説明

自動車用エアバッグドア

【課題】テアラインが形成されていないドア表皮をドア基材のテアラインに沿って破断させる。
【解決手段】自動車用エアバッグドア21は、インストルメントパネル11の基材13の一部を構成するドア基材27と、表皮14の一部を構成するドア表皮30と、ドア基材27及びドア表皮30のうちドア基材27のみに形成され、かつ展開膨張するエアバッグにより押圧されたときにドア基材27の破断の起点となるテアライン33とを備える。ドア基材27の外側の面28とドア表皮30との接着に関わる箇所のうち、テアライン33を投影した箇所Pを含み、かつテアライン33に沿って延びる帯状の領域を第1領域Z1とし、その第1領域Z1の幅方向両側においてテアライン33に沿う帯状の領域を第2領域Z2とした場合、ドア基材27に対するドア表皮30の接着力を、第1領域Z1において各第2領域Z2よりも低くする接着力差発生手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に表皮を接着してなる自動車のインストルメントパネルの一部として形成される自動車用エアバッグドアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の助手席用エアバッグ装置のなかには、そのエアバッグドアが、基材に表皮を接着してなるインストルメントパネルの一部として形成されるものがある。このタイプのエアバッグドアは、上記基材の一部を構成するドア基材と、上記表皮の一部を構成するドア表皮と、ドア基材及びドア表皮のそれぞれに形成されたテアラインとを備えている。このため、前面衝突等によって自動車に前方から衝撃が加わって助手席用エアバッグ装置が作動してエアバッグが展開膨張し、そのエアバッグの押圧力がエアバッグドアに加わると、ドア基材及びドア表皮が各テアラインに沿って破断して、エアバッグドアが開かれる。エアバッグが、上記開かれたエアバッグドアを通り、インストルメントパネルと助手席の乗員との間で展開膨張し、乗員に加わる衝撃を緩和する。
【0003】
ところで、近年では、テアラインの形成に係る種々のコストや生産工程の削減、さらには外観意匠の向上といった観点から、ドア表皮のテアラインを割愛することが考えられている。ただし、この場合であっても、エアバッグの展開膨張時に、ドア表皮がドア基材とともに破断されることが求められる。
【0004】
そこで、こうした要求に応える自動車用エアバッグドアとして、例えば、特許文献1には、ドア表皮のドア基材に対する接着力を、ドア基材の破断時に同ドア基材から剥離しない大きさに設定したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−126038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された自動車用エアバッグドアによると、展開膨張するエアバッグによって押圧されてドア基材がテアラインに沿って破断するときにドア表皮がドア基材から剥がれにくく、破断しやすい。しかし、この自動車用エアバッグドアでは、ドア表皮をドア基材のテアラインに沿って破断させることについてまでは考慮されていない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、テアラインが形成されていないドア表皮をドア基材のテアラインに沿って破断させることのできる自動車用エアバッグドアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基材の外側に表皮を接着してなる自動車のインストルメントパネルの一部として形成されるものであり、前記基材の一部を構成するドア基材と、前記表皮の一部を構成するドア表皮と、前記ドア基材及び前記ドア表皮のうち同ドア基材のみに形成され、かつ展開膨張するエアバッグにより押圧されたときに同ドア基材の破断の起点となるテアラインとを備える自動車用エアバッグドアにおいて、前記ドア基材の外側の面と前記ドア表皮との接着に関わる箇所のうち、前記テアラインを投影した箇所を含み、かつ同テアラインに沿って延びる帯状の領域を第1領域とするとともに、前記第1領域の幅方向両側において前記テアラインに沿う帯状の領域を第2領域とした場合、前記ドア基材に対する前記ドア表皮の接着力を、前記第1領域において少なくとも前記各第2領域よりも低くする接着力差発生手段を設けることを要旨とする。
【0009】
上記の構成によれば、エアバッグが展開膨張するとき、自動車用エアバッグドアでは、ドア基材及びその外側のドア表皮がエアバッグによって押圧される。このエアバッグの押圧力によりドア基材及びドア表皮が破断するが、この際、テアラインはドア基材の破断の起点となる。すなわち、ドア基材はテアラインを起点として、そのテアラインに沿って破断する。
【0010】
これに対し、ドア表皮では、接着力差発生手段により、同ドア基材に対するドア表皮の接着力が、第1領域において第2領域よりも低くされている。このことから、第2領域ではドア基材に対しドア表皮が強く接着していて、同ドア表皮がドア基材に対し動かないか、あるいは動きにくい。第2領域では、ドア表皮は伸びにくく破れにくい。
【0011】
ドア表皮は、主として第1領域においてエアバッグの上記押圧力を受ける。表現を変えると、エアバッグの押圧力は、第2領域よりも接着力の低い第1領域に集中して作用する。その結果、ドア表皮は、第1領域においてドア基材のテアラインに対応した箇所で、そのテアラインに沿って破れる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ドア表皮は、接着層を介して前記ドア基材に接着されるものであり、前記接着力差発生手段は、前記第2領域において前記接着層と前記ドア基材との間に形成されたプライマー層からなることを要旨とする。
【0013】
上記の構成によれば、第2領域では、接着層とドア基材との間に形成されたプライマー層により、同プライマー層が設けられていない第1領域よりも、接着層のドア基材に対する接着力が高められる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記接着力差発生手段は、前記ドア基材の前記外側の面のうち、前記第1領域よりも前記第2領域において粗く形成された粗面からなることを要旨とする。
【0015】
上記の構成によれば、ドア基材の外側の面のうち第2領域に対応する箇所が第1領域に対応する箇所よりも粗い粗面に形成されることで、同第2領域では、接着剤のドア基材外側の面との密着力が高められるとともに、接着面積が増大する。これらのことから、第2領域では第1領域よりも、接着層のドア基材に対する接着力が高められる。
【0016】
なお、前記粗面は、請求項4に記載の発明によるように、前記第2領域において前記ドア基材の前記外側の面が火炎に曝されることにより形成されたものであってもよいし、請求項5に記載の発明によるように、前記第2領域において前記ドア基材の前記外側の面にシボが入れられることにより形成されたものであってもよい。前者の粗面を形成するための処理はドア基材の成形後に行なわれ、後者の粗面を形成するための処理はドア基材の成形時に行なわれる。いずれにおいても、第2領域では第1領域よりも、接着層のドア基材に対する接着力が高められる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1つに記載の発明において、前記接着力差発生手段は、前記ドア基材の前記外側の面のうち、前記ドア表皮が前記ドア基材に接着される前に加熱されることにより、前記第1領域よりも前記第2領域において温度が高くされた加熱面からなることを要旨とする。
【0018】
上記の構成によれば、ドア基材の外側の面のうち、第2領域に対応する面(加熱面)はドア表皮がドア基材に接着される前に加熱されることにより、第1領域に対応する面よりも温度が高くなっていて接着剤との密着性が向上している。このため、ドア表皮がこの加熱面においてドア基材に接着されることで、第2領域では第1領域よりも、接着剤のドア基材に対する接着力が高められる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1つに記載の発明において、前記接着力差発生手段は、前記第2領域のみに設けられていることを要旨とする。
接着力差発生手段による上記請求項1に記載の発明の効果は、第2領域にとどまらず、その周りの領域についても、第1領域との間で接着力差を出すための対象とした場合にも同様に得られる。しかし、この効果は、ドア表皮のうち、破断させたい箇所である第1領域での接着力を、同第1領域の周りの領域での接着力よりも低くすることで得られる。この点、第2領域(第1領域の幅方向両側においてテアラインに沿う帯状の領域)にのみ接着力差発生手段が設けられている請求項7に記載の発明では、接着力差発生手段の設けられる領域は、採り得る最少の領域となる。このため、接着力差発生手段を設けるための作業、材料等が必要最小限ですむ。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1つに記載の発明において、前記第2領域では、前記ドア表皮が前記ドア基材に接着されており、前記接着力差発生手段は、前記第1領域において前記ドア表皮を前記ドア基材に接着しないことにより、前記第2領域よりも前記第1領域において、前記ドア基材に対する前記ドア表皮の前記接着力を低くするものであることを要旨とする。
【0021】
上記の構成によれば、ドア表皮がドア基材に接着されていない第1領域では、接着されている第2領域よりも、ドア基材に対するドア表皮の接着力が低くなり、請求項1に記載の発明の効果が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の自動車用エアバッグドアによれば、テアラインが形成されていないドア表皮をドア基材のテアラインに沿って破断させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態において、インストルメントパネルの一部に形成された自動車用エアバッグドアを示す部分断面図。
【図2】自動車用エアバッグドアにおけるテアラインと第1領域及び第2領域との関係を示す部分平面図。
【図3】図1のX部を拡大して示す部分断面図。
【図4】本発明を具体化した第2実施形態において、自動車用エアバッグドアの要部を拡大して示す部分断面図。
【図5】本発明を具体化した第3実施形態において、自動車用エアバッグドアの要部を拡大して示す部分断面図。
【図6】本発明を具体化した第4実施形態において、自動車用エアバッグドアの要部を拡大して示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
自動車において運転席及び助手席の前方には、図1に示すインストルメントパネル11が配置されている。インストルメントパネル11の主要部は、心材としての基材13によって構成されている。基材13のうち、後述する自動車用エアバッグドア21のドア基材27を除く箇所は、PP(ポリプロピレン)等の硬質の合成樹脂材料を用い、射出成形法によって成形されている。この基材13の助手席に近い側(図1の上側)を外側とし、遠い側(図1の下側)を内側とすると、基材13の外側には表皮14が積層されている。第1実施形態では、表皮14は、TPO(サーモプラスチックオレフィン)によって形成された表皮本体15と、ウレタンによって形成され、かつ表皮本体15の内側に溶着等の方法によって積層された発泡層16とからなる二層構造をなしている。表皮14は、発泡層16の内側の面において、オレフィン系等の接着剤により基材13に接着されている。すなわち、表皮14は基材13上に接着層17を介して積層されている。
【0025】
上記自動車には、前方から衝撃が加わった場合に、助手席の前方でエアバッグ22を展開膨張させて乗員を衝撃から保護する助手席用エアバッグ装置20が設けられている。この助手席用エアバッグ装置20は、インストルメントパネル11の一部として形成された自動車用エアバッグドア21と、その自動車用エアバッグドア21よりも内側において、折り畳まれた状態で配設されたエアバッグ22と、そのエアバッグ22よりも内側に配設された膨張用ガス供給器としてのインフレータ23とを備えて構成されている。インフレータ23は、自動車に前方から衝撃が加わった場合に、エアバッグ22に膨張用ガスを供給する。この膨張用ガスの供給されたエアバッグ22は、折り状態を解消しながら外側へ膨張(展開膨張)する。
【0026】
次に、上記自動車用エアバッグドア21の基本的な構造について説明する。
インストルメントパネル11における基材13の一部には、同インストルメントパネル11の内外を連通させる開口部が設けられている。この開口部は、開口面積の大きな外側開口部24と、その外側開口部24よりも内側に位置し、かつ同外側開口部24よりも開口面積の小さな内側開口部25とからなる。外側開口部24と内側開口部25との間は、エアバッグ22側へ延びる係止部26となっている。
【0027】
自動車用エアバッグドア21は、インストルメントパネル11の基材13の一部をなし、かつ上記外側開口部24を閉塞し得る大きさを有するドア基材27と、同インストルメントパネル11の表皮14の一部をなし、かつ上記ドア基材27に積層されたドア表皮30とからなる。ドア基材27の内側の面29における周縁部には、内側へ向けて突起部31が突設されている。この突起部31は、ドア基材27が外側開口部24を閉塞した状態で、内側開口部25に挿通される。突起部31の先端部(内端部)には、上記係止部26に引っ掛かってドア基材27との間で係止部26を挟み込む係止爪31Aが設けられている。ドア基材27は、上記基材13を形成する硬質の合成樹脂材料(PP)よりも柔らかく、展開膨張するエアバッグ22の押圧力が加わった場合にも飛散し難い材質、例えば上記TPO等によって形成されている。なお、ドア表皮30は、上述した表皮14と同じ構成、すなわち、表皮本体15と発泡層16とを積層した二層構造を有している。
【0028】
ドア基材27の内側の面29であって、上記突起部31よりもエアバッグ22寄りの箇所には、リテーナ32が内側へ向けて突設されており、エアバッグ22及びインフレータ23がこのリテーナ32に保持されている。
【0029】
ドア基材27の内側の面29には、展開膨張するエアバッグ22によって押圧されたときに、同ドア基材27の破断の起点となるテアライン33が設けられている。第1実施形態では、このテアライン33として、二重Y字形と呼ばれる四方開き式のものが採用されている。このタイプのテアライン33は、図2に示すように、中央ライン部34と一対のV字形ライン部35とを備えている。中央ライン部34は、車幅方向に延びる直線状をなしている。各V字形ライン部35は、中央ライン部34の各端部を起点とし、同中央ライン部34から車幅方向外側へ遠ざかるに従い幅広となる。
【0030】
図3に示すように、テアライン33はV字状の断面を有しており、ドア基材27のほかの箇所よりも薄肉となっている。テアライン33は3mm前後の幅Wを有している。
なお、テアラインの形成に係る種々のコストや生産工程の削減、さらには外観意匠の向上といった観点から、ドア表皮30には、上記ドア基材27とは異なりテアラインが形成されていない。
【0031】
第1実施形態では、上述した自動車用エアバッグドア21の基本構造に加え、さらに、接着力差発生手段が設けられている。次に、この接着力差発生手段について説明する。
図2及び図3に示すように、ドア基材27の外側の面28とドア表皮30との接着に関わる箇所のうち、前記テアライン33を投影した箇所P(図3中、太い実線で示される箇所)を含み、かつ同テアライン33に沿って延びる帯状の領域を第1領域Z1とする。テアライン33と、そのテアライン33を基準として、同テアライン33の外縁から幅方向(図3では左右方向)両側へそれぞれ所定距離だけ離れた箇所との各間隔を「D」とすると、第1領域Z1の幅W1は、次式(1)で表される。
【0032】
W1=W+2・D ・・・(1)
上記間隔Dは10mm〜40mmの範囲の値に設定されることが望ましく、第1実施形態では10mmに設定されている。
【0033】
また、ドア基材27の外側の面28のうち、第1領域Z1の幅方向両側においてテアライン33に沿う帯状の領域を第2領域Z2とする。各第2領域Z2の幅をW2とすると、この幅W2は10mm〜40mmの範囲の値に設定されることが望ましく、10mm〜20mmの範囲の値に設定されることがより望ましい。第1実施形態では、各幅W2が10mmに設定されている。
【0034】
さらに、ドア基材27に対するドア表皮30の接着力は、接着力差発生手段により、第1領域Z1において各第2領域Z2よりも低くされている。
この接着力差発生手段は、各第2領域Z2において接着層17とドア基材27との間に形成されたプライマー層36からなる。各プライマー層36は、各第2領域Z2においてドア基材27の外側の面28の接着層17に対する接着性を改善するためのものであり、不揮発分の少ない低粘度液体をプライマー(下塗り剤)としてドア基材27に塗布することにより形成されている。この塗布された低粘度液体が充分に乾いたところで接着剤が塗り重ねられて接着層17が形成されている。使用に適するプライマーの種類は、ドア基材27の材質に応じて異なる。第1実施形態では、プライマーとしてCPO(塩素化ポリオレフィン)が用いられている。
【0035】
次に、上記のように構成された第1実施形態の自動車用エアバッグドア21の作用について説明する。
自動車に対し前方から衝撃が加わらない通常時には、助手席用エアバッグ装置20では、インフレータ23から膨張用ガスが噴出されない。エアバッグ22に供給される膨張用ガスがなく、同エアバッグ22は折り畳まれた状態に保持され続ける。
【0036】
また、自動車用エアバッグドア21では、ドア表皮30が接着層17を介してドア基材27の外側の面28に接着し続ける。この際、ドア基材27に対するドア表皮30の接着力は、プライマー層36の設けられていない第1領域Z1において、プライマー層36の設けられている第2領域Z2よりも低くなっている。
【0037】
前面衝突等により自動車に前方からの衝撃が加わった場合、インフレータ23から膨張用ガスが噴出され、エアバッグ22に供給される。この膨張用ガスが供給されたエアバッグ22は、折り状態を解消しながら膨張(展開膨張)する。この展開膨張の過程で、エアバッグ22の押圧力が自動車用エアバッグドア21を構成するドア基材27及びその外側のドア表皮30に加わる。この押圧力によってドア基材27及びドア表皮30が破断するが、この際、テアライン33はドア基材27の破断の起点となる。すなわち、テアライン33では、ドア基材27のほかの箇所に比べて厚みが薄く、強度が低くなっている。このため、ドア基材27はテアライン33を起点として、そのテアライン33に沿って破断する。
【0038】
ここで、仮に、ドア基材27に対するドア表皮30の接着力が第1領域Z1でも第2領域Z2でも同程度である(両領域Z1,Z2間で接着力に差がないか、あるいは差が僅かである)とすると、ドア表皮30にテアラインが設けられていないことから、ドア表皮30はその全体でエアバッグ22の押圧力を受けて伸びようとし、破断されにくい。
【0039】
これに対し、第1実施形態では、各第2領域Z2にプライマー層36が設けられ、第1領域Z1にプライマー層36が設けられていないことから、ドア基材27に対するドア表皮30の接着力が、第1領域Z1において各第2領域Z2よりも低くなっている。各第2領域Z2では、ドア基材27に対しドア表皮30が強く接着していて、同ドア表皮30がドア基材27に対し動かないか、あるいは動きにくい。各第2領域Z2では、ドア表皮30は伸びにくく破れにくい。
【0040】
ドア表皮30は、主として第1領域Z1において上記エアバッグ22の押圧力を受ける。表現を変えると、エアバッグ22の押圧力は、各第2領域Z2よりも低い接着力でドア基材27に接着されている第1領域Z1に集中して作用する。その結果、ドア表皮30は、第1領域Z1においてドア基材27のテアライン33に対応した箇所(テアライン33の外側となる箇所)で、そのテアライン33に沿って破断される。
【0041】
上記のようにドア基材27及びドア表皮30が二重Y字形のテアライン33に沿って破断されることにより、図1において二点鎖線で示すように、自動車用エアバッグドア21にドア部37が形成される。各ドア部37が、それらの基端部のヒンジ部38を支点として外側へ開くことにより、自動車用エアバッグドア21に開口39が形成される。エアバッグ22は、この開口39を通ってインストルメントパネル11と助手席の乗員との間で展開膨張し、前面衝突に伴い同乗員に加わる衝撃を緩和する。
【0042】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)ドア基材27の外側の面28とドア表皮30との接着に関わる箇所のうち、テアライン33を投影した箇所Pを含み、かつ同テアライン33に沿って延びる帯状の領域を第1領域Z1とするとともに、第1領域Z1の幅方向両側においてテアライン33に沿う帯状の領域を第2領域Z2とする。ドア基材27に対するドア表皮30の接着力を、第1領域Z1において各第2領域Z2よりも低くする接着力差発生手段を設けている(図2、図3)。
【0043】
このため、展開膨張するエアバッグ22の押圧力を、第2領域Z2よりも接着力の低い第1領域Z1に集中して作用させ、テアラインの設けられていないドア表皮30を、ドア基材27のテアライン33に沿って破断させることが可能になる。
【0044】
(2)接着力差発生手段として、各第2領域Z2において接着層17とドア基材27の外側の面28との間にプライマー層36を形成している(図3)。
このため、プライマー層36が設けられている第2領域Z2では、同プライマー層36が設けられていない第1領域Z1よりも、接着層17のドア基材27に対する接着力を高めることができ、上記(1)の効果を得ることができる。
【0045】
(3)接着力差発生手段(プライマー層36)による上記(1)の効果は、第2領域Z2にとどまらず、その周りの領域についても第1領域Z1との間で接着力差を出すための対象とした場合にも同様に得られる。しかし、この効果は、ドア表皮30のうち、破断させたい箇所である第1領域Z1での接着力を、同第1領域Z1の周りの領域での接着力よりも低くすることで得られる。
【0046】
この点、第1実施形態では、接着力差発生手段(プライマー層36)を、第2領域Z2のみに設けている。この場合に、接着力差発生手段(プライマー層36)の設けられる領域は、採り得る最少の領域となる。このため、接着力差発生手段(プライマー層36)を設けるための作業、材料等が必要最小限ですむ。
【0047】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について図4を参照して説明する。
第2実施形態では、ドア基材27の外側の面28のうち、第1領域Z1よりも各第2領域Z2において粗く形成された箇所(以下「粗面28A」という)によって接着力差発生手段が構成されている。各粗面28Aは、図4では、太い実線で示されている。こうした粗面28Aを形成するために、第2実施形態では、ドア基材27の樹脂成形後であって、接着層17が形成される前(接着剤が塗布される前)の段階で、ドア基材27の外側の面28のうち第2領域Z2に対応する箇所が火炎に曝されている。ドア基材27の外側の面28のうち第1領域Z1に対応する箇所については火炎に曝されず、平滑面28Bとなっている。
【0048】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。このため、図4において第1実施形態と同様の部材及び箇所については同一の符号を付すことで詳しい説明を省略する。
上記構成を有する第2実施形態の自動車用エアバッグドア21では、第1領域Z1よりも各第2領域Z2においてドア基材27の外側の面28が粗く形成(粗面28Aが形成)されることで、接着層17の粗面28Aとの密着力が高められるとともに、接着面積が増大する。これらのことから、各第2領域Z2では第1領域Z1に比べ、接着層17のドア基材27に対する接着力が高められる。
【0049】
従って、第2実施形態によると、上記(1),(3)と同様の効果が得られるほか、上記(2)に代えて次の効果が得られる。
(4)ドア基材27の外側の面28のうち、第1領域Z1よりも第2領域Z2において粗く形成された粗面28Aによって接着力差発生手段を構成している。
【0050】
このため、接着層17のドア基材27に対する接着力を各第2領域Z2において第1領域Z1よりも高めることができ、上記(1)の効果を得ることができる。
(5)各第2領域Z2においてドア基材27の外側の面28を火炎に曝すことにより、上記(4)の粗面28Aを形成している。このような簡単な方法で、ドア基材27の外側の面28の一部を粗面28Aにすることができる。
【0051】
(第3実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態について図5を参照して説明する。
第3実施形態では、ドア基材27の外側の面28のうち各第2領域Z2に対応する箇所は、ドア表皮30がドア基材27に接着される前に加熱されて温度が高くされた加熱面28Cとなっている。各加熱面28Cは、図5では、太い実線で示されている。これに対し、ドア基材27の外側の面28のうち第1領域Z1に対応する箇所は、加熱されず上記加熱面28Cよりも温度の低い非加熱面28Dとなっている。そして、上記加熱面28Cによって接着力差発生手段が構成されている。さらに、ドア表皮30は、第1領域Z1では非加熱面28Dにおいてドア基材27に接着され、各第2領域Z2では加熱面28Cにおいてドア基材27に接着されている。
【0052】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。このため、図5において第1実施形態と同様の部材及び箇所については同一の符号を付すことで詳しい説明を省略する。
上記構成を有する第3実施形態の自動車用エアバッグドア21では、ドア基材27の外側の面28のうち、ドア表皮30がドア基材27に接着される前には、加熱面28Cにおいて非加熱面28Dよりも温度が高くなっていて、接着剤との密着性が向上している。このため、ドア表皮30がこの加熱面28Cにおいてドア基材27に密着することで、各第2領域Z2では第1領域Z1よりも接着層17のドア基材27に対する接着力が高められる。
【0053】
従って、第3実施形態によると、上記(1),(3)と同様の効果が得られるほか、上記(2)に代えて次の効果が得られる。
(6)ドア基材27の外側の面28のうち、ドア表皮30がドア基材27に接着される前に加熱されることで、第1領域Z1の非加熱面28Dよりも第2領域Z2において温度が高くされた加熱面28Cによって接着力差発生手段を構成している。
【0054】
このため、接着層17のドア基材27に対する接着力を各第2領域Z2において第1領域Z1よりも高めることができ、上記(1)の効果を得ることができる。
(第4実施形態)
次に、本発明を具体化した第4実施形態について図6を参照して説明する。
【0055】
第4実施形態では、ドア表皮30が第1領域Z1においてドア基材27に接着されていない。第1領域Z1では、ドア基材27の外側の面28とドア表皮30との間に接着層17が設けられていない。ドア表皮30は、各第2領域Z2を含め、第1領域Z1以外の全ての領域においてドア基材27に接着されている。こういった接着態様、すなわち、第1領域Z1を除く領域でドア表皮30がドア基材27に接着されるという接着態様により、第2領域Z2よりも第1領域Z1において接着力を低くする接着力差発生手段が構成されている。
【0056】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。このため、図6において第1実施形態と同様の部材及び箇所については同一の符号を付すことで詳しい説明を省略する。
上記構成を有する第4実施形態の自動車用エアバッグドア21では、ドア表皮30がドア基材27に接着されていない第1領域Z1では、接着されている各第2領域Z2よりも、ドア基材27に対するドア表皮30の接着力が低くなる。
【0057】
従って、第4実施形態によると、上記(1),(3)と同様の効果が得られるほか、上記(2)に代えて次の効果が得られる。
(7)各第2領域Z2において、ドア表皮30をドア基材27に接着し、第1領域Z1において、ドア表皮30をドア基材27に接着しないことによって接着力差発生手段を構成している。
【0058】
このため、ドア表皮30がドア基材27に接着されていない第1領域Z1では、接着されている各第2領域Z2よりも、ドア基材27に対するドア表皮30の接着力を低くすることができ、上記(1)の効果を得ることができる。
【0059】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<基材13について>
・基材13のうちドア基材27を除く箇所は、上記PPとは異なる材料、例えばPC(ポリカーボネート)/ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン三元共重合体)、ASG(ガラス繊維強化アクリロニトリル・スチレン)等によって形成されてもよい。
【0060】
<ドア基材27のテアライン33について>
・テアライン33は、溝状の凹部を有することにより肉厚の小さくなった薄肉部と、凹部を有しない厚肉部とが交互に設けられたものであってもよいし、凹部を連続して1本の溝状をなすように形成したもの(薄肉部のみからなるもの)であってもよい。いずれの場合であっても、薄肉部では、凹部の分だけ厚みが薄くなり破断強度が低くなる。
【0061】
前者の場合、凹部のない箇所(厚肉部)が断続的に残されることとなり、テアライン33の剛性を確保することができる。このため、例えば乗員がインストルメントパネル11に手を着いて体重をかけた場合に生ずる押付力等の外的要因によって、テアライン33が容易に変形することがない。
【0062】
・テアライン33は、ドア基材27の内側の面29に代えて、又は加えて外側の面28に設けられてもよい。
・テアライン33は、平面視で、上記各実施形態(二重Y字形)とは異なる形状を有するもの、例えばH字状をなすものであってもよい。
【0063】
<表皮14(ドア表皮30)について>
・表皮本体15は、上記TPOとは異なる材料、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)によって形成されてもよい。
【0064】
・発泡層16は、上記ウレタンとは異なる材料、例えば発泡PVCによって形成されてもよい。
・表皮本体15に、タルク、ガラス繊維等の繊維状強化剤が含有されてもよい。こうすることにより、表皮本体15の剛性が高められて同表皮本体15が伸びにくくなり、反面破断されやすくなる。
【0065】
・表皮14(ドア表皮30)は、発泡層16がなく、表皮本体15のみからなる単層構造をなすものであってもよい。
<接着力差発生手段について>
・第2実施形態の接着力差発生手段の変更例として、火炎に曝されることに代え、第2領域Z2においてドア基材27の外側の面28にシボが入れられてもよい。
【0066】
この場合には、ドア基材27を金型によって樹脂成形する際に、シボを一緒に形成することができる。樹脂成形後に、何らかの加工を行なわなくても、ドア基材27の外側の面28において第2領域Z2に対応する箇所を粗面28Aにすることができる。
【0067】
そのほか、研磨紙、研磨布、ワイヤブラシ、サンダー、サンドブラスティング等を用いて、ドア基材27の外側の面28において第2領域Z2に対応する箇所を研削して粗面28Aにしてもよい。さらに、薬剤を用いて、ドア基材27の外側の面28において第2領域Z2に対応する箇所を粗面28Aにしてもよい。このようにしても、各第2領域Z2において第1領域Z1よりも、接着層17のドア基材27との接着力を高めることができる。
【0068】
・第3実施形態の接着力差発生手段の変更例として、ドア基材27の外側の面28のうち第1領域Z1に対応する箇所を、ドア表皮30がドア基材27に接着される前に冷却されることで温度の低くなった冷却面とする。これに対し、ドア基材27の外側の面28のうち、第2領域Z2に対応する箇所は、冷却されず、上記冷却面よりも温度の高い非冷却面とする。そして、上記冷却面によって接着力差発生手段を構成してもよい。
【0069】
・第1〜第3実施形態において、接着力差発生手段は第2領域Z2にとどまらず、同第2領域Z2の周囲の領域に設けられてもよい。
・第1〜第4実施形態の接着力差発生手段の各種内容を適宜組合わせたものを、新たな接着力差発生手段としてもよい。
【符号の説明】
【0070】
11…インストルメントパネル、13…基材、14…表皮、17…接着層、21…自動車用エアバッグドア、22…エアバッグ、27…ドア基材、28…外側の面、28A…粗面(接着力差発生手段)、28C…加熱面(接着力差発生手段)、30…ドア表皮、33…テアライン、36…プライマー層(接着力差発生手段)、P…箇所、Z1…第1領域、Z2…第2領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の外側に表皮を接着してなる自動車のインストルメントパネルの一部として形成されるものであり、
前記基材の一部を構成するドア基材と、
前記表皮の一部を構成するドア表皮と、
前記ドア基材及び前記ドア表皮のうち同ドア基材のみに形成され、かつ展開膨張するエアバッグにより押圧されたときに同ドア基材の破断の起点となるテアラインと
を備える自動車用エアバッグドアにおいて、
前記ドア基材の外側の面と前記ドア表皮との接着に関わる箇所のうち、前記テアラインを投影した箇所を含み、かつ同テアラインに沿って延びる帯状の領域を第1領域とするとともに、前記第1領域の幅方向両側において前記テアラインに沿う帯状の領域を第2領域とした場合、前記ドア基材に対する前記ドア表皮の接着力を、前記第1領域において少なくとも前記各第2領域よりも低くする接着力差発生手段を設けることを特徴とする自動車用エアバッグドア。
【請求項2】
前記ドア表皮は、接着層を介して前記ドア基材に接着されるものであり、
前記接着力差発生手段は、前記第2領域において前記接着層と前記ドア基材との間に形成されたプライマー層からなる請求項1に記載の自動車用エアバッグドア。
【請求項3】
前記接着力差発生手段は、前記ドア基材の前記外側の面のうち、前記第1領域よりも前記第2領域において粗く形成された粗面からなる請求項1又は2に記載の自動車用エアバッグドア。
【請求項4】
前記粗面は、前記第2領域において前記ドア基材の前記外側の面が火炎に曝されることにより形成されたものである請求項3に記載の自動車用エアバッグドア。
【請求項5】
前記粗面は、前記第2領域において前記ドア基材の前記外側の面にシボが入れられることにより形成されたものである請求項3又は4に記載の自動車用エアバッグドア。
【請求項6】
前記接着力差発生手段は、前記ドア基材の前記外側の面のうち、前記ドア表皮が前記ドア基材に接着される前に加熱されることにより、前記第1領域よりも前記第2領域において温度が高くされた加熱面からなる請求項1〜5のいずれか1つに記載の自動車用エアバッグドア。
【請求項7】
前記接着力差発生手段は、前記第2領域のみに設けられている請求項1〜6のいずれか1つに記載の自動車用エアバッグドア。
【請求項8】
前記第2領域では、前記ドア表皮が前記ドア基材に接着されており、
前記接着力差発生手段は、前記第1領域において前記ドア表皮を前記ドア基材に接着しないことにより、前記第2領域よりも前記第1領域において、前記ドア基材に対する前記ドア表皮の前記接着力を低くするものである請求項1〜7のいずれか1つに記載の自動車用エアバッグドア。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−176663(P2012−176663A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40176(P2011−40176)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】