自動二輪車用フレームの溶接方法
【課題】 自動二輪車用フレームの溶接方法を改良することで、溶接ひずみを抑える。
【解決手段】 左右一対のシートレール62,63の外側を構成する左外側シートレール部46及び右外側シートレール部52、メインフレーム61、左ピボット支持プレート32及び右ピボット支持プレート33で構成したフロントフレーム半体44と、左右一対のシートレール62,63の内側を構成する左内側シートレール部56及び右内側シートレール部57とを、溶接線が上面と下面とに現れるように仮結合する仮結合工程と、シートレール外半部46,52とシートレール内半部56,57とを後端部62c,63cから自動二輪車用車体フレーム11Aの中央部11cに向かって溶接する後部溶接工程と、を含む。
【解決手段】 左右一対のシートレール62,63の外側を構成する左外側シートレール部46及び右外側シートレール部52、メインフレーム61、左ピボット支持プレート32及び右ピボット支持プレート33で構成したフロントフレーム半体44と、左右一対のシートレール62,63の内側を構成する左内側シートレール部56及び右内側シートレール部57とを、溶接線が上面と下面とに現れるように仮結合する仮結合工程と、シートレール外半部46,52とシートレール内半部56,57とを後端部62c,63cから自動二輪車用車体フレーム11Aの中央部11cに向かって溶接する後部溶接工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用フレームの溶接方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自動二輪車用フレームの溶接方法として、複数のフレームの各端部をそれぞれ別々に溶接したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】国際公開第WO2003/000540号パンフレット
【0003】
特許文献1の図5を以下の図15で説明する。なお、符号は振り直した。
図15は従来の自動二輪車のフレームを示す斜視図であり、車体フレーム301は、ヘッドパイプ302と、このヘッドパイプ302から後方斜め下方に延ばしたメインフレーム303と、このメインフレーム303の後部から下方に延ばしたピボットプレート304と、メインフレーム303の後部から後方斜め上方に延ばした左右一対のリヤフレーム306,306とからなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した車体フレーム301のメインフレーム303は角パイプ、ピボットプレート304は板材、リヤフレーム306は丸パイプであり、それぞれの素材が異なる。
例えば、車体フレーム301の素材のコストを低減するために、メインフレーム303、ピボットプレート304及びリヤフレーム306を、幾つかの部分に分けてそれぞれの部分を同一の素材である板材をプレス成形して造り、各部分を溶接で接合して閉断面のフレームとすることも可能である。この場合、例えば、リヤフレームを、その長手方向に沿って分割した2部材を溶接で結合する構造とした場合には、細長く剛性の低い部材を合わせて溶接することになり、溶接ひずみが大きくなって、例えば、リヤフレームの後端が反り返るため、溶接ひずみがより小さくなる溶接方法が望まれる。また、左右一対のリヤフレームは、溶接条件をうまく合わせないと、溶接ひずみが左右で異なることもある。
【0005】
本発明の目的は、自動二輪車用フレームの溶接方法を改良することで、溶接ひずみを抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、メインフレームと、このメインフレームの後部下部に設けた左右一対のピボット支持プレートと、メインフレームの後部上部から二股状に後方に延ばした左右一対のシートレールとを有する自動二輪車用フレームの溶接方法であって、左右一対のシートレールの外側を構成するシートレール外半部、メインフレーム、左右一対のピボット支持プレートで構成したフロントフレーム半体と、左右一対のシートレールの内側を構成するシートレール内半部とを、溶接線が上面と下面とに現れるように仮結合する仮結合工程と、シートレール外半部とシートレール内半部とをそれぞれの後端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接する後部溶接工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
後部溶接工程にて、シートレール外半部とシートレール内半部とをそれぞれの後端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接することで、シートレール外半部とシートレール内半部とをそれぞれの後端部側の剛性の低い部分から中央部の剛性の高い部分へと溶接することになり、初めに溶接する後端部側の剛性の低い部分では、絶対的な剛性が低く、且つ剛性の高い部分から離れているために溶融した電極ワイヤ及び母材の収縮がどの方向でもほぼ同等となり、中央部側の剛性の高い部分を溶接するときまでに溶接ひずみが累積され難い。
【0008】
請求項2に係る発明は、仮結合工程に、メインフレームを構成する左右のメインフレーム半体同士を合わせて仮結合し、この後に、メインフレーム半体同士を、それぞれの前端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接する前部溶接工程を含むことを特徴とする。
【0009】
前部溶接工程にて、左右のメインフレーム半体のそれぞれの前端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接することで、左右のメインフレーム半体をそれぞれの前端部側の剛性が低い部分から自動二輪車用フレームの中央部側の剛性が高い部分へと溶接することになり、初めの前端部側の剛性の低い部分では、絶対的な剛性が低く、且つ剛性の高い部分から離れているために溶融した電極ワイヤ及び母材の収縮がどの方向でもほぼ同等となり、中央部側の剛性の高い部分を溶接するときまでに溶接ひずみが累積され難い。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、シートレール外半部とシートレール内半部のそれぞれの後端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接するので、フレームの剛性の低い部分(即ち、シートレール後端部側)から剛性の高い部分(即ち、中央部側)に向かって溶接するため、溶接の初めのうちの剛性の小さい部分では収縮量がどの方向でもほぼ同等となるため、特定の方向に溶接ひずみが累積し難く、溶接ひずみが少ない状態でフレーム、詳しくは、シートレールを溶接することができる。従って、寸法精度の高い自動二輪車用フレームを製造することができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、メインフレーム半体同士を、それぞれの前端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接するので、フレームの剛性の小さい部分(即ち、メインフレーム前端部)から剛性の高い部分(即ち、中央部)に向かって溶接するため、溶接の初めのうちの剛性の小さい部分では収縮量がどの方向でもほぼ同等となるため、特定の方向に溶接ひずみが累積し難く、溶接ひずみが少ない状態でフレーム、詳しくは、メインフレームを溶接することができる。従って、寸法精度の高い自動二輪車用フレームを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る溶接装置を示す斜視図であり、溶接装置10は、ワークとしての自動二輪車用の車体フレーム11を保持するワーク保持具12と、保持した車体フレーム11を溶接するためのMIG溶接用の溶接トーチ13,13を備える溶接機構14と、ワーク保持具12を駆動する保持具駆動装置16と、これらの溶接機構14及び保持具駆動装置16を制御する制御装置17とからなる。上記のワーク保持具12及び保持具駆動装置16は、ワーク保持機構18を構成するものである。
【0013】
車体フレーム11は、プレス成形した複数の板材とパイプ材とからなり、その板材は、板厚の異なる鋼板を予め接合したテーラードブランク材である。
ワーク保持具12は、同一形状の車体フレーム11を複数台、ここでは、2台をX軸方向に一列に配置して保持可能な第1ワーク保持部21及び第2ワーク保持部22を備える。
【0014】
第1ワーク保持部21は、車体フレーム11を載せる横バー81と、車体フレーム11の前端部であるヘッドパイプ31を保持するヘッドパイプ保持部82と、車体フレーム11のほぼ中央に位置する左右一対の左ピボット支持プレート32及び右ピボット支持プレート33(不図示)を保持するピボット保持部83と、車体フレーム11の後端部を保持する後端保持部84とからなる。第2ワーク保持部22は第1ワーク保持部21と同一構造であり、説明は省略する。なお、86は保持具駆動装置16に連結する駆動装置連結部である。
【0015】
溶接機構14は、車体フレーム11毎に設けた溶接トーチ13,13と、これらの溶接トーチ13,13を図中のX軸回りに回転させるトーチ第1駆動モータ203と、一方の溶接トーチ13をX軸方向に移動させるトーチ第2駆動モータ204と、溶接トーチ13,13を図中のZ軸回りに回転させるトーチ第3駆動モータ206,207とを備える。
【0016】
保持具駆動装置16は、多関節ロボットからなり、ワーク保持具12を水平動(X軸方向及びY軸方向の移動)、鉛直動(Z軸方向の移動)及び回転動(X軸回りの回転)させることが可能な装置である。
【0017】
図2は本発明に係るワークの結合前の状態を示す斜視図であり、ワークとしての溶接前の車体フレームを、ここでは11Aとする。
車体フレーム11Aは、左右に結合する左フレーム半体34及び右フレーム半体35と、これらの左フレーム半体34及び右フレーム半体35のそれぞれの後半部の内側に結合する後半部フレーム体36と、前述のヘッドパイプ31と、筒状のピボット支持部37と、後半部フレーム体36の後端に取付けたリヤクロスフレーム38とからなる。なお、41,42はクロスパイプ、43はクロス部材である。
上記した左フレーム半体34及び右フレーム半体35は、フロントフレーム半体44を構成する部材である。
【0018】
左フレーム半体34は、左メインフレーム部45と、この左メインフレーム部45の後部に設けた左外側シートレール部46と、これらの左メインフレーム部45及び左外側シートレール部46の連結部から下方に延ばした左ピボット支持プレート32とを一体に成形した部材である。この左フレーム半体34の中央部、即ち、左メインフレーム部45及び左外側シートレール部46のそれぞれの左ピボット支持プレート32側の部分及び左ピボット支持プレート32は、テーラードブランク材において他よりも板厚が厚い鋼板で形成した部分である。
【0019】
右フレーム半体35は、右メインフレーム部51と、この右メインフレーム部51の後部に設けた右外側シートレール部52と、これらの右メインフレーム部51及び右外側シートレール部52の連結部から下方に延ばした右ピボット支持プレート33とを一体に成形した部材であり、右メインフレーム部51にヘッドパイプ31を予め仮結合しておく。
【0020】
この右フレーム半体35の中央部、即ち、右メインフレーム部51及び右外側シートレール部52のそれぞれの右ピボット支持プレート33側の部分及び右ピボット支持プレート33は、テーラードブランク材において他よりも板厚が厚い鋼板で形成した部分である。従って、上記の左フレーム半体34及び右フレーム半体35を合わせて形成した車体フレーム11Aの中央部の剛性は高くなる。
【0021】
ピボット支持部37は、左ピボット支持プレート32と右ピボット支持プレート部33とにそれぞれ開けたピボット取付穴32a,33aに通して溶接により結合する部材である。
【0022】
クロスパイプ42は、左ピボット支持プレート32と右ピボット支持プレート部33とにそれぞれ開けたクロスパイプ取付穴32b,33bに通して溶接により結合する部材である。
【0023】
後半部フレーム体36は、幅広とした前部55と、この前部55の左右から後方へ延ばした左内側シートレール部56及び右内側シートレール部57とを一体に成形した部材である。
リヤクロスフレーム38は、複数の板材からなる部材であり、左右一対の後方突出部38a,38aを備える。
【0024】
図3は本発明に係るワークの結合後の状態を示す斜視図であり、ワークとしての溶接後の車体フレームを、ここでは11Bとする。
車体フレーム11Bは、左メインフレーム部45と右メインフレーム部51とを合わせて溶接し、これらの左メインフレーム部45及び右メインフレーム部51のそれぞれの後端部と後半部フレーム体36の前部55とを合わせて溶接し、左外側シートレール部46と左内側シートレール部56とを合わせて溶接し、右外側シートレール部52と右内側シートレール部57と合わせて溶接した部材である。
【0025】
上記した左メインフレーム部45及び右メインフレーム部51は、メインフレーム61を構成し、左外側シートレール部46及び左内側シートレール部56は、シートレール62を構成し、右外側シートレール部52及び右内側シートレール部57は、シートレール63を構成する部分である。
【0026】
図4は本発明に係る車体フレームの断面図である。
(a)は図3のa−a線断面図であり、メインフレーム61は、断面をほぼC字形状に成形した右メインフレーム部51の外側に、断面をほぼC字形状に成形した左メインフレーム部45を被せ、右メインフレーム部51の上壁51aと左メインフレーム部45の上壁45aとを重ね合わせ、右メインフレーム部51の下壁51bと左メインフレーム部45の下壁45bとを重ね合わせてそれぞれすみ肉溶接した部材である。溶接トーチ13は上壁51a,45a、下壁51b,45bのそれぞれに対して45°傾けて溶接する。この角度はシートレール62,63(図3参照)でも同一である。
【0027】
(b)は図3のb−b線断面図であり、シートレール63は、断面をコ字形状に成形した右外側シートレール部52の外側に右内側シートレール部57を被せ、右外側シートレール部52の上壁52aと右内側シートレール部57の上壁57aとを重ね合わせ、右外側シートレール部52の下壁52bと右内側シートレール部57の下壁57bとを重ね合わせてそれぞれすみ肉溶接した部材である。
【0028】
(c)は図3のc−c線断面図であり、シートレール62は、断面をコ字形状に成形した左外側シートレール部46の外側に左内側シートレール部56を被せ、左外側シートレール部46の上壁46aと左内側シートレール部56の上壁56aとを重ね合わせ、左外側シートレール部46の下壁46bと左内側シートレール部56の下壁56bとを重ね合わせてそれぞれすみ肉溶接した部材である。
【0029】
図5は本発明に係るワーク保持具の斜視図であり、ワーク保持具12は、縦フレーム90と、この縦フレーム90の両端に取付けた横フレーム91及び鉛直フレーム92と、横フレーム91の両端部に取付けた前述のヘッドパイプ保持部82,82と、縦フレーム90及び鉛直フレーム92の両側方に配置したサイド保持機構94,96と、鉛直フレーム92の上部に取付けた後部保持機構97と、保持具駆動装置16(図1参照)に連結する駆動装置連結部86とからなる。なお、98は駆動装置連結部86に含まれる連結フレームであり、鉛直フレーム92の下部から一側方に延ばしたものである。
【0030】
ヘッドパイプ保持部82は、横フレーム91に取付けた台座101と、この台座101に取付けたヘッドパイプ下部保持部材102及び支柱103と、この支柱103の側部に取付けたシリンダ装置104と、支柱103の上端にスイング自在に取付けるとともに一端にシリンダ装置104のロッド106を連結したアーム107と、このアーム107の他端に取付けたヘッドパイプ上部保持部材108とからなる。
【0031】
シリンダ装置104は、シリンダ本体111と、このシリンダ本体111内に移動自在に挿入したピストン(不図示)と、このピストンに取付けたロッド106とからなり、シリンダ本体111の側面に設けたオイル供給排出口113,114の一方からオイルを供給し、他方からオイルを排出することにより、ロッド106を進退動させ、アーム107をスイングさせて、ヘッドパイプ下部保持部材102とヘッドパイプ上部保持部材108との間にヘッドパイプ31(図2参照)をクランプ又はアンクランプする。
【0032】
サイド保持機構94は、縦フレーム90及び鉛直フレーム92の両側面に取付けたサイドプレート116,116と、サイドプレート116に取付けた横バー81及びピボット保持部83とからなる。サイド保持機構96は、サイド保持機構94と同一構造であり、説明は省略する。
【0033】
ピボット保持部83は、サイドプレート116に直に取付けた内側保持部118と、サイドプレート116に2本の支柱121,121を介して取付けた外側保持部122とからなる。
【0034】
内側保持部118は、ベース部124と、このベース部124の側端部に取付けたピン受け台126と、ピボット支持部37(図2参照)の一端部を支持するためにピン受け台126の先端に取付けた内側ピボット支持ピン127とからなる。
【0035】
外側保持部122は、支柱121,121の先端に取付けたベース板131と、このベス板131に取付けた2つのシリンダ装置132,132(一方の符号132のみ示す。)と、これらのシリンダ装置132,132を構成するロッド133,133(不図示)に取付けたピン受けプレート134と、ピボット支持部37の他端部を支持するためにピン受けプレート134に取付けた外側ピボット支持ピン136とからなる。
【0036】
シリンダ装置132は、シリンダ本体138と、このシリンダ本体138内に移動自在に挿入したピストン(不図示)と、このピストンに取付けたロッド133(不図示)とからなり、シリンダ本体138内に油圧を供給することでロッド133を介してピン受けプレート134を移動させ、内側ピボット支持ピン127と外側ピボット支持ピン136とでピボット支持部37の両端部を支持する。
【0037】
後部保持機構97は、鉛直フレーム92の背面から後方斜め上方に延びる傾斜フレーム141と、この傾斜フレーム141の先端に直交するように取付けた後部横フレーム142と、この後部横フレーム142の両端部に設けた後端保持部84,84とからなる。
【0038】
図6は本発明に係るワーク保持具の後部保持機構を示す斜視図であり、後部保持機構97の後端保持部84は、後部横フレーム142の両端部にベースプレート144を介して取付けた下部プレート145及びシリンダ装置146と、下部プレート145の上部にスイング自在に取付けたスイングアーム147と、車体フレームを保持するときのガイドとするために下部プレート145に左右に間隔を空けて取付けた一対のガイドプレート148,151(図5も参照)とからなる。
下部プレート145は上辺に歯部152,152を備え、スイングアーム147は下辺に、歯部152,152に噛み合う歯部153,153を備える。
【0039】
シリンダ装置146は、シリンダ本体155と、このシリンダ本体155内に移動自在に挿入したピストン(不図示)と、このピストンに取付けたロッド156とからなり、ロッド156の先端をスイングアーム147の一端に連結することで、シリンダ本体155内にオイル供給排出口157(又はオイル供給排出口158)からオイルを供給したときに、ロッド156を伸ばし、スイングアーム147をスイングさせて、車体フレームのリヤクロスフレーム38(図2参照)、詳しくは、後方突出部38a,38a(図2参照)を歯部152と歯部153とで挟み込み、固定する。
【0040】
図7は本発明に係るワーク保持具の平面図であり、ワーク保持具12は、ヘッドパイプ保持部82,82及び駆動装置連結部86を除いて、縦フレーム90上を通る直線160に対して対称な構造で、保持具駆動装置16(図1参照)により、直線161を軸として回転可能としたものである。また、第1ワーク保持部21と第2ワーク保持部22とは、ヘッドパイプ保持部82,82を除いて直線160に対して対称である。
【0041】
図8は本発明に係る溶接機構の正面図であり、溶接機構14は、床面から立ち上げた支柱211と、この支柱211の上部にブラケット212,213で取付けたトーチ第1駆動モータ203と、このトーチ第1駆動モータ203の回転軸203aを回転自在に支持するために支柱211の上端部に取付けた軸受部215,215と、回転軸203aの先端に取付けたL字状フレーム216と、このL字状フレーム216の先端部に取付けたトーチ第3駆動モータ206と、このトーチ第3駆動モータ206の回転軸206aに円弧状ブラケット217を介して取付けた一方の溶接トーチ13と、L字状フレーム216に取付けたトーチ第2駆動モータ204及びトーチ移動レール218と、このトーチ移動レール218に移動自在に取付けたトーチ第3駆動モータ207と、このトーチ第3駆動モータ207の回転軸207aに円弧状ブラケット217を介して取付けた他方の溶接トーチ13と、トーチ第2駆動モータ204の回転軸204aに連結することでトーチ第3駆動モータ207側に設けたナット部材(不図示)とねじ結合する送りねじ部材221と、支柱211の上部から側方に延ばしたビーム部材222と、溶接時にワークの溶接面に対して他側のワーク面を支持するためにビーム部材222の上面に伸縮自在に取付けたワーク支持部材223,223とからなる。
【0042】
トーチ第3駆動モータ206は、L字状フレーム216に固定し、トーチ第3駆動モータ207は、トーチ第2駆動モータ204を駆動することにより送りねじ部材221を回転させてL字状フレーム216のトーチ移動レール218上を移動自在としたものであり、ワーク保持具12(図7参照)で保持したワークの間隔に合わせて溶接トーチ13を移動可能にする。
【0043】
円弧状ブラケット217は、溶接トーチ13の取付位置を変更することによりワークに対する溶接トーチ13の角度を変更可能にする部材である。
図中の225はトーチ第1駆動モータ203の回転軸203aの軸線であり、L字状フレーム216が回転する軸である。L字状フレーム216の回転に伴って溶接トーチ13,13がX軸回りに回転する。
【0044】
以上に述べた溶接装置10による車体フレーム11Aの溶接要領を図9〜図13で説明する。
図9(a),(b)は本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第1作用図である。
(a)において、まず、溶接トーチ13を車体フレーム11Aに対する相対的な進行方向(即ち、Y軸方向である。)に鉛直方向に対して45°傾け(且つ、図4に示したように、車体フレームの列の方向(即ち、X軸方向である。)にも鉛直方向に対して45°傾ける。)、この溶接トーチ13の先端に溶接箇所であるメインフレーム61の溶接開始点(メインフレーム61のヘッドパイプ31側の端部である。)が臨むようにワーク保持具12を保持具駆動装置16で移動させ、且つ溶接トーチ13に対して溶接面が側面視で45°となるようにワーク保持具12を、図1に示したヘッドパイプ31が直立した状態から矢印Aで示すように、軸となる直線161(直線161を黒丸で示す。以下同じ。)回りに保持具駆動装置16で回転させる。以降、車体フレーム11Aの溶接面は常に溶接トーチ13に対して45°溶接の進行方向に傾いた状態とする。即ち、車体フレーム11Aの溶接時の溶接面は常に上方を向く。このように溶接面を上方へ向けることで、溶接時の溶融金属が垂れ落ちるのを防止し、良好な溶接品質を得ることができる。
【0045】
(b)は、(a)の状態からワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに矢印Bのように軸となる直線161回りに回転させて車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を破線の矢印Cで示すように相対移動させてメインフレーム61の上面を溶接することを示す。
【0046】
図10(a),(b)は本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第2作用図である。
(a)は、メインフレーム61の上面を溶接した後、トーチ第3駆動モータ206,207(図8参照)を駆動して鉛直軸回りに溶接トーチ13を180°回転させるとともに、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させ、且つ直線161回りに回転させてメインフレーム61の下面が上方を向くように車体フレーム11Aをほぼ180°回転させて逆さまの状態とし、溶接トーチ13にメインフレーム61の下面の溶接開始位置を臨ませる。
【0047】
即ち、溶接トーチ13は、車体フレーム11Aに対する相対的な進行方向(即ち、Y軸方向である。)に鉛直方向に対して45°傾き、且つ、図4に示したように、車体フレームの列の方向(即ち、X軸方向である。)にも鉛直方向に対して45°傾き、図10に示したように、車体フレーム11Aの溶接時の溶接面は常に上方を向く。
【0048】
この状態から、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに直線161回りに回転させて、溶接トーチ13を車体フレーム11Aに対して破線の矢印Eで示すように相対移動させて、メインフレーム61の下面を溶接することを示す。
【0049】
(b)は、メインフレーム61の下面を溶接した後、ワーク保持具12を、直線161回りに回転させるとともにY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させて、溶接トーチ13に一方のシートレール63の溶接開始位置である後端部を臨ませる。 そして、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに直線161回りに回転させて車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を破線の矢印Fで示すように中央部側へ相対移動させる。
【0050】
図11(a),(b)は本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第3作用図である。
(a)は、図10(b)に続いてシートレール63の上面を矢印Gの方向に溶接する状態を示す。ワーク保持具12の移動と共に直線161回りの回転によって、車体フレーム11Aのヘッドパイプ31側が大きく上がる。
【0051】
(b)は、一方のシートレール63の上面の溶接が終了し、更に、一方のシートレール63の上面と同様に他方のシートレール63の上面を溶接した後に、トーチ第3駆動モータ206,207(図8参照)を駆動して鉛直軸回りに溶接トーチ13を180°回転させるとともに、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させ、且つ直線161回りに回転させてシートレール63の下面が上方を向くように車体フレーム11Aをほぼ180°回転させて逆さまの状態とし、溶接トーチ13に一方のシートレール63の下面の溶接開始位置である後端部を臨ませる。
【0052】
そして、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに直線161回りに回転させて車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を破線の矢印Hのように相対移動させて、シートレール63の下面を中央部に向かって溶接することを示す。
次に、一方のシートレール63の下面と同様に他方のシートレール63の下面を後端部から中央部に向かって溶接する。
【0053】
図12(a),(b)は本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第4作用図であり、シートレール63の溶接要領を平面図で再度示す。
(a)において、溶接トーチ13の先端に車体フレーム11Aのシートレール63の後端部を臨ませる。
【0054】
(b)において、ワーク保持具12をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに直線161(図10(b)参照)回りに回転させて、溶接トーチ13を破線の矢印Kで示すように、車体フレーム11Aに対して中央部側へ相対移動させる。図中に示した65はメインフレーム61の上面の溶接線、66はシートレール62の上面の溶接線、67はシートレール63の上面の溶接線である。(メインフレーム61、シートレール62,63の下面の各溶接線71〜73については図4(a)〜(c)参照。)
【0055】
以上の図9〜図12で述べた溶接順序及び溶接方向を再度図13でまとめて説明する。
図13は本発明に係る車体フレームの溶接順序及び溶接方向を示す作用図である。
車体フレーム11Aでは、溶接ひずみが最も小さくなるように以下の順序及び方向で溶接する。
(1)メインフレーム61の上面61aを矢印で示すように前端部61cから中央部11cに向かって溶接する。
(2)メインフレーム61の下面61b(不図示)を矢印で示すように前端部61cから中央部11cに向かって溶接する。
【0056】
(3)シートレール63の上面63aを矢印で示すように後端部63cから中央部11cに向かって溶接する。
(4)シートレール62の上面62aを矢印で示すように後端部62cから中央部11cに向かって溶接する。
(5)シートレール63の下面63b(不図示)を矢印で示すように後端部63cから中央部11cに向かって溶接する。
(6)シートレール62の下面62b(不図示)を矢印で示すように後端部62cから中央部11cに向かって溶接する。なお、シートレール62とシートレール63の溶接順序は上記とは逆でも差し支えない。
【0057】
図13に示した溶接方向を設定した根拠を以下に説明する。
図14(a)〜(d)は溶接方向の設定の根拠を示す作用図である。
(a)の比較例において、例えば、車体フレーム331の中央部332から、車体フレーム331を構成するメインフレーム333の前端部334までを、車体フレーム331に対して溶接トーチ336を相対移動させて溶接する場合、中央部332は剛性が高く、メインフレーム333の前端部334側は剛性が低いため、剛性の高い中央部332から溶接を開始すると、溶接トーチ336の電極ワイヤ及び車体フレーム331の母材が溶融し、そして凝固し、溶接トーチ336の相対移動に伴って溶融と凝固を繰り返すときに、(A)剛性の高い側から剛性の低い側に収縮する量と、(B)剛性の低い側から剛性の高い側へ収縮する量とを比較すると、剛性の高い側よりも剛性の低い側が収縮し易いから、(B)>(A)(矢印参照)となる。
【0058】
従って、剛性の高い部分を基礎として近傍の剛性の低い部分が変形し、次に、この変形した部分を基礎として更に剛性の低い部分が変形するというように、その変形が剛性の低い部分に近づくにつれて累積し、メインフレーム333の前端部334を溶接するときにはメインフレーム333の前端部334側の変形量、即ち溶接ひずみは大きくなると考えられる。実際の溶接時は、車体フレーム331はワーク保持具に固定されているため、変形は表れないが、車体フレーム331をワーク保持具から外すと、車体フレーム331に内在する変形しようとする力によって、メインフレーム333の前端部334は想像線で示すように上方へ大きく反り返る。
【0059】
(b)の実施例(本実施形態)において、車体フレーム11Aのメインフレーム61の前端部61c側から中央部11c側までを、車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を相対移動させて溶接する場合、中央部11cは剛性が高く、メインフレーム61の前端部61c側は剛性が低いため、剛性の低い前端部61c側から溶接を開始すると、(a)に示した比較例と同様に電極ワイヤ及び車体フレーム11Aの母材の溶融と凝固を繰り返すが、(A)剛性の高い側から剛性の低い側に収縮する量と、(B)剛性の低い側から剛性の高い側へ収縮する量とを比較すると、剛性の絶対値は低く、且つ剛性の高い部分から離れているから、(A)及び(B)の各方向を問わずほぼ均等に収縮するため、各部の変形はあるものの、中央部11c側の剛性の高い部分に至るまでに変形が累積され難く、前端部61c側の変形量(溶接ひずみ)は大きくならないと考えられる。
【0060】
(c)の比較例は、例えば、車体フレーム331の中央部332から、車体フレーム331を構成するシートレール341の後端部342までを、車体フレーム331に対して溶接トーチ336を相対移動させて溶接する場合の例であり、中央部332は剛性が高く、この中央部332からシートレール341の後端部342側に近づくにつれて剛性は次第に低くなるため、剛性の高い中央部332から剛性の低い後端部342へ向けて溶接すると、(a)の場合と同様に、車体フレーム331をワーク保持具から外したときに、車体フレーム331に内在する変形しようとする力によって、シートレール341の後端部342側は大きく変形する、即ち、想像線で示すように上方へ大きく反り返る。
【0061】
(d)の実施例は、車体フレーム11Aのシートレール62の後端部62c側から中央部11cまでを、車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を相対移動させて溶接する場合の例であり、剛性の低い後端部62c側から剛性の高い中央部11cに向けて溶接すると、(c)の場合と同様に、シートレール62の後端部62c側の変形は大きくならなず、上方への反り返りが抑えられる。
【0062】
以上の図2、図13及び図14(d)で説明したように、本発明は第1に、メインフレーム61と、このメインフレーム61の後部下部に設けた左右一対の左ピボット支持プレート32及び右ピボット支持プレート33と、メインフレーム61の後部上部から二股状に後方に延ばした左右一対のシートレール62,63とを有する自動二輪車用車体フレーム11Aの溶接方法であって、左右一対のシートレール62,63の外側を構成するシートレール外半部としての左外側シートレール部46及び右外側シートレール部52、メインフレーム61、左ピボット支持プレート32及び右ピボット支持プレート33で構成したフロントフレーム半体44と、左右一対のシートレール62,63の内側を構成するシートレール内半部としての左内側シートレール部56及び右内側シートレール部57とを、溶接線65〜67が上面61a,62a,63a、溶接線71〜73(図4(a)〜(c)参照)が下面61b,62b,63b(図4(a)〜(c)参照)に現れるように仮結合する仮結合工程と、シートレール外半部46,52とシートレール内半部56,57とを後端部62c,63cから自動二輪車用車体フレーム11Aの中央部11cに向かって溶接する後部溶接工程と、を含むことを特徴とする。
【0063】
シートレール外半部46,52とシートレール内半部56,57の後端部62c,63cから自動二輪車用車体フレーム11Aの中央部11cに向かって溶接するので、車体フレーム11Aの剛性の低い部分(即ち、シートレール62,63の後端部62c,63c側)から剛性の高い部分(即ち、中央部11c側)に向かって溶接するため、溶接の初めのうちの剛性の小さい部分では、絶対的な剛性が低く、且つ剛性の高い部分から離れているために溶融した電極ワイヤ及び母材の収縮量がどの方向でもほぼ同等となり、特定の方向に溶接ひずみが累積し難く、溶接ひずみが少ない状態で車体フレーム11A、詳しくは、シートレール62,63を溶接することができる。従って、寸法精度の高い自動二輪車用車体フレーム11B(図3参照)を製造することができる。
【0064】
本発明は第2に、図2、図13及び図14(b)で説明したように、仮結合工程に、メインフレーム61を構成する左右のメインフレーム半体としての左メインフレーム部45及び右メインフレーム部51同士を合わせて仮結合し、この後に、メインフレーム半体45,51同士を、それぞれの前端部61cから自動二輪車用車体フレーム11Aの中央部11cに向かって溶接する前部溶接工程を含むことを特徴とする。
【0065】
メインフレーム半体45,51同士を、それぞれの前端部61cから中央部11cに向かって溶接するので、車体フレーム11Aの剛性の小さい部分(即ち、メインフレーム61の前端部61c)から剛性の高い部分(即ち、中央部11c)に向かって溶接するため、溶接の初めのうちの剛性の小さい部分では、絶対的な剛性が低く、且つ剛性の高い部分から離れているために溶融した電極ワイヤ及び母材の収縮量がどの方向でもほぼ同等となり、特定の方向に溶接ひずみが累積し難く、溶接ひずみが少ない状態で車体フレーム11A、詳しくは、メインフレーム61を溶接することができる。従って、寸法精度の高い自動二輪車用車体フレーム11B(図3参照)を製造することができる。
【0066】
尚、本発明は、自動二輪車用フレームの溶接方法であるが、自動二輪車用フレームに限らず、剛性の大きい部分と剛性の小さい部分とを有する部材を複数仮結合した状態で溶接するものに適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の溶接方法は、自動二輪車用フレームに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る溶接装置を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るワークの結合前の状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るワークの結合後の状態を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る車体フレームの断面図である。
【図5】本発明に係るワーク保持具の斜視図である。
【図6】本発明に係るワーク保持具の後部保持機構を示す斜視図である。
【図7】本発明に係るワーク保持具の平面図である。
【図8】本発明に係る溶接機構の正面図である。
【図9】本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第1作用図である。
【図10】本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第2作用図である。
【図11】本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第3作用図である。
【図12】本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第4作用図である。
【図13】本発明に係る車体フレームの溶接順序及び溶接方向を示す作用図である。
【図14】溶接方向の設定の根拠を示す作用図である。
【図15】従来の自動二輪車のフレームを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
11,11A,11B…自動二輪車用フレーム(車体フレーム)、11c…車体フレームの中央部、32,33…ピボット支持プレート、44…フロントフレーム半体、45,51…メインフレーム半体(左メインフレーム部、右メインフレーム部)、46,52…シートレール外半部(左外側シートレール部、右外側シートレール部)、56,57…シートレール内半部(左内側シートレール部、右内側シートレール部)、61…メインフレーム、61c…メインフレームの前端部、62,63…シートレール、62a,63a…シートレールの上面、62b,63b…シートレールの下面、62c,63c…シートレールの後端部、66,67,72,73…溶接線。
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用フレームの溶接方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自動二輪車用フレームの溶接方法として、複数のフレームの各端部をそれぞれ別々に溶接したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】国際公開第WO2003/000540号パンフレット
【0003】
特許文献1の図5を以下の図15で説明する。なお、符号は振り直した。
図15は従来の自動二輪車のフレームを示す斜視図であり、車体フレーム301は、ヘッドパイプ302と、このヘッドパイプ302から後方斜め下方に延ばしたメインフレーム303と、このメインフレーム303の後部から下方に延ばしたピボットプレート304と、メインフレーム303の後部から後方斜め上方に延ばした左右一対のリヤフレーム306,306とからなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した車体フレーム301のメインフレーム303は角パイプ、ピボットプレート304は板材、リヤフレーム306は丸パイプであり、それぞれの素材が異なる。
例えば、車体フレーム301の素材のコストを低減するために、メインフレーム303、ピボットプレート304及びリヤフレーム306を、幾つかの部分に分けてそれぞれの部分を同一の素材である板材をプレス成形して造り、各部分を溶接で接合して閉断面のフレームとすることも可能である。この場合、例えば、リヤフレームを、その長手方向に沿って分割した2部材を溶接で結合する構造とした場合には、細長く剛性の低い部材を合わせて溶接することになり、溶接ひずみが大きくなって、例えば、リヤフレームの後端が反り返るため、溶接ひずみがより小さくなる溶接方法が望まれる。また、左右一対のリヤフレームは、溶接条件をうまく合わせないと、溶接ひずみが左右で異なることもある。
【0005】
本発明の目的は、自動二輪車用フレームの溶接方法を改良することで、溶接ひずみを抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、メインフレームと、このメインフレームの後部下部に設けた左右一対のピボット支持プレートと、メインフレームの後部上部から二股状に後方に延ばした左右一対のシートレールとを有する自動二輪車用フレームの溶接方法であって、左右一対のシートレールの外側を構成するシートレール外半部、メインフレーム、左右一対のピボット支持プレートで構成したフロントフレーム半体と、左右一対のシートレールの内側を構成するシートレール内半部とを、溶接線が上面と下面とに現れるように仮結合する仮結合工程と、シートレール外半部とシートレール内半部とをそれぞれの後端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接する後部溶接工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
後部溶接工程にて、シートレール外半部とシートレール内半部とをそれぞれの後端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接することで、シートレール外半部とシートレール内半部とをそれぞれの後端部側の剛性の低い部分から中央部の剛性の高い部分へと溶接することになり、初めに溶接する後端部側の剛性の低い部分では、絶対的な剛性が低く、且つ剛性の高い部分から離れているために溶融した電極ワイヤ及び母材の収縮がどの方向でもほぼ同等となり、中央部側の剛性の高い部分を溶接するときまでに溶接ひずみが累積され難い。
【0008】
請求項2に係る発明は、仮結合工程に、メインフレームを構成する左右のメインフレーム半体同士を合わせて仮結合し、この後に、メインフレーム半体同士を、それぞれの前端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接する前部溶接工程を含むことを特徴とする。
【0009】
前部溶接工程にて、左右のメインフレーム半体のそれぞれの前端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接することで、左右のメインフレーム半体をそれぞれの前端部側の剛性が低い部分から自動二輪車用フレームの中央部側の剛性が高い部分へと溶接することになり、初めの前端部側の剛性の低い部分では、絶対的な剛性が低く、且つ剛性の高い部分から離れているために溶融した電極ワイヤ及び母材の収縮がどの方向でもほぼ同等となり、中央部側の剛性の高い部分を溶接するときまでに溶接ひずみが累積され難い。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、シートレール外半部とシートレール内半部のそれぞれの後端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接するので、フレームの剛性の低い部分(即ち、シートレール後端部側)から剛性の高い部分(即ち、中央部側)に向かって溶接するため、溶接の初めのうちの剛性の小さい部分では収縮量がどの方向でもほぼ同等となるため、特定の方向に溶接ひずみが累積し難く、溶接ひずみが少ない状態でフレーム、詳しくは、シートレールを溶接することができる。従って、寸法精度の高い自動二輪車用フレームを製造することができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、メインフレーム半体同士を、それぞれの前端部から自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接するので、フレームの剛性の小さい部分(即ち、メインフレーム前端部)から剛性の高い部分(即ち、中央部)に向かって溶接するため、溶接の初めのうちの剛性の小さい部分では収縮量がどの方向でもほぼ同等となるため、特定の方向に溶接ひずみが累積し難く、溶接ひずみが少ない状態でフレーム、詳しくは、メインフレームを溶接することができる。従って、寸法精度の高い自動二輪車用フレームを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る溶接装置を示す斜視図であり、溶接装置10は、ワークとしての自動二輪車用の車体フレーム11を保持するワーク保持具12と、保持した車体フレーム11を溶接するためのMIG溶接用の溶接トーチ13,13を備える溶接機構14と、ワーク保持具12を駆動する保持具駆動装置16と、これらの溶接機構14及び保持具駆動装置16を制御する制御装置17とからなる。上記のワーク保持具12及び保持具駆動装置16は、ワーク保持機構18を構成するものである。
【0013】
車体フレーム11は、プレス成形した複数の板材とパイプ材とからなり、その板材は、板厚の異なる鋼板を予め接合したテーラードブランク材である。
ワーク保持具12は、同一形状の車体フレーム11を複数台、ここでは、2台をX軸方向に一列に配置して保持可能な第1ワーク保持部21及び第2ワーク保持部22を備える。
【0014】
第1ワーク保持部21は、車体フレーム11を載せる横バー81と、車体フレーム11の前端部であるヘッドパイプ31を保持するヘッドパイプ保持部82と、車体フレーム11のほぼ中央に位置する左右一対の左ピボット支持プレート32及び右ピボット支持プレート33(不図示)を保持するピボット保持部83と、車体フレーム11の後端部を保持する後端保持部84とからなる。第2ワーク保持部22は第1ワーク保持部21と同一構造であり、説明は省略する。なお、86は保持具駆動装置16に連結する駆動装置連結部である。
【0015】
溶接機構14は、車体フレーム11毎に設けた溶接トーチ13,13と、これらの溶接トーチ13,13を図中のX軸回りに回転させるトーチ第1駆動モータ203と、一方の溶接トーチ13をX軸方向に移動させるトーチ第2駆動モータ204と、溶接トーチ13,13を図中のZ軸回りに回転させるトーチ第3駆動モータ206,207とを備える。
【0016】
保持具駆動装置16は、多関節ロボットからなり、ワーク保持具12を水平動(X軸方向及びY軸方向の移動)、鉛直動(Z軸方向の移動)及び回転動(X軸回りの回転)させることが可能な装置である。
【0017】
図2は本発明に係るワークの結合前の状態を示す斜視図であり、ワークとしての溶接前の車体フレームを、ここでは11Aとする。
車体フレーム11Aは、左右に結合する左フレーム半体34及び右フレーム半体35と、これらの左フレーム半体34及び右フレーム半体35のそれぞれの後半部の内側に結合する後半部フレーム体36と、前述のヘッドパイプ31と、筒状のピボット支持部37と、後半部フレーム体36の後端に取付けたリヤクロスフレーム38とからなる。なお、41,42はクロスパイプ、43はクロス部材である。
上記した左フレーム半体34及び右フレーム半体35は、フロントフレーム半体44を構成する部材である。
【0018】
左フレーム半体34は、左メインフレーム部45と、この左メインフレーム部45の後部に設けた左外側シートレール部46と、これらの左メインフレーム部45及び左外側シートレール部46の連結部から下方に延ばした左ピボット支持プレート32とを一体に成形した部材である。この左フレーム半体34の中央部、即ち、左メインフレーム部45及び左外側シートレール部46のそれぞれの左ピボット支持プレート32側の部分及び左ピボット支持プレート32は、テーラードブランク材において他よりも板厚が厚い鋼板で形成した部分である。
【0019】
右フレーム半体35は、右メインフレーム部51と、この右メインフレーム部51の後部に設けた右外側シートレール部52と、これらの右メインフレーム部51及び右外側シートレール部52の連結部から下方に延ばした右ピボット支持プレート33とを一体に成形した部材であり、右メインフレーム部51にヘッドパイプ31を予め仮結合しておく。
【0020】
この右フレーム半体35の中央部、即ち、右メインフレーム部51及び右外側シートレール部52のそれぞれの右ピボット支持プレート33側の部分及び右ピボット支持プレート33は、テーラードブランク材において他よりも板厚が厚い鋼板で形成した部分である。従って、上記の左フレーム半体34及び右フレーム半体35を合わせて形成した車体フレーム11Aの中央部の剛性は高くなる。
【0021】
ピボット支持部37は、左ピボット支持プレート32と右ピボット支持プレート部33とにそれぞれ開けたピボット取付穴32a,33aに通して溶接により結合する部材である。
【0022】
クロスパイプ42は、左ピボット支持プレート32と右ピボット支持プレート部33とにそれぞれ開けたクロスパイプ取付穴32b,33bに通して溶接により結合する部材である。
【0023】
後半部フレーム体36は、幅広とした前部55と、この前部55の左右から後方へ延ばした左内側シートレール部56及び右内側シートレール部57とを一体に成形した部材である。
リヤクロスフレーム38は、複数の板材からなる部材であり、左右一対の後方突出部38a,38aを備える。
【0024】
図3は本発明に係るワークの結合後の状態を示す斜視図であり、ワークとしての溶接後の車体フレームを、ここでは11Bとする。
車体フレーム11Bは、左メインフレーム部45と右メインフレーム部51とを合わせて溶接し、これらの左メインフレーム部45及び右メインフレーム部51のそれぞれの後端部と後半部フレーム体36の前部55とを合わせて溶接し、左外側シートレール部46と左内側シートレール部56とを合わせて溶接し、右外側シートレール部52と右内側シートレール部57と合わせて溶接した部材である。
【0025】
上記した左メインフレーム部45及び右メインフレーム部51は、メインフレーム61を構成し、左外側シートレール部46及び左内側シートレール部56は、シートレール62を構成し、右外側シートレール部52及び右内側シートレール部57は、シートレール63を構成する部分である。
【0026】
図4は本発明に係る車体フレームの断面図である。
(a)は図3のa−a線断面図であり、メインフレーム61は、断面をほぼC字形状に成形した右メインフレーム部51の外側に、断面をほぼC字形状に成形した左メインフレーム部45を被せ、右メインフレーム部51の上壁51aと左メインフレーム部45の上壁45aとを重ね合わせ、右メインフレーム部51の下壁51bと左メインフレーム部45の下壁45bとを重ね合わせてそれぞれすみ肉溶接した部材である。溶接トーチ13は上壁51a,45a、下壁51b,45bのそれぞれに対して45°傾けて溶接する。この角度はシートレール62,63(図3参照)でも同一である。
【0027】
(b)は図3のb−b線断面図であり、シートレール63は、断面をコ字形状に成形した右外側シートレール部52の外側に右内側シートレール部57を被せ、右外側シートレール部52の上壁52aと右内側シートレール部57の上壁57aとを重ね合わせ、右外側シートレール部52の下壁52bと右内側シートレール部57の下壁57bとを重ね合わせてそれぞれすみ肉溶接した部材である。
【0028】
(c)は図3のc−c線断面図であり、シートレール62は、断面をコ字形状に成形した左外側シートレール部46の外側に左内側シートレール部56を被せ、左外側シートレール部46の上壁46aと左内側シートレール部56の上壁56aとを重ね合わせ、左外側シートレール部46の下壁46bと左内側シートレール部56の下壁56bとを重ね合わせてそれぞれすみ肉溶接した部材である。
【0029】
図5は本発明に係るワーク保持具の斜視図であり、ワーク保持具12は、縦フレーム90と、この縦フレーム90の両端に取付けた横フレーム91及び鉛直フレーム92と、横フレーム91の両端部に取付けた前述のヘッドパイプ保持部82,82と、縦フレーム90及び鉛直フレーム92の両側方に配置したサイド保持機構94,96と、鉛直フレーム92の上部に取付けた後部保持機構97と、保持具駆動装置16(図1参照)に連結する駆動装置連結部86とからなる。なお、98は駆動装置連結部86に含まれる連結フレームであり、鉛直フレーム92の下部から一側方に延ばしたものである。
【0030】
ヘッドパイプ保持部82は、横フレーム91に取付けた台座101と、この台座101に取付けたヘッドパイプ下部保持部材102及び支柱103と、この支柱103の側部に取付けたシリンダ装置104と、支柱103の上端にスイング自在に取付けるとともに一端にシリンダ装置104のロッド106を連結したアーム107と、このアーム107の他端に取付けたヘッドパイプ上部保持部材108とからなる。
【0031】
シリンダ装置104は、シリンダ本体111と、このシリンダ本体111内に移動自在に挿入したピストン(不図示)と、このピストンに取付けたロッド106とからなり、シリンダ本体111の側面に設けたオイル供給排出口113,114の一方からオイルを供給し、他方からオイルを排出することにより、ロッド106を進退動させ、アーム107をスイングさせて、ヘッドパイプ下部保持部材102とヘッドパイプ上部保持部材108との間にヘッドパイプ31(図2参照)をクランプ又はアンクランプする。
【0032】
サイド保持機構94は、縦フレーム90及び鉛直フレーム92の両側面に取付けたサイドプレート116,116と、サイドプレート116に取付けた横バー81及びピボット保持部83とからなる。サイド保持機構96は、サイド保持機構94と同一構造であり、説明は省略する。
【0033】
ピボット保持部83は、サイドプレート116に直に取付けた内側保持部118と、サイドプレート116に2本の支柱121,121を介して取付けた外側保持部122とからなる。
【0034】
内側保持部118は、ベース部124と、このベース部124の側端部に取付けたピン受け台126と、ピボット支持部37(図2参照)の一端部を支持するためにピン受け台126の先端に取付けた内側ピボット支持ピン127とからなる。
【0035】
外側保持部122は、支柱121,121の先端に取付けたベース板131と、このベス板131に取付けた2つのシリンダ装置132,132(一方の符号132のみ示す。)と、これらのシリンダ装置132,132を構成するロッド133,133(不図示)に取付けたピン受けプレート134と、ピボット支持部37の他端部を支持するためにピン受けプレート134に取付けた外側ピボット支持ピン136とからなる。
【0036】
シリンダ装置132は、シリンダ本体138と、このシリンダ本体138内に移動自在に挿入したピストン(不図示)と、このピストンに取付けたロッド133(不図示)とからなり、シリンダ本体138内に油圧を供給することでロッド133を介してピン受けプレート134を移動させ、内側ピボット支持ピン127と外側ピボット支持ピン136とでピボット支持部37の両端部を支持する。
【0037】
後部保持機構97は、鉛直フレーム92の背面から後方斜め上方に延びる傾斜フレーム141と、この傾斜フレーム141の先端に直交するように取付けた後部横フレーム142と、この後部横フレーム142の両端部に設けた後端保持部84,84とからなる。
【0038】
図6は本発明に係るワーク保持具の後部保持機構を示す斜視図であり、後部保持機構97の後端保持部84は、後部横フレーム142の両端部にベースプレート144を介して取付けた下部プレート145及びシリンダ装置146と、下部プレート145の上部にスイング自在に取付けたスイングアーム147と、車体フレームを保持するときのガイドとするために下部プレート145に左右に間隔を空けて取付けた一対のガイドプレート148,151(図5も参照)とからなる。
下部プレート145は上辺に歯部152,152を備え、スイングアーム147は下辺に、歯部152,152に噛み合う歯部153,153を備える。
【0039】
シリンダ装置146は、シリンダ本体155と、このシリンダ本体155内に移動自在に挿入したピストン(不図示)と、このピストンに取付けたロッド156とからなり、ロッド156の先端をスイングアーム147の一端に連結することで、シリンダ本体155内にオイル供給排出口157(又はオイル供給排出口158)からオイルを供給したときに、ロッド156を伸ばし、スイングアーム147をスイングさせて、車体フレームのリヤクロスフレーム38(図2参照)、詳しくは、後方突出部38a,38a(図2参照)を歯部152と歯部153とで挟み込み、固定する。
【0040】
図7は本発明に係るワーク保持具の平面図であり、ワーク保持具12は、ヘッドパイプ保持部82,82及び駆動装置連結部86を除いて、縦フレーム90上を通る直線160に対して対称な構造で、保持具駆動装置16(図1参照)により、直線161を軸として回転可能としたものである。また、第1ワーク保持部21と第2ワーク保持部22とは、ヘッドパイプ保持部82,82を除いて直線160に対して対称である。
【0041】
図8は本発明に係る溶接機構の正面図であり、溶接機構14は、床面から立ち上げた支柱211と、この支柱211の上部にブラケット212,213で取付けたトーチ第1駆動モータ203と、このトーチ第1駆動モータ203の回転軸203aを回転自在に支持するために支柱211の上端部に取付けた軸受部215,215と、回転軸203aの先端に取付けたL字状フレーム216と、このL字状フレーム216の先端部に取付けたトーチ第3駆動モータ206と、このトーチ第3駆動モータ206の回転軸206aに円弧状ブラケット217を介して取付けた一方の溶接トーチ13と、L字状フレーム216に取付けたトーチ第2駆動モータ204及びトーチ移動レール218と、このトーチ移動レール218に移動自在に取付けたトーチ第3駆動モータ207と、このトーチ第3駆動モータ207の回転軸207aに円弧状ブラケット217を介して取付けた他方の溶接トーチ13と、トーチ第2駆動モータ204の回転軸204aに連結することでトーチ第3駆動モータ207側に設けたナット部材(不図示)とねじ結合する送りねじ部材221と、支柱211の上部から側方に延ばしたビーム部材222と、溶接時にワークの溶接面に対して他側のワーク面を支持するためにビーム部材222の上面に伸縮自在に取付けたワーク支持部材223,223とからなる。
【0042】
トーチ第3駆動モータ206は、L字状フレーム216に固定し、トーチ第3駆動モータ207は、トーチ第2駆動モータ204を駆動することにより送りねじ部材221を回転させてL字状フレーム216のトーチ移動レール218上を移動自在としたものであり、ワーク保持具12(図7参照)で保持したワークの間隔に合わせて溶接トーチ13を移動可能にする。
【0043】
円弧状ブラケット217は、溶接トーチ13の取付位置を変更することによりワークに対する溶接トーチ13の角度を変更可能にする部材である。
図中の225はトーチ第1駆動モータ203の回転軸203aの軸線であり、L字状フレーム216が回転する軸である。L字状フレーム216の回転に伴って溶接トーチ13,13がX軸回りに回転する。
【0044】
以上に述べた溶接装置10による車体フレーム11Aの溶接要領を図9〜図13で説明する。
図9(a),(b)は本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第1作用図である。
(a)において、まず、溶接トーチ13を車体フレーム11Aに対する相対的な進行方向(即ち、Y軸方向である。)に鉛直方向に対して45°傾け(且つ、図4に示したように、車体フレームの列の方向(即ち、X軸方向である。)にも鉛直方向に対して45°傾ける。)、この溶接トーチ13の先端に溶接箇所であるメインフレーム61の溶接開始点(メインフレーム61のヘッドパイプ31側の端部である。)が臨むようにワーク保持具12を保持具駆動装置16で移動させ、且つ溶接トーチ13に対して溶接面が側面視で45°となるようにワーク保持具12を、図1に示したヘッドパイプ31が直立した状態から矢印Aで示すように、軸となる直線161(直線161を黒丸で示す。以下同じ。)回りに保持具駆動装置16で回転させる。以降、車体フレーム11Aの溶接面は常に溶接トーチ13に対して45°溶接の進行方向に傾いた状態とする。即ち、車体フレーム11Aの溶接時の溶接面は常に上方を向く。このように溶接面を上方へ向けることで、溶接時の溶融金属が垂れ落ちるのを防止し、良好な溶接品質を得ることができる。
【0045】
(b)は、(a)の状態からワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに矢印Bのように軸となる直線161回りに回転させて車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を破線の矢印Cで示すように相対移動させてメインフレーム61の上面を溶接することを示す。
【0046】
図10(a),(b)は本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第2作用図である。
(a)は、メインフレーム61の上面を溶接した後、トーチ第3駆動モータ206,207(図8参照)を駆動して鉛直軸回りに溶接トーチ13を180°回転させるとともに、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させ、且つ直線161回りに回転させてメインフレーム61の下面が上方を向くように車体フレーム11Aをほぼ180°回転させて逆さまの状態とし、溶接トーチ13にメインフレーム61の下面の溶接開始位置を臨ませる。
【0047】
即ち、溶接トーチ13は、車体フレーム11Aに対する相対的な進行方向(即ち、Y軸方向である。)に鉛直方向に対して45°傾き、且つ、図4に示したように、車体フレームの列の方向(即ち、X軸方向である。)にも鉛直方向に対して45°傾き、図10に示したように、車体フレーム11Aの溶接時の溶接面は常に上方を向く。
【0048】
この状態から、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに直線161回りに回転させて、溶接トーチ13を車体フレーム11Aに対して破線の矢印Eで示すように相対移動させて、メインフレーム61の下面を溶接することを示す。
【0049】
(b)は、メインフレーム61の下面を溶接した後、ワーク保持具12を、直線161回りに回転させるとともにY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させて、溶接トーチ13に一方のシートレール63の溶接開始位置である後端部を臨ませる。 そして、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに直線161回りに回転させて車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を破線の矢印Fで示すように中央部側へ相対移動させる。
【0050】
図11(a),(b)は本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第3作用図である。
(a)は、図10(b)に続いてシートレール63の上面を矢印Gの方向に溶接する状態を示す。ワーク保持具12の移動と共に直線161回りの回転によって、車体フレーム11Aのヘッドパイプ31側が大きく上がる。
【0051】
(b)は、一方のシートレール63の上面の溶接が終了し、更に、一方のシートレール63の上面と同様に他方のシートレール63の上面を溶接した後に、トーチ第3駆動モータ206,207(図8参照)を駆動して鉛直軸回りに溶接トーチ13を180°回転させるとともに、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させ、且つ直線161回りに回転させてシートレール63の下面が上方を向くように車体フレーム11Aをほぼ180°回転させて逆さまの状態とし、溶接トーチ13に一方のシートレール63の下面の溶接開始位置である後端部を臨ませる。
【0052】
そして、ワーク保持具12をY軸方向、Z軸方向及びX軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに直線161回りに回転させて車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を破線の矢印Hのように相対移動させて、シートレール63の下面を中央部に向かって溶接することを示す。
次に、一方のシートレール63の下面と同様に他方のシートレール63の下面を後端部から中央部に向かって溶接する。
【0053】
図12(a),(b)は本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第4作用図であり、シートレール63の溶接要領を平面図で再度示す。
(a)において、溶接トーチ13の先端に車体フレーム11Aのシートレール63の後端部を臨ませる。
【0054】
(b)において、ワーク保持具12をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向(図の表裏方向)へ移動させるとともに直線161(図10(b)参照)回りに回転させて、溶接トーチ13を破線の矢印Kで示すように、車体フレーム11Aに対して中央部側へ相対移動させる。図中に示した65はメインフレーム61の上面の溶接線、66はシートレール62の上面の溶接線、67はシートレール63の上面の溶接線である。(メインフレーム61、シートレール62,63の下面の各溶接線71〜73については図4(a)〜(c)参照。)
【0055】
以上の図9〜図12で述べた溶接順序及び溶接方向を再度図13でまとめて説明する。
図13は本発明に係る車体フレームの溶接順序及び溶接方向を示す作用図である。
車体フレーム11Aでは、溶接ひずみが最も小さくなるように以下の順序及び方向で溶接する。
(1)メインフレーム61の上面61aを矢印で示すように前端部61cから中央部11cに向かって溶接する。
(2)メインフレーム61の下面61b(不図示)を矢印で示すように前端部61cから中央部11cに向かって溶接する。
【0056】
(3)シートレール63の上面63aを矢印で示すように後端部63cから中央部11cに向かって溶接する。
(4)シートレール62の上面62aを矢印で示すように後端部62cから中央部11cに向かって溶接する。
(5)シートレール63の下面63b(不図示)を矢印で示すように後端部63cから中央部11cに向かって溶接する。
(6)シートレール62の下面62b(不図示)を矢印で示すように後端部62cから中央部11cに向かって溶接する。なお、シートレール62とシートレール63の溶接順序は上記とは逆でも差し支えない。
【0057】
図13に示した溶接方向を設定した根拠を以下に説明する。
図14(a)〜(d)は溶接方向の設定の根拠を示す作用図である。
(a)の比較例において、例えば、車体フレーム331の中央部332から、車体フレーム331を構成するメインフレーム333の前端部334までを、車体フレーム331に対して溶接トーチ336を相対移動させて溶接する場合、中央部332は剛性が高く、メインフレーム333の前端部334側は剛性が低いため、剛性の高い中央部332から溶接を開始すると、溶接トーチ336の電極ワイヤ及び車体フレーム331の母材が溶融し、そして凝固し、溶接トーチ336の相対移動に伴って溶融と凝固を繰り返すときに、(A)剛性の高い側から剛性の低い側に収縮する量と、(B)剛性の低い側から剛性の高い側へ収縮する量とを比較すると、剛性の高い側よりも剛性の低い側が収縮し易いから、(B)>(A)(矢印参照)となる。
【0058】
従って、剛性の高い部分を基礎として近傍の剛性の低い部分が変形し、次に、この変形した部分を基礎として更に剛性の低い部分が変形するというように、その変形が剛性の低い部分に近づくにつれて累積し、メインフレーム333の前端部334を溶接するときにはメインフレーム333の前端部334側の変形量、即ち溶接ひずみは大きくなると考えられる。実際の溶接時は、車体フレーム331はワーク保持具に固定されているため、変形は表れないが、車体フレーム331をワーク保持具から外すと、車体フレーム331に内在する変形しようとする力によって、メインフレーム333の前端部334は想像線で示すように上方へ大きく反り返る。
【0059】
(b)の実施例(本実施形態)において、車体フレーム11Aのメインフレーム61の前端部61c側から中央部11c側までを、車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を相対移動させて溶接する場合、中央部11cは剛性が高く、メインフレーム61の前端部61c側は剛性が低いため、剛性の低い前端部61c側から溶接を開始すると、(a)に示した比較例と同様に電極ワイヤ及び車体フレーム11Aの母材の溶融と凝固を繰り返すが、(A)剛性の高い側から剛性の低い側に収縮する量と、(B)剛性の低い側から剛性の高い側へ収縮する量とを比較すると、剛性の絶対値は低く、且つ剛性の高い部分から離れているから、(A)及び(B)の各方向を問わずほぼ均等に収縮するため、各部の変形はあるものの、中央部11c側の剛性の高い部分に至るまでに変形が累積され難く、前端部61c側の変形量(溶接ひずみ)は大きくならないと考えられる。
【0060】
(c)の比較例は、例えば、車体フレーム331の中央部332から、車体フレーム331を構成するシートレール341の後端部342までを、車体フレーム331に対して溶接トーチ336を相対移動させて溶接する場合の例であり、中央部332は剛性が高く、この中央部332からシートレール341の後端部342側に近づくにつれて剛性は次第に低くなるため、剛性の高い中央部332から剛性の低い後端部342へ向けて溶接すると、(a)の場合と同様に、車体フレーム331をワーク保持具から外したときに、車体フレーム331に内在する変形しようとする力によって、シートレール341の後端部342側は大きく変形する、即ち、想像線で示すように上方へ大きく反り返る。
【0061】
(d)の実施例は、車体フレーム11Aのシートレール62の後端部62c側から中央部11cまでを、車体フレーム11Aに対して溶接トーチ13を相対移動させて溶接する場合の例であり、剛性の低い後端部62c側から剛性の高い中央部11cに向けて溶接すると、(c)の場合と同様に、シートレール62の後端部62c側の変形は大きくならなず、上方への反り返りが抑えられる。
【0062】
以上の図2、図13及び図14(d)で説明したように、本発明は第1に、メインフレーム61と、このメインフレーム61の後部下部に設けた左右一対の左ピボット支持プレート32及び右ピボット支持プレート33と、メインフレーム61の後部上部から二股状に後方に延ばした左右一対のシートレール62,63とを有する自動二輪車用車体フレーム11Aの溶接方法であって、左右一対のシートレール62,63の外側を構成するシートレール外半部としての左外側シートレール部46及び右外側シートレール部52、メインフレーム61、左ピボット支持プレート32及び右ピボット支持プレート33で構成したフロントフレーム半体44と、左右一対のシートレール62,63の内側を構成するシートレール内半部としての左内側シートレール部56及び右内側シートレール部57とを、溶接線65〜67が上面61a,62a,63a、溶接線71〜73(図4(a)〜(c)参照)が下面61b,62b,63b(図4(a)〜(c)参照)に現れるように仮結合する仮結合工程と、シートレール外半部46,52とシートレール内半部56,57とを後端部62c,63cから自動二輪車用車体フレーム11Aの中央部11cに向かって溶接する後部溶接工程と、を含むことを特徴とする。
【0063】
シートレール外半部46,52とシートレール内半部56,57の後端部62c,63cから自動二輪車用車体フレーム11Aの中央部11cに向かって溶接するので、車体フレーム11Aの剛性の低い部分(即ち、シートレール62,63の後端部62c,63c側)から剛性の高い部分(即ち、中央部11c側)に向かって溶接するため、溶接の初めのうちの剛性の小さい部分では、絶対的な剛性が低く、且つ剛性の高い部分から離れているために溶融した電極ワイヤ及び母材の収縮量がどの方向でもほぼ同等となり、特定の方向に溶接ひずみが累積し難く、溶接ひずみが少ない状態で車体フレーム11A、詳しくは、シートレール62,63を溶接することができる。従って、寸法精度の高い自動二輪車用車体フレーム11B(図3参照)を製造することができる。
【0064】
本発明は第2に、図2、図13及び図14(b)で説明したように、仮結合工程に、メインフレーム61を構成する左右のメインフレーム半体としての左メインフレーム部45及び右メインフレーム部51同士を合わせて仮結合し、この後に、メインフレーム半体45,51同士を、それぞれの前端部61cから自動二輪車用車体フレーム11Aの中央部11cに向かって溶接する前部溶接工程を含むことを特徴とする。
【0065】
メインフレーム半体45,51同士を、それぞれの前端部61cから中央部11cに向かって溶接するので、車体フレーム11Aの剛性の小さい部分(即ち、メインフレーム61の前端部61c)から剛性の高い部分(即ち、中央部11c)に向かって溶接するため、溶接の初めのうちの剛性の小さい部分では、絶対的な剛性が低く、且つ剛性の高い部分から離れているために溶融した電極ワイヤ及び母材の収縮量がどの方向でもほぼ同等となり、特定の方向に溶接ひずみが累積し難く、溶接ひずみが少ない状態で車体フレーム11A、詳しくは、メインフレーム61を溶接することができる。従って、寸法精度の高い自動二輪車用車体フレーム11B(図3参照)を製造することができる。
【0066】
尚、本発明は、自動二輪車用フレームの溶接方法であるが、自動二輪車用フレームに限らず、剛性の大きい部分と剛性の小さい部分とを有する部材を複数仮結合した状態で溶接するものに適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の溶接方法は、自動二輪車用フレームに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る溶接装置を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るワークの結合前の状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るワークの結合後の状態を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る車体フレームの断面図である。
【図5】本発明に係るワーク保持具の斜視図である。
【図6】本発明に係るワーク保持具の後部保持機構を示す斜視図である。
【図7】本発明に係るワーク保持具の平面図である。
【図8】本発明に係る溶接機構の正面図である。
【図9】本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第1作用図である。
【図10】本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第2作用図である。
【図11】本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第3作用図である。
【図12】本発明に係る車体フレームの溶接要領を示す第4作用図である。
【図13】本発明に係る車体フレームの溶接順序及び溶接方向を示す作用図である。
【図14】溶接方向の設定の根拠を示す作用図である。
【図15】従来の自動二輪車のフレームを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
11,11A,11B…自動二輪車用フレーム(車体フレーム)、11c…車体フレームの中央部、32,33…ピボット支持プレート、44…フロントフレーム半体、45,51…メインフレーム半体(左メインフレーム部、右メインフレーム部)、46,52…シートレール外半部(左外側シートレール部、右外側シートレール部)、56,57…シートレール内半部(左内側シートレール部、右内側シートレール部)、61…メインフレーム、61c…メインフレームの前端部、62,63…シートレール、62a,63a…シートレールの上面、62b,63b…シートレールの下面、62c,63c…シートレールの後端部、66,67,72,73…溶接線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインフレームと、このメインフレームの後部下部に設けた左右一対のピボット支持プレートと、前記メインフレームの後部上部から二股状に後方に延ばした左右一対のシートレールとを有する自動二輪車用フレームの溶接方法であって、
左右一対の前記シートレールの外側を構成するシートレール外半部、前記メインフレーム、左右一対の前記ピボット支持プレートで構成したフロントフレーム半体と、前記左右一対の前記シートレールの内側を構成するシートレール内半部とを、溶接線が上面と下面とに現れるように仮結合する仮結合工程と、
前記シートレール外半部と前記シートレール内半部とを、それぞれの後端部から前記自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接する後部溶接工程と、を含むことを特徴とする自動二輪車用フレームの溶接方法。
【請求項2】
前記仮結合工程に、
前記メインフレームを構成する左右のメインフレーム半体同士を合わせて仮結合し、この後に、前記メインフレーム半体同士を、それぞれの前端部から前記自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接する前部溶接工程を含むことを特徴とする請求項1記載の自動二輪車用フレームの溶接方法。
【請求項1】
メインフレームと、このメインフレームの後部下部に設けた左右一対のピボット支持プレートと、前記メインフレームの後部上部から二股状に後方に延ばした左右一対のシートレールとを有する自動二輪車用フレームの溶接方法であって、
左右一対の前記シートレールの外側を構成するシートレール外半部、前記メインフレーム、左右一対の前記ピボット支持プレートで構成したフロントフレーム半体と、前記左右一対の前記シートレールの内側を構成するシートレール内半部とを、溶接線が上面と下面とに現れるように仮結合する仮結合工程と、
前記シートレール外半部と前記シートレール内半部とを、それぞれの後端部から前記自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接する後部溶接工程と、を含むことを特徴とする自動二輪車用フレームの溶接方法。
【請求項2】
前記仮結合工程に、
前記メインフレームを構成する左右のメインフレーム半体同士を合わせて仮結合し、この後に、前記メインフレーム半体同士を、それぞれの前端部から前記自動二輪車用フレームの中央部に向かって溶接する前部溶接工程を含むことを特徴とする請求項1記載の自動二輪車用フレームの溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−334629(P2006−334629A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161994(P2005−161994)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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