説明

自動車のアウターパネル

【課題】木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネルにおいて、軽量で、しかも剛性に優れた自動車のアウターパネルを提供すること。
【解決手段】木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネル10であって、アウターパネル10の裏面には、植物の茎の芯部をスライスして得られたスライス片12が配置されており、このスライス片12は、その長手方向がアウターパネル10の上下方向に沿って配列されている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のアウターパネルに関しては、リサイクル性や廃棄物処理などの環境問題対策の観点から植物などから採取される木質系材料を用いたアウターパネルの提案が様々なされている。このような木質系材料を用いたアウターパネルは、土壌中で分解する材料であるので、廃棄の際に地球環境に負荷を与えない自動車を実現することができる。また、木質系材料を用いたアウターパネルは、軽量な材料であるので、燃費に優れた自動車を実現することができる。これに関連する技術として、例えば、特許文献1には木材を用いたパーティクルボードが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−235747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した木質系材料を用いた自動車のアウターパネルの一般的な構成が図8に示されている。図8は、このアウターパネル10の断面を示す断面図である。アウターパネル10は、通常、インナーパネル等の自動車の構成部材に取付けらて用いられる。このため、図8に示したアウターパネル10には、その上端及び下端に取付フランジ部16、16が設けられている。
しかし、アウターパネルを自動車の構成部材に取付けた場合、木質系材料の特性上、鉄などの金属製の材料に比べるとやや剛性に乏しいという問題がある。例えば、図8で示したアウターパネル10を自動車の構成部材に取付けた場合、アウターパネル10の外側から荷重が掛かると(図8中の矢印で示す)、特に、取付フランジ部16、16間にある中央付近の剛性が弱くなりやすい。
【0005】
一方、上記の問題に対しては、アウターパネルの板厚を厚くする、あるいは、剛性をもつ部材によって補強するなどの方法が考えられる。しかし、このような方法をとると、場合によっては、アウターパネルの重量の増加を招いてしまうことがある。この場合、軽量である木質系材料を用いるメリットがなくなり好ましくないという問題がある。また、補強する部材によっては、アウターパネルの生産コストが高くなってしまうという問題も生じる。
【0006】
そこで、本発明は、木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネルにおいて、軽量で、しかも剛性に優れた自動車のアウターパネルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために、次の手段をとる。
ます、第1の発明は、木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネルであって、前記アウターパネルの裏面には、植物の茎の芯部をスライスして得られたスライス片が配置されており、前記スライス片は、その長手方向が前記アウターパネルの上下方向に沿って配列されていることを特徴とする自動車のアウターパネルである。
この第1の発明によれば、アウターパネルの裏面にスライス片を配置することで、アウターパネルを補強する。このため、軽量で、しかも環境に優しいアウターパネルを実現することが可能となる。また、スライス片の長手方向がアウターパネルの上下方向に配列されるので、アウターパネルは外から荷重が掛かっても変形しにくい構造となる。すなわち、剛性に優れたアウターパネルを実現することが可能となる。
【0008】
次に、第2の発明は、木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネルであって、前記アウターパネルの裏面には、植物の茎の芯部をスライスして得られたスライス片が配置されており、前記スライス片は、その長手方向が前記アウターパネルの端部に設けられた取付フランジ部に対して直交する方向に沿って配列されていることを特徴とする自動車のアウターパネルである。
この第2の発明によれば、アウターパネルの裏面にスライス片を配置することで、アウターパネルを補強する。このため、軽量で、しかも環境に優しいアウターパネルを実現することが可能となる。また、スライス片の長手方向が取付フランジ部に対して直交する方向に配列されるので、アウターパネルは外から荷重が掛かっても変形しにくい構造となる。すなわち、剛性に優れたアウターパネルを実現することが可能となる。
【0009】
次に、第3の発明は、上記した第2の発明に係る自動車のアウターパネルにおいて、前記アウターパネルの下端部は、ホイールハウスに沿って円弧形状に形成されており、前記スライス片の長手方向は、該アウターパネルの下端部から放射状に配列されている特徴とする自動車のアウターパネルである。
この第3の発明によれば、ホイールハウス近傍のアウターパネルの剛性を高めることができる。これにより、自動車の走行による振動を抑えやすくなる。
【0010】
次に、第4の発明は、上記した第1の発明から第3の発明のいずれかに係る自動車のアウターパネルにおいて、前記植物の茎は、ケナフの茎であることを特徴とする自動車のアウターパネルである。
この第4の発明によれば、ケナフは一年草植物で成長が早く、しかも二酸化炭素を多量に吸収するために、極めて環境に優しい自動車のアウターパネルを実現することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネルにおいて、軽量で、しかも剛性に優れた自動車のアウターパネルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネルに係るものである。アウターパネルを圧縮して成形するためには、例えば、ホットプレス機などの公知の加圧成形機を用いることができる。また、本発明は、アウターパネルの裏面には、植物の茎の芯部をスライスして得られたスライス片が配置されることを特徴としている。
【0013】
本発明で用いられる木質系材料は、草木類あるいは木本類などの植物の茎や靭皮から採取することが可能である。具体的には、例えば、綿、麻、サイザル、ジュート、ラミー、ケナフ、亜麻などから採取することができる。あるいは、スギ、ヒノキ、ブナなどの各種の樹木から採取することが可能である。
【0014】
茎の芯部を有する植物としては、例えば、亜麻、黄麻、ケナフなどを挙げることができる。上記植物の茎の芯部は極めて軽量である。このため、軽量で、しかも環境に優しいアウターパネルを実現することができる。この中でも、特に、ケナフの茎の芯部を用いることが好ましい。ケナフは一年草植物で成長が早いため、より環境に優しいアウターパネルを提供できるからである。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
[実施例1]
本実施例では、植物の茎として、ケナフの茎を用いている。ケナフの茎は、中心側の芯部とその芯部を被覆する靭皮から構成されている。したがって、芯部は、ケナフの靭皮を人手により剥がすことなどによって得ることができる。
【0016】
図1は、ケナフの茎の芯部11からスライス片12が得られる工程を示す説明図である。図1に示すように、芯部11をその軸の斜め方向Aにスライス(切断)すると複数個のスライス片12が得られる。このとき、芯部11は、斜めにスライスされるのでスライス片12は長手方向Bに形成される。なお、芯部11の直径Cは20mm以上であることが好ましい。スライス片12が加工しやすいからである。
【0017】
図2は、本実施例が適用される自動車1を横から見た側面図である。図3は、自動車1から取り出したアウターパネル10の裏面側を示す正面図である。本実施例では、アウターパネル10が自動車1の車体を構成するフードパネルである例を示している。なお、本発明は、フードパネル以外のアウターパネルに対しても適用可能である。例えば、自動車の車体を構成するフェンダーパネルやドアアウターパネルに対しても適用することが可能である。
【0018】
図3に示すように、アウターパネル10の裏面には、スライス片12が配置されている。このスライス片12は、その長手方向がアウターパネル10の上下方向に配列されている。これにより、アウターパネル10を外からの荷重に対して変形しにくい構造とすることができる。
ここで、本実施例における上下方向とは、図2の自動車1の正面から見て自動車の前後方向を指している。一方、例えば、本実施例が自動車1の車体を構成するドアアウターパネルに適用されるものであれば、アウターパネル10の上下方向は、自動車1の高さ方向と略一致する方向となる。
【0019】
また、図3に示すように、スライス片12の配列は、アウターパネル10の裏面に略均等間隔で配列されていることが好ましい。アウターパネル10の剛性を確保しやくなるからである。また、機械的に配列しやすくなるからである。
【0020】
図4は、図2に示すアウターパネル10の自動車前後方向の断面を示す断面図である。図4に示すように、アウターパネル10の裏面には、その全面にわたってスライス片12が配置されている。このとき、アウターパネル10の真上から荷重G1が掛かると、荷重G1の掛かる方向とスライス片12の長手方向が直交する。このため、スライス片12に反力が働きやすくなり、アウターパネル10は簡単には曲がりにくくなっている。つまり、アウターパネル10の裏面に、スライス片12を配置しておくことでアウターパネル10の剛性を優れたものとすることができる。しかも、スライス片12は、植物から採取したものであるためアウターパネル10を補強する部材としても極めて軽量なものである。
なお、アウターパネル10の図4で見て左右の両端部には、自動車1の車体に取付けるための取付フランジ部16、16が設けられている。
【0021】
続いて、アウターパネル10の作製方法について説明する。図5は、アウターパネル10の作製工程の一例を示す説明図である。図5に示すように、アウターパネル10は、木質系材料(例えば、植物繊維)とバインダ樹脂とを混合し、その混合物を圧縮して成形したパネル基材14を作製するパネル基材作製工程と、パネル基材14の上にスライス片12を配列する配列工程と、パネル基材14とスライス片12を同時に熱プレスを行う熱プレス工程と、からなる作製方法により得ることができる。
【0022】
図5の最左の図は、木質系材料とバインダ樹脂とを混合し、その混合物を圧縮して成形したパネル基材14を示している。前記植物繊維としては、針葉樹、熱帯樹などの樹木やケナフ、イネ、サトウキビなどの草類から物理的処理又は化学的処理によって得られる繊維を用いることができる。この中でも、特に、ケナフの靭皮から得られた繊維を用いることが好ましい。なぜなら、スライス片12と同じ原材料であるケナフを用いることで、自然の資源を無駄にすることなくアウターパネル10を作製することができるからである。したがって、アウターパネル10は、ケナフの靭皮から得られる植物繊維とバインダ樹脂とを混合し、その混合物を圧縮して成形したパネル基材14と、ケナフの芯部をスライスして得られるスライス片12と、から構成されることがより好ましい。
また、前記バインダ樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリル酸エステルなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂を用いることができる。特に、植物をベースに高分子化合物として合成した脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸などのバイオプラスチックを使用することがより好ましい。
【0023】
図5の左から2番目の図は、パネル基材14の上にスライス片を配列する配列工程を示している。本実施例において、スライス片12は、その長手方向がアウターパネル10の上下方向に沿って配列される。上下方向に沿って配列するためには、例えば、機械的に又は人手によって行うことができる。ここで、仮に機械的にスライス片12をパネル基材14に配列した場合、そのほんの一部が作製工程の都合上、上下方向から多少ズレた方向となってもこの上下方向に含まれる。要するに、「スライス片12の長手方向がアウターパネルの上下方向に沿って配列されている」とは、配列されたスライス片12のうち、その大多数の長手方向がアウターパネルの上下方向に沿って配列されていればよい、という意味である。
【0024】
図5の左から3番目の図は、パネル基材14とスライス片12を同時に熱プレスを行う熱プレス工程を示している。本実施例では、加熱と加圧を同時に行うホットプレス機50を用いている。この熱プレス工程によりスライス片12とパネル基材14とは固着され、アウターパネル10が形成される。このアウターパネル10を示したのが図5の最右の図である。このとき、スライス片12が配置される面を、アウターパネル10の裏面として使用する。なお、パネル基材14とスライス片12を加圧する際には、両者に圧力を均一に加えることが好ましい。なぜなら、それだけスライス片12がパネル基材14へ均一な状態で配置されやすくなるからである。均一に圧力を加える手段としては、例えば、ロールプレスを用いることが可能である。
【0025】
[実施例2]
図6は、本実施例が適用される自動車1を部分的に示した斜視図である。図7は、自動車1から取り出したアウターパネル10の裏面側を示す斜視図である。本実施例では、アウターパネル10は、自動車1の車体を構成するフェンダーパネルである例を示している。図7に示すように、アウターパネル10の上端側と下端側には、自動車1の車体に取付けるための取付フランジ部16、16が設けられている。そして、図6及び図7に示すように、下端側の取付フランジ部16は、ホイールハウスWに沿って円弧形状に形成されている。ここで、ホイールハウスWとは、アウターパネル10(フェンダーパネル)とタイヤTとの空隙部分のことを指している。
なお、本実施例では、実施例1と同様に、植物の茎としてケナフの茎を用い、その芯部からスライス片12を採取した。
【0026】
図7に示すように、アウターパネル10の裏面には、スライス片12が配置されている。このスライス片12は、その長手方向が下端側の取付フランジ部16に対して直交する方向に沿って配列されている。また、この方向は、下端側の取付フランジ部16から放射状となる方向にもなる。このように、アウターパネル10の裏面に配置されるスライス片12の配列方向を特定することで、アウターパネル10を外からの荷重に対して変形しにくい構造とすることができる。
したがって、例えば、図6に示すように、アウターパネル10の真上から荷重G2が掛かると、荷重G2の掛かる方向とスライス片12の長手方向が直交する。このため、スライス片12に反力が働きやすくなり、アウターパネル10は簡単には曲がりにくくなっている。つまり、アウターパネル10の裏面に、スライス片12を補強しておくことで特にホイールハウスW近傍におけるアウターパネル10の剛性を高めることができる。これにより、自動車の走行による振動が抑えられるという効果も期待できる。しかも、スライス片12は、植物から採取したものであるためアウターパネル10を補強する部材としても極めて軽量なものである。
したがって、以上述べた実施例によれば、軽量で、しかも剛性に優れたアウターパネルを提供することが可能となる。
【0027】
本発明は上記実施の形態の構成に限定されることはなく、その他種々の形態で実施ができるものである。
例えば、上記実施の形態では、図1に示したように、芯部11をその軸の斜め方向Aにスライスした例を示したが、この態様に限定されるものではない。すなわち、芯部11をその軸方向(図1で見て上下方向)にスライスしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】芯部からスライス片を得るための工程を示す説明図である。
【図2】実施例1における自動車を横から見た側面図である。
【図3】実施例1に係るアウターパネルの裏面を示す正面図である。
【図4】図2に示すアウターパネルの自動車前後方向の断面を示す断面図である。
【図5】アウターパネルの作製工程を示す説明図である。
【図6】実施例2における自動車の一部を示す斜視図である。
【図7】実施例2に係るアウターパネルの裏面を示す斜視図である。
【図8】一般的な木質系材料を用いたアウターパネルの断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 自動車
10 アウターパネル
11 芯部
12 スライス片
14 パネル基材
16 取付フランジ部
50 ホットプレス機
A 斜め方向
B スライス片の長手方向
C 芯部の直径
G1、G2 荷重
T タイヤ
W ホイールハウス



【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネルであって、
前記アウターパネルの裏面には、植物の茎の芯部をスライスして得られたスライス片が配置されており、
前記スライス片は、その長手方向が前記アウターパネルの上下方向に沿って配列されていることを特徴とする自動車のアウターパネル。
【請求項2】
木質系材料を圧縮して成形された自動車のアウターパネルであって、
前記アウターパネルの裏面には、植物の茎の芯部をスライスして得られたスライス片が配置されており、
前記スライス片は、その長手方向が前記アウターパネルの端部に設けられた取付フランジ部に対して直交する方向に沿って配列されていることを特徴とする自動車のアウターパネル。
【請求項3】
請求項2に記載の自動車のアウターパネルであって、
前記アウターパネルの下端は、ホイールハウスに沿って円弧形状に形成されており、前記スライス片の長手方向は、該アウターパネルの下端から放射状に配列されている特徴とする自動車のアウターパネル。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の自動車のアウターパネルあって、
前記植物の茎は、ケナフの茎であることを特徴とする自動車のアウターパネル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−91146(P2007−91146A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286262(P2005−286262)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】