説明

膵嚢胞性疾患診断装置

【課題】臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報に基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定する。
【解決手段】予め決められた数の入力項目を使用し、各入力項目毎に“0”、“1”、“2”の中から択一選択形式で、患者データが入力され、診断開始ボタンがクリックされたとき、予め学習させておいた人工ニューラルネットワーク15を動作させて、患者データに対応する膵嚢胞性疾患名を表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機関などで使用される膵嚢胞性疾患診断装置に係わり、特に人工ニューラルネットワークを使用して、膵嚢胞性疾患を診断する膵嚢胞性疾患診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
健康診断での腹部エコー検査の普及と、検出精度の向上により、膵嚢胞性疾患患者が頻繁に消化器内科の外来を受診するようになった。膵嚢胞性疾患は、膵管内乳頭腫瘍IPMN、粘液性嚢胞腫瘍MCN、漿液性嚢胞腺腫SCT、Solid-pseudopapillary tumor SPT、膵島腫瘍、膵腺房細胞腫瘍、膵仮性嚢胞、単純嚢胞、リンパ腫など多くの疾患を含み、その診断は時に困難であり、医師により正診率に大きな差がある。
【0003】
また、日常臨床においては、忙殺された時間の中で十分な診断的検討がなされないまま臨床的判断と対応を迫られる場面に頻回に遭遇する。
【0004】
このような状況を打開するために、臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報をもとに、膵嚢胞性疾患名などを判断する診断ツールが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−297339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでも診断ツールは開発されてきたが、その多くは各事象間の関係が線形であると仮定した理論を用いて診断していた。しかしながら、自然界の事象の多くは非線形な関係にあるため、その正診率は期待されるほど高くはなかった。また、ツールの多くが疾患の有無や病態の程度の強弱など、予測する項目を2段階までしか設定できなかった。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑み、請求項1では、臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報に基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができる膵嚢胞性疾患診断装置を提供することを目的としている。
【0008】
また、請求項2では、学習処理が比較的容易な人工ニューラルネットワークを使用することにより、臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報に基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができる膵嚢胞性疾患診断装置を提供することを目的としている。
【0009】
また、請求項3では、入力項目内容と、膵嚢胞性疾患名とが非線形な関係にある場合でも、臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報に基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を迅速に、かつ正確に判定することができる膵嚢胞性疾患診断装置を提供することを目的としている。
【0010】
また、請求項4では、通常の画像検査を自動入力させながら、臨床症状、所見と種々の情報などに基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を、迅速にかつ正確に判定することができる膵嚢胞性疾患診断装置を提供することを目的としている。
【0011】
また、請求項5では、通常の画像検査を自動入力させながら、臨床症状、所見と種々の情報などに基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができるとともに、インターネット回線などを介して、人工ニューラルネットワーク、RBFネットワークを学習させて、診断精度を向上させることができる膵嚢胞性疾患診断装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明は、請求項1では、臨床症状、所見、各画像検査のいずれか1つ以上の入力データを用いて、膵嚢胞性疾患名を判定する膵嚢胞性疾患診断装置において、人工ニューラルネットワークに、各入力項目の内容と、各疾患名とを学習させ、各入力項目の内容が入力されたとき、前記人工ニューラルネットワークを動作させて、疾患名を出力させることを特徴としている。
【0013】
また、請求項2では、請求項1に記載の膵嚢胞性疾患診断装置において、前記人工ニューラルネットワークを構成するユニットとして、ヘビサイド関数、またはシグモイド関数を使用したニューロンを使用することを特徴としている。
【0014】
また、請求項3では、請求項1に記載の膵嚢胞性疾患診断装置において、前記人工ニューラルネットワークを構成するユニットとして、動径基底関数を使用したニューロンを使用することを特徴としている。
【0015】
また、請求項4では、請求項1、2、3のいずれかに記載の膵嚢胞性疾患診断装置において、有線ケーブル、または無線回線を介して、US装置、CT装置、MRI装置、EUS装置、ERCP装置から、直接、診断結果を取り込むことを特徴としている。
【0016】
また、請求項5では、請求項1、2、3、4のいずれかに記載の膵嚢胞性疾患診断装置において、有線ケーブル、無線回線、インターネット回線のいずれかを介して、膵嚢胞性疾患診断プログラムが更新される処理、膵嚢胞性疾患診断プログラムで記述されている人工ニューラルネットワーク、RBFネットワークの学習処理が行われることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明による、請求項1の膵嚢胞性疾患診断装置では、臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報に基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができる。
【0018】
また、請求項2の膵嚢胞性疾患診断装置では、学習処理が比較的容易な人工ニューラルネットワークを使用することにより、学習処理期間を短縮させながら、臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報に基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができる。
【0019】
また、請求項3の膵嚢胞性疾患診断装置では、入力項目内容と、膵嚢胞性疾患名とが非線形な関係にある場合でも、臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報に基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができる。
【0020】
また、請求項4の膵嚢胞性疾患診断装置では、通常の画像検査を自動入力させながら、臨床症状、所見と種々の情報などに基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができる。
【0021】
また、請求項5の膵嚢胞性疾患診断装置では、通常の画像検査を自動入力させながら、臨床症状、所見と種々の情報などに基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができるとともに、インターネット回線などを介して、人工ニューラルネットワーク、RBFネットワークを学習させて、診断精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による膵嚢胞性疾患診断装置のうち、請求項1、2に対応する一形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示す膵嚢胞性疾患診断装置で使用される人工ニューラルネットワークの一例を示す模式図である。
【図3】図2に示す人工ニューラルネットワークで使用されるニューロンの一例を示す模式図である。
【図4】図3に示すニューロンで使用されるヘビサイド関数の一例を示すグラフである。
【図5】図1に示す膵嚢胞性疾患診断装置で使用される入力データ表の一例を示す平面図である。
【図6】図1に示す膵嚢胞性疾患診断装置で使用される対応表の一例を示す平面図である。
【図7】本発明による膵嚢胞性疾患診断装置のうち、請求項3に対応する一形態を示すブロック図である。
【図8】図7に示す膵嚢胞性疾患診断装置で使用されるRBFネットワークの一例を示す模式図である。
【図9】図8に示すRBFネットワークで使用されるユニットの一例を示す模式図である。
【図10】図9に示すユニットで使用される動径基底関数の一例を示すグラフである。
【図11】本発明による膵嚢胞性疾患診断装置のうち、請求項4に対応する一形態を示すブロック図である。
【図12】本発明による膵嚢胞性疾患診断装置のうち、請求項5に対応する一形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
《第1形態》
図1は本発明による膵嚢胞性疾患診断装置のうち、請求項1、2に対応する一形態を示すブロック図である。
【0024】
この図に示す膵嚢胞性疾患診断装置1aは、患者の氏名、診断内容などを入力するときに操作されるキーボード2と、ポインティングデバイスとして使用されるマウス3と、表示データを取り込んで、画面表示するディスプレイ4と、インストールされている膵嚢胞性疾患診断プログラム、キーボード2から出力されるデータ、マウス3から出力されるポイントデータなどを用いて、膵嚢胞性疾患診断を行うコンピュータ5aとを備えており、キーボード2、マウス3が操作されて、ディスプレイ4上に表示されている各入力項目に患者の検査結果が入力され、ディスプレイ4上に表示されている診断開始ボタンがクリックされたとき、多層パーセプトロンを用いた人工ニューラルネットワーク15(図2参照)を使用して、膵嚢胞性疾患を診断し、診断結果をディスプレイ4上に表示する。
【0025】
キーボード2は、平箱状に形成されるキーボード筐体と、キーボード筐体の上部に形成された開口部に配置される各種の文字キー、テンキー、各種のファンクションキーと、キーボード筐体内に配置され、文字キー又はファンクションキーなどが操作されたとき、操作内容に応じた入力データを生成するエンコーダとを備えており、診断医などによって、文字キー又はファンクションキーなどが操作されたとき、入力データを生成して、コンピュータ5に供給する。
【0026】
また、マウス3は、診断医の手に収まる程度の大きさに形成され、マウスパッド上に移動自在に配置されるマウス筐体と、マウス筐体内に配置され、マウス筐体が動かされたとき、レーザー光を使用したレーザー方式、赤外線などを使用した光学方式などで、マウス筐体の動きを検知して、移動方向データ、移動量データを生成する移動量検知機構と、マウス筐体上に配置され、診断医の指などで押されたとき、右クリック信号、左クリック信号などを生成するボタン機構とを備えており、診断医などによって、マウスパッド上を動かされたとき、移動方向データ、移動量データを生成して、コンピュータ5に供給する。また、診断医の指などによって、ボタン機構が操作されたとき、右クリック信号、または左クリック信号などを生成して、コンピュータ5に供給する。
【0027】
また、ディスプレイ4は、平箱状に形成されるディスプレイ筐体と、ディスプレイ筐体の背面に設けられ、ディスプレイ筐体が倒れないように、支持する支持台と、ディスプレイ筐体の前面に形成された開口部に配置される液晶パネルと、ディスプレイ筐体内に配置され、コンピュータから出力された表示データをデコードして、液晶パネルに表示させるデコーダとを備えており、コンピュータ5から出力される表示データを取り込み、液晶パネルに表示させる。
【0028】
コンピュータ5aは、キーボード2に電源電圧を供給しながら、キーボード2から出力される入力データを取り込み、指定された形式のパラレルデータに変換して、システムバス6上に送出するキーボードインタフェース回路7と、マウス3に電源電圧を供給しながら、マウス3から出力されるシリアル形式の移動方向データ、移動量データなどを取り込み、パラレル形式の移動方向データ、移動量データなどに変換し、システムバス6上に送出するマウスインタフェース回路8と、システムバス6から供給される表示データを取り込み、指定された規格の表示データに変換し、ディスプレイ4に供給するディスプレイインタフェース回路9と、各種のデータ処理を行うCPU回路10と、DDR−RAM素子などによって構成され、CPU回路10の作業エリアなどとして使用されるメモリ回路11と、CPU回路10を動作させるのに必要なOS(Operating System)が格納されるOSエリア12、膵嚢胞性疾患診断プログラムが格納されるプログラムエリア13aなどを持ち、CPU回路10から読み出し信号が出力されたとき、指定されたデータ、プログラムなどを読み出し、システムバス6を介して、CPU回路10に供給し、またCPU回路10から書き込み信号が出力されたとき、システムバス6を介して、データを取り込み、記憶するハードディスク機構14aとを備えている。
【0029】
そして、コンピュータ5aの電源がオンされた後、膵嚢胞性疾患診断プログラムが立ち上げられている状態で、キーボード2、マウス3が操作されて、ディスプレイ4上に表示されている各入力項目に患者の検査結果が入力され、ディスプレイ4上に表示されている診断開始ボタンがクリックされたとき、多層パーセプトロンを用いた人工ニューラルネットワーク15で、膵嚢胞性疾患を診断し、ディスプレイ4上に表示する。
【0030】
この場合、図2に示す如く人工ニューラルネットワーク15は、複数のニューロン16によって構成され、予め指定された入力項目の内容に対応する複数の入力信号を各々取り込み、複数の出力信号を出力する入力層17と、複数のニューロン16によって構成され、入力層17を構成する各ニューロン16の出力信号を取り込み、複数の出力信号を出力する中間層18と、複数のニューロン16によって構成され、中間層18を構成する各ニューロン16の出力信号を取り込み、複数の出力信号を出力する出力層19とを備えており、膵嚢胞性疾患を診断を開始する前に、多数の臨床データが使用されて、学習処理が行われ、各ニューロン16の重み係数“Wi”の値が最適化される。そして、診断時には、キーボード2、マウス3が操作されて、ディスプレイ4上に表示されている各入力項目に患者の検査結果が入力され、診断開始ボタンがクリックされたとき、入力層17、中間層18を構成する各ニューロン16から検査結果に対応した出力信号が出力されて、出力層19を構成する各ニューロン16から診断結果に対応した出力信号が出力される。
【0031】
各ニューロン16は、図3に示すように複数の入力端子と1つの出力端子とを持ち、下記の(1)式、(2)式に示す演算を行って、各入力信号“Xi”と、各重み係数“Wi”との乗算値“Wi*Xi”を求めるとともに、各乗算値“Wi*Xi”の総和“ΣWi*Xi”から予め設定されているしきい値“θ”を減算した関数“f(ΣWi*Xi-θ)”を図4に示すヘビサイド関数として扱い、“f(ΣWi*Xi-θ)≧0”であれば、出力信号“y”として、値“1”を出力し、また“f(ΣWi*Xi-θ)<0”であれば、出力信号“y”として、値“0”を出力する。
【数1】

但し、f(x):ヘビサイド関数
i:入力信号の番号を示す値(i=1,2,...,N)
Xi:i番目の入力信号の値
Wi:i番目の入力信号に対する重み係数
θ:しきい値
【数2】

但し、y:出力信号の値
f(x):ヘビサイド関数値“x”に対する出力信号の値
【0032】
次に、図1に示すブロック図、図2、図3に示す模式図、図4に示すグラフを参照しながら、膵嚢胞性疾患診断装置1aの動作を説明する。
【0033】
<学習動作>
まず、実際の診断に先立ち、専門医によって、臨床所見と種々の画像検査から得られる情報をもとに、各膵嚢胞性疾患者の中から、特定の膵嚢胞性疾患の患者データが抽出された後、各膵嚢胞性疾患者毎に患者データが整理されて、各患者毎に下記に示すような入力項目に対応するデータが整理され、図5に示す入力データ表20が作成される。
(1)年齢、性別、
(2)嚢胞の形状、個数、壁厚さ、充実成分、石灰化とその部位、
(3)造影の状況、
(4)嚢胞間信号強度、主膵管との交通、
(5)主膵管の拡張状況
この際、各入力項目に対応するデータとして、“0”、“1”、“2”の中から択一選択できるようにし、専門医以外の診断医でも、客観的に判断でき、簡単に入力できる内容にされる。
【0034】
さらに、各膵嚢胞性疾患者毎に患者データが整理されて、各患者がどの膵嚢胞性疾患名、例えば下記に示すような膵嚢胞性疾患名のいずれに該当するか診断され、図6に示すような対応表21が作成される。
(1)膵管内乳頭腫瘍IPMN、
(2)粘液性嚢胞腫瘍MCN、
(3)漿液性嚢胞腺腫SCT、
(4)Solid-pseudopapillary tumor SPT、
(5)膵島腫瘍、
(6)膵腺房細胞腫瘍、
(7)膵仮性嚢胞、
(8)単純嚢胞、
(9)リンパ腫
この後、各入力項目データが入力層17の各入力信号“Xi”に各々、割り当てるとともに、各膵嚢胞性疾患名が出力層19の各出力信号“ym”に各々、割り当てられる。
【0035】
そして、1枚目の入力データ表20と、対応表21が参照されて、1枚目の入力データ表20の内容と、この入力データ表20の番号に対応する膵嚢胞性疾患名が入力され、勾配法、最小二乗法などで、下記に示す如く各重み係数“Wji(t+1)”が最適化される。
Wji(t+1)=Wji(t)+C(tj-yj)*Xi …(3)
但し、C:学習係数
j:入力層17、中間層18、出力層19を指定する番号
i:入力信号を指定する番号
t:学習番号
tj:教師信号
yj:出力信号
【0036】
次いで、2枚目の入力データ表20と、対応表21が参照されて、2枚目の入力データ表20の内容と、この入力データ表20の番号に対応する膵嚢胞性疾患名が入力され、勾配法、最小二乗法などで、(3)式に示す如く各重み係数“Wji(t+1)”が最適化される。
【0037】
以下、残りの各入力データ表20と、対応表21が参照されて、残っている入力データ表20の内容と、これらの入力データ表20の番号に対応する各膵嚢胞性疾患名が、順次、入力され、勾配法、最小二乗法などで、(3)式に示す如く各重み係数“Wji(t+1)”が最適化される。
【0038】
これにより、最後には、特定の膵嚢胞性疾患名に対応する入力データ表20の内容を入力したとき、特定の膵嚢胞性疾患名に対応する出力信号“y”が“1”になり、他の出力信号“y”が“0”になる。
【0039】
そして、このように各重み係数“Wji(t+1)”が最適化された人工ニューラルネットワーク15、すなわち学習済みの人工ニューラルネットワーク15を持つコンピュータ5aが病院側に引き渡される。
【0040】
なお、実際には、多層パーセプトロンでは、中間層18の各重み係数“Wji(t+1)”の更新はなく、出力層19の各重み係数“Wji(t+1)”の更新のみが行われる。
【0041】
<診断動作>
また、病院では、臨床所見と種々の画像検査から得られる情報をもとに、診断医によって、図6に示すような入力項目に対応する入力データ表20が作成される。
【0042】
この後、診断医によって、キーボード2、マウス3が操作されて、ディスプレイ4に表示される各入力項目毎に、3つある各チェックボックスの中から、入力データ表20に対応する1つのチェックボックスが選択されて、“レ”点が入力される。
【0043】
次いで、診断医によって、マウス3が操作されて、ディスプレイ4に表示されている診断開始ボタンがクリックされると、コンピュータ5aによって、学習済みの人工ニューラルネットワーク(インストールされた膵嚢胞性疾患診断プログラムで記述された人工ニューラルネットワーク)15が起動され、入力項目の内容に対応する膵嚢胞性疾患名が選択され、ディスプレイ4上に表示される。
【0044】
このように、この形態では、予め決められた数の入力項目を使用し、各入力項目毎に“0”、“1”、“2”の中から択一選択形式で、患者データが入力され、診断開始ボタンがクリックされたとき、予め学習させておいた人工ニューラルネットワーク15を動作させて、患者データに対応する膵嚢胞性疾患名を表示させるようにしているので、学習処理期間を短縮させながら、臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報に基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができる(請求項1、2の効果)。
【0045】
実際、標本群からいくつかの事例だけを抜き出してテスト事例とし、残りを訓練事例とするleave-some-out cross-validation(LSOCV)法を使用し、予測精度を評価したところ、前述の入力項目から9種の疾患のうち、どの疾患であるかを予測することが可能であり、その全体での正診率は概ね“85%”と非常に高い予測効率であった。
【0046】
また、この形態では、ヘビサイド関数を使用するようにしているが、他の関数、例えばシグモイド関数などを使用しても良い。
【0047】
《第2形態》
図7は本発明による膵嚢胞性疾患診断装置のうち、請求項3に対応する一形態を示すブロック図である。なお、この図において、図1の各部と対応する部分には同じ符号が付してある。
【0048】
この図に示す膵嚢胞性疾患診断装置1bが図1に示す膵嚢胞性疾患診断装置1aと異なる点は、動径基底関数(Radial Basis Function:RBF)型の人工ニューラルネットワーク(RBFネットワーク)31(図8参照)を構築させる膵嚢胞性疾患診断プログラムを作成し、これをハードディスク機構14bのプログラムエリア13bに格納するようにしたことである。
【0049】
RBFネットワーク31は、図8に示す如く複数のユニット32によって構成され、予め指定された入力項目の内容に対応する複数の入力信号を各々取り込み、複数の出力信号を出力する入力層33と、複数のユニット32によって構成され、入力層33を構成する各ユニット32の出力信号を取り込み、複数の出力信号を出力する中間層34と、複数のユニット32によって構成され、中間層34を構成する各ユニット32の出力信号を取り込み、複数の出力信号を出力する出力層35とを備えており、膵嚢胞性疾患を診断を開始する前に、多数の臨床データが使用されて、学習処理が行われて、各ユニット32の重み係数“Wij”の値が最適化される。そして、診断時には、キーボード2、マウス3が操作されて、ディスプレイ4上に表示されている各入力項目に患者の検査結果が入力され、診断開始ボタンがクリックされたとき、入力層33を構成する各ユニット32から検査結果に対応した出力信号が出力されて、中間層34を構成する各ユニット32で処理され、出力層35を構成する各ユニット32から診断結果に対応した出力信号が出力される。
【0050】
各ユニット32は、図9に示すように複数の入力端子と1つの出力端子とを持ち、各入力信号“x”に対応する動径基底関数、例えば下記に示す(4)式で表され、図10に示すように中心で最大値(あるいは最小値)を取り、そこから離れるにしたがって単調に減少(あるいは増加)していくようなガウス関数演算を行って、各動径基底関数“φi(x)”を求めるとともに、下記に示す(5)式を使用して、これらの各動径基底関数“φi(x)”と、各重み係数“Wi”との乗算値“Wi*φi(x)”を求め、さらに各乗算値“Wi*φi(x)”の総和“ΣWi*φi(x)”に予め設定されているバイアス値“w0”を加算して、出力関数“y”を求め、これを出力信号として出力する。
φi(x) = (x - ci)T (x - ci) / (2 σ2i) …(4)
但し、φi(x):i番目の動径基底関数
i:入力信号、動径基底関数の番号を示す値(i=1,2,...,N)
ci:i番目の動径基底関数(ガウス関数)の中心
T:ベクトルを転置させる記号
σ:ガウス関数の標準偏差で、幅を決めるパラメータ
x:入力信号
x - ci:入力信号とガウス関数中心とのユークリッド距離(ベクトル表記)
【数3】

但し、y:出力信号
i:入力信号、動径基底関数の番号を示す値(i=1,2,...,N)
φi(x):i番目の入力信号“x”に対応する動径基底関数
w0:バイアスの値(y方向へのずれ)
wi:i番目の動径基底関数に対する重み係数
【0051】
そして、このように構成されるRBFネットワーク31に対し、上述した学習動作を行わせることにより、上述した形態と同様に、図5に示す入力項目毎のデータと、図6に示す診断結果とが非線形である場合にも、臨床症状、所見と種々の通常の画像検査から得られる情報に基づき、予め決められた各入力項目に患者データを入力するだけで、膵嚢胞性疾患名を自動的に、かつ正確に判定することができる(請求項3の効果)。
【0052】
《第3形態》
図11は本発明による膵嚢胞性疾患診断装置のうち、請求項4に対応する一形態を示すブロック図である。なお、この図において、図1の各部と対応する部分には同じ符号が付してある。
【0053】
この図に示す膵嚢胞性疾患診断装置1cが図1に示す膵嚢胞性疾患診断装置1aと異なる点は、コンピュータ5c内に通信回路41を設け、ハブ(図示は省略する)を介して、通信回路41とLANケーブル(イーサネットケーブル、または無線LAN回線)42とを接続させるようにしたことである。
【0054】
そして、LANケーブル42の各ハブ(図示は省略する)に接続されたUS(Ultrasonography:超音波断層撮影)装置43、CT(Computer Tomography:コンピューター断層)装置44、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)装置45、EUS(endoscopic ultrasonography:内視鏡的超音波断層)装置46、ERCP(endoscopic retrograde cholangio-pancreatography:内視鏡的逆行性膵胆管造影)装置47などから直接、診断結果を取り込み、ディスプレイ4に表示するとともに、キーボード2、マウス3が操作されて、診断結果解析指示が入力されたとき、プログラムエリア13cに格納された診断結果解析プログラムを動作させて、US装置43の診断結果〜ERCP装置47の診断結果を“0”、“1”、“2”に量子化させた後、各入力項目のデータとして、処理するようにしたりするようにしたことである。
【0055】
このようにすることにより、入力項目毎のデータを入力する際、各診断医の検査結果の入力内容がばらつかないようにすることができ、より正確な診断を行わせることができる(請求項4の効果)。
【0056】
《第4形態》
図12は本発明による膵嚢胞性疾患診断装置のうち、請求項5に対応する一形態を示すブロック図である。なお、この図において、図11の各部と対応する部分には同じ符号が付してある。
【0057】
この図に示す膵嚢胞性疾患診断装置1dが図1に示す膵嚢胞性疾患診断装置1cと異なる点は、LANケーブル42とインターネット回線とを接続するゲートウェイ装置(または、ルータ装置)51を設けるとともに、ハードディスク機構14dのプログラムエリア13dにリモートプログラムを格納し、インターネットに接続されたサーバ装置(図示は省略する)によって、モートプログラムを動作させて、膵嚢胞性疾患診断プログラムを更新させたり、膵嚢胞性疾患診断プログラムで記述されている人工ニューラルネットワーク15などを学習させたりするようにしたことである。
【0058】
このようにすることにより、サーバ装置によって、膵嚢胞性疾患診断プログラムを更新させたり、膵嚢胞性疾患診断プログラムで記述されている人工ニューラルネットワーク15(あるいは、RBFネットワーク31)を学習させて、膵嚢胞性疾患診断精度をさらに向上させることができる(請求項5の効果)。
【0059】
《他の形態》
また、上述した説明から明らかなように、本発明による膵嚢胞性疾患診断装置1a〜1dでは、人工ニューラルネットワーク15、RBFネットワーク31を使用した診断を行っているので、簡便な入力項目に患者のデータを入力するだけで、高い診断率で、膵嚢胞性疾患名を判定させることができる。今後、症例数の蓄積とより、詳細な入力項目を設定することにより、さらに予測効率があがると考えられる。
【0060】
また、このような人工ニューラルネットワーク15、RBFネットワーク31を使用した診断方法は、膵嚢胞性疾患の画像診断だけではなく、一般疾患診断へ応用可能であり新たな診断モダリティーとなりえると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、医療機関などで使用される膵嚢胞性疾患診断装置に係わり、特に人工ニューラルネットワークを使用して、膵嚢胞性疾患を診断する膵嚢胞性疾患診断装置に関し、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0062】
1a〜1d:膵嚢胞性疾患診断装置
2:キーボード
3:マウス
4:ディスプレイ
5a〜5d:コンピュータ
6:システムバス
7:キーボードインタフェース回路
8:マウスインタフェース回路
9:ディスプレイインタフェース回路
10:CPU回路
11:メモリ回路
12:OSエリア
13a〜13d:プログラムエリア
14a〜14d:ハードディスク機構
15:人工ニューラルネットワーク
16:ニューロン
17:入力層
18:中間層
19:出力層
20:入力データ表
21:対応表
31:RBFネットワーク
32:ユニット
33:入力層
34:中間層
35:出力層
41:通信回路41
42:LANケーブル
43:US装置
44:CT装置
45:MRI装置
46:EUS装置
47:ERCP装置
51:ゲートウェイ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臨床症状、所見、各画像検査のいずれか1つ以上の入力データを用いて、膵嚢胞性疾患名を判定する膵嚢胞性疾患診断装置において、
人工ニューラルネットワークに、各入力項目の内容と、各疾患名とを学習させ、各入力項目の内容が入力されたとき、前記人工ニューラルネットワークを動作させて、疾患名を出力する、ことを特徴とする膵嚢胞性疾患診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の膵嚢胞性疾患診断装置において、
前記人工ニューラルネットワークを構成するユニットとして、ヘビサイド関数、またはシグモイド関数を使用したニューロンを使用する、ことを特徴とする膵嚢胞性疾患診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の膵嚢胞性疾患診断装置において、
前記人工ニューラルネットワークを構成するユニットとして、動径基底関数を使用したニューロンを使用する、ことを特徴とする膵嚢胞性疾患診断装置。
【請求項4】
請求項1、2、3のいずれかに記載の膵嚢胞性疾患診断装置において、
有線ケーブル、または無線回線を介して、US装置、CT装置、MRI装置、EUS装置、ERCP装置から、直接、診断結果を取り込む、ことを特徴とする膵嚢胞性疾患診断装置。
【請求項5】
請求項1、2、3、4のいずれかに記載の膵嚢胞性疾患診断装置において、
有線ケーブル、無線回線、インターネット回線のいずれかを介して、膵嚢胞性疾患診断プログラムが更新される処理、膵嚢胞性疾患診断プログラムで記述されている人工ニューラルネットワーク、RBFネットワークの学習処理が行われる、ことを特徴とする膵嚢胞性疾患診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−200881(P2010−200881A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47733(P2009−47733)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
【出願人】(509060774)
【出願人】(508136386)
【出願人】(508136320)
【Fターム(参考)】