説明

自動車用の集約型パーキングブレーキ機能を備えた油圧ブレーキシステムの作動方法

本発明は、二つの車軸を有する自動車のための集約型パーキングブレーキ機能を備えた油圧ブレーキシステムを作動させる方法であって、前記油圧ブレーキシステムが、基本的にペダルが踏み込まれる圧力変換器(31)と、少なくとも一つの油圧ポンプ(4)と、電子制御兼調整ユニット(9)と連結した操作部材(12)と、ならびに流入及び流出弁(13,14,17,18)と連結した車輪ブレーキ(2,3)とから成り、この場合、第二車軸に所属する車輪ブレーキ(2)が、パーキングブレーキ動作を行うための手段を有している様式の方法に関する。パーキングブレーキ動作の開始と終了の際の、油圧ポンプ(4)による騒音を軽減するために、油圧ポンプ(4)は、提案した方法にあっては、パーキングブレーキの動作を開始させるために、および/またはパーキングブレーキの動作を終了させるために必要な圧力が、油圧ポンプ(4)の構造上の固有の性質により設定された、最大可能な圧力上昇勾配に比べて小さい圧力上昇勾配により形成されるように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの車軸を有する自動車のための内蔵型パーキングブレーキ機能を備えた油圧ブレーキシステムを作動させる方法であって、前記油圧ブレーキシステムが、基本的にペダルが踏み込まれる圧力変換器と、少なくとも一つの油圧ポンプと、電子制御兼調整ユニットと連結した操作部材と、ならびに流入及び流出弁と連結した車輪ブレーキとから成り、この場合、第二車軸に所属する車輪ブレーキが、パーキングブレーキ動作を行うための手段を有している様式の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から、この類のパーキングブレーキ装置を備えた油圧車両ブレーキが知られている。パーキングブレーキ動作を行うために、公知のシステムにあっては、圧力上昇は
作動圧力室内で油圧ポンプにより行われ、それによりブレーキピストンは摺動し、かつ摩擦面備えたネジ付きナット/スピンドル結合体によりロック可能である。しかしながら、油圧ポンプにより引起され、圧力上昇時に不快感を与える騒音は、少なからず短所として考慮しなければならない。
【特許文献1】米国特許第4215767号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って本発明の課題は、パーキングブレーキの動作を実行するために、圧力上昇の際に、油圧ポンプにより生じる騒音を軽減する方法を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、本発明により、パーキングブレーキの動作を開始させるために、および/またはパーキングブレーキの動作を終了させるために必要な圧力が、最小限可能な圧力上昇勾配により形成されるように油圧ポンプを制御することにより解決される。このように対処することにより、低騒音の圧力上昇が達せられる。
【0005】
特に好ましい別の形態において、油圧ポンプの作動モードは運転者により決定される。
【0006】
この場合、運転者による操作部材の操作が短いと、パーキングブレーキ動作を行うのに必要な圧力が、長い期間にわたり操作部材を操作した場合に比べて、第二車軸に所属する車輪ブレーキ内ではさらに緩速に上昇するように、油圧ポンプは制御される。
【0007】
特に好ましい実施形態において、フットブレーキ段階時に車輪ブレーキ内に導入される圧力は、パーキングブレーキ動作を開始させるために使用される。
【0008】
本発明による方法の他の好ましい形態において、フットブレーキ動作から、パーキングブレーキ動作に移行する際に、少なくとも以下の工程、すなわち
I.運転者が操作部材を操作する工程、
II.第一車軸に所属する車輪ブレーキの流入弁を閉鎖する工程、
III.第二車軸に所属する車輪ブレーキ内の油圧ポンプにより圧力を上昇させる工程、および
IV.第二車軸に所属する車輪ブレーキの流入弁を閉鎖し、流出弁を開放し、かつパーキングブレーキ動作を行うための手段を作動させる工程が行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を引き続き、添付の図と関連した実施例に基づき詳しく説明する。
【実施例】
【0010】
図1に概略的に示した自動車用ブレーキシステムの回路図は、第一車軸、すなわちフロント車軸において、車輪ブレーキ3を備え、この車輪ブレーキは、第二車軸、すなわちリ車軸におけるさらなる車輪ブレーキ2とは異なり、パーキングブレーキの動作を実行するためのロック装置は一切備えていない。ロック装置を備えた車輪ブレーキ2を、図2に基づき以下にいっそう詳しく説明する。車輪ブレーキ2,3は、流入弁13,17を介して、図1において後方で接続されるマスターブレーキシリンダを備えた真空ブレーキブースタとして示した、ペダルで作動する圧力センサー31により圧力をかけられる。車輪ブレーキ2,3内の減圧は、流出弁14,18を介して行われ、それによりブレーキ液は低圧アキュムレータ32,33内に供給される。さらに、ブレーキシステムは、電子制御兼調整ユニット9、並びに車輪ブレーキ2,3用に車軸のどちらにも油圧ポンプ4,40を備え、これらはアンチロック制御作動(ABS)を実施するために、および電子安定化プログラム(ESP)で制御するために共通に必要である。
【0011】
図2に示した自動車用油圧車輪ブレーキ2は、ブレーキケーシング1を備え、この
ブレーキケーシングはブレーキディスク26の外縁部と二つのブレーキパッド24,25を取囲む。さらに、ブレーキケーシング1はブレーキシリンダ5を備え、このブレーキシリンダはブレーキピストン6を軸方向で摺動可能に収容する。ブレーキシリンダ5とブレーキピストン6の間に形成された作動圧力室7内には、油圧ジョイント部8を用いてブレーキ液が供給される。その結果、ブレーキピストン6をブレーキディスク26の方に向かって軸方向に摺動させるブレーキ圧が生じる。これにより、ブレーキピストン6に面したブレーキパッド24はブレーキディスク26に抗して押圧され、その際反応としてブレーキケーシング1は逆の方向に摺動し、それにより他方のブレーキパッド25もブレーキディスク26に抗して押圧される。
【0012】
図に示した車輪ブレーキ2は、ブレーキピストン6からは隔てられたブレーキケーシング1の側に、作動アキュムレータ10(Arbeitsspeicher)を備えている。作動アキュムレータ10は実質的に作動圧力室7を区画するアキュムレータピストン94とバネ部材90とから成り、かつこの作動アキュムレータにより、パーキングブレーキ作動時にブレーキパッド24,25に作用する作動力が、ブレーキケーシング1の領域内において、熱的に左右される長さのばらつきにほとんど左右されないことが保証される。パーキングブレーキ機能を果たすために、ブレーキピストン6をロックするための手段が必要であり、前記手段はネジ付きナットスピンドル機構として形成されたロック装置と、アキュムレータピストン94における第一摩擦面98とから形成されている。ネジ付きナットスピンドル機構−そのネジ付きナット15がブレーキピストンと一体に構成されている−は、自己ロックしないネジ山により、ネジ付きナット15と連結したスピンドル16を備えている。スピンドル16は第二摩擦面97を備え、この摩擦面は、ブレーキピストン6がロックしている場合、アキュムレータピストン94における前述の第一摩擦面98と協働する。
【0013】
さらにロックユニットが設けられており、このロックユニットは、作動アキュムレータ10の外側に配置され、かつ電磁石91として形成されたアクチュエータにより形成され、そのアーマチュア92は、スライダーとして形成されたロック部材93に固く連結している。フットブレーキ作動時、アキュムレータピストン94に固く連結した力を伝達する部材96の並進運動が、ブレーキピストン6の方向で妨げられるので、アキュムレータピストン94はスライダー93により遮断される。この目的で、力を伝達する部材96は、二つの突出部を備え、この突出部がスライダー93内に形成された凹部により収容されるように形成されている。突出部がスライダー93に支持されていることにより、力を伝達する部材96は、ブレーキピストン6の方向に移動するのを阻止される。スライダー93が電磁石91により、力を伝達する部材96の突出部がスライダー93の凹部と一直線になっているように移動すると、力を伝達する部材96あるいはアキュムレータピストン94は、ブレーキピストン6の方向に移動できる。
【0014】
パーキングブレーキの動作を実行するために、図1と関連して述べた、作動圧力室7内の油圧ポンプ4により油圧は上昇し、油圧により、図中のブレーキピストン6は左へ摺動し、アキュムレータピストン94は、図中のバネ部材90の力の作用に抗して右へ摺動する。アキュムレータピストン94がこのように摺動した後、スライダー93は動作可能であり、かつ力を伝達する部材96を開放することができる。スライダー93の作動後、油圧が減少すると同時に、摩擦面97,98が係合状態にあるまで、油圧で予負荷されたバネ部材90により、アキュムレータピストン94はブレーキピストン6の方向へ向かって並進運動し、それによりブレーキピストン6はロック状態に移行する。この際、スピンドル16は中央支承部21から離れ、バネ部材90は閉鎖した動力伝達により、アキュムレータピストン94から、ネジ付きナットスピンドル機構を経由して、ブレーキピストン6へ作用し、かつこのバネ部材により、パーキングブレーキの動作を実行するのに必要な加圧力が生じる。パーキングブレーキを終了させるために、すでに述べた油圧ポンプ4により、再度作動圧力室7内の油圧は上昇し、図2のアキュムレータピストン94は右へ摺動する。この際バネ部材90は油圧で予負荷される。アキュムレータピストン94の有効直径は、ブレーキピストン6の有効直径よりも大きく選択されているので、パーキングブレーキの動作を実行するための作動圧力は減少する。その後、アキュムレータピストン94は、力を伝達する部材96を用いて、再度スライダー93によりブロックされる。
【0015】
図1に基づき以下に記載する本発明による方法により、パーキングブレーキの動作を開始させかつ終了させるために必要な圧力が、低騒音で上昇するように油圧ポンプ4を制御する。この目的で、必要な圧力は、油圧ポンプ4により、油圧ポンプ4の構造的特徴により前もって決められた、最小限可能な圧力上昇勾配を用いて上昇する。圧力上昇勾配とは、油圧ポンプ4の吐出量の時間勾配である。この圧力上昇勾配が十分小さく選択されると、油圧ポンプ4により発生する騒音は、自動車車内の運転者にはもはや感知できない。運転者が停止状態にある自動車をフットブレーキを使用して、すなわち、ブレーキペダル11を踏み込むことにより安全な状態に維持しない限りは、運転者により操作エレメント12が作動する際、リア車軸に所属する車輪ブレーキ2内の圧力は、まず第一に、同時に閉鎖された流出弁14でもって、油圧ポンプ4の構造的特徴により前もって決められた、最小限可能な圧力上昇勾配を用いて上昇する。このことは、図2に基づいて記載された車輪ブレーキ2のブレーキピストン6が、自動車の安全な停止状態にとって十分大きな加圧力をかけるまで行われる。十分大きな加圧力に必要な圧力は、図1に示していない加速センサーによってか、あるいは加速センサーがない場合十分大きく選択された圧力値により決定される。その後、図2により記載されたアキュムレータピストン94が十分離れて移動され、スライダー93が力を伝達する部材96を、したがってアキュムレータピストン94を解除できるまで、油圧ポンプ4は前述の最少の圧力勾配を用いてそれ以上必要な圧力を増大させる。流入弁13を開放しかつ流出弁14を閉鎖することにより、前述の摩擦面97,98は互いに係合し、リア車軸の車輪ブレーキ2のブレーキピストン6は、図2に基づいてすでに記載したように、バネ組立90の作用により、加圧状態でロックされている。
【0016】
さらに、本発明による方法によれば、油圧ポンプ4の作動モードは運転者により決定される。運転者による操作エレメント12の操作が短い場合、パーキングブレーキ動作を開始させかつ終了させるのに必要な圧力が、ゆっくりと、すなわち小さい圧力勾配で上昇するように油圧ポンプ4は運転される。圧力上昇は、操作エレメント12をさらに作動させることにより停止させることができる。前述のように、緩速な圧力上昇により、油圧ポンプ4により生じる騒音は、運転者にとって感知可能ではない。運転者がパーキングブレーキ動作を開始させかつ終了させるために急激な圧力上昇を所望する場合、運転者は操作エレメント12を長く、言い換えれば好ましくは3秒よりも長く操作する必要がある。その後、必要な圧力は、油圧ポンプ4の構造的特徴により前もって決められた、最小限可能な圧力上昇勾配を用いて上昇する。本発明の方法の代替案において、圧力上昇勾配は操作エレメント12の操作時間と直線的に結合している。このような方法により、運転者は圧力上昇速度を独立して扱うことができる。
【0017】
さらに、記載された方法にあっては、フットブレーキの作動時にリア車軸及びフロント車軸の車輪ブレーキ2,3内に導入される圧力は、パーキングブレーキ動作を開始するために使用される。この場合、初期状態は運転者がフットブレーキにより、自動車を停止状態にすることである。その際、運転者はブレーキペダル11を操作し、その後車輪ブレーキ2,3内において圧力が上昇する。運転者は自動車を停止状態にした後、通常ブレーキペダル11を踏み続ける。運転者が操作エレメント12を操作した後、フロント車軸に所属する車輪ブレーキの流入弁17は閉鎖され、フットブレーキの動作時に導入された圧力はフロント車軸の車輪ブレーキ3内に閉じ込められる。引き続き、図2に基づきすでに説明したアキュムレータピストン94あるいは力を伝達する部材96が、図2において右方向へ摺動するまで、油圧ポンプ4により、リア車軸の車輪ブレーキ2内での緩速的な圧力上昇が行われる。次いでスライダー93は、アキュムレータピストン94をブロックする位置から移動する。続いて車輪ブレーキ2の流入弁17が閉鎖され、流出弁が開放されると、アキュムレータピストン94は図2において右方向に移動し、その後摩擦面97,98は移動して互いに係合する。すでに説明したバネ部材90の作用は、ブレーキピストン6に加わり、それにより二つのブレーキパッド24,25が、ブレーキディスク26に印加される。このようにしてパーキングブレーキ動作を行うための手段が作動する。フットブレーキ動作時に車輪ブレーキ2,3内に導入される圧力は、ちょうど説明した方法によりパーキングブレーキ動作を開始させるために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による方法が実施可能である油圧ブレーキシステムの概略的示した接続図である。
【図2】図1に示したブレーキシステム内において車軸に採用される、自動車用油圧車輪ブレーキの軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ブレーキケーシング
2 車輪ブレーキ
3 車輪ブレーキ
4 油圧ポンプ
5 ブレーキシリンダ
6 ブレーキピストン
7 作動圧力室
8 ジョイント部
9 電子制御兼調整ユニット
10 作動アキュムレータ
13 流入弁
14 流出弁
15 ネジ付きナット
16 スピンドル
17 流入弁
18 流出弁
21 中央支承部
24 ブレーキパッド
25 ブレーキパッド
26 ブレーキディスク
31 圧力センサー
32 低圧アキュムレータ
33 低圧アキュムレータ
40 油圧ポンプ
90 バネ部材
91 電磁石
92 アーマチュア
93 ブロック部材 スライダー
94 アキュムレータピストン
96 動力を伝達する部材
97 第二摩擦面
98 第一摩擦面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの車軸を有する自動車のための集約型パーキングブレーキ機能を備えた油圧ブレーキシステムを作動させる方法であって、
前記油圧ブレーキシステムが、基本的にペダルが踏み込まれる圧力センサー(31)と、少なくとも一つの油圧ポンプ(4)と、電子制御兼調整ユニット(9)と連結した操作部材(12)と、ならびに流入及び流出弁(13,14,17,18)と連結した車輪ブレーキ(2,3)とから成り、この場合、第二車軸に所属する車輪ブレーキ(2)が、パーキングブレーキ動作を行うための手段を有している様式の方法において、
パーキングブレーキの動作を開始させるために、および/またはパーキングブレーキの動作を終了させるために必要な圧力が、最小限可能な圧力上昇勾配により形成されるように油圧ポンプ(4)を制御することを特徴とする方法。
【請求項2】
油圧ポンプ(4)の作動モードが運転者により決定されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
運転者による操作部材(12)の操作が短いと、パーキングブレーキ動作を行うのに必要な圧力が、長い期間にわたり操作部材を操作した場合に比べて、第二車軸に所属する車輪ブレーキ内ではさらに緩速に上昇するように油圧ポンプ(4)が制御されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
フットブレーキ段階時に車輪ブレーキ(2,3)内に導入される圧力は、パーキングブレーキ動作を開始させるために使用されることを特徴とする請求項項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
フットブレーキ動作から、パーキングブレーキ動作に移行する際に、少なくとも以下の工程、すなわち
I.運転者が操作部材(12)を操作する工程、
II.第一車軸に所属する車輪ブレーキ(3)の流入弁(17)を閉鎖する工程、
III.第二車軸に所属する車輪ブレーキ(2)内の油圧ポンプ(4)により圧力を上昇させる工程、および
IV.第二車軸に所属する車輪ブレーキ(2)の流入弁(13)を閉鎖し、流出弁(14)を開放し、かつパーキングブレーキ動作を行うための手段を作動させる工程が行われることを特徴とする請求項1または4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−522710(P2006−522710A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505531(P2006−505531)
【出願日】平成16年4月7日(2004.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/050473
【国際公開番号】WO2004/089713
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】