説明

膜電解法およびこれにより得られる生成物の使用

膜電解において金属硫酸塩をアルカリ金属塩化物溶液に加え、形成される陰極液の量を増加させる。同時に、金属硫酸塩を陽極液に加え、その安定性を向上させる。1リットル当たり1〜50グラムの金属硫酸塩を前記アルカリ金属塩化物溶液に加えることが好ましい。前記金属硫酸塩はアルカリ金属硫酸塩および/またはアルカリ土類金属硫酸塩であることが好ましい。前記陽極液はたとえば口腔衛生および/または歯科衛生、胃腸管の治療、真菌症の予防および/または治療、湿疹および/または感染の治療、クリーム剤の保管期間の延長、養禽または畜産における飲料水に対する添加剤、食品産業における洗浄剤、等として使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分で規定される膜電解法、および当該方法により得られる陽極液および陰極液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
膜電解は、水の浄化において使用される公知のプロセスである(例えば、EP1380543A1、EP1382573A1、WO2006/040709A1を参照のこと)。このプロセスは、陽極を備えた陽極領域と、陰極を備え、膜により陽極領域から隔てられている陰極領域とを含む電解槽を用いて行われる。
【0003】
塩化ナトリウム水溶液が、陽極領域および陰極領域に電解質として導入される。その結果、電解質中の陰イオンおよび他の負電荷を持つ粒子が陽極に向かって移動する一方で、陽イオンおよび同様に正電荷を持つ粒子が陰極に向かって移動する。したがって、陰極領域に存在する負電荷を持つ粒子および陽極領域に存在する正電荷を持つ粒子は、それぞれ陽極および陰極に達するためには、膜を通り抜けなければならない。
【0004】
これは、陽極領域における陽極液の形成をもたらし、この溶液は、正の酸化還元電位を有するので、酸化的性質を有する。陰極領域において形成される陰極液は負の酸化還元電位を有するので、還元的性質を有する。さらに、陰極液は強塩基性を有する一方で、陽極液は酸性である。
【0005】
準安定化合物として次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、塩素、およびオゾンを含有する陽極液は、浄化されるべき水に導入される一方で、陰極液(現在までのところ陽極液よりもはるかに少ない量で形成されている)は、廃棄されるか、重金属の析出に使用される(EP1380543A1を参照のこと)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、陰極液および陽極液の両方の新規な利用分野を切り開くことである。
【0007】
したがって、本発明は、一方では、より多い量で陰極液を得ることを可能にする方法を提供し、他方では、陽極液を他の分野でも使用することができるように陽極液の準安定な酸化的性質を安定化させ得る方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、電解質として使用される塩化ナトリウム溶液が金属硫酸塩を含有する場合に、陰極液の形成を大幅に増加させ得ることが今般見出された。これは、陽イオンが膜を通過して陽極領域から陰極領域に移動することを促進するという可能性がある。多量の陰極液が今般形成されたので、本発明は、陰極液に関して多くの見込みある新規な用途を切り開く。
【0009】
本発明の方法は、例えば、水の浄化における膜電解に使用される市販の装置であって、通過する陰極液の量を増加させるために陰極側の流量調整弁が調整されている装置を用いて実施することができる。
【0010】
陰極液形成の増加に加えて、驚くべきことに、電解質への金属硫酸塩の添加はまた、陽極液における硫酸の陰イオンから非常に高い活性を有する別の準安定化合物の形成をもたらすことも見出された。
【0011】
電解質は、好ましくは、塩化ナトリウムから成るが、他のアルカリ金属塩化物によって形成されてもよい。例えば、特に塩化ナトリウムと塩化カリウムとの混合物が適していることが分かっており、塩化カリウムは、アルカリ金属塩化物の全重量の50重量%までを占めていてもよい。アルカリ金属溶液は、好ましくは、飽和溶液の形態で貯蔵容器から取り出され、次いで、必要量の水で希釈される(例えば、1:5〜1:20の間の容量比で)。硫酸ナトリウムは、好ましくは、飽和アルカリ金属塩化物溶液が貯蔵容器中にある間に加えられる。後者は、金属硫酸塩を溶液として維持するために加熱されてもよい。金属硫酸塩は、好ましくは、1リットル当たり1〜50g、特に1リットル当たり5〜20gの量でアルカリ金属塩化物溶液に加えられる。
【0012】
アルカリ金属塩化物溶液を希釈するために使用される水は、好ましくは、炭酸塩をほとんどまたは全く含有しない。すなわち、この水は、好ましくは、ドイツの基準で硬度が最大で5であり、これはその炭酸カルシウム含有量が50mg/lを超えないことを意味する。
【0013】
アルカリ金属塩化物溶液に加えられる金属硫酸塩は、好ましくは、アルカリ金属硫酸塩(特に硫酸ナトリウム)あるいはアルカリ土類金属硫酸塩(特に硫酸マグネシウム)である。
【0014】
陽極液は、+1200mVを超える酸化還元電位および1〜3のpHを有していてもよく、一方で陰極液は、−600〜−1000mVの酸化還元電位および12を超えるpHを有していてもよい。
【0015】
本発明の第2の目的、すなわち、陽極液の新規な利用分野を切り開くために安定した陽極液を提供することは、好ましくは、陽極液に金属硫酸塩を加えることにより達成される。金属硫酸塩は、陽極液1リットル当たり0.1〜20g、特に0.5〜5g、より好ましくは1〜2gの量で加えられてもよい。
【0016】
驚くべきことに、これは陽極液中の準安定性化合物を安定化させ、したがって、その活性を何か月間も確実に延長させることが今般見出され、よって陽極液は1〜2年間の保存においても安定性を保つと考えることができる。
【0017】
陽極液を安定化させるために使用される金属硫酸塩は、好ましくは、硫酸アルミニウム(特にカリウムミョウバンの形態)である。
【0018】
カリウムミョウバン、すなわち硫酸アルミニウムカリウムは、生薬の活性物質として昔から知られている。カリウムミョウバンは、例えば、胃、腸、膀胱虚弱の場合や、出血の場合にも使用される。ミョウバンは粘膜および傷を殺菌することが知られている。しかしながら、ミョウバンは、乾燥剤、部分的凝固剤、および分泌阻害剤として作用するので、その医学的用途は制限されている。
【0019】
驚くべきことに、ミョウバンを含有する陽極液は、口部および咽頭部において、歯、歯根充填、および舌に対していかなる悪影響も及ぼさずに、またいかなる乾燥および分泌抑制作用も与えずに、優れた清浄、浄化、殺菌効果を発揮することが今般見出された。したがって、本発明のミョウバン含有陽極液は、洗口液としての使用に非常に適している。例えば、この洗口液は、口部および咽頭部における治療抵抗性の炎症を治療するために使用されてもよい。この洗口液は、例えば、数分以内の歯科治療時に止血をする。この洗口液はまた、歯周疾患、歯肉炎、および口内炎を防ぐために予防的に使用されてもよい。
【0020】
上記洗口液はまた、硫酸マグネシウムを含有してもよく、これは洗口液の保存安定性をさらに向上させる。陽極液は、液1リットル当たり、例えば、0.5〜10g、特に1〜2gの硫酸マグネシウムを含有してもよい。
【0021】
上記洗口液はまた、一般的に使用されている他の添加剤、例えば、香味物質、甘味料、精油などを含有してもよい。
【0022】
本発明の洗口液は、プラーク、歯肉炎、および歯周炎の原因である微生物を確実に除去することが分かっている。その結果、本発明の洗口液は効率的に感染症を予防し、存在する可能性のある傷の迅速な治癒が確保される。同時に、本発明の洗口液は、ガム質、歯、および舌の変色を全く起こさない。
【0023】
しかしながら、本発明の陽極液は、洗口液としてだけでなく、ヒト医学や獣医学診療の両方で、他の様々な適応症にも使用されてもよい。例えば、本発明の陽極液は、強い殺生物(特に抗菌および殺菌)効果を有する。
【0024】
したがって、本発明の陽極液は、傷の治療(例えば、皮膚病変の場合で)ならびに潰瘍の治療のために使用されてもよい。本発明の陽極液は、特に胃腸管の治療に関して(例えば、ヘリコバクターまたはカンジダ属の種を原因とする疾患および出血の排除に関して)優れていることが証明されている。その強力な抗菌作用に加えて、本発明の陽極液はまた、強い殺菌効果を発揮する。本発明の陽極液は、ヒトにおける真菌感染(例えば、爪真菌症)ならびにウマにおける真菌感染(例えば、腐蹄症、「膝皸」、および鞍の付く部分の真菌(Sattelpilz))を結果よく治療することができる。
【0025】
さらに、本発明の陽極液は、湿疹(特にウマにおける夏癬)および前頭洞の化膿(例えば、ウマでの)、ならびにダニに対する予防を含むヒトや動物における炎症および感染症を治療するために使用されてもよい。本発明の陽極液はまた、抗生物質に対する耐性のためにもはや治療することができない疾患の場合に特に使用されてもよい。
【0026】
本発明の陽極液の他の利用分野は、クリーム剤(例えば、スキンケア目的で使用されるもの)の保管期間の改善である。これは、本発明の陽極液が殺菌作用だけでなく、強い乳化効果も有しているからである。さらに、本発明の陽極液は、アレルギーを起こさないという点でクリーム剤中に使用される他の添加剤と比較して利点を有する。
【0027】
本発明の陽極液はまた、養禽で使用される飲料水に対する優れた添加剤となることが分かっている。
【0028】
例えば、鳥インフルエンザの影響によりニワトリを鶏舎で飼育しなければならなかった昨年、本発明の陽極液を含む飲料水(最初の1週間は陽極液を1容量部に対して水を10容量部の希釈度で、そして次の5週間は1:100の希釈度で)を数百羽のニワトリを抱える養鶏場の鳥の半数に与えた。もう半数のニワトリには陽極液を含む飲料水を与えずに、対照とした。6週後、陽極液を与えられたニワトリの体重増加は、対照群のニワトリの体重増加よりも30%を超えて高かった。
【0029】
養禽における使用に加えて、上記陽極液はまた、畜産全般における飲料水添加剤としての使用に適している。
【0030】
さらに、本発明の陽極液は、例えば、食品分野での洗浄剤としての使用に非常に適している。例えば、本発明の陽極液は、パイプ、容器などを洗浄するため(例えば、醸造所や乳製品工場で)、あるいは、冷却または冷凍目的用の氷の製造を特に含む、食品や飲料の製造で使用される施設や設備を洗浄するためにかなり全般的に使用されてもよい。したがって、本発明の陽極液で洗浄された施設で製造された氷は、微生物が存在しないので、魚のように腐敗しやすい食品と直接接触させることが問題なくできる。
【0031】
これは、本発明によって製造される陽極液が、食品および飲料分野における表面の洗浄に関しては、全般的に適用できることを意味している。この陽極液は、食品生産、あるいは、冷却または冷凍用の氷のような食品と接触する加工補助剤の製造に伴う施設、設備ならびに物の洗浄に特に使用されてもよい。
【0032】
本発明の陽極液と本発明の陰極液との組み合わせを、ここで特に使用してもよい。これは食品分野だけでなく他の洗浄用途にも適用される。このような場合、まず強塩基性の本発明の陰極液、その後に本発明の陽極液が洗浄に使用される。
【0033】
本発明の陰極液はまた、表面を消毒および殺菌するのに非常に適している。例えば、本発明の陰極液は、医師の手術室、病院、および同様の保健機関において、あるいは老人ホームにおいて表面を洗浄するために使用されてもよい。本発明の陰極液の高いpHにより、これら施設に典型的な不快臭もここで除去される。
【0034】
消毒および殺菌を完了するため、陰極液での表面処理の後に、本発明の陽極液で処理してもよい。本発明の陽極液は、強い洗浄作用を有しており、したがって、洗浄剤の製造に使用されてもよい。
【0035】
さらに、本発明の陰極液は、その強いアルカリ性のため、例えば、酸性土壌のpHを中和するために使用されてもよい。例えば、酸性値から中性域へpHを変更させることにより土壌中の真菌の増殖を抑制することができ、これにより、栄養素の取り込みが増加するため、植物の成長が著しく向上する。
【0036】
本発明の陰極液の他の利用分野は、重金属(例えば、織物染色工場において、消火用水目的の場合)および冷間圧延機で生じた排水で強く汚染された水の浄化である。例えば、水のpHが本発明の陰極液により9〜10まで上昇されると、重金属はほぼ定量的に析出する。形成された羊毛状微片は、例えば、玄武岩の粉じんなどの鉱物粉末中で結合されて、例えば、焼結金属フィルターでのろ過により分離されてもよい。ろ液により形成される残留水は、例えば、本発明の陽極液を用いてさらに浄化されてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】EP1380543A1
【特許文献2】EP1382573A1
【特許文献3】WO2006/040709A1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極液および陰極液を形成させるために膜により互いに分離されている電解槽の陽極領域および陰極領域の両方にアルカリ金属塩化物水溶液を導入させる膜電解法であって、前記陰極液の生産を増加させるために金属硫酸塩を前記アルカリ金属塩化物溶液に加えることを特徴とする膜電解法。
【請求項2】
1リットル当たり1〜50グラムの金属硫酸塩を前記アルカリ金属塩化物溶液に加えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属硫酸塩がアルカリ金属硫酸塩および/またはアルカリ土類金属硫酸塩であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属硫酸塩が硫酸ナトリウムあるいはアルカリ土類金属硫酸塩が硫酸マグネシウムであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
このように導入された前記アルカリ金属塩化物水溶液が、1リットル当たり50mg未満の炭酸カルシウムを含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属硫酸塩が前記陽極液に加えられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の、膜電解法。
【請求項7】
前記金属硫酸塩の添加量が1リットル当たり0.1〜20グラムであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属硫酸塩が硫酸アルミニウムまたは硫酸マグネシウムであることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
ミョウバンが硫酸アルミニウムとして使用されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に従って得られる前記陽極液のヒト医学または獣医学における使用。
【請求項11】
前記陽極液が口腔衛生および/または歯科衛生のために使用されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記陽極液が、歯周疾患、歯肉炎、および/または口内炎の予防ならびに/あるいは治療に使用されることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記陽極液が洗口液として使用されることを特徴とする、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
前記陽極液が傷を治療するために使用されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項15】
前記陽極液が胃腸管を治療するために使用されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項16】
前記陽極液が真菌症の予防および/または治療のために使用されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項17】
前記陽極液が湿疹および/または感染を治療するために使用されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項18】
クリーム剤の保管期間を延ばすための請求項1〜9のいずれか一項に従って得られる前記陽極液の使用。
【請求項19】
養禽または畜産における飲料水に対する添加剤としての請求項1〜9のいずれか一項に従って得られる前記陽極液の使用。
【請求項20】
食品産業における洗浄剤としての請求項1〜9のいずれか一項に従って得られる陽極液の使用。
【請求項21】
表面の消毒および/または殺菌のための請求項1〜5のいずれか一項に従って得られる前記陰極液の使用。
【請求項22】
前記陰極液による表面の殺菌後、請求項1〜9のいずれか一項に従って得られる前記陽極液が次いで使用されることを特徴とする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
土壌を処理するための請求項1〜5のいずれか一項に従って得られる前記陰極液の使用。
【請求項24】
重金属を析出させることによる、重金属で汚染された水を処理するための請求項1〜5のいずれか一項に従って得られる前記陰極液の使用。
【請求項25】
前記陰極液によって析出した重金属が鉱物粉末を使用して結合され、次いで分離されることを特徴とする、請求項24に記載の使用。

【公表番号】特表2010−533785(P2010−533785A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516396(P2010−516396)
【出願日】平成20年7月5日(2008.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005501
【国際公開番号】WO2009/010203
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(510014685)モノファルム・ハンデルスゲゼルシャフト・エムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】MONOPHARM HANDELSGESELLSCHAFT MBH
【Fターム(参考)】