ E2B 領域を含む) と血清型 Ad3 (右末端)(配列番号4)のキメラであることが示された。図 5 を参照されたい。
【0105】
実施例 6 − アデノウイルスのインビボでの有効性
腫瘍量(tumor burden)を軽減する際における OvAd1 および OvAd2 の有効性を、Ad5、Onyx-015、OvAd1、OvAd2、ColoAd1 および PBS の抗癌有効性を比較する SKOV3 腹腔内腫瘍量の研究において示した。該研究は、MF1 ヌードマウス(最初の実行においては群あたり 5 頭; 反復実験においては群あたり 7 頭)を用いて行った。0 日において、SKOV3 細胞を、マウスあたり 5x10e6 細胞で各マウスの腹膜腔内に投与した。3、5、および 7 日において、0.5 ml PBS 中で、ウイルスを 5x10e10 ウイルス粒子で腹腔内に投与するかまたは媒体を投与した。いかなるベクターの投与後にも、急性毒性の兆候(呼吸困難、背を丸める(hunch)、死、星状の被毛(starry coat))は観察されなかった。Ad5 または ONYX-015 ウイルスのいずれかで処理されたマウスにおいて、広範な腹膜器官接着が観察された。これらの接着は致死的であり得る。Ad5-に基づくものでないウイルス(OvAd1、OvAd2、ColoAd1、または Ad11p)はいずれも、いかなる接着の兆候も示さなかった。最後のベクター投与の後1時間、血液サンプルを採取した; 血流中にベクターは検出されず、この事はこれらのウイルスの腹膜漏出がないことを示す。18 日後(対照マウスにおける腫瘍量が過剰になった日)において、全てのマウスを安楽死させ、腫瘍量を測定した。このモデルにおいては、腫瘍量を減少させるのに OvAd1 ウイルスが最も有効であり、有効性において OvAd2 および親のウイルス ColoAd1 および Ad11p がこれに続いた。Ad5 は、腫瘍量を減少させるのに有効であったが、広範な接着をも引き起こした。Onyx-015 は、効果がなかった。(図 6A および 6B を参照されたい)。
【0106】
SK0V3-ルシフェラーゼ細胞を用いたことおよびそれらが過剰な腫瘍量を獲得するまでマウスを安楽死させなかったことを除いて、この研究を繰り返した。研究の間、ルシフェリン注入の後、全マウス イメージング(whole-mouse imaging)を用いて腫瘍量を追跡した。イメージング結果は、上記のインビボの SKOV3 研究において測定された腫瘍量と一致した。さらに、様々な処置群におけるマウスの生存は、Onyx-015 群のマウスが最初の 21 日以内に死亡した一方、OvAd1 処置マウスは 45 日後もまだ生存していたことを示した。
【0107】
実施例 7 − アデノウイルスの生体外での有効性
手術の間に取り除かれた卵巣の腹水腫瘍細胞サンプルを培地中に置き、等しい数の OvAd1、OvAd2、ColoAd1、Ad3 または Onyx-015 アデノウイルス粒子で感染させた。5 日後に、(細胞溶解アッセイの項において記載される) MTS アッセイを用いて、細胞生存度を測定する。
【0108】
実施例 8 − 初代(Primary)ヒト多能性卵巣癌前駆体細胞に対する OvAd1 の活性
卵巣腫瘍および対応する正常組織サンプルを手術中に取り除き、別々に培養し、等しい数の OvAd1、OvAd2、Ad5、または Onyx-015 アデノウイルス粒子で感染させる。2-6 日後に、培養上清および細胞を回収し、各サンプルから DNA を精製し、各サンプルにおいてゲノム特異的プローブを用いる Taqman アッセイによって ウイルス ゲノムの数を測定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結腸、卵巣、肺、前立腺、乳房または膵臓由来の腫瘍細胞に対して、基準のウイルスと比較して増強された効力を有する腫瘍退縮アデノウイルスを単離する方法であって、以下を含む方法:
(a) アデノウイルスの群をプールすること、ここで、該アデノウイルスはアデノウイルス血清型 B、C、D、E および F からなる群から選択される;
(b) 工程(a)からのプールされたアデノウイルス混合物を、活発に増殖する腫瘍細胞の培養物上で継代すること;
(c) 工程(b)からの上清を回収すること;
(d) 静止状態の腫瘍細胞の培養物に、工程(c)で回収した上清を感染させること;
(e) 工程(d)からの細胞培養上清を、CPE の徴候の前に回収すること;
(f) 静止状態の腫瘍細胞の培養物に、工程(e)で回収した上清を感染させること;
(g) 工程(f)からの細胞培養上清を、CPE の徴候の前に回収すること; および
(h) ウイルスを、工程(g)の上清からプラーク精製によって単離すること、
ここで、工程(b)、(d) および (f) における腫瘍細胞は全て細胞外マトリックスの上または中で増殖する。
【請求項2】
工程(a)のプールされたアデノウイルス混合物の一部が、継代の前に突然変異誘発される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)が、工程(c)における回収の前に2回実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アデノウイルスの群が、ColoAd1 (配列番号3) をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞増殖のために用いられる細胞外マトリックスが、コラーゲンまたは再構成された基底膜(MATRIGEL(商標))である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
細胞外マトリックスが、MATRIGEL(商標)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって単離される、腫瘍退縮アデノウイルス。
【請求項8】
前記アデノウイルスのヌクレオチド配列が、配列番号1 を含む、請求項7に記載のアデノウイルス。
【請求項9】
前記アデノウイルスのヌクレオチド配列が、配列番号2 を含む、請求項8に記載のアデノウイルス。
【請求項10】
請求項7に記載の腫瘍退縮アデノウイルスの保存的に改変された変異体であって、卵巣腫瘍細胞について、もとの腫瘍退縮アデノウイルスと比較して効力が等しいか、より大きな効力を示すか、または増強された治療指数を示す、変異体。
【請求項11】
E1、E2 または E4 からなる群から選択されるアデノウイルスの複製に関与するタンパク質をコードする1以上のアデノウイルスの領域もしくはその部分の欠失を通して、複製欠損性を与えられている、請求項7に記載のアデノウイルス。
【請求項12】
E3 領域またはその部分の除去によって改変される、請求項7または11に記載のアデノウイルス。
【請求項13】
デルタ 24 領域の除去によって改変される、請求項7または11に記載のアデノウイルス。
【請求項14】
異種性遺伝子をさらに含む請求項7に記載のアデノウイルスであって、前記異種性遺伝子が前記アデノウイルスに感染した細胞の中で発現する、アデノウイルス。
【請求項15】
前記異種性遺伝子が、チミジンキナーゼである、請求項14に記載のアデノウイルス。
【請求項16】
前記異種性遺伝子が、サイトカインおよびケモカイン、抗体、細胞死を誘導することが知られている因子、プロドラッグ変換酵素ならびに免疫調節タンパク質からなる群から選択される治療タンパク質をコードする、請求項14に記載のアデノウイルス。
【請求項17】
癌細胞の増殖を阻害する方法であって、請求項1に記載の方法によって単離されるアデノウイルスを前記癌細胞に感染させることを含む、方法。
【請求項18】
前記癌細胞が、卵巣癌細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記癌細胞が、薬剤耐性の卵巣癌細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アデノウイルスのヌクレオチド配列が、配列番号1 または配列番号2 である、請求項17または18に記載の方法。
【請求項1】
結腸、卵巣、肺、前立腺、乳房または膵臓由来の腫瘍細胞に対して、基準のウイルスと比較して増強された効力を有する腫瘍退縮アデノウイルスを単離する方法であって、以下を含む方法:
(a) アデノウイルスの群をプールすること、ここで、該アデノウイルスはアデノウイルス血清型 B、C、D、E および F からなる群から選択される;
(b) 工程(a)からのプールされたアデノウイルス混合物を、活発に増殖する腫瘍細胞の培養物上で継代すること;
(c) 工程(b)からの上清を回収すること;
(d) 静止状態の腫瘍細胞の培養物に、工程(c)で回収した上清を感染させること;
(e) 工程(d)からの細胞培養上清を、CPE の徴候の前に回収すること;
(f) 静止状態の腫瘍細胞の培養物に、工程(e)で回収した上清を感染させること;
(g) 工程(f)からの細胞培養上清を、CPE の徴候の前に回収すること; および
(h) ウイルスを、工程(g)の上清からプラーク精製によって単離すること、
ここで、工程(b)、(d) および (f) における腫瘍細胞は全て細胞外マトリックスの上または中で増殖する。
【請求項2】
工程(a)のプールされたアデノウイルス混合物の一部が、継代の前に突然変異誘発される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)が、工程(c)における回収の前に2回実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アデノウイルスの群が、ColoAd1 (配列番号3) をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞増殖のために用いられる細胞外マトリックスが、コラーゲンまたは再構成された基底膜(MATRIGEL(商標))である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
細胞外マトリックスが、MATRIGEL(商標)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって単離される、腫瘍退縮アデノウイルス。
【請求項8】
前記アデノウイルスのヌクレオチド配列が、配列番号1 を含む、請求項7に記載のアデノウイルス。
【請求項9】
前記アデノウイルスのヌクレオチド配列が、配列番号2 を含む、請求項8に記載のアデノウイルス。
【請求項10】
請求項7に記載の腫瘍退縮アデノウイルスの保存的に改変された変異体であって、卵巣腫瘍細胞について、もとの腫瘍退縮アデノウイルスと比較して効力が等しいか、より大きな効力を示すか、または増強された治療指数を示す、変異体。
【請求項11】
E1、E2 または E4 からなる群から選択されるアデノウイルスの複製に関与するタンパク質をコードする1以上のアデノウイルスの領域もしくはその部分の欠失を通して、複製欠損性を与えられている、請求項7に記載のアデノウイルス。
【請求項12】
E3 領域またはその部分の除去によって改変される、請求項7または11に記載のアデノウイルス。
【請求項13】
デルタ 24 領域の除去によって改変される、請求項7または11に記載のアデノウイルス。
【請求項14】
異種性遺伝子をさらに含む請求項7に記載のアデノウイルスであって、前記異種性遺伝子が前記アデノウイルスに感染した細胞の中で発現する、アデノウイルス。
【請求項15】
前記異種性遺伝子が、チミジンキナーゼである、請求項14に記載のアデノウイルス。
【請求項16】
前記異種性遺伝子が、サイトカインおよびケモカイン、抗体、細胞死を誘導することが知られている因子、プロドラッグ変換酵素ならびに免疫調節タンパク質からなる群から選択される治療タンパク質をコードする、請求項14に記載のアデノウイルス。
【請求項17】
癌細胞の増殖を阻害する方法であって、請求項1に記載の方法によって単離されるアデノウイルスを前記癌細胞に感染させることを含む、方法。
【請求項18】
前記癌細胞が、卵巣癌細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記癌細胞が、薬剤耐性の卵巣癌細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アデノウイルスのヌクレオチド配列が、配列番号1 または配列番号2 である、請求項17または18に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【公表番号】特表2010−514418(P2010−514418A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543231(P2009−543231)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/088415
【国際公開番号】WO2008/080003
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(507113188)バイエル・シェーリング・ファルマ・アクチェンゲゼルシャフト (141)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Schering Pharma Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/088415
【国際公開番号】WO2008/080003
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(507113188)バイエル・シェーリング・ファルマ・アクチェンゲゼルシャフト (141)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Schering Pharma Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】
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