説明

自動変速機の制御装置

【課題】クラッチの温度が予め設定された温度以上となった場合には、クラッチの発熱を抑制するようにした自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】クラッチ20の温度を導出するクラッチ温度導出部23bと、クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が予め設定された設定温度より高くなったか否かを判定するクラッチ温度判定部(S102)を有し、クラッチ温度が、設定温度以下と判定された場合には、変速制御時に、クラッチを半クラッチ状態となる第1制御パターンで係合制御し、設定温度以上と判定された場合には、クラッチを半クラッチ状態よりもスリップ量の少ない第2制御パターンで係合制御する変速制御部23aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチの温度が予め設定された温度以上となった場合に、変速制御時にクラッチをスリップ量が少なくなるように係合制御して、クラッチの発熱を抑制し、クラッチを保護するようにした自動変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンを駆動源とする車両において、例えば、特許文献1に記載されているように、2つのクラッチをもつデュアルクラッチと、これらクラッチに接続された2つの入力軸と、一方の入力軸に伝達された回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および他方の入力軸に伝達された回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構とを備えたデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)が知られている。かかる自動変速機は、2つのクラッチで係合切替を操作することによりトルクが途切れないようにして変速操作を行えるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−196745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のデュアルクラッチ式自動変速機においては、変速制御時におけるクラッチの係合時に、フィーリングを良好に保つように、クラッチをスリップさせながら、エンジンの回転数と変速装置の入力軸回転数とが同期した状態で係合するようになっている。このため、クラッチディスクの摩擦によってクラッチが発熱し、クラッチの過度の発熱によって、クラッチディスク等の劣化を早めてしまい、クラッチに悪影響を及ぼす恐れがある。
【0005】
本発明は上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、クラッチの温度が予め設定された温度以上となった場合には、変速制御時にクラッチをスリップが少なくなるように係合制御して、クラッチの発熱を抑制し、クラッチを保護するようにした自動変速機の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、車両に搭載された原動機と、前記原動機の駆動軸によって回転される入力軸の回転を複数段の変速比に変速して前記車両の駆動輪に伝達する変速装置と、前記原動機の駆動軸と前記変速装置の入力軸とを係脱するクラッチと、前記クラッチのクラッチトルクを制御するクラッチアクチュエータと、前記クラッチの温度を導出するクラッチ温度導出部と、前記クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が、予め設定された設定温度より高くなったか否かを判定するクラッチ温度判定部と、前記クラッチ温度判定部によって判定されたクラッチ温度が、前記設定温度以下と判定された場合には、変速制御時に、前記クラッチを半クラッチ状態となる第1制御パターンで係合制御し、前記設定温度以上と判定された場合には、前記クラッチを前記半クラッチ状態よりもスリップ量の少ない第2制御パターンで係合制御する変速制御部とを備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記第2制御パターンでは、前記クラッチのクラッチトルクを増大するようにしたことである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1において、前記第2制御パターンでは、前記原動機の駆動トルクの減少量を増加させ、前記クラッチのスリップ時間を短縮するようにしたことである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項3において、前記クラッチが前記第2制御パターンで係合制御された後は、前記クラッチの温度が前記設定温度よりも所定温度低い温度以下になった場合に、前記クラッチを前記第1制御パターンで係合制御するようにしたことである。
【0010】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項4において、前記クラッチは、前記原動機の駆動トルクを、奇数変速段側に連結される第1入力軸に伝達する第1クラッチと、偶数変速段側に連結される第2入力軸に伝達する第2クラッチとからなるデュアルクラッチによって構成されていることである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、クラッチの温度を導出するクラッチ温度導出部と、クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が予め設定された設定温度より高くなったか否かを判定するクラッチ温度判定部を有し、クラッチ温度が予め設定された設定温度以下と判定された場合には、変速制御時に、クラッチを半クラッチ状態となる第1制御パターンで係合制御し、設定温度以上と判定された場合には、クラッチを半クラッチ状態よりもスリップ量の少ない第2制御パターンで係合制御する変速制御部とを備える。
【0012】
この構成により、変速制御時のクラッチのスリップ量が減少されることによって、クラッチの発熱が抑制され、クラッチ温度がクラッチに悪影響を及ぼす温度レベル以上に上昇することを防止することができる。このため、熱によるクラッチ構成部材の劣化を抑制でき、クラッチを保護することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、第2制御パターンでは、クラッチのクラッチトルクを増大するようにしたので、クラッチトルクの増大によって、クラッチのスリップ量を減少させることができ、クラッチの発熱を抑制することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、第2制御パターンでは、原動機の駆動トルクの減少量を増加させ、前記クラッチのスリップ時間を短縮するようにしたので、クラッチのスリップ時間の短縮によって、クラッチのスリップ量を減少させることができ、クラッチの発熱を抑制することができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、クラッチが第2制御パターンで係合制御された後は、クラッチの温度が設定温度よりも所定温度低い温度以下になった場合に、クラッチを第1制御パターンで係合制御するようにしたので、クラッチが第1制御パターンと第2制御パターンとの間でハンチング現象を起こすことなく、クラッチを安定的に係合制御することができる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、クラッチは、原動機の駆動トルクを、奇数変速段側に連結される第1入力軸に伝達する第1クラッチと、偶数変速段側に連結される第2入力軸に伝達する第2クラッチとからなるデュアルクラッチによって構成されているので、デュアルクラッチ式自動変速機における第1クラッチおよび第2クラッチの異常時に的確に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御装置を搭載した車両を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態を示す自動変速機の全体構造を示すスケルトン図である。
【図3】クラッチをトルク伝達特性を示す線図である。
【図4】クラッチを制御パターンIで係合制御する変速制御時のタイムチャートを示す図である。
【図5】クラッチを制御パターンIIで係合制御する変速制御時のタイムチャートを示す図である。
【図6】クラッチ温度の推移を示す図である。
【図7】クラッチ温度に応じてクラッチを係合制御するフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、自動変速機の一例としてのデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)10を、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプの車両に適用したブロック図である。当該車両は、デュアルクラッチ式自動変速機10の他、原動機の一例であるガソリンの燃焼によって駆動されるエンジン11と、差動装置(ディファレンシャル)13と、左右駆動軸15a、15bと、駆動輪としての左右前輪16a、16bなどを備えている。
【0019】
エンジン11の回転数Neは、エンジン11の駆動軸12に近接して設けられたエンジン回転数センサ90によって検出される。アクセルペダル91を踏み込んだときのアクセル操作量は、アクセル開度センサ92によってアクセル開度として検出される。エンジン11の作動を制御するECU(Engine Control Unit)14は、エンジン回転数Neの情報、アクセル開度の情報、および自動変速機10を変速制御する後述する構成のTCU(Transmission Control Unit)23からの各種情報を取得し、これらの情報に基づいて、アクセル開度や燃料噴射量を制御することにより、エンジン制御部14aによって、エンジン回転数Neやエンジントルクを制御する。
【0020】
自動変速機10は、エンジン11と差動装置13の間の動力伝達経路上に配設され、第1および第2入力軸31a、31bの回転を複数段の変速比に変速して左右前輪16a、16bに伝達する変速装置17と、エンジン11の駆動軸12と変速装置17の各入力軸31a、31bとを係脱するクラッチ20を備えている。クラッチ20は、エンジン11から出力される駆動軸12の駆動トルクを、第1入力軸31aに伝達する第1クラッチ20aと、第2入力軸31bに伝達する第2クラッチ20bを有するデュアルクラッチにて構成されている。
【0021】
第1入力軸31aおよび第2入力軸31bの回転数N1、N2は、第1入力軸回転数センサ93aおよび第2入力軸回転数センサ93bによってそれぞれ検出される。左右の前輪16a、16bおよび左右の後輪(図示せず)の車輪速度は、車輪速センサ94a、94bによって検出され、これらの情報は、TCU23に送られる。車輪速センサ94a、94bによって検出された各車輪の回転速度に基づいて、車速(車両速度)が算出される。
【0022】
また、ドライバがシフトレバー95を操作したときシフト位置の情報は、シフト位置センサ96によって検出される。ECU14とTCU23は、CAN(Controller Area Network)通信によって相互に情報を交換可能となっている。TCU23は、変速制御部23aおよびクラッチ温度推定部23bを備えている。変速制御部23aは、シフト位置センサ96によって検出されたシフト位置の情報、ECU14からの変速指令や取得した車両情報などに基づいて、複数の変速ギヤ段を切替えるとともに、第1クラッチ20aおよび第2クラッチ20bを係脱して、自動変速機10の変速制御を行う。
【0023】
また、クラッチ温度推定部23bは、デュアルクラッチ20の仕事量に基づき、TCU23に記憶された所定の計算式を用いてデュアルクラッチ20の温度を推定する。具体的には、クラッチ温度推定部23bは、デュアルクラッチ20が行った仕事量に応じて発熱温度を積算するとともに、デュアルクラッチ20外の雰囲気温度とデュアルクラッチ20内の温度との温度差や車両速度等に基づいて放熱温度を積算する。そして、発熱温度を積算した値TAより、放熱温度を積算した値TBを減算(TA−TB)することにより、現在のデュアルクラッチ20の温度を推定するようになっている。
【0024】
デュアルクラッチ20の第1および第2クラッチ20a,20bは、乾式摩擦クラッチからなっている。第1クラッチ20aは、モータを駆動源とする第1のクラッチアクチュエータ25aによって係合制御されるようになっており、第2クラッチ20bは、モータを駆動源とする第2のクラッチアクチュエータ25bによって係合制御されるようになっている。第1および第2のクラッチアクチュエータ25a、25bは、クラッチアクチュエータ25a、25bのストローク量をそれぞれ検出するストロークセンサ26a、26bを有している。第1および第2クラッチ20a,20bのクラッチトルクTcは、クラッチアクチュエータ25a、25bのストローク量に応じて制御される。
【0025】
TCU23のクラッチ温度推定部23bによって推定されたクラッチ温度T0は、TCU23によって常時モニタリングされ、モリタリングしたクラッチ温度T0が、予め定められた第1設定温度(第1閾値)T01より高いか否かに応じて、クラッチ20(第1および第2クラッチ20a,20b)の係合が制御される。そして、クラッチ温度T0が、第1閾値T01より高くなった場合には、後述するように、クラッチ20の発熱を抑制する制御が実施される。なお、クラッチ20の発熱を抑制する制御は、クラッチ温度T0が、第1閾値T01より所定温度(ヒステリシス量H)だけ低めに設定された第2設定温度(第2閾値)T02(T02=T01−H)に低下するまで継続される。
【0026】
デュアルクラッチ式自動変速機10は、図2に示すように、前進7速、後進1速のギヤトレーンを備えている。デュアルクラッチ式自動変速機10は、デュアルクラッチ20と、第1入力軸31aおよび第2入力軸31bと、第1副軸35および第2副軸36を備えている。第1入力軸31aは棒状とされ、第2入力軸31bは筒状とされて、同軸的に回転可能に配置されている。第1入力軸31aの図中左側はデュアルクラッチ20の第1クラッチ20aに連結され、第2入力軸31bの図中左側はデュアルクラッチ20の第2クラッチ20bに連結されている。第1入力軸31aと第2入力軸31bは、独立してトルクが伝達され、異なる回転数で回転可能となっている。第1副軸35は、入力軸31a、31bと並行して、図中下側に配置され、第2副軸36は、入力軸31a、31bと並行して、図中上側に配置されている。
【0027】
第1入力軸31aには、複数の奇数変速段駆動ギヤである1速駆動ギヤ51、3速駆動ギヤ53、5速駆動ギヤ55および7速駆動ギヤ57が直接形成または別体で固定して設けられている。第2入力軸31bには、複数の偶数変速段駆動ギヤである2速駆動ギヤ52、4−6速駆動ギヤ54が直接形成または別体で固定して設けられている。
【0028】
第1副軸35には、1速、3速、4速従動ギヤ61、63、64がそれぞれ遊転可能に設けられ、1速従動ギヤ61は1速駆動ギヤ51に、3速従動ギヤ63は3速駆動ギヤ53に、4速従動ギヤ64は4−6速駆動ギヤ54に、それぞれ噛合されている。
【0029】
第2副軸36には、2速、5速、6速、7速従動ギヤ62、65、66、67がそれぞれ遊転可能に設けられ、2速従動ギヤ62は2速駆動ギヤ52に、5速従動ギヤ65は5速駆動ギヤ55に、6速従動ギヤ66は4−6速駆動ギヤ54に、7速従動ギヤ67は7速駆動ギヤ57に、それぞれ噛合されている。
【0030】
また、第1副軸35には、後進ギヤ70が遊転可能に設けられ、後進ギヤ70は、2速従動ギヤ62の小径ギヤ62bに常時噛合されている。
【0031】
第1副軸35および第2副軸36上には、シンクロメッシュ機能を有する第1、第2、第3、第4ギヤシフトクラッチ71〜74が設けられ、これらギヤシフトクラッチ71〜74は、TCU23の変速制御部23aによって選択的に作動される。
【0032】
第1ギヤシフトクラッチ71は、第1副軸35上に設けられ、1速従動ギヤ61のシンクロギヤ部と3速従動ギヤ63のシンクロギヤ部との間に配設されている。第1ギヤシフトクラッチ71のスリーブを軸方向にスライドすることにより、1速従動ギヤ61および3速従動ギヤ63の一方と第1副軸35とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらの従動ギヤ61、63とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0033】
同様にして、第1副軸35上に設けられた第2ギヤシフトクラッチ72は、4速従動ギヤ64のシンクロギヤ部と後進ギヤ70のシンクロギヤ部との間に配設され、第2ギヤシフトクラッチ72のスリーブを軸方向にスライドすることにより、4速従動ギヤ64および後進ギヤ70の一方と第1副軸35とが相対回転不能に連結される。第2副軸36上に設けられた第3ギヤシフトクラッチ73は、7速従動ギヤ67のシンクロギヤ部と5速従動ギヤ65のシンクロギヤ部との間に配設され、第3ギヤシフトクラッチ73のスリーブを軸方向にスライドすることにより、7速従動ギヤ67および5速従動ギヤ65の一方と第2副軸36とが相対回転不能に連結される。さらに、第2副軸36上に設けられた第4ギヤシフトクラッチ74は、6速従動ギヤ66のシンクロギヤ部と2速従動ギヤ62のシンクロギヤ部との間に配設され、第4ギヤシフトクラッチ74のスリーブを軸方向にスライドすることにより、6速従動ギヤ66および2速従動ギヤ62の一方と第2副軸36とが相対回転不能に連結される。
【0034】
上記した第1および第3ギヤシフトクラッチ71、73により、第1入力軸31aに伝達された回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構を構成し、第2および第4ギヤシフトクラッチ72、74により、第2入力軸31bに伝達された回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構を構成している。
【0035】
第1副軸35および第2副軸36には、それぞれ最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ59が固定され、これら最終減速駆動ギヤ58、59は、差動装置13(図1参照)に連結された軸33上の減速従動ギヤ80に常時噛合されている。これにより、最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ59を介して左右前輪16a、16bが駆動される。
【0036】
上記した自動変速機10の変速装置17およびデュアルクラッチ20は、アクセル開度、エンジン11の駆動軸12の回転数Ne、自動変速機10の両入力軸31a、31bの回転数N1、N2、車速などの車両の走行状態に応じて、TCU23の変速制御部23aからの指令に基づいて作動される。車両の停止状態においては、変速装置17の第1〜第4ギヤシフトクラッチ71〜74は中立位置にあり、デュアルクラッチ20の第1および第2クラッチ20a、20bの係合は共に解除されている。
【0037】
今、例えば、3速変速段で走行している状態において、アクセル開度が増大するなどして車両の走行状況が4速走行に適した状態となれば、TCU23の変速制御部23aは、第2ギヤシフトクラッチ72を作動させて、第1副軸35と4速従動ギヤ64とを連結し、4速変速段を形成する指令を自動変速機10に送る。そして、4速変速段が形成された後、TCU23からの指令に基づいて、デュアルクラッチ20を第1クラッチ20a側から第2クラッチ20b側に切替えるとともに、第1ギヤシフトクラッチ71を中立位置に復帰する。
【0038】
図3は、クラッチ20(第1および第2クラッチ20a、20b)のトルク伝達特性の一例を示す図で、横軸はクラッチアクチュエータ25a、25bのストロークS、縦軸は伝達可能なクラッチトルクTcを示している。クラッチ20は、ストロークS=0で切断状態となるクラッチであり、ストロークSが増加するにしたがってクラッチトルクTcが増加し、最大ストロークSmaxにおいて最大クラッチトルクTcmaxが得られる特性を有している。
【0039】
クラッチ20は、予め実験等によって、クラッチアクチュエータ25a、25bのストロークSとクラッチトルクTcとの関係が、図3に示す特性線図となるように設定され、例えば、特性マップとしてTCU23に記憶されている。そして、目標とするクラッチトルクTcが定められると、特性線図に基づいて、それに必要なストロークSが演算されるようになっている。
【0040】
図4および図5は、変速時におけるデュアルクラッチ式自動変速機10の動作を模式的に示すタイムチャートであり、図4のタイムチャートは、デュアルクラッチの20の推定温度T0が、予め定められた第1設定温度(第1閾値)T01以下の場合の第1制御パターンIによる変速制御を示し、図5のタイムチャートは、デュアルクラッチの20の温度が、第1設定温度(第1閾値)T01以上の場合の第2制御パターンIIによる変速制御を示す。なお、図4および図5は、第1クラッチ20aが係合されている状態において、変速制御によって、第1クラッチ20aの係合が解除されるとともに、第2クラッチ20bが係合される例で示している。
【0041】
TCU23の変速制御部23aから、変速装置17およびデュアルクラッチ20に、例えば、シフトアップの指令が送出されたとすると、クラッチ温度推定部23bによって推定されたデュアルクラッチ20の推定温度T0が、予め設定された第1閾値T01以下の場合には、図4に示すような第1制御パターンIによる変速制御が実施される。すなわち、時刻t1において、完全係合の状態でエンジン11の駆動力を第1入力軸31aに伝達していた第1クラッチ20aの係合の解除が開始され、時刻t3において、第1クラッチ20aの係合が完全に解除される。一方、時刻t1よりも少し遅れた時刻t2において、第2クラッチ20bの係合が開始され、時刻t3において、第2クラッチ20bが半クラッチ状態(クラッチトルクTc1)に制御され、その後、時刻t4までの間、その半クラッチ状態が維持される。
【0042】
第2クラッチ20bの係合が開始された時刻t2までの間、エンジン11の駆動軸12は、第1入力軸31aの回転数N1と同じ回転数Neで回転している。また、第2入力軸31bには、第2クラッチ20bの係合が解除されている状態で、駆動輪16a、16b側から回転が伝達されているため、第2入力軸31bは、第1入力軸31aよりも低い回転数N2で回転している。そして、時刻t2から時刻t4までの間に、エンジン11の駆動軸12の回転数Neが漸次低下して、第2入力軸31bの回転数N2に同期していく。エンジン11の駆動軸12の回転数Neが第2入力軸31bの回転数N2に同期すると、第2クラッチ20bの係合トルクが目標とするクラッチトルクまで増大され、完全係合の状態となる。
【0043】
このように、第2クラッチ20bを半クラッチ状態となるクラッチトルクTc1に制御することにより、変速制御中においても、エンジン11の駆動軸12と自動変速機10の第2入力軸31bとの間で適切な駆動トルクの伝達が持続されるとともに、時刻t4以降においては、第2クラッチ20bが完全係合の状態となる。これによって、変速制御時における車両の挙動が安定され、良好なフィーリングが確保される。
【0044】
これに対して、クラッチ温度推定部23bによって推定されたデュアルクラッチ20の温度T0が、予め設定された第1閾値T01以上の場合には、デュアルクラッチ20の発熱を抑制するような第2制御パターンIIによる変速制御が実行される。
【0045】
すなわち、図5に示すように、時刻t1において、完全係合の状態でエンジン11の駆動力を第1入力軸31aに伝達していた第1クラッチ20aの係合の解除が開始され、時刻t3において、第1クラッチ20aの係合が完全に解除される点は、上記した第1制御パターンIのものと同じである。
【0046】
一方、時刻t2において係合が開始される第2クラッチ20bは、クラッチ20bのスリップ量が第1制御パターンIに対して少なくなるように、第2クラッチ20bのクラッチトルクTcが、上記した第1クラッチトルクTc1よりも大きな第2クラッチトルクTc2となる第2制御パターンIIによって制御され、その状態が時刻t4まで持続される。
【0047】
第2クラッチ20bの係合が開始された時刻t2までの間、エンジン11の駆動軸12は、第1入力軸31aの回転数N1と同じ回転数Neで回転しているが、第2入力軸31bには、第2クラッチ20bの係合が解除されている状態で、駆動輪16a、16b側から回転が伝達されているため、第2入力軸31bは、第1入力軸31aよりも低い回転数N2で回転している。そして、時刻t2から時刻t4までの間に、エンジン11の駆動軸12の回転数Neが漸次低下して、第2入力軸31bの回転数N2に同期していく。シフトアップが完了した時刻t4以降は、第2クラッチ20bの係合が完全係合の状態となる。
【0048】
このように、第2制御パターンIIによる制御によって、変速制御時における第2クラッチ20bのスリップ量が抑制されるため、図6に示すように、デュアルクラッチ20の温度が低下され、クラッチ保護が達成墓される。
【0049】
図6は、時間の経過に伴って、クラッチ20の温度が、クラッチディスクの摩擦等によって上昇し、クラッチ推定温度T0が第1閾値T01を越えた場合に、上記したクラッチ20の発熱を抑制する第2制御パターンIIの制御によって、クラッチ温度T0が漸次低下していく推移を示している。なお、第2制御パターンIIの制御によって、クラッチ推定温度T0が第2閾値T02(T01−H)以下まで低下すると、フィーリングを重視した第1制御パターンIの制御に復帰されるようになる。
【0050】
次に、クラッチ20の温度に応じて、第1制御パターンIあるいは第2制御パターンIIによって変速制御を行うTCU23の変速制御部23aによって実行される制御プログラムを、図7のフローチャートに基づいて説明する。
【0051】
まず、ステップS100において、TCU23のクラッチ温度推定部23bによってクラッチ推定温度T0が算出される。次いで、ステップS102において、算出されたクラッチ推定温度T0が、予め定められた第1閾値(第1設定温度)T01よりも高いか否かが判定される。
【0052】
ステップS102において、算出されたクラッチ推定温度T0が、第1閾値T01よりも低いと判定された場合(Nの場合)には、ステップS104において、クラッチ20を、フィーリングを重視した第1制御パターンIによって係合制御する変速制御が実行される。
【0053】
すなわち、図4のタイムチャートで示すように、第1クラッチ20aの係合が解除されるとともに、第2クラッチアクチュエータ25bが所定ストロークS1作動されることにより、第2クラッチ20bが、図3に示す第1クラッチトルクTc1(半クラッチ状態)によって係合される。そして、エンジン11の駆動軸12の回転数Neが、第2入力軸31bの回転数N2に同期されると、第2クラッチ20bが完全係合の状態となる。
【0054】
このように、第2クラッチ20bを半クラッチ状態となる第1クラッチトルクTc1に制御することによって、変速制御中においても、エンジン11の駆動軸12と自動変速機10の第2入力軸31bとの間で適切な駆動トルクの伝達が持続され、しかる後、第2クラッチ20bの係合が完全係合の状態となるので、変速制御時における車両の挙動が安定され、良好なフィーリングが確保される。
【0055】
これに対して、ステップS102における判定結果がYの場合(算出されたクラッチ推定温度T0が、第1閾値T01よりも高い場合)には、ステップS106において、クラッチ推定温度T0が、第1閾値T01からヒステリシス量Hを減算した第2閾値(第2設定温度T02(T02=T01−H))より低くなったか否かが判定される。ステップS106における判定結果がNの場合には、続くステップS108において、クラッチ20を、発熱を抑制する第2制御パターンIIによって係合制御する変速制御が実行される。
【0056】
すなわち、図5のタイムチャートで示すように、第1クラッチ20aが係合解除されるとともに、第2クラッチアクチュエータ25bが所定ストロークS2作動されることにより、第2クラッチ20bが、図3に示すように、上記した第1クラッチトルクTc1よりも大きな第2クラッチトルクTc2によって係合され、第2クラッチ20bのスリップ量が抑制される。そして、エンジン11の駆動軸12の回転数Neが、第2入力軸31bの回転数N2に同期されると、第2クラッチ20bが完全係合の状態となる。
【0057】
次いで、ステップS110において、クラッチ温度推定部23bによってクラッチ推定温度T0が算出される。しかる後、ステップS106に戻り、クラッチ推定温度T0が、第2閾値T02より低くなったか否かが判定される。ステップS106における判定結果がNの場合には、続くステップS108において、引き続き、クラッチ20の発熱を抑制する第2制御パターンIIによって、クラッチ20を係合制御する変速制御が実行される。
【0058】
上記したステップS102により、クラッチ温度推定部23bによって推定されたクラッチ温度が、予め設定された設定温度(第1閾値)T01より高くなったか否かを判定するクラッチ温度判定部を構成している。
【0059】
このような第2制御パターンIIによるクラッチ20の係合制御によって、クラッチ20の係合時に多少のショックが生ずる恐れがあるが、変速制御時のクラッチ20のスリップ量が減少されることによって、クラッチ20の発熱が抑制される。これによって、クラッチ20に悪影響を及ぼす恐れがある温度レベル以上になることが防止されるため、クラッチディスク等のクラッチ構成部材の劣化が抑制され、クラッチ20を保護できるようになる。
【0060】
すなわち、クラッチ20を構成するクラッチディスク等の各部材が熱膨張したり、あるいは、クラッチディスクの摩擦係数が変化するなどして、クラッチ20の特性が変化することを抑制でき、クラッチアクチュエータ25a、25bを定められたストローク作動させた場合に、目標通りのクラッチトルクTcを長期に亘って安定的に得ることができるようになる。
【0061】
上記した実施の形態によれば、デュアルクラッチ20の温度を推定するクラッチ温度推定部23bと、クラッチ温度推定部23bによって推定されたクラッチ温度が予め設定された設定温度(第1閾値)T01より高くなったか否かを判定するクラッチ温度判定部(S102)を有し、クラッチ温度判定部によって判定されたクラッチ温度T0が、設定温度(第1閾値)T01以下の場合には、変速制御時に、クラッチ20a、20bを半クラッチ状態となる第1制御パターンIで係合制御することにより、変速制御時のフィーリングを確保することができる。一方、クラッチ温度判定部によって判定されたクラッチ温度T0が、設定温度(第1閾値)T01以上の場合には、クラッチ20a、20bを半クラッチ状態よりもスリップ量の少ない第2制御パターンIIで係合制御することにより、デュアルクラッチ20の発熱が抑制され、クラッチ構成部材の劣化が抑制されるとともに、クラッチ温度が高くなることによる悪影響を回避することができる。
【0062】
上記した実施の形態においては、クラッチ温度判定部によって判定されたクラッチ温度T0が、設定温度(第1閾値)T01以上の場合には、第2制御パターンIIによって、クラッチ20のクラッチトルクTcを増大させ、クラッチ20のスリップ量を半クラッチ状態よりも少なくした例について述べたが、クラッチ20のスリップ量を少なくする手段としては、クラッチトルクTcの増大に限定されるものではない。例えば、クラッチ係合時におけるエンジントルクの減少量を増加させ、クラッチ20のスリップ時間を短縮することによっても、上記したと同様に、クラッチ20の発熱を抑制することができる。
【0063】
また、上記した実施の形態においては、自動変速機10を、デュアルクラッチ式自動変速機(DCT)を例に説明したが、自動変速機10はデュアルクラッチ式自動変速機に限定されるものではなく、例えば、特開2008−75814号公報に記載されているように、既存のマニュアルトランスミッションにアクチュエータを取付け、運転者の意思、若しくは車両状態によって、変速操作(クラッチの断接、ギヤシフト、およびセレクト)を自動的に行なう自動変速機(AMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション))に適用することが可能である。
【0064】
また、上記した実施の形態においては、FFタイプの車両に適用した自動変速機10を例にして説明したが、自動変速機10をFRタイプ(フロントエンジン・リアドライブ)タイプの車両に装備することもできる。
【0065】
さらに、上記した実施の形態においては、クラッチ20の発熱量と放熱量とからクラッチ温度を推定するクラッチ温度推定部23bを備えた自動変速機10について説明したが、クラッチ温度は、温度センサからなるクラッチ温度検出部によってクラッチ20の温度を直接検出するものであってもよく、請求項におけるクラッチ温度導出部とは、これらクラッチ温度推定部23bによってクラッチ温度を推定するものと、クラッチ温度検出部によってクラッチ温度を直接検出するものとを包含するものである。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、エンジンの駆動軸と変速装置の入力軸とを係脱するクラッチと、クラッチの温度を導出するクラッチ温度導出部とを備え、クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度に応じてクラッチを係合制御する自動変速機に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0068】
10…自動変速機、11…原動機(エンジン)、17…変速装置、20…クラッチ、25…クラッチアクチュエータ、31…入力軸、23a…変速制御部、23b…クラッチ温度導出部(クラッチ温度推定部)、S102…クラッチ温度判定部、T01…第1設定温度(第1閾値)、T02…第2設定温度(第2閾値)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された原動機と、
前記原動機の駆動軸によって回転される入力軸の回転を複数段の変速比に変速して前記車両の駆動輪に伝達する変速装置と、
前記原動機の駆動軸と前記変速装置の入力軸とを係脱するクラッチと、
前記クラッチのクラッチトルクを制御するクラッチアクチュエータと、
前記クラッチの温度を導出するクラッチ温度導出部と、
前記クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が、予め設定された設定温度より高くなったか否かを判定するクラッチ温度判定部と、
前記クラッチ温度判定部によって判定されたクラッチ温度が、前記設定温度以下と判定された場合には、変速制御時に、前記クラッチを半クラッチ状態となる第1制御パターンで係合制御し、前記設定温度以上と判定された場合には、前記クラッチを前記半クラッチ状態よりもスリップ量の少ない第2制御パターンで係合制御する変速制御部と、
を備える自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第2制御パターンでは、前記クラッチのクラッチトルクを増大するようにした自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1において、前記第2制御パターンでは、前記原動機の駆動トルクの減少量を増加させ、前記クラッチのスリップ時間を短縮するようにした自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3において、前記クラッチが前記第2制御パターンで係合制御された後は、前記クラッチの温度が前記設定温度よりも所定温度低い温度以下になった場合に、前記クラッチを前記第1制御パターンで係合制御するようにした自動変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4において、前記クラッチは、前記原動機の駆動トルクを、奇数変速段側に連結される第1入力軸に伝達する第1クラッチと、偶数変速段側に連結される第2入力軸に伝達する第2クラッチとからなるデュアルクラッチによって構成されている自動変速機の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−83318(P2013−83318A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224082(P2011−224082)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】