説明

腸球菌検出用培地

【課題】アジ化ナトリウムの含有量が0.1%未満であっても、正確に腸球菌を検出でき、かつ常温保存可能な腸球菌及び薬剤耐性腸球菌検出用培地を提供する。
【解決手段】アジ化ナトリウムを0.001〜0.099重量%、アミノグリコシド系抗生物質を使用時の濃度として0.01〜1,000mg/L、及びβ−グルコシダーゼの基質となる色原体化合物を含有する腸球菌検出用培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸球菌及び薬剤耐性腸球菌の選択的検出用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
腸球菌(Enterococcus)は、健常者の回腸や口腔、外陰部などからしばしば分離される常在性のグラム陽性球菌であり、病原性は弱いとされている。しかしながら、腸球菌の中には、術後の心内膜炎などの原因菌になるものもあり、またバンコマイシン耐性腸球菌などの薬剤耐性腸球菌は院内感染や鶏肉などの食品からの感染により、腹膜炎、術創感染症、肺炎、敗血症などを起こすことがある。従って、腸球菌及び薬剤耐性腸球菌を食品や環境試料から検出することは重要である。
【0003】
腸球菌の検出培地としては、一般にKF(Kenner Fecal)寒天培地やAC(アザイド−クエン酸)ブイヨン培地が用いられている(非特許文献1)。これらは粉末の状態では、腸球菌の選択性の点から0.1%以上のアジ化ナトリウムを必要とするため、市販の培地ではアジ化ナトリウムを別に添加している。また、アジ化ナトリウムを含んでいる状態の粉末培地や簡易培地ではアジ化ナトリウムの総重量が0.1%以上になり毒性指定となるため、鍵付の保管庫で保管する必要がある(非特許文献2)。一方、生培地の状態ではアジ化ナトリウムは総重量の0.1%未満となるため、毒物指定にならないため、鍵付の保管庫は必要で無くなるが、使用期限が短く、かつ冷蔵にて保管しなければならない。また、バンコマイシン耐性腸球菌培地は存在するが生培地のため、使用期限が短く、かつ冷蔵保管が必要である。
【非特許文献1】新 細菌培地学講座−下II−<第二版>株式会社 近代出版 監修 坂崎利一 著者 田村一満・吉崎悦郎・三木寛二 1990年1月20日発行
【非特許文献2】毒物及び劇物取締法 別表第1第28号 最終改正:平成18年4月21日政令第176号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、アジ化ナトリウムの含有量が0.1%未満であっても、正確に腸球菌を検出でき、かつ常温保存可能な腸球菌及び薬剤耐性腸球菌検出用培地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、培地中のアジ化ナトリウム濃度が0.1%未満であっても選択性が良好で精度良く腸球菌及び薬剤耐性腸球菌を検出できる培地について種々検討したところ、アジ化ナトリウムを0.001〜0.099重量%とし、一定量のアミノグリコシド系抗生物質及びβ−グルコシダーゼの基質となる色原体化合物を併用すれば腸球菌が精度良く検出できることを見出した。さらに、これにグリコペプチド系抗生物質を配合すれば、薬剤耐性腸球菌が精度良く検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、アジ化ナトリウムを0.001〜0.099重量%、アミノグリコシド系抗生物質を使用時の濃度として0.01〜1,000mg/L、及びβ−グルコシダーゼの基質となる色原体化合物を含有する腸球菌検出用培地及び当該培地を用いた腸球菌の検出方法を提供するものである。
さらに本発明は、上記培地にさらにグリコペプチド系抗生物質を含有する薬剤耐性腸球菌検出用培地及び当該培地を用いた。薬剤耐性腸球菌の検出方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の培地は、乾燥状態の培地であっても、アジ化ナトリウム含有量が少ないので毒性指定とならず、保管及び流通性が簡便であるとともに、腸球菌及び薬剤耐性腸球菌の検出精度が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の培地には、腸球菌の選択剤としてのアジ化ナトリウムを0.001〜0.099重量%(以下、単に%で示す)を含有する。アジ化ナトリウムが0.001%未満では、腸球菌の選択性が十分でなく、0.1%以上では毒性指定となる。好ましいアジ化ナトリウムの含有量は腸球菌の選択性の点から、0.01〜0.099%であり、より好ましくは0.06〜0.097%である。ここでアジ化ナトリウムの濃度は、使用時でなく、培地自体中の濃度である。
【0009】
本発明の培地には、アジ化ナトリウムとの併用による腸球菌の選択性の点から、アミノグリコシド系抗生物質を使用時の濃度として0.01〜1,000mg/Lを含有する。アミノグリコシド系抗生物質単独でも、アジ化ナトリウム0.1%未満単独でも腸球菌の選択性は十分ではないが、両者を併用することにより腸球菌の選択性が得られる。また、アミノグリコシド系抗生物質の含有量が0.001mg/L未満では十分な選択性が得られず、1,000mg/Lを超えると発育不良となる。好ましいアミノグリコシド系抗生物質含有量は0.01〜10mg/L、より好ましくは0.1〜1.0mg/Lである。本発明において、使用時の濃度とは、被検試料添加後の濃度である。例えば、培地が乾燥培地の場合、乾燥培地に被検試料液を添加した後の濃度である。
【0010】
当該アミノグリコシド系抗生物質としては、硫酸ゲンタマイシン、硫酸ジベカシン、トブラマイシン、硫酸シソマイシン、硫酸ネチルマイシン、硫酸ミクロノマイシン、硫酸アミカシン、硫酸アストロマイシン、硫酸イセパマイシン等が挙げられるが、硫酸ゲンタマイシンが特に好ましい。
【0011】
また、本発明培地には、腸球菌のみを特定の色の発色コロニーとして検出するためにβ−グルコシダーゼの基質となる色原体化合物を含有する。当該化合物としては、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−グルコピラノシド、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシル−β−D−グルコピラノシド、3−インドキシル−β−D−グルコピラノシド、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−グルコピラノシド、エスクリン等が挙げられる。これらの化合物の培地中の含有量は、腸球菌の検出性の点から使用時の濃度として0.01〜10g/L、さらに0.01〜0.6g/L、特に0.1〜0.3g/Lが好ましい。
【0012】
さらに本発明培地に、グリコペプチド系抗生物質、例えばバンコマイシン、テイコプラニン等を配合すれば、院内感染で重要なVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)をはじめとする種々の薬剤耐性腸球菌の検出培地とすることができる。これらのグリコペプチド系抗生物質のうち、バンコマイシンが特に好ましい。グリコペプチド系抗生物質の培地中の含有量は、薬剤耐性腸球菌の選択性の点から、使用時の濃度として1〜64mg/L、さらに4〜32mg/L、特に4〜8mg/Lが好ましい。
【0013】
本発明の培地には、上記成分の他、栄養成分、無機塩、糖類、pH調整剤、グラム陰性菌抗生物質、グラム陽性菌抗生物質、その他の抗菌性物質等を配合することができる。
【0014】
栄養成分としては、ペプトン、酵母エキス、獣肉エキス、魚肉エキス等が好ましい。無機塩類としては、塩化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の無機酸金属塩;クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸ナトリウム等の有機酸金属塩等が挙げられる。糖類としては、単糖類及びオリゴ糖類が使用でき、例えばラクトース、シュークロース(白糖)、キシロース、セロビオース、マルトース等が挙げられる。グラム陰性菌抗生物質としては硫酸ポリミキシンB、コリスチン硫酸塩、アズトレオナム、カルモナム、ナリジクス酸が挙げられる。グラム陽性菌抗生物質としてはエリスロマイシン、クリンダマイシンが挙げられる。その他の抗生物質としてプロタミン硫酸塩、ポリリジン、グリシン、ソルビン酸が挙げられる。
【0015】
本発明培地の形態は特に限定されず、通常の寒天培地の他、シート状簡易培地((特開昭57−502200号)(特開平6−181741号)例えばメッシュを有する繊維状吸水シートに担持させた構造(特開平9−19282号、特開2000−325072))とすることもできる。
【0016】
本発明培地を用いて、被検体中の腸球菌又は薬剤耐性腸球菌を検出するには、当該培地に検体を添加して35±2℃、24〜48時間培養した後に、コロニーの着色を観察すればよい。
【0017】
本発明培地に適用される検体としては、魚介類等の生鮮食料品、海水、調理場、病院などのふき取り検体等が挙げられるが、これらの検体を予めトリプトソーヤブイヨン培地で培養した培養液やさらにこれを増菌用培地で培養した培養液も用いることができる。
【実施例】
【0018】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1
(1)培地の作製
ペプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム5g、リン酸水素二カリウム4g、リン酸二水素カリウム1.5g、クエン酸鉄アンモニウム0.5g、アジ化ナトリウム0.045g、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−グルコピラノシド0.3g、寒天15gを1リットルの精製水に加え20%炭酸ナトリウム水溶液にてpHを8.0に合わせた後、100℃、20分間加温溶解する。溶解後培地が冷めたことを確認し、ろ過滅菌したゲンタマイシン硫酸塩を0.0009g/Lになるように加え良く撹拌した後、プラスチックシャーレ(90φmm)に20mLずつ分注して培地が固まるまで静置し、本発明の腸球菌用培地を作製した。
【0020】
(2)菌株の供試
供試菌株はトリプトソイブイヨン(ビブリオ属は3%食塩加トリプトソイブイヨン)で24時間前培養したものを用い、これを生理食塩水で希釈し本発明の腸球菌用培地に接種した。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
ミクロプランターを用いて各菌株を供試したところ、本発明培地上では腸球菌は青色の発色コロニーを形成し、その他の菌株は発育阻止されるか腸球菌とは異なる性状のコロニーを形成する。また、ゲンタマイシンを欠いた場合腸球菌以外の株が青色コロニーを形成する。
【0024】
実施例2
本発明培地組成をメッシュを有する繊維状吸水シートに担持させた構造(特開2000−325072)を利用した簡易培地に適用した場合のコロニーの性状及び発育菌数を測定した。
【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
本発明腸球菌用培地組成は寒天のみならず簡易培地にも応用可能である。またアジ化ナトリウムは0.001〜0.099%の範囲で含まなければ腸球菌以外において青色の発色が出てしまうことがわかる。
【0028】
実施例3
本発明培地組成をメッシュを有する繊維状吸水シートに担持させた構造(特開2000−325072)を利用した簡易培地に適用した場合のコロニーの性状を測定した。
【0029】
【表5】

【0030】
【表6】

【0031】
腸球菌のみが発育に影響を与えることなく青色コロニーを形成した。
【0032】
実施例4
本発明培地組成をメッシュを有する繊維状吸水シートに担持させた構造(特開2000−325072)を利用した簡易培地に適用し、バンコマイシン添加の有無を比較した。
【0033】
【表7】

【0034】
【表8】

【0035】
本発明腸球菌用培地にバンコマイシンなどの抗生物質を加えることにより、特定の抗生物質に対する耐性腸球菌用培地として適用できることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジ化ナトリウムを0.001〜0.099重量%、アミノグリコシド系抗生物質を使用時の濃度として0.01〜1,000mg/L、及びβ−グルコシダーゼの基質となる色原体化合物を含有する腸球菌検出用培地。
【請求項2】
さらに、グリコペプチド系抗生物質を含有し、薬剤耐性腸球菌検出用である請求項1記載の腸球菌検出用培地。
【請求項3】
アジ化ナトリウムを0.001〜0.099重量%、アミノグリコシド系抗生物質を使用時の濃度として0.01〜1,000mg/L、及びβ−グルコシダーゼの基質となる色原体化合物を含有する培地に被検試料を接種して培養することを特徴とする腸球菌の検出方法。
【請求項4】
培地がさらにグリコペプチド系抗生物質を含有するものであり、検出対象が薬剤耐性腸球菌である請求項3記載の検出方法。

【公開番号】特開2008−131897(P2008−131897A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320598(P2006−320598)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000226862)日水製薬株式会社 (35)
【Fターム(参考)】