自動車乗員保護用エネルギー吸収部材
【目的】インストルメントパネル内の余剰スペースが確保され、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0、もしくは1.0より小さくすることを可能とする断面形状をそなえたアルミニウム合金の中空押出形材からなる衝撃エネルギー吸収特性に優れた自動車乗員保護用エネルギー吸収部材を提供する。
【構成】アルミニウム合金の中空押出形材からなり、仕切壁により仕切られた取付部とエネルギー吸収部とから構成されるエネルギー吸収部材であって、取付部は外側に開口した開断面形材からなり、エネルギー吸収部材はL形の凹部をそなえた閉断面形材からなり、エネルギー吸収部材に衝撃荷重が負荷された場合、前記凹部を形成する壁同士が接触するよう変形して荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする。
【構成】アルミニウム合金の中空押出形材からなり、仕切壁により仕切られた取付部とエネルギー吸収部とから構成されるエネルギー吸収部材であって、取付部は外側に開口した開断面形材からなり、エネルギー吸収部材はL形の凹部をそなえた閉断面形材からなり、エネルギー吸収部材に衝撃荷重が負荷された場合、前記凹部を形成する壁同士が接触するよう変形して荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車乗員保護用エネルギー吸収部材、詳しくは自動車が衝突した場合に乗員の安全を確保するため、車体のインストルメントパネル内部などに取付けられるアルミニウム合金の中空押出形材製エネルギー吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突時、衝突時の慣性力により搭乗者の膝が車体に衝突した場合、衝撃エネルギーを除々に吸収して搭乗者の保護を図ることが必要である。エネルギーを吸収する方法の一つとして、車体のインストルメントパネル内部にエネルギー吸収部材(ニーガードと称する)を装着する手法が挙げられる。ニーガードには、膝が車体に衝突した衝撃により斜め下方からの圧縮荷重を受けた際、除々に衝撃エネルギーを吸収することが要求され、圧縮荷重―変位線図における平均荷重が高いほど多くの衝撃エネルギーを吸収することが可能となる。
【0003】
圧縮荷重―変位線図における初期ピーク荷重が高すぎると、乗員の膝にダメージを与えてしまうこととなり、また一方、平均荷重が低すぎると衝撃エネルギーを吸収しきれないことから、乗員の膝にダメージを与えてしまうこととなる。図14は圧縮荷重―変位線図における初期ピーク荷重と平均荷重を示す図であるが、初期ピーク荷重/平均荷重の比が1.0に近いほどニーガードとして優れた特性を持つことになり、逆に初期ピーク荷重/平均荷重の比が大きくなるほどニーガードとして好ましくない。
【0004】
また、車種によっては、衝突初期の段階では、膝が接触する部品(例えばグローブボックス)とニーガードの両方でエネルギーを吸収し、衝突による変形の後半では、ニーガードのみでエネルギーを吸収する場合がある。このようなケースにおいては、ニーガード単体の衝突特性として、変形の後半に荷重が上昇することが好ましい。これは、初期ピーク荷重/平均荷重の比が1.0より小さくなることを意味する。
【0005】
近年、環境問題から自動車車体重量の軽減が提唱されており、ニーガードについてもアルミニウム押出形材の使用が検討されている。アルミ合金押出形材を使用したニーガード例として、平行に設けられた前面フランジおよび後面フランジと、該フランジ間をつなぐ略平行に設けた左右のウェブから構成され、ウェブがそれぞれ外側に向かって湾曲している断面形状のものが提案されており(特許文献1参照)、また、上記のものを2段重ねに連結させた断面形状のものも提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
上記提案のものは、平行に設けられたフランジをつなぐウェブが外側に向かって湾曲させることにより平均荷重/最大荷重の比を調整しようとするものであるが、図15に示すように、乗員の膝が斜め下方から衝突することを考慮し、衝突方向に対してフランジが垂直となるように取り付けると、インストルメントパネル内の余剰スペースが小さくなるという難点がある。さらに、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0に近くすることは可能であるものの、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0より小さくすることができない、すなわち、初期荷重の発生後に荷重を再上昇させることができない。
【特許文献1】特開2004−090910号公報
【特許文献2】特開2005−053437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車乗員保護用エネルギー吸収部材においては、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0より小さくすることが最も望ましいとされ、また軽量化に対する要求もますます厳しくなっており、軽量で且つエネルギー吸収特性に優れたアルミニウム合金製自動車用エネルギー吸収部材が要請されている。
【0008】
本発明は、上記の要請にこたえるためになされたものであり、その目的は、インストルメントパネル内の余剰スペースが確保され、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0、もしくは1.0より小さくすることを可能とする断面形状をそなえたアルミニウム合金の中空押出形材からなる衝撃エネルギー吸収特性に優れた自動車乗員保護用エネルギー吸収部材を提供することにある。
【0009】
上記の目的を達成するための請求項1による自動車乗員保護用エネルギー吸収部材は、アルミニウム合金の中空押出形材からなり、仕切壁により仕切られた取付部とエネルギー吸収部とから構成されるエネルギー吸収部材であって、取付部は外側に開口した開断面形材からなり、エネルギー吸収部材はL形の凹部をそなえた閉断面形材からなり、エネルギー吸収部材に衝撃荷重が負荷された場合、前記凹部を形成する壁同士が接触するよう変形して荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項2による自動車乗員保護用エネルギー吸収部材は、請求項1において、前記エネルギー吸収部材が、仕切壁と、該仕切壁に並設された上部壁および下部壁と、上部壁に連続して形成されたL形の凹部と、該凹部を構成する縦部壁と横部壁と、凹部の横部壁と下部壁とを連結し横部壁と鋭角をなして斜め下方に延びる荷重負荷壁とからなり、該荷重負荷壁に衝撃荷重が負荷された場合、凹部を構成する縦部壁と横部壁とが接触するとともに、縦部壁と横部壁とが交差する凹部の角部と下部壁とが接触して、荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項3による自動車乗員保護用エネルギー吸収部材は、請求項1または2において、前記外側に開口した開断面形材からなる取付部が、自動車インストルメントパネル内の部材を挟持するよう取り付けられ、自動車乗員の膝がダッシュボードに衝突した際のエネルギーを吸収するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インストルメントパネル内の余剰スペースが確保され、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0、もしくは1.0より小さくすることを可能とする断面形状をそなえたアルミニウム合金の中空押出形材からなる衝撃エネルギー吸収特性に優れた自動車乗員保護用エネルギー吸収部材が提供される。また本発明によれば、断面形状設計の自由度が高く、車種により外寸や肉厚を調製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の自動車乗員保護エネルギー吸収部材は、調質された熱処理型アルミニウム合金の中空押出形材、例えば、押出後、T5処理、T6処理されたAl−Zn−Mg系(7000系)、Al−Mg−Si系(6000系)アルミニウム合金の中空押出形材からなる。
【0014】
図1〜2に示すように、本発明の自動車乗員保護エネルギー吸収部材SAは、仕切壁2により仕切られた取付部Aとエネルギー吸収部Bとから構成され、取付部Aは外側に開口した開断面形材からなり、図3に示すように、挟持壁1、1でインストルメントパネル内のビームなどを挟持することにより、エネルギー吸収部材SAをニーガードとして取り付ける。
【0015】
エネルギー吸収部材Bは、L形の凹部をそなえた閉断面形材からなり、エネルギー吸収部材Bに衝撃荷重が負荷された場合、図11に示すように、凹部を形成する壁4、5(図2)同士が接触するよう変形して荷重の低下を防止するよう構成されている。
【0016】
好ましい実施形態としては、図2に示すように、エネルギー吸収部材Bが、仕切壁2と、仕切壁2に並設された上部壁3および下部壁7と、上部壁3に連続して形成されたL形の凹部と、凹部を構成する縦部壁4と横部壁5と、凹部の横部壁5と下部壁7とを連結し横部壁5と鋭角をなして斜め下方に延びる(下部壁7と90°より大きい鈍角をなして斜め上方に延びる)荷重負荷壁6とからなり、荷重負荷壁6に衝撃荷重が負荷された場合、図11に示すように、凹部を構成する縦部壁4と横部壁5とが接触するとともに、縦部壁4と横部壁5とが交差する凹部の角部45と下部壁7とが接触して、荷重の低下を防止するよう構成される。
【0017】
本発明の自動車乗員保護用エネルギー吸収部材SAは、図3に示すように、外側に開口した開断面形材からなる取付部Aの挟持壁1、1で、自動車インストルメントパネル内のビームを挟持することにより取り付けられ、自動車乗員の膝がダッシュボードに衝突した際のエネルギーを吸収する。
【0018】
エネルギー吸収部Bは、衝撃荷重が負荷される荷重負荷壁6、初期に変形する壁(横部壁5、下部壁7)および後期に変形する壁(上部壁3、縦部壁4)により構成され、衝突初期に変形する壁(横部壁5)と衝突後期に変形する壁(縦部壁4)を接触させ、且つ角部45と下部壁7を接触させることにより荷重低下を防止する。取付部Aとエネルギー吸収部Bを仕切る仕切壁2を設けることにより、エネルギー吸収部材において変形する領域を小さくし、具体的には上部壁3、下部壁7が仕切壁2に支持されることにより拘束が増えることで、全体的な荷重を底上げしている。さらに、変形後半に荷重を再上昇させる必要がある場合には、変形後半の荷重に影響を与える壁(上部壁3、縦部壁4)の肉厚をその他の壁よりも厚くすればよい。
【0019】
衝撃荷重が負荷される荷重負荷壁6を斜め下方からの衝突方向に対して略垂直となるように設け、且つ、衝突初期に変形する横部壁5と衝突後期に変形する縦部壁4のなす角度を略90°となるように形材の断面形状を設計することによって、変形中に壁同士がきれいに接触し、荷重の低下を防止することが可能となる。
【0020】
本発明のエネルギー吸収部材SAは、下部壁7が車体の水平方向となるように、インストルメントパネル内のメインビームに装着する(図3)。本発明のエネルギー吸収部材SAにおいては、従来のエネルギー吸収部材と異なり、メインビーム下方のスペースを有効に利用することができ、例えばグローブボックスの収納スペース拡大などが可能となる。
【0021】
本発明のエネルギー吸収部材SAは、例えば、乗員の両膝の間に1個、あるいは両膝の前に1個づつ、インストルメントパネル内のメインビームに装着する。この場合、エネルギー吸収部材SAは、長さ50〜150mm程度に切断して使用される。長さが50mmよりも短いと、膝が衝突する位置が車体左右方向にずれた場合に、エネルギー吸収特性が低下し易くなる。長さが150mmより大きいと、重量が増加してエネルギー吸収部材に軽量のアルミニウム中空形材を使用するメリットが小さくなる。
【0022】
本発明のエネルギー吸収部材SAの形状は、図4〜5に示すように、取付部Aの挟持壁1、1間の間隔b2、挟持壁1、1の厚さt1、仕切壁2の厚さt2、仕切壁2の傾斜角θ1、上部壁3の長さa3、厚さt3、縦部壁4の長さb1、厚さt4、横部壁5の長さa4、厚さt5、荷重負荷壁6の厚さt6、加重負荷壁6と下部壁7とのなす角θ2、加重負荷壁6の上端と下端との水平距離a2、下部壁7の長さa1、厚さt7を特定することにより決定される。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
実施例、比較例
図6(実施例1)、図7(実施例2)、図8(比較例1)、図9(比較例2)に示す形状の6063合金の中空押出形材(調質:T5)を作製し、これらをニーガード用のエネルギー吸収部材として評価を行った。評価方法は以下のとおりである。
【0025】
図10に示すように、上記のニーガード用エネルギー吸収部材の取付部を固定用冶具(インストルメントパネル内のメインビームを模擬している)にボルトで固定し、斜め下方から加圧盤により強制変位を与え、加圧盤に負荷される圧縮荷重、加圧盤の変位による圧縮荷重―変位線図を評価した。評価はコンピューターによるシミュレーションにて実施した。具体的には、汎用のFEM解析ソフトである商用ソフトMARCを使用した。ニーガード用エネルギー吸収部材の長さは100mmとし、材料特性は一般的な6000系アルミニウム合金の値を入力した。初期ピーク荷重、平均荷重、初期ピーク荷重/平均荷重の値を表1に示す。実施例1の変形形態を図11に、比較例1の変形形態を図12に示し、実施例と比較例の荷重―変位線図を図13に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例1
図11、図13にみられるように、初期ピーク荷重が発生したのち荷重が低下した。さらに変位が進むと、エネルギー吸収部の縦部壁4と横部壁5同士、および角部45と下部壁7が接触することにより荷重が再上昇した。表1に示すように、初期ピーク荷重/平均荷重の値は1.23であり優れた特性を示した。
【0028】
実施例2
図13にみられるように、初期ピーク荷重が発生したのち荷重が低下した。さらに変位が進むと、エネルギー吸収部の縦部壁4と横部壁5同士、および角部45と下部壁7が接触することにより荷重が再上昇し、再上昇した荷重は、初期ピーク荷重より大きな値となった。その際、壁3と壁4の肉厚が実施例1よりも厚いため、荷重の上昇量は実施例1よりも大きくなっていた。表1に示すように、初期ピーク荷重/平均荷重の値は0.83であり、さらに優れた特性を示した。壁3と壁4の肉厚は必要とされる平均荷重に応じて調整することが可能である。
【0029】
比較例1
図12、図13に示すように、初期ピーク荷重が発生したのち荷重が低下し続けた。表1に示すように、初期ピーク荷重/平均荷重の値は2.30であり、特性が劣っていた。
【0030】
比較例2
図13に示すように、初期ピーク荷重が発生したのち荷重が低下し続けた。表1に示すように、初期ピーク荷重/平均荷重の値は2.38であり、特性が劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】自動車乗員保護用エネルギー吸収部材の断面図である。
【図2】自動車乗員保護用エネルギー吸収部材の断面図である。
【図3】エネルギー吸収部材の取付け例を示す図である。
【図4】エネルギー吸収部材の形状、寸法を決定するための断面図である。
【図5】エネルギー吸収部材の形状、寸法を決定するための断面図である。
【図6】実施例1のエネルギー吸収部材の断面図である。
【図7】実施例2のエネルギー吸収部材の断面図である。
【図8】比較例1のエネルギー吸収部材の断面図である。
【図9】比較例2のエネルギー吸収部材の断面図である。
【図10】エネルギー吸収部材の評価試験方法を示す図である。
【図11】実施例1の変形形態を示す図である。
【図12】比較例1の変形形態を示す図である。
【図13】比較例1の初期ピーク荷重を1.00とした場合における実施例と比較例の圧縮荷重―変位線図である。
【図14】エネルギー吸収部材の圧縮荷重―変位線図である。
【図15】従来のエネルギー吸収部材の取付け例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 挟持壁
2 仕切壁
3 上部壁
4 縦部壁
5 横部壁
6 荷重負荷壁
7 下部壁
45 角部
A 取付部
B エネルギー吸収部
SA エネルギー吸収部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車乗員保護用エネルギー吸収部材、詳しくは自動車が衝突した場合に乗員の安全を確保するため、車体のインストルメントパネル内部などに取付けられるアルミニウム合金の中空押出形材製エネルギー吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突時、衝突時の慣性力により搭乗者の膝が車体に衝突した場合、衝撃エネルギーを除々に吸収して搭乗者の保護を図ることが必要である。エネルギーを吸収する方法の一つとして、車体のインストルメントパネル内部にエネルギー吸収部材(ニーガードと称する)を装着する手法が挙げられる。ニーガードには、膝が車体に衝突した衝撃により斜め下方からの圧縮荷重を受けた際、除々に衝撃エネルギーを吸収することが要求され、圧縮荷重―変位線図における平均荷重が高いほど多くの衝撃エネルギーを吸収することが可能となる。
【0003】
圧縮荷重―変位線図における初期ピーク荷重が高すぎると、乗員の膝にダメージを与えてしまうこととなり、また一方、平均荷重が低すぎると衝撃エネルギーを吸収しきれないことから、乗員の膝にダメージを与えてしまうこととなる。図14は圧縮荷重―変位線図における初期ピーク荷重と平均荷重を示す図であるが、初期ピーク荷重/平均荷重の比が1.0に近いほどニーガードとして優れた特性を持つことになり、逆に初期ピーク荷重/平均荷重の比が大きくなるほどニーガードとして好ましくない。
【0004】
また、車種によっては、衝突初期の段階では、膝が接触する部品(例えばグローブボックス)とニーガードの両方でエネルギーを吸収し、衝突による変形の後半では、ニーガードのみでエネルギーを吸収する場合がある。このようなケースにおいては、ニーガード単体の衝突特性として、変形の後半に荷重が上昇することが好ましい。これは、初期ピーク荷重/平均荷重の比が1.0より小さくなることを意味する。
【0005】
近年、環境問題から自動車車体重量の軽減が提唱されており、ニーガードについてもアルミニウム押出形材の使用が検討されている。アルミ合金押出形材を使用したニーガード例として、平行に設けられた前面フランジおよび後面フランジと、該フランジ間をつなぐ略平行に設けた左右のウェブから構成され、ウェブがそれぞれ外側に向かって湾曲している断面形状のものが提案されており(特許文献1参照)、また、上記のものを2段重ねに連結させた断面形状のものも提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
上記提案のものは、平行に設けられたフランジをつなぐウェブが外側に向かって湾曲させることにより平均荷重/最大荷重の比を調整しようとするものであるが、図15に示すように、乗員の膝が斜め下方から衝突することを考慮し、衝突方向に対してフランジが垂直となるように取り付けると、インストルメントパネル内の余剰スペースが小さくなるという難点がある。さらに、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0に近くすることは可能であるものの、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0より小さくすることができない、すなわち、初期荷重の発生後に荷重を再上昇させることができない。
【特許文献1】特開2004−090910号公報
【特許文献2】特開2005−053437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車乗員保護用エネルギー吸収部材においては、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0より小さくすることが最も望ましいとされ、また軽量化に対する要求もますます厳しくなっており、軽量で且つエネルギー吸収特性に優れたアルミニウム合金製自動車用エネルギー吸収部材が要請されている。
【0008】
本発明は、上記の要請にこたえるためになされたものであり、その目的は、インストルメントパネル内の余剰スペースが確保され、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0、もしくは1.0より小さくすることを可能とする断面形状をそなえたアルミニウム合金の中空押出形材からなる衝撃エネルギー吸収特性に優れた自動車乗員保護用エネルギー吸収部材を提供することにある。
【0009】
上記の目的を達成するための請求項1による自動車乗員保護用エネルギー吸収部材は、アルミニウム合金の中空押出形材からなり、仕切壁により仕切られた取付部とエネルギー吸収部とから構成されるエネルギー吸収部材であって、取付部は外側に開口した開断面形材からなり、エネルギー吸収部材はL形の凹部をそなえた閉断面形材からなり、エネルギー吸収部材に衝撃荷重が負荷された場合、前記凹部を形成する壁同士が接触するよう変形して荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項2による自動車乗員保護用エネルギー吸収部材は、請求項1において、前記エネルギー吸収部材が、仕切壁と、該仕切壁に並設された上部壁および下部壁と、上部壁に連続して形成されたL形の凹部と、該凹部を構成する縦部壁と横部壁と、凹部の横部壁と下部壁とを連結し横部壁と鋭角をなして斜め下方に延びる荷重負荷壁とからなり、該荷重負荷壁に衝撃荷重が負荷された場合、凹部を構成する縦部壁と横部壁とが接触するとともに、縦部壁と横部壁とが交差する凹部の角部と下部壁とが接触して、荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項3による自動車乗員保護用エネルギー吸収部材は、請求項1または2において、前記外側に開口した開断面形材からなる取付部が、自動車インストルメントパネル内の部材を挟持するよう取り付けられ、自動車乗員の膝がダッシュボードに衝突した際のエネルギーを吸収するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インストルメントパネル内の余剰スペースが確保され、初期ピーク荷重/平均荷重の比を1.0、もしくは1.0より小さくすることを可能とする断面形状をそなえたアルミニウム合金の中空押出形材からなる衝撃エネルギー吸収特性に優れた自動車乗員保護用エネルギー吸収部材が提供される。また本発明によれば、断面形状設計の自由度が高く、車種により外寸や肉厚を調製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の自動車乗員保護エネルギー吸収部材は、調質された熱処理型アルミニウム合金の中空押出形材、例えば、押出後、T5処理、T6処理されたAl−Zn−Mg系(7000系)、Al−Mg−Si系(6000系)アルミニウム合金の中空押出形材からなる。
【0014】
図1〜2に示すように、本発明の自動車乗員保護エネルギー吸収部材SAは、仕切壁2により仕切られた取付部Aとエネルギー吸収部Bとから構成され、取付部Aは外側に開口した開断面形材からなり、図3に示すように、挟持壁1、1でインストルメントパネル内のビームなどを挟持することにより、エネルギー吸収部材SAをニーガードとして取り付ける。
【0015】
エネルギー吸収部材Bは、L形の凹部をそなえた閉断面形材からなり、エネルギー吸収部材Bに衝撃荷重が負荷された場合、図11に示すように、凹部を形成する壁4、5(図2)同士が接触するよう変形して荷重の低下を防止するよう構成されている。
【0016】
好ましい実施形態としては、図2に示すように、エネルギー吸収部材Bが、仕切壁2と、仕切壁2に並設された上部壁3および下部壁7と、上部壁3に連続して形成されたL形の凹部と、凹部を構成する縦部壁4と横部壁5と、凹部の横部壁5と下部壁7とを連結し横部壁5と鋭角をなして斜め下方に延びる(下部壁7と90°より大きい鈍角をなして斜め上方に延びる)荷重負荷壁6とからなり、荷重負荷壁6に衝撃荷重が負荷された場合、図11に示すように、凹部を構成する縦部壁4と横部壁5とが接触するとともに、縦部壁4と横部壁5とが交差する凹部の角部45と下部壁7とが接触して、荷重の低下を防止するよう構成される。
【0017】
本発明の自動車乗員保護用エネルギー吸収部材SAは、図3に示すように、外側に開口した開断面形材からなる取付部Aの挟持壁1、1で、自動車インストルメントパネル内のビームを挟持することにより取り付けられ、自動車乗員の膝がダッシュボードに衝突した際のエネルギーを吸収する。
【0018】
エネルギー吸収部Bは、衝撃荷重が負荷される荷重負荷壁6、初期に変形する壁(横部壁5、下部壁7)および後期に変形する壁(上部壁3、縦部壁4)により構成され、衝突初期に変形する壁(横部壁5)と衝突後期に変形する壁(縦部壁4)を接触させ、且つ角部45と下部壁7を接触させることにより荷重低下を防止する。取付部Aとエネルギー吸収部Bを仕切る仕切壁2を設けることにより、エネルギー吸収部材において変形する領域を小さくし、具体的には上部壁3、下部壁7が仕切壁2に支持されることにより拘束が増えることで、全体的な荷重を底上げしている。さらに、変形後半に荷重を再上昇させる必要がある場合には、変形後半の荷重に影響を与える壁(上部壁3、縦部壁4)の肉厚をその他の壁よりも厚くすればよい。
【0019】
衝撃荷重が負荷される荷重負荷壁6を斜め下方からの衝突方向に対して略垂直となるように設け、且つ、衝突初期に変形する横部壁5と衝突後期に変形する縦部壁4のなす角度を略90°となるように形材の断面形状を設計することによって、変形中に壁同士がきれいに接触し、荷重の低下を防止することが可能となる。
【0020】
本発明のエネルギー吸収部材SAは、下部壁7が車体の水平方向となるように、インストルメントパネル内のメインビームに装着する(図3)。本発明のエネルギー吸収部材SAにおいては、従来のエネルギー吸収部材と異なり、メインビーム下方のスペースを有効に利用することができ、例えばグローブボックスの収納スペース拡大などが可能となる。
【0021】
本発明のエネルギー吸収部材SAは、例えば、乗員の両膝の間に1個、あるいは両膝の前に1個づつ、インストルメントパネル内のメインビームに装着する。この場合、エネルギー吸収部材SAは、長さ50〜150mm程度に切断して使用される。長さが50mmよりも短いと、膝が衝突する位置が車体左右方向にずれた場合に、エネルギー吸収特性が低下し易くなる。長さが150mmより大きいと、重量が増加してエネルギー吸収部材に軽量のアルミニウム中空形材を使用するメリットが小さくなる。
【0022】
本発明のエネルギー吸収部材SAの形状は、図4〜5に示すように、取付部Aの挟持壁1、1間の間隔b2、挟持壁1、1の厚さt1、仕切壁2の厚さt2、仕切壁2の傾斜角θ1、上部壁3の長さa3、厚さt3、縦部壁4の長さb1、厚さt4、横部壁5の長さa4、厚さt5、荷重負荷壁6の厚さt6、加重負荷壁6と下部壁7とのなす角θ2、加重負荷壁6の上端と下端との水平距離a2、下部壁7の長さa1、厚さt7を特定することにより決定される。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
実施例、比較例
図6(実施例1)、図7(実施例2)、図8(比較例1)、図9(比較例2)に示す形状の6063合金の中空押出形材(調質:T5)を作製し、これらをニーガード用のエネルギー吸収部材として評価を行った。評価方法は以下のとおりである。
【0025】
図10に示すように、上記のニーガード用エネルギー吸収部材の取付部を固定用冶具(インストルメントパネル内のメインビームを模擬している)にボルトで固定し、斜め下方から加圧盤により強制変位を与え、加圧盤に負荷される圧縮荷重、加圧盤の変位による圧縮荷重―変位線図を評価した。評価はコンピューターによるシミュレーションにて実施した。具体的には、汎用のFEM解析ソフトである商用ソフトMARCを使用した。ニーガード用エネルギー吸収部材の長さは100mmとし、材料特性は一般的な6000系アルミニウム合金の値を入力した。初期ピーク荷重、平均荷重、初期ピーク荷重/平均荷重の値を表1に示す。実施例1の変形形態を図11に、比較例1の変形形態を図12に示し、実施例と比較例の荷重―変位線図を図13に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例1
図11、図13にみられるように、初期ピーク荷重が発生したのち荷重が低下した。さらに変位が進むと、エネルギー吸収部の縦部壁4と横部壁5同士、および角部45と下部壁7が接触することにより荷重が再上昇した。表1に示すように、初期ピーク荷重/平均荷重の値は1.23であり優れた特性を示した。
【0028】
実施例2
図13にみられるように、初期ピーク荷重が発生したのち荷重が低下した。さらに変位が進むと、エネルギー吸収部の縦部壁4と横部壁5同士、および角部45と下部壁7が接触することにより荷重が再上昇し、再上昇した荷重は、初期ピーク荷重より大きな値となった。その際、壁3と壁4の肉厚が実施例1よりも厚いため、荷重の上昇量は実施例1よりも大きくなっていた。表1に示すように、初期ピーク荷重/平均荷重の値は0.83であり、さらに優れた特性を示した。壁3と壁4の肉厚は必要とされる平均荷重に応じて調整することが可能である。
【0029】
比較例1
図12、図13に示すように、初期ピーク荷重が発生したのち荷重が低下し続けた。表1に示すように、初期ピーク荷重/平均荷重の値は2.30であり、特性が劣っていた。
【0030】
比較例2
図13に示すように、初期ピーク荷重が発生したのち荷重が低下し続けた。表1に示すように、初期ピーク荷重/平均荷重の値は2.38であり、特性が劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】自動車乗員保護用エネルギー吸収部材の断面図である。
【図2】自動車乗員保護用エネルギー吸収部材の断面図である。
【図3】エネルギー吸収部材の取付け例を示す図である。
【図4】エネルギー吸収部材の形状、寸法を決定するための断面図である。
【図5】エネルギー吸収部材の形状、寸法を決定するための断面図である。
【図6】実施例1のエネルギー吸収部材の断面図である。
【図7】実施例2のエネルギー吸収部材の断面図である。
【図8】比較例1のエネルギー吸収部材の断面図である。
【図9】比較例2のエネルギー吸収部材の断面図である。
【図10】エネルギー吸収部材の評価試験方法を示す図である。
【図11】実施例1の変形形態を示す図である。
【図12】比較例1の変形形態を示す図である。
【図13】比較例1の初期ピーク荷重を1.00とした場合における実施例と比較例の圧縮荷重―変位線図である。
【図14】エネルギー吸収部材の圧縮荷重―変位線図である。
【図15】従来のエネルギー吸収部材の取付け例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 挟持壁
2 仕切壁
3 上部壁
4 縦部壁
5 横部壁
6 荷重負荷壁
7 下部壁
45 角部
A 取付部
B エネルギー吸収部
SA エネルギー吸収部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の中空押出形材からなり、仕切壁により仕切られた取付部とエネルギー吸収部とから構成されるエネルギー吸収部材であって、取付部は外側に開口した開断面形材からなり、エネルギー吸収部材はL形の凹部をそなえた閉断面形材からなり、エネルギー吸収部材に衝撃荷重が負荷された場合、前記凹部を形成する壁同士が接触するよう変形して荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする自動車乗員保護用エネルギー吸収部材。
【請求項2】
前記エネルギー吸収部材が、仕切壁と、該仕切壁に並設された上部壁および下部壁と、上部壁に連続して形成されたL形の凹部と、該凹部を構成する縦部壁と横部壁と、凹部の横部壁と下部壁とを連結し横部壁と鋭角をなして斜め下方に延びる荷重負荷壁とからなり、該荷重負荷壁に衝撃荷重が負荷された場合、凹部を構成する縦部壁と横部壁とが接触するとともに、縦部壁と横部壁とが交差する凹部の角部と下部壁とが接触して、荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする請求項1記載の自動車乗員保護用エネルギー吸収部材。
【請求項3】
前記外側に開口した開断面形材からなる取付部が、自動車インストルメントパネル内の部材を挟持するよう取り付けられ、自動車乗員の膝がダッシュボードに衝突した際のエネルギーを吸収するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の自動車乗員保護用エネルギー吸収部材。
【請求項1】
アルミニウム合金の中空押出形材からなり、仕切壁により仕切られた取付部とエネルギー吸収部とから構成されるエネルギー吸収部材であって、取付部は外側に開口した開断面形材からなり、エネルギー吸収部材はL形の凹部をそなえた閉断面形材からなり、エネルギー吸収部材に衝撃荷重が負荷された場合、前記凹部を形成する壁同士が接触するよう変形して荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする自動車乗員保護用エネルギー吸収部材。
【請求項2】
前記エネルギー吸収部材が、仕切壁と、該仕切壁に並設された上部壁および下部壁と、上部壁に連続して形成されたL形の凹部と、該凹部を構成する縦部壁と横部壁と、凹部の横部壁と下部壁とを連結し横部壁と鋭角をなして斜め下方に延びる荷重負荷壁とからなり、該荷重負荷壁に衝撃荷重が負荷された場合、凹部を構成する縦部壁と横部壁とが接触するとともに、縦部壁と横部壁とが交差する凹部の角部と下部壁とが接触して、荷重の低下を防止するよう構成されたことを特徴とする請求項1記載の自動車乗員保護用エネルギー吸収部材。
【請求項3】
前記外側に開口した開断面形材からなる取付部が、自動車インストルメントパネル内の部材を挟持するよう取り付けられ、自動車乗員の膝がダッシュボードに衝突した際のエネルギーを吸収するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の自動車乗員保護用エネルギー吸収部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−100621(P2008−100621A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285226(P2006−285226)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000100366)しげる工業株式会社 (95)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000100366)しげる工業株式会社 (95)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】
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