説明

膜電極接合体、燃料電池、及び燃料電池用ガス拡散層の製造方法

【課題】セルの締結時に触媒層にかかる中空糸による機械的ストレスを低減して燃料電池の発電性能を向上させることができる膜電極接合体を提供する。
【解決手段】一対のガス拡散層の少なくとも一方が、第1拡散層と第2拡散層と複数の中空糸とを有し、前記複数の中空糸と前記触媒層との間に前記第2拡散層が配置されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に関し、特に当該燃料電池が備える膜電極接合体、及びガス拡散層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(例えば、高分子電解質形燃料電池)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱と水とを同時に発生させる装置である。
【0003】
燃料電池は、一般的には複数のセルを積層し、それらをボルトなどの締結部材で加圧締結することにより構成されている。1つのセルは、膜電極接合体(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)を一対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。
【0004】
MEAは、高分子電解質膜と、当該高分子電解質膜の両面に配置された一対の電極層によって構成されている。一対の電極層の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。一対の電極層はそれぞれ、金属触媒をカーボン粉末に坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、当該触媒層の上に配置される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。前記アノード電極に燃料ガスが接触すると共に前記カソード電極に酸化剤ガスが接触することにより、電気化学反応が発生し、電力と熱と水とが発生する。
【0005】
近年、燃料電池の発電性能の向上のために、様々な提案がなされている。その1つとして、特許文献1(特開2007−250212号公報)に開示された技術がある。特許文献1には、前記電気化学反応により生成された水によって反応ガス(燃料ガス又は酸化剤ガス)のガス拡散性が阻害されることを防ぐために、ガス拡散層を複数の中空糸で構成する技術が開示されている。また、特許文献1において、複数の中空糸は、セルの積層方向に複数段の中空糸層を形成するように配置されている。特許文献1の構成によれば、反応ガスは中空糸の中を通り、生成水は中空糸の外を通る。すなわち、反応ガスの通り道と生成水の通り道とが分けられている。これにより、生成水によって反応ガスのガス拡散性が阻害されないので、燃料電池の発電性能の低下を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−250212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1の構成では、中空糸と触媒層とが直接接するため、セルの締結時において、触媒層に中空糸による機械的ストレスがかかり、触媒層が劣化するという課題がある。この課題は、中空糸の剛性が触媒層よりも高いとき、特に顕著となる。触媒層の劣化は、発電性能の低下につながる。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記従来の課題を解決することにあって、セルの締結時に触媒層にかかる中空糸による機械的ストレスを低減して発電性能を向上させることができる膜電極接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟んで互いに対向する一対の触媒層と、前記高分子電解質膜及び前記一対の触媒層を挟んで互いに対向する一対のガス拡散層と、を有する膜電極接合体であって、
前記一対のガス拡散層の少なくとも一方は、第1拡散層と第2拡散層と複数の中空糸とを有し、
前記複数の中空糸と前記触媒層との間に前記第2拡散層が配置されている、
膜電極接合体を提供する。
【0010】
本発明の第2態様によれば、前記第1拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されている、第1態様に記載の膜電極接合体を提供する。
【0011】
本発明の第3態様によれば、前記複数の中空糸は、前記第1拡散層の内部に埋め込まれている第1又は2態様に記載の膜電極接合体を提供する。
【0012】
本発明の第4態様によれば、前記複数の中空糸は、前記第1拡散層と前記第2拡散層との界面に沿って配置されている、第1又は2態様に記載の膜電極接合体を提供する。
【0013】
本発明の第5態様によれば、前記一対のガス拡散層は、矩形の形状を有しており、
前記複数の中空糸は、前記ガス拡散層の互いに対向する二辺のうちの一方の辺側から他方の辺側に延びるように配置されている、第1〜4態様のいずれか1つに記載の膜電極接合体を提供する。
【0014】
本発明の第6態様によれば、前記複数の中空糸は、互いに接触しないように間隔を空けて配置されている、第1〜5態様のいずれか1つに記載の膜電極接合体を提供する。
【0015】
本発明の第7態様によれば、第1〜6態様のいずれか1つに記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を挟むように配置される一対のセパレータと、
を備える燃料電池を提供する。
【0016】
本発明の第8態様によれば、前記一対のセパレータのうちの一方は、前記一対のガス拡散層のうちの一方に反応ガスを供給するための上流側マニホールド、及び、前記一対のガス拡散層のうちの一方から反応ガスを排出するための下流側マニホールドを有しており、
前記複数の中空糸は、その上流側の端部が前記上流側マニホールドに連通しており、その下流側の端部が前記下流側マニホールドに連通している、第7態様に記載の燃料電池を提供する。
【0017】
本発明の第9態様によれば、前記一対のセパレータのうちの一方は、前記一対のガス拡散層のうちの一方に燃料ガス又は酸化剤ガスを供給するための上流側マニホールド、及び、前記一対のガス拡散層のうちの一方から燃料ガス又は酸化剤ガスを排出するための下流側マニホールドを有しており、
前記複数の中空糸は、その上流側の端部が前記上流側マニホールドに連通しており、その下流側の端部が前記下流側マニホールドに連通していない、第7態様に記載の燃料電池を提供する。
【0018】
本発明の第10態様によれば、第1拡散層と第2拡散層と複数の中空糸とを有する燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
前記第1拡散層の表面上に複数の中空糸を配置するとともに、前記第1拡散層と前記第2拡散層とを積層し、
前記第1拡散層と前記第2拡散層と前記複数の中空糸とを前記ガス拡散層の厚み方向に圧縮するようにプレスする、
ことを含む、燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0019】
本発明の第11態様によれば、前記複数の中空糸は、前記第2拡散層と対向する前記第1拡散層の表面と反対の表面上に配置される、請求項10に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の第12態様によれば、前記プレスにより、前記複数の中空糸を前記第1拡散層の内部に埋め込む、第11態様に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の第13態様によれば、前記複数の中空糸は、前記第2拡散層と対向する前記第1拡散層の表面上に配置される、第10態様に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の第14態様によれば、前記プレスにより、前記複数の中空糸を前記第1拡散層及び第2拡散層の少なくとも一方の内部に埋め込む、第13態様に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0023】
本発明の第15態様によれば、前記ガス拡散層は、矩形の形状を有しており、
前記複数の中空糸は、前記ガス拡散層の互いに対向する二辺のうちの一方の辺側から他方の辺側に延びるように配置される、第9〜14態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【0024】
本発明の第16態様によれば、前記複数の中空糸は、互いに接触しないように間隔を空けて配置される、第9〜15態様のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかる膜電極接合体によれば、前記複数の中空糸と前記触媒層との間に前記第2拡散層を配置するようにしているので、セルの締結時に中空糸と触媒層とが直接接触することを防止することができる。これにより、セルの締結時に触媒層にかかる中空糸による機械的ストレスを低減することができ、燃料電池の発電性能を向上させることができる。また、中空糸として、触媒層よりも剛性の高い部材を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の基本構成を示す模式断面図である。
【図2】図1に示す燃料電池を図1の断面と垂直な方向に切断した状態を、一部拡大して示す模式断面図である。
【図3】図1に示す燃料電池における中空糸の配置を示す模式平面図である。
【図4】図1に示す燃料電池が備えるガス拡散層の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】図1に示す燃料電池が備えるガス拡散層の製造方法の一工程を示す模式断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる燃料電池が備えるガス拡散層の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態にかかる燃料電池における中空糸の配置を示す模式平面図である。
【図8】本発明の第4実施形態にかかる燃料電池を、一部拡大して示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の記述を続ける前に、添付図面において同じ部品については同じ参照符号を付している。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
《第1実施形態》
図1は、本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の基本構成を示す模式断面図である。本実施形態にかかる燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる高分子電解質形燃料電池である。なお、本発明は高分子電解質形燃料電池に限定されるものではなく、種々の燃料電池に適用可能である。
【0029】
図1において、本第1実施形態にかかる燃料電池は、膜電極接合体10(以下、MEAという)と、膜電極接合体10の両面に配置された導電性を有する一対の平板状のセパレータ20A,20Cとを有するセル(単電池)1を備えている。なお、本第1実施形態にかかる燃料電池は、このセル1を複数個積層して構成されてもよい。この場合、互いに積層されたセル1は、反応ガスがリークしないように且つ接触抵抗を減らすために、ボルトなどの締結部材(図示せず)により所定の締結圧にて加圧締結されることが好ましい。
【0030】
MEA10は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜11と、当該高分子電解質膜11の両面に形成された一対の電極層とを備えている。一対の電極層の一方はアノード電極(燃料極ともいう)12Aであり、他方はカソード電極(空気極ともいう)12Cである。アノード電極12Aは、高分子電解質膜11の一方の面上に形成されたアノード触媒層13Aと、このアノード触媒層13A上に形成され、集電作用とガス拡散性と撥水性とを併せ持つアノードガス拡散層14Aとを有している。カソード電極12Cは、高分子電解質膜11の他方の面上に形成されたカソード触媒層13Cと、このカソード触媒層13C上に形成され、集電作用とガス拡散性と撥水性とを併せ持つカソードガス拡散層14Cとを有している。アノードガス触媒層14A及びカソードガス拡散層14Cは、矩形に形成されている。なお、アノードガス触媒層14A及びカソードガス拡散層14Cの形状は、矩形に限定されるものではなく、他の形状であってもよい。
【0031】
アノードガス拡散層14Aは、第1拡散層の一例である第1アノード拡散層15Aと、第2拡散層の一例である第2アノード拡散層16Aとを有する複層構造で構成されている。第1アノード拡散層15Aはアノードセパレータ20Aに隣接し、第2アノード拡散層16Aはアノード触媒層13Aに隣接している。第1アノード拡散層15Aの第2アノード拡散層16Aと対向する表面と反対側の表面には、複数の中空糸17Aが、矩形のアノードガス拡散層14Aの互いに対向する二辺のうち一方の辺側から他方の辺側に延びるように埋め込まれている。一方、第2アノード拡散層16Aには中空糸17Aが埋め込まれていない。ここで、「中空糸」とは、細長い筒状に形成され、その周壁が多孔質であり、孔のサイズや材質に応じて選択的に様々な物質を通すことができる部材をいう。中空糸17Aは、水蒸気及び燃料ガスを通すことができるように、孔(内部流路ともいう)17Aaのサイズや材質が設定されている。
【0032】
カソードガス拡散層14Cは、第1拡散層の一例である第1カソード拡散層15Cと、第2拡散層の一例である第2カソード拡散層16Cとを有する複層構造で構成されている。第1カソード拡散層15Cはカソードセパレータ20Cに隣接し、第2カソード拡散層16Cはカソード触媒層13Cに隣接している。第1カソード拡散層15Cの第2カソード拡散層16Cと対向する表面と反対側の表面には、複数の中空糸17Cが、矩形のカソードガス拡散層14Cの互いに対向する二辺のうち一方の辺側から他方の辺側に延びるように埋め込まれている。一方、第2カソード拡散層16Cには中空糸17Cが埋め込まれていない。中空糸17Cは、水蒸気及び酸化剤ガスを通すことができるように、孔(内部流路ともいう)17Caのサイズや材質が設定されている。
【0033】
中空糸17A,17Cの内部流路17Aa,17Caを通じて一対の電極層12,12にそれぞれ燃料ガス及び酸化剤ガスが供給されることで、電気化学反応が起こり、電力と熱と水とが発生する。
【0034】
アノードセパレータ20Aと高分子電解質膜11との間には、燃料ガスが外部に漏れることを防ぐために、アノード触媒層13A及びアノードガス拡散層14Aの側面を覆うようにアノードガスケット18Aが配置されている。また、カソードセパレータ20Cと高分子電解質膜11との間には、酸化剤ガスが外部に漏れることを防ぐために、カソード触媒層13C及びカソードガス拡散層14Cの側面を覆うようにカソードガスケット18Cが配置されている。なお、アノードガスケット18A及びカソードガスケット18Cは、MEA10と一体化して予め組み立てられてもよく、アノードセパレータ20A及びカソードセパレータ20Cとそれぞれ一体化して予め組み立てられてもよい。
【0035】
次に、本第1実施形態にかかる燃料電池の各部材の構成、材質、形成方法などについてさらに詳しく説明する。なお、ここでは、アノード側の部材とカソード側の部材は、特に断りがない限り同様の構成を有している。このため、これらに共通する事項について説明する場合は、アノード側及びカソード側を区別せずに説明する。例えば、アノード触媒層13Aとカソード触媒層13Cとは、同様の構成を有しているので、単に触媒層13という。
【0036】
まず、高分子電解質膜11について説明する。
高分子電解質膜11は、水素イオンに対するイオン交換基を有し、水素イオンを膜厚方向に沿って選択的に透過するものである。高分子電解質膜11としては、従来公知のものを用いることができる。高分子電解質膜11として、例えば、−CF−で構成された主鎖と、スルホン酸基(−SOH)を末端の官能基として含む側鎖とを有するパーフルオロカーボンスルホン酸からからなる高分子電解質膜を用いることができる。具体的には、高分子電解質膜11として、例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)等の商品名で販売されている高分子電解質膜を用いることができる。なお、高分子電解質膜11の膜厚は、例えば20〜200μmである。
【0037】
次に、触媒層13について説明する。
触媒層13は、電極触媒(例えば白金触媒などの貴金属触媒)を坦持した導電性粒子と、水素イオン伝導性を有する高分子電解質との混合物を含むように構成されている。
【0038】
触媒層13を構成する電極触媒は、特に限定されるものではないが、貴金属を含む種々の金属粒子を用いることができる。当該金属粒子の材質としては、例えば、白金、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、クロム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、及びスズよりなる群から選択される1種以上の金属を使用することができる。これらの中でも、電極触媒として白金を用いることが好ましい。また、電極触媒として、白金と白金以外の白金属の金属との合金である白金合金を用いてもよい。この場合、アノード触媒層13Aを構成する電極触媒として、白金とルテニウムとの合金を用いることが特に好ましい。これにより、アノード触媒層13Aの活性を安定させることができる。
【0039】
また、前記金属粒子の平均粒子径は、1〜30nmであることが好ましい。前記金属粒子の平均粒子径が1nm以上であると、工業的に調製が容易である。一方、前記金属粒子の平均粒子径が30nm以下であると、電極触媒の質量あたりの活性を充分に得ることができ、燃料電池のコストアップを抑制することができる。
【0040】
触媒層13を構成する導電性粒子としては、例えば、カーボン粉末(導電性カーボン粒子)を用いることができる。当該カーボン粉末の比表面積は50〜1500m/gであることが好ましい。カーボン粉末の比表面積が50m/g以上であると、電極触媒の担持率を向上させることが比較的容易であり、触媒層13に必要な出力特性をより確実に得ることができる。一方、カーボン粉末の比表面積が1500m/g以下であると、細孔が微細になり過ぎず、前記高分子電解質による被覆がより容易となる。これにより、触媒層13に必要な出力特性をより確実に得ることができる。なお、カーボン粉末の比表面積は、200〜900m/gであることがさらに好ましい。
【0041】
触媒層13を構成する高分子電解質としては、陽イオン交換基として、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、又はスルホンイミド基を有するものが好ましい。なお、それらのうちスルホン酸基を有する高分子電解質が、水素イオン伝導性の観点からさらに好ましい。このスルホン酸基を有する高分子電解質は、イオン交換容量が0.5〜1.5meq/gであることが好ましい。前記イオン交換容量が0.5meq/g以上であると、得られた触媒層13の抵抗値が発電時に上昇する恐れがない。一方、前記イオン交換容量が1.5meq/g以下であると、得られた触媒層13の含水率が増大せず、膨潤し易くならず、細孔が閉塞する恐れが無い。なお、前記イオン交換容量は、0.8〜1.2meq/gであることがさらに好ましい。
【0042】
また、触媒層13を構成する高分子電解質は、CF=CF−(OCFCFX)−OP−(CF)−SOH(mは0〜3の整数を示し、nは1〜12の整数を示し、pは0又は1を示し、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基を示す。)で表されるパーフルオロビニル化合物に基づく重合単位と、CF=CFで表されるテトラフルオロエチレンに基づく重合単位とを含むパーフルオロカーボン共重合体であることが好ましい。
【0043】
前記パーフルオロビニル化合物の好ましい例としては、下記式(1)〜(3)で表される化合物が挙げられる。但し、下記式中、qは1〜8の整数、rは1〜8の整数、tは1〜3の整数を示す。
【0044】
CF=CFO(CF−SOH ・・・(1)
CF=CFOCFCF(CF)O(CF−SOH ・・・(2)
CF=CF(OCFCF(CF))O(CF−SO ・・・(3)
【0045】
なお、前述した高分子電解質は、高分子電解質膜11の構成材料として用いられてもよい。
【0046】
触媒層13は、前記電極触媒を坦持した導電性粒子と、前記高分子電解質と、分散媒とを少なくとも含む触媒層形成用インクを用いて形成することができる。前記触媒層形成用インクを調製するために用いる分散媒としては、前記高分子電解質を溶解可能又は分散可能(高分子電解質が一部溶解し、他の一部が溶解せずに分散している状態を含む)であるアルコールを含む液体を用いることが好ましい。前記分散媒は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、及びtert―ブチルアルコールのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。これらの水及びアルコールは単独でも使用してもよく、また、2種以上混合してもよい。前記アルコールとしては、分子内にOH基を1つ有する直鎖構造のものがさらに好ましく、その中でもエタノールが特に好ましい。また、前記アルコールには、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル結合を有するものも含まれる。
【0047】
また、前記触媒層形成用インクの組成は、固形分濃度が0.1〜20質量%であることが好ましい。前記固形分濃度が0.1質量%以上であると、前記触媒層形成用インクを噴霧又は塗布することにより触媒層13を形成するときに、何回も繰り返し噴霧又は塗布しなくても、所望の厚さの触媒層13を得ることができる。これにより、生産効率の低下を抑えることができる。一方、前記固形分濃度が20質量%以下であると、前記触媒層形成インクの粘度が高くなり過ぎず、触媒層13の厚さを略均一にすることができる。なお、前記固形分濃度は、1〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0048】
前記触媒層形成用インクは、従来公知の方法に基づいて調製することができる。例えば、ホモジナイザ、ホモミキサ等の撹拌機を使用する方法、高速回転ジェット流方式を使用するなどの高速回転を使用する方法を利用して、前記触媒層形成用インクを調整することができる。また、高圧乳化装置などの高圧をかけて狭い部分から分散液を押し出すことで分散液にせん断力を付与する方法を利用して、前記触媒層形成用インクを調整することもできる。
【0049】
前記触媒層形成用インクを用いて触媒層13を形成する方法としては、例えば、バーコーター法、スプレー法などの従来公知の方法を用いることができる。すなわち、高分子電解質膜11又はガス拡散層14上に、触媒層13を直接形成してもよい。また、他の支持体シート上に触媒層13を形成し、これらを高分子電解質膜11又はガス拡散層14上に転写するようにしてもよい。
【0050】
次に、ガス拡散層14について説明する。
ガス拡散層14は、第1拡散層15と第2拡散層16との2層構造で構成されている。第1拡散層15と第2拡散層16とは、ガス透過性及び導電性を有する多孔質部材で構成されている。当該多孔質部材としては、例えば、炭素繊維を基材とせず、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分としたシート状で且つゴム状の多孔質部材を用いることができる。このような構成を有する多孔質部材は、前記炭素繊維を基材とした多孔質部材に比べて、形状の加工が容易であるため、中空糸17をガス拡散層14の内部に形成することが容易であるという利点がある。
【0051】
第1及び第2拡散層15,16を構成する導電性粒子の材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭などのカーボン材料が挙げられる。前記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、バルカンなどが挙げられる。なお、それらの中でもカーボンブラックの主成分としてアセチレンブラックが用いられることが、不純物含有量が少なく、電気伝導性が高いという観点から好ましい。また、グラファイトの材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。なお、これらの中でもグラファイトの主成分として人造黒鉛が用いられることが、不純物量が少ないという観点から好ましい。
【0052】
また、第1及び第2拡散層15,16を構成する導電性粒子は、平均粒子径が異なる2種類のカーボン材料を混合して構成されることが好ましい。これにより、ガス拡散層全体の多孔度を低くすることが可能になる。充填構造を作製しやすい導電性粒子としてはグラファイトが挙げられる。従って、前記導電性粒子は、アセチレンブラックとグラファイトとを混合して構成されることが好ましい。なお、前記導電性粒子を3種類以上のカーボン材料を混合して構成すると、分散、混練、圧延条件などの最適化が困難である。このため、前記導電性粒子は、2種類のカーボン材料を混合して構成することが好ましい。
【0053】
第1及び第2拡散層15,16を構成する高分子樹脂は、前記導電性粒子同士を結着するバインダーとしての機能を有する。また、前記高分子樹脂は、撥水性を有するため、燃料電池の内部にて水を系内に閉じ込める機能(保水性)も有する。前記高分子樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。これらの中でも前記高分子樹脂としてPTFEが使用されることが、耐熱性、撥水性、耐薬品性の観点から好ましい。
【0054】
第1拡散層15には、図1〜図3に示すように、複数の中空糸17が埋め込まれている。図2は、図1に示す燃料電池を図1の断面と垂直な方向に(すなわち、中空糸の延在方向に沿って)切断した状態を、一部拡大して示す模式断面図である。図3は、図1に示す燃料電池における中空糸の配置を示す模式平面図である。
【0055】
中空糸17の材料としては、コットン、樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PP(ポリプロピレン)、PVDF(ポリフッ化ビリニデン)、セラミック、チタン、金属、カーボンなどを用いることができる。なお、中空糸17は、水蒸気と反応ガスを通すことができる孔が空いているものであればよい。
【0056】
また、中空糸17の材料としては、燃料電池の作動温度領域では軟化し難いものが好ましく、高温・高湿・高電位環境下で劣化し難いものが好ましい。また、中空糸18の材料は、導電性材料であることがさらに好ましい。これにより、中空糸17とセパレータ20との接触抵抗を抑えることができる。例えば、中空糸17の材料として、チタン、銅、SUS(ステンレス)、カーボンなどが好ましい。
【0057】
また、図2に示すように、中空糸17は、ガス拡散層14と同じ長さを有し、それらの端面が同一平面上に位置するように配置されている。また、図3に示すように、中空糸17の一端部は、ガス拡散層14の一端部とガスケット18との間においてセパレータ20の一部を切り欠いて形成された反応ガス供給用の上流側マニホールド21aと連通している。中空糸17の他端部は、ガス拡散層14の他端部とガスケット18との間においてセパレータ20の一部を切り欠いて形成された反応ガス排出用の下流側マニホールド21bと連通している。これにより、上流側マニホールド21aを通じて供給された反応ガスは、中空糸17の内部流路17aを通じて下流側マニホールド21bに排出される。また、この排出過程において、中空糸17の内部流路17aを通る反応ガスの一部は、中空糸17の多孔質の周壁を通じてガス拡散層14に移動し、当該ガス拡散層14で拡散されて触媒層13へ供給される。
【0058】
また、複数の中空糸17は、第1拡散層15中に互いに間隔を空けて配置されている。この配置により、互いに隣接する中空糸17,17の間には、第1拡散層15を構成する導電性の多孔質部材が存在する。このため、中空糸17を非導電性材料で構成したとしても、抵抗の増加を抑えて燃料電池の発電性能の低下を抑えることができる。
【0059】
ガス拡散層14は、例えば、図4及び図5に示すようにして製造することができる。図4は、ガス拡散層14の製造方法を示すフローチャートである。図5は、ガス拡散層14の製造方法の一工程を示す模式断面図である。
【0060】
まず、ステップS1では、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混錬する。より具体的には、導電性粒子としてのカーボン材料と界面活性剤と分散溶媒とを攪拌・混錬機に投入し、それらを混錬してカーボン材料を粉砕及び造粒する。この後、それらの混錬物の中に高分子樹脂を添加してさらに攪拌・混錬する。なお、カーボン材料と高分子樹脂とを別々に混錬機に投入せず、全ての材料を同時に混練機に投入しても良い。
【0061】
ステップS2では、混錬して得た混錬物をロールプレス機又は平板プレス機などで圧延してシート状に成形する。
【0062】
ステップS3では、シート状に成形した混錬物を焼成して、前記混錬物中から界面活性剤と分散溶媒とを除去する。この界面活性剤と分散溶媒とを除去したシート状の混練物が第1及び第2拡散層15,16となる。なお、界面活性剤は、導電性粒子の材料(カーボン材料)、分散溶媒の種類により適宜選択することができる。また、界面活性剤を使用しなくてもよい。
【0063】
ステップS4では、図5に示すように、第1拡散層15と第2拡散層16とを積層すると共に第1拡散層15の表面に複数の中空糸17を互いに間隔を空けて配置する。
ステップS5では、前記ステップS4のように配置した第1拡散層15と第2拡散層16と複数の中空糸17とを、プレス機30にてプレスする。
これにより、第1拡散層15と第2拡散層16とが一体化すると共に、第1拡散層15に複数の中空糸17が埋め込まれ、図1に示すガス拡散層14が製造される。
【0064】
なお、ステップS5の後、ガス拡散層14を所望の大きさに切断するステップがあってもよい。また、プレス機30としては、例えば、ロールプレス機又は平板プレス機などを用いることができる。
【0065】
次に、ガスケット18について説明する。
ガスケット18は、触媒層13及びガス拡散層14の側面を覆うように、セパレータ20と高分子電解質膜11との間に配置されている。なお、ガスケット18は、それらの一部がガス拡散層14の周縁部に含浸しているほうが好ましい。これにより、発電耐久性及び強度を向上させることができる。また、ガスケット18に代えて、一対のセパレータ20,20の間に、高分子電解質膜11、触媒層13、及びガス拡散層14の側面を覆うように、環状のガスケットを配置してもよい。これにより、高分子電解質膜11の劣化を抑制し、MEA10のハンドリング性、量産時の作業性を向上させることができる。
【0066】
ガスケット18の材質としては、一般的な熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などを用いることができる。例えば、ガスケット18の材質として、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、液晶性ポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン、ガラス繊維強化樹脂などを用いることができる。
【0067】
次に、セパレータ20について説明する。
セパレータ20は、MEA10を機械的に固定してセル1を構成するものである。複数個のセル1を積層して燃料電池を構成する場合には、セパレータ20は、隣接するMEA10,10同士を互いに電気的に直列に接続する。
【0068】
セパレータ20としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、セパレータ20は、金属により、あるいはカーボンを圧縮してガス不透過としたガス不透過カーボンにより形成することができる。
【0069】
なお、セパレータ20には、MEA10と対向する面と反対側の面に、例えば、銅に金メッキを施した金属板で構成された集電板(図示せず)を取り付けてもよい。これにより、セパレータ20からの集電をより確実にすることができる。
【0070】
また、セパレータ20には、MEA10と対向する面と反対側の面に、冷却水などが通る冷却水流路溝(図示せず)が設けられてもよい。これにより、複数個のセル1を積層して燃料電池を構成した場合に、各セル1の温度を制御することができる。冷却水流路溝は、例えば、略平行な複数の直線状の溝によって構成することができる。この場合、各溝は、等間隔に形成するのが一般的である。また、冷却水流路溝は、例えば、上流側から下流側に向かって蛇行しながら伸びるサーペンタイン型の流路溝で構成することができる。サーペンタイン型の流路溝は、1本の蛇行した形状を有する溝からなるタイプと、当該1本の蛇行した形状を有する溝が複数本並べられたタイプの2つのタイプが知られている。サーペンタイン型の流路溝を構成する各溝は、等間隔で形成されてもよいし、異なる間隔で形成されてもよい。
【0071】
以上、本第1実施形態によれば、複数の中空糸17と触媒層13との間に第2拡散層16を配置するようにしているので、セル1の締結時に中空糸17と触媒層13とが直接接触することを防止することができる。従って、中空糸17の剛性が触媒層13よりも高い場合でも、触媒層13に不均一な圧力がかかることがなく、触媒層13の劣化を抑えることができる。すなわち、セル1の締結時に触媒層13にかかる中空糸17による機械的ストレスを低減することができ、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0072】
また、本第1実施形態によれば、互いに隣接する中空糸17,17の間に、導電性のある第1拡散層15が存在しているので、導電性のない中空糸17を用いたとしても、第1拡散層15の内部での抵抗の増加を抑えることができる。これにより、燃料電池の発電性能を良好に維持することができる。
【0073】
なお、本発明は前記第1実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材により第1及び第2拡散層15,16を構成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1及び第2拡散層15,16は、例えば、カーボンペーパ、織布、又はカーボンフェルトなどの、炭素繊維を基材とした従来公知の多孔質部材で構成されてもよい。また、この多孔質部材には、触媒層13に接触する面に、従来公知の撥水性導電層(カーボン層、撥水材と導電性カーボン粒子とを含む層)が設けられてもよい。
【0074】
また、第1及び第2拡散層15,16には、導電性粒子及び高分子樹脂以外に、第1及び第2拡散層15,16の製造時に使用する界面活性剤及び分散溶媒などが微量含まれていてもよい。分散溶媒としては、例えば、水、メタノール及びエタノールなどのアルコール類、エチレングリコールなどのグリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン系、アルキルアミンオキシドなどの両性イオン系が挙げられる。製造時に使用する分散溶媒の量及び界面活性剤の量は、導電性粒子の種類、高分子樹脂の種類、それらの配合比率などに応じて適宜設定すればよい。なお、一般的には、分散溶媒の量及び界面活性剤の量が多いほど、導電性粒子と高分子樹脂とが均一に分散しやすい傾向がある一方で、流動性が高くなり、第1及び第2拡散層15,16のシート化が難しくなる傾向がある。なお、第1及び第2拡散層15,16には、本発明の目的を達成できる範囲内であれば、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒以外の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が含まれていてもよい。例えば、第1及び第2拡散層15,16は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とし、基材としては成立しない重量(例えば導電性粒子及び高分子樹脂よりも少ない重量)の炭素繊維が添加されたシート状で且つゴム状の多孔質部材で構成されてもよい。炭素繊維を添加することで、第1及び第2拡散層15,16としての強度を強化することができるので、バインダーとして作用する高分子樹脂の配合量を少なくすることが可能となる。また、炭素繊維を添加することで、絶縁体である高分子樹脂の配合比率を低くすることができるので、発電性能の向上を図ることができる。前記炭素繊維の材料としては、例えば、気相成長法炭素繊維(以下、VGCFという)、ミルドファイバー、カットファイバー、チョップファイバーなどが挙げられる。
【0075】
なお、第1拡散層15と第2拡散層16とは、互いに材質が同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、第1拡散層15と第2拡散層16の両方共、炭素繊維を基材とした多孔質部材、あるいは、炭素繊維を基材としない多孔質部材で一体的に構成してもよい。この場合、第1拡散層15と第2拡散層16とは、複数の中空糸17を埋め込む前に、予め一体化されていてもよい。すなわち、第1拡散層15と第2拡散層16とは、一枚の厚いシート状の多孔質部材であってもよい。また、第1拡散層15と第2拡散層16の一方を、炭素繊維を基材とした多孔質部材で構成し、他方を、炭素繊維を基材としない多孔質部材で構成してもよい。
【0076】
また、前記では、アノードガス拡散層14A及びカソードガス拡散層14Cの両方共、中空糸17を含むように構成したが、本発明はこれに限定されない。アノードガス拡散層14A及びカソードガス拡散層14Cのいずれか一方が、中空糸17を含むように構成されていればよい。この場合でも、従来よりも燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0077】
《第2実施形態》
図6を用いて、本発明の第2実施形態にかかる燃料電池について説明する。図6は、本第2実施形態にかかる燃料電池が備えるガス拡散層の製造方法を示すフローチャートである。本第2実施形態にかかる燃料電池が前記第1実施形態にかかる燃料電池と異なる点は、ガス拡散層の製造工程における焼成を行うタイミングのみである。具体的には、前記第1実施形態では、焼成後の前記混練物に中空糸17を埋め込むのに対して、本第2実施形態では、焼成前の前記混練物に中空糸17を埋め込むようにしている。
【0078】
まず、ステップS1では、前記したように、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混錬する。
ステップS2では、混錬して得た混錬物をロールプレス機又は平板プレス機などで圧延してシート状に成形する。このとき、シート状の混練物を2つ作製する。ここまでは、前記第1実施形態と同様である。
【0079】
ステップS13では、2つのシート状の混錬物を積層すると共に、一方のシート状の混練物の表面に複数の中空糸17を互いに間隔を空けて配置する。
【0080】
ステップS14では、前記ステップS13のように配置した2つのシート状の混錬物と複数の中空糸17とをプレス機30にてプレスする。これにより、2つのシート状の混練物が一体化する共に、一方のシート状の混練物15に複数の中空糸17が埋め込まれる。なお、このとき、プレス機30にてプレスする工程は、1つのシート状の混練物の表面に複数の中空糸17を埋め込む工程と、複数の中空糸17を埋め込んだシート状の混練物と他方のシート状の混練物とを一体化する工程の2段階で行ってもよい。
【0081】
ステップS15では、プレスした混練物を焼成して、当該混錬物中から界面活性剤と分散溶媒とを除去する。これにより、図1に示すガス拡散層14と同様のガス拡散層が製造される。
【0082】
なお、ステップS15の後、製造したガス拡散層を所望の大きさに切断するステップがあってもよい。
【0083】
前記第1実施形態のように、焼成後の前記混練物に中空糸17を埋め込む場合、焼成後の混練物は硬いので、中空糸17を十分に埋め込めないことが有り得る。この場合、ガス拡散層の表面に凹凸が形成され、セル1の締結時に触媒層13に不均一な圧力がかかって、触媒層13が劣化するおそれがある。特に中空糸17の管径が大きい場合や中空糸17の剛性が高いには、この課題は顕著になる。
【0084】
これに対して、本第2実施形態では、焼成前の前記混練物に中空糸17を埋め込むようにしている。焼成前の混練物は柔らかいので、当該混練物に中空糸17をより確実に埋め込むことができる。これにより、表面が平滑なガス拡散層を得ることができ、触媒層13の劣化を抑えることができる。よって、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0085】
《第3実施形態》
図7を用いて、本発明の第3実施形態にかかる燃料電池について説明する。図7は、本第3実施形態にかかる燃料電池における中空糸の配置を示す模式平面図である。本第3実施形態にかかる燃料電池が前記第1実施形態にかかる燃料電池と異なる点は、中空糸117の下流側の端部がマニホールド21bと連通していない点である。ここで、中空糸117の下流側の端部がマニホールド21bと連通していない構成とは、ガス拡散層14の厚み方向から見て、中空糸117の下流側の端部とマニホールド21bとの間に、第1拡散層15が配置されている構成をいう。
【0086】
本第3実施形態によれば、上流側から供給された反応ガスは、そのほとんどが中空糸117の多孔質の周壁を通じて第1拡散層14に移動することとなるので、ガス拡散性が向上する。これにより、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0087】
なお、本実施形態では、中空糸117の下流側の端部がマニホールド21bと連通していない構成とは、中空糸117の下流側の端部とマニホールド21bとの間に、第1拡散層15が配置されている構成としたが、これに限定されない。例えば、中空糸117の下流側の端部が、中空糸117の材料又は樹脂で覆われる構成としてもよい。樹脂としては、例えば、上述のガスケット18の材料を用いることができる。
なお、中空糸117の下流側の端部とマニホールド21bとを連通させない場合、中空糸117内の圧力損失が上がるため、補機電力が多く必要になる点に留意する必要がある。また、前記第1実施形態のように、中空糸117の下流側の端部とマニホールド21bとを連通させる場合には、中空糸117の下流側の開口のサイズを上流側に比べて小さくするとよい。この場合でも、ガス拡散性を向上させることができ、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0088】
《第4実施形態》
図8を用いて、本発明の第4実施形態にかかる燃料電池について説明する。図8は、本第4実施形態にかかる燃料電池を、一部拡大して示す模式断面図である。本第4実施形態にかかる燃料電池が前記第1実施形態にかかる燃料電池と異なる点は、複数の中空糸17が第1拡散層15と第2拡散層16との界面に沿って配置されている点である。
【0089】
本第4実施形態のガス拡散層は、前記ステップS1,S2により作製した2つのシート状の混錬物の間に複数の中空糸17を互いに間隔を空けて配置した後、プレス機30にてプレスすることで作製することができる。
【0090】
本第4実施形態によれば、第1拡散層15と第2拡散層16との間に複数の中空糸17を配置することで、中空糸17と第2拡散層16とが接触すること防ぐことができると共に、表面が平滑なガス拡散層を得ることができる。これにより、触媒層13の劣化を抑えることができる。また、反応ガスをより触媒層13に近い位置に供給することができるので、ガス拡散性を向上させることができる。従って、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0091】
なお、第2拡散層16の厚さは、中空糸17の直径よりも大きいことが好ましい。これにより、中空糸17と触媒層13とが接触することをより確実に防ぐことができる。
【0092】
また、第1拡散層15は、第2拡散層16よりも柔らかい部材であることが好ましい。例えば、炭素繊維を基材としない多孔質部材で第1拡散層15を構成し、炭素繊維を基材とする多孔質部材で第2拡散層16を構成することが好ましい。これにより、プレス機30にてプレスした際、中空糸17は、より第1拡散層15側に埋め込まれることになり、中空糸17と触媒層13とが接触することをより確実に防ぐことができる。
【0093】
なお、上述の第1実施形態及び第3実施形態では、マニホールド21a及びマニホールド21bを内部マニホールドとする構成を説明したが、これに限られず、外部マニホールドとする構成であってもよい。
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明にかかる膜電極接合体、燃料電池、及びガス拡散層の製造方法は、セルの締結時に触媒層にかかる中空糸による機械的ストレスを低減して燃料電池の発電性能の低下を抑えることができるので、特に、自動車などの移動体、分散発電システム、及び家庭用のコージェネレーションシステムなどに有用である。
【符号の説明】
【0095】
1 セル
10 MEA(膜電極接合体)
11 高分子電解質膜
12 電極層
13 触媒層
14 ガス拡散層
15 第1拡散層
16 第2拡散層
17 中空糸
18 ガスケット
20 セパレータ
21a 上流側マニホールド
21b 下流側マニホールド
30 プレス機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟んで互いに対向する一対の触媒層と、前記高分子電解質膜及び前記一対の触媒層を挟んで互いに対向する一対のガス拡散層と、を有する膜電極接合体であって、
前記一対のガス拡散層の少なくとも一方は、第1拡散層と第2拡散層と複数の中空糸とを有し、
前記複数の中空糸と前記触媒層との間に前記第2拡散層が配置されている、
膜電極接合体。
【請求項2】
前記第1拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されている、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記複数の中空糸は、前記第1拡散層の内部に埋め込まれている、請求項1又は2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記複数の中空糸は、前記第1拡散層と前記第2拡散層との界面に沿って配置されている、請求項1又は2に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記一対のガス拡散層は、矩形の形状を有しており、
前記複数の中空糸は、前記ガス拡散層の互いに対向する二辺のうちの一方の辺側から他方の辺側に延びるように配置されている、請求項1〜4のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記複数の中空糸は、互いに接触しないように間隔を空けて配置されている、請求項1〜5のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を挟むように配置される一対のセパレータと、
を備える燃料電池。
【請求項8】
前記一対のセパレータのうちの一方は、前記一対のガス拡散層のうちの一方に反応ガスを供給するための上流側マニホールド、及び、前記一対のガス拡散層のうちの一方から反応ガスを排出するための下流側マニホールドを有しており、
前記複数の中空糸は、その上流側の端部が前記上流側マニホールドに連通しており、その下流側の端部が前記下流側マニホールドに連通している、請求項7に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記一対のセパレータのうちの一方は、前記一対のガス拡散層のうちの一方に燃料ガス又は酸化剤ガスを供給するための上流側マニホールド、及び、前記一対のガス拡散層のうちの一方から燃料ガス又は酸化剤ガスを排出するための下流側マニホールドを有しており、
前記複数の中空糸は、その上流側の端部が前記上流側マニホールドに連通しており、その下流側の端部が前記下流側マニホールドに連通していない、請求項7に記載の燃料電池。
【請求項10】
第1拡散層と第2拡散層と複数の中空糸とを有する燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
前記第1拡散層の表面上に複数の中空糸を配置するとともに、前記第1拡散層と前記第2拡散層とを積層し、
前記第1拡散層と前記第2拡散層と前記複数の中空糸とを前記ガス拡散層の厚み方向に圧縮するようにプレスする、
ことを含む、燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項11】
前記複数の中空糸は、前記第2拡散層と対向する前記第1拡散層の表面と反対の表面上に配置される、請求項10に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項12】
前記プレスにより、前記複数の中空糸を前記第1拡散層の内部に埋め込む、請求項11に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項13】
前記複数の中空糸は、前記第2拡散層と対向する前記第1拡散層の表面上に配置される、請求項10に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項14】
前記プレスにより、前記複数の中空糸を前記第1拡散層及び第2拡散層の少なくとも一方の内部に埋め込む、請求項13に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項15】
前記ガス拡散層は、矩形の形状を有しており、
前記複数の中空糸は、前記ガス拡散層の互いに対向する二辺のうちの一方の辺側から他方の辺側に延びるように配置される、請求項9〜14のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項16】
前記複数の中空糸は、互いに接触しないように間隔を空けて配置される、請求項9〜15のいずれか1つに記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−129303(P2011−129303A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285125(P2009−285125)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】