説明

膀胱癌の診断用ポリペプチドマーカー

本発明は、膀胱癌(BC)の診断及び/又は膀胱癌の腫瘍段階を決定するための方法に関し、前記方法は、試料中の少なくとも6個のポリペプチドマーカーの存在もしくは不存在又は多さを決定する段階を含み、このポリペプチドマーカーは、マーカー1から836から選択され、分子量及び泳動時間(CE時間)により特徴づけされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膀胱癌の(分別的)診断のための、被験者からの試料における一つ以上のペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さの使用に関し、及び一つ以上のペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さが膀胱癌の存在及び腫瘍段階を示す、膀胱癌の診断のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膀胱癌は膀胱の粘膜上の悪性腫瘍である。膀胱癌は最も一般的な悪性疾患の1つである。泌尿器の分野においては、前立腺癌に次いで2番目に多い悪性疾患である。ドイツ語圏においては、年間100,000人のうち約22人の発生率である。男性において、膀胱癌は女性の約2倍から3倍の頻度で起こる。ドイツ連邦共和国において、毎年、推定13,000人の男性及び5,000人の女性がこの疾患にかかっている。膀胱癌は高齢者の疾患である。疾病リスクは、40才から加齢に伴って増加する。
【0003】
膀胱癌の診断:
真の早期発見は膀胱癌に関しては存在しない。尿中に血液があるか、又は排尿に問題がある場合、早急に医師の診断を受けることが緊急に推奨される。場合によっては、これにより膀胱癌を早期に検出することができる。膀胱において腫瘍の恐れがあるならば、例えば、尿中に血液が観察されるならば、又は膀胱刺激の症状が継続しているならば、膀胱鏡検査法が行われる。検査員が膀胱壁における腫瘍を検査すると、どの壁層に腫瘍が達しているかを評価することができ、さらに試料を採取し、これを次に顕微鏡で検査することができる。腫瘍増殖に応じて、表面のおよび浸潤の(組織に侵入している)癌が区別される。後者はすでに膀胱の筋肉中に増殖し、隣接する器官(例えば、男性における前立腺又は女性における子宮)中に広がり得る。粘膜腫瘍の組織学的病理学的分類はTNMシステムに従って行われる。
【0004】
表面癌腫:
pTa=粘膜(尿路上皮)の非侵襲乳頭状癌腫
pTcis=インサイチュー内癌腫
pT1=粘膜下(上皮下の結合組織)への浸潤、下位分類pT1a−c
浸潤癌腫:
pT2=筋肉層(筋固有層)の浸潤、下位分類pT2a−b
pT3=筋肉層を超えて増殖、下位分類pT3a−b
pT4=隣接器官、例えば、前立腺、子宮、膣、骨盤壁の浸潤
【0005】
加えて、全尿路の放射線検査(尿路造影)を行うことができる。補足的に、尿を顕微鏡下で悪性細胞について試験する。段階に分類するために、さらなる診断法、例えば、超音波検査、CT(コンピュータ断層撮影法)又はMRT(磁気共鳴断層撮影)が用いられる。腹部の超音波検査により、腫瘍の位置及びサイズを明らかにすることがてきる。加えて、尿の蓄積について腎臓を調べるためにこのような検査が用いられ、リンパ節及び肝臓が転移について調べられる。
【0006】
前述のように、膀胱癌の実用的な早期検出はない。今日まで、明らかな診断は侵襲性の介入、例えば膀胱鏡検査及び組織バイオプシーを伴う。従って、できるだけ侵襲性が少なく、迅速で低コストの膀胱癌の診断及び腫瘍段階を決定するプロセス及び方法を提供する目的があった。
【0007】
Vlahou et l.、American Journal of Pathology 158(2001)、1491−1501は、SELDIを用いた「移行細胞癌」(TCC)の患者からの尿試料の分析を記載している。SELDI技術の低い分解能のために、平行してごくわずかのマーカーしか検出できない。この結果、診断の感度及び特異性が低くなり、ブラインドテストにおいて認証できなかった。
【0008】
W.Liu et al.,European Urology 47(2005),456−462も、尿試料のSELDI分析を記載している。見出された少数のマーカーは分析の特異性が不十分である。
【0009】
Vlahouら及びLiuらにより同じ技術が採用されているにもかかわらず、2つの研究において異なるマーカーが見出され、このことにより、この手順の妥当性は存在しないことが明らかになる。さらに、マーカーについて記載された質量値は非常に不明確であるので、対応する測定は再現不能である又は質量は個々の物質について明確に帰属できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
先行技術の記載された欠点を克服し、特に個々のペプチドに明確に帰属でき、膀胱癌の診断及び/又は腫瘍段階の決定に適したポリペプチドマーカーを定義することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
意外にも、今や、被験者からの試料中の特定ペプチドマーカーが膀胱癌の診断のため、及び膀胱癌腫の腫瘍段階を評価するための両方に使用できることが見出された。
【0012】
したがって本発明は、膀胱癌の診断のための、被験者からの試料における少なくとも1個のポリペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さ(amplitude)の使用に関し、前記ポリペプチドマーカーは、表1に示す分子量についての数値によって特徴付けられる、ポリペプチドマーカーNo.1から836から選択される。
【0013】
【表5】



【0014】
本発明により、非常に早期の段階で膀胱癌を診断することが可能である。このため、初期段階での公知の方法によって疾患を治療することができる。本発明はさらに、ある程度非侵襲性の又は最小限の侵襲性の処置のみで、安価で迅速な及び信頼し得る腫瘍段階の評価及び診断を可能にする。
【0015】
泳動時間は、キャピラリー電気泳動(CE)によって、例えば実施例の項目2で述べるように測定される。この実施例では、長さ90cm、内径(ID)50μm、外径(OD)360μmのガラス細管を30kVの印加電圧で操作する。試料のための移動溶媒として、例えば水中30%メタノール、0.5%ギ酸を使用する。
【0016】
CE泳動時間が変動し得ることが公知である。それにもかかわらず、ポリペプチドマーカーが溶出する順序は、一定の条件下で使用するいずれのCEシステムに関しても通常同じである。あり得る泳動時間の違いのいずれもを安定にするために、泳動時間がまさに公知である標準物質を用いてシステムを基準化し得る。これらの標準物質は、例えば実施例で述べるポリペプチドであり得る(実施例、項目3参照)。
【0017】
表1から8に示すポリペプチドマーカーの特性決定を、例えばNeuhoffら(Rapid Communications in mass spectrometry、2004、Vol.20、pages 149−156)によって詳細に説明されている方法、キャピラリー電気泳動−質量分析法(CE−MS)によって実施した。較正が正確であるとき、個々の測定間又は異なる質量分析計の間での分子量の変動は比較的小さく、通常±0.1%の範囲内、好ましくは±0.05%の範囲内、より好ましくは±0.03%である。
【0018】
本発明に従ったポリペプチドマーカーは、タンパク質もしくはペプチド、またはタンパク質もしくはペプチドの分解産物である。これらは、分解の範囲内で、例えばグリコシル化、リン酸化、アルキル化又はジスルフィド架橋などの翻訳後修飾によって又は他の反応によって、化学修飾され得る。加えて、ポリペプチドマーカーはまた、試料の精製中に、化学変性され得、例えば酸化され得る。
【0019】
ポリペプチドマーカーを決定するパラメータ(分子量及び泳動時間)から続けて、先行技術において公知の方法によって対応するポリペプチドの配列を特定することが可能である。
【0020】
本発明のポリペプチド(表1から8参照)は、一方では膀胱癌を診断し、同時に異なる腫瘍段階を区別可能にするために使用される。「診断」とは、症状又は現象を疾患又は損傷に帰属させることにより知見を得るプロセスを意味する。この場合、膀胱癌の存在及び膀胱癌腫の腫瘍段階は、特定のポリペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さから推断される。従って、本発明のポリペプチドマーカーは、被験者からの試料において決定され、これらマーカーの存在もしくは不在が頻度マーカーの場合においては膀胱癌の存在を推断することを可能にし又は多さマーカーの場合においてはシグナル強度における差が膀胱癌の存在を推断することを可能にする。ポリペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さは、当該分野において公知の任意の方法により測定することができる。使用できる方法を以下で説明する。
【0021】
ポリペプチドマーカーは、その測定値が少なくともその閾値と同程度の高さである場合、存在するとみなされる。この測定値がより低い場合は、ポリペプチドマーカーは存在しないとみなされる。この閾値は、測定方法の感受性(検出限界)によって又は経験から決定され、又は経験から定義され得る。
【0022】
本発明に関して、好ましくはある分子量についての試料の測定値がブランク試料(例えば緩衝液又は溶媒のみ)の測定値の少なくとも2倍の高さである場合、閾値を超えているとみなされる。
【0023】
一つまたはそれ以上のポリペプチドマーカーは、その存在又は不在が測定され、この存在又は不在は膀胱癌(頻度マーカー)の指標であるように、使用される。例えば、ポリペプチドマーカーNo.1から44のように、膀胱癌(疾患)を有する患者において通常存在するが、膀胱癌がない(対照)被験者では存在しない又は極めてまれなポリペプチドマーカーがある。加えて、膀胱癌のない(対照)被験者では存在するが、膀胱癌を有する被験者ではより頻度が低い又は全く存在しないポリペプチドマーカー、例えばNo.45から149(表2)、がある。
【0024】
頻度マーカーは、いくつかの試料において多さが低い多さマーカーの変異形である。マーカーが見出されない対応する試料を、検出限界のオーダーの非常に小さな多さを有する多さの計算に組み入れることにより、このような頻度マーカーを多さマーカーに換算することが可能である。
【0025】
【表6】

【0026】
マーカー1から146の使用が特に好ましい。
【0027】
頻度マーカー(存在又は不在の決定)に加えて又はその代わりに、表3及び4において記載される多さマーカーも膀胱癌の診断に使用できる(No.150から836)。多さマーカーは、存在又は不在が重要でなく、シグナルが両群において存在するとき、シグナルの高さ(多さ)を決定するように使用される。表3及び4において、測定された全ての試料にわたって平均された、対応するシグナルの平均正規化多さ(質量及び泳動時間により特徴づけられる)が記載されている。2つの正規化法は、異なる濃縮された試料間の又は異なる測定法間の比較を達成することが可能である。
【0028】
第一の方法において、試料の全てのペプチドシグナルを合計多さ1000000カウントに正規化する。従って、個々のマーカーのそれぞれの平均多さは百万分率(ppm)として記載される。この方法により得られる多さマーカーを表3に示す(No.150から185)。
【0029】
加えて、別の正規化法によりさらなる多さマーカーを定義することが可能である。この場合、1つの試料の全てのペプチドシグナルが通常の規格化因子により比べられる。従って、線形回帰が個々の試料のペプチド多さと全ての公知ポリペプチドの参照値間で形成される。回帰線の勾配は相対濃度にまさに対応し、この試料の規格化因子として使用される。この正規化法により得られるバイオマーカーを表4に示す(No.186から836)。
【0030】
マーカー150から185の使用が特に好ましい。
【0031】
信頼できる平均多さを得るために、用いられる全ての群は少なくとも40の患者又は対照試料からなる。診断の決定(膀胱癌かどうか)は、対照群又は膀胱癌群における平均多さと比較して、患者試料における個々のポリペプチドマーカーの多さがどれくらい高いかの関数としてなされる。多さが膀胱癌群の平均多さに相当するならば、膀胱癌が存在すると考えられ、対照群の平均多さに相当するならば、膀胱癌はないと考えられる。測定値と平均多さとの間の差は、この試料がある群に所属する可能性があると考えることができる。
【0032】
方法1に従った手順についてのさらに正確な定義は、マーカーNo.162により得られる(表3)。マーカーの平均多さは、膀胱癌において有意に増加する(対照群の1431ppmに対して6370ppm)。患者試料におけるこのマーカーについての値が0から1431ppmであるならば又はこの範囲を最大20%超えるならば、すなわち、0から1717ppmであるならば、この試料は対照群に属する。値が6370ppmもしくは20%までこれより低い又は高いならば、すなわち、5096と非常に高い値との間であるならば、膀胱癌が存在すると考えられる。
【0033】
方法2に関して、手順の事例的説明をマーカーNo.192により示す(表4)。マーカーの平均多さは膀胱癌において有意に増加する(対照群における44.29カウントに対して374.91カウント)。患者からの試料におけるこのマーカーに対する値が0から44.29カウントである又はこの範囲を最大20%超えるならば、すなわち0から53.15カウントであるならば、この試料は対照群に属する。値が374.91カウントもしくはこれより20%低い又は高いならば、すなわち300カウントと非常に高い値との間であるならば、膀胱癌の存在が考えられる。又は、測定値と平均多さの差は、この試料がある群に属する可能性があると考えることができる。
【0034】
【表7】

【0035】
【表8】



【0036】
ポリペプチドマーカーはまた、腫瘍段階の決定にも適している。BCのない患者と表面BCの患者間の鑑別診断のために、表5の頻度マーカー及び表6の多さマーカーが適している。
【0037】
【表9】

【0038】
【表10】

【0039】
さらに、鑑別診断により浸潤BCを認識できる。BCのない患者と浸潤BCの患者間の鑑別診断のために、表7の頻度マーカー及び表8の多さマーカーが適している。
【0040】
【表11】

【0041】
【表12】


【0042】
本発明のマーカーは、個々の段階pTaからpT4の鑑別診断のためにも用いることができる。
【0043】
1以上のポリペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さが決定される試料が得られる被験者は、膀胱癌にかかり得る任意の被験者、例えば、動物又はヒトである。好ましくは、被験者は哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、1つのポリペプチドマーカーだけでなく、膀胱癌を診断するためにマーカーの組み合わせが使用され、ここで、膀胱癌の存在は、これらマーカー多さの存在又は不在及び/又は多さの高さから結論づけられる。複数のポリペプチドマーカーを比較することにより、病気又は対照個体における通常存在する可能性からのわずかな個々の偏差から生じる全体における偏差を減少させ又は回避することができる。
【0045】
本発明に従った一つ以上のポリペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さを測定する試料は、被験者の身体から得られるいかなる試料であってもよい。この試料は、被験者の状態(膀胱癌かどうか)についての情報を提供するのに適するポリペプチド組成物を有する試料である。例えば血液、尿、滑液、組織液、体分泌物、汗、脳脊髄液、リンパ、腸液、胃液又は膵液、胆汁、涙液、組織試料、精液、膣液又は便試料であり得る。好ましくは液体試料である。
【0046】
好ましい実施形態において、試料は尿試料又は血液試料である。
【0047】
好ましい実施形態において、試料は尿試料又は血液試料であり、前記血液試料は血清又は血漿試料である。
【0048】
尿試料は、先行技術において公知の方法で採取することができる。好ましくは、本発明に関しては中流尿試料を前記尿試料として使用する。例えば尿試料はまた、カテーテル、又はWO01/74275に述べられている排尿装置によっても採取し得る。
【0049】
血液試料は、先行技術において公知の方法によって、例えば静脈、動脈又は毛細血管から採取することができる。通常、血液試料は、例えば被験者の腕から注射器を用いて静脈血を採取することによって得られる。「血液試料」という用語は、血漿又は血清などの、さらなる精製及び分離方法によって血液から得られる試料を包含する。
【0050】
試料中のポリペプチドマーカーの存在又は不在は、ポリペプチドマーカーを測定するのに適した先行技術で公知の何らかの方法によって判定し得る。このような方法は当業者に公知である。原則として、ポリペプチドマーカーの存在又は不在は、質量分析法などの直接法によって、又は例えばリガンドによる、間接法によって判定することができる。
【0051】
必要に応じて又は所望する場合は、被験者からの試料、例えば尿又は血液試料を、何らかの適切な手段によって前処理してもよく、例えば一つ以上のポリペプチドマーカーの存在又は不在を測定する前に精製又は分離し得る。この処理は、例えば精製、分離、希釈又は濃縮を含み得る。この方法は、例えば遠心分離、ろ過、限外ろ過、透析、沈殿、又は、アフィニティー分離又はイオン交換クロマトグラフィーによる分離、電気泳動分離などの、クロマトグラフィー法であり得る。この特定例は、ゲル電気泳動、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)、キャピラリー電気泳動、金属アフィニティークロマトグラフィー、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、レクチン系アフィニティークロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相及び逆相HPLC、陽イオン交換クロマトグラフィー及び表面への選択結合である。これらの方法は全て当業者に周知であり、当業者は、使用する試料及び一つ以上のポリペプチドマーカーの存在又は不在を判定するための方法に応じて方法を選択することができる。
【0052】
本発明の1つの実施形態において、キャピラリー電気泳動によって測定する前に分離され、試料を超遠心分離法によって精製する及び/又は限外ろ過によって特定分子サイズのポリペプチドマーカーを含む分画に分割する。
【0053】
好ましくは、ポリペプチドマーカーの存在又は不在を判定するために質量分析法を使用し、試料の精製又は分離はこのような方法の上流で実施し得る。現在使用されている方法と比較して、質量分析法は、試料の多くの(>100)ポリペプチドの濃度を1つの分析によって測定できるという利点を有する。いかなる種類の質量分析計も使用し得る。質量分析法によって、複雑な混合物において約±0.01%の測定精度で慣例的に、10fmolのポリペプチドマーカー、すなわち10kDaタンパク質0.1ngを測定することが可能である。質量分析計では、イオン形成ユニットが適切な分析装置に連結されている。例えば、エレクトロスプレー・イオン化(ESI)界面は、液体試料におけるイオンを測定するために殆んど使用され、一方、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)技術はマトリックスで結晶化した試料からのイオンを測定するために使用される。形成されたイオンを分析するために、四重極、イオントラップ又は飛行時間(TOF)分析器を用いることができる。
【0054】
エレクトロスプレー・イオン化法(ESI)では、溶液中に存在する分子を、特に高電圧(例えば1から8kV)の影響下で、噴霧し、これが最初は荷電した小滴を形成して、溶媒の蒸発によってより小さくなる。最終的に、いわゆるクローン爆発が遊離イオンの形成が起こし、次いで分析され、検出され得る。
【0055】
TOFによるイオンの分析において、特定の加速電圧が加えられ、これは等量の運動エネルギーをイオンに付与する。その後、フライングチューブを通って個々のイオンが特定の浮遊距離を移動する時間を非常に正確に測定する。等量の運動エネルギーでは、イオンの速度はこの質量に依存するので、後者はこのようにして決定することができる。TOF分析器は非常に高いスキャン速度を有し、従って、非常に高い分解能を達成する。
【0056】
ポリペプチドマーカーの存在及び不在を決定するための好ましい方法は、気相イオン分光分析、例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析、MALDI−TOF MS、SELDI−TOF MS(表面増強レーザー脱離/イオン化)、LC−MS(液体クロマトグラフィー/質量分析)、2D−PAGE/MS及びキャピラリー電気泳動−質量分析(CE−MS)を含む。記載されるすべての方法は当業者に公知である。
【0057】
特に好ましい方法は、キャピラリー電気泳動を質量分析法と組み合わせるCE−MSである。この方法は、例えばドイツ特許出願DE10021737、Kaiserら(J Chromatogr A、2003、Vol.1013:157−171及びElectrophoresis、2004、25:2044−2055)及びWittkeら(Journal of Chromatography A、2003、1013:173−181)にある程度詳しく述べられている。CE−MS技術は、短い時間内に小容量で、試料の数百のポリペプチドマーカーの存在を同時に高い感受性で測定することを可能にする。試料を測定した後、測定したポリペプチドマーカーのパターンを作成する。このパターンを疾患又は健常ヒトのパターンと比較することができる。ほとんどの場合において、膀胱癌の診断及び膀胱癌の異なる段階間の鑑別診断のために限定された数のポリペプチドマーカー、例えば、少なくとも6、8、10、20、50又は100のマーカーを使用することで十分である。
【0058】
ESI−TOF MS装置とオンラインで連結したCEを含むCE−MS法がさらに好ましい。
【0059】
CE−MSのためには、揮発性溶媒の使用が好ましく、基本的に塩分を含まない条件下で作業することが最も適切である。このような適切な溶媒の例は、アセトニトリル、メタノール等を含む。この溶媒は、分析物、好ましくはポリペプチドをプロトン化するために水又は混合された弱酸(例えば0.1%から1%ギ酸)にて希釈されることができる。
【0060】
キャピラリー電気泳動により、分子をこれらの電荷と大きさによって分離することが可能である。中性粒子は電流の適用時に電気浸透流の速度で泳動し、一方陽イオンは陰極に向かって加速され、陰イオンは遅延する。電気泳動における細管の利点は、電流フローの間に生じるジュール熱の良好な散逸を可能にする、表面対容積の良好な比率にある。これが次に、高電圧(通常は30kV)の適用を可能にし、このため高い分離性能と短い分析時間を可能にする。
【0061】
キャピラリー電気泳動において、典型的には50から75μmの内径を有するシリカガラスキャピラリーが通常用いられる。用いられる長さは30から100cmである。加えて、キャピラリーは通常プラスチックコートされたシリカから作られている。キャピラリーはどちらも未処理であり、すなわち、内部表面上のこの親水性基が露出している又はこの内部表面上で被覆されている。疎水性被覆(被覆:例えば、シリカの負極化表面を覆い隠す方法)を用いて、分解能を改善することができる。電圧に加えて、圧力も加えることができ、これは典型的には0から1psiの範囲である。圧力は実行中又は変更された間のみ加えることができる。
【0062】
ポリペプチドマーカーを測定するための好ましい方法において、試料のマーカーをキャピラリー電気泳動により分離し、次いで直接イオン化し、検出のためにこれが連結された質量分析計へオンラインで移す。
【0063】
本発明に従った方法では、膀胱癌の診断のためにいくつかのポリペプチドマーカーを使用することが好都合である。特に、少なくとも3個のポリペプチドマーカーは、例えばマーカー1、2及び3;1、2及び4などを使用し得る。
【0064】
より好ましいのは、少なくとも4個、5個又は6個のマーカーの使用である。
【0065】
なおいっそう好ましいのは、少なくとも15個のマーカー、例えば、マーカー1個から15個の使用である。
【0066】
最も好ましいのは表1又は4に記載される全てのマーカーの使用である。
【0067】
いくつかのマーカーが使用される場合に、膀胱癌の存在の可能性を決定するために、当業者に公知の統計的方法を使用できる。例えば、Weissingerらにより記載されているRandom Forests法(Kidney Int.、2004、65:2426−2434)は、コンピュータプログラム、例えば、同じ刊行物に記載されているS−Plus又はサポートベクターマシンを用いることにより使用できる。
【実施例】
【0068】
1.試料の作製
膀胱癌のポリペプチドマーカーを検出するために、尿を用いた。尿を健常ドナー(対照群)から並びに膀胱癌に罹患している患者から採取した。
【0069】
その後のCE−MS測定のために、アルブミン及び免疫グロブリンなどの高濃度で患者の尿中にも含まれるタンパク質を限外ろ過によって分離除去しなければならなかった。ここで、尿700μlを取り、ろ過緩衝液(2M尿素、10mMアンモニア、0.02%SDS)700μlと混合した。この1.4mlの試料容量を限外ろ過した(20kDa、Sartorius、Goettingen、Germany)。限外ろ過は、限外ろ液1.1mlが得られるまで遠心分離機において3000rpmで実施した。
【0070】
得られたろ液1.1mlを、次に、PD10カラム(Amersham Bioscience、Uppsala、Sweden)に適用し、0.01%NHOH 2.5mlで溶出し、凍結乾燥した。CE−MS測定のために、ポリペプチドを水20μl(HPLCグレード、Merck)に再懸濁した。
【0071】
2.CE−MS測定
CE−MS測定を、Beckman Coulter(P/ACE MDQ System;Beckman Coulter Inc.、Fullerton、USA)からのキャピラリー電気泳動システム及びBruker(micro−TOF MS、Bruker Daltonik、Bremen、Germany)からのESI−TOF質量分析計で実施した。
【0072】
CE細管はBeckman Coulterより供給され、内径/外径50/360μm、長さ90cmであった。CE分離のための移動相は、水中20%アセトニトリル及び0.25%ギ酸から成る。0.5%ギ酸との30%イソプロパノールをMSでの「シースフロー」のために2μl/分の流量で使用した。CEとMSの連結は、CE−ESI−MS Sprayer Kit(Agilent Technologies、Waldbronn、Germany)によって実現した。
【0073】
試料を注入するために1から6psiの最大値の圧力を適用し、注入期間は99秒間であった。これらのパラメータで、細管容積の約10%から50%に相当する、約150から900nlの試料を毛細管に注入した。細管内で試料を濃縮するために積層手法を用いた。このため、試料を注入する前に1M NH溶液を7秒間注入し(1psiで)、試料を注入した後、2Mギ酸溶液を5秒間注入した。分離電圧(30kV)を適用した後、分析物はこれらの溶液の間で自動的に濃縮された。
【0074】
この後のCE分離は圧法で実施した:0psiで40分間、次に0.1psiを2分、0.2psiを2分、0.3psiを2分、0.4psiを2分、及び最後に0.5psiを32分間。分離操作の合計期間は、このため、80分間であった。
【0075】
MSの側でできる限り良好なシグナル強度を得るために、ネブライザガスを可能な限り低い値に設定した。エレクトロスプレーを生成するためにスプレー針に適用した電圧は3700から4100Vである。質量分析計の他の設定条件は、製造者のプロトコールに従ってペプチド検出のために最適化した。m/z400からm/z3000までの質量範囲にわたってスペクトルを記録し、3秒ごとに累積した。
【0076】
3.CE測定のための標準
CE測定を確認し、較正するために、選択された条件下で、示されているCE泳動時間によって特徴付けられる以下のタンパク質及びポリペプチドを使用した。
【0077】
【表13】

【0078】
タンパク質/ポリペプチドは、各々、水中10pmol/μlの濃度で使用した。「REV」、「ELM」、「KINCON」及び「GIVLY」は合成ペプチドである。
【0079】
ペプチドの分子量及びMSで目に見える個々の電荷状態のm/z比は以下の表に列挙される。
【0080】
【表14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の少なくとも6個のポリペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さを決定する段階を含み、前記ポリペプチドマーカーはマーカー1から836から選択され、次の分子量及び泳動時間(CE時間)の値により特徴づけられる、膀胱癌(BC)の診断及び/又は膀胱癌の腫瘍段階を決定するための方法。
【表1】



【請求項2】
決定されたマーカー1から149の存在又は不在の評価が、次の基準値を用いることにより行われる、請求項1記載の方法。
【表2】

【請求項3】
マーカー150から185の多さの評価が、次の基準値を用いることにより行われる、請求項1記載の方法。
【表3】

【請求項4】
マーカー186から836の多さの評価が、次の基準値を用いることにより行われる、請求項1記載の方法。
【表4】



【請求項5】
請求項1に記載の少なくとも10又は20又は100又は全部のポリペプチドマーカーが使用される、請求項1から4の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項6】
被験者から得られる前記試料が尿試料又は血液試料(血清又は血漿試料)である、請求項1から5の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項7】
キャピラリー電気泳動、HPLC、気相イオン分光分析及び/又は質量分析が、ポリペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さを検出するために用いられる、請求項1から6の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項8】
キャピラリー電気泳動を、前記ポリペプチドマーカーの分子量を測定する前に実施する、請求項1から7の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリペプチドマーカー(一つ又は複数)の存在又は不在を検出するために質量分析法を使用する、請求項1から8の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が膀胱癌の診断に用いられる、請求項1から9の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が膀胱癌の腫瘍段階を決定するために用いられる、請求項1から9の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が膀胱癌の診断及び同時に膀胱癌の腫瘍段階を決定するために用いられる、請求項1から9の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項13】
膀胱癌の診断及び/又は腫瘍段階の決定のための、分子量及び泳動時間について請求項1に記載の値により特徴づけられる、マーカーNo.1から836から選択される少なくとも1つのペプチドマーカーの使用。
【請求項14】
a)試料を少なくとも3個、好ましくは10個の二次試料に分ける段階;
b)少なくとも2つの二次試料を、試料中の少なくとも1つのポリペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さを決定するために分析する段階(ここで、前記ポリペプチドマーカーはマーカー1から836から選択され、分子量及び泳動時間(CE)時間により特徴づけられる。)
を含む、膀胱癌(BC)の診断法。
【請求項15】
a)試料を少なくとも3個、好ましくは10個の二次試料に分ける段階;
b)少なくとも2つの二次試料を、試料中の少なくとも1つのポリペプチドマーカーの存在もしくは不在又は多さを決定するために分析する段階(ここで、前記ポリペプチドマーカーはマーカー1から836から選択され、請求項1に記載の分子量及び泳動時間(CE)時間により特徴づけられる。)
を含む、膀胱癌の腫瘍段階を決定する方法。
【請求項16】
少なくとも10個の二次試料が測定される、請求項14又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記CE時間が、25kVの印加電圧における、長さ90cmおよび50μmの内径(ID)のガラスキャピラリーに基づいており、20%のアセトニトリル、水中0.25%ギ酸が移動溶媒として使用される、請求項1から16の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1に記載の分子量及び泳動時間(CE時間)により特徴づけられる、マーカー1から836から選択される少なくとも10個のマーカーを含む、マーカーの組み合わせ。

【公表番号】特表2009−506310(P2009−506310A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527477(P2008−527477)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065742
【国際公開番号】WO2007/023191
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(507067984)モザイク・ダイアグノステイツクス・アンド・テラピユーテイツクス・アー・ゲー (5)
【Fターム(参考)】