説明

自動車用ブレーキ装置

本発明は、自動車用ブレーキ装置であって、ブレーキペダル(5)によって操作することができかつ運転者の意志と無関係に作動することもできるブレーキブースタ(2)と、ブレーキブースタ(2)の後に接続されかつ自動車の車輪ブレーキ(13、14、15、16)が接続されるマスターブレーキシリンダ(3)とを備える操作ユニット(1)と、運転者の減速意図を検出するための手段(21)と、マスターブレーキシリンダ(3)と車輪ブレーキ(13、14、15、16)との間に接続されかつ少なくとも1つの油圧ポンプ(24a、b)を有する、動的運動制御および調整行程(ABS、ESP、ASR等)を実施するための油圧制御および調整ユニット(HECU)(17)と、操作ユニット(1)に付設されかつブレーキブースタ(2)を作動するように機能する第1の電子制御および調整ユニット(7)と、油圧制御および調整ユニット(HECU)(17)に付設されかつ構成要素を作動するように機能する第2の電子制御および調整ユニット(12)と、を有する自動車用ブレーキ装置に関する。2つの電子制御および調整ユニット(7、12)のネットワーキングを可能にするために、本発明に従って、第1の電子制御および調整ユニット(7)が、油圧制御および調整ユニット(HECU)(17)を作動するための要求(St)と共にブレーキ装置で設定されることができる油圧の設定値(pSoll)を第2の電子制御および調整ユニット(17)に供給する手段(71、72)を有することが提案されている。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
ブレーキペダルによって操作可能でありかつ運転者の意志と無関係に動作可能であるブレーキブースタ、ならびにブレーキブースタの下流に接続された、自動車の車輪ブレーキが接続されるマスターブレーキシリンダからなる操作ユニットと、
運転者の減速要求を検出するための手段と、
マスターブレーキシリンダと車輪ブレーキとの間に接続されかつ少なくとも1つの油圧ポンプを含む、走行ダイナミクス関連の制御および調整操作(ABS、ESP、TCS等)を実行するための油圧制御および調整ユニットと、
操作ユニットと関連しかつブレーキブースタを操作するように機能する第1の電子制御および調整ユニット、ならびに油圧制御および調整ユニットと関連しかつこのユニットの構成要素を駆動するように機能する第2の電子制御および調整ユニットと、
を備えるブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプのブレーキ装置は、本出願人の国際公開第2004/005095A1号パンフレットに開示されている。従来技術のブレーキ装置の特徴は、ブレーキペダルとブレーキブースタとの間の力伝達接続を切り離すための手段が設けられることにある。この措置によって、言及した文献に開示されたブレーキ装置が「ブレーキバイワイヤ」運転モードで操作され得ることが達成される。さらに、ブレーキペダルと協働するペダルトラベルシミュレータが設けられ、これにより、「ブレーキバイワイヤ」運転モードで、ブレーキブースタの操作に関わらずブレーキペダルに作用するリセット力のシミュレートが可能であり、これによって、通常の快適なブレーキペダル感覚が運転者に付与される。しかし、上記の文献には、2つの電子制御および調整ユニットの間の処理関連データの転送の実施を可能にするであろう措置について示唆されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のことに鑑みて、本発明の目的は、2つの電子制御および調整ユニットのクロスリンクを可能にする適切な措置を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、特許請求項の特徴部分に従って、第1の電子制御および調整ユニットが、油圧制御および調整ユニットを作動するための要求と共にブレーキ装置に導入されることができる油圧の公称値を第2の電子制御および調整ユニットに供給する手段を含むことにより達成される。
【0005】
本発明のブレーキ装置の好ましい改良は、従属請求項2〜16に開示されている。
【0006】
本発明のさらなる特徴および利点について、添付図面を参照して次の記述で詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
「ブレーキバイワイヤ」運転モードで好ましくは操作されることができる図面の図1に示したような自動車ブレーキ装置は、実質的に、操作ユニット1と、ブレーキペダル1、油圧制御および調整ユニット(HCU)(17)と、油圧制御および調整ユニット(HCU)17に接続された車輪ブレーキ13、14、15、16と、操作ユニット1と関連する第1の電子制御および調整ユニット7と、油圧制御および調整ユニット(HCU)17に関連する第2の電子制御および調整ユニット12とからなる。次に、操作ユニット1は、ブレーキブースタ、好ましくは真空ブレーキブースタ2と、上述の車輪ブレーキ13、14、15、16が油圧制御および調整ユニット17を介してマスターブレーキシリンダの圧力室(図示せず)に接続される、ブレーキブースタ2の下流に接続されたマスターブレーキシリンダ、好ましくはタンデムマスターシリンダ3と、マスターブレーキシリンダ3と関連する圧力液タンク4とからなる。ブレーキペダル5は、運転者によるブレーキブースタ2の操作のために使用され、特に「ブレーキバイワイヤ」運転モードでブレーキペダル5と協働するペダルトラベルシミュレータ6が設けられ、前記シミュレータは普通のブレーキペダル感覚を運転者に付与する。運転者の減速要求およびブレーキペダル5の操作行程それぞれを感知するために、少なくとも1つのセンサデバイス21が使用され、センサデバイスの信号が上述の第1の電子制御ユニット7に送られる。第1の電子制御ユニット7の出力信号は、とりわけ、ブレーキブースタ2と関連する電磁石8の操作を可能にし、運転者の意志とは無関係に空圧式制御弁9の作動を可能にし、前記制御弁はブレーキブースタ2への空気供給を制御する。以下の記述でより詳細に説明するように、第1の電子制御および調整ユニット7は、ブレーキブースタ3の特性量、好ましくはブレーキブースタ2の出力部材20によってカバーされる行程を制御するための、及び/又は装置内で支配する油圧を制御するための制御回路を備える。
【0008】
ブレーキペダル1に連結されたピストンロッド10の端部と、上述の制御弁9の弁ピストン11との間の軸方向スロット「a」により、「ブレーキバイワイヤ」運転モードにおいてブレーキペダル5とブレーキブースタ2との間の力伝達接続が確実に切り離される。ブレーキブースタ2のブースト力を発生する移動可能な壁部19の行程、またはマスターブレーキシリンダ3の第1のピストン(図示せず)にブレーキブースタ2の出力を伝達する当該ブレーキブースタ2の上述の出力部材20の行程を感知するために、トラベルセンサ18が使用される。さらに、油圧式調整ユニット17に圧力センサ34が一体化され、装置で支配する入口の油圧を感知する。
【0009】
上述のように、「ブレーキバイワイヤ」運転モードにおいて、ブレーキペダル5に作用するリセット力をブレーキブースタ2の操作に関わらずシミュレートすることができるペダルトラベルシミュレータ6は、ブレーキペダル5とブレーキブースタ2との間の力伝達接続が切り離されるとき、「ブレーキバイワイヤ」運転モードで有効にでき、「ブレーキバイワイヤ」運転モード以外で無効にできるように設計される。ペダルトラベルシミュレータ6の作動は、ブレーキペダル1で連接された操作部材35によって実行される。
【0010】
さらに、図面から、油圧式制御および調整ユニット(HCU)17がABS、TCS、ESP等のようなブレーキ圧力制御操作を実行するために必要な全ての油圧構成要素及び電気油圧構成要素を含むことを理解できる。ブレーキ回路の構成要素には、1つの分離弁22a、bと、1つの電気切替え弁23a、bと、1つの油圧ポンプ24a、bと、車輪ブレーキ13〜16のブレーキ圧力を選択的に調整するためのそれぞれ2つの電気的に駆動可能な圧力制御弁または入口弁および出口弁25a、b、26a、b、27a、bおよび28a、bと、それぞれ1つの低圧アキュムレータ29a、bと、車輪ブレーキ13〜16と関連する圧力センサ30〜33とが含まれる。
【0011】
ブレーキブースタ2の操作により、上に参照した説明から明らかであるように、マスターブレーキシリンダ3内の油圧の増大が引き起こされる。しかし、言及した圧力上昇では、達成可能な最高圧力は、利用可能な真空レベルに関係するいわゆる最大ブースト点によって制限されることが知られている。この最大ブースト点を越える圧力が要求される場合、圧力は、油圧制御および調整ユニット17によって、あるいは特にポンプ24a、bの作動によって車輪ブレーキ13〜16で増大される。本発明のブレーキ装置の適切な機能を保護するために、第1(7)および第2の制御および調整ユニット12の間で、情報およびデータの交換が可能でなければならない。2つの制御および調整ユニット7、12をクロスリンクするために(特に図2参照)、第1の制御および調整ユニット7は、油圧ポンプ24a、bの作動に対応する作動要求(St)と共に車輪ブレーキ13〜16に導入されるべき圧力の公称値Pnominalを第2の電子制御および調整ユニット12に送る信号伝送デバイス71を含む。上述の公称値Pnominalの伝送の基準は、ブレーキブースタ2の最大ブースト点に対応する油圧に好ましくは近い要求された圧力の値、または公称圧力の勾配である。対応する信号経路は、図2の参照番号72で示されている。操作ユニット1または第1の制御および調整ユニット7の部分的な故障の場合、それぞれのユニットは、マスターブレーキシリンダ3内の圧力の利用可能な最大値を第2の電子制御および調整ユニット12に報告する。第2の電子制御および調整ユニット12は、適切なブースト操作によって車輪ブレーキ13〜16内の圧力増加を実行するために、この情報を利用する。この運転モードは、第1の電子制御および調整ユニット7により、作動要求情報(St)の規定値を設定することによって指示される。図示した実施形態では、最大圧力値は最大ブースト点前後の圧力値である。車輪ブレーキ13〜16の圧力増加の公称値の生成は、マスターブレーキシリンダ3の内部測定圧力に基づき第2の電子制御および調整ユニット12で実施される。
【0012】
第2の制御および調整ユニット12は、油圧制御および調整ユニット17または油圧ポンプ24a、bの修理態勢の可能性を第1の電子制御および調整ユニット7に報告する第1の信号伝送デバイス121を含む。報告は、図2の参照番号122で示される信号経路を介して行われる。言及したサブシステムの修理の態勢が可能でない場合、第1の電子制御および調整ユニット7は、適切なフォールバックモードを固定するために、場合によっては、運転者に警告するためにこの情報を利用する。上述の実施形態では、フォールバックモードは、真空によってアシストされた運転者の筋肉の力による操作ユニット1の動作を表し、この場合、ブレーキブースタ2の能動的な操作または独立アシスト操作のみがもはや行われない。
【0013】
さらに、第2の電子制御および調整ユニット12は、第2の信号伝送デバイス123を使用して、油圧制御および調整ユニット17の動作および故障に関する報告を、信号伝送通路124を介して第1の電子制御および調整ユニット7に送り、この場合、ABS、ESP等のような走行ダイナミクス制御機能部の動作または故障が対象とされる。記載されるブレーキ装置が、ハイブリッド駆動装置が装備された自動車に取り付けられるとき、第1の電子制御および調整ユニット7は、ハイブリッド駆動装置によって生成される発電機のブレーキトルクを含むために、第1の電子制御および調整ユニットの方策を適合させる。2つの電子制御および調整ユニット7、12と、ハイブリッド駆動装置の駆動制御部36との間の通信を可能にするインタフェースは、図2の参照番号37を有する。
【0014】
最後に、第2の電子制御および調整ユニット12は、現在の車両速度および車両停止に関する情報を、信号伝送経路126を介して第1の電子制御および調整ユニット7に報告する第3の信号伝送デバイス125を含む。第1の電子制御および調整ユニット7は、この情報を利用して、マスターブレーキシリンダ3内の圧力の制御を最適化する。このような最適化の例は、停止中または低速における圧力および/または圧力増加速度の制限によって、ならびに高い車両速度時の追加の圧力増加および/または圧力増加速度によって表される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のブレーキ装置の概略図である。
【図2】図1に示した電子制御および調整ユニットの間の通信形態の図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダル(5)によって操作可能でありかつ運転者の意志と無関係に動作可能であるブレーキブースタ(2)、ならびにブレーキブースタ(2)の下流に接続された、自動車の車輪ブレーキ(13、14、15、16)が接続されるマスターブレーキシリンダ(3)からなる操作ユニット(1)と、
運転者の減速要求を検出するための手段(21)と、
前記マスターブレーキシリンダ(3)と前記車輪ブレーキ(13、14、15、16)との間に接続されかつ少なくとも1つの油圧ポンプ(24a、b)を含む、走行ダイナミクス関連の制御および調整操作(ABS、ESP、TCS等)を実行するための油圧制御および調整ユニット(HCU)(17)と、
前記操作ユニット(1)と関連しかつ前記ブレーキブースタ(2)を操作するように機能する第1の電子制御および調整ユニット(7)、ならびに前記油圧制御および調整ユニット(HCU)(17)と関連しかつ前記油圧制御および調整ユニットの構成要素を駆動するように機能する第2の電子制御および調整ユニット(12)と、
を備える自動車用ブレーキ装置であって、
前記第1の電子制御および調整ユニット(7)が、前記油圧制御および調整ユニット(HCU)(17)を作動するための要求(St)と共に前記ブレーキ装置に導入されることができる油圧の公称値(Pnominal)を前記第2の電子制御および調整ユニット(12)に供給する手段(71、72)を含むことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記公称値(Pnominal)が、前記操作ユニット(1)によって生成されることができる圧力値よりも高い圧力値を表すことを特徴とする、請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記油圧制御および調整ユニット(HCU)(17)の作動が、前記油圧ポンプ(24a、b)の操作に対応することを特徴とする、請求項1または2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記第2の電子制御および調整ユニット(12)が、前記油圧ポンプ(24a、b)の修理態勢の利用可能性を前記第1の電子制御および調整ユニット(7)に報告する手段(121、122)を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記第1の電子制御および調整ユニット(7)が、フォールバックモードを固定するために、場合によっては、運転者に警告するために報告を利用することを特徴とする、請求項4に記載のブレーキ装置。
【請求項6】
前記フォールバックモードが、真空によってアシストされた運転者の筋肉の力による前記操作ユニット(1)の動作を表すことを特徴とする、請求項5に記載のブレーキ装置。
【請求項7】
前記第2の電子制御および調整ユニット(12)が、前記油圧制御および調整ユニット(HCU)(17)の構成要素の動作および故障に関する報告を前記第1の電子制御および調整ユニット(7)に提供する手段(123、124)を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のブレーキ装置。
【請求項8】
前記第1の電子制御および調整ユニット(7)が、報告を使用して、自動車のハイブリッド駆動装置によって生成される発電機のブレーキトルクを含むために、前記第1の電子制御および調整ユニットの方策を適合させることを特徴とする、請求項7に記載のブレーキ装置。
【請求項9】
前記第2の電子制御および調整ユニット(12)が、現在の車両速度および車両停止に関する報告を前記第1の電子制御および調整ユニット(7)に提供する手段(125、126)を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のブレーキ装置。
【請求項10】
前記第1の電子制御および調整ユニット(7)が、報告を使用して、前記操作ユニット(1)によって発生される油圧を最適化することを特徴とする、請求項9に記載のブレーキ装置。
【請求項11】
前記第1の電子制御および調整ユニット(7)が、停止中および低い車両速度において圧力および/または圧力増加速度をそれぞれ制限することを特徴とする、請求項10に記載のブレーキ装置。
【請求項12】
前記第1の電子制御および調整ユニット(7)が、高い車両速度において圧力および/または圧力増加速度をさらに高めることを特徴とする、請求項10に記載のブレーキ装置。
【請求項13】
前記第1の電子制御および調整ユニット(7)が、前記操作ユニット(1)の部分的な故障の際に前記マスターブレーキシリンダ(3)の利用可能な最大圧力に関する報告を前記第2の電子制御および調整ユニット(12)に提供する手段を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のブレーキ装置。
【請求項14】
前記ブレーキブースタ(2)が空圧式真空ブレーキブースタであることと、最大圧力が、前記ブレーキブースタ(2)の最大ブーストの真空反応点の近似値に対応する圧力値を表すことを特徴とする、請求項10に記載のブレーキ装置。
【請求項15】
前記車輪ブレーキ(13、14、15、16)内の圧力を増大させるための公称圧力値が、前記第2の電子制御および調整ユニット(12)によって決定される前記マスターブレーキシリンダ(3)内の圧力値に基づき前記第2の電子制御および調整ユニット(12)内で生成されることを特徴とする、請求項14に記載のブレーキ装置。
【請求項16】
ブレーキ装置が、ハイブリッド駆動装置が装備された自動車に取り付けられるとき、信号伝送が、前記第1の電子制御および調整ユニット(7)と前記ハイブリッド駆動装置の電子制御ユニット(36)との間で行われることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−511337(P2009−511337A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535035(P2008−535035)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067357
【国際公開番号】WO2007/042561
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】