説明

自動車用のボールジョイント

本発明は、自動車用のボールジョイントであって、ジョイントケーシング(2)、ジョイントケーシング内に回転及び旋回可能に支承されたボールスタッド(5)、ボールスタッドとジョイントケーシング(2)との間に配置された支承シェル(7)、並びに角度測定装置(20,21)を備えており、角度測定装置によってボールスタッド(5)とジョイントケーシング(2)との間の角度(ψ)を検出するようになっている形式のものに関し、本発明に基づきジョイントケーシング(2)に少なくとも2つの温度センサー(15,16)を互いに離間して配置してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のボールジョイントであって、ジョイントケーシング、該ジョイントケーシング内に回転及び旋回可能若しくは傾動可能に支承されたボールスタッドを備えており、該ボールスタッドは前記ジョイントケーシングと接触し、若しくは前記ジョイントケーシングとボールスタッドとの間に配置された支承シェルと接触しており、さらに角度測定装置を備えており、該角度測定装置によって前記ボールスタッドとジョイントケーシングとの間の角度を検出するようになっている形式のものに関する。さらに本発明は、ボールジョイントの摩耗を表す摩耗指数の決定のための方法に関する。
【0002】
ボールジョイント(玉継手)の熱的及び/又は機械的な過負荷は、ボールジョイント内の摩擦状態を変化させ、この場合に摩擦状態の変化は、例えば潤滑剤又はグリースの硬化若しくは支承シェル(支承胴)の摩耗に起因している。過負荷は車両内から、若しくは検査台又は検査箇所ではオンラインで測定されるものではない。検査台ではジョイントの弾性の測定のみしか行うことができない。ボールジョイントの著しい摩耗は、ボールジョイント内の大きな遊び、ひいてはジョイントケーシングからのボールスタッドのはずれにつながる。自動車において早期の摩耗はこれまで検出されるようになっていない。
【0003】
本発明の課題は、冒頭に述べた形式のボールジョイントを改善して、ボールジョイントの摩耗に対する摩耗指数を検出若しくは決定できるようにすることである。
【0004】
前記課題は、請求項1に記載の本発明に基づく構成、並びに請求項13に記載の本発明に基づく手段によって解決される。
【0005】
自動車用の本発明に基づくボールジョイントにおいては、ジョイントケーシングに少なくとも2つの温度センサーを互いに離間して配置してある。ボールスタッドはスタッド(ピン)と該スタッドに結合されたボール(球体)を有しており、ボールは有利には、ジョイントケーシング(ソケット)内に注入された潤滑剤、例えばグリースによって潤滑されている。支承シェルは一体構造若しくは複数構造で形成されていてよいものである。
【0006】
ジョイントケーシングとボールスタッドとの間の相対運動は摩擦により熱を生ぜしめ、熱はボールジョイント内に熱流を生ぜしめるようになる。この場合に、ボールジョイントの異なる2つの箇所で検出された温度値間の差とジョイントケーシングに対するボールスタッドの相対運動の角速度との商は、ボールジョイントの摩耗の尺度である。つまり前記商は、自動車においても規定可能な摩耗指数として用いられるものであり、この場合に角速度は、角度測定装置によって検出された角度値の時間的な微分によって規定され、かつ両方の温度値は各温度センサーによって検出されるようになっている。
【0007】
ボールスタッドとジョイントケーシングとの間の相対運動によって生ぜしめられる摩擦熱流の推移を規定し、若しくは少なくとも評価することができ、この場合に、温度センサーは有利には摩擦熱流内で互いに異なる位置に、例えば上流と下流とに配置されている。特に有利には、両方の温度センサーはボールスタッドのボールの中心点若しくはジョイントケーシング或いは支承シェルの球形支承面の中心点に対して互いに異なる距離を有している。
【0008】
温度センサーは、支承シェル及び/又はジョイントケーシングの周壁に配置されていてよい。しかしながら有利には、両方の温度センサーはそれぞれ、ジョイントケーシングに配置されたプレート片若しくは薄板に設けられ、特に有利には該プレート片若しくは薄板の互いに相対する側に設けられている。
【0009】
ジョイントケーシングは、1つの開口部を有しており、該開口部はボールスタッドを貫通させており、ジョイントケーシングの前記開口部と相対する側の領域は底部を含んでおり、該底部は例えば支承シェルを支えるようになっている。温度センサーは特に底部の領域に配置されており、したがってプレート片若しくは薄板も有利には底部の領域に配置されている。有利にはジョイントケーシングの底部は開口部を有しており、該開口部はカバーによって閉鎖されており、カバーはプレート片若しくは薄板を含んでおり、或いはカバーはプレート片若しくは薄板によって形成されている。
【0010】
角度測定装置は有利には磁気式の角度測定装置として形成されていて、マグネット及び該マグネットと協働する磁界感応式のセンサーを有している。この場合に、マグネットは永久磁石として形成され、かつ磁界感応式のセンサーは、磁気抵抗式のセンサー若しくはホール効果式センサーとして形成されていてよい。特にマグネットはボールスタッドのボールに取り付けられ、かつ磁界感応式のセンサーはケーシングに取り付けられている。逆の配置も可能であり、つまりセンサーをボールに取り付け、かつマグネットをケーシングに取り付けてもよい。
【0011】
さらに角度測定装置は少なくとも間接的にボールジョイントに結合されるようになっていて、ボールジョイントの外側に配置されていてよい。しかしながら有利には角度測定装置は、ボールジョイント若しくはジョイントケーシングに設けられ、特にボールジョイントに組み込まれている。これによって全体的に極めてコンパクトな測定構造を達成しており、測定装置はジョイントケーシングによって、かつ場合によってはカバーによって外部の影響に対して保護されている。
【0012】
摩耗指数の正確な検出のために、ボールスタッドからジョイントケーシング若しくは支承シェルに生ぜしめられる力(外力)を用いるようになっている。この場合には前述の商は、温度差を前記力と角速度との積によって割り算することによって求められる。したがって有利には、少なくとも1つの力センサーによって、ボールスタッドからジョイントケーシング若しくは支承シェルに生ぜしめられる力を検出するようになっている。
【0013】
角度の測定は力の測定よりも重要である。ボールジョイントを自動車の車輪懸架装置に配置してある場合に、力は車体重量及びばね作用の大きさによっても評価され、ばね作用は測定された角度から求められるものである。つまり、角度測定装置は力センサーとしても用いられる。最も簡単な場合には、力は定数とみなされて、処理される。
【0014】
力センサーは少なくとも間接的にボールジョイントに結合されるようになっていて、ボールジョイントの外側に配置されていてよい。しかしながら有利には、力センサーはボールジョイント若しくはジョイントケーシングに設けられ、特に有利にはボールジョイントに組み込まれている。力センサーは有利には圧電式のセンサーによって形成されている。
【0015】
摩耗指数の決定のために両方の温度センサー、角度測定装置、及び必要に応じて力センサーを評価装置に接続してあり、該評価装置は、ボールジョイントの摩耗に相当する摩耗指数を決定するようになっている。評価装置は特に、角度測定装置に接続された微分器、両方の温度センサーに接続された差分形成部若しくは差分回路、並びに前記微分器及び前記差分形成部に対して処理順序で下流に接続され、つまり下位接続されかつ必要に応じて力センサーに接続された演算ユニット(演算装置)を含んでおり、この場合に、差分形成部は差分増幅器として形成されている。演算ユニットは(第1の)少なくとも1つの割り算器を含んでいて、かつ有利には追加的に掛け算器及び/又は第2の割り算器を有している。
【0016】
評価装置は、アナログ式若しくはデジタル式の構成ユニットを用いて形成されるようになっていてよい。しかしながら有利には評価装置は、プログラムを記録された少なくとも1つのデジタル計算機によって形成されており、デジタル計算機は、角度測定装置、温度センサー、及び必要に応じて力センサーによって測定された信号を、摩耗指数の決定のために処理するようになっている。
【0017】
本発明は、車体、該車体に結合された自動車構成部分、及び該自動車構成部分に結合された本発明に基づく少なくとも1つのボールジョイントによって形成されている自動車を含むものである。この場合にボールジョイントは前述のすべての構成を用いて形成されていてよい。自動車構成部分は有利には、車台構成部材、例えばナックルアーム若しくはタイロッド、或いは操舵装置、特に例えば車輪懸架装置の上側若しくは下側の横リンクである。
【0018】
本発明は、ジョイントケーシング及び該ジョイントケーシング内に回転可能及び旋回可能に支承されたボールスタッドを有するボールジョイントの摩耗の摩耗指数の決定のための方法、及び/又は前記摩耗の摩耗指数の決定のための本発明に基づくボールジョイントの使用方法にも関し、本発明に基づき次の過程を含んでおり、つまり、
ボールスタッドとジョイントケーシングとの間の角度の連続的な測定によって角度データを決定し、
所定の時間にわたる前記角度データの微分により速度若しくは角速度を決定し、
ボールジョイントの互いに異なる少なくとも2つの箇所の温度を測定し、かつ
前記速度若しくは角速度及び前記温度をベースに摩耗指数を決定するようになっている。
【0019】
前記方法に用いられるボールジョイントは、前述のすべての構成を用いて形成されていてよい。前記データなる記載は、前記方法の実施のためにデジタル計算機若しくはデジタルコンピュータの有利な使用を示唆するものである。データなる記載は、コンピュータを使用しない場合に、アナログ式若しくはデジタル式の信号として用いられる1つ若しくは複数の測定値をも意味している。
【0020】
有利には摩耗指数は、ボールジョイント固有の定数で乗じられ、かつボールスタッドのボールの半径で除されるようになっている。特に有利には、ボールスタッドからジョイントケーシングに若しくはジョイントケーシングとボールスッドとの間の支承シェルに作用する力を測定し、測定された該力をベースに摩耗指数を決定するようになっている。
【0021】
支承シェルは一般的にジョイントケーシングによって受容して保持されるので、ボールスタッドからジョイントケーシングに作用する力は、ボールスタッドから支承シェルに作用する力に相当していて、該支承シェルから伝達されるものである。
【0022】
原理的には、角度、角度データ、角速度、力、温度値、差分、及び/又は摩耗指数を適切なファクターによって補正することも可能であり、このために付加的な構成要素若しくは構成ユニットを設けるようになっている。評価装置をデジタル計算機によって形成してある場合には、前記付加的な構成要素若しくは構成ユニットはデジタル計算機によって実施され、これによりソフトウエアの補正を必要とするだけになっている。
【0023】
次に本発明を図示の有利な実施例に基づき説明する。図面において、
図1は、本発明に基づくボールジョイントの実施例の断面図であり、
図2は、図1のボールジョイントの旋回させられた状態での概略図であり、
図3は、図1のボールジョイントの摩耗していない状態での概略図であり、
図4は、図1のボールジョイントのための評価装置の概略的なブロック回路図であり、
図5は、図1のボールジョイントの摩耗している状態での概略図であり、
図6は、自動車のための、図1の実施例のボールジョイントを備えた車輪懸架装置の概略的な斜視図である。
【0024】
図1に本発明に基づくボールジョイント1の実施例を示してあり、ボールジョイントはジョイントケーシング2及びピン3,並びに該ピンに結合されたボールスタッド5を有しており、ボールスタッドはボール4を備えている。ジョイントケーシング2内に、球形の支承面6(図3、参照)を有する支承シェル7を配置してあり、支承シェル内にはボールスタッド5をそのボールス4でもって回転可能及び旋回可能(傾動)可能に支承してある。ジョイントケーシング2は開口部8を有しており、開口部はボールスタッド5を貫通させている。さらに開口部8の領域でシールベロー9をジョイントケーシング2に取り付けてあり、シールベロー(保護カバー)はボールスタッド5まで延びてボールスタッドに密接している。
【0025】
ジョイントケーシング2は、開口部8と相対する側に底部11を有しており、底部は開口部10を備えており、該開口部10はカバー12によって閉鎖されている。カバー12は、ジョイントケーシング2に固定された環状の保持体13を含んでおり、保持体はプレート片14を保持しており、プレート片に温度センサー15,16を装着してあり、この場合に、温度センサー15はプレート片14の、ボール4に向いた側に取り付けられ、かつ温度センサー16はプレート片14の、ボール4と逆の側に取り付けられている。環状の保持体13は、ボール4と逆の側で射出成形部材17によって閉鎖されており、射出成形部材から温度センサー15,16の導線18を導いてあり、該導線は温度センサー15,16を評価装置19(図4、参照)に接続している。
【0026】
ボール4内にマグネット20を配置してあり、マグネットは、プレート片14に配置された磁場感応式のセンサー21と協働するようになっており、つまりセンサーはマグネット20と一緒に角度測定装置を形成しており、該角度測定装置によってジョイントケーシング2に対するボールスタッド5の回転及び/又は旋回角度(図2、参照)を検出するようになっている。この場合に磁場感応式のセンサー21は、導線(電気的な通路)18を介して評価装置19に接続されている。
【0027】
支承シェル7とジョイントケーシング2若しくは底部11との間に力センサー29を設けてあり、力センサーはボールスタッド5からジョイントケーシング2若しくは支承シェル7に生ぜしめられた力F(図3、参照)を検出するようになっており、該力は有利には、ジョイントケーシング2の縦軸線23の方向で、若しくは該方向に対して平行に測定されるようになっている。力センサー29は、導線18を介して評価装置19に接続されている。別の実施例では、力センサー29は支承シェル7とボールスタッド5との間に配置され、若しくはジョイント1の外側に配置され、若しくは最も簡単な実施例では省略されている。
【0028】
図2にはボールスタッド5の縦軸線(長手方向軸線)22とジョイントケーシング2の縦軸線23との間の角度ψを概略的に示してある。角度によって、ジョイントケーシングに対するボールスタッドの旋回若しくは旋回及び回転を表すようになっていてよい。別の実施例では、測定された角度ψは、ジョイントケーシング2の縦軸線22を中心としたボールスタッド5の回転のみを表すようになっていてよい。
【0029】
図3には、摩耗していない状態のボールジョイント1を概略的に示してあり、この場合にボールジョイント1の負荷された状態では、力Fは、最大荷重のかかる領域若しくは点Pでボールスタッド5から支承シェル7に作用している。力Fの力成分Fnは、支承シェル7の球形の支承面6に対して垂直に延びていて、力Fの方向と角度αを成している。垂線とも称される力成分Fnは、有利には半径Rの支承面(球面)6の中心点Mを通る直線上に位置している。前記中心点Mは、ボール4の中心点でもあり、かつ前記半径Rはボールの半径でもある。
【0030】
次に、ボールジョイント1の摩耗を表す値の規定のための方法について述べる。ジョイントケーシング2内に注入されている潤滑剤若しくはグリースの硬化及び/又は支承シェル7の摩耗により、ボールジョイント内の摩擦に起因して発生する熱量qは増大する。増大した熱量qは、増大した摩耗の指数であり、摩擦により生じた熱量qは、ボールジョイント内に組み込まれたプレート片14を経て流出するようになっている。プレート片14の上側の温度T2を温度センサー16によって測定し、かつプレート片14の下側の温度T1を温度センサー15によって測定することによって、プレート片14を流過する熱量

は、次式1
【数1】

を用いて算出され、この場合に、

は所定の時間にわたる熱量の流出量であり、ΔTはプレート片14の上側と下側との間の温度差であり、K1はボールジョイント固有の定数である。さらにボールジョイント内で生じる摩擦出力若しくは摩擦発生量

は、次式2
【数2】

によって用いて算出され、この場合に、Frは摩擦力であり、sは摩擦距離であり、tは時間である。この場合に摩擦力Frは、垂直力Fnと摩擦値μとの積に等しく、垂直力Fnにとって次式3
【数3】

が当てはまる。特に垂直力Fnは、例えば切欠き効果に基づき、力Fよりも大きく、前記式において、αは力Fと垂直力Fnとの間の角度である。距離sと時間tの商は、ボールスタッド5の回転及び旋回速度vを意味しており、回転及び旋回速度は、支承シェル7若しくはケーシング2に対するボールスタッド5の角速度

と摩擦半径Rrの積に等しく、摩擦半径はボールスタッド半径Rとsinαの積によって求められ、ボールスタッド5の回転及び旋回速度vにとって次式4
【数4】

が当てはまる。v=s/tであり、摩擦発生量にとって次式5
【数5】

が当てはまり、展開して次式6
【数6】

が得られ、この場合にμ・tanαはボールジョイント1の摩耗指数である。
【0031】
K1及びRはボールジョイントに依存した定数であり、摩耗指数の算出の場合に省略され、つまり特性値Iは次式7
【数7】

で求められ、該式もボールジョイント1の適切な摩耗指数を表すものである。ボールジョイントの簡単な例では力は定数とみなされ、したがって摩耗指数の算出の場合に省略され、簡略な摩耗指数Ivは次式8
【数8】

で求められる。温度差ΔT、ボールスタッド5の回転速度

並びに外部の力Fの検出によって、摩耗指数μ・tanα若しくはIは算出される。この場合に外部の力F及び/又はボールスタッド5の回転速度

は、ボールジョイント1の外側に配置されたセンサーによって測定若しくは規定されてよい。しかしながら有利な実施例では、力センサー29及び/又は角度測定装置20,21はボールジョイント1内に配置され、若しくはボールジョイント内に組み込まれている。
【0032】
摩耗指数μ・tanα若しくはIが所定の閾値を越えると、ボールジョイント1は詳細に検査されて、場合によっては交換される。良好な設計のボールジョイントにおいて角度αを適切なセンサーによって測定することによって、グリース硬化(μの変化)と支承シェル摩耗(αの変化)とを識別することができる。
【0033】
図4は評価装置19の概略的なブロック回路図であり、差分形成部24は両方の温度センサー15、16に接続されていて、温度差ΔTを出力信号として供給するようになっている。微分器25は角度測定装置若しくは磁場応動式のセンサー21に接続されていて、角速度

を出力信号として供給するようになっている。差分形成部24及び微分器25の後に演算ユニット47を接続してあり、演算ユニット47はさらに力センサー29に接続されていて、摩耗指数Iを出力信号として供給するようになっている。さらに特性値IにK1を乗じ、かつRで除して、表示μ・tanαを得るようになっている。
【0034】
図4の実施例では、演算ユニット47は、微分器25に対して下位接続されかつ力センサーに接続された乗算回路26を含んでおり、乗算回路26は

の積を出力値として発信するようになっている。演算ユニット47はさらに、乗算回路26及び差分形成部24に対して下位接続された除算回路30を含んでおり、除算回路30は特性値Iとしての出力信号を供給するようになっている。
【0035】
算出された摩耗指数I若しくはμ・tanαは、ここでは評価装置19によって形成された閾値発信器27に供給されるようになっており、閾値発信器27は該閾値発信器に対して下位接続された信号発信器28を作動するようになっている。特に車両37の乗員室(図6、参照)内に配置された信号発信器28は、音響式若しくは光学式の信号発信器として形成されていて、ボールジョイント1の許容の摩耗若しくは閾値の超過に際してボールジョイントの摩耗に関する情報を運転者に知らせるようになっている。光学式の信号発信器としては例えば発光要素若しくは照明器を用いるようになっている。別の実施例では摩耗値I若しくはμ・tanα或いは閾値発信器27の出力信号は車両制御装置へ送られるようになっている。角速度はボールスタッド5の各回転位置若しくは旋回位置に応じて所定の特性を有しているので、絶対値発信器を設けることも可能であり、絶対値発信器は例えば演算ユニット47に対して下位に接続され、かつ場合によっては閾値発信器27に対して上位に接続されている。絶対値発信器は、微分器25と演算ユニット47との間に設けられ、若しくは演算ユニット内に組み込まれて、絶対値発信器に供給された信号の絶対的な所定値を出力信号として発信するようになっていてよい。さらに温度差ΔTをΔT=(T1−T2)によって算出することも可能である。
【0036】
図4には評価装置19のための1つの例を示してあるのであり、評価装置は図示の例に限定されるものではない。評価装置19を特にデジタル演算素子若しくはデジタルコンピュータ或いはソフトウエアによって形成することも可能であり、この場合に摩耗指数I若しくはμ・tanαは、信号T1,T2,ψ及びFから(必要に応じて定数K1及びRを用いて)数値的に算出若しくは決定されるようになっている。
【0037】
図5には摩耗した状態のボールジョイント1を概略的に示してあり、この場合に摩耗は角度αの変化を伴って現れている。最大荷重の作用する領域若しくは点Pはボールジョイント1の摩耗の増大に伴って移動している。実際には、最大荷重の作用する領域若しくは点Pはわずかにしか移動しないものの、図5は移動をわかりやすくするために誇張して描いてある。
【0038】
ボールジョイントの摩耗されていない状態(図3、参照)での最大荷重の作用する領域若しくは点Pは1つの検査域のみで決定し若しくは算出しているのに対して、ボールジョイントの摩耗されている状態(図5、参照)での最大荷重の作用する領域若しくは点Pの正確な決定のために追加的なセンサーをボールジョイント1内に設けることができる。例えば複数の力センサーが若しくは複数の力センサーによって形成された力センサー・アレー46がジョイントケーシング2若しくは支承シェル7内に配置されて、荷重の作用する領域若しくは点Pを検出するようになっていてよい。このことは、摩耗指数I若しくはμ・tanαの決定の精度を高める場合にのみ必要とされるものである。この場合には支承シェルの摩耗とグリース硬化とを識別することもできるようになっている。
【0039】
摩耗指数の検出によって、摩耗開始及び/又はグリース硬化開始を早期に認識することができるようになっている。ボールジョイント1の損傷は、故障若しくは安全性の危険な状態に至る前に早期に検出される。電子装置及び温度センサーは有害な物質から完全に保護され、かつ別のセンサーと組み合わされるものである。
【0040】
図6には車輪懸架装置31を概略的に示してあり、この場合に車輪支持体32は上側の横リンク33、下側の横リンク34及び案内リンク35を介して概略の自動車37の車体36に連結されている。上側の横リンク(水平リンク)33は、本発明に基づくボールジョイント1を介して車輪支持体32に連結され、かつヒンジ(ジョイント)若しくはエラストマ製支承装置38を介して車体36に連結されている。下側の横リンク(水平リンク)34は、ボールジョイント39を介して車輪支持体32に連結され、かつエラストマ製支承装置40を介して車体36に連結されている。さらに案内リンク35は、ボールジョイント41を介して車輪支持体32に連結され、かつエラストマ製支承装置42を介して車体36に連結されている。車輪支持体32にはタイヤ若しくは車輪43を回転可能に支承してあり、タイヤ若しくは車輪は車輪接点44で概略の車道45と接触している。さらに評価装置19を車体36内に配置してある。
【0041】
図示の車輪懸架装置31においてはボールジョイント1の摩耗測定を行っている。追加的に若しくは選択的に、車輪懸架装置31の別の1つ若しくは複数のボールジョイントの摩耗測定を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ボールジョイントの実施例の断面図
【図2】図1のボールジョイントの旋回させられた状態での概略図
【図3】図1のボールジョイントの摩耗していない状態での概略図
【図4】評価装置の概略的なブロック回路図
【図5】図1のボールジョイントの摩耗している状態での概略図
【図6】図1の実施例のボールジョイントを備えた車輪懸架装置の概略的な斜視図
【符号の説明】
【0043】
1 ボールジョイント、 2 ジョイントケーシング、 4 ボール、 5 ボールスタッド、 7 支承シェル、 8 開口部、 10 開口部、 11 底部、 12 カバー、 13 保持体、 14 プレート片、 15,16 温度センサー、 17 射出成形部材、 18 導線、 19 評価装置、 20 マグネット、 21 センサー、 23 縦軸線、 29 力センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用のボールジョイントであって、ジョイントケーシング(2)、該ジョイントケーシング内に回転及び旋回可能に支承されたボールスタッド(5)、該ボールスタッドと前記ジョイントケーシング(2)との間に配置された支承シェル(7)、並びに角度測定装置(20,21)を備えており、前記角度測定装置によって前記ボールスタッド(5)と前記ジョイントケーシング(2)との間の角度(ψ)を検出するようになっている形式のものにおいて、
ジョイントケーシング(2)に少なくとも2つの温度センサー(15,16)を互いに離間して配置してあることを特徴とする、自動車用のボールジョイント。
【請求項2】
ジョイントケーシング(2)に対するボールスタッド(5)の相対運動によって摩擦熱流を形成するようになっており、温度センサー(15,16)は前記摩擦熱流内で互いに異なる位置に配置されている請求項1に記載のボールジョイント。
【請求項3】
ボールスタッド(5)は、スタッド(3)及び該スタッドに結合されたボール(4)を有しており、両方の温度センサー(15,16)は前記ボール(4)の中心点(M)に対して互いに異なる距離を有している請求項1又は2に記載のボールジョイント。
【請求項4】
両方の温度センサー(15,16)はそれぞれ、ジョイントケーシング(2)に配置された1つのプレート片(14)の互いに相対する側に配置されている請求項1から3のいずれか1項に記載のボールジョイント。
【請求項5】
ジョイントケーシング(2)は、底部(11)及び、該底部と相対する側の開口部(8)を有しており、該開口部はボールスタッド(5)を貫通させており、プレート片(14)は前記底部(11)の領域に配置されている請求項4に記載のボールジョイント。
【請求項6】
ジョイントケーシングの底部(11)は開口部(10)を有しており、該開口部はカバー(12)によって閉鎖されており、この場合に前記カバー(12)はプレート片(14)を含んでおり、若しくはプレート片によって形成されている請求項5に記載のボールジョイント。
【請求項7】
角度測定装置(20,21)はジョイントケーシング(2)内に配置されている請求項1から6のいずれか1項に記載のボールジョイント。
【請求項8】
少なくとも1つの力センサー(29)を設けてあり、該力センサーは、ボールスタッド(5)からジョイントケーシング(2)若しくは支承シェル(7)に作用する力(F)を検出するようになっている請求項1から7のいずれか1項に記載のボールジョイント。
【請求項9】
力センサー(29)はジョイントケーシング(2)内に配置されている請求項8に記載のボールジョイント。
【請求項10】
両方の温度センサー(15,16)及び角度測定装置(20,21)は評価装置(19)に接続されており、該評価装置はボールジョイント(1)の摩耗の摩耗指数(I)を決定するようになっている請求項1から9のいずれか1項に記載のボールジョイント。
【請求項11】
評価装置(19)は、角度測定装置(20,21)に接続された微分器(25)、両方の温度センサー(15,16)に接続された差分形成部(24)、並びに前記微分器(25)及び前記差分形成部(24)に対して下位接続された演算ユニット(47)を含んでいる請求項10に記載のボールジョイント。
【請求項12】
評価装置(19)は、少なくとも1つのデジタル計算機によって形成されている請求項10又は11に記載のボールジョイント。
【請求項13】
ジョイントケーシング及び該ジョイントケーシング内に回転可能及び旋回可能に支承されたボールスタッドを有するボールジョイント(1)の摩耗の摩耗指数(I)の決定のための方法において、
ボールスタッド(5)とジョイントケーシング(2)との間の角度の連続的な測定によって角度データを決定し、
所定の時間での前記角度データの微分により速度を決定し、
ボールジョイント(1)の互いに異なる少なくとも2つの箇所の温度(T1,T2)を測定し、
前記速度及び前記温度をベースに摩耗指数を決定することを特徴とする、ボールジョイントの摩耗の摩耗指数を決定するための方法。
【請求項14】
摩耗指数を、ボールジョイント固有の定数(K1)で乗じ、かつボール(4)の半径(R)で除するようにする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ボールスタッドからジョイントケーシングに若しくはジョイントケーシングとボールスタッドとの間の支承シェルに作用する力(F)を測定し、かつ該力(F)をベースに摩耗指数を決定する請求項13又は14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−501911(P2009−501911A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521786(P2008−521786)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【国際出願番号】PCT/DE2006/001150
【国際公開番号】WO2007/009419
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(506054589)ツェットエフ フリードリヒスハーフェン アクチエンゲゼルシャフト (151)
【氏名又は名称原語表記】ZF Friedrichshafen AG
【住所又は居所原語表記】D−88038 Friedrichshafen,Germany
【Fターム(参考)】