説明

自動変速装置用のラチェット及び当該ラチェットの製造方法

【課題】ラチェットを、機能的な必要条件を満たし、且つ、重量が最適化されるように構成すること。
【解決手段】本発明によれば、ラチェット歯の領域において、ラチェットが肥厚(aufgedickt)される。すなわち、ラチェット歯が、ラチェット製造のための基材の板厚よりも大きい歯幅を有する。高められた歯幅に基づいて、ラチェット歯においてより小さい表面圧力が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項1の上位概念に従う自動変速装置用のラチェット歯(Klinkenzahn)を有するラチェット、並びに、特許請求の範囲の請求項6の上位概念に従うラチェットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のための自動変速装置には、パーキングロック装置が装備されている。当該パーキングロック装置は、変速装置の出力軸に取り付けられたパーキングロック歯車並びにラチェットを有している。当該ラチェットは、ラチェット歯がパーキングロック歯車と係合して、それを機械的にロックする。このロックによって、自動車が動いてしまうこと(Wegrollen)が防止される。ラチェット歯は、高められた応力にさらされるため、特にはロックの際に発生するパーキングロック歯車とラチェット歯との間の表面圧力を考慮して、(前記応力に)対応するように寸法づけられなくてはならない。一般に、このようなパーキングロック装置のためのラチェットは、押し抜き部材(Stanzteile)として、すなわち、一定の板厚を有する薄板から切断または細断によって、製造される。このため、ラチェット歯は、ラチェットの板厚に対応する歯幅を有している。ラチェット歯の応力がより大きい場合には、より厚い板厚が選択される。このことによって、ラチェットの重量及び慣性モーメントが高まってしまう。両者はいずれも、望ましくない。
【0003】
DE3636978C2により、自動変速装置のためのパーキングロック装置が知られている。この場合、ラチェットとも称される回動可能に軸支されたロッキングレバー(Sperrhebel)が、ラチェット歯とも称される突出部において、パーキングロック歯車に係合する。ラチェット歯は、およそ台形の歯形を有しており、パーキングロック歯車の対応する歯溝(Zahnluecke)に係合する。ラチェット歯の歯幅は、ラチェットの厚さに対応している。
【0004】
本出願人によるDE102006033985A1により、パーキングロック装置のための切り欠き歯(Rastzahn)を有するラチェットが知られている。この場合、切り欠き歯は、ラチェットの厚さに対応する歯幅を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、冒頭で述べたタイプのラチェットを、機能的な必要条件を満たし、且つ、重量が最適化されるように構成することである。本発明の更なる課題は、重量が最適化されたラチェットを経済的に製造することを可能にする、冒頭で述べたタイプの方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、特許請求の範囲の独立請求項1及び6によって、解決される。有利な実施の形態は、従属請求項から明らかである。
【0007】
本発明によれば、ラチェット歯の領域において、ラチェットが肥厚(aufgedickt)されることが考慮される。すなわち、ラチェット歯が、ラチェット製造のための基材の板厚よりも大きい歯幅を有する、ということが考慮される。高められた歯幅に基づいて、ラチェット歯においてより小さい表面圧力が生じる。従って、パーキングロック歯車により高い周縁力が伝達され得る。
【0008】
特に有利な実施の形態によれば、肥厚部(Aufdickung)は、ラチェット歯の領域の薄板の変形によって製造可能である。これにより、以下の利点が達成される。すなわち、発生する負荷、特には表面圧力、に対応する歯幅が設計され得る一方、ラチェットの残りの領域は基材のより小さい厚さを有するのみで足りる。これにより、重量の削減あるいは重量の最適化が達成され得る。さらに、ラチェットは、より小さい慣性モーメントを有することになり、これによって、切換時の快適性能(Schaltkomfort)が改善される。
【0009】
好適な実施の形態によれば、ラチェット歯は、ラチェットの略中央に配置されていて、好ましくは台形状に形成された歯形を有している。歯幅、すなわち基材の肥厚部は、フリンジ(周縁領域)にのみ及んでいる。当該フリンジは、歯形に平行に延びている。フリンジの外側では、歯幅は基材の板厚に減少している。これにより、以下の利点が達成される。すなわち、最適な歯幅のための基材肥厚領域(MaterialAufdickung)は最小の領域に限定され、一方、ラチェット歯の強度上の要求は満たされる。このことは、最小の変形作業を意味し、また、更なる重量低減に貢献する。
【0010】
本発明によれば、ラチェットの製造方法については、以下が考慮される。すなわち、最初に、一定の厚さの薄板から、つまり半製品材料(Halbzeugmaterial)から、金属片(粗金)が提供される。当該金属片が、塊成形(Massivumformung)を介して、ラチェット歯の領域において部分的に肥厚される。続いて、ラチェットの最終形状が、切断によって形成される。塊成形(Massivumformung)は、シンプルな変形工具、例えば雌型(ダイ)工具及び雄型工具、を用いて、低コストで実施され得る。このような塊成形によって、材料の歪み硬化が同時に生じるので、ラチェットの強度及び安全性が更に改良される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ラチェットの側面図である。
【図2】図2(a)は、図1のラチェットの平面図である。図2(b)は、図2(a)のX部分の拡大図である。
【図3】図2(b)のIII−III線断面図である。
【図4】図2(b)のIV−IV線断面図である。
【図5】変形される領域を有する金属片の平面図である。
【図6】図5のVI-VI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態が、図面に示されており、以下において詳述される。これらの記述及び/または図面から、更なる特徴及び/または利点が明らかにされる。
【0013】
図1は、ラチェット歯2を有する、本発明によるラチェット1を示している。ラチェット1は、鋼鉄の薄板から製造されており、板厚sを有している。一方、ラチェット歯2は、歯幅bを有しており、当該歯幅bは、板厚sより大きくなっている。ラチェット1は、上面1a及び下面1bを有している。ラチェット歯2は、その歯幅bに関して、寸法(b−s)だけ上面1aに対して肥厚されている。
【0014】
図2(a)は、長い側面1cを有するラチェット1を、ラチェット歯2と共に示す平面図である。ラチェット歯2は、略台形に形成された歯形2aを有しており、長い側面1cの中間領域に配置されている。ラチェット1は、ラチェット歯2を除いて、従来技術に一致している。当該ラチェット1は、不図示の回動円錐を受容するための穴3を、一端において有しており、凹部が設けられた作動領域4を、他端において有している。当該作動領域4には、パーキングロック装置の不図示のロック円錐(Sperrkegel)が係合する。以上により、ラチェット1は、不図示の変速機ハウジングに回転可能に配置されており、ラチェット歯2が不図示のパーキングロック歯車に係合すると、変速機出力軸のロックが作用する。
【0015】
図2(b)は、図2(a)のX部分の詳細図であり、すなわち、ラチェット歯2の拡大図である。ラチェット歯2は、フリンジ2bを有しており、当該フリンジ2bは、台形状に形成された歯形2aに平行に延びており、相似関係で(同様に)台形状に形成された線2cによって内側に面するように区切られている。
【0016】
図3は、図2(b)におけるIII−III線断面図を示している。図3から、板厚sに比べて肥厚された歯幅bが明らかに理解できる。ここでは、歯幅bは、フリンジ2bの領域に亘ってのみ延びており、斜面2dによってラチェット1の上面1aへと傾斜している。
【0017】
図4は、図2(b)におけるIV−IV線断面図を示している。図4では、板厚sに比べて大きくなった歯幅bが見分けられ得る。フリンジ2bは、斜面2dを介して、上面1aの平面内へと融合している。
【0018】
図5は、平面図において、予め形成された領域6を有する薄板からなる金属片5を示している。当該金属片5は、浮き出た領域6a及び6bを有する平らな上面5aを有しており、当該領域6a及び6bは、実線によって図示されている。金属片5の下面5bに配置された窪んだ領域6cは、破線によって図示されている。
【0019】
図6は、図5のVI−VI線断面図である。浮き出た領域6a、6b並びに窪んだ領域6cは、変形工具を介して製造される。当該変形工具は、一方では、浮き出た領域6a及び6bのための雌型(元型)として、他方では、窪んだ領域6cのための雄型(父型)として形成される。金属片5の材料は、最初は全体に板厚sを有しているが、塊成形(Massivumformung)(押圧成形、鋳造成形)によって部分的に肥厚され、浮き出た領域6aがラチェット歯2の形状(図2)に対応するように形作られる。塊成形の後で、予め形成された領域6を有する金属片5が切断される。完成されたラチェットの外側輪郭が、一点鎖線7a及び7bによって示されている。従って、ラチェット1の最終形状は、切断または細断によって製造される。予め形成された領域6b及び6cは、浮き出た領域6aの外側でなくなる(消失する)。
【0020】
本発明には、図示された実施の形態とは異なる歯形について、同様の製造方法によって適合する工具を用いて製造することが、含まれている。
【符号の説明】
【0021】
1 ラチェット
1a 上面
1b 下面
1c 長い側面
2 ラチェット歯
2a 歯形
2b フリンジ
2c 境界線
2d 斜面
3 孔
4 作動領域
5 金属片(Rohling)
5a 上部
5b 下部
6 予め形成された領域
6a 浮き出た領域
6b 浮き出た領域
6c 窪んだ領域
7a ラチェットの外部輪郭線
7b ラチェットの外部輪郭線
s 板厚
b 歯幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の板厚(s)を有する薄板から製造可能であるのに、ラチェット歯(2)が前記板厚(s)よりも大きい歯幅(b)を有する
ことを特徴とするラチェット歯(2)を有するラチェット(1)。
【請求項2】
前記歯幅(b)は、前記薄板の変形によって、製造可能である
ことを特徴とする請求項1に記載のラチェット。
【請求項3】
前記ラチェット(1)は、長い側面(1c)を有しており、
前記ラチェット歯(2)は、前記長い側面(1c)の中間領域に配置されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のラチェット。
【請求項4】
前記ラチェット歯(2)は、所定の歯形(2a)と、当該歯形(2a)に平行に延びているフリンジ(2b)と、を有しており、
前記フリンジ(2b)において、歯幅(b)は一定である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のラチェット。
【請求項5】
前記歯幅(b)は、斜面(2d)を介して、前記フリンジ(2b)の外部では減少している
ことを特徴とする請求項4に記載のラチェット。
【請求項6】
−金属片(5)が、前記所定の板厚(s)の薄板から提供され、
−前記金属片(5)が、塊成形(Massivumformung)を介して、部分的に歯幅(b)を肥厚され、
−前記ラチェット(1)の最終形状が、切断によって形成される
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のラチェット、の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−20671(P2011−20671A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161983(P2010−161983)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(592179300)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (56)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】