説明

腹膜透析液

本発明は、アリスキレン又はその任意の誘導体、少なくとも1種の電解質、少なくとも1種の緩衝液、及び少なくとも1種の浸透圧剤を含むタイプの腹膜透析液に関する。この透析液は、これらの常用される腹膜透析液の腹膜中皮細胞に対する毒性の低減を可能にする。一方で、本発明は、慢性腎不全の場合のように腹膜透析を必要としているプロセスでのこれらのタイプの溶液の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[説明]
本発明は、アリスキレン、少なくとも1種の電解質、少なくとも1種の緩衝液、及び少なくとも1種の浸透圧剤を含むタイプの腹膜透析液に関する。この透析液は、これらの常用腹膜透析液の腹膜中皮細胞に対する毒性の低減を可能にする。一方で、本発明は、慢性腎不全の場合のように腹膜透析が必要とされるプロセスのためのこのタイプの溶液の使用に関する。
【0002】
[従来の技術]
腹膜透析(PD)は、慢性腎不全に有効な療法であり、腹膜を、血液から尿素及びカリウムなどの有害物質並びに過剰な液体を除去するための半透膜として利用する。PDは、患者の家庭又は職場で通常実施されるという事実のため、この治療を受ける患者は、病院に頻繁に滞在することなしに、活動的な生活を送ることができる利点を有する(Grassmann A、Gioberge S、Moeller Sら、Nephrol Dial Transplant 2005;20:2587〜93及びBurkart JM、Nolph KD.NIDDK 2006;6:1〜24)。
【0003】
最大限の無菌状態を確実にするように特別に設計された新たな連結システムの出現以来、その発生率は劇的に低下したが、この透析法の主な欠点は、腹膜感染症(腹膜炎)になる傾向があることである。一方で、腹膜機能の劣化速度に影響を及ぼす因子は完全には明らかでないが、透析用液体への継続的暴露は、腹膜の透析能力の劣化を引き起こし、これは線維症及び血管症に関連している(Gillerot G、Devuyst O、Clin Nephrol 2003;60:1〜6)。
【0004】
腹膜を構成する中皮細胞の、高い浸透圧濃度及びグルコース濃度を有する透析用液体への継続的暴露の結果としての変化は、腹膜機能不全に関係する機構の1つである可能性がある(Coles GA、Topley N、Adv Ren Replace Ther 2000;7:289〜301)。サイトカイン、ホルモン、感染症又は薬物などの多くのタイプの刺激がアポトーシスを誘導することが知られている(Catalan MP、Subira D、Reyero Aら、Kidney Int 2003;64:321〜30;Zheng Z、Ye R、Yu Xら、Adv Perit Dial 2001;17:53〜7)。さらに、高濃度のグルコースは、中皮細胞を含めて多くの細胞型においてアポトーシスを誘導することが知られている(Sharifi AM、Mousavi SH、Farhadi Mら、J Pharmacol Sci 2007;104:258〜62)。
【0005】
腹膜中皮細胞培養物で実施される研究に加えて、最も高頻度に使用されるPD動物モデルはラットである(Gonzalez−Mateo GT、Loureiro−Alvarez J、Rayego−Mateos Sら、Nefrologia 2008;28(Suppl 6):17〜22)。これらのモデルで実施された初期の研究は、透析用液体の生体適合性、透析用液体への暴露に対して腹膜中で発現される炎症応答、血管新生及び腹膜の浸透性又は線維症における血管網の重要性、並びに腹膜損傷に対する腹膜炎の寄与に焦点が当てられてきた(Krediet RT、Zweers MM、Van der Wal ACら、Perit Dial Int 2000;20(Suppl 2):S19〜25);Bazargani F.Swed Dent J Suppl 2005;171:1〜57;Hurst SM、McLoughlin RM、Monslow Jら、J Immunol 2002;169:5244〜51;Kim YL、Do J、Park SHら、Nephrology(Carlton)2003;8(Suppl):S28〜32;Gillerot G、Devuyst O.Clin Nephrol 2003;60:1〜6;Lameire N、Van Biesen W、Mortier Sら、Contrib Nephrol 2006;150:70〜6;Margetts PJ、Bonniaud P、Liu Lら、J Am Soc Nephrol 2005;16:425〜36;Margetts PJ、Kolb M、Galt Tら、J Am Soc Nephrol 2001;12:2029〜39)。
【0006】
PDの研究は、初めは尿毒症の事例、続いて急性又は慢性腎不全の事例に関して研究された、20世紀中頃にさかのぼる。しかし、その継続的な外来患者モダリティーにおいて現在理解されているようなPDは、1978年に、Popovich RP、Moncrief JW、Nolph KDらによって考え出された(J Am Soc Nephrol 1999;10:901〜10)。それ以来、PDの使用は、ますます広がり、世界的には180,000人を超える患者にまで拡大している(Lysaght MJ、J Am Soc Nephrol 2002;13(Suppl 1):S37〜40)。近年における増加は、それぞれの国で極めて多様であり、メキシコでは90%に、スカンジナビア諸国及びカナダでは30〜50%に、米国では17%に、中央及び南ヨーロッパ諸国では8〜11%に、日本では5%に達する(Lysaght MJ.J Am Soc Nephrol 2002;13(Suppl 1):S37〜40)。
【0007】
毎年、PD患者の3分の1が、腹膜の有効性を喪失した後に、血液透析に移行され(Kawaguchi Y.Perit Dial Int 1999;19:S327〜8)、それゆえ、慢性腎不全患者における腹膜の潜在的透析能力の増大を達成し、その平均余命を延ばすために、研究を継続しなければならない。このことは、本発明中で提供されるものなどの透析用液体において薬理学的添加物を使用して、おそらくは達成されるであろう。
【0008】
患者1人の1年当たりのおおよその透析費用は、ほぼ60,000ユーロに達する。現在透析治療を必要とする多数の患者を考慮に入れると、腎不全治療の全世界にわたる費用は、1年につき総計でほぼ600億ユーロになる。世界の人口は、1.3%の比率で増加し、一方、透析人口の増加率は、年率7〜8%で増大している(Lysaght MJ.J Am Soc Nephrol 2002;13(Suppl 1):S37〜40)。我々は、2010年までにほぼ200万人の患者が存在するような形で、透析人口の膨大な世界的増加を、結果として経済的費用と共に経験することは明らかである。
【0009】
代用治療を常用している腎不全患者の中で、68%は血液透析で治療を受けており、腎臓移植で23%が、PDで9%のみが生存している。(Lysaght MJ.J Am Soc Nephrol 2002;13(Suppl 1):S37〜40)。PDで治療される患者の進展は、相当に増大し、そのため、PDは血液透析に等価な治療として現在認められている。近年、PDは、少なくとも最初の4又は5年間の使用において、平均余命及び生活の質に関して、並びに妥当な費用/有効性の比率に関して、血液透析と同様に有効であることが判明している。
【0010】
今までのところ、PDは、その有用性を立証し、すべての困難を超えて確立されたその有利な特性:
特に西欧において、血液透析に比べて費用がかからない、
血液透析の平均余命と同様の、及び最初の2〜3年でより長い平均余命、
子供及び若年者に好ましい治療、
腎臓移植の前の最適な治療、
のため、血液透析に代わる優れた代替手段として、特に初期の代用治療として定着するようになった。
【0011】
しかし、PDが、広範な賛成を獲得し使用割合を高めるためには、PDのより多くの使用を損なう種々の問題を解決しなければならない。2つの重要な問題点が存在する:
PDは血液透析に比べて失敗率が高い。実際、中期及び長期にわたる限界濾過のより低い失敗率、改善された溶質クリアランス、並びに腹膜炎のより低い発生率を達成するための研究を継続しなければならない。
長期間の間に腹膜の構造及び機能に対してもたらされる変化のため、長期にわたるPDで患者を(10年を超えて)守ることはまだ不可能である。これに関して、この腹膜損傷を回避する新たな薬理学的治療に関して実施される研究が、PDの使用を増加させること、及び血液透析の使用によって現在必要とされる費用を低減することにとって非常に重要である。
【0012】
透析用液体の低いpH、その高い浸透力、液体を導入及び回収する機械的プロセス、グルコース及びその分解産物によって、腹膜透析は、腹膜腔を損傷する可能性がある生体に適合しないプロセスとなる。それゆえ、これらの溶液への暴露のインビトロ及びインビボでの効果を評価するための分子及び細胞レベルでのさらなる研究、並びにPDを必要とする患者で現れる可能性のある有害副作用を最小化する新たな薬理学的治療に関する研究が必要とされる。
【0013】
アポトーシス又はプログラム細胞死は、遺伝子的に制御された細胞プロセスであり、それによって、細胞は、特定の刺激に応答してそれらの細胞自身の死を誘導する。PD液への暴露は、腹膜中皮細胞中での活性酸素種(ROS)の発生を増加させ、アポトーシスを誘導する(Yang AH、Chen JY、Lin YPら、Kidney Int 1997;51:1280〜8)。ROSが、p38MAPKを活性化し、アポトーシスプロセスを誘発し、透析用液体の細胞障害性を増強する可能性のある炎症促進性メディエーターの発現を増大させることが知られているので、これらの2つのプロセスは、関連している可能性がある。誘導性アポトーシスの際に、p38MAPKのリン酸化の増加が起こること(Sepulveda JC、Moreno Manzano V、Alique Mら、Nefrologia 2005;25:131〜40)、及びこれに反して、抗アポトーシス治療は、p38MAPKのリン酸化を減少させること(Vorobiov M、Malki M、Shnaider Aら、Perit Dial Int 2008;28:648〜54)が観察されている。それゆえ、リンタンパク質38(リン酸化−p38)MAPKの測定は、様々な薬剤の抗アポトーシス効果を評価するのに役立つ。
【0014】
腹膜透析用液体への暴露によって誘発されるもう1つのプロセスは、フィブロネクチンの産生である(Ha H、Yu MR、Lee HB、Kidney Int 2001;59:463〜70;Lee HB、Yu MR、Song JSら、Kidney Int 2004;65:1170〜9)。このタンパク質は、腹膜中皮細胞の線維化プロセス及び上皮間葉転換において重要である。双方のプロセスは、腹膜の透析能力の喪失に関連している。
【0015】
PDで治療される患者において、長期の透析液によって引き起こされる損傷を軽減する治療用補体が求められている。
【0016】
レニンは、動脈圧の調節において極めて重要な役割を果たす、レニン−アンジオテンシン−アルドロステロン系の最初の酵素である。レニンは、アンジオテンシノゲンをアンジオテンシンIに変換し、アンジオテンシンIは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンIIに変換される。一方で、アンジオテンシンIIは、動脈平滑筋の収縮をもたらし、血管収縮及び動脈圧の上昇につながる。一方で、アンジオテンシンIIは、腎尿細管でのナトリウム及び水の貯留、血漿量の増加、及び間接的には動脈圧の増加をもたらすアルドステロンの合成を増大させる。アリスキレン(国際公開第2007/147596号パンフレット)は、アンジオテンシンIのアンジオテンシンIIへの変換に必須であるS3bpタンパク質に結合し、その結果、レニンの合成を妨害する(Rahuel J、Rasetti V、Maibaum Jら、Chem Biol 2000;7:493〜504)。
【0017】
したがって、前述のすべての問題を解決する腹膜透析用の新たな溶液を開発しなければならない。この状況において、現行技術で開示されているその他の溶液の欠陥を防ぐ新たなタイプの透析液が、本発明において開発された。
【0018】
[発明の説明]
本発明は、腹膜透析を受ける腎不全患者を治療するための、アリスキレン、少なくとも1種の電解質、少なくとも1種の緩衝液、及び少なくとも1種の浸透圧剤を含む腹膜透析液に関する。
【0019】
この溶液は、二重の機能、すなわち、透析用液体に属する第1の又は古典的な機能、及びアリスキレンによる第2の機能を付与し、腹膜中皮細胞に対するこれらの溶液の毒性を低減する。これは、活性酸素種、p38MAPKのリン酸化及びカスパーゼ−3の活性化、腹膜透析液中に含まれる高濃度グルコースによって生じる可能性のあるプロセスの低減のためである。
【0020】
したがって、本発明の腹膜透析液は、酸化ストレス、アポトーシスプロセス、及び結果として起こる腹膜損傷を予防し、結果として、患者が、血液透析に移行する前に腹膜透析を利用できる期間を延長させる。
【0021】
したがって、本発明の第1の本質的態様は、下記成分
a)少なくとも1種の電解質
b)少なくとも1種の緩衝液
c)少なくとも1種の浸透圧調節剤
d)アリスキレン又はその任意の誘導体
を含む、腹膜透析液に関する。
【0022】
好ましい実施形態において、電解質(複数可)は、次の電解質:種々の塩のNa、K、Mg2+、Ca2+、Cl又はこれらの任意の組合せによって構成される群から選択される。添加される電解質の濃度は、Na 100〜200mmol/l、K 0〜4mmol/l、Mg 0.1〜2mmol/l、Ca 0.5〜3mmol/l、Cl 50〜200mmol/lである。
【0023】
別の好ましい実施形態において、血液から過剰な水を除去するのに使用される腹膜透析液の浸透圧剤は、グルコース、ポリグルコース、マンニトール、グリセロール、アミノ酸、ポリペプチド、又はこれらの任意の組合せによって構成される群から非限定的に選択される。添加される浸透圧剤の量は、100〜600mOsm/kgの範囲にある。
【0024】
別の好ましい実施形態によれば、アリスキレンは、腹膜に対する腹膜透析液の毒性の原因である機構、中でも酸素フリーラジカルの産生を含む機構に対するアリスキレンの抑制効果のために、p38MAPKチャネル及びカスパーゼ−3チャネルに対するアリスキレンの抑制効果のために、腹膜透析液中、50nM〜1mMの濃度で使用される。
【化1】

【0025】
本発明の第2の本質的な態様は、薬剤を調製するための前記腹膜透析液の使用に関する。
【0026】
好ましい実施形態は、腎疾患を予防及び/又は治療するための薬剤を調製するための前記透析液の使用に関する。
【0027】
別の好ましい実施形態は、腹膜中皮細胞に対する毒性を予防及び/又は治療するための薬剤を調製するための前記透析液の使用に関する。
【0028】
別の好ましい実施形態は、活性酸素種、p38MAPKタンパク質のリン酸化、及びカスパーゼ−3の活性化を予防及び/又は治療するための薬剤を調製するための前記透析液の使用に関する。
【0029】
別の好ましい実施形態は、酸化ストレス、アポトーシスプロセス、腹膜細胞への損傷を引き起こす遺伝子発現、及び透析液によって生じる腹膜損傷を予防及び/又は治療するための薬剤を調製するための前記透析液の使用に関する。
【0030】
別の好ましい実施形態は、慢性腎不全を予防及び/又は治療するための薬剤を調製するための前記透析液の使用に関する。
【0031】
通常、本発明の腹膜透析液は、1日に4回、投与当たり2リットルの量で投与される。該溶液は、慢性腎不全を患う患者に、腹膜透析を実施するのに通常使用される方法に従って投与される。より具体的には、該溶液は、腹膜に前もって埋め込まれたカテーテルを経由して腹膜に投与される。腎不全患者の血液中に蓄積された代謝廃棄物を除去するには、通常、およそ4〜6時間を要する。
【0032】
方法例及び本発明を支持する結果を以下で説明するが、本発明の範囲は、それらの説明に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ラット腹膜中皮細胞の初代培養物における陽性HBME−1での免疫組織化学染色を示す図である(100倍)。
【図2】ラットPMC中での活性酸素種(ROS)の産生に対する50mM(A)及び83mM(B)のD−グルコースの効果を示す図である。細胞を担体又はD−グルコース(50mM又は83mM)中で1〜8時間インキュベートした後、フローサイトメトリーを利用してジクロロフルオレセイン(DCF)強度を、材料及び方法に記載のように測定した。データは、平均±SEM(n=3)として表す。*p<0.05、担体(V)と対比して。
【図3】PMC中で50mM(A)及び83mM(B)のD−グルコースによって仲介される細胞毒性におけるカスパーゼ−3の役割を示す図である。データは、平均±SEM(n=3)として表す。*p<0.05、担体(V)と対比して。
【図4】ラットPMC中でのp38マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)のリン酸化に対する、50mM(A)及び83mM(B)のD−グルコースの効果を示す図である。上部パネル:代表的実験。下部パネル:担体(V)で処理された細胞に対するリン酸化−p38の正規化レベルのデンシトメトリー分析。データは、平均±SEM(n=3)として表す。*p<0.05、担体(V)と対比して。
【図5】ラットPMCに対するアリスキレンの毒性効果を示す図である。細胞を担体又はアリスキレンで72時間処理し、細胞生存率を、培養培地中に放出されたLDHを定量することによって評価した。データは、平均±SEM(n=12)として表す。*p<0.05、対照(担体)と対比して。
【図6】ラットPMC上での活性酸素種(ROS)の産生における、50mM(A)及び83mM(B)のD−グルコースによってもたらされる変化に対するアリスキレンの効果を示す図である。細胞を、50mM(A)及び83mM(B)のD−グルコース中、アリスキレン(10〜100μM)の存在下又は非存在下で8時間インキュベートし、フローサイトメトリーを利用して、材料及び方法に記載のようにジクロロフルオレセイン(DCF)強度を測定した。データは、平均±SEM(n=3)として表す。*p<0.05、未処理細胞(対照)と対比して。#p<0.05、担体(0)の存在下でD−グルコースで処理された細胞と対比して。
【図7】ラットPMC中でのカスパーゼ−3活性における、50mMのD−グルコースによってもたらされる変化に対するアリスキレンの効果を示す図である。細胞を、50mMのD−グルコース中、アリスキレン(10〜100μM)の存在下又は非存在下で24時間インキュベートし、カスパーゼ−3活性を材料及び方法に記載のように測定した。データは、平均±SEM(n=3)として表す。*p<0.05、対照(C)と対比して。#p<0.05、未処理細胞(対照)と対比して。#p<0.05、担体(0)の存在下にD−グルコースで処理された細胞と対比して。
【図8】ラットPMC中でのp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化における、50mMのD−グルコースによってもたらされる変化に対するアリスキレンの効果を示す図である。リン酸化−p38レベルのデンシトメトリー分析は対照(C)に対して正規化した。データは、平均±SEM(n=3)として表す。*p<0.05、未処理細胞(対照)と対比して。#p<0.05、担体(0)の存在下でD−グルコースで処理された細胞と対比して。
【図9】培養培地中で1:1に希釈された1.5%のグルコースを含むPDF(PDF1.5%)に暴露されたラットPMC中でのコラーゲンIの遺伝子発現に対するアリスキレンの効果を示す図である。培養培地中で1:1に希釈された1.5%PDF中でラットPMCを、担体又は種々の濃度のアリスキレン(10〜100μM)の存在下又は非存在下で24時間インキュベートした後、全RNAを単離し、リアルタイムRT−PCRを材料及び方法に記載のように実施した。データは、平均±SEM(n=3)として表す。*p<0.05、未処理細胞(対照)と対比して。#p<0.05、担体(0)の存在下に1.5%PDFで処理された細胞と対比して。
【図10】培養培地中で1:1に希釈された1.5%のグルコースを含むPDF(PDF1.5%)に暴露されたラットPMC中でのコラーゲンIIIの遺伝子発現に対するアリスキレンの効果を示す図である。培養培地中で1:1に希釈された1.5%PDF中でラットPMCを、アリスキレン(10〜100μM)の存在下又は非存在下で24時間インキュベートした後、全RNAを単離し、リアルタイムRT−PCRを材料及び方法に記載のように実施した。データは、平均±SEM(n=3)として表す。*p<0.05、未処理細胞(対照)と対比して。#p<0.05、担体(0)の存在下に1.5%PDFで処理された細胞と対比して。
【図11】培養培地中で1:1に希釈された1.5%のグルコースを含むPDF(PDF1.5%)に暴露されたラットPMC中でのフィブロネクチンの遺伝子発現に対するアリスキレンの効果を示す図である。培養培地中で1:1に希釈された1.5%PDF中でラットPMCを、担体又は種々の濃度のアリスキレン(10〜100μM)の存在下又は非存在下で24時間インキュベートした後、全RNAを単離し、リアルタイムRT−PCRを材料及び方法に記載のように実施した。データは、平均±SEM(n=3)として表す。*p<0.05、未処理細胞(対照)と対比して。#p<0.05、担体(0)の存在下に1.5%PDFで処理された細胞と対比して。
【図12】ラットにおける4週間にわたるPDFへの透析後のD/Dグルコースのレベルを示す図である。ラットを、4週間毎日、担体、0.1mg/kgアリスキレン又は1mg/kgアリスキレンを補足された担体(生理食塩水血清)、1.5%PDF、2.3%PDF、又は4.5%PDFに暴露した。データは、平均±SEM(群ごとにn=6のラット)として表す。*p<0.05、アリスキレンの存在しない担体で処理された群(担体)と対比して。#p<0.05、アリスキレンの存在しないPDFで処理されたそれぞれの群と対比して。
【図13】ラットにおける4週間にわたるPDFへの透析後のD/Pクレアチニンのレベルを示す図である。ラットを、4週間毎日、担体、0.1mg/kgアリスキレン又は1mg/kgアリスキレンを補足された担体(生理食塩水血清)、1.5%PDF、2.3%PDF、又は4.5%PDFに暴露した。データは、平均中央値±SEM(群ごとにn=6のラット)として表す。*p<0.05、アリスキレンの存在しない担体で処理された群(担体)と対比して。#p<0.05、アリスキレンの存在しないPDFで処理されたそれぞれの群と対比して。
【図14】ラットにおける4週間にわたるPDFへの透析後のp53の遺伝子発現を示す図である。ラットを、4週間毎日、0.1mg/kgアリスキレン又は1mg/kgアリスキレンを補足された担体(生理食塩水血清)、1.5%PDF、2.3%PDF、又は4.5%PDFに暴露した。データは、平均±SEM(群ごとにn=6のラット)として表す。*p<0.05、アリスキレンの存在しない担体で処理された群(担体)と対比して。#p<0.05、アリスキレンの存在しないPDFで処理されたそれぞれの群と対比して。
【図15】ラットにおける4週間にわたるPDFへの透析後のBAXに関するmRNAのレベルを示す図である。ラットを、4週間毎日、担体、0.1mg/kgアリスキレン又は1mg/kgアリスキレンを補足された担体(生理食塩水血清)、1.5%PDF、2.3%PDF、又は4.5%PDFに暴露した。データは、平均±SEM(群ごとにn=6のラット)として表す。*p<0.05、アリスキレンの存在しない担体で処理された群(担体)と対比して。#p<0.05、アリスキレンの存在しないPDFで処理されたそれぞれの群と対比して。
【図16】ラットにおける4週間にわたるPDFへの透析後のBcl−2に関するmRNAのレベルを示す図である。ラットを、4週間毎日、担体、0.1mg/kgアリスキレン又は1mg/kgアリスキレンを補足された担体(生理食塩水血清)、1.5%PDF、2.3%PDF、又は4.5%PDFに暴露した。データは、平均±SEM(群ごとにn=6のラット)として表す。*p<0.05、アリスキレンの存在しない担体で処理された群(担体)と対比して。#p<0.05、アリスキレンの存在しないPDFで処理されたそれぞれの群と対比して。
【図17】ラットにおける4週間にわたるPDFへの透析後のフィブロネクチンに関するmRNAのレベルを示す図である。ラットを、4週間毎日、担体、0.1mg/kgアリスキレン又は1mg/kgアリスキレンを補足された担体(生理食塩水血清)、1.5%PDF、2.3%PDF、又は4.5%PDFに暴露した。データは、平均±SEM(群ごとにn=6のラット)として表す。*p<0.05、アリスキレンの存在しない担体で処理された群(担体)と対比して。#p<0.05、アリスキレンの存在しないPDFで処理されたそれぞれの群と対比して。
【図18】ラットにおける4週間にわたるPDFへの透析後のコラーゲンIIIに関するmRNAのレベルを示す図である。ラットを、4週間毎日、担体、0.1mg/kgアリスキレン又は1mg/kgアリスキレンを補足された担体(生理食塩水血清)、1.5%PDF、2.3%PDF、又は4.5%PDFに暴露した。データは、平均±SEM(群ごとにn=6のラット)として表す。*p<0.05、アリスキレンの存在しない担体で処理された群(担体)と対比して。#p<0.05、アリスキレンの存在しないPDFで処理されたそれぞれの群と対比して。
【0034】
[本発明の実施形態の実施例]
以下の実施例は本発明を例示する。しかし、これらの実施例は非限定的な例である。それらの実施例は、単に情報を提供するものであり、使用される方法論を限定するものではなく、それらの実施例を類似の結果を達成する目的のために変更することができる。
【0035】
本明細書において、本明細書の方法、図及び実施例中で使用される記号及び慣習は、国際的な方式及び現代の科学文献、例えば医化学雑誌中で使用されるものからなる。そうでないことを指摘しない限り、すべての材料は、商業的供給業者から入手し、さらなる精製なしで使用した。具体的には、次の省略形を、実施例中、及び明細書中を通して使用することができる:g(グラム)、mg(ミリグラム)、kg(キログラム)、mL(ミリリットル)、μL(マイクロリットル)、mmol(ミリモル)、M.P(融点)、Hz(ヘルツ)、MHz(メガヘルツ)、δ(ケミカルシフト)、ppm(パーツパーミリオン)、s(一重線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)、c(五重線)、m(多重線)、J(カップリング定数)、NMR(核磁気共鳴)、MS(質量スペクトル)、ES(エレクトロスプレー)、m/z(質量/電荷比)、Anal(元素分析)、Yld(収率)、TEA(トリエチルアミン)、CHCl(ジクロロメタン)、CDCl(重水素化クロロホルム)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、i.p.(非経口投与)。温度は、すべて℃(摂氏)で表現される。
【0036】
[実施例]
(ラット腹膜中皮細胞の培養)
ラット腹膜中皮細胞を、Hjelle JT、Golinska BT、Waters DCら、Perit Dial Int 1989;9:341〜7中に記載のプロトコールに従って、酵素的消化により単離した。簡潔には、体重が200〜400gの雌性スプラーグドーリー系ラットを、実験及びその他の科学目的に使用される動物の保護に関する10月10日の勅令1201/2005に従って屠殺した。腹腔を速やかに開き、腹壁(腹膜及び平滑筋)を無菌条件下で取り出した。腹壁の内部表面から、前記表面を199培養培地(Sigma)及び0.5mg/mLのコラゲナーゼ(Sigma)中、37℃で30分間インキュベートする酵素的消化によって、中皮細胞を分離した。インキュベーションの後、消化された腹壁表面をかき取り、接着された中皮細胞を完全に剥離した。得られた中皮細胞を増殖及びその研究用の培養皿に播種し、10%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシンを補足された199培地中に維持した。各培養の後、腹膜中皮細胞の存在を、その組織形態学的外観及び特異的マーカーの発現により確認した。細胞は、3〜6代の間に使用した。
【0037】
(インビボでの研究)
動物
体重が200〜240gの78匹の雌性スプラーグドーリー系ラット(Charles River Breeding Laboratories)を、インビボ実験に使用した。動物は、12時間の明と12時間の暗からなる周期で一定温度の雰囲気中に収容した。飼料及び飲料は、自由に与えた。すべての実験プロトコールは、欧州指令「欧州共同体委員会指令86/609/EEC」に従って実施した。さらに、動物実験は、アルバセテ(Albacete)(スペイン)の大学/病院複合体の動物管理使用委員会によって承認された。さらに、動物実験は、アルバセテ(Albacete)(スペイン)の大学/病院複合体の動物管理使用委員会によって承認された。
【0038】
インビボ研究及び腹膜平衡試験(PET)の実験計画
インビボ研究のため、体重が200〜240gの78匹の雌性スプラーグドーリー系ラット(Charles River Breeding Laboratories)を使用し:高グルコース腹膜透析液(PDF)を投与される動物に54匹のラットを割り当て、この54匹を、それぞれ異なるグルコース濃度を有する3種のPDF(Fresenius Medical Car、Bad Homburg、ドイツ)を投与するそれぞれ18匹のラットからなる3つの異なるサブグループに分割した。さらに、18匹のラットには担体(生理食塩水血清)を投与し、別の6匹のラットは対照群(透析なし)として使用した。「担体」群の18匹のラット、並びに1.5%PDF群、2.3%PDF群及び4.5%PDF群に属するラットをそれぞれ6匹のラットからなる別の3つのサブグループに分割した。これらの群のそれぞれに投与されるPDFは、生理食塩水血清、0.1mg/kg/日のアリスキレン(Novartis Pharmaceuticals、Cambridge、マサチューセッツ州、米国)又は1mg/kg/日のアリスキレンを補足した。腹膜透析のため、ラットには、4週間にわたって毎日、22Gニードルを介して対応する20mLのPDFを投与した。
【0039】
実験期間(4週間)の終末時点で、2.3%のグルコースを含む30mLの市販PDF(Fresenius Medical Car、Ban Homburg、ドイツ)を、22Gニードルを使用して腹膜内投与した。2時間後に、動物を、ペントバルビタール(50mg/kg)を用い腹膜内で麻酔し、心穿刺によって血液を抜き取った。次に、腹部正中切開を行い、シリンジを使用して腹膜から残量を集めた。PETの間、動物は覚醒しており、水及び飼料を自由に入手することができた。動物の体重を、実験期間の開始及び終了時に測定した。ラットは死亡せず、すべての動物は、反復PDF注入を含む研究中に良好な健康状態にあると思われた。
【0040】
血液及び透析物のサンプルを遠心分離し、−20℃で貯蔵した。血清及び透析物中のクレアチニン及びグルコースの濃度を、酵素法を使用して測定した。溶質の腹膜輸送を、一方では、PDF中の初期グルコース濃度に対するPETの2時間後の透析物中のグルコース濃度(D/Dグルコース)として、他方では、PETの2時間後の透析物/血清中クレアチニン濃度比(D/Pクレアチニン)として計算した。PETの終了時点で、動物を、過剰用量の麻酔剤を使用して屠殺し、腹膜中皮細胞(PMC)を単離し、本明細書において後で説明するように培養した。
【0041】
(本発明の腹膜透析液の調製)
腹膜透析液を、表2に記載の量のアリスキレン及び表3に記載の量のグルコースを、その組成を表1に示す培地M199に添加することによって調製した。表2に記載のそれぞれのアリスキレン濃度と、表3に記載のグルコース濃度との組合せについて研究した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
(細胞毒性研究)
毒性試験は、ラットの腹膜中皮細胞の培養物で実施し、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)酵素の活性を測定した(Posadas I、Lopez−Hernandez B、Clemente MIら、Pharm Res 2009;26:1181〜91)。これらの研究は、本発明の腹膜透析液の毒性を研究するために実施した。
【0046】
この目的のため、細胞を、24ウェルプレートに播種し、本発明の腹膜透析液対象に暴露し、それらの透析液の毒性を研究した。毒性効果は、細胞膜の破壊及び結果としての細胞上清へのLDHの放出をCytoTox96(登録商標)キット(Promega)で測定して評価した。細胞を、機械的に取り出し、PBSで洗浄し、10,000rpmで10分間遠心した。マイクロプレート分光光度計を波長490nmで製造業者の説明書に従って使用して、細胞溶解物及び細胞上清の吸光度を得た。
【0047】
(フローサイトメトリーを使用する活性酸素種の濃度変化の評価)
PBSで洗浄した後、細胞を、5.6−クロロメチル−2.7−ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(CM−H2DCFDA、Invitrogen)と共に37℃で15分間、標準的プロトコールに従ってインキュベートした(Lee HB、2004)。インキュベーションの後、コンディション培地を集め、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン処理した。トリプシン処理細胞を濃縮培地に結合させることにより得られる懸濁液中に存在する生存及び死滅細胞のすべてを、3000×g、4℃で5分間遠心した。最後に、細胞をPBSで洗浄し、フローサイトメーター(FACSCalibur、Becton−Dickinson、Franklin Lakes、ニュージャージー州、米国)での細胞分析用の培養培地199中に再懸濁した。活性酸素種の産生は、実験条件ごとに10,000個の細胞の評価に基づいて計算した。
【0048】
(ウェスタンブロットによるp38MAPKのリン酸化/脱リン酸化の評価)
細胞培養物の全タンパク質を得るために、培養培地を集めPBSで置き換えた。細胞を、トリプシン処理によって取り出し、捕集培地に結合させた。3000×g、4℃で5分間の遠心により得られるタンパク質に富むペレットを、細胞溶解物用緩衝液(100mM HEPES、5mM DTT、5mM EGTA、0.04% Nonidet P−40、及び20%グリセロール)中にプロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼと共に再懸濁し、4℃で60分間インキュベートした。インキュベーションの後、サンプルを、13,000rpm、4℃で15分間遠心し、上清液を−80℃で保存した。細胞溶解物のタンパク質含有量を、Bradford法を標準的プロトコール(Vorobiov M、Malki M、Shnaider Aら、Perit Dial Int 2008;28:648〜54)に従って使用して測定した。各サンプルを、20μgタンパク質/ウェルの量で10%ポリアクリルアミドゲル上にロードした。セミドライ式ブロッターを使用して、ゲルを、電気泳動によってニトロセルロース膜に転写した。ニトロセルロースに結合されたタンパク質を、ポルソーS染色で検視し、5%スキムミルクを含むTTBS(50mM Tris、pH7.5,200mM NaCl、0.1%Tween)でブロックし、続いてp38MAPK又はリン酸化−p38MAPK一次抗体(Cell Signalling Technology)中、4℃で一夜インキュベートした。TTBSで洗浄した後、二次抗体を環境温度で1時間適用した。検出は、ケミルミネセンス(ECL)により実施した。バンドの強度は、適切な画像解析装置(Quantity One)を使用して、グレーレベルで定量化した。
【0049】
(ELISAによるカスパーゼ−3活性の測定)
カスパーゼ−3の活性を測定するため(Posadas I、Vellecco V、Santos Pら、Br J Pharmacol 2007;150:577〜85)、ラットの中皮細胞を、6ウェルプレート上に80%の集密度に到達するまで播種した。アリスキレンを含む腹膜透析液に暴露した後、培養培地を集め、PBSで置き換えた。細胞を、トリプシン処理によって取り出し、捕集培地に結合させた。3000×g、4℃で5分間の遠心により得られるタンパク質に富むペレットを、細胞溶解物用緩衝液(100mM HEPES、5mM DTT、5mM EGTA、0.04% Nonidet P−40、及び20%グリセロール)中に再懸濁し、4℃で60分間インキュベートした。インキュベーションの後、サンプルを、13,000rpm、4℃で15分間遠心し、上清液中のタンパク質濃度を、Bradford法を標準的プロトコールに従って使用して測定した。細胞抽出物(40μgのタンパク質)を、蛍光基質である50μMのAsp−Glu−Val−7−アミノ−4−トリフルオロメチル−クマリル(Z−DEVD−AFC)を含む反応緩衝液(25mM HEPES、10%ショ糖、0.1%3−[(3−クロルアミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸、10mM DTT)中、37℃で1時間インキュベートした。蛍光発光を、分光蛍光光度計(Tecan、オーストリア)を用いて400nmの励起波長及び505nmの発光波長で測定した。
【0050】
(リアルタイムRT−PCR)
RNAの発現を、PMCにおいてリアルタイムRT−PCRによって評価した。全RNAを、製造業者の説明書に従って市販の反応試薬(Tripure、Sigma、St.Louis、ミズーリ州)を使用して単離した。RNAの品質及び濃度は、1μLのRNAサンプルを使用し、分光光度法(Infinite200、Tecan、Salzburg、オーストリア)によって評価した。全RNAは、18S及び28SのmRNAバンドの完全性を確認するため、アガロースゲルで試験した。cDNAは、高性能cDNA逆転写キット(Applied Biosystems、Foster City、カリフォルニア州)を使用して合成した。リアルタイムRT−PCRの場合、cDNAはSYBR Green PCRマスターミックスを使用し、1ステップリアルタイムPCRシステム及びソフトウェアStepOne v2.0(Applied Biosystems、Foster City、カリフォルニア州)を用いて増幅した。増幅には次のプライマー対を使用した:フィブロネクチンでは5’−GCA−CAG−GGG−AAG−AAA−AGG−AG−3’(センス)及び5’-TTG−AGT−GGA−TGG−GAG−GAG−AG−3’(アンチセンス);コラーゲンIでは5’−TCA−CCT−ACA−GCA−CGC−TTG−3’(センス)及び5’−GGT−CTG−TTT−CCA−GGG−TTG−3’(アンチセンス);コラーゲンIIIでは5’−ATA−TCA−AAC−ACG−CAA−GGC−3’(センス)及び5’−GAT−TAA−AGC−AAG−AGG−AAC−AC−3’(アンチセンス);P53では5’−CCT−CCT−CAG−CAT−CTT−ATC−CG−3’(センス)及び5’−CAC−AAA−CAC−GCA−CCT−CAA−A−3’(アンチセンス);BAXでは5’−GAT−GCG−TCC−ACC−AAG−AA−3’(センス)及び5’−AGT−AGA−AGA−GGG−CAA−CCA−C−3’(アンチセンス);並びにBcl−2では5’−CCC−AAG−GGA−AGA−CGA−TG−3’(センス)及び5’−GAG−CGG−GTA−GGG−AAA−GA−3’(アンチセンス)。該プライマー配列は、60℃に近いアニーリング温度を有する。リアルタイムRT−PCR反応は、95℃で10分間、続いて95℃で15秒間、60℃で1分間の40サイクルで実施した。解離曲線を分析して単一PCR産物の増幅を確認した。すべてのサンプルをトリプリケートで処理した。各実験において、平均サイクル閾値(CT)を、調べる各遺伝子についてトリプリケートから計算し、種々の処置後の遺伝子発現の比較を可能にした(Methods 25、402〜408(2001))。データを正規化するため、β−アクチンの遺伝子発現を内在性対照として使用した。
【0051】
(データの収集及び解析)
得られた各値は、デュプリケートで実施された少なくとも3回の実験に対応する。すべてのデータは平均±SEMとして提示される。解析されるパラメーターのそれぞれに関する群間差を、ノンパラメトリックANOVA検定(Kruskal−Wallis)、続いてホック検定(Dunnett)を使用して解析した。0.05以下のp値を有意とみなした。SPSS13.0(Chicago、イリノイ州)ソフトウェアを使用して統計解析を実施した。
【0052】
(結果)
本発明の実験で使用される中皮細胞培養物は、HBME−1に反応性を示す(図1)。
【0053】
透析用液体中の種々の濃度のグルコースへの暴露時間を増加させることは、中皮細胞に対して毒性があり、腹膜に対する腹膜透析液の毒性の基礎を構成する。グルコースへの暴露時間の増加は、中皮細胞中での遊離ラジカルの産生を増大させることが観察できる(図2)。
【0054】
この遊離ラジカルの産生のため、カスパーゼ−3の活性化などの細胞死のエフェクター機構が活性化される(図3)。
【0055】
高グルコース濃度の溶液への暴露は、中皮細胞における毒性指標と考えられるp38タンパク質のリン酸化を増大させる(図4)。
【0056】
培養培地へのアリスキレンの添加は、1mMの濃度に達するまで中皮細胞に対して毒性を示さなかった(図5)。
【0057】
透析培地へのアリスキレンの添加は、培養された腹膜細胞における活性酸素種の産生(図6)及びカスパーゼの活性化(図7)、並びにタンパク質p38のリン酸化(図8)の双方を予防した。
【0058】
透析培地へのアリスキレンの添加は、培養された腹膜細胞における腹膜線維症のマーカーであるコラーゲンI(図9)、コラーゲンIII(図10)、及びフィブロネクチン(図11)に関するmRNAレベルを低下させた。
【0059】
透析培地中でのアリスキレンの存在は、透析されたラットにおけるインビボでの腹膜損傷を低減した(図12及び13)。
【0060】
ラットにおける長期腹膜分析中にアリスキレンが存在することは、前記ラットから得られた腹膜細胞中での、アポトーシス促進性タンパク質p53(図14)及びBax(図15)に関するmRNAの発現を低減した。
【0061】
ラットにおける長期腹膜透析中にアリスキレンが存在することは、前記ラットから得られる腹膜細胞中での、抗アポトーシス性タンパク質Bcl−2に関するmRNAの発現を増加した(図16)。
【0062】
ラットにおける長期腹膜透析中にアリスキレンが存在することは、前記ラットから得られる腹膜細胞中での、腹膜線維症のマーカーであるフィブロネクチン(図17)及びコラーゲンIII(図18)に関するmRNAの発現を増大させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分
a)少なくとも1種の電解質、
b)少なくとも1種の緩衝液、
c)少なくとも1種の浸透圧調節剤、及び
d)アリスキレン又はその誘導体
を含む、腹膜透析液。
【請求項2】
前記電解質が、Na、Mg2+、Ca2+、Cl及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の腹膜透析液。
【請求項3】
各電解質が、下記濃度範囲:
Na 100〜200mmol/l;
K 0〜4mmol/l;
Mg 0.1〜2mmol/l;
Ca 0.5〜3mmol/l;
Cl 50〜200mmol/l;
にある、請求項2に記載の腹膜透析液。
【請求項4】
前記緩衝液が、乳酸塩、重炭酸塩又はこれらの組合せから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の腹膜透析液。
【請求項5】
前記緩衝液の濃度が10〜150mmol/lの範囲にある、請求項4に記載の腹膜透析液。
【請求項6】
前記浸透圧剤が、グルコース、ポリグルコース、マンニトール、グリセロール、アミノ酸、ポリペプチド、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の腹膜透析液。
【請求項7】
添加される前記浸透圧剤の量が、100〜600mOsm/kgの範囲にある、請求項6に記載の腹膜透析液。
【請求項8】
アリスキレン又はその誘導体の濃度が、50nM〜1mMの範囲にある、請求項1〜7のいずれか一項に記載の腹膜透析液。
【請求項9】
薬剤を調製するための前記腹膜透析液の使用。
【請求項10】
腎疾患を予防及び/又は治療するための薬剤を調製するための前記透析液の使用。
【請求項11】
腹膜中皮細胞に対する毒性を予防及び/又は治療するための薬剤を調製するための前記透析液の使用。
【請求項12】
活性酸素種、タンパク質p39MAPKのリン酸化、及びカスパーゼ−3の活性化を予防及び/又は低減するための薬剤を調製するための前記透析液の使用。
【請求項13】
酸化ストレス、アポトーシスプロセス、腹膜細胞に有害な遺伝子の発現、及び透析用液体によって引き起こされる腹膜損傷を予防及び/又は治療するための薬剤を調製するための前記透析液の使用。
【請求項14】
慢性腎不全を予防及び/又は治療するための薬剤を調製するための前記透析液の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−521329(P2013−521329A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556550(P2012−556550)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【国際出願番号】PCT/ES2011/070142
【国際公開番号】WO2011/107649
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(512230937)ユニヴェルシダード デ カスティーリャ ラ マンチャ (2)
【Fターム(参考)】