説明

自動二輪車

【課題】専用のアイドル制御用スイッチを設け、アイドル制御を適切に行うことができる自動二輪車を提供する。
【解決手段】アイドル制御用スイッチによる停止操作後に再始動する場合、内燃機関が完全停止するまでの所定時間(TA)の経過を待って(ステップS43:待機処理)、再始動を許可するようにした(ステップS44)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を始動する始動スイッチを有する自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車には、エンジン(内燃機関)の吸気系に燃料噴射弁が設けられ、所定条件が満たされると、自動的に燃料噴射弁の動作を停止させ、この停止から所定期間経過後にエンジンの点火制御を停止させてアイドルストップさせる構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−100606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の構成は自動でアイドルストップさせるため、センサ類を多用し、かつ、複雑な制御を必要とし、廉価な自動二輪車には採用し難い。
一方、この種の廉価な自動二輪車では、信号停止した場合に、運転者がキーシリンダのキーを回動操作して手動でエンジン停止によりエンジン停止させ、スタートする際に、スタータスイッチ(始動スイッチに相当)を操作して手動でエンジン始動させる場合があった。
しかし、これらの装備は車両の乗降時に操作するものであり、信号停止の度に操作することは本体の使用態様とは異なる。このため、エンジン停止直後にスタータスイッチを操作すると、エンジンが完全停止しないうちにスタータモータが作動開始し、エンジンのクランク軸等に負荷がかかり、またスタータモータへ負荷がかかりバッテリーの消費電力が増えるおそれがある。さらに、キャブレタ、及び、内燃機関の排気系に設けられる触媒が採用された廉価な自動二輪車では、スロットル開のときにキーシリンダのキー操作でエンジン停止させると、燃料供給の急停止に遅れが生じることがあり、燃料カット等の複雑な対策構造が必要になる。
【0005】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、専用のアイドル制御用スイッチを設け、アイドル制御を適切に行うことができる自動二輪車を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明は、内燃機関(12A)の回転を変速して駆動輪(46)に伝達するマニュアル式変速機(12B)を有する自動二輪車において、手動で前記内燃機関(12A)のアイドルを停止/再始動するアイドル制御用スイッチ(84)と、各スイッチ(83,84)の操作に応じた制御を行うアイドルストップ制御部(101)とを備え、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)による停止操作後に再始動する場合、前記内燃機関(12A)が完全停止するまでの所定時間(TA)の経過を待って再始動を許可することを特徴とする。この構成によれば、アイドル制御用スイッチによる停止操作後に再始動する場合、内燃機関が完全停止するまでの所定時間の経過を待って再始動を許可するので、内燃機関が完全停止しないうちに再始動動作を開始してしまう事態を回避でき、再始動に要する消費電力を抑えることができる。従って、アイドル制御用スイッチを設けた構成で、アイドル制御を適切に行うことができる。
【0007】
上記構成において、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)の操作に応じてアイドルを停止操作後、再始動する場合、内燃機関(12A)の回転数センサ(123)の検出結果に基づいて前記内燃機関(12A)が停止したと判定した後、所定時間(TA2)の経過を待って再始動を許可するようにしても良い。この構成によれば、回転数センサの分解能では検出しきれない内燃機関の逆回転を見越して内燃機関が完全停止した後に再始動を許可できる。
また、上記構成において、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)の操作に応じてアイドルを再始動する際、前記マニュアル式変速機(12B)のインギヤ/ニュートラルを検出し、ニュートラルの場合に、前記待ち時間(TB)の経過後に前記再始動を行い、インギヤの場合、前記内燃機関(12A)と前記マニュアル式変速機(12B)との間の動力伝達を遮断可能な手動クラッチ(12C)が遮断され、且つ、前記所定時間(TA)の経過後に前記再始動を許可するようにしても良い。この構成によれば、マニュアル式変速機の状態によらずアイドル制御用スイッチで再始動ができる。
【0008】
上記構成において、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)の操作に応じてアイドルを停止する際、前記内燃機関(12A)の負荷状態を判定し、無負荷又は低負荷状態のときにアイドルを停止し、低負荷状態より高い負荷状態のときはアイドルの停止を禁止するようにしても良い。この構成によれば、アイドル制御用スイッチの操作によるアイドル停止では、特に複雑な対策構造を付加することなく、未燃焼燃料の排出を抑えることができる。
【0009】
また、上記構成において、前記自動二輪車のスロットル(81)が所定値以下のとき、前記内燃機関(12A)の回転数が所定値以下のとき、前記内燃機関(12A)のクランク角速度の変動量(Δω)と前記回転数とで示される負荷率が所定値以下のときの少なくともいずれかの場合に、前記内燃機関(12A)が無負荷又は低負荷状態と判定するようにしても良い。この構成によれば、精度良く内燃機関の負荷状態を判定することができる。
そして、前記内燃機関(12A)の吸気系に設けられるキャブレタ(63)と、内燃機関(12A)の排気系に設けられる触媒(69)とを備える場合には、アイドル制御用スイッチの操作によるアイドル停止では、未燃焼燃料の排出を抑えることができるので、未燃焼燃料の抑制のための複雑な対策構造を不要にでき、構造を簡易にすることができる。
【0010】
また、上記構成において、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)の操作に応じてアイドルを停止する際、前記内燃機関(12A)の暖機が終了したか否かを判定し、暖機が終了していなければアイドルの停止を禁止するようにしても良い。この構成によれば、アイドル制御用スイッチの操作時には、アイドル停止よりも内燃機関の暖機を優先し、迅速に暖機することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、アイドル制御用スイッチによる停止操作後に再始動する場合、内燃機関が完全停止するまでの所定時間の経過を待って再始動を許可するので、内燃機関が完全停止しないうちに再始動動作を開始してしまう事態を回避でき、再始動に要する消費電力を抑えることができる。従って、アイドル制御用スイッチを設けた構成で、アイドル制御を適切に行うことができる。
また、アイドル制御用スイッチの操作に応じてアイドルを停止操作後、再始動する場合、内燃機関の回転数センサの検出結果に基づいて内燃機関が停止したと判定した後、所定時間の経過を待って再始動を許可するようにすれば、回転数センサの分解能では検出しきれない内燃機関の逆回転を見越して内燃機関が完全停止した後に再始動を許可できる。
【0012】
また、アイドル制御用スイッチの操作に応じてアイドルを再始動する際、マニュアル式変速機のインギヤ/ニュートラルを検出し、ニュートラルの場合に、上記待ち時間の経過後に再始動を行い、インギヤの場合、内燃機関とマニュアル式変速機との間の動力伝達を遮断可能な手動クラッチが遮断され、且つ、前記所定時間の経過後に前記再始動を許可するようにすれば、マニュアル式変速機の状態によらずアイドル制御用スイッチで再始動ができる。
また、アイドル制御用スイッチの操作に応じてアイドルを停止する際、内燃機関の負荷状態を判定し、無負荷又は低負荷状態のときにアイドルを停止し、低負荷状態より高い負荷状態のときはアイドルの停止を禁止するようにすれば、アイドル制御用スイッチの操作によるアイドル停止では、未燃焼燃料の排出を抑えることができる。
【0013】
また、自動二輪車のスロットルが所定値以下のとき、内燃機関の回転数が所定値以下のとき、内燃機関のクランク角速度の変動量(Δω)と上記回転数とで示される負荷率が所定位置以下のときの少なくともいずれかの場合に、内燃機関が無負荷又は低負荷状態と判定するようにすれば、精度良く内燃機関の負荷状態を判定することができる。
この場合、内燃機関の吸気系に設けられるキャブレタと、内燃機関の排気系に設けられる触媒とを備えるようにすれば、アイドル制御用スイッチの操作によるアイドル停止では、未燃焼燃料の排出を抑えることができるので、未燃焼燃料の抑制のための複雑な対策構造を不要にでき、構造を簡易にすることができる。
また、アイドル制御用スイッチの操作に応じてアイドルを停止する際、内燃機関の暖機が終了したか否かを判定し、暖機が終了していなければアイドルの停止を禁止するようにすれば、アイドル制御用スイッチの操作時には、アイドル停止よりも内燃機関の暖機を優先し、迅速に暖機することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を適用した自動二輪車を示す左側面図である。
【図2】自動二輪車の操作系を上方から示した図である。
【図3】アイドルストップ制御装置を周辺構成とともに示すブロック図である。
【図4】(A)はスロットルハウジングの右側面図であり、(B)は正面図である。
【図5】(A)は図4(B)のA−A断面図であり、図5(B)は図4(B)のB−B断面図である。
【図6】アイドルストップの制御を示すフローチャートである。
【図7】(A)はスロットル開度に基づいてエンジンの負荷状態を判定する処理を示し、(B)はエンジン回転数に基づいてエンジンの負荷状態を判定する処理を示し、(C)はエンジン負荷率に基づいてエンジンの負荷状態を判定する処理を示すフローチャートである。
【図8】図7(C)の説明に供する図である。
【図9】クランク軸のクランク角速度ωとクランク角度との関係を示すグラフである。
【図10】(A)は油温に基づくエンジンの暖機判定処理を示し、(B)は別のエンジンの暖機判定処理を示すフローチャートである。
【図11】アイドルストップ解除の制御を示すフローチャートである。
【図12】待機処理の説明に供する図である。
【図13】図11のステップS42の処理内容を示すフローチャートである。
【図14】変形例に係る待機処理の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、説明中、前後左右および上下といった方向の記載は、特に記載がなければ車体に対する方向と同一とする。また、各図に示す符号FRは車体前方を示し、符号UPは車体上方を示し、符号Lは車体左方を示している。
図1は、本発明の実施形態を適用した自動二輪車1を示す左側面図である。
この自動二輪車1は、車体フレーム2の前後中央に比較的小型のパワーユニット12を支持し、このパワーユニット12の上方に燃料タンク10を備え、燃料タンク10の後方に乗員用シート16を備える小型の鞍乗り型車両である。
車体フレーム2は、前端に設けられるヘッドパイプ3から後下方に延びるメインフレーム4と、メインフレーム4の後端部から後方に延びる左右一対のシートレール5と、メインフレーム4の前端部から後下方に延びる左右一対のダウンフレーム6と、メインフレーム4の前端部よりも後方から後下方に延びてダウンフレーム6の後端部に連結される左右一対のセンターフレーム7と、シートレール5とセンターフレーム7との間を架橋する左右一対のサブフレーム8とを備えている。
【0016】
ヘッドパイプ3には、ステアリングシャフト(不図示)が回動自在に支持され、このステアリングシャフトに上下一対のトップブリッジ19およびボトムブリッジ20を介してフロントフォーク9が取り付けられ、フロントフォーク9がステアリングシャフトと一体に回動する。
トップブリッジ19には、ハンドルバー(ハンドル)21が取り付けられ、フロントフォーク9の下端には前輪31が回転自在に支持され、ハンドルバー21によって前輪31が左右に操舵される。このフロントフォーク9には、前輪31の上方を覆うフロントフェンダ32が取り付けられている。
また、トップブリッジ19およびボトムブリッジ20には、キーシリンダ22およびカウル支持ステー23が取り付けられ、このカウル支持ステー23を介してフロントカウル24、メータユニット25、インナカウル26、左右一対のフロントウインカー30を支持するウインカー支持ステー27、フロント用のナンバープレート28およびヘッドライトユニット29が支持される。なお、キーシリンダ22は、メカニカルキーによって操作されるメインスイッチとして機能するものであり、メインスイッチがOFF(オフ)にされると後述するエンジン12Aが自動二輪車1の各部の状況によらず運転停止される。
【0017】
メインフレーム4には、当該メインフレーム4を上方から跨ぐように鞍型の燃料タンク10が取り付けられ、センターフレーム7には、左右一対のピボットプレート11が取り付けられる。このピボットプレート11には、ピボット軸45を介してスイングアーム15が上下に揺動自在に支持される。左右一対のスイングアーム15は、後方に延び、その後端に後輪(駆動輪)46が回転自在に支持され、これらスイングアーム15とシートレール5の間には左右一対のリヤクッション47が介挿される。
左右のシートレール5には、乗員用シート16が取り付けられる。この乗員用シート16は、運転者と搭乗者とが前後に間隔を空けて着座可能な前後に長いシートに形成されており、シートレール5の後部には、搭乗者が把持するグラブレール40が取り付けられている。また、シートレール5には、後輪46の左側方を覆う後部側方ガード部材17、ヘルメットホルダ41、後輪46の上方を覆うリヤフェンダ54が取り付けられ、リヤフェンダ54には、リヤウインカー55およびテールライト56が取り付けられている。
【0018】
パワーユニット12は、複数のエンジン支持部50〜52を介してメインフレーム4、ピボットプレート11およびダウンフレーム6に支持され、メインフレーム4、センターフレーム7およびダウンフレーム6に囲まれる空間内に配置される。
このパワーユニット12は、シリンダ軸線Cが前傾して略水平に配置された水平エンジン(本実施形態では空冷の単気筒エンジン)12Aを有し、クランクケース57の前部から前方に延びるシリンダ58と、シリンダ58の前部に設けられるシリンダヘッド59とを有している。
シリンダヘッド59には、吸気装置60および排気装置61が取付けられている。吸気装置60は、燃料タンク10とエンジン(内燃機関)12Aとの間に配置された燃料供給装置であるキャブレタ63と、キャブレタ63の前部とシリンダヘッド59の上部の吸気ポートとを接続する吸気管62と、キャブレタ63の後部にコネクティングチューブ64を介して接続されるエアクリーナ65とを備えて構成されている。
【0019】
排気装置61は、シリンダヘッド59の下部の排気ポートに取付けられた排気管66と、この排気管66の後端に取付けたマフラ67とを有し、マフラ67を奥側のバー部材42およびバー部材42の先端に取付けたマフラステー68を介して支持したものである。
マフラ67内には、キャタライザー(触媒)69が配置され、排気ガスを浄化してマフラ67外へ排出する。なお、キャタライザー69はマフラ67内に限らず、排気管66の途中に設けても良い。
【0020】
パワーユニット12のクランクケース57内には、エンジン12Aが回転駆動するクランク軸71の回転を変速して出力軸72に伝達する変速機12Bと、クランク軸71と変速機12Bとの間の動力伝達を遮断可能なクラッチ12Cとが配置されている。この出力軸72の回転は、チェーンカバー49内に設けられたチェーン伝達機構(動力伝達機構)を介して後輪46に伝達される。
図1中、符号75は、エンジン12Aの回転動力で発電する発電機(不図示)の電力を蓄電するバッテリーであり、このバッテリー75の電力によって車体が具備するライト等の電装品が駆動される。
【0021】
燃料タンク10の下方には収納ボックス33が配置される。収納ボックス33は、メインフレーム4とパワーユニット12との間に位置し、メインフレーム4の下部にブラケット35を介して取り付けられている。この収納ボックス33には、後述する制御部(アイドリングストップ制御部)101が配置されている。
また、パワーユニット12下方のダウンフレーム6には、パワーユニット12左右に延びて乗員用シート16の前部に着座する運転者が足を載せる左右一対のステップ76が取り付けられると共に、自動二輪車1を駐車するためのスタンド77が収納自在に取り付けられる。
また、パワーユニット12後方のサブフレーム8には、後下方に延びるバー部材42を介して、乗員用シート16の後部に着座する搭乗者が足を載せる左右一対のステップ43が取り付けられている。
【0022】
図2は、自動二輪車1の操作系を上方から示した図である。図2中、符号C1は、自動二輪車1の車幅中心線を示している。
図2に示すように、この自動二輪車1のハンドルバー21の右端部には、運転者(乗員)が右手で操作するスロットル(スロットルグリップとも称する)81が回動自在に装着られ、このスロットル81の車幅方向内側に、スロットル81の基端部を覆うケースであるスロットルハウジング82が設けられる。
このスロットルハウジング82内では、スロットル81にスロットルケーブルCT(図1参照)の一端が接続され、このスロットルケーブルCTを介して、スロットル81の回動操作がキャブレタ63内のスロットル弁に伝達される。これにより、運転者がスロットル開度を手動で可変させ、エンジン12Aの吸気量(燃料と空気の混合気の量)を変化させ、エンジン出力を調整できる。
また、このスロットルハウジング82には、運転者が右手の親指で操作する押下式のスタータスイッチ(始動スイッチ)83とアイドル制御用スイッチ84とが設けられている。
【0023】
スタータスイッチ83は、エンジン12Aの始動を指示する手動スイッチであり、このスタータスイッチ83がONの間、パワーユニット12の上部に設けられたスタータモータ85が回転駆動し、エンジン12Aが始動する。なお、スタータスイッチ83はOFF側に付勢されており、押下される間だけONに切り替わり、押下されなくなるとOFFに切り替わるように構成されている。
アイドル制御用スイッチ84は、エンジン12Aのアイドル停止/再始動を指示する手動スイッチであり、このアイドル制御用スイッチ84の所定操作により、エンジン12Aの点火プラグ(不図示)による点火制御が停止され、エンジン12Aが停止させることができ、また、スタータモータ85が回転駆動され、エンジン12Aを再始動させることができる。
【0024】
ハンドルバー21の左端部には、運転者が左手で操作するクラッチレバー86が設けられ、このクラッチレバー86の操作が、クラッチケーブルCCを介してクラッチ12Cに伝達され、クラッチ12Cを断続させる。クラッチレバー86は、基端部を支点にしてハンドルグリップ87から離れる方向(前方向)に付勢されており、運転者がクラッチレバー86を手前に引くと(ハンドルグリップ87側に操作すると)、クラッチ12Cが切断状態となり、クラッチレバー86が前方に戻ると(ハンドルグリップ87と反対側に移動すると)、クラッチ12Cが接続状態となる。つまり、この自動二輪車1のクラッチ12Cは、運転者の操作のみで作動する手動クラッチとされている。
このハンドルグリップ87の車幅方向内側には、運転者が左手の親指で操作するライトスイッチ群88(ウインカースイッチ88A、ヘッドライトスイッチとポジションライトスイッチを兼ねるライトスイッチ88B等)を備えるスイッチハウジング89が設けられている。これらスイッチの操作により、ウインカー30,55の点滅/消灯、ヘッドライトユニット29内のヘッドライト29A(後述する図3参照)の点灯/消灯、ヘッドライトユニット29およびテールライト56内のポジションライト29B(後述する図3参照)の点灯/消灯等が行われる。
【0025】
パワーユニット12の左側には、運転者が左足で操作するシーソー式のシフトペダル(変速操作子)91が上下に揺動自在に設けられ、このシフトペダル91の操作に応じて変速機12Bの変速段が切り替わる。この変速機12Bは、常時噛み合い式の変速機であり、シフトペダル91の前部又は後部を踏み込む毎に、1速〜4速、ニュートラルのいずれかに所定順で切り替わる。つまり、この変速機12Bは、運転者の操作のみで作動するマニュアル式変速機(手動変速機)とされている。
【0026】
ハンドルバー21の右側には、運転者が右手で操作するブレーキレバー92が設けられ、パワーユニット12の右側には、運転者が右足で操作するブレーキペダル93が設けられる。ブレーキレバー92は、クラッチレバー86と同様に基端部を支点にしてスロットル81から離れる方向(前方向)に付勢されており、このブレーキレバー92の操作が、不図示のブレーキケーブルを介して前輪用ブレーキに伝達される。具体的には、運転者がブレーキレバー92を手前に引くと前輪用ブレーキが作動する。
ブレーキペダル93の操作は、不図示のブレーキケーブルを介して後輪用ブレーキに伝達され、ブレーキペダル93を踏み込むと、後輪用ブレーキが作動する。なお、ブレーキレバー92、ブレーキペダル93が操作された際は、テールライト56内のブレーキライトが点灯される。
このように、この自動二輪車1は、スロットル開度の調整、エンジン12Aのアイドル停止、クラッチ12Cの断続、変速段(ニュートラルを含む)の切り替え、および、ブレーキの作動のいずれも手動式に構成されており、これらの作動にアクチュエータ等の駆動装置を使用しない構成となっている。このため、シンプル、且つ、安価(コスト低減に有利)な車体構造となっている。
【0027】
また、同図2に示すように、パワーユニット12の右側、且つ、ブレーキペダル93後方には、運転者が右足で操作するキックペダル95が収納自在かつ回動自在に設けられている。このキックペダル95を図2に矢印で示す方向に回動させると、運転者がキックペダル95を踏込可能となり、エンジン始動の際には、このキックペダル95を踏み込むと、エンジン12Aが始動する。つまり、この自動二輪車1は、エンジン始動を、スタータモータ85とキックペダル95のいずれでも行うことが可能である。但し、この構成に限らず、スタータモータ85だけでエンジン始動する構成にしても良い。
なお、図2中、符号96は、左右のグリップ(スロットル81、ハンドルグリップ87)の内側、より具体的には、スロットルハウジング82およびスイッチハウジング89の内側近傍に取り付けられる左右一対のサイドミラーである。
【0028】
ところで、アイドル停止とアイドル許可(エンジン始動)とを別々の操作子で行うと、部品点数が多くなり、コストが高くなる。
そこで、本実施形態では、一つの操作子でアイドル停止とエンジン再始動とを行うアイドルストップ制御装置100を備えるようにしている。以下、このアイドルストップ制御装置100について説明する。
【0029】
図3は、アイドルストップ制御装置100を周辺構成とともに示すブロック図である。
制御部101は、自動二輪車1の各部を中枢的に制御するコンピュータ(電子制御ユニット(ECU)とも称する)であり、運転者の操作を含む車体の各部からの情報を取得し、取得した情報に基づいて被制御部(エンジン12A等)を制御する。この制御部101には、運転者が操作する操作スイッチとして、スタータスイッチ83、アイドル制御用スイッチ84、及びスイッチ群88(図2参照)が接続されており、各スイッチ83,84,88の操作に応じて対応する制御を行う。つまり、制御部101は、アイドル制御用スイッチ84が操作された場合、アイドル停止/アイドル許可(エンジン始動)を行うアイドルストップ制御部として機能する。なお、アイドリングストップ制御部を別途設けても良い。
【0030】
この自動二輪車1では、運転者がシフトペダル91へ加える操作力が変速機12B内のシフトドラム111を所定角度回動させる力に変換される。このシフトドラム111の回動に伴って、変速ギヤ列112の複数のギヤ列による変速段が切り替えられ、所定のギヤ(1速〜4速)やニュートラルが選択される。クラッチ12Cは、クラッチレバー86に加える操作力によって開放状態(遮断状態)に切り替えられる。
【0031】
また、この自動二輪車1には、運転者のスロットル操作によるスロットル開度を検出するスロットル開度センサ(スロットル検出手段)121と、運転者のクラッチ操作によるクラッチ12Cの接続/開放(遮断)を検出するクラッチ検出センサ(クラッチ検出手段)122と、エンジン回転数(クランク軸71の回転数)を検出するエンジン回転数センサ(回転数検出手段)123と、変速ギヤ列112内の所定のギヤの回転数から車速を検出する車速センサ(車速検出手段)124と、シフトドラム111の回動角度に基づいて運転者が選択するギヤ段(ニュートラルを含む)を検出するギヤポジションセンサ(変速検出手段)125が設けられており、これらの検出結果に基づいて制御部101がエンジン12Aの点火タイミング等を制御する。なお、スロットル開度センサ121は、キャブレタ63内のスロットル弁の開度を検出可能にキャブレタ63に配置され、クラッチ検出センサ122は、クラッチレバー86の操作を検出可能にクラッチレバー86近傍に配置されている。
【0032】
制御部101には、更に、キーシリンダ22(図1参照)にキーが挿入されてメインスイッチ(メインSW)がONになったことを示すON信号が入力され、このON信号が入力されている間だけ、制御部101がエンジン制御やアイドリングストップ制御を行う。
また、制御部101は、アイドリングストップ制御に関連してライトのON/OFFを管理する表示管理機能、アイドリングストップ中であることを乗員に報知する報知機能も有している。なお、図3中、符号131は、自動二輪車1の表示系を示している。この表示管理機能は、アイドリングストップ制御によりエンジン12Aを停止する間、ポジションライト29Bを点灯し、外部からの視認性を向上させる機能である。また、報知機能は、上記エンジン12Aを停止する間、メータユニット25等に設けられたアイドルストップ表示灯131(図3参照)を点灯或いは点滅させ、アイドリングストップ制御で止まったのか、或いは、不調で止まったのかを乗員に知らせる機能である。
【0033】
図4(A)はスロットルハウジング82の右側面図であり、図4(B)は正面図である。また、図5(A)は図4(B)のA−A断面図であり、図5(B)は図4(B)のB−B断面図である。なお、各図において、符号LTはスロットル81の回動軸(=ハンドルバー21の軸線)を示している。
図4(A)(B)スロットルハウジング82は、ハンドルバー21を上下から挟むように連結される上下一対のケース82A,82Bで構成されており、スロットルハウジング82は、スロットル81の基端部に設けられた大径のドラム81Dが収納される収納部82Cと、収納部82Cから下方に延びて、スタータスイッチ83が設けられるスタータスイッチ部82Dとが一体に設けられる。そして、このドラム81DにスロットルケーブルCT(図1参照)の一端が取り付けられることによって、スロットル81の回動に応じてスロットルケーブルCTが巻き取られ、或いは、引き出され、スロットルケーブルCTの他端に取り付けられたスロットル弁が開閉される。
【0034】
また、スロットルハウジング82は、収納部82Cから車幅方向内側(ハンドル左右中心)に膨出する膨出ケース82E(図4(B),図5(B)参照)を一体に有し、この膨出ケース82E、つまり、ドラム81Dを避けた位置にアイドル制御用スイッチ84を設けている。この場合、膨出ケース82Eの後上部に回動軸LTに向けて凹む凹部82Fを設け、この凹部82Fのスペースを利用してアイドル制御用スイッチ84を設けている。これにより、アイドル制御用スイッチ84を運転者に向けて、且つ、操作しやすい位置に配置でき、且つ、スロットルハウジング82からの突出量を抑えることができる。また、アイドル制御用スイッチ84は、スタータスイッチ83に対して車幅方向(左右方向)及び上下方向に間隔を空けて配置されるので、両スイッチ83,84を誤操作し難く配置できる。
【0035】
アイドル制御用スイッチ84は、中間部84Cを支点に揺動する単一の操作子84Sを備えたシーソースイッチで形成され、この操作子84Sの長手方向のいずれかの端部(押下部84A,84B(図4(A)参照))を手の指で押し込み操作可能であり、一方の押下部(本実施形態では押下部84B)を押下すると、OFFからONに切り替わる単一のスイッチで構成されている。
2つの押下部84A,84Bは、スロットル81の回動方向に沿って順に配置され、スロットル閉側の押下部84Aが、エンジン12Aのアイドルを禁止するアイドルストップスイッチとして機能し、スロットル開側の押下部84Bが、エンジン12Aのアイドルを許可する始動スイッチとして機能する。
本構成では、いずれかの押下部84A,84Bが押下されると、押下された状態に保持されるスイッチ構造、つまり、単一の操作子84Sが揺動方向の一方側又は他方側に操作されると、操作された側に位置が固定される構造とされている。このため、エンジン12Aのアイドルを許可する押下部84Bを押下した状態(図4(A)参照)が、通常運転時の状態(通常状態)となっており、この状態であれば、自動二輪車1を従来通りに運転することが可能である。以下、説明を判りやすくするため、アイドルストップスイッチ84A,始動スイッチ84Bと表記する。
【0036】
この自動二輪車1では、キーシリンダ22(図1参照)にキーが挿入されてメインスイッチ(メインSW)がONの場合に、スタータスイッチ83及びアイドル制御用スイッチ84が有効になる。メインスイッチがONの場合にスタータスイッチ83が押下されると、所定の始動条件が満足していれば、常にスタータモータ85が回転駆動される。なお、この始動条件は、マニュアル式変速機12Bがニュートラルであること、又は、マニュアル式変速機12Bがインギヤ(いずれかのギヤポジションが選択された状態)でクラッチ12Cが開放していることであり、従来の始動条件と同じである。
アイドル制御用スイッチ84(アイドルストップスイッチ84A,始動スイッチ84B)については、メインスイッチがONの場合であって、且つ、後述する所定の条件が満たされた場合に、対応する制御が行われる。
【0037】
図6は、アイドルストップの制御を示すフローチャートである。
制御部101は、アイドルストップスイッチ84Aが操作されると(ステップS11:エンジン停止要求(アイドル停止要求))、エンジン停止条件を満たすか否かを判定し(ステップS12)、満たす場合に、所定の待ち時間T1(本実施形態では3秒程度)の経過を待った後に(ステップS13:待機処理)、アイドルストップ制御を実行する(ステップS14)。一方、エンジン停止条件を満たさない場合、制御部101は、アイドルストップ制御を実行せず、当該処理を一時中断する。
この待ち時間T1は、走行中の自動二輪車1が停止するまでの予想時間に設定される。この待ち時間T1を設けたことにより、例えば、運転者が停止前の早いタイミングでアイドルストップスイッチ84Aを操作した場合に、停止後にアイドルストップ制御を実行させることができる。
【0038】
上記エンジン停止条件は、図6に示すように、ヘッドライトスイッチがOFFであること(ライトスイッチ88B(図2参照)がヘッドライトOFFの位置にあること)、エンジン12Aが低負荷状態であること(キャタライザー保護条件(触媒保護条件))、及び、エンジン12Aの暖機が終了していること(エンジン保護条件)を含んでいる。つまり、制御部101は、ステップS12において、ヘッドライトスイッチがOFFであるか否かを検出する処理、エンジン12Aが無負荷又は低負荷状態のいずれかに該当するかを判定する処理(後述する図7(A)(B)(C)に示す負荷判定処理)と、エンジン12Aの暖機が終了しているか否かを判定する処理(後述する図9(A)(B)に示す暖機判定処理)を実行し、これらの結果に応じてアイドルストップ制御を選択的に実行する。
ヘッドライトスイッチがOFFでなければアイドルストップ制御を実行しないので、アイドルストップ時の電力消費量を抑え、バッテリー75の過度な電力消費を回避することができる。
【0039】
上記したように、本自動二輪車1は、キャブレタ63によって燃料供給する負圧式の構成であるため、電気式のインジェクタ(燃料噴射装置)を使用する場合と比較して燃料供給を急停止させることが難しい。
このため、キャブレタ63、及び、排気系に設けられるキャタライザー(触媒)69を備えた構成では、エンジン12Aに大量の混合気が送られているスロットル開のときにキーシリンダ22のキー操作でエンジン停止させると、燃料供給の急停止に遅れが生じることがあり、未燃焼ガスの抑制のための複雑な対策構造が必要になる。
本構成では、エンジン12Aが、この複雑な対策構造が不要な無負荷又は低負荷状態でなければアイドルストップ制御を実行しないので、構造を簡易にすることができる。
【0040】
また、エンジン12Aの暖機が終了していなければアイドルストップ制御を実行しないので、エンジン12Aを迅速に暖機することができる。
このようにして、アイドルストップスイッチ84Aが操作され、ヘッドライトスイッチがOFFであり、キャタライザー保護条件(触媒保護条件)、及び、エンジン保護条件を満足している場合に、アイドルストップ制御を実行するので、バッテリー75、キャタライザー69及びエンジン12Aを適切に保護しつつ、運転者の手動操作に応じたアイドルストップができる。
本実施形態のアイドルストップ制御では、エンジン12Aの点火制御を中止してエンジン12Aを停止させる制御に加え、ポジションライト29B(図3参照)を点灯して外部の視認性を向上させる制御と、アイドルストップ表示灯131(図3参照)を点灯或いは点滅させる制御とを行う。なお、このアイドルストップ制御の間でも、ウインカー30,55、および、テールライト56内のブレーキライト56A(図3参照)等は作動可能である。
【0041】
図7(A)(B)(C)は、エンジン12Aの負荷判定処理の一例を示している。
図7(A)はスロットル開度に基づいてエンジン12Aの負荷状態を判定する処理である。つまり、制御部101は、スロットル開度センサ121を介してスロットル81が閉か否かを判定し(ステップS21)、所定開度以下の場合(ステップS21:YES)、エンジン12Aが無負荷又は低負荷状態(図7では、「低負荷状態」と記載)と判定し(ステップS22)、所定開度以下でない場合(ステップS21:NO)、エンジン12Aが、低負荷状態よりも高い負荷状態(図7では、「高負荷状態」と記載)と判定し、アイドルストップを禁止する(ステップS23)。
図7(B)はエンジン回転数に基づいてエンジン12Aの負荷状態を判定する処理である。つまり、制御部101は、エンジン回転数センサ123を介してエンジン回転数が予め定めた閾値以下(標準アイドル回転数の110%以下)か否かを判定し(ステップS21B)、閾値以下の場合(ステップS21B:YES)、エンジン12Aが無負荷又は低負荷状態(図7では、「低負荷状態」と記載)と判定し(ステップS22)、閾値以下でない場合(ステップS21B:NO)、エンジン12Aが、低負荷状態よりも高い負荷状態(高負荷状態)と判定し、アイドルストップを禁止する(ステップS23)。エンジン回転数の閾値は、例えば、エンジン12Aのアイドル回転数又はこのアイドル回転数に近い回転数である。
【0042】
また、図7(C)は、エンジン12Aのクランク角速度の変動量Δωとエンジン回転数との比率で示されるエンジン負荷率に基づいてエンジン12Aの負荷状態を判定する処理である。
図8に示すように、エンジン12Aのクランク軸71には、クランク軸71と同期回転するパルサロータ97が取り付けられており、パルサロータ97の外周部の所定角度θ1の範囲には、リラクタ98が設けられ、パルサロータ97の近傍には、リラクタ98の通過に反応してクランクパルス信号を出力するエンジン回転数センサ123が配置され、このエンジン回転数センサ123からエンジン回転数信号及びクランク角速度信号が制御部101(図3参照)に送られる。
図9は、クランク軸のクランク角速度ωとクランク角度との関係を示すグラフである。
グラフの縦軸はクランク角速度ω、横軸はクランク角度を示している。また、グラフ中を横に延びる破線はエンジン回転速度(平均エンジン回転速度)Ne、太線の実線で示されるデータは定常時のクランク角速度ω、破線で示されるデータは高負荷時のクランク角速度ωを表している。このように、定常時のクランク角速度ω、高負荷時のクランク角速度ωは、エンジン回転速度Neに対して各クランク角度で変動し、負荷の高い方がその変動は大きくなる。
制御部101(図3参照)は、エンジン回転数センサ123(図9参照)から送られたクランクパルス信号に基づいてエンジン回転速度(平均エンジン回転速度)Neを算出すると共に、リラクタ98がエンジン回転数センサ123を通過する間におけるパルサロータ97の回転速度(角速度)、すなわち、リラクタ部分のみの角速度ωtdc(rad/s)を算出する。そして、算出されたエンジン回転速度Neから、リラクタ部分の角速度ωtdcを減ずることにより、クランク角速度の変動量Δω(クランク角度θ1の範囲での変動量Δω)を算出する(Δω=Ne−ωtdc)。次いで、制御部101(図3参照)は、変動量Δωとエンジン回転速度Neとの比率を求めることによって(Δω÷Ne×100(%)の演算式によって)エンジン負荷率Fが算出される。このエンジン負荷率Fは、エンジン負荷が大きいほど大きな数値となる。
この構成によれば、エンジン12Aのクランク角速度の変動量Δωとエンジン回転数とで算出されるエンジン負荷率が所定位置以下のときに無負荷又は低負荷状態(図7では、「低負荷状態」と記載)と判定するので、エンジン12Aの負荷率を用いてエンジン12Aの負荷状態を精度良く判定でき、確実に無負荷又は低負荷状態のときにアイドルストップすることができる。
【0043】
図7(C)に示すように、制御部101は、このエンジン負荷率Fが予め定めた閾値以下か否かを判定し(ステップS21C)、閾値以下の場合(ステップS21C:YES)、エンジン12Aが無負荷又は低負荷状態と判定し(ステップS22)、閾値以下でない場合(ステップS21C:NO)、エンジン12Aが、低負荷状態よりも高い負荷状態(高負荷状態)と判定し、アイドルストップを禁止する(ステップS23)。なお、図8に示す構成は一例であり、エンジン負荷率Fを求める公知技術を広く適用可能である。
本実施形態では、これら図7(A)(B)(C)の少なくとも一つの方法を用いることにより、エンジン12Aが無負荷又は低負荷状態のいずれかに該当するか否かを判定することができる。なお、複数の方法を用いる場合は、全ての方法にてエンジン12Aが低負荷状態と示された場合に、無負荷又は低負荷状態と判定するようにすれば良い。この場合、判定精度をより向上させることができる。
【0044】
図10(A)(B)は、エンジン12Aの暖機判定処理の一例を各々示している。
図10(A)では、エンジン12Aの各部を潤滑する潤滑オイルの温度を検出する油温センサを設け、制御部101が、この油温センサの検出温度が予め定めた閾値以上か否かを判定し(ステップS31)、閾値以上の場合(ステップS31:YES)、暖機終了と判定し(ステップS32)、閾値未満の場合(ステップS31:NO)、暖機中(暖機未終了)と判定し、アイドルストップを禁止する(ステップS33)。
図10(B)では、制御部101が、エンジン始動後に所定回転数以上のエンジン回転数が所定時間継続したか否かを監視しており(ステップS31B)、この運転状態が満足されていれば(ステップS31B:YES)、暖機終了と判定し(ステップS32)、運転状態が満足されていない場合(ステップS31B:NO)、暖機中(暖機未終了)と判定し、アイドルストップを禁止する(ステップS33)。
本実施形態では、これら図10(A)(B)の少なくとも一つの方法を用いることにより、エンジン12Aの暖機が終了したか否かを判定することができる。
【0045】
図11は、アイドルストップ解除の制御を示すフローチャートである。
制御部101は、始動スイッチ84Bが操作されると(ステップS41:エンジン再始動要求(アイドルストップ解除要求))、エンジン再始動条件を満たすか否かを判定し(ステップS42)、満たす場合に、所定の待ち時間TA(本実施形態では10秒程度)が経過していることを条件にして(ステップS43:待機処理)、エンジン12Aを始動すべくアイドルストップ解除制御を実行する(ステップS44)。一方、エンジン再始動条件を満たさない場合、制御部101は、アイドルストップ解除制御を実行せず、当該処理を一時中断する。
この待ち時間TAは、エンジン12Aが完全停止するまでの予測時間に設定されており、より具体的には、図12に示すように、アイドルストップスイッチ84Aの操作(停止操作)のタイミングであるエンジン停止指令のタイミングからエンジン12Aが完全停止するまでの予測時間TA1に設定されている。
【0046】
ここで、信号待ち等で停車し、アイドル状態となってアイドルストップスイッチ84Aが操作されると、エンジン回転数(クランク軸回転数)はアイドル回転数から徐々に減少していき、最後に圧縮行程のピストン上死点でシリンダ内圧に押されて微少に逆回転した後、完全停止する。仮にクランク軸71の完全停止前、特に逆回転時にアイドル停止からの再始動が行われ、スタータモータ85が回転すると、スタータモータ85の駆動に対抗してクランク軸71の逆回転力が入力するため、スタータモータ85に負荷がかかり、バッテリー75の消費電力が大きくなってしまう。
これに対し、上記待ち時間TA(TA1)は、クランク軸71が完全停止するまでの時間に相当しているので、制御部101は、エンジン停止指令のタイミングからこの待ち時間TAの経過を待つことにより、クランク軸71が完全停止した後に再始動を許可し、アイドルストップ制御を実行させることができる。従って、運転者が停車前の早いタイミングでアイドルストップスイッチ84Aを操作した場合でも、スタータモータ85の駆動に対抗してクランク軸71の逆回転力が入力することがなく、スタータモータ85に負荷をかけずバッテリー75の消費電力を抑えることができる。
【0047】
上記エンジン再始動条件は、図11に示すように、マニュアル式変速機の条件を満たしていることを含んでいる。なお、マニュアル式変速機の条件は、マニュアル式変速機12Bがニュートラルであること、又は、マニュアル式変速機12Bがインギヤ(いずれかのギヤポジションが選択された状態)でクラッチ12Cが開放(遮断)していることであり、従来の始動条件と同じである。
【0048】
図13は、上記ステップS42の処理内容を示している。この図に示すように、制御部101は、まず、ギヤポジションセンサ125を介して、現在選択されているギヤポジションが、インギヤ(1速〜4速のいずれか)かニュートラルかを判定する(ステップS42A)。
制御部101は、インギヤの場合(ステップS42A:インギヤ)、クラッチ検出センサ122を介してクラッチ12Cが開放(遮断)されたことを検出すると(ステップS42B:YES)、ステップS43の待機処理へ移行し、ニュートラルの場合(ステップS42A:ニュートラル)、直接ステップS43の待機処理へ移行する。そして、ステップS43の待機処理を経た後に、制御部101は、ステップS44のアイドルストップ解除制御を実行する。
【0049】
本実施形態のアイドルストップ解除制御は、アイドルストップ制御で行われた各種制御を止める制御であり、具体的には、スタータモータ85を回転駆動してエンジン12Aを始動する制御と、ポジションライトおよびアイドルストップ表示灯を消灯させる制御とである。これら制御によれば、アイドルストップ制御前の状態(アイドル状態)に復帰させることができる。
また、本実施形態では、アイドルの再始動を禁止する上記待ち時間TAの間、制御部101の制御の下、エンジン12Aのスタータモータ85は作動するがエンジン12Aの点火制御を停止させるように構成されている。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態によれば、スタータスイッチ83とは別にアイドル制御用スイッチ84を設け、アイドル制御用スイッチ84による停止操作後に再始動する場合、エンジン12Aが完全停止するまでの待ち時間TA(TA1)の経過を待って再始動を許可するので、エンジン12Aが完全停止しないうちに再始動動作を開始してしまう事態を回避でき、エンジン12Aのクランク軸71等に負担がかかってしまう事態を避けることができ、バッテリー75の消費電力を抑えることができる。これにより、エンジン再始動時のエンジン保護を図ると共に、エンジン12Aに必要な剛性を抑えることができ、コスト低減にも有利である。従って、専用のアイドル制御用スイッチ84を設けた構成で、アイドル制御を適切に行うことができる。
しかも、本構成では、アイドル制御用スイッチ84の操作に応じてアイドルを停止する場合、所定の待ち時間TBの経過を待ってアイドルを停止するので、自動二輪車1の停止後にアイドルストップ制御を実行させることができる。
【0051】
また、アイドル制御用スイッチ84の操作に応じてアイドルを再始動する際、図11に示すように、マニュアル式変速機12Bのインギヤ/ニュートラルを検出し、ニュートラルの場合に、上記待ち時間TBの経過後に再始動を行い、インギヤの場合、エンジン12Aとマニュアル式変速機12Bとの間の動力伝達を遮断可能な手動クラッチ12Cが開放(遮断)され、且つ、上記待ち時間TBの経過後に再始動を行うので、アイドル制御用スイッチ84の操作時には、マニュアル式変速機12Bの状態によらず再始動ができる。
また、上記待ち時間TBの間、エンジン12Aのスタータモータ85は作動するがエンジン12Aの点火制御を停止させるので、アイドル再始動の禁止の制御が簡易で済む。
【0052】
また、アイドル制御用スイッチ84の操作に応じてアイドルを停止する際、図7(A)〜(C)に示すように、エンジン12Aの負荷状態を判定し、低負荷状態のときにアイドルを停止し、高負荷状態のときはアイドルの停止を禁止するので、未燃焼ガス(未燃焼燃料)の排出を抑えることができる。このため、キャブレタ63やキャタライザー69を備える構成でも、アイドル制御用スイッチ84の操作によれば、未燃焼ガスの抑制のための複雑な対策構造を不要にでき、構造を簡易にすることができる。
この場合、自動二輪車1のスロットル81が所定値以下(本実施形態では全閉)のとき、エンジン回転数が所定値以下のとき、エンジン12Aのクランク角速度の変動量Δωとエンジン回転数との比率で示される負荷率Fが所定位置以下のときの少なくともいずれかの場合に、エンジン12Aが無負荷又は低負荷状態と判定するので、精度良くエンジン12Aの負荷状態を判定することができる。
【0053】
また、本実施形態では、アイドル制御用スイッチ84の操作に応じてアイドルを停止する際、図10(A)(B)に示すように、暖機が終了したか否かを判定し、暖機が終了していなければアイドルの停止を禁止するので、アイドル制御用スイッチ84の操作時には、アイドル停止よりもエンジン12Aの暖機を優先し、迅速に暖機することができる。
なお、本実施形態において、アイドル制御用スイッチ84の操作子84Sを、中間位置(一方側に押下した状態と他方側に押下した状態との間の位置)に復帰させる復帰構造を設け、操作子84Sを外部から操作される間だけ操作力に従って揺動させ、それ以外は復帰位置に戻るように構成しても良い。
【0054】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上記実施形態において、アイドルストップ解除時の待ち時間TAを、エンジン停止指令のタイミングからエンジン12Aが完全停止するまでの予測時間TA1に設定する場合を説明したが、これに限らない。例えば、図14に示すように、エンジン回転数センサ123の検出結果に基づいてエンジン12Aの停止と判定しても、その分解能で検出しきれない逆回転を見越した待ち時間TA2を上記待ち時間TAに設定し、エンジン回転数センサ123で停止判定後に待ち時間TA(TA2)が経過している場合に再始動を許可するようにしてもよい。これによれば、エンジン回転数センサ123の分解能で検出しきれない逆回転を見越してエンジン12Aが完全停止した後に再始動を許可できる。従って、スタータモータ85の駆動に対抗してクランク軸71の逆回転力が入力することがなく、スタータモータ85に負荷をかけずバッテリー75の消費電力を抑えることができる。
また、上記実施形態では、アイドル制御用スイッチ84をシーソースイッチで構成する場合を説明したが、これに限らず、操作子84Sが左右にスライドするスライドスイッチ、又は、プッシュスイッチ等の公知のスイッチを適用しても良い。また、また、キックペダル95でエンジン始動する構成を省略しても良い。
また、上記実施形態では、制御部101が、各スイッチ83,84の操作に応じた制御を行うアイドルストップ制御部、エンジン12Aの負荷状態を判定する負荷状態判定手段、及び、エンジン12Aの暖機が終了したか否かを判定する暖機判定手段として機能する場合について説明したが、これらを別々のハードウェアで構成しても良い。
また、本発明は、自動二輪車1に適用する場合に限らず、自動二輪車以外も含む鞍乗り型車両にも適用可能である。なお、鞍乗り型車両とは、車体に跨って乗車する車両全般を含み、自動二輪車(原動機付き自転車も含む)のみならず、ATV(不整地走行車両)に分類される三輪車両や四輪車両を含む車両である。
【符号の説明】
【0055】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
2 車体フレーム
12 パワーユニット
12A エンジン(内燃機関)
12B 変速機(マニュアル式変速機)
12C クラッチ(手動クラッチ)
22 キーシリンダ
46 後輪(駆動輪)
63 キャブレタ
69 キャタライザー(触媒)
81 スロットル
84 アイドル制御用スイッチ
84S 操作子
85 スタータモータ
100 アイドルストップ制御装置
101 制御部(アイドルストップ制御部、負荷状態判定手段、暖機判定手段)
T1,TA,TA1,TA2 待ち時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(12A)の回転を変速して駆動輪(46)に伝達するマニュアル式変速機(12B)を有する自動二輪車において、
手動で前記内燃機関(12A)のアイドルを停止/再始動するアイドル制御用スイッチ(84)と、各スイッチ(83,84)の操作に応じた制御を行うアイドルストップ制御部(101)とを備え、
前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)による停止操作後に再始動する場合、前記内燃機関(12A)が完全停止するまでの所定時間(TA)の経過を待って再始動を許可することを特徴とする自動二輪車。
【請求項2】
前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)の操作に応じてアイドルを停止操作後、再始動する場合、内燃機関(12A)の回転数センサ(123)の検出結果に基づいて前記内燃機関(12A)が停止したと判定した後、所定時間(TA2)の経過を待って再始動を許可することを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車。
【請求項3】
前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)の操作に応じてアイドルを再始動する際、前記マニュアル式変速機(12B)のインギヤ/ニュートラルを検出し、ニュートラルの場合に、前記待ち時間(TB)の経過後に前記再始動を行い、インギヤの場合、前記内燃機関(12A)と前記マニュアル式変速機(12B)との間の動力伝達を遮断可能な手動クラッチ(12C)が遮断され、且つ、前記所定時間(TA)の経過後に前記再始動を許可することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動二輪車。
【請求項4】
前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)の操作に応じてアイドルを停止する際、前記内燃機関(12A)の負荷状態を判定し、無負荷又は低負荷状態のときにアイドルを停止し、低負荷状態より高い負荷状態のときはアイドルの停止を禁止することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の自動二輪車。
【請求項5】
前記自動二輪車のスロットル(81)が所定値以下のとき、前記内燃機関(12A)の回転数が所定値以下のとき、前記内燃機関(12A)のクランク角速度の変動量(Δω)と前記回転数とで示される負荷率が所定値以下のときの少なくともいずれかの場合に、前記内燃機関(12A)が無負荷又は低負荷状態と判定することを特徴とする請求項4に記載の自動二輪車。
【請求項6】
前記内燃機関(12A)の吸気系に設けられるキャブレタ(63)と、内燃機関(12A)の排気系に設けられる触媒(69)とを備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の自動二輪車。
【請求項7】
前記アイドルストップ制御部(101)は、前記アイドル制御用スイッチ(84)の操作に応じてアイドルを停止する際、前記内燃機関(12A)の暖機が終了したか否かを判定し、暖機が終了していなければアイドルの停止を禁止することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−72426(P2013−72426A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214536(P2011−214536)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】