説明

自動車用シート空調装置

【課題】空調ユニット内に配されるエバポレータの特定部位に着目して、常にエアコンの作動状態に関わらず、安定した冷気(冷風)が供給される自動車用シート空調装置を提供することを課題とする。
【解決手段】車室内の空調を司る空調ユニット2からの冷風を車両シート35に導き、該車両シート35に形成の吹出口38a,38bより吹出させるようにした自動車用シート空調装置1において、前記空調ユニット2から冷風の取り出し口17が、エバポレータ8の下流でしかも右又は左側の少なくとも一方の下方空間に設けられている。この取り出し口にはダクト18が接続され、冷風が前記車両シート35に導かれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車室内の空調を司る空調ユニットから冷風をダクトを介してシートに導き、該シートに形成の吹出口より吹出させるようにした自動車用シート空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内の空調だけでは解消できなかった乗員の背中、臀部及び大腿部の蒸れ、汗によるベタつきを抑えるために、シート空調装置が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に示すように、フロントシート13のシートクッション15及びシートバック14にエアチャンバ35,34をそれぞれ備え、フロント側の空調装置1から接続ダクト12を介して冷風又は温風を選択的にエアチャンバ35,34に導いて、シートの空調が行われている。そして、その車両用シート空調装置は、回転ダクト29,30及び伸縮ダクト31,32により、フロントシート13の前後方向の駆動に対応させている接続型の自動車用シート空調装置が示されている。
【特許文献1】実開昭59−164552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示す発明においては、シートに冷風又は温風を選択的に導くため、接続ダクト12の途中に自在ダンパ11を設ける構成としているが、乗員の背中、大腿部の蒸れ、汗によるベタつきを抑えるためには、冷風のみを送風すれば足りることから、自在ダンパなどの切換手段は、部品点数の増加となるばかりでなく、コスト高となる要因ともなっていた。
【0005】
また、冷風をインストルメントパネル下の空調ユニットから導くが、その具体的構成は、冷却手段であるエバポレータの下流に形成の取り出し口から、接続ダクト12を介して導かれるが、エバポレータへの低風量時で、低負荷時には、その表面温度分布が不均一となり、そのことから起因する供給される冷風の温度が上昇気味となり、冷気供給が不安定となっていた。
【0006】
特に、図4に示すような、エバポレータAに冷媒が流される4パス方式にあっては、まず冷媒は、入り口Bより下流側(空気の流れに対して)の左側部位Cを下方に向かって流れ、それから同下流側の右側部位Dを上方に向かって流れ、さらに上流側の右側部位Eを下方に向かって流れ、最後に同上流側の左側部位Fを上方に向かって流れ、出口Gより流出する構成となっている。
【0007】
自動車用空調装置において、最も採用されている冷媒の流れ方式ではあるが、前述したごとく、低風量を低負荷時にエバポレータに流れる冷媒量が減少することから、片寄って流れ、図5に示すように斜線で引いた部位付近のみ、冷気の安定供給ができる部位となっている。したがって、前記冷風の取り出し口の場所の選択を誤れば、車両シートへの冷風の供給が不安定となる欠点を有していた。
【0008】
そこで、この発明は、エバポレータの特定部位を着目して、常にエアコンの作動状態に関わらず、安定した冷風(冷気)が供給されるシート空調装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る自動車用シート空調装置は、車室内の空調を司る空調ユニットから冷風を車両シートに導き、該車両シートに形成の吹出口より吹出させるようにした自動車用シート空調装置において、前記空調ユニットからの冷風の取り出し口は、エバポレータの下流でしかも右又は左側の少なくとも一方の下方空間に設けられ、該取り出し口には、ダクトが接続され、冷風が前記シートに導かれるようにしたことにある。
【0010】
これにより、取り出し口がエバポレータの下流でしかも右又は左側の少なくとも一方の下方空間に設けられることから、低負荷時で冷媒流量が少ない時でも、冷気の安定供給部位下の領域にあり、冷風が安定して得られることから、シート空間は良好である。
【0011】
また、前記エバポレータは、冷媒の流れを4パス又はそれ以上の偶数パスとしたことにある(請求項2)。ここで採用されるエバポレータは、主に積層型の熱交換器で、一対の成形プレートを多数積層し、炉中ろう付して製造したもので、成形プレートの数個又は数10個単位で閉止プレートを入れて、冷媒の流れを制御し、図2に示すような冷媒の流れを経て、4パスの流れを作り出している。
【0012】
さらに、車両シートは、その下部にシート用ダクトが設けられ、このシート用ダクトに、車両シート下の吸込口を接続し、この吸込口と前記シート用ダクトの接続部位に、どちらか一方を選択的に開閉する切換ドアを設けると共に、前記吸込口にフィルタを配したことにある(請求項3)。
【0013】
即ち、このシート空調装置にあって、車両シートへの温風の供給は、車室内の足元に供給される温風を吸込口より吸込んで行われることを基本としている。車両シート下も足元に近く、温風が流れるため非接触型ではあるが、充分なる効果を持っている。
【0014】
それから、車両シートへの温風の不足を補うものとして、前記シート用ダクトの前記ファンの下方に加熱手段を設けていることから(請求項5)、加熱量不足時には、この加熱手段を作動させ、温風の供給もできる。
【0015】
前記吸込口に設けられるフィルタは、ワンタッチで該吸込口に取り付け、取り外しができる機構を持つことから(請求項4)、フィルタの装着性が良好である。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、この発明によれば、車両シートへの冷風が低負荷時であっても、取り出し口が冷気の安定供給部位下の領域にあって、冷風が安定して得られる利点を有している(請求項1)。
【0017】
車両シート下のシートダクトに設けた足元の温風を吸込む吸込口にフィルタが設けられ、ゴミの吸込みを防ぐが、このフィルタは吸込口に着脱自在となっていると共に、車両内を一面に露出していることから、交換に便利である(請求項3,4)。
【0018】
車両シートには、熱量不足時に、加熱手段を働かせて温度不足を補うことができる(請求項5)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1において、この発明の自動車用シート空調装置の概略構成図が示されている。自動車用シート空調装置1は、車室内の空調を司る空調ユニット2と、シート空調ユニット3とから構成されている。
【0021】
前記車室内の空調を司る空調ユニット2は、インストルメントパネル4の下方に設けられ、空調ケース5内に空気の流動を与える送風機7が最上流に設けられ、図示しないインテークユニットより車外空気又は車室内空気を導入している。
【0022】
エバポレータ8は、送風機7からの空気流れ方向下流側で且つ上下方向に配されている。このエバポレータ8は、図示しないコンプレッサ、コンデンサ等により冷凍サイクルを構成しており、通過する空気を冷却している。9は配管のコネクタを兼ねる膨張弁である。
【0023】
エバポレータ8は、図示しないが積層型熱交換器で、一対の成形プレートを多数積層し、炉中ろう付して製造されたもので、成形プレートの数個又は数10個単位で閉止プレートを入れて、冷媒の流れを制御し、図2に示すような冷媒の流れを得て、4パスの流れを作り出している。
【0024】
4パス方式の冷媒の流れは、冷媒入口11より下流側(エバポレータに対する空気の流れに対して)の左側部位12を下方に向かって流れ、それから同下流側の右側部位13を上方に向かって流れ、さらに、上流側に至って、右側部位14を下方に向かって流れ、最後に同上流側の左側部位15を上方に向かって流れ、冷媒出口16より流出する構成となっている。
【0025】
前記エバポレータ8の空気流れ方向下流側に、ヒータコア20が配され、該ヒータコア20には図示しない自動車のエンジンの冷却水が供給されていて、該ヒータコアを通過する空気を加熱している。またこのヒータコア20には、これをバイパスするバイパス通路21を有し、前記ヒータコア20の側にエアミックスドア22が設けられ、前記ヒータコア20とバイパス通路21とに流れる冷風量比を変化せしめている。
【0026】
このエアミックスドア22は、ヒータコア20とバイパス通路21の流量比の制御から、前記ヒータコア20に流れる空気(エバポレータで冷却された冷風)量が制御され、該ヒータコア20の下流側にて、ヒータコアで加熱された温風とバイパス通路21を流れてきた冷風とが混合して、所望する温度に調温されている。この調温空気は、下流の各吹出口に至っている。
【0027】
空調ケース4に形成の各吹出口は、吹出しモードに従って開閉制御され、足元吹出口24は車室25の足元付近に開口され、その開口近傍に設けられたドア26により開閉されている。またベント吹出口28は、車室25の上方向に向けて開口され、その開口近傍に設けられたドア29により開閉されている。デフロスト吹出口31はフロントガラス内面に空気を吹出すために開口され、その開口近傍に設けられたドア32により開閉されている。
【0028】
上述した空調ユニット2の構成には、公知構造の物と変わることはないが、図2に示す空調ケース5にあって、前記エバポレータ8の空気の流れ方向下流側で、右側又は左側の壁面5a,5aでしかも下方(底面5bに近い)に冷風を取り出す取り出し口17,17を設けている。このような取り出し口17,17の開口位置は、冷気の安定供給部位下の領域(即ち下方空間)にあり、冷気を安定して得ることができる。なお取り出し口17,17には、ダクト18が接続されて、冷風が下記するシート空調ユニット3に流される。
【0029】
図3を加えて、シート空調ユニット3を説明すると、このシート空調ユニット3は、車両シート35に座る乗員の背中、臀部、大腿部に空調空気を送り、蒸れや汗によりベタ付きを抑える作用を図るもので、ここで採用の車両シート35は、シートクッション35aとシートバック35bとより成り、上下方向のみならず前後方向のストローク可能に構成され、着座する乗員の体にフィットするように構成されている。この車両シート35は、車体にシート側レール36aと、これが前後方向(進行方向)にスライドする車体側シートレール36bを介して車体37に固着されている。なお、図示しないが車両シート35には、上下方向にストロークする機構も備えられている。
【0030】
この車両シート35には、それぞれ吹出口38a及び38bが形成され、その吹出口38a,38bへ通路40a,40bを介して空調空気を送るシート空調用送風機42が車両シート35の底面に取付られている。
【0031】
シート空調用送風機42は、シート用ダクト43と、その内部に配されている遠心式ファン44とより成り、その吐出側が前記通路40a,40bに接続され、またその吸込み側が伸縮自在の蛇腹ダクト46を介して前記ダクト18に接続されている。従って、ダクト18を介して流される冷風がシート用ダクト43内に導入されることになる。
【0032】
また、シート空調用送風機42のシート用ダクト43には、シート下の空気を吸込む吸込口48を接続し、この吸込口48と前記シート用ダクトの接続部位に、切換ドア49を設けている。この切換ドア49の回動にて、シート用ダクト43を閉じ、吸込口48を開けて、シート下の空気を吸込むことができる。
【0033】
前記吸込口48には、フィルタ50がワンタッチで取り付け、取り外しができる公知の機構(図示せず)を持たされている。それからフィルタ50は、その下面が外部に露出しており、車両シート35の下から取り付け、取り外しが容易である。このフィルタ50にて、ゴミ等を吸込むことが防がれる。
【0034】
なおシート空調ユニット3において、車両シート35を暖める場合に切換ドア49を動かし吸込口48を開くが、車室内の空気であるから熱量不足となる場合に、PTC等の加熱手段51をシート用ダクト43内に設けるようにして、働かしても良い。
【0035】
上述の構成において、自動車用シート空調装置1を作動させるには、シート空調用送風機42のファン44を回転させると、冷風はダクト18を介して導かれ、通路40a,40bを流れ、吹出口38a,38bから吹出される。
【0036】
冷風は、取り出し口17から導き出されるが、該取り出し口17がエバポレータの下流で、しかも右又は左側の壁面5aのどちらか一方の下方空間に設けられているため、低負荷時においても、冷気を安定して送り出すことができる。
【0037】
冬期など車両シート35を暖めたい時には、切換ドア49を動かし、吸込口48を開ける。これにより、比較的暖かい足元の車内空気を吸込むことになる。必要によっては、PTCなどの加熱手段を働かせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の自動車用シート空調装置の構成図である。
【図2】空調ユニット内に設けられているエバポレータと、冷風の取り出し口との関係を示す斜視図である。
【図3】同上のシート空調ユニットのシート用ダクトの拡大断面図である。
【図4】空調ユニット内に設けられているエバポレータで、冷媒の流れを示す斜視図である。
【図5】低負荷時にあって、エバポレータの表面温度分布を表す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 自動車用シート空調装置
2 空調ユニット
3 シート空調ユニット
5 空調ケース
5a 壁面
5b 底面
7 送風機
8 エバポレータ
11 冷媒出口
16 冷媒出口
17 取り出し口
18 ダクト
20 ヒータコア
22 エアミックスドア
24 足元吹出口
35 車両シート
37 車体
38a,38b 吹出口
42 シート空調用送風機
43 シートダクト
48 吸込口
49 切換ドア
50 フィルタ
51 加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の空調を司る空調ユニットから冷風を車両シートに導き、該車両シートに形成の吹出口より吹出させるようにした自動車用シート空調装置において、
前記空調ユニットからの冷風の取り出し口は、エバポレータの下流でしかも右又は左側の少なくとも一方の下方空間に設けられ、該取り出し口には、ダクトが接続され、冷風が前記車両シートに導かれるようにしたことを特徴とする自動車用シート空調装置。
【請求項2】
前記エバポレータは、冷媒の流れを4パス又はそれ以上の偶数パスとしたことを特徴とする請求項1記載の自動車用シート空調装置。
【請求項3】
前記車両シートは、その下部にファンを有するシート用ダクトが設けられ、このシート用ダクトに、車両シート下の空気を吸込む吸込口を接続し、この吸込口と前記シート用ダクトの接続部位に、どちらか一方を選択的に開閉する切換ドアを設けると共に、前記吸込口にフィルタを配したことを特徴とする請求項1記載の自動車用シート空調装置。
【請求項4】
前記フィルタは、前記吸込口にワンタッチで取り付け、取り外しができる機構を持つことを特徴とする請求項3記載の自動車用シート空調装置。
【請求項5】
前記シート用ダクトには、前記ファンの下方に加熱手段を設けるようにしたことを特徴とする請求項3記載の自動車用シート空調装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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