説明

膜ろ過方法

【課題】ろ過膜の閉塞の進行を抑制し、ろ過膜の薬品洗浄頻度や交換頻度を低減することが可能な膜ろ過方法を提供する。
【解決手段】被処理水と、塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム溶液(PAC溶液)とを混和して凝集処理水を得る前処理工程と、凝集処理水をろ過膜でろ過し、ろ過水を得る膜ろ過工程と、ろ過膜を所定の間隔で逆流洗浄する逆洗工程とを含むことを特徴とする膜ろ過方法である。なお、この膜ろ過方法では、ろ過膜としてセラミック製のろ過膜を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過膜を用いて被処理水をろ過する膜ろ過方法に関し、特に、浄水場等において被処理水をろ過する際に好適に使用し得る膜ろ過方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上水処理、下水処理、工業用水処理、工業排水処理などの各種水処理分野において、被処理水をろ過して被処理水中の懸濁物質(SS:suspended solids)を除去し、清浄なろ過水を得る方法として、膜ろ過法が用いられている。そして、この膜ろ過法では、一般に、硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を用いて被処理水中の懸濁物質を凝集(フロック化)させた後に、微細孔が形成されたろ過膜を用いて被処理水をろ過している。
【0003】
ここで、膜ろ過法で被処理水を連続的にろ過する場合、ろ過の継続に伴い、ろ過膜が閉塞(ファウリング)して膜差圧が上昇し、ろ過膜が所望のろ過性能を発揮できなくなることがある。そのため、膜ろ過法を用いて被処理水を処理する際には、定期的にろ過膜を逆流洗浄(以下「逆洗」という。)し、ろ過膜に付着した懸濁物質のフロック等のファウリング原因物質を定期的に除去している。
【0004】
しかし、逆洗を実施してもろ過膜からファウリング原因物質を完全に除去することはできないため、被処理水の膜ろ過を長時間実施すると、定期的に逆洗を実施していても、ろ過膜の閉塞が次第に激しくなり(即ち、ろ過膜の閉塞が進行し)、膜差圧が徐々に上昇してしまう。そして、ろ過の継続が不可能なレベルまでろ過膜の閉塞が進んだ場合には、薬品を用いたろ過膜の洗浄(CIP:薬品洗浄)を実施する必要が生じる。また、薬品洗浄を実施してもろ過膜の閉塞が解消しない場合には、ろ過膜自体を新たなろ過膜に交換する必要が生じる。
【0005】
そこで、ろ過膜の閉塞の進行を抑制し、膜差圧の上昇速度を低減することにより、ろ過膜の薬品洗浄頻度やろ過膜の交換頻度を低減して長時間の膜ろ過を低コストで実現する方法として、凝集剤添加後の被処理水のpHを被処理水の水質に応じた所定のpHに調整した後で被処理水をろ過する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−221168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の膜ろ過方法には、ろ過膜の薬品洗浄頻度や交換頻度を更に低減して被処理水のろ過に必要な運転コストを更に低減するという点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、ろ過膜の閉塞の進行を抑制してろ過膜の薬品洗浄頻度およびろ過膜の交換頻度を低減することが可能な膜ろ過方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行い、所定の塩基度を有するポリ塩化アルミニウム溶液(PAC溶液)を凝集剤として用いて被処理水の膜ろ過を実施することで、ろ過膜の閉塞の進行を抑制してろ過膜の薬品洗浄頻度および交換頻度を低減し得ること(即ち、薬品コストおよび運転コストを低減し得ること)を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の膜ろ過方法は、被処理水と、塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム溶液とを混和して凝集処理水を得る前処理工程と、前記凝集処理水をろ過膜でろ過し、ろ過水を得る膜ろ過工程と、前記ろ過膜を所定の間隔で逆流洗浄する逆洗工程とを含むことを特徴とする。このように、塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム溶液を用いて被処理水を前処理し、得られた凝集処理水を膜ろ過すれば、ろ過膜に付着するファウリング原因物質の逆洗時の剥離性(除去性)を向上させることができる。従って、本発明の膜ろ過方法に従い被処理水をろ過すれば、ろ過膜の閉塞の進行を抑制してろ過膜の薬品洗浄頻度および交換頻度を低減することができる。
なお、本発明における「ポリ塩化アルミニウム溶液の塩基度」は、日本水道協会(JWWA)の規格JWWA K 154に従って求めることができる。また、本発明において、逆流洗浄を実施する「所定の間隔」は、ろ過膜の性能等に応じて既知の手法で定めることができ、例えば、予め定めた一定の時間間隔としても良いし、ろ過膜の膜差圧の大きさに応じて定まる間隔としても良いし、ろ過水の水質に応じて定まる間隔としても良い。
【0011】
ここで、本発明の膜ろ過方法は、前記ろ過膜が、セラミック製のろ過膜であることが好ましい。塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム溶液と被処理水とを混和して得た凝集処理水を膜ろ過した際にろ過膜に付着するファウリング原因物質は、ろ過膜がセラミック製の場合に逆洗時の剥離性が特に良好であるため、ろ過膜をセラミック製にすれば、ろ過膜の閉塞の進行を更に抑制することができるからである。また、ろ過膜がセラミック製の場合、逆洗時にろ過膜から剥離したファウリング原因物質の沈降性が良好になり、逆洗時に生じる排水(逆洗排水)を低コストで容易に処理することができるからである。
【0012】
また、本発明の膜ろ過方法は、前記セラミック製のろ過膜が、モノリス型セラミック膜であることが好ましい。セラミック製のろ過膜が多孔質セラミックの内部に複数の通水貫通孔を設けた所謂モノリス形状である場合、凝集処理水のろ過時に凝集処理水中のフロックが通水貫通孔内で互いに接触して更に緻密化および粗大化するので、逆洗時のファウリング原因物質の剥離性が更に向上し、ろ過膜の閉塞の進行をより一層抑制することができるからである。また、逆洗時にろ過膜から剥離したファウリング原因物質の沈降性が更に良好になり、逆洗排水を更に低コストで容易に処理することができるからである。なお、凝集処理水中のフロックは、PAC溶液として塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム溶液を用いた際に特に顕著に通水貫通孔内で緻密化・粗大化する。
【0013】
そして、本発明の膜ろ過方法は、前記逆洗工程において、逆洗水を150kPa以上の圧力でろ過膜に流通することが好ましい。逆洗水を150kPa以上の圧力でろ過膜に流通させた場合、ファウリング原因物質がろ過膜から良好に剥離し、ろ過膜の閉塞の進行を更に抑制することができるからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の膜ろ過方法によれば、ろ過膜の閉塞の進行を抑制し、ろ過膜の薬品洗浄頻度および交換頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従う代表的な膜ろ過方法を用いて被処理水をろ過する際に適用し得る膜ろ過システムの構成を示す説明図である。
【図2】本発明に従う膜ろ過方法で使用し得るセラミック膜の構造を、セラミック膜の一部を切り欠いて示す説明図である。
【図3】実施例および比較例に係る方法を用いて被処理水を膜ろ過した場合における、ろ過時間と、逆洗直後の膜差圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の膜ろ過方法は、凝集剤として塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム溶液(以下「PAC溶液」と称する。)を用いることを特徴とする。
【0017】
ここで、本発明の膜ろ過方法の一例は、特に限定されることなく、例えば図1に示すような膜ろ過システムを用いて実施することができる。そして、本発明の膜ろ過方法の一例は、例えば、浄水場において河川水や湖沼水などの被処理水をろ過して水道水を製造する際に用いることができる。なお、本発明の膜ろ過方法は、特に限定されることなく膜分離活性汚泥法(MBR)を用いた下水の処理等でも用いることができる。
【0018】
図1に示す膜ろ過システム10は、被処理水と所定の塩基度のPAC溶液とを混和して凝集処理水を得る凝集混和槽1と、凝集混和槽1から凝集処理水ポンプ4を介して供給された凝集処理水をろ過膜(図示せず)でろ過してろ過水を得る膜ろ過ユニット5と、膜ろ過ユニット5のろ過膜の逆流洗浄(逆洗)に用いる逆洗水を貯留する逆洗水槽6とを備えている。
【0019】
ここで、凝集混和槽1は、被処理水と塩基度が65%以上85%以下のPAC溶液とを急速撹拌条件下で混合する急速撹拌槽2と、急速撹拌槽2で混合した被処理水とPAC溶液との混合物を緩速撹拌条件下で混合する緩速撹拌槽3とからなる。
【0020】
急速撹拌槽2は、槽内を撹拌する撹拌機21と、塩基度が65%以上85%以下のPAC溶液を急速撹拌槽2中の被処理水に添加するPACポンプ22とを備えている。そして、この急速撹拌槽2では、被処理水とPAC溶液とが急速な撹拌によって直ちに混合され、被処理水中の懸濁物質が凝集して微細なフロックを形成する。
【0021】
なお、急速撹拌槽2で被処理水に添加する塩基度が65%以上85%以下のPAC溶液は、例えば特開2009−203125号公報に記載の方法で製造することができる。具体的には、上記PAC溶液は、例えば、Al23濃度が5〜17質量%、Cl/Al23(モル比)が1.80〜3.60、SO4/Al23(モル比)が0〜0.35で且つ塩基度が40〜63%の塩基性塩化アルミニウム溶液に、85℃以下の温度下でアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の化合物を添加した後、65〜85℃の温度で0.5〜2時間熟成を行うことによって製造することができる。
【0022】
緩速撹拌槽3は、槽内を撹拌する撹拌機31を備えており、緩速撹拌槽3には、急速撹拌槽2で被処理水とPAC溶液とを混合して得た、微細なフロックを含有する被処理水が流入する。そして、緩速撹拌槽3では、被処理水とPAC溶液との混合物である、微細なフロックを含有する被処理水が例えばGT値=23000〜210000の緩速撹拌条件下で混合され、被処理水中のフロックが粗大化する。
【0023】
即ち、急速撹拌槽2および緩速撹拌槽3からなる凝集混和槽1では、PAC溶液の凝集作用により被処理水中の懸濁物質が凝集して、粗大なフロックを含有する凝集処理水が得られる。なお、本発明の膜ろ過方法では、急速撹拌槽2および/または緩速撹拌槽3に代えてインライン型ミキサー等を用いてもよい。
【0024】
凝集処理水ポンプ4は、凝集混和槽1の緩速撹拌槽3から膜ろ過ユニット5へと凝集処理水を送水するポンプである。そして、この膜ろ過システム10では、凝集処理水ポンプ4と膜ろ過ユニット5との間に、開閉自在の凝集処理水弁51が設けられている。
【0025】
膜ろ過ユニット5は、凝集処理水が流入する流入口とろ過水が流出する流出口とを有する容器をろ過膜で一次側(凝集処理水が流入する側)と二次側(ろ過水が流出する側)に区画して構成されており、この膜ろ過ユニット5では、容器に流入した凝集処理水の全量がろ過(デッドエンドろ過)される。そして、膜ろ過ユニット5で凝集処理水をろ過して得たろ過水は、開閉自在のろ過水弁52を介してろ過水槽(図示せず)に送られる。なお、膜ろ過ユニット5でのろ過は、クロスフロー方式で行っても良い。
【0026】
ここで、膜ろ過ユニット5で用いるろ過膜としては、特に限定されることなく、有機材料製若しくは無機材料製の精密ろ過膜または限外ろ過膜を挙げることができる。具体的には、ろ過膜としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜、酢酸セルロース(CA)膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜、ポリアクリロニトリル(PAN)膜、ポリエチレン(PE)膜、ポリエーテルスルホン(PES)膜またはセラミック膜を用いることができる。
【0027】
逆洗水槽6は、開閉自在の逆洗弁61を介して膜ろ過ユニット5の二次側(膜ろ過ユニット5を構成する容器の流出口)と接続しており、逆洗水槽6には、膜ろ過ユニット5のろ過膜の逆洗に用いる逆洗水が貯留されている。そして、この膜ろ過システム10では、膜ろ過ユニット5のろ過膜を逆洗する際には、逆洗水槽6へ加圧空気を供給して逆洗水槽6内の逆洗水を押し出すことで、高圧の逆洗水が逆洗水槽6から膜ろ過ユニット5の二次側へと逆洗弁61を介して送られる。なお、膜ろ過ユニット5のろ過膜を逆洗する際に膜ろ過ユニット5の一次側(膜ろ過ユニット5を構成する容器の流入口)から流出する逆洗排水は、凝集処理水弁51と膜ろ過ユニット5との間から分岐する配管を通り、開閉自在の逆洗排水弁62を介して排水処理設備(図示せず)へと送られる。因みに、逆洗水としては、特に限定されることなく、膜ろ過ユニット5で凝集処理水をろ過して得たろ過水を用いることができる。
【0028】
そして、この膜ろ過システム10では、以下のようにして、所定間隔で膜ろ過ユニット5のろ過膜の逆洗を実施しながら、被処理水のろ過が行われる。なお、ろ過膜の逆洗間隔は、予め定めた一定の時間間隔としても良いし、ろ過膜の膜差圧の大きさに応じて定まる間隔としても良いし、ろ過水の水質に応じて定まる間隔としても良い。
【0029】
まず、被処理水のろ過を実施する際には、凝集処理水弁51、ろ過水弁52を開き、逆洗弁61および逆洗排水弁62を閉じた状態で、被処理水と所定の塩基度のPAC溶液とを混和して得た凝集処理水を(前処理工程)、凝集混和槽1から膜ろ過ユニット5の一次側へと凝集処理水ポンプ4で送り、膜ろ過ユニット5のろ過膜でろ過する(膜ろ過工程)。
【0030】
そして、一定のろ過時間が経過した際、或いは、凝集処理水中に含まれているフロック等のファウリング原因物質のろ過膜への付着などにより膜ろ過ユニット5の膜差圧が所定の圧力まで上昇した際には、例えば以下の手順でろ過膜を逆流洗浄する(逆洗工程)。具体的には、まず、凝集処理水弁51、ろ過水弁52を閉じると共に凝集処理水ポンプ4を停止し、逆洗弁61を開いた状態で、加圧空気で加圧した逆洗水を逆洗水槽6から膜ろ過ユニット5の二次側へと送り、ろ過膜を加圧した状態で保持する(加圧工程)。次に、逆洗排水弁62を開き、逆洗水を逆洗排水弁62から排出することによってろ過膜を逆洗する(ブロー工程)。なお、ブロー工程で排出される、ろ過膜の表面に付着したフロック等のファウリング原因物質を含む逆洗水(逆洗排水)は、逆洗排水弁62を介して排水処理設備(図示せず)へと送られ、処理される。
【0031】
ここで、この膜ろ過システム10を用いた膜ろ過方法では、塩基度が65%以上85%以下のPAC溶液を使用して被処理水中の懸濁物質を凝集させているので、被処理水が河川水などのpH6〜8.5程度の水であれば、被処理水のpHを調整しなくても懸濁物質を十分に凝集させることができ、pH調整に必要な薬品コストを低減し得ると共に、PAC溶液からのアルミニウムの溶出を抑制し得る。また、被処理水中の懸濁物質と共に有機物もフロック中に取り込まれて除去されるので、有機物濃度の低い清浄なろ過水を得ることができる。
【0032】
また、塩基度が65%以上85%以下のPAC溶液を使用して被処理水中の懸濁物質を凝集させた場合、ろ過膜からの剥離性が良好なフロックが形成される。従って、この膜ろ過システム10を用いた膜ろ過方法では、フロックがろ過膜に付着してファウリング原因物質となっても、逆洗によりろ過膜から容易に剥離除去することができる。よって、所定間隔での逆洗によりファウリング原因物質の蓄積によるろ過膜の閉塞の進行を抑制し、ろ過膜の薬品洗浄頻度およびろ過膜の交換頻度を低減することができる。なお、剥離性が良好なフロックが形成されるのは、明らかではないが、塩基度が65%以上85%以下のPAC溶液を用いて形成したフロックは荷電の中和が進んでいるためと推察されている。また、塩基度が65%以上85%以下のPAC溶液は固体状態のアルミニウムを多く含み、PAC溶液中のアルミニウムの大半が分画分子量3kDa以上で溶液中のアルミニウムの結晶化が進んでおり、更に、塩基度が65%以上85%以下のPAC溶液が高い荷電中和力を持つためであると推察されている。
【0033】
なお、本発明の膜ろ過方法は、上記一例に限定されることなく、本発明の膜ろ過方法には、適宜変更を加えることができる。
【0034】
具体的には、本発明の膜ろ過方法においては、ろ過膜ユニット5のろ過膜として、セラミック製のろ過膜、例えばアルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、ムライト、スピネル、或いは、これらの混合物などからなるセラミック膜を用いることが好ましい。具体的には、膜ろ過ユニット5のろ過膜としては、図2にその一部を切り欠いて示すような、被処理水が流入する蓮根状の孔(通水貫通孔)71を有するモノリス型のセラミック膜7を用いることが好ましい。なお、このモノリス型のセラミック膜7を容器の内部に収納してなる膜ろ過ユニット5では、セラミック膜7の孔71に流入した凝集処理水が、各孔71の表面に位置する分離層(緻密な膜面)でろ過されて外表面72から流出する。即ち、このセラミック膜7を用いた膜ろ過ユニット5では、セラミック膜7の蓮根状の孔71側が一次側となり、分離層より後側が二次側となる。
【0035】
このように、ろ過膜としてセラミック製のろ過膜を使用すれば、逆洗時にろ過膜からフロック等のファウリング原因物質がより良好に剥離除去されるので、有機材料製のろ過膜を使用した場合と比較して、ろ過膜の閉塞の進行を更に抑制し、ろ過膜の薬品洗浄頻度およびろ過膜の交換頻度を更に低減することができるからである。また、セラミック製のろ過膜を使用した場合、逆洗時にろ過膜から剥離したフロック等のファウリング原因物質の沈降性が良好になるので、逆洗排水の処理に用いる沈殿槽の設置面積等を小さくして、逆洗排水の処理を容易かつ低コストで実施することができるからである。なお、セラミック製のろ過膜を用いた場合にファウリング原因物質の剥離性および沈降性が向上する原因は、明らかではないが、塩基度が65%以上85%以下のPAC溶液を用いて形成した、荷電の中和が進んだフロックと、セラミック膜表面との親和性が低く、緻密なフロックが容易に剥離するためであると推察されている。
【0036】
また、モノリス型のセラミック膜からなるろ過膜を使用すれば、孔(通水貫通孔)71内で凝集処理水中のフロック同士が効率的に接触するので、フロック相互の接触効率を向上して粗大かつ緻密なフロックの形成を促進することができるからである。
【0037】
従って、本発明の膜ろ過方法では、ろ過膜としてモノリス型セラミック膜を用いれば、逆洗時のファウリング原因物質の剥離性が更に向上するので、ろ過膜の閉塞の進行をより一層抑制し、ろ過膜の薬品洗浄頻度およびろ過膜の交換頻度をより一層低減することができる。また、逆洗時にろ過膜から剥離したフロック等のファウリング原因物質の沈降性を良好にして、逆洗排水の処理を容易かつ低コストで実施することができる。なお、本発明の膜ろ過方法では、セラミック膜の形状はモノリス型に限定されるものではない。
【0038】
更に、この発明の膜ろ過方法では、膜ろ過ユニット5の二次側から一次側へ逆洗水を流してろ過膜を逆洗する際の逆洗水の圧力を150kPa以上、好ましくは300〜500kPaとすることが好ましい。圧力150kPa以上の加圧水を逆洗水としてろ過膜に流通させた場合、ファウリング原因物質がろ過膜から良好に剥離するからである。なお、逆洗水の通水条件は、逆洗水槽6に供給する加圧空気の流量などを調整することにより制御することができる。
【0039】
また、この発明の膜ろ過方法は、凝集処理水をデッドエンド方式で膜ろ過ユニット5に供給し、ろ過することが好ましい。凝集処理水をデッドエンド方式でろ過した場合、ファウリング原因物質が剥離し易い状態でろ過膜に付着し、逆洗時のファウリング原因物質の剥離性が良好になるからである。なお、膜ろ過ユニット5での凝集処理水のろ過条件は、凝集処理水ポンプ4の吐出流量や吐出圧などを調整することにより制御することができる。
【0040】
また、この発明の膜ろ過方法では、PAC溶液として、塩基度が65%以上85%以下で、且つ、Al23濃度が10.2質量%のときのSO4濃度が1〜4質量%、更に好ましくは1.5〜3.5質量%のPAC溶液を用いることが好ましい。PAC溶液の塩基度が65%未満になると、残留アルミニウムが多くなる傾向があるので好ましくない。また、SO4濃度が1質量%未満になると、PAC溶液の安定性がより増加するものの凝集性が悪くなる傾向があり、4質量%超になると、PAC溶液の安定性が低下する傾向がある。なお、PAC溶液の塩基度については、65%以上75%以下が特に好ましく、68%以上72%以下が更に好ましい。塩基度が68%以上72%以下であれば、本発明の効果が最もよく得られ、且つ、残留アルミニウムを少なくすることができる。また、PAC溶液中のAl23濃度は、9〜11質量%の範囲であることが好ましく、10質量%前後の範囲であることが更に好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
(実施例)
図1に示す膜ろ過システムを用いて、長野県沓沢湖を水源とする湖沼水を図2に示すようなモノリス型のセラミック製ろ過膜(孔径0.1μm、外径:φ30mm、長さ:1000mm)でろ過し、ろ過水を得た。
なお、被処理水には、特開2009−203125号公報の実施例1に従い製造した塩基度が70%のPAC溶液(Al23:10.2質量%、Cl:7.0質量%、SO4:2.8質量%、Ca:0.4質量%、Na:1.2質量%、塩基度:70%)を被処理水1Lに対して25mgの割合で添加し、急速撹拌槽での撹拌速度は83rpm(滞留時間:3分間)、緩速撹拌槽での撹拌速度は60rpm(滞留時間:6分間)とした。因みに、被処理水のpH調整は実施しなかった。また、膜ろ過ユニットへの凝集処理水の通水量は、3.0m3/m2・日とし、180分毎に圧力500kPaの逆洗水で逆洗(加圧工程:10秒間、ブロー工程:5秒間)した。
そして、逆洗直後の膜差圧を測定し、評価した。結果を図3に示す。また、被処理水およびろ過水の性状を上水試験法(VI−1−3、VI−1−9、VI−1−21、VI−3−7)に従い評価した。結果を表1に示す。更に、逆洗排水中のフロックの沈降性について評価した。結果を表2に示す。
なお、フロックの沈降性の評価は、逆洗排水を容量2Lのメスシリンダーに入れて静置した際の汚泥界面高さの経時変化を、静置0分の汚泥界面高さを100%として評価することにより行った。
【0043】
(比較例)
被処理水に添加するPAC溶液の塩基度を54%とした以外は実施例と同様にして被処理水をろ過し、ろ過水を得た。
そして、逆洗直後の膜差圧、被処理水およびろ過水の性状、並びに、逆洗排水中のフロックの沈降性について、実施例と同様にして評価した。結果を図3および表1,2に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
図3に示すように、被処理水のろ過開始から30日経過時における逆洗直後の膜差圧は、実施例が21.3kPaであり、比較例が48.0kPaである。従って、比較例に比べて実施例では膜差圧の上昇が抑制されており、ろ過膜の閉塞の進行が抑制されていることが分かる。なお、若干の膜差圧の上昇は、スケーリングの発生などの不可避的なろ過膜の閉塞によるものであると推察される。また、表1より、実施例のろ過水は残留Alが少ないことが分かる。更に、表2より、実施例の逆洗排水中のフロックは沈降性が非常に良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の膜ろ過方法によれば、ろ過膜の閉塞の進行を抑制し、ろ過膜の薬品洗浄頻度や交換頻度を低減することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 凝集混和槽
2 急速撹拌槽
3 緩速撹拌槽
4 凝集処理水ポンプ
5 膜ろ過ユニット
6 逆洗水槽
7 セラミック膜
10 膜ろ過システム
21 撹拌機
22 PACポンプ
31 撹拌機
51 凝集処理水弁
52 ろ過水弁
61 逆洗弁
62 逆洗排水弁
71 孔
72 外表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水と、塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム溶液とを混和して凝集処理水を得る前処理工程と、
前記凝集処理水をろ過膜でろ過し、ろ過水を得る膜ろ過工程と、
前記ろ過膜を所定の間隔で逆流洗浄する逆洗工程と、
を含むことを特徴とする、膜ろ過方法。
【請求項2】
前記ろ過膜が、セラミック製のろ過膜であることを特徴とする、請求項1に記載の膜ろ過方法。
【請求項3】
前記セラミック製のろ過膜が、モノリス型セラミック膜であることを特徴とする、請求項2に記載の膜ろ過方法。
【請求項4】
前記逆洗工程において、逆洗水を150kPa以上の圧力でろ過膜に流通することを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の膜ろ過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−86149(P2012−86149A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234788(P2010−234788)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成22年4月20日発行 発行者 社団法人 日本水道協会 第61回全国水道研究発表会講演集 第248項〜第249項に発表
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】