説明

膨張黒鉛シート及びその製造方法

【課題】 面方向だけでなく厚み方向にも優れた熱伝導性を有し、ノートパソコンやプラズマテレビ等の電子・電気機器において発生する熱を効率良く拡散して放散するための放熱シート等として好適に利用可能な膨張黒鉛シート及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体、もしくは、膨張黒鉛粉体と表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体との混合物、或いは、膨張黒鉛粉体と表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体とナノカーボンの混合物、を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膨張黒鉛シート及びその製造方法に関し、より詳しくは、各種電子機器の内部に組み込まれている放熱部品から発生する熱を効率良く拡散して放散するための放熱シート等として好適に利用できる膨張黒鉛シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我々の日常生活で用いられるノートパソコンや携帯電話に代表される電子機器は、高性能化・小型化が著しいスピードですすんでいる。
このような電子機器の高性能化・小型化に伴って、その内部に組み込まれた半導体部品は大容量化・高集積化がすすんでおり、これによって電子機器内部における発熱量が非常に増加している。
【0003】
従来、ノートパソコン等の電子機器においては、半導体部品からの発熱を銅やアルミニウム等の熱伝導性のよい金属からなる放熱板を介してフィンやヒートシンクへと伝えて外部に放熱していたが、近年では金属板に代わってグラファイトシートが用いられるようになってきている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
これは、グラファイトシートは、面内熱伝導率が銅やアルミニウムに比べて高く(銅の2倍、アルミニウムの3倍)、しかも軽量で安価であるという優れた特性を有するためであり、このような特性を活かして、複数層の回路基板からなる積層基板において基板と基板の間に介在される放熱シートや、プラズマテレビにおけるプラズマディスプレイパネルの放熱シート等としても用いられている。
【0005】
しかしながら、グラファイトシートは、カーボンが層構造をなしているという構造上の特徴から、面内方向への熱伝導性には優れているが、面方向と直交する方向(厚さ方向)の熱伝導率が低いという欠点を有しており、そのために充分な放熱効果が得られない場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−168882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、面方向だけでなく厚み方向にも優れた熱伝導性を有し、ノートパソコンやプラズマテレビ等の電子・電気機器において発生する熱を効率良く拡散して放散するための放熱シート等として好適に利用可能な膨張黒鉛シート及びその製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体が、圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形されてなることを特徴とする膨張黒鉛シートに関する。
請求項2に係る発明は、膨張黒鉛粉体と、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体との混合物が、圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形されてなることを特徴とする膨張黒鉛シートに関する。
請求項3に係る発明は、膨張黒鉛粉体と、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体と、ナノカーボンの混合物が、圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形されてなることを特徴とする膨張黒鉛シートに関する。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記金属めっきが、アルミニウム、錫、銅、ニッケル、コバルトのいずれかの金属めっきであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の膨張黒鉛シートに関する。
請求項5に係る発明は、前記金属めっきの厚みが、2〜20μmであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の膨張黒鉛シートに関する。
【0010】
請求項6に係る発明は、膨張黒鉛粉体からなる層と、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層が、圧延処理又はプレス成形により積層一体化されてシート状に成形されてなることを特徴とする膨張黒鉛シートに関する。
請求項7に係る発明は、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層が、膨張黒鉛粉体からなる層の表裏両面に積層されてなることを特徴とする請求項6記載の膨張黒鉛シートに関する。
請求項8に係る発明は、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層におけるめっき金属の種類が、膨張黒鉛粉体からなる層の表面と裏面とで異なっていることを特徴とする請求項7記載の膨張黒鉛シートに関する。
【0011】
請求項9に係る発明は、前記膨張黒鉛粉体が、粒径の異なる複数種類の粉体の混合物からなることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の膨張黒鉛シート。
請求項10に係る発明は、前記シート状に成形された膨張黒鉛シートの表面及び/又は裏面を被覆するように金属めっき層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の膨張黒鉛シートに関する。
請求項11に係る発明は、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体が、還元水を用いた金属めっきにより製造されてなることを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載の膨張黒鉛シートに関する。
【0012】
請求項12に係る発明は、膨張黒鉛粉体の表面に金属めっきを施した後、該金属めっきが施された膨張黒鉛粉体を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形することを特徴とする膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
請求項13に係る発明は、膨張黒鉛粉体の表面に金属めっきを施した後、該金属めっきが施された膨張黒鉛粉体をめっきが施されていない膨張黒鉛粉体と混合し、該混合物を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形することを特徴とする膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
請求項14に係る発明は、膨張黒鉛粉体の表面に金属めっきを施した後、該金属めっきが施された膨張黒鉛粉体をめっきが施されていない膨張黒鉛粉体及びナノカーボンと混合し、該混合物を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形することを特徴とする膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
【0013】
請求項15に係る発明は、前記金属めっきが、アルミニウム、錫、銅、ニッケル、コバルトのいずれかの金属めっきであることを特徴とする請求項12乃至14いずれかに記載の膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
請求項16に係る発明は、前記金属めっきの厚みが、2〜20μmであることを特徴とする請求項12乃至15いずれかに記載の膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
【0014】
請求項17に係る発明は、膨張黒鉛粉体と、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体を、層状に重ねて圧延処理又はプレス成形により一体化してシート状に成形することを特徴とする膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
請求項18に係る発明は、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層を、膨張黒鉛粉体からなる層の表裏両面に積層することを特徴とする請求項17記載の膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
請求項19に係る発明は、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層におけるめっき金属の種類が、膨張黒鉛粉体からなる層の表面と裏面とで異なっていることを特徴とする請求項18記載の膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
【0015】
請求項20に係る発明は、前記膨張黒鉛粉体が、粒径の異なる複数種類の粉体の混合物からなることを特徴とする請求項12乃至19いずれかに記載の膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
請求項21に係る発明は、前記シート状に成形された膨張黒鉛シートの表面及び/又は裏面を被覆するように金属めっきを施すことを特徴とする請求項12乃至20いずれかに記載の膨張黒鉛シートに関する。
請求項22に係る発明は、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体を、還元水を用いた金属めっきにより製造することを特徴とする請求項12乃至21いずれかに記載の膨張黒鉛シートの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び12に係る発明によれば、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体が圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形されているので、膨張黒鉛粉体の表面のめっき金属を介しての熱伝導が生じることで、面方向だけでなく厚み方向にも優れた熱伝導性を発揮し得るシートとなり、ノートパソコンやプラズマテレビ等の電子・電気機器において発生する熱を効率良く放散するための放熱シートとして好適に利用可能となる。
【0017】
請求項2及び13に係る発明によれば、膨張黒鉛粉体と、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体との混合物が、圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形されているので、膨張黒鉛粉体の表面のめっき金属を介しての熱伝導が生じ、面方向だけでなく厚み方向にも優れた熱伝導性を発揮し得るシートとなり、電子・電気機器において発生する熱を効率良く放散するための放熱シートとして好適に利用可能となる。更には、混合物における混合比率を調整することによって、シートの熱伝導率、可撓性、強度を調整することができるので、使用用途に最適な特性をもつシートを容易に得ることが可能となる。
【0018】
請求項3及び14に係る発明によれば、ナノカーボンが配合されていることによって、熱伝導性を高めることが可能となる。
請求項4及び15に係る発明によれば、金属めっきが、アルミニウム、錫、銅、ニッケル、コバルトのいずれかの金属めっきであることにより、厚み方向の熱伝導率に優れた膨張黒鉛シートを得ることができるとともに、製造も容易に且つ低コストで行うことができる。
請求項5及び16に係る発明によれば、金属めっきの厚みが2〜20μmであるため、熱伝導率、強度、可撓性等のバランスが優れた膨張黒鉛シートとなる。
【0019】
請求項6〜8及び17〜19に係る発明によれば、異なる性質をもつ複数の層を有するシートとなることによって、幅広い用途に使用可能な複合シート材料となる。
請求項9及び20に係る発明によれば、膨張黒鉛粉体が、粒径の異なる複数種類の粉体の混合物からなることによって、厚み方向の熱伝導性を高めることができるとともに、得られたシートからパッキンやガスケット等のシール部材を形成した場合に良好なシール性が発揮される。
請求項10及び21に係る発明によれば、シート状に成形された膨張黒鉛シートの表面及び/又は裏面を被覆するように金属めっき層が形成されることにより、シートの強度を高めることができるとともに、使用時における膨張黒鉛粉の発生も防ぐことが可能となる。
請求項11及び22に係る発明によれば、還元水によってめっき金属の分散性が高められるため、めっきの作業効率が向上するとともに、表面にむらなく金属めっきが施された膨張黒鉛粉体が得られることで、厚み方向の熱伝導性向上効果が確実且つ良好に発揮されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る膨張黒鉛シート及びその製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る膨張黒鉛シートの製造工程の第一実施形態を模式的に示した図である。
本発明に係る膨張黒鉛シート(1)は、膨張黒鉛粉体(2)の表面に金属めっきを施すことにより膨張黒鉛粉体(2)の表面を覆うように金属皮膜(3)を形成し、その後、この金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)を圧延処理してシート状に成形することにより製造される。
【0021】
本発明において原料となる膨張黒鉛粉体(2)は、従来公知の膨張黒鉛製造方法により製造することができ、一例として以下の方法を挙げることができる。
先ず、天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛等からなる原料を精錬する。この精錬は、例えば原料黒鉛を粉砕して浮遊選鉱した後、化学精錬によって行われる。
次いで、精錬後の黒鉛を、硫酸、硝酸等の強酸に浸漬し、過酸化水素や過塩素酸等の酸化剤を添加するか、もしくは電解酸化処理を行うことにより、硫酸や硝酸の分子を黒鉛層内に侵入させて層間化合物を形成する。
そして、酸処理後の黒鉛を水洗して乾燥させた後、この黒鉛を700〜1200℃に急加熱することによって層間化合物を黒鉛の層間で急激にガス化させ、このガス化によって黒鉛を膨張させることにより、膨張黒鉛粉体(2)を得る。
【0022】
このようにして得られた膨張黒鉛粉体(2)は、例えば発泡倍率が50〜500倍のものであり、その表面には金属めっきが施される。
膨張黒鉛粉体(2)の表面にめっきされる金属の種類としては、アルミニウム、錫、銅、ニッケル、コバルト等を例示することができるが、特にこれらに限定されず、膨張黒鉛粉体(2)の表面へのめっき(電解めっき又は無電解めっき)が可能な金属であればよい。
【0023】
金属めっきの厚さは、厚すぎるとシート状に成形した時に可撓性が低くなり、薄すぎると熱伝導率の改善効果が充分に得られないため、適当な範囲に設定する必要があり、例えば0.5〜20μmとされ、好ましくは2〜20μm、より好ましくは2〜10μm、更に好ましくは2〜5μmとされる。
【0024】
めっきの方法については公知のめっき方法を用いることができ、電解めっきでもよいし、無電解めっきでもよい。
本発明では、膨張黒鉛粉体(2)の粒径が0.6μm未満の場合には無電解めっきを、0.6μm以上の場合には電解めっきを用いることが好ましい。
例えば、無電解めっきの場合のめっき厚は2〜10μm程度、電解めっきの場合のめっき厚は2〜20μm程度とされる。
めっき工程に際しては、膨張黒鉛粉体(2)のめっき浴中での取り扱いを容易にするために、例えば、膨張黒鉛粉体(2)を該粉体の粒径よりも小さい目をもつネット袋に入れた状態で、めっき浴中に浸漬することにより行うことができる。
【0025】
本発明においては、上記した金属めっきにおいて使用される水として還元水を用いることが好ましい。
還元水とは、負の酸化還元電位に処理されたアルカリ性の水のことを指し、純水に比べて水分子クラスターが小さく、優れた浸透力を有している。
そのため、還元水を用いることによって、めっき金属の分散性が高められ、めっき速度が速くなるとともに、表面にむらなく金属めっきが施された膨張黒鉛粉体が得られる。また、膨張黒鉛の層間にめっき金属を侵入させることも可能となる。
本発明において使用される還元水の酸化還元電位は、例えば−200〜−800mV、より好ましくは−600〜−800mVとされ、pHは7〜10の範囲とされる。
【0026】
還元水の製法は特に限定されるものではないが、例えば以下の方法を例示することができる。
1.ガスバブリング法
窒素ガスや水素ガスのバブリングにより水中の酸素濃度を低下させ、酸化還元電位を低下させる
2.ヒドラジンの添加による方法
ヒドラジンを添加することにより、水中の酸素濃度を低下させ、酸化還元電位を低下させる。
3.電気分解による方法
(a)正負の波高値及び/又はデューティー比が非対称な高周波電圧を印加して水の電気分解を行い、酸化還元電位を低下させる。
(b)電極を1枚のグランド電極(カソード極)と、アノード極とカソード極が交互に変化する2枚のPtとTiからなる特殊形状電極(菱形網状電極又は六角形網状電極)から構成し、高周波電圧を印加して水の電気分解を行い、酸化還元電位を低下させる。
本発明においては、上記した方法がいずれも好適に使用できるが、最も好ましくは「3(b)」の方法が使用される。その理由は「3(b)」の方法を使用した場合が、最も水分子クラスターが小さくて浸透力に優れ、しかも不純物が極めて少ない還元水を得ることができるためである。
【0027】
上記還元水には、クエン酸、酢酸等の弱酸を加えることができ、弱酸を加えた後の還元 水のpHは2〜6とされる。
弱酸を加えることによって、還元水の酸化還元電位が安定する。
【0028】
上記したように金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(3)は、通常の膨張黒鉛シートの製造工程の場合と同様に、ローラ(5)等を用いて圧延処理されることによりシート状に成形され、これによって本発明に係る膨張黒鉛シート(1)が完成する。
また、圧延処理に代えて、金型を用いた公知のプレス成形法を用いてシート状に成形することにより、本発明に係る膨張黒鉛シート(1)を得ることもできる。この方法によれば、圧延処理による方法に比べて、大掛かりな設備を必要としないことや、厚みを自由に変えられるというメリットがある。
【0029】
このようにして得られる本発明に係る膨張黒鉛シート(1)の厚みは、0.05〜2.0mm程度であり、密度(見掛け密度)は、めっき金属が銅で、めっき厚が3μmの場合、1.1〜2.2g/cm程度である。
【0030】
上記方法により得られる本発明に係る膨張黒鉛シート(1)は、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体が圧延処理によってシート状に成形されているので、膨張黒鉛粉体の表面のめっき金属を介しての熱伝導が生じることとなる。
そのため、面方向だけでなく厚み方向にも優れた熱伝導性を発揮し得るシートとなり、電子・電気機器の内部で発生する熱を効率良く放散するための放熱シートとして好適に利用できる。
【0031】
図2は、本発明に係る膨張黒鉛シートの製造工程の第二実施形態を模式的に示した図である。
この第二実施形態において、本発明に係る膨張黒鉛シート(1)は、膨張黒鉛粉体(2)の表面に金属めっきを施すことにより膨張黒鉛粉体(2)の表面を覆うように金属皮膜(3)を形成した後、該金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)をめっきが施されていない膨張黒鉛粉体(2)と混合し、この混合物(6)を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形することにより製造される。
【0032】
この図2の製造工程が上述した図1の製造工程と異なる点は、図1の製造工程では、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)を単独で圧延処理又はプレス成形によりシート状に成形するのに対して、図2の製造工程では、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)をめっきが施されていない膨張黒鉛粉体(2)と混合し、この混合物(6)を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形する点であり、その他の点(必須構成だけでなく任意構成についても)は同じである。
【0033】
金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)と、めっきが施されていない膨張黒鉛粉体(2)との混合比率は、1:1〜1:2(重量比)とすることが好ましい。
その理由は、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)の比率が低すぎると熱伝導率の改善効果が充分に得られず、高すぎるとシート状に成形した時に可撓性が低くなるためである。
【0034】
図2に示した製造工程により得られる本発明に係る膨張黒鉛シート(1)も、図1に示した製造工程により得られるシートと同様に、膨張黒鉛粉体の表面のめっき金属を介しての熱伝導が生じ、面方向だけでなく厚み方向にも優れた熱伝導性を発揮し得るシートとなり、電子・電気機器において発生する熱を効率良く放散するための放熱シートとして好適に利用できる。
またこれに加えて、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)と、めっきが施されていない膨張黒鉛粉体(2)との混合比率を調整することによって、最終的に得られるシートの物性(熱伝導率、可撓性、強度等)を調整することができるので、使用用途に最適な特性をもつシートを得ることが可能となる。
【0035】
図3は、本発明に係る膨張黒鉛シートの製造工程の第三実施形態を模式的に示した図である。
この第三実施形態において、本発明に係る膨張黒鉛シート(1)は、膨張黒鉛粉体(2)の表面に金属めっきを施すことにより膨張黒鉛粉体(2)の表面を覆うように金属皮膜(3)を形成した後、該金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)をめっきが施されていない膨張黒鉛粉体(2)及びナノカーボン(7)と混合し、この混合物(8)を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形することにより製造される。
【0036】
この図3の製造工程が上述した図1の製造工程と異なる点は、図1の製造工程では、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)を単独で圧延処理又はプレス成形によりシート状に成形するのに対して、図3の製造工程では、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)をめっきが施されていない膨張黒鉛粉体(2)及びナノカーボン(7)と混合し、この混合物(8)を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形する点であり、その他の点(必須構成だけでなく任意構成についても)は同じである。
【0037】
ナノメートルオーダという極めて粒径の小さいナノカーボンを配合することによって、得られる膨張黒鉛シートの熱伝導性(特に厚み方向の熱伝導性)を向上させることができる。
【0038】
本発明においては、上記した3種類の製造方法(図1、図2、図3参照)において、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)として、2種類以上の異なる種類の金属めっき(例えば、アルミニウムめっきと銅めっき、アルミニウムめっきと錫めっき、銅めっきと錫めっき、ニッケルめっきと錫めっき、ニッケルめっきと銅めっき等)が施された膨張黒鉛粉体(4)の混合物を用いることもできる。
このように、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)として、2種類以上の異なる種類の金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)の混合物を用いることにより、最終的に得られるシートの物性(熱伝導率、可撓性、強度等)を、より細かい範囲で調整することが可能となる。
【0039】
図4は、本発明に係る膨張黒鉛シートの製造工程の第四実施形態を模式的に示した図である。
この第四実施形態において、本発明に係る膨張黒鉛シート(1)は、膨張黒鉛粉体(2)の表面に金属めっきを施すことにより膨張黒鉛粉体(2)の表面を覆うように金属皮膜(3)を形成し、その後、この金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)を、めっきが施されていない膨張黒鉛粉体(2)と共に圧延処理又はプレス成形することにより、両者を積層一体化してシート状に成形することにより製造される。
ここで、膨張黒鉛粉体(2)、金属皮膜(3)、膨張黒鉛粉体(4)については、第一実施形態において説明したものと同じ構成(必須構成だけでなく任意構成についても)が採用されるため、説明を省略する。
【0040】
第四実施形態の膨張黒鉛シート(1)において、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体(4)からなる層(9)は、めっきが施されていない膨張黒鉛粉体(2)からなる層(10)の一方の面側のみに設けてもよいし、両方の面側に設けてもよい。図示例では、両方の面側に設けた例が示されている。この場合の積層シートの厚みは、0.1〜0.2mm程度となる。
【0041】
両方の面側に設ける場合、表面側と裏面側に設けられる層(9)におけるめっき金属の種類を異ならせることが好ましい。
表面側と裏面側のめっき金属の組み合わせは特に限定されず、上述した種類のめっき金属を任意に組み合わせることができる。具体例としては、銅とアルミニウム、銅とニッケル、銅と錫、銅とコバルト、アルミニウムとニッケル等の組み合わせが挙げられる。
【0042】
第四実施形態において、上記したような表面側と裏面側に設けられる層(9)におけるめっき金属の種類を異ならせた(例えば、アルミニウムめっきと銅めっき)膨張黒鉛シート(1)は、図5に示す如く渦巻状に巻回して電解液が蓄えられた槽(11)に浸漬させることによって、リチウム電池の電極やキャパシタとしての利用が可能である。
【0043】
本発明においては、上記した全ての実施形態において、膨張黒鉛粉体(2)として、粒径の異なる複数種類の膨張黒鉛粉体の混合物からなるものを使用することができる。
具体的には、例えば、粒径10μm以下の超微粉末と、粒径150μm以上の通常粉体との混合物を用いることができる。
膨張黒鉛粉体として、粒径の異なる複数種類の粉体の混合物を用いることによって、厚み方向の熱伝導性を高めることができるとともに、得られたシートからパッキンやガスケット等のシール部材を形成した場合に良好なシール性が発揮される。
【0044】
更に、本発明においては、上記した全ての実施形態において、圧延処理又はプレス成形によりシート状に成形された膨張黒鉛シートの少なくとも一方側の面(好ましくは表裏両面)の全体を被覆するように金属めっき層を形成することができる。
めっき層の厚さは、2〜20μm程度とすることが好ましい。
めっきされる金属の種類としては、膨張黒鉛粉体に施された金属めっきと同じ種類の金属めっきを施すことが好ましく、アルミニウム、錫、銅、ニッケル、コバルト等を例示することができる。
表裏面にめっきを施す場合、表面と裏面で同じ種類の金属めっきを施すこともできるし、異なる種類の金属めっきを施すこともできる。
本発明に係る膨張黒鉛シートでは、金属めっきが施された膨張黒鉛粉体を用いるために、成形後において膨張黒鉛間の界面で剥れが生じ易くなるおそれがあるが、このように金属めっき層を形成することにより、剥れを防いでシートの強度を高めることができるとともに、シート表面から膨張黒鉛粉が落ちるのを防ぐことも可能となる。
【0045】
以上説明した本発明に係る膨張黒鉛シートは、上述した如く放熱シート、リチウムイオン電池の電極、キャパシタとして用いられる他、その放熱特性を利用して、ヒートシンク、パッキン、ガスケットに成形して用いることができる。また、多層基板内に介在されるシートとしての利用も可能である。更に、電磁波遮断用シートとしての利用も可能である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明に係る膨張黒鉛シートの実施例及び比較例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
1.サンプルの作成
(実施例1)
図1に示す製造工程において、常法により得られた膨張黒鉛粉体(発泡倍率250倍)に、銅の電解めっきを約3μmの厚さで施し、これをローラにより圧延することによって、厚さ0.25mm、密度1.35g/cmの膨張黒鉛シートを得た。
(実施例2)
図2に示す製造工程において、実施例1と同じ方法により得られた膨張黒鉛粉体と、該粉体に銅の電解めっきを約3μmの厚さで施した粉体を1:1の比率(重量比)で混合した混合物をローラにより圧延することによって、厚さ0.25mm、密度1.25g/cmの膨張黒鉛シートを得た。
【0048】
(比較例)
実施例1と同じ方法により得られた膨張黒鉛粉体を、単独でそのままローラにより圧延することによって、厚さ0.25mm、密度1.0g/cmの膨張黒鉛シートを得た。
【0049】
2.特性評価
上記実施例1,2及び比較例で得られたシートについて、熱伝導率(面方向及び厚さ方向)を測定した。測定方法はμフラッシュ法を用いた。
結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、実施例のサンプルは比較例のサンプルに比べて、厚み方向の熱伝導率が約10倍に向上した。
この結果から、本発明に係る膨張黒鉛シートは、厚み方向の熱伝導率が従来のシートに比べて格段に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る膨張黒鉛シートは、各種電子・電気機器の内部に組み込まれている放熱部品から発生する熱を効率良く放散するための放熱シートとして特に好適に用いられる他、電磁波遮断用シート、多層基板、ヒートシンク、パッキンやガスケット等のシール部材、リチウムイオン電池の電極、キャパシタ等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る膨張黒鉛シートの製造工程の第一実施形態を模式的に示した図である。
【図2】本発明に係る膨張黒鉛シートの製造工程の第二実施形態を模式的に示した図である。
【図3】本発明に係る膨張黒鉛シートの製造工程の第三実施形態を模式的に示した図である。
【図4】本発明に係る膨張黒鉛シートの製造工程の第四実施形態を模式的に示した図である。
【図5】第四実施形態の膨張黒鉛シートをリチウム電池の電極やキャパシタとして利用する場合の形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 膨張黒鉛シート
2 膨張黒鉛粉体
3 金属めっき被膜
4 金属めっきが施された膨張黒鉛粉体
5 ローラ(圧延ローラ)
6 金属めっきが施された膨張黒鉛粉体と、めっきが施されていない膨張黒鉛粉体の混合物
7 ナノカーボン
8 金属めっきが施された膨張黒鉛粉体と、めっきが施されていない膨張黒鉛粉体と、ナノカーボンの混合物
9 金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層
10 金属めっきが施されていない膨張黒鉛粉体からなる層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体が、圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形されてなることを特徴とする膨張黒鉛シート。
【請求項2】
膨張黒鉛粉体と、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体との混合物が、圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形されてなることを特徴とする膨張黒鉛シート。
【請求項3】
膨張黒鉛粉体と、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体と、ナノカーボンの混合物が、圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形されてなることを特徴とする膨張黒鉛シート。
【請求項4】
前記金属めっきが、アルミニウム、錫、銅、ニッケル、コバルトのいずれかの金属めっきであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の膨張黒鉛シート。
【請求項5】
前記金属めっきの厚みが、2〜20μmであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の膨張黒鉛シート。
【請求項6】
膨張黒鉛粉体からなる層と、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層が、圧延処理又はプレス成形により積層一体化されてシート状に成形されてなることを特徴とする膨張黒鉛シート。
【請求項7】
表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層が、膨張黒鉛粉体からなる層の表裏両面に積層されてなることを特徴とする請求項6記載の膨張黒鉛シート。
【請求項8】
表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層におけるめっき金属の種類が、膨張黒鉛粉体からなる層の表面と裏面とで異なっていることを特徴とする請求項7記載の膨張黒鉛シート。
【請求項9】
前記膨張黒鉛粉体が、粒径の異なる複数種類の粉体の混合物からなることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の膨張黒鉛シート。
【請求項10】
前記シート状に成形された膨張黒鉛シートの表面及び/又は裏面を被覆するように金属めっき層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の膨張黒鉛シート。
【請求項11】
表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体が、還元水を用いた金属めっきにより製造されてなることを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載の膨張黒鉛シート。
【請求項12】
膨張黒鉛粉体の表面に金属めっきを施した後、該金属めっきが施された膨張黒鉛粉体を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形することを特徴とする膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項13】
膨張黒鉛粉体の表面に金属めっきを施した後、該金属めっきが施された膨張黒鉛粉体をめっきが施されていない膨張黒鉛粉体と混合し、該混合物を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形することを特徴とする膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項14】
膨張黒鉛粉体の表面に金属めっきを施した後、該金属めっきが施された膨張黒鉛粉体をめっきが施されていない膨張黒鉛粉体及びナノカーボンと混合し、該混合物を圧延処理又はプレス成形によってシート状に成形することを特徴とする膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項15】
前記金属めっきが、アルミニウム、錫、銅、ニッケル、コバルトのいずれかの金属めっきであることを特徴とする請求項12乃至14いずれかに記載の膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項16】
前記金属めっきの厚みが、2〜20μmであることを特徴とする請求項12乃至15いずれかに記載の膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項17】
膨張黒鉛粉体と、表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体を、層状に重ねて圧延処理又はプレス成形により一体化してシート状に成形することを特徴とする膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項18】
表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層を、膨張黒鉛粉体からなる層の表裏両面に積層することを特徴とする請求項17記載の膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項19】
表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体からなる層におけるめっき金属の種類が、膨張黒鉛粉体からなる層の表面と裏面とで異なっていることを特徴とする請求項18記載の膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項20】
前記膨張黒鉛粉体が、粒径の異なる複数種類の粉体の混合物からなることを特徴とする請求項12乃至19いずれかに記載の膨張黒鉛シートの製造方法。
【請求項21】
前記シート状に成形された膨張黒鉛シートの表面及び/又は裏面を被覆するように金属めっきを施すことを特徴とする請求項12乃至20いずれかに記載の膨張黒鉛シート。
【請求項22】
表面に金属めっきが施された膨張黒鉛粉体を、還元水を用いた金属めっきにより製造することを特徴とする請求項12乃至21いずれかに記載の膨張黒鉛シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−298718(P2006−298718A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125424(P2005−125424)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(390015679)ジャパンマテックス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】