説明

自動車用加飾部品の製造方法

【課題】製造コストを抑えつつ、自動車用部品素材の表面上に絵柄を正確に付加して装飾することができる自動車用加飾部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】自動車用加飾部品は、重ね領域形成工程及びレーザー照射工程を経て製造される。重ね領域形成工程では、重ね領域63a〜63dの画像濃度を通常描画領域66a〜66cの画像濃度よりも薄く設定する。レーザー照射工程では、レーザー照射を複数のレーザー照射領域について行うことによって、重ね領域63a〜63dに基づいて形成される絵柄が重なり合うことにより、重ね領域63a〜63dに基づいて形成される絵柄の濃度が通常描画領域66a〜66cに基づいて形成される絵柄の濃度と同程度になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用部品素材の表面上に、基絵柄を模した絵柄を付加して装飾する自動車用加飾部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品などでは、デザイン性や品質を高めるために樹脂成形体(自動車用部品素材)の表面に装飾を加えるようにした加飾部品(例えば、コンソールボックス、インストルメントパネル、アームレストなど)が多く実用化されている。このような自動車用加飾部品に装飾を加える加飾方法としては、水圧転写が一般的に用いられている(例えば特許文献1参照)。水圧転写とは、水面上に特殊フィルムを浮かべ、そのフィルムに印刷された所定の絵柄(木目模様や幾何学模様などの絵柄)を水圧によって樹脂成形体の表面に転写する技術である。この技術によれば、三次元曲面への印刷を行うことができる。
【0003】
ところが、水圧転写を行う場合、樹脂成形体への絵柄の転写時に、絵柄が伸びたり歪んだりすることが多い。この結果、絵柄を正確に付加することができず、絵柄のバラツキが生じてしまうため、製品の歩留まりが悪化して製造コストが嵩んでしまう。従って、水圧転写とは異なる手法で樹脂成形体の表面上に絵柄を付加して装飾する新たな技術の開発が望まれている。
【0004】
そこで、樹脂成形体の表面上に設定された被加飾領域に塗膜を形成した後、レーザー照射によって塗膜を選択的に除去して異なる色の塗膜を露出させることにより、絵柄を形成して装飾を加える技術が考えられている。このようにすると、水圧転写の際に生じていた絵柄の伸びや歪みを防止することができ、かつ、複雑な絵柄を正確に描画することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂成形体の形状が複雑になったり樹脂成形体が大型化したりすると、レーザーの照射範囲外となる領域が発生しやすくなり、樹脂成形体の表面全体にレーザーが確実に到達しにくくなるため、鮮明な絵柄を得ることができない。この問題を解決するためには、例えば、レーザーの照射範囲である被加飾領域を複数のレーザー照射領域に分けた状態で、樹脂成形体またはレーザー照射装置(図示略)を移動させながらレーザー照射領域ごとにレーザーを照射する必要がある。しかし、この場合、レーザーの照射位置に寸分でもズレが生じると、隣接するレーザー照射領域同士の継ぎ目となる部分に重なり合う領域や隙間等が生じてしまうため、継ぎ目となる部分が不自然になってしまう。なお、位置決め機構を用いてレーザーの照射位置を高精度に位置決めすることも考えられるが、位置決め機構は、非常に高価であって、しかも制御が複雑であるため、製造コストの高騰につながってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造コストを抑えつつ、自動車用部品素材の表面上に絵柄を正確に付加して装飾することができる自動車用加飾部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、自動車用部品素材の表面上に設定された被加飾領域に塗膜を形成する塗装工程と、レーザー照射を行って前記塗膜を選択的に処理して複数のレーザー被処理部を形成することにより、前記被加飾領域に基絵柄を模した絵柄を描く描画工程とを経て、自動車用加飾部品を製造する方法であって、前記被加飾領域は、前記レーザー照射が行われる複数のレーザー照射領域からなり、前記描画工程は、前記絵柄を示す画像データを、前記複数のレーザー照射領域の形状に合わせて複数の分割画像データに分割する画像データ分割工程と、前記分割画像データにおいて隣接する分割画像データとの継ぎ目となる部分に、前記隣接する分割画像データと重なり合う重ね領域を形成する重ね領域形成工程と、前記複数の分割画像データを前記重ね領域において重ね合わせる重ね合わせ工程と、重ね合わせた前記複数の分割画像データを、前記レーザー照射を行うためのレーザー照射データに変換するレーザー照射データ変換工程と、前記レーザー照射データに基づいて、前記レーザー照射を前記複数のレーザー照射領域について行うことにより、前記被加飾領域に前記絵柄を描くレーザー照射工程とを含み、前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域の画像濃度を、前記分割画像データにおいて前記隣接する分割画像データと重なり合わない通常描画領域の画像濃度よりも薄く設定し、前記レーザー照射工程では、前記レーザー照射を前記複数のレーザー照射領域について行うことによって、前記重ね領域に基づいて形成される絵柄が重なり合うことにより、前記重ね領域に基づいて形成される絵柄の濃度が前記通常描画領域に基づいて形成される絵柄の濃度と同程度になることを特徴とする自動車用加飾部品の製造方法をその要旨とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、レーザー照射工程を行うことによって、重ね領域に基づいて形成される絵柄の濃度が、重ね領域よりも画像濃度が高い通常描画領域に基づいて形成される絵柄の濃度と同程度になる。その結果、隣接するレーザー照射領域同士の継ぎ目となる部分が目立ちにくくなる。これにより、高価であって制御が複雑な位置決め機構を用いなくても、自動車用部品素材の表面(被加飾領域)上に絵柄を正確に付加して装飾することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域の画像濃度を、前記通常描画領域との境界線側から前記分割画像データの外縁側に行くに従って薄く設定することをその要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、重ね領域形成工程において、重ね領域の画像濃度を分割画像データの外縁側に行くに従って薄く設定しているため、レーザー照射工程を行う際にレーザーの照射位置にズレが生じたとしても、重ね領域と通常描画領域との境界線が目立ちにくくなる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域において前記分割画像データの外縁となる部分を平面視波形状に形成することをその要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、分割画像データの外縁となる部分が平面視波形状に形成されているため、複数の分割画像データを重ね領域において重ね合わせた際に、分割画像データの外縁となる部分がよりいっそう目立ちにくくなる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記分割画像データには、複数のレーザー照射部が散点的に形成されており、前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域における前記レーザー照射部の密度を、前記通常描画領域における前記レーザー照射部の密度よりも低くすることにより、前記重ね領域の画像濃度を前記通常描画領域の画像濃度よりも薄く設定することをその要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、重ね領域におけるレーザー照射部の密度を、通常描画領域におけるレーザー照射部の密度よりも低くしている。よって、複数の分割画像データを重ね領域において重ね合わせた際に、重ね領域におけるレーザー照射部の密度を高くすることができるため、重ね領域に基づいて形成される絵柄の濃度を高くしやすくなる。ゆえに、重ね領域に基づいて形成される絵柄の濃度を、通常描画領域に基づいて形成される絵柄の濃度と同程度にしやすくなるため、隣接するレーザー照射領域同士の継ぎ目となる部分をより確実に目立たなくすることができる。
【0016】
なお、重ね領域におけるレーザー照射部の密度を通常描画領域におけるレーザー照射部の密度よりも低くした場合、レーザー照射工程においてレーザーを照射する方法は、特に限定される訳ではない。例えば、重ね領域におけるレーザー照射部の密度を通常描画領域におけるレーザー照射部の密度よりも低くした場合に、レーザー照射工程においてレーザーを照射する方法としては、自動車用部品素材またはレーザー照射装置の移動速度を一定にした状態で、レーザーの照射間隔を長くすることや、レーザーの照射間隔を一定にした状態で、自動車用部品素材またはレーザー照射装置の移動速度を速くすることなどが挙げられる。この場合、重ね領域に基づいて形成されるレーザー被処理部の数が、通常描画領域に基づいて形成されるレーザー被処理部の数よりも少なくなる。ここで、「レーザー照射装置の移動速度」とは、レーザー照射装置全体の移動速度だけでなく、レーザー照射装置の一部構成、例えば、レーザー偏向部が備えるレンズ及び反射ミラーの位置を変更する速度も含むものとする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記分割画像データには、複数のレーザー照射部が散点的に形成されており、前記レーザー照射工程では、前記複数の分割画像データに基づいて、前記重ね領域における前記レーザー照射時の出力を、前記通常描画領域における前記レーザー照射時の出力よりも低く設定することをその要旨とする。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、重ね領域におけるレーザー照射時の出力を、通常描画領域におけるレーザー照射時の出力よりも低く設定することにより、重ね領域におけるレーザー被処理部の深さを、通常描画領域におけるレーザー被処理部の深さよりも浅くしている。この場合、重ね領域形成工程において、重ね領域におけるレーザー照射部の密度を通常描画領域におけるレーザー照射部の密度よりも低くしなくても、重ね領域に基づいて形成される絵柄の濃度を通常描画領域に基づいて形成される絵柄の濃度よりも薄く設定できるため、重ね領域に基づいた絵柄の形成が容易になる。
【発明の効果】
【0019】
以上詳述したように、請求項1〜5に記載の発明によると、製造コストを抑えつつ、自動車用部品素材の表面上に絵柄を正確に付加して装飾することができる。特に、請求項3に記載の発明によると、複数の分割画像データを重ね領域において重ね合わせた際に、分割画像データの外縁となる部分がよりいっそう目立ちにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の自動車用加飾部品を示す平面図。
【図2】自動車用加飾部品を示す概略断面図。
【図3】(a)は自動車用加飾部品の一部を示す概略断面図、(b)は自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図4】表面加飾システムを示す概略構成図。
【図5】自動車用加飾部品の製造方法を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(c)は、自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図7】自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図8】(a),(b)は、自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【図9】他の実施形態における自動車用加飾部品の製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
図1〜図3に示されるように、自動車用加飾部品1は、立体形状の樹脂成形体2(自動車用部品素材)を備えている。本実施形態の自動車用加飾部品1は、ドアのアームレストを構成する内装部品である。また、樹脂成形体2の表面3は、凸状に湾曲した曲面である。そして、表面3上には被加飾領域4が設定され、被加飾領域4には塗膜10が形成されている。なお、被加飾領域4は、後述するレーザー照射が行われる3つのレーザー照射領域5a,5b,5c(図2参照)からなっている。
【0023】
図3(a)に示されるように、本実施形態の塗膜10は、色合いが下層側ほど濃くなるように4色(下層側から順に、こげ茶色、茶色、うす茶色、クリーム色)の着色層11,12,13,14を積層することによって形成されている。そして、塗膜10を選択的にかつ異なる深さで剥離して着色層11〜13を部分的に露出させることにより、木目模様の基絵柄を模した絵柄16が形成される。
【0024】
さらに、樹脂成形体2の表面3の最上層には、各着色層11〜14を保護するためのクリアコート層17が形成されている。本実施形態のクリアコート層17は、各着色層11〜14の凹凸を平坦化するように形成されている。
【0025】
次に、自動車用加飾部品1を製造するための表面加飾システム20について説明する。
【0026】
図4に示されるように、表面加飾システム20は、塗装装置21、レーザー照射装置22及びワーク変位ロボット23を備えている。塗装装置21は、ロボットアーム26と、ロボットアーム26の先端に装着される塗装機27とを備え、ロボットアーム26を駆動することにより、塗装機27から噴霧される塗料Pの吹付方向や吹付位置を変更するようになっている。また、塗装装置21は、図示しないカートリッジ交換装置を備え、塗装機27に装着する塗料カートリッジ28を各着色層11〜14に対応して交換可能に構成されている。そして、塗装装置21は、塗料カートリッジ28を交換しながら各色の塗料Pを噴霧することにより、樹脂成形体2の表面3に各着色層11〜14を塗装する。
【0027】
また、レーザー照射装置22は、レーザーLを発生させるレーザー発生部31と、レーザーLを偏向させるレーザー偏向部32と、レーザー発生部31及びレーザー偏向部32を制御するレーザー制御部33とを備えている。レーザー偏向部32は、レンズ35と反射ミラー36とを複合させてなる光学系であり、これらレンズ35及び反射ミラー36の位置を変更することにより、レーザーLの照射位置や焦点位置を調整するようになっている。レーザー制御部33は、レーザーLの照射時間変調、照射強度変調、照射面積変調などの制御を行う。
【0028】
図4に示されるように、ワーク変位ロボット23は、ロボットアーム29と、ロボットアーム29の先端に設けられたワーク支持部30とを備えている。ワーク支持部30は、表面3に着色層11〜14が塗装された樹脂成形体2を支持するようになっている。そして、ワーク変位ロボット23は、ロボットアーム29を駆動して樹脂成形体2の位置及び角度を変更することにより、樹脂成形体2の表面3に対するレーザーLの照射位置や照射角度を変更するようになっている。
【0029】
次に、表面加飾システム20の電気的構成について説明する。
【0030】
図4に示されるように、表面加飾システム20は、システム全体を統括的に制御する制御装置24を備えている。制御装置24は、CPU40、メモリ41及び入出力ポート42等からなる周知のコンピュータにより構成されている。CPU40は、塗装装置21、レーザー照射装置22及びワーク変位ロボット23に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。
【0031】
また、CPU40は、絵柄16の色分解処理を行う機能を有している。詳述すると、CPU40は、色分解処理において木目模様の基絵柄を複数種類の色に分解することにより、複数の単色基絵柄データを生成するようになっている。そして、CPU40は、生成した各単色基絵柄データをメモリ41に記憶するようになっている。なお本実施形態では、木目模様の基絵柄がこげ茶色、茶色、うす茶色、クリーム色の4色に分解され、各色の単色基絵柄データがメモリ41にあらかじめ記憶されている。また、メモリ41には、塗装装置21の塗装条件(塗装時間、塗料Pの噴霧量、着色層11〜14の厚さなど)を示すデータや、レーザー照射装置22のレーザー照射条件(レーザーLの照射時間、レーザーLの照射強度、レーザーLのスポット径など)を示すデータがあらかじめ記憶されている。
【0032】
次に、自動車用加飾部品1の製造方法を図5等に基づいて説明する。
【0033】
まず、樹脂材料(例えばABS樹脂)を用いて所定の立体形状に成形した樹脂成形体2を準備する。なお、樹脂成形体2は、作業者によって固定テーブル51(図4参照)にセットされる。
【0034】
次に、塗装工程を行い、樹脂成形体2の被加飾領域4に塗膜10を形成する。具体的に言うと、CPU40は、メモリ41に記憶されている単色基絵柄データを読み出し、読み出した単色基絵柄データに基づいて駆動信号を生成し、生成した駆動信号を塗装装置21に出力する。塗装装置21は、CPU40から出力された駆動信号に基づいて、塗装機27による各着色層11〜14の塗装を開始させる。具体的に言うと、まず、樹脂成形体2の表面3上に、塗装機27を用いて塗料Pを塗装することでこげ茶色の着色層11を形成する。その後、塗装機27から噴霧する塗料Pをこげ茶色の塗料から茶色の塗料に変更して、茶色の塗料を塗装することにより、こげ茶色の着色層11上に茶色の着色層12を積層形成する。同様に、塗装機27から噴霧する塗料Pを茶色の塗料からうす茶色の塗料に変更して、うす茶色の塗料を塗装することにより、茶色の着色層12上にうす茶色の着色層13を積層形成する。さらに、塗装機27から噴霧する塗料Pをうす茶色の塗料からクリーム色の塗料に変更して、クリーム色の塗料を塗装することにより、うす茶色の着色層13上にクリーム色の着色層14を積層形成する(図3(b)参照)。その結果、各着色層11〜14からなる塗膜10が形成される。なお、各着色層11〜14は、模様のないベタパターンの層(ベタ層)であり、位置合わせをすることなく積層形成される。
【0035】
続く描画工程では、レーザー照射を行って着色層12〜14を選択的に除去してドット状の凹部15(レーザー被処理部)を複数形成することにより、被加飾領域4に絵柄16を形成する。詳述すると、描画工程は、画像データ作成工程S1→画像データ変換工程S2→画像データ分割工程S3→重ね領域形成工程S4→重ね合わせ工程S5→レーザー照射データ変換工程S6→データ記憶工程S7→パラメータ設定工程S8→レーザー照射工程S9の順序で実行される(図5参照)。
【0036】
画像データ作成工程S1において、作業者は、従来周知の画像作成ソフトを用いて、絵柄16を示す画像データ61を作成する。続く画像データ変換工程S2において、CPU40は、作成した画像データ61をCADデータに変換する。なお画像データ変換工程S2では、制御装置24とは別のコンピュータを用いて、画像データ61をCADデータに変換するようにしてもよい。
【0037】
次に、画像データ分割工程S3において、CPU40は、CADデータに変換された画像データ61を、レーザー照射領域5a〜5cの形状に合わせて3つの分割画像データ62a,62b,62c(図6(a),(b)参照)に分割する。なお、分割画像データ62a,62b,62cには、複数の描画ドット69(レーザー照射部)が散点的(本実施形態では格子状)に形成されている。
【0038】
続く重ね領域形成工程S4において、CPU40は、分割画像データ62aの面積をレーザー照射領域5aの面積よりも大きくする加工を行う。その結果、分割画像データ62aにおいて隣接する分割画像データ62bとの継ぎ目となる部分に、分割画像データ62bと重なり合う重ね領域63aが形成される(図6(a)〜(c)参照)。なお、分割画像データ62aにおいて分割画像データ62bと重なり合わない領域は、通常描画領域66aである。また、CPU40は、分割画像データ62bの面積をレーザー照射領域5bの面積よりも大きくする加工を行う。その結果、分割画像データ62bにおいて隣接する分割画像データ62aとの継ぎ目となる部分に、分割画像データ62aと重なり合う重ね領域63bが形成される(図6(a)〜(c)参照)。それとともに、分割画像データ62bにおいて隣接する分割画像データ62cとの継ぎ目となる部分に、分割画像データ62cと重なり合う重ね領域63cが形成される(図6(a)参照)。なお、分割画像データ62bにおいて分割画像データ62a,62cと重なり合わない領域は、通常描画領域66bである。さらに、CPU40は、分割画像データ62cの面積をレーザー照射領域5cの面積よりも大きくする加工を行う。その結果、分割画像データ62cにおいて隣接する分割画像データ62bとの継ぎ目となる部分に、分割画像データ62bと重なり合う重ね領域63dが形成される(図6(a)参照)。なお、分割画像データ62cにおいて分割画像データ62bと重なり合わない領域は、通常描画領域66cである。
【0039】
ここで、通常描画領域66a〜66cは、レーザーLの照射範囲内(例えば300mm角以下)に設定されることが好ましく、特には100mm角または160mm角程度に設定されることが好ましい。仮に、通常描画領域66a〜66cがレーザーLの照射範囲よりも大きくなると、レーザー照射をレーザー照射領域5a〜5cについて行った際に、レーザー照射領域5a〜5cの全体にレーザーLが確実に到達しにくくなるため、鮮明な絵柄16が得られない可能性がある。また、重ね領域63aは、通常描画領域66aとの境界線67から分割画像データ62aの外縁68までの長さが、通常描画領域66aの一辺の長さの半分以下に設定されている。同様に、重ね領域63b,63cは、通常描画領域66bとの境界線67から分割画像データ62bの外縁68までの長さが、通常描画領域66bの一辺の長さの半分以下に設定されている。さらに、重ね領域63dは、通常描画領域66cとの境界線67から分割画像データ62cの外縁68までの長さが、通常描画領域66cの一辺の長さの半分以下に設定されている。
【0040】
なお、重ね領域形成工程S4において、CPU40は、重ね領域63a〜63dにおける描画ドット69の密度を、通常描画領域66a〜66cにおける描画ドット69の密度よりも低くする(図6(b)参照)。この場合、重ね領域63a〜63dにおける描画ドット69の数が、通常描画領域66a〜66cにおける描画ドット69の数よりも少なくなる。その結果、重ね領域63a〜63dの画像濃度が、通常描画領域66a〜66cの画像濃度よりも薄く設定される。さらに、CPU40は、重ね領域63aの画像濃度を、通常描画領域66aとの境界線67側から分割画像データ62aの外縁68側に行くに従って薄く設定する。同様に、CPU40は、重ね領域63b,63cの画像濃度を、通常描画領域66bとの境界線67側から分割画像データ62bの外縁68側に行くに従って薄く設定し、重ね領域63dの画像濃度を、通常描画領域66cとの境界線67側から分割画像データ62cの外縁68側に行くに従って薄く設定する。
【0041】
また、重ね領域形成工程S4において、CPU40は、重ね領域63a〜63dにおいて分割画像データ62a〜62cの外縁68となる部分を、非直線状(本実施形態では平面視波形状)に形成する(図6(a),(b)参照)。
【0042】
次に、重ね合わせ工程S5において、CPU40は、分割画像データ62a,62bを重ね領域63a,63bにおいて重ね合わせる(図6(c))参照)。このとき、重ね領域63aの外縁68において凸(または凹)となる部分と重ね領域63bの外縁68において凹(または凸)となる部分とが最初に重なり合うようになる。その結果、重ね領域63a,63bにおける描画ドット69の密度が、分割画像データ62a,62bにおける描画ドット69の密度と同程度になる。また、CPU40は、分割画像データ62b,62cを重ね領域63c,63dにおいて重ね合わせる。このとき、重ね領域63cの外縁68において凸(または凹)となる部分と重ね領域63dの外縁68において凹(または凸)となる部分とが最初に重なり合うようになる。その結果、重ね領域63c,63dにおける描画ドット69の密度が、分割画像データ62b,62cにおける描画ドット69の密度と同程度になる。
【0043】
続くレーザー照射データ変換工程S6において、CPU40は、分割画像データ62a〜62cを重ね合わせることによって得られた重ね合わせ画像データ61a(図6(c)参照)を、レーザー照射を行うためのレーザー照射データに変換する。次に、データ記憶工程S7において、CPU40は、変換したレーザー照射データをメモリ41に記憶する。さらに、パラメータ設定工程S8において、CPU40は、レーザー照射に用いられるレーザー照射パラメータ(レーザーLの照射位置、焦点位置、照射角度、照射面積、照射時間、照射強度など)を設定する。
【0044】
続くレーザー照射工程S9において、CPU40は、メモリ41に記憶されているレーザー照射データに基づいてレーザー照射を行うことにより、樹脂成形体2の被加飾領域4に絵柄16を形成する。具体的に言うと、CPU40は、メモリ41に記憶されているレーザー照射データを読み出し、読み出したレーザー照射データに基づいて駆動信号を生成し、生成した駆動信号をレーザー照射装置22に出力する。レーザー照射装置22は、CPU40から出力された駆動信号に基づいて、樹脂成形体2の表面3に形成された各着色層11〜14にレーザーLを照射する(図7参照)。なお、レーザー照射装置22のレーザー制御部33は、レーザー発生部31からレーザーLを照射させ、基絵柄のパターンに応じてレーザー偏向部32を制御する。この制御により、レーザーLの照射位置や焦点位置を変更して着色層11〜14を昇華または脆化させることで、絵柄16のパターンに応じた着色層11〜14を選択的にかつ異なる深さで剥離して着色層11〜14を部分的に露出させる。具体的に言うと、基絵柄の木目パターンにおいて最も暗い部分に対応する箇所では、着色層12〜14を剥離して複数の凹部15を形成することにより、着色層11の表面を露出させる。木目パターンにおいてうす暗い部分に対応する箇所では、着色層13,14を剥離して複数の凹部15を形成することにより、着色層12の表面を露出させる。さらに、木目パターンにおいて少し明るい部分に対応する箇所では、着色層14を剥離して複数の凹部15を形成することにより、着色層13の表面を露出させる。木目パターンにおいて最も明るい部分に対応する箇所では、着色層11〜14をそのまま残して着色層14の表面を露出させる。これら着色層11〜14の露出部分によって、被加飾領域4に木目模様の絵柄16が描かれる。そして、複数の凹部15によって、木目模様において木の導管を示す部分が構成される。
【0045】
またレーザー照射工程S9において、CPU40は、メモリ41に記憶されているレーザー照射データに基づいて、レーザー照射をレーザー照射領域5a〜5cについて行う。具体的に言うと、CPU40は、メモリ41に記憶されているレーザー照射データを読み出し、読み出したレーザー照射データに基づいて駆動信号を生成し、生成した駆動信号をワーク変位ロボット23に出力する。ワーク変位ロボット23は、CPU40から出力された駆動信号に基づき、ロボットアーム29を駆動してワーク支持部30に支持されたワーク(樹脂成形体2)の位置及び角度を変更することにより、樹脂成形体2の被加飾領域4に対するレーザーLの照射位置や照射角度を変更する。
【0046】
詳述すると、ワーク変位ロボット23は、まず、樹脂成形体2の位置及び角度を変更することにより、レーザーLの照射位置及び照射角度をレーザー照射領域5bに合わせるようにする。次に、レーザー照射装置22は、レーザー照射領域5bに形成された各着色層11〜14にレーザーLを照射することにより、分割画像データ62bに基づいてレーザー照射領域5bに複数の凹部15を形成する(図8(a)参照)。なお本実施形態では、分割画像データ62bの重ね領域63b,63cに基づいて凹部15を形成する場合に、レーザー偏向部32によるレンズ35及び反射ミラー36の位置を変更する速度を一定にした状態で、レーザーLの照射間隔(レーザーLのパルス周期)を長くする。これにより、重ね領域63c,63dに基づいて形成される凹部15同士の間隔が、通常描画領域66bに基づいて形成される凹部15同士の間隔よりも広くなる。その結果、重ね領域63b,63cに基づいて形成される凹部15の密度(絵柄16の濃度)が、通常描画領域66bに基づいて形成される凹部15の密度(絵柄16の濃度)よりも低くなる。
【0047】
レーザー照射領域5bに対する凹部15の形成が終了すると、ワーク変位ロボット23は、樹脂成形体2の位置及び角度を変更することにより、レーザーLの照射位置及び照射角度をレーザー照射領域5aに合わせるようにする。次に、レーザー照射装置22は、レーザー照射領域5aに形成された各着色層11〜14にレーザーLを照射することにより、分割画像データ62aに基づいてレーザー照射領域5aに複数の凹部15を形成する(図8(b)参照)。なお本実施形態では、分割画像データ62aの重ね領域63aに基づいて凹部15を形成する場合に、レーザー偏向部32によるレンズ35及び反射ミラー36の位置を変更する速度を一定にした状態で、レーザーLの照射間隔を長くする。これにより、重ね領域63aに基づいて形成される凹部15同士の間隔が、通常描画領域66aに基づいて形成される凹部15同士の間隔よりも広くなる。その結果、重ね領域63aに基づいて形成される凹部15の密度(絵柄16の濃度)が、通常描画領域66aに基づいて形成される凹部15の密度(絵柄16の濃度)よりも低くなる。しかしながら、重ね領域63aに基づいて形成される凹部15(絵柄16)は、分割画像データ62bの重ね領域63bに基づいて形成される凹部15(絵柄16)に重なり合うようになっている。その結果、重ね領域63a,63bに基づいて形成される凹部15の密度が、通常描画領域66a,66bに基づいて形成される凹部15の密度と同程度になるため、重ね領域63a,63bに基づいて形成される絵柄16の濃度が、通常描画領域66a,66bに基づいて形成される絵柄16の濃度と同程度になる。
【0048】
レーザー照射領域5aに対する凹部15の形成が終了すると、ワーク変位ロボット23は、樹脂成形体2の位置及び角度を変更することにより、レーザーLの照射位置及び照射角度をレーザー照射領域5cに合わせるようにする。次に、レーザー照射装置22は、レーザー照射領域5cに形成された各着色層11〜14にレーザーLを照射することにより、分割画像データ62cに基づいてレーザー照射領域5cに複数の凹部15を形成する。なお本実施形態では、分割画像データ62cの重ね領域63dに基づいて凹部15を形成する場合に、レーザー偏向部32によるレンズ35及び反射ミラー36の位置を変更する速度を一定にした状態で、レーザーLの照射間隔を長くする。これにより、重ね領域63dに基づいて形成される凹部15同士の間隔が、通常描画領域66cに基づいて形成される凹部15の間隔よりも広くなる。その結果、重ね領域63dに基づいて形成される凹部15の密度(絵柄16の濃度)が、通常描画領域66cに基づいて形成される凹部15の密度(絵柄16の濃度)よりも低くなる。しかしながら、重ね領域63dに基づいて形成される凹部15(絵柄16)は、分割画像データ62bの重ね領域63cに基づいて形成される凹部15(絵柄16)に重なり合うようになっている。その結果、重ね領域63c,63dに基づいて形成される凹部15の密度が、通常描画領域66b,66cに基づいて形成される凹部15の密度と同程度になるため、重ね領域63c,63dに基づいて形成される絵柄16の濃度が、通常描画領域66b,66cに基づいて形成される絵柄16の濃度と同程度になる。
【0049】
その後、クリアコート形成工程を行い、木目模様の絵柄16が描かれた樹脂成形体2の表面3に対して着色層11〜14を保護するクリアコート層17を形成する。ここでは、塗装機を用いて樹脂成形体2の表面3に透明なクリア塗料を塗装することにより、クリアコート層17が形成される。以上の工程を経て自動車用加飾部品1が製造される。
【0050】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0051】
(1)本実施形態の自動車用加飾部品1の製造方法では、レーザー照射工程S9を行うことによって、重ね領域63a〜63dに基づいて形成される絵柄16の濃度が、通常描画領域66a〜66cに基づいて形成される絵柄16の濃度と同程度になる。その結果、隣接するレーザー照射領域5a〜5c同士の継ぎ目となる部分が目立ちにくくなる。これにより、高価であって制御が複雑な従来周知の位置決め機構を用いなくても、樹脂成形体2の表面3(被加飾領域4)上に絵柄16を正確に付加して装飾することができる。また、樹脂成形体2の固定作業が困難な位置決め機構を用いなくても済むため、作業者の負担増を抑えることができる。なお、従来の水圧転写では、基絵柄の形成をグラビア印刷で行うため、基絵柄の変更時に製版の設計変更等が必要となり手間がかかる。これに対して、本実施形態において基絵柄を変更する場合、メモリ41に記憶されている画像データ61や、レーザー照射パラメータを変更するだけでよいため、従来の水圧転写の場合と比較して、作業者の負担を低減することができる。
【0052】
(2)本実施形態の場合、塗装工程にて形成される複数の着色層11〜14は模様のないベタ層であるので、位置合わせをする必要がなく各着色層11〜14を容易に形成することができる。また、描画工程において、レーザー照射を行って着色層11〜14を選択的にかつ異なる深さで剥離することにより、異なる色の着色層11〜14が露出されて絵柄16が形成される。これにより、絵柄16における木目に対応した凹凸を形成することができ、実物の天然木と同様の立体的な絵柄16を描画することができる。また、レーザー照射は、細かいエリアを正確に加工することができるため、解像度の高い鮮明な絵柄16を描くことができる。さらに、色分解処理を行って生成した単色基絵柄データに基づいて、塗装装置21及びレーザー照射装置22が制御されているので、複数の自動車用加飾部品1に対して均一な絵柄16を正確に描くことができる。また、本実施形態の場合、従来の水圧転写を行う場合のように脱膜処理や排水処理などの処理コストが不要となることに加えて転写フィルムの廃材もなくなるため、製造コストを抑えることができる。
【0053】
(3)本実施形態の自動車用加飾部品1では、複数の着色層11〜14の色合いが下層側にいくほど濃くなっているので、レーザー照射によって深く加工された凹部が濃い色で表現される。従って、凹凸や陰影を有する天然木に近い立体感のある絵柄16を確実に表現することができる。
【0054】
(4)本実施形態の自動車用加飾部品1では、各着色層11〜14を保護するクリアコート層17が形成されるので、自動車用加飾部品1の外観品質を長期間にわたって保つことができる。また、クリアコート層17は、各着色層11〜14の凹凸を平坦化するよう形成されているので、凹凸に蓄積する埃などの汚れを防止することができる。
【0055】
なお、本実施形態を以下のように変更してもよい。
【0056】
・上記実施形態では、重ね領域63a〜63dにおける描画ドット69の密度を、通常描画領域66a〜66cにおける描画ドット69の密度よりも低くすることにより、重ね領域63a〜63dに基づいて形成される絵柄16の濃度を通常描画領域66a〜66cに基づいて形成される絵柄16の濃度よりも低くしていた。
【0057】
しかし、上記実施形態とは異なる方法を用いて、重ね領域63a〜63dに基づいて形成される絵柄16の濃度を通常描画領域66a〜66cに基づいて形成される絵柄16の濃度よりも薄くしてもよい。例えば、重ね領域63a〜63dに基づいて形成される凹部15aの深さを、通常描画領域66a〜66cに基づいて形成される凹部15bの深さよりも浅くすることにより、重ね領域63a〜63dに基づいて形成される絵柄16の濃度を通常描画領域66a〜66cに基づいて形成される絵柄16の濃度よりも薄くしてもよい(図9参照)。この場合、重ね領域63a〜63dにおけるレーザー照射時の出力を、通常描画領域66a〜66cにおけるレーザー照射時の出力よりも低く設定することにより、凹部15aの深さが凹部15bの深さよりも浅くなる。また図9では、重ね領域63a〜63dにおけるレーザー照射時の出力を徐々に低くすることにより、凹部15aの深さが、通常描画領域66a〜66cとの境界線67側から分割画像データ62a〜62cの外縁側に行くに従って徐々に浅くなる。
【0058】
なお、重ね領域63a〜63dに対するレーザー照射時におけるレーザーのパルス幅を、通常描画領域66a〜66cに対するレーザー照射時におけるレーザーのパルス幅よりも長く設定することにより、凹部15aの深さを凹部15bの深さよりも浅くしてもよい。即ち、レーザーのパルス幅が短くなるほど、レーザーのエネルギーが高密度のエネルギーとなるため、凹部15aの深さが深くなる。また、レーザーLの照射間隔を一定にした状態で、レーザー照射装置22の移動速度を速くすること(例えば、レーザー偏向部32によるレンズ35及び反射ミラー36の位置を変更する速度を速くすること)により、凹部15aの深さを凹部15bの深さよりも浅くしてもよい。
【0059】
・上記実施形態では、レーザー偏向部32によるレンズ35及び反射ミラー36の位置を変更する速度を一定にした状態で、レーザーLの照射間隔(レーザーLのパルス周期)を長くすることにより、重ね領域63a〜63dに基づいて形成される凹部15の密度を、通常描画領域66a〜66cに基づいて形成される凹部15の密度よりも低くしていた。しかし、レーザーLの照射間隔を一定にした状態で、レーザー照射装置22の移動速度を速くすることにより、重ね領域63a〜63dに基づいて形成される凹部15の密度を通常描画領域66a〜66cに基づいて形成される凹部15の密度よりも低くしてもよい。
【0060】
・上記実施形態のレーザー照射工程S9では、レーザー照射装置22が、レーザー照射をレーザー照射領域5b→レーザー照射領域5a→レーザー照射領域5cの順番で行っていたが、レーザー照射の順番を変更してもよい。また、レーザー照射工程S9では、レーザー照射装置22がレーザー照射を1箇所ずつ行っていたが、例えばレーザー偏向部32を複数設けることにより、レーザー照射を複数箇所で同時に行うようにしてもよい。このようにすれば、レーザー照射を迅速に行うことができ、自動車用加飾部品1を短時間で製造することができる。
【0061】
・上記実施形態では、塗装工程において複数の着色層11〜14を形成した後に、描画工程を行って各着色層11〜14を一括して加工することにより絵柄16を描いていたが、これに限定されるものではない。例えば、着色層11〜14を形成する度に、レーザー照射による描画工程を行って絵柄16を描くようにしてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、各着色層11〜14の凹凸を平坦化するようにクリアコート層17が形成されていたが、各着色層11〜14の凹凸を残した状態でクリアコート層17を形成してもよい。このように各着色層11〜14の凹凸を残すことにより、基絵柄の実物(天然木の木目)に近い触感を再現することが可能となる。
【0063】
・上記実施形態の自動車用加飾部品1は、こげ茶色、茶色、うす茶色、クリーム色の4色の着色層11〜14で絵柄16を表現するものであったが、着色層11〜14の色や層数は、基絵柄に応じて適宜変更することができる。なお、基絵柄としては、木目模様の絵柄以外に、炭素繊維織物の絵柄やヘアライン加工が施されたアルミパネルの絵柄などを挙げることができる。
【0064】
・上記実施形態のレーザー被処理部はドット状の凹部15であったが、木目模様において木の導管を示す溝部をレーザー被処理部として用いてもよい。なお、レーザー被処理部は凹部に限られる訳ではなく、レーザー照射を行った結果、塗膜10において状態が変化した部分(例えば、焦げて変色した部分)をレーザー被処理部としてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、自動車用加飾部品1をドアのアームレストに具体化するものであったが、これ以外に、コンソールボックス、インストルメントパネルなどの部品に具体化してもよい。
【0066】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0067】
(1)請求項1または2において、前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域において前記分割画像データの外縁となる部分を非直線状に形成することを特徴とする自動車用加飾部品の製造方法。
【0068】
(2)ワークの表面上に設定された被加飾領域に塗膜を形成する塗装工程と、レーザー照射を行って前記塗膜を選択的に処理して複数のレーザー被処理部を形成することにより、前記被加飾領域に基絵柄を模した絵柄を描く描画工程とを経て、加飾部品を製造する方法であって、前記被加飾領域は、前記レーザー照射が行われる複数のレーザー照射領域からなり、前記描画工程は、前記絵柄を示す画像データを、前記複数のレーザー照射領域の形状に合わせて複数の分割画像データに分割する画像データ分割工程と、前記分割画像データにおいて隣接する分割画像データとの継ぎ目となる部分に、前記隣接する分割画像データと重なり合う重ね領域を形成する重ね領域形成工程と、前記複数の分割画像データを前記重ね領域において重ね合わせる重ね合わせ工程と、重ね合わせた前記複数の分割画像データを、前記レーザー照射を行うためのレーザー照射データに変換するレーザー照射データ変換工程と、前記レーザー照射データに基づいて、前記レーザー照射を前記複数のレーザー照射領域について行うことにより、前記被加飾領域に前記絵柄を描くレーザー照射工程とを含み、前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域の画像濃度を、前記分割画像データにおいて前記隣接する分割画像データと重なり合わない通常描画領域の画像濃度よりも薄く設定し、前記レーザー照射工程では、前記レーザー照射を前記複数のレーザー照射領域について行うことによって、前記重ね領域に基づいて形成される絵柄が重なり合うことにより、前記重ね領域に基づいて形成される絵柄の濃度が前記通常描画領域に基づいて形成される絵柄の濃度と同程度になることを特徴とする加飾部品の製造方法。
【0069】
(3)画像データを複数の分割画像データに分割する画像データ分割工程と、前記分割画像データにおいて隣接する分割画像データとの継ぎ目となる部分に、前記隣接する分割画像データと重なり合う重ね領域を形成する重ね領域形成工程と、前記複数の分割画像データを前記重ね領域において重ね合わせる重ね合わせ工程とを含み、前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域の画像濃度を、前記分割画像データにおいて前記隣接する分割画像データと重なり合わない通常描画領域の画像濃度よりも薄く設定することを特徴とする分割画像データの継ぎ目処理方法。
【符号の説明】
【0070】
1…自動車用加飾部品
2…自動車用部品素材としての樹脂成形体
3…自動車用部品素材の表面
4…被加飾領域
5a,5b,5c…レーザー照射領域
10…塗膜
15,15a,15b…レーザー被処理部としての凹部
16…絵柄
61…画像データ
62a,62b,62c…分割画像データ
63a,63b,63c,63d…重ね領域
66a,66b,66c…通常描画領域
67…通常描画領域との境界線
68…分割画像データの外縁
69…レーザー照射部としての描画ドット
S3…画像データ分割工程
S4…重ね領域形成工程
S5…重ね合わせ工程
S6…レーザー照射データ変換工程
S9…レーザー照射工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用部品素材の表面上に設定された被加飾領域に塗膜を形成する塗装工程と、
レーザー照射を行って前記塗膜を選択的に処理して複数のレーザー被処理部を形成することにより、前記被加飾領域に基絵柄を模した絵柄を描く描画工程と
を経て、自動車用加飾部品を製造する方法であって、
前記被加飾領域は、前記レーザー照射が行われる複数のレーザー照射領域からなり、
前記描画工程は、
前記絵柄を示す画像データを、前記複数のレーザー照射領域の形状に合わせて複数の分割画像データに分割する画像データ分割工程と、
前記分割画像データにおいて隣接する分割画像データとの継ぎ目となる部分に、前記隣接する分割画像データと重なり合う重ね領域を形成する重ね領域形成工程と、
前記複数の分割画像データを前記重ね領域において重ね合わせる重ね合わせ工程と、
重ね合わせた前記複数の分割画像データを、前記レーザー照射を行うためのレーザー照射データに変換するレーザー照射データ変換工程と、
前記レーザー照射データに基づいて、前記レーザー照射を前記複数のレーザー照射領域について行うことにより、前記被加飾領域に前記絵柄を描くレーザー照射工程と
を含み、
前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域の画像濃度を、前記分割画像データにおいて前記隣接する分割画像データと重なり合わない通常描画領域の画像濃度よりも薄く設定し、
前記レーザー照射工程では、前記レーザー照射を前記複数のレーザー照射領域について行うことによって、前記重ね領域に基づいて形成される絵柄が重なり合うことにより、前記重ね領域に基づいて形成される絵柄の濃度が前記通常描画領域に基づいて形成される絵柄の濃度と同程度になる
ことを特徴とする自動車用加飾部品の製造方法。
【請求項2】
前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域の画像濃度を、前記通常描画領域との境界線側から前記分割画像データの外縁側に行くに従って薄く設定することを特徴とする請求項1に記載の自動車用加飾部品の製造方法。
【請求項3】
前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域において前記分割画像データの外縁となる部分を平面視波形状に形成することを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用加飾部品の製造方法。
【請求項4】
前記分割画像データには、複数のレーザー照射部が散点的に形成されており、
前記重ね領域形成工程では、前記重ね領域における前記レーザー照射部の密度を、前記通常描画領域における前記レーザー照射部の密度よりも低くすることにより、前記重ね領域の画像濃度を前記通常描画領域の画像濃度よりも薄く設定する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動車用加飾部品の製造方法。
【請求項5】
前記分割画像データには、複数のレーザー照射部が散点的に形成されており、
前記レーザー照射工程では、前記複数の分割画像データに基づいて、前記重ね領域における前記レーザー照射時の出力を、前記通常描画領域における前記レーザー照射時の出力よりも低く設定する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動車用加飾部品の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−110570(P2011−110570A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268326(P2009−268326)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】