説明

自動変速機

【課題】回転動力をインプットシャフト1に入力するトルクコンバータ2と、インプットシャフト1の回転を変速して出力する変速機構部4とを含み、かつトルクコンバータ2のステータ反力を担持するステータシャフト25が、トルクコンバータ2と変速機構部4との間に位置するオイルポンプ5のポンプカバー51の中心孔に嵌合固定される構成の自動変速機において、比較的簡素でかつ容易に組み立て可能な構造でありながら、ポンプカバー51からステータシャフト25が抜け方向へ変位することを阻止する。
【解決手段】ポンプカバー51に対するステータシャフト25の嵌合領域に、トルクコンバータ2のステータ反力を受けたときにステータシャフト25を螺旋回転させて嵌合方向へ押圧させる荷重に変換する変換部(7,8)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータと変速機構部とを含む自動変速機に係り、特にステータシャフトとポンプカバーとの嵌合構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両用の自動変速機において、トルクコンバータのステータ反力を担持するステータシャフトを中空軸とし、このステータシャフトの中心孔内に自動変速機のインプットシャフトを相対回転可能に挿入するようになっている。
【0003】
また、ステータシャフトは、前半領域が小径とされ、後半領域が大径とされている。このステータシャフトの小径の前半領域は、ステータを支持するワンウェイクラッチのインナーレースの内周面にスプライン嵌合により連結されており、また、ステータシャフトの大径の後半領域は、ポンプカバーの中心孔に嵌合されて一体的に結合されるようになっている。
【0004】
ここで、ポンプカバーにステータシャフトを一体的に結合するために、一般的に、ポンプカバーに対するステータシャフトの嵌合領域を圧入とする形態を採用するようになっている。
【0005】
近年においては、自動変速機の軽量化を図る目的から、ポンプカバーをアルミニウム合金等とすることがある(例えば特許文献1参照。)。但し、機械的強度を必要とするステータシャフトは、鉄系金属製のままとしている。
【0006】
このように、熱膨張率の相違する素材の組み合わせとなる場合、ポンプカバーに対するステータシャフトの嵌合領域の圧入長さや締め代等といった圧入条件の管理が困難となる。
【0007】
ところで、ポンプカバーにステータシャフトを一体的に結合する他の形態としては、例えばポンプカバー側からステータシャフトに対しピンを打ち込む形態を採用することも考えられている。
【0008】
この場合、ポンプカバーにステータシャフトを強固に一体化できて高い信頼性を確保できるものの、ピンという余分な部品を必要としているために、部品点数が増加する他、ピンの打ち込み作業が面倒であることが指摘され、コスト増加を余儀なくされる。しかも、ポンプカバー外径側に、ピンを打ち込むための作業スペースを確保する必要があるために、自動変速機の設計自由度が制限されることが指摘される。
【0009】
このような余分な部品を使用せずに、ポンプカバーにステータシャフトを一体的に結合するための他の形態として、例えばポンプカバーをステータシャフトよりも弾性変形率の大きな材質としたうえで、ステータシャフトの圧入部における圧入方向先端側から圧入方向後端側へ向けて外径を漸次縮径するようなテーパ形状としたものがある(例えば特許文献2参照。)。
【0010】
なお、この特許文献2では、ポンプカバーをアルミニウム合金とし、また、ステータシャフトを鉄系金属としている。
【0011】
この従来技術によれば、圧入時にステータシャフトの圧入部における圧入方向先端側でポンプカバーの中心孔を弾性変形領域内で押し広げて、圧入後にポンプカバーの中心孔の前記押し広げられた部分が弾性復元してステータシャフトの圧入部外周面に締め付けられるように密着させることを狙っている。
【0012】
このように圧入すれば、ステータシャフトにおけるテーパ形状の圧入部の楔作用によってステータシャフトの抜け出しが阻止される。
【特許文献1】特許第2774515号公報
【特許文献2】特開2003−314512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記従来例では、ポンプカバーをステータシャフトよりも弾性変形率の大きな材質としたうえで、ポンプカバーの中心孔内にステータシャフトを圧入により嵌合させる形態を採用しているので、圧入荷重を大きくする必要がある反面、圧入時においてポンプカバーの中心孔が拡径する割合を弾性変形領域内と小さめに管理する必要がある。
【0014】
そのため、ポンプカバーに対するステータシャフトの嵌合部分の圧入長さや締め代等といった圧入条件の管理がきわめて困難になって、生産効率が悪くなることが懸念されるうえ、実際にポンプカバーの中心孔にステータシャフトを圧入する際に芯合わせしにくくなるとともに初期挿入が困難になることが容易に推測できる。
【0015】
本発明は、トルクコンバータと変速機構部とを含み、かつ前記トルクコンバータのステータ反力を担持するステータシャフトが、前記トルクコンバータと変速機構部との間に位置するオイルポンプのポンプカバーの中心孔に嵌合固定される構成の自動変速機において、比較的簡素でかつ容易に組み立て可能な構造でありながら、ポンプカバーからのステータシャフトの抜け出しを確実に阻止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、回転動力をインプットシャフトに入力するトルクコンバータと、前記インプットシャフトの回転を変速して出力する変速機構部とを含み、かつ前記トルクコンバータのステータ反力を担持するステータシャフトが、前記トルクコンバータと変速機構部との間に位置するオイルポンプのポンプカバーの中心孔に嵌合固定される構成の自動変速機であって、前記ポンプカバーに対する前記ステータシャフトの嵌合領域に、前記トルクコンバータのステータ反力を受けたときに当該ステータシャフトを螺旋回転させて嵌合方向へ押圧させる荷重に変換する変換部が設けられていることを特徴としている。
【0017】
なお、この自動変速機は、例えば車両用とされ、例えば車両に搭載されるエンジンやモータの回転動力が入力される。
【0018】
この構成によれば、トルクコンバータからステータシャフトに作用するステータ反力つまりトルクを利用することにより、ステータシャフトに対し、それを嵌合方向つまり組み込み方向へ押圧させることが可能になる。
【0019】
これにより、ポンプカバーの中心孔からステータシャフトが抜け方向に変位することを阻止できるようになるので、ポンプカバーに対するステータシャフトの結合に関する信頼性が向上する。
【0020】
このようなことから、従来例のように、ポンプカバーの中心孔に対しステータシャフトを嵌合するときの圧入締め代を大きく設定したり、あるいは圧入長さを長くしたりせずに済むので、ステータシャフトの組み付け作業を比較的容易に行えるようになる等、自動変速機の生産効率を向上するうえで有利となる。
【0021】
好ましくは、前記ステータシャフトの外周面における嵌合領域と、前記ポンプカバーの内周面における被嵌合領域とに、ステータシャフトの中心軸線に対し傾斜する捩れキーと、それに係合する捩れキー溝とが前記変換部として振り分けて設けられる。
【0022】
このように、前記変換部の構成を特定すれば、送りねじの原理によって前記押圧荷重を比較的容易に確保することが可能になり、また、ステータ反力と押圧荷重との関係を特定するための設計が比較的容易に行えるようになる等、設計自由度が向上する。
【0023】
好ましくは、前記ステータシャフトは、前記ポンプカバーの中心孔に対する最大嵌合深さを制限するためのストッパを有する。
【0024】
この構成によれば、ステータシャフトに前記押圧荷重が付与され続けても、ポンプカバーの中心孔にステータシャフトを必要以上に嵌合しすぎることを防止できるようになる等、ステータシャフトの嵌合位置を正確に管理することが可能になる。
【0025】
好ましくは、前記ステータシャフトは鉄系金属製とされ、前記ポンプカバーはアルミニウム合金製とされる。
【0026】
この構成によれば、自動変速機の温度上昇に伴いポンプカバーの中心孔内径が拡大する度合いがステータシャフトの外径が拡大する度合いに比べて大きくなるので、ステータシャフトが抜けやすくなるとともに傾きやすくなる。
【0027】
これに対しては、従来例では圧入荷重を大きくすることで対処しているが、その場合、低温時の組み付け作業が困難になるので、本発明では、上述したようにトルクコンバータのステータ反力を利用して得る押圧荷重でもってステータシャフトの抜け防止を図るようにしている。これにより、本発明では、前記従来例の不具合を解消することが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、比較的簡素でかつ容易に組み立て可能な構造でありながら、ポンプカバーからステータシャフトが抜け方向へ変位することを阻止できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1から図5に本発明の一実施形態を示している。
【0030】
まず、図1を参照して、本発明に係る自動変速機の一実施形態についての概要を説明する。図示例の自動変速機は、主として、インプットシャフト1、ロックアップクラッチ3付のトルクコンバータ2、変速機構部4、オイルポンプ5等を含む。
【0031】
この自動変速機の動作としては、要するに、図示していないエンジンのクランクシャフトの回転がトルクコンバータ2あるいはロックアップクラッチ3を介してインプットシャフト1に入力されると、このインプットシャフト1に入力された回転を、変速機構部4で適宜の変速比に変速して図示していない出力軸から出力する。
【0032】
インプットシャフト1は、その中心にオイル通路が設けられている。このインナーシリンダ1の前端には、ロックアップクラッチ3がタービンハブ26を介してスプライン嵌合により連結されており、また、インプットシャフト1の後端には、変速機構部4の一構成要素であるフロントプラネタリ41のサンギア43がスプライン嵌合により連結されている。
【0033】
トルクコンバータ2は、エンジンに回転連結されるもので、ポンプインペラ21、タービンランナ22、ステータ23、ワンウェイクラッチ24、ステータシャフト25、タービンハブ26等を含む、一般的に公知の構成である。
【0034】
なお、ワンウェイクラッチ24は、ステータ23とステータシャフト25との径方向対向間に介装されており、ステータ23の一方向の回転のみ許容して支承するものである。
【0035】
このワンウェイクラッチ24において、アウターレース24aにはステータ23が外嵌固定されており、また、インナーレース24bはステータシャフト25における小径の前半領域25aの前端側にスプライン嵌合により連結されている。
【0036】
つまり、ステータシャフト25は、ワンウェイクラッチ24のインナーレース24bをトランスミッションケース6に固定する中継部材となっている。このステータシャフト25における小径の前半領域25aには、インプットシャフト1がラジアルニードルベアリング11を介して回転自在に支持されている。
【0037】
ロックアップクラッチ3は、トルクコンバータ2のポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結するものである。
【0038】
このロックアップクラッチ3とトルクコンバータ2のタービンランナ22とが、タービンハブ26を介してインプットシャフト1の前端にスプライン嵌合により連結されている。
【0039】
変速機構部4は、トルクコンバータ2からインプットシャフト1に入力される回転動力を変速して出力軸(図示省略)に出力するもので、適宜の遊星機構を複数組み合わせた一般的に公知の構成とされる。図1には、変速機構部4の一構成要素であるフロントプラネタリ41のみを開示している。
【0040】
フロントプラネタリ41は、シングルピニオンタイプのギア式遊星機構であり、同心状に配置されるリングギア42とサンギア43との径方向対向空間に複数個のピニオンギア44を介装し、各ピニオンギア44をキャリヤ45で回転自在に支持させた構成になっている。
【0041】
オイルポンプ5は、例えばノンクレセント型と呼ばれるものとされており、少なくとも、ポンプカバー51と、ポンプボディ52と、ポンプ駆動軸53と、インナードライブギア54と、アウタードリブンギア55とを含む。
【0042】
なお、ポンプカバー51は、トランスミッションケース6にボルト(符号省略)により固定されており、このポンプカバー51にポンプボディ52がボルト(符号省略)により固定されている。
【0043】
また、ポンプ駆動軸53は、トルクコンバータ2のポンプインペラ21に一体に連結されており、ポンプボディ52の中心孔内にラジアルニードルベアリング12を介して回転自在に支持されている。
【0044】
さらに、インナードライブギア54およびアウタードリブンギア55は、ポンプカバー51とポンプボディ52とで形成するポンプ室内に収納されている。インナードライブギア54は、ポンプ駆動軸53の外径側にスプライン嵌合により連結されていて、ポンプ駆動軸53と同期して回転する。
【0045】
次に、上述したような自動変速機の入力側における基本的な動作について説明する。
【0046】
図示していないエンジンのクランクシャフトの回転がトルクコンバータ2のポンプインペラ21に入力されると、ポンプインペラ21による油流がタービンランナ22に作用する。
【0047】
タービンランナ22およびロックアップクラッチ3の回転は、インプットシャフト1に伝達され、また、トルクコンバータ2のハウジング27の回転は、ポンプ駆動軸53を介してインナードライブギア54に伝達され、オイルポンプ5を駆動する。
【0048】
この際、ステータ23にトルクが作用してポンプインペラ21およびタービンランナ22間にトルク差を生じるが、ステータ23に作用するトルクの反力(ステータ反力と言う)は、ワンウェイクラッチ24を介してステータシャフト25に伝達され、このステータシャフト25が一体的に結合されるポンプカバー51でもって担持されるようになっている。つまり、前記ステータ反力は、ステータシャフト25とポンプカバー51との嵌合部分にて担持されることになる。
【0049】
なお、タービンランナ22からの油流がステータ23の背面側に作用すると、ステータ23がワンウェイクラッチ24の作用により空転する。
【0050】
ここで、図2から図5を参照して、本発明の特徴を適用した部分について詳細に説明する。
【0051】
要するに、ポンプカバー51に対するステータシャフト25の結合構造に工夫を施している。
【0052】
この実施形態では、まず、ステータシャフト25を機械的強度を確保するために鉄系金属製とし、また、ポンプカバー51を軽量化を図るためにアルミニウム合金等の軽合金製としている。ポンプカバー51は、例えばダイカスト製法にて製造される。
【0053】
ステータシャフト25は、その前半領域25aが後半領域25bよりも小径とされており、大径の後半領域25bの端には、径方向外向きに張り出すフランジ部25cが設けられている。
【0054】
ポンプカバー51は、円環状のカバー本体51aの中心部分に円筒形状のボス部51bを設けた形状とされている。ボス部51bは、その中心孔が大、小と二段の異径形状とされており、この中心孔における大径内周面に51cを、小径内周面に51dを付している。
【0055】
なお、ステータシャフト25の大径領域25bは、図4および図5に示すように、ポンプカバー51のボス部51bにおける中心孔の小径内周面51dにルーズフィット状態で嵌合されている。この嵌合部分は、ジャストフィット状態に設定することも可能である。
【0056】
また、ステータシャフト25のフランジ部25cは、ポンプカバー51のボス部51bにおける中心孔の大径内周面51cにジャストフィット状態またはタイトフィット状態で嵌合されている。
【0057】
なお、このステータシャフト25のフランジ部25cの内周面は、インプットシャフト1の後端側にラジアルニードルベアリング13を介して相対回転可能に支持されている。
【0058】
このようなポンプカバー51とステータシャフト25との嵌合領域には、トルクコンバータ2のステータ反力を受けたときに、ステータシャフト25を螺旋回転させて嵌合方向へ押圧させる荷重に変換する変換部が設けられている。
【0059】
この変換部は、図2および図3に示すように、捩れキー7と、それに係合する捩れキー溝8とで構成され、回転動力を軸方向推進力に変換する。
【0060】
捩れキー7は、ステータシャフト25の大径領域25bの外周面における円周等間隔の数箇所に、ステータシャフト25の中心軸線Oに対し傾斜して設けられている。
【0061】
捩れキー溝8は、ポンプカバー51の小径内周面51dにおける円周等間隔の数箇所に、捩れキー7と同様、ポンプカバー51の中心軸線(ステータシャフト25の中心軸線Oと同軸)に対し傾斜して設けられている。
【0062】
そして、捩れキー7は、ステータシャフト25の大径領域25bの外周面において、フランジ部25cの段壁面の位置から小径領域25aの段壁面の手前までの領域に設けられている。この捩れキー7は、ステータシャフト25と一体に形成してもよいし、また、別体に形成してステータシャフト25に固着してもよい。仮に、捩れキー7は、ステータシャフト25と別体にしても、ピンを用いる従来例のように、その打ち込み用の作業スペースを確保する必要がない点で有利である。
【0063】
一方、捩れキー溝8は、ポンプカバー51の小径内周面51dの軸方向全長にわたって設けられている。
【0064】
さらに、捩れキー7の幅寸法を捩れキー溝8の幅と同じかあるいは大きく設定することにより、図4および図5に示すように、捩れキー7を捩れキー溝8にジャストフィット状態またはタイトフィット状態で係合させるようにしている。
【0065】
以上、要するに、ポンプカバー51に対するステータシャフト25を圧入嵌合とせずに、捩れキー7と捩れキー溝8との係合部分の締め代でもってポンプカバー51にステータシャフト25を円周方向かつ軸方向にがたつきのない状態で一体的に結合させるようになっている。
【0066】
このようなポンプカバー51に対してステータシャフト25を組み付ける際の手順を説明する。
【0067】
まず、ポンプカバー51の中心孔、詳しくはボス部51bの小径内周面51dの後端側開口から、ステータシャフト25の小径の前半領域25aを差し入れる。
【0068】
ステータシャフト25の大径の後半領域25bが、ポンプカバー51の小径内周面51dの後端位置に到達すると、ポンプカバー51の各捩れキー溝8に、ステータシャフト25の各捩れキー7の位相を合致させるように位置合わせする。
【0069】
こうしてから、ステータシャフト25をさらに押し込むことにより、捩れキー7を捩れキー溝8に係合させる。このステータシャフト25の押し込み量は、例えばステータシャフト25のフランジ部25cの後端面が、ポンプカバー51のボス部51bの後端面と面一になるまでとすることができる。このとき、捩れキー7と捩れキー溝8との傾斜角度に応じて、ステータシャフト25が螺旋回転しながら押し込まれる。
【0070】
この状態では、ステータシャフト25のフランジ部25cにおける内側段壁面と、ポンプカバー51の軸方向中間の段壁面との間に所定の隙間が残ることになる。
【0071】
この隙間は、ゼロに管理するようにしてもよい。このように隙間をゼロにすると、つまりステータシャフト25のフランジ部25cの内側段壁面をポンプカバー51の軸方向中間の段壁面に軸方向から当接させた状態にすると、ポンプカバー51の中心孔に対するステータシャフト25の最大嵌合深さが制限される。このことから、フランジ部25cは、組み込み方向でのストッパとしての役割を担うのである。
【0072】
ここで、上述しているように、自動変速機の動作に伴い、ステータ23に作用するトルクの反力(ステータ反力と言う)が、ワンウェイクラッチ24を介してステータシャフト25に伝達される。このステータ反力は、捩れキー7と捩れキー溝8との係合部分によって、ステータシャフト25を組み込み方向へ螺旋回転させて押圧させる荷重に変換される。
【0073】
なお、ステータ反力と押圧荷重との関係は、捩れキー7および捩れキー溝8の傾斜角度等を調整することによって比較的容易に変更することが可能である。
【0074】
これにより、ステータ反力が作用している限り、ステータシャフト25をポンプカバー51の中心孔に組み込み方向に押圧し続けるようになるから、自動変速機の動作中においてポンプカバー51の中心孔からステータシャフト25が抜け出すことを阻止できるようになる。
【0075】
しかも、ステータシャフト25のフランジ部25cが、ポンプカバー51の中心孔に対するステータシャフト25の最大嵌合深さを制限するようになっているから、ステータシャフト25に前記押圧荷重が作用し続けても、組み込み方向に必要以上に押し込まれずに済む。
【0076】
したがって、従来例のように、ポンプカバー51の中心孔に対しステータシャフト25を嵌合するときの圧入締め代を大きく設定したり、あるいは圧入長さを長くしたりせずに済むので、ステータシャフト25の組み付け作業を比較的容易に行えるようになる等、自動変速機の生産効率を向上するうえで有利となる。
【0077】
以上説明したように、本実施形態で提示した自動変速機では、ポンプカバー51にステータシャフト25を圧入嵌合とせずに、捩れキー7と捩れキー溝8との係合構造とすることによって、ポンプカバー51にステータシャフト25を強固に一体的に結合させるようにしている。しかも、自動変速機の動作中に発生するトルクコンバータ2のステータ反力を利用して、ステータシャフト25を組み込み方向へ押圧させる形態とすることにより、ステータシャフト25の抜け出しを阻止するようにしている。
【0078】
これにより、比較的簡素な構造でかつ容易な組み付け作業でありながら、ポンプカバー51からのステータシャフト25の抜け出しを確実に阻止できる等、自動変速機の生産効率ならびにポンプカバー51に対するステータシャフト25の結合に関する信頼性の向上に貢献できる。
【0079】
また、上記実施形態のように、ポンプカバー51をアルミニウム合金製としてステータシャフト25を鉄系金属製としている場合でも、自動変速機の温度変化に関係なく、ポンプカバー51にステータシャフト25を軸方向に位置決めした状態を保つことが可能になる。
【0080】
なお、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、いろいろな変形や応用が考えられる。
【0081】
(1)本発明に係る自動変速機の基本構成は、上記実施形態で説明したものに限定されず、他の構成の自動変速機にも適用できる。
【0082】
(2)上記実施形態において、捩れキー7や捩れキー溝8の数、捩れキー7や捩れキー溝8の断面形状や形成範囲についても特に限定されるものではない。
【0083】
(3)上記実施形態では、ステータシャフト25側に捩れキー7を、ポンプカバー51側に捩れキー溝8を設けた例を挙げているが、その反対、つまりステータシャフト25側に捩れキー溝8を、ポンプカバー51側に捩れキー7を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係る自動変速機の前方部分を示す縦断面図である。
【図2】図1においてポンプカバーとステータシャフトとを分離した状態を示す斜視図である。
【図3】図1においてポンプカバーとステータシャフトとを分離した状態を示す断面図である。
【図4】図1の要部を拡大して示す図である。
【図5】図4の(5)−(5)線断面の矢視図である。
【符号の説明】
【0085】
1 インプットシャフト
2 トルクコンバータ
23 ステータ
25 ステータシャフト
25a ステータシャフトの小径前半領域
25b ステータシャフトの大径後半領域
25c ステータシャフトのフランジ部(ストッパ)
4 変速機構部
5 オイルポンプ
51 ポンプカバー
51a ポンプカバー本体
51b ポンプカバーのボス部
51c ボス部の大径内周面
51d ボス部の小径内周面
7 捩れキー(変換部)
8 捩れキー溝(変換部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転動力をインプットシャフトに入力するトルクコンバータと、前記インプットシャフトの回転を変速して出力する変速機構部とを含み、かつ前記トルクコンバータのステータ反力を担持するステータシャフトが、前記トルクコンバータと変速機構部との間に位置するオイルポンプのポンプカバーの中心孔に嵌合固定される構成の自動変速機であって、
前記ポンプカバーと前記ステータシャフトとの嵌合領域に、前記トルクコンバータのステータ反力を受けたときに当該ステータシャフトを螺旋回転させて嵌合方向へ押圧させる荷重に変換する変換部が設けられていることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速機において、
前記ステータシャフトの外周面における嵌合領域と、前記ポンプカバーの内周面における被嵌合領域とに、ステータシャフトの中心軸線に対し傾斜する捩れキーと、それに係合する捩れキー溝とが前記変換部として振り分けて設けられることを特徴とする自動変速機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動変速機において、
前記ステータシャフトは、前記ポンプカバーの中心孔に対する最大嵌合深さを制限するためのストッパを有することを特徴とする自動変速機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の自動変速機において、
前記ステータシャフトは鉄系金属製とされ、前記ポンプカバーはアルミニウム合金製とされることを特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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