説明

自動車の後座席用クッション

【課題】安価な構成としながらも騒音の発生を防止して所要の剛性と耐熱性を得ることのできる自動車の後座席用クッションを提供する。
【解決手段】複数の乗員が並んで座れるベンチ形態となったクッション本体2と、クッション本体2の下面から上方に向け凹設された嵌合凹所3に嵌め込み固定された補強材4とを備えている。補強材4は、パルプを素材して、嵌合凹所3に接触する上面から下方に向け凹んだ上面凹部9を複数個配設された形状になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車における2〜3人の乗員が並んで座れるベンチ形態となった後座席用クッションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内部には、乗員一人一人に独立したバケット形態の前座席と、図7に示すように、2〜3人の乗員が並んで座れるベンチ形態の後座席とが設置されている。後座席のクッション30は、所要のクッション性を確保する目的から、発泡ウレタンを素材として形成されている。但し、後座席用クッション30は、そのレイアウト上、厚みが非常に大きな形状となるから、その全体を発泡ウレタンで形成すると、それに伴って剛性が不十分となって、簡単に変形して型崩れが生じ易いので、座り心地が悪くなり、特に、近年において取り付けが義務付けられているチャイルドシートが倒れてしまうといった不具合が生じる。
【0003】
そこで、従来の後座席用クッション30では、発泡ウレタンを素材として形成されたクッション本体31の底部に、クッション本体31の長手方向に延びる嵌合凹所32を形成して、この嵌合凹所32に補強材33を下方から嵌め込んだ構成としている。これにより、後座席用クッション30は、発泡ウレタンからなるクッション本体31の強度不足が補強材33により補われて、剛性が向上したものとなる。前記補強材33は、発泡ポリスチレン、硬質合成樹脂または軽量金属などを素材として形成されたものが多い。
【0004】
ところで、上述した構成の後座席用クッション30では、自動車の走行時の振動の影響を受けてクッション本体31と補強材33とが相互に擦れ合って、乗員が不快感を覚えるような騒音が発生する不具合がある。また、後座席用クッション30は、自動車の排気管の上方箇所に配置して設けられることが多いので、排気管から放出する排気熱が熱伝達されるが、特に、ポリスチレンビーズを素材とする発泡成形品としての補強材33を用いたものでは、補強材33の耐熱性が低いことから、補強材33が早期に劣化してしまう問題がある。
【0005】
このような問題を解消するための対策として、従来では、図7のB−B線断面図である図8に示すような構成としている。すなわち、従来では、クッション本体31の嵌合凹所32と補強材33との間に、布状の緩衝部材34を介在させて相互に嵌め合わせることにより、クッション本体31と補強材33とが相互に擦れ合う際に発生する騒音を防止するように図っている。また、ポリスチレンビーズを素材とする発泡成形品の補強材33を用いる場合には、この補強材33の底面にフェルト板37を当てがって耐熱性の向上を図ることにより、補強材33の早期劣化を防止するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記後座席用クッション30では、別部材としての緩衝部材34やフェルト板37を必要とするので、部品点数が増加するとともに組立工数が多くなり、その分だけコスト高となる。また、硬質合成樹脂製または軽量金属製の補強材33は、成形金型の製作費が高くつくことから、製造コストが高くなる。さらに、軽量金属製の補強材33は、剛性および耐熱性の点において他の素材に比較して優れている利点を有する反面、重量が大きくなる欠点がある。
【0007】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたもので、安価な構成としながらも騒音の発生を防止して所要の剛性と耐熱性を得ることのできる自動車の後座席用クッションを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の自動車の後座席用クッションは、複数の乗員が並んで座れるベンチ形態となったクッション本体と、前記クッション本体の下面から上方に向け凹設された嵌合凹所に嵌め込み固定された補強材とを備え、前記補強材が、パルプを素材として、前記嵌合凹所に接触する上面から下方に向け凹んだ上面凹部を複数個配設した形状に形成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1の自動車の後座席用クッションにおける補強材に、上面凹部の下面側である下面凸部における隣接する各2つの前記下面凸部間を相互に連結する補強リブが一体形成されたものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または2の自動車の後座席用クッションにおける補強材の上面凹部が、底部よりも上端開口の断面積が大きい拡口形状に形成されたものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3の何れかの自動車の後座席用クッションにおける補強材が、古紙を化学的に蒸煮することにより、繊維質を分離して、洗浄および叩解などの工程を経たのち、抄紙機による抄紙工程により板状の紙製形成材料とし、この形成材料に押圧成形を施すパルプモールド生産過程を経て製作されたものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明では、補強材が複数個の上面凹部を有していることから、補強材の嵌合凹所に対する接触面積が既存のものに比較して少なくなるのに伴って補強材と嵌合凹所との摩擦箇所が減少するとともに、パルプを素材とする補強材の摩擦係数が大きいので、従来のような緩衝部材を介在させなくても、自動車の走行時の振動を受けた場合の騒音発生が極めて少なくなる。また、補強材は、耐熱性に優れたパルプを素材として形成されているので、従来のようなフェルト板も不要となる。そのため、この発明では、部品点数および組立工数が共に減少するので、コストダウンを図ることができる。また、補強材は、上面凹部などを有する凹凸形状を有していることから、強度の向上したものになっており、パルプを素材として形成されているにも拘わらず、従来の補強材とほぼ同等の剛性を有したものとなり、しかも、重量の増大を招かない。さらに、補強材は、パルプを素材していることから、極めてリサイクル性に優れている利点がある。
【0013】
請求項2の発明では、補強材の強度が補強リブによって向上するので、剛性が一層向上した補強材とすることができる。
【0014】
請求項3の発明では、例えば、補強材の製造元から自動車の組立工場などに輸送するような場合、下方位置の補強材の上面凹所に上方位置の下面凸部を上方から嵌め込むようにして複数個数を上下方向に積み重ねることにより、極めて嵩低く積み重ねることができるから、輸送費用を低減できる。
【0015】
請求項4の発明では、成形金型を用いて成形加工を経て製作される従来の各補強材とは異なり、パルプモールド生産過程を経て製作できるので、所要形状の補強材を安価に製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る自動車の後座席用クッション1を示す斜視図であり、図2は図1のA−A線断面図である。この後座席用クッション1は、既存のものと同様の嵌合凹所3が底部に形成された発泡ウレタン製のクッション本体2と、上記嵌合凹所3に嵌め込まれた補強材4とを備えて構成されている。補強材4は、パルプを素材としてシェル形態に形成されたパルプモールド品である。また、この実施の形態では、補強材4の素材としてのパルプは、例えば、古新聞、ダンボール、雑誌などの、所謂古紙を用いて作ったものを支障なく利用することができる。
【0017】
図3は上記補強材4を示す斜視図であり、この図3および図2を参照しながら補強材4について詳述する。この補強材4は、クッション本体2の嵌合凹所3に対応した上面外形を有し、その長手方向の両端部に、上下方向にそれぞれ突出する一対ずつの止着部7,8が一体形成されているとともに、これら止着部7,8の間に、平面視でほぼ長方形を有し、且つ下方に向け凹んだ上面凹部9が互いに平行な配置で複数個(この実施の形態では6個の場合を例示)配設されている。また、この補強材4は、下面全体が上面全体に対し一定の厚みで対応する形状、換言すると、所定厚みの板部材にプレス加工を施して凹凸を設けた形状と同様の形状を有している。したがって、上面凹部9に対応する下面側が下面凸部10となり、両止着部7,8の下面側が下面空間11になっている。このような形状は、パルプを素材として周知のパルプモールド生産工程を経て補強材4を製作することから、容易に形成することが可能である。なお、クッション本体2の嵌合凹所3は補強材4の上面外形に対応した形状になっているのは言うまでもない。
【0018】
この実施の形態の後座席用クッション1は、クッション本体2の嵌合凹所3に補強材4を圧入状態で嵌め込むことにより構成されるが、嵌め込まれた補強材4は、板状材にプレス加工を施して凹凸を形成した形状によって得られる弾力性による復元力と同等の復元力によって嵌合凹所3に密着状態に嵌合するとともに、両端部の止着部7,8によって長手方向への移動を防止されて、クッション本体2に一体化される。
【0019】
上記構成とした後座席用クッション1は、補強材4が複数個の上面凹部9を有していることから、補強材4の嵌合凹所3に対する接触面積が既存のものに比較して少なくなり、それに伴って補強材4と嵌合凹所3との摩擦箇所が減少する。それに加えて、補強材4は、パルプを素材としていることによって摩擦係数が大きくなる。そのため、この後座席用クッション1では、嵌合凹所3と補強材4との間に従来のような緩衝部材34を介在させなくても、自動車の走行時の振動を受けた場合の騒音発生が極めて少なくなる。また、補強材4は、耐熱性に優れたパルプを素材として形成されているので、従来のようなフェルト板37も不要となる。したがって、上記後座席用クッション1は、部品点数および組立工数が共に減少し、しかも、古紙を用いて作ったパルプを素材として補強材4を製作できることと併せて、相当のコストダウンを図ることができる。
【0020】
また、補強材4は、上面凹部9、下面凸部10および下面空間11などを有する凹凸形状になっているので、この凹凸形状によって強度の向上したものとなるから、パルプを素材としたパルプモールド成形品であるにも拘わらず、発泡ポリスチレン、硬質合成樹脂または軽量金属などを素材とした従来の補強材とほぼ同等の剛性を持たせることが可能である。
【0021】
さらに、補強材4は、板部材に凹凸を施したような形状を有していることから、その分だけ形成材料が少なくて済むから、従来のポリスチレンビーズを素材とした発泡成形品とほぼ同程度の重量に抑えることができ、パルプを素材とするにも拘わらず、重量の増大を招かない。
【0022】
しかも、補強材4は、1枚の板部材に凹凸を施した形状を有しているとともに、各上面凹部9が、底部よりも上端開口の断面積が大きい拡口形状に形成されているので、図4に示すように、補強材4の製造元から自動車の組立工場などに輸送する場合、下方位置の補強材4の上面凹所9に上方位置の下面凸部10を上方から嵌め込むようにして複数個数を上下方向に積み重ねることにより、極めて嵩低く積み重ねることができるから、輸送費用を低減できる利点がある。また、補強材4は、パルプを素材していることから、極めてリサイクル性に優れており、この点からも、コストダウンを図ることができる。
【0023】
また、上記補強材4は、周知のパルプモールド生産工程を経て製作することができる。すなわち、材料として集めた上述の種々の古紙を化学的に蒸煮することにより、繊維質を分離して、洗浄および叩解などの工程を経たのち、抄紙機による抄紙工程により板状の紙製形成材料とされ、さらに、この形成材料に押圧成形を施すことにより、上述した形状の補強材4を容易に製作することができる。この製作手段では、成形金型を用いて用いた成形加工を経て製作される従来の各補強材とは異なり、成形金型を用いることなく製作できるので、所要形状の補強材4を安価に製作することができる。
【0024】
図5は本発明の他の実施の形態に係る自動車の後座席用クッションにおける補強材12を示す上方から見た半部の斜視図、図6は同補強材12を示す下方から見た半部の斜視図である。この補強材12は、一実施の形態における補強材4とほぼ同様の止着部7、複数個の上面凹部9、下面凸部10および下面空間11を備えており、それに加えて、下面において、隣接する各2つの下面凸部10間を相互に連結する補強リブ13が一体形成されている。
【0025】
この補強材12を用いた後座席用クッションは、一実施の形態で説明したと同様の効果を得ることができ、それに加えて、補強材12の強度が補強リブ13によって向上するので、剛性が一層向上した補強材4とすることができる利点がある。但し、輸送に際しては、一実施の形態のものに比較して、複数個の補強材12を積み重ねた場合の上下方向の嵩が若干高くなる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る自動車の後座席用クッションは、補強材を、パルプを素材して上面に複数の凹部を有する形状とするだけで、緩衝部材やフェルト板を用いることなしに騒音の発生を防止して所要の剛性と耐熱性を得ることができるから、部品点数および組立工数を低減して安価に製作でき、好適な座り心地を得られるものを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動車の後座席用クッションを示す斜視図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】同上の後座席用クッションにおける補強材を示す斜視図。
【図4】同上の補強材を2個上下に積み重ねた状態の断面図。
【図5】本発明の他の実施の形態に係る自動車クッションにおける補強材を示す上方から見た半部の斜視図。
【図6】同上の補強材を示す下方から見た半部の斜視図。
【図7】従来の自動車の後座席用クッションを示す斜視図。
【図8】図7のB−B線断面図。
【符号の説明】
【0028】
1 後座席用クッション
2 クッション本体
3 嵌合凹所
4 補強材
9 上面凹部
10 下面凸部
12 補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の乗員が並んで座れるベンチ形態となったクッション本体と、
前記クッション本体の下面から上方に向け凹設された嵌合凹所に嵌め込み固定された補強材とを備え、
前記補強材が、パルプを素材として、前記嵌合凹所に接触する上面から下方に向け凹んだ上面凹部を複数個配設した形状に形成されていることを特徴とする自動車の後座席用クッション。
【請求項2】
補強材に、上面凹部の下面側である下面凸部における隣接する各2つの前記下面凸部間を相互に連結する補強リブが一体形成されている請求項1に記載の自動車の後座席用クッション。
【請求項3】
補強材の上面凹部が、底部よりも上端開口の断面積が大きい拡口形状に形成されている請求項1または2に記載の自動車の後座席用クッション。
【請求項4】
補強材が、古紙を化学的に蒸煮することにより、繊維質を分離して、洗浄および叩解などの工程を経たのち、抄紙機による抄紙工程により板状の紙製形成材料とし、この形成材料に押圧成形を施すパルプモールド生産過程を経て製作されたものである請求項1ないし3の何れかに記載の自動車の後座席用クッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−81603(P2006−81603A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266872(P2004−266872)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(391032451)富士シート株式会社 (12)
【Fターム(参考)】