説明

腰部拘束用エアバッグ装置

【課題】 乗り心地を悪化させることなく、乗員の腰部拘束性能の向上に寄与する腰部拘束用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る腰部拘束用エアバッグ装置は、車両のシートクッション下部に配置され、緊急時に当該シートクッションに着座している乗員の腰部を拘束して前方移動を制限する腰部拘束用エアバッグ装置において、前記シートクッションの下部に圧縮された状態で収容されたエアバッグを備える。そして、前記エアバッグは、非圧縮の状態で車両の左右方向に延びる筒状の本体部と、当該本体部の両側面(左右側面)を塞ぎ、展開時に略平行四辺形状となる側面部とを備え、膨張・展開時に底面から前方又は後方にオフセットして展開する構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、衝突の際に乗員を座席に拘束して保護する腰部拘束機能を有する車両用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が前面衝突した場合、乗員は、慣性により前方へ移動しようとする。乗員がシートベルトを着用しているときは、シートベルト装置の肩ベルトや腰ベルトの拘束作用によって、乗員の前方への移動がある程度抑えられる。これを更に確実なものとするために、車両が前面衝突によって急減速した場合に、瞬時にシートクッションの前端部を上昇させて、乗員の前方移動を制限する技術を適用した腰部拘束装置が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照、特許文献3参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−229378号公報
【特許文献2】特開平10−217818号公報
【特許文献3】英国特許GB2357466
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の腰部拘束装置においては、エアバッグ(インフレータバッグ)の展開タイミングに若干の遅れがある場合、乗員がエアバッグの上部に乗り上げてしまい、十分な拘束力を得ることができないことがあった。また、シートクッションの下部の構造上、エアバッグの配置が制限を受けるため、設計の自由度が束縛され、乗員を即座に拘束することが困難な場合や、シートクッションの機能(乗り心地)を悪化される可能性があった。
【0005】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、乗り心地を悪化させることなく、乗員の腰部拘束性能の向上に寄与する腰部拘束用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る腰部拘束用エアバッグ装置は、車両のシートクッション下部に配置され、緊急時に当該シートクッションに着座している乗員の腰部を拘束して前方移動を制限する腰部拘束用エアバッグ装置において、前記シートクッションの下部に圧縮された状態で収容されたエアバッグを備える。そして、前記エアバッグは、非圧縮の状態で車両の左右方向に延びる筒状の本体部と、当該本体部の両側面(左右側面)を塞ぎ、展開時に略平行四辺形状となる側面部とを備え、膨張・展開時に底面から前方又は後方にオフセットして展開する構造である。好ましくは、前記左右側面部の各々は、略中央に四角形状の第1の折り目と、当該四角形の1つの対角線を形成する第2の折り目を有し、これら第1及び第2の折り目に沿って前記エアバッグを折り畳んで収容する構造を採用する。エアバッグは、底面に鉛直な方向から傾斜して展開可能となる。
【0007】
ここで、エアバッグ展開方向の傾斜は、車両の前方及び後方を含む。展開方向を車両前方に傾斜させた場合には、乗員がエアバッグの上部に乗り上げる事態を回避し、十分な拘束力を得ることが可能となる。他方、展開方向を車両後方に傾斜させた場合には、展開後即座に乗員の腰部(骨盤)を拘束することが可能となる。何れの場合においても、設置上の制約が多いシート下において、エアバッグ装置自体の配置を大きく変更する必要がないため、種々のタイプの車両への適用が可能となる。
【0008】
また、展開時に略平行四辺形状となる側面部の各々は、略中央に四角形状の第1の折り目と、当該四角形の1つの対角線を形成する第2の折り目を有し、これら第1及び第2の折り目に沿って前記エアバッグを折り畳んで収容する構造であるため、比較的硬い素材でエアバッグを成形した場合にも、無理なく良好に折り畳むことができるとともに、スムーズに展開させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の実施例に係る腰部拘束用エアバッグ装置が使用されるシートクッション装置の構造を示す平面図である。シートクッション装置11は、シートフレーム12と、このシートフレーム12に取り付けられるシートクッション13と、シートクッション13を下方で弾性的に支えるシートクッションばね(弾性部材)14と、シートフレーム12の前部に配置されたエアバッグ15とを備えている。シートフレーム12は、左右の側フレーム部材22と、前部フレーム部材(フロントクロスメンバ)23と、後部フレーム部材(リアクロスメンバ)24とを備えている。
【0010】
エアバッグ15は、シートクッション装置11の前側に装着され、シートクッションばね14の前端部を保持するリテーナ(保持部材)17を備える。シートクッションばね14は、金属製の線状部材を連続した矩形波形状に成形し、中間部で折り返されている。そして、無荷重時には、線状部材を含む面が全体として下に凸となるように若干湾曲した曲面となるように成形されている。シートクッションばね14は、前端部がリテーナ17のばね保持部17aによって保持され、後端部が後部フレーム部材24によって回動可能に保持されている。エアバッグ15は、リテーナ17の前側においてシートクッションばね14と並列に配置され、前部フレーム部材23の上部又は後部に取り付けられる。
【0011】
上述したように、本実施例に係るエアバッグ装置は、車両のシートクッション(13)下部に配置され、緊急時に当該シートクッション(13)に着座している乗員の腰部を拘束して前方移動を制限するものである。そして、エアバッグ装置は、シートクッション(13)の下部に圧縮された状態で収容されたエアバッグ15を備える。
【0012】
図2は、エアバッグ15の構造を示す斜視図である。図3は、図2のA−A方向の断面図である。図4は、実施例に係るエアバッグ装置の作動時の展開状態を示す側面図である。図2に示すように、エアバッグ15は、非圧縮の状態で車両の左右方向に延びる筒状の本体部15aと、当該本体部15aの両側面(左右側面)を塞ぎ、展開時に略平行四辺形状となる側面部15b,15cとを備え、膨張・展開時に底面から前方又は後方にオフセットして展開する構造である。更に、左右側面部15b、15cの各々は、略中央に四角形状の第1の折り目18と、当該四角形の1つの対角線を形成する第2の折り目20を有し、これら第1及び第2の折り目18,20に沿ってエアバッグ15を折り畳んで収容する構造を採用する。第1の折り目18は、左右側面部15b、15cが形成する平行四辺形とは前後逆方向に傾く平行四辺形を形成する。また、第1の折り目18が形成する平行四辺形は、略垂直に延びる2本の側辺18a,18bを有する。
【0013】
エアバッグ15を折り畳む際には、図の右側に突出したバッグ本体15aを左側にスライドさせながら下に向かって力を加え、第1及び第2の折り目18,20に沿って折り畳み、図4に示す状態で収容する。本発明においては、左右側面部15b、15cの各々は、略中央に四角形状の第1の折り目18と、当該四角形の1つの対角線を形成する第2の折り目20を有し、これら第1及び第2の折り目18,20に沿ってエアバッグ15を折り畳んで収容する構造を採用するため、比較的硬い素材でエアバッグ15を成形した場合にも、無理なく良好(コンパクト)に折り畳むことができるとともに、スムーズに展開させることが可能となる。
【0014】
エアバッグ装置10は、エアバッグ15の他に、エアバッグ15内部に膨張ガスを供給するガス供給装置としてのインフレータ16(図4参照)を備えている。エアバッグ15の素材としては、厚さ約0.4mm程度の金属製シート又は、それよりも厚い樹脂製シートの成型体を使用することができる。
【0015】
図3に示すように、筒状の本体部15aを構成する帯状金属板の両端部同士が接する位置(図示せず)と、本体部15aの左右側部(筒の上下端部)と側面部15b、15cとが接する位置15dは、溶接等の方法によって接合される。エアバッグ15の素材強度やガスの圧力によっては、膨張展開時には若干丸みをおびた平行四辺形となる場合がある。
【0016】
図7及び図8には、本体部15aの左右側部と側面部15b、15cとの接合方法の他の例を示す。図7の例では、側面部15b(15c)の端部が本体部15aの縁部内側に折曲げられ、本体部15aとの接合カ所15eが溶接等の方法によって接合される。一方、図8の例では、側面部15b(15c)の端部において、ヘミング構造(二重折曲げ構造)が採用され、側面部15b(15c)の縁部(エッジ)と本体部15aの縁部(エッジ)とが当接して接合カ所15fを成し、その部分15fが溶接等の方法によって接合される。
【0017】
本実施例の重要なポイントの1つは、シート下に配置される装置10の位置を変えることなく、エアバッグ15の展開方向を車両進行方向(前方)又は後方にシフトさせることにある。これを達成するために、側面部15b、15cの展開形状を略平行四辺形としている。
【0018】
図4に示すように、車両の前面衝突等による急減速時に、インフレータ16が作動すると、インフレータ16からは高圧ガスがエアバッグ15内部に噴出する。エアバッグ15は、噴出された高圧ガスが内部に充満することによって、膨張展開し、シートクッション13を上方に押し上げる。
【0019】
上述したように、本実施例においては、エアバッグ15を真上からずれた(オフセットした)斜め方向に展開可能である。このため、設置時の制約が多いシート下においても、エアバッグ装置自体の配置を変更する必要がなく、種々のタイプの車両への適用が可能となる。なお、エアバッグ展開方向の傾斜は、車両の前方及び後方を含む。展開方向を車両前方に傾斜させた場合には、乗員がエアバッグの上部に乗り上げる事態を回避し、十分な拘束力を得ることが可能となる。他方、展開方向を車両後方に傾斜させた場合には、展開後即座に乗員の腰部(骨盤)を拘束することが可能となる。
【0020】
図5は、本発明の第2の実施例に係る腰部拘束用エアバッグ装置のエアバッグの構造を示す斜視図である。なお、上述した第1の実施例(図2等)と同一又は対応する構成要素については同一の符号を付し、重複した説明は省略する。本実施例のエアバッグ15は、左右側面部15b、15cと実質的に同一の形状をなし、本体部15aの内部に当該左右側面部15b、15cと平行に配置された中間面部15eを更に備えている。中間面部15eは、左右側面部15b、15cと同様の折り目が形成され、折り畳まれる。本実施例によれば、左右方向に長い形状のエアバッグを採用した場合にも、折り畳み回数を増やすことなく、良好にエアバッグを圧縮することが可能となる。また、展開時のエアバッグ15を好ましい形状に保つことが可能となる。
【0021】
中間面部15eには、膨張ガスをバッグ全体に良好に充満させるための穴35が複数形成されている。これにより、エアバッグ15内部で膨張ガスを均一に充填させることが可能となる。
【0022】
図6は、本発明の第3の実施例に係る腰部拘束用エアバッグ装置のエアバッグの構造を示す斜視図である。なお、上述した第1の実施例(図2等)と同一又は対応する構成要素については同一の符号を付し、重複した説明は省略する。本実施例のエアバッグ15は、その内部に帯状のストラップ15fを配置している。ストラップ15fは、左右側面部15b,15cが傾斜するのとは逆の前後方向に傾斜して延び、両端部が本体部15aの内側の対角方向の角部付近に固定されている。ストラップ15fは、エアバッグ15を折り畳んだ際には、バッグ本体15aの底部に接触するように収容される。本実施例によれば、展開時のエアバッグ15を好ましい形状に保つことが可能となる。
【0023】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲に示された技術的思想の範疇において変更可能なものである。上記実施例においては、エアバッグの展開方向の斜め前方としているが、目的に応じて後方や横方向にも傾斜させることができる。エアバッグの展開方向を後方に傾斜させた場合には、エアバッグ展開後、即座に乗員の腰部(骨盤)を拘束することが可能となる。何れの場合においても、設置時の制約が多いシート下において、エアバッグ装置自体の配置を大きく変更する必要がないため、種々のタイプの車両への適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施例に係る腰部拘束用エアバッグ装置が使用されるシートクッション装置の構造を示す平面図である。
【図2】図2は、実施例に係るエアバッグ装置のエアバッグの構造を示す斜視図である。
【図3】図3は、図2のA−A方向の断面図である。
【図4】図4は、実施例に係るエアバッグ装置の作動時の展開状態を示す側面図である。
【図5】図5は、本発明の第2の実施例に係る腰部拘束用エアバッグ装置のエアバッグの構造を示す斜視図である。
【図6】図6は、本発明の第3の実施例に係る腰部拘束用エアバッグ装置のエアバッグの構造を示す斜視図である。
【図7】図7は、図2に示すエアバッグの接合方法の他の態様を示すものであり、図2のA−A方向の断面図である。
【図8】図8は、図2に示すエアバッグの接合方法の更に他の態様を示すものであり、図2のA−A方向の断面図である。
【符号の説明】
【0025】
13 シートクッション
15 エアバッグ
15a バッグ本体
15b,15c 側面部
15e 中間面部
15f ストラップ
16 インフレータ
18 第1の折り目
20 第2の折り目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートクッション下部に配置され、緊急時に当該シートクッションに着座している乗員の腰部を拘束して前方移動を制限する腰部拘束用エアバッグ装置において、
前記シートクッションの下部に圧縮された状態で収容されたエアバッグを備え、
前記エアバッグは、非圧縮の状態で車両の左右方向に延びる筒状の本体部と、当該本体部の両側面(左右側面)を塞ぎ、展開時に略平行四辺形状となる側面部とを備え、膨張・展開時に底面から前方又は後方にオフセットして展開する構造であることを特徴とする腰部拘束用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記左右側面部の各々は、略中央に四角形状の第1の折り目と、当該四角形の1つの対角線を形成する第2の折り目を有し、これら第1及び第2の折り目に沿って前記エアバッグを折り畳んで収容することを特徴とする請求項1に記載の腰部拘束用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記第1の折り目は、前記左右側面部が形成する平行四辺形とは前後逆方向に傾く平行四辺形を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の腰部拘束用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記第1の折り目が形成する平行四辺形は、略垂直に延びる2本の側辺を含むことを特徴とする請求項3に記載の腰部拘束用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記左右側面部と実質的に同一の形状をなし、前記本体部の内部に当該左右側面部と平行に配置され、且つ、左右側面部と同様に折り畳まれる中間面部を更に備えることを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載の腰部拘束用エアバッグ装置。
【請求項6】
前記中間面部には、膨張ガスをバッグ全体に良好に充満させるための穴が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の腰部拘束用エアバッグ装置。
【請求項7】
帯状に成形され、前記左右側面部が傾斜するのとは逆の前後方向に傾斜して延び、両端部が前記本体部の内側の対角方向の角部付近に固定され、前記エアバッグの展開形状を規制するストラップを更に備えることを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載の腰部拘束用エアバッグ装置。
【請求項8】
前記エアバッグは、薄板状の金属から成形されることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6又は7に記載の腰部拘束用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−232206(P2006−232206A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52663(P2005−52663)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】