説明

自動変速機

【課題】フリクションロスを低減できるようにした自動変速機を提供する。
【解決手段】自動変速機は、第1〜第3の3つのプラネタリギヤ機構4〜5を備える。第3プラネタリギヤ機構6はシングルピニオン型であり、第7要素Rcに隣接する並設ギヤ7を備える。第1要素Saが入力軸2に、並設ギヤ7が出力部材3に連結される。第3要素Raと第5要素Cbを連結して第1連結体とし、第6要素Rbと第9要素Scを連結して第2連結体とする。自動変速機は、入力軸2と第8要素Ccを連結自在な第1係合機構C1、第2要素Caと第7要素Rcを連結自在な第2係合機構C2、第2要素Caと第2連結体を連結自在な第3係合機構C3、第1連結体、第4要素Sb及び第8要素Ccを変速機ケース1に夫々固定自在な第4〜第6係合機構B1〜B3を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸の回転を変速機ケース内に配置した複数のプラネタリギヤ機構を介して複数段に変速して出力部材に伝達する自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力用の第1プラネタリギヤと変速用の2つのプラネタリギヤと6つの係合機構とを用いて、前進8段の変速を行うことができるようにした自動変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、入力用の第1プラネタリギヤを、第1サンギヤと、第1リングギヤと、互いに噛合すると共に一方が第1サンギヤに噛合し他方が第1リングギヤに噛合する一対の第1ピニオンを自転及び公転自在に軸支する第1キャリアとからなるダブルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成している。
【0004】
第1プラネタリギヤは、第1サンギヤが変速機ケースに固定される固定要素、第1キャリアが入力軸に連結される入力要素、第1リングギヤが入力要素たる第1キャリアの回転速度を減速して出力する出力要素とされている。
【0005】
又、変速用の2つのプラネタリギヤ機構を、第2サンギヤと、第3サンギヤと、第3リングギヤと一体化された第2リングギヤと、互いに噛合すると共に一方が第2サンギヤ及び第2リングギヤに噛合し他方が第3サンギヤに噛合する一対の第2ピニオンを自転及び公転自在に軸支する第2キャリアとからなるラビニヨ型のプラネタリギヤ機構で構成している。
【0006】
このラビニヨ型のプラネタリギヤ機構は、速度線図においてギヤ比に対応する間隔を存して順に、第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素及び第4回転要素とすると、第1回転要素は第2サンギヤ、第2回転要素は第3キャリアと一体化された第2キャリア、第3回転要素は第3リングギヤと一体化された第2リングギヤ、第4回転要素は第3サンギヤとなる。
【0007】
又、係合機構として、第1プラネタリギヤの出力要素たる第1リングギヤと第3サンギヤから成る第4回転要素とを解除自在に連結する第1係合機構と、入力軸と第2キャリアから成る第2回転要素とを解除自在に連結する第2係合機構と、出力要素たる第1リングギヤと第2サンギヤから成る第1回転要素とを解除自在に連結する第3係合機構と、入力要素たる第1キャリアと第2サンギヤから成る第1回転要素とを解除自在に連結する第4係合機構と、第2サンギヤから成る第1回転要素を変速機ケースに解除自在に固定する第5係合機構と、第2キャリアから成る第2回転要素を変速機ケースに解除自在に固定する第6係合機構とを備える。
【0008】
以上の構成によれば、第1係合機構と第6係合機構とを係合することで1速段が確立され、第1係合機構と第5係合機構とを係合することで2速段が確立され、第1係合機構と第3係合機構とを係合することで3速段が確立され、第1係合機構と第4係合機構とを係合することで4速段が確立される。
【0009】
又、第1係合機構と第2係合機構とを係合することで5速段が確立され、第2係合機構と第4係合機構とを係合することで6速段が確立され、第2係合機構と第3係合機構とを係合することで7速段が確立され、第2係合機構と第5係合機構とを係合することで8速段が確立される。又、1速段又は8速段を除くことにより前進7速段とすることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−273768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来例のものでは、各変速段において係合する係合機構の数が2つになる。そのため、解放している残りの4つの係合機構の引き摺りによるフリクションロスが大きくなり、変速機の効率が悪化する不具合がある。
【0012】
本発明は、以上の点に鑑み、フリクションロスを低減できるようにした自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、駆動源からの動力により回転する入力軸と、該入力軸の回転を複数段に変速して出力部材から出力する自動変速機であって、第1から第3の3つのプラネタリギヤ機構を備え、第3プラネタリギヤ機構は、サンギヤと、リングギヤと、サンギヤ及びリングギヤに噛合するピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成され、第1プラネタリギヤ機構のサンギヤ、キャリア及びリングギヤから成る3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第1要素、第2要素及び第3要素とし、第2プラネタリギヤ機構のサンギヤ、キャリア及びリングギヤから成る3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第4要素、第5要素及び第6要素とし、第3プラネタリギヤ機構のサンギヤ、キャリア及びリングギヤから成る3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第7要素、第8要素及び第9要素として、第7要素に隣接し且つ第3プラネタリギヤ機構のピニオンに噛合する並設ギヤが配置され、第1要素が入力軸に連結され、並設ギヤが出力部材に連結され、第3要素と第5要素とを連結して第1連結体が構成され、第6要素と第9要素とを連結して第2連結体が構成され、入力軸と第8要素とを解除自在に連結する第1係合機構と、第2要素と第7要素とを解除自在に連結する第2係合機構と、第2要素と第2連結体とを解除自在に連結する第3係合機構と、第1連結体を変速機ケースに解除自在に固定する第4係合機構と、第4要素を変速機ケースに解除自在に固定する第5係合機構と、第8要素を変速機ケースに解除自在に固定する第6係合機構とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、後述する実施形態の説明から明らかなように、前進7段以上の変速を行うことができると共に、第1から第6の6つの係合機構のうち各変速段において3つの係合機構が係合することになる。そのため、各変速段で解放している係合機構の数は3つになり、従来のように4つの係合機構が解放されるものに比し、解放している係合機構によるフリクションロスを低減でき、変速機の効率が向上する。
【0015】
又、本発明において、第1プラネタリギヤ機構及び第2プラネタリギヤ機構を、サンギヤと、リングギヤと、サンギヤ及びリングギヤに噛合するピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成することが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、3つのプラネタリギヤ機構の全てがシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成され、ダブルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成した場合と比較して、噛合回数を減少させることができ、変速機の効率をより向上させることができる。
【0017】
又、本発明において、第6係合機構を、1ウェイクラッチ又は2ウェイクラッチで構成することが好ましい。かかる構成によれば、第6係合機構を湿式多板クラッチのみで構成したものと比較して、1速段と2速段との間での変速の制御性を向上させることができる。
【0018】
又、本発明において、第2係合機構を、噛合機構とすることが好ましい。かかる構成によれば、後述する実施形態の説明から明らかなように、前進側の低速段域でのみ係合され、高速段域でのみ解放される第2係合機構が、フリクションロスの発生を防止する噛合機構となる。このため、前進側の高速段域のフリクションロスを更に抑制することができ、変速機の効率をより向上させることができる。
【0019】
ここで、自動変速機をFR方式の車両に用いる場合には、小型化を図るべく出力部材を軸状に構成して出力軸とし、入力軸と同一軸線上に配置し、プロペラシャフト等に連結することが望まれる。しかしながら、並設ギヤを、例えば、第5係合機構と第6係合機構との間に配置した場合、変速機ケースが邪魔となって入力軸と同一軸線上に出力部材たる出力軸を配置できない。
【0020】
このため、出力部材をギヤで構成し、入力軸に平行にカウンターシャフトを配置して、カウンターシャフトに出力部材たるギヤに噛合する従動ギヤを設け、カウンターシャフトからプロペラシャフト等を介して後輪に駆動力を伝達する必要がある。これでは、カウンターシャフトを配置するスペースが必要となり、自動変速機が大型化してしまう。
【0021】
この場合、本発明において、第4から第6係合機構を並設ギヤよりも駆動源の側に配置し、出力部材を入力軸と同一軸線上に配置された出力軸で構成することが好ましい。かかる構成によれば、変速機ケースが邪魔とならず、出力部材を軸状に形成し、入力軸と同一軸線上に配置して、並設ギヤに連結させることができ、変速機の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の自動変速機の第1実施形態のスケルトン図。
【図2】第1実施形態のプラネタリギヤの速度線図。
【図3】第1実施形態の自動変速機の各変速段における係合機構の係合状態を纏めて示す説明図。
【図4】本発明の自動変速機の第2実施形態を示すスケルトン図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の自動変速機の第1実施形態を示している。この第1実施形態の自動変速機は、変速機ケース1内に回転自在に軸支した、図外のエンジン等の動力源に連結される入力軸2と、入力軸2と同心に配置された出力ギヤからなる出力部材3とを備えている。出力部材3の回転は、図外のデファレンシャルギヤを介して車両の左右の駆動輪に伝達される。
【0024】
又、変速機ケース1内には、第1プラネタリギヤ機構4と第2プラネタリギヤ機構5と第3プラネタリギヤ機構6が入力軸2と同心に配置されている。第1プラネタリギヤ機構4は、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSaとリングギヤRaとに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成されている。
【0025】
図2の上段に示す第1プラネタリギヤ機構4の速度線図(サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの要素の回転速度を直線で表すことができる図)を参照して、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa、キャリアCa及びリングギヤRaから成る3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第1要素、第2要素及び第3要素とすると、第1要素はサンギヤSa、第2要素はキャリアCa、第3要素はリングギヤRaになる。
【0026】
ここで、サンギヤSaとキャリアCa間の間隔とキャリアCaとリングギヤRa間の間隔との比は、第1プラネタリギヤ機構4のギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)をiとして、i:1に設定される。尚、速度線図において、下の横線と上の横線は夫々回転速度が「0」と「1」(入力軸2と同じ回転速度)であることを示している。
【0027】
第2プラネタリギヤ機構5は、サンギヤSbと、リングギヤRbと、サンギヤSbとリングギヤRbとに噛合するピニオンPbを自転及び公転自在に軸支するキャリアCbとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成される。
【0028】
図2の中段に示す第2プラネタリギヤ機構5の速度線図を参照して、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb、キャリアCb及びリングギヤRbから成る3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とすると、第4要素はサンギヤSb、第5要素はキャリアCa、第6要素はリングギヤRbになる。サンギヤSbとキャリアCb間の間隔とキャリアCbとリングギヤRb間の間隔との比は、第2プラネタリギヤ機構5のギヤ比をjとして、j:1に設定される。
【0029】
第3プラネタリギヤ機構6は、サンギヤScと、リングギヤRcと、サンギヤSc及びリングギヤRcに噛合するピニオンPcを自転及び公転自在に軸支するキャリアCcとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成される。
【0030】
図2の下段に示す第3プラネタリギヤ機構6の速度線図を参照して、第3プラネタリギヤ機構6のサンギヤSc、キャリアCc及びリングギヤRcから成る3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第7要素、第8要素及び第9要素とすると、第7要素はリングギヤRc、第8要素はキャリアCc、第9要素はサンギヤScになる。サンギヤScとキャリアCc間の間隔とキャリアCcとリングギヤRc間の間隔との比は、第3プラネタリギヤ機構6のギヤ比をkとして、k:1に設定される。
【0031】
又、第1実施形態の自動変速機では、第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)に隣接して配置され第3プラネタリギヤ機構6のピニオンPcに噛合しリングギヤRc(第7要素)と同一の内径のリング形状で内周面に同一歯数のギヤを有する並設ギヤ7が設けられている。並設ギヤ7は第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)と同一の回転速度で回転する。
【0032】
第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第1要素)は入力軸2に連結されている。第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)に並設された並設ギヤ7は出力ギヤたる出力部材3に連結されている。又、第1プラネタリギヤ機構4のリングギヤRa(第3要素)と第2プラネタリギヤ機構5のキャリアCb(第5要素)とを連結して第1連結体Ra,Cbを構成している。又、第2プラネタリギヤ機構5のリングギヤRb(第6要素)と第3プラネタリギヤ機構6のサンギヤSc(第9要素)とを連結して第2連結体Rb,Scを構成している。
【0033】
第1実施形態の自動変速機では、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6により、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第1要素)、キャリアCa(第2要素)、第1連結体Ra,Cb(第3,第5要素)、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb(第4要素)、第2連結体Rb,Sc(第6,第9要素)、第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)、キャリアCc(第8要素)の合計7つの回転体を構成する。
【0034】
又、第1実施形態の自動変速機は、湿式多板クラッチから成る係合機構として、入力軸2と第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)とを解除自在に連結する第1係合機構たる第1クラッチC1と、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)とを解除自在に連結する第2係合機構たる第2クラッチC2と、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第2連結体Rb,Scとを解除自在に連結する第3係合機構たる第3クラッチC3とを備える。
【0035】
第3係合機構たる第3クラッチC3は、第2係合機構たる第2クラッチC2の径方向外方に配置され、入力軸2の軸線方向において第2クラッチC2と重なり合わせることにより、変速機の軸長を短くしている。
【0036】
又、第1実施形態の自動変速機は、湿式多板ブレーキから成る係合機構として、第1連結体Ra,Cb(第3,第5要素)を変速機ケース1に解除自在に固定する第4係合機構たる第1ブレーキB1と、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb(第4要素)を変速機ケース1に解除自在に固定する第5係合機構たる第2ブレーキB2と、第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)を変速機ケース1に解除自在に固定する第3ブレーキB3とを備える。
【0037】
尚、変速機ケース1には、第3ブレーキB3と並列に、第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第8要素)の正転(前進方向の回転)を許容し、逆転(後進方向の回転)を阻止する1ウェイクラッチF1が連結されている。
【0038】
第3ブレーキB3及び1ウェイクラッチF1は、第2プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第8要素)の径方向外方に配置されている。第1実施形態の自動変速機では、第3ブレーキB3と1ウェイクラッチF1とで本発明の第6係合機構を構成している。
【0039】
第1実施形態の自動変速機においては、第2クラッチC2(第2係合機構)と第2ブレーキB2(第5係合機構)とを係合させると、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)とが同一の回転速度で回転すると共に、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb(第4要素)の回転速度が「0」、第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)の回転速度が1ウェイクラッチF1の働きで「0」となり、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6の速度線が図2に「1st」で示す線になって、1速段が確立される。
【0040】
このとき、第3ブレーキB3が開放されているが、第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)の回転速度が1ウェイクラッチF1の働きで「0」となっているため、第3ブレーキB3ではフリクションロスが発生しない。又、1ウェイクラッチF1を設けることにより、1速段と2速段との間での変速を行うときに、第3ブレーキB3への油圧の供給及びこの油圧供給の停止を行う必要がなくなり、1速段と2速段との間での変速の制御性を向上させることができる。
【0041】
尚、第2クラッチC2(第2係合機構)及び第2ブレーキB2(第5係合機構)に加えて第3ブレーキB3を係合させると、エンジンブレーキを効かせられる状態で1速段が確立される。
【0042】
第2クラッチC2と第1ブレーキB1と第2ブレーキB2とを係合させると、第1連結体Ra,Cb(第3,第5要素)の回転速度が「0」、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb(第4要素)の回転速度が「0」となり、第2プラネタリギヤ機構5の3つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2連結体Rb,Sc(第6,第9要素)の回転速度も「0」となる。
【0043】
そして、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)とが同一の回転速度で回転し、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6の速度線が図2に「2nd」で示す線になって、2速段が確立される。
【0044】
第2クラッチC2と第3クラッチC3と第2ブレーキB2とを係合させると、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第2連結体Rb,Sc(第6,第9要素)と第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)とが同一の回転速度で回転し、第3プラネタリギヤ機構6のサンギヤSc、キャリアCc、リングギヤRcの3つの要素が相対回転不能なロック状態となる。そして、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6の速度線が図2に「3rd」で示す線になって、3速段が確立される。
【0045】
第1クラッチC1と第2クラッチC2と第2ブレーキB2とを係合させると、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第1要素)と第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)との回転速度が「1」となり、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)とが同一の回転速度で回転して、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6の速度線が図2に「4th」で示す線になり、4速段が確立される。
【0046】
第1クラッチC1と第2クラッチC2と第3クラッチC3とを係合させると、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第1要素)と第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)との回転速度が「1」となり、第3プラネタリギヤ機構6のサンギヤSc、キャリアCc、リングギヤRcの3つの要素が相対回転不能なロック状態となって、出力部材3に連結する第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCcの回転速度も「1」である5速段が確立される。
【0047】
第1クラッチC1と第3クラッチC3と第2ブレーキB2とを係合させると、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第1要素)と第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)との回転速度が「1」、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb(第4要素)の回転速度が「0」となり、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第2連結体Rb,Scとが同一の回転速度で回転して、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6の速度線が図2に「6th」で示す線になって、6速段が確立される。
【0048】
第1クラッチC1と第3クラッチC3と第1ブレーキB1とを係合させると、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第1要素)と第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)との回転速度が「1」、第1連結体Ra,Cb(第3,第5要素)の回転速度が「0」となり、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第2連結体Rb,Sc(第6,第9要素)とが同一の回転速度で回転して、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6の速度線が図2に「7th」で示す線になって、7速段が確立される。
【0049】
第1クラッチC1と第1ブレーキB1と第2ブレーキB2とを係合させると、第1プラネタリギヤ機構4のサンギヤSa(第1要素)と第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)との回転速度が「1」、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb(第4要素)及び第1連結体Ra,Cb(第3,第5要素)の回転速度が「0」となる。
【0050】
そして、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb、キャリアCb、リングギヤRbの3つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2連結体Rb,Sc(第6,第9要素)の回転速度が「0」となり、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6の速度線が図2に「8th」で示す線になって、8速段が確立される。
【0051】
第3クラッチC3と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3とを係合させると、第2プラネタリギヤ機構5のサンギヤSb(第4要素)と第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)の回転速度が「0」となり、第1プラネタリギヤ機構4のキャリアCa(第2要素)と第2連結体Rb,Sc(第6,第9要素)とが同一の回転速度で回転して、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6の速度線が図2に「Rev」で示す線になって、後進段が確立される。
【0052】
尚、図2中の点線で示す速度線は、3つのプラネタリギヤ機構4,5,6のうち動力伝達するプラネタリギヤに追従して他のプラネタリギヤの各要素が回転することを表している。
【0053】
図3は、上述した各変速段と各係合機構C1〜C3,B1〜B3の係合状態との関係を纏めて表示した図であり、「○」は係合を表している。又、図3は、第1プラネタリギヤ機構4のギヤ比iを1.666、第2プラネタリギヤ機構5のギヤ比jを1.666、第3プラネタリギヤ機構6のギヤ比kを1.666とした場合における各変速段のギヤレシオ(入力軸2の回転速度/出力部材3の回転速度)も示している。これによれば、公比(各変速段間のギヤレシオの比)が適切になると共に、8速段の公比の欄に示したレシオレンジ(1速レシオ/8速レシオ)も適切になる。
【0054】
第1実施形態の自動変速機によれば、前進8段の変速を行うことができると共に、第1から第6の6つの係合機構C1〜C3,B1〜B3のうち各変速段において3つの係合機構が係合することになる。そのため、各変速段で解放している係合機構の数は3つになり、従来のように4つの係合機構が解放されるものに比し、解放している係合機構によるフリクションロスを低減でき、変速機の効率が向上する。
【0055】
又、第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)と出力部材3とは構成上直接連結させることができないが、リングギヤRc(第7要素)と同一回転速度となる並設ギヤ7に出力部材3を連結させることにより、第3プラネタリギヤ機構6のリングギヤRc(第7要素)の回転速度を出力部材3から出力させることができる。
【0056】
尚、第1実施形態の自動変速機においては、前進8段の変速を行うものを説明したが、何れか1つの変速段を省略することにより、前進7段の変速を行うように構成してもよい。例えば、第1実施形態の7速段を省略し8速段を7速段とすることにより、前進7段の変速を行うことができる。
【0057】
又、第1実施形態の自動変速機においては、第1プラネタリギヤ機構4をシングルピニオン型のもので構成しているが、第1プラネタリギヤ機構4をダブルピニオン型のもので構成してもよい。この場合、例えば、第1要素をサンギヤSa、第2要素をリングギヤRa、第3要素をキャリアCaとすればよい。
【0058】
又、第1実施形態の自動変速機においては、第2プラネタリギヤ機構5をシングルピニオン型のもので構成しているが、図4に示す第2実施形態の自動変速機の如く、第2プラネタリギヤ機構5をダブルピニオン型のもので構成してもよい。この場合、例えば、第4要素をサンギヤSb、第5要素をリングギヤRb、第6要素をキャリアCbとすればよい。
【0059】
又、第1実施形態の自動変速機においては、第6係合機構を、第3ブレーキB3と1ウェイクラッチF1とで構成したが、1ウェイクラッチF1を設けずに第3ブレーキB3のみで構成してもよい。
【0060】
又、第6係合機構を、図4に示す第2実施形態の自動変速機の如く、第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)の正転(前進方向の回転)を許容し逆転(後進方向の回転)を阻止する状態、又はリングギヤRcの正転を阻止し逆転を許容する状態に切替え自在な2ウェイクラッチF2で構成してもよい。
【0061】
この場合でも、1ウェイクラッチF1を設けた場合と同様に、1速段と2速段との間での変速の制御性を向上させることができる。又、後進段用の比較的大容量の第3ブレーキB3を省略することができ、フリクションロスをより低減でき、変速機の効率を向上させることができる。
【0062】
又、図4に示す第2実施形態の如く、第2係合機構をドグクラッチD1(噛合機構)で構成してもよい。第2係合機構(第1実施形態では第2クラッチC2)は、図3から明らかなように、低速段域としての1〜5速段で係合し、高速段域としての6〜8速段で開放される。
【0063】
従って、高速段域と比較して隣接する変速段間のトルク差が大きい低速段域たる1〜5速段では、係合状態の切り替えが行われず、比較的トルク差の小さい5速段と6速段の間の切り替えのときだけ係合状態が切り替えられる。このため、5速段と6速段の間の変速をスムーズに行うことができる。
【0064】
又、ドグクラッチD1は機械的な噛合で係合し、湿式多板クラッチのように摩擦係合しないため、フリクションロスが発生しない。このため、第2係合機構をドグクラッチD1で構成することにより、第2係合機構を第1実施形態のように湿式多板クラッチC2で構成した場合と比較して、高速段域におけるフリクションロスをより低減させることができ、燃費を向上させることができる。尚、ドグクラッチD1は、同期噛合機構(シンクロメッシュ機構)等の同期機能を備えるもので構成してもよい。
【0065】
又、本実施形態では、並設ギヤ7を、第3プラネタリギヤ機構6のリンギヤRc(第7要素)と同一の内径のリング形状で内周面に同一歯数のギヤを有するもので構成したが、並設ギヤ7は、これに限られず、内径及び歯数をリングギヤRc(第7要素)と異ならせてもよい。
【0066】
この場合、例えば、第3プラネタリギヤ機構6のピニオンPcを小径部と大径部とで構成される段付きピニオンで構成し、ピニオンPcの小径部又は大径部にサンギヤSc及びリングギヤRcを噛合させ、大径部又は小径部に並設ギヤ7を噛合させることにより構成できる。
【0067】
このとき、並設ギヤ7の歯数をサンギヤScの歯数で割った値をm、並設ギヤ7と噛合するピニオンPcの大径部又は小径部の歯数をサンギヤScと噛合するピニオンPcの小径部又は大径部の歯数で割った値をnとして、並設ギヤ7は、速度線図において、サンギヤScとキャリアCcとの間の間隔を1とした場合に、並設ギヤ7とキャリアCcとの間の間隔がn/mとなるようにキャリアCcの左側に位置し、速度線図における並設ギヤ7の位置はリングギヤRcの位置と異なる。そして、並設ギヤ7は、リングギヤRcと異なる回転速度で回転する。
【0068】
このように構成することにより、並設ギヤ7の歯数を変更することで各変速段のギヤレシオの設定自由度が向上されると共に、並設ギヤ7を小径とすれば変速機の構成部品の配置自由度も向上させることができる。
【0069】
ところで、第1実施形態のように、出力部材3が第2ブレーキB2と第3ブレーキB3との間に位置していると、FR式の車両に用いる場合、出力部材3に噛合するギヤを備えるカウンターシャフトを設け、このカウンターシャフトにプロペラシャフトを連結して左右の後輪に動力を伝達させることとなるが、カウンターシャフト等の構成部品が増加し、自動変速機の小型化を図ることができなくなってしまう。
【0070】
この場合、図4に示す第2実施形態の自動変速機の如く、第3ブレーキB3を第3プラネタリギヤ機構6のキャリアCc(第8要素)の駆動源側に接続し、第1〜第3ブレーキB1〜B3を並設ギヤ7よりも駆動源側に配置すれば、第3ブレーキB3が邪魔とならないため、入力軸2と同一軸線上に配置した出力軸で構成される出力部材3と、並設ギヤ7とを接続させることができる。これにより、カウンターシャフト等を用いることなく出力部材3をプロペラシャフトに連結させることができ、FR式の車両用の自動変速機の小型化を図ることができる。
【符号の説明】
【0071】
1…変速機ケース、2…入力軸、3…出力部材(出力ギヤ)、4…第1プラネタリギヤ機構、Sa…サンギヤ(第1要素)、Ca…キャリア(第2要素)、Ra…リングギヤ(第3要素)、5…第2プラネタリギヤ機構、Sb…サンギヤ(第4要素)、Cb…キャリア(第5要素)、Rb…リングギヤ(第6要素)、6…第3プラネタリギヤ機構、Sc…サンギヤ(第9要素)、Cc…キャリア(第8要素)、Rc…リングギヤ(第7要素)、7…並設ギヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力により回転する入力軸と、該入力軸の回転を複数段に変速して出力部材から出力する自動変速機であって、
第1から第3の3つのプラネタリギヤ機構を備え、
第3プラネタリギヤ機構は、サンギヤと、リングギヤと、サンギヤ及びリングギヤに噛合するピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構で構成され、
第1プラネタリギヤ機構のサンギヤ、キャリア及びリングギヤから成る3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第1要素、第2要素及び第3要素とし、
第2プラネタリギヤ機構のサンギヤ、キャリア及びリングギヤから成る3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第4要素、第5要素及び第6要素とし、
第3プラネタリギヤ機構のサンギヤ、キャリア及びリングギヤから成る3つの要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第7要素、第8要素及び第9要素として、
第7要素に隣接し且つ第3プラネタリギヤ機構のピニオンに噛合する並設ギヤが配置され、
前記第1要素が前記入力軸に連結され、前記並設ギヤが前記出力部材に連結され、前記第3要素と前記第5要素とを連結して第1連結体が構成され、前記第6要素と前記第9要素とを連結して第2連結体が構成され、
前記入力軸と前記第8要素とを解除自在に連結する第1係合機構と、
前記第2要素と前記第7要素とを解除自在に連結する第2係合機構と、
前記第2要素と前記第2連結体とを解除自在に連結する第3係合機構と、
前記第1連結体を前記変速機ケースに解除自在に固定する第4係合機構と、
前記第4要素を前記変速機ケースに解除自在に固定する第5係合機構と、
前記第8要素を前記変速機ケースに解除自在に固定する第6係合機構とを備えることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
前記第1プラネタリギヤ機構及び前記第2プラネタリギヤ機構は、サンギヤと、リングギヤと、サンギヤ及びリングギヤに噛合するピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるシングルピニオン型のプラネタリギヤ機構であることを特徴とする請求項1記載の自動変速機。
【請求項3】
前記第6係合機構は、1ウェイクラッチ又は2ウェイクラッチであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の自動変速機。
【請求項4】
前記第2係合機構は、噛合機構であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の自動変速機。
【請求項5】
前記第4から第6係合機構は、前記並設ギヤよりも前記駆動源の側に配置され、
前記出力部材は、前記入力軸と同一軸線上に配置された出力軸であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−286087(P2010−286087A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142142(P2009−142142)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】