説明

膀胱粘膜下組織由来組織グラフト

【課題】従来の腸粘膜下組織に代わって使用することができる非免疫原性組織グラフト用組成物の提供。
【解決手段】温血脊椎動物の膀胱のアルブミン筋層から剥離された粘膜下組織の組織材料を含む組成物、特に、該組織材料が、温血脊椎動物の膀胱の1切片のアルブミン筋層および膀胱の粘膜の少なくとも内腔部分両方から剥離された膀胱粘膜下組織である組成物。該組織材料を含む組成物は、液状または粉末状、あるいは、あらかじめ決めた内腔直径をもつ円筒形に形成され、その円筒形の長さに沿って縫合されたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織グラフト組成物およびその製法および使用に関するものである。より詳細に述べるならば、本発明は、膀胱粘膜下組織を含んでなる非免疫原性組織グラフト組成物、及び、内因性組織増殖を促進するためのその使用、に向けられる。
【背景技術】
【0002】
温血脊椎動物の脳の粘膜下層を含む組成物が組織グラフト材料として好都合に用いられることは公知である(例えば、特許文献1及び2参照)。これらの特許文献に記載されている組織グラフト組成物は、高コンプライアンス、高い破裂圧力点、およびこのような組成物を血管グラフトおよび結合組織グラフト構成物に好都合に使用せしめるような有効多孔度指数などを含めるすぐれた機械的特性を特徴とする。このような用途に用いるときこのグラフト構成物は、そのグラフト構成物によって置換される組織の再増殖のための基質として役立つのみならず、実際に内因性組織のそのような再増殖を促進または誘起するようにみえる。この再形成に至る一般的できごとは次のものを含む:広範囲の非常に速い血管新生、顆粒間葉性細胞の増殖、移植した粘膜下組織材料の生体内分解/吸収、および免疫拒絶がないこと、などである。
【0003】
腸粘膜下組織は、その明白な生物向性を喪失することなく、細砕および/またはプロテアーゼ消化によって液状化し、比較的侵襲性の少ない投与方法(例えば注入または局所投与)で、修復を必要とする宿主組織に使用できることも公知である(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
組織グラフトとして使用するために必要な特性をもつその他の天然および合成材料を見いだすために多くのその他の研究的努力が傾注されてきた。驚くべきことに、温血脊椎動物の膀胱組織の離層によって作られる膀胱粘膜下組織(UBS)が腸粘膜下組織で報告されたものに類似の機械的特性および生物向性を示すことが見いだされた。それは腸粘膜下組織でこれまでに報告されたすべてとは言わないまでも大部分の用途において腸粘膜下組織に代わって使用することができる。
【0005】
本発明の組織グラフト組成物は温血脊椎動物の膀胱に由来する膀胱粘膜下組織を含む。膀胱壁は下記の層からなる:粘膜(一過性上皮層および固有層)、粘膜下層、筋肉の3層、および外膜(粗の結合組織層)―これらは、厚さを示す断面で見て、内腔側から abluminal 側に記載してある。本発明によって使用するための膀胱粘膜下組織は abluminal 筋層と、膀胱組織の粘膜の少なくとも内腔部分とから剥離される。本発明のグラフト組成物を脊椎動物宿主に移植または注入し、損傷または欠損組織の修復または置換を引き起こすことができる。
【特許文献1】米国特許第4,902,508号公報
【特許文献2】米国特許第5,281,422号公報
【特許文献3】米国特許第5,275,826号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による組織グラフト組成物は隣接膀胱組織層から剥離した温血脊椎動物の膀胱粘膜下組織を含んでなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明による組織グラフト組成物は隣接膀胱組織層から剥離した温血脊椎動物の膀胱粘膜下組織を含んでなる。こうして本発明の組織グラフト組成物は、温血脊椎動物の膀胱の1切片の外側の筋細胞層と、粘膜層の少なくとも内腔部分とから剥離された膀胱粘膜下組織を含んでなる。一般的には、下記の剥離法によって実質上膀胱粘膜下組織からなる組織組成物が作られる。これらの組成物は本明細書では一般的には膀胱粘膜下組織(UBS)と記す。
【0008】
UBSグラフト材料は食肉生産のために飼育される例えばブタ、ウシおよびヒツジなどの動物またはその他の温血脊椎動物から収穫した膀胱組織から作るのが普通である。そのため、本発明による組織組成物の作成に用いる膀胱組織ソースは市場で安く手に入る。
【0009】
膀胱の1切片からUBSを製造する方法は、米国特許第4,902,508号に詳細に記載される腸粘膜下組織の製法に類似している;その開示はここに引例によって明白に挿入される。膀胱組織の1切片をまず最初に縦方向のふきとり運動によってこすりとり、外側層(特に abluminal 平滑筋層)と、粘膜層の内腔部分(上皮層)とを両方取りはずす。生成した粘膜下組織は約80マイクロメーターの厚さをもち、主として(98%以上)無細胞性、好エオジン性染色(H&E染色)の細胞外基質物質からなる。時には血管、および線維細胞と一致する紡錘細胞が組織全体に散らばっている。典型的にはUBSを生理食塩液ですすぎ、任意に、下記のように使用するまで凍結水和状態で保存する。
【0010】
液状UBSは、米国特許第5,275,826号に記載される液状腸粘膜下組織の製法と同様な方法で作られる;この開示はここに引例によって明白に挿入される。UBSを引き裂き、切断、粉砕、破砕などによって細砕する。UBSを凍結または凍結乾燥した状態で粉砕することが好ましい、ただし粘膜下組織小片の懸濁液を高速(高剪断)ブレンダー中で処理し、必要ならば、過剰水の遠心分離および傾瀉によって脱水する方法も好結果をもたらす。その他に、膀胱粘膜下組織をプロテアーゼ、例えばトリプシンまたはペプシンなど、またはその他の適した酵素類で、上記組織を溶解化して実質上均質な溶液を生成するのに十分な時間、酵素消化することによって、細砕して液状にした組織を溶解性にすることができる。
【0011】
本発明はUBSの粉末型の使用も考慮する。1実施例において、膀胱粘膜下組織を液体窒素下で粉末にし、0.1ないし1mm2の大きさの粒子にすることによって、粉末型UBSを作ることができる。粒状組成物をそれから1晩凍結乾燥し、滅菌し、固体の実質上無水の粒状組成物を形成する。別法として、粉末状UBSは液状UBSから、細砕したUBSの懸濁液または溶液の乾燥によって作ることができる。
【0012】
本発明のUBS組織組成物は、損傷組織の修復または置換、例えば血管および結合組織の修復などに関する非常に種々様々の外科的用途に役立つ。本発明の目的に適する結合組織としては、骨、軟骨、筋肉、腱、靭帯および、例えば皮膚層などの線維組織が含まれる。
【0013】
本発明において、本発明のグラフト組成物を用い、温血脊椎動物の所望部位で内因性組織の生成を誘起するのが好ましい。膀胱粘膜下組織を含む組成物を、脊椎動物宿主に、損傷または疾病組織が存在するために内因性組織増殖を必要とする宿主部位において内因性組織増殖を誘起するのに十分な量、投与することができる。UBS組成物は、上記宿主に固体またはシート型を手術で移植することにより、または液状で注入することによって投与することができる。
【0014】
1実施態様において、シート形の本発明のUBS組成物を用いて血管グラフトを形成することができる。グラフトの直径はレシピエント血管の直径と大体同じでなければならない。これは、UBSを操作してレシピエント血管と大体同じ直径をもつ円柱形を作り、その組織グラフトを縦方向に縫合または他の方法で固定し、前記血管グラフトを形成するという方法で達せられる。例えばレシピエント血管の直径に等しい外径をもつ滅菌ガラス棒を選択し、UBSシートをそのガラス棒の回りに巻き、余分の組織をかき寄せることによっ前記血管グラフトを作ることができる。所望内腔直径を得るためにはグラフトの長さにそって縫合するか(例えば2本の連続縫合線または1本の断続縫合線を用いる)、またはその他の、当業者には公知の組織固定法を用いる。標準的血管外科技術を用いてその血管グラフトを損傷または疾患血管に外科的に置換する。
【0015】
UBSが血管グラフト材料として使用されるのと一貫性のよいこととして、UBSはそのような組織グラフト材料に非常に所望の機械的特性、例えば低い多孔度指数、高コンプライアンス、および高い破裂圧力点などを有する。熟練せる当業者は、血管グラフト材料が手術時出血を防ぐためには十分低い多孔度を、だが新生する“血管の血管(vasa vasorum)”がグラフト材料を通して広がり、内腔表面に栄養を送るためには十分高い多孔度をもたねばならないことを理解する。
【0016】
グラフト材料の多孔度は典型的には120mmHgの圧力でcm2min-1あたり通過する水のml数として測定される。UBSは120mmHgでは電離水に対して示差的多孔度をもつ。UBSの内腔から abluminal 側への“多孔度指数”は約6.0である;一方反対方向の多孔度指数は約50である。この示差的多孔度は腸粘膜下組織でも認められるが、その数値はUBSのこれらの数値より1桁小さい。
【0017】
UBS切片は本発明により、米国特許第5,281,422号および第5,352,463号において脳粘膜下組織の使用に関して記されている同じ方法を用いて結合組織の修復または置換に使用するための組織グラフト構成物として用いることもできる;上記特許は引例によりここに明白に挿入される。UBS組成物は剥離した天然シートの形で用いることができる、またはそれを縦方向または横方向に切り、細長い組織切片を作ることができる。このような切片またはシートは中間部分と、向かい合う末端部分と向かい合う側方部分をもち、それらは外科的に容認される方法を用いて、現にある生理的構造に外科的に付着するように形成することができる。
【0018】
本発明により形成され使用されるグラフトは、移植時に生物学的再形成を受ける。それらは急速に血管化する基質として、新しい内因性結合組織の支持および増殖に役立つ。組織グラフト材料として用いるとき、UBSは、UBSが移植環境下で付着し、または他の方法で関係する宿主組織に栄養を与える機能をもつことが判明した。グラフト材料は再形成され(吸収され、内因性分化組織で置換され)、グラフト材料が関係する移植部位組織の特異的特徴を装うことが判明した。腱および靭帯の置換において、そのグラフトには滑液を分泌する表面が発生するようにみえる。その上、グラフトと内因性組織との間の境界はもはや認められない。実際単一のグラフトが、移植されたときに複数の微小環境に「出くわす」場合、そのグラフトはその長さに沿って異なる再形成を受ける。例えば、十字靭帯置換実験に用いた場合、その関節を横切るグラフト部分は血管化し、実際、元の靭帯のような外観をもち、増殖して元の靭帯のように機能するが、大腿骨および脛骨トンネルのグラフト部分は急速にこれらトンネルの皮質および海綿質骨の発生に組み込まれ、それを促進する。
【0019】
腱及び靭帯の置換に用いる場合、およびその他の結合組織修復に用いる場合には、UBSグラフト構成物はそのグラフト構成物を生成した膀胱粘膜下組織の長さより長く縦方向に伸長することによって予備的条件づけをするのが一般的である。「予備的条件づけ」の一方法は、或る負荷を膀胱粘膜下組織に3ないし5サイクル与えることを含む。各サイクルはグラフト材料に負荷を5秒間与え、その後10秒間弛緩させることからなる。3ないし5サイクルの結果、伸長して条件づけられて(stretch−conditioned)歪みの減少したグラフト材料が、生成される。グラフト材料はその元の大きさには戻らない。それは“伸長した”寸法のままにとどまる。例えばUBS切片は前記切片に、その組織切片の約10ないし約20%以上伸長させるのに十分な時間重りを吊り下げることによって条件づけることができる。任意には、グラフト材料を横方向に伸長することによって予備的に条件づけることができる。グラフト材料は縦方向にも横方向にも同様な粘弾性を示す。
【0020】
グラフト切片をそれから種々の形状および構造に成形し、例えば靭帯または腱置換物として、または破壊されたり、切れたりした鍵または靭帯のパッチとして役立つ。好適には切片は、骨、腱、靭帯、軟骨および筋肉を含める生理的構造に付着する際の補強となる複数層のグラフト材料をもつように形成された、少なくとも向かい合う末端部分および/または向かい合う側方部分を有する、1層または多層構造の形状および構造に造られる。靭帯置換に用いる場合は向かい合う末端を標準的外科的技術で第1及び第2骨それぞれに結合する;普通はそれらの骨は膝関節の場合のように関節でつながっている。
【0021】
UBS材料の末端部分は、付着点でグラフトが引き裂かれる可能性を減らすような方法で、例えば骨構造に結合するように形成され、操作されまたは形造られる。その材料は、例えばスパイク付きワッシャーまたはステープルなどで固定するための多層を形成するために折りたたむことができ、または一部を役立て得ることが好ましい。
【0022】
或いは、UBS材料をそれ自体の上に折り返して末端部分を合わせて、例えば第1骨に付着するための結合部分と、第1骨と関節でつながっている第2骨に付着する第2の結合部分となる中間部分の曲がり目を提供してもよい。例えば末端部分の1つが例えば大腿のトンネルを通って引っぱられ、それに付着し、他方末端部分のもう一つは脛骨のトンネルを通って引っぱられ、それに取り付けられて、天然十字靭帯の置換物となり、その切片はトンネル間に張力をもった状態で置かれ、正常靭帯によってもたらされる靭帯機能、すなわち張力および固定機能をもつようになる。
【0023】
本発明のUBS組成物は従来の滅菌法、例えばグルタールアルデヒドによるタンニン処理、酸性pHにおけるホルムアルデヒドによるタンニン処理、エチレンオキシド処理、プロピレンオキシド処理、ガスプラズマ滅菌、ガンマ照射、および過酢酸滅菌などを用いて滅菌される。グラフトの機械的強度および生物向性を顕著には弱めない滅菌法を用いるのが好ましい。例えば強いガンマ照射はグラフト材料の強度の損失をおこすと考えられている。これらの腸粘膜下組織グラフトの最も魅力的な特徴の1つは、それらの宿主の再形成反応を引き出せる能力であるから、その特性を減少させる滅菌法は用いないことが好ましい。好適滅菌法としては、グラフトを過酢酸、低線量ガンマ照射、およびガスプラズマ滅菌にさらすことが含まれる;過酢酸滅菌が最も好ましい方法である。一般的には、組織グラフト組成物を滅菌した後、組成物を多孔性プラスチックラップに包み、電子ビームまたはガンマ照射滅菌法を用いて再度滅菌する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温血脊椎動物の膀胱のabluminal 筋層から剥離された粘膜下組織を含む組織材料を含む組成物。
【請求項2】
組織材料が、温血脊椎動物の膀胱の1切片のabluminal 筋層および膀胱の粘膜の少なくとも内腔部分両方から剥離された粘膜下組織である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組織材料が液状である請求の範囲1に記載の組成物。
【請求項4】
組織材料をプロテアーゼによって、組織材料が溶解して実質上均質の溶液となるのに十分な時間消化する請求の範囲1に記載の組織グラフト組成物。
【請求項5】
組織材料が乾燥し、粉末状である請求の範囲1に記載の組成物。
【請求項6】
あらかじめ決めた内腔直径をもつ円筒形に形成され、その円筒形の長さに沿って縫合された請求の範囲1に記載の組成物。
【請求項7】
グラフト構成物を形成した膀胱組織材料の切片より長いグラフト構成物を形成するように伸長することによって、結合組織置換物として使用するための条件づけを行った請求の範囲1に記載の組成物。
【請求項8】
温血脊椎動物に移植したときに内因性組織の増殖を誘起することができる組織グラフトの製造に有用な組成物であって、温血脊椎動物の膀胱のabluminal 筋層から剥離された粘膜下組織を含む組織材料を含んでなる組成物。
【請求項9】
組織材料が、温血脊椎動物の膀胱の1切片のabluminal 筋層および粘膜の少なくとも内腔部分の両方から剥離された粘膜下組織である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
組織材料が液状である請求の範囲8に記載の組成物。
【請求項11】
組織材料をプロテアーゼによって、組織材料が溶解して実質上均質の溶液となるのに十分な時間消化する請求の範囲8に記載の組織グラフト組成物。
【請求項12】
組織材料が乾燥し、粉末状である請求の範囲8に記載の組成物。
【請求項13】
あらかじめ決めた内腔直径をもつ円筒形に形成され、その円筒形の長さに沿って縫合された請求の範囲8に記載の組成物。
【請求項14】
グラフト構成物を形成した膀胱組織材料の切片より長いグラフト構成物を形成するように伸長することによって、結合組織置換物として使用するための条件づけを行った請求の範囲8に記載の組成物。
【請求項15】
非免疫原性であることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項16】
温血脊椎動物の内因性組織増殖を必要とする部位に移植され、内因性組織の形成を誘起するグラフト組成物の製造における、温血脊椎動物の膀胱のabluminal 筋層から剥離された粘膜下組織を含む組織材料の使用方法。
【請求項17】
前記組織材料は、温血脊椎動物の膀胱の1切片のabluminal 筋層および粘膜の少なくとも内腔部分の両方から剥離された粘膜下組織である請求項16に記載の使用方法。
【請求項18】
グラフト組成物が液状であり、温血脊椎動物に注入によって投与される請求の範囲16に記載の使用方法。
【請求項19】
グラフト組成物が、その組成物の温血脊椎動物への外科的移植によって投与される請求の範囲16に記載の使用方法。
【請求項20】
温血脊椎動物の膀胱組織からの粘膜下組織を含む組織グラフト組成物であって、abluminal 筋層が前記膀胱組織から除去され、前記膀胱組織がブタ由来である組織グラフト組成物。

【公開番号】特開2008−156368(P2008−156368A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24338(P2008−24338)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【分割の表示】特願平8−530277の分割
【原出願日】平成8年2月22日(1996.2.22)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】