説明

自動変速機のプラネタリギア構造

【課題】 摩耗を防止することが可能なプラネタリギア構造を提供する。
【解決手段】 プラネタリギア構造1は、ピニオンギア20と、ピニオンギア20を回転可能に保持するピニオンシャフト60と、ピニオンシャフト60を回転可能に保持し、かつピニオンシャフト60の軸方向の移動を規制するプラネタリキャリア50,58とピニオンシャフト60をピニオンギア20に対して強制的に回転させる回転機構としてのオイル通路53とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動変速機のプラネタリギア構造に関し、特に車両に搭載される自動変速機のプラネタリギア構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機の構造は、たとえば特開2003−343708号公報(特許文献1)に開示されている。
【特許文献1】特開2003−343708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の従来の技術では、プラネタリギアが一体回転する状態が継続すると、各ギアの噛み合い部分にフレッティング摩耗が生じる。こうした状態が長時間続くときには、一時的にギア段を変更することが開示されている。これにより、ギアの摩耗およびピニオンシャフトの摩耗を解消することができる。しかしながら、ギア段を変速すれば運転者に違和感を与えることが懸念される。
【0004】
そこで、この発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、ピニオンシャフトでの摩耗の発生を防止することが可能な自動変速機のプラネタリギア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に従った自動変速機のプラネタリギア構造は、ピニオンギアと、ピニオンギアを回転可能に保持するピニオンシャフトと、ピニオンシャフトを回転可能に保持し、かつピニオンシャフトの軸方向の移動を規制するプラネタリキャリアと、ピニオンシャフトをピニオンギアに対して強制的に回転させる回転機構とを備える。
【0006】
このように構成された自動変速機のプラネタリギア構造では、ピニオンシャフトをピニオンギアに対して強制的に回転させる回転機構を備えるため、ピニオンシャフトとピニオンギアとプラネタリキャリアとが同一部分で接触し続けることがない。その結果、ピニオンシャフトでの摩耗の発生を防止することができる。
【0007】
より好ましくは、回転機構は、ピニオンギアを潤滑するオイルを用いてピニオンシャフトを回転させる。
【発明の効果】
【0008】
この発明に従えば、摩耗が減少した自動変速機のプラネタリギア構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については繰返さない。
【0010】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に従った自動変速機のプラネタリギア構造の斜視図である。図1および図2を参照して、プラネタリギア構造1は、リングギア10、ピニオンギア20、サンギア30の3種類のギアと、プラネタリキャリア50とにより構成されており、どの要素に入力を加え、どの要素を固定するかによって、増減速や逆転機能を引出している。プラネタリキャリア50にはピニオンシャフト60が設けられ、ピニオンシャフト60がピニオンギア20を回転可能に保持している。また、シャフト40および70から動力の入出力が行なわれる。リングギア10の内周面には歯が形成されており、この歯がピニオンギア20の表面の歯と噛み合う。また、ピニオンギア20の歯はサンギア30の歯と噛み合っている。
【0011】
ここで示した実施の形態では、ピニオンギア20が2つの構造を示しているが、これに限定されるものではなく、ピニオンギア20は2つ以上存在していてもよい。
【0012】
次に、図1を参照して、プラネタリギア構造1の動作について説明する。
【0013】
まず、減速時には、リングギア10に動力を入力し、サンギア30を固定する。これによりプラネタリキャリア50から動力が出力される。プラネタリキャリア50を1回転させるためには、リングギア10の1回転に、(サンギア30の歯数)/(リングギア10の歯数)の回転を加えた分の回転をさせる必要がある。
【0014】
次に、増速の場合には、プラネタリキャリア50に動力を入力する。サンギア30を固定する。リングギア10から動力が出力される。この増速の場合は減速の場合と逆の動力伝達経路となる。プラネタリキャリア50を1回転させたとき、リングギア10は1回転とピニオンギア20の自転分だけ増速される。
【0015】
逆回転の場合には、サンギア30に動力が入力され、プラネタリキャリア50を固定する。なお、このときピニオンギア20は自転可能である。リングギア10から動力が出力される。このリングギア10の回転は、入力に対して逆回転となり、サンギア30の歯数対リングギア10の歯数に応じて減速が行なわれる。
【0016】
減速も増速もなされないときには、サンギア30に動力が入力され、ピニオンギア20は1回公転するとともに1回自転する。この動力がリングギア10に伝えられる。
【0017】
図2は、図1中のII−II線に沿った断面図である。図2を参照して、2枚の平板状のプラネタリキャリア50,58が互いに距離を隔てて配置される。プラネタリキャリア50はピニオンシャフト60を保持している。プラネタリキャリア50には凹部51が設けられ、この凹部51に固定用ピン52が嵌め合わせられている。固定用ピン52はプラネタリキャリア50に対してピニオンシャフト60が軸方向に移動することを規制する。プラネタリキャリア50にはオイルを供給するためのオイル通路53が設けられる。
【0018】
ピニオンシャフト60は一方向に延び、内部にはオイル通路62が形成されている。オイル通路62はオイル通路65およびオイル導入路としての円周溝61に向かい合っている。プラネタリキャリア50のオイル通路53からオイルが矢印151で示すようにオイル80が供給される。このオイル80は円周溝61およびオイル通路65を経由して矢印161で示すように軸方向に延びるオイル通路62へ供給される。その後オイル通路62内においてオイル排出路63から矢印162で示す方向にオイルが供給される。これにより、ピニオンシャフト60とピニオンギア20との間に設けられたニードルベアリング64を潤滑することができる。
【0019】
2枚のプラネタリキャリア50,58間に設けられたピニオンギア20はピニオンギアや60に対して回転することが可能である。ピニオンシャフト60は固定用ピン52により規制されているため、軸方向には移動しないが、自転することは可能である。
【0020】
図3は、図2中の矢印IIIで示す方向から見たプラネタリギア構造の正面図である。図3を参照して、ピニオンシャフト60はプラネタリキャリア50に矢印67で示す方向に回転可能に保持されている。オイル通路53から矢印161で示す方向にオイルが供給される。このときオイルはピニオンシャフト60の中心軸からずれた位置に当る。このときのオイルがピニオンシャフト60に与える力により、ピニオンシャフト60は矢印69で示す方向に自転する。つまり、この実施の形態では、オイルを供給し続ければ、そのオイルの油圧により、ピニオンシャフト60は矢印69で示す方向に回転し続ける。
【0021】
この発明に従った自動変速機のプラネタリギア構造1は、ピニオンギア20と、ピニオンギア20を回転可能に保持するピニオンシャフト60と、ピニオンシャフト60を回転可能に保持し、かつ、ピニオンシャフト60の軸方向の移動を規制するプラネタリキャリア50,58と、ピニオンシャフトをピニオンギア20に対して強制的に回転さセル回転機構としてのオイル通路53とを備える。オイル通路53は、ピニオンギア20を潤滑するオイル80を用いてピニオンシャフト60を回転させる。
【0022】
従来の技術では、プラネタリギア構造1が減速も増速もしない場合には、ピニオンシャフト60と、固定用ピン52と、そのまわりに設けられたニードルベアリングが同一部位で接触し続け、偏摩耗が発生する。
【0023】
これに対して、本発明では、油圧により、ピニオンシャフト60を回転させるため、上述のような偏摩耗を防止することができる。
【0024】
(実施の形態2)
図4は、この発明の実施の形態2に従ったプラネタリギア構造の断面図である。図4を参照して、この発明の実施の形態2に従ったプラネタリギア構造1では、固定用ピン52に代えて突起54を設けている点で、実施の形態1に従った構造と異なる。突起54はピニオンシャフト60と一体的に構成され、凹部51に嵌り合うことでピニオンシャフト60の軸方向の移動を規制する。
【0025】
このように構成された、実施の形態2に従ったプラネタリギア構造でも、実施の形態1に従ったプラネタリギアと同様の効果がある。
【0026】
すなわち、従来の技術では、プラネタリギアギアノピニオンシャフトはキャリアに軸方向および回転方向ともに固定されている。このようなプラネタリギアで長時間一体的な回転の状態が続くと軸受は同一部位で接触し続けるため、軸受が局所的に摩耗するという問題が発生する。
【0027】
この問題を解決するために、プラネタリキャリアに対してピニオンシャフトを回転自在に固定することで、軸受部の局所的な摩耗を防止する。さらに、ピニオンシャフトを自由に回転させるために、潤滑油による回転力を付与している。
【0028】
(実施の形態3)
図5は、この発明の実施の形態3に従ったプラネタリギア構造の正面図である。図5を参照して、この発明の実施の形態3に従ったプラネタリギア構造では、円周溝61の底面に歯面61aが形成されている点で、実施の形態1に従ったピニオンシャフト60と異なる。歯面61aが形成されているため、矢印161で示す方向に流れるオイルは歯面61aに当る。このときの衝撃力が歯面61aに伝えられ、歯面61aおよびそれを有するピニオンシャフト60は矢印69で示す方向により回転する。歯面61aは、波形状であってもよい。
【0029】
この構成された、実施の形態3に従ったプラネタリギア構造1では、実施の形態1に従ったプラネタリギア構造1と同様の効果がある。
【0030】
(実施の形態4)
図6は、この発明の実施の形態4に従ったプラネタリギア構造の断面図である。図7は、図6中の矢印VIIで示す方向から見たプラネタリギアギア構造の正面図である。図6および図7を参照して、この発明の実施の形態4に従ったプラネタリギア構造1では、ピニオンシャフト60とプラネタリキャリア50,58との間にブッシュ90が設けられている点で、実施の形態1に従ったプラネタリギア構造1と異なる。ブッシュ90はピニオンシャフト60の回転による、プラネタリキャリア50,58の穴の摩耗を防止するために設けられるものであり、ピニオンシャフト60はブッシュ90により支持される。ブッシュ90として、鉄と銅のバイメタル(bi-metal)ブッシュを用いることが可能である。ブッシュ90を構成する材質としては、特に制限されるものではなく、ウレタン、ゴム、樹脂などを採用することが可能である。
【0031】
このように構成された、この発明の実施の形態4に従ったプラネタリギア構造でも、実施の形態1に従ったプラネタリギア構造と同様の効果がある。
【0032】
(実施の形態5)
図8は、この発明の実施の形態5に従ったプラネタリギア構造の断面図である。図9は、図8中のIXで示す方向から見たプラネタリギア構造の正面図である。図8および図9を参照して、この発明の実施の形態5に従ったプラネタリギア構造1では、ピニオンシャフト60を回転させるためのウエイト部材92が設けられている点で、実施の形態1に従ったプラネタリギア構造と異なる。
【0033】
ピニオンシャフト60にマスとしてのウエイト部材92を付加することで、アンバランス状態とする。これにより、遠心力でピニオンシャフト60が自転する。
【0034】
なお、その他の方法として、電気的に別の回転系統を設け、ピニオンシャフト60を回転させることも可能である。
【0035】
ウエイト部材92の設置位置としては、この実施の形態で開示したものに限定されず、たとえばプラネタリキャリア58とピニオンギア20との間にウエイト部材を設けてもよい。
【0036】
さらに、図1から7で示す油圧による回転と、図8および9で示す機械的な回転を組合せてより確実にピニオンシャフト60を回転させてもよい。
【0037】
このように構成された、実施の形態5に従ったプラネタリギア構造1では、実施の形態1に従ったプラネタリギア構造と同様の効果がある。
【0038】
(実施の形態6)
図10は、この発明の実施の形態6に従ったプラネタリギア構造の正面図である。図10を参照して、この発明の実施の形態6に従ったプラネタリギア構造1では、ダブルピニオン式遊星歯車を用いる点で、実施の形態1から5と異なる。ダブルピニオン式では、2個ずつペアになったピニオンギアを配置したタイプのものである。具体的には、リングギア10の内周面にロングピニオンギア20aおよびショートピニオンギア20bが設けられ、ロングピニオンギア20aがリングギア10と噛み合いショートピニオンギア20bがロングピニオンギア20aと噛みあう。ロングピニオンギア20aおよびショートピニオンギア20bはいずれもプラネタリキャリア50に支持されている。
【0039】
さらに内側には、フォワードサンギア30aとリバースサンギア30bが設けられ、フォワードサンギア30aはショートピニオンギア20bと噛み合い、リバースサンギア30bはロングピニオンギア20aと噛み合っている。
【0040】
ロングピニオンギア20aおよびショートピニオンギア20bはそれぞれピニオンシャフト60によりプラネタリキャリア50に保持されており、このピニオンシャフト60を回転させる構造として、実施の形態1から5で示した構造で用いられる。
【0041】
このように構成された実施の形態6に従ったプラネタリギア構造1でも、実施の形態1から5で示したプラネタリギア構造と同様の効果がある。
【0042】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明は、たとえば車両に搭載される自動変速機の分野で用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の実施の形態1に従った自動変速機のプラネタリギア構造の斜視図である。
【図2】図1中のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図2中のIIIで示す方向から見たプラネタリギア構造の正面図である。
【図4】この発明の実施の形態2に従ったプラネタリギア構造の断面図である。
【図5】この発明の実施の形態3に従ったプラネタリギア構造の正面図である。
【図6】この発明の実施の形態4に従ったプラネタリギア構造の断面図である。
【図7】図6中の矢印VIIで示す方向から見たプラネタリギア構造の正面図である。
【図8】この発明の実施の形態5に従ったプラネタリギア構造の断面図である。
【図9】図8中の矢印IXで示す方向から見たプラネタリギアギア構造の正面図である。
【図10】この発明の実施の形態6に従ったプラネタリギア構造の正面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 プラネタリギア構造、10 リングギア、20 ピニオンギア、30 サンギア、40 シャフト、50 プラネタリキャリア、51 凹部、52 固定用ピン、53 オイル通路、54 突起、58 プラネタリキャリア、60 ピニオンシャフト、61 円周溝、62 オイル通路、63 オイル排出路、64 ニードルベアリング、65 オイル通路、80 オイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機のプラネタリギア構造であって、
ピニオンギアと、
前記ピニオンギアを回転可能に保持するピニオンシャフトと、
前記ピニオンシャフトを回転可能に保持し、かつ前記ピニオンシャフトの軸方向の移動を規制するプラネタリキャリアと、
前記ピニオンシャフトを前記ピニオンギアに対して強制的に回転させる回転機構とを備えた、自動変速機のプラネタリギア構造。
【請求項2】
前記回転機構は、前記ピニオンギアを潤滑するオイルを用いて前記ピニオンシャフトを回転させる、請求項1に記載の自動変速機のプラネタリギア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−64117(P2006−64117A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248978(P2004−248978)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】