説明

膜電極接合体および燃料電池

【課題】高温、低加湿時における膜電極接合体の保持能力を高め、高温、低加湿時における燃料電池の発電をより安定にする。
【解決手段】膜電極接合体50は、固体高分子電解質膜20、アノード22、およびカソード24を有する。アノード22は、触媒層26およびガス拡散層28からなる積層体を有する。カソード24は、触媒層30およびガス拡散層32からなる積層体を有する。ガス拡散層32は、カソードガス拡散基材、およびカソードガス拡散基材に塗布された第1の微細孔層33aおよび第2の微細孔層33bを触媒層30の側からこの順で有する。第1の微細孔層33aおよび第2の微細孔層33bは、それぞれ、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物で構成されている。第2の微細孔層33bに含まれる導電性粉末としてのカーボンの比表面積が、第1の微細孔層33aに含まれる導電性粉末としてのカーボンの比表面積に比べて大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素の電気化学反応により発電する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー変換効率が高く、かつ、発電反応により有害物質を発生しない燃料電池が注目を浴びている。こうした燃料電池の一つとして、100℃以下の低温で作動する固体高分子形燃料電池が知られている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜である固体高分子膜を燃料極と空気極との間に配した基本構造を有し、燃料極に水素を含む燃料ガス、空気極に酸素を含む酸化剤ガスを供給し、以下の電気化学反応により発電する装置である。
【0004】
燃料極:H→2H+2e ・・・(1)
空気極:1/2O+2H+2e→HO・・・(2)
アノードおよびカソードは、それぞれ触媒層とガス拡散層が積層した構造からなる。各電極の触媒層が固体高分子膜を挟んで対向配置され、燃料電池を構成する。触媒層は、触媒を担持した炭素粒子がイオン交換樹脂により結着されてなる層である。ガス拡散層は酸化剤ガスや燃料ガスの通過経路となる。
【0005】
アノードにおいては、供給された燃料中に含まれる水素が上記式(1)に示されるように水素イオンと電子に分解される。このうち水素イオンは固体高分子電解質膜の内部を空気極に向かって移動し、電子は外部回路を通って空気極に移動する。一方、カソードにおいては、カソードに供給された酸化剤ガスに含まれる酸素が燃料極から移動してきた水素イオンおよび電子と反応し、上記式(2)に示されるように水が生成する。このように、外部回路では燃料極から空気極に向かって電子が移動するため、電力が取り出される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−140087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の燃料電池では、高温、低加湿下において膜電極接合体における水保持能力が十分でないため、燃料電池の発電性能が大きく低下していた。また、ガス拡散層に撥水剤を用いて水保持性を極度に高くすると電圧が安定しないという課題があった。
【0008】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温、低加湿時における膜電極接合体の保持能力を高め、高温、低加湿時に安定的に発電が可能な燃料電池の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、膜電極接合体である。当該膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の一方の面に設けられたアノードと、電解質膜の他方の面に設けられたカソードと、を備え、カソードは、電解質膜側から順に触媒層とガス拡散層とを含み、ガス拡散層は、触媒層側から順にそれぞれカーボンを含有する第1の微細孔層と第2の微細孔層を有し、第2の微細孔層に含まれるカーボンの比表面積が第1の微細孔層に含まれるカーボンの比表面積に比べて大きいことを特徴とする。
【0010】
上記態様の膜電極接合体において、第2の微細孔層に含まれるカーボンの比表面積が、第1の微細孔層に含まれるカーボンの比表面積より300m/g以上大きくてもよい。
【0011】
本発明の他の態様は、燃料電池である。当該燃料電池は、上述した態様の膜電極接合体備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の燃料電池によれば、高温、低加湿時において膜電極接合体の水保持能力が高まり、安定的な発電が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態に係る燃料電池の構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線上の断面図である。
【図3】実施例1、2および比較例1に係る燃料電池について、カソードガスの加湿温度を変えてセル電圧を測定した結果を示すグラフである。
【図4】第1の微細孔層に黒鉛化カーボンを用い、第2の微細孔層に含まれるカーボンの比表面積を変えた場合のセル電圧の変化を示すグラフである。
【図5】第1の微細孔層にバルカンXC-72を用い、第2の微細孔層に含まれるカーボンの比表面積を変えた場合のセル電圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
(実施の形態)
図1は、実施の形態に係る燃料電池の構造を模式的に示す斜視図である。図2は、図1のA−A線上の断面図である。燃料電池10は、平板状の膜電極接合体50を備え、この膜電極接合体50の両側にはセパレータ34およびセパレータ36が設けられている。この例では一つの膜電極接合体50のみを示すが、セパレータ34やセパレータ36を介して複数の膜電極接合体50を積層して燃料電池スタックが構成されてもよい。膜電極接合体50は、固体高分子電解質膜20、アノード22、およびカソード24を有する。
【0016】
アノード22は、触媒層26、およびガス拡散層28からなる積層体を有する。一方、カソード24は、触媒層30およびガス拡散層32からなる積層体を有する。アノード22の触媒層26とカソード24の触媒層30は、固体高分子電解質膜20を挟んで対向するように設けられている。
【0017】
アノード22側に設けられるセパレータ34にはガス流路38が設けられている。燃料供給用のマニホールド(図示せず)から燃料ガスがガス流路38に分配され、ガス流路38を通じて膜電極接合体50に燃料ガスが供給される。同様に、カソード24側に設けられるセパレータ36にはガス流路40が設けられている。
【0018】
酸化剤供給用のマニホールド(図示せず)から酸化剤ガスがガス流路40に分配され、ガス流路40を通じて膜電極接合体50に酸化剤ガスが供給される。具体的には、燃料電池10の運転時、燃料ガス、たとえば水素ガスを含有する改質ガスがガス流路38内をガス拡散層28の表面に沿って上方から下方へ流通することにより、アノード22に燃料ガスが供給される。
【0019】
一方、燃料電池10の運転時、酸化剤ガス、たとえば、空気がガス流路40内をガス拡散層32の表面に沿って上方から下方へ流通することにより、カソード24に酸化剤ガスが供給される。これにより、膜電極接合体50内で反応が生じる。ガス拡散層28を介して触媒層26に水素ガスが供給されると、ガス中の水素がプロトンとなり、このプロトンが固体高分子電解質膜20中をカソード24側へ移動する。このとき放出される電子は外部回路に移動し、外部回路からカソード24に流れ込む。一方、ガス拡散層32を介して触媒層30に空気が供給されると、酸素がプロトンと結合して水となる。この結果、外部回路においてはアノード22からカソード24に向かって電子が流れることとなり、電力を取り出すことができる。
【0020】
固体高分子電解質膜20は、湿潤状態において良好なイオン伝導性を示し、アノード22およびカソード24の間でプロトンを移動させるイオン交換膜として機能する。固体高分子電解質膜20は、含フッ素重合体や非フッ素重合体等の固体高分子材料によって形成され、たとえば、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体、ポリサルホン樹脂、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を用いることができる。スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の例として、ナフィオン(デュポン社製:登録商標)112などがあげられる。また、非フッ素重合体の例として、スルホン化された、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。固体高分子電解質膜20の典型的な膜厚は50μmである。
【0021】
アノード22を構成する触媒層26は、イオン伝導体(イオン交換樹脂)と、金属触媒を担持した炭素粒子すなわち触媒担持炭素粒子とから構成される。触媒層26の典型的な膜厚は10μmである。イオン伝導体は、合金触媒を担持した炭素粒子と固体高分子電解質膜20とを接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオン伝導体は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。
【0022】
触媒層26に用いられる金属触媒は、たとえば、貴金属とルテニウムとからなる合金触媒が挙げられる。この合金触媒に用いられる貴金属として、たとえば、白金、パラジウムなどが挙げられる。また、金属触媒を担持する炭素粒子として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンなどが挙げられる。
【0023】
アノード22を構成するガス拡散層28は、アノードガス拡散基材、およびアノードガス拡散基材に塗布された微細孔層29を有する。アノードガス拡散基材は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえばカーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。
【0024】
アノードガス拡散基材に塗布された微細孔層29は、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物である。導電性粉末としては、たとえば、カーボンブラックを用いることができる。また、撥水剤としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系樹脂を用いることができる。なお、撥水剤は結着性を有することがこのましい。ここで、結着性とは、粘りの少ないものやくずれやすいものをつなぎ合わせ、粘りのあるもの(状態)にすることができる性質をいう。撥水剤が結着性を有することにより、導電性粉末と撥水剤とを混練することにより、ペーストを得ることができる。
【0025】
カソード24を構成する触媒層30は、イオン伝導体(イオン交換樹脂)と、触媒を担持した炭素粒子すなわち触媒担持炭素粒子とから構成される。イオン伝導体は、触媒を担持した炭素粒子と固体高分子電解質膜20を接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオン伝導体は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。担持される触媒として、たとえば白金または白金合金を用いることができる。白金合金に用いられる金属として、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン、イリジウムなどが挙げられる。また触媒を担持する炭素粒子には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンなどがある。
【0026】
カソード24を構成するガス拡散層32は、カソードガス拡散基材、およびカソードガス拡散基材に塗布された第1の微細孔層33aおよび第2の微細孔層33bを有する。
【0027】
カソードガス拡散基材は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえばカーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。なお、生産性を考慮して、ガス拡散層32、ガス拡散層28の基材として共通のカーボンペーパーを用いることが好ましい。
【0028】
第1の微細孔層33a、第2の微細孔層33bは、触媒層30の側からこの順で位置している。第1の微細孔層33aおよび第2の微細孔層33bは、それぞれ、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物で構成されている。ただし、第2の微細孔層33bに含まれる導電性粉末としてのカーボンの比表面積が、第1の微細孔層33aに含まれる導電性粉末としてのカーボンの比表面積に比べて大きい。第2の微細孔層33bに含まれるカーボンの比表面積は、第1の微細孔層33aに含まれるカーボンの比表面積より300m/g以上大きいことが好ましい。より具体的には、第1の微細孔層33a、第2の微細孔層33bが含有するカーボンとしては、黒鉛化カーボン(比表面積:約80m/g)、バルカンXC-72(比表面積:約250m/g)、ケッチェンブラックEC300(比表面積:約800m/g)、ケッチェンブラックEC600JD(比表面積:約1200m/g)などが挙げられ、第1の微細孔層33a、第2の微細孔層33bが含有するカーボンの組み合わせは、上述した比表面積の関係を満たせばよい。
【0029】
以上説明した燃料電池10によれば、水分保持性が良好な高比表面積のカーボンを含有する第2の微細孔層33bをガス流路40の側に設けることにより、高温・低加湿時であっても第2の微細孔層33bに水分が十分に保持されるため、燃料電池10の出力電圧をより安定化することができる。
【0030】
(実施例1)
ここで、実施例1の膜電極接合体の作製方法について説明する。
【0031】
<カソードガス拡散層の作製>
カソードガス拡散層の基材となるカーボンペーパ(東レ社製:TGPH060H)を用意し、重量比でカーボンペーパ:FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)=95:5(カソード用)、60:40(アノード用)となるように、当該カーボンペーパをFEP分散液に浸漬した後、60℃1時間の乾燥後、380℃15分間の熱処理(FEP撥水処理)を行う。これにより、カーボンペーパがほぼ均一に撥水処理される。
【0032】
バルカンXC-72(CABOT社製:Vulcan XC72R)と溶媒としてテルピネオール(キシダ化学社製)と非イオン性界面活性剤のトリトン(キシダ化学社製)とを、重量比がバルカンXC-72:テルピネオール:トリトン=20:150:3となるように、万能混合機(DALTON社製)にて常温で60分間、均一になるように混合し、カーボンペーストAを作製する。また、ケッチェンブラックEC300J (ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製)と溶媒としてテルピネオール(キシダ化学社製)と非イオン性界面活性剤のトリトン(キシダ化学社製)とを、重量比がケッチェンブラックEC300:テルピネオール:トリトン=20:150:3となるように、万能混合機(DALTON社製)にて常温で60分間、均一になるように混合し、カーボンペーストBを作製する。
【0033】
低分子フッ素樹脂(ダイキン社製:ルブロンLDW40E)と高分子フッ素樹脂(デュポン社製:PTFE30J)とを、分散液中に含まれるフッ素樹脂の重量比が低分子フッ素樹脂:高分子フッ素樹脂=20:3となるように混合し、カソード用混合フッ素樹脂を作製する。ハイブリッドミキサ用容器に上記カーボンペーストAを投入し、カーボンペーストAが10〜12℃になるまで冷却する。冷却したカーボンペーストAに上記カソード用混合フッ素樹脂を、重量比がカーボンペースト:カソード用混合フッ素樹脂(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=31:1となるように投入し、ハイブリッドミキサ(キーエンス社製:EC500)の混合モードにて12〜18分間混合する。混合停止のタイミングはペーストの温度が50〜55℃となるまでとし、混合時間を適宜調整する。ペーストの温度が50〜55℃に達した後、ハイブリッドミキサを混合モードから脱泡モードへ切換え、1〜3分間脱泡を行う。脱泡を終えたペーストを自然冷却してカソード用ガス拡散層ペーストAを作製する。また、この手順と同様に、上述したカーボンペーストBを用いてカソード用ガス拡散層ペーストBを作製する。
【0034】
常温まで冷却したカソード用ガス拡散層ペーストBをFEP撥水処理を施した上記カーボンペーパの表面にカーボンペーパ面内の塗布状態が均一になるように塗布した後、カソード用ガス拡散層ペーストAをカソード用ガス拡散層ペーストBの上に塗布状態が均一になるように塗布し、熱風乾燥機(サーマル社製)にて60℃60分間乾燥する。最後に、360℃2時間熱処理を行い、カソードガス拡散層を完成させる。なお、カソード用ガス拡散層ペーストA、カソード用ガス拡散層ペーストBは、それぞれ、上述した第1の微細孔層33a、第2の微細孔層33bの形成に用いられている。
【0035】
<カソード用触媒スラリーの作製>
カソード触媒として、白金コバルト担持カーボン(Pt:Co=3:1(元素比),TEC10E50ETEC36F52,田中貴金属工業株式会社)を用い、イオン伝導体として、Aciplex(登録商標)溶液SS500(旭化成イーマテリアルズ製、以下「SS500溶液」という)を用いた。白金担持カーボン5gに対し、10mLの超純水を添加し撹拌した後に、15mLエタノールを添加した。この触媒分散溶液について、超音波スターラーを用いて1時間超音波撹拌分散を行った。所定のSS500溶液を等量の超純水で希釈を行い、ガラス棒で3分間撹拌した。この後、超音波洗浄器を用いて1時間超音波分散を行い、SS500水溶液を得た。その後、SS500水溶液をゆっくりと触媒分散液中に滴下した。滴下中は、超音波スターラーを用いて連続的に撹拌を行った。SS500水溶液滴下終了後、1-プロパノールと1-ブタノールの混合溶液10g(重量比1:1)の滴下を行い、得られた溶液をカソード用触媒スラリーとした。混合中は、すべて水温が約60℃になるように調整し、エタノールを蒸発、除去した。
【0036】
<カソードの作製>
上記の方法で作製したカソード用触媒スラリーをスクリーン印刷(150メッシュ)によって、カソードガス拡散層に塗布し、80℃、3時間の乾燥および180℃、45分の熱処理を行った。
【0037】
<アノードガス拡散層の作製>
アノードガス拡散層の基材となるカーボンペーパ(東レ社製:TGPH060H)を用意し、アノードガス拡散層と同様に、撥水処理を施す。
【0038】
バルカンXC-72(CABOT社製:Vulcan XC72R)と溶媒としてテルピネオール(キシダ化学社製)と非イオン性界面活性剤のトリトン(キシダ化学社製)とを、重量比がバルカンXC-72:テルピネオール:トリトン=20:150:3となるように、万能混合機(DALTON社製)にて常温で60分間、均一になるように混合し、カーボンペーストを作製する。
【0039】
ハイブリッドミキサ用容器に上記カーボンペーストと上記低分子フッ素樹脂とを、重量比がカーボンペースト:低分子フッ素樹脂(以下、アノード用フッ素樹脂とする)(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=26:3となるように投入し、ハイブリッドミキサの混合モードにて15分間混合する。混合した後、ハイブリッドミキサを混合モードから脱泡モードへ切換え、4分間脱泡を行う。脱泡を終えたペーストの上部に上澄み液が溜まった場合はこの上澄み液を廃棄し、ペーストを自然冷却してアノード用ガス拡散層ペーストを完成させる。
【0040】
常温まで冷却したアノード用ガス拡散層ペーストをFEP撥水処理を施した上記カーボンペーパの表面にカーボンペーパ面内の塗布状態が均一になるように塗布し、熱風乾燥機(サーマル社製)にて60℃60分間乾燥する。最後に、360℃2時間熱処理を行い、アノードガス拡散層を完成させる。
【0041】
<アノード用触媒スラリーの作製>
アノード用触媒スラリーの作製方法は、触媒として白金ルテニウム担持カーボン(Pt:CoRu=32:13(元素比),TEC61E54,田中貴金属工業株式会社)を使用する点を除き、カソード用触媒スラリーの作製方法と同様である。
【0042】
<アノードの作製>
上記の方法で作製したカソード用触媒スラリーをスクリーン印刷(150メッシュ)によって、アノードガス拡散層に塗布し、80℃、3時間の乾燥および180℃、45分の熱処理を行った。
【0043】
<膜電極接合体の作製>
上記の方法で作製したアノードとカソードとの間に30μm膜厚の固体高分子電解質膜を狭持した状態でホットプレスを行う。固体高分子電解質膜としてAciplex(登録商標)(SF7202、旭化成イーマテリアルズ製)を用いた。170℃、200秒の接合条件でアノード、固体高分子電解質膜、およびカソードをホットプレスすることによって実施例1の膜電極接合体を作製した。
【0044】
(実施例2乃至5、比較例1乃至5)
実施例2乃至5の膜電極接合体は、第1の微細孔層33a、第2の微細孔層33bにそれぞれ含まれるカーボンを表1に示す組み合わせにしたことを除き、実施例1と同様である。また、比較例1乃至5は、第1の微細孔層33a、第2の微細孔層33bにそれぞれ含まれるカーボンを表2に示す組み合わせにしたことを除き、実施例1と同様である。なお、比較例1、2の膜電極接合体では、第1の微細孔層33a、第2の微細孔層33bにそれぞれ含まれるカーボンの種類が同じであり、カソード側の微細孔層は単層である。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
実施例1乃至5、比較例1乃至5の膜電極接合体を含む燃料電池についてそれぞれ、0.2Acm−2の電流密度でセル電圧を測定し、電圧安定性(電圧振動)を評価した。その結果を表1および表2に示す。なお、電圧振動ありとは、定常状態において30mV以上の振幅の電圧振動が5時間に1回以上、継続的に起こる状態のことであり、電圧振動なしとは、定常状態において30mV以上の振幅の電圧振動が5時間以上起こらず、安定的に発電ができる状態をいう。表1および2に示すように、実施例1乃至5では電圧振動がなく電圧が安定的であるのに対して、比較例1乃至5では電圧振動が生じ、電圧が不安定であった。
【0048】
図3は、実施例1、2および比較例1について、カソードガスの加湿温度を変えてセル電圧を測定した結果を示すグラフである。図3に示すように、高温、低加湿状態において、実施例1、2ともに比較例1に比べてセル電圧が高くなっている。また、実施例1、2では、カソードガスの加湿温度が変化してもセル電圧が安定的に出力されていることがわかる。
【0049】
図4は、第1の微細孔層33aに黒鉛化カーボン(比表面積80m/g)を用い、第2の微細孔層33bに含まれるカーボンの比表面積を変えた場合のセル電圧の変化を示すグラフである。第2の微細孔層33bに含まれるカーボンの比表面積は、80〜1200m/gである。図4に示すグラフの横軸は、第2の微細孔層33bに含まれるカーボンの比表面積(A)と第1の微細孔層33aに含まれるカーボンの比表面積(B)との差(A−B)である。
【0050】
セル電圧の測定条件は、下記に示すとおりである。
【0051】
アノードガス:改質水素ガス(CO濃度10ppm)
カソードガス:空気
セル温度:85℃
カソードガス加湿温度:75℃
アノードガス加湿温度:60℃
図5は、第1の微細孔層33aにバルカンXC-72(約250m/g)を用い、第2の微細孔層33bに含まれるカーボンの比表面積を変えた場合のセル電圧の変化を示すグラフである。第2の微細孔層33bに含まれるカーボンの比表面積は、80〜1200m/gである。図5に示すグラフの横軸は、第2の微細孔層33bに含まれるカーボンの比表面積(B)と第1の微細孔層33aに含まれるカーボンの比表面積(A)との差(B−A)である。セル電圧の測定条件は、図4に示すグラフにおける測定条件と同様である。
【0052】
図4および図5に示すように、第2の微細孔層33bのカーボン比表面積が第1の微細孔層33aのカーボン比表面積より大きくなることで、セル電圧が急激に上昇することがわかる。より安定的でかつ高いセル電圧を得るために、第2の微細孔層33bに含まれるカーボンの比表面積は第1の微細孔層33aに含まれるカーボンの比表面積よりも大きいことが必要であり、比表面積の差(B−A)が200m/g以上大きい範囲でその効果が特に顕著となることがわかる。
【0053】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【符号の説明】
【0054】
10 燃料電池、20 固体高分子電解質膜、22 アノード、24 カソード、26,30 触媒層、28,32 ガス拡散層、29 微細孔層、33a 第1の微細孔層、33b 第2の微細孔層、50 膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に設けられたアノードと、
前記電解質膜の他方の面に設けられたカソードと、
を備え、
前記カソードは、電解質膜側から順に触媒層とガス拡散層とを含み、
前記ガス拡散層は、触媒層側から順にそれぞれ導電性粉末としてのカーボンを含有する第1の微細孔層と第2の微細孔層を有し、
前記第2の微細孔層に含まれる導電性粉末としてのカーボンの比表面積が前記第1の微細孔層に含まれる導電性粉末としてのカーボンの比表面積に比べて大きいことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記第2の微細孔層に含まれる導電性粉末としてのカーボンの比表面積が、前記第1の微細孔層に含まれる導電性粉末としてのカーボンの比表面積より200m/g以上大きい請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の膜電極接合体を備えることを特徴とする燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−171182(P2011−171182A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35151(P2010−35151)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(308013252)株式会社ENEOSセルテック (67)
【Fターム(参考)】