説明

自動車で自動的制動を実行するための方法およびその制御装置

【課題】圧力上昇の高いダイナミクスと共に閾圧力の調節の際に高い精度も達成することが可能な、自動車における自動的制動を実行するための方法および制御装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ回路内で支配的なブレーキ圧力が、調節可能な圧力閾値に到達したときに溢れ且つそれによってブレーキ圧力を制限する弁(USV)を用いて制限される、ブレーキ回路内でブレーキ圧力を生成するポンプによって、自動車における自動的制動を実行するための方法において、ブレーキ圧力が生成される段階の間に、弁(USV)で、予め定められている目標ブレーキ圧力よりも大きい圧力閾値が調節される。弁がより高い圧力になってから初めて開弁されるようにすれば、油圧ポンプから送られる大きな割合の流量が車輪ブレーキへ導かれて、閾圧力到達前にUSVを通して溢れてしまうことが無くなり、圧力上昇のダイナミクスが改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求項1の上位概念に基づく弁の制御のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビークルダイナミクスコントロール用として設計されている最近のブレーキシステムは、通常、車輪ブレーキ内の圧力の上昇又は低下を状況に応じて制御することができる複数の弁を備えている。
【0003】
図1は、ビークルダイナミクスコントロールを実施するために備えられている既知の油圧式ブレーキシステムの、本発明のために重要な部分を示している。ここに示されているブレーキシステムの一部には、流体リザーブタンク付きのメインブレーキシリンダ1、通常状態の下では開かれている(ノーマルオープン)開閉弁(USV)2、通常状態の下では閉じられている(ノーマルクローズ)開閉弁(HSV)3、油圧ポンプ(Rfp)4、インレット弁(EV)5、並びに車輪上に配置されている車輪ブレーキ(RB)6が含まれている。メインブレーキシリンダ1からのブレーキパイプは、USV2とHSV3に向けて分岐される。HSV3の後方に配置されている油圧ポンプ4は、HSV3が開かれているときに、ブレーキ液を、インレット弁5を通して車輪ブレーキ6へ送る。領域Aは、USV2と、油圧ポンプ4と、EV5との間の部分領域を示している。
【0004】
車両の安定した走行状態(正常状態)の下では、油圧ポンプ4は作動していない。USV2は開かれており、またHSV3は閉じられている。フットブレーキペダル(図示されていない)の操作によって、メインブレーキシリンダ1から、USV2とEV5を通して車輪ブレーキ6にブレーキ圧力が生成される。
【0005】
危険な走行状況では、コントローラ8が走行運転に介入する。この場合には、油圧ポンプ4が制御装置(μC)7によって制御され、USV2が閉じられ且つHSV3が開かれる。これにより、油圧ポンプ4は、油圧油を、リザーブタンクからインレット弁5を通して車輪ブレーキ6へ送り込み、ブレーキ圧力が自動的に引き上げられる。このために、コントローラ8は、予め目標圧力を設定している。
【0006】
現在の技術水準によれば、車輪ブレーキの圧力の制御のために、以下に簡単に説明される二つの異なる方法を採用している。
【0007】
第一の方法(吸入制御)の場合には、HSV3は、全圧力上昇の間開かれており、且つUSV2は閉じられている。図2は、油圧ポンプ4の流量qRfpと、弁USV2及びEV3の流量qUSV、qEVの原理的な変化、並びに車輪ブレーキの圧力pRadの変化を示している。時点t21における油圧ポンプ4のスイッチオンと、同時的な弁3の開弁と弁2の閉弁によって、油圧ポンプ4によって生成された全流量が、弁5を通して車輪ブレーキ6へ送られる。閾(到達)圧力pZielに達するや否や、HSV3が時点t22で閉じられる。油圧ポンプ4は作動を継続するが、流体は最早吸入されないので、油圧ポンプ4の流量qRfpとインレット弁の流量qEVはゼロとなる。USV2は、この全時間にわたって完全に閉じられている。従って、USV2の流量qUSVはゼロである。
【0008】
この方法は、油圧ポンプ4によって送出された全てのブレーキ液の量が車輪ブレーキへ流入し、従って、ブレーキの圧力上昇の最大のダイナミクスが達成されるという利点を持っている。しかしながら、欠点は、閾圧力pZielが専ら、HSV3が制御され且つ閉じられる時点によってのみ決定されるという点にある。この時点は一般に経験値であり、経験によって求められる。しかしながら、実際のブレーキシステムでは、ポンプの吐出性能、特に車輪ブレーキの弾性は、その使用期間に顕著な変動にさらされる。従って、油圧ポンプ4の吐出時間長さは同じでも、ブレーキシステムの状態に応じて到達される閾圧力pZielが異なって来る。
【0009】
車輪ブレーキでの圧力上昇の時間的変化は、近似的に次式によって再現される。
【0010】
【数1】

【0011】
ここで、Eは車輪ブレーキの弾性であり、kは、ポンプ電圧URfpとポンプ回転数n=URfp/2πkとの間の関係を示すポンプパラメータである。弾性Eの値は、製造や老化の条件の影響を受けるので、非常に大きく変化することがある。これは、圧力上昇に対して重要な影響を与える。
【0012】
モータ定数kもまた、圧力上昇の特性に影響を与える。VRfpは、回転の際にポンプによって要求される流量である。圧力上昇の時間長さTは、予めHSV3の開弁の時間長さによって定められているので、車輪ブレーキで実際に到達される最高圧力pMaxは、可変的なパラメータ値に大きく依存している。
【0013】
【数2】

【0014】
従って、達成目標とされている閾圧力pZielからの可能なずれも非常に大きい。
【0015】
既知の第二の方法では、USV2が、閾圧力pZielの正確な調節のために用いられる。図3には、油圧ポンプ4の流量qRfpと、弁USV2、EV3の流量qUSV、qEVの図式的な変化と、車輪ブレーキの圧力の変化pRadが示されている。時点t31では、HSV3が開かれ且つ油圧ポンプ4がスイッチオンされる。ここでもまた、最初に直線的な圧力上昇が行われるが、この変化は本質的にポンプ回転数nによって定められる。USV2の電流強度Iは、要求されている閾圧力pZielに等しい差圧Δpが弁2に印加されるや否や、弁2が溢れるように調節されている。時点t32に、この閾圧力に到達するので、USV2が開かれる。これにより、EV5の流量qEVはゼロとなる。
【0016】
要求された閾圧力は、USV2によって正確に調節される。しかしながら、この場合、圧力調節の精度はダイナミクスの損失という代償によって購われている。この欠点は、油圧ポンプ4からの流量qRfpが一様ではなく、図4に示されているようにパルス状であることに起因している。
【0017】
この油圧ポンプは一般に、不均一な吐出特性を有するポンプ、例えば、1−ピストンポンプ(1−Kolben−Pumpe)である。そのようなポンプの作動の際には、吸入過程Cと吐出過程Bとが周期的に交替する。この場合、ポンプによって完全な回転の間に送出される流量は、ゼロと最大値との間で変動する。その結果、周期的に発生するEV5でのブレーキ液の逆流によって、部分回路A(図1)には、同じく周期的に変動する動圧が発生する。部分回路Aの圧力がUSV2で調節されている閾圧力(pZiel)よりも高くなると、USV2が溢れるので、ブレーキ液の一部がUSVを越えて流出する。従って、この部分は最早圧力上昇のためには利用されず、それに応じて車輪ブレーキ6での圧力上昇もスローダウンされる。
【0018】
図5は、車輪ブレーキ6の典型的な圧力上昇の時間的変化を示している。その際、コントローラ8によって予め定められている目標圧力はpSollで示されている。この図において、目標圧力は、閾圧力pZielに到達するまで直線的に上昇している。車輪ブレーキ6で働く圧力はpRadで示されている。図から理解されるように、圧力pRadは、USV2からの流量損失のために、より緩やかに上昇し、場合によっては、要求された閾圧力に到達しないこともある。閾圧力に到達しないのは、例えば、図5に示されているように、制動プロセスが非常に短くて、車輪ブレーキ6の圧力が閾値到達前に再び低下してしまう場合である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の課題は、二つの方法の長所を組合わせ、且つそれによって圧力上昇の高いダイナミクスと共に閾圧力の調節の際に高い精度も達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この課題は、本発明によれば、特許請求項1に示されているメルクマールによって解決される。本発明のその他の実施態様は従属請求項の対象である。
【0021】
本発明によって、一つの弁、特にUSVの圧力閾値を、圧力上昇段階の間に、コントローラによって予め定められている目標圧力よりも高く調節することが提案される。このことは、弁がより高い圧力になったときに初めて開弁され、それによって、圧力上昇のダイナミクスが過度にスローダウンされないという利点を持っている。それ故、油圧ポンプによって送出された流量のより大きな部分が実際に車輪ブレーキへ送られ、目標圧力到達前に弁が溢れてしまうことが無くなる。
【0022】
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、弁で調節された圧力閾値が、ポンプによって生成された圧力のピーク値よりも小さいということが提案される。このようにすることによって、ブレーキ液の少なくとも一部が弁を通してメインブレーキシリンダ或いは流体のリザーブタンクの方向へ流れる。このことは、ポンプの回転数が、コントローラによって、圧力上昇のために必要な最小値よりも高く調節できるという利点を持つ。
【0023】
圧力閾値は、好ましくは、車輪ブレーキで働く制動圧力が時間的変化の中で望ましい目標圧力に等しくなるように調節される。この場合には、車輪ブレーキの制動作用は正にコントローラによって望まれている変化を示している。
【0024】
圧力閾値は、圧力上昇過程の間に、好ましくは規則的に新たに求められる。望ましい最大の目標圧力が到達されるや否や、圧力閾値がこの値に設定される。これによって、車輪ブレーキの圧力が この値に保持されるということが保証されている。
【0025】
圧力閾値は、例えばモデルをベースとして計算されるか、或いは特性マップから読み出すことができる。本発明の一つの好ましい実施態様によれば、圧力閾値を平均流量の関数として計算することが提案される。その際、この平均流量とは、車輪ブレーキの所で支配的な制動圧力が、本質的に望ましい目標圧力変化に等しくなるために、車輪ブレーキの方向に流れなければならない流量である。弁で調節されるべき圧力閾値は、このケースでは平均流量の関数であり、場合によっては、ブレーキの特性を表しているその他のパラメータ、例えば車輪ブレーキのインレット弁の絞り特性の関数である。
【0026】
代わりの手法として、圧力の上昇を特性マップから読み出すことが提案される。この手法はまた、必要なパラメータが判明していないか或いは十分に正確には判明していないときにも用いられる。
【0027】
提案されている特性マップは、例えば、圧力閾値と、車輪ブレーキの方向の平均流量或いは目標圧力の勾配との関係を表している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、ビークルダイナミクスコントロールのために作られた、従来技術から知られている油圧式ブレーキシステムの一部を示す。
【図2】図2は、様々な弁での流量の変化、及び吸入制御の方法のための車輪ブレーキの圧力を示す。
【図3】図3は、様々な弁での流量の変化、及びUSVが超過圧力弁として働く制御方法の場合の車輪ブレーキの圧力を示す。
【図4】図4は、様々な弁での流量の変化、及び1ピストンポンプの吐出特性を考慮した車輪ブレーキの圧力を示す。
【図5】図5は、USVが超過圧力弁として働く制御方法の場合の車輪ブレーキの圧力上昇の時間的変化を示す。
【図6】図6は、本発明の一つの実施態様に基づく流量と、それから導き出された圧力閾値を示す。
【図7】図7は、本発明に基づく圧力閾値の引上げがある場合と無い場合の車輪ブレーキの圧力変化の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明が、以下に添付の図面に基づいて例示として詳しく説明される。
【0030】
図1から図5までの説明に関しては、明細書の導入部を参照されたい。
【0031】
図6は、油圧ポンプ4の時間的に変化する流量qRfp(t)とインレット弁5を通って車輪ブレーキ6へ向かう流量qRad(t)の図式的変化を示している。
【0032】
ポンプの吐出段階Bの間、流量qRfp(t)は、回転数に対応した周波数fの正弦波の半波の形で流れる。吸入段階Cの間は、流量qRfp(t)はゼロに等しい。油圧ポンプの平均流量qm_Rfpが、ポンプの特性と実際の回転数から制御装置7で求められる。そこから、油圧ポンプ4の最大流量qmaxRfp が、qmaxRfp=πqmRfp を用いて決定される。これによって変化の振幅も既知となる。
【0033】
車輪ブレーキ6の圧力を、コントローラによって要求されたダイナミクスで立ち上げるためには、定められた平均流量qmRadが、インレット弁5を通って車輪ブレーキ6へ流れなければならない。油圧ポンプ4の各々の吐出段階Bでは、流体の一部が、USV2を通ってメインブレーキシリンダの方向へ流れ出るから、流量qmRadは、油圧ポンプ4によって生成された平均流量qmRfpよりも小さい。流体のこの流出部分が、図6ではハッチングによって示されている。残りの部分(qGrenzの下側)が車輪ブレーキ6へ流れる。
【0034】
車輪ブレーキへの平均流量は、次の関係式から得られる。
【0035】
【数3】

【0036】
これから、閾値qGrenzを求めることができるが、この閾値は、流量qmRad及びqmRfpの関数であり、これ等の二つの流量は共に既知である。
【0037】
弁の特性、即ち、絞り係数αと、絞り直径dと、ブレーキ液の密度ρとから、次式を用いてUSV2で調節されるべき圧力閾値ΔpGrenzが得られる。
【0038】
【数4】

【0039】
【数5】

【0040】
この圧力閾値もまた、USV2の特定の電流強度Iに対応している。この電流強度に合わせられると、車輪ブレーキで本質的に目標要求の圧力上昇が行われる。図6でハッチングによって示されている残りの流体は、USV2を通って流出する。
【0041】
圧力上昇段階の間、ブレーキ圧力を定められた値だけ増加させるために必要な車輪ブレーキへの平均流量pmRadは減少する。それと併行して、閾値qGrenzと圧力閾値ΔpGrenzのより小さい値への対応する移行が行われる。従って、圧力閾値は、規則的な間隔、例えば5m秒毎に新しく決定され且つそれに応じてUSV2が制御される。
【0042】
図7は、コントローラ8から出力された目標圧力psollの典型的な変化と、本発明に基づく圧力補正装置付きと無しの場合の車輪ブレーキの実際の圧力(特性曲線10または9)を示している。その下には、圧力閾値ΔpGrenzの対応する変化が示されている。
【0043】
図7からはっきりと理解されるように、この方法によって、車輪ブレーキの実際の圧力pRadを目標圧力psollに適応させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ回路内で支配的なブレーキ圧力が、調節可能な圧力閾値に到達したときに溢れ且つそれによってブレーキ圧力を制限する弁(USV)を用いて制限される、ブレーキ回路内でブレーキ圧力を生成するポンプによって、自動車における自動的制動を実行するための方法において、
ブレーキ圧力が生成される段階の間に、弁(USV)で、予め定められている目標ブレーキ圧力よりも大きい圧力閾値が調節されることを特徴とする方法。
【請求項2】
ブレーキ圧力が生成される段階の間に調節される圧力閾値が、ポンプによって生成される圧力ピークよりも小さく、それによって、ポンプから送出される流体の少なくとも一部が、弁を通して流出することができることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
圧力閾値は、ブレーキ回路のブレーキ圧力の時間的変化が予め定められている目標圧力の変化に対応しているように調節されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
弁(USV)で調節されるべき圧力閾値が、圧力上昇段階の間に規則的に新しく求められることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
圧力閾値が、望まれている閾圧力への到達と共に閾圧力の値に設定されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
弁(USV)で調節された圧力閾値が望まれている目標圧力を越えるために、圧力上昇(Δp)が求められることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
圧力閾値が、ブレーキ回路で実際に支配的な圧力が目標圧力に対応するようにするために、車輪ブレーキの方向に送られなければならない平均流量の関数として計算されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
必要とされる圧力上昇が、特性マップから読み出されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
特性マップが、圧力上昇(Δp)とブレーキ回路で実際に支配的な圧力が目標圧力に対応するようにするために車輪ブレーキの方向に送られなければならない平均流量との関係を示していることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法を実施する弁の制御のための手段を含んでいる制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−512141(P2013−512141A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540336(P2012−540336)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064748
【国際公開番号】WO2011/067012
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】