説明

腸内細菌叢構成比率調整剤

【課題】安全で副作用の少ない腸内細菌叢構成比率を調整しうる食品又は医薬品を提供。
【解決手段】糖吸収抑制物質の少なくとも1種を含有することを特徴とする腸内細菌叢構成比率調整剤、これを含む食品又は医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖吸収抑制物質を含有する腸内細菌叢構成比率調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の研究により、ヒトにおいて肥満時はバクテロイデス門(Bacteroidetes)に属する菌の構成比率が低く、ファーミキューテス門(Firmicutes)に属する菌の構成比率が高い状態になっており、体重減少に伴い、バクテロイデス門の構成比率が高まり、逆にファーミキューテス門の構成比率が低下することが明らかになった。また、やせている人は太っている人と比較して、バクテロイデス門の構成比率が高く、ファーミキューテス門の構成比率が低いことが分かっている(非特許文献1参照)。
さらに、腸内細菌のいない2群のマウスに肥満マウスの腸内細菌叢と通常体重マウスの腸内細菌叢をそれぞれ移植したところ、肥満マウスの腸内細菌を移植された群の体重が通常体重マウスの腸内細菌を移植された群の体重を優位に上回っていることも明らかにされている(非特許文献2参照)。
つまり、腸内細菌の構成比率を変化させることで、体質そのものが変化し、体調を改善する効果がある。
【0003】
ファーミキューテス門とバクテロイデス門を合わせると全腸内細菌叢の90%近くまで達する。経口物質により、それだけ菌に大幅な変化を与えることは困難である。
バクテロイデスを増殖させる方法としては、フラクトオリゴ糖(FOS)を摂取する方法に関して報告があり、ある程度の効果が期待できる(非特許文献3参照)。
しかしながら、フラクトオリゴ糖摂取により効果を出すには多量摂取が必要であり、食事や機能性食品を通じて摂取するには身体的負担がある。また、バクテロイデス門に属する細菌を増殖させると共に、ファーミキューテス門に属する細菌を減少させる効果のある経口物質は未知であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ley, RE., Turnbaugh, PJ., Klein, S., and Gordon, JI., Microbial ecology: human gut microbes associated with obesity. Nature, 444, 1022−3 (2006)
【非特許文献2】Turnbaugh, PJ., Ley, RE., Mahowald, MA., Magrini, V., Mardis, ER., and Gordon, JI., An obesity−associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest. Nature, 444, 1027−31 (2006)
【非特許文献3】Nakanishi, Y., Murashima, K., Ohara, H., Suzuki, T., Hayashi, H., Sakamoto, M., Fukasawa, T., Kubota, H., Hosono, A., Kono, T., Kaminogawa, S., Benno, Y., Increase in terminal restriction fragments of Bacteroidetes−derived 16S rRNA genes after administration of short−chain fructooligosaccharides. Appl. Environ. Microbiol., 72, 6271−6 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、安全で副作用の少ない、腸内細菌叢構成比率を調整させうる食品又は医薬品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ある種の経口物質がバクテロイデス門(Bacteroidetes)の細菌を増殖させ、ファーミキューテス門(Firmicutes)の細菌を減少させる作用を有していることを初めて突き止めた。
本発明は、具体的には下記構成よりなる。
【0007】
<1>
糖吸収抑制物質を少なくとも1種含有することを特徴とする腸内細菌叢構成比率調整剤。
<2>
糖吸収抑制物質が、α−グルコシダーゼ活性阻害物質であることを特徴とする上記<1>に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
<3>
糖吸収抑制物質が、サラシア属植物、桑葉、ギムネマ、及びこれらの抽出物からなる群より選択される少なくとも1種以上を含有することを特徴とする上記<1>又は<2>に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
<4>
糖吸収抑制物質が、10μg/ml〜10000μg/mlのスクラーゼの50%阻害濃度(IC50値)活性を示すことを特徴とする、上記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
<5>
糖吸収抑制物質が、サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア・オブロンガ(Salacia oblonga)、及びサラシア・キネンシス(Salacia chinensis)のサラシア属植物及びこれらの抽出物に含まれる成分から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
<6>
腸内細菌叢構成比率調整が、腸内細菌叢におけるバクテロイデス門の比率を増加させ、ファーミキューテス門の比率を減少させることを特徴とする上記<1>〜<5>のいずれか一項に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
<7>
上記<1>〜<6>のいずれか一項に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤を含有する食品、又は医薬品。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、長期服用しても安全で副作用の少ない、腸内細菌叢構成比率調整剤、及び食品又は医薬品が提供される。これを服用することで腸内細菌叢バランスが整えられ、痩身、体質改善、アレルギー症状の緩和、免疫指標の向上などが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、糖吸収抑制物質の少なくとも1種を含有する。
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、腸内に生息する菌の割合を変化させる作用を有する。具体的には、バクテロイデス門(Bacteroidetes)の細菌を増加させ、ファーミキューテス門(Firmicutes)の細菌を減少させる作用を有する剤である。
【0010】
<糖吸収抑制物質>
糖吸収抑制物質は、α−グルコシダーゼ活性阻害物質であることが好ましい。
【0011】
α−グルコシダーゼ活性阻害物質は、α−グルコシダーゼ活性を阻害することで糖代謝を阻害する物質であり、スクラーゼ50%阻害濃度(IC50値)が0.01μg/ml〜10000μg/mlであることが好ましく、0.1μg/ml〜800μg/mlであることがより好ましく、0.5μg/ml〜600μg/mlであることが更に好ましく、10μg/ml〜450μg/mlであることが特に好ましい。阻害活性がこの範囲にあることで、消化管からのブドウ糖吸収抑制作用が充分得られ、かつ、腹部膨満感やガスの発生を抑えられる。α−グルコシダーゼ活性阻害物質のスクラーゼ50%阻害濃度は10μg/ml〜5000μg/mlであることがより好ましく、10μg/ml〜2000μg/mlであることが更に好ましい。
【0012】
スクラーゼ50%阻害濃度(IC50値)は以下の方法で測定する。
【0013】
[実験法1] スクラーゼIC50値の測定
サンプル溶液の準備:チューブに2mgのサンプル(α−グルコシダーゼ活性阻害物質)を量り取り、水2mLを加えてよく懸濁し、1mg/mL濃度のサンプル溶液を作成する。これをそれぞれ0、50、100、250、500μg/mLとなるように水で希釈する。
基質液の準備:0.2Mマレイン酸バッファー(pH6.0)にスクロース濃度100mMとなるようにスクロースを溶解し、これを基質液とする。
粗酵素液の準備:10mLの生理食塩水に1gのintestinal acetone powder rat(SIGMA社製)を懸濁した後、遠心分離(3,000rpm,4℃,5min)した。得られた上清を分離し、粗酵素液とする。
前述の各濃度のサンプル溶液500μLに対し、基質液400μLを添加し、水浴中37℃にて5分間予備加温した。ここにそれぞれ、粗酵素液を100μL添加し、37℃にて60分間反応させた。反応終了後、95℃にて2分間加温することで酵素を失活させて反応を停止させた。生成したグルコース濃度を市販のキット・ムタロターゼ・グルコースオキシダーゼ法(グルコースCIIテストワコー、和光純薬工業(株))を使用して定量を行う。
ブランクの準備:前述の各濃度のサンプル溶液250μLに対し、基質液200μL、粗酵素液50μLを添加し、直ちに95℃にて2分間加温することで酵素を熱失活させ、ブランクデータとする。
得られた値より検量線を作成し、酵素活性を50%阻害する濃度(IC50値)を求める。
【0014】
腸内細菌叢構成比率調整剤に含まれるα−グルコシダーゼ活性阻害物質の1日あたりの摂取量又は目安摂取量を設定する場合は、腸内細菌叢構成比率調整剤1日摂取量中のα−グルコシダーゼ活性阻害物質の量として、例えばIC50値が50μg/mlのα−グルコシダーゼ活性阻害物質を用いる場合、10〜600mgが好ましく、40〜450mgがより好ましく、50〜350mgが特に好ましい。
【0015】
腸内細菌叢構成比率調整剤に含まれるα−グルコシダーゼ活性阻害物質の量は、上記の1日あたりの好ましい量より適宜計算できる。例えば、1日摂取量が3錠の錠剤を作製した場合、1錠あたり1日量の1/3を含有することが好ましい。すなわち、α−グルコシダーゼ活性阻害物質を好ましくは3〜200mg、より好ましくは13〜150mg、特に好ましくは17〜117mg含有する。
【0016】
また、下記の式1で求められる値が、0.5以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。
腸内細菌叢構成比率調整剤全体としてのIC50値は、式2で求められる値として、0.1〜7.5が好ましく、0.15〜4.50がより好ましく、0.3〜3.75が特に好ましい。
【0017】
[式1]
腸内細菌叢構成比率調整剤1日摂取量中のα−グルコシダーゼ活性阻害物質(mg)/IC50値(μg/ml)
[式2]
腸内細菌叢構成比率調整剤(mg)/IC50値(μg/ml)
【0018】
糖吸収抑制物質は、サラシア属植物、桑葉、ギムネマ、杜仲葉、グァバ、ラフマ、豆鼓エキス、茶葉、厚朴、茵陳蒿、陳皮、呉茱萸、薄荷、桔梗、枸妃子、五味子等、及びこれらの抽出物であることが好ましく、サラシア属植物、桑葉、ギムネマ、及びこれらの抽出物であることがより好ましい。より好ましくは、サラシア属植物の抽出物、桑葉の抽出物、又はギムネマに含まれる成分が挙げられる。
【0019】
<サラシア属植物の粉砕物又は抽出物>
糖吸収抑制物質は、サラシア属植物であることがより好ましい。サラシア属植物は通常、粉砕物又は抽出物として含有する。
サラシア属植物とは、主としてスリランカやインドや東南アジア地域に自生するニシキギ科の植物で、より具体的にはサラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア・オブロンガ(Salacia oblonga)、サラシア・プリノイデス(Salacia prinoides)、サラシア・キネンシス(Salacia chinensis)、サラシア・ラティフォリア(Salacia latifolia)、サラシア・ブルノニアーナ(Salacia burunoniana)、サラシア・グランディフローラ(Salacia grandiflora)、サラシア・マクロスペルマ(Salacia macrosperma)から選ばれる1種類以上の植物が用いられ、サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア・オブロンガ(Salacia oblonga)、サラシア・キネンシス(Salacia chinensis)から選ばれる少なくとも1種の植物であることが好ましい。
サラシア属植物の粉砕物又は抽出物とは、根、幹、葉、花、果実など可食部の粉砕物、乾燥物、抽出物又はその乾燥粉末(エキス末)などを意味する。1種類以上の部位を混合して使用しても良い。より好ましくは根、幹から抽出したエキス末が用いられる。
【0020】
該エキス末は、前述の可食部等から溶媒抽出によって得られたものを乾燥させたものである。抽出溶媒としては、水、又はメタノール、エタノールを初めとするアルコール類、あるいは水とアルコール類又はアセトンなどのケトン類との混合溶媒からなる群より選択されてよい。好ましくは水、アルコール、含水アルコールを用いる。より好ましくは、抽出溶媒として熱水もしくはエタノールあるいは含水エタノールを用いる。前記含水アルコールのアルコール濃度は、30〜90質量%、好ましくは40〜70質量%の濃度のものを使用すればよい。
乾燥方法は噴霧乾燥、凍結乾燥などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0021】
<その他成分>
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、更に他の成分を含有していてもよく、例えば、乳酸菌、ミネラル酵母、フラボノイドやポリフェノール等や、免疫賦活作用を有する経口物質を含有していてもよい。
腸内細菌叢構成比率調整剤がこれらの成分を含有する場合、その含有量は、腸内細菌叢構成比率調整剤が固体の場合、腸内細菌叢構成比率調整剤全体に対して0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。腸内細菌叢構成比率調整剤が液体の場合、腸内細菌叢構成比率調整剤全体に対して0.001質量%〜10質量%であることが好ましく、0.01質量%〜5質量%であることがより好ましい。
【0022】
ビフィズス菌等の乳酸菌類は、ヒトを含む哺乳動物に経口的に投与することができ、生体消化管内で有用な作用を発揮する菌であることが好ましい。
【0023】
より具体的には、宿主に対して無害で、胃酸や胆汁酸に比較的耐性があり、生体腸内に定着性を有して乳酸を産生し、腸内細菌叢の構成比率を整える作用を有するものが望ましい。かかる有用乳酸菌類としては、例えばアシドフィルス乳酸桿菌(Lactobacillus acidophilus)、ビフィズス菌(Bifidobacterium longum等)、フェカリス菌(Streptococcus faecalis)、レウテリ乳酸桿菌(Lactobacillus reuteri)、カセイ乳酸桿菌(Lactobacillus casei)、プランタラム菌(Lactobacillus plantarum)、フェルメンタム乳酸桿菌(Lactobacillus fermentum)、ラムノサス乳酸桿菌(Lactobacillus rhamnosus)、アギルス乳酸桿菌(Lactobacillus agilis)、ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)、メセンテリカス菌(Bacillus mesentericus)、酪酸菌(Clostridium butyricum)又はそれらのサブスピーシーズ等を例示することができるが、好ましくはアシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)、ビフィズス菌(Bifidobacterium longum等)、フェカリス菌(Streptococcus faecalis)であり、これらの乳酸菌類は1種単独若しくは2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0024】
これらの乳酸菌類は、生菌であれば取得の由来は特に制限されず、簡便には商業的に市販されているものを広く用いることができる。
【0025】
本発明に用いる腸内細菌叢構成比率調整剤の1日あたりの摂取量又は目安摂取量を設定する場合、腸内細菌叢構成比率調整剤1日量中の乳酸菌類の生菌数として、1000万個〜1000億個が好ましく、5000万個〜500億個がより好ましく、1億個〜100億個が特に好ましい。
【0026】
ミネラル酵母とは、ミネラルを含有する酵母を意味する。ミネラルとしては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、リン(P)、硫黄(S)及び、微量元素と呼ばれる鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ヨウ素(I)、モリブデン(Mo)、セレン(Se)の16種の金属元素が挙げられる。本発明に用いるミネラル酵母としては、クロムを含有するクロム酵母が好ましい。酵母の種類に特に制限はないが、Saccharomyces cerevisiae又はその類縁種、好ましくはパン酵母又はビール酵母が好ましい。
クロム酵母のクロム含有量は、クロム酵母100質量部に対し、0.01〜5質量部が好ましく、0.05〜1質量部がより好ましく、0.1〜0.3質量部が特に好ましい。
腸内細菌叢構成比率調整剤中のクロム酵母含有量は、腸内細菌叢構成比率調整剤質量部に対し、0.5〜50質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましく、3〜5質量部が特に好ましい。
1日の摂取量又は目安摂取量を設定する場合、腸内細菌叢構成比率調整剤1日量中のクロム酵母量として、5〜500mgが好ましく、10〜100mgがより好ましく、30〜50mgが特に好ましい。腸内細菌叢構成比率調整剤1日量中のクロムの量としては、20〜200μgが好ましく、40〜150μgがより好ましく、60〜100μgが特に好ましい。
【0027】
フラボノイドは、植物の全器官に存在する色素成分の総称であり、主に果実や野菜に含まれ、特に、緑葉や白色野菜、柑橘類の皮の中に配糖体の形で存在する。
本発明において、フラボノイドとは、植物に広く含まれる色素成分の総称で、特に、野菜や果実に多く含まれるフラバン誘導体を意味する。
【0028】
フラボノイドとしては、フラボノール類、イソフラボン類及びカテキン類が好ましい。フラボノール類は、ポリフェノール類として知られている。
フラボノイドは体内に摂取される物質であるが、一般に吸収しにくい。しかしながら、フラボノイドは少量でも有効であり、強力な抗酸化物質であるため、発ガン物質の活性を抑制したり、血行促進作用や抗血栓作用があることが知られている。
【0029】
本発明において、フラボノイドは茶、ブドウ、タマネギなどの各由来物から得ることができる。ここで、由来物とは、生体の少なくとも一部から抽出されるものを意味する。抽出には、例えば、上記サラシア属植物の抽出物を調製する方法が適用され、抽出物の形態も上記と同様のものが可能であり、例えば、抽出後の濾液のままで、又は濃縮もしくは希釈した状態又はその乾燥粉末の形態で、あるいはそれらの混合物のいずれの形態であってもよい。
カテキン類を含む茶抽出物は、ツバキ科の常緑樹である茶の木より作製する。茶の木は、インドやスリランカ、東南アジアで栽培されているアッサミカ(Camellia sinensis var. assamica)と中国や日本で栽培されているカメリア・シネンシス(Camellia sinensis)のどちらも用いられる。抽出には、好ましくは水、アルコール、含水アルコールを用いる。より好ましくは、抽出溶媒として熱水もしくはエタノールあるいは含水エタノールを用いる。前記含水アルコールのアルコール濃度は、30〜90質量%、好ましくは40〜70質量%の濃度のものを使用すればよい。乾燥方法は噴霧乾燥、凍結乾燥などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0030】
茶抽出物中は、ポリフェノールやカテキン類などの抗酸化物質を含有する。カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート又はエピガロカテキンガレートが含まれていることが好ましく、特に、エピガロカテキンガレートを含有することが好ましい。
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、該茶抽出物を、0.1〜40質量%含有することが好ましく、0.5〜35質量%含有することが更に好ましく、1.0〜30質量%含有することが特に好ましい。
【0031】
また、フラボノイドのひとつであるフラボノール類は、活性酸素を除去し、動脈硬化の抑制や血流改善等の抗酸化作用を示す。フラボノール類の中でも、ポリフェノールのひとつであるレスベラトロールが抗酸化物質として着目されている。レスベラトロールは、スチルベン骨格から構成されており、ブドウの果皮に多く含まれ、そのため、ブドウから作られる赤ワインにも含有されている。
本発明は、該フラボノール類を成分として含む、ブドウエキス又はブドウ酒濃縮物を含有することが好ましい。
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、ブドウ抽出物を、0.1〜30質量%含有することが好ましく、0.1〜10質量%を含有することが更に好ましい。
【0032】
レスベラトロールは、脂肪を燃焼させる働きがあり、血管系の疾患である動脈硬化防止や、抗ガン作用、また、DNAの細胞分裂による短化を防ぎ、カロリー制限をしたのと同様の細胞延命効果があり、生活習慣病予防素材として優れた効果を持つことがわかっている。
【0033】
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤におけるレスベラトロールの含有量は、0.0001〜5.00質量%が好ましく、更には、0.001〜2.00質量%が好ましい。
【0034】
また、フラボノール類の中でも、ポリフェノールであるケルセチンが抗酸化物質として着目されている。ケルセチンは、フラバン構造を有しており、タマネギの外皮に多く含まれる。
【0035】
ケルセチンは、ビタミンCの吸収サポート、抗酸化作用、免疫作用等の生理作用が報告されており、さらには、脂肪吸収抑制に有効であることがわかっており、生活習慣病予防素材として優れた効果を持つことがわかっている。
【0036】
腸内細菌叢構成比率調整剤におけるケルセチンの含有量は、0.001〜15質量%が好ましく、更には、0.05〜10質量%が好ましく、更には、0.1〜5.0質量%が好ましい。
【0037】
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、特にカテキンを1〜50質量%含有することが好ましい。カテキンとしては、緑茶由来のもの等が特に好ましい。
また、本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、リパーゼ活性阻害効果を有するポリフェノール類を2〜80質量%含有することが好ましい。リパーゼ活性阻害効果を有するポリフェノールとしては、烏龍茶由来のもの、ブドウ由来のもの、リンゴ由来のもの、ライチ由来のもの、松樹皮由来のもの、カンカ由来のもの等が特に好ましい。
【0038】
免疫賦活作用を有する経口物質は、バラ花エキスやレンコン由来物など免疫機能を高めるといわれているものを指し、由来物とは、生体の少なくとも一部から抽出されるものを意味する。抽出には、例えば、上記サラシア属植物の抽出物を調製する方法が適用され、抽出物の形態も上記と同様のものが可能であり、例えば、抽出後の濾液のままで、又は濃縮もしくは希釈した状態又はその乾燥粉末の形態で、あるいはそれらの混合物のいずれの形態であってもよい。
【0039】
<使用方法・製剤>
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤はヒトを含む哺乳類を対象とし、該哺乳類に経口的に投与される。ここで腸内とは、ヒト小腸、ヒト大腸のようにバクテロイデス門やファーミキューテス門、ビフィドバクテリウム(Bifidobacteriales目)等の菌が常在して消化・吸収する消化器内を示す。
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、食品(飲料を含む)、食品材料、医薬部外品、医薬品、医薬品材料、医薬部外品材料であってもよい。他の成分としては、経口投与剤として薬学的若しくは食品衛生上許容される各種の担体、例えば賦形剤、滑沢剤、安定剤、分散剤、結合剤、希釈剤、香味料、甘味料、風味剤、着色剤などを例示することができる。
【0040】
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤の形態は、本発明の効果を奏するものである限り特に制限されず、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、咀嚼剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセルに充填されたもの)、液剤、チュアブル剤、飲料等が挙げられる。
その他の食品の形態であってもよい。
【0041】
これらの投与形態は、当該分野で通常知られた慣用的な方法を用いて調製することができる。
【0042】
なお、錠剤、丸剤及び顆粒剤の場合、必要に応じて慣用的な剤皮を施した剤形、例えば糖衣錠,ゼラチン被包剤、腸溶被包剤、フィルムコーティング剤等とすることもでき、また錠剤は二重錠等の多層錠とすることもできる。
【0043】
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤には、上記の他にビタミン、ビタミン様物質、タンパク質、アミノ酸、油脂、有機酸、炭水化物、植物由来原料、動物由来原料、微生物、食品用添加物、医薬品用添加物等、経口摂取可能な成分を適宜含有させることができる。
【0044】
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤の摂取により、腸内のバクテロイデス門細菌が増加し、ファーミキューテス門細菌が減少することにより、体重減少が期待される。また、腸内のバクテロイデス門細菌の増加により、パイエル板において腸内のバクテロイデス門細菌が取り込まれることにより、免疫機能が増進し、花粉症やアトピーなどのアレルギー症状の緩和や、風邪の予防、発がんの予防が期待される。(Tsuda, M., Hosono, A., Yanagibashi, T., Hachimura, S., Hirayama, K., Itoh, K., Takahashi, K., and Kaminogawa, S., Prior stimulation of antigen−presenting cells with Lactobacillus regulates excessive antigen−specific cytokine responses in vitro when compared with Bacteroides. Cytotechnology, 55, 89−101 (2007))
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、長期服用しても安全であり、副作用が少ない。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を用いて本発明について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
サラシア・レチキュラータ(S. reticulata)とサラシア・オブロンガ(S. oblonga)の根及び幹の部分を粉砕後等重量ずつ混合し、98℃の熱水抽出工程を経て得られた液をスプレー乾燥し、サラシアエキス末1を得た。サラシアエキス末1のスクラーゼIC50値は41(μg/ml)であった。
その他、ギムネマ、桑の葉エキスは株式会社クロスより入手したものを用いた。
また、比較例として、グルコース、ラード、及びウーロン茶重合ポリフェノール(サントリー食品株式会社製の黒烏龍茶を凍結乾燥し、ウーロン茶重合ポリフェノールを抽出したもの)を用いた。尚、ギムネマ、桑の葉エキス、グルコース、ラード、及びウーロン茶重合ポリフェノールについて、スクラーゼ50%阻害濃度(IC50値)はいずれも800μg/mL以上であった。
これらの成分を、それぞれ注射用水で溶解し、10mg/mlの水溶液として投与した。
【0047】
(実験例1)
8週齢のオスのSDラットを7匹ずつ分け、以下の腸内細菌叢構成比率調整剤を注射用水に溶解し、20mg/kg/dayとなる量を胃ゾンデを用いて1週間摂取させ、摂取直前及び摂取直後における腸内細菌叢に占めるバクテロイデス門及びファーミキューテス門に属する細菌の割合を各々T−RFLP(Nagashima法)にて測定した。但し腸内細菌叢構成比率調整剤は実施例1については半分量(10mg/kg/day)した。
【0048】
腸内細菌叢に占めるバクテロイデス門とファーミキューテス門の割合(総菌体数を100%とした率)を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実験例の結果、糖吸収抑制物質は、他の食品と比較して、腸内細菌叢のバクテロイデス門/ファーミキューテス門の比率を顕著に増加させていることがわかった。
前記非特許文献3によれば、フラクトオリゴ糖によりバクテロイデス門に属する細菌を増加させる増殖効果が得られているが、その量は本発明と比べて約90倍量を投与している。それに対して本願発明は少量でもバクテロイデス門に属する細菌を増加させる効果が得られており、簡便に摂取することができる。また、ファーミキューテス門に属する細菌の割合を減少させる食品に関しては現在までのところ知られていなかったが、新規に発見した。
なお、試験期間中、各実施例及び比較例の全ラット群について、肝機能、腎機能等の化学検査値及び解剖所見、免疫組織化学検査結果に異常は見られなかった。
【0051】
(実験例2)
高脂肪食(HFD32, 日本クレア)を与えて飼育した8週齢のオスのSDラットを7匹ずつ分け、以下の糖吸収抑制物質等を40mg/kg/day(実施例5のみ20mg/kg/day)で注射用水に溶解し、胃ゾンデを用いて30日間摂取させ体重変化、脂肪重量、血清中の中性脂肪量を測定した。対照群には注射用水のみを投与した。各糖吸収抑制物質等については、実験例1と同様のものを用いた。
【0052】
【表2】

【0053】
実験例の結果、糖吸収抑制物質は、不使用又は他の食品と比較して、体重増加を抑制し、脂肪重量及び血清中の中性脂肪量を顕著に低減させており、痩身効果が得られた。
尚、比較例6のフラクトオリゴ糖については、バクテロイデスの増殖に効果があるとの知見があったものの、体重増加、脂肪重量及び血清中の中性脂肪量の抑制といった痩身効果は得られなかった。
なお、試験期間中、各実施例及び比較例の全ラット群について、その他の生化学検査値や解剖所見、免疫組織化学検査から異常は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の腸内細菌叢構成比率調整剤は、服用することで腸内細菌叢の構成比率、具体的にはバクテロイデス門の細菌を増殖させ、ファーミキューテス門の細菌を減少させることができる。これにより、痩身、体質改善、アレルギー症状の緩和、免疫指標の向上などが期待される。また長期服用しても安全で副作用が少なく、飲料を含む食品又は医薬品として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖吸収抑制物質を少なくとも1種含有することを特徴とする腸内細菌叢構成比率調整剤。
【請求項2】
糖吸収抑制物質が、α−グルコシダーゼ活性阻害物質であることを特徴とする請求項1に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
【請求項3】
糖吸収抑制物質が、サラシア属植物、桑葉、ギムネマ、及びこれらの抽出物に含まれる成分からなる群より選択される少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
【請求項4】
糖吸収抑制物質が、10μg/ml〜10000μg/mlのスクラーゼの50%阻害濃度活性を示すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
【請求項5】
糖吸収抑制物質が、サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア・オブロンガ(Salacia oblonga)、及びサラシア・キネンシス(Salacia chinensis)のサラシア属植物及びこれらの抽出物に含まれる成分から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
【請求項6】
腸内細菌叢構成比率調整が、腸内細菌叢におけるバクテロイデス門の比率を増加させ、ファーミキューテス門の比率を減少させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の腸内細菌叢構成比率調整剤を含有する食品、又は医薬品。

【公開番号】特開2010−285425(P2010−285425A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109479(P2010−109479)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】