膜輸送可能蛍光基質
細胞内へ輸送可能である細胞内酵素活性化蛍光基質が提供される。膜輸送可能蛍光基質は、酵素活性化蛍光基質と担体分子間で形成される、複合体(例えばイオン性複合体)である。蛍光基質は、酵素活性および/または発現の細胞内アッセイで使用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2001年9月19日に出願された、米国仮出願明細書番号第60/323,077号の優先権を請求する。この仮出願明細書のすべてが、本明細書で、参考文献にて組み込まれている。
【0002】
本発明は、一般的に、細胞の脂質膜を介した、低分子量酵素基質の輸送に関し、とりわけ、蛍光酵素基質の細胞内輸送に関する。
【背景技術】
【0003】
酵素発現および/または酵素調節のような、酵素活性を測定する分子内アッセイを実行することが、工業分野の一般的な目標である。酵素活性は、細胞経路の直接の構成成分(例えば、特定の病原による、酵素の過剰発現)、または細胞機能のレポーター(例えば、関連した細胞事象を測定するための、酵素のレポーター遺伝子発現)でありうる。細胞内アッセイを実施するために、細胞膜を効率的に通過する、酵素活性化が改善された、非細胞毒性基質が望ましい。より高い検出感度、広くダイナミックな範囲の検出感度幅、およびハイスループットスクリーニング適用、ならびに他の生物学的および診断的アッセイフォーマットでの適合のための、非分解方法への細胞のローディングの簡便さも望まれる。上述の観点において、β−ガラクトシダーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、ホスファターゼおよびオキシダーゼなどのような、種々の酵素を検出するために、トランスポーターと複合化することによって蛍光酵素基質の細胞内への輸送を容易にする方法および組成物が必要とされている。
【0004】
細胞内工程をモニタするため、または改変するために、小分子および巨大分子を、生細胞内に輸送するための多くの技術が開発されてきた。これらの方法の多くは、3つのカテゴリーに分けられる。直接輸送方法、担体に媒介される輸送および一過性細胞膜浸透輸送である。例えば、Stephens et al.,「The Many Ways to Cross the Plasma Membrane」、Proc.Nat.Acad.Sci.USA,98:8,4295−4298(2001)を参照のこと。これらの方法のそれぞれに、利点と不都合がある。もっとも広く使用されている直接輸送方法は、接着細胞内へ基質を注入するために、小さなチップ(0.5mm)を備えるガラスマイクロピイペットを使用する、ガラスキャピラリーマイクロインジェクションである。マイクロインジェクションは100%にまで輸送効率および細胞生存率を上げることができる。しかしながら、マイクロインジェクションには熟練した技術が必要であり、処理量が少なく(例えば、実験あたり、100〜200個の細胞)、接着型細胞に限定される。第二の輸送方法には、細胞膜に穴を開けるために、界面活性剤、毒素、UVレーザー光、または電気的パルスを用いる、細胞膜の浸透が含まれる。一旦細胞膜が浸透すると、基質は、受動的拡散によって、人工的な穴を通り、細胞膜を横切って移動することができる。このアプローチは、熟練した手作業による技術がひつようなものではなく、ハイスループットアッセイに適合可能である。しかしながら、この浸透方法の欠点には、<50%の細胞生存性、不可逆的浸潤、および対象の細胞機能を妨害することが含まれる。例えば、細胞のエレクトロポレーションには、細胞周期の進行、細胞接着およびシグナル伝達プロセスを乱す細胞懸濁が必要である。
【0005】
第三の型の輸送は、(「カーゴ(cargo)」として表される)基質を細胞内に導入するための担体として細胞浸透分子を利用する。担体は、カーゴに共有結合もしくは融合するか、またはカーゴと複合化して、ピギーバック様式で、細胞内に基質を運ぶことができる。結合または融合担体の例には、ペネトラチン、VP22タンパク質(単純ヘルペス
ウイルス1)、およびTATタンパク質(HIV−1)が含まれる。より一般的なアプローチにより、DOTMA、DOTAP、およびDOSPAのようなカチオン脂質を用いて、巨大分子(例えばDNA、RNAまたはタンパク質)が導入される。細胞浸透方法と同様に、担体に媒介される輸送は、最小限の熟練した技術を要し、簡単にハイスループットアッセイに適合できる。しかしながら、導入効率はしばしば30%以下であり、細胞型によって変化しうる。さらに、リポソーム輸送は、脂質代謝のような細胞機能を、非常に混乱させる。現存する方法のいずれもが、望まれる輸送特性:容易であること、高い輸送効率、高い細胞生存性、細胞型を問わない一般的実用性、および自動化が容易であることを完全に提供するものではない。
【0006】
もっとも使用された担体に媒介される輸送方法の1つは、ポリカチオン巨大分子を用いた細胞のDNAトランスフェクションである。種々の天然および合成ポリマーは、DNAのポリアニオン性リン酸骨格と複合体形成して、脂質二重膜を通る電荷が中性の複合体の輸送を容易にする能力が示されている。ポリカチオン担体分子の例には、スペルマジン、ポリリジン、ポリエチレンイミン、「スターバースト(Starburst)」PAMAMデンドリマー、およびPVPEおよびPVPECのようなポリビニルピリジニウム塩が含まれる。これらの担体分子は、種々のレベルの細胞毒性およびトランスフェクション効率を持つ。とりわけ、デンドリマーが、より高い輸送効率で、より低い細胞毒性効果を示し、したがって、(例えば、キアゲン(Qiagen)N.V.の登録商標である、「SUPERFECT」および「POLYFECT」活性化ポリアミンデンドリマーのような)市販されているDNAトランスフェクション薬剤が開発されてきた。これらの物質は、リポソーム担体処方物のかわりとして使用することができる。例えば、Haensler
et al.,「Polyamidoamine Cascade Polymers
Mediate Efficient Transfection of Cells
in Culture」」、Bioconjugate Chem.,4,372−379(1993)、Boussif et al.,「A Versatile Vector for Gene and Oligonucleotide Transfer into Cells in Culture and in Vivo: Polyethyleneimine」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92.7297−7301(1995)、Kabanov et al.,「DNA Complexes with Polycations for the Delivery of Genetic Material into Cells.」、Bioconjugate Chem.,6,7−20(1995)、Tang et al.,「In Vitro Gene Delivery by Degraded Polyamidoamine Dendrimers」、Bioconjugate Chem.,7,703−714(1996)、Kukowska−Katallo et al.,「Efficient Transfer of Genetic Material
into Mammalian Cells Using Starburst Polyamidoamine Dendrimers」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:4891−4902(1996)を参照のこと。
【0007】
DNAプラスミドのような巨大分子基質を細胞内に輸送するために、ポリカチオン性輸送巨大分子が使用されてきた。1つ〜複数のアニオン基を持つ小分子量分子の輸送のいくつかの例は、文献中で明らかにされている。例えば、Prestwich et al.は、担体として、ポリアミノデンドリマーおよびIII−S型ヒストンを用いた、膜不浸透性ホスファチジルイノシトールポリリン酸およびイノシトールポリリン酸の、哺乳動物、植物、酵母、細菌および原生動物細胞内への輸送を記述している。Prestwich
et al.,「Intracellular Delivery of Phosphoinositides and Inositol Phosphates Using Polyamine Carriers.」、Proc.Natl.Acad.S
ci.USA,97:11286−11291(2000)を参照のこと。アニオン性脂質が、蛍光顕微鏡による視覚化のために、蛍光タグ化された。同様のアプローチが、赤血球内へ複合体としてアニオン性リン脂質を輸送するために、低分子量トリス(アミノエチル)アミンのアミドおよびスルホンアミド誘導体を用いて記述された。Boon et al.,「Facilitated Phosphatidylcholine Flip−Flop Across Erythrocyte Membranes Using Low Molecular Weight Synthetic Translocases.」、J.Am.Chem.Soc.,123,6221−6226(2001)。輸送により、複合化を介してリン脂質のヘッド基(headgroup)極性が減少し、リン脂質の細胞膜を通した分散が促進される。細胞外のジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)のトリス(アミドエチル)アミン−およびトリス(スルホンアミドエチル)アミンに媒介される輸送は、(細胞DLPC取り込みによって誘導される)ウニ状赤血球形態が初期ディスコサイト形状へ戻る。合成トランスポーターはまた、細胞内へ、蛍光ホスファチジルコリンプローブ(PC−NBD)を運ぶ。
【0008】
米国特許第5,338,532号、第5,527,524号および第5,714,166号は、種々の物質と結合したデンドリマー(例えば、濃スターポリマー類またはスターバーストポリマー類)を開示している。これらの物質には、薬物、毒素、金属イオン、放射性核種、シグナル産出物、シグナル反射物、キレート金属、シグナル吸収物、抗体、ホルモン、生物学的応答改変物、診断オパシファイアー、蛍光部分およびスカベンジャー物質が含まれる。複合物、複合物を含む組成物を調製するための工程、および複合物を使用する方法もまた、上記参考文献にて開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
種々の物理的および生物学的方法が、細胞内へ、膜不浸透性外来分子を導入するために使用されてきたが、上記の方法のいずれも、酵素活性蛍光基質複合体の、細胞膜を通した輸送は開示していない。さらに、上記の方法のいずれも、続く1または複数の固定細胞構成成分の分析のために、固定化細胞内に蛍光基質複合体を輸送することは開示していない。
【0010】
以上の観点より、細胞の脂質膜を通した蛍光基質の輸送を促進するための方法および組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の局面にしたがって、酵素活性蛍光基質と担体分子の複合体を含む蛍光基質輸送系が提供される。この蛍光基質輸送系は、ポリリジン、ヒストン、スペルミジン、ポリアミドアミンデンドリマー類、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンデンドリマー類、ポリビニルピリジニウム塩およびポリグアニジンペプトイドでありうる。
【0012】
本発明の第二の局面にしたがって、細胞内での酵素の存在を検出するための方法が提供される。本発明のこの局面にしたがった方法には、細胞を含む試料を、酵素によって開裂可能な基を含む酵素活性蛍光基質および担体分子の複合体を含む組成物に接触させるステップ、および前記試料からの蛍光を検出するステップが含まれる。蛍光の存在は細胞内での酵素の存在を示し、蛍光の強度は細胞内での酵素の活性または発現を示す。
【0013】
本発明の第三の局面にしたがって、担体分子上の逆の電荷を有しているイオン性基とのイオン性電荷相互作用によって複合化可能な少なくとも1つのイオン性基を含む、蛍光基質が提供される。蛍光基質は、イオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、イオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガ
ラクトピラノシド(MUG)、イオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよびイオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)でありうる。蛍光基質は、一般式Iまたは一般式IIによって表されるような構造を持ちうる。
【0014】
【化1】
【0015】
式中、Yは、アニオンまたはポリアニオン基を表し、Xが酵素開裂可能基を表す。
【0016】
本発明は、添付の図面を参照してさらに理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
細胞内へ輸送可能な酵素活性化蛍光基質を提供することが、本発明の目的である。本発明の膜輸送可能蛍光基質は、酵素活性化可能蛍光基質と輸送可能分子との間で形成されるイオン性複合体である。本発明の蛍光基質は、酵素活性および/または発現の細胞内アッセイにおいて使用可能である。
【0018】
本発明は、細胞の脂質膜を通した、低分子量酵素基質の輸送に関する。本発明の酵素基質は、酵素の活性化の際に蛍光を増加させる非蛍光基質である。基質の細胞取り込みにより、標的酵素のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションの検出が可能になるか、あるいはレポーター遺伝子の形式で発現した酵素活性の検出が可能になる。詳細には、細胞内に一旦入ると、酵素的変化を起こしやすい基の細胞内ハイドロラーゼによる酵素開裂、または発生中の蛍光基質の酵素的変化を起こしやすい基の細胞内酸化による酵素酸化により、蛍光が増加する。
【0019】
本発明の酵素活性化蛍光基質は、細胞を分解することなしに、細胞膜を介して輸送可能であり、したがって、細胞内アッセイおよびハイスループット細胞内スクリーニング形式で化学的もしくは生物学的基質の存在を検出すること、または活性を測定することに有用である。
【0020】
上記に示したように、本発明の蛍光酵素基質には、蛍光レポーター分子または1〜多数のイオン性部位を含むコアが含まれる。蛍光コアに担持されるイオン性部位により、前記コアが、トランスポーターまたは担体分子において、相当するイオン性部位と複合体形成することが可能になる。得られた複合体は、細胞膜を通って輸送され得る。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、担体分子は、ポリカチオン性キャリア(すなわち、複数のカチオン性部位を持つ担体)である。本発明のさらに好ましい実施形態では、担体が、複数のアミノ官能基を持つポリアミノデンドリマーであり、そこで、1または複数のアミノ基が、水素付加され、カチオン性となる。
【0022】
本発明の酵素基質の蛍光コアは、本技術分野で公知の任意の蛍光部分であり得る。例えば、蛍光コアは、フルオレセイン、ローダミン、4−メチルウンベリフェリル、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)(DDAO)またはレソルフィンでありうる。上記リストは、限定の意味はなく、他の蛍光コアも使用可能である。
【0023】
本発明の蛍光酵素基質は、逆の電荷を有しているトランスポーター分子と複合体形成するためのアニオン性またはカチオン性置換基を有する。例えば、フルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)は、2つの開裂可能なモノサッカライド基を持つ。基質は、低濃度で受動的に細胞内に拡散するので、1つのサッカライド基の開裂が、ラクトンを、カルボン酸に開裂し、弱く蛍光発色する、フルオレセイン モノ−β−D−ガラクトピラノシド(FMG)を形成する。カルボン酸は、(細胞からおよび細胞内への両方の)細胞膜を介した輸送のための、ポリカチオン性担体とより効率的に複合体形成するカルボキシレートアニオンを形成する。ポリカチオン性担体はFMGを細胞内へ入れるので、細胞内β−ガラクトシダーゼが第二のガラクトシドを開裂させ、強く蛍光発色するフルオレセインアニオンを放出する。
【0024】
代替として、トランスポーター分子へ複合体形成するための置換基をもたない蛍光レポーター分子を、アニオン性またはカチオン性置換基を有している基質を提供するように改変することができる。本発明にしたがって改変可能である適切な蛍光基質には、限定はしないが、ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよび9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)が含まれる。上記の蛍光基質は、酵素の活性化の際に、例えば、β−ガラクトシダーゼのような酵素が基質のガラクトースを開裂させると、蛍光性となりうる。
【0025】
酵素活性化蛍光の別の態様は、第一の酵素(例えば、細胞内エステラーゼ)が、エステルを開裂し、細胞内オキシダーゼに対して不安定な中間体非蛍光化合物を放出する、二重酵素活性化である。細胞内オキシダーゼは続いて、白色蛍光団を蛍光基質に酸化する。本発明にしたがって改変することができる二重酵素活性化基質の例には、エステラーゼがエステル基を開裂させてオキシダーゼによる細胞内酸化のための還元非蛍光基質を放出する、ジヒドロフルオレセインエステル類およびジヒドロローダミンエステル類が含まれる。
【0026】
本発明はまた、膜輸送可能蛍光基質を調製する方法を提供する。例えば、膜輸送基質と蛍光基質の複合体を調製する工程には、膜輸送基質を、適切な電荷を有している蛍光基質に接触させ、分子内イオン電荷連結により互いに結合した多重分子部分を生じることが含まれる。
【0027】
輸送分子は、蛍光基質の複合体形成のために複数のカチオン性またはアニオン性部位を持ちうる。細胞内での輸送分子に関して種々の基質が知られており、本発明の担体分子として使用することができる。このような物質の例には、ポリリジン、ポリアミドアミンデンドリマー類(例えば、PAMAMまたはスターバーストデンドリマー類)、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンデンドリマー類(また、DAB−Amデンドリマー類として知られている)、ポリビニルピリジニウム塩(例えば、PVPEおよびPVPEC)、ポリグアニジンペプトイド類、トリス(アミノエチル)アミド類、トリス(アミノエチル)スルホンアミド類、スペルマジン、ヒストン類、アミジニウム塩、ポリ(2−アミノエチルプロピレンホスフェート)およびボロン酸が含まれる。さらに、キアゲン(Qiagen)N.V.の登録商標で承認されている「SUPWEFECT」および「POLYFECT」のような、電荷を有している(例えばプロトン化)アミノ基もまた、本発明の輸送分子として使用することができる。一般的に、本発明にしたがって、任意のアミノ末端デンドリマーを担体分子として使用することができる。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、担体分子は、デンドリマーポリカチオンである。デンドリマーポリカチオンは、コア分子上または指定されたイニシエーター上に形成された三次元の高次構造を有するオリゴマーおよび/またはポリマー化合物である。これらのデンドリマー類は、オリゴマーおよび/またはポリマーを加える反復応答配列によって合成可能である。本発明の好ましい実施形態によれば、デンドリマーの外表面は正に荷電させられ、蛍光基質上のアニオン性部位との複合体形成のための部位が提供される。
【0029】
別の好ましい実施形態においては、担体分子は、生物分解可能ポリアミンである。そのような担体の例は、ポリ(2−アミノエチルプロピレンホスフェート)である(Wang
et al.,「A Novel Biodegradable Gene Carrier Based on Polyphosphoester」J.Am.Chem.Soc.ASAP publication、2001年9月)。非細胞毒性小分子ユニットに分解される生物分解可能担体の利点は、あらゆる細胞毒性をさらに低下させることである。
【0030】
ポリカチオン性デンドリマーは、公知の方法によって調製可能である。種々の方法が、例えば第PCT/US83/02052号、および米国特許第4,507,466号、第4,558,120号、第4,568,737号、第4,587,329号、第4,631,337号、第4,694,064号、第4,713,975号、第4,737,550号、第4,871,779号および第4,857,599号にて開示されている。
【0031】
一般的に、本発明の輸送分子として使用されるデンドリマー上の末端基は、正電荷を捕獲可能であるべきである。そのような基の例は、アゾール類、一級、二級、三級および四級脂肪族および芳香族アミン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、グアニジンおよびそれらの組み合わせである。さらに、デンドリマー上の末端カチオン基が、好ましくはデンドリマーに共有結合する。好ましい末端カチオン基は、アミン基およびグアニジニウム基である。しかしながら、他もまた使用することができる。本発明の、デンドリマーポリカチオンは、アニオン性蛍光基質と非共有的に(例えばイオン的に)結合可能である。これにより、一旦細胞内に輸送されると、複合体の解離が容易になる。
【0032】
ヒストン、ポリリジンおよびポリアミノデンドリマーのような電荷を有している膜輸送基質とイオン性複合体を形成することができる蛍光基質を合成することが、本発明のさらなる目的である。本発明の酵素活性化蛍光基質は、複数の電荷を有している膜輸送可能基質へと複合体形成するために使用することができる、種々の電荷を有している基を持ちうる。例えば、蛍光基質は、1または複数のアニオン性の電荷を有している基を持ちうる。これらのアニオン基には、例えば、リン酸、ホスホン酸、カルボン酸、硫酸、スルホン酸
、フェノレート、ボロン酸および炭酸塩が含まれうる。これらのアニオン性の電荷を有している基は、ヒストン、スペルミジン、ポリリジンおよびポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー、ポリエチレンイミン(PEI)デンドリマー、グアニジニウムペプトイド、アミジニウム塩、ポリ(2−アミノエチルプロピレンホスフェート、トリス(アミノエチル)アミド、トリス(アミノエチル)スルホンアミドおよびボロン酸上の(例えば、陽子を有しているポリアミノ基のような)カチオン性の電荷を有している基と、イオン電荷相互作用を介して複合体形成することができる。
【0033】
本発明の複数の電荷を有している(例えばポリカチオン性)膜輸送可能基質へと複合体形成することができるアニオン基を有している酵素活性化蛍光基質の例を、添付図にて示している。
【0034】
図1Aおよび1Bは、本発明のアニオン基を持つ2つの蛍光基質の一般式を示している。図1Aおよび1B中の置換基Yは、アニオンまたはポリアニオン基を示している。好適なアニオン基の特定の例には、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)が含まれる。図1Aおよび1B中の置換基Xは、β−ガラクトシド、β−グルコシド、エステルまたはリン酸基のような、酵素開裂可能基を表している。酵素開裂可能基Xはまた、Xが負電荷を持つリン酸またはグルクロニドである場合に、基Yと複合体形成するアニオンとして機能する。
【0035】
図2は、本発明のアニオン基を持つFAM−β−D−ガラクトシド−ビス−スルホ−dRAZの一般式を示している。図2からみられるように、この蛍光基質は、4つのアニオン基、2つのSO3-基および2つのCOO-基を持っている。また、適切な条件下で、カルボキシレートアニオンを形成することができるCOOH基も存在する。
【0036】
図3は、本発明のアニオン基を持つFAM−ジ−B−D−ガラクトシド−ビス−スルホ−dRAZ基質の一般式を示している。図3から見られるように、この蛍光基質は、4つのアニオン基、2つのSO3-電荷基および1つのCOO-基を持っている。また、図3の蛍光基質はまた、適切な条件下で、カルボキシレートアニオンを形成することができるCOOH基も持つ。
【0037】
図4は、本発明のアニオン基を持つ4−メチルウンベリフェリルβ−D−ガラクトピラノシド(MUG)基質の一般式を示している。図4の置換基Yは、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)が含まれうるアニオン基またはポリアニオン基を表している。図4のZは、Cl、F、HまたはSO3-を表し、nは、0〜10の整数である。
【0038】
図5は、本発明のアニオン基を持つ9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAO)基質の一般式を示している。図5における置換基Yは、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)が含まれうる、アニオンまたはポリアニオン基を表している。図5におけるZは、Cl、F、HまたはSO3-を表し、nは、0〜10の整数である。
【0039】
図6は、本発明のウンベリフェロンに基づいた、アニオン性蛍光酵素基質の第1の実施形態を示している。
【0040】
図7は、本発明のウンベリフェロンに基づいた、アニオン性蛍光酵素基質の第2の実施形態を示している。図6および7中の置換基Zは、Cl、F、HまたはSO3-であり得、nは、0〜10の整数であり得る。
【0041】
図2〜7中の置換基Xは、β−ガラクトシド、β−グルコシド、エステルまたはリン酸基のような、酵素開裂可能基を表している。図4、5、6および7中の置換基Yは、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)が含まれうる、アニオンまたはポリアニオン基を表している。
【0042】
図8は、5−カルボキシフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示している。合成の第一段階において、マスクしたアニオン基を、5−カルボキシフルオレセインの5位のCOOH基とカップリングさせる。カップリングは、5−カルボキシフルオレセインを、室温にてDNF中の1当量(EtO2C)CH2CH(NH)CH2(CO2Et)および1.3当量のカップリング剤と反応させることで実施することができる。代替として、5−カルボキシフルオレセインから誘導した5−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、室温にて、DMF中の、1当量(EtO2C)CH2CH(NH)CH2(CO2Et)、トリエチルアミンとカップリングさせることができる。合成の第二段階では、糖を、合成の第一段階の産物とカップリングさせる。カップリングは、例えば、室温にて、無水ベンゼン中の2.5当量のAg2CO3、2.5当量のシム(sym)−コリジン、および2.5当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドと反応させることによって実施することができる。合成の第三段階では、酢酸糖とエチルエステルを、例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHにより鹸化し、続いて酸で中和することができる。
【0043】
図9は、フルオレセインアミンからの細胞内アニオン性FDGの合成を示している。合成の第一段階においては、フルオレセインアミンを、(例えば、2.2当量のBrCH2CO2Etおよび熱を使用して)、マスクされたアニオン基でジアルキル化することができる。合成の第二段階で、糖を、例えば、室温にて、無水ベンゼン中の2.5当量のAg2CO3、2.5当量のシム−コリジン、2.5当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドと反応させることによって、第一の合成段階の産物にカップリングさせることができる。合成の第三段階では、酢酸糖およびエチルエステルを、(例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHにより)鹸化し、続いて酸で中和することができる。
【0044】
図10は、2’,7’−ビス(2−カルボキシルエチル)−5−(および−6)−カルボキシフルオレセインからの、細胞内アニオン性FDGの合成を示している。合成の第一段階においては、(例えば、還流下HCl/MeOHで)COOH基をエステル化することができる。合成の第二段階では、糖を、室温にて、無水ベンゼン中の2.5当量のAg2CO3、2.5当量のシム−コリジン、2.5当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドと反応させることによって、糖を鹸化することができる。合成の第三段階では、酢酸糖およびエチルエステルを、例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHで鹸化し、続いて酸で中和することができる。
【0045】
図11は、5−(4,6−ジクロロトリアジニル)アミノフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示している。合成の第一段階では、ジクロロトリアジンを、ヒンダードアミンを使用して、(例えば、2.2当量のNH2CH2CO2EtまたはNH2CH(CH2CHO2Et)2を用いて)、マスクされたアニオン基と反応させることでビスアミン化する。合成の第二段階では、糖を、例えば、室温にて、無水ベンゼン中の2.5当量のAg2CO3、2.5当量のシム−コリジン、2.5当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドを用いることによって、上記の反応産物にカップリングさせることができる。合成の第三段階では、酢酸糖およびエチルエステルを、(例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHを用いて)鹸化し、続いて酸で中和することができる。図11において、置換基Aは、−CH2CO2Hまたは−CH
(CH2CO2H)2でありうる。
【0046】
図12は、ウンベリフェロン 3−カルボン酸またはウンベリフェロン−4−酢酸からの、細胞内アニオンウンベリフェロン−ガラクトシドの合成を示している。図12の合成の第一段階においては、マスクされたアニオン基を、例えば室温にて、DMF中の、1当量(EtO2C)CH2CH(NH)CH2(CO2Et)、1.3当量のカップリング剤(例えば、EDCまたはDCC)と反応させて、COOH基にカップリングさせることができる。あるいは、5−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを合成し、例えば、室温にてDMF中の1当量(EtO2C)CH2CH(NH)CH2(CO2Et)、トリエチルアミンとカップリングさせることができる。合成の第二段階では、糖を、室温にて、無水CH3CN中の1.2当量のAg2CO3、1.2当量のシム−コリジン、1.2当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドを用いて、上記の反応産物にカップリングさせることができる。合成の第三段階では、酢酸糖およびエチルエステルを、(例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHを用いて)鹸化し、続いて酸で中和することができる。
【0047】
図13は、フルオレセインアミン(II)からの細胞内アニオン性FDGの合成を示している。図13の合成の第一段階においては、ホスホン酸(6−クロロ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)ビス−、テトラシアノエチルエステル(I)を、室温にて、MeOHまたはトルエン中で、フルオレセインアミン(II)とカップリングさせる。合成の第二段階では、糖を、Schmidt Imidate手順により(例えば、0℃にてCH2Cl2中、BF3−OEt2、2.2当量、2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−ガラクトシルイミデートを使用して)、反応産物にカップリングすることができる。合成の第三段階においては、酢酸糖を鹸化し、ホスホン酸塩を(例えば、室温にて、無水溶媒中のNaOMe/MeOHで)脱保護し、続いて酸で中和することができる。
【0048】
アニオン性の電荷を有している基を図に示しているが、蛍光基質上の電荷を有している基もまた、アンモニウム、ホスホニウムまたはスルホニウムのような、電荷を有している基を持つカチオンであり得る。例えば、蛍光基質上の1または複数のカチオン性の電荷を有している基は、膜輸送可能基質上のアニオン性の電荷を有している基とのイオン電荷相互作用により複合体形成することができる。ポリアニオン担体は、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、およびCONHO-のような多数のアニオン基を持ちうる。そのような膜輸送可能複合体の例は、モノマー、ポリマーまたはデンドリマーボロン酸の、蛍光基質との結合であり得、ここで蛍光基質は、アニオンポリマーボロン酸へと複合体形成するために、少なくとも1つのモノサッカライド置換基(例えばβ−ガラクトシド、β−グルクロノシド、またはβ−マンノシド)を持つ。文献上の例はまた、輸送が、外見上はアニオン(ボロン酸)機構により発生するとが記載されているが、中性の電荷を有しているボロン酸のモノサッカライドとの複合体形成の輸送も報告されている。例えば、J.Am.Chem.Soc.,116,8895−8901(1994)、Chem.Commun.,705−706(1996)、Westmark et al.,「Selective Monosaccharide Transport through Lipid Bilayers Using Boronic Acid Carriers」、J.Am.Chem.Soc.,118.11093−11100(1996)を参照のこと。ボロン酸担体複合体の第二の例は、Yがヒドロキサム酸基(CONHOH)である、蛍光基質とのポリボロン酸の結合であり得る。ボロン酸およびヒドロキサム酸に関するpKa’が7.5〜10.5の範囲であるので、ボロン酸/ヒドロキサム酸複合体系には、(基質カーゴ上のカチオン置換基Yがヒドロキサム酸である)ポリボロン酸担体または(基質カーゴ上のカチオン置換基Yがボロン酸である)ポリヒドロキサム酸担体のいずれかが含まれうる。
【0049】
電荷を有している蛍光基質(類)および電荷を有している膜輸送基質が混合されている場合は、得られる膜輸送可能複合体は、イオン電荷相互作用によって互いに結合される。結果として、続く細胞内酵素アッセイのための全体として中性の電荷を有している多分子種の細胞取り込みが促進されうる。
【0050】
酵素活性または発現を検出するための細胞内アッセイにおいて本発明の基質を使用する能力により、生物学的および診断的分析に関する一般ツールとしての広範囲の利用が約束される。例えば、lacZによってコードされる細菌β−ガラクトシダーゼ、およびホタルルシフェラーゼは、細胞内の真核生物プロモーターの転写活性について広く使用されているレポーターである。β−ガラクトシダーゼの細胞内検出は、β−ガラクトシダーゼ相補技術を用いてタンパク質−タンパク質相互作用を正確に示すことができ、これは、その内容が本明細書中に参考文献として組み込まれている同時係属中の明細書番号第09/654,499号に開示されている。蛍光酵素基質はまた、細胞に基づくハイスループットスクリーニング、例えば、GPCRsのような細胞表面レセプターへのアゴニスト/アンタゴニストリガンド結合において有用性がありうる。酵素活性における変動がまた、適用症を診断するための病理学的状態を同定することができる。本発明の膜輸送可能蛍光基質は、グルコシダーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、スルファターゼおよびエステラーゼのようなハイドロラーゼによって活性化することができる。
【0051】
細胞内基質の先行技術での使用は、有害であるか、または非効率的な細胞のローディング方法、毒性基質および不適切な検出感度によって制限されてきた。本発明は、a)検出感度を増加させ、動的な検出範囲を増加させるための、酵素活性化蛍光基質、b)効率的で、非分解性細胞のローディングのための膜輸送可能基質を提供することによって、そのような欠点を解決する。
【0052】
多くの公知の細胞のローディング方法は細胞膜に対して破壊的であり、および/または非効率的であり、したがって、in vitroでの使用には非効率的である。多量をローディングする手順には、アセトキシメチルエステルローディング、ATP−誘導浸潤、カチオンリポソーム輸送、エレクトロポレーション、高浸透圧ショックおよびスクレープローディング(scrape loading)が含まれる。マイクロインジェクションおよびパッチピペット潅流のような、単一細胞ローディング手順は、ハイスループット分析には適合しない。
【0053】
基質を導入する好ましい方法は、細胞内部および/または非細胞実質(subcellular entity)へのトランスポーター複合体を介した細胞膜を通した基質の輸送による。例えば、細胞内で酵素を検出するために本発明を使用する場合には、細胞を、検出される酵素によって開裂されうる基を有しえいる蛍光気質/トランスポーター複合体と接触させることができる。一旦蛍光気質複合体が、細胞内へ脂質膜を通じて輸送されると、この蛍光の増加が酵素の存在の指標として検出される。蛍光教祖の測定によって、細胞内での酵素の発現および/または活性を測定することができる。
【0054】
例えば、細胞内で酵素を検出するために本発明の基質を使用する場合は、細胞を基質/トランスポーター複合体に接触させる。ここでは、基質は、検出される酵素によって開裂可能である基を持つ。一旦、基質複合体を、細胞内へ脂質膜を通して輸送されるとれば、細胞内酵素は基質の酵素開裂基を開裂させて、蛍光分子を形成することができる。得られる蛍光を検出することができ、これは酵素の存在の指標である。蛍光の強度を測定することによって、細胞内での酵素の発現および/または活性を測定することができる。
【0055】
本発明の蛍光基質は、細胞膜内に基質が埋め込まれている脂肪親和性基質を持つことができ、したがって、細胞内で基質をつなぐことができる。本発明の蛍光基質はまた、クロ
ロメチル置換基を持ちうる。これらのクロロメチル置換基は、細胞内グルタチオンと反応させることができ、細胞内に残る傾向にあるトリペプチド基質類似体を形成することができる。しかしながら、つながれた基質はより細胞毒性でありうる。
【0056】
第一の実験を、Psi−2−BAG−α細胞内のβ−ガラクトシダーゼのFDG検出に対する複合体形成の作用を測定するために行った。第一に、FDG検出を、トランスポーターまたはそれに複合体形成した担体なしに(受動的なローディング)、FDGを用いて測定した。この測定値を、FDGと、活性化ポリアミノデンドリマー(例えば、キアゲン(Qiagen)N.V.の登録商標である、「SUPERFECT」)の複合体を使用した測定と比較した。
【0057】
受動的なローディングの試験のために、2つの細胞バイアルを調製した。第一に、Opti−MEM中の250μlの0.6mM FDG中に懸濁させた、それぞれ330,000個のpsi−2−BAG−α細胞を含む2つのバイアルを調製した。細胞の第一のバイアルは4℃にて2時間インキュベートし、第二の細胞バイアルは37℃にて2時間インキュベートした。
【0058】
ポリアミノデンドリマー複合体に関して、二つの細胞バイアルを、以下の様式で調製した。第一に、それぞれ、ポリカチオン担体として、25μlの「SUPERFECT」を含むOpti−MEM中、250μlの0.6mM FDG中に懸濁させた、330,000個のpsi−2−BAG−α細胞を含む二つのバイアルを調製した。第一の細胞バイアルは4℃にて2時間インキュベートし、第二の細胞バイアルは37℃にて2時間インキュベートした。
【0059】
インキュベーションの後、上記4つの細胞懸濁液の20μlの3個の試料(受動/4℃、受動/37℃、「SUPERFECT」/4℃、「SUPERFECT」/37℃)を、96ウェルプレートに加えた。
【0060】
96ウェルプレートを、励起フィルター485/20、放射フィルター530/25で、Cytofluor4000上で読み取った。データを、3つの平均として分析した。
【0061】
【表1】
【0062】
上記データは、FDGのSuperfectアシストローディングを用いると、蛍光シグナルが、10倍またはそれ以上増加したことを示しており、このことは、有意に高い量のFDG基質が、β−ガラクトシダーゼ開裂が起こる細胞内に輸送されたことを示している。
【0063】
第二実験を、FRAP/FKBP12(BI4)細胞におけるラパマイシン誘導β−ガラクトシダーゼ相補物のFDG検出に対する蛍光基質複合体形成の作用を測定するために行った。細胞は、FRAPおよびFKBP12タンパク質に融合された不活性なβ−ガラクトシダーゼ断片を含み、これはラパマイシンでのFRAPおよびFKBP12相互作用
の誘導の際に、β−ガラクトシダーゼ活性の相補性(復元)を生じる。
【0064】
96ウェルプレートに、ウェルあたり、10,000細胞にて、FRAP/FKBPI2細胞をプレートした。半分の細胞をラパマイシンとともに一晩インキュベートし、β−ガラクトシダーゼ相補を誘導した。次の日、細胞をOpti−MEMで洗浄した。細胞の半分を、Opti−MEM中の、254μlの0.6mM FDG(フルオレセイン−ジ−β−D−ガラクトシド)とともに、37℃にて90分間インキュベートした。残りの細胞を、担体として「SUPERFECT」(Opti−MEM中240μlの0.6mM
FDG中の14μlの「SUPERFECT」)を含む0.6mM FDGとともに、37℃にて90分間インキュベートした。
【0065】
96−ウェルプレートを、励起フィルター485/20、放射フィルター530/25で、Cytofluor4000上で読み取った。データを、3つの平均として分析した。
【0066】
【表2】
【0067】
上記データは、FDGの「SUPERFECT」アシストローディングを用いると、蛍光シグナル対ノイズ比(S/N)が、誘導細胞でおよそ37であることを示している。これを、FDGの非複合化または受動的なローディング(「SUPERFECT」なし)で検出された誘導細胞に関する約2のS/Nと比較する。上記のデータは、有意に多い量のFDG基質が、ラパマイシン−誘導β−ガラクトシダーゼ発現の細胞内検出に関して、「SUPERFECT」とともに細胞内へ誘導されたことを示唆している。
【0068】
以上より、本発明の特定の実施形態が例示の目的のために本明細書に記載されているが、種々の改変が、本発明の精神および目的から逸脱することなく実施されうることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1A】本発明の第1の実施形態にしたがったアニオン置換基を持つ、蛍光基質の一般式を示す。
【図1B】本発明の第2の実施形態にしたがったアニオン置換基を持つ、蛍光基質の一般式を示す。
【図2】本発明のアニオン置換基を持つFAM−β−D−ガラクトシド−ビス−スルホ−dRAZ基質の一般式を示す。
【図3】本発明のアニオン置換基を持つFAM−ジ−β−D−ガラクトシド−ビス−スルホ−dRAZ基質の一般式を示す。
【図4】本発明のアニオン置換基を持つ、4−メチルウンベリフェリルβ−D−ガラクトピラノシド(MUG)基質を示す。
【図5】本発明のアニオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAO)基質を示す。
【図6】本発明のウンベリフェロンに基づいたアニオン性蛍光酵素基質の第一の実施形態を示す。
【図7】本発明のウンベリフェロンに基づいたアニオン性蛍光酵素基質の第一の実施形態を示す。
【図8】5−カルボキシフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示す。
【図9】5−アミノフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示す。
【図10】2’,7’−ビス(2−カルボキシエチル)−5−(および−6)−カルボキシフルオレセインの合成を示す。
【図11】5−(4,6−ジクロロトリアジニル)アミノフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示す。
【図12】ウンベリフェロン−3−カルボン酸またはウンベリフェロン−4−酢酸からの、細胞内アニオンウンベリフェロン−ガラクトシドの合成を示す。
【図13】リン酸(6−クロロ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)ビス−テトラシアノエチルエステルからの細胞内アニオン性FDGの合成を示す。
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2001年9月19日に出願された、米国仮出願明細書番号第60/323,077号の優先権を請求する。この仮出願明細書のすべてが、本明細書で、参考文献にて組み込まれている。
【0002】
本発明は、一般的に、細胞の脂質膜を介した、低分子量酵素基質の輸送に関し、とりわけ、蛍光酵素基質の細胞内輸送に関する。
【背景技術】
【0003】
酵素発現および/または酵素調節のような、酵素活性を測定する分子内アッセイを実行することが、工業分野の一般的な目標である。酵素活性は、細胞経路の直接の構成成分(例えば、特定の病原による、酵素の過剰発現)、または細胞機能のレポーター(例えば、関連した細胞事象を測定するための、酵素のレポーター遺伝子発現)でありうる。細胞内アッセイを実施するために、細胞膜を効率的に通過する、酵素活性化が改善された、非細胞毒性基質が望ましい。より高い検出感度、広くダイナミックな範囲の検出感度幅、およびハイスループットスクリーニング適用、ならびに他の生物学的および診断的アッセイフォーマットでの適合のための、非分解方法への細胞のローディングの簡便さも望まれる。上述の観点において、β−ガラクトシダーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、ホスファターゼおよびオキシダーゼなどのような、種々の酵素を検出するために、トランスポーターと複合化することによって蛍光酵素基質の細胞内への輸送を容易にする方法および組成物が必要とされている。
【0004】
細胞内工程をモニタするため、または改変するために、小分子および巨大分子を、生細胞内に輸送するための多くの技術が開発されてきた。これらの方法の多くは、3つのカテゴリーに分けられる。直接輸送方法、担体に媒介される輸送および一過性細胞膜浸透輸送である。例えば、Stephens et al.,「The Many Ways to Cross the Plasma Membrane」、Proc.Nat.Acad.Sci.USA,98:8,4295−4298(2001)を参照のこと。これらの方法のそれぞれに、利点と不都合がある。もっとも広く使用されている直接輸送方法は、接着細胞内へ基質を注入するために、小さなチップ(0.5mm)を備えるガラスマイクロピイペットを使用する、ガラスキャピラリーマイクロインジェクションである。マイクロインジェクションは100%にまで輸送効率および細胞生存率を上げることができる。しかしながら、マイクロインジェクションには熟練した技術が必要であり、処理量が少なく(例えば、実験あたり、100〜200個の細胞)、接着型細胞に限定される。第二の輸送方法には、細胞膜に穴を開けるために、界面活性剤、毒素、UVレーザー光、または電気的パルスを用いる、細胞膜の浸透が含まれる。一旦細胞膜が浸透すると、基質は、受動的拡散によって、人工的な穴を通り、細胞膜を横切って移動することができる。このアプローチは、熟練した手作業による技術がひつようなものではなく、ハイスループットアッセイに適合可能である。しかしながら、この浸透方法の欠点には、<50%の細胞生存性、不可逆的浸潤、および対象の細胞機能を妨害することが含まれる。例えば、細胞のエレクトロポレーションには、細胞周期の進行、細胞接着およびシグナル伝達プロセスを乱す細胞懸濁が必要である。
【0005】
第三の型の輸送は、(「カーゴ(cargo)」として表される)基質を細胞内に導入するための担体として細胞浸透分子を利用する。担体は、カーゴに共有結合もしくは融合するか、またはカーゴと複合化して、ピギーバック様式で、細胞内に基質を運ぶことができる。結合または融合担体の例には、ペネトラチン、VP22タンパク質(単純ヘルペス
ウイルス1)、およびTATタンパク質(HIV−1)が含まれる。より一般的なアプローチにより、DOTMA、DOTAP、およびDOSPAのようなカチオン脂質を用いて、巨大分子(例えばDNA、RNAまたはタンパク質)が導入される。細胞浸透方法と同様に、担体に媒介される輸送は、最小限の熟練した技術を要し、簡単にハイスループットアッセイに適合できる。しかしながら、導入効率はしばしば30%以下であり、細胞型によって変化しうる。さらに、リポソーム輸送は、脂質代謝のような細胞機能を、非常に混乱させる。現存する方法のいずれもが、望まれる輸送特性:容易であること、高い輸送効率、高い細胞生存性、細胞型を問わない一般的実用性、および自動化が容易であることを完全に提供するものではない。
【0006】
もっとも使用された担体に媒介される輸送方法の1つは、ポリカチオン巨大分子を用いた細胞のDNAトランスフェクションである。種々の天然および合成ポリマーは、DNAのポリアニオン性リン酸骨格と複合体形成して、脂質二重膜を通る電荷が中性の複合体の輸送を容易にする能力が示されている。ポリカチオン担体分子の例には、スペルマジン、ポリリジン、ポリエチレンイミン、「スターバースト(Starburst)」PAMAMデンドリマー、およびPVPEおよびPVPECのようなポリビニルピリジニウム塩が含まれる。これらの担体分子は、種々のレベルの細胞毒性およびトランスフェクション効率を持つ。とりわけ、デンドリマーが、より高い輸送効率で、より低い細胞毒性効果を示し、したがって、(例えば、キアゲン(Qiagen)N.V.の登録商標である、「SUPERFECT」および「POLYFECT」活性化ポリアミンデンドリマーのような)市販されているDNAトランスフェクション薬剤が開発されてきた。これらの物質は、リポソーム担体処方物のかわりとして使用することができる。例えば、Haensler
et al.,「Polyamidoamine Cascade Polymers
Mediate Efficient Transfection of Cells
in Culture」」、Bioconjugate Chem.,4,372−379(1993)、Boussif et al.,「A Versatile Vector for Gene and Oligonucleotide Transfer into Cells in Culture and in Vivo: Polyethyleneimine」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92.7297−7301(1995)、Kabanov et al.,「DNA Complexes with Polycations for the Delivery of Genetic Material into Cells.」、Bioconjugate Chem.,6,7−20(1995)、Tang et al.,「In Vitro Gene Delivery by Degraded Polyamidoamine Dendrimers」、Bioconjugate Chem.,7,703−714(1996)、Kukowska−Katallo et al.,「Efficient Transfer of Genetic Material
into Mammalian Cells Using Starburst Polyamidoamine Dendrimers」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:4891−4902(1996)を参照のこと。
【0007】
DNAプラスミドのような巨大分子基質を細胞内に輸送するために、ポリカチオン性輸送巨大分子が使用されてきた。1つ〜複数のアニオン基を持つ小分子量分子の輸送のいくつかの例は、文献中で明らかにされている。例えば、Prestwich et al.は、担体として、ポリアミノデンドリマーおよびIII−S型ヒストンを用いた、膜不浸透性ホスファチジルイノシトールポリリン酸およびイノシトールポリリン酸の、哺乳動物、植物、酵母、細菌および原生動物細胞内への輸送を記述している。Prestwich
et al.,「Intracellular Delivery of Phosphoinositides and Inositol Phosphates Using Polyamine Carriers.」、Proc.Natl.Acad.S
ci.USA,97:11286−11291(2000)を参照のこと。アニオン性脂質が、蛍光顕微鏡による視覚化のために、蛍光タグ化された。同様のアプローチが、赤血球内へ複合体としてアニオン性リン脂質を輸送するために、低分子量トリス(アミノエチル)アミンのアミドおよびスルホンアミド誘導体を用いて記述された。Boon et al.,「Facilitated Phosphatidylcholine Flip−Flop Across Erythrocyte Membranes Using Low Molecular Weight Synthetic Translocases.」、J.Am.Chem.Soc.,123,6221−6226(2001)。輸送により、複合化を介してリン脂質のヘッド基(headgroup)極性が減少し、リン脂質の細胞膜を通した分散が促進される。細胞外のジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)のトリス(アミドエチル)アミン−およびトリス(スルホンアミドエチル)アミンに媒介される輸送は、(細胞DLPC取り込みによって誘導される)ウニ状赤血球形態が初期ディスコサイト形状へ戻る。合成トランスポーターはまた、細胞内へ、蛍光ホスファチジルコリンプローブ(PC−NBD)を運ぶ。
【0008】
米国特許第5,338,532号、第5,527,524号および第5,714,166号は、種々の物質と結合したデンドリマー(例えば、濃スターポリマー類またはスターバーストポリマー類)を開示している。これらの物質には、薬物、毒素、金属イオン、放射性核種、シグナル産出物、シグナル反射物、キレート金属、シグナル吸収物、抗体、ホルモン、生物学的応答改変物、診断オパシファイアー、蛍光部分およびスカベンジャー物質が含まれる。複合物、複合物を含む組成物を調製するための工程、および複合物を使用する方法もまた、上記参考文献にて開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
種々の物理的および生物学的方法が、細胞内へ、膜不浸透性外来分子を導入するために使用されてきたが、上記の方法のいずれも、酵素活性蛍光基質複合体の、細胞膜を通した輸送は開示していない。さらに、上記の方法のいずれも、続く1または複数の固定細胞構成成分の分析のために、固定化細胞内に蛍光基質複合体を輸送することは開示していない。
【0010】
以上の観点より、細胞の脂質膜を通した蛍光基質の輸送を促進するための方法および組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の局面にしたがって、酵素活性蛍光基質と担体分子の複合体を含む蛍光基質輸送系が提供される。この蛍光基質輸送系は、ポリリジン、ヒストン、スペルミジン、ポリアミドアミンデンドリマー類、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンデンドリマー類、ポリビニルピリジニウム塩およびポリグアニジンペプトイドでありうる。
【0012】
本発明の第二の局面にしたがって、細胞内での酵素の存在を検出するための方法が提供される。本発明のこの局面にしたがった方法には、細胞を含む試料を、酵素によって開裂可能な基を含む酵素活性蛍光基質および担体分子の複合体を含む組成物に接触させるステップ、および前記試料からの蛍光を検出するステップが含まれる。蛍光の存在は細胞内での酵素の存在を示し、蛍光の強度は細胞内での酵素の活性または発現を示す。
【0013】
本発明の第三の局面にしたがって、担体分子上の逆の電荷を有しているイオン性基とのイオン性電荷相互作用によって複合化可能な少なくとも1つのイオン性基を含む、蛍光基質が提供される。蛍光基質は、イオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、イオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガ
ラクトピラノシド(MUG)、イオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよびイオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)でありうる。蛍光基質は、一般式Iまたは一般式IIによって表されるような構造を持ちうる。
【0014】
【化1】
【0015】
式中、Yは、アニオンまたはポリアニオン基を表し、Xが酵素開裂可能基を表す。
【0016】
本発明は、添付の図面を参照してさらに理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
細胞内へ輸送可能な酵素活性化蛍光基質を提供することが、本発明の目的である。本発明の膜輸送可能蛍光基質は、酵素活性化可能蛍光基質と輸送可能分子との間で形成されるイオン性複合体である。本発明の蛍光基質は、酵素活性および/または発現の細胞内アッセイにおいて使用可能である。
【0018】
本発明は、細胞の脂質膜を通した、低分子量酵素基質の輸送に関する。本発明の酵素基質は、酵素の活性化の際に蛍光を増加させる非蛍光基質である。基質の細胞取り込みにより、標的酵素のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションの検出が可能になるか、あるいはレポーター遺伝子の形式で発現した酵素活性の検出が可能になる。詳細には、細胞内に一旦入ると、酵素的変化を起こしやすい基の細胞内ハイドロラーゼによる酵素開裂、または発生中の蛍光基質の酵素的変化を起こしやすい基の細胞内酸化による酵素酸化により、蛍光が増加する。
【0019】
本発明の酵素活性化蛍光基質は、細胞を分解することなしに、細胞膜を介して輸送可能であり、したがって、細胞内アッセイおよびハイスループット細胞内スクリーニング形式で化学的もしくは生物学的基質の存在を検出すること、または活性を測定することに有用である。
【0020】
上記に示したように、本発明の蛍光酵素基質には、蛍光レポーター分子または1〜多数のイオン性部位を含むコアが含まれる。蛍光コアに担持されるイオン性部位により、前記コアが、トランスポーターまたは担体分子において、相当するイオン性部位と複合体形成することが可能になる。得られた複合体は、細胞膜を通って輸送され得る。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、担体分子は、ポリカチオン性キャリア(すなわち、複数のカチオン性部位を持つ担体)である。本発明のさらに好ましい実施形態では、担体が、複数のアミノ官能基を持つポリアミノデンドリマーであり、そこで、1または複数のアミノ基が、水素付加され、カチオン性となる。
【0022】
本発明の酵素基質の蛍光コアは、本技術分野で公知の任意の蛍光部分であり得る。例えば、蛍光コアは、フルオレセイン、ローダミン、4−メチルウンベリフェリル、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)(DDAO)またはレソルフィンでありうる。上記リストは、限定の意味はなく、他の蛍光コアも使用可能である。
【0023】
本発明の蛍光酵素基質は、逆の電荷を有しているトランスポーター分子と複合体形成するためのアニオン性またはカチオン性置換基を有する。例えば、フルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)は、2つの開裂可能なモノサッカライド基を持つ。基質は、低濃度で受動的に細胞内に拡散するので、1つのサッカライド基の開裂が、ラクトンを、カルボン酸に開裂し、弱く蛍光発色する、フルオレセイン モノ−β−D−ガラクトピラノシド(FMG)を形成する。カルボン酸は、(細胞からおよび細胞内への両方の)細胞膜を介した輸送のための、ポリカチオン性担体とより効率的に複合体形成するカルボキシレートアニオンを形成する。ポリカチオン性担体はFMGを細胞内へ入れるので、細胞内β−ガラクトシダーゼが第二のガラクトシドを開裂させ、強く蛍光発色するフルオレセインアニオンを放出する。
【0024】
代替として、トランスポーター分子へ複合体形成するための置換基をもたない蛍光レポーター分子を、アニオン性またはカチオン性置換基を有している基質を提供するように改変することができる。本発明にしたがって改変可能である適切な蛍光基質には、限定はしないが、ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよび9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)が含まれる。上記の蛍光基質は、酵素の活性化の際に、例えば、β−ガラクトシダーゼのような酵素が基質のガラクトースを開裂させると、蛍光性となりうる。
【0025】
酵素活性化蛍光の別の態様は、第一の酵素(例えば、細胞内エステラーゼ)が、エステルを開裂し、細胞内オキシダーゼに対して不安定な中間体非蛍光化合物を放出する、二重酵素活性化である。細胞内オキシダーゼは続いて、白色蛍光団を蛍光基質に酸化する。本発明にしたがって改変することができる二重酵素活性化基質の例には、エステラーゼがエステル基を開裂させてオキシダーゼによる細胞内酸化のための還元非蛍光基質を放出する、ジヒドロフルオレセインエステル類およびジヒドロローダミンエステル類が含まれる。
【0026】
本発明はまた、膜輸送可能蛍光基質を調製する方法を提供する。例えば、膜輸送基質と蛍光基質の複合体を調製する工程には、膜輸送基質を、適切な電荷を有している蛍光基質に接触させ、分子内イオン電荷連結により互いに結合した多重分子部分を生じることが含まれる。
【0027】
輸送分子は、蛍光基質の複合体形成のために複数のカチオン性またはアニオン性部位を持ちうる。細胞内での輸送分子に関して種々の基質が知られており、本発明の担体分子として使用することができる。このような物質の例には、ポリリジン、ポリアミドアミンデンドリマー類(例えば、PAMAMまたはスターバーストデンドリマー類)、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンデンドリマー類(また、DAB−Amデンドリマー類として知られている)、ポリビニルピリジニウム塩(例えば、PVPEおよびPVPEC)、ポリグアニジンペプトイド類、トリス(アミノエチル)アミド類、トリス(アミノエチル)スルホンアミド類、スペルマジン、ヒストン類、アミジニウム塩、ポリ(2−アミノエチルプロピレンホスフェート)およびボロン酸が含まれる。さらに、キアゲン(Qiagen)N.V.の登録商標で承認されている「SUPWEFECT」および「POLYFECT」のような、電荷を有している(例えばプロトン化)アミノ基もまた、本発明の輸送分子として使用することができる。一般的に、本発明にしたがって、任意のアミノ末端デンドリマーを担体分子として使用することができる。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、担体分子は、デンドリマーポリカチオンである。デンドリマーポリカチオンは、コア分子上または指定されたイニシエーター上に形成された三次元の高次構造を有するオリゴマーおよび/またはポリマー化合物である。これらのデンドリマー類は、オリゴマーおよび/またはポリマーを加える反復応答配列によって合成可能である。本発明の好ましい実施形態によれば、デンドリマーの外表面は正に荷電させられ、蛍光基質上のアニオン性部位との複合体形成のための部位が提供される。
【0029】
別の好ましい実施形態においては、担体分子は、生物分解可能ポリアミンである。そのような担体の例は、ポリ(2−アミノエチルプロピレンホスフェート)である(Wang
et al.,「A Novel Biodegradable Gene Carrier Based on Polyphosphoester」J.Am.Chem.Soc.ASAP publication、2001年9月)。非細胞毒性小分子ユニットに分解される生物分解可能担体の利点は、あらゆる細胞毒性をさらに低下させることである。
【0030】
ポリカチオン性デンドリマーは、公知の方法によって調製可能である。種々の方法が、例えば第PCT/US83/02052号、および米国特許第4,507,466号、第4,558,120号、第4,568,737号、第4,587,329号、第4,631,337号、第4,694,064号、第4,713,975号、第4,737,550号、第4,871,779号および第4,857,599号にて開示されている。
【0031】
一般的に、本発明の輸送分子として使用されるデンドリマー上の末端基は、正電荷を捕獲可能であるべきである。そのような基の例は、アゾール類、一級、二級、三級および四級脂肪族および芳香族アミン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、グアニジンおよびそれらの組み合わせである。さらに、デンドリマー上の末端カチオン基が、好ましくはデンドリマーに共有結合する。好ましい末端カチオン基は、アミン基およびグアニジニウム基である。しかしながら、他もまた使用することができる。本発明の、デンドリマーポリカチオンは、アニオン性蛍光基質と非共有的に(例えばイオン的に)結合可能である。これにより、一旦細胞内に輸送されると、複合体の解離が容易になる。
【0032】
ヒストン、ポリリジンおよびポリアミノデンドリマーのような電荷を有している膜輸送基質とイオン性複合体を形成することができる蛍光基質を合成することが、本発明のさらなる目的である。本発明の酵素活性化蛍光基質は、複数の電荷を有している膜輸送可能基質へと複合体形成するために使用することができる、種々の電荷を有している基を持ちうる。例えば、蛍光基質は、1または複数のアニオン性の電荷を有している基を持ちうる。これらのアニオン基には、例えば、リン酸、ホスホン酸、カルボン酸、硫酸、スルホン酸
、フェノレート、ボロン酸および炭酸塩が含まれうる。これらのアニオン性の電荷を有している基は、ヒストン、スペルミジン、ポリリジンおよびポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー、ポリエチレンイミン(PEI)デンドリマー、グアニジニウムペプトイド、アミジニウム塩、ポリ(2−アミノエチルプロピレンホスフェート、トリス(アミノエチル)アミド、トリス(アミノエチル)スルホンアミドおよびボロン酸上の(例えば、陽子を有しているポリアミノ基のような)カチオン性の電荷を有している基と、イオン電荷相互作用を介して複合体形成することができる。
【0033】
本発明の複数の電荷を有している(例えばポリカチオン性)膜輸送可能基質へと複合体形成することができるアニオン基を有している酵素活性化蛍光基質の例を、添付図にて示している。
【0034】
図1Aおよび1Bは、本発明のアニオン基を持つ2つの蛍光基質の一般式を示している。図1Aおよび1B中の置換基Yは、アニオンまたはポリアニオン基を示している。好適なアニオン基の特定の例には、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)が含まれる。図1Aおよび1B中の置換基Xは、β−ガラクトシド、β−グルコシド、エステルまたはリン酸基のような、酵素開裂可能基を表している。酵素開裂可能基Xはまた、Xが負電荷を持つリン酸またはグルクロニドである場合に、基Yと複合体形成するアニオンとして機能する。
【0035】
図2は、本発明のアニオン基を持つFAM−β−D−ガラクトシド−ビス−スルホ−dRAZの一般式を示している。図2からみられるように、この蛍光基質は、4つのアニオン基、2つのSO3-基および2つのCOO-基を持っている。また、適切な条件下で、カルボキシレートアニオンを形成することができるCOOH基も存在する。
【0036】
図3は、本発明のアニオン基を持つFAM−ジ−B−D−ガラクトシド−ビス−スルホ−dRAZ基質の一般式を示している。図3から見られるように、この蛍光基質は、4つのアニオン基、2つのSO3-電荷基および1つのCOO-基を持っている。また、図3の蛍光基質はまた、適切な条件下で、カルボキシレートアニオンを形成することができるCOOH基も持つ。
【0037】
図4は、本発明のアニオン基を持つ4−メチルウンベリフェリルβ−D−ガラクトピラノシド(MUG)基質の一般式を示している。図4の置換基Yは、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)が含まれうるアニオン基またはポリアニオン基を表している。図4のZは、Cl、F、HまたはSO3-を表し、nは、0〜10の整数である。
【0038】
図5は、本発明のアニオン基を持つ9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAO)基質の一般式を示している。図5における置換基Yは、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)が含まれうる、アニオンまたはポリアニオン基を表している。図5におけるZは、Cl、F、HまたはSO3-を表し、nは、0〜10の整数である。
【0039】
図6は、本発明のウンベリフェロンに基づいた、アニオン性蛍光酵素基質の第1の実施形態を示している。
【0040】
図7は、本発明のウンベリフェロンに基づいた、アニオン性蛍光酵素基質の第2の実施形態を示している。図6および7中の置換基Zは、Cl、F、HまたはSO3-であり得、nは、0〜10の整数であり得る。
【0041】
図2〜7中の置換基Xは、β−ガラクトシド、β−グルコシド、エステルまたはリン酸基のような、酵素開裂可能基を表している。図4、5、6および7中の置換基Yは、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)が含まれうる、アニオンまたはポリアニオン基を表している。
【0042】
図8は、5−カルボキシフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示している。合成の第一段階において、マスクしたアニオン基を、5−カルボキシフルオレセインの5位のCOOH基とカップリングさせる。カップリングは、5−カルボキシフルオレセインを、室温にてDNF中の1当量(EtO2C)CH2CH(NH)CH2(CO2Et)および1.3当量のカップリング剤と反応させることで実施することができる。代替として、5−カルボキシフルオレセインから誘導した5−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、室温にて、DMF中の、1当量(EtO2C)CH2CH(NH)CH2(CO2Et)、トリエチルアミンとカップリングさせることができる。合成の第二段階では、糖を、合成の第一段階の産物とカップリングさせる。カップリングは、例えば、室温にて、無水ベンゼン中の2.5当量のAg2CO3、2.5当量のシム(sym)−コリジン、および2.5当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドと反応させることによって実施することができる。合成の第三段階では、酢酸糖とエチルエステルを、例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHにより鹸化し、続いて酸で中和することができる。
【0043】
図9は、フルオレセインアミンからの細胞内アニオン性FDGの合成を示している。合成の第一段階においては、フルオレセインアミンを、(例えば、2.2当量のBrCH2CO2Etおよび熱を使用して)、マスクされたアニオン基でジアルキル化することができる。合成の第二段階で、糖を、例えば、室温にて、無水ベンゼン中の2.5当量のAg2CO3、2.5当量のシム−コリジン、2.5当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドと反応させることによって、第一の合成段階の産物にカップリングさせることができる。合成の第三段階では、酢酸糖およびエチルエステルを、(例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHにより)鹸化し、続いて酸で中和することができる。
【0044】
図10は、2’,7’−ビス(2−カルボキシルエチル)−5−(および−6)−カルボキシフルオレセインからの、細胞内アニオン性FDGの合成を示している。合成の第一段階においては、(例えば、還流下HCl/MeOHで)COOH基をエステル化することができる。合成の第二段階では、糖を、室温にて、無水ベンゼン中の2.5当量のAg2CO3、2.5当量のシム−コリジン、2.5当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドと反応させることによって、糖を鹸化することができる。合成の第三段階では、酢酸糖およびエチルエステルを、例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHで鹸化し、続いて酸で中和することができる。
【0045】
図11は、5−(4,6−ジクロロトリアジニル)アミノフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示している。合成の第一段階では、ジクロロトリアジンを、ヒンダードアミンを使用して、(例えば、2.2当量のNH2CH2CO2EtまたはNH2CH(CH2CHO2Et)2を用いて)、マスクされたアニオン基と反応させることでビスアミン化する。合成の第二段階では、糖を、例えば、室温にて、無水ベンゼン中の2.5当量のAg2CO3、2.5当量のシム−コリジン、2.5当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドを用いることによって、上記の反応産物にカップリングさせることができる。合成の第三段階では、酢酸糖およびエチルエステルを、(例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHを用いて)鹸化し、続いて酸で中和することができる。図11において、置換基Aは、−CH2CO2Hまたは−CH
(CH2CO2H)2でありうる。
【0046】
図12は、ウンベリフェロン 3−カルボン酸またはウンベリフェロン−4−酢酸からの、細胞内アニオンウンベリフェロン−ガラクトシドの合成を示している。図12の合成の第一段階においては、マスクされたアニオン基を、例えば室温にて、DMF中の、1当量(EtO2C)CH2CH(NH)CH2(CO2Et)、1.3当量のカップリング剤(例えば、EDCまたはDCC)と反応させて、COOH基にカップリングさせることができる。あるいは、5−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを合成し、例えば、室温にてDMF中の1当量(EtO2C)CH2CH(NH)CH2(CO2Et)、トリエチルアミンとカップリングさせることができる。合成の第二段階では、糖を、室温にて、無水CH3CN中の1.2当量のAg2CO3、1.2当量のシム−コリジン、1.2当量の2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトシルブロマイドを用いて、上記の反応産物にカップリングさせることができる。合成の第三段階では、酢酸糖およびエチルエステルを、(例えば、室温にて無水溶媒中のNaOMe/MeOHを用いて)鹸化し、続いて酸で中和することができる。
【0047】
図13は、フルオレセインアミン(II)からの細胞内アニオン性FDGの合成を示している。図13の合成の第一段階においては、ホスホン酸(6−クロロ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)ビス−、テトラシアノエチルエステル(I)を、室温にて、MeOHまたはトルエン中で、フルオレセインアミン(II)とカップリングさせる。合成の第二段階では、糖を、Schmidt Imidate手順により(例えば、0℃にてCH2Cl2中、BF3−OEt2、2.2当量、2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−ガラクトシルイミデートを使用して)、反応産物にカップリングすることができる。合成の第三段階においては、酢酸糖を鹸化し、ホスホン酸塩を(例えば、室温にて、無水溶媒中のNaOMe/MeOHで)脱保護し、続いて酸で中和することができる。
【0048】
アニオン性の電荷を有している基を図に示しているが、蛍光基質上の電荷を有している基もまた、アンモニウム、ホスホニウムまたはスルホニウムのような、電荷を有している基を持つカチオンであり得る。例えば、蛍光基質上の1または複数のカチオン性の電荷を有している基は、膜輸送可能基質上のアニオン性の電荷を有している基とのイオン電荷相互作用により複合体形成することができる。ポリアニオン担体は、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、およびCONHO-のような多数のアニオン基を持ちうる。そのような膜輸送可能複合体の例は、モノマー、ポリマーまたはデンドリマーボロン酸の、蛍光基質との結合であり得、ここで蛍光基質は、アニオンポリマーボロン酸へと複合体形成するために、少なくとも1つのモノサッカライド置換基(例えばβ−ガラクトシド、β−グルクロノシド、またはβ−マンノシド)を持つ。文献上の例はまた、輸送が、外見上はアニオン(ボロン酸)機構により発生するとが記載されているが、中性の電荷を有しているボロン酸のモノサッカライドとの複合体形成の輸送も報告されている。例えば、J.Am.Chem.Soc.,116,8895−8901(1994)、Chem.Commun.,705−706(1996)、Westmark et al.,「Selective Monosaccharide Transport through Lipid Bilayers Using Boronic Acid Carriers」、J.Am.Chem.Soc.,118.11093−11100(1996)を参照のこと。ボロン酸担体複合体の第二の例は、Yがヒドロキサム酸基(CONHOH)である、蛍光基質とのポリボロン酸の結合であり得る。ボロン酸およびヒドロキサム酸に関するpKa’が7.5〜10.5の範囲であるので、ボロン酸/ヒドロキサム酸複合体系には、(基質カーゴ上のカチオン置換基Yがヒドロキサム酸である)ポリボロン酸担体または(基質カーゴ上のカチオン置換基Yがボロン酸である)ポリヒドロキサム酸担体のいずれかが含まれうる。
【0049】
電荷を有している蛍光基質(類)および電荷を有している膜輸送基質が混合されている場合は、得られる膜輸送可能複合体は、イオン電荷相互作用によって互いに結合される。結果として、続く細胞内酵素アッセイのための全体として中性の電荷を有している多分子種の細胞取り込みが促進されうる。
【0050】
酵素活性または発現を検出するための細胞内アッセイにおいて本発明の基質を使用する能力により、生物学的および診断的分析に関する一般ツールとしての広範囲の利用が約束される。例えば、lacZによってコードされる細菌β−ガラクトシダーゼ、およびホタルルシフェラーゼは、細胞内の真核生物プロモーターの転写活性について広く使用されているレポーターである。β−ガラクトシダーゼの細胞内検出は、β−ガラクトシダーゼ相補技術を用いてタンパク質−タンパク質相互作用を正確に示すことができ、これは、その内容が本明細書中に参考文献として組み込まれている同時係属中の明細書番号第09/654,499号に開示されている。蛍光酵素基質はまた、細胞に基づくハイスループットスクリーニング、例えば、GPCRsのような細胞表面レセプターへのアゴニスト/アンタゴニストリガンド結合において有用性がありうる。酵素活性における変動がまた、適用症を診断するための病理学的状態を同定することができる。本発明の膜輸送可能蛍光基質は、グルコシダーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、スルファターゼおよびエステラーゼのようなハイドロラーゼによって活性化することができる。
【0051】
細胞内基質の先行技術での使用は、有害であるか、または非効率的な細胞のローディング方法、毒性基質および不適切な検出感度によって制限されてきた。本発明は、a)検出感度を増加させ、動的な検出範囲を増加させるための、酵素活性化蛍光基質、b)効率的で、非分解性細胞のローディングのための膜輸送可能基質を提供することによって、そのような欠点を解決する。
【0052】
多くの公知の細胞のローディング方法は細胞膜に対して破壊的であり、および/または非効率的であり、したがって、in vitroでの使用には非効率的である。多量をローディングする手順には、アセトキシメチルエステルローディング、ATP−誘導浸潤、カチオンリポソーム輸送、エレクトロポレーション、高浸透圧ショックおよびスクレープローディング(scrape loading)が含まれる。マイクロインジェクションおよびパッチピペット潅流のような、単一細胞ローディング手順は、ハイスループット分析には適合しない。
【0053】
基質を導入する好ましい方法は、細胞内部および/または非細胞実質(subcellular entity)へのトランスポーター複合体を介した細胞膜を通した基質の輸送による。例えば、細胞内で酵素を検出するために本発明を使用する場合には、細胞を、検出される酵素によって開裂されうる基を有しえいる蛍光気質/トランスポーター複合体と接触させることができる。一旦蛍光気質複合体が、細胞内へ脂質膜を通じて輸送されると、この蛍光の増加が酵素の存在の指標として検出される。蛍光教祖の測定によって、細胞内での酵素の発現および/または活性を測定することができる。
【0054】
例えば、細胞内で酵素を検出するために本発明の基質を使用する場合は、細胞を基質/トランスポーター複合体に接触させる。ここでは、基質は、検出される酵素によって開裂可能である基を持つ。一旦、基質複合体を、細胞内へ脂質膜を通して輸送されるとれば、細胞内酵素は基質の酵素開裂基を開裂させて、蛍光分子を形成することができる。得られる蛍光を検出することができ、これは酵素の存在の指標である。蛍光の強度を測定することによって、細胞内での酵素の発現および/または活性を測定することができる。
【0055】
本発明の蛍光基質は、細胞膜内に基質が埋め込まれている脂肪親和性基質を持つことができ、したがって、細胞内で基質をつなぐことができる。本発明の蛍光基質はまた、クロ
ロメチル置換基を持ちうる。これらのクロロメチル置換基は、細胞内グルタチオンと反応させることができ、細胞内に残る傾向にあるトリペプチド基質類似体を形成することができる。しかしながら、つながれた基質はより細胞毒性でありうる。
【0056】
第一の実験を、Psi−2−BAG−α細胞内のβ−ガラクトシダーゼのFDG検出に対する複合体形成の作用を測定するために行った。第一に、FDG検出を、トランスポーターまたはそれに複合体形成した担体なしに(受動的なローディング)、FDGを用いて測定した。この測定値を、FDGと、活性化ポリアミノデンドリマー(例えば、キアゲン(Qiagen)N.V.の登録商標である、「SUPERFECT」)の複合体を使用した測定と比較した。
【0057】
受動的なローディングの試験のために、2つの細胞バイアルを調製した。第一に、Opti−MEM中の250μlの0.6mM FDG中に懸濁させた、それぞれ330,000個のpsi−2−BAG−α細胞を含む2つのバイアルを調製した。細胞の第一のバイアルは4℃にて2時間インキュベートし、第二の細胞バイアルは37℃にて2時間インキュベートした。
【0058】
ポリアミノデンドリマー複合体に関して、二つの細胞バイアルを、以下の様式で調製した。第一に、それぞれ、ポリカチオン担体として、25μlの「SUPERFECT」を含むOpti−MEM中、250μlの0.6mM FDG中に懸濁させた、330,000個のpsi−2−BAG−α細胞を含む二つのバイアルを調製した。第一の細胞バイアルは4℃にて2時間インキュベートし、第二の細胞バイアルは37℃にて2時間インキュベートした。
【0059】
インキュベーションの後、上記4つの細胞懸濁液の20μlの3個の試料(受動/4℃、受動/37℃、「SUPERFECT」/4℃、「SUPERFECT」/37℃)を、96ウェルプレートに加えた。
【0060】
96ウェルプレートを、励起フィルター485/20、放射フィルター530/25で、Cytofluor4000上で読み取った。データを、3つの平均として分析した。
【0061】
【表1】
【0062】
上記データは、FDGのSuperfectアシストローディングを用いると、蛍光シグナルが、10倍またはそれ以上増加したことを示しており、このことは、有意に高い量のFDG基質が、β−ガラクトシダーゼ開裂が起こる細胞内に輸送されたことを示している。
【0063】
第二実験を、FRAP/FKBP12(BI4)細胞におけるラパマイシン誘導β−ガラクトシダーゼ相補物のFDG検出に対する蛍光基質複合体形成の作用を測定するために行った。細胞は、FRAPおよびFKBP12タンパク質に融合された不活性なβ−ガラクトシダーゼ断片を含み、これはラパマイシンでのFRAPおよびFKBP12相互作用
の誘導の際に、β−ガラクトシダーゼ活性の相補性(復元)を生じる。
【0064】
96ウェルプレートに、ウェルあたり、10,000細胞にて、FRAP/FKBPI2細胞をプレートした。半分の細胞をラパマイシンとともに一晩インキュベートし、β−ガラクトシダーゼ相補を誘導した。次の日、細胞をOpti−MEMで洗浄した。細胞の半分を、Opti−MEM中の、254μlの0.6mM FDG(フルオレセイン−ジ−β−D−ガラクトシド)とともに、37℃にて90分間インキュベートした。残りの細胞を、担体として「SUPERFECT」(Opti−MEM中240μlの0.6mM
FDG中の14μlの「SUPERFECT」)を含む0.6mM FDGとともに、37℃にて90分間インキュベートした。
【0065】
96−ウェルプレートを、励起フィルター485/20、放射フィルター530/25で、Cytofluor4000上で読み取った。データを、3つの平均として分析した。
【0066】
【表2】
【0067】
上記データは、FDGの「SUPERFECT」アシストローディングを用いると、蛍光シグナル対ノイズ比(S/N)が、誘導細胞でおよそ37であることを示している。これを、FDGの非複合化または受動的なローディング(「SUPERFECT」なし)で検出された誘導細胞に関する約2のS/Nと比較する。上記のデータは、有意に多い量のFDG基質が、ラパマイシン−誘導β−ガラクトシダーゼ発現の細胞内検出に関して、「SUPERFECT」とともに細胞内へ誘導されたことを示唆している。
【0068】
以上より、本発明の特定の実施形態が例示の目的のために本明細書に記載されているが、種々の改変が、本発明の精神および目的から逸脱することなく実施されうることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1A】本発明の第1の実施形態にしたがったアニオン置換基を持つ、蛍光基質の一般式を示す。
【図1B】本発明の第2の実施形態にしたがったアニオン置換基を持つ、蛍光基質の一般式を示す。
【図2】本発明のアニオン置換基を持つFAM−β−D−ガラクトシド−ビス−スルホ−dRAZ基質の一般式を示す。
【図3】本発明のアニオン置換基を持つFAM−ジ−β−D−ガラクトシド−ビス−スルホ−dRAZ基質の一般式を示す。
【図4】本発明のアニオン置換基を持つ、4−メチルウンベリフェリルβ−D−ガラクトピラノシド(MUG)基質を示す。
【図5】本発明のアニオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAO)基質を示す。
【図6】本発明のウンベリフェロンに基づいたアニオン性蛍光酵素基質の第一の実施形態を示す。
【図7】本発明のウンベリフェロンに基づいたアニオン性蛍光酵素基質の第一の実施形態を示す。
【図8】5−カルボキシフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示す。
【図9】5−アミノフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示す。
【図10】2’,7’−ビス(2−カルボキシエチル)−5−(および−6)−カルボキシフルオレセインの合成を示す。
【図11】5−(4,6−ジクロロトリアジニル)アミノフルオレセインからの細胞内アニオン性FDGの合成を示す。
【図12】ウンベリフェロン−3−カルボン酸またはウンベリフェロン−4−酢酸からの、細胞内アニオンウンベリフェロン−ガラクトシドの合成を示す。
【図13】リン酸(6−クロロ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)ビス−テトラシアノエチルエステルからの細胞内アニオン性FDGの合成を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素活性蛍光基質および担体分子の複合体を含む、蛍光基質輸送系。
【請求項2】
前記担体分子が、ポリリジン、ヒストン、スペルミジン、ポリアミドアミンデンドリマー類、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンデンドリマー類、ポリビニルピリジニウム塩およびポリグアニジンペプトイド類からなる群より選択される、請求項1に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項3】
前記蛍光基質が、1または複数のアニオン性の電荷を有している基を含み、前記担体分子が、カチオン性の電荷を有している基を含み、前記複合体が、アニオン性およびカチオン性の電荷を有している基の間のイオン電荷相互作用によって形成される、請求項1に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項4】
1または複数のアニオン性の電荷を有している基が、リン酸、ホスホン酸、カルボン酸、硫酸、スルホン酸、フェノラート、ボロネートおよび炭酸塩からなる群より選択される、請求項3に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項5】
前記カチオン性の電荷を有している基が、プロトン化ポリアミノ基を含む、請求項3に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項6】
前記蛍光基質が、1または複数のカチオン性の電荷を有している基を含み、前記担体分子が、アニオン性の電荷を有している基を含み、前記複合体が、アニオンおよびカチオン性の電荷を有している基の間のイオン電荷相互作用によって形成される、請求項1に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項7】
前記担体分子が、ボロン酸基を含み、前記蛍光基質が、ボロン酸基に複合化する少なくとも1つのサッカライド基を含む、請求項1に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項8】
前記サッカライド基が、β−ガラクトシド、β−グルクロノシド、またはβ−マンノシドを含む、請求項7に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項9】
前記担体分子が、ボロン酸置換基を含む、モノマー類、ポリマー類および樹枝状結晶からなる群より選択される、請求項7に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項10】
前記蛍光基質が、アニオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、アニオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、イオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシド、およびイオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)からなる群より選択される、請求項3に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項11】
前記蛍光基質が、カチオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、カチオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、カチオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよびカチオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)からなる群より選択される、請求項6に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項12】
細胞内での酵素の存在を検出し、および/またはその活性を測定するための方法であっ
て、
細胞を含む試料を、酵素によって開裂可能な基を含む、酵素活性蛍光基質と担体分子の複合体を含む組成物に接触させる工程と、
前記試料からの蛍光を検出する工程とを含み、
蛍光の存在が細胞中の酵素の存在を示唆し、蛍光の強度が細胞内での酵素の活性または発現を示す、方法。
【請求項13】
前記酵素開裂可能基が、グリコシダーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、オキシダーゼ、ペプチダーゼおよびホスファターゼからなる群より選択される酵素により開裂可能である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記酵素開裂可能基が、β−ガラクトシダーゼによって開裂可能である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記蛍光基質が、担体分子上で、反対の電荷を有している基とイオン性複合体を形成する、アニオン性またはカチオン性の電荷を有している基を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記蛍光基質が、イオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、イオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、イオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよびイオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)からなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
担体分子上で、反対の電荷イオン基とイオン性電荷相互作用を介する、複合化のために利用可能な、少なくとも1つのイオン性基を含む、蛍光基質。
【請求項18】
前記蛍光基質が、イオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、イオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、イオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよびイオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)からなる群より選択される、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項19】
細胞膜へ基質をつなげることが可能な親油性基質をさらに含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項20】
クロロメチル基質をさらに含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項21】
一般式Iまたは一般式IIで、
【化1】
式中、Yがアニオン基またはポリアニオン基を表し、Xが酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項22】
式中Yが、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)からなる群より選択したアニオン基を含む、請求項21に記載の蛍光基質。
【請求項23】
式中各Xが独立して、β−ガラクトシド残基、β−グルコシド残基、エステルおよびリン酸基からなる群より選択される、請求項21に記載の蛍光基質。
【請求項24】
式中各Xが独立して、負電荷を持つリン酸または負電荷を持つグルクロニドである、請求項21に記載の蛍光基質。
【請求項25】
一般式IIIまたは一般式IVで、
【化2】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項26】
式中各Xが独立して、β−ガラクトシド残基、β−グルコシド残基、エステルおよびリ
ン酸基からなる群より選択される、請求項25に記載の蛍光基質。
【請求項27】
式中各Xが独立して、負電荷を持つリン酸または負電荷を持つグルクロニドである、請求項25に記載の蛍光基質。
【請求項28】
一般式Vまたは一般式VIで、
【化3】
式中、Yがアニオン基またはポリアニオン基を表し、Xが酵素開裂可能基を表し、各Zが独立して、Cl、F、HまたはSO3-を表し、nは0〜10の整数である、
によって表されるような構造を含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項29】
式中Yが、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)からなる群より選択したアニオン基を含む、請求項28に記載の蛍光基質。
【請求項30】
式中各Xが独立して、β−ガラクトシド残基、β−グルコシド残基、エステルおよびリン酸基からなる群より選択される、請求項28に記載の蛍光基質。
【請求項31】
式中各Xが独立して、負電荷を持つリン酸または負電荷を持つグルクロニドである、請求項28に記載の蛍光基質。
【請求項32】
一般式VIIで、
【化4】
式中、Yがアニオン基またはポリカチオン基を表し、Xが酵素開裂可能基を表し、各Zが独立して、Cl、F、HまたはSO3-を表し、nは0〜10の整数である、
によって表されるような構造を含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項33】
式中Yが、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)からなる群より選択したアニオン基を含む、請求項32に記載の蛍光基質。
【請求項34】
式中各Xが独立して、β−ガラクトシド残基、β−グルコシド残基、エステルおよびリン酸基からなる群より選択される、請求項32に記載の蛍光基質。
【請求項35】
式中各Xが独立して、負電荷を持つリン酸または負電荷を持つグルクロニドである、請求項32に記載の蛍光基質。
【請求項36】
一般式VIIIまたは一般式IXで、
【化5】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項37】
酵素開裂可能基が、β−ガラクトシド残基である、請求項36に記載の蛍光基質。
【請求項38】
一般式Xまたは一般式XIで、
【化6】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表し、各「A」置換基は、独立して、−CH2CO2Hまたは−CH(CH2CO2H)2を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項39】
一般式XIIで、
【化7】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項40】
酵素開裂可能基が、β−ガラクトシド残基である、請求項39に記載の蛍光基質。
【請求項41】
一般式XIIIまたは一般式XIVで、
【化8】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項42】
酵素開裂可能基が、β−ガラクトシド残基である、請求項41に記載の蛍光基質。
【請求項1】
酵素活性蛍光基質および担体分子の複合体を含む、蛍光基質輸送系。
【請求項2】
前記担体分子が、ポリリジン、ヒストン、スペルミジン、ポリアミドアミンデンドリマー類、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンデンドリマー類、ポリビニルピリジニウム塩およびポリグアニジンペプトイド類からなる群より選択される、請求項1に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項3】
前記蛍光基質が、1または複数のアニオン性の電荷を有している基を含み、前記担体分子が、カチオン性の電荷を有している基を含み、前記複合体が、アニオン性およびカチオン性の電荷を有している基の間のイオン電荷相互作用によって形成される、請求項1に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項4】
1または複数のアニオン性の電荷を有している基が、リン酸、ホスホン酸、カルボン酸、硫酸、スルホン酸、フェノラート、ボロネートおよび炭酸塩からなる群より選択される、請求項3に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項5】
前記カチオン性の電荷を有している基が、プロトン化ポリアミノ基を含む、請求項3に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項6】
前記蛍光基質が、1または複数のカチオン性の電荷を有している基を含み、前記担体分子が、アニオン性の電荷を有している基を含み、前記複合体が、アニオンおよびカチオン性の電荷を有している基の間のイオン電荷相互作用によって形成される、請求項1に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項7】
前記担体分子が、ボロン酸基を含み、前記蛍光基質が、ボロン酸基に複合化する少なくとも1つのサッカライド基を含む、請求項1に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項8】
前記サッカライド基が、β−ガラクトシド、β−グルクロノシド、またはβ−マンノシドを含む、請求項7に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項9】
前記担体分子が、ボロン酸置換基を含む、モノマー類、ポリマー類および樹枝状結晶からなる群より選択される、請求項7に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項10】
前記蛍光基質が、アニオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、アニオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、イオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシド、およびイオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)からなる群より選択される、請求項3に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項11】
前記蛍光基質が、カチオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、カチオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、カチオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよびカチオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)からなる群より選択される、請求項6に記載の蛍光基質輸送系。
【請求項12】
細胞内での酵素の存在を検出し、および/またはその活性を測定するための方法であっ
て、
細胞を含む試料を、酵素によって開裂可能な基を含む、酵素活性蛍光基質と担体分子の複合体を含む組成物に接触させる工程と、
前記試料からの蛍光を検出する工程とを含み、
蛍光の存在が細胞中の酵素の存在を示唆し、蛍光の強度が細胞内での酵素の活性または発現を示す、方法。
【請求項13】
前記酵素開裂可能基が、グリコシダーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、オキシダーゼ、ペプチダーゼおよびホスファターゼからなる群より選択される酵素により開裂可能である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記酵素開裂可能基が、β−ガラクトシダーゼによって開裂可能である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記蛍光基質が、担体分子上で、反対の電荷を有している基とイオン性複合体を形成する、アニオン性またはカチオン性の電荷を有している基を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記蛍光基質が、イオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、イオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、イオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよびイオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)からなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
担体分子上で、反対の電荷イオン基とイオン性電荷相互作用を介する、複合化のために利用可能な、少なくとも1つのイオン性基を含む、蛍光基質。
【請求項18】
前記蛍光基質が、イオン置換基を持つフルオレセイン ジ−β−D−ガラクトピラノシド(FDG)、イオン置換基を持つ4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(MUG)、イオン置換基を持つ、レゾルフィン β−D−ガラクトピラノシドおよびイオン置換基を持つ、9H−(1,3−ジクロロ−9,9−ジメチルアクリジン−2−オン−7−イル)β−D−ガラクトピラノシド(DDAOガラクトシド)からなる群より選択される、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項19】
細胞膜へ基質をつなげることが可能な親油性基質をさらに含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項20】
クロロメチル基質をさらに含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項21】
一般式Iまたは一般式IIで、
【化1】
式中、Yがアニオン基またはポリアニオン基を表し、Xが酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項22】
式中Yが、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)からなる群より選択したアニオン基を含む、請求項21に記載の蛍光基質。
【請求項23】
式中各Xが独立して、β−ガラクトシド残基、β−グルコシド残基、エステルおよびリン酸基からなる群より選択される、請求項21に記載の蛍光基質。
【請求項24】
式中各Xが独立して、負電荷を持つリン酸または負電荷を持つグルクロニドである、請求項21に記載の蛍光基質。
【請求項25】
一般式IIIまたは一般式IVで、
【化2】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項26】
式中各Xが独立して、β−ガラクトシド残基、β−グルコシド残基、エステルおよびリ
ン酸基からなる群より選択される、請求項25に記載の蛍光基質。
【請求項27】
式中各Xが独立して、負電荷を持つリン酸または負電荷を持つグルクロニドである、請求項25に記載の蛍光基質。
【請求項28】
一般式Vまたは一般式VIで、
【化3】
式中、Yがアニオン基またはポリアニオン基を表し、Xが酵素開裂可能基を表し、各Zが独立して、Cl、F、HまたはSO3-を表し、nは0〜10の整数である、
によって表されるような構造を含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項29】
式中Yが、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)からなる群より選択したアニオン基を含む、請求項28に記載の蛍光基質。
【請求項30】
式中各Xが独立して、β−ガラクトシド残基、β−グルコシド残基、エステルおよびリン酸基からなる群より選択される、請求項28に記載の蛍光基質。
【請求項31】
式中各Xが独立して、負電荷を持つリン酸または負電荷を持つグルクロニドである、請求項28に記載の蛍光基質。
【請求項32】
一般式VIIで、
【化4】
式中、Yがアニオン基またはポリカチオン基を表し、Xが酵素開裂可能基を表し、各Zが独立して、Cl、F、HまたはSO3-を表し、nは0〜10の整数である、
によって表されるような構造を含む、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項33】
式中Yが、COOH、COO-、SO3-、OSO3-、PO32-、OPO32-、CONHOH、CONHO-およびポリ(マレイン酸)からなる群より選択したアニオン基を含む、請求項32に記載の蛍光基質。
【請求項34】
式中各Xが独立して、β−ガラクトシド残基、β−グルコシド残基、エステルおよびリン酸基からなる群より選択される、請求項32に記載の蛍光基質。
【請求項35】
式中各Xが独立して、負電荷を持つリン酸または負電荷を持つグルクロニドである、請求項32に記載の蛍光基質。
【請求項36】
一般式VIIIまたは一般式IXで、
【化5】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項37】
酵素開裂可能基が、β−ガラクトシド残基である、請求項36に記載の蛍光基質。
【請求項38】
一般式Xまたは一般式XIで、
【化6】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表し、各「A」置換基は、独立して、−CH2CO2Hまたは−CH(CH2CO2H)2を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項39】
一般式XIIで、
【化7】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項40】
酵素開裂可能基が、β−ガラクトシド残基である、請求項39に記載の蛍光基質。
【請求項41】
一般式XIIIまたは一般式XIVで、
【化8】
式中、Xは、酵素開裂可能基を表す、
によって表されるような構造を持つ、請求項17に記載の蛍光基質。
【請求項42】
酵素開裂可能基が、β−ガラクトシド残基である、請求項41に記載の蛍光基質。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2006−517382(P2006−517382A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−529965(P2003−529965)
【出願日】平成14年9月19日(2002.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2002/029600
【国際公開番号】WO2003/025192
【国際公開日】平成15年3月27日(2003.3.27)
【出願人】(502342071)アプレーラ コーポレイション (3)
【氏名又は名称原語表記】Applera Corporation
【住所又は居所原語表記】35 Wiggins Avenue, Bedford, Massachusetts 01730, U.S.A.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成14年9月19日(2002.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2002/029600
【国際公開番号】WO2003/025192
【国際公開日】平成15年3月27日(2003.3.27)
【出願人】(502342071)アプレーラ コーポレイション (3)
【氏名又は名称原語表記】Applera Corporation
【住所又は居所原語表記】35 Wiggins Avenue, Bedford, Massachusetts 01730, U.S.A.
【Fターム(参考)】
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